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特開2024-123995組換えFc結合性タンパク質発現用プラスミドおよびそれを用いた前記タンパク質製造方法
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  • 特開-組換えFc結合性タンパク質発現用プラスミドおよびそれを用いた前記タンパク質製造方法 図1
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  • 特開-組換えFc結合性タンパク質発現用プラスミドおよびそれを用いた前記タンパク質製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123995
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】組換えFc結合性タンパク質発現用プラスミドおよびそれを用いた前記タンパク質製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/70 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240905BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N15/70 Z ZNA
C12N1/21
C12P21/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031862
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 成彰
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 遼子
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG20
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 遺伝子組換え技術を用いてFc結合性タンパク質を効率的に製造可能なプラスミド、およびそれを用いて前記タンパク質を効率的に製造する方法を提供すること。
【解決の手段】 前記プラスミドにOmpAシグナルペプチドまたはOmpAシグナルペプチドのうち1もしくは数残基を置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じたオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを含ませることで、前記課題を解決する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、ペリプラズムに前記タンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む、前記タンパク質を発現させるためのプラスミドであって、
前記シグナルペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチド、または当該オリゴペプチドのうち、1もしくは数残基を置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じたオリゴペプチドである、前記プラスミド。
【請求項2】
Fc結合性タンパク質が以下の(i)から(iii)のいずれかから選択される、請求項1に記載のプラスミド;
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じ、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラスミドを用いて宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項4】
宿主が大腸菌である、請求項3に記載の形質転換体。
【請求項5】
請求項3に記載の形質転換体を培養することで前記形質転換体からFc結合性タンパク質を発現させる工程と、前記形質転換体から当該タンパク質を単離する工程とを含む、前記タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えFc結合性タンパク質発現用プラスミドおよびそれを用いた前記タンパク質の製造方法に関する。特に本発明は、宿主ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを用いることで前記タンパク質を効率的に製造可能なプラスミド、およびそれを用いた前記タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は細胞内で合成された後、そのまま細胞内に留まるものと、分泌タンパク質として細胞外へ放出されるものとが知られている。また大腸菌などを宿主として用いた組換えタンパク質生産では、細胞内膜と外膜の間のペリプラズム領域に前記タンパク質を分泌発現させる方法が知られている(特許文献1)。細胞内からペリプラズム領域へ組換えタンパク質が移送される際には、シグナルペプチドと呼ばれるオリゴペプチドの働きが重要である(特許文献1)。シグナルペプチドを構成するアミノ酸配列の特徴として、以下の3つがあげられる(特許文献1)。
(i)N末端領域には、アルギニンやリジンといった塩基性アミノ酸が少なくとも1つ含まれており、当該塩基性アミノ酸の側鎖の正電荷と細胞膜表面の負電荷とのイオン結合によりシグナルペプチドが細胞膜内へと移行する。
(ii)中心領域では、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンといった疎水性アミノ酸が多く含まれ、細胞膜内への貫通に関与する。
(iii)C末端領域では、細胞膜貫通後にシグナルペプチダーゼにより切断される特定のアミノ酸が認識部位として存在しており、当該認識部位で切断されることで成熟体タンパク質がペリプラズム領域や細胞外へと放出される。
【0003】
組換えタンパク質を宿主のペリプラズムに分泌発現させるには、前記タンパク質のN末端側に、ペリプラズムへの分泌発現を促進させるシグナルペプチドが付加された状態で発現させる必要がある。しかしながら、前記方法を用いた場合、活性型タンパク質としての生産性が低いという問題があった。またシグナルペプチドの改変により生産性を向上させた例も報告(特許文献1から4)されているが、工業的な生産には十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-175686号公報
【特許文献2】特開2008-073044号公報
【特許文献3】WO2008/032659号
【特許文献4】特開2014-223064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、遺伝子組換え技術を用いてFc結合性タンパク質を効率的に製造可能なプラスミド、およびそれを用いて前記タンパク質を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、宿主ペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドを最適化することで、遺伝子組換え技術によるFc結合性タンパク質の生産量が向上できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する:
(A)Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、ペリプラズムに前記タンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む、前記タンパク質を発現させるためのプラスミドであって、
前記シグナルペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチド、または当該オリゴペプチドのうち、1もしくは数残基を置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じたオリゴペプチドである、前記プラスミド。
【0008】
(B)Fc結合性タンパク質が以下の(i)から(iii)のいずれかから選択される、(A)に記載のプラスミド;
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じ、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0009】
(C)(A)または(B)に記載のプラスミドを用いて宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【0010】
(D)宿主が大腸菌である、(C)に記載の形質転換体。
【0011】
(E)(C)に記載の形質転換体を培養することで前記形質転換体からFc結合性タンパク質を発現させる工程と、前記形質転換体から当該タンパク質を単離する工程とを含む、前記タンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、Fc結合性タンパク質を発現させるプラスミドに含まれる、ペリプラズムに前記タンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、OmpAシグナルペプチド、またはOmpAシグナルペプチドのうち1もしくは数残基を置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じたオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いることで、MalEシグナルペプチドを用いた時と比較し、前記タンパク質の生産量を大幅に向上できるため、遺伝子組換え技術を用いたFc結合性タンパク質の製造効率を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヒトFcRnのα鎖の概略図である。図中の数字は配列番号2に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナルペプチドの配列、ECは細胞外領域、TMは細胞膜貫通領域、Cは細胞内領域を示している。
図2】ヒトFcRnのβ鎖の概略図である。図中の数字は配列番号3に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナルペプチドの配列、B2Mはβ2ミクログロブリンを示している。
図3】Fc結合性タンパク質のN末端側に、MalEシグナルペプチドを付加させたとき(比較例3)と、OmpAシグナルペプチドを付加させたとき(実施例2)とで、Fc結合性タンパク質の生産性を比較したSDS-PAGEの結果を示している。レーンMは分子量マーカー、レーン1は精製工程の素通り画分、レーン2から4は溶出画分(1)から(3)の分析結果である。黒矢印でFc結合性タンパク質のバンドを示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、Fc結合性タンパク質を発現させるプラスミドに含まれる、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、
(I)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる天然型OmpAシグナルペプチド(UniProt No.P0A910の1番目から21番目までの領域)をコードするポリヌクレオチド、または
(II)前記(I)に記載のシグナルペプチドのうち、1もしくは数残基を置換、欠失、挿入もしくは付加のうち、いずれか1つ以上生じた(以下、これらを合わせて「改変した」とも表記する)以上オリゴヌクレオチド、
を用いることで、Fc結合性タンパク質を効率的に生産することを特徴としている。
【0016】
なお前記(II)において、改変するアミノ酸残基の数(1もしくは数残基の改変)は、本発明の目的である、宿主内で発現した組換えタンパク質の、ペリプラズム領域への効率的な移行ができれば、特に限定はなく、一例として、1から5残基、1から4残基、1から3残基、1または2残基、および1残基のいずれかを意味する。なお2残基以上改変する場合、1アミノ酸残基の改変を複数設けてもよく、アミノ酸残基を2以上連続して改変
させてもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0017】
本発明のプラスミドは、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドA)の5’末端側に前述したシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドB)を付加したポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドC)を、プラスミドの適切な位置に挿入することで得られる。なお、前記ポリヌクレオチドAに前記ポリヌクレオチドBを付加させる際、前記ポリヌクレオチドAと前記ポリヌクレオチドBとの間にリンカーとして1から数アミノ酸残基からなる任意のオリゴペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを挿入してもよい。またポリヌクレオチドCを挿入するプラスミドとしては、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、宿主が大腸菌の場合は、pETプラスミド、pUCプラスミド、pTrcプラスミド、pCDFプラスミド、pBBRプラスミドが例示できる。また前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。本発明のプラスミドを用いて宿主を形質転換させるには、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。
【0018】
本発明のプラスミドを用いて宿主を形質転換して得られる形質転換体(以下、単に本発明の形質転換体とする)を用いて製造するFc結合性タンパク質に特に限定はなく、一例として、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32a)、FcγRIIb(CD32b)、FcγRIIc(CD32c)、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRIIIb(CD16b)およびFcRn(新生児Fc受容体)があげられる。Fc結合性タンパク質がヒトFcRnである場合の好ましい態様として、以下の(i)から(iii)のいずれかに示すポリペプチドがあげられる。
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニン(A)から297番目のセリン(S)までのアミノ酸残基および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシン(I)から119番目のメチオニン(M)までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基が改変され、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0019】
なお配列番号2に記載のアミノ酸配列はヒトFcRnα鎖(UniProt No.P55899)の、配列番号3に記載のアミノ酸配列はヒトFcRnβ鎖(UniProt No.P61769)の、それぞれアミノ酸配列である。また配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニン(A)から297番目のセリン(S)までのアミノ酸残基はヒトFcRnα鎖の細胞外(EC)領域(図1のEC領域)に、配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシン(I)から119番目のメチオニン(M)までのアミノ酸残基はヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン(B2M)領域(図2のB2Mの領域)に、それぞれ相当する。
【0020】
前記(i)から(iii)のいずれかに示すポリペプチドは、前述したヒトFcRnα鎖のEC領域およびヒトFcRnβ鎖のB2M領域に相当する領域を少なくとも含んでいればよく、例えば、ヒトFcRnα鎖のEC領域やヒトFcRnβ鎖のB2M領域のN末端側にあるシグナルペプチド領域(図1および図2のSの領域)の全てまたは一部を含んでもよいし、ヒトFcRnα鎖のEC領域のC末端側にある細胞膜貫通領域(図1のTMの領域)および細胞内領域(図1のCの領域)の全てまたは一部を含んでもよい。
【0021】
本明細書において、ヒトFcRnα鎖のEC領域およびヒトFcRnβ鎖のB2M領域に相当するアミノ酸残基を少なくとも含むFc結合性タンパク質とは、当該タンパク質のアミノ酸配列にヒトFcRnα鎖のEC領域に相当するアミノ酸配列およびヒトFcRnβ鎖のB2M領域に相当するアミノ酸配列を少なくとも含んでいればよく、ヒトFcRnα鎖のEC領域に相当するアミノ酸残基とヒトFcRnβ鎖のB2M領域に相当するアミノ酸残基との順番は問わない。すなわちヒトFcRnβ鎖のB2M領域に相当するアミノ酸残基が、ヒトFcRnα鎖のEC領域に相当するアミノ酸残基のN末端側にあってもよく、C末端側にあってもよい。またヒトFcRnα鎖のEC領域に相当するアミノ酸残基とヒトFcRnβ鎖のB2M領域に相当するアミノ酸残基とが直結した態様であってもよく、GSリンカー(グリシン(G)4残基とセリン(S)1残基からなるオリゴペプチドの繰り返しからなるリンカー)など公知のリンカーを介して結合した態様であってもよい。
【0022】
前記(ii)において「1もしくは数個」とは、FcRnの立体構造におけるアミノ酸置換の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、一例として、1から50個、1から30個、1から20個、1から10個、1から9個、1から8個、1から7個、1から6個、1から5個、1から4個、1から3個、1から2個、1個のいずれかを意味する。「1もしくは数個」のアミノ酸残基の改変は、例えば、免疫グロブリン結合活性を有する限り、特開2018-183087号公報、特開2021-073883号公報、特開2021-136967号公報および特開2022-076998号で開示の改変以外の位置に生じてよい。
【0023】
なお前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の改変(置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上)」には、前述した特定位置におけるアミノ酸改変の他に、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が生じてもよい。保守的置換は、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社、9、2005)。また前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の改変」には、天然にも存在する変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0024】
前記(ii)の一例として、
特開2018-183087号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2021-073883号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2021-136967号公報で開示のFc結合性タンパク質、および
特開2022-076998号で開示のFc結合性タンパク質、
があげられる。
【0025】
前記(iii)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上あればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本明細書において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列の相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。アミノ酸配列間の「同一性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0026】
本発明の形質転換体を作製する際に用いる宿主としては、COS(CV-1 Origin,SV40)細胞およびCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞に代表される動物細胞や、バチルス(Bacillus)属(ブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌やパエニバチルス(Paenibacillus)属細菌のような広義のバチルス属細菌も含む)および大腸菌(Escherichia coli)に代表される細菌や、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属およびシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属に代表される酵母や、麹菌(Aspergillus oryzae)に代表される糸状菌が例示できるが、取扱いの簡便な大腸菌を宿主とするのが好ましい。
【0027】
本発明の形質転換体を培養して得られた培養物からFc結合性タンパク質を回収するには、発現の形態によって適宜選択すればよい。例えば、発現したタンパク質が宿主のペリプラズムに発現する場合は、培養液を遠心分離して得られる宿主を適切な緩衝液で懸濁し細胞破砕(物理的破砕、薬剤による破砕など)後、遠心分離により破砕残渣を除去する
ことで、発現したタンパク質を含む無細胞抽出液を得ればよく、発現したタンパク質が宿主のペリプラズムから培養上清に漏出する場合は、培養液を遠心分離して得られる培養上清から発現したタンパク質を回収すればよい。なお薬剤により宿主細胞を破砕する際は、例えば、150mM塩化ナトリウム、1mMエチレンジアミン四酢酸、6mM硫酸マグネシウム、250U/L Benzonase(メルク社製)、0.3g/Lリゾチーム、0.4%(w/v)Triton X-100(商品名)、0.5%(w/v)臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよび50mM塩化カルシウムを含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(特開2013-252099号公報)や、BugBuster Protein extraction kit(タカラバイオ社製)等の市販の抽出試薬を用いて破砕するとよい。
【0028】
回収したFc結合性タンパク質を含む溶液は、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィーを用いた分離/精製があげられる。液体クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等があり、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより、Fc結合性タンパク質を高純度に調製できる。クロマトグラフィーを用いて精製を行なう際は、アプライ液の導入量や前記クロマトグラフィー担体のタンパク吸着性能などによって決定した量の担体を、適切なオープンカラム等に充填して行なえばよい。
【0029】
また、クロマトグラフィー用担体は、アプライ液を導入する前に、あらかじめ適切な緩衝液(トリス/トリス塩酸塩緩衝液、グリシン/水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸塩緩衝液等)により平衡化しておくとよい。前述の方法で回収したタンパク質を含む溶液を、平衡化したクロマトグラフィー用担体に導入することで前記タンパク質を担体に吸着させ、平衡化に用いた緩衝液と同じ緩衝液で洗浄する。その後、溶出用緩衝液を用いて吸着した前記タンパク質を溶出させることで精製された前記タンパク質を含む溶液が得られる。
【実施例0030】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0031】
比較例1 プラスミドベクターの作製(シグナルペプチド:MalE)
ペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドとして、MalEシグナルペプチド(アミノ酸配列:MKIKTGARILALSALTTMMFSASALA(UniProt No.P0AEX9の1番目から26番目までのアミノ酸配列)、配列番号5)を選択し、以下に示す方法でプラスミドベクターを作製した。
【0032】
(1)以下に示す2段階PCRにより、MalEシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(1-1)表1の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとした反応を5サイクル繰り返すことで、1段階目のPCRを実施した。なお、オリゴヌクレオチドは、配列番号6(5’-TATACATATGAAAATAAAAACAGGTGCACGCATCC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号7(5’-GCATTAACGACGATGATGTTTTCCGCCTCGGCTCTCGCC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号8(5’-ATCGTCGTTAATGCGGATAATGCGAGGATGCGTGCACCTG-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および配列番号9(5’-TTGTCCCATGGCTTCTTCGATTTTGGCGAGAGCCG-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
【0033】
【表1】
【0034】
(1-2)表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとした反応を30サイクル繰り返すことで、2段階目のPCRを実施した。なお、鋳型は(1-1)で得られた1段階目のPCR産物を用い、PCRプライマーは配列番号10(5’-TATACATATGAAAATAAAAACAGGTGCACGCATCC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Forward primer)および配列番号11(5’-GCATTAACGACGATGATGTTTTCCGCCTCGGCTCTCGCC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Reverse primer)を用いた。
【0035】
【表2】
【0036】
(2)(1)に記載の2段階PCRにより作製した、MalEシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを、制限酵素NdeIとNcoIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとNcoIで消化したプラスミドベクターpET-26b(+)(Novagen社)にライゲーションし、これを用いて塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株(Novagen社)を形質転換した。
【0037】
(3)得られた形質転換体を、50μg/mLのカナマイシン硫酸塩(ナカライテスク)を含むLB(Luria-Bertani)培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて、プラスミドベクターpETMalEを抽出した。
【0038】
(4)鋳型DNAとして(3)で得られたプラスミドベクターpETMalEを、PCRプライマーとして配列番号12(5’-AGTAGTAGGTTGAGGCCGTTGAG-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号13(5’-TTTTCATATGTATTATGTATATCTCCTTCTTAAA-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いた他は、(1-2)と同様な方法でPCRを実施した。
【0039】
(5)(4)のPCR産物を制限酵素SphIとNdeIで消化後、あらかじめ制限酵素SphIとNdeIで消化したpETMalEにライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
【0040】
(6)(5)の形質転換体を培養後、プラスミドを抽出した(pETMalE-p7と命名)。
【0041】
比較例2 Fc結合性タンパク質を発現させるためのプラスミドの作製(シグナルペプチド:MalE)
配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質FcRn_m7MGdelのC末端側にシステインタグ(アミノ酸配列:CRNDTCG、配列番号31)を付加したポリペプチド(FcRn_m7-CRNDTCG)をコードするポリヌクレオチドを、以下に示す方法で比較例1で作製した発現ベクターpETMalE-p7に挿入することで、前記タンパク質を発現可能なプラスミドを作製した。なお配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち24番目から297番目までの配列からなる天然型ヒトFcRnα鎖の細胞外領域および配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち21番目から119番目までの配列からなる同β鎖のβ2ミクログロブリン領域を含む、配列番号4に記載の配列からなるFc結合性タンパク質に対し、以下に示す7箇所のアミノ酸置換を導入したポリペプチドである;
配列番号4の172番目(配列番号1では71番目)のシステイン(C)がアルギニン(R)に置換
配列番号3の179番目(配列番号1では78番目)のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号3の252番目(配列番号1では151番目)のグリシン(G)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号3の293番目(配列番号1では192番目)のアルギニン(R)がロイシン(L)に置換
配列番号3の297番目(配列番号1では196番目)のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号3の333番目(配列番号1では232番目)のグルタミン(Q)がロイシン(L)に置換
配列番号3の396番目(配列番号1では295番目)のリジン(K)がグルタミン酸(E)に置換。
【0042】
(1)鋳型DNAとして特開2018-183087号公報に記載の方法で作製した、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号15)を含むプラスミドpET-FcRn_m7MGdelを、PCRプライマーとして配列番号16(5’-GCCTCGGCTCTCGCCATTCAACGTACGCCAAAAATC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Forward primer)および配列番号17(5’-AGTGCGGCCGCAAGCTTATCCGCAGGTATCGTTGCGGCAGTGATGATGATGATGATGAGAGGATTCGGC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Reverse primer)を、それぞれ用い、表2の反応組成のもと、98℃で10秒間の第1ステップ、63℃で30秒間の第2ステップ、68℃で1分間の第3ステップを1サイクルとした反応を30サイクル繰り返すことでPCRを実施した。
【0043】
(2)(1)で得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン社製)を用いて精製した。当該精製したPCR産物をFcRn_m7MGdel-PCR1と命名した。
【0044】
(3)鋳型DNAとして比較例1で作製したプラスミドベクターpETMalE-p7を、PCRプライマーとして配列番号18(5’-GCTTGCGGCCGCACTCGAGCACCACCACCACCACCACTGAGA-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Forward primer)および配列番号19(5’-GGCGAGAGCCGAGGCGGAAAACATCATCGTCGTTAA-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Reverse primer)を、それぞれ用い、表2の反応組成のもと、98℃で10秒間の第1ステップ、63℃で30秒間の第2ステップ、68℃で7分間の第3ステップを1サイクルとした反応を30サイクル繰り返すことでPCRを実施した。
【0045】
(4)(3)で得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、(2)に記載の方法で精製した。当該精製したPCR産物をFcRn_m7MGdel-PCR2と命名した。
【0046】
(5)(2)で得られた精製PCR産物FcRn_m7MGdel-PCR1および(4)で得られた精製PCR産物FcRn_m7MGdel-PCR2を、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ社製)を形質転換した。
【0047】
(6)得られた形質転換体を、50μg/mLのカナマイシン硫酸塩(ナカライテスク)を含むLB(Luria-Bertani)培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて、Fc結合性タンパク質を発現可能なプラスミドを抽出した(pETMalE-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7と命名)。
【0048】
(7)(6)で作製したプラスミドpETMalE-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7のうち、MalEシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド、FcRn_m7MGdelをコードするポリヌクレオチド、システインタグをコードするポリヌクレオチドおよびその周辺の領域について、全自動DNAシークエンサーGenetic Analyzer3500(Thermo Fisher Scientific社製)にて塩基配列を解析し、所望の配列(すなわち、配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列)であることを確認した。なお当該解析の際、配列番号21(5’-GGATCTCGACGCTCTCCCT-3’)、配列番号22(5’-ATGGGCATTCAACGTACGCCAAA-3’)、配列番号23(5’-CTGCGCATCAAGGAAAAACTGTTC-3’)、配列番号24(5’-CACGCTGGTCTCGCGCAACC-3’)および配列番号25(5’-ATGCTAGTTATTGCTCAGCGG-3’)に記載のオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0049】
プラスミドpETMalE-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7により発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号20に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号26に、それぞれ示す。なお配列番号20において、1番目のメチオニン(M)から26番目のアラニン(A)までがMalEシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号5)であり、27番目のイソロイシン(I)から125番目のメチオニン(M)までがヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域に相当するアミノ酸配列(配列番号3に記載のアミノ酸配列の21番目から119番目までの領域)であり、126番目のグリシン(G)から150番目のセリン(S)までがGSリンカー配列であり、151番目のアラニン(A)から424番目のセリン(S)までがヒトFcRnα鎖の細胞外領域に相当するアミノ酸配列(配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目から297番目までの領域であり、425番目から430番目までのヒスチジン(H)がヒスチジンタグ配列であり、431番目のシステイン(C)から437番目のグリシン(G)までがシステインタグ配列である。
【0050】
実施例1 Fc結合性タンパク質を発現させるためのプラスミドの作製(シグナルペプチド:OmpA)
配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち、シグナルペプチドをMalEシグナルペプチド(配列番号5)からOmpAシグナルペプチド(アミノ酸配列:MKKTAIAIAVALAGFATVAQA、配列番号1)に置換したポリペプチド(配列番号27)を設計し、当該ポリペプチドを発現可能なプラスミドを作製した。
【0051】
(1)鋳型DNAとして比較例2で作製したプラスミドpETMalE-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7を、PCRプライマーとして配列番号28(5’-GCTGGTTTCGCTACCGTAGCGCAGGCCATTCAACGTACGCCAAAAATCCAAGTATACTCACG-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Forward primer)および配列番号29(5’-GGTAGCGAAACCAGCCAGTGCCACTGCAATCGCGATAGCTGTCTTTTTCATATGTATTATGTATATC-3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(Reverse primer)を、それぞれ用いた他は、比較例2(3)と同様な方法でPCRを実施した。
【0052】
(2)(1)で得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、比較例2(2)に記載の方法で精製した。当該精製したPCR産物をOmpA-FcRn_m7MGdel-PCR1と命名した。
【0053】
(3)(2)で得られた精製PCR産物OmpA-FcRn_m7MGdel-PCR1を、比較例2(5)に記載の方法でライゲーションおよび形質転換を行ない、得られた形質転換体を、比較例2(6)に記載の方法で培養し、プラスミドを抽出した(pETOmpA-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7と命名)。
【0054】
(4)(3)で作製したプラスミドpETOmpA-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7のうち、OmpAシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド、FcRn_m7MGdelをコードするポリヌクレオチド、システインタグをコードするポリヌクレオチドおよびその周辺の領域について、比較例2(7)に記載の方法で塩基配列を解析し、所望の配列(すなわち、配列番号27に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列)であることを確認した。プラスミドpETOmpA-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7のポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号32に示す。
【0055】
プラスミドpETOmpA-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7により発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号27に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号30に、それぞれ示す。なお配列番号27において、1番目のメチオニン(M)から21番目のアラニン(A)までがOmpAシグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)であり、22番目のイソロイシン(I)から120番目のメチオニン(M)までがヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域に相当するアミノ酸配列(配列番号3に記載のアミノ酸配列の21番目から119番目までの領域)であり、121番目のグリシン(G)から145番目のセリン(S)までがGSリンカー配列であり、146番目のアラニン(A)から419番目のセリン(S)までがヒトFcRnα鎖の細胞外領域に相当するアミノ酸配列(配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目から297番目までの領域であり、420番目から425番目までのヒスチジン(H)がヒスチジンタグ配列であり、426番目のシステイン(C)から432番目のグリシン(G)までがC末端側に付加したシステインタグ配列である。
【0056】
実施例2 Fc結合性タンパク質の発現(シグナルペプチド:OmpA)
(1)実施例1で作製したプラスミドpETOmpA-FcRn_m7MGdel-CRNDTCG-p7で大腸菌BL21株(DE3)を形質転換し得られた、Fc結合性タンパク質を発現可能な形質転換体を、50μg/mLのカナマイシンを含む100mLの2YT液体培地(16g/LのTryptone、10g/LのYeast Extract、5g/Lの塩化ナトリウム)に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
【0057】
(2)5Lのバッフルフラスコに50μg/mLのカナマイシンを添加した1Lの2YT液体培地に(1)の前培養液を60mL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0058】
(3)培養開始2時間後、氷上にて冷却し、終濃度0.05mMとなるようIPTG(IsoPropyl β-D-1-ThioGalactopyranoside)を添加し、引き続き20℃で一晩、好気的に振とう培養した。
【0059】
(4)培養終了後、培養液を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することで菌体を回収した。
【0060】
(5)形質転換体の培養液より菌体を回収後、150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む100mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を用いて、室温で2時間の抽出を行なった後、菌体抽出液について4℃で20分間、15000rpmの遠心分離を行なうことで、FcRn_m7MGdel-CRNDTCGを含むタンパク質抽出液を得た。
【0061】
(6)(5)で得たFcRn_m7MGdel-CRNDTCGを含むタンパク質抽出液を、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのトリス緩衝液(pH8.0)で平衡化した5mLのNi-NTAアガロース(富士フイルム和光純薬社製)を充填したエコノパックカラム(バイオラッド社製)にアプライした。20mMのイミダゾール、150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で洗浄後、300mMのイミダゾール、150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのトリス緩衝液(pH8.0)で溶出することでFcRn_m7MGdel-CRNDTCGを含むタンパク質粗精製液を得た。
【0062】
(7)(6)で得たFcRn_m7MGdel-CRNDTCGを含むタンパク質粗精製液を1M塩酸(富士フイルム和光純薬社製)を用いてpH6.0に調整した。
【0063】
(8)(7)で得たpH調整後のFcRn_m7MGdel-CRNDTCGを含むタンパク質粗精製液を、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムを含む50mMのMES緩衝液(pH6.0)で平衡化した1mLのIgG-Sepharose(Cytiva社製)を充填したポリプレップカラム(バイオラッド社製)にアプライした。平衡化に使用した緩衝液で洗浄後、150mMの塩化ナトリウムを含む50mMのトリス緩衝液(pH8.0)で溶出することでFcRn_m7MGdel-CRNDTCGを得た。
【0064】
(9)(8)で得られた素通り画分および溶出画分(1)から(3)をSDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)に供し、CBB(Coomassie Brilliant Blue)染色液(富士フイルム和光純薬社製)を用いて染色した。
【0065】
比較例3 Fc結合性タンパク質の発現(シグナルペプチド:MalE)
形質転換体として、比較例2で作製したプラスミドpETMalE-FcRn_m7-CRNDTCG-p7で大腸菌BL21株(DE3)を形質転換し得られた、Fc結合性タンパク質を発現可能な形質転換体を用いた他は、実施例2と同様の方法でFc結合性タンパク質を発現させ、精製工程で得られた素通り画分および溶出画分(1)から(3)をSDS-PAGEに供した。
【0066】
実施例2および比較例3のSDS-PAGEの結果を図3に示す。シグナルペプチドとしてOmpAシグナルペプチド(配列番号1)を用いることで(実施例2)、MalE(配列番号5)をシグナルペプチドとして用いたとき(比較例3)と比較し、Fc結合性タンパク質に相当するバンド(約45kDa、図3のうち黒矢印で示したバンド)が顕著に濃くなっており、発現量が顕著に向上していることがわかる。
【0067】
さらに、画像解析ソフト(ImageQuant TL 10.0、Cytiva社製)を用いて、SDS-PAGEの溶出画分(1)から(3)にそれぞれ含まれるFc結合性タンパク質に相当するバンドの輝度の合計を定量した結果、実施例2で得られたFc結合性タンパク質の量は比較例1のFc結合性タンパク質の量と比べて、3.76倍向上していることが明らかとなった。
図1
図2
図3
【配列表】
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