IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日亜化学工業株式会社の特許一覧

特開2024-124104非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124104
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240905BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240905BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032045
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】河井 健太
(72)【発明者】
【氏名】北野 勝行
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】非水電解質二次電池において、充放電容量を維持しつつ、出力特性を改善することができる正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】層状構造を有し、リチウムおよびニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備することと、前記第1粒子とコバルト化合物とを接触させてコバルト付着物を得ることと、前記コバルト付着物を500℃以上900℃以下の温度で熱処理して第2粒子を得ることと、前記第2粒子を液媒体と接触させて液媒体処理物を得ることと、前記液媒体処理物とホウ素化合物とを接触させてホウ素付着物を得ることと、を含む非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、リチウムおよびニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備することと、
前記第1粒子とコバルト化合物とを接触させてコバルト付着物を得ることと、
前記コバルト付着物を500℃以上900℃以下の温度で熱処理して第2粒子を得ることと、
前記第2粒子を液媒体と接触させて液媒体処理物を得ることと、
前記液媒体処理物とホウ素化合物とを接触させてホウ素付着物を得ることと、を含む非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記ホウ素付着物を100℃以上450℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得ることを更に含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記コバルト化合物は、酸化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び水酸化コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記コバルト化合物の接触量は、前記リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属原子の総モル数に対するコバルト原子のモル数の比率として、0.1モル%以上5モル%以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記液媒体は、水を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記液媒体は、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素化合物は、オルトホウ酸、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸アンモニウム、メタホウ酸リチウム及び酸化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ホウ素化合物の接触量は、前記リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属原子の総モル数に対するホウ素原子のモル数の比率として、0.05モル%以上2モル%以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属元素の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.6以上1未満である組成を有する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にマンガンおよびアルミニウムの少なくとも一方を更に含み、リチウム以外の金属元素の総モル数に対するマンガンおよびアルミニウムの総モル数の比が0.02以上1未満である組成を有する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記式(1)で表される組成を有する請求項1又は2に記載の製造方法。
LiNiCo 2+α (1)
(式中、q、r、s、t、uおよびαは、1.0≦q≦1.3、0.9≦r≦0.96、0.01≦s≦0.05、0.02≦t≦0.08、0≦u≦0.02、r+s+t+u=1、-0.1≦α≦0.1を満たす。Mは、MnおよびAlの少なくとも一方を含む。Mは、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、CdおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種を含む。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどの層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、作用電圧が高く、また大きな容量が得られるため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ等の電子機器の電源や車載用バッテリーとして広く用いられている。電子機器や車載用バッテリーの高機能化に伴い、更なる高容量化、充放電サイクル特性の向上に加えて安全性、出力特性等の向上が求められている。
【0003】
上記に関連して、ニッケルを高濃度に含むリチウム遷移金属複合酸化物に対して、コバルト及びホウ素を表面コーティングする技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-508154号公報
【特許文献2】特表2021-508161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、非水電解質二次電池において、充放電容量を維持しつつ、出力特性を改善することができる正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、層状構造を有し、リチウムおよびニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備することと、前記第1粒子とコバルト化合物とを接触させてコバルト付着物を得ることと、前記コバルト付着物を500℃以上900℃以下の温度で熱処理して第2粒子を得ることと、前記第2粒子を液媒体と接触させて液媒体処理物を得ることと、前記液媒体処理物とホウ素化合物とを接触させてホウ素付着物を得ることと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、非水電解質二次電池において、充放電容量を維持しつつ、出力特性を改善することができる正極活物質の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法に限定されない。
【0009】
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
非水電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう)の製造方法は、層状構造を有し、リチウムおよびニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備する準備工程と、第1粒子とコバルト化合物とを接触させてコバルト付着物を得る第1付着工程と、コバルト付着物を500℃以上900℃以下の温度で熱処理して第2粒子を得る第1熱処理工程と、第2粒子を液媒体と接触させて液媒体処理物を得る液媒体処理工程と、液媒体処理物とホウ素化合物とを接触させてホウ素付着物を得る第2付着工程と、を含む。正極活物質の製造方法は、ホウ素付着物を熱処理して熱処理物を得る第2熱処理工程を更に含んでいてもよい。正極活物質は、ホウ素付着物を含むものであってもよいし、熱処理物を含むものであってもよい。
【0010】
リチウム遷移金属複合酸化物の表面にコバルトを含む化合物を付着させた後に、液媒体で処理し、さらにホウ素を含む化合物を付着させることで、非水電解質二次電池において、充放電容量を維持しつつ、出力特性を改善することができる。これは例えば、以下のように考えることができる。コバルトを含む化合物を付着させることで出力特性、特に低充電状態(低SOC)における出力特性を改善することができる。さらに液媒体で処理した後にホウ素を含む化合物を付着させることで、ニッケルディスオーダーの上昇を抑制して充放電容量を高く維持しつつ低SOCにおける出力特性を改善することができる。
【0011】
準備工程
準備工程では、層状構造を有し、リチウムおよびニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備する。第1粒子に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、第1リチウム遷移金属複合酸化物ともいう)は、少なくともリチウム(Li)とニッケル(Ni)等の遷移金属とを含んでいてよく、コバルト(Co)を更に含んでいてよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物は、更にアルミニウム(Al)およびマンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種を含む第一金属元素をさらに含んでいてもよく、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を含み、アルミニウム(Al)およびマンガン(Mn)の少なくとも一方をさらに含んでいてよい。
【0012】
また、第1リチウム遷移金属複合酸化物は、これらに加えて、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ランタン(La)、カドミウム(Cd)およびルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも1種を含む第二金属元素をさらに含んでいてよい。第二金属元素は、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0013】
第1リチウム遷移金属複合酸化物はその組成にニッケルを含んでいてよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物が組成にニッケルを含む場合、リチウム以外の金属元素の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば、0より大きく1未満であってよい。リチウム以外の金属元素の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、好ましくは0.33以上、0.5以上、0.6以上、0.8以上、又は0.9以上であってよい。リチウム以外の金属元素の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、好ましくは0.99以下、0.96以下、0.95以下、又は0.94以下であってよい。ニッケルのモル数の比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、より優れた充放電容量と耐久性を両立しやすい傾向がある。
【0014】
第1リチウム遷移金属複合酸化物はその組成にコバルトをさらに含んでいてもよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、リチウム以外の金属元素の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば、0より大きく1未満であってよく、好ましくは0.005以上、0.01以上、0.015以上、又は0.018以上であってよい。またリチウム以外の金属元素の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、好ましくは0.35以下、0.3以下、0.1以下、0.08以下、0.05以下、又は0.03以下であってよい。コバルトのモル数の比が上述した範囲であると、非水電解質二次電池において、コストを低減しつつ、より優れた電池と特性することができる。
【0015】
第1リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にアルミニウムおよびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種を含む第一金属元素をさらに含んでいてもよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物が第一金属元素を含む場合、リチウム以外の金属元素の総モル数に対する第一金属元素の総モル数の比は、例えば、0より大きく1未満であってよく、好ましくは0.01以上、0.02以上、又は0.03以上であってよい。またリチウム以外の金属元素の総モル数に対する第一金属元素の総モル数の比は、好ましくは0.6以下、0.35以下、0.2以下、0.1以下、0.08以下、0.05以下、又は0.04以下であってよい。第一金属元素の総モル数の比が上述した範囲内であると、非水電解質二次電池において、充放電容量と安全性の両立を達成することができる。
【0016】
第1リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成に第一金属元素としてアルミニウム及びマンガンの両方を含んでいてもよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物がその組成にアルミニウム及びマンガンを含む場合、組成におけるマンガンに対するアルミニウムのモル比(アルミニウム/マンガン)は、例えば0.001以上40以下であってよく、好ましくは0.03以上、又は10以下であってよい。
【0017】
第1リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にカルシウム、ジルコニウム、チタン、マグネシウム、タンタル、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、銅、ケイ素、スズ、ビスマス、ガリウム、イットリウム、サマリウム、エルビウム、セリウム、ネオジム、ランタン、カドミウムおよびルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む第二金属元素をさらに含んでいてもよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物が第二金属元素を含む場合、リチウム以外の金属元素の総モル数に対する第二金属元素の総モル数の比は、例えば、0より大きく0.05以下であってよく、好ましくは0.001以上、0.003以上、又は0.01以上であってよい。またリチウム以外の金属元素の総モル数に対する第二金属元素の総モル数の比は、好ましくは0.04以下、0.03以下、又は0.02以下であってよい。第二金属元素の総モル数の比が上述した範囲内であると、非水電解質二次電池において、優れた充放電容量と安全性の両立を達成することができる。
【0018】
第1リチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.95以上であってよく、好ましくは1.0以上、1.01以上、又は1.02以上であってよい。またリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば1.5以下であってよく、好ましくは1.3以下、1.2以下、1.1以下、又は1.08以下であってよい。リチウムのモル数の比が0.95以上であると、得られるリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた非水電解質二次電池における正極表面と非水電解質との界面で発生する界面抵抗が抑制されるため、非水電解質二次電池の出力が向上する傾向がある。一方、リチウムのモル数の比が1.5以下であると、正極活物質を非水電解質二次電池の正極に用いる場合の初期放電容量が向上する傾向がある。
【0019】
第1リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルに加えて、マンガンおよびアルミニウムの少なくとも一方を含む場合、ニッケル、(マンガン+アルミニウム)のモル数の比は、例えば、ニッケル:(マンガン+アルミニウム)=(0.6から0.99):(0.01から0.4)であってよく、好ましくは(0.7から0.96):(0.04から0.3)であってよい。第1リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルに加えて、コバルト、マンガンおよびアルミニウムを含む場合、ニッケル、コバルト、および(マンガン+アルミニウム)のモル数の比は、例えば、ニッケル:コバルト:(マンガン+アルミニウム)=(0.33から0.99):(0.005から0.35):(0.005から0.6)であってよく、好ましくは(0.6から0.96):(0.01から0.1):(0.01から0.35)であってよい。
【0020】
第1リチウム遷移金属複合酸化物を組成として表すと、例えば下記式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。第1リチウム遷移金属複合酸化物は、層状構造を有しており、六方晶系の結晶構造を有するものであってよい。
LiNiCo 2+α (1)
【0021】
ここで、q、r、s、t、uおよびαは、1.0≦q≦1.3、0.33≦r<1、0≦s≦0.35、0≦t≦0.6、0≦u≦0.05、r+s+t+u=1、-0.1≦α≦0.1を満たしてよい。r、s、tおよびuは、0.6≦r≦0.99、0≦s≦0.3、0<t≦0.35、0≦u≦0.04を満たしてよく、0.8≦r≦0.99、0≦s≦0.1、0<t≦0.2、0≦u≦0.03を満たしてよく、0.9≦r≦0.96、0.01≦s≦0.05、0.02≦t≦0.08、0≦u≦0.02を満たしてよい。
【0022】
は、MnおよびAlの少なくとも一方を示してよい。Mは、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、CdおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種を示してよく、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、MoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種を示してよい。
【0023】
第1リチウム遷移金属複合酸化物は複数の一次粒子が集合して形成される二次粒子であってよい。一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、例えば0.1μm以上1.5μm以下であり、好ましくは0.12μm以上、又は0.15μm以上であってよい。また一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、好ましくは1.2μm以下、又は1.0μm以下であってよい。一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径が前記範囲内であると電池を構成する際に出力が向上する場合がある。ここで一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径は、以下のようにして測定される。走査電子顕微鏡(SEM)を用い、粒径に応じて1000倍から15000倍の範囲の倍率で、二次粒子を構成する一次粒子を観察する。輪郭が確認できる一次粒子を50個選択し、選択された一次粒子の輪郭から画像処理ソフトウエアを用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径が求められる。一態様において、一次粒子は、その表面に一次粒子より小さい平均粒径を有する粒子が付着していてもよい。また一態様において、一次粒子は、一次粒子より小さい平均粒径を有する粒子の集合体であってもよい。前述の一次粒子より小さい平均粒径を有する粒子の平均粒径は、上記と同様に電子顕微鏡観察に基づいて測定されてよい。一次粒子の輪郭が確認できるとは、画像上で一次粒子の輪郭全体をトレースできることを意味する。
【0024】
二次粒子は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが例えば、2.5以上であってよい。比D50/DSEMは、例えば2.5以上150以下であり、好ましくは5以上、又は10以上であってよい。また比D50/DSEMは、好ましくは100以下、又は50以下であってよい。
【0025】
第1リチウム遷移金属複合酸化物は、購入等により準備してもよいし、公知の方法で製造して準備してもよい。例えば、リチウム化合物とニッケルを含む複合酸化物粒子とを混合し、熱処理することで、第1リチウム遷移金属複合酸化物を準備してもよい。より具体的には、水酸化リチウムなどのリチウム化合物と所望の組成を有する複合酸化物粒子とを混合して原料混合物を得ることと、得られた原料混合物を熱処理することと、を含む製造方法で製造することができる。また、複合酸化物粒子の製造方法については例えば、特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報(米国公開特許2012-270107)等の記載を参照することができる。
【0026】
第1付着工程
第1付着工程では、準備した第1粒子とコバルト化合物とを接触させてコバルト付着物を得る。コバルト化合物は、コバルトを含む酸化物、水酸化物、塩等をであってよい。コバルト化合物として具体的には、酸化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、水酸化コバルト等を挙げることができる。コバルト化合物は、酸化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び水酸化コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。コバルト化合物は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
第1粒子とコバルト化合物との接触は、乾式で行っても、湿式で行ってもよく、好ましくは乾式で行ってよい。乾式で行う場合、第1粒子に含まれるアルカリ成分の過剰な溶出を低減できることで、ニッケルディスオーダーの上昇を抑制することができる。乾式で接触を行う場合、例えば高速剪断ミキサー、メカノフュージョン等を用いて、リチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物とを混合して、これらを接触させることができる。
【0028】
第1粒子と接触させるコバルト化合物の総量は、第1粒子に含まれる第1リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属原子の総モル数に対するコバルト原子のモル数の比率として例えば、0.1モル%以上5.0モル%以下であってよく、好ましくは0.5モル%以上、又は1.0モル%以上であってよく、また好ましくは10モル%以下、又は5.0モル%以下であってよい。コバルト化合物の総量が前記範囲内であると出力特性を向上できる傾向がある。
【0029】
第1粒子とコバルト化合物の混合温度は、例えば5℃以上60℃以下であってよく、好ましくは15℃以上、又は40℃以下であってよい。混合時間は例えば、1分以上60分以下であってよく、好ましくは2分以上、又は10分以下であってよい。
【0030】
第1熱処理工程
第1熱処理工程では、第1付着工程で得られるコバルト付着物を500℃以上900℃以下の温度で熱処理して第2粒子を得る。得られる第2粒子においては、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面近傍におけるコバルト濃度が、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の中心付近よりも高くなっていてよい。また、第2粒子はリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にコバルトを含む付着物を有していてよい。さらに第2粒子は、コバルト化合物の付着と熱処理により一次粒子にコバルトが固溶する形で、少なくとも一部の一次粒子において表面のコバルト濃度が高くなっていてもよく、二次粒子の粒界のコバルト濃度が高くなっていてもよい。
【0031】
第1熱処理工程における熱処理の温度は、好ましくは550℃以上、又は600℃以上であってよく、また好ましくは850℃以下、又は800℃以下であってよい。熱処理の時間は、例えば1時間以上20時間以下であってよく、好ましくは3時間以上、又は15時間以下であってよい。熱処理の雰囲気は、例えば酸素を含む雰囲気であってよく、大気雰囲気であってよい。
【0032】
熱処理後の第2粒子には、必要に応じて、解砕、粉砕、分級操作、整粒操作等の処理を行ってもよい。
【0033】
液媒体処理工程
液媒体処理工程では、第2粒子を液媒体と接触させて液媒体処理物を得る。液媒体との接触後の液媒体処理物には、必要に応じて、脱水処理、乾燥処理等を実施してもよい。液媒体処理工程は、例えば、第2粒子に存在する未反応原料のアルカリ成分の少なくとも一部を除去する工程であってよい。
【0034】
液媒体は、少なくとも水を含んでいればよく、水に加えて低級アルコール等の水溶性有機溶剤を必要に応じて含んでいてもよい。液媒体が水溶性有機溶剤を含む場合、水溶性有機溶剤の含有量は例えば0.1体積%以上50体積%以下であってよく、好ましくは20体積%以下であってよい。液媒体は、必要に応じてリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩を更に含んでいてよく、少なくともナトリウム塩を含んでいてよい。リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩を形成する陰イオンとしては、塩化物イオン等のハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、水酸化物イオン等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも硫酸イオンを含むことがより好ましい。液媒体がリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩を含む場合、液媒体におけるアルカリ金属イオンの含有率は、例えば、0.01モル/L以上2.0モル/L以下であってよく、好ましくは0.05モル/L以上、0.1モル/L以上、0.2モル/L以上、0.3モル/L以上、又は0.4モル/L以上であってよく、また好ましくは1.5モル/L以下、1.0モル/L以下、0.6モル/L以下、又は0.5モル/L以下であってよい。
【0035】
液媒体は、必要に応じて、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩以外のその他の金属塩を含んでいてもよい。その他の金属塩に含まれる金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等を挙げることができる。洗浄液がその他の金属イオンを含む場合、その含有率は、例えば、0.1モル/L以下であってよく、好ましくは0.01モル/L未満であってよい。
【0036】
第2粒子と液媒体の接触温度は、例えば、5℃以上60℃以下であってよく、好ましくは10℃以上、又は40℃以下であってよい。また、接触時間は、例えば、1分以上2時間以下であってよく、好ましくは10分以上、又は1時間以下である。接触に用いる液媒体の液量は、第2粒子の質量に対して例えば、0.25倍以上10倍以下であってよく、好ましくは0.5倍以上、又は4倍以下であってよい。
【0037】
第2粒子と液媒体の接触は、液媒体に第2粒子を投入してスラリーを調製して行ってよい。スラリーとして接触を行う場合、スラリーにおける第2粒子の固形分濃度は、例えば、10質量%以上80質量%以下であってよく、好ましくは20質量%以上、又は60質量%以下であってよい。また接触は、濾過器上に保持した第2粒子に液媒体を通液して行ってもよく、第2粒子を純水などで洗浄し、脱水して得られる脱水ケーキに液媒体を通液しておこなってもよい。第2粒子を純水などで洗浄した後、脱水して得られる脱水ケーキに液媒体を通液する場合、使用する純水と液媒体の合計の液量が第2粒子の質量に対して、0.25倍以上10倍以下となることが好ましく、0.5倍以上4倍以下となることがより好ましい。なお、アルカリ金属イオンを含む液媒体(例えば、硫酸ナトリウム溶液)は残存アルカリ(例えば、炭酸リチウム)の溶解度が純水より高く、残存アルカリを除去しやすい。そのため、リチウム遷移金属複合酸化物へのダメージ低減の観点からは、液媒体との接触を優先させることが好ましい。また、純水による洗浄は行わないことが好ましい。
【0038】
液媒体処理工程で得られる液媒体処理物は、リチウム遷移金属複合酸化物に加えて、ナトリウム等のアルカリ金属を含む化合物を含んでいてよい。アルカリ金属を含む化合物は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物を含む一次粒子からなる二次粒子の粒界に存在していてよい。液媒体処理物に含まれるアルカリ金属を含む化合物の含有率は、アルカリ金属元素換算として例えば、100ppm以上1400ppm以下であってよく、好ましくは150ppm以上、200ppm以上、又は300ppm以上であってよく、また好ましくは1300ppm以下、1200ppm以下、又は1000ppm以下であってよい。アルカリ金属を含む化合物の含有率が前記範囲内であると、充放電時における抵抗成分が充分に低減される傾向がある。なお、液媒体処理物におけるアルカリ金属を含む化合物の含有率は、例えば、液媒体のアルカリ金属イオン濃度、脱水ケーキの付着水量等で調整することができる。
【0039】
液媒体処理工程で得られる液媒体処理物は、乾燥処理されてよい。乾燥処理は液媒体処理物に付着した水分の少なくとも一部を除去できればよく、加熱乾燥、風乾、減圧乾燥等で行うことができる。加熱乾燥する場合の乾燥温度は、液媒体処理物に含まれる水分が十分に除去される温度であればよい。乾燥温度は、例えば、80℃以上300℃以下であり、好ましくは100℃以上250℃以下である。乾燥温度が前記範囲内であると、付着水へのリチウムイオンの溶出を充分に抑制できる。また、粒子表面の結晶構造の崩壊を抑制し、充放電容量が低下することを充分に抑制できる。乾燥時間は、液媒体処理物に含まれる水分量に応じて適宜選択すればよい。乾燥時間は、例えば、1時間以上10時間以下である。乾燥処理後の液媒体処理物に含まれる水分量は、例えば、0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。
【0040】
液媒体処理工程における洗浄の程度は、液媒体処理物におけるリチウム含有量、残留するアルカリ成分、比表面積などで確認することができる。一般的に、液媒体処理物の比表面積が小さいと、粒子割れ、リチウム及び複合酸化物を構成する元素の溶出等を充分に抑制でき、サイクル特性がより向上する傾向がある。また、比表面積がある程度の大きさとすることで、残留するアルカリ成分を充分に低減できる。液媒体としての硫酸ナトリウムなどのナトリウム塩水溶液は、純水、リチウム塩水溶液等と比べてリチウム塩の溶解度が高いため、アルカリ除去のために必要とする液量を低減することができる。結果として、液媒体処理物の比表面積が小さくなり、また液媒体処理物からの過剰なリチウムの溶出が抑制できる。
【0041】
第2付着工程
第2付着工程では、液媒体処理物とホウ素化合物とを接触させてホウ素付着物を得る。液媒体処理物とホウ素化合物との接触は、乾式混合で行ってよく、湿式混合で行ってもよい。乾式混合は、例えば、スーパーミキサー、ダブルコーンミキサー等を用いて行うことができる。また、この第2付着工程では、ホウ素化合物に加えて他の金属元素の単体、合金又は金属化合物を付着させてもよい。他の金属元素としては、Al、Si、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W等が挙げられ、他の金属元素は、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0042】
ホウ素化合物としては、酸化ホウ素、ホウ素のオキソ酸及びホウ素のオキソ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種から選択可能である。ホウ素化合物のより具体的な例としては、オルトホウ酸(HBO;所謂普通のホウ酸)、四ホウ酸リチウム(Li)、五ホウ酸アンモニウム(NH)、メタホウ酸リチウム(LiBO)、酸化ホウ素(B)等が挙げられ、ホウ素化合物は、これらからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくともオルトホウ酸を含んでいてよい。ホウ素化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上の組合せを用いてもよい。
【0043】
ホウ素化合物は、固体状態で液媒体処理物と混合して接触させてよく、ホウ素化合物の溶液として液媒体処理物と接触させてもよい。ホウ素化合物との接触後、得られるホウ素付着物の表面状態を良好にできるという点で、固体状態で液媒体処理物と接触させることが好ましい。固体状態のホウ素化合物を用いる場合、ホウ素化合物の体積平均粒径は、例えば、1μm以上60μm以下であってよく、好ましくは10μm以上、又は30μm以下であってよい。
【0044】
第2付着工程におけるホウ素化合物の接触量は、リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対するホウ素原子のモル数の比率として、例えば、0.05モル%以上2モル%以下であってよく、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.15モル%以上、さらに好ましくは0.2モル%以上であり、また好ましくは1.5モル%以下、1.2モル%以下、0.9モル%以下、0.8モル%以下、又は0.5モル%以下であってよい。
【0045】
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、第2付着工程で得られるホウ素付着物を100℃以上450℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る第2熱処理工程を更に含んでいてもよい。ホウ素付着物を特定の温度で熱処理することで、非水電解質二次電池における充放電容量がより向上する場合がある。
【0046】
第2熱処理工程における熱処理温度は、好ましくは200℃以上、220℃以上、又は250℃以上であってよく、また好ましくは400℃以下、又は350℃以下であってよい。熱処理の雰囲気は、含酸素雰囲気であってよく、大気中であってよい。熱処理の時間は、例えば、1時間以上20時間以下であってよく、好ましくは5時間以上、又は10時間以下であってよい。なお、第2熱処理工程で得られる熱処理物に対しては、必要に応じて解砕処理、分級処理等を実施してよい。
【0047】
液媒体接触工程後の液媒体処理物の表面近辺には、リチウム欠損領域が形成されることがあり、リチウム欠損領域ではリチウムイオンの脱離挿入が阻害される場合がある。しかし、液媒体接触工程後の液媒体処理物に、ホウ素化合物を接触させて熱処理することで、リチウム欠損が補償され、リチウムイオンの脱離挿入の阻害が抑制されて充放電特性及びサイクル特性が向上すると考えられる。また、第1リチウム遷移金属複合酸化物として、一次粒子が複数凝集してなる二次粒子が用いられる場合、液媒体接触工程後にホウ素化合物を接触させることで、二次粒子の内部、すなわち一次粒子間にもホウ素化合物がより分布しやすくなる。これにより、ホウ素化合物による特性向上の効果がより大きくなると考えられる。
【0048】
非水電解質二次電池用正極活物質
正極活物質は、層状構造を有し、リチウム、ニッケルおよびコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物(以下、第2リチウム遷移金属複合酸化物ともいう)を含む一次粒子が複数集合してなる二次粒子を含んでいてよい。一次粒子は、一次粒子の表面近傍におけるコバルト濃度が、一次粒子の中心付近よりも高くなっていてよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケル元素のディスオーダーが3%以下であってよく、二次粒子は、その表面にホウ素を含む付着物を有する。正極活物質は、例えば、既述の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法で製造されるものであってよい。
【0049】
一次粒子を構成する第2リチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は0.5以上1未満であってよく、好ましくは0.7以上、0.8以上、又は0.9以上であってよく、また好ましくは0.95以下であってよい。ニッケルのモル数の比が大きいリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質において、より良好な充放電特性及びサイクル特性が達成される。リチウム遷移金属複合酸化物の組成は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定することができる。
【0050】
第2リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にコバルトを含んでいてよい。第2リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、例えば0より大きく0.35以下であってよく、好ましくは0.01以上、0.015以上、又は0.02以上であってよい。またリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.05以下、又は0.04以下であってよい。
【0051】
第2リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にマンガンを含んでいてもよい。第2リチウム遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば0より大きく1未満であってよく、好ましくは0.01以上、又は0.35以下であってよい。第2リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にアルミニウムを含んでいてもよい。第2リチウム遷移金属複合酸化物がアルミニウムを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するアルミニウムのモル数の比は、例えば0より大きく0.2以下であってよく、好ましくは0.01以上、又は0.05以下、もしくは0.04以下であってよい。
【0052】
第2リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成に第一金属元素としてアルミニウム及びマンガンの両方を含んでいてもよい。第2リチウム遷移金属複合酸化物がその組成にアルミニウム及びマンガンを含む場合、組成におけるマンガンに対するアルミニウムのモル比(アルミニウム/マンガン)は、例えば0.001以上40以下であってよく、好ましくは0.03以上、又は10以下であってよい。
【0053】
第2リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にカルシウム、ジルコニウム、チタン、マグネシウム、タンタル、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、銅、ケイ素、スズ、ビスマス、ガリウム、イットリウム、サマリウム、エルビウム、セリウム、ネオジム、ランタン、カドミウムおよびルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む第二金属元素をさらに含んでいてもよい。第2リチウム遷移金属複合酸化物が第二金属元素を含む場合、リチウム以外の金属元素の総モル数に対する第二金属元素の総モル数の比は、例えば、0より大きく0.05以下であってよく、好ましくは0.001以上、0.003以上、又は0.01以上であってよい。またリチウム以外の金属元素の総モル数に対する第二金属元素の総モル数の比は、好ましくは0.04以下、0.03以下、又は0.02以下であってよい。第二金属元素の総モル数の比が上述した範囲内であると、非水電解質二次電池において、充放電容量と安全性の両立を達成することができる。
【0054】
第2リチウム遷移金属複合酸化物における、リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば、0.95以上、好ましくは1.0以上、1.01以上、又は1.02以上であってよい。またリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は例えば、1.5以下であり、好ましくは1.3以下、1.2以下、1.1以下、又は1.08以下であってよい。リチウムのモル数の比が0.95以上であると、得られる正極活物質を用いた非水電解質二次電池における正極表面と非水電解質との界面で発生する界面抵抗が抑制されるため、非水電解質二次電池の出力が向上する傾向がある。一方、リチウムのモル数の比が1.5以下であると、正極活物質を非水電解質二次電池の正極に用いる場合の初期放電容量が向上する傾向がある。
【0055】
第2リチウム遷移金属複合酸化物は、下記式(2)で表される組成を有していてよい。
LiNiCo 2+β (2)
【0056】
ここで、p、x、y、z、wおよびβは、1.0≦p≦1.3、0.33≦x<1、0<y≦0.35、0≦z≦0.6、0≦w≦0.05、x+y+z+w=1、-0.1≦β≦0.1を満たしてよい。x、y、zおよびwは、0.6≦x≦0.99、0<y≦0.3、0<z≦0.35、0≦w≦0.04を満たしてよく、0.8≦x≦0.98、0.01≦y≦0.2、0<z≦0.15、0≦w≦0.03を満たしてよく、0.9≦x≦0.95、0.01≦y≦0.05、0.02≦z≦0.08、0≦w≦0.02を満たしてよい。
【0057】
は、MnおよびAlの少なくとも一方を示してよい。Mは、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、CdおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、MoおよびWからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0058】
一次粒子の表面の少なくとも一部には、ホウ素を含む化合物が付着していてよい。ホウ素を含む化合物としては、例えば、メタホウ酸リチウム(LiBO)等を挙げることができる。またホウ素を含む化合物はリチウム遷移金属複合酸化物と複合物を形成していてもよい。正極活物質におけるホウ素を含む化合物の含有量は、第2リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対するホウ素元素のモル数の比率として、例えば、0.05モル%以上2モル%以下であってよく、好ましくは0.1モル%以上、0.15モル%以上、又は0.2モル%以上であってよく、また好ましくは1.5モル%以下、1.2モル%以下、0.9モル%以下、0.8モル%以下、又は0.5モル%以下であってよい。正極活物質におけるホウ素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定することができる。
【0059】
第2粒子の体積平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下であってよく、好ましくは3μm以上、10μm以上、又は12μm以上であってよく、また好ましくは20μm以下、18μm以下、又は16μm以下であってよい。第2粒子の体積平均粒径が前記範囲内であると、流動性が良く、二次電池に用いた際に出力がより向上する場合がある。ここで体積平均粒径は、体積基準の累積粒度分布における小粒径側からの累積50%に対応する50%粒径D50である。ここで体積基準の累積粒度分布は、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて湿式条件で測定される。
【0060】
第2リチウム遷移金属複合酸化物は複数の一次粒子が集合して形成される二次粒子であってよい。一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、例えば0.1μm以上1.5μm以下であり、好ましくは0.12μm以上、又は0.15μm以上であってよい。また一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、好ましくは1.2μm以下、又は1.0μm以下であってよい。一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径が前記範囲内であると電池を構成する際に出力が向上する場合がある。ここで一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径は、以下のようにして測定される。走査電子顕微鏡(SEM)を用い、粒径に応じて1000倍から15000倍の範囲の倍率で、二次粒子を構成する一次粒子を観察する。輪郭が確認できる一次粒子を50個選択し、選択された一次粒子の輪郭から画像処理ソフトウエアを用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として一次粒子の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径が求められる。一態様において、一次粒子は、その表面に一次粒子より小さい平均粒径を有する粒子が付着していてもよい。また一態様において、一次粒子は、一次粒子より小さい平均粒径を有する粒子の集合体であってもよい。前述の一次粒子より小さい平均粒径を有する粒子の平均粒径は、上記と同様に電子顕微鏡観察に基づいて測定されてよい。一次粒子の輪郭が確認できるとは、画像上で一次粒子の輪郭全体をトレースできることを意味する。
【0061】
二次粒子は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが例えば、2.5以上であってよい。比D50/DSEMは、例えば2.5以上150以下であり、好ましくは5以上、又は10以上であってよい。また比D50/DSEMは、好ましくは100以下、又は50以下であってよい。
【0062】
正極活物質を構成する二次粒子においては、一次粒子の表面近傍におけるコバルト濃度が、一次粒子の中心付近よりも高くなっていてよい。換言すると、一次粒子内部に比べて、二次粒子の粒界付近におけるコバルト濃度が高くなっていてもよい。二次粒子におけるコバルトの分布は例えば、二次粒子の断面をTEM-EDXで観察することで測定することができる。また、二次粒子は、粒子表面からの深さが150nmである第1領域と、粒子表面からの深さが10nm以下である第2領域と、を有していてよい。二次粒子においては、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が、第1領域よりも第2領域の方が大きくなっていてよい。既述の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法で記載されたように、リチウム遷移金属複合酸化物とコバルト化合物を接触させ、熱処理することで、第1領域および第2領域を有する所望の正極活物質を得ることができる。
【0063】
ニッケルディスオーダー
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物は、X線回折法により求められるニッケル元素のディスオーダーが3%未満であることが好ましく、2%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。ここで、ニッケル元素のディスオーダーとは、本来のサイトを占有すべき遷移金属イオン(ニッケルイオン)の化学的配列無秩序(chemical disorder)を意味する。層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物においては、Wyckoff記号で表記した場合に3bで表されるサイト(3bサイト、以下同様)を占有すべきアルカリ金属イオンと3aサイトを占有すべき遷移金属イオンの入れ替わりが代表的である。ニッケル元素のディスオーダーが小さいほど、初期効率が向上するので好ましい。
【0064】
リチウム遷移金属複合酸化物におけるニッケル元素のディスオーダーは、X線回折法により求めることができる。リチウム遷移金属複合酸化物について、CuKα線によりX線回折スペクトル(管電流200mA、管電圧45kV)を測定する。組成モデルを(Li1-dNi)(NiCoMnAl)O(x+y+z+w=1)とし、得られたX線回折スペクトルに基づいて、Rietan2000ソフトウエアを用いたリートベルト解析により構造最適化を行う。構造最適化の結果として算出されるdの百分率をニッケル元素のディスオーダーの値とする。
【0065】
正極活物質の体積平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下であってよく、好ましくは5μm以上、10μm以上、又は12μm以上であってよく、また好ましくは20μm以下、18μm以下、又は16μm以下であってよい。正極活物質の体積平均粒径が前記範囲内であると、出力特性と密度とを両立できる場合がある。ここで体積平均粒径は、体積基準の累積粒度分布における小粒径側からの累積50%に対応する50%粒径D50である。
【0066】
正極活物質の比表面積は、例えば、0.4m/g以上4m/g以下であってよく、好ましくは0.45m/g以上、又は0.6m/g以上であってよく、また好ましくは3.0m/g以下、1.6m/g以下、又は1.4m/g以下であってよい。比表面積はBET法により測定することができる。
【0067】
アルカリ成分
正極活物質は、アルカリ成分として水酸化リチウム、炭酸リチウムなどを含んでいてもよい。正極活物質が水酸化リチウムを含む場合、水酸化リチウムの含有量は、例えば、0.01質量%以上1.0質量%以下であってよく、好ましくは0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってよく、また好ましくは0.6質量%以下、0.5質量%以下、又は0.4質量%以下であってよい。正極活物質における水酸化リチウムの含有量が前記範囲内であることで、電極作製時のスラリーの増粘を低減できる傾向がある。また、正極活物質が炭酸リチウムを含む場合、炭酸リチウムの含有量は、例えば、0.01質量%以上0.8質量%以下であってよく、好ましくは0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってよく、また好ましくは0.5質量%以下、0.3質量%未満、又は0.25質量%以下であってよい。正極活物質における炭酸リチウムの含有量が前記範囲内であることで、充放電時のガス発生を低減できる傾向がある。なお、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどのアルカリ成分の含有量は、後述の中和滴定法により測定することができる。
【0068】
正極活物質は、非水電解質二次電池の正極に適用することで、低SOCにおける出力特性に優れる非水電解質二次電池を構成することができる。正極活物質は、集電体上に配置される正極活物質層に含まれて正極を構成することができる。すなわち、本発明は前記正極活物質を含む非水電解質二次電池用電極及び当該電極を備える非水電解質二次電池を包含する。
【0069】
[非水電解質二次電池用電極]
非水電解質二次電池用電極は、集電体と、集電体上に配置され、上述した正極活物質又は前記製造方法で製造される正極活物質を含む正極活物質層とを備える。係る電極を備える非水電解質二次電池は、低SOCにおける優れた出力特性を達成することができる。
【0070】
正極活物質層の密度は、例えば2.6g/cm以上3.9g/cm以下であってもよく、好ましくは2.8g/cm以上3.8g/cm以下、より好ましくは3.1g/cm以上3.7g/cm以下、さらに好ましくは3.2g/cm以上3.6g/cm以下である。活物質層の密度は、活物質層の質量を活物質層の体積で除して算出される。ここで活物質層の密度は、後述する電極組成物を集電体上に付与した後、加圧することで調整することができる。
【0071】
集電体の材質としては例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。正極活物質層は、上記の正極活物質、導電材、結着剤等を溶媒と共に混合して得られる電極組成物を集電体上に塗布し、乾燥処理、加圧処理等を行うことで形成することができる。導電材としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。結着剤としては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0072】
[非水電解質二次電池]
非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用電極を備える。非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池用電極に加えて、非水電解質二次電池用負極、非水電解質、セパレータ等を備えて構成される。非水電解質二次電池における、負極、非水電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載された、非水電解質二次電池用のためのものを適宜用いることができる。
【0073】
本開示に係る発明は、例えば以下の態様を包含してよい。
[1] 層状構造を有し、リチウムおよびニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備することと、前記第1粒子とコバルト化合物とを接触させてコバルト付着物を得ることと、前記コバルト付着物を500℃以上900℃以下の温度で熱処理して第2粒子を得ることと、前記第2粒子を液媒体と接触させて液媒体処理物を得ることと、前記液媒体処理物とホウ素化合物とを接触させてホウ素付着物を得ることと、を含む非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【0074】
[2] 前記ホウ素付着物を100℃以上450℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得ることを更に含む[1]に記載の製造方法。
【0075】
[3] 前記コバルト化合物は、酸化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び水酸化コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]又は[2]に記載の製造方法。
【0076】
[4] 前記コバルト化合物の接触量は、前記リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属原子の総モル数に対するコバルト原子のモル数の比率として、0.1モル%以上5モル%以下である[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0077】
[5] 前記液媒体は、水を含む[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0078】
[6] 前記液媒体は、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩を含む[1]からは[5]のいずれかに記載の製造方法。
【0079】
前記ホウ素化合物は、オルトホウ酸、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸アンモニウム、メタホウ酸リチウム及び酸化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]から[6]のいずれかに記載の製造方法。
【0080】
[8] 前記ホウ素化合物の接触量は、前記リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属原子の総モル数に対するホウ素原子のモル数の比率として、0.05モル%以上2モル%以下である[1]から[7]のいずれかに記載の製造方法。
【0081】
[9] 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム以外の金属元素の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.6以上1未満である組成を有する[1]から[8]のいずれかに記載の製造方法。
【0082】
[10] 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にマンガンおよびアルミニウムの少なくとも一方を更に含み、リチウム以外の金属元素の総モル数に対するマンガンおよびアルミニウムの総モル数の比が0.02以上1未満である組成を有する[1]から[9]のいずれかに記載の製造方法。
【0083】
[11] 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記式(1)で表される組成を有する[1]から[10]のいずれかに記載の製造方法。
LiNiCo 2+α (1)
【0084】
式中、q、r、s、t、uおよびαは、1.0≦q≦1.3、0.9≦r≦0.96、0.01≦s≦0.05、0.02≦t≦0.08、0≦u≦0.02、r+s+t+u=1、-0.1≦α≦0.1を満たす。Mは、MnおよびAlの少なくとも一方を含む。Mは、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Cr、Mo、W、Fe、Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、CdおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、体積平均粒径(D50)は、レーザー散乱法によって得られる体積分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる値を用いた。具体的にはレーザー回折式粒子径分布測定装置(MALVERN Inst. MASTERSIZER 3000)を用いて体積平均粒径を測定した。比表面積は、BET比表面積測定装置(マウンテック社製:Macsorb)を用い、窒素ガスを用いたガス吸着法(1点法)で測定した。組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES;PerkinElmer社製)を用いて測定した。ニッケル元素のディスオーダー(Ni-dis)は、X線回折法により求めた。CuKα線によりX線回折スペクトル(管電流200mA、管電圧45kV)を測定し、得られたX線回折スペクトルに基づいて、Rietan2000ソフトウエアを用いたリートベルト解析により構造最適化を行った。構造最適化の結果として算出されるdの百分率をニッケル元素のディスオーダーの値とした。アルカリ成分の含有量は下記の中和滴定法により測定した。
【0086】
[中和滴定法]
正極活物質の粉末10gと純水50mlを100mlビーカーに入れ、室温で1時間撹拌した。撹拌後、正極活物質の粉末を濾過により取り除いた。残った濾液20mlに純水30mlを加えて全量で50mlの溶液とした。溶液に0.025モル/L硫酸を滴下し、pHメーターにて濾液のpHを測定した。第1滴定点までの滴定量をXml、第2滴定点までの滴定量をYmlとして、下記の計算式より、正極活物質粉末中に残存する炭酸リチウム及び水酸化リチウム濃度を算出した。
炭酸リチウム濃度(質量%)=
{2×0.025×(Y-X)/1000}×{73.9/(10×20/50)}×100
水酸化リチウム濃度(質量%)=
{2×0.025×(2X-Y)/1000}×{23.9/(10×20/50)}×100
【0087】
実施例1
準備工程
共沈法により、二次粒子の体積平均粒径が15μmであり、Ni:Co:Mn=96:2:2となる組成を有する複合酸化物粒子を得た。得られた複合酸化物粒子と水酸化リチウムと水酸化アルミニウムとを、モル比でLi:(Ni+Co+Mn):Al=1.10:0.98:0.02となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気雰囲気中700℃で5時間熱処理を行った。熱処理後に分散処理して、Ni:Co:Mn:Al=0.94:0.02:0.02:0.02となる組成のリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0088】
第1付着工程
得られたリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対して、酸化コバルトを2.0mоl%の割合で添加し、ミキサー混合することでコバルト付着物を得た。その後、コバルト付着物に対して、酸素雰囲気(酸素濃度40体積%)中、650℃で5時間熱処理を施した。得られた熱処理物を樹脂製ボールミルにて分散処理を行い、乾式篩にかけて、コバルトを含む付着物を表面に有するリチウム遷移金属複合酸化物(第2粒子)を得た。
【0089】
液媒体処理工程
得られた第2粒子を、ナトリウムイオン濃度が0.422モル/Lとなるように調製した硫酸ナトリウム水溶液に加えて、固形分濃度45質量%のスラリーとした。固形分濃度は第2粒子の質量/(第2粒子の質量+洗浄液の質量)で求めた。このスラリーを30分間攪拌した後、漏斗で脱水し、ケーキとして分離した。分離したケーキを150℃で10時間乾燥して洗浄粒子として液媒体処理物を得た。液媒体処理物を無機酸に溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Li1.03Ni0.92Co0.04Mn0.02Al0.02であった。
【0090】
第2付着工程
上記で得られた液媒体処理物に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対し、ホウ素元素として0.1モル%となる量のオルトホウ酸を加え、混合攪拌してホウ素付着物を得た。
【0091】
得られたホウ素付着物を、大気中350℃で10時間熱処理をすることで、熱処理物として目的のリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を得た。
【0092】
得られた正極活物質は、体積平均粒径が14.8μm、比表面積が1.23m/g、ニッケルディスオーダー(Ni-dis)が1.2%であった。リチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比(Li/Me)は1.03であった。
【0093】
実施例2
第2付着工程において、ホウ素元素として0.3モル%となる量のオルトホウ酸を添加したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極活物質を得た。
【0094】
実施例3
第2付着工程において、ホウ素元素として1モル%となる量のオルトホウ酸を添加したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極活物質を得た。
【0095】
比較例1
第1付着工程と液媒体処理工程の順番を入れ替えたこと以外は、実施例3と同様にして、比較例1の正極活物質を得た。
【0096】
比較例2
第1付着工程と第2付着工程とを同時に行ったこと以外は比較例1と同様にして比較例2の正極活物質を得た。具体的には、準備工程で得られたリチウム遷移金属複合酸化物を、ナトリウムイオン濃度が0.422モル/Lとなるように調製した硫酸ナトリウム水溶液に加えて、固形分濃度45質量%のスラリーとした。このスラリーを30分間攪拌した後、漏斗で脱水し、ケーキとして分離した。分離したケーキを150℃で10時間乾燥して洗浄粒子として液媒体処理物を得た。液媒体処理物を無機酸に溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Li1.03Ni0.94Co0.02Mn0.02Al0.02であった。得られた液媒体処理物に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対して、酸化コバルトを2mоl%、ホウ素元素として1mоl%となる量のオルトホウ酸を添加し、ミキサー混合することでコバルトおよびホウ素付着物を得た。コバルトおよびホウ素付着物に対して、大気雰囲気中、650℃で5時間熱処理を施した。得られた熱処理物を樹脂製ボールミルにて分散処理を行い、乾式篩にかけて、比較例2の正極活物質を得た。
【0097】
比較例3
実施例1の準備工程により得られたリチウム遷移金属複合酸化物を比較例3の正極活物質とした。
【0098】
電池特性評価
実施例1から3および比較例1から3で得られた正極活物質について、充放電容量および低SOCにおける出力特性の評価を以下のようにして行った。
【0099】
充放電容量の評価方法
各実施例および各比較例で得られた正極活物質について、充放電容量を以下のようにして評価した。
【0100】
正極の作製
92質量部の正極活物質、3質量部のアセチレンブラック、および5質量部のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に分散、溶解して正極スラリーを調製した。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗布、乾燥後、ロールプレス機で正極層の密度が3.3g/cmになるように圧縮成形し、サイズが15cmとなるように裁断して、正極を得た。
【0101】
非水電解液の作製
EC(エチレンカーボネイト)とEMC(エチルメチルカーボネイト)を体積比率3:7で混合して、混合溶媒とした。得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をその濃度が、1モル/Lになるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0102】
[評価用電池Aの作製]
上記で得られた正極に、リード電極を取り付けたのち110℃で真空乾燥を行った。次いで、正極を多孔性ポリエチレンからなるセパレータで包み、袋状のラミネートパックにそれを収納しアルゴンドライボックスに入れた。アルゴンドライボックス中で、所定サイズに裁断した金属Li箔をリード付きSUS板に貼り付け、負極を得た。正極と負極の極板を配し、ラミネートパックに収納後、上記で得られた非水電解液を注入、封止し、評価用電池Aとしてラミネートタイプの非水電解質二次電池(単極セル)を得た。得られた評価用電池Aを用い、以下の放電容量の評価を行った。
【0103】
エージング
評価用電池Aに充電電圧4.2V、充電電流0.1C(1Cは1時間で放電が終了する電流)の定電流定電圧充電(カットオフ電流0.05C)と、放電終止電圧2.5V、放電電流0.1Cの定電流放電とを行い、正極および負極に非水電解液をなじませた。
【0104】
放電容量の測定
充電電圧4.25V、充電電流0.1Cで定電流定電圧充電(カットオフ電流0.005C)を行い、充電容量を測定した。次に、放電終止電圧2.5V、放電電流0.1Cで定電流放電を行い、放電容量を測定した。実施例1から3および比較例1から3のそれぞれの充放電容量とその比率である効率を表1に示す。
【0105】
出力特性の評価方法
各実施例および各比較例で得られた正極活物質について、DC-IR(直流内部抵抗)を測定することで低SOCにおける出力特性の評価を行った。測定は以下のようにして行った。
【0106】
負極の作製
97.5質量部の人造黒鉛、1.5質量部のCMC(カルボキシメチルセルロース)、および1.0質量部のSBR(スチレンブタジエンゴム)を、水に分散させて負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーを銅箔に塗布、乾燥し、さらに圧縮成形して負極を得た。
【0107】
評価用電池Bの作製
評価用電池Aで作製した正極および上記で作製した負極の集電体に各々リード電極を取り付けたのち、120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間にセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。次いで、これを60℃で真空乾燥させて、各部材に吸着した水分を除去した。その後、アルゴン雰囲気下でラミネートパック内に非水電解液を注入し、封止して評価用電池Bを作製した。
【0108】
低SOCでのDC-IR測定
エージング後の評価用電池Bを25℃の環境下に置き、直流内部抵抗(DC-IR)の測定を行った。満充電電圧4.2VにおけるSOC20%まで定電流充電を行った後、SOC20%における開放電位を測定した。その後、0.12Aの電流によるパルス放電を30秒間行い、10秒後の電圧Vを測定した。開放電位と10秒後の電圧Vとの差により直流内部抵抗を算出した。SOC20%における比較例3の抵抗値を1.00とした際の各実施例および各比較例の相対抵抗の結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1から、実施例1から3は、比較例2および3と比較して低SOCでの出力が改善しており、比較例1と比較した際、低SOCでの出力を改善しながら、より高い充放電容量を維持していたことが確認された。