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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124105
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032046
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
【テーマコード(参考)】
4H050
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AB92
4H050WB11
4H050WB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近赤外領域において、更なる長波長域に発光特性を有する新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。

[Aは置換/非置換の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環;Lは2座配位子;m、nは1~3、m+n=3;RはH、置換/非置換のアルキル基、ハロゲン原子、置換/非置換のアルキルカルボニル基、置換/非置換のアリールカルボニル基、置換/非置換のアルコキシル基、置換/非置換のアルケニル基等;RはH、シアノ基、置換/非置換のエステル基、置換/非置換のアルキル基、置換/非置換のアルキルカルボニル基、置換/非置換のアリールカルボニル基、置換/非置換のアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)において、
Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
Lは1価の2座配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~3の整数を表し、m+n=3である。
は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、シアノ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。
は水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよいエステル基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有してもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。RとRは互いに連結して環を形成してもよい。]
【請求項2】
前記Lが下記式(2)で表されるものである、請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【請求項3】
前記式(2)が、下記式(3)又は下記式(4)で表される、請求項2に記載の化合物。
【化3】
[式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【化4】
[式(4)において、Rは重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
、Rがそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項4】
前記Aが、置換基としてアルキル基、ハロアルキル基、又はフッ素原子を有する請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
前記Aが、置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物に関する。
本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有するものであり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近赤外域の発光は、外光は人間の目では捉えることのできない光ではあるが、マシンビジョンと組み合わせることにより視覚化することが可能であり、偽造防止用インクや表示用マーカーとしての利用が期待されている。また、近赤外光は、皮膚への透過性が高いことから、バイオセンサーやバイオイメージング用マーカーなど医療用分野への適用や美容や健康増進、治療、植物生育のための光源としても期待されている。
【0003】
現在、近赤外光源としては無機のLEDが主に用いられているが、より広範な範囲で様々な形態に適用できる有機EL光源が期待されている。
【0004】
従来、近赤外域で発光する様々なOLED用発光色素の開発がなされているが、波長790nm以上で高効率に発光を有する発光色素の例は少ない。
特許文献1には、チアジアゾピリジン系配位子を有する有機イリジウム錯体が示されているが、発光色素としての実用化には、発光波長の更なる長波長化が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0218240号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、近赤外領域において、更なる長波長域に発光特性を有する新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、オキサジアゾピリジン骨格を含む配位子を有するイリジウム錯体により、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)において、
Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
Lは1価の2座配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~3の整数を表し、m+n=3である。
は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、シアノ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。
は水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよいエステル基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有してもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。RとRは互いに連結して環を形成してもよい。]
【0011】
[2] 前記Lが下記式(2)で表されるものである、[1]に記載の化合物。
【0012】
【化2】
【0013】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0014】
[3] 前記式(2)が、下記式(3)又は下記式(4)で表される、[2]に記載の化合物。
【0015】
【化3】
【0016】
[式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0017】
【化4】
【0018】
[式(4)において、Rは重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
、Rがそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0019】
[4] 前記Aが、置換基としてアルキル基、ハロアルキル基、又はフッ素原子を有する[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【0020】
[5] 前記Aが、置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環である、[1]~[4]のいずれかに記載の化合物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の構造を有することにより、近赤外領域の中でも更に長波長領域に発光特性を有する新規化合物が提供される。
本発明の化合物は、近赤外光を利用した選別・認識手段に有用であり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1で得られた化合物Iの発光スペクトルを表すチャートである。
図2】比較例1で得られた比較化合物iの発光スペクトルを表すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「アリール基」とは「芳香族炭化水素基」と「芳香族複素環基」の総称である。
【0024】
本発明の化合物は、下記式(1)で表される新規化合物である。
【0025】
【化5】
【0026】
[式(1)において、
Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
Lは1価の2座配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~3の整数を表し、m+n=3である。
は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、シアノ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。
は水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよいエステル基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有してもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。RとRは互いに連結して環を形成してもよい。]
【0027】
上記式(1)で表される本発明の化合物が本発明の効果を奏する理由は定かではないが、以下が考えられる。
即ち、本発明の化合物は、配位子としてオキサジアゾピリジン骨格を含むことで、ピリジン環のアクセプター性が大きく向上し、配位子のバンドギャップが狭くなることで、発光波長が長波長化すると考えられる。
【0028】
[A]
式(1)において、環Aはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。これらの環は単一又は複数の置換基を有していてもよい。
芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。
芳香族複素環としては、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、チオフェン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、チアゾール環、チアジアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環等が挙げられる。
これらの中でも、環Aは電子供与性の環が好ましく、なかでもベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環が好ましく、発光効率の観点から、ベンゼン環又はナフタレン環がより好ましい。
これらの環であることで、配位子としてのバンドギャップが小さくなり、近赤外発光が得られる傾向にある。
【0029】
環Aが有してもよい置換基は、それぞれ独立して、重水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基等が挙げられる。これらの中でも重水素原子、置換基としてハロゲン原子、置換基としてハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、置換基としてハロゲン原子を有していてもよいアルコキシル基、置換基としてアルキル基、アリール基を有していてもよいアミノ基が、高純度化のために好ましく、CH結合の振動伸縮による効率低下の抑制の観点から、アルキル基、ハロアルキル基、フッ素原子が好ましい。なお、ここで、アルキル基の炭素数は1~18であることが好ましく、ハロアルキル基としては、炭素数1~12のパーフルオロアルキル基が好ましいものとして挙げられる。
【0030】
環Aが有する置換基の数及び位置は特に限定されないが、Irとの結合位置から離れた位置に置換する方が、式(1)で表される化合物の安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0031】
[R、R
は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、シアノ基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。
のアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、該アルキル基は直鎖でも分岐でもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子である。
アルキルカルボニル基としては、炭素数2~12のアルキルカルボニル基が挙げられ、該アルキルカルボニル基は直鎖でも分岐でも良い。
アリールカルボニル基のうち、芳香族炭化水素カルボニル基としては、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、フェナンチルカルボニル基、ピレニルカルボニル基等が挙げられ、好ましくはフェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基である。芳香族複素環カルボニル基としては、チオフェニルカルボニル基、ベンゾチオフェニルカルボニル基、ベンゾフラニルカルボニル基、ジベンゾフラニルカルボニル基、カルバゾリルカルボニル基、ジベンゾチオフェニルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等が挙げられ、好ましくはチオフェニルカルボニル基、ベンゾチオフェニルカルボニル基、ベンゾフラニルカルボニル基、ジベンゾフラニルカルボニル基、カルバゾリルカルボニル基、ジベンゾチオフェニルカルボニル基である。
アルコキシル基としては、炭素数1~12のアルコキシル基が挙げられ、好ましくは炭素数1~6のアルコキシル基であり、該アルコキシル基は直鎖でも分岐でもよい。
アルケニル基としては、炭素数2~12のアルケニル基が挙げられ、好ましくは炭素数2~6のアルケニル基であり、該アルケニル基は直鎖でも分岐でもよい。
アルキニル基としては、炭素数2~12のアルキニル基が挙げられ、好ましくは炭素数2~6のアルキニル基であり、該アルキニル基は直鎖でも分岐でもよい。
アリール基のうち、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基、ピレニル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基、ナフチル基である。芳香族複素環基としては、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチオフェニル基、ピリジル基等が挙げられ、好ましくはチオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチオフェニル基である。
【0032】
のアルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基が置換基を有する場合、該置換基としては、環Aが有していてもよい置換基として前述したものが挙げられ、好ましい置換基も同様であるが、Rが置換基を有していてもよいアリール基又はアリールカルボニル基である場合、該置換基はフェニル基等の芳香族炭化水素基や、カルバゾリル基等の芳香族複素環基、ジフェニルアミノ基等の置換基を有していてもよいアミノ基であってもよい。
【0033】
は水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよいエステル基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、置換基を有してもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。
のエステル基としては、-C(=O)OR’(ただし、R’は炭素数1~12のアルキル基である。)が挙げられる。
のアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、該アルキル基は直鎖でも分岐でもよい。
アルキルカルボニル基としては、炭素数2~12のアルキルカルボニル基が挙げられ、該アルキルカルボニル基は直鎖でも分岐でも良い。
アリールカルボニル基のうち、芳香族炭化水素カルボニル基としては、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、フェナンチルカルボニル基、ピレニルカルボニル基等が挙げられ、好ましくはフェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基である。芳香族複素環カルボニル基としては、チオフェニルカルボニル基、ベンゾチオフェニルカルボニル基、ベンゾフラニルカルボニル基、ジベンゾフラニルカルボニル基、カルバゾリルカルボニル基、ジベンゾチオフェニルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等が挙げられ、好ましくはチオフェニルカルボニル基、ベンゾチオフェニルカルボニル基、ベンゾフラニルカルボニル基、ジベンゾフラニルカルボニル基、カルバゾリルカルボニル基、ジベンゾチオフェニルカルボニル基である。
アルケニル基としては、炭素数2~12のアルケニル基が挙げられ、好ましくは炭素数2~6のアルケニル基であり、該アルケニル基は直鎖でも分岐でもよい。
アリール基のうち、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基、ナフチル基である。芳香族複素環基としては、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチオフェニル基、ピリジル基等が挙げられ、好ましくはチオフェニル基、ピリジル基である。
のエステル基、アルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルケニル基、アリール基が置換基を有する場合、該置換基としては、環Aが有していてもよい置換基として前述したものが挙げられ、好ましい置換基も同様であるが、Rが置換基を有していてもよいアリール基又はアリールカルボニル基である場合、該置換基はフェニル基等の芳香族炭化水素基や、カルバゾリル基等の芳香族複素環基、ジフェニルアミノ基等の置換基を有していてもよいアミノ基であってもよい。
【0034】
とRは互いに連結して環を形成してもよい。RとRにより形成される環としては、式(1)におけるピリジン環に縮合するベンゼン環、ナフタレン環、チオフェン環、ピリジン環等が挙げられる。
【0035】
上記例示基のうち、Rとしては、溶解性の観点から、置換基として炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、シアノ基、アセチル基、エステル基等を有していてもよい、フェニル基又はナフチル基、フェナントリル基;置換基としてフェニル基やアルキル基を有していてもよい前述の芳香族複素環基が好ましいものとして挙げられる。
また、Rとしては、立体障害の抑制の観点から、水素原子が好ましい。
【0036】
また、長波長化の観点から、RとRが連結して形成されるベンゼン環も好ましい。
【0037】
[L]
Lは1価の2座配位子を表し、本発明の特性を損なわない限り特に制限は無い。同一分子内にLが複数ある場合、複数のLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
Lとしては、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0039】
【化6】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0040】
式(2)において、C原子、N原子及びO原子は環又は基の一部であり、X及びYをそれぞれ含む環又は基が、結合しているものである。C原子、N原子及びO原子を含む環又は基は特に限定されないが、安定性の観点からIr、X及びYを含む環が5員環又は6員環となることが好ましい。このようなものとして、具体的には、下記の構造が挙げられる。
【0041】
【化7】
【0042】
式(1)におけるIrとLとの結合様式には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Lの窒素原子及び炭素原子で結合する様式、Lの2つの窒素原子で結合する様式、Lの2つの炭素原子で結合する様式、Lの炭素原子及び酸素原子で結合する様式、Lの2つの酸素原子で結合する様式、Lの窒素原子及び酸素原子で結合する様式などが挙げられる。
【0043】
Lの好ましい構造を以下の式(2A)~(2F)に例示するが、この限りではない。これらはその構造を保ち得る限りにおいて、骨格の炭素原子が窒素原子など他の原子に置き換わっていてもよいし、さらに置換基を有していてもよい。
【0044】
Lが置換基を有する場合、その置換基としては、-F、-CN、-CF等の炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状ハロアルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族炭化水素基また炭素数2以上60以下の芳香族複素環基等が挙げられる。
ここで、アリールオキシ基、アリールチオ基のアリール基には、芳香族炭化水素基と芳香族複素環基が含まれる。
また、Lが有する置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して環を形成してもよい。
Lが有していてもよい置換基としては、-F、-CN、-CF、アルキル基、アラルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が特に好ましく、-F、-CN、-CF、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が最も好ましい。
【0045】
【化8】
【0046】
上記Lの例示式の中でも、式(2A)又は式(2F)が、式(1)で表される化合物の安定性が向上することから好ましい。
即ち、Lは下記式(3)又は下記式(4)で表される配位子であることが好ましい。
【0047】
【化9】
【0048】
[式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0049】
【化10】
【0050】
[式(4)において、Rは重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
、Rがそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0051】
上記式(3)におけるR、R、Rのアルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基である。また、置換基を有するアルキル基としては、ハロアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~8のパーフルオロアルキル基である。また、アリール基は、好ましくはフェニル基、チエニル基、ピリジル基である。
は水素原子であることが好ましく、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基であることが好ましい。
【0052】
上記式(4)におけるR、Rのより具体的な例は、Lが有していてもよい置換基として例示したものが挙げられ、好ましいものも同じである。
式(4)における置換基数であるp,qは、溶解性の観点から1~4であることが好ましく、昇華性向上の観点から0であることが好ましい。
【0053】
[m及びn]
式(1)におけるm及びnはそれぞれ独立に、1~3の整数を表し、n+m=3である。
【0054】
[式(1)で表される化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば以下スキームが挙げられる。
【0055】
配位子の合成は、EP0406762A2、特許第6709734号公報、特開2008-184592号公報、
特開2011-231245号公報に記載の合成フローで以下の通り合成することが出来る。
【0056】
【化11】
【0057】
錯体合成は、Inorg.Chem.1991,30,1685-1687やJ.AM.CHEM.SOC.2003,125,7377-7387に記載の合成フローで以下の通り合成することが出来る。
【0058】
【化12】
【0059】
[式(1)で表される化合物の物性]
式(1)で表される本発明の化合物の発光極大波長は、好ましくは780nm以上、より好ましくは800nm以上である。発光極大波長が800nm以上であることで、近赤外光を利用した選別・識別手段に有効に利用することが可能となる。
【0060】
[式(1)で表される化合物の具体例]
以下に、式(1)で表される本発明の化合物の具体例を示すが、本発明の化合物はこれに限定されるものではない。以下において、「Et」はエチル基を示す。
【0061】
【化13】
【0062】
【化14】
【0063】
【化15】
【0064】
【化16】
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
【0067】
【化19】
【0068】
【化20】
【0069】
【化21】
【0070】
[部材]
式(1)で表される本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有し、近赤外光を利用した選別・認識手段に有用である。例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等に好適に用いることができる。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0072】
[合成例1:配位子の合成]
【化22】
【0073】
窒素気流下、2L容四頸反応器に室温にて、アセトフェノン(25.00g,208.1mmol)、酢酸(67.5mL,2.7v/w)を仕込み、亜硝酸ナトリウム(144mg,1mol%)を加えた。内温10℃に冷却後、硝酸(60%,67.1mL,4.3eq.)+酢酸(67mL)混合液を30分間掛けて滴下した。2時間掛けて内温75℃まで昇温した後、同温にて5時間撹拌した。
室温で一夜静置後、氷水(1L)を内温20℃以内で添加して冷却した後、ジクロロメタン(1.5L×3回)抽出した。ジクロロメタン層を合わせ、精製水(1L)、飽和重曹水(1L×2回)、飽和食塩水(500mL)で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウム乾燥、濾過し、濾液を濃縮し、黒褐色粘体粗体(25.4g)を得た。
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63~210μm,250gをジクロロメタン/ヘキサン=1/1で充填し、同溶出)にて分離精製し、化合物1h(19.24g,収率62.8%,LC純度84.9%,褐色固体)を得た。
【0074】
【化23】
【0075】
窒素気流下、3L容四頸反応器に室温にて、化合物1h(19.2g,65.2mmol)、アセトニトリル(442mL,23v/w)を仕込み、酢酸(9.80g,2.5eq.)、無水酢酸(28.0g,4.2eq.)を順次添加した。氷水浴にて内温20℃に冷却し、亜鉛粉末(15.8g,3.7eq.)を内温20~30℃にて1時間10分間掛けて分割投入し、更には内温24~31℃にて3時間30分間撹拌した。
セライトで不溶物を吸引濾別し、アセトニトリル(600mL)でリンスした。濾液を減圧濃縮し、橙色油状粗体(48.0g)を得た。
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63~210μm,480gをジクロロメタン/ヘキサン=1/3で充填し、同~1/1で溶出)にて分離精製し、化合物2h(6.24g,収率34.4%,LC純度95.6%,黄色固体)を得た。
【0076】
【化24】
【0077】
アルゴン雰囲気下、500mL容三頸反応器に、化合物2h(6.24g,22.4mmol)、1-ブタノール(119mL,19v/w)、グリシンエチル塩酸塩(15.7g,5.0eq.)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換を繰り返して脱気した。反応液を還流撹拌(計25時間)した後、室温へ戻した。
殆どの溶媒を減圧留去した後、精製水(60mL)を注ぎ、ジクロロメタン(100mL×3回)抽出した。ジクロロメタン層を合わせ、1M塩酸(100mL)、飽和重曹水(100mL)、飽和食塩水(60mL)で洗浄後、無水芒硝乾燥、濾過し、濾液を濃縮し、暗橙色粘体粗体(8.95g)を得た。
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63~210μm,160gをジクロロメタン/ヘキサン=1/2で充填し、同~1/1で溶出)にて分離精製し、化合物3h(4.65g,収率60.0%,LC純度61.9%,橙色固体,Butyl esterとの混合物)を得た。
【0078】
【化25】
【0079】
アルゴン雰囲気下、500mL容三頸反応器に、化合物3h(4.65g,13.5mmol)、エタノール(233mL,50v/w)、精製水(47mL)、水酸化カリウム(85%,1.33g,1.5eq.)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換を繰り返して脱気した。反応液を5時間30分間還流撹拌した後、室温へ戻した。
殆どの溶媒を減圧留去した後、1M塩酸と飽和重曹水を添加してpH4にした。ジクロロメタン(100mL×3回)抽出した後、無水芒硝乾燥、濾過、濾液を濃縮し、褐色粘体粗体(5.1g)を得た。
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63~210μm,20gをジクロロメタン/メタノール=5/1で充填し、同溶出)にて分離精製し、化合物4h(3.04g,収率71.2%,LC純度99.3%,褐色固体)を得た。
【0080】
【化26】
【0081】
アルゴン雰囲気下、100mL容ナスフラスコに、化合物4h(2.00g,6.30mmol)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換を繰り返して脱気した。油浴240℃にて1時間15分間加熱撹拌した後、室温へ冷却した。
得られた反応粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63~210μm,60gをジクロロメタン/ヘキサン=1/4で充填し、同~1/2で溶出)にて分離精製し、目的のオキサジアゾロピリジン誘導体(配位子1)(1.56g,収率90.1%,LC純度99.0%,黄土色固体)を得た。
【0082】
[実施例1:化合物Iの合成]
【化27】
【0083】
<中間体Iの合成>
【化28】
【0084】
20mL二口フラスコに204.6mgの[Ir(cod)Cl](クロロ-1,5-シクロオクタジエンイリジウム)(I)二量体)(0.305mmol,1eq.)と0.325mgのオキサジアゾロピリジン誘導体(配位子1)(1.19mmol,4eq.)を加え、窒素置換を3回行った。ここへ6mLのo-ジクロロベンゼンを加え、120℃で撹拌を開始した。
三日に分けて(夜間加熱停止)合計25時間加熱を行った後、冷却し反応液をエタノールで懸濁させて吸引濾過した。残渣をエタノール洗浄、真空乾燥して354.5mgの中間体I(黒色粉末、0.230mmol、収率75.4%)を得た。
【0085】
<化合物Iの合成>
【化29】
【0086】
30mLシュレンクフラスコに350.3mgの中間体I(0.227mmol,1eq.)と217.6mgの炭酸カリウム(1.57mmol,6.9eq.)及び4.6mLの2-エトキシエタノールを加え、窒素置換を3回行った。ここへ0.208mgのジピバロイルメタン(1.13mmol,5.0eq.)を加え、115℃で6時間撹拌した。
反応液を冷却し、水:エタノール=1:1に懸濁させて吸引濾過し、得られた残渣を水洗した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)で精製し、ヘキサンとエタノールの順に懸洗濾取して19.0mgの化合物I(黒色粉末、0.021mmol、収率4.6%)を得た。
【0087】
[比較例1:比較化合物iの合成]
【化30】
【0088】
<中間体iの合成>
【化31】
【0089】
100mL二口フラスコに2.00gの[Ir(cod)Cl](2.98mmol,1eq.)と3.45gのチアジアゾロピリジン誘導体(11.92mmol,4eq.)を加え、窒素置換を3回行った。ここへ60mLのo-ジクロロベンゼンを加え、120℃で撹拌を開始した。
三日に分けて(夜間加熱停止)合計23時間加熱を行った後、冷却し反応液を吸引濾過した。残渣をエタノール洗浄、真空乾燥して3.88gの中間体i(黒色粉末、2.41mmol、収率80.9%)を得た。
【0090】
<比較化合物iの合成>
【化32】
【0091】
30mLシュレンク管に塩化イリジウム二核錯体(581mg,0.361mmol)と炭酸カリウム(326mg,2.36mmol)及び、7.2mLの2-エトキシエタノールを加え、3回窒素置換した。
窒素雰囲気下にてアセチルアセトン(181mg,1.81mmol)を加え、120℃で6時間撹拌した。反応液を氷冷し、吸引濾過し、濾取物を水とエタノールで洗浄後風乾し、残渣をジクロロメタンで固液抽出した。得られた濾液から溶媒を除去した。
これをカラム精製(シリカゲル、ジクロロメタン:ヘキサン=65:35→75:25)で精製し、比較化合物i(黒色粉末、18.6mg、収率3.0%)を得た。
この比較化合物iは、特許文献1に記載の化合物である。
【0092】
[発光スペクトルの測定]
得られた化合物I及び比較化合物iの吸収スペクトルと発光スペクトルを測定した。なお、発光スペクトルは、日本分光株式会社の紫外可視近赤外分光光度計V-7200を用い、10-6mol/Lの脱気したトルエン溶液を調液して室温にて測定した。
測定結果を図1,2に示す。
【0093】
[発光極大波長の測定]
上記発光スペクトルの測定結果(図1,2)から、化合物I及び比較化合物iの発光極大波長(トルエン)を求めた。
結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1より、本発明の化合物の発光極大波長は、特許文献1に記載の化合物よりの長波長であり、近赤外発光を利用した選別・認識手段への応用に有利であることが分かる。
図1
図2