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特開2024-124262凝集誘起増強型ラマンプローブ又は蛍光プローブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124262
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】凝集誘起増強型ラマンプローブ又は蛍光プローブ
(51)【国際特許分類】
   C07C 255/37 20060101AFI20240905BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20240905BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20240905BHJP
   C07K 2/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C07C255/37 CSP
C07K1/13
G01N21/65
C07K2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032292
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰照
(72)【発明者】
【氏名】沖中 桃子
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 礼任
(72)【発明者】
【氏名】小関 泰之
(72)【発明者】
【氏名】スプラット スペンサー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】河谷 稔
【テーマコード(参考)】
2G043
4H006
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043EA03
2G043FA02
2G043FA06
2G043KA01
2G043KA02
2G043LA03
4H006AA01
4H006AB80
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA50
4H045EA50
4H045FA10
(57)【要約】
【解決課題】
酵素反応生成物の局所濃度を積極的に高めることで、新たな酵素活性検出ラマンプローブを提供すること。
【解決手段】
以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
(式中、
Rは、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし4の同一又は異なる一価の置換基を示し:
は、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし4の同一又は異なる一価の置換基を示し:
及びRは、それぞれ独立に、-C≡N、-C≡15N、-13C≡N、又は-13C≡15Nから選択され;
Yは、-NR-L1、-N=N-C(=O)-L2、-NR-C(=O)-O-L’又は-O-L’であり、
ここで、L1は、アミノ酸の部分構造であり、
L2は、アミノ酸残基又はC末端アミノ酸残基を有するペプチドであり、
L’は、糖類又は糖類の部分構造であり、
は、水素原子又は炭素数1~6個のアルキル基である。)
【請求項2】
Rの少なくとも1つは、アミノ基又はアルコキシ基であるか、あるいは、Rの少なくとも1つは一価の置換基である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
以下の一般式(II)で表される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
(式中、R、R、R及びYは、一般式(I)で定義した通りであり、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~6個のアルキル基である。)
【請求項4】
L1のアミノ酸の部分構造は、アミノ酸、アミノ酸残基、ペプチド、アミノ酸又はペプチドの一部を構成している構造である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
L2のアミノ酸残基は以下の式で表される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
(式中、R’は、アミノ酸の側鎖を表す。)
【請求項6】
L’の糖類の部分構造は、それが結合しているOと一緒になって、糖類又は糖類の一部を構成している構造である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
Yが以下のいずれかで表される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
以下のいずれかの構造を有する化合物又はその塩。
【請求項9】
一般式(I)の化合物又はその塩を含むラマンプローブ。
【請求項10】
epr-SRS法に利用可能な請求項9に記載のラマンプローブ。
【請求項11】
細胞又は組織内の標的酵素を検出する方法であって、(a)一般式(I)で表される化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該化合物又はその塩が細胞又は組織内で標的酵素と反応することにより増強されるラマン散乱光を測定する工程を含む方法。
【請求項12】
epr-SRS法を用いてラマン散乱光を測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
一般式(I)の化合物又はその塩を含む蛍光プローブ。
【請求項14】
細胞又は組織内の標的酵素を検出する方法であって、(a)一般式(I)で表される化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該化合物又はその塩が細胞又は組織内で標的酵素と反応することにより、発せられる又は増強される蛍光を測定する工程を含む方法。
【請求項15】
以下のいずれかの構造を有する化合物又はその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の凝集誘起増強型ラマン又は蛍光プローブに関わる。
【背景技術】
【0002】
ペプチダーゼ(プロテアーゼ)はタンパク質やペプチドを加水分解する酵素であり、様々な生理機能にかかわるだけでなく、がんを始めとした疾患のバイオマーカーとしても注目を集めている。
したがって、特定のペプチダーゼ活性を可視化する技術は有用なバイオマーカーの探索や診断薬・治療薬開発に有用な基盤技術となりうる。実際に、本発明者らの研究グループではペプチダーゼ活性を高感度に蛍光検出可能なactivatable型蛍光プローブを開発することで、がん患者手術切除検体におけるがん部位を迅速に蛍光検出することに成功している(非特許文献1)
【0003】
一方、蛍光はスペクトル幅が広いため、多色イメージングによって同時観察可能な酵素活性の種類は2~3種類に限られており、一つの検体をイメージングして得られる酵素活性の情報も制限されるという課題があった。この課題に対して、近年、本発明者らの研究グループでは、ラマンイメージングを用いて酵素活性を多重検出可能なactivatable型ラマンプローブを新たに開発し、酵素活性を多重イメージングする基盤技術を確立した(非特許文献2、図1参照)。
開発したラマンプローブは、酵素による反応前後で分子内のニトリルに由来するラマン信号強度が大きく増大するだけでなく、酵素反応生成物が細胞内リソソームに局在することで局所濃度が高くなり、さらなるラマン信号強度の増強が得られるという特性を有していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ito, R., Kamiya, M. & Urano, Y. Molecular probes for fluorescence image-guided cancer surgery. Curr Opin Chem Biol 67, 102112 (2022).
【非特許文献2】Fujioka, H. et al. Multicolor Activatable Raman Probes for Simultaneous Detection of Plural Enzyme Activities. J Am Chem Soc 142, 20701-20707 (2020).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酵素反応生成物の局所濃度を積極的に高めることで、新たな酵素活性検出ラマンプローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明者らは、溶液状態では発光せず、固体・凝集状態で発光する現象である凝集誘起発光(AIE)に着目し、AIE特性を示すことが報告されているBzBMNを母核として選定し、この母核にラマンタグとなる基を導入するとともに、酵素との反応部位を組み込むためのアミノ基又は水酸基を導入したプローブ骨格構造を設計した。そして、この骨格構造に酵素基質となる部位を導入することにより、酵素との反応前は水溶液中で分散しているためラマン信号強度が低いが、酵素と反応することで凝集体を形成し、ラマン信号強度が向上するような新規な酵素活性検出プローブを得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の構成を有するものである。
[1] 以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
(式中、
Rは、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし4の同一又は異なる一価の置換基を示し:
は、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし4の同一又は異なる一価の置換基を示し:
及びRは、それぞれ独立に、-C≡N、-C≡15N、-13C≡N、又は-13C≡15Nから選択され;
Yは、-NR-L1、-N=N-C(=O)-L2、-NR-C(=O)-O-L’又は-O-L’であり、
ここで、L1は、アミノ酸の部分構造であり、
L2は、アミノ酸残基又はC末端アミノ酸残基を有するペプチドであり、
L’は、糖類又は糖類の部分構造であり、
は、水素原子又は炭素数1~6個のアルキル基である。)
[2]Rの少なくとも1つは、アミノ基又はアルコキシ基であるか、あるいは、Rの少なくとも1つは一価の置換基である、[1]に記載の化合物又はその塩。
[3]以下の一般式(II)で表される、[1]に記載の化合物又はその塩。
(式中、R、R、R及びYは、一般式(I)で定義した通りであり、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~6個のアルキル基である。)
[4]L1のアミノ酸の部分構造は、アミノ酸、アミノ酸残基、ペプチド、アミノ酸又はペプチドの一部を構成している構造である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[5]L2のアミノ酸残基は以下の式で表される、[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
(式中、R’は、アミノ酸の側鎖を表す。)
[6]L’の糖類の部分構造は、それが結合しているOと一緒になって、糖類又は糖類の一部を構成している構造である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[7]Yが以下のいずれかで表される、[1]~[6]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[8]以下のいずれかの構造を有する化合物又はその塩。
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含むラマンプローブ。
[10]epr-SRS法に利用可能な[9]に記載のラマンプローブ。
[11]細胞又は組織内の標的酵素を検出する方法であって、(a)[1]~[8]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該化合物又はその塩が細胞又は組織内で標的酵素と反応することにより増強されるラマン散乱光を測定する工程を含む方法。
[12]epr-SRS法を用いてラマン散乱光を測定する、[11]に記載の方法。
[13][1]~[8]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含む蛍光プローブ。
[14]細胞又は組織内の標的酵素を検出する方法であって、(a)[1]~[8]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該化合物又はその塩が細胞又は組織内で標的酵素と反応することにより、発せられる又は増強される蛍光を測定する工程を含む方法。
[15]以下のいずれかの構造を有する化合物又はその塩。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、酵素との反応前は水溶液中で分散しているためラマン信号強度が低いが、酵素と反応することで凝集体を形成し、ラマン信号強度が向上するような新規な酵素活性検出プローブを提供することが可能である。
また、本発明の酵素活性検出プローブは、酵素と反応後は、BzBMN-NH等が水溶液中で蛍光を発することから、蛍光プローブとしても使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ラマン顕微鏡による生体観察の模式図を示す。
図2】本発明の化合物の分子設計に基づく酵素活性検出プローブの非限定的例の概念図を示す。
図3】カルボキシペプチダーゼを標的酵素とする場合の本発明の化合物の非限定的例の分子設計の概念図を示す。
図4】BzBMN-NHとgGlu-BzBMNの吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。
図5】γ-グルタミルトランスペプチダーゼを添加した際のgGlu-BzBMNの吸収スペクトル変化を示す。
図6】gGlu-BzBMNのSRS画像を示す。
図7】EP-BzBMNの特性評価の結果を示す。
図8】gGlu-BzBMN及びEP-BzBMNをA549細胞(GGT高活性、DPP4低活性)とH226細胞(GGT低活性、DPP4高活性)にアプライし、SRSイメージングで観察した結果を示す。
図9】[1215N]gGlu-BzBMNと、[1214N]EP-BzBMNを用いた多重検出の検討結果を示す。
図10】BzBMN-AF-Lys及びCPMとの反応に伴う想定生成物のBzBMNの水溶液中での吸収・蛍光スペクトルを示す。
図11】BzBMN-AF-LysをカルボキシペプチダーゼM(CPM)と反応させた蛍光スペクトルの変化を図11に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において、「アルキル」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個(C1~6)、炭素数1~10個(C1~10)、炭素数1~15個(C1~15)、炭素数1~20個(C1~20)である。炭素数を指定した場合は、その数の範囲の炭素数を有する「アルキル」を意味する。例えば、C1~8アルキルには、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル等が含まれる。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルコシ基、アリールアルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0011】
本明細書において「ハロゲン原子」という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよく、好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。
【0012】
本明細書において、ある官能基について「置換されていてもよい」と定義されている場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらの置換基にはさらに置換基が存在していてもよい。このような例として、例えば、ハロゲン化アルキル基、ジアルキルアミノ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0013】
本明細書中において、「アルコキシ基」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した構造であり、例えば直鎖状、分枝状、環状又はそれらの組み合わせである飽和アルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、シクロプロピルメトキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロプロピルエチルオキシ基、シクロブチルメチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロプロピルプロピルオキシ基、シクロブチルエチルオキシ基又はシクロペンチルメチルオキシ基等が好適な例として挙げられる。
【0014】
1.一般式(I)で表される化合物又はその塩
本発明の1つの実施態様は、以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩である(以下「本発明の化合物」とも言う)。
【0015】
【0016】
即ち、本発明の化合物は、凝集誘起発光(AIE)特性を示すBzBMNを母核として有し、この母核にラマンタグとなる基を導入するとともに、アミノ基又は水酸基を介して酵素基質となる部位を導入した構造を有するものである。本発明の化合物の分子設計に基づく酵素活性検出プローブの非限定的例の概念図を図2に示す。
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明の化合物は、このような構造を有することにより、酵素との反応前は、水溶性の酵素基質を有することから、水溶液中で分散しているためラマン信号強度が低いが、酵素と反応することで、水溶性が低下し凝集体を形成し、ラマン信号強度が向上する。
本発明の化合物は、従来のプローブと比較して構造展開が容易であり、ラマン信号のさらなる多色化や、従来は検出することができなかったカルボキシペプチダーゼなど、幅広い種類の加水分解酵素検出が可能になる。さらに凝集によって強いラマン信号を発するため、分散状態の色素を観察する従来のラマンプローブよりも検出が容易になることが期待される。
【0017】
一般式(I)において、Rは、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし4の同一又は異なる一価の置換基を示す。
Rが示す一価の置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選ばれることが好ましい。
これらの一価の置換基は更に任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。例えば、Rが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、又はアミノアルキル基などであってもよい。また、例えばRが示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、Rが示すアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。更に、Rが示すアルコキシ基が置換基を有する場合としては、例えば、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基などが挙げられ、より具体的には4-カルボキシブトキシ基又は4-アセトキシメチルオキシカルボニルブトキシ基などを挙げることができる。
【0018】
本発明の1つの好ましい側面においては、Rは何れも水素原子である。
【0019】
本発明のもう1つの好ましい側面においては、Rの少なくとも1つは、アミノ基又はアルコキシ基である。
【0020】
また、本発明のもう1つの好ましい側面においては、Rの少なくとも1つは一価の置換基である。この場合の一価の置換基は、上記した一価の置換基のうちのアミノ基、アルコキシ基以外の置換基である。
【0021】
一般式(I)において、Rは、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし4の同一又は異なる一価の置換基を示す。
【0022】
が示す一価の置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選ばれることが好ましい。
これらの一価の置換基は更に任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。例えば、Rが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、又はアミノアルキル基などであってもよい。また、例えばRが示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、Rが示すアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。更に、Rが示すアルコキシ基が置換基を有する場合としては、例えば、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基などが挙げられ、より具体的には4-カルボキシブトキシ基又は4-アセトキシメチルオキシカルボニルブトキシ基などを挙げることができる。
【0023】
本発明の好ましい側面においては、Rは何れも水素原子である。
【0024】
一般式(I)において、Yは、標的酵素と反応する部位、酵素基質を含む部位である。Yは標的酵素の種類に応じて選択することができる。標的酵素がグリコシダーゼである場合は、Yは糖類に由来する基から選択され、標的酵素がペプチダーゼである場合は、Yはアミノ酸類に由来する基、アミノ酸類を含む基から選択される。
【0025】
一般式(I)において、Yは、-NR-L1、-N=N-C(=O)-L2、-NR-C(=O)-O-L’又は-O-L’である。
ここで、L1は、アミノ酸の部分構造であり、L2は、アミノ酸残基又はC末端アミノ酸残基を有するペプチドであり、L’は、糖類又は糖類の部分構造である。
また、Rは、水素原子又は炭素数1~6個のアルキル基である。
【0026】
標的酵素がアミノペプチダーゼである場合は、Yとして、-NR-L1が好適に選択される。
L1は、アミノ酸の部分構造である。L1のアミノ酸の部分構造は、アミノ酸、アミノ酸残基、ペプチド、アミノ酸の一部又はペプチドの一部を構成している、
また、「アミノ酸の一部」には、アミノ酸の側鎖が-NHと結合した場合の-NHを除いた部分の構造(例えば、グルタミン酸の側鎖側のカルボキシル基と-NHとの間にアミド結合を形成する場合のグルタミン酸残基部分等)も含まれる。
ペプチドの一部には、ペプチドを構成する一つのアミノ酸残基の側鎖が-NHと結合した場合の-NHを除いた部分の構造も含まれる。
【0027】
本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基の両方を有する化合物であれば任意の化合物を用いることができ、天然及び非天然のものを含む。中性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は酸性アミノ酸のいずれであってもよく、それ自体が神経伝達物質などの伝達物質として機能するアミノ酸のほか、生理活性ペプチド(ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドのほか、オリゴペプチドを含む)やタンパク質などのポリペプチド化合物の構成成分であるアミノ酸を用いることができ、例えばαアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸などであってもよい。アミノ酸としては、光学活性アミノ酸を用いることが好ましい。例えば、αアミノ酸についてはD-又はL-アミノ酸のいずれを用いてもよいが、生体において機能する光学活性アミノ酸を選択することが好ましい場合がある。
また、アミノ酸のN末端は、Nアセチル化されていてもよい。
また、アミノ酸のC末端はアミド化(例えば、エチルアミド等のアルキルアミド)あるいはエステル化されていてもよい。
【0028】
本明細書において、L1の「アミノ酸残基」とは、アミノ酸のカルボキシル基からヒドロキシル基を除去した残りの部分構造に対応する構造をいう。
アミノ酸残基には、αアミノ酸の残基、βアミノ酸の残基、γアミノ酸の残基が含まれる。
本明細書において、「ペプチド」には、ペプチドのC末端のアミノ酸のカルボキシル基からヒドロキシル基を除去した残りの部分構造に対応する構造も含まれる。
【0029】
標的ペプチダーゼが、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)、又はカルパインであることができる。それゆえ、標的ペプチダーゼがγ-グルタミルトランスペプチダーゼである場合、アミノ酸の部分構造としては、γ-グルタミル基(後述する式(1)から-NHを除いた部分の構造)であることが好ましい。また、標的ペプチダーゼがジペプチジルペプチダーゼ4である場合、アミノ酸の部分構造としては、プロリン残基を含むアシル基、プロリン残基を含むペプチドであることが好ましい。標的ペプチダーゼがカルパインである場合、アミノ酸の部分構造としては、例えば、システイン残基を含むアシル基であることができ、或いは、カルパイン基質として当該技術分野において公知のSuc-Leu-Leu-Val-Tyr(Suc-LLVY)やAcLMを用いることもできる。
好ましいアミノ酸の部分構造としては、GGT基質の「γ―グルタミル基」やDPP-4基質のジペプチド(アミノ酸―プロリンからなるジペプチド;ここで、アミノ酸は、例えば、グリシン、グルタミン酸、プロリン)、LAP基質のロイシン残基などが挙げられる。
【0030】
本発明の1つの好ましい態様においては、Yは以下のいずれかから選択される。
【0031】
式(1)~(3)において、*は、ベンゼン環と結合する箇所を表す。
【0032】
式(2)において、R1aは、天然アミノ酸(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、システイン、トレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、プロリン)の側鎖を構成する基、非天然アミノ酸(シトルリン、ノルバリンなど)の側鎖を構成する基、置換又は無置換のアルキル基からなる群から選択される。
【0033】
式(3)において、R2aは、天然アミノ酸(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、システイン、トレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、プロリン)の側鎖を構成する基、非天然アミノ酸(シトルリン、ノルバリンなど)の側鎖を構成する基、置換又は無置換のアルキル基からなる群から選択される。
は、アミノ基、Nアセチル化等されたアミノ基、1つまたは複数のアミノ酸がペプチド結合により連なった構造を表す。
【0034】
標的酵素がカルボキシペプチダーゼである場合は、Yとして、-N=N-C(=O)-L2が好適に選択される。
ここで、カルボキシペプチダーゼを標的酵素とする場合は、アゾホルミル基の部位(-N=N-C(=O)-)を有することが重要である。即ち、BzBMNの母核にアミノ基(-NH)を介して酵素基質を導入すると、カルボキシペプチダーゼはC末端アミノ酸のアミド結合を加水分解するため、反応後も分子内にカルボン酸が残留してしまい、大きな水溶性の変化を与えることが難しい。そこで、カルボキシペプチダーゼによる基質アミノ酸の加水分解に引き続き自発的脱炭酸・脱窒素反応を引き起こすアゾホルミル基を分子内に組み込むことで、カルボキシペプチダーゼとの反応により基質部位が脱離して、AIE色素であるBzBMNが放出される。カルボキシペプチダーゼを標的酵素とする場合の本発明の化合物の非限定的例の分子設計の概念図を図3に示す。
【0035】
ここで、L2は、アミノ酸残基又はC末端アミノ酸残基を有するペプチドである。
【0036】
本発明においては、標的酵素がカルボキシペプチダーゼである場合に、Yとして-N=N-C(=O)-L2が好適に用いられることから、L2のアミノ酸残基は、好ましくは、C末端アミノ酸残基、即ち、アミノ酸のアミノ基から水素原子を1つ除去した残りの部分構造に対応する構造である。
【0037】
L2のアミノ酸残基は、好ましくは、以下の式で表される。
式(1a)において、R’は、アミノ酸の側鎖を表す。
【0038】
L2のアミノ酸残基としては、任意のアミノ酸の残基から選択される。アミノ酸としては、例えば、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、スレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、アラニン、グリシン、トリプトファン、チロシン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、プロリン、オルニチン、N-メチルロイシン、2,3-ジアミノプロパン酸、2,4-ジアミノ酪酸、オルニチン、α-ヒドロキシロイシンなどが挙げられる。
本発明において、L2のアミノ酸残基は、好ましくは、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、グルタミン酸残基、グルタミン残基、アルギニン残基又はリジン残基である。
【0039】
また、L2のペプチドは、C末端アミノ酸残基を有するペプチドである。L2のペプチドとしては、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドのほか、オリゴペプチドを含む。
L2のペプチドは、C末端アミノ酸残基がフェニルアラニン残基、ロイシン残基、グルタミン酸残基、グルタミン残基、アルギニン残基又はリジン残基であることが好ましい。
【0040】
標的酵素がグリコシダーゼである場合は、Yとして、-NR-C(=O)-O-L’又は-O-L’が好適に用いられる。
【0041】
L’は、糖類又は糖類の部分構造である。
ここで、Lの糖類の部分構造は、糖類から1つの水酸基を除去した残りの部分構造に対応する構造をいう。糖類の部分構造は、L’が結合しているOと一緒になって、糖類、糖類の一部を構成している。
【0042】
糖類としては、β-D-グルコース、β-D-ガラクトース、β-L-ガラクトース、β-D-キシロース、α-D-マンノース、β-D-フコース、α-L-フコース、β-L-フコース、β-D-アラビノース、β-L-アラビノース、β-D-N-アセチルグルコサミン、β-D-N-アセチルガラクトサミン等が挙げられ、好ましくは、β-D-ガラクトースである。
【0043】
本発明の1つの好ましい側面においては、Yは以下のいずれかから選択される。
【0044】
本発明の化合物の1つの好ましい態様は、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩である。
【0045】
一般式(II)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6個のアルキル基を表す。
、Rがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR及び/又はRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
【0046】
本発明の化合物の1つの好ましい態様は、以下のいずれかの構造を有する化合物又はその塩である。
【0047】
一般式(I)及び(II)で表される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。一般式(I)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、本発明においては、これらの物質も用いることができる。
【0048】
一般式(I)及び(II)で表される化合物は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、本発明においては、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体なども用いることができる。
【0049】
一般式(I)及び(II)で表される化合物の代表的化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は、これらの説明をもとにして、反応原料、反応条件、及び反応試薬などを適宜選択して、必要に応じてこれらの方法に修飾や改変を加えることにより、一般式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0050】
2.本発明のラマンプローブ又は蛍光プローブ
本発明のもう1つの実施形態は、一般式(I)の化合物又はその塩を含むラマンプローブである(以下「本発明のラマンプローブ」ともいう)。
即ち、本発明の化合物は、酵素との反応前は水溶液中で分散しているためラマン信号強度が低いが、酵素と反応することで、水溶性が低下し凝集体を形成し、ラマン信号強度が向上するため、ラマンプローブとして好適に使用することができる。
【0051】
本発明のラマンプローブは、epr-SRS法に利用可能なラマンプローブである。epr-SRS法とは、前期共鳴 (electronic pre-resonance; epr)効果と誘導ラマン散乱 (stimulated Raman scattering; SRS) を組み合わせたラマンイメージング法である。
この方法では、分子の電子吸収帯よりやや長波長側の光によって励起する(前期共鳴条件)ため、光褪色や蛍光によるバックグラウンド上昇を抑えることができ、ストークス光による誘導放出によってさらに高感度なイメージングが実現できる。従来のSRS顕微鏡ではストークス光の波長変化に秒オーダーの時間がかかるため、スペクトル解析やスペクトルイメージングを行う際には測定時間が長くなってしまうのが課題の1つであったが、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の小関研究室で開発された高速SRS分光顕微鏡では1秒当たり30波数分変化させる高速イメージングが可能である(Ozeki, Y., Biological Imaging Based on Stimulated Raman Scattering. Seibutsu Butsuri, 2014. 54(6): p. 311-314)。当該高速SRS分光顕微鏡の模式図を図2に示す。
高速SRS分光顕微鏡を用いるラマンイメージング法は、上記のOzekiの論文を参照して行うことができる。また、高速SRS分光顕微鏡でイメージングを行うに際しては、信号対雑音比を高めるため、in vitroでの測定ではデータを5~10回程度、in celluloでの測定ではデータを100~1000回程度取得して、平均化を行うことが好ましい。
【0052】
この小関研の高速SRS分光顕微鏡の励起光は843nmであるため、当該epr-SRS法の装置を用いる場合は、前期共鳴がかかる波長域がおよそ650~750nmであるラマンプローブを用いるのが好ましい。
本発明のラマンプローブを用いる標的酵素の検出方法には、上記の高速SRS分光顕微鏡を好適に用いることができるが、当該高速SRS分光顕微鏡を用いた方法に限定されるものではない。
【0053】
即ち、本発明の1つの好ましい側面は、一般式(I)の化合物又はその塩を含むepr-SRS法に利用可能なラマンプローブである。
【0054】
本発明のラマンプローブの使用方法は特に限定されず、従来公知のラマンプローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに上記式(I)で表される化合物又はそれらの塩を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、ラマンスペクトルを測定すればよい。本発明のラマンプローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
【0055】
また、本発明のもう1つの態様は、細胞又は組織内の標的酵素を検出する方法であって、(a)一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むラマンプローブを細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該化合物又はその塩が細胞又は組織内で標的酵素と反応することにより増強されるラマン散乱光を測定する工程を含む方法、である(以下「本発明の検出方法」とも言う)。
ここで、細胞としては、正常細胞、癌細胞、神経細胞等が挙げられる。
【0056】
本発明の検出方法において、好ましくは、ラマン散乱光はepr-SRS法を用いて測定される。
【0057】
一般式(I)で表される化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入するには、一般式(I)で表される化合物又はその塩を細胞又は組織の試料に散布すること等により行うことができる。
【0058】
本発明の検出方法の対象となるがん細胞又はがん組織の種類として、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、乳がん、膀胱がん、脳腫瘍、食道がん、胃がん、胆管がん、肝がん、膵がん、頭頚部がん、腎がん、白血病、皮膚がん、甲状腺がんの細胞又は組織が挙げられる。
【0059】
本明細書において、「がん組織」の用語はがん細胞を含む任意の組織を意味している。「組織」の用語は臓器の一部又は全体を含めて最も広義に解釈しなければならず、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0060】
本発明の検出方法の1つの態様は、(a)2以上の一般式(I)で表される化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該2以上の化合物又はその塩が細胞又は組織内において、夫々、標的酵素と反応することにより増強されるラマン散乱光を測定する工程を含む、細胞又は組織内の2以上の標的酵素を検出する方法である。
【0061】
本発明の検出方法及び本発明のプローブによって、細胞に加えて、組織の状態で染色することができることから、本発明の検出方法及び本発明のプローブは、酵素活性パターンによるがんの診断方法にも用いることが可能である。
即ち、本発明のもう1つの実施態様は、(a)一般式(I)の化合物又はその塩を含むラマンプローブを被検体に投与する工程、(b)当該化合物又はその塩が被検体の細胞、組織又は臓器内で標的酵素と反応することにより増強されるラマン散乱光を測定する工程を含む、がんを診断する方法である(以下「本発明の診断方法」とも言う)。
投与方法としては、局所投与、経口投与、静脈内投与等が挙げられる。
本発明の診断方法の対象となるがんの種類として、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、乳がん、膀胱がん、脳腫瘍、食道がん、胃がん、胆管がん、肝がん、膵がん、頭頚部がん、腎がん、白血病、皮膚がん、甲状腺がんが挙げられる。
【0062】
本発明のもう1つの実施形態は、一般式(I)の化合物又はその塩を含む蛍光プローブである(以下「本発明の蛍光プローブ」ともいう)。
即ち、本発明の化合物は、酵素との反応前は水溶液中でほとんど蛍光を発しないのに対して、酵素と反応後は、BzBMN-NH(又はBzBMN-OH又はBzBMN)は水溶液中で蛍光を発し、これは、水溶液中での凝集によるAIEE特性による蛍光増強であると考えられる。したがって、本発明の化合物は蛍光プローブとしても好適に使用することが可能である。
【0063】
本発明の蛍光プローブの使用方法は特に限定されず、従来公知の蛍光プローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに本発明の化合物を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、蛍光スペクトルを測定すればよい。本発明の蛍光プローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
【0064】
また、本発明のもう1つの態様は、細胞又は組織内の標的酵素を検出する方法であって、(a)一般式(I)で表される化合物又はその塩を細胞又は組織内に導入する工程、及び(b)当該化合物又はその塩が細胞又は組織内で標的酵素と反応することにより、発せられる又は増強される蛍光を測定する工程を含む方法
【0065】
本発明のもう1つの実施態様は、本発明のラマンプローブ又は蛍光プローブを含む、標的分子の検出用キットである。
【0066】
当該キットにおいて、通常、本発明のラマンプローブ又は蛍光プローブは溶液として調製されているが、例えば、粉末形態の混合物、凍結乾燥物、顆粒剤、錠剤、液剤など適宜の形態の組成物として提供され、使用時に注射用蒸留水や適宜の緩衝液に溶解して適用することもできる。
【0067】
また、当該キットには、必要に応じてそれ以外の試薬等を適宜含んでいてもよい。例えば、添加剤として、溶解補助剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤などの添加剤を用いることができ、これらの配合量は当業者に適宜選択可能である。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
[原料]
合成に使用した全ての化学物質は、東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)、シグマアルドリッチ(株)、Cambridge Isotope Laboratories, Inc. から購入した。 さらに精製することなく使用した。
【0070】
[測定機器]
NMRスペクトルは、重水素化溶媒中を用い、Bruker NMR AVANCE III 400分光計[H 400 MHz、13C 100 MHz]で得た。
高分解能ESI質量スペクトルは、Bruker microTOF II-TM (ESI)で得た。
HPLC精製は、Inertstil-ODS-3カラム(Φ10×250mm(セミ分取)およびΦ20×250mm(分取))を備えたJASCO PU-2080 Plusポンプ(GL Science Co.、Ltd.)およびMD-2015検出器(JASCO)で行った。
HPLCに使用した溶媒は、和光(株)より入手した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、中圧分取液体クロマトグラフYFLC-Al560(山善株式会社)を用いて行った。
TLCは、シリカゲルプレートF254(0.25mm(分析);Merck、AKG)で行った。
UV-visスペクトルは、Shimadzu UV-2450分光光度計で得た。
蛍光スペクトルは、F-7000 (日立)で取得した。
SRSスペクトルおよびSRS像は、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻小関研究室で開発された高速SRS分光顕微鏡で取得した。ポンプ光パルスおよびストークス光パルスの波長は843nmおよび1014-1046nm、パルス時間幅は約5ピコ秒、スペクトル分解能は5/cmである。水浸対物レンズを用い、その開口数は1.2である。フレームごとにストークス光パルスの波長を変化させ、500×500ピクセルの画像を毎秒30フレーム取得した。信号対雑音比を高めるためにデータをin vitroでは5回、in celluloでは300~1000回取得し、平均化を行った。
【0071】
[合成実施例1]
以下のスキーム1により、本発明のγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)活性検出ラマンプローブであるgGlu-BzBMN(化合物11)、EP-BzBMN(化合物12)を合成した。また、gGlu-BzBMNのCN基を1215Nに同位体置換しgGlu-BzBMN (1215N)(化合物13)を合成した。
【0072】
スキーム1:GGT、DPP4活性検出ラマンプローブの合成
【0073】
(1)化合物1の合成
マロン酸ジエチル(700.4mg、4.37mmol)を3M 15Nアンモニウム水(5mL)に溶解し、室温で19.5時間撹拌した。溶媒を減圧除去した後、エタノールを5mL加えて吸引濾過を行い、濾紙上の化合物をエタノールで洗浄し目的化合物(化合物1)(295.2mg、2.84mmol、収率65%)を得た。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 127.0262; found, 127.0261 (0.1 mDa).
【0074】
(2)化合物2の合成
化合物1(292.4mg、2.81mmol、1.0eq)、塩化ホスホニル(882.1mg、5.75mmol、2.1eq)をアセトニトリルに溶解し、アルゴン雰囲気下75℃で加熱しながら18時間撹拌した。反応液を濾過後、濾液の溶媒を減圧除去して得られた固体を氷冷下飽和食塩水(2mL)に再懸濁した。続いてジクロロメタンで抽出を行った後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで目的化合物(化合物2)の粗生成物(101.3mg、1.49mmol、収率53%)を褐色のオイルとして得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに、次の反応に使用した。
【0075】
(3)化合物3の合成
3-ニトロベンジルブロミド(1110mg、5.0mmol、1.0eq)、4-(ジエチルアミノ)サリチルアルデヒド(960mg、5.0mmol、1.0eq)、炭酸カリウム(1430mg、10.0mmol、2.0eq)をアセトニトリル(10mL)に溶解させ、アルゴン雰囲気下70℃で加熱しながら17.5時間撹拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて中和し、酢酸エチルで抽出した。さらに、有機層を水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物3)(990mg、3.0mmol、収率60%)を黄色固体として得た。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 351.1315; found, 351.1323 (-0.8 mDa).
【0076】
(4)化合物4の合成
化合物3(515mg、1.6mmol、1.0eq)、マロノニトリル(121μL、1.9mmol、1.2eq)をエタノール/ジクロロメタン混液(2:1)(15mL)に溶解し、トリエチルアミンを数滴加え、アルゴン雰囲気下60℃で加熱しながら4時間撹拌した。反応液を吸引濾過し、濾紙上の化合物をエタノールで洗浄することで粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物4)(390mg、1.04mmol、収率65%)を橙色固体として得た。
HRMS(ESI+): calcd for [M+Na]+, 399.1428; found, 399.1425 (0.3 mDa).
【0077】
(5)化合物5の合成
化合物3(20.0mg、0.061mmol、1.0eq)、マロノニトリル15N置換体(化合物2)(5.0mg、0.074mmol、1.2eq)をエタノール/ジクロロメタン混液(2:1)(6mL)に溶解し、トリエチルアミンを数滴加え、アルゴン雰囲気下60℃で加熱しながら4時間撹拌後、80℃で2時間撹拌した。反応液を吸引濾過し、濾紙上の化合物をエタノールで洗浄し目的化合物(化合物5)(16.3mg、0.043mmol、収率71%)を橙色固体として得た。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 401.1375; found, 401.1370 (0.5 mDa).
【0078】
(6)化合物6の合成
BzBMN-NO(化合物4)(40.0mg、0.11mmol、1.0eq)、塩化スズ(II)(104.3mg、0.55mmol、5.0eq)を酢酸エチルに(10mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下70℃で加熱しながら15.5時間撹拌した。さらに塩化スズ(II)(105.0mg)を反応液に加え70℃で加熱しながら1時間撹拌後、80℃で2.5時間撹拌した。反応終了後、反応液を氷冷した水に注ぎ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。得られた懸濁液の不溶物をセライト濾過で除去し、濾液を酢酸エチルで抽出した。さらに、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物6)(30.0mg、0.087mmol、収率79%)を黄色固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.16 (6H, t, J = 7.1 Hz), 3.39 (4H, q, J = 7.1 Hz), 5.05 (2H, s), 6.02 (1H, d, J = 2.2 Hz), 6.31 (1H, dd, J = 9.3, 2.3 Hz), 7.21 (1H, dd, J = 8.0, 2.2 Hz), 6.70 (1H, s), 6.75 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.17 (1H, t, J = 7.8 Hz), 8.08 (1H, s), 8.24 (1H, d, J = 9.3 Hz); HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 369.1686; found, 369.1695 (-0.9 mDa).
【0079】
(7)化合物7の合成
BzBMN-NO1215N)(化合物5)(7.2mg、0.019mmol、1.0eq)、塩化スズ(II)(36.1mg、0.19mmol、10eq)を酢酸エチル(2mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃で4時間撹拌した。反応液を飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出した。さらに飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物7)を黄色固体として得た。得られた全量を次の反応に使用した。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 371.1634; found, 371.1629 (0.5 mDa).
【0080】
(8)化合物8の合成
BzBMN-NH(化合物6)(12.0mg、0.035mmol、1.0eq)、Boc-Glu(OH)-OtBu(10.52mg、0.035mg、1.0eq)、COMU(14.85mg、0.035mmol、1.0eq)、DIEA(6.04 μL、0.035mmol、1.0eq)をジメチルホルムアミド(1mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下室温で2.5時間撹拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した後、酢酸エチルで抽出を行った。さらに、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで目的の粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物8)(20.4mg、0.032mmol、収率92%)を橙色固体として得た。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 654.3262; found, 654.3262 (0.0 mDa).
【0081】
(9)化合物9の合成
BzBMN-NH(化合物6)(11.0 mg、0.032mmol、1.0eq)、Boc-Glu(OtBu)-Pro-OH(12.7mg、0.032mg、1.0eq)、COMU(13.7mg、0.032mmol、1.0 eq)、DIEA(5.57μL、0.032mmol、1.0eq)をジメチルホルムアミド(1mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下室温で4時間撹拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した後、酢酸エチルで抽出を行った。さらに、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで目的の粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物9)の粗生成物を橙色固体として得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに、次の反応に全量使用した。
【0082】
(10)化合物10の合成
BzBMN-NH1215N)(化合物7)、Boc-Glu(OH)-OtBu(5.76mg、0.019mmol、1.0eq)、COMU(8.14mg、0.019mmol、1.0eq)、DIEA(3.31μL、0.019mmol、1.0eq)をジメチルホルムアミド(1mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下室温で4時間撹拌した。反応液を飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和した後、酢酸エチルで抽出を行った。さらに、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで目的の粗生成物を得た。続けて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製を行い、目的化合物(化合物10)の粗生成物(7.3mg)を橙色固体として得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに、次の反応に全量使用した。
【0083】
(11)化合物11の合成
化合物8(20.4mg、0.032mmol)をジクロロメタン(2mL)に溶解し、トリフロロ酢酸を1mL加え、室温で3.5時間撹拌した。トルエンを加え溶媒を減圧除去した後、逆相カラムを用いて精製を行い、目的化合物(化合物11)(16.2mg、0.034mmol、収率quant.)を橙色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ1.17 (6H, t, J = 7.1 Hz), 2.28 (2H, m), 2.72 (2H, t, J = 7.0 Hz), 3.50 (4H, q, J = 7.1 Hz), 4.11 (1H, t, J = 6.5 Hz), 5.25 (2H, s), 6.21 (1H, d, J = 2.1 Hz), 6.49 (1H, dd, J = 9.4, 2.1 Hz), 7.21 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.37 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.48 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.86 (1H, s), 8.10 (1H, s), 8.21 (1H, d, J = 9.4 Hz); 13C NMR (101 MHz, CD3OD) δ12,9, 26.9, 33.2, 46.1, 53.5, 68.0, 71.4, 95.6, 107.1, 110.7, 117.0, 118.2, 119.8, 120.7, 124.0, 130.0, 131.6, 138.8, 140.4, 152.1, 156.2, 162.4, 171.6, 172.6; HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 498.2112; found, 498.2120 (-0.8 mDa).
【0084】
(12)化合物12の合成
化合物9をジクロロメタン(2mL)に溶解し、トリフロロ酢酸を1mL加え、室温で2.5時間撹拌した。反応液にトルエンを加え溶媒を減圧除去した後、高速液体クロマトグラフィーで精製を行い、目的化合物(化合物12)(7.3mg、0.013mmol、収率41% in 2 steps)を橙色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ1.04 (6H, t, J = 7.1 Hz), 1.90-2.30 (6H, m), 2.54 (2H, dt, J = 7.1, 2.6 Hz), 3.37 (4H, q, J = 7.1 Hz), 3.65 (2H, t, J = 6.7 Hz), 4.29 (1H, dd, J = 7.4, 4.9 Hz), 4.50 (1H, dd, J = 8.1, 5.4 Hz), 5.14 (2H, s), 6.08 (1H, d, J = 2.4 Hz), 6.36 (1H, dd, J = 9.4, 2.2 Hz), 7.09 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.26 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.37 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.70 (1H, s), 7.97 (1H, s), 8.09 (1H, d, J = 9.4 Hz); 13C NMR (101 MHz, CD3OD) δ12,9, 23.9, 28.0, 32.1, 40.5, 46.1, 54.6, 68.2, 70.7, 95.5, 107.2, 110.6, 122.1, 122.9, 124.1, 124.9, 126.8, 131.2, 131.7, 133.6, 140.0, 151.9, 153.2, 156.2, 162.2; HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 595.2639; found, 595.2651 (-1.2 mDa).
【0085】
(13)化合物13の合成
化合物10(7.3mg)をジクロロメタン(2mL)に溶解し、トリフロロ酢酸を1mL加え、室温で2.5時間撹拌した。トルエンを加え溶媒を減圧除去した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製を行い、目的化合物(化合物13)(2.5mg、0.0052mmol、収率27% in 3 steps)を橙色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ1.18 (6H, t, J = 7.0 Hz), 2.27 (2H, m), 2.72 (2H, t, J = 7.0 Hz), 3.51 (4H, q, J = 7.1 Hz), 4.10 (1H, t, J = 6.4 Hz), 5.26 (2H, s), 6.22 (1H, d, J = 2.4 Hz), 6.50 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.21 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.38 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.48 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.85 (1H, s), 8.10 (1H, s), 8.21 (1H, d, J = 9.2 Hz); HRMS (ESI+): calcd for [M+H]+, 478.2235; found, 478.2210 (2.5 mDa).
【0086】
[合成実施例2]
以下のスキーム2により、本発明のカルボキシペプチダーゼ活性検出ラマンプローブであるBzBMN-AFLys(化合物18)を合成した。
【0087】
スキーム2:カルボキシペプチダーゼ活性検出ラマンプローブの合成
【0088】
(1)化合物14の合成
H-Lys(Boc)-OtBu・HCl(50.8mg、0.15mmol、1.0eq)、ピリジン(30μL、0.375mmol、2.5eq)をジクロロメタン(3mL)に溶解し、-20℃に冷却した。トリホスゲン(44.55mg、0.15mmol、1.0eq)のジクロロメタン溶液(0.3mL)を少量ずつ滴下し、アルゴン雰囲気下-20℃で0.5時間撹拌した。-20℃に冷却した飽和塩化アンモニウム水溶液で中和し、-20℃に冷却した飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで目的化合物(14)の粗生成物を得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに次の反応に全量使用した。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 351.1896; found, 351.1908 (-1.2 mDa).
【0089】
(2)化合物15の合成
BzBMN-NH(化合物6)(27.5mg、0.079mmol、1.0eq)を少量の氷と共に氷冷下で12M塩酸(2mL)に溶解し、そこに亜硝酸ナトリウム(8.2mg、0.12mmol、1.5eq)の12M塩酸溶液(1mL)を滴下した。反応液をアルゴン雰囲気下4℃で0.5時間撹拌した。塩化スズ(II)(22.7mg、0.12mmol、1.5eq)の1M塩酸溶液(1mL)を滴下し、氷冷下飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出を行い飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去することで目的化合物(15)の粗生成物を得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに次の反応に全量使用した。
HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 384.1800; found, 384.1792 (0.8 mDa).
【0090】
(3)化合物16の合成
化合物14、化合物15及びDIEA(26.2μL、0.15mmol)をアセトニトリル(4mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下室温で2時間撹拌した。反応液は直接逆相カラムを用いて精製し、目的化合物(16)(30mg、0.043mmol、収率55% in 2 steps)およびその酸化体(化合物17)(12mg、0.017mmol、収率22% in 2 steps)の粗生成物をそれぞれ得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに次の反応に使用した。
【0091】
(4)化合物17の合成
化合物16(15mg、0.022mmol)、二酸化マンガン(スパーテル1杯)をジクロロメタン(2mL)に加え、室温で2時間撹拌した。反応液をセライト濾過し、濾液の溶媒を減圧除去することで目的化合物(17)(12.5mg、0.018mmol、収率83%)の粗生成物を得た。粗生成物はこれ以上の精製操作を行わずに次の反応に全量使用した。
【0092】
(5)化合物18の合成
化合物17(12.5mg、0.018mmol)をジクロロメタン(2mL)に溶解し、トリフロロ酢酸を1mL加えて、室温で2.5時間撹拌した。反応液にトルエンを加え溶媒を減圧除去した後、高速液体クロマトグラフィーで精製を行い、目的化合物(化合物18)(5.5mg、0.0010mmol、収率58% in 2 steps)を橙色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ1.16 (6H, t, J = 7.2 Hz), 1.50-2.20 (6H, m), 2.96 (2H, t, J = 7.2 Hz), 3.50 (4H, q, J = 6.8 Hz), 4.57 (1H, q, J = 4.8 Hz), 5.38 (2H, s), 6.23 (1H, d, J = 2.4 Hz), 6.50 (1H, dd, J = 9.2, 2.0 Hz), 7.67 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.78 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.97 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.07 (1H, s), 8.07 (1H, s), 8.20 (1H, d, J = 9.2 Hz); 13C NMR (101 MHz, CD3OD) δ12,9, 19.8, 26.2, 26.7, 29.5, 30.8, 46.1, 52.3, 62.4, 68.1, 71.4, 95.6, 107.0, 110.7, 117.1, 118.5, 119.8, 120.7, 124.0, 130.4, 131.6, 138.9, 140.5, 152.0, 156.5, 162.4, 169.5, 172.0, 176.0; HRMS (ESI+): calcd for [M+Na]+, 554.2486; found, 554.2512 (-2.6 mDa).
【0093】
[実施例1]
GGT活性検出プローブ(gGlu-BzBMN)のin vitroでの検討
gGlu-BzBMNとBzBMN-NHの水溶液中での溶解性を比較したところ、gGlu-BzBMNはPBS中でもDMSO中と同等の吸収スペクトルを有していたが、BzBMN-NHはPBS中でDMSO中よりも大幅に吸光度が減少し、長波長化した(図4)。
【0094】
図4は、BzBMN-NHとgGlu-BzBMNの吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。PBS及びDMSO中のBzBMN-NH(a)およびBzBMN (b)の吸収スペクトルであり、PBS及びDMSO中のBzBMN-NH(c) およびBzBMN(d)の蛍光スペクトルである。
【0095】
色素が特定のモードでスタッキングすると、吸収スペクトルが長波長化することが知られており、BzBMN-NHもPBS中で凝集している可能性が高いと考えられた。さらに、gGlu-BzBMNはPBS中でほとんど蛍光を発しないのに対して、BzBMN-NHは水溶液中で600nm付近に最大吸収を有する蛍光を発した。これは、PBS中での凝集によるAIEE特性による蛍光増強であると考えられる。
【0096】
さらに、標的酵素であるGGTとgGlu-BzBMNを反応させたところ、経時的な吸光度の減少とスペクトルの長波長化を認めた。吸光度の減少は、反応生成物のPBSへの溶解性が悪く、測定キュベットへの吸着が経時的に増加したため水溶液中での実効濃度が低下したと考えられる。この反応は、GGT特異的阻害剤であるGGsTopによって抑制されたことから、GGTに由来した反応であると考えられた(図5)。
【0097】
図5は、PBS中の4.4μM gGlu-BzBMNの吸収スペクトルの変化を示す。添加剤:GGT(1ユニット)(a)、GGTの阻害剤を含むGGT(1ユニット)、GGsTop(10μM)(b)。
【0098】
さらに酵素反応をラマン顕微鏡で観察した。ラマン顕微鏡としては高感度のイメージングが可能な誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡を使用した。SRS顕微鏡でgGlu-BzBMNを観察したところ凝集はほとんど認めず、誘導ラマン散乱スペクトル(SRSスペクトル)でもニトリルのC≡N伸縮振動由来のピークはほとんど認めなかった。一方で、gGlu-BzBMN溶液にGGTを添加して観察したところ、視野内に大きな凝集を認め、その凝集からは非常に強いSRS信号を認めた。この凝集生成はGGT特異的阻害剤(GGsTop)によって抑制されたことから、GGTによるものと考えられた(図6)。
【0099】
図6は、gGlu-BzBMNのSRS画像を示す。gGlu-BzBMNをGGTなし(a、d)またはGGTあり(b、e)で2時間、PBSでインキュベートした。GGTの阻害剤であるGGsTopも追加した(c、f)。SRS画像は、2000cm-1と2300cm-1の間の画像を平均することによって作成した。スケールバー:10μm。
【0100】
以上のように標的酵素との反応にともなって、プローブの水溶性が変化し凝集体が生成することで非常に強いラマン信号を得ることができたことから、分子設計のコンセプトを実証することができたと考えられる。
【0101】
[実施例2]
DPP4活性検出プローブ(EP-BzBMN)のin vitroでの検討
次に、EP-BzBMNについてin vitroでの検討を行った。その結果を図7に示す。
【0102】
図7は、EP-BzBMNの特性評価の結果を示す。
(a)は、PBSおよびDMSO中のEP-BzBMNの吸収スペクトルを、(b)は蛍光スペクトルを示す。
(c-d)は、PBS中の6.3μM EP-BzBMNの吸収スペクトルの変化を示す。添加剤:DPP4(0.015単位)(c)、DPP4の阻害剤を含むDPP4 (0.015単位)、シタグリプチン(18μM)(d)。
(e-j)は、 EP-BzBMNのSRS画像を示す。EP-BzBMNを、DPP4なし(e、h)、またはDPP4あり(f、i)で、PBS中で2時間インキュベートした。DPP4の阻害剤であるシタグリプチンも追加した(g、j)。SRS 画像は、2000cm-1と2300cm-1の間の画像を平均することによって作成した。スケールバー:10μm。
【0103】
図7で示すように、EP-BzBMNはgGlu-BzBMNと同様に、標的酵素DPP4と反応して、凝集体を形成することで強いラマン信号を観察することができた。
【0104】
[実施例3]
生細胞での酵素活性イメージング
開発したGGT活性検出ラマンプローブgGlu-BzBMN及びEP-BzBMNが細胞でもそれぞれの標的酵素活性を検出可能か検討した。
gGlu-BzBMN及びEP-BzBMNをA549細胞(GGT高活性、DPP4低活性)とH226細胞(GGT低活性、DPP4高活性)にアプライし、SRSイメージングで観察した。結果を図8に示す。
図8は、プロテアーゼ活性のSRS画像である。
(a)は、10mM GGsTopの非存在下または存在下で、50μM gGlu-BzBMNと30分間インキュベートしたA549細胞またはH226細胞の SRS画像である。2213cm-1の画像から2190cm-1の画像を差し引いて画像を作成した。
(b)は、18μMシタグリプチンの非存在下または存在下で、50μM EP-BzBMNと30分間インキュベートしたA549細胞またはH226細胞のSRS 画像である。画像は、2210cm-1の画像から2190cm-1の画像を差し引いて作成した。スケールバー:10μm。
【0105】
図8で示すように、標的酵素が高発現している細胞選択的に凝集の生成と強いSRS信号を認めた。凝集体生成はそれぞれの特異的阻害剤によって抑制されたことから、gGlu-BzBMN及びEP-BzBMNは生細胞においても標的酵素の活性を選択的にイメージングできた(図8)。
【0106】
[実施例4]
多重検出への応用
ラマンイメージングの強みを活かして酵素活性の多重検出を検討した。
まずニトリルの同位体置換によってラマン波数を変化させた[1215N]gGlu-BzBMNと、[1214N]EP-BzBMNと混ぜ合わせてA549細胞、H226細胞にそれぞれ添加し、GGT活性とDPP4活性を波数の違いから検出可能か検討した。
【0107】
図9は、多重検出の試験の模式図(左図)と、A549細胞およびH226細胞(低GGT、高DPP4)のSRS画像(右図)を示す。細胞をgGlu-BzBMN(1215N)およびEP-BzBMN(1214N)の混合物と共にインキュベートした。 LUT 0-40。スケールバー:10μm。
【0108】
その結果、A549細胞からは12C≡15N伸縮振動に由来すると考えられる低波数側のSRS信号が強く観測されたのに対して、H226細胞からは12C≡14N伸縮に由来すると考えられる高波数側のSRS信号が観察された(図9)。すなわち、A549細胞ではGGT活性を、H226細胞ではDPP4活性を主として検出できたと考えられ、同位体置換したプローブを混ぜ合わせて使用した場合でも選択的に酵素活性をイメージングできることが示された。
【0109】
[実施例5]
カルボキシペプチダーゼ検出プローブ(BzBMN-AF-Lys)のin vitroでの検討
合成実施例2で合成したBzBMN-AF-Lys及びCPMとの反応に伴う想定生成物のBzBMNの水溶液中での吸収・蛍光スペクトルを図10に示す。
図10のaは、BzBMN-AF-Lys及びBzBMNの分子構造を示し、b及びcは、夫々、PBS中10μMのBzBMN-AF-Lys及びBzBMNの吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。
【0110】
吸収スペクトルを比較するとBzBMN-AF-Lysでは単峰性のメインピークを認めたのに対して、BzBMNはピークがなだらかに長波長化しており、スタッキング(凝集)している可能性があると考えられた。また、BzBMN-AF-Lysに対して同濃度のBzBMNの蛍光スペクトルを比較すると、BzBMNの蛍光強度は極めて強かった。このことから、BzBMN-AF-LysがCPMと反応してBzBMNが放出されれば、凝集が生じ、蛍光・ラマン信号の増大が観察できる可能性が高いと考えられた。
【0111】
続いて、BzBMN-AF-LysをカルボキシペプチダーゼM(CPM)と反応させた蛍光スペクトルの変化を図11に示す。反応はPBS中で1時間行った。
【0112】
図11に示すように、CPMとの反応に伴う蛍光上昇を認めた。BzBMN-AF-LysがCPM活性検出蛍光プローブとして機能する可能性を示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11