(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124269
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】トリアリールメタン骨格を有する光酸素化触媒、及びこれを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/136 20060101AFI20240905BHJP
A61K 31/4025 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20240905BHJP
C07D 519/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240905BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240905BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240905BHJP
C07C 211/48 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
A61K31/136
A61K31/4025
A61K31/4545
C07D519/00 311
A61K31/352
A61P43/00 111
A61P25/28
A61K41/00
B01J35/02 J
C07C211/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032303
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】金井 求
(72)【発明者】
【氏名】三ツ沼 治信
(72)【発明者】
【氏名】古田 将大
(72)【発明者】
【氏名】富田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 由起子
(72)【発明者】
【氏名】相馬 洋平
【テーマコード(参考)】
4C072
4C084
4C086
4C206
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4C072MM02
4C072UU01
4C084AA11
4C084NA05
4C084ZA15
4C084ZA16
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BC07
4C086BC21
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA31
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZC41
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA36A
4G169BA48A
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169CA07
4G169HA01
4G169HE07
4G169HF02
4H006AA03
4H006AB21
4H006AB40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】BBB透過性と光酸素化活性を向上させた、病原性アミロイドの凝集性を阻害することができる安全で効果的な新規光酸素化触媒を提供すること、及びこれを用いたアミロイド関連疾患予防治療薬を提供することを課題とする。
【解決手段】トリアリールメタン骨格を有する化合物を用いることで、凝集アミロイドにおけるクロス‐β-シート構造に高い親和性を有し、選択的に光酸素化が可能な新規触媒として機能することを見出した。特に、トリアリールメタン骨格のカルボカチオンにヒドリドイオンを結合させ中性種としたロイコ体が、高いBBB透過性を有するとともに、光照射により自己触媒的に触媒活性種であるカチオン体を生成させるプロドラッグとして機能して、非侵襲的に凝集アミロイドの光酸素化が達成できることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I-1)又は式(I-2)で表される化合物を含む、病原性アミロイドの光酸素化触媒:
【化1】
【化2】
(式中、R
a、R
b、及びR
cは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、-NH(R
1)、-N(R
1)(R
2)、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され、ベンゼン環上の任意の位置に存在する1~5個の置換であり;R
1及びR
2は、それぞれ独立に、それぞれ置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基であり、R
1及び/又はR
2がアルキル基である場合、それらが結合する窒素原子及び場合によりベンゼン環を構成する炭素原子を含む環構造を形成してもよく;R
a、R
b、及びR
cのうち少なくとも1つは、N(R
1)(R
2)を含む。)。
【請求項2】
Ra、Rb、及びRcのうち少なくとも2つが、少なくとも1つの‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を含む、請求項1に記載の光酸素化触媒。
【請求項3】
Ra、Rb、及びRcのいずれもが、少なくとも1つの‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を含む、請求項1に記載の光酸素化触媒。
【請求項4】
R1及びR2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である、請求項1に記載の光酸素化触媒。
【請求項5】
前記化合物が、以下の式(II-1)又は式(II-2)で表される構造を有する、請求項1に記載の光酸素化触媒:
【化3】
【化4】
(式中、R
A、R
B、及びR
Cは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、-NH(R
1)、-N(R
1)(R
2)、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され;X、Y、及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され、ベンゼン環上の任意の位置に存在する1~4個の置換であり;R
1及びR
2は、それぞれ独立に、それぞれ置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基であり;R
1及び/又はR
2がアルキル基である場合、それらが結合する窒素原子及び場合によりベンゼン環を構成する炭素原子を含む環構造を形成してもよく;R
A、R
B、及びR
Cのうち少なくとも1つは、N(R
1)(R
2)である。)。
【請求項6】
RA、RB、及びRCのうち、少なくとも2つが‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)である、請求項5に記載の光酸素化触媒。
【請求項7】
RA、RB、及びRCのいずれもが、‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)である、請求項5に記載の光酸素化触媒。
【請求項8】
R1及びR2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である、請求項5に記載の光酸素化触媒。
【請求項9】
RA、RB、及びRCのうち少なくとも1つが、N(R1)(R2)であり、かつR1及びR2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり;
前記アルキル基が結合する窒素原子を含む5員又は6員の単環式環構造を有するか、又は、前記アルキル基が結合する窒素原子及びベンゼン環を構成する2つの炭素原子を含む多環式環構造を有する、請求項5に記載の光酸素化触媒。
【請求項10】
前記病原性アミロイドが、アミロイドβ又はタウタンパク質である、請求項1に記載の光酸素化触媒。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1に記載の光酸素化触媒及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項12】
病原性アミロイドの凝集抑制剤である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
病原性アミロイドが関連する疾患の予防又は治療薬である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記病原性アミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
病原性アミロイドが関与する疾患の予防又は治療薬の製造のための請求項1~10のいずれか1に記載の光酸素化触媒の使用。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1に記載の光酸素化触媒の有効量を投与することを特徴とする、病原性アミロイドが関連する疾患を予防又は治療する方法。
【請求項17】
前記光酸素化触媒の投与後に、患者の患部に体外から光を照射することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記病原性アミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記病原性アミロイドが、アミロイドβ又はタウタンパク質である、請求項16~18のいずれか1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性アミロイドの凝集を阻害する新規な光酸素化触媒化合物、及びかかる病原性アミロイドが関与する疾患を予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タンパク質はフォールディングすることにより、特異的なネイティブ構造を形成して生命機能を担うが、一方でミスフォールディングすることでβシート構造に富んだ線維へと凝集(アミロイド化)することがある。このアミロイド化の過程で産生する凝集体(オリゴマー、プロトフィブリル、線維)は様々な機能障害を引き起こすことが知られており(このような疾患は「アミロイド病」と総称される)、35種類以上のタンパク質がアミロイド病の原因物質として同定されている。そのようなアミロイドとしては、例えば、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、タウタンパク質、パーキンソン病のαシヌクレイン、糖尿病のアミリン、全身性アミロイド-シスのトランスサイレチン、ハンチントン病のハンチンチン等が知られている。
【0003】
アルツハイマー病は、脳の萎縮とともに認知機能の低下を引き起こす進行性の神経変性疾患であり、その患者数は年々増加している。このアルツハイマー病もアミロイド病の一種であって、その発症には、アミロイドβ(Aβ)が形成する凝集体による神経毒性が関与していると考えられており、これまでAβを標的とする治療法が精力的に研究されている。しかしながら、その薬物治療は対症療法薬が主であり、アデュカヌマブ・レカネマブ等の抗体医薬を除けば根本治療薬は未だ存在せず、その開発は急を要する。
【0004】
また、近年、アルツハイマー病に関与する病原性アミロイドとして、タウタンパク質にも注目が集まっている。アルツハイマー病の発症には、タウタンパク質が凝集して形成されるアミロイドの神経毒性が関与していると考えられており、タウタンパク質を標的とした治療戦略はアルツハイマー病の根治に繋がると期待される。
【0005】
これに対し、本願発明者らは、Aβに対して酸素原子を付与する光酸素化反応によりAβの凝集性・毒性を低減できる化合物の開発を行ってきた(非特許文献1等)。また、生体内反応への応用を見据え、血液脳関門(BBB: Blood-Brain Barrier)透過性を有する触媒の開発にも成功している(非特許文献1等)。
【0006】
しかしながら、既存の光活性触媒化合物は、脳内において酸素化活性が未だ十分ではなく、また頭皮組織に副反応に由来する外傷が見れるという課題があり、安全で効果的なアルツハイマー病治療に繋がる新たな化合物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Taniguchi, A. et al., Nat. Chem. 2016, 8, 974-982
【非特許文献2】Nagashima, N.; Ozawa, S.; Furuta, M.; Oi, M.; Hori, Y.; Tomita, T.; Sohma, Y.; Kanai, M. Sci. Adv. 2021, 7, eabc9750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる従来技術の問題点に鑑み、本発明は、BBB透過性と光酸素化活性を向上させた、病原性アミロイドの凝集性を阻害することができる安全で効果的な新規光酸素化触媒を提供すること、及びこれを用いたアミロイド関連疾患予防治療薬を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、共鳴構造を有するトリアリールメタン骨格を有する化合物を用いることで、凝集アミロイドにおけるクロス‐β-シート構造に高い親和性を有し、選択的に光酸素化が可能な新規触媒として機能することを見出した。特に、トリアリールメタン骨格のカルボカチオンにヒドリドイオンを結合させ中性種としたロイコ体が、高いBBB透過性を有するとともに、光照射により自己触媒的に触媒活性種であるカチオン体を生成させるプロドラッグとして機能して、非侵襲的に凝集アミロイドの光酸素化が達成できることを見出した。これらの知見により、本発明を完成するに至ったものである。なお、ここで、「酸素化(oxygenation)」とは、広く酸化(oxidation)のうち、特に酸素原子を付与・結合させる化学反応を意味する語として用いる。
【0010】
すなわち、本発明は、一態様において、病原性アミロイドに対する光酸素化触媒に関し、
<1>以下の式(I-1)又は式(I-2)で表される化合物を含む、病原性アミロイドの光酸素化触媒:
【化1】
【化2】
(式中、R
a、R
b、及びR
cは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、-NH(R
1)、-N(R
1)(R
2)、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され、ベンゼン環上の任意の位置に存在する1~5個の置換であり;R
1及びR
2は、それぞれ独立に、それぞれ置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基であり、R
1及び/又はR
2がアルキル基である場合、それらが結合する窒素原子及び場合によりベンゼン環を構成する炭素原子を含む環構造を形成してもよく;R
a、R
b、及びR
cのうち少なくとも1つは、N(R
1)(R
2)を含む。);
<2>R
a、R
b、及びR
cのうち少なくとも2つが、少なくとも1つの‐NH(R
1)又は-N(R
1)(R
2)を含む、上記<1>に記載の光酸素化触媒;
<3>R
a、R
b、及びR
cのいずれもが、少なくとも1つの‐NH(R
1)又は-N(R
1)(R
2)を含む、上記<1>に記載の光酸素化触媒;
<4>R
1及びR
2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である、上記<1>に記載の光酸素化触媒;
<5>前記化合物が、以下の式(II-1)又は式(II-2)で表される構造を有する、上記<1>に記載の光酸素化触媒:
【化3】
【化4】
(式中、R
A、R
B、及びR
Cは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、-NH(R
1)、-N(R
1)(R
2)、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され;X、Y、及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され、ベンゼン環上の任意の位置に存在する1~4個の置換であり;R
1及びR
2は、それぞれ独立に、それぞれ置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基であり;R
1及び/又はR
2がアルキル基である場合、それらが結合する窒素原子及び場合によりベンゼン環を構成する炭素原子を含む環構造を形成してもよく;R
A、R
B、及びR
Cのうち少なくとも1つは、N(R
1)(R
2)である);
<6>R
A、R
B、及びR
Cのうち、少なくとも2つが‐NH(R
1)又は-N(R
1)(R
2)である、上記<5>に記載の光酸素化触媒;
<7>R
A、R
B、及びR
Cのいずれもが、‐NH(R
1)又は-N(R
1)(R
2)である、上記<5>に記載の光酸素化触媒;
<8>R
1及びR
2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である、上記<5>に記載の光酸素化触媒;
<9>R
A、R
B、及びR
Cのうち少なくとも1つが、N(R
1)(R
2)であり、かつR
1及びR
2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり;前記アルキル基が結合する窒素原子を含む5員又は6員の単環式環構造を有するか、又は、前記アルキル基が結合する窒素原子及びベンゼン環を構成する2つの炭素原子を含む多環式環構造を有する、上記<5>に記載の光酸素化触媒;及び
<10>前記病原性アミロイドが、アミロイドβ又はタウタンパク質である、上記<1>に記載の光酸素化触媒
を提供するものである。
【0011】
また、別の態様において、本発明は、上光酸素化触媒を含む医薬組成物及び当該光酸素化触媒の使用方法等にも関し、より具体的には、
<11>上記<1>~<10>のいずれか1に記載の光酸素化触媒及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物;
<12>病原性アミロイドの凝集抑制剤である、上記<11>に記載の医薬組成物;
<13>病原性アミロイドが関連する疾患の予防又は治療薬である、上記<11>に記載の医薬組成物;
<14>前記病原性アミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、上記<13>に記載の医薬組成物;
<15>病原性アミロイドが関与する疾患の予防又は治療薬の製造のための上記<1>~<10>のいずれか1に記載の光酸素化触媒の使用;
<16>上記<1>~<10>のいずれか1に記載の光酸素化触媒の有効量を投与することを特徴とする、病原性アミロイドが関連する疾患を予防又は治療する方法;
<17>前記光酸素化触媒の投与後に、患者の患部に体外から光を照射することを含む、上記<16>に記載の方法;
<18>前記病原性アミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、上記<16>に記載の方法;及び
<19>前記病原性アミロイドが、アミロイドβ又はタウタンパク質である、上記<16>~<18>のいずれか1に記載の方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光照射により選択的かつ高い効率で病原性の凝集アミロイドを酸素化することができ、さらに、既存触媒と比較して分子量が小さいため血液脳関門(BBB)に対する優れた透過性を有する光酸素化触媒を提供することができる。特に、本発明では、トリアリールメタン骨格のカルボカチオンにヒドリドイオンを結合させ中性種としたロイコ体をプロドラッグ(又は前駆体)として用いることで、凝集アミロイド近辺での活性体の局所生成ができるため、オフターゲットによる頭部外傷等の副作用を低減することができ、非侵襲的に凝集アミロイドの光酸素化が達成できるという効果を奏する。
【0013】
これにより、静脈内投与等による投与の後に体外から光照射を行うという非侵襲的手法によって、生体内(脳内等)における病原性アミロイドの凝集・毒性を抑制又は低減することができ、病原性アミロイドが関与する疾患の予防・治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例のスクリーニングに用いたトリアリールアミン化合物群である。
【
図2】
図2は、合成したトリアリールアミン骨格を有する誘導体である。
【
図3】
図3は、本発明の触媒化合物におけるペプチド選択性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、血液脳関門(BBB)透過性の測定結果を示した図である。
【
図5】
図5は、(a)本発明の化合物EVを用いた光酸素化反応における収率の時間変化を示すグラフ;及び(b)光照射の有無による収率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の化合物EV(カチオン体)の吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフである。
【
図7】
図7は、Aβにおける酸素化残基を示す図である。
【
図8】
図8は、光照射に伴いロイコ体LEVからカチオン体EVへの変換を示す吸収スペクトル変化である。
【
図9】
図9は、ロイコ体LEVからカチオン体EVへの変換における反応機構のモデル図である。
【
図10】
図10は、(a)本発明の化合物LEV(ロイコ体)を用いた光酸素化反応における収率の時間変化を示すグラフ;及び(b)光照射の有無による収率を示すグラフである。
【
図11】
図11は、凝集Aβとオフターゲットペプチドの夾雑物に対する本発明の化合物(EV及びLEV)及び比較例のABBの光酸素化反応の収率を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の化合物(EV及びLEV)の細胞毒性を示すグラフである。
【
図13】
図13は、本発明の化合物(EV及びLEV)及び比較例のABBの血液脳関門(BBB)透過性を示す比較表である。
【
図14】
図14は、種々の病原性アミロイドに対する本発明の化合物(EV及びLEV)の光酸素化効率を示すものである。
【
図15】
図15は、マウスの脳ライセートにおいて、本発明の化合物(EV及びLEV)及び比較例のABBによる光酸素化反応を行った後のウェスタンブロッティングの結果である。
【
図16】
図16は、モデルマウスの脳内において本発明の化合物(EV及びLEV)及び比較例のABBによるin vivo光酸素化反応を行った後のウェスタンブロッティングの結果を示すものである。
【
図17】
図17は、3か月齢のモデルマウスに対して本発明の化合物(EV及びLEV)を慢性投与した場合のウェスタンブロッティングの結果を示すものである。
【
図18】
図18は、ヒトの脳ライセートに対して本発明の化合物(EV及びLEV)及び比較例のABBによるin vivo光酸素化反応を行った後のウェスタンブロッティングの結果を示すものである(左図:アミロイドβ、右図:タウ)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0016】
1.定義
本明細書中において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味する。
【0017】
本明細書中において、「アルキル(又はアルキル基)」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~20個(C1~20)、炭素数1~15個(C1~15)、炭素数1~10個(C1~10)である。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。例えば、C1~8アルキルには、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル等が含まれる。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルコシ基、アリールアルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0018】
本明細書中において、「アルキレン」とは、直鎖状または分枝状の飽和炭化水素からなる二価の基であり、例えば、メチレン、1-メチルメチレン、1,1-ジメチルメチレン、エチレン、1-メチルエチレン、1-エチルエチレン、1,1-ジメチルエチレン、1,2-ジメチルエチレン、1,1-ジエチルエチレン、1,2-ジエチルエチレン、1-エチル-2-メチルエチレン、トリメチレン、1-メチルトリメチレン、2-メチルトリメチレン、1,1-ジメチルトリメチレン、1,2-ジメチルトリメチレン、2,2-ジメチルトリメチレン、1-エチルトリメチレン、2-エチルトリメチレン、1,1-ジエチルトリメチレン、1,2-ジエチルトリメチレン、2,2-ジエチルトリメチレン、2-エチル-2-メチルトリメチレン、テトラメチレン、1-メチルテトラメチレン、2-メチルテトラメチレン、1,1-ジメチルテトラメチレン、1,2-ジメチルテトラメチレン、2,2-ジメチルテトラメチレン、2,2-ジ-n-プロピルトリメチレン等が挙げられる。
【0019】
本明細書中において、「アルコキシ」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した構造であり、例えば直鎖状、分枝状、環状又はそれらの組み合わせである飽和アルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、シクロプロピルメトキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロプロピルエチルオキシ基、シクロブチルメチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロプロピルプロピルオキシ基、シクロブチルエチルオキシ基又はシクロペンチルメチルオキシ基等が好適な例として挙げられる。
【0020】
本明細書中において、「芳香環」とは、単環式又は縮合多環式の共役不飽和炭化水素環構造を意味し、「ヘテロ芳香環」とは、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含む芳香環を意味する。
【0021】
本明細書中において、「アリール(又はアリール基)」とは、単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含む芳香族複素環であってもよい。この場合、これを「ヘテロアリール基」または「ヘテロ芳香族基」と呼ぶ。アリールが単環および縮合環のいずれである場合も、すべての可能な位置で結合しうる。単環式のアリールの非限定的な例としては、フェニル基(Phe)、チエニル基(2-又は3-チエニル基)、ピリジル基、フリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、2-ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリダジニル基、3-イソチアゾリル基、3-イソオキサゾリル基、1,2,4-オキサジアゾール-5-イル基又は1,2,4-オキサジアゾール-3-イル基等が挙げられる。縮合多環式のアリールの非限定的な例としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-インデニル基、2-インデニル基、2,3-ジヒドロインデン-1-イル基、2,3-ジヒドロインデン-2-イル基、2-アンスリル基、インダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,2-ジヒドロイソキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、ベンゾフラニル基、2,3-ジヒドロベンゾフラン-1-イル基、2,3-ジヒドロベンゾフラン-2-イル基、ナフチリジニル、ジヒドロナフチリジニル、テトラヒドロナフチリジニル、イミダゾピリジニル、プテリジニル、プリニル、キノリジニル、インドリジニル、テトラヒドロキノリジニル、およびテトラヒドロインドリジニル、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン-1-イル基、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン-2-イル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、フルオレニル基又はチオキサンテニル基等が挙げられる。本明細書において、アリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む他の置換基(例えばアリールオキシ基やアリールアルキル基など)のアリール部分についても同様である。
【0022】
本明細書中において、「アリールアルキル」は、上記アリールで置換されたアルキルを表す。アリールアルキルは、任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アシル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。代表的には、アリールアルキルベンジル、p-メトキシベンジルなどである。
【0023】
本明細書中において、「アミノアルキル」とは、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を構成する水素原子の一部又は全部がアミノ基に置換された基であり、例えば、アミノメチル、2-アミノエチル、1-アミノエチル、3-アミノプロピル、4-アミノブチル、5-アミノペンチル、6-アミノヘキシル等が挙げられる。
【0024】
本明細書中において、「アルキルアミノ」及び「アリールアミノ」は、-NH2基の水素原子が上記アルキル又はアリールの1又は2で置換されたアミノ基を意味する。例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノ、ベンジルアミノ等が挙げられる。
【0025】
本明細書中において、「エーテル基」とは、アルキル鎖中に少なくとも1つのエーテル結合(-O-)を有する官能基を意味する。同様に、「チオエーテル基」とは、アルキル鎖中に少なくとも1つのチオエーテル結合(-S-)を有する官能基を意味する。
【0026】
本明細書中において、ある官能基について「置換されていてもよい」と定義されている場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらの置換基にはさらに置換基が存在していてもよい。このような例として、例えば、ハロゲン化アルキル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0027】
本明細書中において、「環構造」という用語は、二つの置換基の組み合わせによって形成される場合、複素環または炭素環を意味し、そのような環は飽和、不飽和、または芳香族であることができる。従って、上記において定義した、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、及びヘテロアリールを含むものである。
【0028】
本明細書中において、特定の置換基は、別の置換基と環構造を形成することができ、そのような置換基同士が結合する場合、当業者であれば、特定の置換、例えば水素への結合が形成されることを理解できる。従って、特定の置換基が共に環構造を形成すると記載されている場合、当業者であれば、当該環構造は通常の化学反応によって形成することができ、また容易に生成することを理解できる。かかる環構造およびそれらの形成過程はいずれも、当業者の認識範囲内である。また、当該環構造は、環上に任意の置換基を有していてもよい。
【0029】
2.本発明の光酸素化触媒
本発明の光酸素化触媒は、トリアリールメタン骨格を有する化合物を含み、光照射により病原性アミロイドを酸素化し得ることを特徴とする。
【0030】
より具体的には、本発明の光酸素化触媒は、以下の式(I-1)及び式(I-2)のいずれかで表される化合物を含む。
【化5】
【化6】
【0031】
上記式(I-1)の化合物は、芳香環に共役した炭素-ヘテロ原子二重結合を持つ共鳴構造を有しているため、励起状態において項間交差に有利なn-π*性の増大および光酸素化活性の向上が期待される。また、当該化合物は、比較的コンパクトな構造を有するため、BBB透過性の向上が期待できる上に、置換基を変更することによりその吸収波長を長波長化することもできる。
【0032】
さらに、式(I-1)の化合物のように、トリアリールメタン骨格を有する化合物は、凝集誘起発光(AIE: Aggregation-Induced Emission)特性を有することが知られている(Wurthner, F. Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 14192)。すなわち、希薄溶液中では、光励起後に単結合が回転してねじれ型分子内電荷移動(TICT: Twisted Intramolecular Charge Transfer)状態を経てエネルギーを消費するのに対して、凝集状態では、結合回転が妨げられるため発光特性が発現する。この特性を利用することで、凝集アミロイドの存在時のみ酸素化活性を示すことができる。また、式(I-1)の化合物は、平面性の高い骨格を有することから、凝集アミロイドにおけるクロス-β-シート構造に対する高い親和性をも有する。
【0033】
一方、上記式(I-2)の化合物は、式(I-1)におけるトリアリールメタン骨格のカルボカチオンにヒドリドイオンを結合させ中性種としたロイコ体である。当該化合物は、後述の実施例に示すように、光を照射することにより、カチオン体である式(I-1)の化合物に変換され、生成した微量の当該カチオン体は、光活性な水素原子移動(HAT: Hydrogen Atom Transfer)触媒として自己触媒的にさらなるカチオン体の生成反応を促進する。これにより、式(I-2)の化合物は、凝縮アミロイドの近辺において局所的に触媒活性のカチオン体(すなわち、式(I-1)の化合物)を生成・放出するというプロドラッグ(前駆体)として活用することができる。
【0034】
上記式(I-1)及び(I-2)のいずれの式においても、Ra、Rb、及びRcは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、-NH(R1)、-N(R1)(R2)、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され、ベンゼン環上の任意の位置に存在する1~5個の置換である。
【0035】
本発明では、Ra、Rb、又はRcに電子供与性の官能基を有することが好ましい。具体的には、Ra、Rb、及びRcのうち少なくとも1つは、いずれかの位置にN(R1)(R2)を含む。言い換えると、トリアリールメタン骨格における少なくとも1つのベンゼン環が、いずれかの位置にN(R1)(R2)を有する。
【0036】
好ましくは、Ra、Rb、及びRcのうち少なくとも2つが、少なくとも1つの‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を含む。言い換えると、トリアリールメタン骨格における少なくとも2つのベンゼン環が、いずれかの位置に‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を有する。
【0037】
より好ましくは、Ra、Rb、及びRcのいずれもが、それぞれ少なくとも1つが‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を含む。言い換えると、トリアリールメタン骨格における3つのベンゼン環の全てが、いずれかの位置に‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を有する。
【0038】
式(I-1)及び(I-2)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、それぞれ置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基である。ヘテロアリールとしては、典型的には、1以上の窒素原子又は酸素原子を含む芳香環を用いることができる。アリール部分又はヘテロアリール部分は、単環式、二環式、又は三環式のいずれであることもできるが、好ましくは、4~6員の単環式の芳香環又はヘテロ芳香環であり、より好ましくは、6員単環式の芳香環又はヘテロ芳香環である。具体例としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピロール環、フラン環、ピラン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾピラン環、ナフタレン環、アントラセン環、などを挙げることができる。より好ましくは、環Aは、ベンゼン環、ピリジン環、及びピラジン環を挙げることができる。
【0039】
好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは、置換されていてもよい炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。例えば、R1及びR2は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチルであることができる。
【0040】
式(I-1)及び(I-2)におけるR1及び/又はR2がアルキル基である場合、それらが結合する窒素原子及び場合によりベンゼン環を構成する炭素原子を含む環構造を形成してもよい。かかる環構造は、4~10員環、好ましくは、4~6員環であることができる。例えば、当該環構造は、前記アルキル基が結合する窒素原子を含む5員又は6員の単環式環構造、又は前記アルキル基が結合する窒素原子及びベンゼン環を構成する2つの炭素原子を含む多環式環構造であることができる。
【0041】
好ましい態様において、Ra、Rb、及びRcは、トリアリールメタン骨格における3つのベンゼン環のメタ位置にすることができる。この場合、本発明の化合物は、以下に示す式(II-1)又は式(II-2)で表すことができる。
【0042】
【0043】
式(II-1)及び式(II-2)のいずれにおいても、RA、RB、及びRCは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい、-NH(R1)、-N(R1)(R2)、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択される。
【0044】
本発明では、RA、RB、及びRCに電子供与性の官能基を有することが好ましい。具体的には、RA、RB、及びRCのうち少なくとも1つは、いずれかの位置にN(R1)(R2)を含む。言い換えると、トリアリールメタン骨格における少なくとも1つのベンゼン環におけるメタ位に、N(R1)(R2)を有する。
【0045】
好ましくは、RA、RB、及びRCのうち少なくとも2つが、‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)である。言い換えると、トリアリールメタン骨格における少なくとも2つのベンゼン環が、メタ位に‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を有する。
【0046】
より好ましくは、RA、RB、及びRCのいずれもが、‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)である。言い換えると、トリアリールメタン骨格における3つのベンゼン環の全てが、メタ位に‐NH(R1)又は-N(R1)(R2)を有する。
【0047】
上記式(II-1)及び式(II-2)のいずれにおいても、X、Y、及びZは、アミノ基以外の任意の置換基であることができる。すなわち、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルコキシ基、及びスルホ基よりなる群から選択され、ベンゼン環上の任意の位置に存在する1~4個の置換である。好ましくは、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。より好ましくは、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
【0048】
上記式(II-1)及び(II-2)におけるR1及びR2は、上述の式(I-1)及び(I-2)と同様である。すなわち、R1及びR2は、それぞれ独立に、それぞれ置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基である。ヘテロアリールとしては、典型的には、1以上の窒素原子又は酸素原子を含む芳香環を用いることができる。好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは、置換されていてもよい炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。例えば、R1及びR2は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチルであることができる。
【0049】
式(II-1)及び(II-2)においても、R1及び/又はR2がアルキル基である場合、それらが結合する窒素原子及び場合によりベンゼン環を構成する炭素原子を含む環構造を形成してもよい。かかる環構造は、4~10員環、好ましくは、4~6員環であることができ、例えば、前記アルキル基が結合する窒素原子を含む5員又は6員の単環式環構造、又は前記アルキル基が結合する窒素原子及びベンゼン環を構成する2つの炭素原子を含む多環式環構造であることができる。
【0050】
非限定的な具体例として、式(II-1)及び(II-2)において、RA、RB、及びRCのうち少なくとも1つが、N(R1)(R2)であり、かつR1及びR2が、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり;前記アルキル基が結合する窒素原子を含む5員又は6員の単環式環構造を有するか、又は、前記アルキル基が結合する窒素原子及びベンゼン環を構成する2つの炭素原子を含む多環式環構造を有することができる。
【0051】
本発明における式(I-1)及び式(II-1)で表されるカチオン性化合物は、塩として存在する場合がある。そのような塩としては、塩基付加塩、酸付加塩、アミノ酸塩などを挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩などの有機アミン塩を挙げることができ、酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。アミノ酸塩としてはグリシン塩などを例示することができる。もっとも、これらの塩に限定されることはない。
【0052】
本発明の光酸素化触媒に含まれる化合物(以下、単に「触媒化合物」という。)は、置換基の種類に応じて1個または2個以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0053】
また、本発明の触媒化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、水、エタノール、アセトン、イソプロパノールなどの溶媒を例示することができる。
【0054】
本明細書の実施例には、本発明の触媒化合物に包含される代表的化合物についての製造方法が具体的に示されているので、当業者は本明細書の開示を参照することにより、及び当該技術分野における技術常識に基づいて必要に応じて出発原料や試薬、反応条件などを適宜選択することにより、各式に包含される任意の化合物を容易に製造することができる。
【0055】
2.本発明の光酸素化触媒を含む医薬組成物等
本発明の光酸素化触媒は、上述のように、病原性のアミロイド凝集体の酸素化反応を触媒することができる。当該酸素化反応は、光照射によって触媒化合物を励起状態とすることで一重項酸素が生成し、アミロイド中のアミノ酸残基に酸素原子を付加し酸化することにより進行する。これにより、病原性アミロイドの凝集を抑制・低減することができる。
【0056】
したがって、別の態様において、本発明は、光酸素化触媒及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物にも関する。当該医薬組成物は、病原性アミロイドが関連する疾患の予防又は治療薬であることができる。そのため、本発明は、病原性アミロイドの凝集抑制剤を提供するものでもある。
【0057】
「病原性アミロイド」としては、ヒトを含む動物のアルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病、ハンチントン病、全身性アミロイド-シスに関与することが知られている、タウタンパク質、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、アミリン、トランスサイレチン、αシヌクレイン、ハンチンチン等のアミロイドが含まれる。好ましくは、病原性アミロイドは、アミロイドβ又はタウタンパク質が凝集して形成されるアミロイドである。
【0058】
本発明の触媒化合物は、450~900nmの範囲の最大吸収波長(λmax)を有することが好ましく、当該波長で励起状態とすることができることが好ましい。光照射による細胞毒性を回避する観点から、本発明の触媒化合物は、595nm以上の領域に吸収帯を有することが望ましい。かかる長波長側に吸収帯を有することにより、生体透過性の高い長波長光により励起することができる。
【0059】
また、本発明の触媒化合物は、300~550の分子量を有することが好ましい。このような比較的小さい分子量を有することにより、血液脳関門に対する優れた透過性を奏することができる。
【0060】
本発明の医薬組成物は、投与法に応じ適当な製剤を選択し、薬学的に許容される担体を用いて各種製剤の調製法にて調製できる。本発明の触媒化合物を主剤とする医薬組成物の剤形としては例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤や、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、油性ないし水性の懸濁液等を経口用製剤として例示できる。
【0061】
注射剤としては製剤中に安定剤、防腐剤、溶解補助剤を使用することもあり、これらの補助剤を含むこともある溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって固形製剤として用時調製の製剤としてもよい。また一回投与量を一の容器に収納してもよく、また多投与量を一の容器に収納してもよい。
【0062】
また外用製剤として液剤、懸濁液、乳濁液、軟膏、ゲル、クリーム、ローション、スプレー、貼付剤等を例示できる。
【0063】
固形製剤としては、本発明の触媒化合物ともに薬学上許容されている添加物を含み、例えば充填剤類や増量剤類、結合剤類、崩壊剤類、溶解促進剤類、湿潤剤類、潤滑剤類等を必要に応じて選択して混合し、製剤化することができる。液体製剤としては溶液、懸濁液、乳液剤等を挙げることができるが添加剤として懸濁化剤、乳化剤等を含むこともある。
【0064】
本発明の触媒化合物を人体用の医薬として使用する場合、投与量は成人1日あたり1mg~1g、好ましくは1mg~300mgの範囲が好ましい。
【0065】
さらなる態様において、本発明は、上記光酸素化触媒の有効量を投与することを特徴とする、病原性アミロイドが関連する疾患を予防又は治療する方法にも関する。当該方法は、好ましくは、光酸素化触媒の投与後に、患者の患部に体外から光を照射することを含む。上述のように、本発明の光酸素化触媒は、生体透過性の高い長波長光により励起することができるので、静脈内投与等による投与の後に、患者の体外から光照射を行うという非侵襲的手法によって、生体内(脳内等)における病原性アミロイドの凝集・毒性を抑制又は低減することができる。
【0066】
具体的には、本発明の光酸素化触媒を生体内又は細胞内に導入し、化合物が目的とする部位に移行した時点で光を照射すればよい。生体内への投与手段としては、筋肉内注射、静脈内注射、局所投与、経口投与等が挙げられる。
【0067】
病原性アミロイドが関連する疾患としては、ヒトを含む動物のアルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病、ハンチントン病、全身性アミロイド-シス等を挙げることができる。典型的には、病原性アミロイドが関連する疾患は、アルツハイマー病である。
【実施例0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0069】
1.本発明の触媒化合物の合成
1-1.合成例1(化合物9~11)
以下の合成スキームにより、本発明の触媒化合物9~10を合成した。
【化9】
【0070】
<4-ブロモ-N,N-ジプロピルアニリン (S1)>:
DMF(2.8 mL) 中の N,N-ジプロピルアニリン(100mg, 0.564mmol)の撹拌溶液に、NBS(105mg, 0.592mmol)を0℃で加え、混合物を0℃で1時間撹拌した。塩水を加え、水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層を塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して粗S1(131.4mg)を得、これをさらに精製することなく次の反応に使用した。
【0071】
<トリス(4-(ジプロピルアミノ)フェニル)メチリウム(化合物9)>:
THF (3.42 mL) 中の粗S1(131.4 mg) の撹拌溶液に、ヘキサン中の1.6 M nBuLi (385μL、0.616 mmol)を‐78℃で加え、混合物をを‐78℃で30分間撹拌した。その後、炭酸ジエチル(19.9μL, 0.164 mmol)を‐78℃で加え、室温で1日撹拌した。TFAを添加して反応をクエンチし、1M NaOH溶液を添加して中和した(pH7)。水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、化合物9の粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2~18%のMeOH/CH2Cl2)により精製して、紫色の固体である化合物9を得た(TFA塩として、46.5mg、0.0711mmol、 収率43% (2ステップ))。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.27 (d, J = 9.2 Hz, 6H), 6.73 (d, J = 9.2 Hz, 6H), 3.40 (t, J =7.4 Hz, 12H), 1.72-1.65 (m, 12H), 0.96 (t, J = 7.4 Hz, 18H); 13C NMR (CDCl3, 126 MHz) δ176.9, 154.0, 139.7, 126.1, 112.1, 53.1, 20.6, 11.2; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ -74.2; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+ 540.4, Found: 540.2; ESI-HRMS: m/z calcd for C37H54N3 [M]+: 540.4312. Found: 540.4311.
【0072】
<4-ブロモ-N,N-ジイソプロピルアニリン (S2)>:
N,N-ジイソプロピルアニリン(109.9μL, 0.429mmol)のDMF(2.8 mL)撹拌溶液に、NBS (105mg, 0.590mmol) を0℃で加え、混合物を0℃で 1 時間撹拌した。塩水を加え、水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層を塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して粗S2(121.4mg)を得、これをさらに精製することなく次の反応に使用した。
【0073】
<トリス(4-(ジイソプロピルアミノ)フェニル)メチリウム(化合物10)>:
THF (3.16mL) 中の粗S2(121.4mg)の攪拌溶液に、ヘキサン中の1.6M nBuLi (356 μL、0.570 mmol)を‐78℃で加え、混合物を‐78℃で30時間攪拌した。その後、炭酸ジエチル(18.4μL, 0.152mmol)を‐78℃で加え、室温で1日撹拌した。TFAを添加して反応をクエンチし、1M NaOH溶液を添加して中和した(pH=7)。水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して化合物10の粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2~18%のMeOH/CH2Cl2)で精製して、紫色の固体である化合物10を得た(TFA塩として、15.4mg、0.0247mmol、 収率16% (2ステップ))。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.29 (d, J = 9.2 Hz, 6H), 6.94 (d, J = 9.2 Hz, 6H), 4.14 (sep, J= 6.9 Hz, 6H), 1.40 (d, J = 6.9 Hz, 36H); 13C NMR (CDCl3, 126 MHz) δ 176.5, 154.2, 139.2,126.3, 114.8, 48.7, 20.8; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ -74.5; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+540.4, Found: 540.2; ESI-HRMS: m/z calcd for C37H54N3 [M]+: 540.4312. Found: 540.4314.
【0074】
<4-ブロモ-N,N-ジブチルアニリン (S3)>:
N,N-ジブチルアニリン(100mg, 0.487mmol)のDMF(2.6mL)撹拌溶液に、NBS(91 mg, 0.511 mmol)を0℃で加え、混合物を0℃で1時間撹拌した。塩水を加え、水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層を塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して粗S3(128.6mg)を得、これをさらに精製することなく次の反応に使用した。
【0075】
<トリス(4-(ジブチルアミノ)フェニル)メチリウム(化合物11)>:
THF(3.01mL)中の粗S3(128.6mg)の攪拌溶液に、ヘキサン中の1.6 M nBuLi (339μL、0.542mmol)を‐78℃で加え、混合物を‐78℃ で30分間攪拌した。その後、炭酸ジエチル(17.5μL, 0.144mmol)を‐78℃で加え、室温で1日撹拌した。TFAを添加して反応をクエンチし、1M NaOH溶液を添加して中和した(pH=7)。水層をEtOAcで抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、化合物11の粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2~18%のMeOH/CH2Cl2)で精製して、紫色の固体の化合物11を得た(TFA塩として、14.4mg、0.0195mmol、 収率14% (2ステップ)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.30 (d, J = 8.0 Hz, 6H), 6.75 (d, J = 8.0 Hz, 6H), 3.44 (t, J =7.4 Hz, 12H), 1.65 (m, 12H), 1.39 (m, 12H), 0.97 (t, J = 7.4 Hz, 18H); 13C NMR (CDCl3, 126 MHz) δ 176.9, 154.0, 139.8, 126.2, 112.1, 51.3, 29.5, 20.2, 13.9; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz)
δ -74.6; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+ 624.5, Found: 624.4; ESI-HRMS: m/z calcd for C43H66N3 [M]+: 624.5251. Found: 624.5249.
【0076】
1-2.合成例2(化合物12~13)
以下の合成スキームにより、本発明の触媒化合物12~13を合成した。
【0077】
【0078】
<トリス(4-(ピロリジン-1-イル)フェニル)メチリウム(化合物12)>:
THF(3.33mL) 中の1-(4-ブロモフェニル)ピロリジン(113mg, 0.500mmol) の撹拌溶液に、ヘキサン中の1.6 M nBuLi (375μL, 0.600mmol) を‐78℃で加え、混合物を‐78℃で30分間攪拌した。その後、炭酸ジエチル (17.5 μL, 0.160 mmol)を‐78℃で加え、室温で1日撹拌したTFAを添加して反応をクエンチし、1M NaOH溶液を添加して中和した(pH=7)。水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、化合物12の粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2~18%のMeOH/CH2Cl2)で精製して、紫色の固体の化合物12を得た(TFA塩として、23.0mg、0.0408mmol、収率26%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.27 (d, J = 8.6 Hz, 6H), 6.68 (d, J = 8.6 Hz, 6H), 3.51 (t, J =6.9 Hz, 12H), 2.09 (t, J = 6.9 Hz, 12H); 13C NMR (CDCl3, 126 MHz) δ 177.9, 153.0, 139.7,126.5, 112.8, 48.3, 25.3; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ -74.5; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+450.3, Found: 450.8; ESI-HRMS: m/z calcd for C31H36N3 [M]+: 450.2904. Found: 450.2900.
【0079】
<トリス(4-(ピペリジン-1-イル)フェニル)メチリウム(化合物13)>:
THF(3.33mL)中の1-(4-ブロモフェニル)ピペリジン(120mg, 0.500mmol)の撹拌溶液に、ヘキサン中の1.6 M nBuLi (375μL, 0.600mmol) を‐78℃で加え、混合物を‐78℃で30分間攪拌した。その後、炭酸ジエチル(17.5μL, 0.160mmol)を‐78℃で加え、室温で1日撹拌した。TFAを添加して反応をクエンチし、1M NaOH溶液を添加して中和した(pH=7)。水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2~18%のMeOH/CH2Cl2)で精製して、紫色の固体の化合物13を得た(TFA塩として、26.3mg、0.0434mmol、収率27%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.28 (d, J = 9.2 Hz, 6H), 6.92 (d, J = 9.2 Hz, 6H), 3.59 (br, 12H),1.72 (br, 12H); 13C NMR (CDCl3, 126 MHz) δ 176.4, 155.3, 139.9, 126.9, 113.2, 48.4, 25.7,24.2; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ-74.6; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+ 492.3, Found: 492.2; ESI-HRMS: m/z calcd for C34H42N3 [M]+: 492.3373. Found: 492.3371.
【0080】
1-3.合成例3(化合物14)
以下の合成スキームにより、本発明の触媒化合物14を合成した。
【化11】
【0081】
<9-ブロモ-ジュロリジン (S4)>:
ジュロリジン (100 mg, 0.577 mmol) のDMF (2.9 mL) 撹拌溶液に、NBS (108mg, 0.606mmol) を0℃ で加え、混合物を0℃で2時間撹拌した。塩水を加え、水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層を塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して粗S4(131.2mg)を得、これをさらに精製することなく次の反応に使用した。
【0082】
<トリス(2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)メチリウム(化合物14)>:
THF(3.47mL) 中の粗S4(131.2mg) の撹拌溶液に、ヘキサン中の 1.6 M nBuLi (390 μL、0.624 mmol)を‐78℃で加え、混合物‐78℃で30分間撹拌した。その後、炭酸ジエチル(20.2μL, 0.167mmol)を‐78℃で加え、室温で1日撹拌した。1M HClを添加して反応をクエンチし、1M NaOH溶液を添加して中和した(pH=7)。水層をEtOAcで抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して化合物14の粗生成物を得た。これを分取HPLCで精製して、紫色の固体の化合物14を得た(TFA塩として、58.6mg、0.0913mmol、収率55%(2ステップ))。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 6.80 (s, 6H), 3.41 (t, J = 4.9 Hz, 12H), 2.70 (t, J = 5.4 Hz, 12H),1.98 (m, 12H); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δ 175.2, 149.3, 136.3, 126.2, 121.3, 50.5, 27.4,20.8; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ -74.2; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+ 528.3, Found: 528.2; ESI-HRMS: m/z calcd for C37H42N3 [M]+: 528.3373. Found: 528.3373.
【0083】
1-4.合成例4(化合物15)
以下の合成スキームにより、本発明の触媒化合物15を合成した。
【化12】
【0084】
<(4-(ジエチルアミノ)-2-メチルフェニル)ビス(4-(ジエチルアミノ)フェニル)メチリウム(化合物15)>:
THF(1.51mL) 中の 4-ブロモ-N,N-ジエチル-3-メチルアニリン(55mg, 0.227mmol)の攪拌溶液に、ヘキサン中の1.6 M nBuLi (156μL, 0.250mmol)を‐78℃、混合物を‐78℃で30分間攪拌した。その後、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(73.6mg, 0.227mmol)を‐78℃で加え、室温で2日間撹拌した。TFA(52μL、0.681mmol)を添加して反応をクエンチし、混合物を蒸発させた。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2~19%MeOH/CH2Cl2)で精製して、紫色の固体の化合物14を得た(TFA塩として、80.1mg、0.0913mmol、収率60%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.24 (br, 4H), 6.95 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 8.5 Hz, 4H),6.55-6.52 (m, 2 H), 3.54 (q, J = 7.2 Hz, 8H), 3.47 (q, J = 7.2 Hz, 4H), 1.84 (s, 3H), 1.28-1.23(m, 18H); 13C NMR (CDCl3, 100 MHz) δ 177.5, 154.1, 151.9, 144.8, 139.7, 139.6, 127.5,127.2, 114.5, 112.3, 108.9, 45.4, 44.8, 22.3, 12.6, 12.5; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ -74.8;ESI-LRMS m/z calcd for [M]+ 470.4, Found: 470.2; ESI-HRMS: m/z calcd for C32H44N3 [M]+: 470.3530. Found: 470.3530.
【0085】
1-5.合成例5(化合物16)
以下の合成スキームにより、本発明の触媒化合物16を合成した。
【化13】
【0086】
<3,6-ビス(ジエチルアミノ)-9-(4-(ジエチルアミノ)フェニル)キサンチリウム(化合物16)>:
プロピオン酸(5.6mL)中の4-(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒド(100mg)の撹拌溶液に、3-ジエチルアミノフェノール(186mg, 1.13mmol) および p-TsOH・H2O (10.7mg, 0.0564mmol)を加え、混合物を65℃で27時間撹拌した。 室温まで冷却した後、3M NaOAcを添加して塩基性化した。水層をCHCl3で抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。 残渣にMeOH(11mL)、CHCl3(11mL)、クロラニル (69mg, 0.282mmol) を加え、室温で1時間撹拌した。その後、混合物を蒸発させた。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(9%MeOH/CH2Cl2)で精製して、粗化合物16の粗生成物(115.9mg)を得た。この粗生成物16に0.1%TFA水溶液を加え、1M NaOH溶液(pH=7)で中和した。水層をCH2Cl2で抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。 残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アミノシリカ、2~10%MeOH/CH2Cl2)で精製して、赤色固体の化合物16を得た(TFA塩として、89.2mg、0.153mmol、収率27%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.83 (d, J = 9.4 Hz, 2H), 7.21 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 6.80 (dd, J =2.2 Hz, 9.4 Hz, 2H), 6.74 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 3.51 (q, J = 7.2 Hz,8H), 3.39 (q, J = 7.2 Hz, 4H), 1.22 (t, J = 7.2 Hz, 12H), 1.17 (t, J = 7.2 Hz, 6H); 13C NMR(CDCl3, 100 MHz) δ 158.3, 157.7, 154.6, 149.5, 132.5, 132.2, 117.2, 113.1, 112.5, 110.8,96.0, 45.6, 44.3, 12.31, 12.27; 19F NMR (CDCl3, 369 MHz) δ -74.3; ESI-LRMS m/z calcd for [M]+ 470.3, Found: 470.1; ESI-HRMS: m/z calcd for C31H40N3O [M]+: 470.3166. Found: 470.3166.
【0087】
1-6.合成例6(化合物LEV)
以下の合成スキームにより、本発明の触媒化合物であるエチルバイオレット(EV)のロイコ体(LEV)を合成した。
【化14】
【0088】
<4,4',4''-メタントリイルトリス(N,N-ジエチルアニリン) (LEV)>:
EtOH(1mL)中のEV(市販のヘミ塩化亜鉛塩として、200mg、0.357mmol) の撹拌溶液に、NaBH4(121mg、3.21mmol) を0℃で加え、混合物を0℃で2時間撹拌した。0℃で水を加え、水層をCH2Cl2で抽出した。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、ショートパッドシリカゲルで精製し、濾過し、濃縮して、黄白色の固体または油状のLEVを得た(164mg)。
【0089】
2.候補化合物のスクリーニング
まず、光酸素化反応性と触媒化合物の構造との関係を調べるために、600 nmの光を吸収する市販のトリアリールメタン色素を用いて触媒のスクリーニングを行った (
図1)。0.1 M リン酸緩衝液 (PB) 中の凝集した アミロイドβ(Aβ)の溶液に、200mol%の触媒化合物を添加し、混合物に595nmの光を37℃で120分間照射した。 反応混合物をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)で分析し、Aβの酸素化収率を計算した。その結果、
図1下方に示すトリアニリン構造を有する3つの化合物は、ジアニリン構造を持つ5つの化合物と比較して良好な酸素化収率を示した。この結果から、トリアリールメタン構造を有する化合物が優れた酸素化触媒となり得ることが分かった。
【0090】
次に、触媒化合物の量を5mol%に減らし、反応時間を30分に短縮したうえで、種々のアミノ基を有するトリアリールメタン化合物について同様のスクリーニング実験を行った(
図2)。 化合物7は、クリスタルバイオレット、化合物8は、エチルバイオレットであり、化合物9~16は上記1.で合成した化合物である。ジアルキルアミノ置換基の検討では、ジエチルアミノ置換基とした化合物8が、優れた酸素化活性を示した。アルキル基の炭素数を増やした化合物では、いずれも収量は減少した(化合物7~11)。これは、水溶性と Aβへの結合親和性との間のバランスが要因であると考えられる。すなわち、立体障害の少ないアミノ基はより良好な水溶性を示すものの、Aβへの結合親和性を低下させます。一方、より立体障害のあるアミノ基は、Aβへの結合親和性を高めるものの、自己凝集体を形成するために低い水溶性となる。
【0091】
また、環状アミンに関しては、ピロリジン置換体 (化合物12) およびジュロリジン 置換体(化合物14)が良好な収率を与えた。ピペリジン置換体(化合物13)は、水溶性の低下のため収率も低下した。
【0092】
さらなる構造展開として、トリアリールメタン化合物におけるベンゼン環の修飾についても検討した。カルボカチオンのオルト位にメチル基を有する化合物15は、良好な収率を示した。また、芳香環を酸素原子で架橋してローダミン骨格を形成した化合物16も、吸収波長は短くなるものの、良好な収率を示した。
【0093】
3.アミロイド選択性の検証
次いで、上記トリアリールメタン化合物群の触媒活性におけるアミロイド選択性を検証した。上記2.と同じ反応条件下で、化合物8、12、14、15、16について、Aβに対する酸素化活性を測定した。非凝集ペプチドの対照例として、4つのペプチド (アンジオテンシン 4 (AT4)、ソマトスタチン (Sst)、ロイプロレリン (LeuP)、およびサブスタンス P (SubP)) を用いた。結果を
図3に示す。
【0094】
化合物8及び14は、酸素化Aβの収率がそれぞれ73%及び68%であるのに対し、非凝集ペプチドに対する酸素化収率はいずれも6%未満であった。この結果は、本発明の触媒化合物が、Aβの酸素化に対して高い選択性を有することを実証するものである。また、化合物12、15、16もAβの酸化に対する比較的優れた選択性を示した。
【0095】
4.血液脳関門(BBB)透過性の検証
本発明の触媒化合物についてBBB透過性を評価した。マウスに化合物8及び14を静脈内投与し、10分後に脳を摘出した。脳を溶解物にホモジナイズし、脳溶解物中の触媒の量を分析用HPLCで評価した。結果を
図4に示す。
【0096】
図4に示すように、化合物8及び14は、それぞれ0.11%および0.037%の回収率を示し、いずれもBBB透過性を有することが実証された。特に、化合物8は、分子量が低く、平面構造を有するため特に優れたBBB透過性を有していた。
【0097】
5.光酸素化機構の検証
本発明の光酸素化触媒である化合物8(EV)よるAβの酸素化について、さらに詳細な検討を行った。まず、上記同じ条件下で595nmの光を照射して、EVのAβ酸素化の時間依存性を測定した結果、反応は時間の経過とともに良好な収率で進行することが分かった (
図5(a))。また、EVの反応性は、既存の触媒であるアゾベンゼン-ホウ素錯体 (ABB) の約100倍であった。さらに、EVは未照射の場合には酸素化反応性を示さなかったことから、EVによる酸素化反応は光依存的に進行することが示された(
図5(b))。
【0098】
次に、EVの光学特性の検証を行った。EVの吸収及び蛍光スペクトルを
図6に示す。EVの吸収スペクトルでは、凝集したAの存在下で長波長シフトが観察され、凝集したAβとの相互作用によるEVの構造変化が示唆された。 さらに、蛍光スペクトルから、EVは凝集したAβの存在下でのみ蛍光を発することが明らかになった。これは、凝集したAβとの結合がEVの緩和プロセスを阻害し、それによって蛍光発光が生じるものと説明できる。
【0099】
次に、Aβにおいて触媒化合物によって酸素化される残基の特定を行った。具体的には、酵素消化およびMALDI-TOF MS分析により、EVによるAβの酸素化残基を決定した(
図7)。その結果、AβペプチドにおけるHis6、His13、His14、及びMet35の残基で酸素化が検出されました。酸素化のパターンは、ABBで報告されているものと同じであった。 また、MALDI-TOF MS分析では架橋生成物が観察された。この架橋は、酸素化ヒスチジンへの求核性アミノ酸の付加の産物であると考えられ、この結果は、EVとの酸素化反応により、反応生成物の1つとして架橋生成物が得られることを示唆している。
【0100】
6.ロイコ体を用いた光酸素化の検証
さらに、これまで検証した化合物8等のカチオン体の触媒化合物の触媒活性を維持しつつ、それらの細胞毒性を低減し、BBB透過性を向上させる試みを行った。
【0101】
上記のカチオン体で見られた細胞毒性は、カチオン性の触媒化合物がアニオン性細胞膜と相互作用するためであると考えられる。また、一般に、イオン性化合物のBBB透過性は低いことが知られている。このため、トリアリールメタン骨格のカルボカチオンにヒドリドイオンを結合させ中性種としたロイコ体を採用した。かかるロイコ体をプロドラッグとして用いて、酸化刺激によって系中で活性種であるカチオン体を遊離させ、これによりアミロイドの酸素化が生じることを検証した。
【0102】
【0103】
6-1.ロイコ体からカチオン体への変換
まず、ロイコ体(LEV)からカチオン体(EV)への光照射による変換を検討しました。凝集Aβ存在下及び存在下において、化合物8のロイコ体であるロイコエチルバイオレット(LEV)に595nmの光を照射し、吸収スペクトルの経時変化を測定した(
図8)。その結果、時間経過とともに、600nm付近にカチオン体(EV)に相当するピークが出現することが確認された。これは光照射によってロイコ体からカチオン体への変換が進行したことを示すものである。なお、Aβ存在下でのLEVの変換率 (60分で54%) は、Aβ非存在下の場合 (60 分で28%) よりも高かった。同様に、LC-MS分析によってもカチオン体の生成を確認した。
【0104】
この変換工程は、自動酸化によって微量生成したEVカチオン体が光活性な水素原子移動、HAT触媒として、自己触媒的に反応促進したものと考えられる(
図9)。すなわち、光励起したカチオンがロイコ体から水素原子を引き抜き、ラジカル種を生成する。このラジカル種は三重項酸素と反応し、パーオキシルラジカルを生成し、続く水素移動によってカチオンの再生とヒドロパーオキシド種の生成を生じさせる。最後にH
2O
2の脱離を伴いながら、EVカチオンが生成し、自己触媒的に更に反応を促進する、というものである。
【0105】
6-2.ロイコ体によるAβの光酸素化反応
ロイコ体LEVによる凝集Aβの光酸素化反応を観測した。得られた反応収率を、EVを用いた場合と比較した結果を
図10に示す。その結果、LEVによるAβの酸素化は、カチオン体EVの場合と比べて、初速は遅くなるものの、時間経過とともに良好な収率で酸素化の進行が確認された。また、LEVは、EV と同様に非照射時に酸素化反応性を示さなかったが、これはLEV からEVへの光照射による変換と、
1O
2の生成によって説明される。
【0106】
6-3.アミロイド選択性の評価
次に、アミロイド選択性の評価を行った。本実験では、より夾雑系に近い、凝集Aβと種々のオフターゲットペプチドの混合液中での反応を観測した。凝集Aβに対する反応が同程度進行するようにそれぞれの触媒化合物の量を、アゾベンゼンボロン錯体200mol%、カチオン体EV 5mol%、ロイコ体LEV 10mol%とし、オフターゲットペプチドの酸素化収率を比較した。結果を
図11に示す。その結果、ロイコ体で最も高い選択性を示すことが明らかとなった。これは、凝集Aβ近傍でのみ活性種であるカチオン体が生成しているためであると考えられる。
【0107】
6-4.細胞毒性の検証
次に、ロイコ体LEVについて細胞毒性を検証した。PC12神経細胞を用い、LEV投与後、光照射・非照射それぞれの条件にて細胞生存数よりLD50値を求めました。結果を
図12に示す。その結果、カチオン体EVではLD50は光照射時0.043μM、 非照射時0.136μMといずれも高い毒性を示したのに対し、ロイコ体LEVでは光照射時0.619μM、非照射時10uM以上となり細胞毒性が大幅に低減されることが分かった。
【0108】
6-5.血液脳関門(BBB)の評価
次に、ロイコ体LEVのBBB透過性を評価した。上記4.と同様にして脳からの回収量を定量した結果を
図13に示す。ロイコ体LEVは10分時点にて1.97%と高いBBB透過性を示した、これは、カチオン体EVや従来型触媒のアゾベンゼンボロン錯体の透過性を上回るものであった。この結果より、ロイコ体LEVをプロドラッグとして利用することで生体内反応への応用可能性が向上することが示唆された。
【0109】
7.他のアミロイドへの適用
EV及びLEVの2種の触媒化合物について、Aβ以外のアミロイドへの適用について検討した。結果を
図14に示す。その結果、EV及びLEVはいずれも、アルツハイマー病に関与するAβ、タウタンパク質、インスリンアミロイドーシスに関与するインスリン、パーキンソン病に関与するαシヌクレイン、ATTRアミロイドーシスに関与するトランスサイレチンなど、種々のアミロイドに対して良好な収率で酸素化を進行させることが分かった。
【0110】
8.in vivoでの適用
続いて、生体内への適用を目指し、まずAβが蓄積するアルツハイマー病モデルマウスの脳ライセートにおいてEV及びLEVによる酸素化反応を検討した。脳ライセート中に触媒を添加し、595nmの光照射を3時間行い、抗Aβ抗体を用いてウエスタンブロッティングにて解析した(
図15)。その結果、エチルバイオレット、ロイコエチルバイオレットを触媒として使用したときに10kDa付近にバンドが検出された。これは、5kDa付近のモノマーAβどうしがクロスリンクしたダイマーであると予想される。また、アゾベンゼンボロン錯体ではこの10kDa付近のダイマーバンドを与えなかったことから、EV及びLEVはライセートのような夾雑環境下でも反応を進行させることが示唆された。
【0111】
次に、個体マウスを用いて、脳内での光酸素化を検討した。6カ月齢のモデルマウスに対して、EV及びLEVを静脈内投与し、頭部に光照射を行った。これを5回繰り返し、脳を摘出してウエスタンブロッティングにてAβの酸素化を評価した(
図16)。その結果、EV及びLEVで処置したマウスのレーンにて酸素化生成物と想定されるダイマーバンドが検出された。また、頭部の外傷についても、ロイコ体では全く外傷が見られなかった。これらの結果は、BBB透過性や標的選択性の向上により、頭皮組織での活性酸素生成が抑えられたためであると考えられる。
【0112】
さらに、疾患の予防効果を検証するため、2か月間の慢性投与実験を行った。
3か月齢モデルマウスに対して、上記と同様の処置を2か月間継続し、その後、脳を摘出してウエスタンブロッティングにて評価した(
図17)。その結果、EV及びLEVで処置したマウスのレーンにおいて、Aβの酸素化を示唆するダイマーバンドが検出されました。なお、この時、処置したマウスのレーンにてモノマーAβの減少も確認されましたが、酸素化を受けたAβが代謝促進されたためであると考えられる。
【0113】
9.ヒト患者への適用
ヒトアルツハイマー病患者サンプルにおいて、アミロイドの光酸素化の検討を行った。ヒトサンプルの脳ライセートにEV及びLEVを添加し、595nmの光照射を3時間行い、ウエスタンブロッティングにて解析した(
図18)。その結果、EV及びLEVで処理したサンプルにてダイマーAβバンドが検出されており、酸素化の進行が示唆された。
【0114】
また、サンプル中のタウ抗体についても評価したところ、モノマータウの減少と酸素化生成物と思われるクロスリンク体の生成が確認された。これらの結果は、本発明の光酸素化触媒を用いることで、ヒトサンプル中においても、病原性アミロイドであるAβ及びタウのいずれに対しても光酸素化反応が進行することを実証するものである。