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特開2024-124327カーボンブラック組成物及び紫外線硬化型樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124327
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】カーボンブラック組成物及び紫外線硬化型樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20240905BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20240905BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240905BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C1/48
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203997
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2023031192
(32)【優先日】2023-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】石津 誠
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037BB15
4J037BB16
4J037CA19
4J037EE28
4J037FF03
4J038FA111
4J038FA112
4J038FA281
4J038FA282
4J038HA026
4J038HA356
4J038KA06
4J038PA17
(57)【要約】
【課題】紫外線硬化性を妨げることなく、高い黒色度の紫外線硬化型樹脂組成物を実現することができるカーボンブラック組成物と、このカーボンブラック組成物を用いた紫外線硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】カーボンブラックと硫黄成分とを含有する、紫外線硬化型樹脂における硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物であって、カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(全硫黄量)が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上であるカーボンブラック組成物。カーボンブラックと硫黄成分と紫外線硬化型樹脂とを含有する紫外線硬化型樹脂組成物であって、カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(全硫黄量)が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上である紫外線硬化型樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと硫黄成分とを含有する、紫外線硬化型樹脂における硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物であって、
カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(全硫黄量)が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上であるカーボンブラック組成物。
【請求項2】
紫外線硬化型樹脂と、請求項1に記載のカーボンブラック組成物とを含む紫外線硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
カーボンブラックと硫黄成分と紫外線硬化型樹脂とを含有する紫外線硬化型樹脂組成物であって、
カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(全硫黄量)が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上である紫外線硬化型樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線(UV)硬化型樹脂における硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物と、このカーボンブラック組成物を含む紫外線硬化型樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック(以下、「CB」と略記することがある。)は、隠蔽力が高く、優れた黒色顔料として、印刷インキ、塗料や、各種樹脂組成物の分野において広く用いられている。従来、これらの分野において、カーボンブラックによる着色性を向上させるために、カーボンブラックを溶剤や樹脂中に均一に分散させるべく、カーボンブラックの表面を様々な表面処理剤で表面処理することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、カーボンブラックは、良好な紫外線吸収剤としても広く利用されているものであり、紫外線硬化型樹脂に配合すると、紫外線を吸収して硬化遅延を引き起こす。
また、黒色度を上げるべく、カーボンブラックの配合量を多くする、小粒子径のカーボンブラックを適用すると紫外線硬化性が損なわれ、紫外線硬化性と黒色度は相反する適性である。紫外線硬化性を確保するためには、カーボンブラックの配合量の上限が設定されていた(例えば、特許文献2)。
【0004】
このようなことから、硬化遅延を引き起こすことがなく、高い黒色度と紫外線硬化性との両立が可能なカーボンブラックの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-186704号公報
【特許文献2】特開2012-214639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、紫外線硬化性を妨げることなく、高い黒色度の紫外線硬化型樹脂組成物を実現することができる硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物と、このカーボンブラック組成物を用いた紫外線硬化型樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、カーボンブラックの硫黄分に着眼し、硫黄成分を混合・添着・配合することにより、紫外線硬化型樹脂の硬化を維持ないしは向上させた上で、高い黒色度の紫外線硬化型樹脂組成物を得ることができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] カーボンブラックと硫黄成分とを含有する、紫外線硬化型樹脂における硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物であって、カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(全硫黄量)が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上であるカーボンブラック組成物。
【0009】
[2] 紫外線硬化型樹脂と、[1]に記載のカーボンブラック組成物とを含む紫外線硬化型樹脂組成物。
【0010】
[3] カーボンブラックと硫黄成分と紫外線硬化型樹脂とを含有する紫外線硬化型樹脂組成物であって、カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(全硫黄量)が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上である紫外線硬化型樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物は、紫外線硬化型樹脂の紫外線硬化性を維持ないしは向上させた上で、高い黒色度を発現するものである。
このため、本発明の硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物によれば、これを紫外線硬化型樹脂に配合することにより、カーボンブラックの配合量を多くすること、小粒子径カーボンブラックの適用も可能となり、紫外線硬化性に優れ、しかも黒色度が高く、隠蔽力の高い紫外線硬化型樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明の紫外線硬化型樹脂組成物によれば、紫外線硬化性に優れ、しかも黒色度が高く、隠蔽力の高い紫外線硬化型樹脂組成物を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に例示する物や方法等は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの内容に特定はされない。
【0013】
[カーボンブラック組成物]
本発明の硬化性改良型着色用カーボンブラック組成物(以下、単に「本発明のカーボンブラック組成物」と称す場合がある。)は、カーボンブラックに硫黄成分を共存、例えば、混合、配合、添着させてなるものであって、カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量(以下、「全硫黄量」と称す場合がある。)が硫黄原子基準で8000重量ppm以上であるカーボンブラック組成物である。後掲の実施例では、硫黄成分による本発明の効果を有効に発現させるために混合・添着・配合する硫黄成分として硫黄粉末である八硫黄を用いているが、本発明に係る硫黄成分は、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明のカーボンブラック組成物は、カーボンブラックに硫黄成分が添着されていること、カーボンブラックと硫黄成分との混合物であること、カーボンブラックと硫化物イオンなどの表面改質剤を反応させた生成物であること、または、紫外線硬化型樹脂への分散時に硫黄成分を別々に添加したものであること、等の態様が挙げられ、いずれも後掲の実施例に示されるように本発明の効果を得ることができる。
【0015】
<カーボンブラック>
本発明で用いるカーボンブラックとしては特に制限はなく、市販のカーボンブラックを用いることができる。
なお、市販のカーボンブラックの中には、キャボット社製EMPEROR(登録商標)2000、MOGUL(登録商標)-Hのように全硫黄量がそれぞれ19000ppm、12000ppm(本発明者による分析結果)と、硫黄原子基準で8000重量ppm以上の硫黄を含有するカーボンブラックも存在する。しかし、前者のカーボンブラックは、水系媒体中で良分散性の高漆黒水性塗料用で、特に自動車塗料に適用されている。また、後者は、コーティング(塗料)配合物やその他の液体分散体として、溶剤系の塗料用途として配合されるものである。即ち、これらは、いずれも紫外線硬化型樹脂への適用やその効果について、当業者には認識されていない。
【0016】
カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラックなど公知のカーボンブラックが挙げられる。これらのうち、遮蔽性の観点からチャンネルブラックやファーネスブラックが好ましい。
【0017】
カーボンブラックの粒径にも特に制限はないが、黒色度の観点から平均一次粒子径として10~30nmであることが好ましく、10~20nmであることがより好ましい。ここで、カーボンブラックの平均一次粒子径は、ASTM D3849-95により測定することができるが、市販品であればカタログ値を採用することができる。実施例並びに比較例に用いたカーボンブラックの平均一次粒子径の値を<表-1>、<表-2>に記した。
【0018】
カーボンブラックは、品種や粒径の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
<硫黄成分>
本発明で用いる硫黄成分は、特に限定されず、例えば、金属硫黄(硫化鉄、硫化銅等)、硫化物(硫化カルシウム、硫化ナトリウム、硫化ケイ素、硫化リン、二硫化炭素等)、二酸化硫黄、三酸化硫黄、六硫黄、八硫黄等の結晶化硫黄等が挙げられる。
これらは、2種以上含んでいてもよく、硫黄成分としては、カーボンブラック製造の過程で原料油・燃料などに含まれる硫黄に由来して製品カーボンブラックに含有されている硫化物やカーボンブラックの表面改質剤として使用されるスルフォン基などの硫黄系表面官能基も含まれる。
本発明では、好ましくは、硫黄粉末の代表となる八硫黄(Octasulfur)又はオクタチオカン(octathiocane)が用いられる。八硫黄は、市販品を用いることができる。
【0020】
本発明のカーボンブラック組成物における全硫黄量は、後述する測定方法を用いて、カーボンブラックに対して硫黄原子基準で8000重量ppm以上であり、好ましくは10000重量ppm以上、より好ましくは12000重量ppm以上、更に好ましくは14000重量ppm以上である。
全硫黄量が上記下限以上であれば、カーボンブラックに硫黄成分を混合、添着若しくは配合することにより、紫外線硬化性と黒色度の向上効果を有効に得ることができる。
全硫黄量は多い程上記効果に優れるが、硫黄成分による腐食の観点等から、全硫黄量は、カーボンブラックに対して3万重量ppm以下であることが好ましく、2.5万重量ppm以下であることがより好ましく、2万重量ppm以下であることが更に好ましい。
【0021】
<硫黄成分の混合・配合・添着方法>
カーボンブラックと硫黄成分とを混合・配合・添着する方法としては、特に制限はなく、カーボンブラックと硫黄成分とが、共存していればよい。
例えば、混合方法としては、カーボンブラックや紫外線硬化型樹脂を分散する前に予備混合(プレミックス)する方法が挙げられる。
配合方法としては、塗料組成物、印刷インキ組成物を分散する際や分散後に後添加して配合する方法が挙げられる。
添着方法としては、後述の実施例の項に示されるように、八硫黄をクロロホルム、トルエン等の有機溶媒に溶解させた溶液で、カーボンブラックを処理した後、溶媒を除去する方法が挙げられる。
硫黄成分として、八硫黄を用いる場合、その溶解液の八硫黄濃度は、クロロホルムへの溶解度を考慮して500~1万重量ppm、特に5000~1万重量ppmの範囲であることが好ましい。八硫黄濃度が上記下限以上であれば、八硫黄の添着効率に優れる。八硫黄濃度が上記上限以下であれば、八硫黄のクロロホルムへの溶解度が維持され未溶解の八硫黄が残存せずに添着溶解液として正確に添着することが出来る。
この八硫黄溶解液の八硫黄濃度や処理時間を調整することにより、カーボンブラックへの八硫黄添着量を制御することができる。
【0022】
<その他の成分>
本発明のカーボンブラック組成物は、カーボンブラック及び硫黄成分以外の他の成分を含んでいてもよいが、本発明のカーボンブラック組成物を黒色顔料として用いる観点から、本発明のカーボンブラック組成物は、実質的にカーボンブラックと硫黄成分とからなることが好ましい。ここで、実質的にカーボンブラックと硫黄成分とからなるとは、本発明のカーボンブラック組成物中のカーボンブラックと硫黄成分との合計含有量が98重量%以上であって、その他の成分が2重量%以下であることをさす。
【0023】
[紫外線硬化性樹脂組成物]
本発明の紫外線硬化性樹脂組成物は、紫外線硬化型樹脂と、本発明のカーボンブラック組成物とを含む紫外線硬化型樹脂組成物、又は、カーボンブラックと硫黄成分と紫外線硬化型樹脂とを含有する紫外線硬化型樹脂組成物であって、カーボンブラックに対する硫黄成分の合計の含有量が、硫黄原子基準で8000重量ppm以上である紫外線硬化型樹脂組成物である。
【0024】
<紫外線硬化型樹脂>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物に含まれる紫外線硬化型樹脂としては特に制限はなく、ウレタン、エポキシ、ポリエステルアクリレート樹脂のモノマー、オリゴマー等、一般的な樹脂を用いることができる。これらの紫外線硬化型樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
<硫黄成分>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物に含まれる硫黄成分としては、前述の本発明のカーボンブラック組成物に含まれる硫黄成分と同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物における全硫黄量は、後述する測定方法を用いて、カーボンブラックに対して硫黄原子基準で8000重量ppm以上であり、好ましくは10000重量ppm以上、より好ましくは12000重量ppm以上、更に好ましくは14000重量ppm以上である。
全硫黄量が上記下限以上であれば、カーボンブラックとともに硫黄成分を含むことによる紫外線硬化性と黒色度の向上効果を有効に得ることができる。
全硫黄量は多い程上記効果に優れるが、硫黄成分による腐食の観点等から、全硫黄量は、カーボンブラックに対して3万重量ppm以下であることが好ましく、2.5万重量ppm以下であることがより好ましく、2万重量ppm以下であることが更に好ましい。
本発明の紫外線硬化性組成物に硫黄成分を含有させる方法としては、カーボンブラックとして本発明のカーボンブラック組成物を用いて、これを紫外線硬化性樹脂等と混合する方法、あるいは、カーボンブラックとともに硫黄成分を紫外線硬化性樹脂等と混合する方法などが挙げられる。
【0026】
<カーボンブラック>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物に含まれるカーボンブラックとしては、前述の本発明のカーボンブラック組成物に含まれるカーボンブラックと同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物におけるカーボンブラックの含有量は、必要とされる黒色度によって適宜決定されるが、紫外線硬化型樹脂組成物中の含有量として、3重量%以上が好ましく、さらに好ましくは5重量%以上、8重量%以上が好ましい。カーボンブラックの含有量が上記下限以上であれば高い黒色度を得ることができる。一方、硬化性と流動性とのバランスの観点から、本発明の紫外線硬化型樹脂組成物中のカーボンブラック含有量は20重量%以下、特に15重量%以下であることが好ましい。
【0027】
<その他の成分>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物には、紫外線硬化型樹脂及び本発明のカーボンブラック組成物以外に、或いは、紫外線硬化性樹脂、カーボンブラック及び硫黄成分以外に、通常、紫外線硬化型樹脂組成物の調製に用いられる光重合開始剤や反応性希釈剤、フィラー、酸化防止剤、硬化促進剤、消泡剤、難燃剤、カーボンブラック以外の着色剤、補色剤等の添加剤、更に硫化物、非反応性希釈剤等を含んでいてもよい。
その他の成分として硫化物を更に含む場合、前記の紫外線硬化型樹脂と前記のカーボンブラック組成物と共に該硫化物を共存させる態様が挙げられる。
【0028】
<紫外線硬化型樹脂組成物の製造方法>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、紫外線硬化型樹脂と本発明のカーボンブラック組成物と、光重合開始剤や反応性希釈剤等のその他の添加剤を所定の割合で配合後、室温にて3本ロールミル等により混合分散させて製造することができる。
【0029】
<紫外線硬化型樹脂組成物の硬化方法>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物は、用いた紫外線硬化型樹脂及び光重合開始剤等の種類に応じて、所定量の紫外線を照射することで硬化させることができる。
【0030】
<紫外線硬化型樹脂組成物の用途>
本発明の紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化性を損なうことなく優れた黒色度を発現することができることから、黒色塗料(黒色塗膜形成材料)として、プラスチック表面塗装(化粧品容器、飲料缶、ヘッドライト、PC、スマートフォン、電気製品等の筐体、車輛用の部品)など好適に用いることができる。
【実施例0031】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0032】
[塗膜の評価方法]
以下の実施例及び比較例で形成された塗膜の紫外線硬化性と黒色度の評価方法は以下の通りである。
【0033】
<紫外線硬化性>
塗膜を形成したPETフィルムを殺菌保管庫:DM-90(殺菌ランプ:253.7nm)に入れ、UV照射(1.3mw/cm)を開始し、指定時間(1分後~内部硬化するまで)経過する毎に取出し、指触で表面硬化及び内部硬化するまでUV照射を継続し、指触で擦っても塗膜の破れや歪みが無くなった時点で、内部硬化が完了したと判断した。内部硬化が完了するまでの時間を硬化時間とし、内部硬化までに要した積算光量と硬化時間で紫外線硬化性を評価した。
積算光量(mJ/cm)は、紫外線強度×照射時間(秒)で算出した。
また、算出した積算光量から、硬化性を下記基準で評価した。
(硬化性の評価基準)
◎:積算光量 1500mJ/cm未満
〇:積算光量 1500mJ/cm以上1800mJ/cm未満
△:積算光量 1800mJ/cm以上2000mJ/cm以下
×:積算光量 2000mJ/cm
【0034】
<黒色度>
紫外線硬化性の評価が完了した塗膜について、色差計(日本電色工業社製)を用いて、PETフィルムの裏面(塗膜形成面の反対側)から反射濃度(L値)を求めて黒色度とした。このL値が小さい程、黒色度が高い。
【0035】
[八硫黄の添着方法]
以下の実施例1~7で用いた八硫黄添着処理カーボンブラックは、以下の方法で製造した。
八硫黄(関東化学社製 試薬特級)をクロロホルム溶媒に溶解させて、八硫黄濃度500、2500、5000重量ppm及び1万重量ppmの添着用の八硫黄溶解液をそれぞれ調製した。
三菱カーボンブラック#2650又は#3230(いずれも三菱ケミカル社製)を撹拌しながら、各々所定濃度に調整した八硫黄溶解液を少量ずつ滴下することで、カーボンブラックに対する八硫黄添加量が1000、5000、1万又は2万重量ppmとなるように添加した。その後、1昼夜ドラフト内で風乾した後、60℃に設定した真空乾燥機で5時間乾燥を行って、クロロホルムを除去して八硫黄添着処理カーボンブラックを得た。
なお、比較例1,2では、三菱カーボンブラック#2650又は#3230に、八硫黄を溶解させていないクロロホルムのみを用いて同様の処理を行い、それぞれ八硫黄を添着していないカーボンブラック(八硫黄非添着カーボンブラック)を得た。
また、比較例3では、八硫黄溶解液をカーボンブラックに対する八硫黄添着量が1000重量ppmとなるように添加した。その後、1昼夜ドラフト内で風乾した後、60℃に設定した真空乾燥機で5時間乾燥を行って、クロロホルムを除去して八硫黄添着処理カーボンブラックを得た。
【0036】
[硫黄量定量分析方法]
以下の実施例及び比較例におけるカーボンブラック中の全硫黄量の定量分析方法は、以下の通りである。
全硫黄測定方法は、105℃、1時間乾燥したカーボンブラック5~10mgを精秤し、1100℃に設定した自動燃焼装置(AQF-2100H)で燃焼させ、吸収液に吸収後、イオンクロマト(ICS-1600)で硫黄原子として定量した。
また、八硫黄は、以下のようにして定量分析した。
105℃で1時間乾燥したカーボンブラック7g程度を精密に量り取り、これを特級クロロホルム50mLとともに蓋つきのガラス製広口瓶に入れ、ペイントシェイカーで30分間振とうした。得られた分散液をADVANTEC社製 定性濾紙No.2でろ過し、続いてディスポーザブルろ過フィルター(孔径0.2μm)でろ過してろ液を得た。このろ液をサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフDionex ICS-1600で硫黄の原子の量として定量した。
【0037】
[実施例1]
UV硬化型樹脂ビームセット575(荒川化学工業社製 ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂)に、カーボンブラック#2650(三菱ケミカル社製)に対カーボンブラック当たり1000重量ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを、UV硬化型樹脂に対する顔料濃度が10重量%となるようにポリカップ内で混合し、3本ロールミル分散機(井上製作所製)にて、素通し2パスした後、締め付け圧力を2.0MPaに設定し、更に5パスして分散ペーストを調製した。
得られた分散ペーストを5.0g秤量し、トルエン2.0gを加えて粘度調整を実施した後、光重合開始剤Omnirad 754(IGM社製)0.50gを更に加えて、UV硬化型塗料を調製した。
調製したUV硬化型塗料をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚み125μm)上に適量置き、No.20バーコーター(Wet膜厚:45.80μm)を用いて展色した。
展色した塗膜を140℃に設定した防爆型乾燥機で3分間乾燥してトルエンを除去し、評価用塗膜を作成した。
この評価用塗膜について、前述の方法で紫外線硬化性と黒色度の評価を行った。
また、前述の方法で硫黄定量分析を行った。
これらの結果を表-1に示す。
【0038】
[実施例2]
八硫黄添着処理カーボンブラックとして、カーボンブラック#2650に対カーボンブラック当たり5000重量ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0039】
[実施例3]
八硫黄添着処理カーボンブラックとして、カーボンブラック#2650に対カーボンブラック当たり1万重量ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0040】
[実施例4]
八硫黄添着処理カーボンブラックとして、カーボンブラック#2650に対カーボンブラック当たり2万重量ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0041】
[比較例1]
八硫黄添着処理カーボンブラックの代りに、八硫黄非添着カーボンブラック#2650を用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0042】
[実施例5]
八硫黄添着処理カーボンブラックとして、カーボンブラック#3230(三菱ケミカル社製)に対カーボンブラック当たり5000重量ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.5gとした。)、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0043】
[実施例6]
八硫黄添着処理カーボンブラックとして、カーボンブラック#3230に対カーボンブラック当たり1万ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.5gとした。)、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0044】
[実施例7]
UV硬化型樹脂ビームセット575(荒川化学工業社製)に、八硫黄(関東化学社製 試薬特級)を対カーボンブラック当たり5000重量ppmになるように直接配合した混合物に、カーボンブラック#3230をUV硬化型樹脂に対して顔料濃度10質量%となるようにポリカップ内で混合し、3本ロールミル分散機(井上製作所製)にて、素通し2パスした後、締め付け圧力を2.0MPaに設定し、更に5パスして分散ペーストを作成した。
この分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.5gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-1に示す。
【0045】
[実施例8]
UV硬化型樹脂ビームセット575(荒川化学工業社製)に、キャボット社製EMPEROR(登録商標)2000を、UV硬化型樹脂に対する顔料濃度が10重量%となるようにポリカップ内で混合し、3本ロールミル分散機(井上製作所製)にて、素通し2パスした後、締め付け圧力を2.0MPaに設定し、更に5パスして分散ペーストを調製した。
ここで用いたEMPEROR(登録商標)2000は、「水性自動車用塗料で優れた性能を発揮するために特別に設計された顔料ブラック」であり、「独自の化学的表面処理を採用して、高漆黒度、ブルーの底色、光沢、および鮮映性光沢を実現し、また、独自の表面処理によって分散が容易になり、塗料の安定性が向上し、耐候性が改善される」とされているものであり、紫外線硬化型樹脂への適用やその効果、配合例は知られていない(https://www.cabotcorp.jp/solutions/products-plus/specialty-carbon-blacks/high-color)。
得られた分散ペーストを5.0g秤量し、トルエン2.0gを加えて粘度調整を実施した後、光重合開始剤Omnirad 754(IGM社製)0.50gを更に加えて、UV硬化型塗料を調製した。
調製したUV硬化型塗料をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚み125μm)上に適量置き、No.20バーコーター(Wet膜厚:45.80μm)を用いて展色した。
展色した塗膜を140℃に設定した防爆型乾燥機で3分間乾燥してトルエンを除去し、評価用塗膜を作成した。
この評価用塗膜について、前述の方法で紫外線硬化性と黒色度の評価を行った。
また、前述の方法で硫黄定量分析を行った。
これらの結果を表-1に示す。
【0046】
[実施例9]
EMPEROR(登録商標)2000をキャボット社製MOGUL(登録商標)-Hに変更し、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量を1gとしたこと以外は実施例8と同様にして評価用塗膜を作成し、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
ここで用いたMOGUL(登録商標)-Hは、ストラクチャー構造が発達した酸化処理カーボンブラックであり、コーティング(塗料)配合物やその他の液体分散体として適用され、特に溶剤系の塗料用途の配合例が示されているのみであり、紫外線硬化型樹脂への適用やその効果、配合例は知られていない(https://www.chem-on.com.sg/image/catalog/product_catalog/TDS%20-%20MOGUL%20H.pdf)。
【0047】
[比較例2]
八硫黄添着処理カーボンブラックの代りに、八硫黄非添着カーボンブラック#3230を用いたこと以外は実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.5gとした。)、同様に評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0048】
[比較例3]
八硫黄添着処理カーボンブラックとして、カーボンブラック#3230に対カーボンブラック当たり1000重量ppmの八硫黄を添着したカーボンブラックを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.5gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-1に示す。
【0049】
[比較例4]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラック#2600(三菱ケミカル社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し、(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は2.0gとした。)同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0050】
[比較例5]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラックMA100(三菱ケミカル社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.0gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0051】
[比較例6]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラック#40(三菱ケミカル社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は1.0gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0052】
[比較例7]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラックMA11(三菱ケミカル社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は0.8gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0053】
[比較例8]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラックMA220(三菱ケミカル社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は0.3gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0054】
[比較例9]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラックFW255(オリオン社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は2.5gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0055】
[比較例10]
カーボンブラック#3230の代りにカーボンブラックRAVEN5000UIII(ビルラ社製)を用いたこと以外は比較例2と同様に分散ペーストを調製し、得られた分散ペーストを用いて、実施例1と同様に評価用塗膜を作成し(ただし、UV硬化型塗料調製時のトルエン添加量は2.5gとした。)、同様に評価を行った。結果を表-2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
上記の表-1,2から明らかなように、本発明のカーボンブラック組成物である八硫黄添着カーボンブラックを用いた実施例1~6、カーボンブラックと八硫黄とを配合した実施例7、または、全硫黄が規定量以上の実施例8、9では、黒色度に影響されることなく、紫外線硬化性が優れたものを得ることができ、本発明のカーボンブラック組成物又は本発明の紫外線硬化性樹脂組成物によれば、紫外線硬化性と黒色度のバランスを高度に高めることができることが分かる。
これに対して、市販のカーボンブラックをそのまま用いた比較例4~10では、高い黒色度を得ることができるものは紫外線硬化性が悪くなり、紫外線硬化性に優れるものは黒色度が低い。
なお、比較例1,2は、カーボンブラックを単にクロロホルムで処理したのみであり、黒色度に影響は無いが紫外線硬化性は低下する。
また、比較例3は、全硫黄量が少ないため、硬化性の改良効果が小さい。