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特開2024-124336化合物、組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサ
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  • 特開-化合物、組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124336
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】化合物、組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサ
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20240905BHJP
   H10K 39/32 20230101ALI20240905BHJP
   H10K 85/40 20230101ALI20240905BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240905BHJP
   H10K 30/60 20230101ALN20240905BHJP
   H10K 30/30 20230101ALN20240905BHJP
【FI】
C07D495/04 101
C07D495/04 CSP
H10K39/32
H10K85/40
H10K85/60
H10K30/60
H10K30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221468
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2023031592
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023095406
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康生
(72)【発明者】
【氏名】毛利 和弘
【テーマコード(参考)】
3K107
4C071
4M118
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107EE68
4C071AA01
4C071AA08
4C071BB01
4C071BB05
4C071CC22
4C071EE13
4C071FF23
4C071GG04
4C071JJ07
4C071LL05
4M118AA10
4M118AB01
4M118BA07
4M118BA14
4M118CA14
4M118CB14
4M118CB20
4M118GA08
4M118GC07
4M118GD04
4M118GD15
4M118HA26
5F149AB11
5F149BA01
5F149BA30
5F149BB03
5F149CB05
5F149FA04
5F149FA05
5F149GA02
5F149LA01
5F149XA01
5F149XA43
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性に優れる光電変換素子を実現し得る化合物と、この化合物を用いた組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサの提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、化合物。

一般式(1)中、X~Xは独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であり、Y及びYは独立に、アルキル基、アルコキシ基又はエステル基であり、Z及びZは独立に、酸素原子又はジシアノメチレン基であり、Mはアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子、アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子又はアルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、化合物。
【化1】
一般式(1)中、X~Xは各々独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であり、Y及びYは各々独立に、アルキル基、アルコキシ基又はエステル基であり、Z及びZは各々独立に、酸素原子又はジシアノメチレン基であり、Mはアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子、アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子又はアルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子である。
【請求項2】
前記一般式(1)中のZ及びZがジシアノメチレン基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のX、X、X及びXが水素原子であり、X、X、X及びXが各々独立に、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のMがアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)中のY及びYがアルコキシ基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記一般式(1)中のYがアルコキシ基であり、Yがアルキル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を含有する、組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を含有する、膜。
【請求項9】
請求項8に記載の膜を備えた、光電変換素子。
【請求項10】
請求項9に記載の光電変換素子を備えた、CMOSイメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に用いられる半導体材料として好適な化合物、組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子を備えたCMOSイメージセンサは、例えばデジタルカメラやスマートフォンの撮像素子として使用されている。
CMOSイメージセンサには、無機系CMOSイメージセンサと有機系CMOSイメージセンサがあり、シリコンフォトダイオードを用いた無機系CMOSイメージセンサが一般的に使用されている。
一方、有機系CMOSイメージセンサは、有機薄膜の高い光吸収能を活かすことで、高解像度及び幅広いダイナミックレンジの実現と、画像が歪みにくいグロバールシャッターの搭載の両立が可能となる。このように、有機系CMOSイメージセンサであれば、無機系CMOSイメージセンサでは困難な高度なダイナミックレンジとグロバールシャッター搭載の両立の課題を解決できるとされているため、有機系CMOSイメージセンサに適した材料が求められている。
【0003】
有機系CMOSイメージセンサに備わる光電変換素子(以下、「有機光電変換素子」ともいう。)では、光電変換素子を構成する有機薄膜(光電変換層)に用いられるp型半導体材料とn型半導体材料の分子設計により、光電変換能や吸収波長域の制御が可能である。近年、n型半導体材料として、非フラーレンアクセプターを用いた素子において高光変換能が報告されている。非フラーレンアクセプターを用いた光電変換素子では、吸収波長域制御の役割は主にn型半導体材料が担っている。
n型半導体材料(光吸収材料かつ電子輸送材料)としては、電子アクセプター(A)部と電子ドナー(D)部とを有する化合物、所謂A-D-A型化合物が知られている。
【0004】
A-D-A型化合物としては、シクロペンタジチオフェンを中心ドナー(D)部とし、特定の置換基で置換されたチオフェン環(D)、(D)でD部を挟んだ、A-D-D-D-A型化合物が知られている。例えば非特許文献1には、A-D’-D-D’-A型化合物である下記式(a)で表される化合物、A-D’-D-D”-A型化合物である下記式(b)で表される化合物、A-D”-D-D”-A型化合物である下記式(c)で表される化合物が開示されている。ここで、D’はアルコキシ基で置換されたチオフェン環を示し、D”はアルキル基で置換されたチオフェン環を示す。非特許文献1によれば、下記式(a)で表される化合物が最も吸収波長の長波長化を達成できるとしている。下記式(a)で表される化合物は、下記式(b)又は下記式(c)で表される化合物のD”部において、チオフェン環に結合したアルキル基を強力な電子供与性基であるアルコキシ基に置換してD’部とした化合物である。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jaewon Lee,外12名、 “ACS Energy Lett.”、2019年、第4巻、p.1401-1409
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機系CMOSイメージセンサの製造においては、製造工程で経由する高い温度負荷に対する耐熱性が必要である。そのため、有機薄膜には耐熱性が求められることから、耐熱性が高まるようにn型半導体材料を材料設計する必要がある。
しかしながら、従来のn型半導体材料より形成される有機薄膜では耐熱性が不十分であり、有機系CMOSイメージセンサの製造工程中の熱処理によって、センサ感度が低下することがある。
【0008】
本発明は、耐熱性に優れる光電変換素子を実現し得る化合物と、この化合物を用いた組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題に鑑みて、耐熱性に優れる光電変換素子を実現し得る化合物について検討を行った。具体的には、非特許文献1に示されるようなA-D-D-D-A型化合物のD部及びD部において、置換基の検討を行った。その結果、D部とD部内の置換位置の向きを平行にすることにより、光電変換素子の耐熱性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)で表される、化合物。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(1)中、X~Xは各々独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であり、Y及びYは各々独立に、アルキル基、アルコキシ基又はエステル基であり、Z及びZは各々独立に、酸素原子又はジシアノメチレン基であり、Mはアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子、アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子又はアルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子である。
【0013】
[2] 前記一般式(1)中のZ及びZがジシアノメチレン基である、前記[1]の化合物。
[3] 前記一般式(1)中のX、X、X及びXが水素原子であり、X、X、X及びXが各々独立に、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基である、前記[1]又は[2]の化合物。
[4] 前記一般式(1)中のMがアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子である、前記[1]~[3]のいずれかの化合物。
[5] 前記一般式(1)中のY及びYがアルコキシ基である、前記[1]~[4]のいずれかの化合物。
[6] 前記一般式(1)中のYがアルコキシ基であり、Yがアルキル基である、前記[1]~[4]のいずれかの化合物。
[7] 前記[1]~[6]のいずれかの化合物を含有する、組成物。
[8] 前記[1]~[6]のいずれかの化合物を含有する、膜。
[9] 前記[8]の膜を備えた、光電変換素子。
[10] 前記[9]の光電変換素子を備えた、CMOSイメージセンサ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱性に優れる光電変換素子を実現し得る化合物と、この化合物を用いた組成物、膜、光電変換素子及びCMOSイメージセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の光電変換素子の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に発明の好ましい実施の形態を上げて本発明をさらに詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0017】
[化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。以下、同様。)である。
【0018】
【化3】
【0019】
一般式(1)中、X~Xは各々独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であり、Y及びYは各々独立に、アルキル基、アルコキシ基又はエステル基であり、Z及びZは各々独立に、酸素原子又はジシアノメチレン基であり、Mはアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子、アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子又はアルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子である。
【0020】
本発明の化合物は、A-D-D-D-A型化合物のD部及びD部において、チオフェン環に結合するY及びYの向きが平行であるため、本発明の化合物を用いて得られる膜の耐熱性が向上する。
【0021】
本発明の化合物を用いて得られる膜の耐熱性が向上する理由については定かではないが、以下のように推察される。
本発明の化合物は、D部の中心部の一原子上でπ共役平面の上下に張り出す方向に置換基を有している一方、D部及びD部はπ共役平面上において平行かつ同じ方向に置換基(Y及びY)が伸びている。そのため、本発明の化合物では、分子間においてπ共役平面の上下に張り出した置換基同士が重ならずにスリップしたπスタック構造を取りやすい。加えて、π共役平面方向の分子間では平行に伸長した置換基が強固なラメラ構造をとることができる。その結果、本発明の化合物を用いて得られる膜は密な充填構造を有することが可能となり、熱処理後においても素子性能に最適なp型半導体材料とのバルクヘテロ構造を維持することができ、高い耐熱性を発現できるものと考えられる。
【0022】
一方、D部及びD部において、チオフェン環に結合する置換基が平行に伸長していない場合はラメラ構造が緩く、熱処理によって分子が動くことによって素子性能に最適なバルクヘテロ構造が変化するため、十分な耐熱性が得られにくい。
以上のとおり、本発明の効果、すなわち耐熱性の向上効果は、スリップしたπスタック構造に加え、D部及びD部の置換基(Y及びY)がπ共役平面上において同じ方向かつ平行に伸長していることによって達成できるものと考えられる。
【0023】
一般式(1)中、X~Xは各々独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基である。化合物(1)は、X~Xが水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であることにより、A部の電子求引性を維持・向上できると考えられる。特に、X、X、X及びXは、A部の電子求引性を高める点から塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であることが好ましく、塩素原子又はシアノ基がより好ましい。X、X、X及びXは、合成の容易性の点では、水素原子であることが好ましい。すなわち、化合物(1)のX、X、X及びXが水素原子であり、X、X、X及びXが各々独立に、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であることが好ましく、X、X、X及びXが水素原子であり、X、X、X及びXが各々独立に、塩素原子、フッ素原子又はシアノ基であることがより好ましい。化合物(1)のA部の電子求引性をさらに高める点では、X、X、X及びXは、同一原子であることが好ましい。
また、別の態様として、化合物(1)のX、X、X及びXが水素原子であり、X、X、X及びXが各々独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であり、X、X、X及びXの1つ又は2つが水素原子であってもよい。
【0024】
一般式(1)中、Y及びYは各々独立に、アルキル基、アルコキシ基又はエステル基である。
及びYのアルキル基の炭素数は、材料の導電性の点では少ないことが好ましい。そこで、Y及びYのアルキル基の炭素数は、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましく、10以下であることが特に好ましい。また、Y及びYのアルキル基の炭素数は2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましく、8以上であることが特に好ましい。
及びYのアルキル基は、鎖状でも環状でもよい。アルキル基が鎖状である場合、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。合成の容易さの点では、チオフェン環に結合する炭素原子が第1級炭素原子である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。材料の溶解性の点では、チオフェン環に結合する炭素原子が第1級炭素原子である分岐鎖状のアルキル基、又はチオフェン環に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であることが好ましい。合成の容易さ及び溶解性の点から、チオフェン環に結合する炭素原子が第1級炭素原子である分岐鎖状のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0025】
及びYのアルコキシ基の炭素数は、材料の導電性の点では少ないことが好ましい。そこで、Y及びYのアルコキシ基の炭素数は、30以下であることが好ましく、 20以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましく、10以下であることが特に好ましい。また、Y及びYのアルコキシ基の炭素数は2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましく、8以上であることが特に好ましい。
アルコキシ基はアルキル基が酸素原子に結合した構造であるが、酸素原子に結合するアルキル基は、鎖状でも環状でもよい。酸素原子に結合するアルキル基が鎖状である場合、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。合成の容易さの点では、酸素原子に結合する炭素原子が第1級炭素原子である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。材料の溶解性の点では、酸素原子に結合する炭素原子が第1級炭素原子である分岐鎖状のアルキル基、又は酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であることが好ましく、酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であることがより好ましく、酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0026】
及びYのエステル基としては、エステル結合を有する1価の基が挙げられる。具体的には、下記一般式(i)で表される基が挙げられる。
-COO-R ・・・(i)
一般式(i)中、Rはアルキル基又はアリール基である。
のアルキル基の炭素数は、材料の導電性の点では少ないことが好ましい。そこで、Rのアルキル基の炭素数は、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましく、10以下であることが特に好ましい。また、Rのアルキル基の炭素数は1以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましく、8以上であることが特に好ましい。
のアルキル基は、鎖状でも環状でもよい。アルキル基が鎖状である場合、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。合成の容易さの点では、酸素原子に結合する炭素原子が第1級炭素原子である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。材料の溶解性の点では、酸素原子に結合する炭素原子が第1級炭素原子である分岐鎖状のアルキル基、又は酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であることが好ましく、酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であることがより好ましく、酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0027】
のアリール基の炭素数は、材料の導電性の点では少ないことが好ましい。そこで、Rのアリール基の炭素数は、18以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましく、6であることが特に好ましい。なお、Rのアリール基の炭素数の下限は6である。
のアリール基は置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。すなわち、Rのアリール基は非置換の若しくは置換基を有するアリール基である。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0028】
とYは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
及びYは各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましく、少なくとも一方はアルコキシ基であることがより好ましい。
合成の容易さの点では、YとYは同一であることが好ましく、特に、合成コストの点からYとYはアルコキシ基が好ましい。
また、溶解性の点では、Yがアルコキシ基であり、Yがアルキル基であることが好ましい。
【0029】
一般式(1)中、Z及びZは各々独立に、酸素原子又はジシアノメチレン基である。
化合物(1)は、Z及びZが酸素原子又はジシアノメチレン基であることによりアクセプター部の電子求引性基になり得ると考えられる。Z及びZは、電子求引性をより高める点ではどちらもジシアノメチレン基であることが好ましい。
【0030】
一般式(1)中、Mはアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子、アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子又はアルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子である。化合物(1)は、Mがアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子、アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子又はアルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子であることにより、溶解性を高めることができると考えられる。
アルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子は下記一般式(ii)で表される。アルキル基若しくはアリール基で置換されたケイ素原子は下記一般式(iii)で表される。アルキル基若しくはアリール基で置換されたゲルマニウム原子は下記一般式(iv)で表される。
【0031】
【化4】
【0032】
一般式(ii)~(iv)中、R~Rは各々独立に、アルキル基又はアリール基である。
~Rのアルキル基としては、Y及びYの説明において先に例示したRのアルキル基が挙げられる。
~Rのアリール基としては、Y及びYの説明において先に例示したRのアリール基が挙げられる。
化合物(1)の合成の容易さの点では、炭素原子、ケイ素原子及びゲルマニウム原子が有する2つのアルキル基若しくはアリール基は、同一であることが好ましい。
吸収波長の長波長化の点から、Mはアルキル基若しくはアリール基で置換された炭素原子が好ましく、アルキル基で置換された炭素原子がより好ましい。
【0033】
化合物(1)としては、一般式(1)中のX、X、X及びXが水素原子であり、X、X、X及びXが各々独立に塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はシアノ基であり、Y及びYが各々独立にアルキル基又はアルコキシ基であり、Z及びZがジシアノメチレン基であり、Mがアルキル基で置換された炭素原子である化合物が好ましく、その中でも特に、Y及びYの少なくとも一方がアルコキシ基である化合物がより好ましく、Yがアルコキシ基であり、Yはアルキル基又はアルコキシ基である化合物がさらに好ましく、Yがアルコキシ基であり、Yはアルキル基である化合物が最も好ましい。
化合物(1)の具体例としては、下記式(1-1)~(1~61)で表される化合物などが挙げられるが、化合物(1)はこれらに限定されない。なお、本明細書において、例えば下記式(1-1)で表される化合物を「化合物(1-1)」といもいう。下記式(1-2)~(1~61)で表される化合物についても同様である。
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
上述した化合物の中でも、Y及びYの少なくとも1つがアルコキシ基であり、そのアルコキシ基において、酸素原子に結合するアルキル基が直鎖状、分岐鎖状又は環状であって、かつ、酸素原子に結合する炭素原子が第2級炭素原子である化合物(すなわち、チオフェン環に結合するアルコキシ基が1位で分岐している化合物)は、溶解性に特に優れる。そのような化合物としては、例えば化合物(1-35)~(1-61)等が挙げられる。
【0042】
化合物(1)の製造方法としては特に限定されないが、化合物(1)の製造方法の一例として、下式の化合物(A)の製造方法について、具体的に説明する。化合物(A)におけるY及びYは化合物(1)のY及びYに相当し、化合物(A)におけるXは化合物(1)のX、X、X及びXに相当し、化合物(A)におけるZは化合物(1)のZ又はZに相当し、化合物(A)におけるMは化合物(1)のMに相当する。
【0043】
【化12】
【0044】
まず、下式の化合物(B)とリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を反応溶媒中で反応させた後に、N,N-ジメチルホルムアミドをさらに反応させて、下式の化合物(C)を得る。
【0045】
【化13】
【0046】
ここで、化合物(B)は、公知の方法により合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
原料の仕込み比は、化合物(B)に対して、LDAが0.9~1.5当量とすることが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドが0.9当量以上とすることが好ましい。なお、N,N-ジメチルホルムアミドに代えて、N-ホルミルピペリジンを用いてもよい。
反応溶媒としては、原料化合物と反応しない溶媒であれば特に限定されず、例えばヘキサンなどの飽和脂肪族系炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、メチルt-ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶媒等が挙げられる。
反応温度は-78~50℃が好ましい。
反応時間は、LDAを加えてから10分から12時間、N,N-ジメチルホルムアミドを加えてから10分から12時間が好ましい。
【0047】
別途、以下のようにして、下式の化合物(E)を得る。
すなわち、まず、下式の3位置換チオフェンとリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を反応溶媒中で反応させた後に、1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタンをさらに反応させて、下式の化合物(D)を得る。
【0048】
【化14】
【0049】
ここで、3位置換チオフェンは、公知の方法により合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
原料の仕込み比は、3位置換チオフェンに対して、LDAが0.9~1.5当量とすることが好ましく、1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタンが0.9当量以上とすることが好ましい。
反応溶媒としては、原料化合物と反応しない溶媒であれば特に限定されず、例えばヘキサンなどの飽和脂肪族系炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、メチルt-ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶媒等が挙げられる。
反応温度は-78~50℃が好ましい。
反応時間は、LDAを加えてから10分から12時間、1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタンを加えてから10分から12時間が好ましい。
【0050】
次いで、化合物(D)とリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を反応溶媒中で反応させた後に、N,N-ジメチルホルムアミドをさらに反応させて、下式の化合物(E)を得る。
【0051】
【化15】
【0052】
原料の仕込み比は、化合物(D)に対して、LDAが0.9~1.5当量とすることが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドが0.9当量以上とすることが好ましい。なお、N,N-ジメチルホルムアミドに代えて、N-ホルミルピペリジンを用いてもよい。
反応溶媒としては、原料化合物と反応しない溶媒であれば特に限定されず、例えばヘキサンなどの飽和脂肪族系炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、メチルt-ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶媒等が挙げられる。
反応温度は-78~50℃が好ましい。
反応時間は、LDAを加えてから10分から12時間、N,N-ジメチルホルムアミドを加えてから10分から12時間が好ましい。
【0053】
次に、反応溶媒中にて、化合物(C)及び化合物(E)と、下式の化合物(F)とのクロスカップリング反応により、下式の化合物(G)を得る。
化合物(G)の製造方法としては特に限定されないが、例えば、Adv.Energy Mater.、2018年、第8巻、p.1801212.;J.Mater.Chem.C、2020年、第8巻、p.15175.;ACS Energy Lett.、2019年、第4巻、p.1401.などの文献に記載の方法と同様の方法により化合物(G)を製造することができる。具体的な製造条件の一例は、以下の通りである。
【0054】
【化16】
【0055】
ここで、化合物(F)は、公知の方法(例えば、Polym.Chem.、2013年、第4巻、p.5351-5360;J.Phys.Chem.C、2011年、第15巻、p.2398-2405;Chem.Commun.、2012年、第48巻、p.11130-11132)により合成してもよいし、市販品を用いてもよい。また、クロスカップリング反応に応じた化合物(F)(化合物(F)中の「L」は、アルキルスズ基、ホウ酸、ホウ酸エステル基、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化マグネシウム、又はシリル基等である。)を用いればよい。
化合物(C)及び化合物(E)と化合物(F)との反応であるクロスカップリング反応の種類としては特に限定されず、Stilleカップリング、Suzukiカップリング、Negishiカップリング、Kumadaカップリング、Hiyamaカップリングなどにより反応させることができる。クロスカップリング反応は、パラジウム触媒、ニッケル触媒、銅触媒などの触媒の存在下で行ってもよい。
Stilleカップリング反応により化合物(C)及び化合物(E)と化合物(F)とを反応させる場合、原料の仕込み比は、化合物(C)及び化合物(E)に対して化合物(F)が0.9~1.1当量とすることが好ましい。また、Stilleカップリング反応の際にはパラジウム触媒を用いることが好ましく、触媒中のパラジウムの含有量が0.1~50mol%とすることが好ましい。
反応溶媒としては、原料化合物と反応しない溶媒であれば特に限定されず、例えばヘキサンなどの飽和脂肪族系炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
反応温度は20℃~反応溶媒の還流温度が好ましい。
反応時間は1~24時間が好ましい。
【0056】
次いで、反応溶媒中にて、酸触媒又は塩基触媒の存在下、化合物(G)と化合物(I)を反応させて、化合物(A)を得る。
化合物(A)の製造方法としては特に限定されないが、酸触媒条件としては、特開2022-511781号公報;特開2023-500815号公報などに記載の方法と同様の方法により化合物(A)を製造することができる。一方、塩基触媒条件としては、例えば、Adv.Energy Mater.、2018年、第8巻、p.1801212.;J.Mater.Chem.C、2020年、第8巻、p.15175.;ACS Energy Lett.、2019年、第4巻、p.1401.などに記載の方法と同様の方法により化合物(A)を製造することができる。具体的な製造条件の一例は、以下の通りである。
【0057】
【化17】
【0058】
ここで、化合物(I)は、公知の方法(例えば、特開2022-511781号公報、特開2023-500815号公報、Adv.Mater.、2017年、第29巻、p1703080.;J.Am.Chem.Soc.、2017年、第139巻、p1336-1343.等)により合成できる。
酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸水和物(PTSA・HO)などが挙げられる。
塩基触媒としては、ピリジンやピペリジンなどが挙げられる。
原料の仕込み比は、化合物(G)に対して化合物(I)が1.9~10当量とすることが好ましい。酸触媒は、2.1~11当量とすることが好ましい。塩基触媒は、反応溶媒に対して1~10質量%であることが好ましい。
反応溶媒としては、原料化合物と反応しない溶媒であれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶媒;クロロホルムなどのハロゲン系溶媒などが挙げられ、これらを混合して用いてもよい。
反応温度は、室温から還流温度が好ましい。
反応時間は、10分間~24時間が好ましい。
【0059】
このようにして、化合物(A)を製造することができる。なお、ここで、化合物(A)におけるY及びYは、化合物(1)のY及びYとなり、化合物(A)におけるXは、化合物(1)のX、X、X及びXとなり、化合物(A)におけるZは化合物(1)のZ又はZとなり、化合物(A)におけるMは、化合物(1)のMとなる。
【0060】
本発明の化合物は、耐熱性に優れる膜を形成できることから、光電変換素子に用いられるn型半導体材料(光吸収材料かつ電子輸送材料)として好適である。すなわち、本発明の化合物をn型半導体材料として用いれば、耐熱性に優れる光電変換素子が得られる。
本発明の化合物の用途は上述したものに限定されない。例えば、本発明の化合物は発光性にも優れることから、バイオイメージング、有機EL、波長変換膜・組成物用の近赤外発光色素などにも用いることができる。
【0061】
[組成物]
本発明の組成物は、上述した化合物(1)を含有する。
化合物(1)は、1種単独で用いられてもよく、2種類以上を任意の割合と組み合わせで用いられてもよい。
本発明の組成物中における化合物(1)の含有量は特に限定されない。但し、本発明の組成物を光電変換素子の光電変換層(活性層)の形成用として用いる場合、化合物(1)の含有量は、光吸収量の点では多いことが好ましく、また、一方でキャリアバランスの点では少ないことが好ましい。そこで、本発明の組成物における溶媒以外の全成分の合計量(総質量)に対して、化合物(1)の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の組成物における溶媒以外の全成分の合計量(総質量)に対して、化合物(1)の含有量は、100質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
本発明の組成物は、さらに溶媒を含有していてもよい。化合物(1)と溶媒を含有する組成物は、光電変換素子の光電変換層(活性層)を形成するためのインク(活性層形成用組成物)として好適である。
溶媒としては、化合物(1)と反応せず、化合物(1)を溶解する液体が好ましく、例えばトルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒等が挙げられる。
本発明の組成物が溶媒を含有する場合、溶媒は、1種単独で用いられてもよく、2種類以上を任意の割合と組み合わせで用いられてもよい。
本発明の組成物が溶媒を含有する場合、本発明の組成物中の化合物(1)の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、化合物(1)の含有量は、本発明の組成物の総質量に対して5.0質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明の組成物を活性層形成用組成物として用いる場合、当該組成物は、化合物(1)に加えて、p型半導体材料をさらに含有することが好ましい。
p型半導体材料としては、有機光電変換素子の光電変換層に用いられるものであれば等に制限されないが、例えば文献(ACS Energy Lett.、2019年、第4巻、p.1401.や、Adv.Optical Mater.、2022年、第10巻、p.2200747.)に記載のポリマー等が挙げられる。
本発明の組成物がp型半導体材料を含有する場合、p型半導体材料は、1種単独で用いられてもよく、2種類以上を任意の割合と組み合わせで用いられてもよい。
化合物(1)とp型半導体材料との質量比(化合物(1)/p型半導体材料)は、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらに好ましい。また、化合物(1)とp型半導体材料との質量比は、3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、化合物(1)、p型半導体材料及び溶媒以外の成分(任意成分)をさらに含有していてもよい。
任意成分としては、例えば、1,8-ジヨードオクタン、1-クロロナフタレン等が挙げられる。
本発明の組成物が任意成分を含有する場合、任意成分は、1種単独で用いられてもよく、2種類以上を任意の割合と組み合わせで用いられてもよい。
任意成分を含有する場合、任意成分を含有することによる効果が発現しやすい点では任意成分が多いことが好ましい。一方で、本発明の組成物が光電変換素子として好適な物性が維持されやすい点では、化合物(1)の含有量は多いことが好ましい。そこで、本発明の組成物が任意成分を含有する場合、本発明の組成物における溶媒以外の全成分の合計量(総質量)に対して、任意成分の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、本発明の組成物における溶媒以外の全成分の合計量(総質量)に対して、任意成分の含有量は2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
本発明の組成物は、例えば、溶媒に化合物(1)と、必要に応じてp型半導体材料及び任意成分の1つ以上とを溶解させることにより得ることができる。また、この得られた組成物から溶媒を除くことにより、溶媒を含まない本発明の組成物を得ることができる。
【0066】
本発明の組成物は、光電変換素子の光電変換層(活性層)を形成するためのインク(活性層形成用組成物)として好適である。
【0067】
[膜]
本発明の膜は、上述した化合物(1)を含有する膜であり、有機薄膜ともいう。
本発明の膜は、例えば、上述の、溶媒を含む本発明の組成物から溶媒を除くことにより得ることができる。具体的には、基材上に本発明の組成物を塗布した後に乾燥させることにより得ることができる。
膜中の化合物(1)の含有量は、上述した本発明の組成物における溶媒以外の全成分の合計量(総質量)に対する、化合物(1)の含有量と同じである。すなわち、膜の総質量に対して、化合物(1)の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、膜の総質量に対して、化合物(1)の含有量は、100質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
膜厚は、光吸収量の点では厚いことが好ましい。一方で、本発明の膜を光電変換素子の光電変換層(活性層)として用いる場合における外部量子効率(EQE)の点では、膜厚は薄いことが好ましい。そこで、膜厚は10nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、膜厚は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。膜厚は、基材に塗布する組成物の塗布量によって調整することができる。
【0069】
組成物の塗布方法としては特に限定されないが、例えば、ハケ塗り、バーコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコート等が挙げられる。
塗布後の乾燥温度は、20~250℃が好ましい。
乾燥時間は、10分~5時間が好ましい。
【0070】
本発明の膜は耐熱性に優れ、光電変換素子の光電変換層(活性層)として好適である。
【0071】
[光電変換素子]
本発明の光電変換素子は、上述した本発明の膜を備える素子であり、有機光電変換素子ともいう。具体的には、本発明の光電変換素子は、光電変換層(活性層)として本発明の膜を備える。
光電変換素子の構造は、公知の有機光電変換素子の構造を採用することができる。例えば、特開2007-324587号公報の記載などを参照することができる。具体的な構造としては特に限定されないが、例えば、一対の電極に光電変換層(活性層)が挟持された積層構造を有する素子などが挙げられる。
【0072】
以下、本発明の光電変換素子の一例について、図1を参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0073】
図1に示す光電変換素子10は、透明基板11上に、透明電極12、正孔輸送層13、光電変換層14、電子輸送層15、及び金属電極16がこの順に積層された構造を有する。
なお、正孔輸送層13と電子輸送層15は、その位置を交換してもよい。すなわち、光電変換素子は、透明基板上に、透明電極、電子輸送層、光電変換層(活性層)、正孔輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってもよい。
【0074】
透明基板11としては、450nm以上の可視光において、平均透過率が80%以上である基材が挙げられる。
透明基板11を形成する材料としては、例えば、ガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリエチレンスルフィド等のプラスチックなどが挙げられる。
【0075】
透明電極12としては、450nm以上の可視光において、平均透過率が80%以上である電極が挙げられる。
透明電極12を形成する材料としては、透明電極12を形成できれば特に限定されないが、例えば、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)等が挙げられる。
【0076】
金属電極16は、透明電極12と対をなす電極である。
金属電極16を構成する材料としては特に限定されないが、例えば、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅及びコバルトなどの金属又はその合金等が挙げられる。
金属電極16は透明電極又は反射電極であることが好ましい。すなわち、光電変換素子は、一対の電極(透明又は金属)に光電変換層(活性層)が挟持された積層構造であることが好ましく、一対の電極(透明又は金属)に電子輸送層、光電変換層(活性層)及び正孔輸送層が挟持された積層構造であることがより好ましい。一対の透明電極である場合における電極を形成する材料は、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
金属電極16の膜厚は、特に限定されず、透明性を高める観点では10nm程度が好ましい。また、透明性が求められていない場合は、耐久性等を考慮すると、40nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
【0077】
透明電極12及び金属電極16形成方法は特に限定されないが、例えば、真空蒸着、スパッタ等のドライプロセス;導電性インク等を用いたウェットプロセス等により形成することができる。
【0078】
正孔輸送層13及び電子輸送層15を設ける場合におけるその構成部材と製造方法については特段の制限はなく、公知の技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0079】
光電変換層14は、光を吸収して電荷を分離する層である。
本発明の光電変換素子の光電変換層14は、上述した本発明の化合物(1)を含有する層である。より具体的には、上述した本発明の膜である。
光電変換層14は、例えば、正孔輸送層13等の光電変換層14の下になる層の上に上述した本発明の組成物を塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0080】
光電変換素子10は、例えば、透明基板11上に、透明電極12、正孔輸送層13、光電変換層14、電子輸送層15、及び金属電極16をこの順に形成することにより得ることができる。
【0081】
本発明の光電変換素子は、光電変換層14が化合物(1)を含有するので、耐熱性に優れる。よって、CMOSイメージセンサの製造工程において光電変換素子に高い温度負荷がかかっても、センサ感度の低下を抑制できる。
【0082】
[CMOSイメージセンサ]
本発明のCMOSイメージセンサは、上述した本発明の光電変換素子を備える。
CMOSイメージセンサの構造は、公知のCMOSイメージセンサの構造を採用することができる。具体的には、例えば、特開2021-57422号公報の記載などを参照することができ、特に限定されない。より具体的には、シリコン基板等の基板上に、金属配線、本発明の光電変換素子、カラーフィルター、マイクロレンズがこの順に積層された構造のCMOSイメージセンサが挙げられる。
【実施例0083】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0084】
[化合物(1-2)の合成]
公知文献(Adv.Mater.、2016年、第28巻、p.8283.)に記載の方法により下式の化合物(C-1)を合成した。
別途、中国特許出願公開第115057995号明細書に記載の方法により下式の化合物(E-1)を合成した。
別途、公知文献(Macromolecules、2007年、第40巻、p.1981.)に記載の方法により下式の化合物(F-1)を合成した。
化合物(C-1)0.219g(0.69mmol)と、化合物(E-1)0.229g(0.76mmol)と、化合物(F-1)0.500g(0.69mmol)と、Pd(Amphos)Clを0.024g(0.034mmol)とを反応容器に入れて、真空引きした後に窒素置換した。トルエン6.3mLを入れた後、80℃で2時間加熱撹拌した。放冷後、減圧下で溶媒を除去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物0.290gを得た(収率44%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(G-1)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ9.96(s,1H)、9.76(s,1H)、7.47(s,1H)、7.31-7.32(m,1H)、7.20-7.21(m,1H)、7.00(s,1H)、4.11(d,2H)、2.85(d,2H)、1.82-1.95(m,5H)、1.50-1.67(m,5H)、1.31-1.40(m,12H)、0.83-1.02(m,28H)、0.61-0.76(m,14H)。
【0085】
【化18】
【0086】
次いで、化合物(G-1)0.200g(0.23mmol)と、化合物(I-1)0.150g(0.56mmol)と、クロロホルム5.7mLとを反応容器に入れて撹拌して溶解させた後、ピリジン0.2mLを入れて60℃で4時間撹拌した。放冷後、クロロホルムを留去し、代りにメタノールを入れて固体を分散し、濾過をした。得られた固体をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、化合物0.140gを得た(収率45%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(1-2)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ8.98(s,1H)、8.78(s,1H)、8.75(s,1H)、8.73(s,1H)、7.94(s,1H)、7.93(s,1H)、7.62-7.64(m,1H)、7.51-7.53(s,2H)、7.24(s,1H)、4.17(d,2H)、2.92(d,2H)、1.87-2.03(m,5H)、1.50-1.73(m,5H)、1.30-1.41(m,12H)、0.87-1.05(m,28H)、0.64-0.73(m,14H)。
【0087】
【化19】
【0088】
[化合物(1-3)の合成]
特開2022-028177号公報に記載の方法により、3-[(2-エチルヘキシル)オキシ]チオフェンを合成した。
3-[(2-エチルヘキシル)オキシ]チオフェン4.24g(20mmol)をTHF20mLに溶解し、ドライアイスアセトンバスで冷却した。そこへリチウムジイソプロピルアミド18.7mL(1.07M、20mmol)をゆっくり滴下した。1時間撹拌したのち、1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタン6.7g(20.6mmol)をTHF20mLに溶解した溶液をゆっくり添加した。ドライアイスアセトンバス冷却下、45分撹拌したのち室温まで昇温した。ヘキサンと飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物4.1gを得た(収率70%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(D-1)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ6.74(d,1H)、6.10(d,1H)、3.77(d,2H)、1.64-1.70(m,1H)、1.28-1.49(m,8H)、0.88-0.94(m,6H)。
【0089】
【化20】
【0090】
次いで、化合物(D-1)3.77g(13.7mmol)をTHF27mLに溶解し、ドライアイスアセトンバスで冷却した。そこへリチウムジイソプロピルアミド13.4 mL(1.07M、14.4mmol)をゆっくり滴下した。1時間撹拌したのち、DMF5mLをゆっくり添加した。ドライアイスアセトンバス冷却下、1時間撹拌したのち室温まで昇温した。ヘキサンと飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物3.1gを得た(収率71%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(E-2)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ9.86(s,1H)、6.88(s,1H)、4.01(d,2H)、1.69-1.77(m,1H)、1.29-1.52(m,8H)、0.89-0.98(m,6H)。
【0091】
【化21】
【0092】
公知文献(Adv.Mater.、2016年、第28巻、p.8283.)に記載の方法により下式の化合物(C-1)を合成した。
別途、公知文献(Macromolecules、2007年、第40巻、p.1981.)に記載の方法により下式の化合物(F-1)を合成した。
化合物(C-1)0.251g(0.78mmol)と、化合物(E-2)0.251g(0.78mmol)と、化合物(F-1)0.520g(0.71mmol)と、Pd(Amphos)Clを0.005mg(0.007mmol)をトルエン7mLに溶解し、80℃で3時間加熱撹拌した。減圧下で溶媒を除去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物0.290gを得た(収率46%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(G-2)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ9.95(s,1H)、9.76(s,1H)、7.48(s,1H)、7.32(s,1H)、7.22(m,1H)、6.86(m,1H)、4.01(m,4H)、1.91-1.78(m,6H)、1.35-1.62(m,16H)、0.93-0.98(m,28H)、0.61-0.75(m,14H)。
【0093】
【化22】
【0094】
次いで、化合物(G-2)0.690g(0.78mmol)と、化合物(I-2)0.430g(1.88mmol)と、クロロホルム19.7mLとを反応容器に入れて撹拌して溶解させた後、ピリジン0.8mLを入れて60℃で4時間撹拌した。放冷後、クロロホルムを留去し、代りにメタノールを入れて固体を分散し、濾過をした。得られた固体をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、化合物0.506gを得た(収率50%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(1-3)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl,ppm):δ9.15(s,1H)、8.72(s,1H)、8.48-8.55(m,2H)、7.60-7.69(m,3H)、7.54-7.55(m,1H)、7.52(br.s.,1H)、6.93-6.94(m,1H)、4.16-4.18(m,4H)、1.87-2.03(m,6H)、1.47-1.69(m,8H)、1.34-1.43(m,8H)、0.92-1.05(m,28H)、0.70-0.75(m,8H)、0.63-0.67(m,6H)。
【0095】
【化23】
【0096】
[化合物(1-26)の合成]
化合物(1-2)の合成と同様にして、化合物(G-1)を合成した。
別途、特開2023-500815号公報に記載の方法により下式の化合物(I-3)を合成した。
化合物(G-1)0.070g(0.08mmol)と、化合物(I-3)0.10g(0.40mmol)とを反応容器に入れ、トルエン6.0mL及びエタノール8mLを入れて溶解させた後、p-トルエンスルホン酸・1水和物0.120g(0.60mmol)を添加して、65℃で3時間撹拌した。放冷後、炭酸水素ナトリウム水溶液を注加した。分液操作により有機層を抽出し、抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過により固形分を除いた溶液の溶媒を留去して固体を得た。得られた固体をメタノールに分散し、濾過して、黒色固体である化合物0.10gを得た(収率92%)。
H-NMR分析により、得られた化合物が化合物(1-26)であることを確認した。H-NMRの測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,溶媒:CDCl,ppm):δ8.98(s,1H)、8.77(s,1H)、8.75(s,1H)、8.73(s,1H)、7.94(s,1H)、7.93(s,1H)、7.63-7.64(m,1H)、7.52-7.53(m,2H)、7.24(s,1H)、4.17(d,2H)、2.92(d,2H)、1.87-2.04(m,5H)、1.53-1.74(m,5H)、1.28-1.41(m,12H)、0.87-1.05(m,28H)、0.64-0.73(m,14H)。
【0097】
【化24】
【0098】
[実施例1]
<光電変換素子の製造>
(正孔輸送層の形成)
透明基板としてガラス基板上に、透明電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)の透明導電膜がパターン成膜されたITO基板の表面を、紫外線オゾン洗浄機(日本レーザー電子株式会社製、製品名「NL-UV253」)を用いて10分間、オゾン処理した。
別途、下記式(H-1)で表されるポリトリアリールアミン化合物(正孔輸送性高分子)60mgを1mLのアニソールに溶解させ、正孔輸送層形成用組成物を調製した。
オゾン処理後のITO基板の透明電極上に、正孔輸送層形成用組成物を回転数1000rpmで60秒間、スピンコートし、240℃で30分間加熱乾燥して、膜厚300nmの正孔輸送層を形成した。
【0099】
【化25】
【0100】
(光電変換層の形成)
p型半導体材料として、下記式(P-1)で表される化合物(重量平均分子量80000)を用いた。
n型半導体材料として、化合物(1-2)を用いた。
p型半導体材料0.11g及びn型半導体材料0.13gを、o-キシレン9.68mLに溶解させて有機半導体インクである活性層形成用組成物を調製した。活性層形成用組成物において、p型半導体材料に対するn型半導体材料の質量比(n型半導体材料/p型半導体材料)は1.2であった。また。活性層形成用組成物の固形分濃度は25mg/mLであった。
得られた活性層形成用組成物を用いて、正孔輸送層上に毎分1000rpmでスピンコートした後、120℃で10分間加熱処理(熱アニール処理)し、膜厚150nmの有機薄膜からなる光電変換層(活性層)を形成した。
【0101】
【化26】
【0102】
(電子輸送層及び金属電極の形成)
光電変換層上に、電子輸送材料としてC60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製)を真空中で成膜し、厚さ40nmの電子輸送層を形成した。
次いで、電子輸送層上に、金属電極材料としてアルミニウムを真空中で成膜し、厚さ100nmの金属電極を形成して、光電変換素子を得た。
得られた光電変換素子について、以下のようにして耐熱性を評価した。
【0103】
<耐熱性の評価>
(外部量子効率(EQE)の評価)
光電変換素子に-5V印加下でキセノンランプを照射し、作用スペクトル測定装置(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製、製品名「PEC-S20」)を用いて外部量子効率を測定し、波長940nmでの外部量子効率を熱処理前EQEとした。
その後、光電変換素子をホットプレートにて200℃で50分、熱処理した。
熱処理後の光電変換素子に-5V印加下でキセノンランプを照射し、作用スペクトル測定装置を用いて外部量子効率を測定し、波長940nmでの外部量子効率を熱処理後EQEとした。
下記式(I)よりEQE維持率を求めた。結果を表1に示す。
EQE維持率(%)=(熱処理後EQE/熱処理前EQE)×100 ・・・(I)
【0104】
(暗電流の測定)
光電変換素子をホットプレートにて200℃で50分、熱処理した。
熱処理後の光電変換素子を用いて、-5V印加時の暗電流を測定した。暗電流の測定には、高精度電流測定装置(ケースレー・インスツルメンツ社製、製品名「Keithley 6482」)を用いた。結果を表1に示す。
なお、表1に示す値は、後述の比較例1で得られた光電変換素子における暗電流を1.00とした場合の相対値(相対暗電流値)である。
【0105】
[実施例2]
n型半導体材料として化合物(1-3)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を製造し、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0106】
[実施例3]
n型半導体材料として化合物(1-26)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を製造し、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0107】
[比較例1]
n型半導体材料として下記式(N-1)で表される化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を製造し、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
【化27】
【0109】
【表1】
【0110】
表1の結果から明らかなように、実施例1~3で得られた光電変換素子は、比較例1で得られた光電変換素子に対して顕著に高いEQE維持率を示した。また、実施例1~3で得られた光電変換素子は熱処理しても、比較例1で得られた光電変換素子に対して相対暗電流値が顕著に低い。すなわち、本発明の化合物(1)であれば、膜中(光電変換層中)において、n型半導体材料のスタック構造が熱処理後も良好に保持されていることが推測される。
これらの結果は、本発明の化合物(1)は熱処理後においても素子性能に最適なバルクヘテロ構造を保持していることを示しており、本発明の化合物(1)を用いて得られる膜は高い耐熱性を有していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の化合物は、耐熱性に優れる光電変換層を形成でき、耐熱性に優れる光電変換素子を実現し得るので、光電変換素子に用いられる半導体材料として有用である。
【符号の説明】
【0112】
10 光電変換素子
11 透明基板
12 透明電極
13 正孔輸送層
14 光電変換層
15 電子輸送層
16 金属電極
図1