(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124359
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、血中中性脂肪上昇抑制剤、食品、及び核内受容体活性化剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/74 20060101AFI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240905BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240905BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K36/74
A61P43/00 107
A61P3/10
A61P3/06
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024480
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2023031734
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター、「イノベーション創出強化研究推進事業 応用研究ステージ(国産のつる性薬用樹木カギカズラの生産技術の開発と機能性解明に基づく未利用資源の活用プロジェクト)」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】坂下 真実
(72)【発明者】
【氏名】奥澤 亜美
(72)【発明者】
【氏名】谷口 亨
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD61
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4B018MF04
4B018MF06
4B018MF07
4C088AB14
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA10
4C088CA02
4C088CA05
4C088CA06
4C088NA14
4C088ZB22
4C088ZC33
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】本発明は、カギカズラの葉を有効に活用することを課題とする。また、本発明は、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤及び血中中性脂肪上昇抑制剤を提供することを課題とする。
【解決手段】カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、及び血中中性脂肪上昇抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、核内受容体活性化剤。
【請求項2】
前記核内受容体が、RAR及びPPARからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の核内受容体活性化剤。
【請求項3】
前記核内受容体が、RARβ及びPPARγからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の核内受容体活性化剤。
【請求項4】
カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、血糖上昇抑制剤。
【請求項5】
カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、血中中性脂肪上昇抑制剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の核内受容体活性化剤、請求項4に記載の血糖上昇抑制剤、及び請求項5に記載の血中中性脂肪上昇抑制剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、食品。
【請求項7】
前記食品が、血糖正常化用食品及び/又は血中中性脂肪正常化用食品である、請求項6に記載の食品。
【請求項8】
工程(i):カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を凍結乾燥させて凍結乾燥物を得る工程、及び
工程(ii):前記凍結乾燥物を抽出溶媒で抽出して抽出物を得る工程
を含む、核内受容体活性化剤の製造方法であって、工程(ii)が工程(i)から4週間以内に行われる、核内受容体活性化剤の製造方法。
【請求項9】
前記カギカズラの葉が50℃以上で30秒以上加熱処理されたものである、請求項1に記載の核内受容体活性化剤。
【請求項10】
前記核内受容体が、RAR及びPPARからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の核内受容体活性化剤。
【請求項11】
前記核内受容体が、RARα、RARβ、RARγ、及びPPARγからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の核内受容体活性化剤。
【請求項12】
前記加熱処理が、熱風加熱処理、水蒸気加熱処理、及び釜炒り加熱処理からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項9に記載の核内受容体活性化剤。
【請求項13】
工程(i)の前に、
カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を50℃以上で30秒以上加熱する加熱処理工程
を含む、請求項8に記載の核内受容体活性化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、血中中性脂肪上昇抑制剤、食品、及び核内受容体活性化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核内受容体は様々な生体機能に関与していることから、その活性の制御に関わる因子が注目され、盛んに研究が行われている。核内受容体とは、細胞内に存在するタンパク質であり、リガンドと結合することで核内に移行し、DNAに結合し転写を制御することが知られている。核内受容体として、RAR(Retinoic Acid Receptor、レチノイン酸受容体)、RXR(Retinoid X Receptor、レチノイドX受容体)、PPAR(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)、ER(Estrogen Receptor、エストロゲン受容体)等がよく知られており、これらは生体内において種々の機能を担っていることが分かっている。
【0003】
RARは、RARα、RARβ、RARγの3種のサブタイプが知られている。
RARα及びRARβの選択的アゴニストであるタミバロテンは、空腹時血糖や空腹時インスリン濃度を低下させる効果があることが報告されている(非特許文献1)。また、RARβ2のアゴニストは、高脂肪食で肥満及び2型糖尿病を誘導させた通常マウス、遺伝的に操作された肥満及び2型糖尿病のモデルマウスのいずれにおいても、肝臓、膵臓、及び腎臓においてインスリン感受性を改善し、血清グルコース及びインスリンレベルを低下させることが報告されている(非特許文献2)。これらのことから、RARβの活性化により、インスリン抵抗性、及び血糖値が正常化すると考えられている。
【0004】
ビタミンAの誘導体である全トランス型レチノイン酸(ATRA)は、RARα及びRARβを介して、肥満誘導性脂肪肝を抑制する肝細胞由来ホルモンであるFGF21の発現を誘導することが報告されていることから(非特許文献2)、RARβの活性化により、脂肪肝が抑制されると考えられている。
【0005】
PPARは、PPARα、PPARβ/δ及びPPARγの3種のサブタイプが知られている。また、PPARγには、選択的スプライシングによる3つのアイソフォーム(PPARγ1、PPARγ2及びPPARγ3)が知られている。
【0006】
PPARγは、脂肪細胞の分化を促進すること、インスリン感受性を高める(インスリン抵抗性を改善する)こと、マクロファージによる脂質取り込みを促進しつつアテローム硬化性の脂質蓄積を予防すること、抗炎症作用を有すること等が知られている(非特許文献3)。
【0007】
また、PPARγアゴニストであるチアゾリジン誘導体、例えば、トログリタゾン(Troglitazone)、ピオグリタゾン(Pioglitazone)、及びロシグリタゾン(Rosiglitazone)は、高脂血症、高血糖等を改善することが報告されており、主に2型糖尿病薬として利用されている(非特許文献4)。
【0008】
このように、RAR又はPPARを含む核内受容体、特にRARβ又はPPARγの活性化は、脂質代謝異常の改善、糖代謝異常の改善に有用であり、インスリン抵抗性、2型糖尿病、高血糖、高脂血症等の予防及び/又は改善につながると考えられている。
【0009】
食後高血糖症は、食後の血液中のブトウ糖が正常域を超えて上昇している状態をいい、糖尿病でない健常人や境界型糖尿病患者(糖尿病予備群)においても糖質摂取後の血糖値が高くなることを意味する。糖尿病予備群では、空腹時の血糖値が正常範囲であっても、食後の血糖値が急激に増加し高血糖が持続するという食後高血糖症のケースが多いとされる。血液中の糖分増加により、血管内皮細胞がダメージを受け、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞といったリスクを増加させる。従って、食後高血糖症は、2型糖尿病や肥満の誘因となるだけでなく、循環器疾患の原因や増悪因子となるため、食後の血糖値をコントロールすることはこれらの疾患の予防及び治療に有用である。
【0010】
食後高脂血症は、食後の血中中性脂肪値が高く、高値の状態が長時間持続する特徴を示す。空腹時の血中中性脂肪値が正常域であっても、食後の血中中性脂肪値が高値となる場合がみられる。最近の研究では、動脈硬化性疾患発症との相関がより強いのは空腹時の血中中性脂肪値ではなく食後の血中中性脂肪値であることが示唆されている。そのため、動脈硬化性疾患の予防等の観点から、空腹時の血中中性脂肪値だけでなく、食後の血中中性脂肪値をコントロールすることが重要である。
【0011】
脂質代謝異常又は糖代謝異常改善の目的で使用される医薬品は、有効性に関しては満足できるものが多い反面、副作用が発生するなど、長期的な服用に対する懸念が指摘されている。また、食事量制限や運動療法は長期的に実行するには非常な困難を伴う。そのため、副作用が少なく、日常的に摂取可能な天然物由来の核内受容体活性化素材、血糖上昇抑制素材、及び血中中性脂肪上昇抑制素材が求められている。
【0012】
カギカズラ(鉤葛:Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)は、つる性薬用樹木であり、側枝の付け根には釣り針状のカギがある。このカギ付き側枝は「釣藤鈎(チョウトウコウ)」と呼ばれる生薬として古くから利用されてきた。釣藤鉤には鎮痙、鎮痛を目的にめまい等の精神異常、小児の癲癇等の異常興奮の改善や高血圧、抗痙攣作用があるとされる。カギカズラの特徴的な成分は、インドールアルカロイドであり、具体的には、ヒルステイン、ヒルスチン、リンコフィリン、イソリンコフィリン、コリナンテイン、ジヒドロコリナンテイン、ガイソシジンメチルエーテル等が知られている。これらのアルカロイドは、精神安定作用、睡眠鎮静作用、血圧降下作用、鎮痙作用、セロトニン調節作用、脳細胞保護作用等を有することが明らかとなっており、釣藤鉤の主な有効成分であると考えられている(非特許文献5)。しかし、カギカズラのカギ付き側枝の核内受容体活性効果、血糖上昇抑制効果及び血中中性脂肪上昇抑効果については知られていない。
一方、カギカズラの葉のバイオマス量は、カギ付き側枝の3~4倍程度あり、カギ付き側枝と葉に含まれる成分の比較等が行われてきた(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】土谷博之、"非アルコール性脂肪性肝疾患治療薬としてのレチノイドの有用性." YAKUGAKU ZASSHI 132.8 (2012): 903-909
【非特許文献2】Saeed, Ali, et al. "Disturbed vitamin A metabolism in non-alcoholic fatty liver disease (NAFLD)." Nutrients 10.1 (2018): 29.
【非特許文献3】Michael Lehrke et al. "The Many Faces of PPARγ", Cell 123, 2005, 993-999
【非特許文献4】Steven M. Watkins et al., "Lipid metabolome-wide effects of the PPAR agonist rosiglitazone", Journal of Lipid Research,2002, Volume 43,1809-17,
【非特許文献5】正山征洋、"チョウトウコウ"、Phil漢方、2015、53、16-17
【非特許文献6】Jian-Gang Zhang et al., "Chemical and biological comparison of different sections of Uncaria rhynchophylla (Gou-Teng) ", European Journal of Mass Spectrometry, 2017,Vol. 23(1) 11-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
生薬原料としてのカギカズラは、現状では100%が中国産であるので、生薬原料の自給率向上を目指して、カギカズラの日本国内での栽培が推進されているものの、厚生労働省の規程により、カギカズラの葉を生薬(医薬品)に使用することはできず、葉の有効な活用方法がない。そのため、カギカズラの葉が廃棄されることを防ぎ、カギカズラの日本国内での栽培を促進するため、カギカズラの葉を有効活用することが求められている。
【0015】
本発明は、カギカズラの葉を有効に活用することを課題とする。また、本発明は、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤及び血中中性脂肪上昇抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔13〕に関する。
〔1〕 カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、核内受容体活性化剤。
〔2〕 前記核内受容体が、RAR及びPPARからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕に記載の核内受容体活性化剤。
〔3〕 前記核内受容体が、RARβ及びPPARγからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕又は〔2〕に記載の核内受容体活性化剤。
〔4〕 カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、血糖上昇抑制剤。
〔5〕 カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉及び/又はその抽出物を含む、血中中性脂肪上昇抑制剤。
〔6〕 〔1〕又は〔2〕に記載の核内受容体活性化剤、〔4〕に記載の血糖上昇抑制剤、及び〔5〕に記載の血中中性脂肪上昇抑制剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、食品。
〔7〕 前記食品が、血糖正常化用食品及び/又は血中中性脂肪正常化用の食品である、〔6〕に記載の食品。
〔8〕 工程(i):カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を凍結乾燥させて凍結乾燥物を得る工程、及び
工程(ii):前記凍結乾燥物を抽出溶媒で抽出して抽出物を得る工程
を含む、核内受容体活性化剤の製造方法であって、工程(ii)が工程(i)から4週間以内に行われる、核内受容体活性化剤の製造方法。
〔9〕 前記カギカズラの葉が50℃以上で30秒以上加熱処理されたものである、〔1〕に記載の核内受容体活性化剤。
〔10〕 前記核内受容体が、RAR及びPPARからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔9〕に記載の核内受容体活性化剤。
〔11〕 前記核内受容体が、RARα、RARβ、RARγ、及びPPARγからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔9〕又は〔10〕に記載の核内受容体活性化剤。
〔12〕 前記加熱処理が、熱風加熱処理、水蒸気加熱処理、及び釜炒り加熱処理からなる群から選ばれる少なくとも1つである、〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の核内受容体活性化剤。
〔13〕 工程(i)の前に、カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を50℃以上で30秒以上加熱する加熱処理工程を含む、〔8〕に記載の核内受容体活性化剤の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カギカズラの葉を有効に活用することができる。また、本発明によれば、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤及び血中中性脂肪上昇抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、カギカズラ葉抽出物のPPARγ活性化効果を示すグラフである。ウミシイタケルシフェラーゼ活性値の顕著な低下が認められた場合、すなわち、細胞に顕著な障害が認められた場合は、斜線のグラフとした。
【
図2】
図2は、カギカズラ葉抽出物のRARβ活性化効果を示すグラフである。ウミシイタケルシフェラーゼ活性値の顕著な低下が認められた場合、すなわち、細胞に顕著な障害が認められた場合は、斜線のグラフとした。
【
図3】
図3は、糖負荷試験及び脂質負荷試験における体重の経時変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、糖負荷試験における血漿中グルコース濃度に関するグラフである。
【
図5】
図5は、糖負荷試験における、糖負荷前(Pre)からの血漿中グルコース濃度変化に関するグラフである。
【
図6】
図6は、脂質負荷試験における血漿中トリグリセリド濃度に関するグラフである。
【
図7】
図7は、脂質負荷試験における、脂質負荷前(Pre)からの血漿中トリグリセリド濃度変化に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明について具体的に説明する。
数値範囲に関する「A~B」との記載は、特に断りがなければ、A以上B以下であることを意味する。また、%とは質量%を意味する。
【0020】
<カギカズラの葉及び/又はその抽出物>
本発明に用いるカギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)は、アカネ科カギカズラ属の植物である。
カギカズラの葉は、通常、楕円形で先端は鋭く尖り、長さは5~12cm程度、幅は3~6cm程度である。カギカズラの葉の大きさや、樹木からの採取部位、樹齢等は特に制限されない。
カギカズラの葉の水分含量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。水分含量は、例えば、凍結乾燥前の試料の重量と、凍結乾燥後の試料の重量との差分を水分含量とすることにより算出することができる。
【0021】
葉は、採取した葉をそのまま用いても、乾燥してから用いてもよく、これらは破砕されていてもよい。簡便に製造できること、また、活性成分の安定性の観点から、葉の乾燥物が好ましく、葉の凍結乾燥物がより好ましく、葉の凍結乾燥物の粉砕物がさらに好ましい。
乾燥物は、例えば天日乾燥、加熱乾燥、流動層乾燥、凍結乾燥などの公知の乾燥方法により容易に得ることができる。乾燥は室温で行なわれても加熱条件下で行なわれてもよいが、好ましくは室温以下で行う。また、乾燥は常圧で行なわれても減圧下で行なわれてもよいが、好ましくは減圧下で行う。
葉を乾燥させる場合、好ましくは採取後4週間以内に乾燥させることが好ましく、より好ましくは採取後2週間以内に乾燥させる。
粉砕物は、例えば、カギカズラの葉をミキサー等の通常の粉砕用機械に供するなどの公知の粉砕方法により容易に得ることができる。
【0022】
「カギカズラの葉及び/又はその抽出物を含む」とは、カギカズラの葉のみ、カギカズラの葉の抽出物のみ、又はカギカズラの葉と共にカギカズラの葉の抽出物を含んでいてもよいことを意味し、好ましくはカギカズラの葉の抽出物のみを含む。
【0023】
カギカズラの葉は、加熱処理されていないもの又は加熱処理されたものを用いることができるが、核内受容体活性化効果が高いことから、加熱処理されたものであることが好ましい。
加熱処理の方法は特に制限されず、通常用いられる方法から適宜選択することができる。このような加熱処理の方法としては、例えば、熱風加熱処理、水蒸気加熱処理、釜炒り加熱処理、遠赤外線加熱処理、マイクロ波加熱処理、エクストルーダー加熱処理、水中加熱処理等が挙げられる。
加熱処理は、熱風加熱処理、水蒸気加熱処理、釜炒り加熱処理からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0024】
加熱処理の条件は特に制限されず、カギカズラの葉に含まれる水分量、加熱するカギカズラの葉の量によって、適宜選択することができる。
加熱の温度は、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上であり、通常255℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは245℃以下である。
加熱時間は、通常30秒以上、好ましくは35秒以上、より好ましくは40秒以上であり、通常200分以下、好ましくは190分以下、より好ましくは180分以下である。
加熱の温度と時間は、上記上限と下限を任意で組み合わせることができ、前記カギカズラの葉は、例えば、50℃以上で30秒以上、255℃以下で200分以下、又は50~255℃で30秒~200分加熱処理されたものである。
加熱処理は、好ましくは、加熱処理後のカギカズラの葉に含まれる水分率(乾量基準含水率)が10%D.B.以下、より好ましくは5%D.B.以下になるまで行う。
【0025】
熱風加熱処理では、加熱した気体と被加熱物を、容器内で接触させて加熱する。熱風加熱処理は、熱風乾燥処理ということもできる。
加熱した気体としては、特に制限されず、例えば、加熱した空気、窒素ガス、二酸化炭素等を用いることができるが、好ましくは加熱した空気である。
熱風加熱処理に用いる機器は特に制限されず、通常用いられる機器から適宜選択することができる。このような機器としては、例えば、回転式乾燥機、棚(引き出し)透気式乾燥機、平型乾燥機、コンベア式乾燥機等が挙げられるが、好ましくは製茶用の棚(引き出し)透気式乾燥機である。
【0026】
熱風加熱処理は、好ましくは、加熱処理後のカギカズラの葉に含まれる水分率(乾量基準含水率)が10%D.B.以下、より好ましくは5%D.B.以下になるまで行う。
熱風加熱処理の条件は、カギカズラの葉に含まれる水分量、加熱するカギカズラの葉の量に応じて適宜設定することができる。
熱風加熱の温度は、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは62℃以上であり、通常80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下である。
加熱時間は、通常100分以上、好ましくは110分以上、より好ましくは120分以上であり、通常200分以下、好ましくは190分以下、より好ましくは180分以下である。
熱風加熱の温度と時間は、上記上限と下限を任意で組み合わせることができ、前記カギカズラの葉は、例えば、50~80℃で100~200分間、より好ましくは60~70℃で110~200分間、さらに好ましくは62~65℃で175~180分間熱風加熱処理されたものである。
【0027】
水蒸気加熱処理では、加熱した水蒸気を被加熱物に接触させる。
水蒸気は、飽和蒸気、過熱蒸気のいずれを用いてもよく、正圧蒸気、減圧(真空)蒸気のいずれを用いてもよい。
水蒸気加熱処理に用いる機器は特に制限されず、通常用いられる機器から適宜選択することができる。このような機器としては、例えば、連続式又はバッチ式の蒸機、オートクレーブが挙げられるが、好ましくは製茶用の蒸機を用いることができる。
【0028】
水蒸気加熱の温度は、通常90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは98℃以上であり、通常110℃以下、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下である。
加熱時間は、通常30秒以上、好ましくは35秒以上、より好ましくは40秒以上であり、通常120秒以下、好ましくは90秒以下、より好ましくは60秒以下である。
水蒸気加熱の温度と時間は、上記上限と下限を任意で組み合わせることができ、前記カギカズラの葉は、例えば、90~110℃で30~60秒間、より好ましくは35~55℃で95~105秒間、さらに好ましくは98~100℃で40~50秒間水蒸気加熱処理されたものである。
【0029】
水蒸気加熱の蒸気圧及び蒸気流量は特に制限されず、茶の製造に通常用いられる蒸気圧及び蒸気流量から適宜選択することができる。
【0030】
釜炒り加熱処理は、釜炒り茶(Pan-fired tea)の製造において用いられる加熱処理及びほうじ茶やコーヒーの製造において用いられる焙煎を含む加熱処理であり、加熱した耐熱性の容器内に被加熱物を接触させて加熱する。
釜炒り加熱処理に用いる機器は特に制限されず、通常用いられる機器から適宜選択することができる。好ましくは、釜炒り茶の製造において用いられる釜である。
容器は耐熱性であれば、特に制限されず、例えば、金属(例:鉄、銅、アルミニウム、ステンレス等)製の容器を用いることができる。
【0031】
釜炒り加熱の温度は、通常230℃以上、好ましくは235℃以上、より好ましくは240℃以上であり、通常255℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは245℃以下である。
加熱時間は、通常30分以上、好ましくは35分以上、より好ましくは40分以上であり、通常50分以下、好ましくは45分以下、より好ましくは40分以下である。
釜炒り加熱の温度と時間は、上記上限と下限を任意で組み合わせることができ、前記カギカズラの葉は、例えば、230~255℃で30~50分間、より好ましくは235~250℃で35~45分間、さらに好ましくは240~245℃で38~40間釜炒り加熱処理されたものである。
【0032】
加熱処理は、1種のみ、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
核内受容体活性化効果の点から、加熱処理は、少なくとも熱風加熱処理を行うことが好ましく、熱風加熱処理のみを行う、水蒸気加熱処理後に熱風加熱処理を行う、又は、釜炒り加熱処理後に熱風加熱処理を行うことがより好ましく、熱風加熱処理のみを行う、又は、水蒸気加熱処理後に熱風加熱処理を行うことがさらに好ましい。
【0033】
該抽出物を得るために用いる抽出溶媒は特に制限されず、この種の抽出に通常用いられる溶媒から適宜選択することができる。該溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;ナタネ油、大豆油等の食用油;モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール(DAG)、トリアシルグリセロール(TAG)等のグリセリンの脂肪酸エステル;炭素数8のカプリル酸、炭素数10のカプリン酸等の炭素数が5~12の中鎖脂肪酸(MCT);スクワラン、スクワレン等の油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられる。これらは一種又は二種以上混合して用いてもよい。
【0034】
食用に適していること、また、活性成分を効率良く抽出できることから、抽出溶媒としては、水、エタノール、含水エタノールが好ましく、水、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。含水エタノールのエタノール濃度は特に制限されないが、30~70%が好ましく、40~60%がより好ましく、45~55%がさらに好ましい。
抽出溶媒は、温水、熱水、温エタノール等、加温されていてもよいが、加温しない方が好ましい。
抽出溶媒には、抽出効率を大きく損なわない範囲で他の成分(例えば、塩類、アミノ酸類、糖類)などが含まれても良い。
【0035】
抽出方法は、公知の手段、例えば常圧(1気圧)又は加圧下での、浸漬、静置保存、加熱還流などを利用することができる。浸漬は、振盪を伴うことが好ましい。
抽出は室温(1~30℃)で行なわれても加熱条件下で行われてもよいが、好ましくは室温~溶媒の沸点の範囲で行う。抽出に要する時間は温度や乾燥条件にもよるが、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは12時間以上である。抽出時間の上限は特に制限されないが、通常1週間以下、好ましくは3日間以下、より好ましくは24時間以内である。
抽出溶媒の量は特に規定されないが、好ましくは葉に対して等質量以上30倍量以下の溶媒で抽出し、より好ましくは葉に対して等質量以上20倍量以下の溶媒で抽出し、さらに好ましくは葉に対して5倍量以上10倍量以下の溶媒で抽出する。
抽出は、同一又は異なる抽出溶媒を用いて複数回行ってもよい。
【0036】
抽出は、カギカズラの葉を採取してすぐに行ってもよいし、葉を所望の期間保存してから行ってもよい。保存は-85℃~室温で行うことが好ましく、-85℃~-30℃がより好ましい。葉を採取してから抽出を行うまでの保存期間は、葉を採取してから12週間以内が好ましく、8週間以内がより好ましく、4週間以内がさらに好ましい。葉を乾燥させてから抽出する場合は、乾燥後4週間以内に抽出することが好ましく、3週間以内がより好ましく、2週間以内がさらに好ましい。
【0037】
抽出後は、得られた抽出液を葉の残渣等の夾雑物から遠心分離、濾過等で分離することが好ましい。
抽出後に得られた抽出液は、そのまま抽出物として用いてもよいし、適当な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよい。また、濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製してもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶媒、例えば水、エタノール、含水エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒、好ましくはDMSOで希釈して用いてもよい。
抽出後に得られた抽出液は、さらに、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフ、カラムクロマトグラフ等により分離精製して、活性の高い画分(成分)を得て、該画分を抽出物として用いてもよい。
【0038】
<核内受容体活性化剤>
本発明の核内受容体活性化剤は、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を含む。
【0039】
核内受容体は、生体内の主に脂溶性低分子化合物をリガンドとするリガンド依存的な転写因子であり、リガンドが結合すると核内に移行してDNAに結合し転写を制御する。発生や細胞増殖、分化、形態形成、代謝などの様々な生物学的現象を調節しており、様々な疾患の発症に関わっている。代表的な核内受容体として、RAR、RXR、PPAR、ERが挙げられる。
【0040】
本発明の核内受容体活性化剤は、いずれか1つの核内受容体を活性化させればよい。該核内受容体は、好ましくは、RAR及びPPARからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、RARβ及びPPARγからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0041】
前記カギカズラの葉が加熱処理されたものである場合、該核内受容体は、好ましくは、RAR、RXR、及びPPARからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、RARα、RARβ、RARγ、RXRα及びPPARγからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0042】
RARは、主に脂質や糖代謝、発生や恒常性の維持、免疫において重要な役割を果たしていることが知られている。本発明の核内受容体活性化剤は、RARα、RARβ、RARγのサブタイプのうち、いずれか1つ又は2つ以上を活性化させ、好ましくはRARβを活性化させる。
【0043】
PPARは、主に脂質や糖代謝において重要な役割を果たしていることが知られている。本発明の核内受容体活性化剤は、PPARα、PPARβ/δ、PPARγのサブタイプのうち、いずれか1つ又は2つ以上を活性化させ、好ましくはPPARγを活性化させればよい。
【0044】
核内受容体活性化効果を評価する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、核内受容体のリガンド結合領域とGAL4との融合タンパクに対する結合をルシフェラーゼの発現で評価する核内受容体レポーターアッセイ等が挙げられる。このアッセイにおいて、被験物質を添加した場合の活性を、溶媒対照(陰性コントロール)と比較し、溶媒対照よりも高い活性を示した場合、好ましくは、さらに用量依存性が認められた場合に、「核内受容体活性化効果あり」と評価することができる。
【0045】
核内受容体活性化剤による活性化の程度は、制限されないが、好ましくは陰性コントロールに対して1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上に活性化する。
【0046】
核内受容体活性化剤の用途は特に制限されないが、核内受容体を活性化する高い作用を有するので、例えば、生体における核内受容体を活性化する目的で、生体に投与することができる。
【0047】
核内受容体活性化剤は、核内受容体が関与する疾患や症状の予防又は改善に有用であり、例えば、脂質代謝異常の改善、糖代謝異常の予防又は改善、より具体的には、インスリン抵抗性、2型糖尿病、高血糖、高脂血症等の予防又は改善に寄与する。
【0048】
<核内受容体活性化剤の製造方法>
核内受容体活性化剤の製造方法は特に制限されない。
効果の高い核内受容体活性化剤が得られることから、好ましくは、核内受容体活性化剤の製造方法は、工程(i):カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を凍結乾燥させて凍結乾燥物を得る工程、及び工程(ii):前記凍結乾燥物を抽出溶媒で抽出して抽出物を得る工程を含み、工程(ii)が工程(i)から4週間以内に行われる。
【0049】
工程(i)は、カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を凍結乾燥させて凍結乾燥物を得る工程である。
凍結乾燥させる方法は特に制限されず、公知の方法又は機器、例えば真空凍結乾燥機を用いて行うことができる。
凍結乾燥における予備凍結の際の温度は、特に制限されないが、好ましくは-40℃以下、より好ましくは-70℃以下、さらに好ましくは-85℃~-75℃で行う。
凍結乾燥の期間は、カギカズラの葉を充分に乾燥させることができれば特に制限されないが、例えば、1日~14日間、好ましくは3日間~13日間、より好ましくは5日間~12日間である。
【0050】
工程(i)は、カギカズラの葉を採取してすぐに行ってもよいし、該葉を所望の期間保存してから行ってもよい。保存は-85℃~室温で行うことが好ましく、-85℃~-30℃がより好ましく、-85℃~-75℃がより好ましい。工程(i)は、好ましくはカギカズラの葉を採取後4週間以内に行うことが好ましく、より好ましくは採取後2週間以内に行う。
【0051】
工程(ii)は、工程(i)で得られた凍結乾燥物を抽出溶媒で抽出して抽出物を得る工程である。
抽出溶媒及び抽出方法については、「カギカズラの葉及び/又はその抽出物」に関して、上述した通りである。
工程(ii)は、好ましくは工程(i)から3週間以内、より好ましくは工程(i)から2週間以内に行われる。工程(ii)は、カギカズラの葉を採取してから8週間以内に行うことが好ましい。
【0052】
核内受容体活性化剤の製造方法は、好ましくは工程(i)と工程(ii)の間に、工程(i)で得られた凍結乾燥物を粉砕する工程を有する。
粉砕する方法は特に制限されず、公知の粉砕方法又は機器、例えば、ミキサー等の通常の粉砕用機械を用いて行うことができる。
【0053】
工程(ii)で得られた抽出物は、葉の残渣等の夾雑物から遠心分離、濾過等で分離することが好ましい。
工程(ii)で得られた抽出物は、そのまま抽出物として用いてもよいし、適当な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよい。また、濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製してもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶媒、例えば水、エタノール、含水エタノール、DMSO等の溶媒、好ましくはDMSOで希釈して用いてもよい。
工程(ii)で得られた抽出物は、さらに、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフ、カラムクロマトグラフ等により分離精製して、活性の高い画分(成分)を得て、該画分を抽出物として用いてもよい。
【0054】
核内受容体活性化剤の製造方法は、工程(ii)で得られた抽出物に、カギカズラの葉を添加する工程を含んでもよい。
【0055】
該製造方法は、カギカズラ葉抽出物、血糖上昇抑制剤又は血中中性脂肪上昇抑制剤の製造方法と言い換えることができる。
【0056】
該製造方法は、工程(i)の前に、カギカズラの葉を加熱処理する加熱工程を含んでもよく、好ましくは、工程(i)の前に、カギカズラの葉を50℃以上で30秒以上加熱処理する加熱工程を含む。
該加熱工程を含むことにより、より効果の高い核内受容体活性化剤を得ることができる。
加熱処理については、<カギカズラの葉及び/又はその抽出物>の項で述べた通りである。
加熱工程は、好ましくは、カギカズラの葉を熱風加熱処理する工程を含み、より好ましくは、カギカズラの葉を熱風加熱処理する工程、カギカズラの葉を水蒸気加熱処理した後に熱風加熱処理を行う工程、又は、カギカズラの葉を釜炒り加熱処理した後に熱風加熱処理を行う工程であり、さらに好ましくは、カギカズラの葉を熱風加熱処理する工程、又はカギカズラの葉を水蒸気加熱処理した後に熱風加熱処理を行う工程である。
【0057】
<血糖上昇抑制剤>
本発明の血糖上昇抑制剤は、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を含む。
【0058】
血糖(血糖値)とは、血中糖濃度、言い換えると血中グルコース濃度の意味である。
血糖の測定方法は、採取した血液試料について、例えば、ヘキソキナーゼ(HX)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、又はグルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ(GOD/POD)を用いた酵素比色法等により測定することができ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を用いた酵素比色法が好ましい。このような血糖値測定法は市販の血糖値測定器又は測定キット等を用いて実施することができる。
【0059】
血液試料は、例えば、静脈血、動脈血又は毛細血管血であってもよい。血糖値は、血漿血糖値であってもよいし、血清血糖値であってもよく、例えば静脈血漿血糖値であってもよく、好ましくは、静脈血漿血糖値である。但し、血糖値の変化を評価する場合には、同じ採血部位に由来する血液、及び同じ血液処理方法に由来する血糖値を比較する。
【0060】
血糖上昇抑制剤は、食後の血糖上昇抑制剤を含む。なお、「食後」とは、空腹時(10時間以上の絶食下)以外の時間を指し、食事の摂取後の直後(0分)から好ましくは6時間後まで、より好ましくは4時間後まで、さらに好ましくは2時間後までの時間を指す。
カギカズラの葉及び/又はその抽出物は、食後の血糖上昇を抑制(典型的には、緩和)することができる。食後の血糖上昇抑制効果を評価する方法は特に制限されないが、例えば、糖負荷(例えば糖質の経口摂取)開始後における糖の血中濃度、糖の血中濃度-時間曲線下面積、糖負荷開始後における糖負荷前からの糖の血中濃度変化、糖の血中濃度変化-時間曲線下面積等の数値に基づいて評価することができる。具体的には、対象の空腹時血糖値を測定した後、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を糖負荷より前に、又は糖負荷と同時に、対象に経口摂取させ、血糖値を経時的に測定することができる。また、陰性対照として、カギカズラの葉及び/又はその抽出物の代わりに溶媒を、糖負荷より前に又は糖負荷と同時に経口摂取させること以外は同様の手順で試験を行うことができる。陰性対照の対象における数値と比較して、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を経口摂取した対象における数値が減少する傾向にある場合又は統計学的に有意に減少した場合に、カギカズラの葉及び/又はその抽出物は食後血糖上昇抑制効果を有すると判断することができる。この場合、糖負荷開始後における糖の血中濃度、糖の血中濃度-時間曲線下面積、糖負荷開始後における糖負荷前からの糖の血中濃度変化、及び、糖の血中濃度変化-時間曲線下面積のうち、少なくとも1つの数値が、減少する傾向にあるか、統計学的に有意に減少すればよい。
食後の血糖上昇抑制効果は、糖負荷開始後における糖負荷前からの糖の血中濃度変化及び、糖の血中濃度変化-時間曲線下面積のうち、少なくとも1つの数値に基づいて評価することが好ましい。
【0061】
糖負荷に用いる糖質は、例えば、三糖類以上のオリゴ糖やデンプン、キシリトール等の糖アルコール、マルトース、スクロース、ラクトース等の二糖類、グルコース等の単糖類、これらを含む食品であってもよいが、好ましくは単糖類、より好ましくはグルコースである。
血糖値の測定は、糖負荷開始時から120分後まで行うことが好ましい。
【0062】
血糖上昇抑制剤を摂取させる対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されないが、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
血糖上昇抑制剤を摂取させる対象として、血糖上昇抑制を必要とする又は希望する対象が好ましく、食後血糖上昇抑制を必要とする又は希望する対象がより好ましい。血糖上昇抑制剤を摂取させる対象は、糖尿病患者又は糖尿病予備群に限定されず、健常者であってもよい。
【0063】
血糖上昇抑制剤の用途は特に制限されないが、例えば、生体における血糖上昇を抑制する目的で、単回又は複数回生体に投与することができる。
【0064】
血糖上昇抑制剤は、血糖上昇が関与する疾患や症状の予防又は改善に有用であり、例えば、糖代謝異常の予防又は改善、より具体的には、インスリン抵抗性、2型糖尿病、高血糖の予防又は改善に寄与する。
【0065】
血糖上昇抑制剤は、例えば、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」による、空腹時血糖値110mg/dL未満かつ経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値140mg/dL未満を満たす正常型のヒトに対して、好ましくは空腹時血糖値100mg/dL以上110mg/dLの正常高値のヒトに対して、高血糖状態の予防又は改善のために使用してもよい。また、血糖上昇抑制剤は、例えば、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」により糖尿病と診断されたヒト、空腹時血糖値126mg/dL以上若しくは経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上を満たす糖尿病型のヒト、又は、正常型にも糖尿病型にも含まれない境界型のヒトに対して、これらの疾患又は症状の予防又は改善のために使用してもよい。血糖上昇抑制剤は、好ましくは経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値140mg/dL以上200mg/dL未満である食後高血糖のヒトに対して使用することができる。
【0066】
血糖上昇抑制剤は、継続的に摂取されることによって血糖上昇抑制効果を発揮しやすくなる。また、血糖上昇抑制剤は、摂取するタイミングが食前、食中に限定されず、任意のタイミングで摂取することができる。このため、血糖上昇抑制剤は、例えば、上記の糖尿病、糖尿病型、食後高血糖等の境界型、のヒト、食後の高血糖状態が気になるヒト、正常型のヒト(健常者)等が日常的に摂取することにより、血糖上昇を抑制し、糖尿病の予防又は改善に使用するために有用である。
【0067】
<血中中性脂肪上昇抑制剤>
本発明の血中中性脂肪上昇抑制剤は、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を含む。
【0068】
血中中性脂肪とは、血中中性脂肪濃度、言い換えると血中トリグリセリド(TG)濃度の意味である。
血中中性脂肪の測定方法は、採取した血液試料について、例えば、LPL-GK-GPO-POD(リポプロテインリパーゼ-グリセロールキナーセ-グリセロリン酸オキシダーゼ-パーオキシダーゼ)法を用いることができる。このような中性脂肪測定法は市販の中性脂肪測定器又は測定キット等を用いて実施することができる。
【0069】
血液試料は、例えば、静脈血、動脈血又は毛細血管血であってもよい。血中中性脂肪は、血漿中中性脂肪であってもよいし、血清中中性脂肪であってもよく、例えば静脈血漿中中性脂肪であってもよく、好ましくは静脈血漿中中性脂肪である。但し、血中中性脂肪の変化を評価する場合には、同じ採血部位に由来する血液、及び同じ血液処理方法に由来する血中中性脂肪を比較する。
【0070】
血中中性脂肪上昇抑制剤は、食後の血中中性脂肪上昇抑制剤を含む。
カギカズラの葉及び/又はその抽出物は、食後の血中中性脂肪上昇を抑制(典型的には、緩和)することができる。食後の血中中性脂肪上昇抑制効果を評価する方法は特に制限されないが、例えば、脂質負荷(例えば、脂質の経口摂取)開始後における中性脂肪の血中濃度、中性脂肪の血中濃度-時間曲線下面積、脂質負荷開始後における脂質負荷前からの中性脂肪の血中濃度変化、中性脂肪の血中濃度変化-時間曲線下面積等の数値に基づいて評価することができる。具体的には、対象の空腹時血中中性脂肪を測定した後、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を脂質負荷より前に、又は脂質負荷と同時に、対象に経口摂取させ、血中中性脂肪を経時的に測定することができる。また、陰性対照として、カギカズラの葉及び/又はその抽出物の代わりに溶媒を、脂質負荷より前に、又は脂質負荷と同時に経口摂取させること以外は同様の手順で試験を行うことができる。陰性対照の対象における数値と比較して、カギカズラの葉及び/又はその抽出物を経口摂取した対象における数値が減少する傾向にある場合、又は統計学的に有意に減少した場合、カギカズラの葉及び/又はその抽出物は食後血中中性脂肪上昇抑制効果を有すると判断することができる。この場合、脂質負荷開始後における中性脂肪の血中濃度、中性脂肪の血中濃度-時間曲線下面積、脂質負荷開始後における脂質負荷前からの中性脂肪の血中濃度変化、及び、中性脂肪の血中濃度変化-時間曲線下面積のうち、少なくとも1つの数値が、減少する傾向にあるか、統計学的に有意に減少すればよい。
食後の血中中性脂肪上昇抑制効果は、脂質負荷開始後における中性脂肪の血中濃度、中性脂肪の血中濃度-時間曲線下面積のうち、少なくとも1つの数値に基づいて評価することが好ましい。
【0071】
脂質負荷に用いる脂質は、例えば、トリグリセリド、トリグリセリドを含む油脂(コーン油、オリーブ油等)、トリグリセリドを含む卵、乳製品等の食品であってもよいが、好ましくはトリグリセリドを含む油脂、より好ましくはコーン油である。
血中中性脂肪の測定は、脂質負荷開始時から8時間後まで行うことが好ましい。
【0072】
血中中性脂肪上昇抑制剤を摂取させる対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されないが、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
血中中性脂肪上昇抑制剤を摂取させる対象として、血中中性脂肪上昇抑制を必要とする又は希望する対象が好ましく、食後血中中性脂肪上昇抑制を必要とする又は希望する対象がより好ましい。血中中性脂肪上昇抑制剤を摂取させる対象は、高脂血症、高脂血症予備群又は食後高脂血症の患者に限定されず、健常者であってもよい。
【0073】
血中中性脂肪上昇抑制剤は、例えば、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」による、空腹時採血での血清トリグリセリドが150mg/dL以上、又は随時採血での血清トリグリセリドが175mg/dL以上である高トリグリセリド血症のヒトに対して、これらの疾患又は症状の予防又は改善のために、使用してもよく、健常者に対して、高血中トリグリセリド状態の予防又は改善のために使用することもできる。
【0074】
血中中性脂肪上昇抑制剤は、継続的に摂取されることによって血中中性脂肪上昇抑制効果を発揮しやすくなる。また、血中中性脂肪上昇抑制剤は、摂取するタイミングが食前、食中に限定されず、任意のタイミングで摂取することができる。このため、血中中性脂肪上昇抑制剤は、例えば、上記の高脂血症、又は食後高脂血症のヒト、食後の高脂血状態が気になるヒト、健常者等が日常的に摂取することにより、血中中性脂肪上昇を抑制し、高脂血症の予防又は改善に使用するために有用である。
【0075】
(核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤の投与)
核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤の投与量は、核内受容体、血糖、又は血中中性脂肪が関与する疾患や症状の種類又は症状の程度、血糖、血中中性脂肪、食生活等によって適宜選択すればよい。例えば、該剤を経口投与する場合は、核内受容体活性化効果、血糖上昇抑制効果、又は血中中性脂肪上昇抑制効果の観点から、カギカズラの葉及び/又はその抽出物として、一日あたり10mg/kg体重~5g/kg体重が好ましく、一日あたり100mg/kg体重~1g/kg体重がより好ましい。該一日あたり投与量を、例えば1日あたり1~3回に分けて投与してもよい。
【0076】
核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤の投与期間は、核内受容体、血糖、又は血中中性脂肪が関与する疾患の種類又は症状の程度によって適宜選択すればよい。
【0077】
<核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤を含む食品>
核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤は、そのまま生体に投与してもよいし、該剤の有効量を経口摂取できる担体とともに配合した食品として投与してもよい。該食品には、例えば、いわゆる食品の他に、飲料、飼料、ペットフード等が含まれる。
本発明の一態様は、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、及び血中中性脂肪上昇抑制剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、食品である。
該食品は、核内受容体活性化、血糖上昇抑制、又は血中中性脂肪上昇抑制により、予防又は改善しうる疾患又は状態について、その旨を表示した食品、例えば、特定保健用食品、機能性表示食品等の保健機能食品、病者用食品、その他のいわゆる健康食品やサプリメントであってもよい。
【0078】
核内受容体活性化剤及び/又は血糖上昇抑制剤を含む食品は、好ましくは糖代謝正常化用の食品、より好ましくは血糖正常化用食品、さらに好ましくは食後の血糖正常化用食品である。
核内受容体活性化剤及び/又は血糖上昇抑制剤を含む食品には、核内受容体活性化作用又は血糖上昇抑制作用に基づく機能の表示が付されていてもよい。
核内受容体活性化剤及び/又は血糖上昇抑制剤を含む食品には、例えば、「食後の血糖値の上昇を抑える」、「食後の血糖値の上昇をおだやかにする」、「血糖値を下げる」、「血糖値が気になる方へ」、「食後の血糖値が気になる方へ」及び「血糖値が上がりやすい体質を改善する」の1又は2以上の表示が付されていてもよい。
【0079】
核内受容体活性化剤及び/又は血中中性脂肪上昇抑制剤を含む食品は、好ましくは脂質代謝正常化用の食品、より好ましくは血中中性脂肪正常化用食品、さらに好ましくは食後の血中中性脂肪正常化用食品である。
核内受容体活性化剤及び/又は血中中性脂肪上昇抑制剤を含む食品には、核内受容体活性化作用又は血中中性脂肪上昇抑制作用に基づく機能の表示が付されていてもよい。
核内受容体活性化剤及び/又は血中中性脂肪上昇抑制剤を含む食品には、例えば、「食後の血中中性脂肪の上昇を抑える」、「食後の血中中性脂肪の上昇をおだやかにする」、「血中中性脂肪を下げる」、「血中中性脂肪が気になる方へ」、「食後の血中中性脂肪が気になる方へ」及び「血中中性脂肪が上がりやすい体質を改善する」の1又は2以上の表示が付されていてもよい。
【0080】
食品の形態は特に制限されず、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤等の製剤形態の食品;スープ類、ジュース類、野菜飲料、果実飲料、野菜果実飲料、牛乳、乳飲料、乳清飲料、乳酸菌飲料、茶飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、清涼飲料水、水飲料、ココア飲料、ゼリー状飲料、スポーツ飲料、ダイエット飲料などの液状食品組成物、プリン、ヨーグルトなどの半固形食品組成物、パン類、麺類、菓子類、スプレッド類、調味料等の一般的な食品が挙げられる。食品には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、安定化剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0081】
食品は、これらの食品について一般的に用いられている手法に従って、核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤を添加することにより製造することができる。該剤は、食品の製造工程の初期に添加されるか、製造工程の中期又は終期に添加されればよく、また添加の手法は、混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等から適切なものを食品の態様に応じて選択すればよい。
【0082】
核内受容体活性化剤、血糖上昇抑制剤、又は血中中性脂肪上昇抑制剤の食品への配合量は、核内受容体、血糖、又は血中中性脂肪が関与する疾患の種類又は症状の程度、血糖、血中中性脂肪、食生活等によって適宜選択すればよい。
【実施例0083】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0084】
<<製造例:抽出物の調製>>
<試料(生葉)の準備>
2021年7月に三重県鈴鹿市で栽培していた薬用木本植物カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を採取した。採取した葉を5日間冷蔵保存した。目視で傷んでいる葉を除き、残った葉を水洗後、-80℃の超低温冷凍庫(Panasonic社製)内で予備凍結した。その後速やかに真空凍結乾燥機(FDU-1200、東京理化器械株式会社製)に移して7~10日間真空乾燥した。乾燥は、試料の重量を測定し、翌日に変化が認められないことを確認することで終了とした。その後、粉砕機(タイガーミキサーSKR-J250、タイガー魔法瓶株式会社製)で粉砕処理し、凍結乾燥試料粉末を得た。凍結乾燥前の試料の重量と、凍結乾燥後の試料の重量との差分を水分含量として算出したところ、試料として用いた葉の水分含量は65%であった。
【0085】
<製造例1:水抽出物の調製>
凍結乾燥試料粉末を-30℃で2週間保存した後、凍結乾燥試料粉末620mgに100mg/mLになるように滅菌水を添加した。4℃において24時間振盪し、遠心分離(220×g、10~30分)した後、上清を孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過滅菌し、そのろ液を水抽出物とした。水抽出物は、使用時まで-30℃で数日~数週間保存した。
【0086】
<製造例2:50%エタノール抽出物の調製>
凍結乾燥試料粉末を-30℃で2週間保存した後、凍結乾燥試料粉末620mgに、100mg/mLになるように50%(v/v)エタノール(99.5%特級エタノールを滅菌水で2倍に希釈して調製した)を添加した。室温で3時間、振盪した後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過滅菌し、ろ液を室温で減圧乾燥した。得られた乾固物63.9mgを200mg/mLとなるようDMSOに溶解し、50%エタノール抽出物とした。50%エタノール抽出物は、使用時まで-30℃で数日~数週間保存した。
【0087】
<製造例3:100%エタノール抽出物の調製>
凍結乾燥試料粉末を-30℃で2週間保存した後、凍結乾燥試料粉末0.60gに、100mg/mLになるように100%(v/v)エタノール(99.5%特級エタノール)を添加した。室温で3時間、振盪した後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過滅菌し、ろ液を室温で減圧乾燥した。得られた乾固物30.9mgを200mg/mLとなるようDMSOに溶解し、100%エタノール抽出物とした。100%エタノール抽出物は、使用時まで-30℃で数日~数週間保存した。
【0088】
<製造例4:水抽出物(抽出後長期保存)の調製>
製造例1の水抽出物を-30℃で1年間保存した。
【0089】
<製造例5:100%エタノール抽出物(抽出後長期保存)の調製>
製造例3の100%エタノール抽出物を-30℃で1年間保存した。
【0090】
<<実施例1:核内受容体レポーターアッセイ>>
製造例1~3のカギカズラ葉の水抽出物、50%エタノール抽出物、100%エタノール抽出物、及び製造例4、5の水抽出物(抽出後長期保存)、100%エタノール抽出物(抽出後長期保存)を被験物質として、以下の方法により、29種類の核内受容体及び1種の転写因子(Nrf2)に対する網羅的なレポーターアッセイを行った。
【0091】
(方法)
<細胞の準備>
アフリカミドリザル腎由来細胞株CV-1及びCOS-7、またヒト肝ガン由来細胞株HepG2をそれぞれ2×105cells/wellとなるよう、6well plateに播種し、DMEM(10%FBS)中で1日培養した。
【0092】
Gal4のDNA結合ドメイン(Gal4-DBD)と各核内受容体のリガンド結合ドメイン(NR-LBD)とのキメラタンパク質発現プラスミド、Gal4 DNA応答配列とホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(pGal4-Luc)、及び内部標準用としてウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の上流に遺伝子構成的発現プロモーター(CMV又はSV40)を連結した内部標準プラスミド(pGL4.75hRluc-CMV又はpGL4.73hRluc-SV40)を重量比1:0.9:0.1の割合で混合し、Opti-MEMに10μg/mL(総DNA量)の濃度で溶解した。ここに遺伝子導入試薬(X-tremeGENE HP、Roche社製)を1/43量添加して混合した。混合液を15分間静置後、200μLずつ各ウェルに添加し、6時間培養することによって細胞に遺伝子を導入した。各受容体のアッセイに使用した細胞株、プラスミドを表1に示した。
【0093】
遺伝子導入細胞をトリプシンにより分散し、96well plateにそれぞれ1.6×104cells/well(CV-1)、2.0×104cells/well(COS-7、HepG2)となるよう再度播種した。この際、培養液をphenol red不含のDMEM培地(10%活性炭処理FBS)に交換した。
【0094】
<被験物質の添加>
培地交換の1時間後に、各濃度の被験物質を含む、phenol red不含のDMEM培地(10%活性炭処理FBS)をそれぞれのウェルへ添加した。陰性コントロール(溶媒コントロール)としては、最終濃度0.5%DMSO又は最終濃度10.0%脱イオン蒸留水(DW)を含む、phenol red不含のDMEM培地(10%活性炭処理FBS)を用いた。各被験物質の試験濃度は、事前のCV-1細胞、COS-7細胞及びHepG2細胞に対する細胞毒性試験により、細胞毒性を示さない最高濃度から設定した。
【0095】
被験物質を添加した後、CO2インキュベーター中で48時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて細胞を洗浄し、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)を用いて細胞を溶解した。さらにルシフェリンを含む基質溶液を加え、プレートリーダー(Luminescencer、AB-2350EX、アトー株式会社製)にてホタル及びウミシイタケルシフェラーゼ活性を各々測定した。以上の操作は、1サンプル(陽性、陰性コントロールを含む)につき3ウェルを用いて実施し、3ウェルの平均値をデータとして採用した。なお、本実験の精度管理に用いた陽性コントロールは表2の通りである。表2の物質添加には溶媒としてDMSO(終濃度0.5%)を用いた。
【0096】
<データ解析>
核内受容体遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)は以下のように定義した。
核内受容体又は転写因子依存的な遺伝子の転写活性(内部標準補正値)=(Gal4-Luc又はGSTA2-Lucによるホタルルシフェラーゼ活性)/(hRluc-CMV又はhRluc-SV40によるウミシイタケルシフェラーゼ活性)
【0097】
活性は、陰性コントロールに対する比(被験物質の転写活性(内部標準補正値)/陰性コントロールの転写活性(内部標準補正値))で表した。また、Gal4-Luc又はGSTA2-Lucによるホタルルシフェラーゼ活性の数値(内部標準補正前)が、被験物質の濃度依存的に上昇したもののうち、細胞に顕著な障害が認められず(ウミシイタケルシフェラーゼ活性値の顕著な低下が認められない)、かつ、陰性コントロールに対する比が2.0以上となる場合を顕著な活性と定義した。すなわち、陰性コントロールに対する比が2.0以上であっても、Gal4-Luc又はGSTA2-Lucによるホタルルシフェラーゼ活性の数値(内部標準補正前)が、被験物質の濃度依存的に上昇していないものは、顕著な活性はないと判断した。
【0098】
【0099】
【0100】
表2の脚注は以下の意味である。
※1:Pioglitazone
※2:9-cis-Retinoic acid
※3:5α-Dihydrotestosterone
※4:Dexamethasone
※5:3,3’,5-Triiodo-L-thyronine
※6:all-trans-Retinoic Acid
※7:tert-Butylhydroquinone
【0101】
表1、表2中の略語は以下の意味である。
PPARα:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α、PPARδ:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体δ、PPARγ:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ、RXRα:レチノイドX受容体α、RXRβ:レチノイドX受容体β、RXRγ:レチノイドX受容体γ、ERα:エストロゲン受容体α、ERβ:エストロゲン受容体β、RARα:レチノイン酸受容体α、RARβ:レチノイン酸受容体β、RARγ:レチノイン酸受容体γ、VDR:ビタミンD受容体、AR:アンドロゲン受容体、GR:グルココルチコイド受容体、MR:ミネラルコルチコイド受容体、PR:プロゲステロン受容体、TRα:甲状腺ホルモン受容体α、ERRα:エストロゲン関連受容体α、ERRβ:エストロゲン関連受容体β、ERRγ:エストロゲン関連受容体γ、PXR:プレグナンX受容体、FXR:ファルネソイドX受容体、LXRα:肝臓X受容体α、LXRβ:肝臓X受容体β、COUP-TF1:トリ卵白アルブミン上流プロモータ転写因子1、HNF-4α:肝細胞核因子4α、RORα:RAR関連オーファン受容体α、RORβ:RAR関連オーファン受容体β、RORγ:RAR関連オーファン受容体γ、Nrf2:核内因子エリスロイド2関連因子2
【0102】
(結果)
製造例1~3のカギカズラ葉の水抽出物、50%エタノール抽出物、及び100%エタノール抽出物の結果を表3~表8に、製造例4の水抽出物(抽出後長期保存)及び製造例5の100%エタノール抽出物(抽出後長期保存)の結果を表9に示す。Fold Change(NC比)は、陰性コントロールに対する比、Fold Change SDは標準偏差を示す。また、hRluc-CMV又はhRluc-SV40によるウミシイタケルシフェラーゼ活性値の顕著な低下が認められた場合は、数値に下線を付した。これは、細胞に顕著な障害が認められることを示す。また、顕著な活性が認められる場合は、数値を斜体で示した。
【0103】
カギカズラ葉の水抽出物(製造例1)及びカギカズラ葉の100%エタノール抽出物(製造例3)は、29種類の核内受容体及び1種の転写因子(Nrf2)のうち、特にPPARγ及びRARβに対して、顕著な活性が認められた(表3~表8)。カギカズラ葉抽出物のPPARγ及びRARβに対する活性をグラフ化して、それぞれ
図1、
図2に示す。
【0104】
また、製造例5の100%エタノール抽出物にも、PPARγ及びRARβに対して、顕著な活性が認められた(表9)。すなわち、100%エタノール抽出物は長期保存した後にも活性が残存していた。
【0105】
これらの結果から、カギカズラ葉抽出物は、PPARγ及びRARβを活性化する作用を有し、特に水抽出物及び100%エタノール抽出物はその作用が顕著であることが明らかになった。カギカズラ葉抽出物は、糖代謝及び脂質代謝を改善する作用があることが予測される。また、カギカズラ葉抽出物は、活性を維持したまま長期保存することができる。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
<<実施例2:糖負荷試験、実施例3:脂質負荷試験>>
製造例3のカギカズラ葉の100%エタノール抽出物を被験物質として、以下の方法により、糖負荷試験及び脂質負荷試験を行った。
【0114】
(方法)
<被験物質の準備>
1)カギカズラ葉の100%エタノール抽出物は、凍結乾燥し、チューブに入れて-30℃以下で14日間冷凍保存した。
2)チューブを取り出し、室温に戻した。
3)調製量の媒体(注射用水)を少しずつ加え、超音波破砕機及びタッチミキサーを用いて粒子ができるだけ細かくなるように懸濁して、10mg/mLの懸濁液を調製した(100mg/kg/day投与液)。なお、超音波破砕により温度が上昇しないように、必要に応じて氷冷しながら行った。
4)3)の懸濁液をタッチミキサーでよく混和した後、その一部をとり、媒体(注射用水)で2倍希釈した。よく混和して5mg/mLの懸濁液を調製した(50mg/kg/day投与液)。
【0115】
<試験動物>
種及び系統:SDラット
供給元:日本チャールスリバー株式会社
動物数:糖負荷試験、脂質負荷試験ともに、それぞれ、入荷数:22匹、使用数:18匹
性別、入荷時週齢:雄、6週齢
【0116】
<飼育条件>
検疫・馴化期間中の観察:入荷日当日から4日間の検疫期間を含む7~10日間を馴化期間とし、全個体について体重測定(馴化2日及び4日並びに群分け日)及び一般状態観察(1回/日)を行った。
室温:20℃~26℃(実測値:21.9℃~23.2℃)
相対湿度:30%~70%(実測値:45%~62%)
換気回数:1時間に10~20回
照明:1日12時間(7時~19時)点灯
飼料:固形飼料(CE-2、放射線滅菌、日本クレア株式会社製、Lot No.E2061-TP及びE2071-U6)を自由摂取させた。
飲料水:水道水を給水瓶により自由摂取させた。
【0117】
<投与経路、投与方法及び投与回数>
胃ゾンデを用いた強制経口投与とし、1日1回、7日間連続投与した。Control群には媒体(注射用水)を投与した。投与容量は10mL/kgとし、投与液量は最新の体重に基づき個体ごとに算出した(表示単位:0.1mL)。
検疫・馴化期間中の観察に基づき健康と思われる動物を使用した。群分け日の体重を元に、必要な数の動物を選択し、各群の体重ができるだけ均等になるように、3群(6匹/群)に分けた。
【0118】
<投与量及び群構成>
被験物質の投与量は、低用量群には50mg/10mL/kg、高用量群には100mg/10mL/kgとした。Control群を加えて3群構成(6匹/群)とした。
【0119】
<検査及び検査の方法>
試験日の起算は下記の通りとした。
Day0:群分け日
Day1:投与開始日
Day7:最終投与日
Day8:負荷試験日(動物作業終了日)
【0120】
<一般状態観察及び体重測定>
全個体について1日に1回、体外表、栄養状態、姿勢、行動及び排泄物の異常などの一般状態を観察した。群分け日(群分け前)、投与開始日(Day1、投与前)、Day4及びDay7に体重を測定した。糖負荷試験においては、負荷試験日にも、糖投与量の計算のために体重を測定した。
【0121】
<糖負荷試験>
被験物質の最終投与日(Day7)の夕方からラットを個別ケージに移し、一晩絶食させた。負荷試験当日(Day8)、体重を測定した後、ラットを保定器に入れ、ヘパリン処理したガラスキャピラリーを用いて、尾静脈から約30μL採血した。その後、グルコース液(2g/kg、10mL/kg)を経口投与し、15、30、60及び120分後にヘパリン処理ガラスキャピラリーを用いて尾静脈から約30μL採血した。
【0122】
<脂質負荷試験>
被験物質の最終投与日(Day7)の夕方からラットを個別ケージに移し、一晩絶食させた。負荷試験当日(Day8)、ラットを保定器に入れ、ヘパリン処理したガラスキャピラリーを用いて尾静脈から約30μL採血した。その後、コーン油(1.5mL/animal)を経口投与し、2、4、6及び8時間後にヘパリン処理ガラスキャピラリーを用いて尾静脈から約30μL採血した。
【0123】
<血漿中グルコース及びトリグリセリド濃度測定>
採取した血液はマイクロチューブに移し、4℃設定、2000×gで10分間遠心分離した。得られた血漿を用い、糖負荷試験ではグルコース(GLU)、脂質負荷試験ではトリグリセリド(TG)について、表10に記載の方法により濃度を測定した。すぐに測定しない場合はサンプルを-70°C以下で保存した。
【0124】
【0125】
<結果の解析>
計量データ(体重、血漿中GLU及びTG濃度)について、各群の平均値と標準偏差を計算した。計算により求められる値は、測定値の桁数に合わせ四捨五入した。計算にはMicrosoft Office Excel 2013を使用した。検定はGraphPad Prism(ver.5.04、GraphPad Software,Inc.)を用いて、測定時点ごとにControl群を対照として低用量群及び高用量群に対しDunnett検定を行った。
【0126】
(結果)
結果を
図3~
図7に示す。
(体重)
Control群、低用量群(Kagikazura extract 50mg/kg/day)及び高用量群(Kagikazura extract 100mg/kg/day)の試験期間中の体重の経時変化を
図3に示す。
図3上は、糖負荷試験、
図3下は、脂質負荷試験での結果を示すグラフであり、縦軸は体重(g)、横軸は日数である。縦軸の数値はMean±SD(n=6)である。
糖負荷試験、脂質負荷試験とも、カギカズラ葉抽出物の投与による体重への影響はみられなかった。
【0127】
(グルコース濃度)
Control群、低用量群(Kagikazura extract 50mg/kg/day)及び高用量群(Kagikazura extract 100mg/kg/day)の血漿中グルコース濃度のグラフを
図4に、糖負荷前(Pre)からのグルコース濃度変化のグラフを
図5に示す。
【0128】
図4左のグラフは、各群の血漿中グルコース濃度の経時変化を示し、縦軸は、血漿中グルコース濃度(mg/dL)、横軸は、時間(分)である。
図4右のグラフは、血漿中グルコース濃度のPreから120分後までの曲線下面積(AUC)を示す。数値はMean±SD(n=5-6)である。
【0129】
図5左のグラフは、各群の、糖負荷前(Pre)からのグルコース濃度変化の経時変化を示し、縦軸は、血漿中グルコース濃度変化(mg/dL)、横軸は、時間(分)である。
図5右のグラフは、糖負荷前(Pre)からのグルコース濃度変化のPreから120分後までの曲線下面積(AUC)を示す。数値はMean±SD(n=5-6)である。また、*は、P<0.05 vs Control(Dunnett test)である。
なお、糖負荷前(Pre)からのグルコース濃度変化は、各時点における血漿中グルコース濃度から、糖負荷前(Pre)におけるグルコース濃度を差し引いて算出した。
【0130】
カギカズラ葉抽出物は低用量群、高用量群ともに、糖負荷後のグルコース濃度には顕著な影響を及ぼさなかった(
図4左)が、Preからのグルコース濃度変化は、糖負荷後60分及び120分の時点で、Control群に比べやや低い値を示した(
図5左)。グルコース濃度の曲線下面積(
図4右)は各群の間で大きな差はみられなかったが、グルコース濃度変化のAUC(
図5右)は、Control群に比べて、低用量群で有意に減少し、高用量群でも同様の傾向がみられた。
【0131】
(脂質濃度)
Control群、低用量群(Kagikazura extract 50mg/kg/day)及び高用量群(Kagikazura extract 100mg/kg/day)の血漿中トリグリセリド濃度のグラフを
図6に、糖負荷前(Pre)からのトリグリセリド濃度変化のグラフを
図7に示す。
【0132】
図6左のグラフは、各群の血漿中トリグリセリド濃度の経時変化を示し、縦軸は、血漿中トリグリセリド濃度(mg/dL)、横軸は、時間(分)である。
図6右のグラフは、血漿中トリグリセリド濃度のPreから120分後までの曲線下面積(AUC)を示す。数値はMean±SD(n=6)である。また、*は、P<0.05 vs Control(Dunnett test)である。
【0133】
図7左のグラフは、各群の、糖負荷前(Pre)からのトリグリセリド濃度変化の経時変化を示し、縦軸は、血漿中トリグリセリド濃度変化(mg/dL)、横軸は、時間(分)である。
図7右のグラフは、糖負荷前(Pre)からのトリグリセリド濃度変化のPreから120分後までの曲線下面積(AUC)を示す。数値はMean±SD(n=6)である。
糖負荷前(Pre)からのトリグリセリド濃度変化は、各時点における血漿中トリグリセリド濃度から、糖負荷前(Pre)におけるトリグリセリド濃度を差し引いて算出した。
【0134】
カギカズラ葉抽出物を投与した場合の脂質負荷4時間後のトリグリセリド濃度は、Control群に比べ、低用量群、高用量群ともに有意に低下し(
図6左)、Preからのトリグリセリド濃度変化でも、有意ではないものの同様の傾向を示した(
図7左)。トリグリセリド濃度の曲線下面積は、Control群に比べ低用量群、高用量群ともに有意に低下し(
図6右)、トリグリセリド濃度変化のAUCも、低用量群、高用量群は、有意ではないものの減少傾向を示した(
図7右)。
【0135】
これらの結果から、カギカズラ葉抽出物は、食後の血糖及び血中中性脂肪を低下させることが明らかになった。カギカズラ葉抽出物は、糖代謝及び脂質代謝を改善する作用があると考えられる。
【0136】
<<実施例4:加熱処理葉の核内受容体レポーターアッセイ>>
<試料(加熱処理葉)の準備>
2022年7月に三重県鈴鹿市で栽培していた薬用木本植物カギカズラ(Uncaria rhynchophylla(Miq.)Jacks.)の葉を採取した。カギカズラの葉を以下の方法で加熱処理して、3種の加熱処理カギカズラ葉を調製した。
<加熱処理例1:熱風加熱処理(乾燥処理)>
カギカズラ葉を棚透気式乾燥機(型式:ND4-60、株式会社寺田製作所)を用いて65℃で180分間熱風加熱(乾燥)した。
<加熱処理例2:水蒸気加熱処理(蒸熱処理)後、熱風加熱処理(乾燥処理)>
カギカズラ葉を少量製茶蒸機(型式:SD4-2000、株式会社寺田製作所)を用いて45秒間水蒸気加熱した後に、棚透気式乾燥機(型式:ND4-60、株式会社寺田製作所)を用いて60℃で180分間熱風加熱(乾燥)した。
<加熱処理例3:釜炒り加熱処理(釜炒処理))後、熱風加熱処理(乾燥処理)>
カギカズラ葉を釜(株式会社丸松製茶場)に入れ240℃で40分間炒った後に、棚透気式乾燥機(型式:ND4-60、株式会社寺田製作所)を用いて60℃で180分間熱風加熱(乾燥)した。
【0137】
用いたカギカズラ葉の量は、加熱処理例1 500g、加熱処理例2 700g、加熱処理例3 800gであった。葉の量が異なる理由は各機器の容積に合わせたためである。原料(生のカギカズラ葉)及び得られた加熱処理カギカズラ葉(加熱処理物)については、下表の通りであった。
【0138】
【0139】
水分率(%D.B.)は、原料または得られた加熱処理物5gを100℃で24時間乾燥(3反復平均)して測定した。なお、%D.B.は、乾量基準含水率である。
歩留まりは、以下の式(1)から算出した。
歩留まり=100×得られた加熱処理物重量/原料投入量・・・(式1)
【0140】
<凍結乾燥>
加熱処理例1~3で得た加熱処理カギカズラ葉は、-80℃の超低温冷凍庫(Panasonic社製)内で予備凍結した後、速やかに真空凍結乾燥機(FDU-1200、東京理化器械株式会社製)に移して7~10日間真空乾燥した。乾燥は、試料の重量を測定し、翌日に変化が認められないことを確認することで終了とした。その後、粉砕機(タイガーミキサーSKR-J250、タイガー魔法瓶株式会社製)で粉砕処理し、凍結乾燥試料粉末を得た。
【0141】
<製造例6~8:加熱処理カギカズラ葉の水抽出物の調製>
凍結乾燥試料粉末から、製造例1と同様にして、加熱処理カギカズラ葉の水抽出物を調製した。加熱処理例1(熱風加熱処理)の水抽出物を製造例6、加熱処理例2(水蒸気加熱処理後、熱風加熱処理)の水抽出物を製造例7、加熱処理例3(釜炒り加熱処理後、熱風加熱処理)の水抽出物を製造例8とした。
【0142】
<製造例9~11:加熱処理カギカズラ葉の50%エタノール抽出物の調製>
凍結乾燥試料粉末から、製造例2と同様にして、加熱処理カギカズラ葉の50%エタノール抽出物を調製した。加熱処理例1(熱風加熱処理)の50%エタノール抽出物を製造例9、加熱処理例2(水蒸気加熱処理後、熱風加熱処理)の50%エタノール抽出物を製造例10、加熱処理例3(釜炒り加熱処理後、熱風加熱処理)の50%エタノール抽出物を製造例11とした。
【0143】
<製造例12~14:加熱処理カギカズラ葉の100%エタノール抽出物の調製>
凍結乾燥試料粉末から、製造例2と同様にして、加熱処理カギカズラ葉の100%エタノール抽出物を調製した。加熱処理例1(熱風加熱処理)の100%エタノール抽出物を製造例12、加熱処理例2(水蒸気加熱処理後、熱風加熱処理)の100%エタノール抽出物を製造例13、加熱処理例3(釜炒り加熱処理後、熱風加熱処理)の100%エタノール抽出物を製造例14とした。
【0144】
<核内受容体レポーターアッセイ>
製造例6~14の加熱処理カギカズラ葉の水抽出物、50%エタノール抽出物、100%エタノール抽出物を被験物質として、実施例1と同様の方法により、PPARγ、RXRα、RARα、RARβ、およびRARγに対するレポーターアッセイを行った。
なお、この実験に先立ち、以下の実験を行った。
製造例6~14のカギカズラ葉とは異なるロットのカギカズラ葉を、水蒸気加熱処理(少量製茶蒸機(型式:SD4-2000、株式会社寺田製作所)を用いて120秒間水蒸気加熱した後に、棚透気式乾燥機(型式:ND4-60、株式会社寺田製作所)を用いて60℃で180分間熱風加熱(乾燥)した。)して得た加熱処理カギカズラ葉の水抽出物、50%エタノール抽出物、100%エタノール抽出物を得た。29種類の核内受容体及び1種の転写因子(Nrf2)に対する網羅的なレポーターアッセイを行った結果、100%エタノール抽出物に、PPARγ、RXRα、RARα、RARβ、およびRARγに対して、活性が認められた。
【0145】
(結果)
製造例6~14の加熱処理カギカズラ葉の水抽出物、50%エタノール抽出物、及び100%エタノール抽出物の結果を表12~表14に示す。
Fold Change(NC比)は、陰性コントロールに対する比、Fold Change SDは標準偏差を示す。また、hRluc-CMV又はhRluc-SV40によるウミシイタケルシフェラーゼ活性値の顕著な低下が認められた場合は、数値に下線を付した。これは、細胞に顕著な障害が認められることを示す。また、顕著な活性が認められる場合は、数値を斜体で示した。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
熱風加熱処理カギカズラ葉の100%エタノール抽出物(製造例12)は、特にPPARγ、RARα、RARβ、及びRARγに対して、50%エタノール抽出物(製造例9)は、特にRARα、及びRARγに対して、顕著な活性が認められた(表12)。
水蒸気加熱処理後、熱風加熱処理カギカズラ葉の100%エタノール抽出物(製造例13)は、特にPPARγ、RARα、RARβ、及びRARγに対して、50%エタノール抽出物(製造例10)は、特にRARα、及びRARγに対して、顕著な活性が認められた(表13)。
釜炒り加熱処理後、熱風加熱処理カギカズラ葉の100%エタノール抽出物(製造例14)は、特にRARα、RARβ、及びRARγに対して、50%エタノール抽出物(製造例11)は、特にRARα、及びRARγに対して、顕著な活性が認められた(表14)。
【0150】
加熱処理の中では、熱風加熱処理(製造例9、製造例12)及び水蒸気加熱処理後、熱風加熱処理(製造例10、製造例13)した方が、釜炒り加熱処理後、熱風加熱処理(製造例11、14)よりも活性が高い傾向にあった。
また、加熱処理カギカズラ葉の100%エタノール抽出物及び50%エタノール抽出物の上述の活性(表12~表14)は、被験物質が同濃度の場合で比較すると、加熱処理していないカギカズラ葉の100%エタノール抽出物及び50%エタノール抽出物(表3)よりも高い傾向にあった。
【0151】
これらの結果から、加熱処理されたカギカズラ葉の抽出物は、核内受容体、特にRARα、RARβ、RARγ、及びPPARγPを活性化する作用を有し、特に100%エタノール抽出物及び50%エタノール抽出物はその作用が顕著であることが明らかになった。また、カギカズラ葉が有する核内受容体を活性化する効果は、加熱処理により上がることが明らかになった。