(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124443
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム、剥離フィルム、ポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240905BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240905BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/20 Z
B32B27/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103657
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2022537909の分割
【原出願日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2020123800
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020208252
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021107520
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】宮宅 一仁
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】江夏 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】福岡 佑記
(57)【要約】
【課題】 本発明は、剥離層表面における転写痕の形成を抑制できるとともに、搬送性及び剥離層の塗布性に優れた剥離フィルム製造用のポリエステルフィルムを提供することを課題とする。また、本発明は、剥離フィルム、及び、ポリエステルフィルムの製造方法を提供することも課題とする。
【解決手段】 本発明のポリエステルフィルムは、粒子を実質的に含有しないポリエステル基材と、ポリエステル基材の一方の表面上に配置された、粒子を含有する塗布層と、を備え、第1主面及び第2主面を有し、第1主面上に剥離層を形成して、剥離フィルムを製造するために用いられる、剥離フィルム製造用ポリエステルフィルムであって、第2主面は、塗布層のポリエステル基材側とは反対側の表面であり、第2主面の最大突起高さSpが1nm以上60nm未満であり、第2主面の表面自由エネルギーが、25~60mJ/m
2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を実質的に含有しないポリエステル基材と、
前記ポリエステル基材の一方の表面上に配置された、粒子含有層と、を備え、
第1主面及び第2主面を有し、
前記第1主面上に剥離層を形成して、ロール状の剥離フィルムを製造するために用いられる、ポリエステルフィルムであって、
前記第2主面は、前記粒子含有層の前記ポリエステル基材側とは反対側の表面であり、
前記第2主面の最大突起高さSpが1nm以上60nm未満である、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
直径1.5cmφの円形に相当するポリエステルフィルムの第1主面と第2主面との剥離帯電量の絶対値が0.12nC以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記第2主面の突起を構成している粒子の密度D(単位:個/μm2)と、前記最大突起高さSp(単位:nm)との積(D×Sp)が、20以上である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムの厚さが40μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記粒子含有層が、ポリオレフィンを更に含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記粒子含有層が、酸価が30mgKOH/g以下である(メタ)アクリレート樹脂を更に含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記粒子の平均粒子径が1~130nmであり、
前記粒子含有層の厚さが1~100nmであり、かつ、
前記粒子の平均粒子径が前記粒子含有層の厚さよりも大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記粒子含有層が、炭化水素系界面活性剤、及び、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記第2主面の表面自由エネルギーが25~50mJ/m2である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記ポリエステルフィルムに対して、搬送速度30m/分、及び、搬送方向の張力100N/mの条件で搬送しながら、フィルム表面の温度が90℃となる条件にて20秒間加熱処理を行った後、前記ポリエステルフィルムに観察される筋状欠陥領域の面積の合計が、観察領域の全面積に対して40%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
前記ポリエステルフィルムの密度が、1.39~1.41g/cm3である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
前記ポリエステルフィルムの90℃における幅方向の膨張率が、前記ポリエステルフィルムの30℃における幅方向の長さに対して、-0.15~0.15%である、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
前記第2主面の面平均粗さSaが1~10nmである、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
前記第1主面の最大突起高さSpが1~60nmである、請求項1~13のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項15】
前記第1主面の表面自由エネルギーが50~70mJ/m2である、請求項1~14のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項16】
前記ポリエステルフィルムの厚さのバラツキが、前記ポリエステルフィルムの平均厚さの5%以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項17】
前記剥離フィルムが、セラミックグリーンシート製造用の剥離フィルムである、請求項1~16のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの前記第1主面に配置された剥離層と、を有する、ロール状の剥離フィルム。
【請求項19】
前記剥離層の前記ポリエステルフィルム側とは反対側の表面の最大突起高さSpが1~60nmである、請求項18に記載のロール状の剥離フィルム。
【請求項20】
前記剥離層の前記ポリエステルフィルム側とは反対側の表面の表面自由エネルギーが30mJ/m2以下である、請求項18又は19に記載のロール状の剥離フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離フィルム製造用のポリエステルフィルム、剥離フィルム、及び、ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2軸配向ポリエステルフィルムは、加工性、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、及び、耐薬品性等の観点から幅広い用途に使用されている。例えば、積層セラミックコンデンサーの分野において、2軸配向ポリエステルフィルムの表面に剥離層を積層してなる剥離フィルムが、積層セラミックコンデンサー製造用の誘電体層を有するセラミックシートの作製に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2層以上からなる2軸配向ポリエステルフィルムを基材とし、基材は、粒子を実質的に含有していない表面層Aと粒子を含有する表面層Bを有し、表面層Aの表面上に離型塗布層が積層され、かつ表面層Bの表面上に平滑化塗布層が積層されてなり、平滑化塗布層が特定の領域表面平均粗さ(Sa)及び最大突起高さ(P)を有する、セラミックシート製造用離型フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のセラミックコンデンサーの大容量化及び小型化に伴い、セラミックシートに対しては、より一層の薄膜化が求められている。その一方、セラミックシートの薄膜化が進めば進むほど、剥離フィルムの表面形状がセラミックシートの性能に及ぼす影響が大きくなると考えられる。例えば、剥離フィルムの剥離面に凹凸形状が存在すると、その凹凸形状がセラミックグリーンシートの形成時にセラミックグリーンシートに転写されて、セラミックグリーンシート及び焼成により得られるセラミックシートの厚さが変動し、セラミックコンデンサー製品の性能が低下する可能性がある。
また、剥離フィルムの剥離面のみならず、剥離面の反対側の表面である搬送面の凹凸形状もセラミックシートの性能に影響を及ぼす可能性がある。剥離フィルムの搬送面には、高速搬送時のシワ抑制等を目的として突起形状を設けることが多いが、この突起形状が大きすぎる場合、剥離フィルムをロール状に巻き取って保管する際に、搬送面の突起形状が剥離面に転写されて転写痕が形成されることがある。剥離面に転写された転写痕の形状は、セラミックグリーンシート及びセラミックシートに転写され、最終製品の性能に影響を及ぼすと考えられる。
【0006】
本発明者らは、特許文献1に記載された技術を参考にして、セラミックグリーンシートの製造に用いる剥離フィルムについて更に検討したところ、上記の剥離層表面における転写痕の形成、及び、搬送性の課題に加えて、剥離フィルムの基材フィルムの性状によっては、剥離層形成時の塗布ムラ及び/又は異物による欠陥等の剥離層の塗布性が低下する場合があることを見出した。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、剥離層表面における転写痕の形成を抑制できるとともに、搬送性及び剥離層の塗布性に優れた剥離フィルム製造用のポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
また、本発明は、剥離フィルム、及び、ポリエステルフィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
〔1〕
粒子を実質的に含有しないポリエステル基材と、上記ポリエステル基材の一方の表面上に配置された、粒子を含有する塗布層と、を備え、第1主面及び第2主面を有し、上記第1主面上に剥離層を形成して、剥離フィルムを製造するために用いられる、ポリエステルフィルムであって、上記第2主面は、上記塗布層の上記ポリエステル基材側とは反対側の表面であり、上記第2主面の最大突起高さSpが1nm以上60nm未満であり、上記第2主面の表面自由エネルギーが、25~60mJ/m2である、ポリエステルフィルム。
〔2〕
上記第2主面の突起を構成している粒子の密度D(単位:個/μm2)と、上記最大突起高さSp(単位:nm)との積(D×Sp)が、20以上である、〔1〕に記載のポリエステルフィルム。
〔3〕
上記ポリエステルフィルムの厚さが40μm以下である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリエステルフィルム。
〔4〕
上記塗布層が、ポリオレフィンを更に含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔5〕
上記塗布層が、酸価が30mgKOH/g以下である(メタ)アクリレート樹脂を更に含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔6〕
上記粒子の平均粒子径が1~130nmであり、上記塗布層の厚さが1~100nmであり、かつ、上記粒子の平均粒子径が上記塗布層の厚さよりも大きい、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔7〕
上記塗布層が、炭化水素系界面活性剤、及び、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤を含有する、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔8〕
直径1.5cmφの円形に相当するポリエステルフィルムの第1主面と第2主面との剥離帯電量の絶対値が0.12nC以下である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔9〕
上記ポリエステルフィルムに対して、搬送速度30m/分、及び、搬送方向の張力100N/mの条件で搬送しながら、フィルム表面の温度が90℃となる条件にて20秒間加熱処理を行った後、上記ポリエステルフィルムに観察される筋状欠陥領域の面積の合計が、観察領域の全面積に対して40%以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔10〕
上記ポリエステルフィルムの密度が、1.39~1.41g/cm3である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔11〕
上記ポリエステルフィルムの90℃における幅方向の膨張率が、上記ポリエステルフィルムの30℃における幅方向の長さに対して、-0.15~0.15%である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔12〕
上記第2主面の面平均粗さSaが1~10nmである、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔13〕
上記第1主面の最大突起高さSpが1~60nmである、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔14〕
上記第1主面の表面自由エネルギーが50~70mJ/m2である、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔15〕
上記ポリエステルフィルムの厚さのバラツキが、上記ポリエステルフィルムの平均厚さの5%以下である、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔16〕
上記剥離フィルムが、セラミックグリーンシート製造用の剥離フィルムである、〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔17〕
〔1〕~〔16〕のいずれかに記載のポリエステルフィルムと、上記ポリエステルフィルムの上記第1主面に配置された剥離層と、を有する、剥離フィルム。
〔18〕
上記剥離層の前記ポリエステルフィルム側とは反対側の表面の最大突起高さSpが1~60nmである、〔17〕に記載の剥離フィルム。
〔19〕
上記剥離層の前記ポリエステルフィルム側とは反対側の表面の表面自由エネルギーが30mJ/m2以下である、〔17〕又は〔18〕に記載の剥離フィルム。
〔20〕
ポリエステル基材を有する未延伸ポリエステルフィルムを2軸延伸する2軸延伸工程と、
粒子を含有する塗布層形成用組成物を用いてインラインコーティングする塗布層形成工程と、を有する、
〔1〕~〔16〕のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
〔21〕
上記2軸延伸工程により2軸延伸されたポリエステルフィルムを、240℃未満の温度で加熱して熱固定する熱固定工程と、上記熱固定工程により熱固定されたポリエステルフィルムを、上記熱固定工程よりも低い温度で加熱して熱緩和する熱緩和工程と、上記熱緩和工程により熱緩和されたポリエステルフィルムを冷却する冷却工程と、上記冷却工程において、上記熱緩和されたポリエステルフィルムを幅方向に拡張する拡張工程と、を有し、上記冷却工程における上記ポリエステルフィルムの冷却速度が、2000℃/分超4000℃/分未満である、〔20〕に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥離層表面における転写痕の形成を抑制できるとともに、搬送性及び剥離層の塗布性に優れた剥離フィルム製造用のポリエステルフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、剥離フィルム、及び、ポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示に係るポリエステルフィルムの構成の一例を示す断面図である。
【
図2】筋状欠陥領域が発生したポリエステルフィルムの観察画像である。
【
図3】ポリエステルフィルムの製造に用いられる延伸機の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら制限されず、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本開示において、単なる「ポリエステルフィルム」との記載は、ポリエステル基材単体、並びに、ポリエステル基材及び塗布層の積層体の両者を包含する。
本開示において、「長手方向」とは、ポリエステルフィルムの製造時におけるポリエステルフィルムの長尺方向を意味し、「搬送方向」及び「機械方向」と同義である。
本開示において、「幅方向」とは、長手方向に直交する方向を意味する。本開示において、「直交」は、厳密な直交に限られず、略直交を含む。「略直交」とは、90°±5°で交わることを意味し、90°±3°で交わることが好ましく、90°±1°で交わることがより好ましい。
また、本開示において、「フィルム幅」とは、ポリエステルフィルムの幅方向の両端間の距離を意味する。
【0015】
[ポリエステルフィルム]
本開示に係るポリエステルフィルム(以下、「本フィルム」とも記載する。)は、ポリエステル基材と、ポリエステル基材の一方の表面上に配置された、粒子を含有する塗布層(以下、「特定塗布層」とも記載する。)とを備え、第1主面及び第2主面を有し、第1主面上に剥離層を形成して剥離フィルムを製造するために用いられる、ポリエステルフィルムである。
また、本フィルムにおいて、第2主面は、特定塗布層のポリエステル基材側とは反対側の表面であり、第2主面の最大突起高さSpが1nm以上60nm未満であり、第2主面の表面自由エネルギーが、25~60mJ/m2である。
【0016】
〔構成〕
本フィルムの構成を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本フィルムの構成の一例を示す断面図である。ポリエステルフィルム1は、ポリエステル基材2と、ポリエステル基材2の一方の表面上に配置された特定塗布層3とを備え、第1主面1a及び第2主面1bを有する。
特定塗布層3が、図示しない粒子を含有する一方、ポリエステル基材2は、粒子を実質的に含有しない。
【0017】
ポリエステルフィルム1が有する第1主面1aは、剥離層を形成するための面である。即ち、ポリエステルフィルム1の製造後、第1主面1a上に剥離層を積層することにより、ポリエステルフィルム1と剥離層とを有する剥離フィルムが作製される。
ポリエステルフィルム1が有する第2主面1bは、特定塗布層3のポリエステル基材2に対向する面とは反対側の表面である。即ち、特定塗布層3は、ポリエステルフィルム1の最外層である。
このポリエステルフィルム1の第2主面1bは、上記の特定の最大突起高さSpと、特定の表面自由エネルギーとを有する。
【0018】
本フィルムは、上記の構成を有することにより、剥離層表面における転写痕の形成を抑制できるとともに、搬送性に優れ、且つ、剥離層の塗布性に優れるという効果(以下、これらの効果の少なくとも1つを「本発明の効果」ともいう。)を奏するものとなる。
本フィルムが上記の本発明の効果を奏する理由は明らかではないが、以下のように推察される。
本フィルムの第1主面上に剥離層を形成して剥離フィルムを作製すると、本フィルムの第2主面が剥離層とは反対側の表面である搬送面に相当する。上記の通り、搬送面(第2主面)に突起形状を設けることにより搬送性が向上する一方、突起形状が大き過ぎると、剥離フィルムのロール保管時等において、剥離層に転写痕が形成されてしまう問題がある。
それに対して、本開示に係るポリエステルフィルムでは、剥離フィルムの搬送面となるポリエステルフィルムの第2主面の突起(最大突起高さSp)を小さく抑えることで、転写痕の形成を抑制でき、且つ、第2主面の表面自由エネルギーを低く抑えることで、突起を小さくすることにより低下した搬送性を向上させることができる。
一方、第2主面の最大突起高さSpを小さくしすぎると、搬送性が著しく低下し、搬送時にシワが発生して、第1主面上に形成される剥離層に厚みムラが生じる可能性がある。また、第2主面の表面自由エネルギーを小さくしすぎると、ポリエステルフィルムが帯電し易くなり、第1主面及び第2主面に異物が付着して、剥離層形成用組成物の塗布膜に塗布欠陥が生じる可能性がある。それに対して、第2主面の最大突起高さSp及び表面自由エネルギーのそれぞれを特定の下限値以上とすることにより、剥離層の厚みムラ及び/又は塗布欠陥を低減し、剥離層の塗布性が向上したものと推察される。
また、本フィルムでは、粒子を実質的に含有しないポリエステル基材と、粒子を含有する塗布層とを備える構成とすることにより、フィルムの平滑性が向上するため、剥離層表面における転写痕の形成抑制と搬送性とがともにバランス良く優れるものになると考えられる。
【0019】
本フィルムは、上記のポリエステル基材と特定塗布層とを有し、第2主面の最大突起高さSp及び表面自由エネルギーがそれぞれ上記の範囲に特定されたものであれば、その具体的な態様は特に制限されず、
図1に示す構成以外の態様を有していてもよい。
例えば、
図1に示す構成では、ポリエステルフィルム1の第1主面1aは、ポリエステル基材2の特定塗布層3側とは反対側の表面であるが、ポリエステル基材の特定塗布層側とは反対側の表面上には、片側の表面が第1主面1aである他の層が配置されていてもよい。
また、
図1に示す構成では、特定塗布層3は、ポリエステル基材2の表面に接して配置されているが、特定塗布層とポリエステル基材との間にプライマー層等を設けてもよい。
【0020】
以下、本フィルムが備える各層について詳しく説明する。
【0021】
<ポリエステル基材>
ポリエステル基材は、主たる重合体成分としてポリエステルを含有するフィルム状の物体である。ここで、「主たる重合体成分」とは、フィルムに含まれる全ての重合体のうち最も含有量(質量)が多い重合体を意味する。
ポリエステル基材は、1種単独のポリエステルを含有していてもよく、2種以上のポリエステルを含有していてもよい。
【0022】
(ポリエステル)
ポリエステルは、主鎖にエステル結合を有する重合体である。ポリエステルは、通常、後述するジカルボン酸化合物とジオール化合物とを重縮合させることにより形成される。
ポリエステルとしては特に制限されず、公知のポリエステルを利用できる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びそれらの共重合体が挙げられる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)、及びそれらの共重合体からなる群より選択されるポリエステルが好ましく、PETがより好ましい。
【0023】
ポリエステルの固有粘度は、0.50dl/g以上0.80dl/g未満が好ましく、0.55dl/g以上0.70dl/g未満がより好ましい。
ポリエステルの融点(Tm)は、220~270℃が好ましく、245~265℃がより好ましい。
ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、65~90℃が好ましく、70~85℃がより好ましい。
【0024】
ポリエステルの製造方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。例えば、触媒存在下で、少なくとも1種のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種のジオール化合物とを重縮合させることによりポリエステルを製造できる。
【0025】
-触媒-
ポリエステルの製造に使用する触媒は、特に制限されず、ポリエステルの合成に使用可能な公知の触媒を利用できる。
触媒としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、カリウム化合物、ナトリウム化合物)、アルカリ土類金属化合物(例えば、カルシウム化合物、マグネシウム化合物)、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、及びリン化合物が挙げられる。中でも、触媒活性、及びコストの観点から、チタン化合物が好ましい。
触媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カリウム化合物、ナトリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、及びゲルマニウム化合物から選択される少なくとも1種の金属触媒と、リン化合物とを併用することが好ましく、チタン化合物とリン化合物を併用することがより好ましい。
【0026】
チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体が好ましい。有機キレートチタン錯体は、配位子として有機酸を有するチタン化合物である。
有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、及びリンゴ酸が挙げられる。
チタン化合物としては、特許第5575671号公報の段落0049~段落0053に記載されたチタン化合物も利用でき、上記公報の記載内容は、本明細書に組み込まれる。
【0027】
-ジカルボン酸化合物-
ジカルボン酸化合物としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物、及び、芳香族ジカルボン酸化合物等のジカルボン酸、並びに、それらジカルボン酸のメチルエステル化合物及びエチルエステル化合物等のジカルボン酸エステルが挙げられる。中でも、芳香族ジカルボン酸、又は、芳香族ジカルボン酸メチルが好ましい。
【0028】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、及びエチルマロン酸が挙げられる。
脂環式ジカルボン酸化合物としては、例えば、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及びデカリンジカルボン酸が挙げられる。
【0029】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸、及び、それらのメチルエステル体が挙げられる。
中でも、テレフタル酸又は2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0030】
ジカルボン酸化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸化合物として、テレフタル酸を使用する場合、テレフタル酸単独で用いてもよく、イソフタル酸等の他の芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸と共重合してもよい。
【0031】
-ジオール化合物-
ジオール化合物としては、例えば、脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、及び芳香族ジオール化合物が挙げられ、脂肪族ジオール化合物が好ましい。
【0032】
脂肪族ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、及び、ネオペンチルグリコールが挙げられ、エチレングリコールが好ましい。
脂環式ジオール化合物としては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、及びイソソルビドが挙げられる。
芳香族ジオール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4-ベンゼンジメタノール、及び9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。
ジオール化合物は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
-末端封止剤-
ポリエステルの製造においては、必要に応じて、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤を用いることで、ポリエステルの末端に末端封止剤に由来する構造が導入される。
末端封止剤としては、制限されず、公知の末端封止剤を利用できる。末端封止剤としては、例えば、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物、及びエポキシ化合物が挙げられる。
末端封止剤としては、特開2014-189002号公報の段落0055~段落0064に記載の内容も参照でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0034】
-製造条件-
反応温度は、制限されず、原材料に応じて適宜設定すればよい。反応温度は、260~300℃が好ましく、275~285℃がより好ましい。
圧力は、制限されず、原材料に応じて適宜設定すればよい。圧力は、1.33×10-3~1.33×10-5MPaが好ましく、6.67×10-4~6.67×10-5MPaがより好ましい。
【0035】
ポリエステルの合成方法としては、特許第5575671号公報の段落0033~段落0070に記載された方法も利用でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0036】
ポリエステル基材におけるポリエステルの含有量は、ポリエステル基材中の重合体の全質量に対して、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
ポリエステルの含有量の上限は、制限されず、ポリエステル基材中の重合体の全質量に対して、100質量%以下の範囲で適宜設定できる。
【0037】
ポリエステル基材がポリエチレンテレフタレートを含有する場合、ポリエチレンテレフタレートの含有量は、ポリエステル基材中のポリエステルの全質量に対して、90~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましく、98~100質量%が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0038】
ポリエステル基材は、ポリエステル以外の成分(例えば、触媒、未反応の原料成分、粒子、及び、水等)を含有してもよい。
ポリエステル基材は、粒子を実質的に含有しない。粒子としては、例えば、後述する特定塗布層が含有する粒子が挙げられる。なお「粒子を実質的に含有しない」とは、ポリエステル基材について、蛍光X線分析で粒子に由来する元素を定量分析した際に、粒子の含有量がポリエステル基材の全質量に対して50質量ppm以下であることで定義され、好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは検出限界以下である。これは積極的に粒子をポリエステル基材中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分、原料樹脂、又は、ポリエステル基材の製造工程におけるラインもしくは装置に付着した汚れが剥離して、ポリエステル基材中に混入する場合があるためである。
【0039】
ポリエステル基材の厚さは、剥離性を制御できる点で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましい。厚さの下限は特に制限されないが、強度が向上し、加工性が向上する点で、3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。
ポリエステル基材の厚さは、後述するポリエステルフィルムの厚さの測定方法に従って、測定される。
【0040】
<特定塗布層>
特定塗布層は、粒子を含有する層であり、ポリエステル基材の一方の表面に形成される。また、特定塗布層のポリエステル基材に対向する面とは反対側の表面は、第2主面を構成する。
本フィルムは、特定塗布層を有することで、ポリエステルフィルム及び剥離フィルムの搬送性を向上できる。より具体的には、巻き品質を向上(ブロッキングを抑制)し、搬送時のキズ及び欠陥の発生を抑制し、高速搬送における搬送シワを低減できる。
【0041】
特定塗布層は、ポリエステル基材の表面に直接設けてもよく、他の層を介してポリエステル基材の表面に設けてもよいが、密着性がより優れる点で、ポリエステル基材の表面に直接設けることが好ましい。即ち、特定塗布層の第1主面側の表面は、ポリエステル基材と接していることが好ましい。
【0042】
特定塗布層としては、粒子を含有し、第2主面が特定の最大突起高さSp及び表面自由エネルギーを有するものであれば特に制限されないが、粒子に加えてバインダーを含有することが好ましい。また、特定塗布層は、粒子及びバインダー以外の添加剤を含有していてもよい。
【0043】
(粒子)
特定塗布層に含有される粒子の平均粒子径は、特に制限されず、1~250nmが好ましく、搬送性がより優れる点及び転写痕が抑制できる点で、10~200nmがより好ましく、30~130nmが更に好ましい。
また、搬送性がより優れる点及び転写痕が抑制できる点で、特定塗布層に含有される粒子の平均粒子径が10~250nm(より好ましくは30~130nm)であり、特定塗布層の厚さが1~200nm(より好ましくは10~100nm)であり、かつ、粒子の平均粒子径が特定塗布層の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0044】
特定塗布層が含有する粒子としては、1種単独で用いてもよく、2種以上の粒子を用いてもよい。
特定塗布層が、粒子径の異なる2種以上の粒子を含有する場合、特定塗布層は、平均粒子径が上記範囲内にある粒子を少なくとも1種含有することが好ましく、粒子径の異なる2種以上の粒子がいずれも平均粒子径が上記範囲内にある粒子であることがより好ましい。
【0045】
特定塗布層に含まれる粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、下記の方法により求められる。即ち、ポリエステルフィルムの第2主面を、SEMを用いて20000倍の拡大倍率で観察する。任意に選択された10の視野について観察を行い、各視野において突起として識別可能な粒子(ベース面から突出した突起として視認可能な粒子)について、画像ソフトウエアを用いて個々の粒子の面積を測定し、同一面積を有する円の直径(面積円相当径)を算出する。得られる面積円相当径の算術平均値を粒子の平均粒子径とする。このとき、ゴミ及び/又は1μm以上の粗大凝集粒子が存在する場合であっても、ゴミ及び粗大凝集粒子は平均粒子径を算出する際にカウントしない。
なお、平均粒子径の測定において、凝集粒子については、凝集した状態の2次粒子の粒子径(2次粒子径)を測定するものとする。
また、特定塗布層が、粒子径の異なる2種以上の粒子を含有する場合、上記の測定方法で測定される面積円相当径の分布には、粒子径の異なる2以上のピークが見られる。このように、上記の測定方法で測定される面積円相当径の分布が、粒子径の異なる2以上のピークを有している場合、それぞれのピークごとに面積円相当径の平均値を算出して、粒子径の異なるそれぞれの粒子について、平均粒子径を算出するものとする。
【0046】
特定塗布層が含有する粒子としては、例えば、有機粒子、及び無機粒子が挙げられる。中でも、フィルム巻き品質、ヘイズ、及び耐久性(例えば、熱安定性)がより向上する観点から、無機粒子が好ましい。
有機粒子としては、樹脂粒子が好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、及び、スチレン-アクリル樹脂が挙げられる。樹脂粒子は、架橋構造を有することが好ましい。架橋構造を有する樹脂粒子としては、例えば、ジビニルベンゼン架橋粒子が挙げられる。
無機粒子としては、例えば、シリカ粒子(二酸化ケイ素粒子、コロイダルシリカ)、チタニア粒子(酸化チタン粒子)、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、及び、アルミナ粒子(酸化アルミニウム粒子)が挙げられる。上記の中でも、無機粒子は、ヘイズ、及び、耐久性がより向上する観点から、シリカ粒子であることが好ましい。
【0047】
粒子の形状は、特に制限されず、例えば、米粒状、球形状、立方体状、紡錘形状、鱗片状、凝集状、及び、不定形状が挙げられる。凝集状とは、1次粒子が凝集した状態を意味する。凝集状にある粒子の形状は制限されないが、球状又は不定形状が好ましい。
【0048】
凝集粒子としては、ヒュームドシリカ粒子が好ましく挙げられる。入手可能な市販品としては、例えば、日本アエロジル株式会社のアエロジルシリーズが挙げられる。
非凝集粒子としては、コロイダルシリカ粒子が好ましく挙げられる。入手可能な市販品としては、例えば、日産化学株式会社製のスノーテックスシリーズが挙げられる。
【0049】
特定塗布層における粒子の含有量は、搬送性、及び、剥離層の塗布性の観点から、特定塗布層の全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましく、1~15質量%が更に好ましい。
また、粒子の含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.0001~0.01質量%が好ましく、0.0005~0.005質量%がより好ましい。
【0050】
(バインダー)
特定塗布層は、バインダーを含有することが好ましい。バインダーとしては、樹脂バインダーが好ましい。樹脂バインダーとしては、例えば、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリエステル及びポリオレフィンが挙げられる。
【0051】
特定塗布層は、バインダーを含む水分散体を塗布することにより形成されることが好ましい。その点で、バインダーとしては、酸変性樹脂が好ましい。酸変性樹脂としては、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸の共重合体、カルボキシル基を有するポリオレフィン、並びに、酸変性ポリウレタンが挙げられ、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸の共重合体、又は、カルボキシル基を有するポリオレフィンが好ましく、カルボキシル基を有するポリオレフィンがより好ましい。
また、バインダーは、特定塗布層の表面自由エネルギーを上記の特定の範囲に調整することが容易である点で、(メタ)アクリレート樹脂、ポリオレフィン又はポリウレタンが好ましく、(メタ)アクリレート樹脂又はポリオレフィンがより好ましく、ポリオレフィンが更に好ましい。(メタ)アクリレート樹脂、ポリオレフィン及びポリウレタンとしては、特に制限されず、公知の樹脂を利用できる。
【0052】
ポリオレフィンは、主鎖にオレフィンに由来する構成単位を含有していればよく、主成分としてオレフィンに由来する構成単位を含有することが好ましい。主鎖にオレフィン構造を有することで、ポリエステル基材との相溶性が不十分となり、結果として、長期保管後の転写痕をより向上することができる。オレフィンとしては、特に制限されないが、炭素数2~6のアルケンが好ましく、エチレン、プロピレン、又は、ヘキセンがより好ましく、エチレンが更に好ましい。
なお、本明細書において、ポリマーが、あるモノマーに由来する構成単位を「主成分として有する」とは、その構成単位がポリマーの全構成単位に対して50モル%以上であることを意図する。
ポリオレフィンが有するオレフィンに由来する構成単位は、ポリオレフィンの全ての構成単位に対して、50~99モル%が好ましく、60~98%がより好ましい。
【0053】
ポリオレフィンとしては、剥離層を塗布する際の帯電を防止できる点で、酸変性ポリオレフィンが好ましい。酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、上記ポリオレフィンを、不飽和カルボン酸又はその無水物等の酸変性成分で変性した共重合体が挙げられる。この共重合体の重合の形態は特に制限されず、ランダム共重合、ブロック共重合及びグラフト共重合等が挙げられる。
酸変性成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、及び、クロトン酸、並びに、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、及び、ハーフアミドが挙げられ、樹脂の分散安定性の面から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、又は、無水マレイン酸が好ましい。
【0054】
酸変性ポリオレフィンが含有する酸性基としては、上記の酸変性成分に対応する酸性基である、カルボキシル基、スルホ基、及び、リン酸基が挙げられ、カルボキシル基が好ましい。酸性基は、酸無水物を形成していていもよいし、アルカリ金属、有機アミン及びアンモニアから選択される少なくとも1つで中和されていてもよい。帯電を抑制し、剥離層の塗布性が向上する点で、酸変性成分はアルカリ金属で中和されていることが好ましい。
酸変性ポリオレフィンは、酸性基を有する構成単位を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。酸性基を有する構成単位とは、例えば、上記の酸変性成分のモノマーに由来する構成単位、及び、上記のオレフィンモノマーに由来する構成単位に酸変性成分がグラフトされた構成単位が挙げられる。酸性基を有する構成単位の含有量は、特に制限されないが、酸変性ポリオレフィンの全ての構成単位に対して、0.1~30モル%が好ましい。
【0055】
酸変性ポリオレフィンの市販品としては、例えば、ザイクセンAC、A、L、NC、N等のザイクセン(登録商標)シリーズ(住友精化(株)製)、ケミパールS100、S120、S200、S300、S650、SA100等のケミパール(登録商標)シリーズ(三井化学(株)製)、及び、ハイテックS3121、S3148K等のハイテック(登録商標)シリーズ(東邦化学(株)製)、アローベースSE-1013、SE-1010、SB-1200、SD-1200、SD-1200、DA-1010、DB-4010等のアローベース(登録商標)シリーズ(ユニチカ(株)製)、ハードレンAP-2、NZ-1004、NZ-1005(東洋紡(株)製)、セポルジョンG315、VA407(住友精化(株)製)等が挙げられる。
また、特開2014-076632号公報の段落0022~0034に記載の酸変性ポリオレフィンも好ましく用いることができる。
【0056】
(メタ)アクリレート樹脂は、(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する樹脂であり、スチレンなどのビニル単量体を共重合していていもよい。(メタ)アクリレート樹脂としては、特に制限されないが、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましく、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことがより好ましい。
剥離層を塗布する際の帯電を防止できる点で、(メタ)アクリレート樹脂は、酸変性成分を有することが好ましい。(メタ)アクリレート樹脂は、酸変性成分として、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸は、酸無水物を形成していていもよいし、アルカリ金属、有機アミン及びアンモニアから選択される少なくとも1つで中和されていてもよい。帯電を抑制し、剥離層の塗布性が向上する点で、(メタ)アクリル酸はアルカリ金属で中和されていることが好ましい。
帯電を抑制し、剥離層の塗布性が向上する点で、酸変性基を有する構成単位の含有量は、(メタ)アクリレート樹脂の全ての構成単位に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸からなる構成単位が0.1~10質量%であることがより好ましい。酸変性基を有する構成単位の含有量を上記範囲とすることで、酸価を低くすることができ、表面自由エネルギーを所望の範囲に調節できる。また、(メタ)アクリレート樹脂の水分散体としては、(メタ)アクリレート樹脂と分散剤とを含む水分散体も好ましい。
【0057】
(メタ)アクリレート樹脂の酸価は、30mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましい。酸価の下限は、特に制限されず、例えば、0mgKOH/gであるが、水分散体として塗布する点からは、2mgKOH/g以上が好ましい。(メタ)アクリレート樹脂の酸価を上記範囲とすること、及び、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含ませること、の少なくとも一方を満たすように調節することで、表面自由エネルギーを所望の範囲に調節できる。本発明のポリエステルフィルムを長期保管してセラミックグリーンシート製造用の剥離フィルムとした場合に、欠陥を抑制できる点は、アクリル樹脂の酸価を上記範囲とすること、及び、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含ませること、の両方を満たすことが好ましい。
【0058】
ポリウレタンとしては、主鎖にウレタン結合を有する重合体であれば制限されず、イソシアネート化合物とポリオール化合物との反応生成物等の公知のポリウレタンを利用できる。
上述の通り、水分散体の調製が容易である点では、酸変性ポリウレタンが好ましい。酸変性ポリウレタンとは、酸性基を有するポリウレタンを意味する。酸性基としては、上記の酸変性ポリオレフィンが含有する酸性基として挙げた基が挙げられる。また、ポリウレタンの水分散体としては、ポリウレタンと分散剤とを含む水分散体も好ましい。
特定塗布層に含まれるポリウレタンは、例えば、原料となるポリオール化合物及び/又はイソシアネート化合物のそれぞれの構造及び疎水性(親水性)を調整することで、特定塗布層の表面自由エネルギーを特定の範囲に制御できる。
ポリウレタンの市販品としては、例えば、ハイドラン(登録商標)AP-20、AP-40N及びAP-201(以上、DIC(株)製);タケラック(登録商標)W-605、W-5030及びW-5920(以上、三井化学(株)製);並びに、スーパーフレックス(商標登録)210及び130、エラストロン(登録商標)H-3-DF、E-37及びH-15(以上、第一工業製薬(株)製)が挙げられる。
【0059】
特定塗布層は、1種単独のバインダーを含有していてもよく、2種以上のバインダーを含有していてもよい。表面自由エネルギーを制御するために、上記ポリオレフィン又は(メタ)アクリレート樹脂と、ポリオレフィン及び(メタ)アクリレート樹脂以外の樹脂とを併用する場合、併用する樹脂としては、上記ポリウレタンが好ましい。
バインダーの含有量は、Spを所望の範囲に調節する観点から、特定塗布層の全質量に対して、30~99.8質量%が好ましく、50~99.5質量%がより好ましい。
【0060】
(添加剤)
特定塗布層は、上記の粒子及びバインダー以外の添加剤を含有していてもよい。
特定塗布層に含有される添加剤としては、例えば、界面活性剤、ワックス、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、強化剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、防錆剤、及び、防黴剤が挙げられる。
【0061】
特定塗布層は、第2主面において、粒子により形成される突起が存在する箇所以外の領域の平滑性が向上する点で、界面活性剤を有することが好ましい。第2主面の上記領域の平滑性が向上し、粒子以外の要因で第2主面の表面粗さが小さくなることにより、Spを所望の範囲に制御し、本発明の効果を向上させることができる。
【0062】
界面活性剤としては、特に制限されず、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及び、炭化水素系界面活性剤が挙げられる。第1主面における帯電を抑制し、剥離層を塗布する際の異物による欠陥の発生を抑制することにより、剥離層の塗布性を向上できる点で、炭化水素系界面活性剤が好ましい。
【0063】
シリコーン系界面活性剤としては、疎水基としてケイ素含有基を有する界面活性剤であれば特に制限されず、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、及び、ポリメチルアルキルシロキサンが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK(登録商標)-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、及び、BYK-349(以上、BYK社製)、並びに、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、及び、KF-6017(以上、信越化学株式会社製)が挙げられる。
【0064】
フッ素系界面活性剤としては、疎水基としてフッ素含有基を有する界面活性剤であれば特に制限されず、例えば、パーフルオロオクタンスルホン酸、及び、パーフルオロカルボン酸が挙げられる。
フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、メガファック(登録商標)F-114、F-410、F-440、F-447、F-553、及び、F-556(以上、DIC社製)、並びに、サーフロン(登録商標)S-211、S-221、S-231、S-233、S-241、S-242、S-243、S-420、S-661、S-651、及びS-386(AGCセイミケミカル社製)が挙げられる。
【0065】
また、フッ素系界面活性剤としては、環境適性向上の観点から、パーフルオロオクタン酸(PFOA)及びパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の炭素数が7以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有する化合物の代替材料に由来する界面活性剤を使用することが好ましく、炭素数が6以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有する化合物の代替材料に由来する界面活性剤を使用することがより好ましい。
より具体的には、炭素数が6以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有する界面活性剤と比較して、剥離層の塗布性を向上できる点で、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤を用いることが好ましい。炭素数1~4のパーフルオロアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。なかでも、炭素数1~4の直鎖状のパーフルオロアルキル基、又は、炭素数3の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤がより好ましく、炭素数1又は2のパーフルオロアルキル基、又は、炭素数3の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤が更に好ましい。
上記のパーフルオロアルキル基としては、例えば、CF3-*、C2F5-*、C3F7-*、n-C4F9-*、及び、(CF3)2CF-*が挙げられる。ここで、*は、フッ素原子により置換されている炭素原子以外の炭素原子との結合位置を示す。これらのパーフルオロアルキル基と結合する炭素原子は、水素原子を有するか、又は、炭素原子のみと結合しているかのいずれかであることが好ましい。
【0066】
炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、フタージェント(登録商標)100、100C、110、150、150H、212M、215M、250、251、222F、245F、208G、FTX-218、DFX-18、300、310、320、400SW、710FL、683、601AD、602A、及び681、(以上、(株)ネオス製)、並びに、PF-136A、PF-156A、PF-151N、PF-636、PF-6320、PF-656、PF-6520、PF-652-NF(以上、OMNOVA社製)が挙げられる。
【0067】
炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤を用いると、炭素数が6以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有する界面活性剤を用いる場合と比較して、剥離層の塗布性が向上する理由は定かではないが、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤は、表面張力の低いCF3基を重量あたりに数多く含むために、少ない添加量で第2主面の表面自由エネルギーを低下させることができる。これにより、ポリエステルフィルムの搬送性を向上することができるとともに、特定塗布層の組成が大きく変わらないため、後述する剥離帯電を抑制し、剥離層の塗布性を向上することができるものと推察している。
【0068】
炭化水素系界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、及び、脂肪酸塩が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコールモノ又はジアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールモノ又はジアルキルエステル、及び、ポリアルキレングリコールモノアルキルエステル・モノアルキルエーテルが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、第1級~第3級アルキルアミン塩、及び、第4級アンモニウム化合物等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両者を有する界面活性剤が挙げられる。
【0069】
アニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、ラピゾール(登録商標)A-90、A-80、BW-30、B-90、及び、C-70(以上、日油(株)製)、NIKKOL(登録商標)OTP-100(以上、日光ケミカル(株)製)、コハクール(登録商標)ON、L-40、及び、フォスファノール(登録商標)702(以上、東邦化学工業(株)製)、並びに、ビューライト(登録商標)A-5000、及び、SSS(以上、三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、ナロアクティー(登録商標)CL-95、及び、HN-100(商品名:三洋化成工業(株)製)、リソレックスBW400(商品名:高級アルコール工業(株)製)、EMALEX(登録商標)ET-2020(以上、日本エマルジョン(株)製)、並びに、サーフィノール(登録商標)104E、420、440、465、及び、ダイノール(登録商標)604、607(以上、日信化学工業(株)製)、が挙げられる。
【0070】
酸変性の樹脂と併用する場合には、樹脂の分散を阻害することなく表面が平滑な塗布層を形成できる点で、アニオン性界面活性剤及び/又はノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。即ち、界面活性剤としては、表面平滑性の向上、及び、剥離層の塗布性の向上の点で、アニオン性の炭化水素系界面活性剤がより好ましい。
【0071】
アニオン性の炭化水素系界面活性剤は、平滑性がより向上する点で、複数個の疎水性末端基を有することが好ましい。疎水性末端基は、炭化水素系界面活性剤が有する炭化水素基の一部であってよい。例えば、分岐鎖構造を有する炭化水素基を末端に有する炭化水素系界面活性剤は、複数個の疎水性末端基を有することになる。
複数個の疎水性末端基を有するアニオン性の炭化水素系界面活性剤としては、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端基を4つ有する)、スルホコハク酸ジ-2-エチルオクチルナトリウム(疎水性末端基を4つ有する)、及び、分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端基を2つ有する)が挙げられる。
【0072】
界面活性剤は1種用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
界面活性剤の含有量は、特定塗布層の全質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、剥離層形成時の帯電防止性、及び、表面平滑性により優れる点で、0.1~5質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることが更に好ましい。
【0073】
ワックスとしては、特に制限されず、天然ワックスも合成ワックスでもよい。天然ワックスとしては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ミツロウ、モンタンワックス、パラフィンワックス、及び、石油ワックスが挙げられる。その他、国際公開2017/169844号明細書の[0087]の記載の滑り剤も使用できる。
ワックスの含有量は、特定塗布層の全質量に対して、0~10質量%が好ましい。
【0074】
架橋剤としては、特に制限されず、公知のものを使用できる。
架橋剤としては、例えば、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、及び、カルボジイミド系化合物が挙げられ、オキサゾリン系化合物及びカルボジイミド系化合物が特に好ましい。市販品としては、例えば、カルボジライトV-02-L2(日清紡(株)製)及びエポクロスK-2020E(日本触媒(株)製)が挙げられる。エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、及びメラミン系化合物の詳細については、特開2015-163457号公報の[0081]~[0083]の記載を参照することができる。国際公開2017/169844号明細書の[0082]~[0084]の記載の架橋剤も好ましく使用できる。カルボジイミド化合物としては、特開2017-087421号公報の[0038]~[0040]の記載を参照できる。
オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物については、国際公開2018/034294号明細書の[0074]~[0075]の記載の架橋剤も好ましく使用できる。
架橋剤の含有量は、特定塗布層の全質量に対して、0~50質量%が好ましい。
【0075】
(厚さ)
特定塗布層は、粒子を含有する組成物をポリエステル基材の一方の表面上に塗布して形成することにより、その厚さが1μm以下になることが多い。
特定塗布層の厚さは、特定塗布層の製造適性、及び、ヘイズ低減の観点から、1~200nmが好ましく、10~100nmがより好ましく、20~100nmが更に好ましい。
特定塗布層の厚さは、ポリエステルフィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて測定される、上記切片の5か所の厚さの算術平均値とする。
特定塗布層が柔らかく、安定して断面切片を作製することが難しい場合には、屈折率計を用いて測定してもよい。具体的には、測定される反射率スペクトルを特定塗布層及びポリエステル基材の膜厚及び屈折率とフィッテングすることにより、特定塗布層の膜厚を求めることができる。
【0076】
特定塗布層の形成方法については、後述する「特定塗布層形成工程」において詳しく説明する。
【0077】
本フィルムは、上記のポリエステル基材及び特定塗布層以外の層を備えていてもよいが、ポリエステル基材及び特定塗布層からなることがより好ましい。
【0078】
〔物性等〕
次に、本フィルムの物性等について説明する。
【0079】
(第2主面の表面自由エネルギー)
本フィルムにおいては、第2主面の表面自由エネルギーが25~60mJ/m2である。第2主面の表面自由エネルギーが上記の範囲にあることにより、第2主面の最大突起高さSpが上記の範囲にあっても搬送性に優れ、かつ、剥離層の塗布性に優れるポリエステルフィルムが得られる。
第2主面の表面自由エネルギーは、長期保管後の剥離フィルムの剥離層表面における転写痕の形成をより抑制できる点で、25~50mJ/m2が好ましい。さらに、上記の搬送性及び剥離層の塗布性の観点から、第2主面の表面自由エネルギーは、30~50mJ/m2がより好ましく、30~45mJ/m2が更に好ましく、40~45mJ/m2が特に好ましい。
第2主面(特定塗布層表面)の表面自由エネルギーは、例えば、特定塗布層を構成する粒子、上記のバインダー及び添加剤等を選択することにより、調節できる。
【0080】
ポリエステルフィルムの第2主面の表面自由エネルギーは、接触角計(例えば、協和界面化学社製「DROPMASTER-501」等)を用いて、25℃の条件にて、第2主面(特定塗布層側の表面)に精製水、ヨウ化メチレン及びエチレングリコールの液滴を滴下し、液滴が表面に付着してから1秒後の接触角を測定し、得られたそれぞれの接触角から北崎・畑の方法に従って算出することにより、求められる。
なお、上記の方法で得られる「表面自由エネルギー」は、表面自由エネルギーの極性成分及び水素結合成分の合計である。
【0081】
(第1主面の表面自由エネルギー)
本フィルムを巻き取る際の帯電防止の観点で、第1主面の表面自由エネルギーは、50~70mJ/m2であることが好ましい。
また、第1主面の表面自由エネルギーと第2主面の表面自由エネルギーとの差が広い方が、フィルムが帯電しにくいため、好ましい。第1主面の表面自由エネルギーと第2主面の表面自由エネルギーとの差は、1~35mJ/m2が好ましく、5~35mJ/m2がより好ましく、10~30mJ/m2が更に好ましい。
第1主面の表面自由エネルギーは、第1主面を有する層を形成する樹脂及び添加剤の種類により調整できる。例えば、第1主面がポリエステル基材の特定塗布層側とは反対側の表面である場合、ポリエステル基材を形成する樹脂及び添加剤の種類により、第1主面の表面自由エネルギーは調整できる。
【0082】
(第2主面の最大突起高さSp、面平均粗さSa)
本フィルムは、第2主面の最大突起高さSpが1nm以上60nm未満である。第2主面の最大突起高さSpが上記の範囲にあることにより、剥離層表面における転写痕の抑制及び搬送性がバランス良く優れた剥離フィルムを製造できる。
上記の観点から、第2主面の最大突起高さSpは、10~50nmが好ましく、20~50nmがより好ましい。
【0083】
また、本フィルムにおいては、転写痕の抑制安定性がより優れる点で、第2主面の面平均粗さSaが、1~10nmであることが好ましく、1~9nmであることがより好ましく、1~8nmであることが更に好ましい。
【0084】
第2主面(特定塗布層表面)の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、例えば、特定塗布層に含まれる粒子の平均粒子径及び含有量、並びに、特定塗布層の厚さにより、調節することができる。インラインコーティングにて特定塗布層を形成する場合には、上記の調整をより容易に行うことができる。
【0085】
ポリエステルフィルムの第2主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、ポリエステルフィルムの特定塗布層側の表面を、光学干渉計(例えば、株式会社日立ハイテク製「Vertscan 3300G Lite」等)を用いて下記の条件で測定し、その後、内蔵されているデータ解析ソフトにて解析することにより、求められる。
最大突起高さSpの測定では、測定位置を変えて5回測定し、得られる測定値の最大値を最大突起高さSpの測定値とする(内蔵されているデータ解析ソフトではPと表記される)。また、面平均粗さSaの測定では、測定位置を変えて5回測定し、得られる測定値の平均値を面平均粗さSaの測定値とする。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:50倍
・測定面積:186μm×155μm
【0086】
(第1主面の最大突起高さSp、面平均粗さSa)
剥離層を平滑にする点で、第1主面はできるだけ平滑であることが好ましい。具体的には、第1主面の最大突起高さSpは、1~60nmであることが好ましく、5~30nmであることがより好ましい。また、第1主面の面平均粗さSaは、0~10nmであることが好ましく、0~5nmであることがより好ましい。
第1主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、ポリエステル基材に実質的に粒子を入れず、かつ、平滑に製膜するようにポリエステル基材を構成するポリエステルの種類及び添加剤の種類を選択する等の手法により、調整できる。
第1主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、上記の第2主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaの測定方法に従って測定できる。
【0087】
(第2主面の最大突起高さSpと粒子密度Dとの積)
本フィルムにおいては、搬送性がより優れる点で、第2主面の突起を構成している粒子の密度D(単位:個/μm2、「粒子密度D」ともいう)と、上記の第2主面の最大突起高さSp(単位:nm)との積(D×Sp)が、1以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、転写痕抑制がより優れる点で、400以下が好ましく、300以下がより好ましい。
上記積(D×Sp)は、どの程度の大きさの突起が第2主面にどの程度の密度で存在するかを表す指標であり、上記積(D×Sp)が上記の範囲内にあると、転写痕抑制及び搬送性の観点で好ましい突起が、第2主面に適度な量で存在することになり、転写痕抑制及び搬送性の効果がより一層優れるため、好ましい。
【0088】
上記の粒子密度Dは、上記の最大突起高さSp及び面平均粗さSaと同様に、例えば、特定塗布層に含まれる粒子の平均粒子径及び含有量、並びに、特定塗布層の厚さにより、調節することができる。インラインコーティングにて特定塗布層を形成する場合には、上記の調整をより容易に行うことができる。
【0089】
また、ポリエステルフィルムの第2主面の突起を構成している粒子の粒子密度Dは、SEMを用いて、粒子の平均粒子径の測定方法と同様の方法により求められる。即ち、ポリエステルフィルムの特定塗布層側の表面を、20000倍の拡大倍率で観察する。任意に選択された10の視野について観察を行い、各視野において突起として識別可能な粒子(ベース面から突出した突起として視認可能な粒子)について、画像ソフトウエアを用いて個々の粒子の個数を計測する。全視野で計測された粒子の個数の合計を、全視野の合計面積で除して得られる算出値を、粒子密度D(単位:個/μm2)とする。
【0090】
(配向性)
本フィルムは、2軸配向ポリエステルフィルムである。本開示において「2軸配向」とは、2軸方向に分子配向性を有する性質を意味する。
分子配向性は、マイクロ波透過型分子配向計(例えば、MOA-6004、株式会社王子計測機器社製)を用いて測定する。2軸方向のなす角は、90°±5°が好ましく、90°±3°がより好ましく、90°±1°が更に好ましい。本フィルムは、長手方向及び幅方向に分子配向性を有することが好ましい。
【0091】
(筋状欠陥領域)
本開示において「筋状欠陥」とは、フィルムの長手方向に沿って筋状に延び、かつ、フィルムの幅方向においては凹凸として現れるシワをいう。後述するように、筋状欠陥は製造後のフィルムに生じるものであるから、不可逆的に発生するシワである場合が多い。筋状欠陥は、フィルムの製造時の熱処理において生じるものではなく、製造後のフィルムに対する熱処理において生じる波状のシワに由来し、上記波状のシワが、熱処理後の冷却により固化したものである。そして、「筋状欠陥領域」とは、フィルム面内において筋状欠陥が発生した部分を意味する。
筋状欠陥領域が発生(すなわち、フィルム面内において筋状欠陥が部分的に発生)すると、剥離層に厚さムラを生じさせて、剥離層の塗布性を低下させ、結果として、セラミックコンデンサーの性能に影響を及ぼす可能性がある。また、筋状欠陥領域は、フィルムの長手方向に引張荷重が加えられた状態で加熱された際に顕著に発生する傾向にある。
【0092】
90℃で加熱した場合に発生する筋状欠陥領域の合計面積のポリエステルフィルムの観察領域の全面積に対する比率(以下、「筋状欠陥領域の面積比」ともいう。)は、剥離層の塗布性をより向上できる点で、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
筋状欠陥領域の面積比の下限は特に制限されないが、90℃で加熱した場合に発生する筋状欠陥領域の面積比は少ないことが好ましく、筋状欠陥領域がない、つまり0%であることがより好ましい。
【0093】
上記の筋状欠陥領域の面積比は、以下の方法により測定する。
(1)加熱搬送装置を用いて、ポリエステルフィルムに対して、搬送速度30m/分、及び、搬送方向の張力100N/mの条件で搬送しながら、フィルムの表面温度が90℃となる条件で加熱処理を20秒間行う。加熱処理における加熱時間は、フィルムの表面温度が目的とする温度(90℃)に達した時点から起算し、そこから連続した20秒間、加熱する。フィルムの表面温度の測定方法については後述する。
(2)加熱処理を施したポリエステルフィルムを黒色の平板上に置き、次いで、室内の天井に設置された蛍光灯〔例えば、三菱電機株式会社製のルピカエース(色温度:5000K、平均演色評価数(Ra):84)〕の光が反射するように視点を変えながらポリエステルフィルムを斜めから目視で観察する。目視により観察される、ポリエステルフィルムの表面に映った蛍光灯の反射像がうねっている領域を筋状欠陥領域とする。
(3)観察される筋状欠陥領域の個数を数えるとともに、目視で観察されるポリエステルフィルムの観察領域(面積1m2の領域)に存在する各筋状欠陥領域の外周をマーキングする。次いで、各筋状欠陥領域の外周に外接する平行な2本の接線のうち、接線間の距離が最大となるように選ばれる平行な2本の接線の距離を長軸の長さLと、長さLを与える平行な2本の接線に直交し、且つ、筋状欠陥領域の外周に外接する平行な2本の接線の距離を短軸の長さSとを計測する。得られた長さL及びSから、下記式により各筋状欠陥領域の面積を算出する。これらの値から、筋状欠陥領域の合計面積のポリエステルフィルムの全面積に対する比率を算出する。
筋状欠点領域の長軸の長さL×筋状欠点領域の短軸の長さS×π=筋状欠点領域の面積筋状欠陥領域は上記の通り楕円状又は円状であることが多いため、上記(3)の算出方法により筋状欠陥領域の面積が算出できる。
【0094】
図2に、上記(1)の加熱処理により発生した筋状欠陥領域が観察されるポリエステルフィルムの画像(写真)を示す。
図2において示す実線で囲まれた領域が筋状欠陥領域である。
図2に示す筋状欠陥領域では、搬送(MD)方向に延びる凹凸形状が観察される。なお、
図2に示す画像(写真)は、観察領域の一部のみを示している。
このように、筋状欠陥領域は、楕円形状又は円形状であることが多い。また、筋状欠陥領域が発生する場合、長軸の方向が搬送方向に沿っている楕円形状の筋状欠陥領域が少なくとも1つ現れることが多い。
【0095】
筋状欠陥領域の面積比が上記範囲にある2軸配向ポリエステルフィルムは、後述するポリエステルフィルムの製造方法における、熱固定工程における熱固定温度、冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度、及び、拡張工程におけるポリエステルフィルムの幅方向の拡張率を調整することにより、製造できる。
【0096】
(膨張率)
ポリエステルフィルムは、90℃における幅方向の膨張率が、30℃におけるフィルム幅に対して、-0.15~0.15%であることが好ましく、-0.10~0.10%であることがより好ましく、0~0.10%であることが更に好ましく、0~0.05%であることが特に好ましい。
ポリエステルフィルムにおける90℃における幅方向の膨張率を上記範囲に調整することで、加熱過程におけるフィルムの幅方向への膨張を抑えるだけでなく、フィルム面の場所ごとの膨張率ムラを小さくできる。その結果、加熱に起因する筋状欠陥領域の発生を抑制できると推察される。
【0097】
90℃における幅方向の膨張率は、熱機械分析装置を用いて以下の方法により測定する。
(1)2軸配向フィルムの幅方向に対して平行な方向に少なくとも20mm、2軸配向フィルムの幅方向に対して直交する方向に4mmの長さに調節された試料を準備する。
(2)熱機械分析装置(例えば、TMA-60、株式会社島津製作所製)を用い、幅4mm及び長さ(チャック間距離)20mmの試料に対し、引張荷重0.1gを負荷する。
(3)上記試料を20℃以上30℃未満の温度(好ましくは25℃)から150℃まで昇温速度5℃/分で昇温させることにより、各温度(℃)における試料の長さの値を得る。
(4)30℃における試料の長さ(L30)、及び、90℃における長さ(L90)から、下記式を用いて90℃における幅方向の膨張率を求める。本開示において、幅方向の膨張率は、5つの試料を用いて得られる膨張率の算術平均値とする。なお、正の膨張率は膨張を意味し、負の膨張率は収縮を意味する。
式:膨張率(%)=(L90-L30)/L30×100
【0098】
ポリエステルフィルムの幅方向の膨張率は、例えば、2軸配向フィルムの製造過程における延伸倍率、熱処理温度、及び冷却中のフィルム幅を適宜設定することにより調節できる。
【0099】
(フィルム密度)
ポリエステルフィルムの密度は、本発明の効果により優れる点で、1.39~1.41g/cm3が好ましく、1.395~1.405g/cm3がより好ましく、1.398~1.400g/cm3が更に好ましい。
ポリエステルフィルムの密度は、電子比重計(製品名「SD-200L」、アルファーミラージュ社製)を使用して測定できる。
【0100】
(厚さ)
ポリエステルフィルムの厚さは、剥離性がより優れる点で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましい。厚さの下限は特に制限されないが、ハンドリング性に優れる点で、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。
ポリエステルフィルムの厚さは、連続式触針式膜厚計により測定される5か所の厚さの算術平均値とする。
【0101】
また、ポリエステルフィルムの厚さのバラツキは、剥離層を形成する第1主面の表面平滑性がより優れる点で、ポリエステルフィルムの平均厚さの7%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。厚さバラつきの下限は特に制限されず、ポリエステルフィルムの平均厚さの0%以上であってよい。
厚さバラツキは、以下の測定方法で得られる。連続式触針式膜厚計を用いて、ポリエステルフィルムの厚さを、長手方向に沿って10mにわたり測定する。この測定を、幅方向の位置が異なる5か所において行う。得られた測定値から、最大値と最小値との差を全測定値の算術平均値で割って得られる値((最大厚さ-最小厚さ)/平均厚さ)を、厚さバラツキとする。
【0102】
(剥離帯電量)
ポリエステルフィルムは、剥離層の塗布性が向上する点で、下記の測定方法により、温度23℃、相対湿度(RH)20%の環境下で測定された、直径1.5cmφの円形に相当するポリエステルフィルムの第1主面と第2主面との剥離帯電量の絶対値が、0.12nc(ナノクーロン)以下であることが好ましく、0.11nc以下であることがより好ましく、0.1nc以下であることが更に好ましい。ここで、単位のnc(ナノクーロン)は、10-9クーロンである。
【0103】
ポリエステルフィルムの剥離帯電量の測定方法は、以下の通りである。
測定装置として、ポリエステルフィルムの基準サンプル(第1主面を上面)を置く台と、測定サンプル(第2主面を下面)を保持しながら鉛直方向に沿って上昇及び下降することにより、基準サンプルの第1主面に対して測定サンプルの第2主面の圧着及び剥離を繰り返し行うことができるヘッドと、このヘッドにつながっており測定サンプルの帯電量を測定できるエレクトロメーターとを備える装置を使用する。
ポリエステルフィルムを、直径1.5cmの大きさの円形に切り取って剥離帯電量測定用のサンプルを作製し、また、13cm×4cmの大きさの長方形に切り取って剥離帯電量測定の基準となるサンプルを作製する。次いで、得られたポリエステルフィルムのサンプルを、予め上記の測定温度及び湿度の環境下で2時間以上放置する。その後、基準サンプルを測定装置の台に載せ、ヘッドに測定サンプルを装着する。このとき、基準サンプルの第1主面と測定サンプルの第2主面とが互いに対向するように、台に載せる基準サンプルにおいて第1主面を上面側に、ヘッドに装着する測定サンプルの第2主面を下面側に、それぞれ配置する。
測定サンプルを除電したのち、ヘッドを上昇又は下降させて、測定サンプルに対する基準フィルムの圧着及び剥離を繰り返す。同じ測定サンプルを用いて1回目から5回目の剥離後のそれぞれにおいて測定サンプルの帯電量を測定し、測定値の平均値を算出する。測定サンプルを変えるとともに、基準サンプルにおいて測定サンプルが接触する位置を測定サンプルごとに変えて、合計で4つのサンプルで測定を行い、全てを平均したものを剥離帯電量とする。
ポリエステルフィルムの剥離帯電量の測定方法については、特開2003-194865号公報(特に[0053]~[0067])に記載の内容も参照でき、上記公報の記載内容は、本明細書に組み込まれる。
【0104】
剥離帯電量は、ポリエステル基材と特定塗布層に含まれるバインダー及び界面活性剤等の成分の種類及び量を選択することにより調整できる。より具体的には、ポリエステル基材、バインダー及び界面活性剤からなる群より選択される2つについて、帯電列においてより近い材料を選択することにより、剥離帯電量を上記の範囲に調整できる。
【0105】
〔製造方法〕
本フィルムの製造方法としては、例えば、ポリエステル基材を有する未延伸ポリエステルフィルムを2軸延伸する2軸延伸工程と、粒子を含有する特定塗布層を形成する特定塗布層形成工程と、を有する方法が挙げられる。
【0106】
2軸延伸は、縦延伸及び横延伸を同時に行う同時2軸延伸であってもよく、縦延伸及び横延伸を2段階以上の多段階に分けて行う逐次2軸延伸であってもよい。逐次2軸延伸の形態としては、例えば、縦延伸→横延伸、縦延伸→横延伸→縦延伸、縦延伸→縦延伸→横延伸、及び横延伸→縦延伸が挙げられ、縦延伸→横延伸が好ましい。
【0107】
<延伸機>
2軸延伸に使用する装置は特に制限されず、公知の延伸機を利用できる。以下、延伸機の一例について図面を参照して説明する。
【0108】
図3は、ポリエステルフィルムの製造に用いられる延伸機の一例を示す平面図である。
図3に示す延伸機100は、1対の環状レール60a及び60bと、各環状レールに取り付けられ、レールに沿って移動可能な把持部材2a~2lと、を備えている。環状レール60a及び60bは、フィルム200を挟んで互いに対称的に配置されている。延伸機100は、把持部材2a~2lでフィルム200を把持し、レールに沿って把持部材2a~2lを移動させることにより、フィルム200を幅方向に延伸できる。
【0109】
延伸機100は、搬送方向上流側から順に、予熱部10と、延伸部20と、熱固定部30と、熱緩和部40と、冷却部50と、からなる領域を有する。
延伸機100が有する上記の領域は、遮風カーテンで区分され、熱風等により個々に領域内の温度を調整できる。
【0110】
予熱部10は、フィルム200を予熱する領域である。
【0111】
延伸部20は、予熱されたフィルム200を矢印MDの方向(長手方向)と直交する方向である矢印TDの方向(幅方向)に緊張を与えて延伸する領域である。
図3に示すように、延伸部20において、フィルム200は幅L0から幅L1まで延伸される。
【0112】
熱固定部30は、緊張が与えられたフィルム200に緊張を与えたまま加熱して熱固定する領域である。
【0113】
熱緩和部40は、熱固定したフィルム200を加熱することにより熱固定したフィルム200の緊張を熱緩和する領域である。
図3に示すように、熱緩和部40において、フィルム200は幅L1から幅L2にまで縮小(緩和)される。
【0114】
冷却部50は、熱緩和されたフィルム200を冷却する領域である。フィルム200を冷却することにより、フィルム200の形状を固定化できる。
図3には、冷却部50に搬入されるフィルム200の幅がL2であり、冷却部50から搬出されるフィルム200の幅がL3であることが示されている。
【0115】
環状レール60aには、環状レール60aに沿って移動可能な把持部材2a、2b、2e、2f、2i、及び2jが取り付けられている。環状レール60bには、環状レール60bに沿って移動可能な把持部材2c、2d、2g、2h、2k、及び2lが取り付けられている。
把持部材2a、2b、2e、2f、2i、及び2jは、フィルム200の矢印TDの方向の一方の端部を把持する。把持部材2c、2d、2g、2h、2k、及び2lは、フィルム200の矢印TDの方向の他方の端部を把持する。把持部材2a~2lは、一般に、チャック、クリップ等と称される。
把持部材2a、2b、2e、2f、2i、及び2jは、環状レール60aに沿って反時計回りに移動する。把持部材2c、2d、2g、2h、2k、及び2lは、環状レール60bに沿って時計回りに移動する。
【0116】
把持部材2a~2dは、予熱部10においてフィルム200の端部を把持したまま環状レール60a又は60bに沿って移動し、延伸部20、熱固定部30、及び熱緩和部40を経て、冷却部50まで進行する。次に、把持部材2a及び2bと、把持部材2c及び2dとは、搬送方向順に、冷却部50の矢印MDの方向下流側の端部(例えば、
図3における把持解除点P及び把持解除点Q)でフィルム200の端部を離した後、更に環状レール60a又は60bに沿って移動し、予熱部10に戻る。上記過程において、フィルム200は、矢印MDの方向に移動することで、予熱部10での予熱、延伸部20での延伸、熱固定部30での熱固定、熱緩和部40での熱緩和、及び冷却部50での冷却が行われ、横延伸される。
【0117】
把持部材2a~2lの移動速度を調節することで、フィルム200の搬送速度を調節できる。また、把持部材2a~2lは、各々独立に、移動速度を変化することができる。
【0118】
上記のとおり、延伸機100は、延伸部20において、フィルム200を矢印TDの方向に延伸する横延伸を可能とするものである。一方、延伸機100は、把持部材2a~2lの移動速度を変化させることにより、フィルム200を矢印MDの方向に延伸することもできる。すなわち、延伸機100を用いて同時2軸延伸を行うことも可能である。
【0119】
延伸機100は、フィルム200を支えるために、把持部材2a~2lに加えて、他の把持部材を更に有していてもよい(不図示)。
【0120】
次に、本製造方法について、具体的に説明する。
本製造方法としては、例えば、原料ポリエステルを含有する溶融樹脂をフィルム状に押し出して、ポリエステル基材を有する未延伸ポリエステルフィルムを形成する押出成形工程と、未延伸ポリエステルフィルムを搬送方向に延伸して1軸配向ポリエステルフィルムを形成する縦延伸工程、及び、1軸配向ポリエステルフィルムを幅方向に延伸して2軸配向ポリエステルフィルムを形成する横延伸工程からなる2軸延伸工程と、2軸配向ポリエステルフィルムを加熱して熱固定する熱固定工程と、熱固定工程により熱固定されたポリエステルフィルムを熱固定工程よりも低い温度で加熱して熱緩和する熱緩和工程と、熱緩和工程により熱緩和されたポリエステルフィルムを冷却する冷却工程と、冷却工程において、熱緩和されたポリエステルフィルムを幅方向に拡張する拡張工程と、粒子を含有する特定塗布層形成用組成物を用いてインラインコーティング法によりポリエステル基材の一方の面に特定塗布層を設ける特定塗布層形成工程と、を有する方法が挙げられる。
【0121】
<押出成形工程>
押出成形工程は、押出成形法により原料のポリエステルを含有する溶融樹脂をフィルム状に押し出して、未延伸ポリエステルフィルムを形成する工程である。原料のポリエステルについては、上記の(ポリエステル)の項目において説明したポリエステルと同義である。
【0122】
押出成形法は、例えば押出機を用いて原料樹脂の溶融体を押し出すことによって、原料樹脂を所望の形状に成形する方法である。
ポリエステルを含有する溶融樹脂は、例えば、1本又は2本以上のスクリュを備えた押出機を用いて、上述したポリエステルを融点以上の温度に加熱し、そして、スクリュを回転させて溶融混練することにより、形成される。ポリエステルは、加熱及びスクリュによる混練により、押出機内で溶融して溶融体(メルト)となる。
【0123】
溶融体は、ギアポンプ、及び濾過器等を通して、押出ダイから押し出される。押出ダイは、単に「ダイ」とも称する(JIS B8650:2006、a、押出成形機、番号134参照)。例えば、特開2005-297266号公報に記載の押出しダイ、特開平1-154720号公報に記載の押出しダイ、及び、それらの組合せを使用することもできる。溶融体は、単層で押出されてもよく、多層で押出されてもよい。
【0124】
溶融押出においては、押出機内での熱分解(例えばポリエステルの加水分解)を抑制する観点から、押出機内を窒素置換することが好ましい。また、押出機は、混練温度が低く抑えられる点で2軸押出機が好ましい。
【0125】
押出ダイから押し出された溶融体は、冷却されることによってフィルム状に成形される。例えば、溶融体をキャスティングロールに接触させ、キャスティングロール上で溶融体を冷却及び固化することで、溶融体をフィルム状に成形できる。溶融体の冷却においては、更に、溶融体に風(好ましくは冷風)を当てることが好ましい。
【0126】
キャスティングロールの温度は、(Tg-10)℃を超え(Tg+30)℃以下が好ましく、(Tg-7)~(Tg+20)℃がより好ましく、(Tg-5)~(Tg+10)℃が更に好ましい。上記の「Tg」は、フィルムを構成するポリエステルのガラス転移温度を意味する。
ここで、本製造方法におけるポリエステルフィルム及び各部材の温度は、非接触式温度計(例えば、放射温度計)を用いて測定できる。フィルムの表面温度は、フィルムの幅方向中央部の温度を5回計測し、得られた計測値の平均値を算出することにより求められる。
【0127】
押出成形工程においてキャスティングロールを用いる場合、キャスティングロールと溶融体との密着性を上げることが好ましい。密着性を上げる方法としては、例えば、静電印加法、エアーナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、及びタッチロール法が挙げられる。
【0128】
キャスティングロール等を用いて冷却された成形体(未延伸ポリエステルフィルム)は、剥ぎ取りロール等の剥ぎ取り部材を用いて、キャスティングロール等の冷却部材から剥ぎ取られる。
【0129】
<2軸延伸工程>
2軸延伸工程は、未延伸ポリエステルフィルムを搬送方向に延伸(以下、「縦延伸」ともいう。)して1軸配向ポリエステルフィルムを形成する縦延伸工程、及び、1軸配向ポリエステルフィルムを幅方向に延伸(以下、「横延伸」ともいう。)して2軸配向ポリエステルフィルムを形成する横延伸工程を有する。
【0130】
(縦延伸工程)
縦延伸工程においては、縦延伸前に、未延伸ポリエステルフィルムを予熱することが好ましい。未延伸ポリエステルフィルムを予熱することで、ポリエステルフィルムを容易に縦延伸できる。
未延伸ポリエステルフィルムの予熱温度は、(Tg-30)~(Tg+40)℃が好ましく、(Tg-20)~(Tg+30)℃がより好ましい。具体的に、予熱温度は、60~100℃が好ましく、65~80℃がより好ましい。
未延伸ポリエステルフィルムを予熱する方法としては、例えば、縦延伸する延伸ロールよりも上流側に、フィルムを予熱する機能を有する予熱ロールを配置し、未延伸ポリエステルフィルムを搬送しながら予熱する方法が挙げられる。
【0131】
また、延伸ロールがフィルムを予熱する機能を有してもよい。延伸ロールによるフィルムの予熱温度の好ましい範囲は、上記の予熱ロールの予熱温度の好ましい範囲と同じである。
【0132】
縦延伸は、例えば、未延伸ポリエステルフィルムを長手方向に搬送しながら、搬送方向に設置した2対以上の延伸ロール間で緊張を与えることによって行うことができる。例えば、搬送方向上流側に1対の延伸ロールA、及び搬送方向下流側に1対の延伸ロールBを設置した場合、未延伸ポリエステルフィルムを搬送する際に延伸ロールBの回転速度を、延伸ロールAの回転速度より速くすることで、未延伸ポリエステルフィルムが長手方向に延伸される。
【0133】
縦延伸工程における、搬送方向上流側に設けた1対の延伸ロールA、及び、搬送方向下流側に設けた1対の延伸ロールBによるフィルムの搬送速度(周速度)は、延伸ロールAによるフィルムの搬送速度が、延伸ロールBによるフィルムの搬送速度よりも遅ければ、特に制限されない。
延伸ロールAによるフィルムの搬送速度は、例えば、5~60m/分であり、10~50m/分が好ましく、15~45m/分がより好ましい。延伸ロールBによるフィルムの搬送速度は、例えば40~160m/分であり、50~150m/分が好ましく、60~140m/分がより好ましい。
【0134】
縦延伸工程における延伸倍率は、用途によって適宜設定されるが、2.0~5.0倍が好ましく、2.5~4.0倍がより好ましく、2.8~4.0倍が更に好ましい。
【0135】
縦延伸工程における延伸速度は、800~1500%/秒が好ましく、1000~1400%/秒がより好ましく、1200~1400%/秒が更に好ましい。ここで、「延伸速度」とは、縦延伸工程において1秒間に延伸されたポリエステルフィルムの搬送方向の長さΔdを、延伸前のポリエステルフィルムの搬送方向の長さd0で除した値を、百分率で表した値である。
【0136】
縦延伸工程においては、未延伸ポリエステルフィルムを加熱することが好ましい。加熱により縦延伸が容易になるためである。
縦延伸工程における加熱温度は、(Tg-20)~(Tg+50)℃が好ましく、(Tg-10)~(Tg+40)℃がより好ましく、(Tg)~(Tg+30)℃が更に好ましい。具体的に、縦延伸工程における加熱温度は、70~120℃が好ましく、80~110℃がより好ましく、85~100℃が更に好ましい。
【0137】
縦延伸工程において未延伸ポリエステルフィルムを加熱する方法としては、未延伸ポリエステルフィルムに接触する延伸ロール等のロールを加熱する方法が挙げられる。ロールを加熱する方法としては、例えば、ロール内部にヒーターを設ける方法、及び、ロール内部に配管を設け、その配管内に加熱した流体を流す方法が挙げられる。上記の他、例えば、未延伸ポリエステルフィルムに温風を当てる方法、並びに、未延伸ポリエステルフィルムをヒーター等の熱源に接触させるか、又は、熱源の近傍を通過させることによって未延伸ポリエステルフィルムを加熱する方法が挙げられる。
【0138】
未延伸ポリエステルフィルムに対して縦延伸する縦延伸工程は、上記の方法に制限されない。
上記の縦延伸工程では、2対の延伸ロールの搬送速度の差を利用して未延伸ポリエステルフィルムを縦延伸しているが、2つの延伸ロールの間に配置され、それらの延伸ロールよりも速い搬送速度でフィルムを搬送する高速延伸ロールを1つ以上用いて、未延伸ポリエステルフィルムを縦延伸して、1軸配向ポリエステルフィルムを作製してもよい。
また、上記の縦延伸工程では、互いに対向する2つのロール(1対のロール)によりフィルムを挟んで搬送する構成を有しているが、縦延伸工程に使用する延伸ロールが、対向するロールを有さず、ポリエステルフィルムの一方の面に接する1つのロールのみで構成されていてもよい。
【0139】
(横延伸工程)
横延伸工程は、1軸配向ポリエステルフィルムを横延伸する工程である。横延伸工程は、例えば、上記延伸機100の横延伸部20において実施される。
【0140】
横延伸工程においては、横延伸前に、ポリエステルフィルムを予熱することが好ましい。ポリエステルフィルムを予熱することで、ポリエステルフィルムを容易に横延伸できる。
予熱温度は、(Tg-10)~(Tg+60)℃が好ましく、(Tg)~(Tg+50)℃がより好ましい。具体的に、予熱温度は、80~120℃が好ましく、90~110℃がより好ましい。
【0141】
横延伸工程における1軸配向ポリエステルフィルムの幅方向の延伸倍率(横延伸倍率)は特に制限されないが、上記縦延伸工程における延伸倍率より大きいことが好ましい。横延伸工程における延伸倍率は、3.0~6.0倍が好ましく、3.5~5.0倍がより好ましく、3.5~4.5倍が更に好ましい。
横延伸工程を延伸機100の横延伸部20において実施する場合、横延伸倍率は、横延伸部20の搬入時のフィルム幅L0に対する横延伸部20からの搬出時のフィルム幅L1の比率(L1/L0)から求められる。
【0142】
縦延伸工程における延伸倍率と、横延伸工程における延伸倍率との積で表される面積倍率は、12.8~15.5倍が好ましく、13.5~15.2倍がより好ましく、14.0~15.0倍が更に好ましい。面積倍率が上記の下限値以上であると、フィルム幅方向における分子配向が良好になる。また、面積倍率が上記の上限値以下であると、加熱処理に供された際に分子配向が緩和されにくい状態を維持しやすい。
【0143】
横延伸工程における加熱温度は、(Tg-10)~(Tg+80)℃が好ましく、(Tg)~(Tg+70)℃がより好ましく、(Tg)~(Tg+60)℃が更に好ましい。具体的に、横延伸工程における加熱温度は、100~140℃が好ましく、110~135℃がより好ましく、115~130℃が更に好ましい。
【0144】
横延伸工程における延伸速度は、8~45%/秒が好ましく、10~30%/秒がより好ましく、15~20%/秒が更に好ましい。
【0145】
<熱固定工程>
本製造方法では、横延伸工程により横延伸されたポリエステルフィルムに対する加熱処理として、熱固定工程及び熱緩和工程を行うことが好ましい。
熱固定工程においては、横延伸工程により得られた2軸配向ポリエステルフィルムを加熱して、熱固定することができる。熱固定によってポリエステルを結晶化させることにより、ポリエステルフィルムの収縮を抑えることができる。
熱固定工程は、例えば、上記延伸機100の熱固定部30において実施される。
【0146】
熱固定工程におけるポリエステルフィルムの表面温度(熱固定温度)は、特に制限されないが、240℃未満が好ましく、235℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、190℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、210℃以上が更に好ましい。
熱固定工程では、ポリエステルフィルムの表面の最高到達温度が上記熱固定温度となるように制御しながら加熱処理が行われる。
【0147】
熱固定工程において、フィルム幅方向の表面温度のバラツキは、0.5~10.0℃が好ましく、0.5~7.0℃がより好ましく、0.5~5.0℃が更に好ましく、0.5~4.0℃が特に好ましい。フィルム幅方向の表面温度のバラツキを上記範囲内に制御することで、幅方向における結晶化度のバラツキを抑制できる。
【0148】
加熱方法としては、例えば、フィルムに熱風を当てる方法、及び、フィルムを輻射加熱する方法が挙げられる。輻射加熱する方法において用いられる装置としては、例えば、赤外線ヒーターが挙げられる。
【0149】
熱固定工程における加熱時間は、5~50秒間が好ましく、5~30秒間がより好ましく、5~10秒間が更に好ましい。
【0150】
<熱緩和工程>
熱緩和工程においては、熱固定工程により熱固定されたポリエステルフィルムを、熱固定工程よりも低い温度で加熱することで熱緩和することが好ましい。熱緩和によってポリエステルフィルムの残留歪みを緩和できる。
熱緩和工程は、例えば、上記延伸機100の熱緩和部40において実施される。
【0151】
熱緩和工程におけるポリエステルフィルムの表面温度(熱緩和温度)は、熱固定温度より、5℃以上低い温度が好ましく、15℃以上低い温度がより好ましく、25℃以上低い温度が更に好ましく、30℃以上低い温度が特に好ましい。即ち、熱緩和温度は、235℃以下が好ましく、225℃以下がより好ましく、210℃以下が更に好ましく、200℃以下が特に好ましい。
熱緩和温度の下限は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。
熱緩和工程では、ポリエステルフィルムの表面の最高到達温度が上記熱緩和温度となるように制御しながら加熱処理が行われる。
【0152】
加熱方法としては、例えば、フィルムに熱風を当てる方法、フィルムを輻射加熱する方法が挙げられる。輻射加熱する方法において用いられる装置としては、例えば、赤外線ヒーターが挙げられる。
【0153】
<冷却工程>
本製造方法は、熱緩和されたポリエステルフィルムを冷却する冷却工程を有することが好ましい。冷却工程及び後述する拡張工程は、例えば、上記延伸機100の冷却部50において実施される。
【0154】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却方法としては、例えば、フィルムに風(好ましくは冷風)を当てる方法、及び温度調節可能な部材(例えば、温調ロール)にフィルムを接触させる方法が挙げられる。
【0155】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度は、特に制限されないが、2軸配向フィルムに積層される剥離層の厚みムラが低減し、剥離層の塗布性がより優れる点で、2000℃/分超4000℃/分未満が好ましく、2000~3500℃/分がより好ましく、2200℃/分超3000℃/分未満が更に好ましく、2300~2800℃/分が特に好ましい。
【0156】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度は、非接触式温度計を用いて、測定できる。例えば、上記延伸機100の冷却部50において冷却工程を実施する場合、熱緩和部40から冷却部50に搬入されるフィルム200の表面温度と、冷却部50から搬出されるフィルム200の表面温度とを測定して、両者の温度差ΔT(℃)を得る。得られた温度差ΔT(℃)を、冷却部50におけるフィルム200の滞在時間taで割ることにより、冷却速度が求められる。
ポリエステルフィルムの冷却速度は、冷却装置の運転条件、及び、フィルムの搬送速度により、調整できる。
【0157】
本製造方法における上記の熱固定工程、熱緩和工程及び冷却工程は、この順に連続して実施することが好ましい。これにより、ポリエステルフィルムに対する加熱及び冷却の繰返しによる負荷(熱履歴)を低減し、フィルムに内在する歪み等を低減して、筋状欠陥の発生を抑制できるためである。
【0158】
<拡張工程>
上記冷却工程において、熱緩和されたポリエステルフィルムを幅方向に拡張する工程を有することも好ましい。
冷却工程においてポリエステルフィルムを「幅方向に拡張する」とは、冷却工程の開始時におけるポリエステルフィルムのフィルム幅(
図3中のL2)よりも、冷却工程の終了時におけるフィルム幅(
図3中のL3)が広くなるように、冷却工程の間に、ポリエステルフィルムに対して幅方向に張力を付与することを意味する。
【0159】
拡張工程において、ポリエステルフィルムを幅方向に拡張する方法は、特に制限されない。例えば、上記の延伸機100を用いて2軸配向ポリエステルフィルムを製造する場合、冷却部50の開始地点における環状レール60a及び60bの距離よりも、冷却部50の終了地点(把持解除点P及び把持解除点Q)における環状レール60a及び60bの距離を広げることにより、各把持部材により把持されるフィルム200を幅方向に拡張できる。
拡張工程は、冷却工程の前後でフィルム幅が拡張される限り、冷却工程の開始から終了まで連続的又は断続的に実施してもよく、冷却工程の間の一時期においてのみ実施してもよい。
【0160】
拡張工程によるポリエステルフィルムの幅方向の拡張率、即ち、冷却工程の開始前におけるフィルム幅に対する冷却工程の終了時におけるフィルム幅の比率は、0%以上が好ましく、0.001%以上がより好ましく、0.01%以上が更に好ましい。
拡張率の上限は特に制限されないが、1.3%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。フィルム幅の拡張率を上記の上限値以下に設定することにより、フィルム製造時に高速で搬送するために搬送方向に強い張力を付与した場合(例えば、搬送方向の張力が100N/m以上である場合)であっても、後述するトリミング工程における切断面の乱れ、更には、その切断乱れに伴うフィルムの破断を抑制できる。
【0161】
<特定塗布層形成工程>
本製造方法は、粒子を含有する特定塗布層形成用組成物(以下、「組成物A」ともいう。)を用いてインラインコーティングする特定塗布層形成工程を有することが好ましい。特定塗布層形成工程によりポリエステル基材の一方の表面に形成される特定塗布層については、上記<特定塗布層>の項目において詳しく説明した層と同義である。
特定塗布層の形成は、本製造方法のいずれの段階で行ってもよく、例えば、未延伸又は延伸されたポリエステル基材の一方の表面上に塗布膜を形成し、必要に応じて乾燥する方法が挙げられる。
【0162】
まず、組成物Aを用いて特定塗布層を形成する方法について、説明する。
組成物Aは、特定塗布層が含有する粒子、必要に応じて添加されるバインダー及び添加剤、並びに、溶剤を混合することにより調製できる。
溶剤としては、例えば、水、エタノール、トルエン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。中でも、環境、安全性及び経済性の観点から、水が好ましい。
【0163】
組成物Aは、1種単独の溶剤を含有していてもよく、2種以上の溶剤を含有していてもよい。
溶剤の含有量は、組成物Aの全質量に対して、80~99質量%が好ましく、90~98質量%がより好ましい。
即ち、組成物Aにおいて、溶剤以外の成分(固形分)の合計含有量は、組成物Aの全質量に対して、0.5~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0164】
組成物Aに含有される粒子、バインダー及び添加剤については、それらの好ましい態様も含めて、上記<特定塗布層>の項目において詳しく説明した通りである。
組成物Aにおける溶剤以外の各成分については、組成物Aの固形分の全質量に対する各成分の含有量が、上記の特定塗布層の全質量に対する各成分の好ましい含有量と同じになるように、塗布液における各成分の含有量を調整することが好ましい。
【0165】
組成物Aの塗布方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、スリットコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、バーコート法及びディップコート法が挙げられる。
【0166】
特定塗布層形成工程においては、ポリエステル基材を搬送しながら、ポリエステル基材の一方の表面に塗布液を塗布するインラインコーティング法が適用される。インラインコーティング法を適用することにより、製造工程におけるポリエステル基材の加熱時間が短くなり、熱履歴がかからないため、筋状欠陥領域を低減でき、結果として剥離層の塗布性をより向上できる。
インラインコーティング法において、組成物Aを塗布するポリエステル基材は、未延伸のポリエステル基材であってもよく、1軸配向されたポリエステル基材であってもよよいが、1軸配向されたポリエステル基材であることが好ましい。即ち、インラインコーティング法による特定塗布層形成工程を、縦延伸工程と横延伸工程との間に行うことが好ましい。1軸配向されたポリエステル基材と特定塗布層とを同時に横延伸することにより、ポリエステル基材及び特定塗布層の密着性を向上できるためである。
【0167】
本製造方法は、上記の工程を経て得られた2軸配向ポリエステルフィルムを巻き取ることにより、ロール状の2軸配向ポリエステルフィルムを得る巻き取り工程を有していてもよい。
また、本製造方法は、巻き取り工程を実施する前に、ポリエステルフィルムを搬送方向に沿って連続的に切断して、ポリエステルフィルムの幅方向の少なくとも一方の端部を切り取るトリミング工程を更に有してもよい。
【0168】
本製造方法の縦延伸工程以外の各工程におけるポリエステルフィルムの搬送速度は、特に制限されないが、横延伸工程、熱固定工程、熱緩和工程、冷却工程及び拡張工程を上記延伸機100を用いて行う場合、生産性及び品質の点で、50~200m/分が好ましく、80~150m/分がより好ましい。縦延伸工程におけるポリエステルフィルムの搬送速度は、上記の通りである。
【0169】
また、縦延伸工程以外の各工程において、ポリエステルフィルムに付与される搬送方向の張力は、特に制限されないが、横延伸工程、熱固定工程、熱緩和工程、冷却工程及び拡張工程を、上記延伸機100を用いて行う場合、ポリエステルフィルムに付与される搬送方向の張力は、延伸条件によって調節できる。
また、冷却工程を施された後、上記の巻き取り工程において巻き取られるまでのポリエステルフィルムに付与される搬送方向の張力は、3~30N/mが好ましく、5~20N/mがより好ましい。
【0170】
上記で具体的に説明した本フィルムの製造方法において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
中でも、下記の製造条件からなる群より選択される2以上の組合せを有する製造方法は、製造される2軸配向フィルムの筋状欠陥領域の面積比、及び、幅方向の膨張率を調整するための指標となる点において、好ましい態様であるといえる。
・横延伸工程における延伸倍率が、3.0~6.0倍、好ましくは3.5~5.0倍、より好ましくは3.5~4.5倍であること。
・熱固定工程における熱固定温度が、240℃未満、好ましくは190℃以上240℃未満、より好ましくは200~230℃、更に好ましくは210~230℃であること。
・熱緩和工程における熱緩和温度が、上記熱固定温度よりも低く、好ましくは5℃以上低く、より好ましくは15℃以上低く、更に好ましくは25℃以上低く、特に好ましくは30度以上低いこと。
・冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度が、2000℃/分超4000℃/分未満、好ましくは2000~3500℃/分、より好ましくは2200℃/分超3000℃/分未満、更に好ましくは2300~2800℃/分であること。
・拡張工程におけるポリエステルフィルムの幅方向の拡張率が、0~1.3%であり、好ましくは0.001~1.2%であり、より好ましくは0.01~1.0%であること。
【0171】
なお、2軸配向フィルムの筋状欠陥領域の面積比及び幅方向の膨張率は、ポリエステル基材及び特定塗布層を構成する各材料、及び、上記以外の各製造条件等によって異なるため、上記の製造条件からなる群より選択される2以上の組合せを有する製造方法であれば、必ず所望の筋状欠陥領域の面積比及び/又は幅方向の膨張率を有するポリエステルフィルムが製造できるとは限らない。また、所望の筋状欠陥領域の面積比及び/又は幅方向の膨張率を有するポリエステルフィルムの製造方法は、上記の製造条件を2以上有する方法に制限されない。
【0172】
[剥離フィルム]
上記のポリエステルフィルムは、剥離フィルムの製造に使用できる。より具体的には、ポリエステルフィルムの第1主面上に剥離層を設けることにより、ポリエステルフィルムと、ポリエステルフィルムの第1主面に配置された剥離層と、を有する剥離フィルムが製造できる。
【0173】
剥離層は、剥離剤としての樹脂を少なくとも含有する。剥離層に含有される樹脂は特に制限されず、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、各種ワックス、及び、脂肪族オレフィンが挙げられ、シリコーン樹脂が好ましい。
【0174】
シリコーン樹脂とは、分子内にシリコーン構造を有する樹脂を意味する。シリコーン樹脂としては、硬化型シリコーン樹脂、シリコーングラフト樹脂、アルキル変性等の変性シリコーン樹脂等が挙げられ、反応性の硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
反応性の硬化型シリコーン樹脂としては、付加反応系のシリコーン樹脂、縮合反応系のシリコーン樹脂、及び、紫外線又は電子線硬化系のシリコーン樹脂が挙げられる。中でも、剥離層を低温で形成できることから、低温硬化性を有する付加反応系のシリコーン樹脂、又は、紫外線もしくは電子線硬化系のシリコーン樹脂が好ましい。
【0175】
付加反応系のシリコーン樹脂としては、例えば、末端又は側鎖にビニル基を導入したポリジメチルシロキサンとハイドロジエンシロキサンとを、白金触媒を用いて反応させて硬化させることにより得られる樹脂が挙げられる。
縮合反応系のシリコーン樹脂としては、例えば、末端にOH基を有するポリジメチルシロキサンと、末端にH基を有するポリジメチルシロキサンを、有機錫触媒を用いて縮合反応させることにより形成される、3次元架橋構造を有する樹脂が挙げられる。
紫外線硬化系のシリコーン樹脂としては、シリコーンゴム架橋と同じラジカル反応を利用するもの、不飽和基を導入して光硬化させるもの、紫外線又は電子線でオニウム塩を分解して強酸を生成し、エポキシ基を開裂させて架橋させるもの、及び、ビニルシロキサンへのチオールの付加反応で架橋するもの等が挙げられる。より具体的には、アクリレート変性されたポリジメチルシロキサン、及び、グリシドキシ変性されたポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0176】
剥離層は、上記樹脂以外に添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、剥離力を調整するための軽剥離添加剤及び重剥離添加剤、密着向上剤、並びに、帯電防止剤等の添加剤等を添加してもよい。
剥離層が含有する樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
剥離層における上記樹脂の含有量は、剥離層の全質量に対して50~99質量%が好ましく、60~98質量%がより好ましい。剥離層における樹脂以外の残部は、上記の添加剤、及び/又は、剥離層の形成に使用した剥離層形成用塗布液に含まれる溶剤及び触媒等の残渣物であってよい。
【0177】
剥離層の厚さは、その使用目的に応じて設定すればよく、特に制限されないが、剥離性能及び剥離層表面の平滑性がバランス良く優れる点で、0.005~2.0μmが好ましく、0.05~1.0μmがより好ましい。
【0178】
(剥離面の表面自由エネルギー)
剥離フィルムを巻き取る際の帯電防止の観点で、剥離層のポリエステル基材側とは反対側の表面(剥離面ともいう)の表面自由エネルギーは、30mJ/m2以下であることが好ましく、1~30mJ/m2であることがより好ましく、10~30mJ/m2であることが更に好ましい。
また、剥離層の剥離面の表面自由エネルギーとポリエステルフィルムの第2主面の表面自由エネルギーとの差が広い方が、フィルムが帯電しにくいため、好ましい。剥離層の剥離面の表面自由エネルギーとポリエステルフィルムの第2主面の表面自由エネルギーとの差は、1~50mJ/m2が好ましく、1~40mJ/m2がより好ましく、1~35mJ/m2が更に好ましく、5~30mJ/m2が特に好ましく、10~25mJ/m2が最も好ましい。
剥離層の剥離面の表面自由エネルギーは、剥離層を形成する樹脂の種類及び添加剤により調整できる。
【0179】
(剥離面の最大突起高さSp、面平均粗さSa)
剥離層に形成するセラミックグリーンシートなどの機能層を平滑にする点で、剥離面はできるだけ平滑であることが好ましい。具体的には、剥離面の最大突起高さSpは、1~60nmであることが好ましく、1~40nmであることがより好ましい。また、剥離面の面平均粗さSaは、0~10nmであることが好ましく、0~5nmであることがより好ましい。
剥離面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、剥離層を設ける際に剥離層に粒子を入れないこと、並びに、剥離層を形成する樹脂及び添加剤を選択することにより、調整できる。
剥離面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、上記の第2主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaの測定方法に準じて測定できる。
【0180】
本フィルムの第1主面に剥離層を設ける方法は、特に制限されないが、剥離剤を溶剤に溶解又は分散させてなる剥離層形成用塗布液を、本フィルムの第1主面に塗布し、乾燥により溶剤を除去し、必要に応じて加熱又は光を照射して硬化物を形成する方法が挙げられる。
【0181】
剥離層形成用塗布液の塗布方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、スリットコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、バーコート法及びディップコート法が挙げられる。
剥離層の形成における加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。下限は特に制限されず、60℃以上であってよい。
【0182】
剥離層形成用塗布液は、上記の樹脂及び溶剤を含有し、必要に応じて、上記の添加剤及び/又は樹脂の硬化に使用される上記の触媒を含有してもよい。剥離層形成用塗布液は、これらの成分を混合することにより調製できる。
溶剤としては、例えば、水、並びに、トルエン、メチルエチルケトン、エタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテル等の有機溶剤が挙げられ、有機溶剤が好ましい。
【0183】
剥離層形成用塗布液は、1種単独の溶剤を含有していてもよく、2種以上の溶剤を含有していてもよい。
溶剤の含有量は、剥離層形成用塗布液の全質量に対して、80~99.5質量%が好ましく、90~99質量%がより好ましい。
即ち、剥離層形成用塗布液において、溶剤以外の成分(固形分)の合計含有量は、剥離層形成用塗布液の全質量に対して、0.5~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0184】
また、本フィルムと剥離層との密着性を向上させるために、剥離層を設ける前に、本フィルムの第1主面に、アンカーコート、コロナ処理、及び、プラズマ処理等の前処理を施してもよい。
【0185】
<用途>
本フィルムを備える剥離フィルムは、搬送性に優れ、ロール保管時等における転写痕の形成を抑制できるとともに、剥離層の厚みムラ及び/又は塗布欠陥を抑制できることから、セラミックグリーンシート製造用の剥離フィルム(キャリアフィルム)として用いることが好ましい。上記の剥離フィルムを用いて製造されるセラミックグリーンシートは、小型化及び大容量化に伴って内部電極の多層化が求められているセラミックコンデンサの製造に好適に用いることができる。
【0186】
上記剥離フィルムを使用してセラミックグリーンシートを製造する方法は、特に制限されず、公知の方法で実施できる。セラミックグリーンシートの製造方法としては、例えば、準備したセラミックスラリーを、上記剥離フィルムの剥離層表面に塗布し、セラミックスラリーに含まれる溶媒を乾燥除去する方法が挙げられる。
セラミックスラリーの塗布方法は、特に制限されず、例えば、セラミック粉体及びバインダー剤を溶媒に分散させてなるセラミックスラリーを、リバースロール法により塗布し、加熱乾燥により溶媒を除去する方法等の公知の方法が適用できる。バインダー剤としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール等が挙げられる。また、溶媒としても特に限定されず、例えば、エタノール及びトルエンが挙げられる。
【0187】
本フィルムを備える剥離フィルムは、ドライフィルムレジストの保護フィルム、加飾層及び樹脂シート等のシート成形用フィルム、半導体製造工程用の剥離フィルム、偏光板製造工程用の剥離フィルム、並びに、ラベル用、医療用及び事務用品用等の粘着フィルムのセパレーターとして用いることができる。
【実施例0188】
以下に実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順は、本開示の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本開示の範囲は以下に示す具体例に制限されない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0189】
以下、本実施例において、単なる「フィルム」との表記は、ポリエステル基材単体、及び、ポリエステル基材と特定塗布層とを有する態様の両者を包含するとともに、未延伸フィルム、1軸配向フィルム、及び、2軸配向フィルムの全てを包含するものとする。
また、本実施例の各工程では、非接触式温度計(AD-5616(製品名)、A&D社製、放射率0.95)を用いて、フィルムの幅方向中央部の温度を5回計測し、得られた計測値の算術平均値をフィルムの表面温度の測定値とした。
【0190】
〔実施例1〕
<押出成形工程>
重合触媒として特許第5575671号公報に記載のチタン化合物(クエン酸キレートチタン錯体、VERTEC AC-420、ジョンソン・マッセイ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートのペレットを製造した。得られたペレットを、含水率が50ppm以下になるまで乾燥させた後、直径30mmの1軸混練押出し機のホッパーに投入し、次いで、280℃で溶融して押出した。溶融体(メルト)を、濾過器(孔径3μm)に通した後、ダイから25℃の冷却ドラムに押し出すことにより、ポリエチレンテレフタレートからなる未延伸フィルムを得た。なお、押し出された溶融体(メルト)は、静電印加法により冷却ドラムに密着させた。
未延伸フィルムを構成するポリエチレンテレフタレートの融点(Tm)は258℃であり、ガラス転移温度(Tg)は80℃であった。
【0191】
<縦延伸工程>
上記未延伸フィルムに対し、以下の方法により縦延伸工程を施した。
予熱された未延伸フィルムを、下記の条件にて、周速の異なる2対のロールの間に通過させて縦方向(搬送方向)に延伸することにより、1軸配向フィルムを作製した。
(縦延伸条件)
予熱温度:75℃
延伸温度:90℃
延伸倍率:3.4倍
延伸速度:1300%/秒
【0192】
<特定塗布層形成工程>
縦延伸された1軸配向フィルム(ポリエステル基材)の片面に、下記の組成物A(特定塗布層形成用組成物)をバーコーターで塗布し、形成された塗布膜を100℃の熱風にて乾燥させて、特定塗布層を形成した。このとき、成膜された特定塗布層の厚さが60nmとなるように、組成物Aの塗布量を調整した。
【0193】
(組成物A)
下記に示す各成分を混合することにより、組成物Aを調製した。調製された組成物Aに対して、孔径が6μmであるフィルター(F20、株式会社マーレフィルターシステムズ製)を用いたろ過処理、及び、膜脱気(2x6ラジアルフロースーパーフォビック、ポリポア株式会社製)を実施した後、得られた組成物Aを、1軸配向フィルムの表面に塗布した。
・酸変性ポリオレフィン(ザイクセン(登録商標)NC、住友精化(株)製、固形分25質量%に加水して調整した水分散液):157部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム、日油株式会社製、固形分1質量%水希釈液):56部
・粒子(スノーテックス(登録商標)ZL、日産化学(株)製、コロイダルシリカ、固形分40質量%水分散液):11部
・水:776部
【0194】
<横延伸工程>
縦延伸工程及び特定塗布層形成工程を行ったフィルムに対し、テンターを用いて下記の条件にて幅方向に延伸し、2軸配向フィルムを作製した。
(横延伸条件)
予熱温度:100℃
延伸温度:120℃
延伸倍率:4.2倍
延伸速度:50%/秒
【0195】
<熱固定工程>
上記横延伸工程を施した2軸配向フィルムに対して、テンターを用いて下記条件で加熱することにより、フィルムを熱固定する熱固定工程を行った。
(熱固定条件)
熱固定温度:227℃
熱固定時間:6秒間
【0196】
<熱緩和工程>
次いで、熱固定されたフィルムに対して、下記条件で加熱することにより、フィルムの緊張を緩和する熱緩和工程を行った。また、熱緩和工程において、フィルムの両端を把持するテンターの把持部材間の距離(テンター幅)を狭めることにより、熱固定工程終了時と比較してフィルム幅を縮小した。下記の熱緩和率Lrは、熱緩和工程の開始時におけるフィルム幅L1に対する熱緩和工程の終了時におけるフィルム幅L2から、Lr=(L1-L2)/L1×100の式により求めた。
(熱緩和条件)
熱緩和温度:190℃
熱緩和率Lr:4%
【0197】
<冷却工程、及び、拡張工程>
熱緩和されたフィルムに対して、下記条件で冷却する冷却工程を行った。また、冷却工程において、テンター幅を広げることにより、熱緩和工程終了時と比較してフィルム幅を拡張する拡張工程を実施した。
下記の冷却速度は、フィルムが延伸機100の冷却部50に搬入されてから搬出されるまでの滞在時間を冷却時間taとして、冷却部50への搬入時に測定したフィルム表面温度と冷却部50の搬出時に測定したフィルム表面温度との温度差ΔT(℃)を、冷却時間taで割ることにより求めた。
また、下記の拡張率ΔLは、冷却工程の開始時におけるポリエステルフィルムのフィルム幅L2に対する冷却工程の終了時におけるフィルム幅L3から、ΔL=(L3-L2)/L2×100の式により求めた。
(冷却条件)
冷却速度:2500℃/分
(拡張条件)
拡張率ΔL:0.6%
【0198】
<巻き取り工程>
冷却工程により冷却されたフィルムに対して、トリミング装置を用いて、フィルムの幅方向の両端から20cmの位置で搬送方向に沿って連続的にフィルムを切断して、フィルムの両端部をトリミングした。次いで、フィルムの両端から幅方向10mmまでの領域に対して、押出し加工(ナーリング)を行った後、張力40kg/mでフィルムを巻き取った。
以上の方法により、2軸配向フィルムを作製した。得られた2軸配向フィルムの厚さは31μmであり、幅は1.5mであり、巻長は7000mであった。また、得られた2軸配向フィルムの特定塗布層の厚さをSEMを用いて測定したところ、特定塗布層の厚さは60nmであった。具体的には、ミクロトームを用いて2軸配向フィルムを切削して2軸配向フィルムの厚さ方向に沿った断面を有するサンプルを作製し、得られたサンプルにArイオンでのエッチング処理およびPtでの蒸着処理を施した後、サンプルの断面を、SEM((株)日立ハイテク製「S-4800」)を用いて観察した。得られた観察画像から、特定塗布層の5か所の厚さを測定し、測定値を算術平均することにより、特定塗布層の厚さを求めた。
【0199】
〔実施例2〕
組成物Aの調製において、粒子として「スノーテックス ZL」に代えて、「スノーテックス MP2040」(日産化学(株)製、コロイダルシリカ、固形分40質量%水分散液)を使用したこと、及び、特定塗布層の厚さを160nmになるように調整したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0200】
〔実施例3〕
特定塗布層の厚さを50nmになるように調整したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0201】
〔実施例4〕
組成物Aの調製において、粒子(「スノーテックス ZL」)の添加量を11部から22部に変更したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0202】
〔実施例5〕
組成物Aの調製において、粒子(「スノーテックス ZL」)の添加量を11部から1.1部に変更したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0203】
〔実施例6〕
組成物Aの調製において、粒子として「スノーテックス ZL」に代えて、「スノーテックス XL」(日産化学(株)製、コロイダルシリカ、固形分40質量%水分散液)を使用したこと、粒子の添加量を11部から3部に変更したこと、及び、特定塗布層の厚さを40nmになるように調整したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0204】
〔実施例7〕
組成物Aに、更に下記の添加剤(架橋剤)を40部添加したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
・架橋剤(イソシアネート化合物、「デュラネート(登録商標)WM44L70」旭化成ケミカルズ(株)製(固形分70質量%)を、固形分濃度が10質量%になるように水を添加して調整した分散液)
【0205】
〔実施例8〕
組成物Aの調製において、アニオン性炭化水素系界面活性剤の添加量を56部から112部に変更したこと以外は、実施例1の記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0206】
〔実施例9〕
組成物Aの調製において、アニオン性炭化水素系界面活性剤に代えて、シリコーン系界面活性剤(BYK-346、固形分52質量%、BYK社製)を固形分1質量%になるように水で希釈し、得られた希釈液を56部使用したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って2軸配向フィルムを作製した。
【0207】
〔実施例10〕
組成物Aの調製において、アニオン性炭化水素系界面活性剤に代えて、フッ素系界面活性剤(サーフロンS-211、固形分50質量%、AGCセイミケミカル株式会社製)を固形分1質量%になるように水で希釈し、得られた希釈液を56部使用したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って2軸配向フィルムを作製した。
【0208】
〔実施例11~13及び23〕
組成物Aの調製において、樹脂として「ザイクセン NC」に代えて、「ザイクセン L」(住友精化(株)製、酸変性ポリオレフィン、固形分25質量%水分散液)(実施例11)、「ザイクセン A」(住友精化(株)製、酸変性ポリオレフィン、固形分25質量%水分散液)(実施例12)、及び、「ケミパール S120」(三井化学(株)製、酸変性ポリオレフィン、固形分25質量%水分散液)(実施例13)、アクリル樹脂(メタクリル酸メチル、スチレン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びアクリル酸を質量比59:8:26:5:2で重合させてなる共重合体の水分散液、固形分濃度25質量%、酸価16mgKOH/g)(実施例23)をそれぞれ使用したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0209】
〔実施例14~22〕
熱固定工程における熱固定温度、冷却工程における冷却速度、及び、拡張工程における拡張率を後述する表1に記載の数値となるように制御したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0210】
〔実施例24〕
組成物Aの調製において、樹脂として「ザイクセン NC」に代えて、「タケラック W605」(三井化学(株)製、ポリウレタン、固形分30質量%水分散液)を、組成物Aの全質量に対するバインダーの含有量が同じになるような量で使用したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0211】
〔実施例25〕
組成物Aの調製において、樹脂として「ザイクセン NC」に代えて、「ハイドラン AP-40N」(DIC(株)製、ポリウレタン、固形分35質量%水分散液)を、組成物Aの全質量に対するバインダーの含有量が同じになるような量で使用したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0212】
〔実施例26〕
組成物Aの調製において、フッ素系界面活性剤(フタージェント215M、(株)ネオス製、固形分1質量%水希釈液)をさらに5部追加したこと以外は、実施例25に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0213】
〔実施例27〕
組成物Aの調製において、フッ素系界面活性剤(サーフロンS-211、固形分50質量%、AGCセイミケミカル株式会社製)の水による希釈液(固形分1質量%)20部を追加したこと以外は、実施例25に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0214】
〔比較例1〕
組成物Aの調製において、粒子として「スノーテックス ZL」に代えて「スノーテックス MP2040」を使用したこと、特定塗布層の厚さを100nmになるように調整したこと、並びに、熱固定工程における熱固定温度、冷却工程における冷却速度、及び、拡張工程における拡張率を後述する表1に記載の数値となるように制御したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0215】
〔比較例2〕
組成物Aの調製において、樹脂として「ザイクセン NC」に代えて、アクリル樹脂の水分散液(メタクリル酸メチル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びメタクリル酸を質量比28:48:24で重合させてなる共重合体を中和した水分散体)(固形分25質量%、酸価157mgKOH/g)を使用したこと、並びに、熱固定工程における熱固定温度、及び、冷却工程における冷却速度を後述する表1に記載の数値となるように制御したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0216】
〔比較例3〕
組成物Aの調製において、粒子として「スノーテックス ZL」に代えて「スノーテックス MP2040」を使用し、且つ、樹脂として「ザイクセン NC」に代えて、「サイマック US-480」(東亞合成(株)製、シリコーン変性アクリル樹脂、固形分25質量%)を使用したこと、特定塗布層の厚さを100nmになるように調整したこと、並びに、熱固定工程における熱固定温度、冷却工程における冷却速度、及び、拡張工程における拡張率を後述する表1に記載の数値となるように制御したこと以外は、実施例1に記載の方法に従って、2軸配向フィルムを作製した。
【0217】
〔物性測定〕
実施例1~27及び比較例1~3の各2軸配向フィルムについて、以下の物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0218】
<最大突起高さSp、面平均粗さSa>
2軸配向フィルムが有する特定塗布層の第2主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaを、下記の方法で測定した。
製造された2軸配向フィルムの特定塗布層側の表面を、光学干渉計(Vertscan 3300G Lite、株式会社日立ハイテク製)を用いて下記の条件で測定し、その後、内蔵されているデータ解析ソフト(VS-Measure5)にて解析することにより、特定塗布層の第2主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaを求めた。
最大突起高さSpの測定では、測定位置を変えた5回の測定で得られる測定値の最大値を採用し、面平均粗さSaの測定では、測定位置を変えた5回の測定で得られる測定値の平均値を採用した。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:50倍
・測定面積:186μm×155μm
同様の方法で、2軸配向フィルムの第1主面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaを測定した。いずれの実施例も、Spが20nmであり、Saが3nmであった。
【0219】
<表面自由エネルギー>
2軸配向フィルムが有する特定塗布層の第2主面の表面自由エネルギーを、下記の方法で測定した。
接触角計(協和界面化学社製、DROPMASTER-501)を用いて、25℃の条件にて、製造された2軸配向フィルムの特定塗布層側の表面に液滴を滴下し、液滴が表面に付着してから1秒後の接触角を測定した。液滴として精製水2μL、ヨウ化メチレン1μL及びエチレングリコール1μLを使用し、測定されたそれぞれの接触角から、北崎・畑の方法により表面自由エネルギーを算出した。
同様の方法で、2軸配向フィルムの第1主面の表面自由エネルギーを測定した。いずれの実施例も59.7mJ/m2であった。
【0220】
<厚さバラツキ>
製造された2軸配向フィルムから長手方向に10mの長さのサンプルを採取した。このサンプルの厚さを、連続式触針式膜厚計(TOF-6R001、山文(株)製)を用いて、長手方向に沿って10mにわたり測定した。この測定を、幅方向の位置が異なる5か所において行った。得られた測定値から、厚さバラツキとして、最大値と最小値との差を全測定値の算術平均値で割って得られる値((最大厚さ-最小厚さ)/平均厚さ)を算出した。
【0221】
<フィルム密度>
2軸配向フィルムの密度(g/cm3)を、電子比重計(製品名「SD-200L」、アルファーミラージュ社製)を用いて、測定した。
【0222】
<筋状欠陥領域>
加熱搬送装置を用いて、2軸配向フィルムを搬送速度30m/分、搬送方向の張力100N/mで搬送しながら90℃で20秒間加熱処理した。加熱処理における加熱温度は、フィルムの表面温度を指す。加熱処理における加熱時間は、フィルムの表面温度が目的とする温度(90℃)に達した時点から起算した。加熱処理後の2軸配向フィルムを黒色の平板上に置き、次いで、室内の天井に設置された蛍光灯〔三菱電機株式会社製のルピカエース(色温度:5000K、平均演色評価数(Ra):84)〕の光が反射するように視点を変えながら2軸配向フィルムを斜めから目視で観察した。1m×1mの領域を目視により観察し、2軸配向フィルムの表面において蛍光灯の反射像がうねっている領域を筋状欠陥領域とした。次いで、観察される筋状欠陥領域の面積の合計の、2軸配向フィルムの観察領域の全面積に対する比率(面積比)を既述の方法(上記「筋状欠陥領域」の項目参照)で算出した。
【0223】
<膨張率>
2軸配向フィルムの90℃における幅方向の膨張率を、熱機械分析装置(TMA-60、株式会社島津製作所製)を用いて、既述の方法(上記「膨張率」の項目参照)に従って測定した。
【0224】
<平均粒子径、粒子密度D>
特定塗布層に含まれる粒子の平均粒子径、及び、粒子密度Dを、以下の方法で測定した。
走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク社製、S4700)を用いて、2軸配向フィルムの特定塗布層側の表面を、20000倍の拡大倍率で観察し、10視野の観察画像を得た。得られた画像データから突起として識別できる粒子について、画像ソフトウエアを用いて個々の粒子の面積を測定し、同一面積を有する円の直径(面積円相当径)に換算して個々の粒子の粒子径を得た後、全ての粒子の算術平均値を算出した。
また、各視野の画像データから識別できる粒子の個数を視野面積で除した値を、粒子密度D(単位:個/μm2)として算出した。
【0225】
<剥離帯電量測定>
製造された各2軸配向フィルムの剥離帯電量を、基準サンプル(第1主面を上面)を置く台と、測定サンプル(第2主面を下側)を保持しながら鉛直方向に沿って上昇及び下降することにより、基準サンプルの上面に対して測定サンプルの圧着及び剥離を繰り返し行うことができるヘッドと、このヘッドにつながっており測定サンプルの帯電量を測定できるエレクトロメーターとを備える測定装置を使用して、測定した。
まず、製造されたそれぞれの2軸配向フィルムを、直径1.5cmの大きさの円形に切り取って剥離帯電量測定用のサンプルを作製し、また、13cm×4cmの大きさの長方形に切り取って基準サンプルを作製し、それぞれのサンプルを、温度23℃、相対湿度(RH)20%の環境下で2時間以上放置した。
得られた基準サンプルを測定装置の台に載せ、測定サンプルをヘッドに装着した。このとき、基準サンプルの第1主面と測定サンプルの第2主面とが互いに対向するように、台に載せる基準サンプルにおいて第1主面を上面側に、ヘッドに装着する測定サンプルの第2主面を下面側に、それぞれ配置した。測定サンプルを除電したのち、ヘッドを上昇又は下降させて、基準サンプルに対する測定サンプルの圧着及び剥離を5回繰り返した(接触圧は566g/cm2、接触時間2秒間)。1回目から5回目までの剥離後のそれぞれにおいて測定サンプルの帯電量を測定し、測定値の平均値を算出した。測定サンプルを変えるとともに、基準サンプルにおいて測定サンプルが接触する位置を測定サンプルごとに変えて、合計で4つのサンプルで測定を行い、全てを平均したものを剥離帯電量として得た。
【0226】
[評価]
実施例1~27及び比較例1~3の各2軸配向フィルムを用いて剥離フィルムを作製し、得られた剥離フィルムに対して、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0227】
〔剥離フィルムの作製〕
各実施例及び比較例で製造された2軸配向フィルムを送り出し、2軸配向ポリエステルフィルムの粒子含有層とは反対側の表面に、下記処方Aからなる塗布液をスロットダイ方式で塗布した後、120℃の熱風乾燥機を用いて塗布膜を乾燥して、巻き取り、ロール状の剥離フィルム(剥離層を設けた2軸配向フィルム)を作製した。乾燥後の剥離層の厚さは、0.5μmであった。
【0228】
〔転写痕評価1〕
得られた剥離フィルムを3.5cm角に裁断したものを、剥離層と特定塗布層とが接触する向きで10枚重ねて、積層体のサンプルを得た。このサンプルに対して、84kgの加重をかけた状態で、40℃のオーブンで3日間保持した。オーブンからサンプルを取り出して、サンプルから1枚ずつ剥離フィルムを剥がした。剥離フィルムの剥離層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク社製、S4700)を用いて20000倍で観察し、凹みの存在から下記の基準に従って転写痕を評価した。
【0229】
(処方A:剥離層形成用塗布液)
・付加反応型のシリコーン(東レダウコーニング(株)製、SRX-345、剥離剤):10部
・トルエン及びメチルエチルケトンの混合溶剤(混合比=7:3(質量比)):490部
・白金触媒(東レダウコーニング(株)製、SRX-212):0.1部
剥離層形成用塗布液は、上記成分を攪拌及び混合することにより調製した。
【0230】
(評価基準)
A:凹みが観察されず、平滑な表面であった。
B:凹みが観察され、剥離層の表面が粗面化していた。
【0231】
〔転写痕評価2:長期保管後評価〕
上記〔剥離フィルムの作製〕に記載の方法で作製した剥離フィルムを、常温常湿環境下に3カ月間保管する長期保管試験を行った。保管後の剥離フィルムを用いた以外は、上述した〔転写痕評価1〕に記載の方法に従って、剥離フィルムに形成された転写痕の評価を行った。
転写痕評価2における評価基準を、以下に示す。
【0232】
(評価基準)
A:凹みが観察されず、平滑な表面であった。
B:10枚の剥離フィルムのうち1枚だけ凹みが観察されたが、残り9枚は平滑な表面であった。
C:10枚の剥離フィルムのうち2枚以上に凹みが観察され、剥離層の表面が粗面化していた。
【0233】
〔搬送性〕
各実施例及び比較例において、上記冷却工程が施された2軸配向フィルムを上記巻取工程に記載の方法に従って巻き取る前に、下記の搬送条件で搬送した。このとき搬送ロールで搬送される2軸配向フィルムに現れるシワの状態を目視で観察し、以下の基準に従って搬送性を評価した。
(搬送条件)
搬送ロール材質:ステンレス鋼(SUS)
搬送ロールラップ角:130°(塗工面)
搬送速度:100m/分
搬送テンション:100N/m
【0234】
(評価基準)
A:搬送時にシワが観察されなかった。
B:搬送ロールの近辺においてのみ、シワが観察された。
C:搬送ロールよりも下流側においても、定常的にシワが観察された。
【0235】
〔剥離層の塗布性〕
上記転写痕の評価において作製した剥離フィルムを長手方向に30mの長さで切り出した。3波長蛍光灯の下、得られたサンプルの剥離層側の表面を目視で観察し、反射光により観察される筋状の塗布ムラ及び異物による欠陥の数を計測した。計測結果から、以下の基準に従って、剥離層の塗布性を評価した。
【0236】
(評価基準)
A:塗布ムラ及び欠陥がいずれも観察されなかった。
B:塗布ムラ及び/又は欠陥が観察されたが、許容範囲内であった。
C:許容範囲を超える塗布ムラ及び/又は欠陥が観察された。
【0237】
表1に、各実施例及び比較例の評価結果をそれぞれ示す。
表1中、「樹脂」欄の樹脂1~9、「界面活性剤」欄のW-1~W-4、「添加剤」欄の架橋剤、及び、「粒子」の「種類」欄の粒子1~3は、それぞれ下記の成分を使用したことを示す。
(樹脂)
樹脂1: ザイクセン NC(住友精化(株)製、酸変性ポリオレフィン、水分散体)
樹脂2: ザイクセン L(住友精化(株)製、酸変性ポリオレフィン、水分散体)
樹脂3: ザイクセン A(住友精化(株)製、酸変性ポリオレフィン、水分散体)
樹脂4: ケミパール S120(三井化学(株)製、酸変性ポリオレフィン、水分散体)
樹脂5: アクリル樹脂(メタクリル酸メチル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びメタクリル酸を質量比28:48:24で重合させてなる共重合体を中和した水分散体)
樹脂6: サイマック US-480(東亞合成(株)製、シリコーン変性アクリル樹脂、水分散体)
樹脂7: アクリル樹脂(メタクリル酸メチル、スチレン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びアクリル酸を質量比59:8:26:5:2で重合させてなる共重合体、水分散体)
樹脂8: タケラック W605(三井化学(株)製、ポリウレタン、水分散体)
樹脂9: ハイドラン AP-40N(DIC(株)製、ポリウレタン、水分散体)
(界面活性剤)
W-1:アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾールA-90、日油株式会社製)
W-2:シリコーン系界面活性剤(BYK-346、BYK社製)
W-3:フッ素系界面活性剤(サーフロンS-211、AGCセイミケミカル株式会社製、炭素数6以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を含む構造)
W-4:フッ素系界面活性剤(フタージェント215M、(株)ネオス製、パーフルオロイソプロピル基を含み、炭素数6以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を含まない構造)
(添加剤)
架橋剤:イソシアネート化合物、「デュラネート(登録商標)WM44L70」旭化成ケミカルズ(株)製
(粒子)
粒子1: スノーテックス ZL(日産化学株式会社製、コロイダルシリカ、水分散体)
粒子2: スノーテックス MP2040、(日産化学株式会社製、コロイダルシリカ、水分散体)
粒子3: スノーテックス XL(日産化学株式会社製、コロイダルシリカ、水分散体)
【0238】
【0239】
【0240】
【0241】
表1より、本発明に係る実施例1~27の2軸配向ポリエステルフィルムは、比較例1~比較例3に比べて、本発明の効果がより優れることが確認された。
【0242】
〔比較例4〕
比較例4のポリエステルフィルムとして、粒子を含有する樹脂層をポリエチレンテレフタレート基材の一方の主面に積層してなるポリエチレンテレフタレートフィルム(「コスモシャイン(登録商標)A-1517」、東洋紡(株)製、厚み16μm)を用意した。比較例4のポリエステルフィルムは、比較的平坦な第1面(本フィルムの第1主面に相当)と、凹凸形状が存在する第2面(本フィルムの第2主面に相当)とを有していた。比較例4のポリエステルフィルムの凹凸面の最大突起高さSpは63nmであった。
比較例4のポリエステルフィルムを用いて、上記〔剥離フィルムの作製〕に記載の方法に従って、第1面に剥離層を設けることによりロール状の剥離フィルムを作製した。得られた剥離フィルムを用いて、上記〔転写痕評価1〕に記載の方法で剥離層の表面の転写痕を評価したところ、凹みが観察され、剥離層が粗面化していた(評価B)。
また、得られた剥離フィルムを用いて、上記〔転写痕評価2〕に記載の方法で剥離層の表面の転写痕を評価したところ、10枚の剥離フィルムのうち2枚以上の表面に凹みが観察され、剥離層が粗面化していた(評価C)。
【0243】
特定塗布層が含有する粒子の平均粒子径が130nm以下である場合、搬送性がより優れることが確認された(実施例1及び2の比較)。
【0244】
また、第2主面の突起を構成している粒子の粒子密度D(単位:個/μm2)と、第2主面の最大突起高さSp(単位:nm)との積(D×Sp)が20以上である場合、搬送性がより優れることが確認された(実施例2、5及び6と、他の実施例との比較)。
【0245】
90℃で加熱した場合に発生する筋状欠陥領域の面積比が20%以下である場合、剥離層の塗布性がより優れることが確認された(実施例1、20~22と実施例14~19の比較)。
【0246】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度が、2200℃/分超3000℃/分未満である場合、剥離層の塗布性がより優れることが確認された(実施例1と17~19の比較)。
【0247】
特定塗布層が炭化水素系界面活性剤を含有する場合、剥離層の塗布性がより優れることが確認された(実施例1及び9~10の比較)。
特定塗布層が、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤を含有する場合、炭素数が6以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤を含有する場合と比較して、剥離層の塗布性がより優れることが確認された(実施例26及び27の比較)。
【0248】
また、上記の測定方法で測定された2軸配向フィルムの剥離帯電量の絶対値が0.12nC以下の場合、剥離層の塗布性がより優れることが確認された(実施例9~10と、実施例1~8、11~13、23、25、26との比較)。
【0249】
第2主面の表面自由エネルギーが50mJ/m2以下である場合、剥離フィルムを長期に保管した後であっても、剥離層表面における転写痕の形成をより抑制できることが確認された(実施例24と、他の実施例との比較)。
【0250】
[実施例101:セラミックグリーンシートの製造]
実施例1~26のそれぞれで作製した剥離フィルムの剥離層の上に、下記処方Kを有するセラミックスラリーを、乾燥後の厚みが0.5μmになるように剥離層の上に塗布した後、得られたスラリー塗布膜を90℃で乾燥させた。なお、セラミックスラリーは、下記処方に記載の各原料を混合し、ボールミルで分散することにより調製した。上記の方法で作製された2枚のスラリー塗布膜付き剥離フィルムを、スラリー塗布膜の表面と特定塗布膜の表面とが接するように重ね合わせ、10分間、1kg/cm2の荷重をかけた。その後、スラリー塗布膜付き剥離フィルムから剥離フィルムを剥離して、セラミックグリーンシートを得た。
得られたセラミックグリーンシートは、異物や転写故障もなく、良好な特性を有していた。
【0251】
<処方K:セラミックスラリー>
・ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、エスレックBX-5)5部
・チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製、HPBT)100部
・トルエン及びエタノールの6:4の混合溶剤 45部