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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124587
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】プラスチックの生分解性評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240906BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032345
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 悟史
(72)【発明者】
【氏名】大谷 未央
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ61
4B063QQ67
4B063QR74
4B063QS40
4B063QX10
4B065AC20
4B065BB05
4B065BB18
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】プラスチックの分解性を試験するための新規技術の提供。
【解決手段】プラスチックの微生物源中での生分解性を評価する方法であって、前記微生物源に由来する微生物群集と前記プラスチックとを接触させる工程と、前記微生物群集と接触させた前記プラスチックの分解を定量的に検出する工程と、を含み、前記微生物群集が、前記微生物源から採取された後、予め設定された炭素率を有する培地で増殖されたものであり、前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率に基づいて決定される、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックの微生物源中での生分解性を評価する方法であって、
前記微生物源に由来する微生物群集と前記プラスチックとを接触させる工程と、
前記微生物群集と接触させた前記プラスチックの分解を定量的に検出する工程と、を含み、
前記微生物群集が、前記微生物源から採取された後、予め設定された炭素率を有する培地で増殖されたものであり、
前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率に基づいて決定される、方法。
【請求項2】
前記微生物源が、コンポスト、土壌及び活性汚泥のいずれか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率の±20%範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物源から前記微生物群集を採取する工程、
前記微生物源の炭素率を決定する工程、
採取された前記微生物群集を前記予め設定された炭素率を有する培地で増殖させる工程、及び、
増殖された前記微生物群集を保存する工程、のいずれか1以上の工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
プラスチックの微生物源中での生分解性を評価するために用いられる微生物群集であって、
前記微生物群集は、前記微生物源から採取された後、予め設定された炭素率を有する培地で増殖されたものであり、
前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率の±20%範囲内である、微生物群集。
【請求項6】
請求項5に記載の微生物群集の凍結保存液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラスチックの微生物源中での生分解性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック廃棄物による環境汚染の懸念をうけ、生分解性プラスチックの開発が望まれている。コンポスト(堆肥)や土壌などの微生物源中でのプラスチックの生分解性を評価するための方法として、プラスチックの好気的究極生分解度を、制御されたコンポスト状態で発生する二酸化炭素の量及び試験終了時の崩壊度の程度を測定することによって求める方法(JIS K 6953-1/ ISO 14855-1)や、閉鎖呼吸計を用いた酸素の消費量又は発生した二酸化炭素量の測定によって、プラスチック材料の土壌中での好気的究極生分解度を求める方法(JIS K 6955/ ISO 17556)等がある。これらの既存方法は、評価期間が6か月から2年程度と長く、評価結果の再現性(安定性)も低いという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、プラスチックの生分解性を試験するための新規技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題解決のため、本開示は、以下の[1]-[7]を提供する。
[1] プラスチックの微生物源中での生分解性を評価する方法であって、前記微生物源に由来する微生物群集と前記プラスチックとを接触させる工程と、前記微生物群集と接触させた前記プラスチックの分解を定量的に検出する工程と、を含み、前記微生物群集が、前記微生物源から採取された後、予め設定された炭素率を有する培地で増殖されたものであり、前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率に基づいて決定される、方法。
[2] 前記微生物源が、コンポスト、土壌及び活性汚泥のいずれか1つである、[1]の方法。
[3] 前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率の±20%範囲内である、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記微生物源から前記微生物群集を採取する工程、前記微生物源の炭素率を決定する工程、採取された前記微生物群集を前記予め設定された炭素率を有する培地で増殖させる工程、及び、増殖された前記微生物群集を保存する工程、のいずれか1以上の工程をさらに含む、[1]-[3]のいずれかの方法。
【0005】
[5] プラスチックの微生物源中での生分解性を評価するために用いられる微生物群集であって、前記微生物群集は、前記微生物源から採取された後、予め設定された炭素率を有する培地で増殖されたものであり、前記培地が有する前記炭素率が、前記微生物源が有する炭素率の±20%範囲内である、微生物群集。
[6] 前記微生物源が、コンポスト、土壌及び活性汚泥のいずれか1つである、[5]の微生物群集。
[7] [5]又は[6]の微生物群集の凍結保存液。
【0006】
本開示において、「微生物群集構造」とは、微生物の種類の数を意味し、好ましくはさらに各種類に属する細菌の数をも意味する。微生物群集構造との用語は、「菌叢」と同義に用いられる。
微生物の分類は、ゲノムの塩基配列の同一性に基づく系統分けを適用でき、16SrRNA領域の塩基配列に基づく系統分けが汎用されている。
微生物群集構造は、微生物群集のゲノムDNAの所定領域(例えば16SrRNA領域)の塩基配列および当該塩基配列の読み取り数(コピー数)を従来公知の菌叢解析ソフトで解析することによって決定できる。ゲノムDNAの所定領域は、塩基配列及び読み取り数の決定のために必要に応じて核酸増幅反応に供されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、プラスチックの分解性を試験するための新規技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0009】
本開示に係るプラスチックの微生物源中での生分解性評価方法は、以下の工程5,6を含み、さらに任意に工程1-4を含む。
工程1:微生物源から微生物群集を採取する工程。
工程2:微生物源の炭素率を決定する工程。
工程3:採取された微生物群集を予め設定された炭素率を有する培地で増殖させる工程。
工程4:増殖させた微生物群集を保存する工程。
工程5:微生物源に由来する微生物群集とプラスチックとを接触させる工程。
工程6:微生物群集と接触させたプラスチックの分解を定量的に検出する工程。
【0010】
生分解性の評価の対象となるプラスチックは、特に限定されないが、例えば、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート-co-セバケート(PBSSe)、ポリヒドロキシブタノエート(PHB)、ポリヒドロキシブタノエート-co-ヘキサノエート(PHBH)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などであってよい。
【0011】
評価が模擬するプラスチックの生分解環境である微生物源は、特に限定されないが、例えば、コンポスト、土壌、活性汚泥、河川水、及び海水が好ましく、コンポスト、土壌及び活性汚泥がより好ましい。
【0012】
微生物群集は、微生物源から採取されるものであり、微生物源に由来して微生物源と同一又は近似した微生物群集構造を有する。微生物源からの微生物群集の採取(工程1)は、微生物源の抽出によって採取され得る。微生物源からの微生物群集の採取は、好ましくは水抽出によって行うことができ、具体的には微生物源を水性溶媒(水、あるいは微生物培養のための培地など)と混合して撹拌することによって、微生物群集を含む溶液を得る。また、微生物源を水性溶媒と混合して撹拌した混合液は、必要に応じてろ過されてもよく、その場合はろ液として微生物群集を含む溶液を得ることができる。
【0013】
プラスチックと接触させる微生物群集は、微生物源から採取された後、微生物源が有する炭素率に基づいて予め設定された炭素率を有する培地で増殖されたものとされる。具体的には、培地の炭素率は、微生物源の炭素率と同一又は近似の値に設定される。
ここで、炭素率とは、「全窒素(TN)に対する全有機炭素(TOC)の比率(TOC/TN)」で定義される。
【0014】
微生物源の炭素率の決定(工程2)は、従来汎用の全有機体炭素計および全窒素計を用いて行うことができ、具体的には微生物源を水に懸濁し、懸濁液をろ過して得たろ液を全有機炭素計および全窒素計による測定に供することにより行い得る。
培地の炭素率は、微生物源の炭素率と同一又は近似の値に設定される。
ここで、微生物源の炭素率と近似の値とは、微生物源の炭素率の±20%の範囲をいい、好ましくは±10%の範囲、より好ましくは±5%の範囲である。
炭素率の調整のために、培地には、糖類を添加できる。糖類は特に限定されないが、例えばグルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、ガラクトース、ラクトース、アラビノース、でんぷん、セルロース、グリセロールのいずれか1あるいは2以上であってよい。また、炭素率の調整のために、培地に含窒素化合物を添加することもできる。含窒素化合物は特に限定されないが、例えば塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、アミノ酸、ペプトン、イーストエキス、ミートエキスのいずれか1あるいは2以上であってよい。上記糖類および含窒素化合物は同時に培地に添加してよい。
【0015】
上記で設定された炭素率を有する培地における微生物源の培養(工程3)は、従来公知の手法にしたがって行うことができる。培地は、設定された炭素率を充足する限りにおいて微生物の増殖に必要な栄養物質や、無機物を含んでいてよい。培養温度や培養時間も、微生物の増殖をもたらす限りにおいて特に限定されないが、例えば25-35℃で24-72時間とされる。
微生物源が有する炭素率に基づき決定された炭素率を有する培地で微生物群集を培養することにより、微生物源が有する微生物群集構造と同一又は近似の微生物群集構造を維持したまま微生物群集を増殖させられると推定される。
【0016】
培養による増殖後の微生物群集は、次工程で使用されるまでの間、保存されてよい(工程4)。微生物群集の保存は、従来公知の手法によって調製でき、例えば、微生物群集の培養液にグリセロールやDMSOなどの凍結保護剤を添加した上で-80℃で冷凍すればよい。同じロットの凍結保存液を用いることで高い再現性で試験を行うことができる。
【0017】
微生物群集とプラスチックとの接触(工程5)は、プラスチックが微生物群集と接触し得る環境下に置かれればよくその態様は特に限定されないが、例えば微生物群集を含む溶液中にプラスチックを浸漬させることにより行うことができる。プラスチックは必要に応じて粉砕され、粒子形状で溶液に浸漬されてもよい。
微生物群集を含む溶液には、工程3の培養で得られた培養液から回収された菌体を適宜希釈して用いてよく、あるいは工程4で調製された微生物群集の保存液を再度工程3の培養に供して得た菌体を適宜希釈して用いてもよい。菌体の希釈には水性溶媒(水、あるいは微生物培養のための培地など)を用いればよい。菌体の回収は従来公知の手法に従って行うことができ、例えば遠心分離、膜濃縮などを行えばよい。
【0018】
プラスチックの分解の定量的検出(工程6)は、従来公知の手法によって行えばよく、例えば、生物学的酸素要求量(BOD)を指標とした測定、排出された二酸化炭素を指標とした測定、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布確認、ポリマー重量減少量の測定などを適用できる。
【0019】
微生物群集として、微生物源の炭素率に基づき決定された炭素率を有する培地で増殖させた微生物群集を試験に用いることで、微生物源から要時に微生物群集を採取することなく、微生物源から採取された微生物群集を培養せずにそのまま用いた場合と同様のプラスチックの生分解性傾向を得ることができる。具体的には、微生物源の炭素率に基づき決定された炭素率を有する培地で増殖させた微生物群集を用いた試験では、微生物源から採取された微生物源を培養せずに使用する既存規格(JISK6950 (ISO14851)、JISK6953-1 (ISO14855-1) など)の試験における各プラスチックの生分解度の順位と一致した順位でプラスチックの生分解性を検出できる。
【0020】
また、微生物源の炭素率に基づき決定された炭素率を有する培地で増殖させた微生物群集を試験に用いることで、微生物源をそのまま用いた場合に比して試験の期間を短縮でき、かつ高い再現性を得ることができる。
より具体的には、本開示に方法によれば、例えば3カ月程度、典型的には1か月程度、最短で7日~14日程度の期間でプラスチックの生分解性を評価できる。
また、微生物源の炭素率に基づき決定された炭素率を有する培地で増殖させた微生物群集を試験に用いることで、同一組成のプラスチックに対する複数回の試験において、高い再現性が得られる。例えば、試験開始から一定期間後における各プラスチックの生分解度について、複数回分の結果の変動係数(CV値)が、微生物源から採取された微生物群集を培養せずにそのまま用いた場合に比して小さく抑えられる。
【実施例0021】
1.微生物群集の採取
JISK6950 (ISO14851) を参考に実施した。微生物源としてコンポストを用い、コンポストから微生物群集を含む抽出水を調製した。表1に示す組成の試験用培地100mLをコンポスト試料20gと混合し、約5分間攪拌した。その後、ろ紙(アドバンテック株式会社、5A)で吸引ろ過し、微生物群集抽出水を得た。
【0022】
【表1】
【0023】
2.微生物源の炭素率の測定
コンポスト試料の炭素率の測定には、島津製作所の全有機体炭素計TOC-VCSH及び全窒素計TNM-1を使用した。2種類のコンポスト試料の重量を測定し、重量の5倍量の水を加えて懸濁した。0.2μm径のフィルターで溶液をろ過し、ろ液の全有機炭素(TOC)および全窒素(TN)を測定し、炭素率(TOC/TN)を求めた。
コンポスト試料1,2の炭素率を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
3.微生物群集の培養
培養基本培地に対し、終濃度40g/Lのグルコースを添加することでコンポスト試料1の炭素率10.6に近似の炭素率10を有する培養培地1を調製した。培養基本培地に対し、終濃度20g/Lのグルコースを添加することで、コンポスト試料2の炭素率5.75に近似の炭素率5を有する培養培地2を調製した。培養基本培地の組成を表3に、炭素率を表2に示す。
培地(培養基本培地又は培養用培地1,2)100mLを500mL容三角フラスコに分注し、微生物群集抽出水5mLを接種した。30℃、200rpmで24時間培養した後、終濃度20%となるようにグリセロールを添加し、全量を1.6mLずつクライオチューブに分注して評価用種菌とした。評価用種菌は-80℃で凍結保存した。
【0026】
【表3】
【0027】
評価用種菌を解凍し、遠心分離で上清のグリセロールを除去した後、沈菌体を基本培地で洗浄した。菌体全量を培養用培地100mLに接種し、0.2μm径フィルターで除菌したコンポスト抽出水を5mL添加した。30℃、200rpmで24時間培養を行った後、6,500gで10分間遠心し、評価用菌体を得た。評価用菌体を最終OD600が0.4となるよう試験用培地に懸濁し、評価用菌液とした。
【0028】
4.生分解性試験
(1)試料
サンプルの樹脂には、次のものを粒径250μm以下に粉砕して用いた。
セルロース
PBSA(ポリブチレンサクシネート-co-アジペート)
PBSSe8020(ポリブチレンサクシネート-co-セバケート、コハク酸mol比率:セバシン酸mol比率=80:20)
PBSSe7426(ポリブチレンサクシネート-co-セバシネート、コハク酸mol比率:セバシン酸mol比率=74:26)
PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシ酪酸mol比率:3-ヒドロキシカプロン酸mol比率=89:11)
【0029】
(2)コンポスト試料を用いた生分解性試験
まず、比較の基準を得るため、コンポスト試料1を用い、JISK6953-2に沿って二酸化炭素排出量を指標とした樹脂の生分解性試験を実施した。
試料には、上述のセルロース、PBSA、PBSSe7426及びPHBHを用いた。
乾燥コンポスト60g、乾燥海砂320g(富士フイルム和光純薬株式会社、425~850μm化学用)、水分100g、試料10gを混合し、微生物酸化分解評価装置(MODA)を用いて生分解度を測定した。試験は28℃で実施した。
【0030】
試験開始後40日目時点での生分解度を表4に示す。コンポスト試料1での生分解度は、PHBHが最も高く、続いてPBSA、PBSSe(PBSSe7426)、セルロースの順であった。この生分解度の順位を「コンポスト試料1中での樹脂の生分解性傾向」と称するものとする。
【0031】
【表4】
【0032】
(3)微生物群集抽出水及び評価用菌液を用いた生分解性試験
上記3.で調製した評価用菌液、又は上記1.で調製した微生物群集抽出水を用いて、生物学的酸素要求量(BOD)を指標とした樹脂の生分解性試験を実施した。
【0033】
BODの測定には、セントラル化学株式会社のOxitopを用いた。評価用菌液又は10倍希釈した微生物群集抽出水100mLをOxitop容器に分注し、樹脂(セルロース、PBSA、PBSSe、PHBH)を約30mgずつ添加した。Oxitopヘッドを取り付け、25℃で試験を行った。BODは以下の計算式で算出した。各サンプルのBODを算出し、理論BODで除して生分解度%を算出した。
【0034】
理論BOD[mg L-1] = X ・MO2・EO2・Vl -1・Munit -1
サンプルBOD[mg L-1] = (Pblank-Psample)・MO2・((Vt-Vl)・Vl -1+a・Tm・T0 -1)・R-1・Tm -1
【0035】
【表5】
【0036】
試験群は以下のとおりとした。
試験群1(比較例):コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集抽出水
試験群2(実施例):コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養培地1(炭素率10)で培養した評価用菌液
試験群3(比較例):コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養基本培地(炭素率0.286)で培養した評価用菌液
試験群4(比較例):コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養培地2(炭素率5)で培養した評価用菌液
試験群5(比較例):コンポスト試料2(炭素率5.75)の微生物群集抽出水
試験群6(実施例):コンポスト試料2(炭素率5.75)の微生物群集を培養培地2(炭素率5)で培養した評価用菌液
【0037】
試験群1-4の試験開始後14日目時点での生分解度を表6に示す。
コンポスト試料1の微生物群集抽出水を用いた試験群1(比較例)では、生分解度は、PHBHが最も高く、続いてPBSA、PBSSe(PBSSe8020)、セルロースの順であり、「コンポスト試料1中での樹脂の生分解性傾向」が維持された。
コンポスト試料1を用いた場合、試験開始後40日目時点でのPHBHの生分解度は85.60%であった。コンポスト試料1の微生物群集抽出水を用いた試験群1(比較例)では、試験開始後14日目時点でPHBHの生分解度は76.9%に達した。コンポスト試料1を用いる場合に比して、その微生物群集抽出水を用いる場合では、より短期間での分解試験が可能であった。
【0038】
コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養培地1(炭素率10)で培養した評価用菌液を用いた試験群2(実施例)でも、試験群1と同様に、「コンポスト試料1中での樹脂の生分解性傾向」を維持して短期間での評価が可能であった。
【0039】
一方、コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養基本培地(炭素率0.286)で培養した評価用菌液を用いた試験群3(比較例)では、生分解度は、PHBHが最も高くPBSAが続いたが、3番目がセルロース、4番目がPBSSe(PBSSe8020)の順となり、「コンポスト試料1中での樹脂の生分解性傾向」は再現されなかった。
また、コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養培地2(炭素率5)で培養した評価用菌液を用いた試験群4(比較例)では、生分解度は、PBSSe(PBSSe8020)が最も高く、続いてPHBHであったが、セルロース及びPBSAでは生分解が生じず、やはり「コンポスト試料1中での樹脂の生分解性傾向」は再現できなかった。
【0040】
【表6】
【0041】
試験群5,6の試験開始後10日目時点での生分解度を表7に示す。
コンポスト試料2(炭素率5.75)の微生物群集抽出水を用いた試験群5(比較例)での各樹脂の生分解性の順位(PHBH、PBSA、PBSSe(PBSSe8020)、セルロースの順)は、コンポスト試料2(炭素率5.75)の微生物群集を培養培地2(炭素率5)で培養した評価用菌液を用いた試験群6(実施例)でも維持された。
【0042】
【表7】
【0043】
試験群2(実施例、3回試験)及び試験群1(比較例、3回試験)における試験開始10日目時点でのサンプルの生分解度と、それらの平均値、標準偏差及びばらつき(%CV)をそれぞれ表8,9に示す。
PBSA、PBSSe及びPHBHのいずれのサンプルにおいても、コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集を培養培地1(炭素率10)で培養した評価用菌液を用いた試験群2(実施例)では、コンポスト試料1(炭素率10.6)の微生物群集抽出水を用いた試験群1(比較例)に比して、ばらつき(%CV)が小さく抑えられた。
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
【0046】
以上の結果から、微生物源の炭素率に近似の炭素率を有する培地で培養して得た微生物群集のストック溶液を試験に用いることで、微生物群集抽出水を要時調製することなく、微生物群集抽出水を用いた試験と同様の評価結果を得られることが示された。
また、微生物源の炭素率に近似の炭素率を有する培地で培養して得た微生物群集を試験に用いることで、微生物源を用いて試験を行う既存の手法に比して試験期間を短縮できることが示された。
さらに、微生物源の炭素率に近似の炭素率を有する培地で培養して得た微生物群集を用いた試験では、微生物群集抽出水を用いた試験に比して結果の再現性にも優れることが示された。