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特開2024-124655水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124655
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20240906BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20240906BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20240906BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240906BHJP
【FI】
G01N27/00 J
G01N27/22 A
H01M8/0444
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032479
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】笹子 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】龍崎 大介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直貴
(72)【発明者】
【氏名】高原 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】的場 吉毅
【テーマコード(参考)】
2G060
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AB08
2G060AB15
2G060AE19
2G060AF10
2G060BA07
2G060BA09
2G060BB09
2G060DA14
2G060HB03
2G060HC15
2G060JA01
2G060KA01
5H126BB06
5H127AA06
5H127AC02
5H127BA02
5H127BB02
5H127DB05
5H127EE27
(57)【要約】
【課題】水素中に含まれる被毒性不純物の濃度を計測する高信頼な水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法を提供すること。
【解決手段】高濃度水素中に被毒性不純物が含まれる雰囲気に設置されるセンサ部1001と、センサ部を加熱可能なヒータ部1010と、センサ部とヒータ部とを制御するシステム制御部1003とを備え、ヒータ部が、半導体基板と、第1の導電型の不純物層と、金属酸化物層と、金属酸化物層上の被毒性不純物が吸着可能な金属電極層とを備え、システム制御部が、被毒性不純物の種類と濃度とに応じた金属電極層の仕事関数の変化を計測することで被毒性不純物の濃度を検出し、この検出結果に基づいて、ヒータ部により金属電極層を加熱して金属電極層に吸着した被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度水素中に被毒性不純物が含まれる雰囲気に設置されるセンサ部と、
前記センサ部を加熱可能なヒータ部と、
前記センサ部に電圧を印加し流れる電流を計測すると共に少なくとも前記センサ部と前記ヒータ部とを制御するシステム制御部とを備え、
前記ヒータ部が、半導体基板と、
前記半導体基板の表面に形成された第1の導電型の不純物層と、
前記半導体基板の表面に形成された金属酸化物層と、
前記金属酸化物層上に形成され水素および被毒性不純物の吸着サイトを有する金属で形成され前記雰囲気に露出され前記被毒性不純物が吸着可能な金属電極層とを備え、
前記システム制御部が、前記被毒性不純物の種類と濃度とに応じた前記金属電極層の仕事関数の変化を計測することで前記被毒性不純物の濃度を検出し、この検出結果に基づいて、前記ヒータ部により前記金属電極層を加熱して前記金属電極層に吸着した前記被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行うことを特徴とする水素中不純物検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素中不純物検査システムにおいて、
前記ヒータ部が、電圧を印加して電流を流すことで発生するジュール熱による昇温を用いて前記センサ部を加熱可能であり、
前記システム制御部が、前記被毒性不純物の濃度の検出結果に基づいて、前記ヒータ部に印加する電圧を制御して前記リフレッシュを行うことを特徴とする水素中不純物検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水素中不純物検査システムにおいて、
前記システム制御部が、前記リフレッシュを行う際、前記センサ部の温度を多段階に分けて昇温させ、前記センサ部の温度と前記被毒性不純物による前記仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から前記被毒性不純物の成分を分離する機能を有していることを特徴とする水素中不純物検査システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の水素中不純物検査システムにおいて、
前記雰囲気に酸素を含有する空気を一時的に導入することが可能なガス置換機構を備え、
前記システム制御部が、前記ガス置換機構を制御して前記金属電極層に空気を供給する機能を有していることを特徴とする水素中不純物検査システム。
【請求項5】
請求項4に記載の水素中不純物検査システムにおいて、
前記システム制御部が、前記ガス置換機構の制御を行う際に、前記金属電極層に供給する空気中の酸素濃度を多段階に分けて上昇させ、前記酸素濃度と前記被毒性不純物による前記仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から前記被毒性不純物の成分を分離する機能を有していることを特徴とする水素中不純物検査システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の水素中不純物検査システムにおいて、
前記高濃度水素が、固体高分子形燃料電池に供給される水素であり、
前記システム制御部が、前記センサ部の前記リフレッシュを実施したリフレッシュ回数を記録するリフレッシュ回数記録機能と、
前記リフレッシュ回数が予め定められたしきい回数を超えるかどうか判定するしきい回数判定機能と、
前記しきい回数判定機能で前記しきい回数を超えたと判定された場合に、前記固体高分子形燃料電池に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュ機能とを有していることを特徴とする水素中不純物検査システム。
【請求項7】
請求項1に記載の水素中不純物検査システムを用いた水素中不純物検査方法であって、
前記金属電極層の仕事関数の変化を計測する仕事関数変化計測ステップと、
前記被毒性不純物の濃度を計測する濃度計測ステップと、
前記金属電極層の仕事関数の変化が予め定められたしきい値を超えるかどうか判定するしきい値判定ステップと、
前記しきい値判定ステップで前記しきい値を超えたと判定された場合に、前記ヒータ部により前記センサ部を加熱するリフレッシュステップとを有していることを特徴とする水素中不純物検査方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水素中不純物検査方法において、
前記高濃度水素が、固体高分子形燃料電池に供給される水素であり、
前記水素中不純物検査システムにより前記センサ部の前記リフレッシュを実施したリフレッシュ回数を記録するリフレッシュ回数記録ステップと、
前記リフレッシュ回数が予め定められたしきい回数を超えるかどうか判定するしきい回数判定ステップと、
前記しきい回数判定ステップで前記しきい回数を超えたと判定された場合に、前記固体高分子形燃料電池に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュステップとを有していることを特徴とする水素中不純物検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の水素中に含まれる被毒性不純物の検出を行う水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2008-243430号公報(特許文献1)、特開2003-028832号公報(特許文献2)、特開平11-219717号公報(特許文献3)、特開2018-72146号公報(特許文献4)、Sensors and Actuators B 157 (2011) 329- 352(非特許文献1)がある。
【0003】
水素を燃料として用いる固体高分子形燃料電池(PEFC)は、燃料水素中に含まれる一酸化炭素、硫化水素、炭化水素などの被毒性の不純物によって劣化することが知られている。このため、PEFCの燃料となる水素中に含まれる被毒性不純物の濃度を計測する必要がある。
例えば水素製造プラントでは、製造する水素に含まれる被毒性不純物の濃度を許容値以下に低減するために水素中の不純物濃度を計測する必要がある。
PEFCを用いた燃料電池システムでは、燃料となる水素中の不純物濃度が高い場合には、燃料電池システムを停止する、PEFCをリフレッシュするといった制御が必要であり、これらの制御を適切なタイミングで行うためには水素中不純物濃度の計測が不可欠である。
【0004】
特許文献1には、燃料電池(PEFC)本体よりも被毒性不純物により被毒し易い電極を用いたPEFCをセンサとして用いて燃料電池(PEFC)本体の上流に配置し、被毒性不純物によりPEFCからなるセンサが被毒性不純物で劣化し出力電圧が低下するのを検出することで不純物濃度を計測する技術が開示されている。
特許文献2には、特許文献1と同様にPEFCを用いた水素中不純物の計測技術が開示されている。PEFCの出力電圧を計測する代わりにPEFCに外部から電圧を印加しプロトン伝導による電流を計測している。水素中不純物によりPEFCの水素極が劣化するとプロトン伝導による電流が減少する現象を利用する。
特許文献3にも、PEFCをプローブとして用いた水素中不純物の計測技術が開示されている。不純物によるPEFCプローブの劣化を、PEFCプローブの水素極側に空気を流す、PEFCプローブを短絡させる、などによりリフレッシュする技術が開示されている。
【0005】
不純物の検出とは別に、非特許文献1に記載されているように、水素センサの検出原理にはいくつかの方法がある。これらのうちFET型、キャパシタ型、ダイオード型といったセンサは仕事関数型センサに分類される。
半導体ウエハを用いたプロセスで製造を行えるため、他の型のセンサと比較して低コスト化、小型化、低消費電力化が実現できると期待されている。
特許文献4に開示されているようにゲート電極への水素の解離吸着、脱着現象がゲート電極の仕事関数、つまりセンサのしきい電圧の変化を決定している。その結果、しきい電圧の変化から水素濃度を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-243430号公報
【特許文献2】特開2003-028832号公報
【特許文献3】特開平11-219717号公報
【特許文献4】特開2018-72146号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sensors and Actuators B 157 (2011) 329-352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
特許文献1~3に記載されている方法では、燃料電池(PEFC)本体と本質的に同じ構成のPEFCをセンサに用いているために、水素中不純物被毒によって劣化したセンサのリフレッシュは燃料電池本体のリフレッシュと同じ方法を用いざるを得ない。
例えば、センサを加熱して温度を上げることで吸着した被毒物質を脱着させてリフレッシュすることができるが、センサが耐えられる温度は燃料電池(PEFC)本体と同程度である。このため、センサに用いるPEFCをPEFC本体よりも不純物被毒によって劣化しやすくしてセンサの被毒性不純物への感度を上げようとすると、センサPEFCがPEFC本体よりも先に不可逆に劣化しリフレッシュで元に戻らなくなる。
その結果、PEFC本体センサを保護するために被毒性不純物濃度を計測するというそもそもの目的をセンサが果たせなくなりPEFC本体の劣化を生じさせるのでPEFC本体の寿命が短くなる。これを防ぐためには劣化したセンサを交換する必要があるが、交換作業によるシステムの停止の必要がありセンサ交換によるコストの増加が生じる。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、水素中に含まれる被毒性不純物の濃度を計測する高信頼な水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法を提供し、水素中の被毒性不純物による燃料電池システムの劣化を抑制し燃料電池システムを長寿命化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る水素中不純物検査システムは、高濃度水素中に被毒性不純物が含まれる雰囲気に設置されるセンサ部と、前記センサ部を加熱可能なヒータ部と、前記センサ部に電圧を印加し流れる電流を計測すると共に少なくとも前記センサ部と前記ヒータ部とを制御するシステム制御部とを備え、前記ヒータ部が、半導体基板と、前記半導体基板の表面に形成された第1の導電型の不純物層と、前記半導体基板の表面に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層上に形成され水素および被毒性不純物の吸着サイトを有する金属で形成され前記雰囲気に露出され前記被毒性不純物が吸着可能な金属電極層とを備え、前記システム制御部が、前記被毒性不純物の種類と濃度とに応じた前記金属電極層の仕事関数の変化を計測することで前記被毒性不純物の濃度を検出し、この検出結果に基づいて、前記ヒータ部により前記金属電極層を加熱して前記金属電極層に吸着した前記被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行うことを特徴とする。
【0011】
この水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、被毒性不純物の種類と濃度とに応じた金属電極層の仕事関数(センサ部のしきい電圧)の変化を計測することで被毒性不純物の濃度を検出し、その検出結果に基づいて、半導体,金属及び金属酸化物で構成されたセンサ部の金属電極層をヒータ部により加熱して金属電極層に吸着した被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行うので、被毒性不純物を脱着させる加熱温度に対して高い耐熱性を有し、高い信頼性を保持することができる。
【0012】
なお、金属電極層は水素イオンと被毒不純物との吸着サイトを有し、雰囲気に含まれる水素濃度の増加に従って金属電極層に吸着する水素イオン数が増加することで仕事関数が変化する。
また、雰囲気に含まれる被毒性不純物濃度の増加に従って金属電極層に吸着する被毒性不純物量も増加し、金属電極層に吸着する水素イオン数が減少することで仕事関数の変化量が減少する。
本発明のシステムでは、ヒータ部による昇温で金属電極層に吸着した被毒性不純物量を脱着させ低減でき、金属電極層の仕事関数の変化量はセンサ部に流れる電流から推定することができる。したがって、検出した金属電極層の仕事関数の変化によって、水素中の被毒性不純物の濃度を検出することができる。
なお、上記センサ部としては、半導体,金属及び金属酸化物で構成されたFET型,キャパシタ型,ダイオード型等が採用可能である。
【0013】
第2の発明に係る水素中不純物検査システムは、第1の発明において、前記ヒータ部が、電圧を印加して電流を流すことで発生するジュール熱による昇温を用いて前記センサ部を加熱可能であり、前記システム制御部が、前記被毒性不純物の濃度の検出結果に基づいて、前記ヒータ部に印加する電圧を制御して前記リフレッシュを行うことを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、被毒性不純物の濃度の検出結果に基づいて、ヒータ部に印加する電圧を制御してリフレッシュを行うので、ヒータ部の電圧制御による繰り返しのリフレッシュによって高い検出精度を長期にわたって得ることができる。
【0014】
第3の発明に係る水素中不純物検査システムは、第2の発明において、前記システム制御部が、前記リフレッシュを行う際、前記センサ部の温度を多段階に分けて昇温させ、前記センサ部の温度と前記被毒性不純物による前記仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から前記被毒性不純物の成分を分離する機能を有していることを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、リフレッシュを行う際、センサ部の温度を多段階に分けて昇温させ、センサ部の温度と被毒性不純物による仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から被毒性不純物の成分を分離する機能を有しているので、複数の被毒性不純物が吸着しても分離して脱着させることができ、各被毒性不純物の濃度を個別に検出することができる。
【0015】
第4の発明に係る水素中不純物検査システムは、第2又は第3の発明において、前記雰囲気に酸素を含有する空気を一時的に導入することが可能なガス置換機構を備え、前記システム制御部が、前記ガス置換機構を制御して前記金属電極層に空気を供給する機能を有していることを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、ガス置換機構を制御して金属電極層に空気を供給する機能を有しているので、金属電極層に吸着した被毒性不純物と空気中の酸素とを反応させることで、リフレッシュさせることができる。
【0016】
第5の発明に係る水素中不純物検査システムは、第4の発明において、前記システム制御部が、前記ガス置換機構の制御を行う際に、前記金属電極層に供給する空気中の酸素濃度を多段階に分けて上昇させ、前記酸素濃度と前記被毒性不純物による前記仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から前記被毒性不純物の成分を分離する機能を有していることを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、ガス置換機構の制御を行う際に、金属電極層に供給する空気中の酸素濃度を多段階に分けて上昇させ、酸素濃度と被毒性不純物による仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から被毒性不純物の成分を分離する機能を有しているので、複数の被毒性不純物が吸着しても分離して脱着させることができ、各被毒性不純物の濃度を個別に検出することができる。
【0017】
第6の発明に係る水素中不純物検査システムは、第1又は第2の発明において、前記高濃度水素が、固体高分子形燃料電池に供給される水素であり、前記システム制御部が、前記センサ部の前記リフレッシュを実施したリフレッシュ回数を記録するリフレッシュ回数記録機能と、前記リフレッシュ回数が予め定められたしきい回数を超えるかどうか判定するしきい回数判定機能と、前記しきい回数判定機能で前記しきい回数を超えたと判定された場合に、前記固体高分子形燃料電池に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュ機能とを有していることを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、しきい回数判定機能でしきい回数を超えたと判定された場合に、固体高分子形燃料電池に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュ機能を有しているので、センサ部のリフレッシュ回数に対応して固体高分子形燃料電池のリフレッシュが行われ、固体高分子形燃料電池の寿命を向上させることができる。
【0018】
第7の発明に係る水素中不純物検査方法は、第1の発明の水素中不純物検査システムを用いた水素中不純物検査方法であって、前記金属電極層の仕事関数の変化を計測する仕事関数変化計測ステップと、前記被毒性不純物の濃度を計測する濃度計測ステップと、前記金属電極層の仕事関数の変化が予め定められたしきい値を超えるかどうか判定するしきい値判定ステップと、前記しきい値判定ステップで前記しきい値を超えたと判定された場合に、前記ヒータ部により前記センサ部を加熱するリフレッシュステップとを有していることを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査方法では、金属電極層の仕事関数の変化が予め定められたしきい値を超えるかどうか判定するしきい値判定ステップと、しきい値判定ステップでしきい値を超えたと判定された場合に、ヒータ部によりセンサ部を加熱するリフレッシュステップとを有しているので、上記各ステップを繰り返すことで、センサ部がリフレッシュされて良好な状態を維持することができる。
【0019】
第8の発明に係る水素中不純物検査方法は、第7の発明において、前記高濃度水素が、固体高分子形燃料電池に供給される水素であり、前記水素中不純物検査システムにより前記センサ部の前記リフレッシュを実施したリフレッシュ回数を記録するリフレッシュ回数記録ステップと、前記リフレッシュ回数が予め定められたしきい回数を超えるかどうか判定するしきい回数判定ステップと、前記しきい回数判定ステップで前記しきい回数を超えたと判定された場合に、前記固体高分子形燃料電池に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュステップとを有していることを特徴とする。
すなわち、この水素中不純物検査方法では、しきい回数判定ステップでしきい回数を超えている場合に、固体高分子形燃料電池に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュステップを有しているので、センサ部のリフレッシュ回数に対応して固体高分子形燃料電池のリフレッシュが行われ、固体高分子形燃料電池の寿命を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法によれば、システム制御部が、被毒性不純物の種類と濃度とに応じた金属電極層の仕事関数の変化を計測することで被毒性不純物の濃度を検出し、その検出結果に基づいて、半導体,金属及び金属酸化物で構成されたセンサ部の金属電極層をヒータ部により加熱して金属電極層に吸着した被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行うので、被毒性不純物を脱着させる加熱温度に対して高い耐熱性を有し、高い信頼性を保持することができる。
したがって、本発明の水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法では、小型,低コスト及び高精度で長寿命なシステムを提供することができ、固体高分子形燃料電池と共に用いることで、固体高分子形燃料電池の長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態である水素中不純物検査システムの一例を示したブロック図である。
図2】第1実施形態において、水素中不純物検査システムの構成部品であるセンサFETと参照FETとを示す概略的な断面図である。
図3】第1実施形態において、センサFET、参照FET、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図4】第1実施形態において、センサFETと参照FETのドレイン電流-ゲート電圧特性の一例を示した図である。
図5】第1実施形態において、センサFETのゲート電極への水素分子の解離吸着と金属酸化物層への水素イオンの拡散の様子を示した説明図である。
図6】第1実施形態において、センサFETのゲート電極の吸着サイトの占有率θとしきい値電圧シフトΔVgの関係を説明した図である。
図7】第1実施形態において、センサFETの雰囲気中水素濃度Xとしきい値電圧シフトΔVgとの関係を説明したグラフ図である。
図8】第1実施形態において、センサFETのゲート電極の被毒ガス(一酸化炭素)による吸着サイトの占有を説明した図である。
図9】第1実施形態において、センサFETが高濃度水素雰囲気に晒されているときに、雰囲気に含まれる被毒ガス濃度Yとしきい値電圧シフトΔVgとの関係を説明したグラフ図である。
図10】第1実施形態において、FET形ガスセンサの耐熱温度を従来型のPEFCセンサと比較した図である。
図11】第1実施形態の変形例において、センサFETの一定濃度の水素に対するしきい値電圧シフトΔVgの金属酸化物層材料依存性を示した図(ゲート電極層材料が白金の場合の例)である。
図12】第1実施形態の変形例において、センサFETと参照FETのオフ電流の温度依存性の基板材料依存性を示したグラフ図である。
図13】第1実施形態の変形例において、センサFET、参照FET、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図14】第1実施形態の変形例において、センサFET、参照FET、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図15】第1実施形態の変形例において、センサFETと参照FETとのドレイン電流-ゲート電圧特性の一例を示したグラフ図である。
図16】第1実施形態の変形例において、センサキャパシタと参照キャパシタとを示す概念的な断面図である。
図17】第1実施形態の変形例において、センサキャパシタ、参照キャパシタ、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図18】第1実施形態の変形例において、センサキャパシタ、参照キャパシタ、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図19】第1実施形態の変形例において、センサキャパシタと参照キャパシタの静電容量-ゲート電圧特性の一例を示したグラフ図である。
図20】第1実施形態の変形例において、センサダイオードと参照ダイオードとを示す概念的な断面図である。
図21】第1実施形態の変形例において、センサダイオード、参照ダイオード、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図22】第1実施形態の変形例において、センサダイオード、参照ダイオード、ヒータへの給電方法の一例を示した回路図である。
図23】第1実施形態の変形例において、センサダイオードと参照ダイオードとの静電容量-電圧特性の一例を示したグラフ図である。
図24】本発明の第2実施形態である水素中不純物検査システムの一例を示したブロック図である。
図25】第2実施形態において、センサFETの高濃度水素雰囲気中の被毒ガスによるしきい値電圧シフトΔVgの時間変化とリフレッシュのタイミングとの一例を示したグラフ図である。
図26】第2実施形態において、水素貯蔵タンクを含む水素中不純物検査システムの一例を示した図である。
図27】第2実施形態において、PEFCシステムを含む水素中不純物検査システムの一例を示した図である。
図28】第2実施形態において、水素中不純物検査システムのセンサ素子のリフレッシュ回数の時間変化とPEFCのリフレッシュのタイミングとの一例を示したグラフ図である。
図29】第2実施形態において、水素中不純物検査システムで用いる多段階リフレッシュの一例を説明したグラフ図である。
図30】第2実施形態において、センサFETの多段階リフレッシュによるΔVgの時間変化の一例を示したグラフ図である。
図31】第2実施形態において、水素中不純物検査システムで用いる多段階リフレッシュの一例を説明したグラフ図である。
図32】本発明の第3実施形態である水素中不純物検査方法を示すフローチャートである。
図33】第3実施形態において、多段階リフレッシュを行う水素中不純物検査方法を示すフローチャートである。
図34】第3実施形態の水素中不純物検査方法をPEFCシステムと共に用いる場合のPEFCスタックの寿命と、従来型のPEFCセンサ素子を用いた水素中不純物検査方法をPEFCシステムと共に用いる場合のPEFCスタックの寿命とを比較したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法の第1実施形態を、図1から図23を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している部分がある。
【0023】
<第1実施形態>
第1実施形態の水素中不純物検査システムは、図1及び図2に示すように、高濃度水素中に被毒性不純物が含まれる雰囲気に設置されるセンサ部1001と、センサ部を加熱可能なヒータ部1010と、センサ部1001に電圧を印加し流れる電流を計測すると共に少なくともセンサ部1001とヒータ部1010とを制御するシステム制御部(制御部1003)とを備えている。
上記ヒータ部1010は、半導体基板1と、半導体基板1の表面に形成された第1の導電型の不純物層(ウェル2)と、半導体基板1の表面に形成された金属酸化物層(酸化チタンTi―O層6)と、金属酸化物層上に形成され水素および被毒性不純物の吸着サイトを有する金属で形成され前記雰囲気に露出され被毒性不純物が吸着可能な金属電極層(白金ゲート層7)とを備えている。
【0024】
上記システム制御部1003は、被毒性不純物の種類と濃度とに応じた金属電極層の仕事関数の変化を計測することで被毒性不純物の濃度を検出し、この検出結果に基づいて、ヒータ部により金属電極層を加熱して金属電極層に吸着した被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行う機能を有している。
また、上記ヒータ部1010は、電圧を印加して電流を流すことで発生するジュール熱による昇温を用いてセンサ部1001を加熱可能である。
さらに、上記システム制御部1003は、被毒性不純物の濃度の検出結果に基づいて、ヒータ部に印加する電圧を制御してリフレッシュを行う機能を有している。
【0025】
すなわち、本実施形態の水素中不純物検査システムは、第1の導電型の不純物層(ウェル2)と金属電極層(白金ゲート層7)とヒータ部1010に電圧を印加する上記電源1005~1008と、電圧を印加した各部分に流れる電流を検出する電流検出部1004と、電流検出結果から水素中不純物濃度を推定する被毒ガス濃度推定部1002と、外部とデータの送受信を行うI/O部1000と制御部1003とを含む回路部とを備えている。
上記金属電極層(白金ゲート層7)は、水素イオンと被毒不純物との吸着サイトを有しており、雰囲気に含まれる水素濃度の増加に従って金属電極層に吸着する水素イオン数が増加することで仕事関数が変化する。雰囲気に含まれる被毒性不純物濃度の増加に従って金属電極層に吸着する被毒性不純物量は増加し、金属電極層に吸着する水素イオン数が減少することで仕事関数の変化量が減少する。
また、上記ヒータ部1010で発生するジュール熱による昇温で金属電極層(白金ゲート層7)に吸着した被毒性不純物量は低減でき、仕事関数の変化量は電流検出部で検出する電流から推定できる。したがって、検出した仕事関数の変化によって水素中不純物濃度を検出することができる。
【0026】
上記システム制御部1003を含む回路部は、第1の導電型の不純物層(ウェル2)と金属電極層(白金ゲート層7)の間の電流電圧特性が仕事関数の変化によって変化することを検出し、水素中不純物濃度を検出する機能を有している。
また、上記回路部は、第1の導電型の不純物層(ウェル2)と金属電極層(白金ゲート層7)との間に直流電圧と交流電圧とを重ね合わせた電圧を印加することで第1の導電型の不純物層(ウェル2)と金属電極層(白金ゲート層7)との間の静電容量を測定し、静電容量の直流電圧依存性が仕事関数の変化によって変化することを検出する。
【0027】
上記センサ部1001は、半導体基板1の表面上に、ソース拡散層3となる第2の導電型の第1の不純物層と、ドレイン拡散層4となる第2の導電型の第2の不純物層とを有している。
上記回路部は、第1の導電型の不純物層(ウェル2)と金属電極層(白金ゲート層7)とに加えてソース拡散層3となる第2の導電型の第1の不純物層とドレイン拡散層4となる第2の導電型の第2の不純物層への印加電圧を制御して流れる電流を測定できる。
また、回路部は、第1の導電型の不純物層(ウェル2)に接地電位を印加し、ソース拡散層3となる第2の導電型の第1の不純物層とドレイン拡散層4となる第2の導電型の第2の不純物層の間に所定の電位を印加し流れる電流を測定する。
すなわち、金属電極層(白金ゲート層7)の電位に対する電流の依存性が仕事関数の変化によって変化することを、回路部で検出することで水素中不純物濃度を検出することができる。
【0028】
上記金属電極層の材料は、貴金属を含む。
また、上記金属酸化物層の材料は、チタン、ニッケル、コバルト、タングステン、アルミ、セリウム、ジルコニウム、珪素のうち少なくとも1種類を含む。
【0029】
第1実施形態の水素中不純物検査方法は、上記水素中不純物検査システムを用いた水素中不純物検査方法であって、金属電極層の仕事関数の変化を計測する仕事関数変化計測ステップと、被毒性不純物の濃度を計測する濃度計測ステップと、金属電極層の仕事関数の変化が予め定められたしきい値を超えるかどうか判定するしきい値判定ステップと、しきい値判定ステップでしきい値を超えたと判定された場合に、ヒータ部によりセンサ部を加熱するリフレッシュステップとを有している。
【0030】
<第1実施形態:センサ部の構成>
上記第1実施形態の水素中不純物検査方法システム及び水素中不純物検査方法を、より具体的に以下に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態である水素中不純物検査システムの一例を示している。
図1では、本実施形態の水素中不純物検査システムの構成として、雰囲気中に含まれる水素濃度と被毒性不純物ガス濃度に応じて変化するゲート電極の吸着サイトの水素イオンの占有率に応じてしきい値電圧が変化するセンサFETと雰囲気のガス濃度にしきい値電圧が依存しない参照FETとを含むセンサ部1001、センサ部を加熱できるヒータ部1010、センサ部1001の信号から水素中の被毒性不純物ガス濃度を推定する被毒ガス濃度推定部1002、電流検出部1004、センサFETと参照FETを含むセンサ部1001に電圧を印加する電源1005~1007、ヒータ部1010に電圧を印加する電源1008、電源1005~1008を制御する制御部1003、制御部1003と外部との情報と電力の入出力を行うI/O部1000が示されている。
【0031】
上記ヒータ部1010は、ヒータ線HLを備えたヒータ層であって、このヒータ線HLは、例えばアルミニウム、タングステン、白金などの金属からなる配線で、電源1008からの給電によりHLの両端間に電流を流すことによって生じるジュール熱によってセンサ部1001を昇温することができる。
また、ヒータ線HLの両端間の抵抗を測定することでセンサ部1001の温度を推定することができる。
電流検出部1004は後述するようにセンサFETと参照FETに流れる電流を測定する。
パラメータ記録部1009は、例えばセンサFET、参照FET、ヒータ線HLに印加する電圧条件などを記録することができる。
【0032】
図2は、センサFET(SFET)と参照FET(RFET)との断面を示している。
センサFETは、半導体基板1、ウェル2、ソース拡散層3、ドレイン拡散層4、ゲート絶縁膜5、検知材料となる酸化チタンTi―O層6と白金ゲート層7から形成されていて、ゲート層7は表面が検知対象ガス雰囲気に露出している。
半導体基板1には、例えばシリコンや炭化珪素(SiC)を用いることができる。検知材料として白金-チタン-酸素を用いることで水素濃度の検出ができることは特許文献4に開示されている。
【0033】
参照FETは、半導体基板11、ウェル12、ソース拡散層13、ドレイン拡散層14、ゲート絶縁膜15、検知材料となる酸化チタンTi―O層16と白金ゲート層17から形成されていて、ゲート層17は表面が層間絶縁膜ILDで被覆されていて検知対象ガス雰囲気から隔離されている。
ウェル2、12、ソース拡散層3、13、ドレイン拡散層4、14、ゲート層7、17には、アルミニウム、タングステン、白金などの金属からなる配線層が接続されていて、図1の電源1005~1007から給電できるようになっている。
以下ではセンサFET、参照FETは両方ともN型FETを用いるものとして説明するが、後述する通り両方ともP型FETを用いることもできる。また、一方のFETをP型、他方のFETをN型にすることも可能である。
【0034】
図3には、検知対象ガスである水素濃度検出の際の動作の1例を示す。
ヒータ線HLに電流を流し抵抗RHLで発生するジュール熱により、センサ部1001を所定の温度に昇温する。また、センサFET、参照FETのウェル2、12、ソース拡散層3、13に0V、ドレイン拡散層4、14に電圧VDを印加する。
参照FETのゲートに可変電圧VGRを印加し、センサFETのゲートに可変電圧VGSを印加する。センサFETと参照FETのそれぞれのドレイン端子に流れる電流を電流検出部1008で測定し、両者が一定電流Icに一致するようにVGS、VGRを制御部1003で制御する。
【0035】
このときのVGRとVGSの差を、
VGRS = VGR - VGS (式1)
とする。
検出ガス雰囲気に水素濃度が0のときのVGRS(0)と水素濃度がXのときのVGRS(X)の差を以下のように定義する。
ΔVg(X) = VGRS(0) - VGRS(X) (式2)
【0036】
図4には、センサFETと参照FETとのゲート電圧-ドレイン電流特性を示す。
センサFETは、ガス検知材料層であるゲート層7が露出しているので、検知対象ガス(被毒性不純物)によってゲート層7の仕事関数が変化し検知対象ガス濃度が0の場合とXの場合とでゲート電圧-ドレイン電流特性が電圧方向に平行移動する。その結果、閾値電流Icが流れるときのゲート電圧は、VGS(0)からVGS(X)に変化する。
一方、参照FETは、ゲート層17が層間絶縁膜ILDで被覆されているためガス濃度が変化してもゲート電圧-ドレイン電流特性は変化せず、ゲートに電圧VGRを印加することで流れる電流はIcのまま一定である。その結果、式2のΔVg(X)が水素濃度Xに対するセンサFETの閾値の変化量に対応する。
【0037】
式1のように、センサFETと参照FETとのゲート電圧の差であるVGRSを用いると、前述のドレイン端子に流れる電流を適切な値に設定することで、温度変動などに起因するVGRとVGSとの変動によるノイズの影響を抑制することができる。
こうしたノイズの影響が充分に抑制できる場合は、参照FETを用いずに検出ガス雰囲気に水素濃度が0のときのVGS(0)と水素濃度がXのときのVGS(X)の差を以下の式3のように水素濃度Xに応じた閾値変化量ΔVg(X)として用いることができる。
ΔVg(X) = VGS(0) - VGS(X) (式3)
図3、4では電流の計測をドレイン端子で行ったが、後述するようにソース端子側で電流の計測を行うことで、ΔVgを計測することももちろん可能である。
【0038】
図5は、センサFETのゲート電極が水素を含む雰囲気に晒されているときに生じる反応を示している。
雰囲気中の水素分子が白金ゲート層7の表面に到達すると、一定の確率で吸着サイトに解離吸着して水素イオンとなって白金表面の吸着サイトを占有する。水素イオンの一部はTi-O層6に拡散する。
また、解離吸着した水素イオンは一定の確率で脱着し水素分子として雰囲気中に放出される。Ti―O層に拡散していた水素イオンの一部は、一定の確率で白金表面の吸着サイトに再度占有される。
こうした反応が繰り返し生じて、雰囲気中の水素濃度に応じて白金表面の吸着サイトが水素イオンが占有された平衡状態が達成される。
【0039】
平衡状態においては、図6に示すように、雰囲気中の水素濃度と吸着サイトの占有率θ(X)、しきい値電圧シフトΔVg(X)の関係は以下のようになる。
θ(X)= X0.5/(X0.5 + X 0.5) (式4)
ΔVg(X)=ΔVgmax × θ(X) (式5)
【0040】
式4と式5とによる水素濃度Xとしきい値電圧シフトΔVg(X)との関係を図示すると、図7のようになる。これは水素濃度Xの雰囲気にFET型ガスセンサを充分長い時間保持して平衡状態になったときのΔVgと水素濃度Xとの関係である。
濃度X0は白金ゲート層7の吸着サイトが半分占有されるときの水素濃度であり、金属酸化物層6の種類や白金ゲート層7の構造、ヒータ加熱によって制御するセンサ部1001の温度などによって変えることができる。
例えばXの値が10ppmだとする、と図7のX/X=105はX=1、つまり濃度100%に対応する。
【0041】
図6,7は、雰囲気中に被毒性の不純物が存在しない場合の図である。
雰囲気中に水素に加えて被毒性の不純物、例えば一酸化炭素COが含まれる場合は、図8のように、白金ゲート層7の表面の吸着サイトは、一部がCOによって占有され水素が解離吸着できなくなる。その結果、被毒性不純物が存在しない場合には、白金ゲート層7の吸着サイトのほとんどが水素イオンで占有されるような高濃度水素中であっても、被毒性不純物COが存在すると、その濃度に応じて水素イオンに占有される吸着サイトの割合は減少する。
【0042】
その結果、雰囲気中に被毒性不純物COが存在する場合には、平衡状態ではしきい値電圧シフトΔVgは、図9に示すように、CO濃度に応じて低下する。
COの濃度が変化した場合には、図9に示す平衡状態でのしきい値電圧シフト量にΔVgは一定の時間をかけて近づいていく。
図8、9は、被毒性不純物が一酸化炭素COの場合で説明したが、他の被毒性不純物、たとえば炭化水素CHや硫化水素HSの場合も同様である。
ΔVgが急激に低下する不純物濃度は、金属酸化物層6の材料や、白金ゲート層7の構造、センサ部1001の温度によって制御できる。
図9の例では、1ppm辺りの濃度領域でΔVgの変化が大きく高感度である。
【0043】
例えば、Xの値が10ppmとなるように、金属酸化物層6の材料や、白金ゲート層7の構造、センサ部1001の温度を制御する。
図7のX/X=105は、X=1、つまり濃度100%に対応する。この場合、水素濃度が高濃度の場合、例えばほぼ100%の場合は被毒性不純物が存在しない場合のΔVgは濃度によって変化が少ない。
例えば、水素濃度100%の雰囲気と、水素濃度99.99%で残り0.01%がセンサFETが反応しない不活性ガス(例えば窒素やアルゴン)という雰囲気では、ΔVgはほとんど変わらない。
それに対して、99.99%の水素に加えて0.01%の被毒性不純物が存在する場合には、しきい値電圧シフトΔVgは大きく低下する(図9)。
このような環境では水素に含まれるごく微量の被毒性不純物の濃度を、ΔVgを測定することで検出することができる。
ΔVg(X, Y) = VGRS(0, 0) - VGRS(X,Y) (式6)
【0044】
センサが平衡状態にある状況では、ΔVgの値そのものを検出することで、被毒性不純物の濃度を推定できる。
センサが平衡状態ではない場合、つまり非平衡状態の場合には、ΔVgの値とΔVgの時間変化を検出することで、被毒性不純物濃度を推定できる。
実用上はセンサが平衡状態に到達するのを待つことなく被毒性不純物濃度を知りたい場合がほとんどなので、ΔVgの値に加えてΔVgの時間変化を検出することが重要である。
【0045】
被毒性不純物による平衡状態におけるΔVgの値、非平衡状態におけるΔVgの時間変化の割合は、センサ部1001の温度をヒータによる加熱を用いて制御できる。
また、ヒータ加熱によって、被毒性不純物を脱着させてセンサを被毒状態からリフレッシュすることができる。
ΔVgは、平衡状態においては被毒性不純物濃度に応じた値に到達し被毒性不純物濃度を検出できるので、リフレッシュ動作は不要なように思えるが、一部の被毒性不純物、例えば硫化水素HSなどは被毒が一定程度以上に進行すると不可逆な被毒、永久被毒が生じてしまい、雰囲気中の被毒性不純物濃度に応じたしきい電圧シフトΔVgが検出できなくなる。
したがって、センサFETのリフレッシュ動作は重要であり、ヒータ加熱処理はリフレッシュ動作を行うための簡便な方法である。
永久被毒が生じるのは後述の第1実施形態の変形例でも同様であり、したがってこれらの変形例でもリフレッシュ動作は同様に重要である。
【0046】
<第1実施形態:効果>
図10は、本発明の第1実施形態である水素中不純物検査システムの構成部品であるFET形ガスセンサの耐熱温度を、従来型のPEFCセンサと比較した図である。
センサFETにリフレッシュ処理を行うためにヒータ部で加熱する際に、温度は被毒性不純物が脱着する温度でなければならない。
シリコン基板と金属と金属酸化物とで構成されるFET形ガスセンサは耐熱性に優れていて、ほとんどの被毒性不純物を脱着させる温度に対して耐熱性がある。その一方、PEFCをセンサに用いる特許文献1~3の従来技術では、一部の被毒性不純物を加熱によって脱着させることはできるが、PEFCの耐熱性が不十分なためいくつかの被毒性不純物を脱着させるまで昇温できない。
【0047】
センサFETと参照FETとを用いる場合は、電流は半導体基板表面に流れるだけで、ガス検知材料となる金属酸化物層6、16、ゲート層7、17には流れない。このため、ガス検知材料が電流によって劣化する恐れはない。
一方、PEFCセンサ素子を用いた従来技術のうち、電流によって不純物を検出する場合は、アノード、カソード、電解質層といったガス検知材料そのものに電流が流れるので、ガス検知材料が電流によって劣化する恐れがある。
【0048】
<第1実施形態:変形例>
図2~10では、センサFETと参照FETの金属酸化物層6、16にチタンの酸化物Ti-Oを用いて、ゲート層7,17には白金を用いたが他の材料を用いることもできる。
例えば図11は、金属酸化物層6、16に酸化チタンを用いた場合と他の金属酸化物を用いた場合との水素に対するしきい値電圧シフトΔVgを比較した図である。
酸化チタン以外の金属酸化物であっても、しきい値電圧シフトΔVgが確認できる。
被毒性不純物によってΔVgが減少するふるまいも、同様に確認することができる。金属酸化物によって耐熱性や、高感度にΔVgが変化する不純物濃度領域が異なるので、用途に応じて適切な金属酸化物を選択することができる。
ゲート層7,17についても、白金以外の貴金属を用いて被毒性不純物濃度を検出することができる。例えば、パラジウム、ロジウム、イリジウムなどを用いることができる。
【0049】
センサデバイスは、ヒータ層で加熱することによって簡便に雰囲気温度以上に昇温することはできるが、冷却の機能を追加するのは困難である。したがって、センサデバイスは、雰囲気温度以上の温度で動作できる必要がある。
雰囲気が室温から250℃程度までの温度域では、半導体基板1にシリコン基板を用いることができるが、それ以上の温度ではセンサFETと参照FETとのオフ電流が判定電流Ic程度以上に増加するため動作できなくなる。
【0050】
図12に示すように、シリコン基板の代わりに炭化ケイ素(SiC)基板を用いることで、高温でのオフ電流を低減することができ、動作可能な温度を500℃程度以上に高めることができる。つまり、SiC基板はシリコン基板と比較すると高コストであるが、シリコン基板を用いたFET型センサでは測定できない高温まで水素中不純物濃度を計測することができる。
【0051】
ΔVgを検出するために図3では、センサFETと参照FETとの電流がそれぞれ一定になるようにゲート電圧を制御したが、図13に示すように、ソース電圧を制御することで電流を一定に制御することもできる。
基板バイアスを印加したときのしきい電圧は
th(VBS)=VFB+2φF+[2εqNA(2φF+|VBS|)]0.5/Cox (式7)
なので、ウェル電圧0 Vのときに電流を一定にするために0Vであったソース電圧をVに変えたとするとしきい値電圧シフトΔVgは、
ΔVg=[2εqNA(2φF+|VS|)]0.5/Cox-[2εqNA(2φF)]0.5/Cox (式8)
と算出できる。
FBはフラットバンド電圧、2φFは反転状態が実現したときの表面ポテンシャル、εは半導体基板1の誘電率、qは素電荷、NAはチャネル不純物濃度、Coxはゲート酸化膜容量である。
【0052】
ΔVgを検出するために、図3、13ではセンサFETと参照FETの電流がそれぞれ一定になるような制御を行ったが、図14に示すように、印加電圧は一定で電流の変化を検出することもできる。
図4に示したように、ガス濃度に応じてセンサFETの電流―電圧特性の波形が変化しないのであれば、電流値の増加を検出することでしきい値電圧のシフトを掲出することができる。
電流値がゲート電圧によってあまり変化しない程度まで電流が増加すると、しきい値電圧シフトΔVgの検出は正確ではなくなるが、電圧の制御が不要になるので制御が容易になる場合がある。
【0053】
図2からセンサFETと参照FETとはN型FETとして説明してきたが、P型FETを用いることもできる。図15のようにN型FETの場合と同じように、水素濃度に応じて振電圧側にしきい値電圧がシフトする。被毒性不純物濃度に応じてしきい値電圧シフトが減少するのも同じである。金属酸化物層6、16やゲート電極層7,17はN型FETの場合と同じ材料を用いることができるし、半導体基板1にシリコン基板を用いることもSiC基板を用いることもできる。
N型FETの場合と同じように、図3図13、14の制御でしきい値電圧シフトΔVgを検出することができる。N型FETの場合とP型FETとの場合では、FETをオン状態にして電流Icを流すときにゲートに印加される電圧が異なる。金属酸化物層6,16やゲート電極層7,17に用いる材料や動作温度によって、センサFETや参照FETの信頼性にとってN型FETとP型FETとのどちらが有利かが変わる。用途に応じて高い信頼性が確保できる方を選択することができる。
【0054】
図1から図15ではセンサ部1001にセンサFETと参照FETとを用いたが、これらの代わりに図16のようにセンサキャパシタと参照キャパシタを用いることもできる。
図16は、センサキャパシタ(SCAP)と参照キャパシタ(RCAP)との断面を示している。
センサキャパシタは、半導体基板1、ウェル2、ゲート絶縁膜5、検知材料となる金属酸化物層106と貴金属を含むゲート層107とから形成されていて、ゲート層107は表面が検知対象ガス雰囲気に露出している。
半導体基板1には、例えばシリコンや炭化珪素(SiC)を用いることができる。
参照キャパシタは、半導体基板11、ウェル12、ゲート絶縁膜15、検知材料となる金属酸化物層116と貴金属を含むゲート層117とから形成されていて、ゲート層117は、表面が層間絶縁膜ILDで被覆されていて検知対象ガス雰囲気から隔離されている。
ウェル2、12、ゲート層107、117には、アルミニウム、タングステン、白金などの金属からなる配線層が接続されていて、図1の電源1005~1007から給電できるようになっている。
以下ではセンサキャパシタ、参照キャパシタは両方ともN型ウェル2,12を用いるものとして説明するが、P型ウェルを用いることもできる。また、一方のウェルをP型、他方のウェルをN型にすることも可能である。
センサキャパシタと参照キャパシタとを用いる方式では、センサFETと参照FETとを用いる場合と比較してソースドレイン拡散層が不要なため、センサ部1001の構造が簡易になる。一方、後述するようにセンサFETと参照FETとを用いる場合には不要だった交流電圧を用いて静電容量を測定する必要が生じる。
【0055】
図17にセンサキャパシタと参照キャパシタとの動作の1例を示す。
ヒータ線HLに電流を流し抵抗RHLで発生するジュール熱により、センサキャパシタと参照キャパシタとを所定の温度に昇温する。
センサキャパシタ、参照キャパシタのウェル2、12に0Vを印加する。
参照キャパシタのゲートに可変電圧VGRを印加し、センサキャパシタのゲートに可変電圧VGSを印加する。直流電圧VGR、VGSに加えて、ウェル2、12の端子に振幅Vsigの交流電圧を印加する。
センサキャパシタと参照キャパシタとのそれぞれのゲート端子に流れる交流電流を電流検出部1004で測定することで、センサキャパシタの静電容量C(SCAP)、参照キャパシタの静電容量C(RCAP)を検出することができる。両者が一定の静電容量C0に一致するように、VGS、VGRを制御部1003で制御する。
このときのVGRとVGSの差VGRSは、式1と同じである。
水素と被毒性不純物とが雰囲気中に含まれない場合のVGRSから雰囲気中に水素が濃度X、被毒性不純物が濃度Yで含まれる場合のVGRSを引いた値が、しきい電圧シフトである。雰囲気中の水素濃度がほぼ100%でわずかに被毒性不純物が含まれている雰囲気の場合は、ΔVgを検出することで被毒性不純物濃度を推定することができる。
【0056】
図17では、センサキャパシタと参照キャパシタとの静電容量がそれぞれ一定値C0になるようにゲート電圧を制御したが、図18のようにゲート電圧VGR、VGSは一定値に保って、静電容量の変化を測定することで、ΔVgを検出することもできる。
雰囲気中のガス濃度の変化によってセンサキャパシタと参照キャパシタの静電容量-電圧特性の波形が変わらない場合には、ガス濃度に応じたセンサキャパシタの静電容量の変化からしきい値電圧シフトを推定することができる(図19)。
【0057】
図19にセンサキャパシタと参照キャパシタの静電容量―ゲート電圧特性を示す。
センサキャパシタはゲート層106が露出しているので、被毒性不純物濃度Yによってしきい値電圧が変化する。その結果、静電容量値がC0となるゲート電圧は、VGS(100%,0)からVGS(100%-Y,Y)に変化する。
一方、参照キャパシタはゲート層116が層間絶縁膜ILDで被覆されているため、被毒性不純物濃度が変化しても静電容量―ゲート電圧特性は変化せず、ゲートに電圧VGRを印加したときの静電容量値はC0のまま一定である。
その結果、式6のΔVg(X,Y)が、被毒性不純物濃度Yに対するセンサキャパシタのしきい値電圧シフトに対応する。センサキャパシタと参照キャパシタとを用いる場合もセンサFETと参照FETとを用いる場合と同様に、ΔVgとその時間変化から水素中の被毒性不純物の濃度を推定することができる。
【0058】
ヒータ加熱によるリフレッシュも同様にできる。
用いている材料が半導体基板及び金属酸化物なので、図10と同じように従来型のPEFCを用いたセンサと比較して耐熱性で優れていて、リフレッシュ動作を行う場合に優位である。
金属酸化物層106、116には、図11に示すような酸化チタンに加えて複数の材料を選択することができる。ゲート電極層107、117についても白金の他、パラジウム、ロジウム、イリジウムなどの貴金属を用いることができる。
半導体基板1にはシリコン基板に加えてSiC基板を用いることができる。SiC基板を用いることによりシリコン基板を用いる場合と比較して高コストだが、より高温での被毒性不純物濃度の検出が可能となる。
【0059】
センサキャパシタと参照キャパシタとを用いる場合は電流は半導体基板表面に流れるだけで、ガス検知材料となる金属酸化物層106、116、ゲート層107、117には流れない。このため、ガス検知材料が電流によって劣化する恐れはない。一方、PEFCセンサ素子を用いた従来技術のうち、電流によって不純物を検出する場合は、アノード、カソード、電解質層といったガス検知材料そのものに電流が流れるので、ガス検知材料が電流によって劣化する恐れがある。
【0060】
図1~15ではセンサ部1001にセンサFETと参照FETを、図16~19ではセンサキャパシタと参照キャパシタとを用いたが、これらの代わりに図20のようにセンサダイオードと参照ダイオードを用いることもできる。
図20は、センサダイオード(SDIODE)と参照ダイオード(RDIODE)との断面を示している。
センサダイオードは、半導体基板1、ウェル2、検知材料となる金属酸化物層106と貴金属を含むゲート層107から形成されていて、ゲート層107は表面が検知対象ガス雰囲気に露出している。
半導体基板1には、例えばシリコンや炭化珪素(SiC)を用いることができる。参照ダイオードは、半導体基板11、ウェル12、検知材料となる金属酸化物層116と貴金属を含むゲート層117とから形成されていて、ゲート層117は表面が層間絶縁膜ILDで被覆されていて検知対象ガス雰囲気から隔離されている。
ウェル2、12、ゲート層107、117には、アルミニウム、タングステン、白金などの金属からなる配線層が接続されていて、図1の電源1005~1007から給電できるようになっている。以下ではセンサダイオード、参照ダイオードは両方ともN型ウェル2,12を用いるものとして説明するが、P型ウェルを用いることもできる。
また、一方のウェルをP型、他方のウェルをN型にすることも可能である。センサダイオードと参照ダイオードとを用いる構成では、センサFETと参照FETとを用いる場合と比較して構造が簡易である。
また、センサキャパシタと参照キャパシタとを用いる場合には、必要だった交流電圧も不要である。一方、センサFETと参照FETとを用いる場合やセンサキャパシタと参照キャパシタとを用いる場合には、ガス検知材料となる金属酸化物層6、16、106、116やゲート層7,17、107、117には直流電流が流れなかったが、センサダイオードと参照ダイオードとを用いる方式では、金属酸化物層106、116やゲート層107、117に直流電流が流れる。このため信頼性の観点で注意が必要となる。
【0061】
図21にセンサダイオードと参照ダイオードの動作の1例を示す。
ヒータ線HLに電流を流し抵抗RHLで発生するジュール熱により、センサダイオードと参照ダイオードを所定の温度に昇温する。センサダイオード、参照ダイオードのウェル2、12に0Vを印加する。参照ダイオードのゲートに可変電圧VGRを印加し、センサダイオードのゲートに可変電圧VGSを印加する。センサダイオードと参照ダイオードとのそれぞれのゲート端子に流れる電流を電流検出部1004で測定する。両者の電流が一定のICに一致するようにVGS、VGRを制御部1003で制御する。
このときのVGRとVGSとの差VGRSは、式1と同じである。
水素と被毒性不純物とが雰囲気中に含まれない場合のVGRSから雰囲気中に水素が濃度X、被毒性不純物が濃度Yで含まれる場合のVGRSを引いた値が、しきい電圧シフトである。雰囲気中の水素濃度がほぼ100%でわずかに被毒性不純物が含まれている雰囲気の場合は、ΔVgを検出することで被毒性不純物濃度を推定することができる。
【0062】
図22ではセンサダイオードと参照ダイオードの電流がそれぞれ一定値ICになるようにゲート電圧を制御したが、図23のように、ゲート電圧VGR、VGSは一定値に保って、電流変化を測定することでΔVgを検出することもできる。
雰囲気中のガス濃度の変化によってセンサダイオードと参照ダイオードとの電流-電圧特性の波形が変わらない場合には、ガス濃度に応じたセンサダイオードの電流の変化からしきい値電圧シフトを推定することができる。
しかし、ダイオード特性の場合、電圧が0の時には電流が0となるため、波形全体がガス濃度で変化しないようにはできない。FETやキャパシタを用いる場合とは異なる点である。波形変化が無視できる場合に限り、図22の方法を用いることができる。
【0063】
図23にセンサダイオードと参照ダイオードの電流-電圧特性を示す。
センサダイオードはゲート層106が露出しているので、被毒性不純物濃度Yによってしきい値電圧が変化する。その結果、電流値がICとなるゲート電圧はVGS(100%,0)からVGS(100%-Y,Y)に変化する。
一方、参照ダイオードはゲート層116が層間絶縁膜ILDで被覆されているため、被毒性不純物濃度が変化しても電流-電圧特性は変化せず、ゲートに電圧VGRを印加したときの電流値はICのまま一定である。その結果、式6のΔVg(X,Y)が被毒性不純物濃度Yに対するセンサダイオードのしきい値電圧シフトに対応する。センサダイオードと参照ダイオードとを用いる場合も、ΔVgとその時間変化から水素中の被毒性不純物の濃度を推定することができる。
【0064】
ヒータ加熱によるリフレッシュも同様にできる。
用いている材料が半導体基板と金属酸化物なので、図10と同じように従来型のPEFCを用いたセンサと比較して耐熱性で優れていて、リフレッシュ動作を行う場合に優位である。
金属酸化物層106、116には、図11に示すような、酸化チタンに加えて複数の材料を選択することができる。ゲート電極層107、117についても白金の他、パラジウム、ロジウム、イリジウムなどの貴金属を用いることができる。半導体基板1にはシリコン基板に加えてSiC基板を用いることができる。SiC基板を用いることによりシリコン基板を用いる場合と比較して高コストだが、より高温での被毒性不純物濃度の検出が可能となる。
【0065】
このように本実施形態の水素中不純物検査システムでは、システム制御部1003が、被毒性不純物の種類と濃度とに応じた金属電極層の仕事関数(センサ部1001のしきい電圧)の変化を計測することで被毒性不純物の濃度を検出し、その検出結果に基づいて、半導体,金属及び金属酸化物で構成されたセンサ部1001のゲート層(金属電極層)をヒータ部1010により加熱してゲート層(金属電極層)に吸着した被毒性不純物を脱着させるリフレッシュを行うので、被毒性不純物を脱着させる加熱温度に対して高い耐熱性を有し、高い信頼性を保持することができる。
また、システム制御部1003が、被毒性不純物の濃度の検出結果に基づいて、ヒータ部1010(ヒータ層)に印加する電圧を制御してリフレッシュを行うので、ヒータ部1010の電圧制御による繰り返しのリフレッシュによって高い検出精度を長期にわたって得ることができる。
また、本実施形態の水素中不純物検査方法では、ゲート層(金属電極層)の仕事関数の変化が予め定められたしきい値を超えるかどうか判定するしきい値判定ステップと、しきい値判定ステップでしきい値を超えたと判定された場合に、ヒータ部によりセンサ部を加熱するリフレッシュステップとを有しているので、上記各ステップを繰り返すことで、センサ部1001がリフレッシュされて良好な状態を維持することができる。
【0066】
次に、本発明に係る水素中不純物検査システム及び水素中不純物検査方法の第2及び第3実施形態について、図24から図34を参照して以下に説明する。
<第2実施形態>
図24に第2実施形態である水素中不純物検査システムの一例を示している。
図1に示した第1実施形態の構成要素と同様のセンサ部2001、ヒータ部2010がシステム制御部2003に接続されている。図では省いているが、システム制御部2003には、被毒ガス濃度推定部2002、電流検出部2004、電源2005、パラメータ記録部2009、I/O部など、図1の回路部を構成する要素が含まれている。システム制御部2003は、センサ部2001とヒータ部2010とを用いて計測した水素中不純物濃度の情報を用いて、センサ部2001とヒータ部2010自体や、水素タンク2020、PEFCスタック2030、バルブ2040などを制御する。システム制御部2003には、これらの装置を動作させるための回路部が含まれている。また、システム制御部2003のパラメータ記録部2009には、これらの装置を制御するための条件が記録されている。
【0067】
以下の例ではFET型センサをセンサ部2001に用いる例について記載するが、キャパシタ型センサ、ダイオード型センサも同様に用いることができる。
非特許文献1に記載されているように、FET型センサ、キャパシタ型センサ、ダイオード型センサは仕事関数の変化によって雰囲気中のガス濃度を検出するので、仕事関数型ガスセンサと名付けられている。
【0068】
図25は、システム制御部2003によってFET型センサを制御するシステムの説明図である。
ほぼ100%の高濃度の水素中の被毒性不純物を計測するFET型センサは、不純物濃度が0の場合には水素濃度100%に相当するΔVgを示し続ける。途中で何らかの原因で水素中に被毒性不純物が混入すると、センサFETのゲート層の吸着サイトが被毒性不純物によって占有されるためΔVgは減少する。水素中の被毒性不純物の濃度によってΔVgの減少速度は異なり、被毒性不純物が高濃度であるほどΔVgは急激に減少する。ΔVgの値とその時間微分の値とから時々刻々の被毒性不純物濃度を推定することができる。
【0069】
被毒性不純物に硫化水素のような永久被毒を引き起こす不純物が含まれる場合、高濃度での被毒が継続すると、センサFETが永久被毒し使用できなくなってしまう。そこで、永久被毒を防ぐために、適切なタイミングでリフレッシュ動作を行う必要がある。
システム制御部2003のパラメータ記録部2009には、例えばセンサFETのリフレッシュを行うタイミングを決定するために、しきい電圧シフトΔVgの判定値を記録する。判定値を超えてΔVgが減少した場合、システム制御部2003は、ヒータ部2010に電力を供給しジュール熱によってセンサ部2001を加熱してリフレッシュ動作を行う。リフレッシュ動作でΔVgは回復するため、被毒性不純物が雰囲気水素中に含まれる場合は再びΔVgが低下していくので、判定値を超えてΔVgが低下する場合は繰り返しリフレッシュ動作を行うことになる。
【0070】
上述の例では、リフレッシュを行うタイミングは、計測したΔVgとシステム制御部2003のパラメータ記録部2009に記録した判定値とを比較して決定したが、例えばΔVgとその時間微分から時々刻々の被毒性不純物濃度を推定し、その不純物濃度をシステム制御部2003のパラメータ記録部2009に記録した不純物濃度判定値を比較して決定することもできる。
第1実施形態でも説明した通り、センサFETは半導体基板と金属酸化物とで形成されているので耐熱性に優れ、高温でのリフレッシュが可能なため、特許文献1~3のPEFCセンサを同様に用いる場合と比較してセンサ寿命が長い。
【0071】
図26は、センサ部2001とヒータ部2010とを用いて計測した水素中不純物濃度の情報を用いて、システム制御部2003によって水素製造装置から水素貯蔵タンクへの水素供給と、水素貯蔵タンクからPEFCなどの外部装置への水素供給とを制御するシステムの説明図である。図26では水素貯蔵タンクから外部へ水素を供給する流路と、外部から水素貯蔵タンクに水素を供給する流路とが別々に形成されていて、それぞれの流路にセンサ部2001とヒータ部2010とが設置されている。
【0072】
水素がほぼ100%の高濃度の場合、センサ部2001は、不純物濃度が0の場合には水素濃度100%に相当するΔVgを示し続ける。この場合は、システム制御部2003は水素貯蔵タンクの水素貯蔵量など、水素中不純物濃度以外の情報に基づいてバルブの開閉を制御し、水素貯蔵タンクへの水素貯蔵と、水素貯蔵タンクから外部への水素供給とを制御することができる。
【0073】
途中で何らかの原因で水素中に被毒性不純物が混入すると、センサFETのゲート層の吸着サイトが被毒性不純物によって占有されるためΔVgは減少する(図25)。水素中の被毒性不純物の濃度によってΔVgの減少速度は異なり、被毒性不純物が高濃度であるほどΔVgは急激に減少する。ΔVgの値とその時間微分の値とから時々刻々の被毒性不純物濃度を推定することができる。
【0074】
例えば、水素貯蔵タンクから外部へ水素を供給する流路に設置したセンサ部2001で推定した不純物濃度が、システム制御部2003のパラメータ記録部2009に記録されている判定値よりも高濃度だった場合は、水素貯蔵タンクから外部へ水素を供給する流路のバルブを閉じるといった制御を行い、不純物濃度が高い低品質の水素が外部の装置に供給されるのを防ぐことができる。
反対に、外部から水素貯蔵タンクに水素を供給する流路に設置したセンサ部2001で推定した不純物濃度が、システム制御部2003のパラメータ記録部2009に記録されている判定値よりも高濃度だった場合は、外部から水素貯蔵タンクに水素を供給する流路のバルブを閉じるといった制御を行い、不純物濃度が高い低品質の水素が水素貯蔵タンク内の水素を汚染するのを防ぐことができる。
【0075】
図26のように、水素貯蔵タンクから外部へ水素を供給する流路、外部から水素貯蔵タンクに水素を供給する流路の途中に、ガス置換機構としてバルブを介して大気と接続しておくと、水素貯蔵タンク、PEFCなどの外部装置、水素製造装置に接続される流路は、大気と遮断したままセンサFETが設置されている箇所に空気中の酸素を拡散させることができる。システム制御部2003でバルブを制御することで、センサFETに空気(酸素)を拡散させてゲート層(金属電極層)の吸着サイトに吸着した被毒性不純物と酸素とを反応させ、センサFETのリフレッシュを行うことができる。
【0076】
なお、酸素を用いてセンサFETをリフレッシュする場合でも、ヒータ層に電力を供給しジュール熱によってセンサFETを加熱すると、リフレッシュ動作を速やかに行うことができる。したがって、酸素供給と加熱との組み合わせによってセンサFETをリフレッシュする方法は有効である。
第1実施形態や図26でも説明した通り、センサFETは半導体基板と金属酸化物とで形成されているので、耐熱性に優れ、高温でのリフレッシュが可能なため、特許文献1~3のPEFCセンサを同様に用いる場合と比較してセンサ寿命が長い。
【0077】
図27は、センサ部2001とヒータ部2010とを用いて計測した水素中不純物濃度の情報を用いて、システム制御部2003によってPEFCスタックによる発電を制御するシステムの説明図である。
図27では、PEFCスタックに水素を供給する流路にセンサ部2001とヒータ部2010とが設置されている。PEFCスタックはこの流路によって供給される水素と、別の流路で供給される空気とによって発電する。発電した電力は、インバータを介して外部に給電される。PEFCスタックには、水素、空気それぞれについて供給用の流路と排気用の流路とが形成されている。
【0078】
水素がほぼ100%の高濃度の場合、センサ部2001は、不純物濃度が0の場合には水素濃度100%に相当するΔVgを示し続ける。この場合は、システム制御部2003は外部からの電力需要など、水素中不純物濃度以外の情報に基づいてバルブを制御し、水素供給量を制御してPEFCスタックでの発電を制御することができる。
【0079】
途中で何らかの原因で水素中に被毒性不純物が混入すると、センサFETのゲート層の吸着サイトが被毒性不純物によって占有されるためΔVgは減少する(図25)。水素中の被毒性不純物の濃度によってΔVgの減少速度は異なり、被毒性不純物が高濃度であるほどΔVgは急激に減少する。ΔVgの値とその時間微分の値とから、時々刻々の被毒性不純物濃度を推定することができる。
例えば、流路に設置したセンサ部2001で推定した不純物濃度が、システム制御部2003のパラメータ記録部2009に記録されている判定値よりも高濃度だった場合は、バルブを閉じるといった制御を行い、発電を停止しPEFCスタックが劣化するのを防ぐことができる。
【0080】
不純物濃度が即座にPEFCスタックを劣化させるほど高濃度ではない場合は、PEFCスタックの稼働を続け、PEFCスタックが許容値を超えて劣化した場合にPEFCスタックをリフレッシュするといった制御も可能である。この場合は、流路に設置したセンサ部2001で被毒性不純物によるPEFCスタックへの累積のダメージを推定する必要がある。
センサFETは、金属酸化物材料、ゲート層材料、動作温度などを選び、PEFCスタックよりも被毒性不純物に敏感な条件で用いるので、PEFCよりも先に感度が劣化する。そこで、センサFETを図25の方法でリフレッシュする動作を繰り返し、図28のようにリフレッシュ動作の回数がシステム制御部2003のパラメータ記録部2009に記録された設定値を超えたタイミングで、PEFCスタックのリフレッシュのタイミングを決定することができる。図28に示したように被毒性不純物が高濃度の場合はリフレッシュ回数が急速に増加するため、PEFCスタックのリフレッシュを行うタイミングが早くなる。
【0081】
PEFCスタックのリフレッシュの際には、例えば、PEFCスタックの燃料電池膜を介してカソード側からアノード側に空気(酸素)を拡散させ、酸素と被毒性不純物とを反応させることでPEFCスタックを被毒から回復させることができる。この場合は、水素供給用の流路と水素廃棄側の流路とのバルブを閉じて、カソード側の酸素がアノード側に拡散するのを待つといった動作をシステム制御部2003が行う。
システム制御部2003がこのような動作を行う場合は、センサFETが設置されている箇所にも空気中の酸素が拡散し、センサFETのゲート層の吸着サイトに吸着した被毒性不純物と酸素とを反応させることでセンサFETのリフレッシュを行うことができる。
なお、酸素を用いてセンサFETをリフレッシュする場合でも、ヒータ層に電力を供給しジュール熱によってセンサFETを加熱すると、リフレッシュ動作を速やかに行うことができる。したがって、酸素供給と加熱との組み合わせによってセンサFETをリフレッシュする方法は有効である。
【0082】
<多段階リフレッシュ>
図29は、第2実施形態の水素中不純物検査システムで用いる多段階リフレッシュを説明した図である。
図25に示したように、リフレッシュの際にセンサFETのゲート層の吸着サイトに吸着した被毒性不純物をまとめて脱着させてリフレッシュすることもできるが、図29の第1段階リフレッシュ温度、第2段階リフレッシュ温度、第3段階リフレッシュ温度を利用して複数回に分けてリフレッシュを行うこともできる。それぞれのリフレッシュ温度でのリフレッシュ動作の後にしきい電圧シフトΔVgの値を計測すると、ゲート層に吸着していた被毒性不純物のうちのどれだけの割合を脱着できたかが推定できる。
【0083】
図29の3つの温度でのリフレッシュによるΔVgの変化は、図30のようになる。
第1段階リフレッシュ温度では、一酸化炭素がセンサFETのゲート層から脱着され、ΔVgはΔ1だけ回復する。第2段階リフレッシュ温度では、炭化水素がセンサFETのゲート層から脱着され、ΔVgはΔだけ回復する。第3段階リフレッシュ温度では、硫化水素がセンサFETのゲート層から脱着され、ΔVgはΔだけ回復する。その結果、Δ、Δ、Δの値からセンサFETのゲート層の吸着サイトに吸着していた一酸化炭素、炭化水素、硫化水素の比率を推定することができる。
更に、これらの比率から水素中の一酸化炭素、炭化水素、硫化水素の濃度を推定することができる。水素中の被毒性不純物の種類が推定できると、その水素を用いるPEFCスタックなどへの影響を予測できる。特に、永久被毒を引き起こす硫化水素の濃度は、PEFCの保護の観点で重要である。
【0084】
図29、30では温度を段階ごとに変えることによって多段階リフレッシュを行ったが、センサFETに供給する酸素濃度を段階的に変えることによって、多段階リフレッシュを行うことも可能である。温度が一定の場合、酸素濃度に応じてセンサFETのゲート層から脱着される被毒性不純物の種類は異なる。
図29で第1段階リフレッシュ温度、第2段階リフレッシュ温度、第3段階リフレッシュ温度を用いたのと同様に、第1段階リフレッシュ酸素濃度、第2段階リフレッシュ酸素濃度、第3段階リフレッシュ酸素濃度を用いて多段階リフレッシュを行うことができる。
その結果、図30と同様に、第1段階リフレッシュ酸素濃度でΔVgはΔ1だけ回復し、第2段階リフレッシュ酸素濃度でΔVgはΔだけ回復し、第3段階リフレッシュ酸素濃度でΔVgはΔだけ回復するといった具合に、多段階にリフレッシュされる。その結果、Δ、Δ、Δの値からセンサFETのゲート層の吸着サイトに吸着していた一酸化炭素、炭化水素、硫化水素の比率を推定することができる。
更に、これらの比率から水素中の一酸化炭素、炭化水素、硫化水素の濃度を推定することができる。水素中の被毒性不純物の種類が推定できると、その水素を用いるPEFCスタックなどへの影響を予測できる。特に、永久被毒を引き起こす硫化水素の濃度はPEFCの保護の観点で重要である。
【0085】
なお、センサFETの温度を段階ごとに変えることによって多段階リフレッシュを行う方法、センサFETに供給する酸素濃度を段階的に変えることによって多段階リフレッシュを行う方法に加えて、センサFETの温度とセンサFETに供給する酸素濃度との両方を段階ごとに変えることによって、多段階リフレッシュを行う方法ももちろん可能である。
【0086】
<第2実施形態:効果>
図31は、図27~30の方法を用いる場合に、本第2実施形態の水素中不純物検査システムと、PEFCセンサによる水素中不純物検査システムとについて、PEFCスタックの寿命を比較した図である。
FET型センサは、PEFCセンサはもちろんPEFCスタックよりも長寿命である。一方、PEFCセンサは、PEFCスタックよりも被毒性不純物に敏感にするとPEFCスタックよりも短寿命になる。その結果、本第2実施形態の水素中不純物検査システムは、PEFCスタックの寿命の期間の間は絶えず被毒性不純物の計測を行ってPEFCスタックを保護することができるのに対して、PEFCセンサは、PEFCスタックの寿命よりも先に使用できなくなりPEFCスタックを保護できなくなる。保護されなくなったPEFCスタックは、被毒性不純物によって急激に劣化する。
【0087】
このように第2実施形態の水素中不純物検査システムは、雰囲気に酸素を含有する空気を一時的に導入することが可能なガス置換機構を備え、システム制御部2003が、ガス置換機構を制御してゲート層(金属電極層)に空気を供給する機能を有している。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、ゲート層(金属電極層)に吸着した被毒性不純物と空気中の酸素とを反応させることで、リフレッシュさせることができる。
また、第2実施形態の水素中不純物検査システムは、システム制御部が、ガス置換機構の制御を行う際に、ゲート層(金属電極層)に供給する空気中の酸素濃度を多段階に分けて上昇させ、酸素濃度と被毒性不純物による仕事関数変化のリフレッシュ量との対応関係から被毒性不純物の成分を分離する機能を有している。
すなわち、この水素中不純物検査システムでは、複数の被毒性不純物が吸着しても分離して脱着させることができ、各被毒性不純物の濃度を個別に検出することができる。
【0088】
<第3実施形態>
本第3実施形態では、第1実施形態の水素中不純物検査システム、第2実施形態の水素中不純物検査システムを用いた水素中不純物検査方法について説明する。
以下の例では、FET型センサをセンサ部2001に用いる例について記載するが、キャパシタ型センサ、ダイオード型センサも同様に用いることができる。非特許文献1に記載されているように、FET型センサ、キャパシタ型センサ、ダイオード型センサは仕事関数の変化によって雰囲気中のガス濃度を検出するので、仕事関数型ガスセンサと名付けられている。
【0089】
図32に、水素中不純物検査方法のフローの一例を示す。
最初に、水素中不純物検査システムの電源をONにする。次に、センサFETをリフレッシュする。電源が投入されていない間に、センサFETのゲート層に被毒性不純物が吸着している可能性があるので、水素中の被毒性不純物の計測を開始する前にリフレッシュを行うのが好ましい。リフレッシュ動作後は、ヒータ層に流す電流を制御することで、センサ部を水素中被毒性不純物濃度の計測に好適な温度に制御する。
次に、センサFETの温度と仕事関数とを計測し、その結果を用いて水素中不純物濃度とセンサFETの被毒の程度を推定する。測定終了の命令がある場合は終了処理を行い、ない場合は被毒によるセンサFETの劣化がパラメータ記録部2009に記録されている判定値を超えるかどうかを判断する。
【0090】
判定値を超えない場合は、センサFETの温度と仕事関数変化とを計測を再び行う。判定値を超える場合は、センサをリフレッシュする。この時に、センサFETのゲート層の吸着サイトに吸着している全ての被毒性不純物をまとめて脱着させることもできるが、図29、30の多段階リフレッシュを行うことで、センサFETのゲート層の吸着サイトに吸着している被毒性不純物の種類を推定することができる。リフレッシュを行った後には、リフレッシュを行わなかった場合と同様に、センサFETの温度と仕事関数変化とを計測を再び行う。
【0091】
図33にPEFCスタックを含む水素中不純物検査システムの水素中不純物検査方法のフローの一例を示す。
最初に、水素中不純物検査システムの電源をONにする。次に、センサFETをリフレッシュする。電源が投入されていない間に、センサFETのゲート層に被毒性不純物が吸着している可能性があるので、水素中の被毒性不純物の計測を開始する前にリフレッシュを行うのが好ましい。リフレッシュ動作後は、ヒータ層に流す電流を制御することで、センサ部を水素中被毒性不純物濃度の計測に好適な温度に制御する。
【0092】
次に、センサFETの温度と仕事関数を計測し、その結果を用いて水素中不純物濃度とセンサFETの被毒の程度とを推定する。測定終了の命令がある場合は終了処理を行い、ない場合は被毒によるセンサFETの劣化がパラメータ記録部2009に記録されている判定値を超えるかどうかを判断する。
判定値を超えない場合は、センサFETの温度と仕事関数変化との計測を再び行う。判定値を超える場合は、センサをリフレッシュする。この時にセンサFETのゲート層の吸着サイトに吸着している全ての被毒性不純物をまとめて脱着させることもできるが、図29、30の多段階リフレッシュを行うことで、センサFETのゲート層の吸着サイトに吸着している被毒性不純物の種類を推定することができる。リフレッシュを行った後には、センサFETの多段階リフレッシュ回数の記録を1だけ増加させる。多段階リフレッシュ回数は、システム制御部の構成要素であるパラメータ記録部2009に記録される。
【0093】
次に、センサFETの多段階リフレッシュ回数がシステム制御部のパラメータ記録部2009に記録されている判定値を超えるかを判断する。判定値を超えない場合は、センサFETの温度と仕事関数変化との計測を再び行う。判定値を超える場合は、PEFCスタックをリフレッシュする。PEFCスタックをリフレッシュした後は、再びセンサFETの温度と仕事関数変化を計測を行う。
【0094】
<第3実施形態:効果>
図33の水素中不純物検査方法を用いる場合のPEFCスタックの寿命を、従来型のPEFCセンサを用いる場合と比較したのが図34である。
従来技術ではPEFCセンサの寿命によってPEFCスタックの寿命が制限されていたのに対して、本技術を用いるとPEFCスタックの最大寿命近くまで寿命を増加させることができる。
このように本実施形態の水素中不純物検査システムでは、システム制御部が、しきい回数判定機能でしきい回数を超えたと判定された場合に、PEFCスタック(固体高分子形燃料電池)に吸着した被毒性不純物を脱着する燃料電池リフレッシュを実施する燃料電池リフレッシュ機能を有しているので、センサ部のリフレッシュ回数に対応してPEFCスタック(固体高分子形燃料電池)のリフレッシュが行われ、PEFCスタックの寿命を向上させることができる。
【0095】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1、11…半導体基板、2,12…ウェル、3,13…ソース拡散層、4,14…ドレイン拡散層、5,15…ゲート絶縁膜、6,16…金属酸化物層、7,17…ゲート電極層、106,116…金属酸化物層、107,117…電極層、ILD…層間絶縁膜、X…水素ガスの濃度、X…水素ガスの濃度に関するパラメータ、Y…被毒性ガスの濃度、Y…被毒性ガスの濃度に関するパラメータ、θ,θ(X)…吸着サイトの占有率、SFET…センサFET、RFET…参照FET、HL…ヒータ、RHL…ヒータ抵抗、VD…ドレイン電圧、VSS…ソース、ウェル電圧、Ic、Ic(X)…電流、VGS,VGS(X),VGS(0),VGS(X,Y)…電圧、VGR,VGRS…電圧、A…電流計、ID(SFET)…センサFETのドレイン電流、ID(RFET)…参照FETのドレイン電流、IS(SFET)…センサFETのソース電流、SCAP…センサキャパシタ、RCAP…参照キャパシタ、C0…静電容量、C(SCAP)…センサキャパシタの静電容量、C(RCAP)…参照キャパシタの静電容量、SDIODE…センサダイオード、RDIODE…参照ダイオード、I(SDIODE)…センサダイオードの電流、I(RDIODE)…参照ダイオードの電流、ΔVg、ΔVg(X)、ΔVg(X, Y)…ガスセンサのしきい値電圧シフト、ΔVgmax…ガスセンサのしきい値シフトの最大値、Δ、Δ、Δ…しきい値電圧シフトのリフレッシュ量、Pt…白金層、Ti-O…チタン-酸素層、H…水素分子、H+…水素イオン、Vsig…交流電圧の振幅、1000…I/O部、1001,2001…センサ部、1002,2002…被毒ガス濃度推定部、1003,2003…制御部、1004,2004…電流検出部、1005,1006,1007,1008,2005…電源、1009,2009…パラメータ記録部、1010,2010…ヒータ部
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