(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124688
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 13/00 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
G01N13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032549
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】蛯原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】松田 和也
(72)【発明者】
【氏名】中尾 政之
(72)【発明者】
【氏名】天堵 晴斗
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】立山 望美
(57)【要約】
【課題】特殊な炉を用いずに、樹脂の接触角を測定できる測定装置を提供する。
【解決手段】表面に凹部11aと凸部11bのパターンを有するとともに、大気中においてパターン上に樹脂2が当接するプレート11と、樹脂2を加熱する加熱部12と、加熱部12による加熱後に、再固定化した樹脂2をプレート11から剥離した状態で、表面形状を測定して、樹脂2の接触角を算出する接触角測定部13と、を備える。これにより、大気中において樹脂を加熱後に再固定化させて、接触角を測定することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の接触角の測定装置であって、
表面に凹部と凸部のパターンを有するとともに、大気中において前記パターン上に前記樹脂が当接するプレートと、
前記樹脂を加熱する加熱部と、
前記加熱部による加熱後に、再固定化した前記樹脂を前記プレートから剥離した状態で、前記表面形状を測定して、前記樹脂の接触角を算出する接触角測定部と、を備える、
測定装置。
【請求項2】
前記プレートは、
前記凸部が、所定の方向に延在する凸型のライン形状であり、
前記凹部が、前記凸型のライン形状に平行に設けられた凹型のスペース形状である、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記加熱部は、
前記プレートの下方に設けられており、前記プレートを加熱することにより前記樹脂を加熱する、
請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
樹脂の接触角の測定方法であって、
表面に凹部と凸部のパターンを有するプレートを加熱し、
大気中において前記プレートの前記表面上に前記樹脂を当接し、
再固定化した前記樹脂を前記プレートから剥離して前記樹脂の表面形状を測定して、前記樹脂の接触角を算出する、
測定方法。
【請求項5】
樹脂の接触角の測定方法であって、
表面に凹部と凸部のパターンを有するプレートを加熱し、
大気中において前記プレートの前記表面上に前記樹脂を当接し、
再固定化した前記樹脂と前記プレートの断面を観察して前記樹脂の表面形状を測定して、前記樹脂の接触角を算出する、
測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶融樹脂の測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体表面に対する樹脂の濡れ性評価が行われる。一般的な濡れ性評価指標である接触角の測定は、固体の表面上に樹脂ペレット片を載置して溶融状態とし、液滴状態となった溶融樹脂の映像を撮影して、固体の表面に対する溶融樹脂の濡れ角度を測定することにより行われる。
【0003】
特許文献1には、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で、所定温度に加熱され温度調節された炉内に、被検体である平滑な平面を有する固体を、該平面が水平となるように静置したうえで、該固体の表面上に樹脂ペレット片を載置して溶融状態とし、液滴状態となった溶融樹脂の映像を撮影して該固体表面に対する溶融樹脂の濡れ角度を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な樹脂は、大気中で加熱溶融すると、大気で接触している表面で酸化や、酸素架橋が発生し、酸化前の状態で正確な接触角を測定できない。そのため一般的には、固体表面に対する樹脂の接触角の測定には、不活性ガス雰囲気で所定温度に加熱が可能であるとともに、炉内の溶融樹脂を観察できる特殊な炉が必要となるが、設備の自由度の観点や、このような特殊な炉を用意するコストの観点からの改善の余地がある。
【0006】
本開示は、特殊な炉を用いずに、樹脂の接触角を測定できる測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかる測定装置は、樹脂の接触角の測定装置であって、表面に凹部と凸部のパターンを有するとともに、大気中において前記パターン上に前記樹脂が当接するプレートと、前記樹脂を加熱する加熱部と、前記加熱部による加熱後に、再固定化した前記樹脂を前記プレートから剥離した状態で、前記表面形状を測定して、前記樹脂の接触角を算出する接触角測定部と、を備える。
【0008】
また、本開示にかかる測定方法は、樹脂の接触角の測定方法であって、表面に凹部と凸部のパターンを有するプレートを加熱し、大気中において前記プレートの前記表面上に前記樹脂を当接し、再固定化した前記樹脂を前記プレートから剥離して前記樹脂の表面形状を測定して、前記樹脂の接触角を算出する。
これにより、大気中において樹脂を加熱後に再固定化させて、接触角を測定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示よれば、特殊な炉を用いずに、樹脂の接触角を測定できる測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】加熱部により加熱される固体上に樹脂が配される状態を示す斜視図である。
【
図3】再固定化された樹脂の俯瞰図及び断面プロファイルの図である。
【
図4】固体から剥離させた樹脂の測定を示す図である。
【
図5】低粘度と高粘度の樹脂についてそれぞれ測定を行った結果の一例を示す図である。
【
図6】固体をチタンでコーティングして樹脂にマイレン酸変性PPを用いた場合の取得図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本実施の形態に係る溶融樹脂の測定方法について説明する。
図1は、測定装置1の構成の一例を示すブロック図である。測定装置1は、凹凸形状の表面を有する固体11と、加熱部12と、接触角測定部13と、を備える。なお、測定装置1では、接触角測定対象である樹脂2の測定を行う。なお、樹脂2は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂であり、加熱前に厚さ0.5mmの薄板状で固体11上に載置されるものとする。また、測定装置1の各構成物品は、不活性ガスが充填された炉内等ではなく、大気中に配されているものとする。
【0012】
図2は、加熱部12上に配された固体11の斜視図である。ここで固体11はプレートであって、上下方向に薄く形成されており、上面視において矩形状であるものとして説明する。ここでは、長辺方向をX方向、短辺方向をY方向、上下方向をZ方向として説明する。
【0013】
固体11の上側の表面には、それぞれがY方向に延在し、X方向に交互に配される凹部11aと凸部11bが交互に連続して配されているパターンで形成されている。言い換えると、固体11の上面には、所定の方向の延在する溝が、延在方向に対して垂直方向に連続して形成されている。言い換えると、固体11はラインアンドスペース金型であり、所定の方向に延在する凸型のライン形状と、凸型のライン形状に平行に設けられた凹型のスペース形状を有する金型である。
【0014】
固体11には、銅金型を利用することができる。またここでは、凸部11bは、凹部11aから上方向に5μm突出するように形成されているとともに、凹部11a及び凸部11bのX方向の幅は、それぞれ5μmとする。
【0015】
加熱部12は、固体11の下方に設けられる接触式のヒーターである。例えば、加熱部12では290℃で2秒間の加熱を行う。なお、加熱部12には、加熱炉等の他の加熱方法を利用することも可能である。
【0016】
接触角測定部13は、レーザー顕微鏡を用いる。なお、接触角測定部13には、光学顕微鏡、電子顕微鏡などを利用することができるが、これらに限られない。測定装置1では、固体11と樹脂2との間でキャピラリーフォースリソグラフィー(CFL)を実施した後、充填が不十分な状態で固体11と樹脂2を冷却して離型した際に、樹脂2のメニスカス形状から、接触角測定部13を用いて樹脂2の接触角の測定を行うマイクロメニスカス法を用いる。
【0017】
なお、ここでCFLとは、毛細管力を利用して形状を転写する方法である。またメニスカス形状とは、界面張力によって細管内の液体の表面が作る凸形状または凹形状のことである。
【0018】
すなわち測定装置1では、表面に凹部11aと凸部11bのパターンを有するプレート11を加熱し、大気中においてプレート11の表面上に樹脂2を当接し、その後の冷却により再固定化した樹脂2をプレート11から剥離して、接触角測定部13により樹脂2の表面形状を測定して樹脂2の接触角を算出する。
【0019】
図3は、冷却により再固定化された樹脂2の俯瞰図及び断面プロファイルの一例である。なお、断面プロファイルは、樹脂2が低粘度である場合と、高粘性の例を記載している。
【0020】
ここでマイクロメニスカス法では、
図4に示すように、固体11から剥離させた樹脂2のメニスカス形状を算出する。すなわち、樹脂2をY方向からの視点で示した場合に、固体11の凹部11aに入り込むことにより形成されている樹脂2の凸部のX方向、すなわち幅方向の長さの半分の値をL、凸部の先端側の窪みの深さをΔとした場合に、接触角θは
【数1】
により算出することができる。接触角測定部13では、特にΔ及びLの値を測定すること可能であり、接触角θを算出できる。
【0021】
図5は、
図3に示した低粘度および高粘度の樹脂2について、それぞれの断面形状の測定結果と、窪みの深さΔと、算出された接触角θの値の例を示している。この
図5では、低粘度の場合のΔの値は0.80~0.88μmであり、接触角θは51.2~54.5°、高粘土の場合のΔの値は1.01~1.77μmであり、接触角θは19.4~46.0°となっている。
【0022】
なお
図6及び表1は、予備実験として、固体11にはニッケルを用い、凹部11aの幅(L/Sの値)を5μm又は30μmにした場合、及び、樹脂2には、それぞれPPS、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリプロピレン樹脂(PP)を用いた場合の、接触角測定部13による測定結果である。なお、接触角測定部13には、レーザー顕微鏡を用いている。また、表1ではΔの値の取得を3回行った結果を示している。
【表1】
【0023】
この表1によると、対象となった樹脂2の種類ごとに接触角の値に差がある状態がみられ、特にL/Sの値を5μmにした結果同士を比較した場合に、樹脂2の種類ごとの差が大きい。
【0024】
また、
図6は、固体11として用いる銅金型にチタンによるコーティングを行い、樹脂2としてマイレン酸変性PPを用いた場合の接触角測定部13での測定結果の例を示している。なお、この接触角測定部13では、走査電子顕微鏡を利用している。
【0025】
この場合、樹脂2における窪みの深さΔは1.10mm、Lの長さは2.59mmである。そのため、
【数2】
【数3】
であることから、マイレン酸変性PPについての接触角を算出することも可能である。
【0026】
なお、上述した方法は、樹脂の接触角の測定方法であって、表面に凹部11aと凸部11bのパターンを有するプレート11を加熱し、大気中においてプレート11の表面上に樹脂2を当接し、再固定化した樹脂2をプレート11から剥離して樹脂2の表面形状を測定し、樹脂2の接触角を算出する測定方法である。
【0027】
その一方で、溶融樹脂の測定方法は、再固定化した樹脂2をプレート11から剥離させるか否かによらず、樹脂2の表面形状を測定して、樹脂2の接触角を算出する方法とすることが可能である。例えば、溶融樹脂の測定方法は、再固定化した樹脂2をプレート11から剥離させない状態で樹脂2の表面形状を測定し、樹脂2の接触角を算出する方法とすることができる。
【0028】
言い換えると、樹脂の接触角の測定方法は、表面に凹部11aと凸部11bのパターンを有するプレート11を加熱し、大気中においてプレート11の表面上に樹脂2を当接し、再固定化した樹脂2とプレート11の断面を観察して樹脂2の表面形状を測定し、樹脂2の接触角を算出する方法とすることができる。
【0029】
以上のことから、大気中において樹脂を加熱後に、冷却して再固定化させて、接触角を測定することができる。すなわち、特殊な炉を用いずに、樹脂の接触角を測定できる測定装置を提供することができ、低コストで、かつ、設備の自由度を確保することが可能となる。
【0030】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 測定装置
2 樹脂
11 固体
11 プレート
11a 凹部
11b 凸部
12 加熱部
13 接触角測定部