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特開2024-124700医療用内視鏡システム及びその作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124700
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】医療用内視鏡システム及びその作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20240906BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A61B1/00 553
A61B1/045 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032566
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001988
【氏名又は名称】弁理士法人小林国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 勝之
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161HH52
4C161QQ07
(57)【要約】
【課題】被写体までの距離をより正確に把握することが可能な、医療用内視鏡システム、医療用内視鏡システムの作動方法を提供する。
【解決手段】内視鏡システム10のプロセッサ装置20は、擬似距離データ生成部74、実測距離データ取得部76、距離データ補正部78として機能する。擬似距離データ生成部74は、撮影範囲内の複数の地点について被写体までの距離を推定した疑似距離データを生成する。実測距離データ取得部76は、撮影範囲内の少なくとも1点について被写体までの距離を測定した実測距離データを取得する。距離データ補正部78は、擬似距離データを、実測距離データにより補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体として体腔内を撮影して撮影画像を取得する画像センサを有する内視鏡と、プロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記撮影画像を用いて、前記画像センサの撮影範囲内の複数の地点について前記被写体までの距離を推定した疑似距離データを生成し、
前記撮影範囲内の少なくとも1つの地点について前記被写体までの距離を測定した実測距離データを取得し、
前記擬似距離データを、前記実測距離データにより補正する、
医療用内視鏡システム。
【請求項2】
前記擬似距離データは、
前記被写体と前記画像センサとの相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像から構築される前記被写体の立体構造モデルを用いて生成される、
請求項1に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項3】
前記疑似距離データは、
前記被写体と前記画像センサとの相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像を用いた機械学習によって生成された距離推定モデルを用いて生成される、
請求項1に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項4】
前記実測距離データは、
前記画像センサの撮影光軸に対して光軸が傾けられた計測補助光を前記被写体に対して照射して撮影された撮影画像を用いて測定される、
請求項1に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項5】
前記計測補助光は、
レーザー光である、
請求項4に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項6】
前記被写体は、
消化管である、
請求項5に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項7】
前記プロセッサは、
同一地点の前記擬似距離データと前記実測距離データとについて、前記実測距離データを前記疑似距離データで除することによりスケール係数を算出し、
算出したスケール係数を、前記同一地点とは別地点の擬似距離データに対して乗することにより、前記別地点の擬似距離データを補正する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記スケール係数を、全ての疑似距離データに対して乗することにより、全ての地点の疑似距離データを補正する、
請求項7に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項9】
前記プロセッサは、
前記被写体を複数の領域に分割し、
前記スケール係数を、前記同一地点を含む領域内の擬似距離データに対して乗することにより、前記同一地点を含む領域の疑似距離データを補正する、
請求項7に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項10】
前記プロセッサは、
前記実測距離データの存在しない領域については、前記実測距離データの存在する領域の補正に用いられたスケール係数を用いて、この領域の補正に用いるスケール係数を決定する、
請求項9に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項11】
前記プロセッサは、
前記スケール係数として、前記実測距離データが存在する領域の補正に用いられたスケール係数の平均値を用いて、前記実測距離データが存在しない領域の補正を行う、
請求項10に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項12】
前記プロセッサは、
前記実測距離データが複数存在する領域については、前記実測距離データが存在する各地点のスケール係数を用いて、この領域の補正に用いるスケール係数を決定する、
請求項9に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項13】
前記プロセッサは、
前記スケール係数として、前記実測距離データが存在する各地点のスケール係数の平均値を用いて、前記実測距離データが複数存在する領域の補正を行う、
請求項12に記載の医療用内視鏡システム。
【請求項14】
内視鏡の画像センサで撮影された撮影画像を用いて、前記画像センサの撮影範囲内の複数の地点について被写体までの距離を推定した疑似距離データを生成する擬似距離データ生成ステップと、
前記撮影範囲内の少なくとも1つの地点について前記被写体までの距離を測定した実測距離データを取得する実測距離データ取得ステップと、
前記擬似距離データを、前記実測距離データにより補正する距離データ補正ステップと、を備える、
医療用内視鏡システムの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用内視鏡システム及びその作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、SfМ(Strucure-from-Motion)により、ガス管等の管内部の立体的な構造を示す立体構造モデルを構築し、これを用いて撮影画像内の各位置(被写体)までの距離を推定したデータ(擬似距離データ)を生成する工業用内視鏡が記載されている。しかし、擬似距離データは、被写体までの距離を推定したデータであるため、実際の距離とは異なる場合がある。このため、下記特許文献1では、管の半径が一定かつ予め知ることが出来るということを利用し、管の半径を用いて、擬似距離データを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-189822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1は、管の半径が一定かつ予め知ることが出来るということを前提としているが、被写体として消化管など体腔内の撮影を行う医療用内視鏡では、管の半径は一定ではなく、また、予め知ることもできない。このため、医療用内視鏡においては、擬似距離データを補正できず、被写体までの距離に誤差が生じてしまうといった問題があった。
【0005】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、被写体までの距離をより正確に把握することが可能な、医療用内視鏡システム、医療用内視鏡システムの作動方法、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の医療用内視鏡システムは、被写体として体腔内を撮影して撮影画像を取得する画像センサを有する内視鏡と、プロセッサと、を備え、プロセッサは、撮影画像を用いて、画像センサの撮影範囲内の複数の地点について被写体までの距離を推定した疑似距離データを生成し、撮影範囲内の少なくとも1つの地点について被写体までの距離を測定した実測距離データを取得し、擬似距離データを、実測距離データにより補正する。
【0007】
擬似距離データは、被写体と画像センサとの相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像から構築される被写体の立体構造モデルを用いて生成される、ものでもよい。
【0008】
擬似距離データは、被写体と画像センサとの相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像を用いた機械学習により生成される距離推定モデルを用いて生成されるものでもよい。
【0009】
実測距離データは、画像センサの撮影光軸に対して光軸が傾けられた計測補助光を被写体に対して照射して撮影された撮影画像を用いて測定される、ものでもよい。
【0010】
計測補助光は、レーザー光であってもよい。
【0011】
被写体は、消化管であってもよい。
【0012】
プロセッサは、同一地点の擬似距離データと実測距離データとについて、実測距離データを疑似距離データで除することによりスケール係数を算出し、算出したスケール係数を、同一地点とは別地点の擬似距離データに対して乗することにより、別地点の擬似距離データを補正する、ものでもよい。
【0013】
プロセッサは、スケール係数を、全ての疑似距離データに対して乗することにより、全ての地点の疑似距離データを補正する、ものでもよい。
【0014】
プロセッサは、被写体を複数の領域に分割し、スケール係数を、同一地点を含む領域内の擬似距離データに対して乗することにより、同一地点を含む領域の疑似距離データを補正する、ものでもよい。
【0015】
プロセッサは、実測距離データの存在しない領域については、実測距離データの存在する領域の補正に用いられたスケール係数を用いて、この領域の補正に用いるスケール係数を決定する、ものでもよい。
【0016】
プロセッサは、スケール係数として、実測距離データが存在する領域の補正に用いられたスケール係数の平均値を用いて、実測距離データが存在しない領域の補正を行う、ものでもよい。
【0017】
プロセッサは、実測距離データが複数存在する領域については、実測距離データが存在する各地点のスケール係数を用いて、この領域の補正に用いるスケール係数を決定する、ものでもよい。
【0018】
プロセッサは、スケール係数として、実測距離データが存在する各地点のスケール係数の平均値を用いて、実測距離データが複数存在する領域の補正を行う、ものでもよい。
【0019】
もちろん、本発明の医療用内視鏡システムは、上述した各種構成のうち任意の複数の構成を組み合わせたものであってもよい。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の医療用内視鏡システムの作動方法は、内視鏡の画像センサで撮影された撮影画像を用いて、画像センサの撮影範囲内の複数の地点について被写体までの距離を推定した疑似距離データを生成する擬似距離データ生成ステップと、撮影範囲内の少なくとも1つの地点について被写体までの距離を測定した実測距離データを取得する実測距離データ取得ステップと、擬似距離データを、実測距離データにより補正する距離データ補正ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被写体までの距離をより正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】内視鏡システムの概略図である。
図2】内視鏡の先端部を示す平面図である。
図3】内視鏡システムの機能を示すブロック図である。
図4】筒状体と筒状体内部の凸部を示す説明図である。
図5図4の撮影範囲E1を撮影した撮影画像を示す説明図である。
図6図4の撮影範囲E2を撮影した撮影画像を示す説明図である。
図7図4の撮影範囲E3を撮影した撮影画像を示す説明図である。
図8】擬似距離データの補正手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、本発明の内視鏡システム10は、医療に用いられる医療用内視鏡システムであり、内視鏡12と、光源装置14と、ディスプレイ16と、ユーザーインターフェース18と、プロセッサ装置20(プロセッサ)と、を有する。
【0024】
内視鏡システム10では、内視鏡12が、光源装置14と光学的に接続され、且つ、プロセッサ装置20と電気的に接続されている。また、内視鏡システム10では、プロセッサ装置20が、内視鏡システム10の各部(内視鏡12、光源装置14、ディスプレイ16、ユーザーインターフェース18)と電気的に接続されている。
【0025】
内視鏡12は、例えば、消化管などの体腔内に挿入される挿入部30と、挿入部30の基端側に接続された操作部32と、挿入部30の先端側に設けられた湾曲部34及び先端部36と、を有している。操作部32には、鉗子等の処置具を総通するための鉗子チャンネルの入口38が設けられている。また、操作部32には、湾曲部34の湾曲、被写体撮影時のズーム、静止画/動画撮影指示、撮影モードの切り替え、送気及び送水など、ユーザーからの操作を受け付ける各種操作部材が設けられている。なお、本実施形態では、前述した操作部材として、回転操作される回転ダイヤル40、42、44、及び、押圧操作される押圧ボタン46、48、50を設けている。
【0026】
図2に示すように、先端部36には、照明光を出射させる照明窓52、被写体によって反射された照明光の反射光を取り込む観察窓54、鉗子チャンネルの出口56、送気・送水口58、が設けられている。
【0027】
観察窓54の背後には、画像センサ60(図1参照)が設けられている。画像センサ60は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary MOS)など、撮影画像をデジタルな画像信号として出力するイメージセンサであり、先端部36の前方(前方の被写体)を撮影する。画像センサ60によって撮影された画像(撮影画像)は、プロセッサ装置20に入力される。
【0028】
また、先端部36には、被写体までの距離を実測(測定)するための計測補助光を出射させる計測補助光出射窓62が設けられている。計測補助光は、内視鏡12(画像センサ60)の撮影光軸に対して光軸が傾けられた光であり、本実施形態では、観察窓54の下方に計測補助光出射窓62を設け、ここから計測補助光として、レーザー光源64(図1参照)からレーザー光66(図5図6図7参照)を、先端部36の前方斜め上方へ向けて出射させている。
【0029】
計測補助光出射窓62から出射されたレーザー光66は、被写体までの距離が遠いほど上方に進むことができる。このため、撮影画像に写るレーザー光66の照射地点は、被写体までの距離が遠いほど上方となる。内視鏡システム10では、この性質を利用し、撮影画像に写ったレーザー光66の照射地点に基づいて照射地点(照射地点に存在する被写体)までの距離を実測(測定)している。
【0030】
図1に戻り、光源装置14は、内視鏡12に照明光を供給する。ディスプレイ16は、例えば、周知の液晶ディスプレイであり、内視鏡12(画像センサ60)で撮影した撮影画像や、プロセッサ装置20によって行われた画像解析の結果などを表示する。ユーザーインターフェース18は、プロセッサ装置20への入力等を行う入力デバイスであり、キーボード、マウス、フットペダル、タッチパネル、マイク、及び/または、モーションセンサなどである。
【0031】
図3に示すように、プロセッサ装置20には、プログラム格納部70、中央制御部72が設けられている。プログラム格納部70には、各種処理または制御などに関するプログラムが格納されている。中央制御部72は、プログラム格納部70に格納されたプログラムを動作させることにより、擬似距離データ生成部74、実測距離データ取得部76、距離データ補正部78、として機能する。
【0032】
擬似距離データ生成部74は、画像センサ60の撮影範囲内の複数の地点について被写体までの距離を推定した疑似距離データを生成する(擬似距離データ生成ステップ)。具体的には、SfМ(Strucure-from-Motion)により、被写体の立体構造モデルを構築、すなわち、被写体と画像センサ60との相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像を用いて、被写体の立体構造モデルを構築する。
【0033】
構築される立体構造モデルは、例えば、被写体を多面体(多角形(例えば、三角形)の集合体)として表現したものである(図4参照)。擬似距離データ生成部74は、被写体を構成する各面(各多角形)の頂点座標に基づいて、撮影範囲内の複数地点について被写体までの距離(各地点に存在する被写体と先端部36との間の距離)を算出する。このようにして算出した各地点の被写体までの距離が、本発明における擬似距離データである。
【0034】
なお、被写体の立体構造モデル(被写体を構成する各面の頂点座標)を用いることで、撮影範囲内の任意の地点ついて、擬似距離データを生成(算出)できる。このため、擬似距離データを生成(算出)する地点については、適宜設定できる。例えば、撮影範囲内の全ての地点について、擬似距離データを生成(算出)してもよい。また、撮影範囲内の一部の地点、例えば、被写体を構成する各面の頂点に対応する地点についてのみ、擬似距離データを生成(算出)してもよい。ただし、後述する擬似距離データの補正では、実測距離データが取得された地点の擬似距離データが用いられる。このため、擬似距離データ生成部74は、少なくとも実測距離データが取得された地点については、擬似距離データを生成(算出)する。
【0035】
実測距離データ取得部76は、撮影範囲内の少なくとも1点について被写体までの距離を実測(測定)した実測距離データを取得する(実測距離データ取得ステップ)。具体的には、実測距離データ取得部76は、撮影画像を解析し、撮影画像に写った計測補助光(レーザー光66の照射地点に基づいて照射地点(照射地点に存在する被写体)までの距離を実測(測定)し、実測距離データを取得する。実測距離データ取得部76は、撮影が行われる毎に(1ブレームにつき1回)この撮影画像に写る照射地点までの距離を実測(測定)し、実測距離データを取得する。
【0036】
距離データ補正部78は、擬似距離データを、実測距離データにより補正する(距離データ補正ステップ)。本実施形態において、距離データ補正部78は、被写体を複数の領域に分割し、領域毎に補正(実測距離データを用いた擬似距離データの補正)を行っている。以下、被写体を複数の領域に分割して領域毎に補正を行う手法について、図4図8を用いて具体的に説明を行う。
【0037】
なお、以下の説明は、図4に示すように、消化管に見立てた左側内壁80L、下側内壁80D、右側内壁80Rを有する管状体80の内部(下側内壁80D)に、病変部(腫瘍)に見立てた左斜面82L、手前斜面82F、右斜面82Rを有する四角錐状の凸部82が存在する被写体について、この被写体(管状体80)の内部で内視鏡12の湾曲部34を左右に湾曲させて撮影範囲E1、E2、E3の順番で撮影を行うことにより、図5図6図7にそれぞれ示す撮影画像P1、P2、P3が取得された場合について行う。
【0038】
図8に示すように、撮影範囲E1、E2、E3(図4参照)の順に撮影が行われて、撮影画像P1、P2、P3(図5図6図7参照)が取得されると、疑似距離データ生成部74が撮影画像P1、P2、P3を用いて管状体80の内部の立体構造モデルを構築する。構築される立体構造モデルは、左側内壁80L、下側内壁80D、右側内壁80Rを有する管状体80の内部(下側内壁80D)に、左斜面82L、手前斜面82F、右斜面82Rを有する凸部82が存在するものである(図4参照)。そして、疑似距離データ生成部74は、構築した立体構造モデルを用いて、擬似距離データを生成する。なお、本実施形態では、撮影画像P1、P2、P3に写る全ての地点について擬似距離データを生成する。
【0039】
また、撮影画像P1、P2、P3が取得されると、実測距離データ取得部76により実測距離データの取得(測定)が行われる。本例では、図5に示す撮影画像P1から、管状体80の左側内壁80Lの照射地点LP1(レーザー光66の照射地点)までの距離が実測距離データとして取得(測定)される。また、図6に示す撮影画像P2から、凸部82の手前斜面82Fの照射地点LP2までの距離が実測距離データとして取得される。さらに、図7に示す撮影画像P3から、管状体80の下側内壁80Dの照射地点LP3までの距離が実測距離データとして取得される。
【0040】
擬似距離データの生成、実測距離データの取得が行われた後、距離データ補正部78は、実測距離データが取得された地点(レーザー光66の照射地点)を含む領域について、この領域の擬似距離データを補正するためのスケール係数を算出し、算出したスケール係数を用いてこの領域の擬似距離データを補正する。
【0041】
具体的には、図5に示す撮影画像P1の照射地点LP1について、この照射地点LP1の実測距離データを擬似距離データで除することにより、照射地点LP1を含む領域である左側内壁80Lの擬似距離データを補正するためのスケール係数(以下、第1スケール係数)を算出する。そして、左側内壁80Lを構成する擬似距離データの各々に第1スケール係数を乗することにより、左側内壁80Lの擬似距離データを補正する。
【0042】
同様に、距離データ補正部78は、図6に示す撮影画像P2の照射地点LP2について、この照射地点LP2の実測距離データを擬似距離データで除することにより、照射地点LP2を含む領域である手前斜面82Fの擬似距離データを補正するためのスケール係数(以下、第2スケール係数)を算出する。そして、手前斜面82Fを構成する擬似距離データの各々に第2スケール係数を乗することにより、手前斜面82Fの擬似距離データを補正する。
【0043】
さらに、距離データ補正部78は、図7に示す撮影画像P3の照射地点LP3について、この照射地点LP3の実測距離データを擬似距離データで除することにより、照射地点LP3を含む領域である下側内壁80Dの擬似距離データを補正するためのスケール係数(以下、第3スケール係数)を算出する。そして、下側内壁80Dを構成する擬似距離データの各々に第3スケール係数を乗することにより、下側内壁80Dの擬似距離データを補正する。
【0044】
このように、距離データ補正部78は、実測距離データが存在する領域については、実測距離データから算出されるスケール係数を用いて、この領域の擬似距離データを補正する。
【0045】
一方、距離データ補正部78は、実測距離データが存在しない、左斜面82L、右斜面82Rなどの領域については、スケール係数として実測距離データが存在する領域のスケール係数を用いて、この領域の補正に用いるスケール係数を決定する。具体的には、スケール係数として、実測距離データが存在する領域のスケール係数の平均値(本実施形態では、第1~第3スケール係数の平均値)を算出し、この平均値を、実測距離データが存在しない領域を構成する擬似距離データの各々に乗することにより、擬似距離データを補正する。
【0046】
なお、実測距離データが存在しない領域の補正については、上述した手法に限定されるものではない。例えば、実測距離データが存在する領域のうち補正対象の領域に最も近い領域、または、実測距離データが存在する領域のうち補正対象の領域に接している長さが最も長い領域のスケール係数をそのまま用いて、補正対象の領域の補正を行ってもよい。また、前述した平均値に代えて、スケール係数として、領域の重要度を加味して実測距離データが存在する領域のスケール係数を加重平均した値を用いて、補正対象の領域の補正を行ってもよい。この場合、補正対象の領域に近い領域ほど重要度を高く設定する、または、補正対象の領域に接している長さが長い領域ほど重要度を高く設定するなどが考えられる。
【0047】
また、共通の領域内の複数の地点について実測距離データが存在するといったことも考えられる。このような場合は、各地点の擬似距離データと実測距離データとから、地点毎のスケール係数を算出する。次に、任意の1地点について、この地点から算出されたスケール係数を用いて他の地点の擬似距離データを補正する。続いて、補正後の擬似距離データと対応する地点の実測距離データとの差分を求める。そして、前述の処理を全ての地点について行い、差分が最も小さくなるスケール係数を用いて、補正対象の領域の擬似距離データを補正すればよい。
【0048】
なお、共通の領域内の複数の地点について実測距離データが存在する場合、スケール係数として、各地点の擬似距離データと実測距離データとから算出される地点毎のスケール係数の平均値を用いて補正を行ってもよい。また。スケール係数として、地点毎のスケール係数を重要度を加味して加重平均した値を用いて補正を行ってもよい。この場合、補正対象の領域の中心に近い地点の実距離データから算出されたスケール係数であるほど重要度を高く設定するといったことが考えられる。
【0049】
以上のように、本発明の内視鏡システム10によれば、被写体までの距離を推定した疑似距離データを、被写体までの距離を実際に測定した実測距離データで補正することにより、補正を行わない場合と比較して、被写体までの距離をより正確に把握することができる。
【0050】
なお、上記実施形態では、被写体を複数の領域に分割する際に、擬似距離データ生成部74が構築した被写体の立体構造モデルに準じた領域に被写体を分割する例で説明をしたが、被写体の分割方法はこれに限定されず、自由に設定できる。例えば、被写体上の1つの地点を中心とした同心円状の領域に被写体を分割してもよい。また、被写体上の1つの地点を中心とした放射状の領域に被写体を分割してもよい。さらに、縦横に伸びる平行な複数の線分により被写体をマトリクス状の領域に分割してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、被写体を複数の領域に分割して、領域毎に補正を行う例で説明をしたが、領域の分割をせずに(被写体全体を1つの領域として)補正を行ってもよい。この場合、共通の領域内の複数の地点について実測距離データが存在する場合と同様の手法で補正に用いるスケール係数を決定する。そして、決定されたスケール係数を用いて、全ての地点の擬似距離データを補正すればよい。
【0052】
また、上記実施形態では、一条のレーザー光を被写体へ向けて照射することにより、1フレームの撮影画像から被写体の1地点までの距離を実測(測定)する例で説明をしたが、本発明はこれに限定されない。複数条のレーザー光を被写体へ向けて照射することにより、1フレームの撮影画像から被写体の複数地点のそれぞれまでの距離を実測(測定)可能な構成としてもよい。
【0053】
さらに、上記実施形態では、計測補助光としてレーザー光を照射して、実測距離データを取得(測定)する例で説明をしたが、計測補助光としてレーザー光以外の光を照射して、実測距離データを取得(測定)してもよい。また、レーザー光の照射位置に基づいて実測距離データを取得する例で説明をしたが、レーザー光などの電磁波を被写体に照射してから、照射した電磁波の反射波を受信するまでに要した時間を用いて実測距離データを取得(測定)してもよい。もちろん、電磁波以外の音波や超音波を出射してから、反射波を受信するまでに要した時間を用いて実測距離データを取得してもよい。
【0054】
さらに、内視鏡12により撮影された撮影画像には、先端部36の一部や鉗子チャンネルの出口56から体腔内に突出した鉗子など、予めサイズが判明している物(以下、サイズ判明物)も写る。このため、撮影画像に写るサイズ判明物の大きさに基づいて、サイズ判明物の近傍や隣接した地点までの距離を検出(計測)し、検出(計測)した距離を実測距離データとして取得してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、擬似距離データ生成部74が、被写体と画像センサ60との相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像から構築される被写体の立体構造モデルを用いて、擬似距離データを生成する例で説明したが、本発明はこれに限定されない。擬似距離データ生成部74が、被写体と画像センサ60との相対的な位置関係を変化させながら撮影された複数フレームの撮影画像を用いた機械学習によって生成された距離推定モデルを用いて、擬似距離データを生成する構成としてもよい。
【0056】
さらに、上記実施形態では、内視鏡システム10のプロセッサ装置20を本発明のプロセッサとして機能させる例で説明をしたが、内視鏡システム10とは別に画像処理用プロセッサ装置を設け、この画像処理用プロセッサ装置を本発明のプロセッサとして機能させてもよい。この場合、内視鏡12で撮影された撮影画像を画像処理用プロセッサ装置に入力する構成にするとともに、画像処理用プロセッサ装置の中央制御部を、前述した擬似距離データ生成部74、実測距離データ取得部76、距離データ補正部78として機能させて、擬似距離データの生成、実測距離データの取得、実測距離データを用いた擬似距離データの補正を行う構成とすればよい。
【0057】
上記実施形態において、中央制御部72、擬似距離データ生成部74、実測距離データ取得部76、距離データ補正部78などの各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウエア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、FPGA (Field Programmable Gate Array) などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、各種の処理を実行するために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0058】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合せ(例えば、複数のFPGAや、CPUとFPGAの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウエアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0059】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた形態の電気回路(circuitry)である。また、記憶部のハードウェア的な構造はHDD(hard disc drive)やSSD(solid state drive)等の記憶装置である。
【符号の説明】
【0060】
10 内視鏡システム(医療用内視鏡システム)
12 内視鏡
14 光源装置
16 ディスプレイ
18 ユーザーインターフェース
20 プロセッサ装置(プロセッサ)
30 挿入部
32 操作部
34 湾曲部
36 先端部
38 入口
40、42、44 回転ダイヤル
46、48、50 押圧ボタン
52 照明窓
54 観察窓
56 出口
58 送気・送水口
60 画像センサ
62 計測補助光出射窓
64 レーザー光源
66 レーザー光
70 プログラム格納部
72 中央制御部
74 擬似距離データ生成部
76 実測距離データ取得部
78 距離データ補正部
80 管状体
80L 左側内壁
80D 下側内壁
80R 右側内壁
82 凸部
82L 左斜面
82F 手前斜面
82R 右斜面
E1、E2、E3 撮影範囲
P1、P2、P3 撮影画像
LP1、LP2、LP3 照射地点
図1
図2
図3
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図8