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特開2024-124734エチレン及び/又はプロピレンの製造方法並びに製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124734
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】エチレン及び/又はプロピレンの製造方法並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 4/10 20060101AFI20240906BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20240906BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20240906BHJP
   C10G 9/36 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C07C4/10
C07C11/04
C07C11/06
C10G9/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032617
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮平
【テーマコード(参考)】
4H006
4H129
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H129AA03
4H129CA04
4H129CA05
4H129CA19
4H129CA29
4H129DA03
4H129FA02
4H129NA20
4H129NA21
(57)【要約】
【課題】幅広い原料油、とりわけ含酸素化合物を含む原料油に対応しつつ、品質の高いエチレン及びプロピレンを安定的にかつ安価に提供する。
【解決手段】少なくとも、原料油の熱分解工程、クエンチ工程、圧縮工程及び酸性成分除去工程を順に備え、前記酸性成分除去工程が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収工程及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生工程を有する工程であり、前記原料油として含酸素化合物の含有量が50質量ppm超である原料油を用い、前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する、エチレン及び/又はプロピレンの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、原料油の熱分解工程、クエンチ工程、圧縮工程及び酸性成分除去工程を順に備え、
前記酸性成分除去工程が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収工程及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生工程を有する工程であり、
前記原料油として含酸素化合物の含有量が50質量ppm超である原料油を用い、
前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する、
エチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項2】
前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/Lを超過したところで、前記メタノール濃度が300mg/Lとなるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する請求項1に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項3】
前記クエンチ工程において、前記熱分解工程から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、新たにクエンチ水を供給する請求項1又は2に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記クエンチ工程において、前記熱分解工程から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、前記原料油の熱分解工程において新たに水蒸気を供給する請求項1~3のいずれか1項に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記原料油が、含酸素化合物の含有量が50質量ppm以上のナフサを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項6】
前記原料油が、更にバイオオイルを含む請求項5に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項7】
前記酸性成分が、二酸化炭素及び硫化水素から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1~6のいずれか1項に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項8】
前記除去用溶液が、アミン水溶液である請求項1~7のいずれか1項に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【請求項9】
少なくとも、原料油の熱分解設備、クエンチ設備、圧縮設備及び酸性成分除去設備を備え、
前記酸性成分除去設備が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収設備及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生設備を有し、かつ前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する除去用溶液調節設備を有する、
エチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
【請求項10】
前記クエンチ設備が、前記熱分解設備から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、新たにクエンチ水を供給するクエンチ水調節設備を有する請求項9に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
【請求項11】
前記原料油の熱分解設備が、前記熱分解設備から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、水蒸気を供給する水蒸気調節設備を有する請求項9又は10に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
【請求項12】
前記除去用溶液が、アミン溶液である請求項9~11のいずれか1項に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン及び/又はプロピレンの製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンの製造装置では、原料としてナフサ等の炭化水素油が汎用され、炭化水素油の熱分解により、メタン、エタン、エチレン、プロピレン等の分解ガスとした後、分解ガスを冷却するクエンチ工程、冷却後の分解ガスを昇圧する圧縮工程、分解ガスに含まれる酸性成分(例えば、二酸化炭素、硫化水素等)を除去する酸性成分除去工程等を経て、エチレン及びプロピレンが製造される(例えば、特許文献1、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-172887号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本知能情報ファジィ学会 第25回ファジィシステムシンポジウム講演論文集、25.0.125.0、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原料油となるナフサ等の炭化水素油には、例えばメタノール、エタノール、アセトン、ブタノール、メチルエチルケトン、メチル-tert-ブチルエーテル等のアルコール、エーテル、ケトンといった含酸素化合物が含まれる場合がある。そして、含酸素化合物を、例えば50質量ppm以上と多く含有する原料油を用いた場合、含酸素化合物としてメタノールが含まれる場合は当該メタノール、また含酸素化合物としてメタノール以外の化合物が含まれる場合は、熱分解炉における反応により生成するメタノールが分解ガスに含まれる。そして、分解ガスに含まれるメタノールに起因して、プロピレン中のメタノール濃度の向上が顕著となり、品質低下につながることとなる。そのため、エチレンの製造に際して用いられる原料油としては、含酸素化合物の濃度が低いものを使用することが肝要である。
【0006】
このように、高濃度の含酸素化合物を含有する原料油は、特にプロピレンの品質低下につながることから、基本的に使用不可とすべきである。しかし近年、50質量ppmを超える高濃度の含酸素化合物を含有する原料油が供給されることが増える傾向にあり、使用不可とした場合、調達コストの増加、さらには原料油の安定調達に支障がでることが懸念されるようになっている。そのため、高濃度の含酸素化合物を含有する原料油を使用しても、プロピレンの品質低下を招くことなく、品質の高いエチレン及びプロピレンを製造する方法の開発が喫緊の課題となっている。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、幅広い原料油、とりわけ含酸素化合物を含む原料油に対応しつつ、品質の高いエチレン及びプロピレンを安定的にかつ安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有するエチレン及び/又はプロピレンの製造方法並びに製造装置を提供するものである。
【0009】
[1]少なくとも、原料油の熱分解工程、クエンチ工程、圧縮工程及び酸性成分除去工程を順に備え、
前記酸性成分除去工程が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収工程及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生工程を有する工程であり、
前記原料油として含酸素化合物の含有量が50質量ppm超である原料油を用い、
前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する、
エチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[2]前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/Lを超過したところで、前記メタノール濃度が300mg/Lとなるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する上記[1]に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[3]前記クエンチ工程において、前記熱分解工程から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、新たにクエンチ水を供給する上記[1]又は[2]に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[4]前記クエンチ工程において、前記熱分解工程から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、前記原料油の熱分解工程において新たに水蒸気を供給する上記[1]~[3]のいずれか1に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[5]前記原料油が、含酸素化合物の含有量が50質量ppm以上のナフサを含む、上記[1]~[4]のいずれか1に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[6]前記原料油が、更にバイオオイルを含む上記[5]に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[7]前記酸性成分が、二酸化炭素及び硫化水素から選ばれる少なくとも一種を含む上記[1]~[6]のいずれか1に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[8]前記除去用溶液が、アミン水溶液である上記[1]~[7]のいずれか1に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
【0010】
[9]少なくとも、原料油の熱分解設備、クエンチ設備、圧縮設備及び酸性成分除去設備を備え、
前記酸性成分除去設備が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収設備及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生設備を有し、かつ前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する除去用溶液調節設備を有する、
エチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
[10]前記クエンチ設備が、前記熱分解設備から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、新たにクエンチ水を供給するクエンチ水調節設備を有する上記[9]に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
[11]前記原料油の熱分解設備が、前記熱分解設備から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、水蒸気を供給する水蒸気調節設備を有する上記[9]又は[10]に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法。
[12]前記除去用溶液が、アミン溶液である上記[9]~[11]のいずれか1に記載のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、幅広い原料油、とりわけ含酸素化合物を含む原料油に対応しつつ、品質の高いエチレン及びプロピレンを安定的にかつ安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の製造設備における酸性成分除去設備の好ましい一態様を示すフロー図である。
図2】本実施形態の製造設備におけるクエンチ設備の好ましい一態様を示すフロー図である。
図3】参考例におけるリッチアミン溶液中のメタノール濃度と、メタノール除去率と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係るエチレン及び/又はプロピレンの製造方法並びに製造装置について具体的に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以下」、「以上」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、例えば、とある数値範囲について「A~B」及び「C~D」と記載されている場合、「A~D」、「C~B」といった数値範囲も含まれる。また実施例の数値は上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0014】
〔エチレン及び/又はプロピレンの製造方法〕
本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法は、少なくとも、原料油の熱分解工程、クエンチ工程、圧縮工程及び酸性成分除去工程を順に備え、
前記酸性成分除去工程が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収工程及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生工程を有する工程であり、
前記原料油として含酸素化合物の含有量が50質量ppm超である原料油を用い、
前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する、というものである。
【0015】
これまで、含酸素化合物を高濃度で含有する原料油を用いた場合、含酸素化合物はメタノールとしてプロピレンに混入し、プロピレン中のメタノール濃度の向上が顕著となり、プロピレンの品質低下につながることとなっていた。本実施形態の製造方法では、原料油に含まれる含酸素化合物の中でも、メタノールに着目した。メタノールは、原料油にメタノールが含まれる場合はもちろんのこと、含まれない場合であっても、他の含酸素化合物が熱分解炉における反応により生成する化合物である。さらに、水に溶解しやすいという性状を有することから、本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」と称することがある。)の各工程において特に濃縮しやすく、その結果、プロピレンに混入し得る化合物だからである。
【0016】
本発明者は、メタノールについて、各工程のいずれかの工程におけるメタノールを管理することで、プロピレンへのメタノールの混入を抑制することができ、品質の高いエチレン及びプロピレンを製造することが可能になるのではないかと考えた。更なる研究を進めたところ、酸性成分除去工程におけるメタノール濃度と、プロピレンに含まれるメタノール濃度とに、相関関係があることを見出した。そこで、酸性成分除去工程におけるメタノール濃度を一定の濃度となるように管理し、これを超える場合は酸性成分除去工程において用いられる除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給したところ、プロピレン中のメタノール濃度の向上を抑制するに至った。酸性成分除去工程における除去用溶液中のメタノール濃度の管理は比較的平易であり、メタノール濃度が一定の濃度を超えたところで、一部の除去用溶液を廃棄し、補充するという操作も比較的平易である。それにも関わらず、プロピレン中のメタノール濃度の向上を抑制できることは、驚くべき効果である。
かくして、本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法は、幅広い原料油、とりわけ含酸素化合物を含む原料油に対応しつつ、品質の高いエチレン及びプロピレンを安定的にかつ安価に提供できる、という方法となる。
【0017】
本実施形態の製造方法によれば、エチレン、プロピレン、またエチレン及びプロピレンを製造することができる。また、原料油として例えば後述するナフサを用いる場合、エチレン、プロピレン以外、例えばプロピレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、さらにはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素も、必要に応じた反応及び精製を行うことで得られる。
【0018】
(各工程について)
本実施形態の製造方法は、少なくとも、原料油の熱分解工程、クエンチ工程、圧縮工程及び酸性成分除去工程を順に備える。
原料油の熱分解工程では、バーナにより700~900℃、好ましくは750~850℃に加熱された熱分解炉において原料油と水蒸気とによる熱分解が行われ、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等のパラフィン、エチレン、プロピレン等のオレフィンを主に含む熱分解ガスが得られる。また熱分解ガスには、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物も含まれる。
【0019】
上記熱分解工程で得られる高温の熱分解ガスは、クエンチ工程におけるクエンチ塔でクエンチ水を用いて冷却する。後述する分解ガス分留塔の有無により異なるが、クエンチ塔ではガス分と、水及びガソリン留分(C5~C9程度)とに分離される。水は必要に応じて熱分解炉にリサイクルされ、ガソリン留分は分解ガソリンとして用いられる。
また、クエンチ工程においては、クエンチ水を用いた冷却の前に、予め重質油等との混合により急冷する急冷器、また重質留分を分留する分解ガス分留塔を有していてもよい。
【0020】
上記クエンチ工程で得られたガス分は、酸性成分除去工程等の各種精製に圧送するため、圧縮工程において圧縮される。
【0021】
酸性成分除去工程は、ガス分に含まれる酸性成分、とりわけ二酸化炭素及び硫化水素を除去する工程である。クエンチ工程で得られたガス分には、酸性成分として二酸化炭素及び硫化水素が含まれており、これらの酸性成分は下流の精製装置で用いられる触媒の被毒による失活につながる。酸性成分除去工程は、酸性成分を予め除去するために、採用される工程である。
酸性成分除去工程について、その他詳細については、後述する。
【0022】
熱分解工程、クエンチ工程、圧縮工程は、従来からエチレンの製造方法において通常採用される工程であり、例えば原料油に対する水蒸気の供給量、その他各工程において用いられる各機器の構成、各工程(各機器)における温度条件、圧力条件等の諸条件については、特に制限はなく、従来技術に基づき適宜採用すればよい。また、酸性成分除去工程についても、従来からエチレンの製造方法において通常採用される工程である。既述のように、除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する点で異なるが、その他の各機器の構成、温度条件、圧力条件等の諸条件については、特に制限はなく、従来技術に基づき適宜採用すればよい。
【0023】
(原料油)
本実施形態の製造方法において用いられる原料油は、含酸素化合物の含有量が50質量ppm超である油である。
含酸素化合物としては、酸素原子を含む化合物であれば対象となるが、代表的には、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール;メチル-tert-ブチルエーテル等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトンといった化合物が挙げられる。これらの化合物はあくまでも例示であり、原料油に含まれ、かつ酸素原子を含む化合物であれば全てが対象となる。
【0024】
原料油に含まれる含酸素化合物の含有量は50質量ppm超である。本実施形態の製造方法によれば、このように多量の含酸素化合物を含む原料油であっても、使用することが可能である。
本実施形態の製造方法で用いられる原料油に含まれる含酸素化合物の含有量は、例えば55質量ppm以上、65質量ppm以上、80質量ppm以上、100質量ppm以上であってもよく、上限としては特に制限はないが、通常300質量ppm以下である。
【0025】
原料油としては、特に制限はなく、原油を蒸留して得られる、一般にナフサ留分、灯油留分、軽油留分、重油留分等と称される各種留分を使用することができ、中でもナフサが好ましく用いられる。ナフサ、また他の留分は、原油を石油精製装置により精製して得られたものを用いればよく、他製油所で精製したものを用いることもできる。
【0026】
原料油としては、上記原油由来の原料油の他、バイオマス由来の原料油、例えばバイオオイル、中でもバイオナフサと称されるバイオ由来のナフサを用いることが好ましい。原油由来のナフサの代替として使用可能であり、かつ環境負荷の低減に大きく寄与し得る。
また、原料油としては、上記原油由来の原料油を単独で又は複数種で用いてもよく、上記バイオ由来のバイオオイルを単独で又は複数種で用いてもよく、またこれら原油由来の原料油とバイオ由来のバイオオイルとを混合して用いてもよい。
【0027】
上記バイオオイル等のバイオマス由来の原料油の原料となるバイオマスとしては、特に制限なく、化石燃料を除く、動植物に由来する有機物である資源であればよく、例えば草本系バイオマス、木質系バイオマス、微生物由来バイオマス、藻類系バイオマス、有機性廃棄物系バイオマス等が代表的に好ましく挙げられる。本実施形態の製造方法においては、これらのバイオマスのうち、バイオマスに由来するバイオオイルを単独で用いてもよいし、複数種のバイオオイルを組合せて用いてもよい。
【0028】
(酸性成分除去工程)
本実施形態の製造方法は、圧縮工程から圧送されたガス分に含まれる酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収工程及び酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生工程を有する、酸性成分除去工程を有する。
【0029】
圧縮工程から圧送されたガス分には、酸性成分が含まれる。酸性成分としては、既述のように、二酸化炭素、硫化水素等が代表的に挙げられ、これらは単独で、又は両方同時に含まれ得る。
ガス分に二酸化炭素、硫化水素が含まれる場合、二酸化炭素の含有量は使用する原料油、熱分解工程及びクエンチ工程における状況に応じてかわり得るため一概にはいえないが、通常20~100molppm、硫化水素の含有量は通常350~500molppmである。これらの酸性成分は、下流の精製装置で用いられる触媒の被毒につながるため、予め除去する必要がある。酸性成分除去工程において酸性成分である二酸化炭素及び硫化水素の濃度は、より効率的に触媒寿命のより長期化を図る観点から、好ましくは5molppm以下、より好ましくは3molppm以下である。
【0030】
上記酸性成分の除去に用いられる除去用溶液としては、好ましくはアミン化合物を含むアミン水溶液が挙げられる。アミン化合物としては、水に溶解する化合物であって、二酸化炭素、硫化水素等の酸性成分と反応することで酸性成分を吸収し、加熱することで吸収した酸性成分を回収し、再生し得る化合物であれば特に問題なく使用可能である。例えば、モノエタノールアミン、エチルモノエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン化合物;2-メチルイミダゾリン等の脂環式アミン化合物などが好ましく挙げられる。中でも、汎用性、低濃度の酸性成分の吸収を行いやすいアルカノールアミン化合物が好ましく、モノエタノールアミンがより好ましい。
【0031】
例えば、アミン化合物としてモノエタノールアミンを用いる場合、以下の反応式で示される酸性成分を吸収する吸収反応、及び酸性成分を吸収したアミン化合物から酸性成分を回収し、アミン化合物を再生する再生反応が生じる。
(吸収反応)
(COH)NH+CO+HO→(CHNH)HCO (1-1)
(COH)NH+HS→(CHNH)HS (2-1)
(再生反応)
(CHNH)HCO→(COH)NH+CO+HO (1-2)
(CHNH)HS→(COH)NH+HS (2-2)
【0032】
上記反応式(1-1)と(1-2)、及び(2-1)と(2-2)に示されるように、モノエタノールアミンは酸性成分との反応により酸性成分を吸収し、再正反応により酸性成分は除去され、もとのモノエタノールアミンに再生される。吸収反応は通常20~50℃で行われ、再生反応は吸熱反応であるため110~120℃で行われる。
また、酸性成分を吸収した除去用溶液はリッチ溶液(アミン化合物の場合は「リッチアミン」)、再生した除去用溶液はリーン溶液(アミン化合物の場合は「リーンアミン」)と称される。
【0033】
酸性成分除去工程を行うための酸性成分除去設備としては、上記吸収工程及び再生工程を行える構成を有する設備であれば特に制限なく採用することができる。図1は酸性成分除去設備の好ましい一態様を示すフロー図である。
【0034】
図1には、酸性成分除去設備が、圧縮工程から圧送されたガス分に含まれる酸性成分を除去用溶液で吸収する吸収塔、及び吸収塔で酸性成分を吸収した除去用溶液から酸性成分を除去して再生する再生塔を有することが示されている。
【0035】
図1には、これらの吸収塔及び再生塔に付随する装置として、除去用溶液を吸収塔と再生塔との間で循環させる循環装置を有しており、吸収塔の底部から抜き出された酸性成分を吸収した除去用溶液(リッチ溶液)が再生塔に供給され、再生塔で再生された除去用溶液(リーン溶液)が吸収塔に供給されることが示されている。
【0036】
また、再生塔における酸性成分の除去に必要な熱を供給するリボイラを有することも示されている。酸性成分を吸収した除去用溶液から酸性成分を除去する反応は、既述のように吸熱反応であることから、リボイラにより熱を供給することで吸熱反応を進行させて、除去用溶液の再生が行われる。
また、除去用溶液から除去された酸性成分は、水蒸気を伴うことから冷却して水分を除いた後、回収される。
【0037】
(酸性成分除去工程におけるメタノール濃度の測定、除去用溶液の廃棄及び供給)
本実施形態の製造方法では、酸性成分除去工程において、酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する。
【0038】
酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/L以下となるように、除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する方法としては、例えば
(i)メタノール濃度が300mg/Lを超過したところで、除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給して(以下、除去用溶液の少なくとも一部の廃棄及び新たな除去用溶液の供給を、単に「除去用溶液の廃棄及び供給」と称することがある。)、300mg/L以下の所定の濃度まで低減させる方法、
(ii)メタノール濃度が300mg/Lを超過する前に除去用溶液の廃棄及び供給を行い、300mg/L以下の所定の濃度まで低減させる方法、
(iii)メタノール濃度を300mg/L以下の所定の濃度(例えば300mg/L、200mg/L、100mg/L等)で維持するように除去用溶液の廃棄及び供給を行う方法、
等が好ましく挙げられる。
【0039】
本実施形態の製造方法においては、上記(i)~(iii)のいずれの方法を採用してもよく、いずれの方法によっても、幅広い原料油、とりわけ含酸素化合物を含む原料油に対応しつつ、品質の高いエチレン及びプロピレンを安定的にかつ安価に製造することができる。より効率的に品質の高いエチレン及びプロピレンを製造する観点から、上記(i)の方法が好ましい。また、品質の向上を特に考慮すると上記(ii)及び(iii)の方法が好ましく、効率性を考慮すると(ii)がより好ましい。
【0040】
メタノール濃度の測定は、除去用溶液の組成の安定性(特に溶液中のメタノール濃度の安定性)、測定のしやすさ等を考慮すると、除去用溶液だけが存在する箇所、すなわち吸収塔と再生塔との間を循環させる除去用溶液の配管内を通過する除去用溶液を用いて測定することが好ましい。また、プロピレンに混入するメタノール濃度との相関関係が良好であり、メタノール濃度の増減を把握しやすいことを考慮すると、図1に示されるように、吸収塔の底部から抜き出される除去用溶液(リッチ溶液)を用いて測定することがより好ましい。
【0041】
メタノール濃度の測定は、サンプリングした試料について測定してもよいし、オンラインの分析計を用いて常時測定してもよい。上記(i)及び(ii)の方法の場合はサンプリングした試料の測定で足りるが、上記(iii)のようにメタノール濃度を維持する場合は、オンラインの分析計を用いて常時測定することが好ましい。
サンプリングした試料について測定する場合は、例えば1日に1回、3日に1回、5日に1回といったように1日~数日に1回の頻度、あるいは1日に1回又は複数回の頻度で行えばよい。
【0042】
除去用溶液の廃棄は、廃棄のしやすさを考慮すると、除去用溶液だけが存在する箇所、すなわち吸収塔と再生塔との間を循環させる除去用溶液の配管内を通過する除去用溶液を廃棄することが好ましい。すなわち、吸収塔の底部から抜き出される除去用溶液(リッチ溶液)、再生塔で再生された除去用溶液(リーン溶液)のいずれかを廃棄することが好ましい。より効率的にメタノールを廃棄することを考慮すると、メタノール濃度が比較的高い、吸収塔の底部から抜き出される除去用溶液(リッチ溶液)を廃棄することがより好ましい。
【0043】
上記(i)の場合、メタノール濃度が300mg/Lを超過する時間は、エチレン及びプロピレンの品質の向上を考慮すると、短ければ短いほど好ましく、除去用溶液の廃棄及び供給は300mg/Lを超過したことが判明した後、速やかに行うことが好ましい。より具体的には、除去用溶液の廃棄及び供給は、超過が判明してから、好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内、更に好ましくは30分以内、より更に好ましくは15分以内に開始する。
【0044】
上記(i)の場合、除去用溶液の廃棄量は、廃棄し、新たに供給した後の、メタノール濃度が300mg/L以下となっていれば特に制限はないが、より余裕をもってプロピレンに混入するメタノールの量を低減する観点から、メタノール濃度を好ましくは200mg/L以下とする量、より好ましくは150mg/L以下とする量、更に好ましくは100mg/L以下とする量、より更に好ましくは90mg/L以下とする量である。
【0045】
上記(ii)の場合、除去用溶液の廃棄及び供給を行う、メタノール濃度の管理値としては、300mg/L以下であれば特に制限はないが、より確実に300mg/Lを超えないようにする観点から、例えば10mg/L、50mg/L、100mg/L、150mg/L、200mg/L、250mg/Lといった目標値を設定することができる。
上記(ii)の場合、除去用溶液の廃棄及び供給を行う、メタノール濃度の管理値を超過する時間は、上記(i)の場合と同じとすればよい。
【0046】
上記(ii)の場合、除去用溶液の廃棄量は、廃棄し、新たに供給した後の、メタノール濃度が上記管理値よりも低くなっていれば特に制限はなく、上記管理値に応じてかわり得るため一概にはいえないが、より余裕をもってプロピレンに混入するメタノールの量を低減する観点から、メタノール濃度を好ましくは管理値の80%以下とする量、より好ましくは管理値の70%以下とする量、更に好ましくは管理値の50%以下とする量、より更に好ましくは管理値の25%以下とする量である。
【0047】
上記(iii)のようにメタノール濃度を維持する場合は、随時必要に応じた量を廃棄すればよく、また例えば維持するメタノール濃度より5~10mg/L程度低い濃度となるような廃棄量としてもよい。このように、上記(iii)のメタノール濃度の維持は、メタノール濃度を厳密に同じ濃度に維持するだけでなく、例えば±1mg/L、±3mg/L、5mg/L、最大±10mg/Lの変動を許容するものである。
上記(iii)の場合、メタノール濃度を維持する目標値としては、300mg/L以下であれば特に制限はないが、より確実に300mg/Lを超えないようにする観点から、例えば10mg/L、50mg/L、100mg/L、150mg/L、200mg/L、250mg/Lといった目標値を設定することができる。
【0048】
上記(i)~(iii)の場合、除去用溶液のより具体的な廃棄量としては、除去用溶液の循環量に応じてかわり得るため一概にはいえないが、除去用溶媒の循環量を100とした場合に、好ましくは0.4以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上であり、上限として好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは7以下である。
除去用溶液の廃棄については、例えば1回で行ってもよいし、1回廃棄した後のメタノール濃度の測定結果に応じて、2回目の廃棄行うといったように複数回で行ってもよい。
【0049】
除去用溶液の供給について、除去用溶液を供給する箇所としては、例えば図1に示されるように、吸収塔から再生塔への供給ラインとすればよい。
また、除去用溶液の供給量は、廃棄量に応じて決定すればよく、具体的には除去用溶液の循環量を維持するため、廃棄量と同じ量とすればよい。本実施形態の製造方法において、「廃棄量と同じ量」は、厳密に同じである場合はもちろんのこと、±5%の誤差を許容することを意味する。
【0050】
除去用溶液の廃棄及び供給は、例えば廃棄を先に行ってから供給を行ってもよいし、供給を先に行ってから廃棄を行ってもよいし、廃棄及び供給を同時に行ってもよい。より効率的に廃棄及び供給を行う観点から、使用済みの除去用溶液の廃棄を先に行い、新たな除去用溶液を供給することが好ましい。
【0051】
(クエンチ工程におけるメタノール濃度の測定、クエンチ水の廃棄及び供給)
本実施形態の製造方法において、上記のクエンチ工程において、上記の熱分解工程から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、新たにクエンチ水を供給することが好ましい。
【0052】
既述のように、原料油に含酸素化合物としてメタノールが含まれる場合は当該メタノール、また含酸素化合物としてメタノール以外の化合物が含まれる場合は、熱分解炉における反応により生成するメタノールが分解ガスに含まれる。メタノールは水に溶解しやすいという性状を有することから、特にクエンチ工程における分解ガスのクエンチに用いるクエンチ水に、分解ガス中のメタノールが溶解する。クエンチ工程で使用したクエンチ水は、通常熱分解工程における熱分解炉にリサイクルするため、熱分解工程からクエンチ工程にかけてメタノールが濃縮する場合がある。そのため、クエンチ水に含まれるメタノール濃度を管理することで、プロピレンに混入するメタノールの量を低減し、プロピレン中のメタノール濃度の向上を、より抑制することができる。
【0053】
クエンチ工程におけるクエンチ水のメタノール濃度の管理について、図2を用いながら説明する。図2はクエンチ設備の好ましい一態様を示すフロー図である。
図2には、上記の熱分解工程から供給される分解ガスが、クエンチ塔でクエンチ水と接触して冷却された後、圧縮工程に供給されること、クエンチ水はクエンチ塔の底部から抜き出され、クエンチ塔の上部より供給されること、またクエンチ塔の底部から抜き出されたクエンチ水が、熱分解工程にリサイクルすることが示されている。
【0054】
クエンチ水に含まれるメタノール濃度の測定は、クエンチ水の組成の安定性(特にクエンチ水中のメタノール濃度の安定性)、測定のしやすさ等を考慮すると、クエンチ水の配管内を通過するクエンチ水を用いて測定することが好ましい。例えば、図2に示されるように、クエンチ塔の底部から抜き出されるクエンチ水を用いて測定することがより好ましい。
【0055】
メタノール濃度の測定は、サンプリングした試料について測定してもよいし、オンラインの分析計を用いて常時測定してもよい。サンプリングした試料について測定する場合は、例えば1日に1回、3日に1回、5日に1回といったように1日~数日に1回の頻度、あるいは1日に1回又は複数回の頻度で行えばよい。
【0056】
クエンチ水の廃棄は、廃棄のしやすさを考慮すると、クエンチ水だけが存在する箇所、すなわちクエンチ塔の底部から抜き出され、クエンチ塔の上部より供給するまでの配管内、また図2に示される循環ポンプの下流で熱分解工程へのリサイクル用に抜き出される配管内を通過するクエンチ水を廃棄することが好ましい。また、図2に示されるように、循環ポンプの下流で熱分解工程へのリサイクル用に抜き出される系に、排水設備への廃棄ラインがある場合はこれを利用すればよい。
【0057】
クエンチ水の廃棄量は、廃棄し、新たに供給した後の、メタノール濃度を好ましくは90mg/L以下とする量、より好ましくは80mg/L以下とする量、更に好ましくは70mg/L以下とする量、より更に好ましくは50mg/L以下とする量である。
【0058】
クエンチ水のより具体的な廃棄量としては、クエンチ水の循環量に応じてかわり得るため一概にはいえないが、クエンチ水の循環量を100とした場合に、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上であり、上限として好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは1以下である。
クエンチ水の廃棄については、例えば1回で行ってもよいし、1回廃棄した後のメタノール濃度の測定結果に応じて、2回目の廃棄行うといったように複数回で行ってもよい。
【0059】
クエンチ水の供給について、クエンチ水を供給する箇所としては、例えば図2に示されるように、クエンチ塔の底部から抜き出され、クエンチ塔の上部より供給するまでのラインとすればよい。
また、クエンチ水の供給量は、廃棄量に応じて決定すればよく、具体的にはクエンチ水の循環量を維持するため、廃棄量と同じ量とすればよい。本実施形態の製造方法において、「廃棄量と同じ量」は、上記除去用溶液と同様に、厳密に同じである場合はもちろんのこと、±5%の誤差を許容することを意味する。
【0060】
(熱分解工程における水蒸気の供給)
本実施形態の製造方法において、上記のクエンチ工程において、上記の熱分解工程から供給された分解ガスのクエンチに用いたクエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるように、前記クエンチ水の少なくとも一部を廃棄し、上記の熱分解工程において新たに水蒸気を供給することが好ましい。すなわち、新たに水蒸気を、上記のクエンチ水を新たに供給するかわりに供給する、又は上記のクエンチ水を新たに供給するものである。
【0061】
クエンチ工程におけるメタノール濃度の測定、クエンチ水の廃棄については、新たにクエンチ水を供給した場合と同じである。
【0062】
新たに供給する水蒸気は、原料油に供給する水蒸気に加えて供給すればよい。
また、水蒸気の供給量は、クエンチ水の廃棄量に応じて決定すればよく、具体的にはクエンチ水の循環量を維持するため、廃棄量と同じ量とすればよい。本実施形態の製造方法において、「廃棄量と同じ量」は、上記除去用溶液及びクエンチ水と同様に、厳密に同じである場合はもちろんのこと、±5%の誤差を許容することを意味する。
【0063】
(その他の工程)
本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法は、上記工程以外の工程として、例えば酸性成分除去工程を経て得られる分解ガスを精製し、純度の高いエチレン及び/又はプロピレンを得るための精製工程を有することができる。
精製工程としては、例えば脱メタン工程、脱エタン工程、脱プロパン工程等の蒸留塔、エチレン精留塔、プロピレン精留塔等の精留塔等を用いた不純物除去工程;分解ガスに含まれるアセチレンを水添反応によりエチレンとするアセチレン水添塔、メチルアセチレン及びプロパジエン(MAPD)を水添反応によりエチレンとするMAPD水添塔等の触媒を用いた反応工程;が代表的に好ましく挙げられる。
【0064】
上記精製工程は、原料油の性状、製品となるエチレン、プロピレンの要求性能等に応じて適宜採用すればよく、代表的には、酸性成分除去工程の後、分解ガスは、脱メタン塔、脱エタン塔、アセチレン水添塔、エチレン精留塔を経てエチレンを得る工程;上記脱エタン塔の塔底生成物はMAPD水添塔、プロピレン精留塔を経てプロピレンを得る工程;に分けられ、エチレン、プロピレンを製造することができる。
【0065】
〔エチレン及び/又はプロピレンの製造装置〕
本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置は、少なくとも、原料油の熱分解設備、クエンチ設備、圧縮設備及び酸性成分除去設備を備え、
前記酸性成分除去設備が、酸性成分を除去用溶液に吸収させる吸収設備及び前記酸性成分を吸収させた除去用溶液より酸性成分を除去して再生する再生設備を有し、かつ前記酸性成分を吸収させた除去用溶液中のメタノール濃度が300mg/Lを超過しないように、前記除去用溶液の少なくとも一部を廃棄し、新たに除去用溶液を供給する除去用溶液調節設備を有する、
というものである。
本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置によれば、上記本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法を容易に行うことができる。
【0066】
熱分解設備、クエンチ設備、圧縮設備及び酸性成分除去設備は、上記本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法で説明したとおりである。また、酸性成分除去設備が有する除去用溶液調節設備についても、上記本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法で説明したとおりである。
【0067】
クエンチ水に含まれるメタノール濃度が90mg/L以下となるようにするために用いられるクエンチ水調節設備、水蒸気調節設備についても、上記本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法で説明したとおりである。
【0068】
また、本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造装置は、上記本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法で採用され得る工程として説明したその他の工程、すなわち上記不純物除去工程、反応工程を行うための、上記の各種蒸留塔、精留塔、また水添塔等の反応塔を備えることもできる。
【実施例0069】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0070】
〔参考例〕
原料油の熱分解設備、クエンチ設備、圧縮設備、酸性成分除去設備及び精製設備を備え、クエンチ設備は図2に示されるクエンチ塔を有し、酸性成分除去設備は図1に示される構成を有するエチレン及び/又はプロピレン製造装置を用いて、エチレン及びプロピレンを製造した。原料油は以下の性状を有するナフサを使用し、酸性成分除去設備における除去用溶液としてモノエタノールアミン(MEA)溶液を用いた。
酸性成分除去設備において、除去用溶液(アミン溶液)の廃棄及び供給を行わず、運転を継続し、図1に示されるメタノール濃度の測定ポイントにおけるリッチアミン溶液中のメタノール濃度が14.5mg/L、450mg/L及び810mg/Lとなった際の、酸性成分除去設備の入口及び出口ガスに含まれるメタノールの濃度、並びにプロピレン中のメタノール濃度を測定した。また、入口及び出口ガスに含まれるメタノールの濃度の測定値より、酸性成分除去設備におけるメタノール除去率を算出した。以上の測定結果及び算出結果を、第1表に示す。また、リッチアミン溶液中のメタノール濃度と、メタノール除去率と、の関係を示すグラフを図3に示す。
(原料油)
製品ナフサ:性状(密度(15℃):0.70g/cm、蒸気圧(37.8℃):60kPa、蒸留試験90%点:118℃)、含酸素化合物(メチルターシャリーブチルエーテル 50-60質量ppm*1、エチルターシャリーブチルエーテル40質量ppm)
*1,参考例の運転中、製品ナフサの含酸素化合物として含まれるメチルターシャリーブチルエーテルの濃度は50~60質量ppmの間を推移していたことを示す。
【0071】
【表1】
【0072】
以上の参考例から、リッチアミン溶液中のメタノール濃度が450mg/Lの場合まではメタノール除去率は95%以上となっており、製品となるプロピレン中のメタノール濃度は0molppmとなり、品質の高いプロピレンが得られることが分かる。またエチレンにはメタノールが混入することはないため、リッチアミン溶液中のメタノール濃度によらず、品質の高いエチレンは得られる。これらの結果、また図3の結果から、メタノール除去率と、プロピレン中のメタノール濃度とには相関関係があり、リッチアミン溶液中のメタノール濃度を300mg/L以下とすることで、メタノール除去率は97%程度となり、品質の高いエチレン及びプロピレンが得られると考えられる。
【0073】
〔実施例1〕
上記参考例において、リッチアミン溶液中のメタノール濃度が300mg/Lとなったところで、リッチアミン溶液の一部を廃棄し、新たなアミン溶液を供給して150mg/Lまで低減させる(このときのリッチアミン溶液の廃棄量及び新たなアミン溶液の供給量は24000L(24m)であった。)操作を繰り返しながら運転を継続し、エチレン及びプロピレンを製造した。
得られたプロピレン中のメタノール濃度は0molppmであった。
【0074】
〔実施例2〕
上記参考例において、リッチアミン溶液中のメタノール濃度が150mg/Lとなったところで、リッチアミン溶液の一部を廃棄し、新たなアミン溶液を供給して75mg/Lまで低減させる(このときのリッチアミン溶液の廃棄量及び新たなアミン溶液の供給量は24000L(24m)であった。)操作を繰り返しながら運転を継続し、エチレン及びプロピレンを製造した。
得られたプロピレン中のメタノール濃度は0molppmであった。
【0075】
〔比較例1〕
実施例1において、リッチアミン溶液の一部除去及び新たなアミン溶液の供給を行わない以外は実施例1と同様にしてエチレン及びプロピレンを製造した。3日後におけるリッチアミン溶液中のメタノール濃度を測定したところ、450mg/Lとなり、プロピレン中のメタノール濃度は4molppmとなった。
【0076】
〔比較例2〕
実施例1において、リッチアミン溶液の一部除去及び新たなアミン溶液の供給を行わない以外は実施例1と同様にしてエチレン及びプロピレンを製造した。3日後におけるリッチアミン溶液中のメタノール濃度を測定したところ、800mg/Lとなり、酸性成分除去設備におけるメタノールの除去率は78%となった。また、プロピレン中のメタノール濃度は8molppmとなった。
【0077】
以上の実施例の結果から、除去用溶液のメタノール濃度を300mg/Lを超過しないように、除去用溶液の廃棄及び供給を行うことにより、酸性成分除去設備においてメタノールを除去することができ、結果として製品として得られるプロピレン中のメタノール濃度を低減することができ、品質の高いプロピレンを製造することができることが確認された。また、除去用溶液のメタノール濃度をより低く管理することで、より品質の高いプロピレンを製造することも確認された。
他方、比較例の結果から、除去用溶液のメタノール濃度を300mg/Lを超過しないように、除去用溶液の廃棄及び供給を行わないと、酸性成分除去設備においてメタノールを除去することができず、結果として製品として得られるプロピレン中のメタノール濃度を低減することができなくなり、品質の高いプロピレンを製造することはできないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本実施形態のエチレン及び/又はプロピレンの製造方法並びに製造装置によれば、幅広い原料油、とりわけ含酸素化合物を含む原料油に対応しつつ、品質の高いエチレン及びプロピレンを安定的にかつ安価に提供することが可能である。そのため、エチレン及び/プロピレンの工業用の製造方法及び製造装置として好適に用いられる。
図1
図2
図3