IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

特開2024-124748コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法
<>
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図1
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図2
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図3
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図4
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図5
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図6
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図7
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図8
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図9
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図10
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図11
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図12
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図13
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図14
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図15
  • 特開-コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124748
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20240906BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240906BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240906BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240906BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20240906BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/37
C12Q1/6869 Z
A01H6/46
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032641
(22)【出願日】2023-03-03
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】川口 謙二
(72)【発明者】
【氏名】八田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大木 健広
(72)【発明者】
【氏名】大藤 泰雄
【テーマコード(参考)】
2B030
4B063
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD04
2B030CA05
2B030CB02
2B030CG05
4B063QA01
4B063QA07
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS32
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットを提供すること。
【解決手段】2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性に関連する遺伝子座に連鎖したDNAマーカーを含む、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットであって、以下の(1)~(4):
(1)(i)配列番号1の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号1の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号2の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号2の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(2)(i)配列番号3の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号3の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号4の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(3)(i)配列番号5の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号5の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号6の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号6の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(4)(i)配列番号7の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号7の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号8の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号8の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含む、プライマーセット。
【請求項2】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットであって、以下の(5)~(7):
(5)(i)配列番号9の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号9の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号10の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号10の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(6)(i)配列番号11の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号11の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号12の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号12の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(7)(i)配列番号13の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号13の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号14の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号14の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含む、プライマーセット。
【請求項3】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットであって、以下の(8):
(8)(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
を含む、プライマーセット。
【請求項4】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、請求項1に記載のプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNAの量に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法。
【請求項5】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、請求項2に記載のプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNA領域の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法。
【請求項6】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、請求項3に記載のプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNA領域の塩基の多型に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法。
【請求項7】
前記(II)PCRで増幅されたDNA領域の塩基の多型に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程が、
(II-1)PCRで増幅されたDNAを制限酵素処理すること、及び
(II-2)制限酵素処理により得られたDNA断片の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定すること
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物における配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物における対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程を含む、方法。
【請求項9】
前記コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物が北海240号又は北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物であって、前記コムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程の前に、
(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を作出する方法であって、請求項4~9のいずれか一項に記載の方法を用いて前記コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により得られるコムギ属植物。
【請求項12】
請求項11に記載のコムギ属植物から得られた種子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コムギ縞萎縮病は保毒したPolymyxa graminisの媒介によるコムギ縞萎縮ウイルスの感染によって引き起こされる土壌伝染性の病害である。国内では小麦の主産地で多発し、汚染圃場の面積は年々拡大している。コムギ縞萎縮ウイルスは、判別品種の抵抗性反応の違いとRNA配列からI型、II型及びIII型の3つのタイプに分類されている(非特許文献1、非特許文献2)。コムギ縞萎縮病を発病したコムギ属植物は、葉が斑点状又は筋状の黄化を示し、被害が甚大な場合は大幅な減収を引き起こすため、小麦の安定生産には防除が不可欠である。コストの観点から、土壌処理剤による防除は行われず、対策は抵抗性品種の導入に限られている。
【0003】
通常、コムギ縞萎縮病の抵抗性を有する個体を選抜する際、コムギ縞萎縮病抵抗性の個体又はその後代と交配後に、汚染圃場における圃場試験又は接種試験による病徴観察やELISA法によるウイルス検定によりその抵抗性を判別する(非特許文献3)。また、染色体上の抵抗性遺伝子に連鎖したDNAマーカーも用いられている。
【0004】
コムギ縞萎縮病抵抗性を有する個体を選抜するためのDNAマーカーに関し、特許文献1には、5AL染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性に関連する遺伝子座に連鎖したDNAマーカーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第102260669号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大藤泰雄「日本におけるコムギ縞萎縮ウイルスの病原性の分化と判別条件」Bull.Natl.Agric.Res.Cent.Tohoku Reg.105,73-96(2006)
【非特許文献2】Ohkiet al., "Biological and Genetic Diversity of Wheat yellow mosaic virus(Genus Bymovirus)", Phytopathology 104 (3): 313-319 (2014).
【非特許文献3】大藤泰雄「コムギ縞萎縮病の発生生態に関する研究」Bull.Natl.Agric.Res.Cent.Tohoku Reg.104,17-74(2005)
【非特許文献4】Ishikawa et al., "MultifamilyQTL analysis and comprehensive design of genotypes for high-quality soft wheat",PLOS ONE 15 (3): e0230326 (2020).
【非特許文献5】Ishikawa et al., "Anefficient approach for the development of genome-specific markers inallohexaploid wheat (Triticum aestivum L.) and its application in theconstruction of high-density linkage maps of the D genome", DNA Research 25(3): 317-326 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでに、抵抗性品種の作出のために、コムギ縞萎縮病の抵抗性遺伝子を導入することが積極的に試みられている。作出においてコムギ縞萎縮病の抵抗性を判定するためのマーカーとしては、国内では主として2DL、3BS、5AL、6DL染色体上の抵抗性遺伝子に連鎖したDNAマーカーが用いられているが、抵抗性を打破する変異株の出現に備えて、新たな抵抗性遺伝子を探索することが必要である。
【0008】
本発明は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセット、及びコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、I型及びII型のコムギ縞萎縮病に対して抵抗性を示す品種として知られる北海240号が、圃場試験においてIII型のコムギ縞萎縮病に対しても抵抗性を有することを見出した。さらに、北海240号の2A染色体上にII型及びIII型のコムギ縞萎縮病に対する抵抗性における新たな主働QTL(Quantitative trait locus、量的形質遺伝子座)が存在すること及び該主働QTLの近傍のDNAマーカーを用いるとコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定可能であることを見出し、本開示を完成させた。
【0010】
すなわち、本開示は、以下の[1]~[14]に関する。
[1]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットであって、以下の(1)~(4):
(1)(i)配列番号1の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号1の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号2の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号2の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(2)(i)配列番号3の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号3の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号4の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(3)(i)配列番号5の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号5の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号6の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号6の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(4)(i)配列番号7の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号7の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号8の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号8の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含む、プライマーセット。
[2]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットであって、以下の(5)~(7):
(5)(i)配列番号9の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号9の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号10の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号10の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(6)(i)配列番号11の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号11の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号12の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号12の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(7)(i)配列番号13の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号13の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号14の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号14の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含む、プライマーセット。
[3]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットであって、以下の(8):
(8)(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
を含む、プライマーセット。
[4]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、[1]に記載のプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNAの量に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法。
[5]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、[2]に記載のプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNA領域の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法。
[6]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、[3]に記載のプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNA領域の塩基の多型に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法。
[7]上記(II)PCRで増幅されたDNA領域の塩基の多型に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程が、
(II-1)PCRで増幅されたDNAを制限酵素処理すること、及び
(II-2)制限酵素処理により得られたDNA断片の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定すること
を含む、[6]に記載の方法。
[8]コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物における配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物における対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程を含む、方法。
[9]上記コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物が北海240号又は北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物であって、上記コムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程の前に、(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程を含む、[8]に記載の方法。
[10]コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を作出する方法であって、[4]~[9]のいずれか一つに記載の方法を用いて上記コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程を含む、方法。
[11][10]に記載の方法により得られるコムギ属植物。
[12][11]に記載のコムギ属植物から得られた種子。
[13]上記コムギ属植物が普通系である、[1]~[12]のいずれか一つに記載のプライマーセット、方法、コムギ属植物又は種子。
[14]上記コムギ属植物がパンコムギである、[1]~[12]のいずれか一つに記載のプライマーセット、方法、コムギ属植物又は種子。
【発明の効果】
【0011】
本開示のプライマーセット及び方法によれば、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性をDNAマーカーにより判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】参考例2において、II型コムギ縞萎縮病に汚染された圃場での圃場試験におけるELISA値に基づく感染プロットを示す図である。
図2図2(a)は、コムギ属植物の2A染色体上のDNAの一部領域を増幅する既報のDNAマーカーが増幅する座標を示す図である。図2(b)は、参考例3におけるQTL解析の結果を示す図である。
図3】参考例4において、snp4215により判別された遺伝子型毎のIII型コムギ縞萎縮病に汚染された圃場での圃場試験におけるDIについて系統数のヒストグラムとして表した図である。
図4】参考例5において、snp4215により判別された遺伝子型毎のII型コムギ縞萎縮病に汚染された圃場での圃場試験におけるELISA値について箱ひげ図として表した図である。
図5】参考例6において、既報のDNAマーカーによる遺伝子型の判別結果と、ELISA値に基づくコムギ縞萎縮病罹病性/抵抗性評価の結果の相関を示す図である。
図6】実施例1において、新規の7種類のマーカーによる遺伝子型の判別結果と、ELISA値に基づくコムギ縞萎縮病罹病性/抵抗性評価の結果の相関を示す図である。
図7】実施例2において、新規の優性マーカーであるNHK4(配列番号1,2)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図8】実施例2において、新規の共優性マーカーであるNHK75(配列番号9,10)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図9】実施例2において、新規の優性マーカーであるNHK76(配列番号3,4)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図10】実施例2において、新規の優性マーカーであるNHK77(配列番号5,6)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中においてNとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図11】実施例2において、新規の優性マーカーであるNHK85(配列番号7,8)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図12】実施例2において、新規の共優性マーカーであるNHK114(配列番号11,12)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図13】実施例2において、新規の共優性マーカーであるNHK137(配列番号13,14)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、アガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
図14】実施例3において、ナンブコムギと北海240号の2A染色体上に検出された一塩基多型を示す図である。
図15】実施例3において、新規のCAPsマーカー(配列番号15,16)によりナンブコムギ、北海240号及びそのRILsから抽出したDNAをPCRで増幅し、制限酵素処理した後にアガロースゲル電気泳動により泳動した結果を示す図である。
図16】実施例4において、新規のCAPsマーカー(配列番号15,16)による遺伝子型の判別結果と、ELISA値に基づくコムギ縞萎縮病罹病性/抵抗性評価の結果の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本開示において、「植物」は、特段の限定がない限り、植物全体、植物細胞、植物プロトプラスト、植物カルス、又は植物の部分、例えば、胚、花粉、胚珠、配偶子、種子、葉、花、枝、果実、茎、根、葯等を含む。
【0015】
本開示において、コムギ属植物とは、イネ科コムギ属(学名:Triticum)に属する植物を意味する。
【0016】
コムギ属植物は、染色体数が14でありゲノムがAAで表される一粒系(2倍体)、染色体数が28でありゲノムがAABBで表される二粒系(4倍体)、染色体数が42でありゲノムがAABBDDで表される普通系(6倍体)の3つに分類される。二粒系のコムギ属植物としては、例えばデュラムコムギ(学名:Triticum durum、マカロニコムギとも呼ばれる。)等を挙げることができ、普通系のコムギ属植物としては、例えばパンコムギ(学名:Triticum aestivum、普通コムギとも呼ばれる。)及びスペルトコムギ(学名:Triticum spelta)等を挙げることができる。
【0017】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示に係るDNAマーカーは2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性に関連する遺伝子座に連鎖したものであるため、本開示に係るコムギ属植物は、一粒系、二粒系又は普通系のいずれであってもよい。栽培及び加工のしやすさの観点から、本開示に係るコムギ属植物は、普通系であることが好ましく、パンコムギ又はパンコムギ由来のコムギ属植物であることがより好ましく、パンコムギであることがさらに好ましい。
【0018】
コムギ縞萎縮病は、コムギ縞萎縮ウイルス(Wheat yellow mosaic virus、WYMV)により引き起こされる土壌伝染性のウイルス病害である。WYMVは、土壌中に生息する微生物であるPolymyxagraminisにより媒介される。
【0019】
コムギ縞萎縮ウイルスは、判別品種の抵抗性反応の違いとRNA配列からI型、II型及びIII型の3つのタイプに分類されている。具体的には、判別品種としてナンブコムギ、フクホコムギ及び北海240号を設定した場合に、接種試験においてナンブコムギ及びフクホコムギは抵抗性を示さないが北海240号は抵抗性を示すI型、ナンブコムギは抵抗性を示さないがフクホコムギ及び北海240号は抵抗性を示すII型並びにすべての判別品種が抵抗性を示さないIII型に分類されており、わが国においては、宮城県以南ではI型が優占し,岩手県以北はII型が優占することが明らかとなっている(非特許文献1)。
【0020】
本開示において、I型コムギ縞萎縮病とは、I型コムギ縞萎縮ウイルスによるコムギ縞萎縮病を意味する。本開示において、II型コムギ縞萎縮病とは、II型コムギ縞萎縮ウイルスによるコムギ縞萎縮病を意味する。本開示において、III型コムギ縞萎縮病とは、III型コムギ縞萎縮ウイルスによるコムギ縞萎縮病を意味する。
【0021】
本開示において、「コムギ属植物がコムギ縞萎縮病に感染する」とは、「コムギ属植物がコムギ縞萎縮病に罹病する」ことを意味する。本開示において、「コムギ属植物がコムギ縞萎縮病に罹病する」とは、「コムギ属植物が、体内で一定のウイルス濃度を超えた状態又はコムギ縞萎縮病の病徴程度が観察される状態に達する」ことを意味する。コムギ属植物がコムギ縞萎縮病に罹病したこと及びその病徴の程度は、達観による病徴観察や、ELISA法等により決定することができる。
【0022】
本開示の一側面は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットに関する。
【0023】
本開示の一側面に係るプライマーセットは、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するために、コムギ属植物から抽出されたDNA(以下では、「サンプル」とも呼ぶ。)をPCRにより増幅することに用いられる。
【0024】
本開示においてDNAの抽出に用いられるコムギ属植物の器官等の部分は、抽出されたDNAからコムギ縞萎縮病抵抗性を判定することができるものであれば特に限定されず、例えば胚、花粉、胚珠、配偶子、種子、葉、花、枝、果実、茎、根、葯等であってよく、好ましくは種子、葉、花、茎又は葯であり、より好ましくは種子又は葉であり、更に好ましくは葉である。また、DNA抽出の方法についても特に限定されず、通常用いられる方法、例えばMurray MG, Thompson WF, Nucleic Acids Research, 8, 4321-4326 (1980)に記載の方法(CTAB法)等により行うことができる。
【0025】
本開示において、コムギ縞萎縮病抵抗性とは、コムギ属植物が土壌中に存在するPolymyxa graminisが保毒するWYMVの感染に対する抵抗性を意味する。すなわち、本開示におけるコムギ縞萎縮病抵抗性は、WYMV感染性の土壌での圃場試験を含む栽培における土壌感染に対する抵抗性を意味する一方で、接種試験における抵抗性を意味するものではない。また、本開示において、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物とは、WYMV感染性の土壌での圃場試験においてコムギ縞萎縮病抵抗性を示すコムギ属植物を意味し、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物とは、WYMV感染性の土壌での圃場試験においてコムギ縞萎縮病罹病性を示すコムギ属植物を意味する。
【0026】
本開示において抵抗性が判定されるコムギ縞萎縮病は、I型、II型又はIII型のいずれであってもよい。すなわち、例えば本開示の一側面に係るプライマーセットは、I型、II型及びIII型のいずれの判定に用いることができる。本開示において抵抗性が判定されるコムギ縞萎縮病は好ましくはII型又はIII型であり、いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、III型コムギ縞萎縮病はI型コムギ縞萎縮病の原因となるWYMVが一定の耐性を獲得した変異株による病害であると考えられている(非特許文献2)ため、II型及びIII型のコムギ縞萎縮病に対して抵抗性であるコムギ属植物は、I型に対しても抵抗性である可能性が極めて高い。例えば、III型コムギ縞萎縮病抵抗性である北海240号は、接種試験においてI型コムギ縞萎縮病に対しても抵抗性を示す(非特許文献1)。
【0027】
本開示の一側面に係るプライマーセットは、以下の(1)~(4):
(1)(i)配列番号1の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号1の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号2の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号2の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(2)(i)配列番号3の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号3の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号4の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(3)(i)配列番号5の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号5の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号6の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号6の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(4)(i)配列番号7の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号7の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号8の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号8の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含むプライマーセット、以下の(5)~(7):
(5)(i)配列番号9の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号9の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号10の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号10の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(6)(i)配列番号11の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号11の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号12の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号12の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(7)(i)配列番号13の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号13の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号14の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号14の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含むプライマーセット又は以下の(8):
(8)(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
を含むプライマーセットである。配列番号1~16の塩基配列からなるプライマーを以下に示す。
配列番号1:CTCGACGAAGGTTTGCATGG(フォワードプライマー)
配列番号2:CCTCGACATCCAGGAACACC(リバースプライマー)
配列番号3:GCAAGGAGAGATAAAGTGGGGG(フォワードプライマー)配列番号4:TCCACCATCCTGTTGTCTCC(リバースプライマー)
配列番号5:GGGGGATAGAGAGAGAGAGAGC(フォワードプライマー)
配列番号6:TCCACCATCCTGTTGTCTCC(リバースプライマー)
配列番号7:GGTGAGATGCATTGTCTTCAGC(フォワードプライマー)
配列番号8:AGAGGCCATGTGAAGTTCGC(リバースプライマー)
配列番号9:CGCATGCTCTATCCAGAATGC(フォワードプライマー)
配列番号10:CTCTCCACCATTTCTCCTCTCG(リバースプライマー)
配列番号11:CAACAACCCGCTTTGACCG(フォワードプライマー)
配列番号12:TTACAAAAACCGACACCGCC(リバースプライマー)
配列番号13:TGGGTGGTCCTAGGTAAGGG(フォワードプライマー)
配列番号14:TATTCTCAAGGGCTCACGGC(リバースプライマー)
配列番号15:TTGGCCTGCTTTAAATGATTCCC(フォワードプライマー)
配列番号16:TTCCAACCCAAGCTCTACGAC(リバースプライマー)
【0028】
本明細書において、ヌクレオチド塩基の一文字コードは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)の定める塩基表記に従い使用している。プライマーは、塩基A、G、C、T若しくは類似体、又は縮重塩基(M、R、W、S、Y、K)からなっていてよい。
【0029】
本明細書において、「配列同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのDNA塩基配列をアラインさせた場合の最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全DNA塩基配列に対する同一塩基の割合(%)を意味する。アラインメントの作成及び配列同一性の算出には、例えば、EMBOSS Needle(EMBL-EBI提供 URL: https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)を用いることができる。
【0030】
各プライマーの長さは、目的のDNA領域を増幅可能である限り特に制限されないが、例えば、15塩基~50塩基、16塩基~40塩基、17塩基~35塩基、18塩基~30塩基、18塩基~26塩基又は19塩基~23塩基等であってよい。
【0031】
本開示の一側面に係るプライマーセットが含むことができるプライマーは、該プライマーが配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列からなるプライマーでない場合、一実施形態において、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーであってよく、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を3’末端側に含むヌクレオチドからなるプライマーであることが好ましく、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列のヌクレオチドからなるプライマーであることがより好ましい。上記プライマーにおける配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列との配列同一性は、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%であってもよい。
【0032】
他の一実施形態において、本開示の一側面に係るプライマーセットが含むことができるプライマーは、該プライマーが配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列からなるプライマーでない場合、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列に0~4個の変異が導入された塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーであってよく、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列に0~4個の変異が導入された塩基配列を3’末端側に含むヌクレオチドからなるプライマーであることが好ましく、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列に0~4個の変異が導入された塩基配列のヌクレオチドからなるプライマーであることがより好ましい。変異は、置換、欠失、挿入及び不可から選択される同一又は異なる変異であってよく、一塩基置換、一塩基欠失、一塩基挿入及び一塩基付加から選択されてもよい。上記プライマーにおける塩基配列に導入される変異の数は、0~4個、0~3個、0~2個、1~3個又は1若しくは2個であってもよい。
【0033】
他の一実施形態において、本開示の一側面に係るプライマーセットが含むことができるプライマーは、該プライマーが配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列からなるプライマーでない場合、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列の3’末端又は5’末端に0~4個のヌクレオチド付加又は欠失を含む塩基配列を含むプライマーであってよく、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列の3’末端又は5’末端に0~4個のヌクレオチド付加又は欠失を含む塩基配列を3’末端側に含むプライマーであることが好ましく、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列の3’末端又は5’末端に0~4個のヌクレオチド付加又は欠失を含む塩基配列からなるプライマーであることがより好ましい。上記プライマーにおける塩基配列のヌクレオチド付加又は欠失される塩基の数は、0~4個、0~3個、0~2個、1~3個又は1若しくは2個であってもよい。
【0034】
各プライマーは、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、又は化学的手段により検出可能な標識を有するものであってもよい。検出可能な標識としては、例えば、標識アビジン(例えば、蛍光標識ストレプトアビジン)で検出するビオチン、ハプテン、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド及びローダミン)、電子密度試薬、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼ)、及び放射性同位元素(例えば、32P、H、14C及び125I)が挙げられる。標識は、例えば、配列番号1~16のいずれかに示される塩基配列からなるプライマーと90%以上の配列同一性を有する塩基配列よりも5’末側に標識を有していてもよく、リンカーを介して標識されていてもよい。
【0035】
これらのプライマーは、当業者が通常行う方法により製造することができ、例えば液相又は固相における核酸合成により製造することができ、また適切な合成委託業者に合成を委託して入手することもできる。
【0036】
本開示の一側面に係るプライマーセットを用いると、PCR法により、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性に関連する2A染色体上の遺伝子座におけるDNAの一部領域を増幅することができる。PCRで増幅する際のDNA増幅反応としては、上記プライマーセットを用いてPCRで増幅できる限り特に制限されないが、例えば、非等温条件下での増幅反応であるPCR法や、これを応用したリアルタイムPCR法等であってよい。例えば、被験コムギ属植物からDNA抽出し、そのDNAを鋳型として上記プライマーセットを用いてPCR法によりDNA断片を増幅することであってよい。DNA増幅反応を行う際の反応液組成、温度サイクル条件の温度及び反応時間等は、核酸増幅法の種類、プライマーのTm値、使用する機器の仕様等を考慮して当業者が適宜設定することができる。PCR法の場合、例えば、反応液は、鋳型及び上記プライマーセット、DNAポリメラーゼの他、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、マグネシウムイオン、1以上の塩類、トリスバッファ(Tris-HCL)、EDTA、グリセロール及びpHバッファからなる群から選択される1以上を含んでいてもよい。また、例えば、90℃~98℃で30秒~180秒間の初期変性工程後、90℃~98℃で5秒~180秒間の変性工程、55℃~68℃で10秒~60秒間のアニーリング工程及び70℃~75℃で30秒~700秒の伸長工程を1サイクルとして、20サイクル~50サイクル行い、68℃~72℃で120秒~360秒の最終伸長工程を行う条件で核酸増幅反応を実施してもよい。また、例えば、95℃~98℃で60秒~120秒の初期変性工程後、95℃~98℃で20秒~30秒間の変性工程、55℃~60℃で20秒~30秒間のアニーリング工程及び70℃~75℃で30秒~60秒の伸長工程を1サイクルとして、38サイクル~42サイクル行い、68℃~72℃で240秒~300秒の最終伸長工程を行う条件で核酸増幅反応を実施してもよい。
【0037】
本開示の一側面に係る以下の(1)~(4):
(1)(i)配列番号1の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号1の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号2の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号2の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(2)(i)配列番号3の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号3の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号4の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(3)(i)配列番号5の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号5の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号6の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号6の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(4)(i)配列番号7の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号7の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号8の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号8の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含むプライマーセットに含まれるプライマーは、優性マーカーである。すなわち、サンプルがコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物から得られたものである場合には該プライマーセットを用いたPCRによりDNAの一部領域が増幅される一方で、サンプルがコムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物から得られたものである場合にはDNAの増幅が生じないため、PCRによるDNAの増幅の有無を指標として、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定することができる。PCRによるDNAの増幅の有無は、当業者が通常行う方法により評価することができ、例えば、アガロースゲル電気泳動、プローブを用いた蛍光分析又は吸光度測定等により確認できる。
【0038】
本開示の一側面に係る以下の(5)~(7):
(5)(i)配列番号9の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号9の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号10の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号10の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(6)(i)配列番号11の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号11の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号12の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号12の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(7)(i)配列番号13の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号13の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号14の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号14の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含むプライマーセットに含まれるプライマーは、共優性マーカーの一種であるSSRマーカー(Simple Sequence Repeatマーカー)である。SSR(単純反復配列、マイクロサテライトとも呼ばれる。)は、特定の数塩基からなるモチーフが複数回繰り返される配列であり、遺伝子型に依存してSSRの繰り返しの反復数が異なりうることが知られている。SSRマーカーは、SSRの繰り返しの反復数が異なることに由来したPCRで増幅されたDNAの長さの違いを指標として、遺伝子型を判別することができる。本開示に係るSSRマーカーにおいては、コムギ属植物から得られたサンプルについて該プライマーセットを用いたPCRにより増幅されるDNAの長さが、既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物から得られたサンプルにおいて増幅されるDNAの長さと一致する場合に、該コムギ属植物がコムギ縞萎縮病抵抗性であると判定することができる。PCRにより増幅されるDNAの長さは、当業者が通常行う方法により評価することができ、例えば、アガロースゲル電気泳動における分子量マーカーとの比較やフラグメント解析、DNAシーケンシング等により確認することができる。例えば、得られた増幅産物は、DNAシーケンサー等の適切な機器で分析してもよい。また、例えば、GeneMapperソフトウェアを用いて行ってもよく、この方法によれば、アガロースゲル電気泳動により目視で判断できない数塩基の差異も確認することができる。既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物としては、例えば北海240号又は北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を用いることができる。なお、本明細書において、「北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性の植物」とは、例えば、北海240号を使用して交配により作出した植物(例えば、超雄系統)、葯培養により作出した半数体を倍加した植物及び遺伝子組み換え技術等により作出した植物等であって、コムギ縞萎縮病に対して抵抗性を示すものを意味する。
【0039】
本開示の一側面に係る以下の(8):
(8)(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
を含むプライマーセットに含まれるプライマーは、CAPsマーカー(cleaved amplified polymorphic sequenceマーカー)である。すなわち、コムギ属植物から得られたサンプルについて該プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたDNAにおける遺伝子の多型から、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定することができ、遺伝子の多型は、例えばフラグメント解析、DNAシーケンシング又はdigital PCR法等により検出することができる。遺伝子の多型からコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する際には、例えばコムギ属植物から得られたサンプルについて該プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたDNAを制限酵素処理した際のDNA断片の長さが、既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物から得られたサンプルにおいて同様の処理をした場合のDNA断片の長さと一致する場合に、該コムギ属植物がコムギ縞萎縮病抵抗性であると判定することができる。DNA断片の長さは、当業者が通常行う方法により測定することができ、例えばDNA断片の分子量をその指標としてもよく、DNA断片の分子量の指標としては、例えばアガロースゲル電気泳動における泳動距離を用いることができ、またDNAシーケンシングにより測定することもできる。コムギ縞萎縮病抵抗性であると判定される場合における長さが一致するDNA断片の数は、例えば1つであってよく、2つであってもよく、2つ以上であってもよく、3つ以上であってもよい。既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物としては、例えば北海240号又は北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を用いることができる。制限酵素としては、例えばBsmFI(Bacillus stearothermophilus FI)、BsiYI、MnlI、BscGI、Sth132I、FinI及びHgaI等を用いることができる。
【0040】
本開示においてコムギ縞萎縮病抵抗性であると判定されるコムギ属植物は、1対の相同染色体の少なくとも一方において、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物と一致した増幅パターン(増幅の有無若しくは塩基長)又は遺伝子の多型を示すゲノムDNAを含むコムギ属植物であってよい。本開示の好ましい一実施形態においてコムギ縞萎縮病抵抗性であると判定されるコムギ属植物は、1対の相同染色体の両方において、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物と一致した増幅パターン(増幅の有無若しくは塩基長)又は遺伝子の多型を示すゲノムDNAを含むコムギ属植物である。
【0041】
本開示の他の一側面は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、以下の(1)~(4):
(1)(i)配列番号1の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号1の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号2の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号2の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(2)(i)配列番号3の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号3の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号4の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(3)(i)配列番号5の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号5の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号6の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号6の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(4)(i)配列番号7の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号7の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号8の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号8の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含むプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNAの量に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法、である。上述したように、これらのプライマーセットに含まれるプライマーは、優性マーカーであるから、サンプルがコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物から得られたものである場合には該プライマーセットを用いたPCRによりDNAの一部領域が増幅される一方で、サンプルがコムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物から得られたものである場合にはDNAの増幅が生じないため、PCRによるDNAの増幅の有無を指標として、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定することができる。PCRによるDNAの増幅の有無は、当業者が通常行う方法により評価することができ、例えばアガロースゲル電気泳動、プローブを用いた蛍光分析又は吸光度測定等により確認できる。
【0042】
本開示の他の一側面は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、以下の(5)~(7):
(5)(i)配列番号9の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号9の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号10の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号10の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(6)(i)配列番号11の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号11の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号12の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号12の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
(7)(i)配列番号13の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号13の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号14の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号14の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
からなる群より選択される1つ以上を含むプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNA領域の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法、である。上述したように、これらプライマーセットに含まれるプライマーは、共優性マーカーの一種であるSSRマーカーであるから、SSRの繰り返しの反復数が異なることに由来したPCRで増幅されたDNAの長さの違いを指標として、遺伝子型を判別することができる。本開示に係るSSRマーカーにおいては、コムギ属植物から得られたサンプルについて該プライマーセットを用いたPCRにより増幅されるDNAの長さが、既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物から得られたサンプルにおいて増幅されるDNAの長さと一致する場合に、該コムギ属植物がコムギ縞萎縮病抵抗性であると判定することができる。PCRにより増幅されるDNAの長さは、当業者が通常行う方法により評価することができ、例えば、アガロースゲル電気泳動における分子量マーカーとの比較やフラグメント解析、DNAシーケンシング等により確認することができる。例えば、得られた増幅産物は、DNAシーケンサー等の適切な機器で分析してもよい。また、例えば、GeneMapperソフトウェアを用いて行ってもよく、この方法によれば、アガロースゲル電気泳動により目視で判断できない数塩基の差異も確認することができる。既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物としては、例えば北海240号又は北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を用いることができる。
【0043】
本開示の他の一側面は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、
(I)コムギ属植物のDNAにおいて、以下の(8):
(8)(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー;
を含むプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程、及び
(II)PCRで増幅されたDNA領域の塩基の多型に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程
を含む、方法である。上述したように、これらのプライマーセットに含まれるプライマーは、CAPsマーカー(cleaved amplified polymorphic sequenceマーカー)である。すなわち、コムギ属植物から得られたサンプルについて該プライマーセットを用いたPCR法により増幅されたDNAにおける遺伝子の多型から、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定することができ、遺伝子の多型は、例えばフラグメント解析、DNAシーケンシング又はdigital PCR法等により検出することができる。遺伝子の多型からコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する際には、例えばコムギ属植物から得られたサンプルについて該プライマーセットを用いたPCR法により増幅されたDNAを制限酵素処理した際のDNA断片の長さが、既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物から得られたサンプルにおいて同様の処理をした場合のDNA断片の長さと一致する場合に、該コムギ属植物がコムギ縞萎縮病抵抗性であると判定することができる。すなわち、一実施形態において、(II)PCRで増幅されたDNA領域の塩基の多型に基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程が、
(II-1)PCRで増幅されたDNAを制限酵素処理すること、及び
(II-2)制限酵素処理により得られたDNA断片の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定すること
を含んでもよい。DNA断片の長さは、当業者が通常行う方法により評価することができ、例えばDNA断片の分子量をその指標としてもよく、DNA断片の分子量の指標としては、例えばアガロースゲル電気泳動における泳動距離を用いることができ、またDNAシーケンシングにより測定することもできる。コムギ縞萎縮病抵抗性であると判定される場合における長さが一致するDNA断片の数は、例えば1つであってよく、2つであってもよく、2つ以上であってもよく、3つ以上であってもよい。既知のコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物としては、例えば北海240号又は北海240号に由来するコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を用いることができる。制限酵素としては、例えばBsmFI(Bacillus stearothermophilus FI)、BsiYI、MnlI、BscGI、Sth132I、FinI及びHgaI等を用いることができ、好ましくはBsmFIである。
【0044】
本開示の他の一側面は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法であって、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物における配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物における対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程を含む、方法、である。この場合、コムギ属植物のゲノムDNAにおいて、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物のゲノムDNAにおける配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAの遺伝子型が、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物のゲノムDNAと一致する場合には、該コムギ属植物はコムギ縞萎縮病罹病性と判定され、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物のゲノムDNAと一致する場合には、該コムギ属植物はコムギ縞萎縮病抵抗性と判定される。一実施形態においては、コムギ属植物のゲノムDNAにおいて、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物のゲノムDNAにおける配列番号17に記載の塩基配列の113番目、239番目、284番目、305番目及び/又は306番目に対応する塩基の多型が、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物のゲノムDNAにおける多型と一致する場合には、該コムギ属植物はコムギ縞萎縮病罹病性と判定され、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物のゲノムDNAにおける多型と一致する場合には、該コムギ属植物はコムギ縞萎縮病抵抗性と判定される。特定の一実施形態においては、コムギ属植物のゲノムDNAにおいて、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物のゲノムDNAにおける配列番号17に記載の塩基配列の113番目に対応する塩基がアデニンである場合、239番目に対応する塩基がシトシンである場合、284番目に対応する塩基がシトシンである場合、305番目に対応する塩基がシトシンである場合、及び/又は306番目に対応する塩基がシトシンである場合には、該コムギ属植物はコムギ縞萎縮病罹病性と判定され、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物のゲノムDNAにおける配列番号17に記載の塩基配列の113番目のアデニンが欠失している場合、239番目のシトシンがアデニンとなっている場合、284番目のシトシンがグアニンとなっている場合、305番目のシトシンがアデニンとなっている場合、及び/又は306番目のシトシンがチミンとなっている場合には、該コムギ属植物はコムギ縞萎縮病抵抗性と判定される。本明細書において「対応するゲノムDNA」とは、通常同じ染色体の同じ遺伝子座に存在するゲノムDNAを意味し、例えば、配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAは、配列番号17を挟み込むように設計したプライマーのセットを用いたPCRにより増幅することができる。一実施形態において、上記コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物は北海240号であってよく、上記コムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程の前に、(i)配列番号15の塩基配列からなるプライマー若しくは配列番号15の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び(ii)配列番号16の塩基配列を含むプライマー若しくは配列番号16の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーを含むプライマーセットを用いてDNAの一部領域をPCRで増幅する工程を含んでよい。また一実施形態において、コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物における配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物における対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型の検出は、PCRで増幅されたDNAを制限酵素処理すること及び制限酵素処理により得られたDNA断片の長さに基づいてコムギ縞萎縮病抵抗性を判定することを含んでもよい。コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物(例えばナンブコムギ)における配列番号17に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物(例えば北海240号)における対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの間には、複数の塩基の多型が存在することから、これらの少なくとも1つを検出可能な方法を用いて遺伝子の多型を検出することにより、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定することができる。遺伝子の多型は、例えばフラグメント解析、DNAシーケンシング又はdigital PCR法等により検出することができる。
【0045】
配列番号17:TTGGCCTGCTTTAAATGATTCCCTTTTCATTCCCTTTGCTTCAGCCGGAAGAGAAAACGAACCTATAAACAAAATAAACAGAAAAGGAAAGCATTTAAAACAGGCCAAAAAAACAGCAAAATACGAGAAAAAAATAGCGTTACCACGTCAAGCCTTTTTGCCAAGCTTTAATGATATACTATAAGAAAATAAACAGAAAAGGAAAGCATTTATTTATTTTTAAGGAAAATAAATGACGCTTGTCGTCGCGCTGGCCGGTCTCTTTCGCCCGCCTTTCTCCCCCCTCCCCTTGGCCGCGTCCAACCCCTTTCCTCCACCGCTCACGCGCTTCCCTTCCCAGATCCCCCCACCCTCTCCCCTCCCTCGCCACCGAACCACCATACACCGAGCAGCCTCAGCTTCATTCTCCTCTCTTCCCATTCGGTCCCCGCGACTCGCTCCAGCCACATGCCACTGCCCCGTGATCCTCTTGCCGCCGCTGCCATTCCATTCCTCCCCACGACCTGCCGTGCTGATGATGGACGACCCGCCGCCCTCCTCGCTCCACCGGCTTCCCGTGCCGCCGCCGCCGCCGCCGCTGCTGCTTCTGCTTCTGTTGATGCTGGTCTCCGTCTCCTGCCCGCTCGCCCGCGCCGCCGCAGGTCCGTCTTCTTCTTCTTGGGTTTTCGCTCGCTTGCTTGCTTGTCTCTTTCTTGGACTACTTCCGGTGATCCAGGCGAGCTGATTCTGGGCGCTCTTGGTTTCTGCAGCGGCTGGAGGAGGACTTGGTGGTGCTCAGGAATGGGGCGCGAGCACGGACGCCGCTTCCGTTGAACTCAGGTGAGCTCGCGAATCCGCGGCGGCCTTGGTGATTTCAGTGCTATTAGTCATAGAGCTTCTTCATTTTTTTGCGAGATATTAGTCGTAGAGCTTGGGTTGGAA
【0046】
これらのコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法におけるDNAの抽出に用いられるコムギ属植物の器官等の部分、DNA抽出の方法、プライマーセット、PCR法及びコムギ属植物等は、本開示の一側面に係るプライマーセットにおいて説明したものと同様のものを用いることができる。
【0047】
本開示の他の一側面は、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を作出する方法であって、本開示の一側面に係るコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する方法を用いて上記コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定する工程を含む、方法である。コムギ属植物を作出する方法は、さらに、コムギ縞萎縮病抵抗性と判定されたコムギ属植物を選抜することを含んでもよい。判定する対象であるコムギ属植物は、交配後代コムギ属植物であってよく、北海240号又は北海240号に由来するコムギ属植物の交配後代コムギ属植物を片親又は両親とするコムギ属植物であってもよい。交配後代コムギ属植物は、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を片親又は両親として交配することにより得られた雑種第1代(F)であってもよく、さらなる交配により得られた雑種第2代(F)以降の植物、例えば、F、Fであってもよく、例えば、Fを両親のいずれかのコムギ属植物と戻し交雑をした第1代(BC)であってもよく、さらに戻し交雑をした第2代(BC)以降の植物であってもよい。
【0048】
コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を作出する方法は、例えば、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物とコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を交配することを含んでもよく、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物とコムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物を交配することを含んでもよい。コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物及びコムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物としては、既にコムギ縞萎縮病抵抗性であることが明らかとなっている品種を用いてもよいし、本開示の一側面に係るコムギ縞萎縮病抵抗性の判定方法によりコムギ縞萎縮病抵抗性を判定したコムギ属植物を用いてもよい。また、選抜した後、さらに交配をしてもよい。例えば、より優れた形質を有する交配後代植物を得るために、例えば、近親交配、戻し交雑及び連続戻し交雑等を行ってもよい。例えば、選抜したコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物をさらにコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物又はコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物と交配してもよい。
【0049】
本開示の一側面に係るコムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物を作出する方法により、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物及びその種子を得ることができる。
【実施例0050】
以下、本開示を実施例に基づきより具体的に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[参考例1:圃場試験における、ナンブコムギ及び北海240号のIII型コムギ縞萎縮病に対する抵抗性]
III型コムギ縞萎縮病に汚染された圃場においてナンブコムギ、北海240号及び対象品種を栽培し、達観による病徴程度から抵抗性を検討した。
【0052】
非特許文献1においてIII型コムギ縞萎縮病に対して罹病性品種に分類されたナンブコムギ及び北海240号、並びに罹病性対象品種である農林61号、シロガネコムギ、イワイノダイチ及びチクゴイズミの種子を、III型コムギ縞萎縮病に汚染された圃場(福岡県柳川市)に1条10粒を1区画として11月に播種し、翌年3月の発病調査に供試した。
【0053】
圃場において、達観により、各品種のコムギ縞萎縮病への罹病に由来すると認められる病徴の程度を評価した。評価は以下に示す発病指数(DI)を用いて行い、ナンブコムギについて2から5区画、北海240号について2から3区画、罹病性対象品種については2から4区画で評価した。3月に3度達観調査を実施し、そのうちの最高値を各区のDIとし、その平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
発病指数(DI)
6:1区画すべての個体が枯死
5:1区間で一部個体が枯死
4:病徴が激しく、明らかに生育が抑制
3:植物体全体で病徴が観察
2:縞萎縮病に特徴的な症状を確認(葉の明らかな黄化やかすり状の斑点など)
1:葉がわずかに黄化
0:生育異常なし
【0055】
【表1】
【0056】
結果として、ナンブコムギについては罹病性対象品種と同程度にIII型コムギ縞萎縮病への罹病に由来すると認められる顕著な病徴が認められた一方で、北海240号については病徴の程度が小さくなり、非特許文献1において両者ともにIII型コムギ縞萎縮病罹病性品種に分類されたことと一致しなかった。この原因としては、非特許文献1における試験(接種試験)と参考例1における試験(圃場試験)の間では、試験方法が異なることが考えられる。すなわち、参考例1の試験の結果から、北海240号がIII型コムギ縞萎縮病感染性の圃場においてIII型コムギ縞萎縮病に対して抵抗性であるという新規の知見が見出された。
【0057】
[参考例2:圃場試験における、ナンブコムギ及び北海240号のII型コムギ縞萎縮病に対する抵抗性]
II型コムギ縞萎縮病に汚染された圃場においてナンブコムギ、北海240号及び対象品種を栽培し、ELISA法により抵抗性を検討した。
【0058】
非特許文献1においてII型コムギ縞萎縮病に対して罹病性品種に分類されたナンブコムギ及び抵抗性品種に分類された北海240号、罹病性対象品種であるホクシン(北見66号)及びきたほなみ並びに抵抗性対象品種であるゆめちから及びゆめちから2020の種子を、II型コムギ縞萎縮ウイルスに汚染された圃場(北海道伊達市・帯広市)に10月上旬に播種し、翌年4月に発病調査に供試した。
【0059】
各区画において、3個体のコムギの地上部から葉を採取し、生重の約40倍量のTPBS(Tween20を0.05v/v%含有するPBS(pH7.4))を加えて乳鉢ですりつぶした(ELISA被検液)。96ウェルプレートの各ウェルに、γ-グロブリン濃度基準で0.5μg/mLのWYMV抗体を含有する溶液(WYMV抗体液)を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃で2時間静置した。WYMV抗体液を除去し、TPBSで3回洗浄した。各ウェルに、ELISA被検液を200μLずつ添加し、4℃で18時間静置した。ELISA被検液を除去し、TPBSで3回洗浄した。γ-グロブリン濃度基準で1μg/mLの、アルカリンホスファターゼ標識されたWYMV抗体を含有する溶液(標識WYMV抗体液)を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃で2時間静置した。WYMV抗体液を除去し、TPBSで3回洗浄した。各ウェルに、p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウムを1mg/mL含有する10v/v%ジエタノールアミン水溶液(基質液)を200μLずつ添加し、室温で2時間静置した。マイクロウェルプレートリーダー(TECAN社製、Infinite(登録商標)200PRO M)を用いて、各ウェルの405nmにおける吸光度を測定した。
【0060】
抵抗性の質的な評価として、ELISA被検液を用いて上述した測定を行った場合の吸光度が、滅菌土壌で栽培したコムギ地上部の葉を用いて上述した測定を行った場合の吸光度が4倍以上の場合には、ELISA被検液の調製に使用した葉を採取した区画に含まれるコムギがコムギ縞萎縮病に感染している、4倍未満である場合には感染していないとし、各品種における感染した区画の数についてのプロット(感染プロット数)を作成した。結果を図1に示す。
【0061】
また、抵抗性の量的な評価として、ELISA被検液を用いて上述した測定を行った場合の吸光度を、同量のTPBSを用いて上述した測定を行った場合の吸光度で除した値をELISA値とし、各品種におけるELISA値をナンブコムギ及び北海240号ではn=6-8、対象品種ではn=4について算出し、その平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
結果として、ナンブコムギは罹病性対象品種と同様に感染に分類される感染プロットを与え、かつELISA値が高くなった一方で、北海240号は抵抗性対象品種と同様に感染に分類される感染プロットを与えず、かつELISA値が低くなったことから、II型コムギ縞萎縮病感染性の圃場において、ナンブコムギはII型コムギ縞萎縮病罹病性、北海240号はII型コムギ縞萎縮病抵抗性であることが示された。
【0064】
[参考例3:QTL解析による、コムギ縞萎縮病抵抗性に関与する染色体領域の特定]
ナンブコムギ及び北海240号の葉の約50mgから、文献(Murray MG,Thompson WF, Nucleic Acids Research, 8, 4321-4326 (1980))記載の方法(CTAB法)により、DNAを抽出した。非特許文献4において、ナンブコムギと北海240号との間で多型が得られた480個のDNAマーカーを選抜し、非特許文献5に記載の方法によってアンプリコンシークエンス反応を実施した。
【0065】
シーケンシング解析結果と、参考例1及び2の結果に基づき、遺伝子連鎖解析ソフトウェアJoinMap4.0(Van Ooijen, J. W., and R. E. Voorrips. "JoinMap Version4.0." Software for the calculation of genetic linkage maps. Kyazma BV,Wageningen (2006).)を用いて連鎖地図を作成し、MapQTL(登録商標)6(VanOoijen, J. W., "MapQTL6" Software for the mapping of quantitativetrait loci in experimental populations of diploid species. Kyazma BV,Wageningen (2009).)を用いてQTLを検出した。連鎖地図の作成にあたっては、DNAマーカーのうち、分離にゆがみがあるものや、欠損が多いマーカーについてはQTL検出対象から削除した。2A染色体における結果を図2b及び表3に示す。図2bにおいて、LOD(logarithm of odds)とは、抵抗性遺伝子との連鎖を仮定した場合の尤度と、連鎖していないと仮定した場合の尤度の比の常用対数であり、一般にLODが3.0以上(連鎖が無いと仮定した場合と比較して連鎖する確率が1000倍以上高い)であると、信頼性の高いQTLであると判断される。表3において、PVE(phenotypic variance explained)とは、表現型分散のうち、QTLの効果によって生じる分散の割合(寄与率)であり、寄与率が高いほど、表現型への効果が高いQTLであることを意味する。表3において、Additive effectとは、顕性ホモ型と潜性ホモ型の遺伝子型値の差の半分の値を示し、顕性ホモとヘテロ型の遺伝子型値の差又はヘテロ型と潜性ホモ型の遺伝子型値の差に該当するパラメータである。なお、図2bに示されたDNAマーカーの配列は、公知文献(Ishikawa et al., "Developing core marker sets for effectivegenomic-assisted selection in wheat and barley breeding programs", BreedingScience 72: 257-266 (2022))において開示されている。
【0066】
なお、参考例1及び2に示した結果に加えて、参考例1の試験年が2007年において栽培したRILsについても、シーケンス解析結果及びELISA法による感染有無の判別結果を用いて感染プロットを作成し、QTLの検出に供した。この場合において、RILsの感染プロットは、後述する参考例4において得たコムギ属植物の葉を用いて、参考例2と同様の方法に従って得た基質液添加後の溶液における呈色反応に基づいて判定することによって、III型コムギ縞萎縮病への感染の有無を判別し、作成した。この場合の結果を、図2b及び表3に「2007_感染プロット」として示す。
【0067】
【表3】
【0068】
結果として、北海240号の2A染色体上に、II型及びIII型の両方のコムギ縞萎縮病の抵抗性に関与する主働QTLが検出された。
【0069】
[参考例4:主働QTL近傍のDNAマーカーを用いた、コムギ属植物のIII型コムギ縞萎縮病抵抗性の判定]
参考例3において北海240号の2A染色体上に見出されたコムギ縞萎縮病の抵抗性に関与する主働QTLの近傍のDNAマーカーであるsnp4215を用いて、コムギ属植物のIII型コムギ縞萎縮病抵抗性を判定可能であるかを検討した。判定対象としては、参考例1においてIII型コムギ縞萎縮病罹病性であったナンブコムギと参考例1においてIII型コムギ縞萎縮病抵抗性であった北海240号を交配することにより得られたRILs(recombinant inbred lines、組換え近交系)を用いた。
【0070】
ナンブコムギと北海240号の交配種子からF集団を作出した。その後の世代では個体から1粒のみを採種し、世代を促進する単粒法(Single Seed Descent法、SSD法)により、F~F11集団として、RILsを作出した。
【0071】
得られたRILsの種子を、参考例1と同様の方法により播種し、4カ月後に達観により発病程度(DI)を系統ごとに決定した。参考例3において、コムギ縞萎縮病の抵抗性に関与する主働QTLの近傍のDNAマーカーとして見出されたsnp4215(配列番号18、19)を用いて判別された遺伝子型ごとに、達観による発病程度(DI)をヒストグラムとして表した結果を図3に示す。
【0072】
snp4215
配列番号18:GAACTTTTGTTTCTTCTCTTGGGT(フォワードプライマー)
配列番号19:AAGATAAGGGAATAAATCCATCAGTT(リバースプライマー)
【0073】
結果として、snp4215がナンブコムギ型であった系統においては発病程度(DI)の値が大きく、III型コムギ縞萎縮病に罹病しやすい傾向があったのに対し、北海240号型であった系統においては発病程度(DI)の値が小さく、III型コムギ縞萎縮病に罹病しづらい、すなわちIII型コムギ縞萎縮病抵抗性を示すことが明らかとなった。
【0074】
[参考例5:主働QTL近傍のDNAマーカーを用いた、コムギ属植物のII型コムギ縞萎縮病抵抗性の判定]
参考例3において北海240号の2A染色体上に見出されたコムギ縞萎縮病の抵抗性に関与する主働QTLの近傍のDNAマーカーであるsnp4215を用いて、コムギ属植物のII型コムギ縞萎縮病抵抗性を判定可能であるかを検討した。判定対象としては、参考例1においてII型コムギ縞萎縮病罹病性であったナンブコムギと参考例1においてII型コムギ縞萎縮病抵抗性であった北海240号を交配することにより得られたRILs(recombinant inbred lines、組換え近交系)を用いた。
【0075】
参考例4と同様の方法により得られたRILsの種子を、参考例2と同様の方法により播種し、5カ月後にELISAを行ってELISA値を算出した。参考例3においてsnp4215(配列番号18、19)を用いて判別された遺伝子型ごとに、ELISA値を箱ひげ図として表した結果を、図4に示す。図中、***は、スチューデントのt検定において、p値が0.001未満であったことを示す。
【0076】
結果として、snp4215を用いた判別により遺伝子型がナンブコムギ型であると判別された系統においてはELISA値が大きく、II型コムギ縞萎縮病に罹病しやすい傾向があったのに対し、遺伝子型が北海240号型であると判別された系統においてはELISA値が小さく、II型コムギ縞萎縮病に罹病しづらい、すなわちII型コムギ縞萎縮病抵抗性を示すことが明らかとなった。
【0077】
[参考例6:既報のマーカーを用いた、2A染色体のコムギ縞萎縮病抵抗性原因遺伝子の存在領域の絞り込み]
コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーを設計するために、既報のマーカーにおける遺伝子型の判別結果とコムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性の相関関係から、2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性原因遺伝子の存在領域の絞り込みを行った。
【0078】
参考例3において北海240号の2A染色体上に見出されたコムギ縞萎縮病の抵抗性に関与する主働QTLの近傍のDNAマーカー5種類(tarc0497、snp4215、snp4212、tarc0493、tarc1685)及びtarc0497とsnp4215の間の領域に対応する既報のDNAマーカーXcfa2201(配列番号20、21)の計6種類のマーカーを用いて、ナンブコムギ、北海240号及び参考例5においてELISA値を測定したRILsの15系統について、それぞれの遺伝子型がナンブコムギ型又は北海240号型のいずれであるかを判別し、参考例5において測定したELISA値から決定される各RILsのコムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性との相関関係を調べた。各RILsのコムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性については、2017年及び2018年の測定から算出したELISA値のうち、少なくとも片方の年におけるELISA値が3.0以上であるRILsを、罹病性であるとした。結果を図5に示す。
【0079】
Xcfa2201
配列番号20:CAAACCAACCTCATTGACCC(フォワードプライマー)
配列番号21:CCACCAGAACTTCAACCTGG(リバースプライマー)
【0080】
結果として、snp4215及びsnp4212において北海240号型の遺伝子型を有すると判別されたRILs8種類のうち7種類においてコムギ縞萎縮病抵抗性を示し、かつナンブコムギ型の遺伝子型を有する判別されたRILs7種類全てにおいてコムギ縞萎縮病罹病性を示したのに対し、その上流のマーカーであるXcfa2201及び下流のマーカーであるtarc0493においてはそのような相関は見られなかったことから、コムギ属植物の2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性原因遺伝子は、Xcfa2201により増幅される領域とtarc0493により増幅される領域の間に存在することが明らかとなった。
【0081】
[実施例1:コムギ属植物の2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性に関与する共分離領域の特定と、優性マーカー及び共優性マーカーの開発]
参考例6においてsnp4215及びsnp4212を用いてナンブコムギ型の遺伝子型を有すると判別されたがコムギ縞萎縮病罹病性を示したRILsであるNHRILs-015において、snp4212及びその上流のマーカーを用いると北海240号型の遺伝子型を有すると判別される一方で、tarc0493及びその下流のマーカーを用いるとナンブコムギ型の遺伝子型を有すると判別される点を踏まえると、コムギ属植物の2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性の原因遺伝子は、snp4212により増幅される領域とtarc0493により増幅される領域の間の領域に存在すると考えられる。そこで、該領域に対応するDNAマーカーを複数開発し、コムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性との相関関係を調べるとともに、共分離領域(DNAマーカーによる遺伝子型の判別結果と、表現型の罹病性/抵抗性が一致するゲノムDNA領域)の特定を試みた。
【0082】
snp4212により増幅される領域とtarc0493により増幅される領域の間の領域に対応するDNAマーカーとして、上流から順にNHK4(優性マーカー、配列番号1,2)、NHK75(共優性マーカー、配列番号9,10)、NHK76(優性マーカー、配列番号3,4)、NHK77(優性マーカー、配列番号5,6)、NHK85(優性マーカー、配列番号7,8)、NHK114(共優性マーカー、配列番号11,12)及びNHK137(共優性マーカー、配列番号13,14)の計7種類のマーカーを設計及び開発した。設計及び開発は、プライマーデザインに使用可能な既報(Lianming Du et al., " Krait: an ultrafast tool for genome-wide survey of microsatellitesand primer design", Bioinformatics 34 (4): 681-683 (2018).)のソフトウェアKraitを用いて、コムギ属植物のリファレンスゲノムであるTriticum aestivum(Chinese Spring)のレファレンスゲノム(IWGSC RefSeq v2.0)の2A染色体上のSSR領域を探索し、発見された各SSRを増幅するプライマーをKraitを用いて設計することにより行った。開発したプライマーを用いて、PCRによってDNAを増幅した。PCRは、滅菌水8.2μL、gotaq green master mix(プロメガ社製)10.0μL、プライマーセットに含まれる各々のプライマーの10μM溶液の0.4μLずつ並びに増幅対象のDNAを含む滅菌水1.0μLの合計20μLを、まず94℃で3分間インキュベートし、続いて54~60℃と72℃で1分間ずつ交互にインキュベートするサイクルを35サイクル繰り返し、最後に72℃で5分間インキュベートすることにより行った。参考例6と同様の方法により、各RILsにおける各DNAマーカーによる遺伝子型を判別し、遺伝子型と、コムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性の相関関係について調べた。結果を図6に示す。
【0083】
結果として、NHK75、NHK76、NHK77、NHK85及びNHK114において、北海240号型の遺伝子型を有すると判別されたRILs8種類全ておいてコムギ縞萎縮病抵抗性を示し、かつナンブコムギ型の遺伝子型を有すると判別されたRILs7種類全てにおいてコムギ縞萎縮病罹病性を示したのに対し、NHK4及びNHK137においてはそのような相関関係は見られなかった。よって、共分離領域が特定され、コムギ属植物の2A染色体上のコムギ縞萎縮病抵抗性の原因遺伝子は、NHK4により増幅される領域とNHK137により増幅される長さ1.5Mbpの領域の間の領域に存在することが明らかとなった。特定された共分離領域からアノテーションすることにより、以下の表4に示す候補遺伝子が特定された。表4においては、上が上流、下が下流である。
【0084】
【表4】
【0085】
また、開発した7つのDNAマーカーについて着目すると、各マーカーにより「北海240号型の遺伝子型を有すると判別する」ことを「抵抗性と判定する」こと、「ナンブコムギ型の遺伝子型を有すると判別する」ことを「罹病性と判定する」こととした場合、コムギ縞萎縮病罹病性のRILs8系統及び抵抗性の7系統の合計15系統のうち、NHK75、NHK76、NHK77、NHK85及びNHK114においては15系統(100%)で、NHK4では14系統(93%)で、NHK137においては13系統(87%)でコムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性を正しく判定することができたことから、開発した7つのDNAマーカーは、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットに含まれるマーカーとして利用可能であることが示された。
【0086】
[実施例2:優性マーカー及び共優性マーカーを用いたコムギ縞萎縮病抵抗性の判定]
実施例1で開発した7種類のマーカーを用いて、北海240号とナンブコムギとを交配して参考例1と同様の方法で作出したRILsについて、実施例1と同様の方法によりサンプル調製及びDNAの増幅をした後に、3%アガロースゲルを用いて常法によりゲル電気泳動及び染色することによって、泳動パターンからコムギ縞萎縮病抵抗性の判定が可能であるかを検討した。NHK4(優性マーカー、配列番号1,2)の結果を図7に示す。NHK75(共優性マーカー、配列番号9,10)の結果を図8に示す。NHK76(優性マーカー、配列番号3,4)の結果を図9に示す。NHK77(優性マーカー、配列番号5,6)の結果を図10に示す。NHK85(優性マーカー、配列番号7,8)の結果を図11に示す。NHK114(共優性マーカー、配列番号11,12)の結果を図12に示す。NHK137(共優性マーカー、配列番号13,14)結果を図13に示す。図中において、Nとして示された2つのレーンがナンブコムギ、Hとして示された2つのレーンが北海240号であり、その他のレーンがRILs(又は分子量マーカー)である。
【0087】
結果として、全てのマーカーにおいて、全てのRILsがナンブコムギに一致するパターンか、北海240号に一致するパターンのいずれかに明確に弁別可能であったことから、実施例1で開発した7つのDNAマーカーは、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットに含まれるマーカーとして利用可能であることが示された。
【0088】
[実施例3:CAPSマーカーの設計及び、設計したマーカーを用いたゲノムDNAにおけるヌクレオチドの塩基の多型の検出]
実施例1において見出した共分離領域に含まれる表4に示した遺伝子のうち、mRNA_13.1(Probable inactive receptor-like protein kinase At3g56050)及びmRNA_13.2(Serine/threonine-protein kinase CDL1)は、糸状菌病やウイルス病等の病害の抵抗性に関連する遺伝子であることが報告されている。そこで、これらの遺伝子において、北海240号とナンブコムギとの間に遺伝子の多型が見られるかを検討した。検討に当たっては、実施例1と同様の方法によって、Chinese springのリファレンスゲノムを元に、遺伝子の全長を包括して増幅が可能なプライマーセットを開発した。開発したプライマーセットを用いて、PCRによってDNAを増幅した。PCRは、滅菌水33μL、10×buffer(東洋紡社製、KOD-4B)5.0μL、2mMのdTNP溶液(東洋紡社製、NTP-201)5.0μL、25mMの硫酸マグネシウム水溶液3.0μL、Kod-plus-neo(東洋紡社製)1.0μL、プライマーセットに含まれる各々のプライマーの10μM溶液の1.0μLずつ並びに増幅対象のDNAを含む滅菌水1.0μLの合計50μLを、まず94℃で2分間インキュベートし、続いて98℃で10秒間と74℃で5分間とで交互にインキュベートするサイクルを5サイクル繰り返し、続いて98℃で10秒間と72℃で5分間とで交互にインキュベートするサイクルを5サイクル繰り返し、続いて98℃で10秒間と70℃で5分間とで交互にインキュベートするサイクルを5サイクル繰り返し、最後に98℃で10秒間と68℃で5分間とで交互にインキュベートするサイクルを20サイクル繰り返すことにより行った。得られた増幅産物をフォーキングシークエンスに供した。なお、フォーキングシーケンスは、FASMAC社のDNAシーケンス解析 Premix2解析サービスによって行われた。結果を図14に示す。図中、088800-Nはナンブコムギの遺伝子、088800-Hは北海240号の遺伝子をそれぞれ表し、088800-Hにおける「・」は、そのDNAにおける塩基が088800-Nにおける対応するゲノムDNAに含まれる塩基と同一であることを表し、088800-Hにおける「-」は、その真上に位置する088800-Nにおける塩基が、088800-Hにおいては欠失していたことを表す。結果として、5箇所に遺伝子の多型が観測された。具体的には、北海240号の遺伝子において、ナンブコムギの遺伝子における配列番号17に記載の塩基配列の113番目のアデニンに対応する塩基が欠失し、239番目のシトシンに対応する塩基がアデニンになっており、284番目のシトシンに対応する塩基がグアニンになっており、305番目のシトシンに対応する塩基がアデニンになっており、かつ、306番目のシトシンに対応する塩基がチミンになっていた。したがって、図14に示したナンブコムギ(コムギ縞萎縮病罹病性のコムギ属植物)の染色体の一部領域におけるゲノムDNA、すなわち以下に示す配列番号17のゲノムDNAと、コムギ縞萎縮病抵抗性のコムギ属植物における対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、コムギ縞萎縮病抵抗性を判定できることが強く示唆された。
【0089】
配列番号17:TTGGCCTGCTTTAAATGATTCCCTTTTCATTCCCTTTGCTTCAGCCGGAAGAGAAAACGAACCTATAAACAAAATAAACAGAAAAGGAAAGCATTTAAAACAGGCCAAAAAAACAGCAAAATACGAGAAAAAAATAGCGTTACCACGTCAAGCCTTTTTGCCAAGCTTTAATGATATACTATAAGAAAATAAACAGAAAAGGAAAGCATTTATTTATTTTTAAGGAAAATAAATGACGCTTGTCGTCGCGCTGGCCGGTCTCTTTCGCCCGCCTTTCTCCCCCCTCCCCTTGGCCGCGTCCAACCCCTTTCCTCCACCGCTCACGCGCTTCCCTTCCCAGATCCCCCCACCCTCTCCCCTCCCTCGCCACCGAACCACCATACACCGAGCAGCCTCAGCTTCATTCTCCTCTCTTCCCATTCGGTCCCCGCGACTCGCTCCAGCCACATGCCACTGCCCCGTGATCCTCTTGCCGCCGCTGCCATTCCATTCCTCCCCACGACCTGCCGTGCTGATGATGGACGACCCGCCGCCCTCCTCGCTCCACCGGCTTCCCGTGCCGCCGCCGCCGCCGCCGCTGCTGCTTCTGCTTCTGTTGATGCTGGTCTCCGTCTCCTGCCCGCTCGCCCGCGCCGCCGCAGGTCCGTCTTCTTCTTCTTGGGTTTTCGCTCGCTTGCTTGCTTGTCTCTTTCTTGGACTACTTCCGGTGATCCAGGCGAGCTGATTCTGGGCGCTCTTGGTTTCTGCAGCGGCTGGAGGAGGACTTGGTGGTGCTCAGGAATGGGGCGCGAGCACGGACGCCGCTTCCGTTGAACTCAGGTGAGCTCGCGAATCCGCGGCGGCCTTGGTGATTTCAGTGCTATTAGTCATAGAGCTTCTTCATTTTTTTGCGAGATATTAGTCGTAGAGCTTGGGTTGGAA
【0090】
続いて、上述した配列番号17における変異を検出するCAPsマーカーとして、配列番号18及び19に示すプライマーを設計及び開発した。設計及び開発は、dCAPsfinder(Neff MM, Turk E and Kalishman M, "Web-based Primer Design forSingle Nucleotide Polymorphism Analysis." Trends in Genetics 18, 613-615(2002).)によってマーカーを作成する位置を特定し、その領域を増幅可能なマーカーをPrimerblast(アメリカ国立衛生研究所)を用いて作成した。開発したCAPsマーカーを用いて、ナンブコムギ、北海240号及びそのRILs3系統から参考例3と同様の方法によりDNAを抽出し、PCRにより増幅した。PCRは、滅菌水8.0μLにgotaq green master mix(プロメガ社製)10.0μL、配列番号18及び19のプライマーの10μM溶液を0.5μLずつ並びに増幅対象のDNAを含む滅菌水1.0μLの合計20μLを、まず94℃で4分間インキュベートし、続いて94℃で1分間、60℃で1分間及び72℃で2分間インキュベートするサイクルを35サイクル繰り返し、最後に72℃で5分間インキュベートすることにより行った。得られた増幅されたDNAを含有する溶液5μLに、CutSmart Buffer(10X,New England Biolabs Japan社製)1.0μL、BsmFI(New England Biolabs社製)0.2μL及び滅菌水3.8μLを添加した合計10μLの溶液を65℃で一晩インキュベートすることにより、制限酵素処理した後、3%アガロースゲルを用いた常法によりゲル電気泳動及び染色することによって、泳動パターンからコムギ縞萎縮病抵抗性の判定が可能であるかを検討した。結果を図15に示す。
【0091】
結果として、ナンブコムギ及び北海240号は互いに異なった泳動パターンを与え、かつ全てのRILsはそのいずれかと一致する泳動パターンを与えたことから、開発したCAPsマーカーを用いて、配列番号17に示したゲノムDNAにおけるヌクレオチドの塩基の多型を検出可能であることが示された。
【0092】
[実施例4:CAPsマーカーを用いたコムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性の判定]
実施例1において試験した15種類のRILsについて、実施例3と同様の方法により、それぞれの遺伝子型がナンブコムギ型又は北海240号型のいずれであるかを判別した。実施例1の結果と合わせて表した結果を図16に示す。なお、図16に示すように、配列番号18及び19で示されるCAPsマーカーにおいて増幅される領域は、NHK4の下流かつNHK75の上流に位置する。
【0093】
結果として、「北海240号型の遺伝子型を有すると判別する」ことを「抵抗性と判定する」こと、「ナンブコムギ型の遺伝子型を有すると判別する」ことを「罹病性と判定する」こととした場合、コムギ縞萎縮病罹病性のRILs8系統及び抵抗性の7系統の合計15系統のうち、14系統(93%)において縞萎縮病抵抗性/罹病性を正しく判定することができたことから、開発したCAPsマーカーは、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性を判定するためのプライマーセットに含まれるマーカーとして利用可能であることが示された。
【0094】
他方で、参考例6において、snp4212及びその上流のマーカーを用いると北海240号型の遺伝子型を有すると判別される一方で、tarc0493及びその下流のマーカーを用いるとナンブコムギ型の遺伝子型を有すると判別されるRILsであるNHRILs-015においては、開発したCAPsマーカーを用いてもナンブコムギ型の遺伝子型を有する、すなわちコムギ縞萎縮病罹病性であると判定されてしまった(実際には抵抗性)。よって、CAPsマーカーの開発において着目したmRNA_13.1(Probable inactive receptor-like protein kinase At3g56050)及びmRNA_13.2(Serine/threonine-protein kinase CDL1)は、コムギ属植物のコムギ縞萎縮病抵抗性に関与する2A染色体上の原因遺伝子ではなく、原因遺伝子はこれらよりもさらに下流の領域(長さ639kbp)に存在することが明らかとなった。該領域に存在するその他の病害関連遺伝子としてはmRNA_14.1(Ubiquitin-activating enzyme E1 2)、mRNA_18.1(Eukaryotic translation initiation factor 2 subunit alpha)、mRNA_19.1(Heat stress transcription factor A-2b)、mRNA_20.1(ABA receptor)及びmRNA_24.1(CASP-like protein 4B1)を挙げることができ、これらに対するCAPsマーカー又はSSRマーカー等のDNAマーカーを設計・開発することにより、より高い確率でコムギ縞萎縮病抵抗性/罹病性を正しく判定することができるプライマーセットを開発できると考えられる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2024124748000001.xml