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特開2024-124760半導体スイッチングデバイス、ブリッジ回路、および電力変換装置
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  • 特開-半導体スイッチングデバイス、ブリッジ回路、および電力変換装置 図1
  • 特開-半導体スイッチングデバイス、ブリッジ回路、および電力変換装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124760
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】半導体スイッチングデバイス、ブリッジ回路、および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
H02M3/28 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032655
(22)【出願日】2023-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「シャトルサービスモビリティを用いた走行中給電の実証実験」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
(72)【発明者】
【氏名】清水 修
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA02
5H730BB27
5H730BB66
5H730DD01
5H730DD03
5H730DD04
5H730DD16
5H730FG01
(57)【要約】
【課題】高調波を抑制することを可能とする半導体スイッチングデバイスを提供する。
【解決手段】定格電流の半分の電流が流れる場合に逆方向の導通抵抗が順方向の導通抵抗の300%以下である、半導体スイッチングデバイス(Q1~Q4)としている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定格電流の半分の電流が流れる場合に逆方向の導通抵抗が順方向の導通抵抗の300%以下である、半導体スイッチングデバイス。
【請求項2】
逆方向の導通抵抗と順方向の導通抵抗が等しい、請求項1に記載の半導体スイッチングデバイス。
【請求項3】
前記半導体スイッチングデバイスは、スイッチング素子を有し、
前記逆方向の導通抵抗は、前記スイッチング素子に内蔵されるボディダイオードの抵抗である、請求項1に記載の半導体スイッチングデバイス。
【請求項4】
前記スイッチング素子は、半導体材料としてSiまたはSiCを用いて構成される、請求項3に記載の半導体スイッチングデバイス。
【請求項5】
前記半導体スイッチングデバイスは、スイッチング素子と、前記スイッチング素子に逆並列接続される逆並列ダイオードと、を有する、請求項1に記載の半導体スイッチングデバイス。
【請求項6】
前記スイッチング素子は、半導体材料としてGaNを用いて構成されるパワーデバイスである、請求項5に記載の半導体スイッチングデバイス。
【請求項7】
前記スイッチング素子は、IGBTである、請求項5に記載の半導体スイッチングデバイス。
【請求項8】
ハイサイドのハイサイドスイッチとローサイドのローサイドスイッチとが直列に接続されて構成されるハーフブリッジを1つ以上備え、
前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチが請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の半導体スイッチングデバイスである、ブリッジ回路。
【請求項9】
前記ハイサイドスイッチとしての第1スイッチと、前記ローサイドスイッチとしての第2スイッチと、を有する第1ハーフブリッジと、
前記ハイサイドスイッチとしての第3スイッチと、前記ローサイドスイッチとしての第4スイッチと、を有する第2ハーフブリッジと、
を備え、
前記第1スイッチと前記第2スイッチとの間にデッドタイムが設けられ、
前記第1スイッチのオン期間が所定の位相シフト角でシフトされて前記第4スイッチのオン期間とされ、
前記第2スイッチのオン期間が前記位相シフト角でシフトされて前記第3スイッチのオン期間とされる、請求項8に記載のブリッジ回路。
【請求項10】
請求項8に記載のブリッジ回路を備える電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体スイッチングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイサイドのスイッチング素子とローサイドのスイッチング素子とを直列に接続して構成されるハーフブリッジを少なくとも1つ備えるブリッジ回路が知られている。例えば、ハーブフリッジを2つ設けるブリッジ回路は、フルブリッジ回路と呼ばれる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-16663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブリッジ回路では、出力電圧に発生する高調波成分を抑えることが重要となる。ブリッジ回路に備えられるスイッチング素子には、高調波成分を抑制するために改善の余地があった。
【0005】
本開示は、高調波を抑制することを可能とする半導体スイッチングデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、本開示に係る半導体スイッチングデバイスは、定格電流の半分の電流が流れる場合に逆方向の導通抵抗が順方向の導通抵抗の300%以下である構成としている。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る半導体スイッチングデバイスによれば、高調波成分を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の例示的な実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
図2図2は、位相シフト法を用いたスイッチング制御の一例を示すタイミングチャートである。
図3A図3Aは、位相シフト法を用いた場合の理想的な出力電圧Vpの波形を示す図である。
図3B図3Bは、位相シフト法を用いた場合の実際の出力電圧Vpの波形を示す図である。
図3B図3Cは、改善後の出力電圧Vpの波形を示す図である。
図4図4は、VI特性の一例を示す図である。
図5図5は、位相シフト法を用いたスイッチング制御を行う場合に生じる3つのモード(モード1,2,3)におけるスイッチング状態と出力電圧Vpを示す図である。
図6図6は、出力電圧Vpの周波数成分の理想的な分布と実測の分布の一例を示す。
図7図7は、出力電圧Vpにおけるn次の高調波成分を算出する理論式を示す図である。
図8A図8Aは、図7で示す理論式を用いてシミュレーションを行った結果の一例を示す。
図8B図8Bは、図7で示す理論式を用いてシミュレーションを行った結果の一例を示す。
図9A図9Aは、第1実施形態に係るスイッチングデバイスを示す図である。
図9B図9Bは、第2実施形態に係るスイッチングデバイスを示す図である。
図9C図9Cは、第3実施形態に係るスイッチングデバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
<1.電力変換装置>
図1は、本開示の例示的な実施形態に係る電力変換装置50の構成を示す図である。電力変換装置50は、1次側回路10と、2次側回路20と、を備え、ワイヤレス給電に用いることができる。
【0011】
1次側回路10は、ブリッジ回路1と、キャパシタCpと、トランスの1次側インダクタLpと、を有する。
【0012】
ブリッジ回路1は、2つのハーフブリッジHB1,HB2から構成される。すなわち、ブリッジ回路1は、フルブリッジインバータを構成する。
【0013】
ハーフブリッジHB1は、ハイサイドの半導体スイッチングデバイス(以下、単にスイッチングデバイス)Q1と、ローサイドのスイッチングデバイスQ2と、が直列に接続されて構成される。図1の例では、スイッチングデバイスQ1,Q2は、Nチャネル型MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)により構成される。スイッチングデバイスQ1のドレインは、直流電源Eの正極に接続される。スイッチングデバイスQ1のソースは、ノードN1にてスイッチングデバイスQ2のドレインに接続される。スイッチングデバイスQ2のソースは、直流電源Eの負極に接続される。
【0014】
ハーフブリッジHB2は、ハイサイドのスイッチングデバイスQ3と、ローサイドのスイッチングデバイスQ4と、が直列に接続されて構成される。図1の例では、スイッチングデバイスQ3,Q4は、Nチャネル型MOSFETにより構成される。スイッチングデバイスQ3のドレインは、直流電源Eの正極に接続される。スイッチングデバイスQ3のソースは、ノードN2にてスイッチングデバイスQ4のドレインに接続される。スイッチングデバイスQ4のソースは、直流電源Eの負極に接続される。
【0015】
ノードN1は、キャパシタCpの第1端に接続される。キャパシタCpの第2端は、1次側インダクタLpの第1端に接続される。1次側インダクタLpの第2端は、ノードN2に接続される。なお、キャパシタCpは、ノードN2と1次側インダクタLpの第2端の間に接続してもよい。
【0016】
2次側回路20は、図示しないトランスの2次側インダクタと、キャパシタと、整流回路と、出力コンデンサと、を有する。このような構成の電力変換装置50により、1次側から2次側へ電力伝送が行われる。
【0017】
なお、本開示のブリッジ回路は、フルブリッジに限らず、3つ以上のハーフブリッジから構成されるインバータであってもよいし、1つのハーフブリッジから構成されて同期整流を行うものであってもよい。
【0018】
<2.位相シフト法>
上記のような構成の電力変換装置50においては、ブリッジ回路1の出力電圧Vp(図1)において高調波成分を抑制するために位相シフト法と呼ばれるスイッチング制御が行われる。図2は、位相シフト法を用いたスイッチング制御の一例を示すタイミングチャートである。なお、図2においては、上段から順に、スイッチングデバイスQ1のゲート信号、スイッチングデバイスQ2のゲート信号、スイッチングデバイスQ3のゲート信号、スイッチングデバイスQ4のゲート信号、および出力電圧Vpの各波形を示す。
【0019】
スイッチングデバイスQ1のターンオフ(オン状態からオフ状態への切替え)とスイッチングデバイスQ2のターンオン(オフ状態からオン状態への切替え)との間にスイッチングデバイスQ1,Q2の同時オフ期間であるデッドタイムDT12が設けられる。デッドタイムは、ハイサイドとローサイドの短絡による貫通電流を防止するために設けられる。スイッチングデバイスQ2のターンオフとスイッチングデバイスQ1のターンオンとの間にスイッチングデバイスQ1,Q2のデッドタイムDT12が設けられる。
【0020】
スイッチングデバイスQ1のオン期間が位相角αだけシフトされてスイッチングデバイスQ4のオン期間とされる。なお、位相角αのシフトは、時間としてはα/ω(ω:角周波数)のシフトに相当する。スイッチングデバイスQ2のオン期間が位相角αだけシフトされてスイッチングデバイスQ3のオン期間とされる。
【0021】
これにより、スイッチング制御の1周期は、以下の通りとなる。スイッチングデバイスQ1,Q4がオン状態となる同時オン期間T14の後に、スイッチングデバイスQ3,Q4のデッドタイムDT34が設けられる。デッドタイムDT34の後に、スイッチングデバイスQ1,Q3の同時オン期間T13が設けられる。同時オン期間T13の後に、デッドタイムDT12が設けられる。デッドタイムDT12の後に、スイッチングデバイスQ2,Q3の同時オン期間T23が設けられる。同時オン期間T23の後に、デッドタイムDT34が設けられる。デッドタイムDT34の後に、スイッチングデバイスQ2,Q4の同時オン期間T24が設けられる。同時オン期間T24の後に、デッドタイムDT12が設けられる。
【0022】
位相シフト法によって、位相角α=π/nとすることにより、出力電圧Vpにおけるn次の高調波成分を抑制することができることが知られている。例えば、α=π/3とすることで、3次の高調波成分を抑制できる。
【0023】
<3.位相シフト法の課題>
しかしながら、位相シフト法において次のような課題があることが本願発明者による鋭意検討によって見出された。図3Aは、位相シフト法を用いた場合の理想的な出力電圧Vpの波形を示す。図3Aに示す波形は、スイッチングデバイスの順方向の導通抵抗および逆方向の導通抵抗がいずれも0であると仮定した場合に得られる。なお、順方向の導通抵抗は、スイッチングデバイスをオン状態とした場合の抵抗(オン抵抗)である。逆方向の導通抵抗は、例えば、図1のようにスイッチングデバイスがMOSFETである場合は、MOSFETに内蔵されるボディダイオードによる抵抗のことである。
【0024】
しかしながら、実際にはスイッチングデバイスには順方向の導通抵抗と逆方向の導通抵抗が存在する。図4は、電圧Vと電流IのVI特性における順方向のVI特性VI1と逆方向のVI特性VI2の一例を示す図である。スイッチングデバイスがオン状態の場合の導通による順方向のVI特性VI1では、電圧と電流ともに0から上昇する。一方、スイッチングデバイスがオフ状態の場合の逆方向導通(MOSFETであればボディダイオードを導通)によるVI特性VI2では、電圧が順電圧Vf0以下では電流は0であるが、順電圧Vf0を超えると電流が立ち上がる。図4は、一般的なスイッチングデバイスにおける特性であり、このように一般的には逆方向導通による導通抵抗は、順方向導通による導通抵抗に比べて大きい。
【0025】
このような順方向と逆方向の導通抵抗の差を考慮した場合、図3Bに示すような出力電圧Vpの波形となることが見出された。これについて、図5を参照して説明する。図5は、位相シフト法を用いたスイッチング制御を行う場合に生じる3つのモード(モード1,2,3)におけるスイッチング状態と出力電圧Vpを示す図である。
【0026】
先述したようにスイッチングデバイスQ1,Q4の同時オン期間T14(図2)は、図5に示すモード1に相当する。この場合、直流電源EがスイッチングデバイスQ1,Q
4に対して直列に接続される。電流Ipは、直流電源Eの正極からスイッチングデバイスQ1、Q4を順に経由して、直流電源Eの負極へ流れる。これにより、出力電圧Vp=E-2・Ron・Ipとなる。ただし、Ron:スイッチングデバイスの順方向の導通抵抗である。
【0027】
次に、スイッチングデバイスQ3,Q4のデッドタイムDT34(図2)では、スイッチングデバイスQ1はオン状態、Q2はオフ状態である。この場合は、図5に示すモード2に相当し、電流Ipは、スイッチングデバイスQ3のボディダイオードおよびスイッチングデバイスQ1を順に流れる。このように、ボディダイオードとMOSFETを還流することになり、出力電圧Vp=-(Ron+Rdi)・Ipとなる。ただし、Rdi:スイッチングデバイスの逆方向の導通抵抗である。
【0028】
次に、スイッチングデバイスQ1,Q3の同時オン期間T13(図2)では、スイッチングデバイスQ2,Q4はオフ状態であり、図5に示すモード3に相当する。この場合、電流Ipは、スイッチングデバイスQ3とQ1を順に流れる。このように、2つのMOSFETを還流することになり、出力電圧Vp=-2・Ron・Ipとなる。
【0029】
同時オン期間T13において、電流Ipの流れる方向が逆方向となり、出力電圧Vp=2・Ron・Ipとなる。以降、同時オン期間T23は、直流電源Eが接続されるモード1に相当し、デッドタイムDT12,DT34は、ボディダイオードとMOSFETを還流するモード2に相当し、同時オン期間T24は、2つのMOSFETを還流するモード3に相当する。
【0030】
これにより、導通抵抗を0とした場合の理想的な出力電圧Vpの波形は図3Aのようになり、波形のひずみがなく、高調波成分を抑制することができる。しかしながら、実際には、順方向および逆方向の導通抵抗による上記各モードの動作により、図3Bに示すように出力電圧Vpの波形にひずみが生じる。具体的には、図3Bに示すように、順方向と逆方向の導通抵抗の差により、モード2(デッドタイム)の期間の電圧値がモード3(還流)の期間の電圧値からずれることで、波形にひずみが生じている。これにより、位相シフト法を用いたとしても、実際には出力電圧Vpに除去しきれない高調波成分が残ることが分かる。
【0031】
図6は、出力電圧Vpの周波数成分の理想的な分布と実測の分布の一例を示す。なお、図6は、3次の高調波成分を抑制する位相シフト法(α=π/3)を用いた場合の結果である。このように、導通抵抗を考慮しない理想的な周波数成分では、3次の高調波成分(ここでは250kHz付近)を抑制できているが、実際の導通抵抗を考慮した実測の周波数成分では、3次の高調波成分を十分に抑制できていないことが分かる。
【0032】
<4.導通抵抗の設定>
上記を鑑みると、スイッチングデバイスの順方向と逆方向の導通抵抗の差をなるべく小さくすることで、出力電圧Vpにおける高調波成分を抑制できることになる。例えば図3Cには、スイッチングデバイスQ1,Q2,Q3,Q4それぞれの順方向と逆方向の導通抵抗の差をほぼ0とした状態で位相シフト法を用いた場合の出力電圧Vpの波形を示す。このように、図3Bの波形と比べて、モード3(還流)からのモード2(デッドタイム)の電圧値のずれを抑制することができ、波形のひずみを抑制できる。これにより、高調波成分を抑制できる。
【0033】
ここで、図7は、出力電圧Vpにおけるn次の高調波成分を算出する理論式である。図7の理論式は、図5で説明した回路モード分解と回路方程式をフーリエ級数展開に利用することで得られ、図7においてVpa:第3モード、Vpb:第2モード、Vpc:第1モードである。
【0034】
また、図7において、θ:出力電圧Vpと電流Ipの位相差、α:位相シフト角、ω:角周波数(=2πf、fは基本周波数)、DT:デッドタイム、Vf0:スイッチングデバイスのボディダイオード(逆導通)の順電圧、I0:電流Ipの振幅、Ron:スイッチングデバイスの順方向の導通抵抗、a:スイッチングデバイスの逆方向導通におけるVI特性の傾き(図4における特性VI2の傾き)である。
【0035】
図7において、仮にスイッチングデバイスの順方向と逆方向の導通抵抗=0とすれば、図7における係数A=B=0となり、Vpcにおける破線で囲む項だけが残るため、α=π/(2k-1)とすれば、Vp=0となり、高調波成分を除去することができる。しかしながら、実際には、上記導通抵抗の存在により図7に示す式となり、α=π/(2k-1)としただけでは、図7に示す破線の項だけ除去されるため、高調波成分を除去しきれない。
【0036】
図8A図8Bは、上記図7で示す理論式を用いてシミュレーションを行った結果の一例を示す。図8Aでは、Ron=6mΩで固定して、逆方向の導通抵抗Rdiを変化させた場合の3次高調波成分の挙動を示す。なお、Rdi=(1/a)+(Vfo/I)で表される(Iは、逆方向の導通抵抗に流れる電流)。このように、Rdi=6mΩで3次高調波成分は最小となる。
【0037】
一方、図8Bは、Rdi=110mΩで固定して、順方向の導通抵抗Ronを変化させた場合の3次高調波成分の挙動を示す。このように、Ron=110mΩで3次高調波成分は最小となる。従って、順方向と逆方向の導通抵抗の差を小さくすることで高調波成分を抑制できることが分かる。
【0038】
逆方向の導通抵抗は電流に依存するため、定格電流の半分の電流をスイッチングデバイスに流した場合に逆方向の導通抵抗が順方向の導通抵抗の300%以下かつ100%以上とすることが好ましい。
【0039】
<5.スイッチングデバイスの実施形態>
ここでは、ブリッジ回路の出力電圧における高調波成分を抑制するために有効となるスイッチングデバイスの各種実施形態について述べる。図9Aは、第1実施形態に係るスイッチングデバイス11を示す図である。スイッチングデバイス11は、ボディダイオードBDを内蔵したNMOSトランジスタ11A(Nチャネル型MOSFET)を有する。この場合、NMOSトランジスタ11Aの順方向導通抵抗(オン抵抗)と、ボディダイオードBDの逆方向導通抵抗の差をなるべく小さく設定すればよい。
【0040】
なお、NMOSトランジスタ11Aは、半導体材料として、例えばSiあるいはSiCを用いることが好適である。順方向と逆方向の導通抵抗の差をMOSトランジスタのチップの作り込みで小さくしやすいからである。なお、高出力のワイヤレス給電などには、スイッチングデバイスの高周波駆動が必要となり、SiCを用いたスイッチングデバイスが有効である。必要な電流容量によってスイッチングデバイスのチップサイズが決まり、チップサイズでスイッチング速度が決まり、スイッチング速度に応じてデッドタイムが設定される。従って、スイッチング周波数に依存せずデッドタイムが設定されるため、スイッチング周波数が高周波であると、スイッチング周期に対するデッドタイムの割合が大きくなり、波形のひずみによる高調波成分が問題となりやすい。そこで、本実施形態のように、SiCを用いたスイッチングデバイスにおいて導通抵抗の差を小さくすることが特に有効となる。
【0041】
図9Bは、第2実施形態に係るスイッチングデバイス12を示す図である。スイッチングデバイス12は、ボディダイオードBDを内蔵したNMOSトランジスタ12Aと、NMOSトランジスタ12Aに対して逆並列に接続された逆並列ダイオード12Bと、を有する。逆並列ダイオード12BとNMOSトランジスタ12Aは、個別のチップである。NMOSトランジスタ12Aの順方向導通抵抗と、逆並列ダイオード12Bの逆方向導通抵抗の差をなるべく小さく設定する。これにより、ボディダイオードBDと逆並列ダイオード12Bのうち導通抵抗の小さい逆並列ダイオード12Bのほうに電流が流れる。
【0042】
このような実施形態であれば、MOSトランジスタに対して外付けで逆並列ダイオードを接続するため、導通抵抗の差を小さくすることがしやすい。なお、GaNを半導体材料として用いたパワーデバイス(代表的にはHEMT(High Electron Mobility Transistor)など)をスイッチングデバイスに使用する場合も、当該パワーデバイスに対して逆並列ダイオードを接続することが好ましい。GaNを用いたパワーデバイスでは、順方向と逆方向の導通抵抗の差が大きく、チップの作り込みで導通抵抗の差を小さくすることは容易でないからである。
【0043】
図9Cは、第3実施形態に係るスイッチングデバイス13を示す図である。スイッチングデバイス13は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)13Aと、IGBT13Aに対して逆並列接続される逆並列ダイオード13Bと、を有する。逆並列ダイオード13Bは、FWD(フリーホイールダイオード)とも呼ばれる。IGBT13Aと逆並列ダイオード13Bとは、個別のチップである。IGBT13Aの順方向導通抵抗と、逆並列ダイオード13Bの逆方向導通抵抗の差がなるべく小さく設定される。このような実施形態であれば、IGBTに対して外付けで逆並列ダイオードを接続するため、導通抵抗の差を小さくすることがしやすい。なお、FWDを内蔵したIGBTを使用してもよい。
【0044】
<6.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【0045】
<7.付記>
以上のように、例えば、本開示に係る半導体スイッチングデバイス(Q1~Q4)は、定格電流の半分の電流が流れる場合に逆方向の導通抵抗が順方向の導通抵抗の300%以下である構成としている(第1の構成)。
【0046】
また、上記第1の構成において、順方向の導通抵抗と逆方向の導通抵抗が等しい構成としてもよい(第2の構成)。
【0047】
また、上記第1または第2の構成において、前記半導体スイッチングデバイス(11)は、スイッチング素子(11A)を有し、前記逆方向の導通抵抗は、前記スイッチング素子に内蔵されるボディダイオード(BD)の抵抗である構成としてもよい(第3の構成)。
【0048】
また、上記第3の構成において、前記スイッチング素子(11A)は、半導体材料としてSiまたはSiCを用いて構成されることとしてもよい(第4の構成)。
【0049】
また、上記第1または第2の構成において、前記半導体スイッチングデバイス(12)は、スイッチング素子(12A)と、前記スイッチング素子に逆並列接続される逆並列ダイオード(12B)と、を有する構成としてもよい(第5の構成)。
【0050】
また、上記第5の構成において、前記スイッチング素子(12A)は、半導体材料としてGaNを用いて構成されるパワーデバイスである構成としてもよい(第6の構成)。
【0051】
また、上記第5の構成において、前記スイッチング素子(13A)は、IGBTである構成としてもよい(第7の構成)。
【0052】
また、本開示の一態様に係るブリッジ回路(1)は、ハイサイドのハイサイドスイッチ(Q1,Q3)とローサイドのローサイドスイッチ(Q2,Q4)とが直列に接続されて構成されるハーフブリッジ(HB1,HB2)を1つ以上備え、
前記ハイサイドスイッチと前記ローサイドスイッチが上記第1から第7のいずれかの構成とした半導体スイッチングデバイスである構成としている(第8の構成)。
【0053】
また、上記第8の構成において、前記ハイサイドスイッチとしての第1スイッチ(Q1)と、前記ローサイドスイッチとしての第2スイッチ(Q2)と、を有する第1ハーフブリッジ(HB1)と、
前記ハイサイドスイッチとしての第3スイッチ(Q3)と、前記ローサイドスイッチとしての第4スイッチ(Q4)と、を有する第2ハーフブリッジ(HB2)と、
を備え、
前記第1スイッチと前記第2スイッチとの間にデッドタイムが設けられ、
前記第1スイッチのオン期間が所定の位相シフト角だけシフトされて前記第4スイッチのオン期間とされ、
前記第2スイッチのオン期間が前記位相シフト角だけシフトされて前記第3スイッチのオン期間とされる構成としてもよい(第9の構成)。
【0054】
また、本開示の一態様に係る電力変換装置(50)は、上記第8または第9の構成としたブリッジ回路(1)を備える(第9の構成)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示は、例えば、各種用途の電力変換装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 ブリッジ回路
10 1次側回路
11 スイッチングデバイス
11A NMOSトランジスタ
12 スイッチングデバイス
12A NMOSトランジスタ
12B 逆並列ダイオード
13 スイッチングデバイス
13A IGBT
13B 逆並列ダイオード
20 2次側回路
50 電力変換装置
BD ボディダイオード
Cp キャパシタ
E 直流電源
HB1,HB2 ハーフブリッジ
Lp 1次側インダクタ
NM NMOSトランジスタ
Q1,Q2,Q3,Q4 スイッチングデバイス
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C