(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124846
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】積層体及びその応用
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240906BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20240906BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B32B9/00 Z
B32B27/04 Z
H01L23/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032795
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】銭 丹娜
(72)【発明者】
【氏名】平野 健司
(72)【発明者】
【氏名】辻川 一輝
【テーマコード(参考)】
4F100
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AD11A
4F100AD11B
4F100AK12C
4F100AK12J
4F100AK49
4F100AK53A
4F100AK53C
4F100AL09C
4F100AR00C
4F100BA03
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4F100EJ172
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4F100GB41
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4F100JK02C
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4F100JK07C
4F100JK11C
4F100YY00B
4F100YY00C
5F136BC07
5F136FA23
5F136FA52
5F136FA75
5F136GA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、グラファイトシートを有する積層体であって、耐剥離性に優れた積層体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、強化繊維を含む樹脂繊維複合層(B)、貫通孔を有するグラファイト層(A)及び緩衝層(C)をこの順に備えた積層体であって、緩衝層(C)の厚み方向の押し込み弾性率が1000MPa以下であり、緩衝層(C)の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔の一部に嵌入されている、積層体に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を含む樹脂繊維複合層(B)、貫通孔を有するグラファイト層(A)及び緩衝層(C)をこの順に備えた積層体であって、
前記緩衝層(C)の厚み方向の押し込み弾性率が1000MPa以下であり、
前記緩衝層(C)の一部が、前記グラファイト層(A)の貫通孔の一部に嵌入されている、積層体。
【請求項2】
前記緩衝層(C)の引張強度が5MPa以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記緩衝層(C)のガラス転移点温度が100℃以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記樹脂繊維複合層(B)及び/又は前記緩衝層(C)を構成する樹脂の一部が、前記グラファイト層(A)の貫通孔に嵌入することで、両層の界面が存在している、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記緩衝層(C)の厚み方向の変形仕事率が50%以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記緩衝層(C)はエポキシ樹脂を主成分として含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記緩衝層(C)はスチレン系エラストマーを主成分して含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記樹脂繊維複合層(B)は熱硬化性樹脂を含み、前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1に積層体。
【請求項9】
前記樹脂繊維複合層(B)における前記強化繊維は炭素繊維である、請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
前記グラファイト層(A)の面方向の表面積に対する貫通孔部の合計面積が5~30%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体を備えた、産業機器。
【請求項12】
強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)をこの順に積層した積層シートを加熱成形する工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその応用に関する。具体的に、本発明はグラファイトシートを有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの電子機器ではデータ処理能力が大幅に向上しており、それに伴って発熱量も著しく増加している。一方、電子機器は小型化、薄型化しており、電子機器内部の放熱部材には高性能化、軽量化が求められている。金属などに比べて軽量で、放熱性能に優れ、柔軟な放熱部材として、フィルム状グラファイト(グラファイトシート)が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
グラファイトシートはシートの面方向に層状のグラファイト構造が高度に発達したものであり、この様な構造に基づいて熱伝導度や電気伝導度の異方性が発揮されることが知られている。このため、グラファイトシートは電子機器の放熱部材の用途に用いられている。
【0004】
しかしながら、グラファイトシートには、取扱い時に破れ易く機械的強度が低いという問題がある。このような課題に対して、例えば、特許文献4では、グラファイトフィルムの少なくとも片面に強化繊維層を設けてグラファイト複合フィルムとすることで、機械的強度を高めることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-189267号公報
【特許文献2】特開2007-031237号公報
【特許文献3】特開2016-153356号公報
【特許文献4】特開2010-064391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の強化繊維層を積層したグラファイト複合フィルムにおいては、グラファイト層と強化繊維層の間の層間密着性が低かったり、グラファイト層における層状のグラファイト構造間の密着性が低く、層間剥離が生じやすいという問題があった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、グラファイト層を有する積層体であって、耐剥離性に優れた積層体を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0009】
[1] 強化繊維を含む樹脂繊維複合層(B)、貫通孔を有するグラファイト層(A)及び緩衝層(C)をこの順に備えた積層体であって、
緩衝層(C)の厚み方向の押し込み弾性率が1000MPa以下であり、
緩衝層(C)の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔の一部に嵌入されている、積層体。
[2] 緩衝層(C)の引張強度が5MPa以上である、[1]に記載の積層体。
[3] 緩衝層(C)のガラス転移点温度が100℃以下である、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4] 樹脂繊維複合層(B)及び/又は緩衝層(C)を構成する樹脂の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔に嵌入することで、両層の界面が存在している、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 緩衝層(C)の厚み方向の変形仕事率が50%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6] 緩衝層(C)はエポキシ樹脂を主成分として含む、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7] 緩衝層(C)はスチレン系エラストマーを主成分して含む、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8] 樹脂繊維複合層(B)は熱硬化性樹脂を含み、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、[1]~[7]のいずれかに積層体。
[9] 樹脂繊維複合層(B)における強化繊維は炭素繊維である、[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10] グラファイト層(A)の面方向の表面積に対する貫通孔部の合計面積が5~30%である、[1]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の積層体を備えた、産業機器。
[12] 強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)をこの順に積層した積層シートを加熱成形する工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グラファイト層を有する積層体であって、耐剥離性に優れた積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、積層体の構成を説明する断面図である。
【
図2】
図2は、積層体の構成を説明する断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の<グラファイトシート(A’)の作製>の工程における黒鉛化工程の温度記録である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。なお、以下の説明において使用される「フィルム」と「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0013】
(積層体)
本実施形態は、強化繊維を含む樹脂繊維複合層(B)、貫通孔を有するグラファイト層(A)及び緩衝層(C)をこの順に備えた積層体であって、緩衝層(C)の厚み方向の押し込み弾性率が1000MPa以下であり、緩衝層(C)の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔の一部に嵌入されてなる、積層体に関する。なお、本明細書において、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)はそれぞれ加熱成形前のシートである。そして、これらを積層して加熱成形してなる積層体では、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)は強化繊維を含む樹脂繊維複合層(B)を、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)はグラファイト層(A)を、緩衝シート(C’)は緩衝層(C)を形成することになる。すなわち、本実施形態の加熱成形後の積層体は、強化繊維を含む樹脂繊維複合層(B)、貫通孔を有するグラファイト層(A)及び緩衝層(C)をこの順に有する。
【0014】
図1は、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)をこの順に積層したものを加熱成形して積層体を形成する様子を説明する図である。
図1の上段で示されるように、積層体100を製造する際には、まず、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)2、貫通孔Hを有するグラファイトシート(A’)1及び緩衝シート(C’)3をこの順に積層した積層シートを得る。そして、この積層シートを加熱成形、好ましくは加熱加圧成形することで積層体100を得る。加熱成形して得られた積層体100は、樹脂繊維複合層(B)20、グラファイト層(A)10及び緩衝層(C)30をこの順に有する。なお、本実施形態は、
図1の上段に示されるような加熱成形前の積層シートに関するものであってもよい。
【0015】
また、
図2に示されるように、本実施形態の積層体は、強化繊維を含む第1の樹脂繊維複合シート(B’)2、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)1、緩衝シート(C’)3及び強化繊維を含む第2の樹脂繊維複合シート(B’)この順に積層したものを加熱成形してなるものであってもよい。加熱成形して得られた積層体100は、第1の樹脂繊維複合層(B)20、グラファイト層(A)10、緩衝層(C)30及び第2の樹脂繊維複合層(B)20をこの順に有する。
【0016】
さらに、本実施形態の積層体は、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)を1ユニットとして、複数ユニットを積層したものを加熱成形してなるものであってもよい。加熱成形して得られた積層体は、樹脂繊維複合層(B)20、グラファイト層(A)10、緩衝層(C)30を1ユニットとした繰返し構造を有する。繰返し構造における繰返し数は、例えば、2~50回であることが好ましい。
【0017】
本実施形態の積層体は上記構成を有するため、耐剥離性に優れている。ここで、耐剥離性に優れるとは、グラファイト層(A)と、これに隣接する層との層間密着性が優れており、かつグラファイト層(A)の層状のグラファイト構造間の密着性に優れていることをいう。具体的に、積層体の耐剥離性は、積層体について、試験速度50mm/分でT型剥離試験を行い、積層体から、樹脂繊維複合層(B)を剥離した際の変位-剥離荷重のデータグラフを得て、グラフから、初期ピークの最大値と、変位が50~100mmの間における剥離荷重ピーク値をピックアップし、それらの範囲をまとめることで評価することができる。T型剥離試験に用いる装置としては、例えば、万能材料試験機(株式会社島津製作所製「AGS-X」)を用いることができる。
【0018】
ここで、剥離強度の初期ピークの最大値は、6.0N/30mm以上であることが好ましく、7.0N/30mm以上であることがより好ましく、8.0N/30mm以上であることがさらに好ましく、9.0N/30mm以上であることが一層好ましく、10.0N/30mm以上であることが特に好ましい。なお、剥離強度の初期ピークの最大値の上限値は特に限定されるものではないが、150N/30mm以下であることが好ましい。
また、初期ピークの最大値と、変位が50~100mmの間における剥離ピーク値は、5.0N/30mm以上であることが好ましく、6.0N/30mm以上であることがより好ましく、8.0N/30mm以上であることがさらに好ましく、10.0N/30mm以上であることが一層好ましく、15.0N/30mm以上であることが特に好ましい。なお、変位が50~100mmの間における剥離ピーク値の上限値は特に限定されるものではなく、層間剥離が生じない場合には、測定不可能となる。また、変位が50~100mmの間における剥離ピーク値が複数存在する場合、複数存在するピーク値のすべてが上記範囲内であることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態の積層体は上記構成を有するため、加工性にも優れている。具体的には、切断機を用いて、積層体を切断した場合であっても、切断断面に2mm以上の層間剥離が生じない場合に積層体の加工性が良好であると判定できる。
【0020】
さらに、本実施形態の積層体においては、緩衝層(C)の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔の一部に嵌入されているため、積層体の破壊靭性を高めることができる。これにより、積層体の耐脆性が高められている。本明細書において、緩衝層(C)を構成する樹脂の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔の一部に嵌入されている状態とは、積層体の製造時に、緩衝シート(C’)を構成する樹脂の一部がグラファイトシート(A’)の貫通孔の内部に含浸し、その状態で硬化することで樹脂が嵌入された状態となることを指す。
【0021】
本実施形態におけるより好ましい態様は、樹脂繊維複合層(B)及び/又は緩衝層(C)を構成する樹脂の一部が、グラファイト層(A)の貫通孔に嵌入することで、両層の界面が存在している状態である。例えば、
図1の下段に示されているように、積層体100の製造時に樹脂繊維複合シート(B’)2を構成する樹脂と、緩衝シート(C’)3を構成する樹脂の一部が貫通孔Hに含浸し、両樹脂が貫通孔を満たし、その状態で硬化することで、樹脂繊維複合層(B)20と緩衝層(C)30の間にそれぞれの層が接してなる界面(境界面)が生じる。本実施形態では、このような両層の界面が貫通孔H内に生じることが好ましいが、両層の界面は貫通孔Hの表面で生じていてもよい。このように、貫通孔の内部もしくは表面において両層の界面が存在することで、貫通孔に破壊靭性の高い樹脂柱が形成されることになる。そして、このような樹脂柱が、積層体の耐剥離性及び耐脆性をより効果的に高めることに寄与する。
【0022】
本実施形態においては、積層体の外縁の領域で、樹脂繊維複合層(B)と緩衝層(C)が接してなる界面(境界面)が存在していてもよい。例えば、上述したように、貫通孔の内部もしくは表面において両層の界面が存在することに加えて、グラファイト層(A)の外縁の領域において、樹脂繊維複合層(B)と緩衝層(C)が接してなる界面(境界面)が存在していてもよい。この場合、樹脂繊維複合シート(B’)と緩衝シート(C’)の面積を、グラファイトシート(A’)の面積よりも若干大きくすることにより、積層体の端縁において、樹脂繊維複合層(B)と緩衝層(C)が接してなる界面(境界面)を生じさせることができる。積層体の端縁において生じる界面(境界面)の長さは、例えば、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。また、積層体の端縁において生じる界面(境界面)の長さは、100mm以下であることが好ましく70mm以下であることがより好ましく、50mm以下であることがさらに好ましい。積層体の外縁の領域において、樹脂繊維複合層(B)と緩衝層(C)が接してなる界面(境界面)を存在させることにより、積層体の耐剥離性をより効果的に高めることができ、積層体全体の耐脆性を高めることができる。
【0023】
<グラファイト層(A)/グラファイトシート(A’)>
グラファイト層(A)を形成するグラファイトシート(A’)はフィルム状グラファイトであって、貫通孔を有するシートである。グラファイトシート(A’)は、グラファイトを主成分とし、柔軟で実質的に炭素のみからなるフィルム状材料から構成される。以下、本実施形態で使用するグラファイトシート(A’)について記載するが、グラファイトシートであれば特に限定されるものではない。
【0024】
グラファイトシート(A’)の厚みは、特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが一層好ましく、39μm以上であることがより一層好ましく、42μm以上であることがさらに一層好ましく、55μm以上であることが特に好ましく、58μm以上であることが特に一層好ましく、72μm以上であることが最も好ましい。また、グラファイトシート(A’)の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましく、500μm以下であることが一層好ましく、300μm以下であることが特に好ましい。また、グラファイト層(A)の厚みも上記範囲内であることが好ましい。グラファイト層(A)及びグラファイトシート(A’)の厚みを上記範囲内とすることにより、積層体の熱輸送量を高めることができる。また、グラファイト層(A)及びグラファイトシート(A’)の厚みを上記範囲内とすることにより、グラファイト層(A)の薄膜化が可能となり、さらに柔軟性と強度を高めることができる。ここで、グラファイト層(A)及びグラファイトシート(A’)の厚みは、標準外側マイクロメータを用いて測定した厚みであり、ランダムに選んだ5箇所で測定した厚みの平均値である。
【0025】
一般的に、グラファイト層(A)の厚みが大きいほど、グラファイト層の脆さの課題が大きくなり、その結果、層間密着性も劣る傾向がある。しかしながら、本実施形態においては、グラファイト層(A)10上に緩衝層(C)30を直接積層しているため、耐脆性を高めることができる。このため、本実施形態の積層体においては、グラファイト層(A)の厚みを従来のものよりも厚くすることも可能となる。
【0026】
貫通孔を形成する前のグラファイトシート(A’)のフィルム面方向の熱伝導率は、1500W/mK以上であることが好ましく、1600W/mK以上であることがより好ましく、1700W/mK以上であることがさらに好ましい。また、貫通孔を形成する前のグラファイトシート(A’)のフィルム面方向の熱伝導率の上限値は特に限定されるものではないが、2500W/mK以下であることが好ましく、2300W/mK以下であることがより好ましく、2100W/mK以下であることがさらに好ましい。熱伝導率が上記下限値以上であれば、良好な放熱性能が得られやすくなる。
一方、貫通孔を形成した後のグラファイトシート(A’)のフィルム面方向の熱伝導率は、900W/mK以上であることが好ましく、1000W/mK以上であることがより好ましく、1100W/mK以上であることがさらに好ましい。また、貫通孔を形成した後のグラファイトシート(A’)のフィルム面方向の熱伝導率の上限値は特に限定されるものではないが、2000W/mK以下であることが好ましく、1800W/mK以下であることがより好ましく、1600W/mK以下であることがさらに好ましい。熱伝導率が上記下限値以上であれば、良好な放熱性能が得られやすくなる。なお、グラファイト層(A)のフィルム面方向の熱伝導率も上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
貫通孔を形成する前のグラファイトシート(A’)の電気伝導度は、6000S/cm以上であることが好ましく、7000S/cm以上であることがより好ましく、8000S/cm以上であることがさらに好ましい。貫通孔を形成する前のグラファイトシート(A’)の電気伝導度の上限値は特に限定されるものではないが、実質的な上限として、例えば30000S/cm以下であることが好ましい。電気伝導度が上記下限値以上であれば、電気伝導が効率よく進行するため導電性材料として好ましく用いられる。
貫通孔を形成した後のグラファイトシート(A’)の電気伝導度は、3500S/cm以上であることが好ましく、4000S/cm以上であることがより好ましく、4500S/cm以上であることがさらに好ましい。貫通孔を形成した後のグラファイトシート(A’)の電気伝導度の上限値は特に限定されるものではないが、実質的な上限として、例えば18000S/cm以下であることが好ましい。電気伝導度が上記下限値以上であれば、電気伝導が効率よく進行するため導電性材料として好ましく用いられる。なお、グラファイト層(A)の電気伝導度も上記範囲内であることが好ましい。
【0028】
グラファイトシート(A’)の密度は、1.7g/cm3以上であることが好ましく、1.8g/cm3以上であることがより好ましく、1.9g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、グラファイトシート(A’)の密度は、2.2g/cm3以下であることが好ましく、2.1g/cm3以下であることがより好ましく、2.0g/cm3以下であることがさらに好ましい。グラファイトシート(A’)の密度が上記下限値以上であれば、熱伝導を阻害する要因となる空隙の量が少なくなり、熱伝導率が高まる。また、グラファイトシート(A’)の密度が上記上限値以下であれば、空隙が多少存在することで、フィルム状グラファイトの柔軟性を確保しやすくなる。なお、グラファイト層(A)の密度も上記範囲内であることが好ましい。
【0029】
グラファイトシート(A’)は、グラファイトシートを面方向から見た際に、グラファイトシートを貫通する孔を複数有する。グラファイトシート(A’)の面方向の表面積に対する貫通孔部の合計面積(貫通孔の割合)は、2%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、8%以上であることが特に好ましい。また、グラファイトシート(A’)の面方向の表面積に対する貫通孔部の合計面積(貫通孔の割合)は、60%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、20%以下であることが特に好ましい。貫通孔部の合計面積(貫通孔の割合)を上記下限値以上とすることにより、積層体とした際にグラファイト層(A)と、これに隣接する層との層間密着性及びグラファイト層(A)の層状のグラファイト構造間の密着性をより効果的に高めることができる。また、貫通孔部の合計面積(貫通孔の割合)を上記上限値以下とすることにより、積層体の熱伝導率を高めることができる。なお、本明細書において、グラファイトシート(A’)の面方向の表面積とは、グラファイトシート(A’)の外周縁で囲まれる領域の面積である。すなわち、グラファイトシート(A’)の面方向の表面積とは、グラファイトシート(A’)に貫通孔が形成される前の表面積を意味する。なお、グラファイト層(A)の貫通孔部の合計面積(貫通孔の割合)も上記範囲内であることが好ましい。
【0030】
貫通孔の形状は円形、楕円形、正方形、その他の多角形などどのような形状であってもよく、複数の形状の組み合わせであってもよい。中でも、貫通孔の形状は円形又は楕円形であることが好ましく、円形であることが特に好ましい。
【0031】
貫通孔1つ当たりの面積は0.78mm2以上であることが好ましく、3mm2以上であることがより好ましく、7mm2以上であることがさらに好ましい。また、貫通孔1つ当たりの面積は2830mm2以下であることが好ましく、1250mm2以下であることがより好ましく、320mm2以下であることがさらに好ましい。貫通孔1つあたりの面積を上記範囲内とすることにより、積層体とした際にグラファイト層(A)と、これに隣接する層との層間密着性及びグラファイト層(A)の層状のグラファイト構造間の密着性をより効果的に高めることができる。なお、貫通孔1つあたりの面積は全て同一でもよく、様々な面積のものを組み合わせたものであってもよい。
【0032】
グラファイトシート(A’)において貫通孔の配置は規則性を有しない配置でもよく、規則性を有する配置でもよい。規則性を有する配置の場合、60°千鳥、45°千鳥、並列などどのような配列でもよい。規則性を有する配置の方が積層体とした際にグラファイト層(A)と、これに隣接する層との層間密着性及びグラファイト層(A)の層状のグラファイト構造間の密着性が高まる傾向にある。
【0033】
<<グラファイトシート(A’)の製造方法>>
グラファイトシート(A’)の製造方法は、原料フィルムを加熱してグラファイトシートを得る工程を含む。グラファイトシートを得る工程は、後述する炭化工程と黒鉛化工程と、を含むことが好ましい。また、グラファイトシート(A’)の製造方法は、後述するプレス工程をさらに含むことが好ましい。なお、炭化工程は、有機高分子からなる原料フィルムを炭化して炭化フィルムを得る工程であり、黒鉛化工程は炭化フィルムを黒鉛化して黒鉛化フィルムを得る工程であり、プレス工程は、黒鉛化フィルムを圧縮もしくは圧延する工程である。本明細書において、「炭化」とは、原料フィルムを構成する有機高分子を加熱することで有機高分子中から揮発分を気化させ、炭素に富んだ物質に変化させることを意味する。本明細書において、「炭化フィルム」とは、炭化により炭素質に富んだ構造を含むフィルムであって、フィルム中の炭素以外の元素の質量割合が20%以下になるまで炭素以外の元素を除去したフィルムを意味する。本明細書において「黒鉛化」とは、炭化フィルムをさらに高温で加熱し、炭素以外の不純物をほぼ完全に除去し、グラファイト化を高度に進行させることを意味する。本明細書において、「黒鉛化フィルム」とは、黒鉛化度が極めて高くグラファイト結晶構造に富んだフィルムを意味する。
【0034】
<<<原料フィルム>>>
原料フィルムの厚みは、75μm以上であることが好ましく、125μm以上であることがより好ましく、150μm以上であることがさらに好ましく、175μm以上であることが一層好ましく、200μm以上であることが特に好ましく、250μm以上であることが最も好ましい。また、原料フィルムの厚みは、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。原料フィルムの厚みが上記下限値以上であれば、一枚当たりの放熱性能が高いグラファイトシートが得られやすくなるため、電子機器などの放熱に必要なグラファイトシートの枚数を減らすことができる。また、原料フィルムの厚みが上記上限値以下であれば、加熱時の発泡量が少なく、またフィルム内部と表層で性能にムラが出にくくなるため、良質なグラファイトシートが得られやすい。また、得られるグラファイトシートを厚手にしつつも、ある程度の柔軟性を確保することが容易になる。
【0035】
原料フィルムは、有機高分子からなるフィルムであることが好ましい。有機高分子としては、芳香環を有し、分子鎖がある程度高い平面性、配向性、剛直性を有する高分子が好ましい。例えば、芳香環を有する、ポリイミド、ポリアミド、ポリチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリパラフェニレンビニレンなどの高分子を例示できる。中でも、入手容易性の観点から、有機高分子はポリイミドであることが好ましい。原料フィルムを構成する有機高分子は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0036】
原料フィルムとしては、有機高分子からなる2枚以上の高分子フィルムを、粘着剤もしくは接着剤で貼り合わせた積層フィルムを用いてもよい。粘着剤もしくは接着剤としては、特に限定されず、ポリイミドのモノマーであるジアミンや酸無水物、またそれらを重合させて得られるポリアミック酸を接着成分として用いることができる。ジアミンとしては、例えば、オキシジアニリンを例示できる。酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸を例示できる。ポリアミック酸としては、例えば、オキシジアニリンと無水ピロメリット酸を重合させたポリアミック酸を例示できる。粘着剤もしくは接着剤は、低揮発性の有機溶剤に上記接着成分を溶解したものであることが好ましい。また、粘着剤もしくは接着剤として、タッキファイヤーを含む接着剤や、フェノール樹脂系接着剤、アクリル系接着剤、メラミン系接着剤、シリコーン系粘着剤などを使用してもよい。
【0037】
高分子フィルムに粘着剤もしくは接着剤を塗布する手段は、均一に塗布できれば特に制限は無い。高分子フィルムを貼り合わせた後に、加圧ロールに通して余分な粘着剤もしくは接着剤を除去して、高分子フィルム間の粘着剤もしくは接着剤を極力薄くすることが好ましい。高分子フィルム間の粘着剤もしくは接着剤の厚みは、特に限定されないが、1μm以下であることが好ましい。粘着剤もしくは接着剤を薄くすることで、炭化工程における発泡を抑制しやすくなる。また、高分子フィルムを貼り合わせた後に加熱し、有機溶剤を除去してから炭化工程を行ってもよい。有機溶剤を除去する際の加熱温度は、350℃以上であることが好ましい。
【0038】
<<<炭化工程>>>
炭化工程では、例えば、不活性ガス中、又は、有機ガスと不活性ガスの混合ガス中で原料フィルムを1500℃以下で加熱し、原料フィルム中の炭素以外の元素の質量割合が20%以下になるまで炭素以外の元素を除去する。炭化工程では、連続的に昇温してもよく、温度を一定に保持する期間を設けて段階的に昇温してもよい。また、昇温した後に降温し、再度昇温してもよい。炭化工程は、バッチ加熱方式であってもよく、原料フィルムを連続的に供給する連続供給加熱方式であってもよい。
【0039】
炭化工程は、有機ガスと不活性ガスとの混合ガス中で原料フィルムを加熱する混合ガス中加熱工程を含んでもよい。有機ガスと不活性ガスの混合ガス中で原料フィルムを加熱することで、分解による炭素の消失が抑制されやすくなるだけでなく、有機ガス中の炭素が原料フィルムに取り込まれる。これにより、面積が大きい炭化フィルムが得られやすくなるため、最終的に面積が大きいグラファイトシートが得られる。
【0040】
混合ガス中加熱工程を含む炭化工程では、混合ガス中加熱工程の後に不活性ガス中でさらに加熱してもよく、不活性ガス中で原料フィルムを加熱した後に混合ガス中加熱工程を行ってもよい。また、炭化工程の全体を混合ガス中加熱工程としてもよい。
【0041】
不活性ガスとしては、原料フィルムと反応しないガスであればよく、窒素ガス、アルゴンガス、又はそれらの混合ガスを例示できる。なかでも、経済性に優れる点から、窒素ガスが好ましい。炭化工程に使用する不活性ガスは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0042】
有機ガスは、炭化工程の加熱温度で気体となる有機化合物である。有機ガスとしては、特に限定されず、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど、23℃、1気圧で気体である炭化水素を例示できる。なお、23℃、1気圧で液体又は固体である有機化合物であっても、炭化工程の加熱温度で気体となる有機化合物は有機ガスとして使用できる。有機ガスとしては、分解による炭素の消失が抑制されやすい観点から、アセチレン及びアセチレン誘導体から選択される少なくとも1種からなるガス状物質を用いることが好ましい。炭化工程に使用する有機ガスは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0043】
混合ガス中の有機ガスの濃度は、有機ガスの種類にもよるが、例えばアセチレンガスの場合、混合ガスの総体積に対して、2体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上がさらに好ましく、20体積%以上が特に好ましく、25体積%以上が最も好ましい。また、有機ガスがアセチレンガスの場合、混合ガス中の有機ガスの濃度は、混合ガスの総体積に対して、95体積%以下が好ましく、50体積%以下がより好ましく、40体積%以下がさらに好ましく、30体積%以下が特に好ましい。有機ガスの濃度が上記下限値以上であれば、分解による炭素の消失が抑制されやすい上、有機ガス中の炭素が原料フィルムに効率良く取り込まれ、最終的に面積が大きいグラファイトシートが得られやすくなる。また、有機ガスの濃度が上記上限値以下であれば、必要以上に有機ガスを使用することが無くなるため、コスト削減に繋がり、工業的にも安定である。
【0044】
混合ガス中加熱工程における最高加熱温度は、原料フィルムや用いる有機ガスにもよるが、1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、600℃以下であることがさらに好ましい。最高加熱温度が上記上限値以下であれば、有機ガスを安定して扱うことができる。
【0045】
<<<黒鉛化工程>>>
黒鉛化工程では、例えば、黒鉛化炉において、不活性ガス雰囲気下で2000℃以上まで昇温しながら炭化フィルムを加熱し、グラファイト結晶を成長させて黒鉛化フィルムを得る。例えば、炭化工程後の炭化炉内の炭化フィルムを酸素の影響のない温度まで降温し、炭化炉から取り出して黒鉛化炉に移し、再度加熱して黒鉛化工程を実施してもよいし、炭化工程後に降温させずに連続して加熱して黒鉛化工程を実施してもよい。
【0046】
黒鉛化工程においては、連続的に昇温してもよく、温度を一定に保持する期間を設けて段階的に昇温してもよい。また、昇温した後に降温し、再度昇温してもよい。黒鉛化工程を実施する形態としては、バッチ加熱方式でもよく、炭化フィルムを連続的に供給しながら黒鉛化する連続供給加熱方式でもよく、また、バッチ加熱方式で作製した炭化フィルムを、連続加熱方式の黒鉛化炉で黒鉛化してもよい。
【0047】
黒鉛化工程の最高加熱温度Tmaxは、3000℃以下であることが好ましく、2900℃以下であることがより好ましく、2800℃以下であることがさらに好ましくい。また、Tmaxは、2400℃以上であることが好ましく、2700℃以上であることがより好ましく、2750℃以上であることがさらに好ましい。Tmaxが上記上限値以下であれば、黒鉛化炉の発熱体や断熱材の消耗が遅いため、メンテナンス頻度を下げることができる。また、グラファイト結晶の過度な成長を抑制できるため、グラファイト結晶間に適度な空隙が確保され、柔軟性を有するグラファイトシートが得られやすい。ここで、グラファイト結晶間の空隙とは、炭素材料中に観察されるミクロ又はマクロボイドである。また、Tmaxが上記下限値以上であれば、グラファイトシート中のグラファイト結晶の炭素網面がフィルム面に平行に配向しやすく、高い熱伝導特性が発揮されやすい。
【0048】
<<<プレス工程>>>
プレス工程では、黒鉛化工程で得られた黒鉛化フィルムを圧縮もしくは圧延する。プレス工程を実施することにより、フィルム面に沿う方向にグラファイト結晶の層が配向しやすくなり、また黒鉛化フィルム内の空隙が潰れて密度が高くなり、さらに黒鉛化フィルムに生じていた反りやうねりも解消される。
【0049】
圧縮もしくは圧延する際は2枚のポリイミドフィルムで挟むことが好ましい。これにより、加圧ロールの汚れを防ぐことができる。本実施形態においては、プレス工程において、黒鉛化フィルムを圧縮もしくは圧延することで所望の密度を有するグラファイトシートを形成ことが好ましい。
【0050】
圧縮もしくは圧延する方法としては、金属などの硬質材料製の加圧ロール間に黒鉛化フィルムを通す方法が好ましい。この場合、同じ加圧ロールに繰り返し通してもよく、多段の加圧ロールに順次通してもよい。なお、圧縮もしくは圧延する方法は上記方法には特に限定されず、例えば、金属板の間に黒鉛化フィルムを挟んで油圧シリンダー等で加圧する方法であってもよい。
【0051】
<樹脂繊維複合層(B)/樹脂繊維複合シート(B’)>
樹脂繊維複合層(B)は強化繊維を含む。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、合成繊維、天然繊維、ナイロン繊維、アルミナ繊維、チタン繊維、SUS繊維、銅繊維、金属を被覆した炭素繊維等の金属繊維等などが挙げられる。これらの強化繊維は機械的強度に優れているため、積層体を形成した際にグラファイト層(A)の強度を補強することができる。中でも、軽量性及び剛性の観点から強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。
【0052】
樹脂繊維複合層(B)に含まれる強化繊維は連続繊維であってもよいし、非連続繊維であってもよいが、連続繊維であることが好ましい。強化繊維の形状が後述するようなチョップドストランド、不織布等の非連続繊維の場合、強化繊維の数平均繊維長は通常0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましく、5mm以上であることが一層好ましく、10mm以上であることがより一層好ましく、30mm以上であることがさらに一層好ましく、50mm以上であることが特に好ましい。数平均繊維長を上記下限値以上とすることで、得られる積層体の機械特性を十分なものとしやすい傾向となる。数平均繊維長の上限は特に限定されないが、500mm以下であることが好ましく、300mm以下であることがより好ましく、150mm以下であることがさらに好ましい。数平均繊維長を上記上限値以下とすることにより、積層体を用いて最終製品、特に複雑形状の最終製品を成形する際の複雑形状部への強化繊維の充填性を十分なものとし、当該部位の強度低下の発生を抑制しやすい傾向となる。
【0053】
強化繊維の形状は、特に限定されず、チョップドストランド、ロービング等の繊維束、平織、綾織等の織物、編物、不織布、繊維ペーパー、UD材(一方向性(uni directional)材)等の強化繊維シートのうちから、必要に応じて適宜選択することができる。これらの中でも、引張弾性率、引張強度等の機械的特性の観点から、強化繊維は、織物、編物、UD材などの連続繊維であることが好ましい。
【0054】
樹脂繊維複合シート(B’)として、強化繊維の配向を所定方向に揃えたものを用いてもよい。強化繊維の配向を所定方向に揃えることで樹脂繊維複合シート(B’)を均一な厚みとすることができる。また、このような樹脂繊維複合シート(B’)を複数積層した場合、これらの樹脂繊維複合シートをそれぞれ異なる方向に配向させることでいずれの方向からの衝撃にも耐え得る積層体を得ることができる。また、樹脂繊維複合シート(B’)中において強化繊維は交差していてもよい。例えば、強化繊維を90°と0°方向にそれぞれ配向させたものを用いてもよい。なお、強化繊維の配向が一方向であるとは、90%以上の強化繊維において、これら繊維同士がなす角度が5°以下である場合をいう。
【0055】
樹脂繊維複合層(B)は、強化繊維に加えて、さらに樹脂を含む。例えば、樹脂を強化繊維シートに含浸させた樹脂繊維複合シート(B’)を加熱成形することで樹脂繊維複合層(B)を得てもよく、樹脂繊維と強化繊維を混抄した樹脂繊維複合シート(B’)を加熱成形することで樹脂繊維複合層(B)を得てもよい。樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、イソシアネート樹脂、ユリア樹脂、メラミン系樹脂、グアナミン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル、オリゴエステルアクリレート、ジアリルフタレート、DKF樹脂(レゾルシノール系樹脂の一種)、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、反応型PI(ポリイミド系)樹脂、等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリブタジエン、ポリスチレン(PS)、スチレン無水マレイン酸共重合体、メタクリル、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、PI(ポリイミド系)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PAI(ポリアミドイミド)樹脂等が挙げられる。中でも、樹脂繊維複合層(B)は熱硬化性樹脂を含むことが好ましく、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であることが特に好ましい。エポキシ樹脂としては、室温において固体であり、加熱すると溶融するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。このようなエポキシ樹脂を用いることにより、積層体を製造する際にエポキシ樹脂が加熱溶融することで、グラファイトシートの貫通孔の内部に含浸させることができる。そして、加熱溶融したエポキシ樹脂を冷却することで、エポキシ樹脂が硬化し、積層体の強度を高めることができる。また、樹脂繊維複合シートから含浸したエポキシ樹脂と後述する緩衝シートから含浸した樹脂同士が貫通孔内で接することで、両層が接する界面が生じることになり、これにより、積層体における層間密着性をより効果的に高めることができる。
【0056】
樹脂繊維複合シート(B’)の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、樹脂繊維複合シートの厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。樹脂繊維複合シート(B’)の厚みを上記下限値以上とすることにより、積層体を形成した際にグラファイト層(A)の強度をより効果的に補強できる。さらに、樹脂繊維複合シートの厚みを上記下限値以上とすることにより、樹脂繊維複合シートのハンドリング性を高めることができ、積層積層を製造する際に樹脂繊維複合シートが破損することを抑制することができる。また、樹脂繊維複合シートの厚みを上記上限値以下とすることにより、積層体の熱伝導率をより効果的に高めることができる。なお、樹脂繊維複合層(B)の厚みも上記範囲内であることが好ましい。
【0057】
樹脂繊維複合シート(B’)としては市販品を用いることができる。例えば、三菱ケミカル(株)製のCFプリプレグ(型番TR3523 368GMP品)、「TR3110 381GMX」、「TR3523 381GMX」、「TR6110H 331GMP」、「TR350C 175S」、「HSX350C110S」等を用いることができる。
【0058】
<緩衝層(C)/緩衝シート(C’)>
本実施形態において、緩衝シート(C’)は樹脂シートであることが好ましい。樹脂シートは樹脂を主成分として含むシートである。具体的には、樹脂シートの全質量に対して、樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量以上含むことがさらに好ましく、80質量%以上含むことが一層好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。また、樹脂シートは樹脂を100質量%含むものであってもよく、樹脂からなるシートであってもよい。
【0059】
緩衝シート(C’)の厚み方向の押し込み弾性率は、1000MPa以下であることが好ましく、500MPa以下であることがより好ましく、300MPa以下であることがさらに好ましく、100MPa以下であることが一層好ましく、50MPa以下であることがより一層好ましく、30MPa以下であることがさらに一層好ましく、20MPa以下であることが特に好ましく、10MPa以下であることが最も好ましい。また、緩衝シート(C’)の厚み方向の押し込み弾性率は、1MPa以上であることが好ましく、2MPa以上であることがより好ましく、3MPa以上であることがさらに好ましい。緩衝シート(C’)の厚み方向の押し込み弾性率を上記範囲内とすることにより、積層体の耐剥離性を高めることができる。また、緩衝シート(C’)の厚み方向の押し込み弾性率を上記範囲内とすることにより、積層体の耐衝撃性を効果的に高めることができ、さらには、加工性も高めることができる。なお、緩衝シート(C’)の厚み方向の押し込み弾性率は加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)の厚み方向の押し込み弾性率も上記範囲内であることが好ましい。
【0060】
緩衝シート(C’)の厚み方向の変形仕事率は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることが一層好ましく、70%以上であることが特に好ましい。緩衝シート(C’)の厚み方向の変形仕事率の上限値は特に限定されるものではなく、100%であってもよい。なお、緩衝シート(C’)の厚み方向の変形仕事率は加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)の厚み方向の変形仕事率も上記範囲内であることが好ましい。
【0061】
緩衝シート(C’)の厚み方向の押し込み弾性率と変形仕事率は、以下の方法で測定する。まず、緩衝シート(C’)を1.5cm角程度に切り出し、スライドガラスにアロンアルファ(登録商標)を1滴落とした箇所にサンプルを貼り付ける。その後、上から軽くスライドガラスを乗せてサンプルを押し挟み、アロンアルファがサンプル下に薄く均一に広がるようする。固定したサンプルを、温度:23±2℃、相対湿度:50±5%環境に1日以上放置する。次いで、三角錐圧子(稜間角115°)を用いてサンプルを押し込み、試験力負荷所要時間10秒、試験力保持時間5秒として測定を行い、試験力が1mNになった時の押し込み深さ変位と荷重のグラフを得る。得られたグラフデータから、押し込み弾性率と変形仕事率を求め、5回測定の平均値を算出する。なお、測定装置としては、例えば、島津製作所製超微小硬度計(DUH-211)を用いることができる。
また、緩衝層(C)の厚み方向の押し込み弾性率と変形仕事率を測定する場合、積層体の断面の緩衝層(C)について押し込み弾性率と変形仕事率を測定することもできる。
【0062】
緩衝シート(C’)の引張強度は、5MPa以上であることが好ましく、7.5MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましく、12.5MPa以上であることが一層好ましく、15MPa以上であることがより一層好ましく、20MPa以上であることが特に好ましい。緩衝シート(C’)の引張強度の上限値は特に限定されるものではないが、100MPa以下であることが好ましい。緩衝シート(C’)の引張強度は、JIS K7127:1999に準じて測定される。具体的には、緩衝シート(C’)を幅6mm、標線間距離が80mmとなるダンベル型のサンプルを打ち抜き、23℃、相対湿度50%の環境下で、万能試験機で試験速度200mm/minで試験片の引張試験を行う。そして、引張破断した際の荷重を測定し、破断時の応力を求め、引張強度を算出する。なお、緩衝シート(C’)の引張強度は加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)の引張強度も上記範囲内であることが好ましい。
【0063】
緩衝シート(C’)のガラス転移点温度は、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましく、40℃以下であることが一層好ましく、35℃以下であることが特に好ましい。緩衝シート(C’)のガラス転移点温度の下限値は特に限定されるものではないが、-50℃以上であることが好ましい。緩衝シート(C’)のガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)により測定される値である。具体的には、緩衝シート(C’)を構成するエポキシ樹脂シートについて、JIS K 7121:2012に準じて、示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いて、温度範囲-50~150℃、昇温速度10℃/分の条件でガラス転移温度を測定する。なお、緩衝シート(C’)のガラス転移点温度は加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)のガラス転移点温度も上記範囲内であることが好ましい。
【0064】
緩衝シート(C’)の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。また、緩衝シート(C’)の厚みは、500μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。緩衝シート(C’)の厚みはマイクロメータによって測定され、それらの算術平均により求められる。本発明の積層体が、緩衝シート(C’)を複数枚有している場合、ここで記載する緩衝シート(C’)の厚みは、各シートの厚みを指す。なお、緩衝シート(C’)の厚みは加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)の厚みも上記範囲内であることが好ましい。
【0065】
緩衝層(C)に含まれる樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を挙げることができる。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、熱可塑変性エラストマー樹脂等が挙げられる。中でも、緩衝層(C)は、樹脂繊維複合層(B)に含まれる樹脂と同種類の樹脂を含むことが好ましく、他材料と密着・接着性の観点から、緩衝層(C)はエポキシ樹脂及び熱可塑変性エラストマーから選択される少なくとも1種を主成分として含むことが好ましく、エポキシ樹脂を主成分して含むことがより好ましい。
【0066】
緩衝層(C)が熱可塑変性エラストマーを含む場合、熱可塑変性エラストマーはスチレン系エラストマーであることが好ましい。すなわち、緩衝層(C)はスチレン系エラストマーを主成分して含むものであることが好ましい。スチレン系エラストマーは、スチレン成分を主とした熱可塑性エラストマーの1種であり、軟質成分(例えばブタジエン成分)と硬質成分(例えばスチレン成分)との連続体からなる共重合体である。スチレン系エラストマーとしては特に限定はされないが、例えば特開2018-154827号公報に開示される、スチレン系エラストマーを例示することができる。具体的には、スチレン系エラストマーは、少なくとも下記成分(a)を含むスチレン系エラストマーであることが好ましい。より好ましくは、スチレン系エラストマーは下記成分(a)を含むスチレン系エラストマーとα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーとを含むものであることが好ましく、この場合、該α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー由来のα,β-不飽和カルボン酸濃度が0.01~10質量%であることがより好ましい。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック共重合体
【0067】
スチレン系エラストマーにおけるスチレン由来単位の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、スチレン系エラストマーにおけるスチレン由来単位の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
スチレン系エラストマーを含む樹脂シートとしては市販品を用いることができる。例えば、ダイヤプラスフィルム(株)製の「アートプライ」等を用いることができる。
【0069】
樹脂シートがエポキシ樹脂を主成分として含む場合、緩衝シート(C’)をエポキシ樹脂シートとも呼ぶ。エポキシ樹脂シートの100℃~200℃の引張貯蔵弾性率は1.0×104~6.0×107Paであることが好ましく、6.0×104~1.0×107Paであることがより好ましく、4.0×105~9.0×106Paであることがさらに好ましい。なお、「100℃~200℃の引張貯蔵弾性率が1.0×104~6.0×107Pa」とは、100℃~200℃の全温度範囲において、引張貯蔵弾性率が1.0×104Pa以上かつ6.0×107Pa以下の値を維持することを意味する。エポキシ樹脂シートの引張貯蔵弾性率は、JIS K7244:1998に準じて記載の動的粘弾性測定法により測定する。測定条件は、周波数1Hz、昇温速度3℃/分、両持ち引張モードの測定条件とし、温度が-100℃~200℃の範囲における貯蔵弾性率E’を測定する。なお、エポキシ樹脂シートの引張貯蔵弾性率は加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)の引張貯蔵弾性率も上記範囲内であることが好ましい。
【0070】
エポキシ樹脂シートの引張伸びは150%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。また、エポキシ樹脂シートの引張伸びは500%以下であることが好ましい。エポキシ樹脂シートの引張伸びを測定する際には、JIS K7127:1999に準じて、23℃、相対湿度50%の環境下で、評価用サンプルを引張試験で試験速度200mm/minで引張試験を行い、破断した際の伸びを測定する。エポキシ樹脂シートの引張貯蔵弾性率と引張伸びが上記範囲内である場合、伸縮性に優れたエポキシ樹脂シートであると言える。なお、エポキシ樹脂シートの引張伸びは加熱成形後であっても変化しないことが好ましく、緩衝層(C)の引張伸びも上記範囲内であることが好ましい。
【0071】
エポキシ樹脂シートは、エポキシ樹脂組成物を硬化したシート状の成形体である。ここでいう「硬化」とは、熱及び/又は光等により、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂を意図的に硬化させることを意味するものである。なお、ここで「意図的に」とは、例えば硬化前のエポキシ樹脂シートを長期に保管することによって、熱や光による経時的な影響で徐々に硬化するような場合も包含する。なお、緩衝シート(C’)は、エポキシ樹脂シートのように、既に硬化してなるシートであること好ましい、このため、緩衝シート(C’)から、緩衝層(C)を形成した場合であっても、上述したような物性値は大きく変化しない。
【0072】
エポキシ樹脂組成物の硬化方法は、エポキシ樹脂組成物中の配合成分や配合量、配合物の形状(例えばシートの厚み)によっても異なるが、通常、23~200℃で5分間~24時間の加熱する方法が挙げられる。加熱処理は段階的に行うことも好ましく、例えば、23~160℃で5分間~24時間の一次加熱と、一次加熱温度よりも40~177℃高い80~200℃で5分間~24時間の二次加熱との二段処理、更に二次加熱温度よりも高い100~200℃で5分間~24時間の三次加熱を行う三段処理で行うことも好ましい。
【0073】
エポキシ樹脂シートは、エポキシ樹脂組成物を所定の厚さのシート状にした状態で硬化させることにより製造することができる。あるいは、エポキシ樹脂組成物より得られた半硬化物を所定の厚さのシート状に成形すると共に更に硬化させることにより製造することができる。硬化物を半硬化物として製造する際には、加熱等により形状が保てる程度にエポキシ樹脂組成物の硬化反応を進行させればよい。エポキシ樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、半硬化物中に5質量%以下の溶剤を残留させてもよい。なお、本実施形態で用いるエポキシ樹脂シートは半硬化の状態のものであってもよい。
【0074】
エポキシ樹脂組成物は、剛直成分と柔軟成分とのブロック構造を有するエポキシ樹脂を含有することが好ましい。ここで、剛直成分は、芳香族性を有する環構造、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの縮合芳香環構造や、ビフェノール環、カルド構造、フルオレン環などの芳香環構造を多数含む構造や、ピロール環、チオフェン環などのヘテロ環式構造を含むことが好ましい。柔軟成分は、脂肪族炭化水素、例えば、炭素数1~8のアルキレン基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブチレングリコール基を含むことが好ましい。このようなエポキシ樹脂を含むことで、硬化物に柔軟性を付与することが可能となる。なお、エポキシ樹脂組成物は、必ずしも剛直成分と柔軟成分の双方にエポキシ基もしくはエポキシ基由来の構造を有していなくともよい。すなわち、少なくとも剛直成分及び柔軟成分のうちいずれかにエポキシ基もしくはエポキシ基由来の構造を有していればよい。
【0075】
エポキシ樹脂組成物は、少なくともエポキシ樹脂と、硬化剤とを含むものであるが、必要に応じて、エポキシ樹脂以外の他のエポキシ化合物、硬化促進剤、その他の成分等を適宜配合することができる。
【0076】
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を1種のみ含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。また、エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤としては、一般的にエポキシ樹脂硬化剤として知られているものを挙げることができる。エポキシ樹脂組成物は、硬化剤1種のみ含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。
【0077】
<<エポキシ樹脂>>
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、具体的には、例えば、ビスフェノールFと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ヘキサンジオールとビスフェノールFジグリシジルエーテルとの共重合体、ビスフェノールFと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ブタンジオールとビスフェノールFジグリシジルエーテルとの共重合体、ビスフェノールAと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ヘキサンジオールとビスフェノールAジグリシジルエーテルとの共重合体、ビスフェノールAと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ブタンジオールとビスフェノールAジグリシジルエーテルとの共重合体、テトラメチルビフェノールと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ヘキサンジオールとテトラメチルビフェノールジグリシジルエーテルとの共重合体、テトラメチルビフェノールと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ブタンジオールとテトラメチルビフェノールジグリシジルエーテルとの共重合体、ビフェノールと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ヘキサンジオールとビフェノールジグリシジルエーテルとの共重合体、ビフェノールと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ブタンジオールとビフェノールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ナフタレンジオールと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ヘキサンジオールと1,4-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ナフタレンジオールと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ブタンジオールと1,4-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ナフタレンジオールと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ヘキサンジオールと1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,6-ナフタレンジオールと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体、1,4-ブタンジオールと1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。中でも、柔軟性の観点から、エポキシ樹脂は、ビスフェノールFと1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの共重合体が好ましい。
【0078】
<<<硬化剤>>
エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤は、上記のエポキシ樹脂の架橋基間の架橋反応に寄与する。硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、脂肪族アミン、ポリエーテルアミン、脂環式アミン、芳香族アミンなどのアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤、第3級アミン、イミダゾールおよびその誘導体、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、有機酸ジヒドラジド、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。エポキシ樹脂シートの透明性を高めかつ着色を抑制する観点から、硬化剤は、脂環式構造を有する硬化剤であることが好ましい。
【0079】
脂環式構造を有する硬化剤としては、脂環式構造を有し、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であればよい。このような硬化剤としては、例えば、脂環式ポリアミン、脂環式酸無水物等が挙げられる。より具体的には、1,4-ジアザビシクロ-2,2,2-オクタン、1,8-ジアザビシクロ-5,4,0-ウンデカ-7-エン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、メチレンビスシクロヘキサナミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、及びこれらの脂環式ポリアミンをエポキシ変性又はエチレンオキシド変性、ダイマー酸変性、マンニッヒ変性、マイケル付加、チオ尿素縮合、ケチミン化した変性脂環式ポリアミンや、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。中でも脂環式ポリアミンが好ましく、その中でもイソホロンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、メチレンビスシクロヘキサナミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、及びこれらの変性物が特に好ましい。
【0080】
脂環式構造を有する硬化剤は市販品を用いることもでき、例えば三菱ケミカル株式会社製「jERキュア113」、「jERキュアST-14」、新日本理化株式会社製「リカシッドMH-700」等を用いることができる。
【0081】
<<その他のエポキシ化合物>>
エポキシ樹脂組成物が上述したエポキシ樹脂以外の、他のエポキシ化合物を含有する場合、他のエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等の各種のエポキシ樹脂の1種又は2種以上が挙げられる。
【0082】
<<溶剤>>
エポキシ樹脂組成物には、塗膜形成時等の取り扱い時に、エポキシ樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤を配合し、希釈してもよい。エポキシ樹脂組成物において、溶剤は、エポキシ樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に限定されない。
【0083】
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール等が挙げられ、これらの溶剤は適宜に2種又はそれ以上の混合溶剤として使用することも可能である。
【0084】
<<その他の成分>>
エポキシ樹脂組成物には、以上に挙げた成分の他にその他の成分を含有することができる。その他の成分はエポキシ樹脂組成物の所望の物性により適宜組み合わせて用いることができる。例えば、得られる硬化物の硬化収縮率を下げる効果、熱膨張率を低下させる効果等の各種特性を向上させることを目的に、エポキシ樹脂組成物に無機充填材を配合し、電気・電子分野、特に液状半導体封止材への応用展開を図ることができる。靱性を付与するためにゴム粒子、アクリル粒子等の有機充填材も含んでもよい。
【0085】
また、エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、カップリング剤、可塑剤、希釈剤、可撓性付与剤、分散剤、湿潤剤、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤、酸化防止剤、脱泡剤、離型剤、流れ調整剤等を配合してもよい。これらの配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計質量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0086】
(積層体の製造方法)
本実施形態の積層体の製造方法は、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)をこの順に積層した積層シートを加熱成形する工程を含む。本実施形態では、加熱成形する工程は、加熱加圧成形する工程であることがより好ましい。また、加熱成形する工程では、強化繊維を含む樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)の構成に加えて、さらに他の層を積層したものを加熱成形してもよい。
【0087】
一実施形態では、強化繊維を含む第1の樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)、緩衝シート(C’)及び強化繊維を含む第2の樹脂繊維複合シート(B’)を積層した積層シートを加熱成形する工程を含んでもよい。また、一実施形態では、強化繊維を含む第1の樹脂繊維複合シート(B’)、貫通孔を有するグラファイトシート(A’)及び緩衝シート(C’)を1ユニットとして、複数ユニットを積層した積層シートを加熱成形する工程を含んでもよい。
【0088】
加熱成形する工程における加熱温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱温度は、250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
加熱成形する工程における加熱時間は、5分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましく、60分以上であることがさらに好ましい。また、加熱時間は、360分以下であることが好ましく、300分以下であることがより好ましく、240分以下であることがさらに好ましい。
【0089】
加熱成形する工程が加熱加圧成形する工程である場合、掛ける圧力は、0.3MPa以上であることが好ましく、0.5MPa以上であることがより好ましく、0.7MPa以上であることがさらに好ましい。また、掛ける圧力は、20MPa以下であることが好ましく、15MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。
【0090】
加熱成形する工程では、例えば、プレス成形、オートクレーブ成形、ハイブリッド成形、ヒートアンドクールプレス成形、スタンピング成形、フィラメントワインディング成形、シートワインディング成形、ロボットによる自動積層成形等を適宜採用することができる。
【0091】
(用途)
本実施形態の積層体は産業機器として好ましく用いられる。ここで、産業機器としては。例えば、ロボット部材、通信伝導機器、航空宇宙機器、飛行機、自動車、鉄道車用等の移動体等が挙げられる。本実施形態の積層体は例えば、これらの産業機器筐体や構成部材として好ましく用いられる。より具体的な用途としては、軽量で柔軟でかつ高い放熱性能が求められる、ロケットノズル等宇宙航空機向け部材、レーザー照射耐性材料、核融合炉の炉壁(ダイバーター、アーマ)材、原子力発電の熱交換部材、通信伝導機器等が挙げられる。
【0092】
すなわち、本実施形態は、上述した積層体を備えた産業機器もしくは電子機器であってもよい。また、本実施形態は、上述した積層体を備えたロボット部材、通信伝導機器又は通信伝導機器に関するものであってもよい。
【実施例0093】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0094】
(1)ガラス転移温度(DSC法)
緩衝シート(C’)のガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)により測定した。具体的には、緩衝シート(C’)を構成するエポキシ樹脂シートについて、JIS K 7121:2012に準じて、示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いて、温度範囲-50~150℃、昇温速度10℃/分の条件でガラス転移温度を測定した。なお、緩衝シート(C’)のガラス転移温度と緩衝層(C)のガラス転移温度は同等である。
【0095】
(2)引張強度
JIS K7127:1999に準じて、幅6mm、標線間距離が80mmとなるダンベル型に緩衝シート(C’)を打ち抜いた。23℃、相対湿度50%の環境下、万能試験機で試験速度200mm/minで試験片の引張試験を行った。引張破断した際の荷重を測定し、破断時の応力を求め、引張強度を算出した。なお、緩衝シート(C’)の引張強度と緩衝層(C)の引張強度は同等である。
【0096】
(3)押し込み弾性率と変形仕事率
<測定試料の調製>
緩衝シート(C’)を1.5cm角程度に切り出し、スライドガラスにアロンアルファ(登録商標)を1滴落とした箇所にサンプルを貼り付けた。その後、上から軽くスライドガラスを乗せてサンプルを押し挟み、アロンアルファがサンプル下に薄く均一に広がるようにした。固定したサンプルは、温度:23±2℃、相対湿度:50±5%環境に1日以上放置した。
<測定機器>
各サンプルの押し込み弾性率と変形仕事率は、島津製作所製超微小硬度計(DUH-211)を用いて測定した。
<測定条件>
三角錐圧子(稜間角115°)を用いてサンプルを押し込み、試験力負荷所要時間10秒、試験力保持時間5秒として測定を行うことで、試験力が1mNになった時の押し込み深さ変位と荷重のグラフを得た。得られたグラフデータから、押し込み弾性率と変形仕事率を求め、5回測定の平均値を算出した。
なお、緩衝シート(C’)の押し込み弾性率と変形仕事率と緩衝層(C)の押し込み弾性率と変形仕事率は同等である。
【0097】
(実施例1)
<グラファイトシート(A’)の作製>
厚み125μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、カプトン(登録商標)Hタイプ)を原料フィルムとして用いた。炭化炉で原料フィルムの炭化工程を実施した。炭化炉では、アセチレンガスを含む窒素ガス(アセチレンガス濃度:25体積%)雰囲気下、室温から450℃まで平均昇温速度10℃/分で昇温した後、450℃から550℃までは昇温速度を約0.2℃/分に保って昇温した(混合ガス中加熱工程)。550℃まで昇温した後は、窒素ガス雰囲気に切り替え、昇温速度を約10℃/分に保って1,000℃まで昇温し、1時間保持した。炭化工程後の炭化フィルムを一旦放冷した後、黒鉛化炉に移し、黒鉛化工程を実施した。黒鉛化工程において、アルゴン雰囲気下、黒鉛化炉の電力出力値を一定値とし、
図3に記載の温度プロファイルで昇温した。
図3に記載の温度プロファイルにおいては、2,000℃到達した時刻から30分後の温度は2,062℃、60分後の温度は2,120℃、90分後の温度は2,176℃である。黒鉛化炉で、2,800℃で1時間保持した後、冷却して黒鉛化フィルムを得た。
得られた黒鉛化フィルムを2枚のポリイミドフィルムで挟み、線圧900kgf/cm、ロール回転速度0.5m/分の条件で圧縮し、グラファイトシートを得た。このグラファイトシートに孔径が3mm、孔のピッチが7.4mm、孔の形状が円形であり、孔の配列が60°千鳥となる貫通孔を打ち抜き加工により作製した。この時の貫通孔部の合計面積の割合は14.89%であった。
【0098】
<緩衝シート(C’)の作製>
国際公開第2020/027191号の段落0071の方法でエポキシ樹脂(α)を得た後、段落0073に記載された方法で厚みが100μmの伸縮性エポキシシートを作製した。
【0099】
<樹脂繊維複合シート(B’)>
樹脂繊維複合シート(B’)として、CFプリプレグ(三菱ケミカル(株)製、型番TR3523 368GMP品(綾織形状のCFクロスにエポキシ系樹脂を含浸したもの))を用いた。
【0100】
<耐剥離性試験用積層体の作製>
CFプリプレグ、上記で作製したグラファイトシート、上記で作製した伸縮性エポキシシート及びCFプリプレグをこの順で積層した。この際、伸縮性エポキシシートとグラファイトシートを同じサイズとし、四隅を揃えて積層した。このようにして得られた積層シートを2枚の離型フィルムの間に挟んで、熱プレス機で4MPaの圧力をかけ、140℃で10分間熱プレスした。その後、幅30mm×長さ150mmに切り出し、耐剥離性試験用積層体とした。
【0101】
<耐加工性評価用積層体の作製>
上記で作製した「伸縮性エポキシシート/上記で作製したグラファイトシート/CFプリプレグ」を1Unit単位として、CFプリンダブル/1Unit/1Unit/1Unitの積層シートを作製した。なお、CFプリンダブルと伸縮性エポキシシートが直接接するように積層されるように積層シートを構成した。次いで、離型フィルムの間に挟んで、熱プレス機で4MPaの圧力をかけ、140℃で10分間熱プレスし、15cm角サイズの耐加工性評価用積層体を得た。
【0102】
(実施例2)
緩衝シート(C’)として、伸縮性エポキシシートに代えて、スチレン系エラストマーを主成分として含む熱可塑性フィルム(ダイヤプラスフィルム(株)製、「商品名:アートプライ」、厚み200μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0103】
(実施例3)
積層シート中の伸縮性エポキシシートの面積をグラファイトシートよりも若干大きくし、端部が5mm長くなるようにした以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0104】
(比較例1)
実施例1の<グラファイトシート(A’)の作製>において、貫通孔を設けないグラファイトシートを作製した。実施例1において貫通孔を有するグラファイトシートに代えて、このグラファイトシートを用い、さらに、伸縮エポキシシートを積層しなかった以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、比較例1の耐加工性評価用積層体の作製では、「上記で作製したグラファイトシート/CFプリプレグ」を1Unit単位として、CFプリンダブル/1Unit/1Unit/1Unitの積層体を作製した。なお、CFプリンダブルとグラファイトシートが直接接するように積層されるように積層体を構成した。
【0105】
(比較例2)
実施例1において、伸縮エポキシシートを積層しなかった以外は実施例1と同様にして積層体を得た。比較例2では、耐加工性評価用積層体の作製を比較例1と同様の方法で行った。
【0106】
(評価)
(1)耐剥離性試験
実施例及び比較例で得られた耐剥離性試験用積層体について、万能材料試験機(株式会社島津製作所製「AGS-X」)を用いて、試験速度50mm/分で、両表面に設けられた樹脂繊維複合層(B)を持ってT型剥離試験を行い、変位-剥離荷重のデータグラフを得た。グラフから、初期ピークの最大値と、変位が50~100mmの間における剥離ピーク値をピックアップし、それらの範囲をまとめた。
【0107】
(2)耐加工性評価
実施例及び比較例で得られた耐加工性評価用積層体について、切断機を用いて、耐加工性評価用積層体の中央部を縦方向に切断し、切断断面をマイクロスコープ(光学顕微鏡)で観察した。その際、切断断面に長さが2mm以上の層間剥離があるかどうかを評価した。切断断面に長さが2mm以上の層間剥離がない場合、積層体の2次加工性(裁断性)が良好であると判定できる。
【0108】
【0109】
比較例に比べて実施例では、耐剥離性評価において、初期ピークの最大値と変位が50~100mmの間における剥離ピーク値が高く、剥離強度が高かった。また実施例で得られた積層体は加工性にも優れていた。なお、実施例3ではT型剥離試験した際に、層間剥離力が大きく、層間剥離が起こる前に樹脂繊維複合層(B)そのものが破断したため、剥離強度(50~100mm変位のピーク値)の測定はできなかった。