(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124869
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】紙の製造方法及び薬剤
(51)【国際特許分類】
D21H 21/08 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
D21H21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032824
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉義
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA11
4L055AC06
4L055AC09
4L055AG71
4L055AG72
4L055AG84
4L055AG89
4L055AH18
4L055BD10
4L055EA05
4L055EA25
4L055EA29
4L055EA32
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造する方法及び当該紙の製造方法に用いるパルプスラリーの紙原料として再利用される低質原料を処理して改質原料とする特定の薬剤を提供すること。
【解決手段】製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造する方法であって、紙原料として再利用される低質原料が、特定の薬剤を用いて処理された改質原料であり、前記改質原料を含有するパルプスラリーは、前記特定の薬剤で処理されていない無処理の低質原料を含有するパルプスラリーに比べて、優れた濾水性及び濁度の特性を有する、紙の製造方法、及び、その薬剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造する方法であって、
紙原料として再利用される低質原料が、特定の薬剤を用いて処理された改質原料であり、
前記改質原料を含有するパルプスラリーは、前記特定の薬剤で処理されていない無処理の低質原料を含有するパルプスラリーに比べて、優れた濾水性及び濁度の特性を有する、紙の製造方法。
【請求項2】
前記改質原料を含有するパルプスラリーは、前記低質原料を再利用しないパルプスラリーに比べて、同等以上の濾水性及び濁度の特性を有する、請求項1に記載の紙の製造方法。
【請求項3】
前記特定の薬剤が、下記の(1)~(3)のいずれかに記載する薬剤である、請求項1又は2に記載の紙の製造方法。
(1)アクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付して得られた反応物。
(2)(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~2.0meq/g、アニオン化度が0.20meq/g以下、及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比が5~20である共重合物。
(3)(メタ)アクリルアミドと、下記の化学式(I)で表される化合物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~3.0meq/gである共重合物。
化学式(I):R1-COO-C2H4-N(CH3)2-R2
但し、R1は、CH2=CH-又はCH2=C(CH3)-であり、R2は、炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、同種でも異種でもよい。
【請求項4】
前記薬剤(3)は、ベンジル基団部分のカチオン化度が0.1~1.2meq/gであり、R2がベンジル基である、請求項3に記載の紙の製造方法。
【請求項5】
前記紙原料が、古紙、板紙又はクラフト紙であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紙の製造方法。
【請求項6】
前記低質原料を前記特定の薬剤で処理して得られた前記改質原料を、前記パルプスラリーに混合する、請求項1又は2に記載の紙の製造方法。
【請求項7】
前記改質原料を前記パルプスラリーに混合した後も、前記特定の薬剤を前記パルプスラリーにさらに添加する、請求項6に記載の紙の製造方法。
【請求項8】
パルプスラリーの紙原料として再利用される低質原料を処理する薬剤であって、
前記パルプスラリーの濾水性及び濁度の特性を改善するように、再利用される前記低質原料を処理して改質原料にする、薬剤。
【請求項9】
前記薬剤が、下記の(1)~(3)のいずれかに記載する薬剤である、請求項8に記載の薬剤。
(1)アクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付して得られた反応物。
(2)(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~2.0meq/g、アニオン化度が0.20meq/g以下、及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比が5~20である共重合物。
(3)(メタ)アクリルアミドと、下記の化学式(I)で表される化合物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~3.0meq/gである共重合物。
化学式(I):R1-COO-C2H4-N(CH3)2-R2
但し、R1は、CH2=CH-又はCH2=C(CH3)-であり、R2は、炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、同種でも異種でもよい。
【請求項10】
前記薬剤(3)は、ベンジル基団部分のカチオン化度が0.1~1.2meq/gであり、R2がベンジル基である、請求項9に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造方法及び薬剤に関し、より詳細には、製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、段ボールなどの紙質包装材料の需要は、電子商取引の増加と共に増加している。これらの包装材料は、環境保全、資源有効利用の観点から、なるべく再資源化して紙として再利用される。しかし、これらの包装材料の再資源化が進むと、原料である繊維が劣化し、製造時に生産性(例えば濾水性)が低下するとともに、白水濃度(濁度)が高くなるという問題が生じる傾向がある。さらに、従来の製紙工程で排出された廃棄物を、そのままの状態で製紙工程に戻して利用したとしても、同様の障害が生じる。
【0003】
例えば、特許文献1には、製紙汚泥に対し、特定の酸化剤群より選択される一種以上の無機系酸化剤により消臭処理及び改質処理を施した後、アクリルアミドを主体とした非イオン性水溶性高分子、ビニル重合系カチオン性水溶性及び/又はビニル重合系両性水溶性高分子をこの順に逐次添加し凝集処理し、その後脱水機により脱水することを特徴とする製紙汚泥の処理方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、製紙スラッジに対して生石灰又は消石灰を添加して、該スラッジのpH値が9.5を超え、11.0以下となるように調整することにより、硫化水素及びメルカプタン類の発生を長期間にわたって抑制でき、セメント工場での焼成において、問題なく使用できる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、その製紙汚泥及び製紙スラッジを紙として再利用することが全く触れていないため、本発明とは全く異なる技術である。そのため、これまで、従来の製紙工程で排出された廃棄物を製造上問題なく使用する紙の製造方法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-149033号公報
【特許文献2】特開2005-161165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、製紙工程で排出された低質原料のうち、紙原料として再利用する低質原料の適正化を図ることによって、パルプスラリーの特性を維持し、または改善することができる紙の製造方法、及び、再利用する低質原料の適正化を図るために用いる薬剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造する方法であって、紙原料として再利用される低質原料を、特定の薬剤を用いて処理して改質原料とし、この改質原料をパルプスラリー中に含有させることによって、この改質原料を含有するパルプスラリーは、特定の薬剤で処理されていない無処理の低質原料を含有するパルプスラリーに比べて、優れた濾水性及び濁度の特性を有し、良好な品質の紙の製造を安定して行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1)本発明の第1の発明は、製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造する方法であって、紙原料として再利用される低質原料が、特定の薬剤を用いて処理された改質原料であり、前記改質原料を含有するパルプスラリーは、前記特定の薬剤で処理されていない無処理の低質原料を含有するパルプスラリーに比べて、優れた濾水性及び濁度の特性を有する、紙の製造方法である。
【0010】
(2)本発明の第2の発明は、前記改質原料を含有するパルプスラリーは、前記低質原料を再利用しないパルプスラリーに比べて、同等以上の濾水性及び濁度の特性を有する、(1)に記載の紙の製造方法である。
【0011】
(3)本発明の第3の発明は、前記特定の薬剤が、下記の(1)~(3)のいずれかに記載する薬剤である、(1)又は(2)に記載の紙の製造方法である。
(1)アクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付して得られた反応物。
(2)(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~2.0meq/g、アニオン化度が0.20meq/g以下、及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比が5~20である共重合物。
(3)(メタ)アクリルアミドと、下記の化学式(I)で表される化合物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~3.0meq/gである共重合物。
化学式(I):R1-COO-C2H4-N(CH3)2-R2
但し、R1は、CH2=CH-又はCH2=C(CH3)-であり、R2は、炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、同種でも異種でもよい。
【0012】
(4)本発明の第4の発明は、前記薬剤(3)は、ベンジル基団部分のカチオン化度が0.1~1.2meq/gであり、R2がベンジル基である、(3)に記載の紙の製造方法である。
【0013】
(5)本発明の第5の発明は、前記紙原料が、古紙、板紙又はクラフト紙であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の紙の製造方法である。
【0014】
(6)本発明の第6の発明は、前記低質原料を前記特定の薬剤で処理して得られた前記改質原料を、前記パルプスラリーに混合する、(1)~(5)のいずれかに記載の紙の製造方法である。
【0015】
(7)本発明の第7の発明は、前記改質原料を前記パルプスラリーに混合した後も、前記特定の薬剤を前記パルプスラリーにさらに添加する、(6)に記載の紙の製造方法である。
【0016】
(8)本発明の第8の発明は、パルプスラリーの紙原料として再利用される低質原料を処理する薬剤であって、前記パルプスラリーの濾水性及び濁度の特性を改善するように、再利用される前記低質原料を処理して改質原料にする、薬剤である。
【0017】
(9)本発明の第9の発明は、前記薬剤が、下記の(1)~(3)のいずれかに記載する薬剤である、(8)に記載の薬剤である。
(1)アクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付して得られた反応物。
(2)(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~2.0meq/g、アニオン化度が0.20meq/g以下、及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比が5~20である共重合物。
(3)(メタ)アクリルアミドと、下記の化学式(I)で表される化合物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~3.0meq/gである共重合物。
化学式(I):R1-COO-C2H4-N(CH3)2-R2
但し、R1は、CH2=CH-又はCH2=C(CH3)-であり、R2は、炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、同種でも異種でもよい。
【0018】
(10)本発明の第10の発明は、前記薬剤(3)は、ベンジル基団部分のカチオン化度が0.1~1.2meq/gであり、R2がベンジル基である、(9)に記載の薬剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製紙工程で排出された低質原料の一部を、特定の薬剤を用いて処理し、紙原料として再利用される改質原料とし、この改質原料をパルプスラリーに含有させることによって、パルプスラリーの特性を維持し、または改善することができる紙の製造方法、及び、再利用する低質原料を改質原料にするために用いる薬剤の提供が可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
本発明の紙の製造方法は、製紙工程で排出された低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造する方法であって、紙原料として再利用される低質原料が、特定の薬剤を用いて処理された改質原料であり、改質原料を含有するパルプスラリーは、特定の薬剤で処理されていない無処理の低質原料を含有するパルプスラリーに比べて、優れた濾水性及び濁度の特性を有する。
【0022】
上記紙の製造方法において、改質原料を含有するパルプスラリーは、低質原料を再利用しないパルプスラリーに比べて、同等以上の濾水性及び濁度の特性を有する。
【0023】
また、本発明の薬剤は、パルプスラリーの紙原料として再利用される低質原料を処理する薬剤であって、パルプスラリーの濾水性及び濁度の特性を改善するように、再利用される低質原料を処理して改質原料にする。
【0024】
上記紙の製造方法および上記薬剤において、紙原料は、古紙、板紙又はクラフト紙が好適である。
【0025】
<低質原料>
本発明において、処理対象とする低質原料とは、アニオントラッシュ、すなわちPCD(カチオン要求量)が-200μeq/L以下、及び製紙工程で用いられる抄紙原料に比べ、下記の濾水試験で、10秒間濾水量の値が10ml以上小さいものをさす。
【0026】
この低質原料としては、例えば、低質古紙、DIPフロス、コートブローク、製造工程の回収原料、排水スカム、ペーパースラッジ、排水処理場汚泥、生物処理余剰汚泥、排水処理前加圧浮上スカム、排水汚泥を含有するパルプ等の原料が挙げられる。
【0027】
〔カチオン要求量〕
サンプルを150μmパスのろ布でろ過し、ろ液を採取する。得られたろ液を流動電位計(PCD(Particle Change Detector)-03型、ミューテック社製)に投入して、滴定液(Poly-DADMACキシダ化学(株)製)の量からカチオン要求量を測定する。
【0028】
〔濾水試験〕
直径60mmの筒で、筒底に80メッシュワイヤーと水が抜ける管とが付随した濾水テスターを用い、バルブの開閉で筒に溜まっているサンプル(180ml)を、上記メッシュワイヤーを通して下に落下させる。この時の10秒間の濾水量をメスシリンダーで測定する。なお、濾水量が多いほど、製紙工程時の脱水速度が速く、生産性が向上することを意味する。
【0029】
<特定の薬剤>
本発明の(特定の)薬剤は、例えば低質原料に含まれるアニオン性の物質を中和することができるカチオン性の物質であればよく、特にカチオン性のポリマーが好ましい。このカチオン性のポリマーは、アニオン性の物質を中和することで、パルプスラリーの電荷を調整し最適な状態にすることが可能である。また、ポリマーであることで、ピッチなどの不純物を繊維に定着させることが可能である。
【0030】
<カチオン性のポリマー>
カチオン性のポリマーであれば、特に限定されないが、そのなかでも下記の(1)~(3)のいずれかに記載するカチオン性のポリマーは、より少ない添加量で効果を発現するために好ましい。
【0031】
(1)アクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付して得られた反応物。以下では、この反応物を薬剤(1)ともいう。
【0032】
(2)(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~2.0meq/g、アニオン化度が0.20meq/g以下、及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比が5~20である共重合物。以下では、この共重合物を薬剤(2)ともいう。
【0033】
(3)(メタ)アクリルアミドと、下記の化学式(I)で表される化合物との共重合物であって、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~3.0meq/gである共重合物。以下では、この共重合物を薬剤(3)ともいう。
化学式(I):R1-COO-C2H4-N(CH3)2-R2
但し、R1は、CH2=CH-又はCH2=C(CH3)-であり、R2は、炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、同種でも異種でもよい。
【0034】
<薬剤(1)>
アクリルアミド系ポリマーの固有粘度と分子量は、一般的に相関関係にある。つまり、固有粘度が低下すると、分子量が低下し、濾水性及び歩留が低下する可能性がある。従って、濾水性と歩留を向上させるために、アクリルアミド系ポリマーの固有粘度は、10.0dl/g以上であることが好ましく、12.5dl/g以上であることがより好ましい。アクリルアミド系ポリマーの固有粘度は、より好ましくは、13.0dl/g以上であり、さらに好ましくは14.0dl/g以上であり、最も好ましくは14.5dl/g以上である。また、アクリルアミド系ポリマーの固有粘度が高すぎると、分子量が大きくなりすぎ、製紙工程において薬剤(1)を添加した際に、薬剤(1)が凝集剤として作用してしまい、製紙の地合いが崩れてしまう可能性がある。従って、凝集を抑制するために、アクリルアミド系ポリマーの固有粘度は、40.0dl/g以下であることが好ましく、28.0dl/g以下であることがより好ましい。アクリルアミド系ポリマーの固有粘度は、より好ましくは24.0dl/g以下であり、さらに好ましくは20.0dl/g以下であり、最も好ましくは16.0dl/g以下である。
【0035】
アクリルアミド系ポリマーのアニオン化度が高すぎると、アクリルアミド系ポリマー分子内においてカチオン基とアニオン基とのイオン反応が起こるので、歩留及び濾水性が低下する可能性がある。従って、歩留及び濾水性を向上させるためのアクリルアミド系ポリマーのアニオン化度は、好ましくは0.30meq/g以下であり、より好ましくは0.10meq/g以下であり、より一層好ましくは0.05meq/g以下であり、さらに好ましくは0.03meq/g以下であり、最も好ましくは0.01meq/g以下である。
【0036】
なお、固有粘度は、キャノンフェンスケ型粘度計を使用して流下時間を測定し、その測定値から、Hugginsの式及びMead-Fuossの式を用いて算出する。また、アニオン化度は、コロイド当量値によって表され、コロイド当量値は、特開2009-228162の段落0029に記載されているとおり、以下の方法で測定する。
【0037】
〔アニオンのコロイド当量値の測定方法〕
50ppm水溶液(純水で希釈)に希釈したアニオン性高分子化合物を100mlメスシリンダーに採取して200mlビーカーに移す。回転子を入れて撹拌しながらN/10水酸化ナトリウム溶液(和光純薬工業(株)製)をホールピペットで加え、pHを10.5にした後、トルイジンブルー指示薬(和光純薬工業(株)製)を2~3滴入れ、N/400ポリビニルアルコール硫酸カリウム溶液(和光純薬工業(株)製)で滴定する。尚、滴定の前に、N/200メチルグリコールキトサン溶液(和光純薬工業(株)製)5mlをホールピペットで加える。青色が赤紫色に変わり数秒経っても赤紫色が消えない点を終点とする。同様に純水にて空試験を行う(ブランク)。
アニオンのコロイド当量値(meq/g)=〔アニオン性高分子化合物の測定値(ml)-空試験の滴定量(ml)〕/2
【0038】
本発明において、アクリルアミド系ポリマーとは、アクリルアミドを重合反応して得られるポリマーをいい、他のカチオンモノマーを含有してもよい。また、アニオン性モノマーは、含んでもよく、含まなくてもよいが、重合反応により得られたアクリルアミド系ポリマーが、固有粘度が10.0~40.0dl/g、アニオン化度が0.30meq/g以下であることが上述のとおり好ましい。ただし、アニオン化度を低くし、重合される際のアクリルアミド系ポリマーの加水分解を抑制することによって歩留を向上させるには、アニオン性モノマーは含まない方が好ましい。
【0039】
アクリルアミド系ポリマーが含有してもよいカチオンモノマーとしては、例えば、アクリルニトリル、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、N,N-ジメチル-1-3-プロパンジアミン(DMAPA)などが挙げられる。
【0040】
また、アクリルアミド系ポリマーは、改質原料を含むパルプスラリーの濾水性、歩留をさらに向上させ、湿紙の含水率を低減させるために、直鎖構造(リニアポリマー)である方が好ましい。つまり、アクリルアミド系ポリマーの重合反応に使用されるアクリルアミド以外のモノマーとして、架橋性のモノマーは重合反応させないほうが好ましい。
【0041】
アクリルアミド系ポリマーの重合反応に使用される溶媒としては、例えば、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどが使用可能である。コスト面を考慮すると、水が好ましい。
【0042】
アクリルアミド系ポリマーの重合開始剤としては、溶媒に溶けるものであれば特に限定されない。例えば、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパンハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物があげられる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ペルオクソ二硫酸アンモニウム、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエートなどの過酸化物系があげられる。また、ペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、テトラメチルエチレンジアミン又はトリメチルアミンなどを組み合わせる、レドックス系があげられる。なお、重合反応には連鎖移動剤を併用することが好ましい。前記連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸及びそのエステル類、イソプロピルアルコール;並びにアリルアルコール、アリルアミン及び(メタ)アリルスルホン酸のような(メタ)アリル基を有するモノマー及びその塩を挙げることができる。
【0043】
アクリルアミド系ポリマーの重合反応の温度及び時間は、得られるアクリルアミド系ポリマーが所望の固有粘度、アニオン化度となるように、調整してもよい。例えば、得られるアクリルアミド系ポリマーが固有粘度12.5~28.0dl/g、アニオン化度0.30meq/g以下となるようにするには、例えば、重合反応の開始温度を低温から、徐々に温度を上昇させることにより、上記条件を満たすアクリルアミド系ポリマーを重合することができる。重合反応の開始温度が高すぎると、固有粘度が下がり、また、反応時にアクリルアミドの加水分解物が生じてアニオン化度が上がるので、重合反応の開始温度は低い方がよい。より具体的には、重合反応の開始温度は、10℃~30℃が好ましく、15℃~25℃がより好ましく、18℃~22℃がさらに好ましい。また、重合時の発熱を制御しやすいという点において、重合開始後の上昇する温度の上限は、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、さらに好ましくは65℃以下である。
【0044】
[反応物生成工程]
反応物生成工程では、上述したアクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付することにより、パルプスラリーの紙原料として再利用される低質原料を処理する薬剤であって、前記パルプスラリーの濾水性及び濁度の特性を改善するように、再利用される前記低質原料を処理して改質原料にする、薬剤として利用可能な反応物を製造することができる。
【0045】
ホフマン分解反応を行う場合、アクリルアミド系ポリマーを重合反応した溶液をそのまま使用してもよいし、希釈して使用してもよい。また、必要に応じて別途溶液を準備してもよい。
【0046】
ホフマン分解反応に供されるアクリルアミド系ポリマーの濃度を高く設定すると、不均一な反応となってしまい、十分な歩留向上効果、濾水性向上効果を得ることができない。これらの効果を十分に得るためには、アクリルアミド系ポリマーの濃度は、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、最も好ましくは2質量%以下である。また、アクリルアミド系ポリマーの濃度が低すぎると、ホフマン分解反応の効率が悪くなるので、アクリルアミド系ポリマーの濃度は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.010質量%以上であり、さらに好ましくは0.100質量%以上である。
【0047】
ホフマン分解反応は、アルカリ条件下で、アクリルアミド系ポリマーのアミド基に次亜ハロゲン酸を作用させることにより行うことが好ましい。具体的には、pH8.0以上の範囲で、好ましくはpH11.0~14.0の範囲の条件下で、ホフマン分解反応を行うとよい。アルカリ条件にするために、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物などを使用する。また、次亜ハロゲン酸を作用させるために、例えば、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩などの次亜ハロゲン酸塩を使用する。
【0048】
次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩として、例えば、これらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩などがあげられる。次亜塩素酸のアルカリ金属としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウムなどがあげられる。
【0049】
ホフマン分解反応に供される次亜ハロゲン酸塩の量は特に限定されないが、アクリルアミド系ポリマーの次亜ハロゲン酸塩に対する量が少なすぎ、又は多すぎると、反応に供さないアクリルアミド系ポリマー又は次亜ハロゲン酸塩が多くなってしまうので、反応の効率が低下する。効率よく反応を行うためには、次亜ハロゲン酸塩とアクリルアミド系ポリマーとのモル比は、好ましくは0.1:10~10:10であり、より好ましくは1:10~10:10であり、さらに好ましくは、2:10~10:10である。
【0050】
本発明におけるホフマン分解反応において、アクリルアミド系ポリマーを含む液体に次亜ハロゲン酸塩がpH8.0以上の条件下で混合されることが好ましい。これにより、反応物のゲル化を防止できる。また、ホフマン分解反応において、アクリルアミド系ポリマーを含む液体に次亜ハロゲン酸塩とともにアルカリが添加されることが好ましい。これによっても、反応物のゲル化を防止できる。アルカリは、従来公知のアルカリ(上述の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物など)を用いることができる。
【0051】
ホフマン分解反応における温度は、0℃~110℃において適宜選択可能であるが、上述の所望のカチオン化度を得るために、反応時間との組み合わせで選択してもよい。例えば、24時間以内に反応物を供給する場合、好ましくは10℃~50℃、より好ましくは10~30℃でホフマン分解反応を行うことが好ましい。
【0052】
なお、上述した反応物生成工程においては、次工程の供給工程に入る前に、中和剤が添加されてもよいが、添加されないことが好ましい。中和剤を添加することにより、濾水性及び歩留率の向上効果、湿紙の含水率の低減効果が小さくなる傾向がある。中和剤としては、従来の公知のホフマン分解反応の中和に用いられるpH調整剤(例えば、塩酸など)が挙げられる。
【0053】
アクリルアミド系ポリマーのカチオン化度は、好ましくは0.01meq/g以上であり、より好ましくは0.10meq/g以上であり、より一層好ましくは0.30meq/g以上であり、さらに好ましくは0.50meq/g以上であり、最も好ましくは1.00meq/g以上である。また、アクリルアミド系ポリマーのカチオン化度は、数値が高ければ高いほど効果が高いので添加する量を少なくできるので好ましい。アクリルアミド系ポリマーのカチオン化度は、通常、2.00meq/g以下である。
【0054】
なお、反応物のカチオン化度は、アニオン化度と同様に、コロイド当量値によって表され、以下の方法で測定する。
【0055】
〔カチオンのコロイド当量値の測定方法〕
50ppm水溶液(純水で希釈)に希釈した反応物を100mlメスシリンダーに採取して200mlビーカーに移す。回転子を入れて撹拌しながらN/10塩酸水溶液をホールピペットで加え、pHを4にした後、トルイジンブルー指示薬(和光純薬工業(株)製)を2~3滴入れ、N/400ポリビニルアルコール硫酸カリウム溶液(和光純薬工業(株)製)で滴定する。尚、滴定の前に、N/200メチルグリコールキトサン溶液(和光純薬工業(株)製)5mlをホールピペットで加える。青色が赤紫色に変わり数秒経っても赤紫色が消えない点を終点とする。同様に純水にて空試験を行う(ブランク)。
カチオンのコロイド当量値(meq/g)=〔反応物の測定値(ml)-空試験の滴定量(ml)〕/2
【0056】
<薬剤(2)>
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の固有粘度と分子量は、一般的に相関関係にある。つまり、固有粘度が低下すると、分子量が低下し、濾水性及び歩留が低下する可能性がある。従って、濾水性と歩留を向上させるために、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の固有粘度は、8.0dl/g以上であることが好ましく、12.5dl/g以上であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の固有粘度は、より好ましくは、13.0dl/g以上であり、さらに好ましくは14.0dl/g以上であり、最も好ましくは14.5dl/g以上である。また、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の固有粘度が高すぎると、分子量が大きくなりすぎ、製紙工程において薬剤(2)を添加した際に、薬剤(2)が凝集剤として作用してしまい、製紙の地合いが崩れてしまう可能性がある。従って、凝集を抑制するために、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の固有粘度は、28.0dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは24.0dl/g以下であり、さらに好ましくは20.0dl/g以下であり、最も好ましくは16.0dl/g以下である。
【0057】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物のアニオン化度が高すぎると、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の分子内においてカチオン基とアニオン基とのイオン反応が起こるので、歩留及び濾水性が低下する可能性がある。従って、歩留及び濾水性を向上させるための(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物のアニオン化度は、好ましくは0.20meq/g以下であり、より好ましくは0.10meq/g以下であり、より一層好ましくは0.05meq/g以下であり、さらに好ましくは0.03meq/g以下であり、最も好ましくは0.01meq/g以下である。
【0058】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物における、固有粘度およびアニオン化度は、上記アクリルアミド系ポリマーと同様にして測定する。
【0059】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物のカチオン化度は、好ましくは0.6meq/g以上2.0meq/g以下であり、より好ましくは0.8meq/g以上1.5meq/g以下である。
【0060】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物のカチオン化度は、上記アクリルアミド系ポリマーと同様にして測定する。
【0061】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物としては、カチオンリッチであることが好ましく、具体的には、カチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比については、5~20の範囲であることがより好ましい。
【0062】
ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物は、ジメチルアミノエチルアクリレートに4級化剤を反応させて得られる。4級化剤としては、例えば、塩化メチル等のハロゲン化アルキルや、ジメチル硫酸等のジアルキル硫酸などが挙げられる。これらの4級化剤をジメチルアミノエチルアクリレートと反応させると、ジメチルアミノエチルアクリレートの窒素原子に4級化剤のアルキル基が導入され、4級アンモニウムイオンとハロゲンイオン又はモノアルキル硫酸イオンとの塩が形成される。4級剤により導入されるアルキル基は、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。ジメチルアミノエチルアクリレートの4級化は公知の方法により実施できる。
【0063】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の重合反応に使用される溶媒としては、例えば、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどが使用可能である。コスト面を考慮すると、水が好ましい。
【0064】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の重合開始剤としては、溶媒に溶けるものであれば特に限定されない。例えば、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパンハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物があげられる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ペルオクソ二硫酸アンモニウム、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエートなどの過酸化物系があげられる。また、ペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、テトラメチルエチレンジアミン又はトリメチルアミンなどを組み合わせる、レドックス系があげられる。なお、重合反応には連鎖移動剤を併用することが好ましい。前記連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸及びそのエステル類、イソプロピルアルコール;並びにアリルアルコール、アリルアミン及び(メタ)アリルスルホン酸のような(メタ)アリル基を有するモノマー及びその塩を挙げることができる。
【0065】
(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の重合反応の温度及び時間は、得られる(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物が所望の固有粘度、カチオン化度、アニオン化度、カチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比となるように、調整してもよい。例えば、得られる(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物の固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~2.0meq/g、アニオン化度が0.20meq/g以下、及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比が5~20となるようにするには、例えば、重合反応の開始温度を低温から、徐々に温度を上昇させることにより、上記条件を満たす(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリルアミドと、ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物との共重合物を重合することができる。重合反応の開始温度が高すぎると、固有粘度が下がり、また、反応時に(メタ)アクリルアミドの加水分解物が生じてアニオン化度が上がるので、重合反応の開始温度は低い方がよい。より具体的には、重合反応の開始温度は、10℃~30℃が好ましく、15℃~25℃がより好ましく、18℃~22℃がさらに好ましい。また、重合時の発熱を制御しやすいという点において、重合開始後の上昇する温度の上限は、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、さらに好ましくは65℃以下である。
【0066】
<薬剤(3)>
(メタ)アクリルアミドと上記化学式(I)で表される化合物との共重合物の固有粘度と分子量は、一般的に相関関係にある。つまり、固有粘度が低下すると、分子量が低下し、濾水性及び歩留が低下する可能性がある。従って、濾水性と歩留を向上させるために、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の固有粘度は、8.0dl/g以上であることが好ましく、12.5dl/g以上であることがより好ましい。(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の固有粘度は、より好ましくは13.0dl/g以上であり、さらに好ましくは14.0dl/g以上であり、最も好ましくは14.5dl/g以上である。また、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の固有粘度が高すぎると、分子量が大きくなりすぎ、製紙工程において薬剤(3)を添加した際に、薬剤(3)が凝集剤として作用してしまい、製紙の地合いが崩れてしまう可能性がある。従って、凝集を抑制するために、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の固有粘度は、28.0dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは24.0dl/g以下であり、さらに好ましくは20.0dl/g以下であり、最も好ましくは16.0dl/g以下である。
【0067】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物のアニオン化度が高すぎると、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の分子内においてカチオン基とアニオン基とのイオン反応が起こるので、歩留及び濾水性が低下する可能性がある。従って、歩留及び濾水性を向上させるための(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物のアニオン化度は、好ましくは0.20meq/g以下であり、より好ましくは0.10meq/g以下であり、より一層好ましくは0.05meq/g以下であり、さらに好ましくは0.03meq/g以下であり、最も好ましくは0.01meq/g以下である。
【0068】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物における、固有粘度およびアニオン化度は、上記アクリルアミド系ポリマーと同様にして測定する。
【0069】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物のカチオン化度は、好ましくは0.6meq/g以上3.0meq/g以下であり、より好ましくは0.8meq/g以上1.5meq/g以下である。
【0070】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物のカチオン化度は、上記アクリルアミド系ポリマーと同様にして測定する。
【0071】
化学式(I)で表される化合物の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩酸塩及び硫酸塩、塩化メチル等のハロゲン化アルキル付加物、塩化ベンジル等のハロゲン化ベンジル付加物、硫酸ジメチル等の硫酸ジアルキル付加物等である第4級塩が例示される。
【0072】
化学式(I)で表される化合物としてジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのハロゲン化ベンジル付加物(以後、ベンジル基団と称することがある)が含まれる場合(すなわち化学式(I)のR2がベンジル基である場合)においては、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物のベンジル基団部分のカチオン化度は、好ましくは0.1meq/g以上であり、より好ましくは0.2meq/g以上であり、さらに好ましくは0.4meq/g以上であり、特に好ましくは0.6meq/g以上である。また、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物のベンジル基団部分のカチオン化度は、好ましくは1.2meq/g以下であり、より好ましくは1.0meq/g以下であり、さらに好ましくは0.9meq/g以下である。
【0073】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物におけるベンジル基団部分のカチオン化度は、NMR C13によって求められたDABモル%とDAAモル%とから算出できる。
【0074】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の重合反応に使用される溶媒としては、例えば、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどが使用可能である。コスト面を考慮すると、水が好ましい。
【0075】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の重合開始剤としては、溶媒に溶けるものであれば特に限定されない。例えば、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパンハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物があげられる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ペルオクソ二硫酸アンモニウム、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエートなどの過酸化物系があげられる。また、ペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、テトラメチルエチレンジアミン又はトリメチルアミンなどを組み合わせる、レドックス系があげられる。なお、重合反応には連鎖移動剤を併用することが好ましい。前記連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸及びそのエステル類、イソプロピルアルコール;並びにアリルアルコール、アリルアミン及び(メタ)アリルスルホン酸のような(メタ)アリル基を有するモノマー及びその塩を挙げることができる。
【0076】
(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物の重合反応の温度及び時間は、得られる(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物の共重合物が所望の固有粘度、カチオン化度となるように、調整してもよい。例えば、(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物について、R2がベンジル基であり、固有粘度が8.0~28.0dl/g、カチオン化度が0.6~3.0meq/g、及びベンジル基団部分のカチオン化度が0.1~1.2meq/gとなるようにするには、例えば、重合反応の開始温度を低温から、徐々に温度を上昇させることにより、上記条件を満たす(メタ)アクリルアミドと化学式(I)で表される化合物との共重合物を重合することができる。重合反応の開始温度が高すぎると、固有粘度が下がり、また、反応時に(メタ)アクリルアミドの加水分解物が生じてアニオン化度が上がるので、重合反応の開始温度は低い方がよい。より具体的には、重合反応の開始温度は、10℃~30℃が好ましく、15℃~25℃がより好ましく、18℃~22℃がさらに好ましい。また、重合時の発熱を制御しやすいという点において、重合開始後の上昇する温度の上限は、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、さらに好ましくは65℃以下である。
【0077】
なお、薬剤(2)及び薬剤(3)の固有粘度、カチオン化度、アニオン化度及びカチオン電荷密度/アニオン電荷密度の比で表される物性値は、ポリマーの純分に対しての含有量を意味する。
【0078】
上記の薬剤(1)~(3)の重合方法は、特に制限されないが、例えば水溶液重合、逆相エマルション重合、ディスパージョン重合、溶液重合などが可能である。
【0079】
上記の薬剤(1)~(3)の形態としては、特に限定されず、例えば、水溶液、塩水中分散液、油中水型エマルション、粉末等が挙げられる。
【0080】
<低質原料に対する薬剤の選択方法>
本発明の薬剤の選び方として、薬剤と処理対象の低質原料との組み合わせは、低質原料に対する薬剤の反応性の良い物から選べばよい。すなわち、反応性の良さは、ろ液濁度が低く、濾水量が多いことを指標にする。その時にろ液濁度と濾水量だけでなく、薬品コストも考慮すべく、例えば薬剤の単価がそれぞれ供給地域での違いも考慮する。よって、実施例の開示した方法で選ぶ試験を実施した後に経済性を含めて総合評価して選択することが好ましい。
【0081】
上記の薬剤の添加量は、低質原料に少量で添加するだけで、効果が期待できるが、好ましくは10ppm以上であり、より好ましく100ppm以上であり、より一層好ましくは250ppm以上であり、さらに好ましくは500ppm以上、最も好ましくは1000ppm以上である。上記の薬剤の添加量の上限値は、特に限定されないが、添加量が増えると処理コストがかさむため、処理費用の兼ね合いから、好ましくは10000ppm以下、より好ましく8000ppm以下であり、より一層好ましくは6000ppm以下であり、さらに好ましくは4000ppm以下である。
【0082】
上記の薬剤の添加方法は、公知の方法を用いることができ、低質原料を含むスラリーに、上記の薬剤を添加して改質原料を製造し、この改質原料を抄紙原料のパルプスラリーに添加して抄紙する方法が挙げられる。上記の薬剤を、低質原料を含むスラリーへ添加する順序は、特に限定されるものではない。また、これらの添加方法は特に限定されず、また、上記薬剤を工業用水等によって希釈して添加してもよく、そのまま添加してもよい。
【0083】
上記改質原料をパルプスラリーに混合した後も、上記薬剤をパルプスラリーにさらに添加してもよい。また、これらの添加方法は特に限定されず、また、上記薬剤を工業用水等によって希釈して添加してもよく、そのまま添加してもよい。
【0084】
上記の低質原料を薬剤処理した改質原料をパルプスラリーに添加する量は、好ましくは0.01重量%~20.00重量%であり、より好ましく0.10重量%~10.00重量%であり、より一層好ましくは0.30重量%~5.00重量%であり、最も好ましくは0.50重量%~3.00重量%である。
【実施例0085】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
[実施例1~6]
ペーパースラッジ(以下「PS」ともいう。)は、低質原料であるため、そのままで製紙原料(抄紙原料)として使うと、抄紙マシンでの脱水速度が落ち、生産効率が低下する。そこで、実施例1~6では、5質量%のPSに表1に示す添加量の薬剤(1)(PD-3820)で処理したパルプスラリー(改質原料)を調製した。そして、調製した各パルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。パルプスラリーの調製条件と結果を下記表1に示す。
【0087】
[比較例1、参考例1]
比較例1では、薬剤(1)で処理しない無処理の5質量%のPSのパルプスラリーを調製した。また、参考例1では、PSおよび薬剤(1)を含有しない95質量%の抄紙原料のパルプスラリーを調製した。そして、これらパルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。パルプスラリーの調製条件と結果を下記表1に示す。
【0088】
〔濾水試験〕
直径60mmの筒で、筒底に80メッシュワイヤーと水が抜ける管とが付随した濾水テスターを用い、バルブの開閉で筒に溜まっていたパルプスラリー(180ml)を、上記メッシュワイヤーを通して下に落下させて、ろ液を得た。この時の10秒間の濾水量をメスシリンダーで測定した。
【0089】
〔濁度〕
ポータブル濁度計(2100Q、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて、上記濾水試験で得たろ液の濁度を測定した。なお、薬剤(1)を添加していない比較例1と比べ、濁度が低いほど、系内の汚れが低減され、欠点や紙切れのリスクを減らすことができる。
【0090】
薬剤(1)は以下のものを使用した。
PD-3820:栗田工業株式会社製で、ポリマー:次亜ハロゲン酸=10:4を使ったアクリルアミド系ポリマーをホフマン分解反応に付して得られた反応物。
【0091】
【0092】
表1に示すように、無処理のペーパースラッジを配合(含有)した比較例1では、濾水量が僅か2mlであった。比較例1で調製したパルプスラリーを原料として他の原料に、例えば1重量%以上配合すると、抄紙マシンの脱水速度が著しく低下し、紙製造の効率が落ちることになる。これに対し、薬剤(1)で処理した実施例1~6では、比較例1に比べて、濾水量が多く、ろ液濁度が低かった。なかでも、実施例4~6では、参考例1に比べて、濾水性およびろ液濁度の特性が同等レベル以上であった。このように、薬剤処理すると、濾水量が大幅に向上すると共にろ液濁度が大幅に低下し、薬剤の処理効果が認められた。
【0093】
ペーパースラッジ以外の低質原料の特性、および比較対象としての抄紙原料の特性を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示すように、低質原料は、抄紙原料と比べて、濾水性等が大幅に劣ることが明らかとなった。
【0096】
[実施例7~15]
製紙板紙工場の製造工程で採取したスラリー原料に対して、表3に示すように上記実施例で得た改質原料を所定量添加し、続いて紙製造時に一般的に使用されるカチオン性ポリアクリルアミド歩留濾水向上剤としてPD-1230(栗田工業株式会社製)を200ppm添加して、パルプスラリーを得た。そして、上記実施例1~6と同様にして、パルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。なお、実施例7~15において、スラリー原料の濃度は1重量%とした。
【0097】
[比較例2~3、参考例2]
製紙板紙工場の製造工程で採取したスラリー原料に対して、表3に示す改質原料に変更した以外は、上記実施例7~15と同様にして、パルプスラリーを得た。そして、上記実施例7~15と同様にして、パルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。なお、比較例2~3と参考例2において、スラリー原料の濃度は1重量%とした。
【0098】
【0099】
表3に示すように、実施例7~15では、改質原料を含有させたパルプスラリーは、比較例2~3に比べて、濾水性とろ液の濁度の改善効果が認められた。改質原料を5重量%配合した場合、実施例9~11が、参考例2に比べて同等レベル以上の効果が認められ、2000ppm以上の薬剤(1)の添加量がより好ましいと考えられる。また、改質原料を10重量%配合した場合、実施例13~15が、参考例2に比べて同等レベル以上の効果が認められ、改質原料5重量%の配合と同様、2000ppm以上の薬剤(1)の添加量がより好ましいと考えられる。なお、歩留濾水向上剤の添加有無に関わらず、低質原料への解決手段の効果に影響はなかった。
【0100】
[実施例16~24、比較例4~6]
合成にあたり、以下のモノマーを用いた。
「AM」:(メタ)アクリルアミド
「DAA」:ジメチルアミノエチルアクリレート4級付加物(メチレンコロライド塩)
「AA」:(メタ)アクリル酸
「DAB」:N-(2-アクリロイルオキシエチル)-N-ベンジル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド
【0101】
(実施例16)
攪拌機、窒素導入管、冷却器および温度計を備えた300mlの四つ口フラスコに、AM=11.2g、DAA=9.7g、AA=0.14g、脱塩水164.0gを加えた。窒素ガスを通じた後、50℃に昇温し、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン・2塩酸塩1%水溶液2gを加え、300rpmの攪拌下で60℃にて6時間保持した。得られた重合物の一部をとり、これを真空冷凍乾燥して、固体状のポリマー(薬剤(2))を合成した。また、下記の方法により、薬剤(2)のアニオン又はカチオンのコロイド当量値と固有粘度を測定した。また、5質量%のペーパースラッジに固体状のポリマー(薬剤(2))を2000ppm添加して処理したパルプスラリーを調製し、上記実施例1~6と同様にして、パルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。
【0102】
(実施例17~24、比較例4~6)
実施例16においてAM=11.2g、DAA=9.7g、AA=0.14gの代わりに下記表4~5に記載したモノマーを加えたこと、および5質量%のペーパースラッジに下記表4~5に記載した固体状のポリマーを2000ppm添加して処理したこと以外は実施例16と同様にして、固体状のポリマー(実施例17~18のポリマーは薬剤(2)、実施例19~24のポリマーは薬剤(3))を合成し、同様の測定を行った。また、下記の方法により、実施例19~24の固体状のポリマーのベンジル基団部分のカチオン化度を測定した。
【0103】
〔アニオンのコロイド当量値〕
50ppm水溶液(純水で希釈)に希釈した上記サンプルを100mlメスシリンダーに採取して200mlビーカーに移した。回転子を入れて撹拌しながらN/10水酸化ナトリウム溶液(和光純薬工業(株)製)をホールピペットで加え、pHを10.5にした後、トルイジンブルー指示薬(和光純薬工業(株)製)を2~3滴入れ、N/400ポリビニルアルコール硫酸カリウム溶液(和光純薬工業(株)製)で滴定した。尚、滴定の前に、N/200メチルグリコールキトサン溶液(和光純薬工業(株)製)5mlをホールピペットで加えた。青色が赤紫色に変わり数秒経っても赤紫色が消えない点を終点とした。同様に純水にて空試験を行った(ブランク)。
アニオンのコロイド当量値(meq/g)=〔アニオン性高分子化合物の測定値(ml)-空試験の滴定量(ml)〕/2
【0104】
〔カチオンのコロイド当量値〕
50ppm水溶液(純水で希釈)に希釈した上記サンプルを100mlメスシリンダーに採取して200mlビーカーに移した。回転子を入れて撹拌しながらN/10塩酸水溶液をホールピペットで加え、pHを4にした後、トルイジンブルー指示薬(和光純薬工業(株)製)を2~3滴入れ、N/400ポリビニルアルコール硫酸カリウム溶液(和光純薬工業(株)製)で滴定した。尚、滴定の前に、N/200メチルグリコールキトサン溶液(和光純薬工業(株)製)5mlをホールピペットで加えた。青色が赤紫色に変わり数秒経っても赤紫色が消えない点を終点とした。同様に純水にて空試験を行った(ブランク)。
カチオンのコロイド当量値(meq/g)=〔反応物の測定値(ml)-空試験の滴定量(ml)〕/2
【0105】
〔固有粘度〕
キャノンフェンスケ型粘度計を使用して上記サンプルの流下時間を測定し、その測定値から、Hugginsの式及びMead-Fuossの式を用いて固有粘度を算出した。
【0106】
〔ベンジル基団部分のカチオン化度〕
ベンジル基団部分のカチオン化度は、NMR C13によって求められたDABモル%とDAAモル%とから、下記式を基に算出した。
ベンジル基団部分のカチオン化度=DABモル%×カチオン化度/(DAAモル%+DABモル%)
【0107】
【0108】
【0109】
表4~5に示すように、上記の薬剤(1)と同様に、薬剤(2)および薬剤(3)で処理したパルプスラリーの濾水性およびろ液濁度が大幅に向上することが明らかになった。
【0110】
次に、ペーパースラッジ以外の低質原料としてDIPフロスを用いて、本発明の薬剤を用いた時の効果を確認した。
【0111】
[実施例25~33、比較例7、参考例3]
製紙板紙工場から発生したDIPフロスを低質原料として用いた。また、同じ製紙板紙工場の板紙製造時に用いられるパルプスラリーを抄紙原料として用いた。実施例25~33では、DIPフロスに表6に示す量の薬剤を添加して処理した改質原料と抄紙原料とを配合して表6のDIPフロス量とした溶液に、PD-1230を200ppm添加して、パルプスラリーを調製した。そして、上記実施例1~6と同様にして、パルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。比較例7では、改質原料を配合せず、表6のDIPフロス量とした以外、実施例25~33と同様にして、パルプスラリーを調製し、ろ液濁度と濾水量を測定した。参考例3では、改質原料およびDIPフロスを配合しなかったこと以外、実施例25~33と同様にして、パルプスラリーを調製し、ろ液濁度と濾水量を測定した。
【0112】
【0113】
表6に示すように、低質原料であるDIPフロスは5~10重量%をパルプスラリーに配合しても、本発明の薬剤(1)~(3)によるDIPフロスの薬剤処理によって、濾水性とろ液の濁度が改善されることが明らかになった。5重量%のDIPフロスを配合した場合、添加量2000ppmでも十分な効果が認められ、10重量%のDIPフロス量を配合した場合、添加量4000ppmにすることによりさらに改善された。また、薬剤(3)による処理が濾水性の改善が見込まれ、また、薬剤(1)による処理は濾水性が若干劣るものの、ろ液濁度が最も良い結果であった。
【0114】
[実施例34~42、比較例8、参考例4]
製紙板紙工場から発生した余剰汚泥(生物処理余剰汚泥)を低質原料として用いた。また、同じ製紙板紙工場の板紙製造時に用いられるパルプスラリーを抄紙原料として用いた。実施例34~42では、余剰汚泥に表7に示す量の薬剤を添加して処理した改質原料と抄紙原料とを配合して表7の余剰汚泥量とした溶液に、PD-1230を200ppm添加して、パルプスラリーを調製した。そして、上記実施例1~6と同様にして、パルプスラリーの濾水試験を行い、ろ液濁度と濾水量を測定した。比較例8では、改質原料を配合せず、表7の余剰汚泥量とした以外、実施例34~42と同様にして、パルプスラリーを調製し、ろ液濁度と濾水量を測定した。参考例4では、改質原料および余剰汚泥を配合しなかったこと以外、実施例34~42と同様にして、パルプスラリーを調製し、ろ液濁度と濾水量を測定した。
【0115】
【0116】
低質原料である余剰汚泥は、回収利用が進めば経済メリットも大きい。しかしながら、回収利用が最も困難であることが知られている。そして、表7に示すように、上記実施例34~42の結果から、低質原料である余剰汚泥は5~10重量%をパルプスラリーに配合しても、本発明の薬剤(1)~(3)による余剰汚泥の薬剤処理によって、濾水性とろ液の濁度が改善されることが明らかになった。5重量%の余剰汚泥を配合した場合、添加量2000ppmでも十分な効果が認められ、10重量%の余剰汚泥を配合した場合、添加量4000ppmにすることによりさらに改善された。また、薬剤(1)では、添加量6000ppmにすることによりさらに改善された。また、薬剤(2)による薬剤処理が濾水性に最も良い結果であった。
【0117】
以上の結果から、低質原料の種類により最適な薬剤が変わることが明らかになった。また、薬剤の濃度が高いほどその効果が顕著になることも明らかとなった。このことから、低質原料の種類によりアニオン性物質の量や荷電状態が異なり、薬剤の種類により効果の発現が変化するためだと考えられる。
【0118】
本発明によれば、通常廃棄物として処理されていた低質原料の一部を、紙原料として再利用することによって調製したパルプスラリーを用いて紙を製造することができ、かつ当該低質原料が、特定の薬剤を用いて処理された改質原料であり、当該改質原料を再利用したときのパルプスラリーは、前記改質原料を再利用しないときのパルプスラリーに比べて、濾水性及び濁度の特性が同等以上であるという効果を奏するものである。