(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125009
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用部材、ナトリウムイオン電池用部材の形成材料、及び、ナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20240906BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240906BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240906BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240906BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240906BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20240906BHJP
C03C 10/00 20060101ALI20240906BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01B1/06 A
H01B1/08
C03C10/00
C03C3/095
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033063
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 利典
(72)【発明者】
【氏名】山下 仁大
【テーマコード(参考)】
4G062
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G062AA11
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(57)【要約】
【課題】ナトリウムイオン電池に有用なナトリウムイオン電池用部材、それを形成するためのナトリウムイオン電池用部材の形成材料、及び、それを用いたナトリウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】式(A):Na5RSi4O12(N5)(R=希土類元素)で示され、前記Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されてなるN5型結晶相の単一相を含む結晶化ガラスを含有するナトリウムイオン電池用部材、それを形成するためのナトリウムイオン電池用部材の形成材料及びそれを利用したナトリウムイオン電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、前記Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されてなるN5型結晶相の単一相を含む結晶化ガラスを含有するナトリウムイオン電池用部材。
式(A)中、Rは希土類元素を示す。
【請求項2】
正極、負極、又は固体電解質層である請求項1に記載のナトリウムイオン電池用部材。
【請求項3】
式(B):Na3+3x-yR1-xXySi3-yO9で示される結晶化ガラス前駆体からなるナトリウムイオン電池用部材の形成材料。
式(B)中、Rは希土類元素を示し、XはV、P、及びGeから選択される元素を示し、xは0~1を示し、yは0~3を示す。
【請求項4】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に設けられた固体電解質層を備え、
前記正極、前記負極、及び前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1に記載のナトリウムイオン電池用部材で構成されているナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナトリウムイオン電池用部材、ナトリウムイオン電池用部材の形成材料、及び、ナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコンの電源、自動車等の主電源として幅広く利用されているリチウムイオン電池は、他の電池と比べエネルギー密度が高く、自己放電も少ないことが特徴である。しかし、電解質において支持塩をイオン解離させるための溶媒には、エステル、エーテルなどの有機溶媒が使用されている。この有機溶媒が可燃性の物質であるために、リチウムイオン電池の安全性の確保に注意を払わなくてはならない。また、電解液が有機溶媒であるため電極と酸化分解し電極表面に生成物を生じさせたり、電極内部での膨張又は収縮によって内部が変形したりしてしまうことで伝導度が低下してしまう。
また、リチウムイオン電池の課題として、リチウムの原料価格高騰、資源枯渇が懸念されている。
そのため、地殻中に豊富に存在し安価な材料であるナトリウムを使用したナトリウムイオン電池が次世代電池として注目されている。
【0003】
例えば、ナトリウムイオン電池の電極材として、37.5Na2O-25V2O5-37.5P2O5を含む結晶化ガラスが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】公益社団法人日本セラミック協会 2019年年会 講演予稿集3J25「Preparation of Crystalline Na3V2(PO4)3by Glass-Ceramic Process (Kyushu Univ.) Sai Niu, Hirofumi Akamatsu, Yuto Akiyama, George Hasegawa, Katsuro Hayashi」
【非特許文献2】Solid State Ionics 179 (2008) 1291-1295 "Effect of substitution of Si with V and Mo on ionic conductivity of Na5YSi4O12-type glass-ceramics(Toshinori Okura, Tatsuya Takahashi, Hideki Monma, Kimihiro Yamashita)"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、ナトリウムイオン電池の高性能化の要請から、有用な電極材又は電解質層の開発が望まれている。
【0006】
なお、ナトリウム硫黄電池用の電解質層の材料として、非特許文献2には、「Na3+3x-yY1-xVySi3-yO9(NYVS)又はNa3+3x-2yY1-xMoySi3-yO9(NYMS)のガラス、Siの一部をV又はMoで置換したNa5YSi4O12型の結晶化ガラス(Yは希土類元素を示す)」が開示されている。
しかし、非特許文献2の電解質層の材料は、作動温度300~350℃と高温で作動するナトリウム硫黄電池用途として記載されていており、作動温度-10~100℃(具体的には、例えば室温付近)と低温で作動するナトリウム電池用途としては検討されていない。
【0007】
本開示の課題は、ナトリウムイオン電池に有用なナトリウムイオン電池用部材、それを形成するためのナトリウムイオン電池用部材の形成材料及び、及び、それを用いたナトリウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1>
式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、前記Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されてなるN5型結晶相の単一相を含む結晶化ガラスを含有するナトリウムイオン電池用部材。
式(A)中、Rは希土類元素を示す。
<2>
正極、負極、又は固体電解質層である<1>に記載のナトリウムイオン電池用部材。
<3>
式(B):Na3+3x-yR1-xXySi3-yO9で示される結晶化ガラス前駆体からなるナトリウムイオン電池用部材の形成材料。
式(B)中、Rは希土類元素を示し、XはV、P、及びGeから選択される元素を示し、xは0~1を示し、yは0~3を示す。
<4>
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に設けられた固体電解質層を備え、
前記正極、前記負極、及び前記固体電解質層の少なくとも一つが、<1>に記載のナトリウムイオン電池用部材で構成されているナトリウムイオン電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ナトリウムイオン電池に有用なナトリウムイオン電池用部材、それを形成するためのナトリウムイオン電池用部材の形成材料及び、及び、それを用いたナトリウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示のナトリウムイオン電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施例Aで作製したYV30系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例Aで作製したYV40系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例Aで作製したYV50系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例Aで作製したYV0301系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例Aで作製したYV0302系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例Aで作製したYV0303系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例Aで作製したYV0402系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例Aで作製したYV0403系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例Aで作製したYV0404系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例Aで作製したYV0503系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例Aで作製したYV0504系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例Aで作製したYV0505系ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例Bにおけるイオン伝導度の結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例Cで作製した電池の定電流充放電試験で得られた充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一例について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
なお、本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示において組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に、各成分に該当する物質が複数含まれる場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
[ナトリウムイオン電池用部材の形成材料/ナトリウムイオン用部材]
本開示のナトリウムイオン電池用部材(以下「本開示の電池用部材」とも称する)は、
式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されてなるN5型結晶相の単一相を含む結晶化ガラス(以下「本開示の結晶化ガラス」とも称する)を含有する。
式(A)中、Rは希土類元素を示す。
本開示のナトリウムイオン電池用部材の形成材料(以下「本開示の電池用部材の形成材料」とも称する)は、
式(B):Na3+3x-yR1-xXySi3-yO9で示される結晶化ガラス前駆体(以下「本開示の結晶化ガラス前駆体」とも称する)からなる。
式(B)中、Rは希土類元素を示し、XはV、P、及びGeから選択される元素を示し、xは0~1を示し、yは0~3を示す。
【0014】
ここで、Na2O-R2O3-X2O5-SiO2(R:希土類元素)系結晶化ガラスの結晶相は、組成や結晶化熱処理条件によって、Na3RSi3O9のN3型結晶相、Na5RSi4O12のN5型結晶相、Na9RSi6O18のN9型結晶相の3つの結晶相がある。
なかでも、N5型結晶相はSiO4四面体の12員環構造を希土類元素Rで結合してできた隙間が3次元トンネル構造になり、このトンネル構造内を移動性Na+が通るため安定で高いイオン伝導性を示す。そのため、酸化物系のナトリウムイオン伝導体、つまり固体電解質として有用である。
【0015】
また、式(A):Na5RSi4O12(N5)において、Siの一部がV3+で置換されている場合、VはV3+からV4+(正極)及びV3+からV2+(負極)の多段階レドック反応が生じ、また、Siの一部がV5+で置換されている場合、V5+からV4+(負極)の多段階レドックス反応が生じるため、本開示の結晶化ガラスは正極のみならず負極の電極材としても利用できる。
【0016】
そして、本開示者らは、上記N5型結晶相の高いイオン伝導性及び上記多段レドックス反応が、ナトリウム電池の作動温度-10~100℃(具体的には、例えば室温付近)で生じることを知見した。
【0017】
そのため、本開示の電池用部材は、ナトリウムイオン電池に有用な電池用部材である。
【0018】
また、本開示の電池用部材の結晶化ガラスは、本開示の電池用部材の形成材料を結晶化処理により得られる。
本開示の結晶化ガラスは、構成元素にガラス形成成分であるV、P又はGeを多量に含んでいることから、ガラス結晶化法による合成が可能となる。この方法では、広い範囲のガラス組成において、Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されたN5型結晶相の単一相が得られる。
そのため、本開示の結晶化ガラスは、固体電解質と電極との接合においても、軟化流動プロセスを経て合成できるので、固相反応法で合成される電池用部材よりも良好な界面形成が得られる。
【0019】
以下、本開示の詳細について説明する。
本開示の電池用部材は、本開示の結晶化ガラスを含むが、用途に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0020】
(結晶化ガラス)
本開示の結晶化ガラスは、N5型結晶相の単一相を含む。つまり、本開示の結晶化ガラスは、結晶相として、N5型結晶相のみを含む。
開示の結晶化ガラスは、N5型結晶相のみから構成されていてもよいし、N5型結晶相と残留非晶質相とから構成されていてもよい。
【0021】
N5型結晶相は、式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されてなる。
式(A)中、Rを示す希土類元素は、Sc、Y、及びランタノイド系列に属する15元素の計17元素のいずれかを示す。Rは、Yを示すことが好ましい。
【0022】
N5型結晶相において、式(A):Na5RSi4O12(N5)のSiの一部に置換する元素は、Vが好ましい。Siの一部がVで置換されていると、本開示の電極用部材は、電解質層、正極、負極のいずれにも適用できる。
【0023】
本開示の結晶化ガラスにおけるN5型結晶相が占める割合は、80~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましい。
この割合が上記範囲であると、結晶化ガラスは、高い電気伝導性を示し、電池用部材として有用となる。
【0024】
N5型結晶相が占める割合は、次の通り測定される。
まず、粉末X線回折(XRD)測定により、2θで10~50°の回折線プロファイルを得る。
次に、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて全散乱曲線を得る。
次に、全散乱曲線から、ブロードな回折線(つまり非晶質ハロー)をピーク分離して積分強度IAを得る。
次に、全散乱曲線から、N5型結晶相に由来する結晶性回折線をピーク分離して積分強度の総和ICを得る。
次に、全散乱曲線から、その他の結晶相に由来する結晶性回折線をピーク分離して積分強度の総和IOを得る。
得られたIA、IC及びIOから、下記式により、混合相が占める割合を求める。
混合相が占める割合=[IC/(IA+IC+IO)]×100(質量%)
【0025】
N5型結晶相において、式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、Siの一部がV又はGeで置換されているかは、蛍光X線分析(XRF)により測定できる。
また、式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、Siの一部がPで置換されているかは、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES/ICP-AES)により測定できる。
【0026】
本開示の結晶化ガラスのイオン伝導度は、1.0×10-5~1.0×10-1S/cmが好ましく、1.0×10-4~1.0×10-1S/cmがより好ましい。電子伝導度は、1.0×10-7~1.0×10-3S/cmが好ましく、1.0×10-6~1.0×10-3S/cmがより好ましい。
結晶化ガラスのイオン伝導度と電子伝導度は、後述する実施例で記載する方法で測定される。
【0027】
(本開示の結晶化ガラスの製造方法)
本開示の結晶化ガラスの製造方法は、例えば、本開示の電池用部材の形成材料(本開示の結晶化ガラス前駆体)を、核生成温度(=結晶化ガラス前駆体における(ガラス転移温度+30℃)~(ガラス転移温度+50℃))で10分~10時間、第一熱処理した後、核成長温度(=結晶化ガラス前駆体における結晶化温度~融点)で30分~24時間、第二熱処理を行うことで得られる。
【0028】
ここで、本開示の電池用部材の形成材は、式(B):Na3+3x-yR1-xXySi3-yO9で示される本開示の結晶化ガラス前駆体からなる。本開示の結晶化ガラス前駆体は、非晶質のガラスである。
式(B)中、Rは希土類元素を示し、XはV、P、及びGeから選択される元素を示し、xは0~1を示し、yは0~3を示す。
式(B)中、Rで示される希土類元素は、式(A)中のRと同義であり、Yが好ましい。また、XはVが好ましい。
【0029】
本開示の結晶化ガラス前駆体は、例えば、原料を、脱CO2のために850~950℃で10分~24時間仮焼し、1000~1400℃で30分~10時間溶融した後、大気中へ室温で急冷して得られる。
本開示の結晶化ガラス前駆体を得るための原料は、例えば、次の通りである。
-原料-
・炭酸ナトリウム(Na2CO3)
・希土類元素の酸化物(式(B)中のRがYの場合、酸化イットリウム(Y2O3))
・V、P又はGeの酸化物(式(B)中のXがVの場合、酸化バナジウム’(V2O5)
・二酸化ケイ素(SiO2)
【0030】
(電池用部材の構成)
本開示の電池用部材は、ナトリウムイオン電池の、正極、負極、固体電解質層のいずれにも適用できる。
【0031】
本開示の電池用部材を正極に適用する場合、本開示の電池用部材は、正極活物質として本開示の結晶化ガラスのみから構成されていてもよい。必要に応じて、本開示の電池用部材は、結着材料、導電材料、電解質等の周知の材料を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、正極に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
また、本開示の電池用部材を正極に適用する場合、本開示の電池用部材には、周知の正極活物質を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、全正極活物質に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
【0032】
本開示の電池用部材を負極に適用する場合、本開示の電池用部材は、負極活物質として本開示の結晶化ガラスのみから構成されていてもよい。必要に応じて、本開示の電池用部材は、結着材料、導電材料、電解質等の周知の材料を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、負極に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
また、本開示の電池用部材を負極に適用する場合、本開示の電池用部材には、周知の正極活物質を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、全負極活物質に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
【0033】
本開示の電池用部材を固体電解質層に適用する場合、本開示の電池用部材は、固体電解質として本開示の結晶化ガラスのみから構成されていてもよい。また、本開示の電池用部材には、周知の固体電解質を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、全固体電解質に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
【0034】
結着材料としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、ゴム(スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ゴム等)、グルタミン酸、デンプン等の高分子化合物が挙げられる。
導電材料としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック等)、カーボンファィバ、カーボンナノチューブ、難黒鉛化性炭素、人工黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。
電解質としては、後述する周知の固体電解質が挙げられる。
【0035】
周知の正極活物質としては、例えば、Na4Ti5O12、NaCoO2、NaMnO2、NaVO2、NaCrO2、NaNiO2、Na2NiMn3O8、NaNi1/3Co1/3Mn1/3O2、S、Na2S、FeS、TiS2、NaFeO2、Na3V2(PO4)3、NaMn2O4、Na2TiS3等が挙げられる。
周知の負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボン、金属(Na、In、Sn、Sb等)、Na合金、遷移金属酸化物(Na4/3Ti5/3O4、Na3V2(PO4)3、SnO等)M等の種々の等が挙げられる。
【0036】
周知の固体電解質としては、NASICON(NaSuper Ionic Conductor)、ベータアルミナ等が挙げられる。
NASICONとしては、Na3Zr2Si2PO12、Na3.2Zr1.3Si2.2P0.8O10.5、Na3Zr1.6Ti0.4Si2PO12、Na3Hf2Si2PO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.2P1.8O12、Na3Zr1.7Nb0.24Si2PO12、Na3.6Ti0.2Y0.8Si2.8O9、Na3Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.12Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.11P2.9O12等が挙げられる。
ベータアルミナとしては、理論組成式Na2O・11Al2O3で示されるβ-アルミナ、理論組成式:Na2O・5.3Al2O3で示されるβ"-アルミナ、MgO安定化β”アルミナ((Al10.32Mg0.68O16)(Na1.68O))、Li2O安定化β”アルミナ(Na1.6Li0.34Al10.66O17)等が挙げられる。
【0037】
本開示の電池用部材は、上述した本開示の結晶化ガラスの製造方法を利用して形成できる。
例えば、本開示の結晶化ガラスの製造方法において、本開示の電池用部材の形成材料(本開示の結晶化ガラス前駆体)と必要に応じて上記周知の材料とを混合した混合物に第一熱処理及び第二熱処理を実施して、電池用部材を形成できる。
また、上述した本開示の結晶化ガラスの製造方法により結晶化ガラスを得た後、得られた結晶化ガラスと必要に応じて上記周知の材料とを混合した混合物を用いて、電池用部材を形成してもよい。
【0038】
[ナトリウムイオン電池]
本開示のナトリウムイオン電池(以下、単に「電池」とも称する)は、正極、負極、及び正極と負極との間に設けられた電解質層を備える(
図1参照)。
そして、正極、負極、及び固体電解質層の少なくとも一つが、本開示のナトリウムイオン電池用部材で構成されている。
本開示の電池は、正極及び負極の少なくとも一方に、集電体が設けられてもよい。
【0039】
ここで、
図1中、10はナトリウムイオン電池、12は正極、14は負極、16は電解質層を示す。
【0040】
なお、本開示の電池用部材以外の正極を採用する場合、上記周知の正極活物質と、必要に応じて、導電材料、結着材料、電解質等の周知の材料と、を含む周知の正極が適用できる。
同様に、本開示の電池用部材以外の負極を採用する場合、上記周知の負極活物質と、必要に応じて、導電材料、結着材料、電解質等の周知の材料と、を含む周知の負極が適用できる。
同様に、本開示の電池用部材以外の固体電解質層を採用する場合、上記周知の固体電解質を用いた固体電解質層が適用できる。
【0041】
ここで、本開示の電池は、固体電解質層として本開示の電池用部材を採用しない場合、電解質層として電解液層を適用してもよい。
【0042】
電解液層は、電解質と溶媒を含む電解液で構成された層、電解質と溶媒を含む電解液を含浸したセパレータで構成されたに層等の周知の電解液層が挙げられる。
【0043】
電解質としては、ナトリウム塩が適用される。
ナトリウム塩としては、NaClO4、NaPF6、NaNO3、NaOH、NaCl、Na2SO4、及び、Na2S、NaPF6、NaBF4、CF3SO3Na、NaAsF6、NaB(C6H5)4、CH3SO3Na、NaN(SO2CF3)2、NaN(SO2C2F5)2、NaC(SO2CF3)3、及びNaN(SO3CF3)2)が挙げられる。
溶媒は、カーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒、カーバメート等の周知の溶媒が挙げられる。
セパレータとしては、樹脂製の多孔膜、不織布、それらの積層体等の周知のセパレータが挙げられる。
【実施例0044】
以下、本開示を実施例を挙げて詳細に説明するが、以下の実施例は一態様を挙げたに過ぎず、これに限定されない。
なお、以下の実施例において、特に断らない限り室温は25℃を意味する。
【0045】
<実施例A>
(試薬・装置)
ガラス作製に用いた試薬を表1に示す。
【0046】
【0047】
次に、本実施例で使用した装置を表2に示す。
【0048】
【0049】
(実験操作)
-ガラス(結晶化ガラス前駆体)の作製-
一般組成式:Na3+3x-yY1-xVySi3-yO9(以下「YV」とも称する)のガラスを作製した。
作製したガラスの組成式及び略称を表3に示す。略称は一般組成式のイットリウム(Y)とバナジウム(V)に注目してYVと記載し、その後に続く、数字は、各一般組成式のx、yの順の数字とした。
出発原料としてNa2CO3、Y2O3、V2O5、SiO2を用いた。まず、粒径の大きい方からNa2CO3、V2O5、Y2O3、SiO2の順に電子天秤を用いて秤量し、粉砕、混合を行った。試薬のバッチ量、目標値、秤量値を表4~6に示す。採取した試料をPtルツボに入れ、電気炉で脱CO2のために900℃で30min仮焼し、1400℃で1h溶融した。溶融後、室温で直径12mmのグラファイト型の円筒に流し出し、急冷した。作製したバルク状ガラスをガラスウールがのったアルミナるつぼの蓋に置き、マッフル炉にて3h保持した。その後、マッフル炉内で室温になるまで放冷した。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
-結晶化ガラスの作製-
作製したガラスをアルミナ乳鉢で粉砕し、ふるい(45μm)を用いて分級した。試料を一軸加圧成形機で3ton、3min加圧し、ナイロンポリ規格袋の中に入れ、真空パック器を用いて真空にした。その後、冷間等方圧プレス成形機で150MPa、10min加圧し、ペレットを作製した。粉末状ガラスのTG-DTAの結果より最適な核生成温度、核成長温度を設定し、ベレット状ガラスを熱処理し、ペレット状結晶化ガラスを得た。
熱処理(結晶化処理)は、昇温速度60℃/hとし、核生成時間を7h、核成長時間を8hとした。なお、各組成における、ガラスのガラス転移温度及び結晶化温度、並びに核成長温度及び核成長温度は、表12~13に示す。
【0055】
(評価方法)
-粉末X線回折(XRD)測定-
作製した結晶化ガラスの結晶相の同定のために粉末X線回折を行った。作製した結晶化ガラス試料をアルミナ乳鉢で粉砕し、粉砕した試料をガラス試料板の試料ホルダ(凹んでいる部分)にスライドガラスを使って充填した。XRD装置の扉を開け、ガラス試料板をセットし、扉を閉めて、測定を開始した。測定後、PDXLを用いてデータ解析を行った。測定条件を表7に示す。
【0056】
【0057】
-熱重量示差熱分析(TG-DTA)-
作製した結晶化ガラスの熱処理条件の設定を行うのに必要な、ガラスのガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)の確認のために、ガラスに対して熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った。作製したガラスをアルミナ乳鉢で粉砕し、ふるい(45μm)で分級したものを測定に用いた。Ptパンに試料を約20mg測り取り、測定を行った。測定条件を表8に示す。
【0058】
【0059】
-格子定数-
作製した結晶化ガラスのSiの一部がVに置換されているのかを確認するために格子定数の算出を行った。格子定数算出のためのXRD測定条件を表9に示す。XRD測定で算出した2θ、d値をPDXLによって算出し、格子定数計算ソフト(cellcalc)を用いて計算した。
【0060】
【0061】
-イオン伝導度測定-
得られた結晶化ガラスを研磨機で、目が粗いものから順(P120、P320、P600、P1200)に約2mmの厚さになるように研磨した。この際、Vは吸水性がとても高いので水の代わりにケロシンを用いて研磨した。研磨後はトルエンを用いて洗浄した。研磨したイオン伝導度測定試料の寸法を測り、側面に対する金の蒸着を防ぐためにビニールテープを貼り付けた。イオン蒸着器を用いてイオンブロッキング電極としてAuを片面150nmずつ蒸着した。Auを付着したイオン伝導度測定試料をPt箔で挟み、無誘導型管状電気炉に取り付け、伝導度の測定を行った。イオン伝導度の測定には交流二端子法による電気化学インピーダンス測定法を用いた。測定条件を表10に示す。
【0062】
【0063】
-電子伝導度測定-
得られた結晶化ガラスの電子伝導度を測定した。
電子伝導度測定には、北斗電工製 ポテンショスタット/ガルバノスタット HABF5001を用いた。測定条件を表11に示す。
インピーダンス測定と同様に、まず、測定用試料を管状電気炉に吊り下げた状態で取り付け、二端子にはインピーダンスの代わりにポテンショスタットを直流法で取り付けた。測定は、内部基準電圧を使った定電位測定を行った。出力電圧を0.1~1.0Vとして、測定温度は室温(25℃)で測定した。
【0064】
【0065】
(評価結果)
-作製したガラスの外観-
作製したガラスの外観を観察したところ、ヒビや泡が入っていたが溶け残りや失透はなかった。しかし、バッチ数(13バッチ)を少なくして作製したところヒビが入らずにきれいなバルク状でYVガラスを作製することができた。Vの量が多くなるほど色が黄褐色になった。ガラスにVが添加されていると考えられる。
【0066】
-ガラスのXRD測定-
図2~
図4に作製したガラスのXRDパターンを示す。特定の回折ピークは観測されず、非晶質であることが確認できた。
【0067】
-熱重量示差熱分析(TG-DTA)-
ガラスの熱重量示差熱分析により、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)を得た。表12に、各組成におけるガラス転移温度、結晶化温度、融点および(Tc-Tg)の値を示す。
また、TG-DTAの結果より求めた各組成における核生成温度及び核成長温度を表13に示す。
各組成においてガラス転移温度および結晶化温度は、x=0.3,x=0.5の系でVの置換量が増えるほど減少していく傾向が見られた。結晶化温度とガラス転移温度からガラスの熱的安定性を求めたところ、全組成においてそれぞれVの置換量が増えるほど熱的安定性は低下する傾向が見られた。これはVが置換することでNaの含有量が減ったため、温度と熱的安定性に影響が出たのだと考えられる。
【0068】
【0069】
【0070】
-結晶化ガラスのXRD測定-
図2~
図13に作製した結晶化ガラスのXRDパターンを示す。特定の回折ピークは観測されず、非晶質であることが確認できた。
また、全ての組成の結晶相の変化を表14に示す。全体的に核成長温度の上昇に伴い、準安定相であるN3型結晶相、N9型結晶相から高温安定相であるN5型結晶相の単一相に変化する傾向が見られた。
【0071】
【0072】
-格子定数 -
XRDパターン及びcelcalcから算出したYV0301、YV0403、YV0505の格子定数を表15に示す。ここで、表15中、△a、△cは、次式で示される値である。
Δa=(作製したYV0301結晶化ガラスにおけるa軸の格子定数(nm))-(YV0301、YV0403又はYV0505結晶化ガラスのa軸の格子定数(nm))
Δc=(作製したYV0301結晶化ガラスにおけるc軸の格子定数(nm))-(YV0301、YV0403又はYV0505結晶化ガラスのc軸の格子定数 (nm))
【0073】
Vの置換量が増加するほどa軸の格子定数は増加し、c軸の格子定数は大きな変化はなかった。a軸の格子定数が増加したことに関してはSiよりもイオン半径の大きいVが置換されたためだと考えられる。
また、本実施例で作製した結晶化ガラスのN5型結晶相の構造はc軸に沿ってYO6八面体が連なっているためSiをVに置換してもc軸の格子定数は大きな変化はなかったと考えられる。
【0074】
【0075】
伝導度(イオン伝導度と電子伝導度)
表16に示す核生成温度と核成長温度で結晶化させたN5型単一相のYV結晶化ガラスの伝導度測定を行った。
伝導度算出に際しては、厚さ・面積の補正(面積/厚さ)を行った
なお、測定した試料の厚さ、直径、算出した面積を表17に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
YV0301、YV0403、YV0505結晶化ガラスのコール・コールプロットを作成した。これらのコール・コールプロットから粒内(G)、粒界(GB)、粒内+粒界(Total)の25℃~350℃までの抵抗を算出した。得られた抵抗から、イオン伝導度を求め、アレニウスの式を用いて作成したアレニウスプロットの傾きから活性化エネルギーを算出した。各組成のイオン伝導度及び活性化エネルギーを表18~20に示す。
ここで、作成したコール・コールプロットでは200℃までは二つの円弧が確認できた。また、200℃以上では一つの大きな円弧が確認できた。これは測定温度が上昇するにつれて粒界と粒内の抵抗が小さくなったためと考えられる。
表18~20のTotalの活性化エネルギーが25℃~150℃と150℃~350℃で異なっていた。これは低温側では粒界(GB)、高温側は粒内(G)に依存しているためだと考えられる。また、200℃以上においてVの置換量が増えるほど伝導度が小さくなる傾向が見られた。これはSiよりもイオン半径の大きいVに置換されることで伝導パスが収縮し、移動性Na+がSiO4四面体の12員環構造を希土類元素Yで結合してできたトンネル構造内を通りにくくなり、伝導度が低下したのだと考えられる。
【0079】
また、25℃におけるYV0301、YV0403、YV0505のI-Vプロットを作成し、電子伝導度、及びイオン輸率を算出した。その結果を表21に示す。いずれも高い電子伝導度を示した。また、イオン輸率t=0.99となり、高いイオン輸率を示した。
【0080】
本実施例の結果から、Siの一部がVで置換されたN5型結晶相の単一相を有する結晶化ガラスは、作動温度-10~100℃(具体的には、例えば室温付近)で作動するナトリウムイオン電池の電極(正極、負極)、及び電解質として有用な材料であることが確認できた。ただし、結晶化ガラスを電極(正極、負極)に適用する場合、導電材料と併用することが好ましい。
【0081】
また、この結果により、Siの一部が、V以外のP又はGeで置換されたN5型結晶相の単一相を有する結晶化ガラスも、高いイオン電伝導性を有するため、作動温度-10~100℃(具体的には、例えば室温付近)で作動するナトリウムイオン電池の電解質として有用な材料であることが示される。
また、Yに代えて希土類元素を有するN5型結晶相の単一相を有する結晶化ガラスも、高いイオン伝導性を有するため、作動温度-10~100℃(具体的には、例えば室温付近)で作動するナトリウムイオン電池の電解質として有用な材料であることが示される。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
<実施例B>
Na5YSi4O12(N5)型結晶化ガラスの構成元素であるYO6八面体に着目した研究に関して、3価のYの一部をイオン半径の異なる希土類元素Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、又はYbで置換したN5型単一相結晶化ガラスを合成し、Yを置換する元素の違いによる影響を検討した。具体的には、次の通りである。
【0087】
ガラスの作製には溶融急冷法を用いた。出発原料としてNa2CO3、Y2O3、NH4H2PO4、SiO2およびYを置換する元素としてR2O3(R=Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、Yb)を用いた。一般組成式はNa3+3x-yY1-x-zRzPySi3-yO9に基づき出発試薬を目的とする配合比で秤量し、磁製乳鉢で粉砕・混合した。
この混合粉末原料をPtるつぼに入れ、原料中のNH4を取り除くために、電気炉中400℃で30分、CO2を取り除くために900℃で30分仮焼した。仮焼後、電気炉をそのまま昇温させて、1350℃で融液を熱対流させて十分に混合させるために1時間保持し、溶融した。溶融後、融液の入ったPtるつぼを電気炉から取り出し、大気中室温で円筒状のグラファイト型(内径12mm、高さ50mm)に流し出し、急冷させてバルク状ガラスを得た。
得られたガラス試料の結晶化を行った。ガラスの結晶化は、結晶核の生成とその後の核の成長の二つの過程で起こる。そのため、結晶化は二段階で行った。まず一段目の結晶核生成は一般にガラス転移点Tgの30~50℃以上の温度、あるいは結晶化温度Tcの100℃~150℃以下の温度で最も頻繁に起こるとされている。そこでDTA測定の結果より核生成温度TI、核成長温度TUを設定し、それぞれの温度で熱処理を行い、ガラスセラミックスを得た。得られたガラスセラミックスは急激な温度変化による亀裂を防ぐために、電気炉内の温度が室温になるまで放冷してから取り出した。
【0088】
作製したすべての前駆体ガラスは、ガラス特有のブロードであるアモルファスハローを示した。また、核成長温度950℃で結晶化したNa
4.0Y
0.5R
0.1P
0.2Si
2.8O
9(R=Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Y,Er,又はYb)結晶化ガラスのXRDパターンから、作製したすべての結晶化ガラスは、目的のN5型単一相であることがわかった。
XRD測定の結果より、得られたN5型単一相の結晶化ガラスについて、格子定数を算出した。Yの一部を置換する元素のイオン半径が大きくなるほど、a軸、c軸の格子定数は大きく変化した。同様にa軸、c軸の格子定数が変化したことでYを一部置換した元素がN5型結晶構造中に取り込まれ、イオン半径に応じて結晶構造が収縮・膨張したと考えられる。
イオン伝導度測定の結果、Yの一部を置換する元素のイオン半径が大きくなるほど高いイオン伝導度を示した(
図14)。
【0089】
<実施例C>
固体電解質として高いイオン伝導性を有するNa5YSi4O12(N5)型結晶化ガラスを使用した全固体電池の特性の評価を行った。具体的には、次の通りである。
【0090】
(電池の作製)
Na+伝導性高分子ポリマーを含侵したNCOシートを正極(φ16mm)、Na金属箔を負極(φ16mm)、N5型結晶化ガラス(N5GC)を固体電解質(φ18mm)とした電池セルを組んだ。具体的には、これら、正極、負極、及び固体電解質をCR2032型コインセルにグローブボックス内で封入し、全固体ナトリウムイオン電池[Na|N5GC|NCO]を作製した。電極と固体電解質界面の安定性向上のため60℃で1週間エージングした。なお、N5型結晶化ガラスの合成を除き、電池セルはAr雰囲気下のグローブボックス([H2O]<0.1ppm、[O2]<10ppm)内で製造した。
正極、負極、及び固体電解質の製造方法は、次の通りである。
【0091】
-固体電解質層-
ガラスの作製には溶融急冷法を用いた。出発原料としてNa2CO3、Y2O3、SiO2およびSiを置換する元素(P)源としてNH4H2PO4を用いた。一般組成式Na3+3x-yY1-xPySi3-yO9に基づき出発試薬を目的とする配合比で秤量し、磁製乳鉢で粉砕・混合した。
この混合粉末原料をPtるつぼに入れ、原料中のNH4を取り除くために、電気炉中400℃で30分、CO2を取り除くために900℃で30分仮焼した。仮焼後、電気炉をそのまま昇温させて、1350℃で融液を熱対流させて十分に混合させるために1時間保持し、溶融した。溶融後、融液の入ったPtるつぼを電気炉から取り出し、大気中室温で円筒状のグラファイト型(内径12mm、高さ50mm)に流し出し、急冷させてバルク状ガラスを得た。しかし、溶融状態のガラスを急冷すると、ガラス試料は全体が均一に冷却されないため、まず表面の温度が下がりガラス転移点以下になる。このため表面で圧縮応力が、内部で引っ張り応力が生じて部分的な収縮率の違いから歪を発生し、試料の内部や表面に亀裂が発生、あるいは試料が完全に割れることがある。このような状態では実用性に問題が残るだけでなく、伝導度測定において悪い影響を及ぼす。これを緩和するためには徐冷操作を行い、一定の温度区間内でゆっくりと温度を下げることが必要とされる。これらを防ぐためにアニーリングを行った。アニーリングは、バルク状のガラス試料をあらかじめ電気炉で加温しておいたガラスウールをのせたアルミナるつぼのフタに置き、素早くガラス転移温度より20~30℃高い温度に設定した電気炉に移し、3時間保持し、その後室温まで放冷し、バルク状ガラスを得た。
得られたガラス試料の結晶化を行った。DTA測定の結果より核生成温度TI、核成長温度TUを設定し、それぞれの温度で熱処理を行い、ガラスセラミックスを得た。得られたガラスセラミックスは急激な温度変化による亀裂を防ぐために、電気炉内の温度が室温になるまで放冷してから取り出した。それにより、N5型結晶化ガラスを得た。
得られたN5型結晶化ガラスは、BUEHLER製ダイヤモンドカッターを用いて、厚さ約0.5mmになるように切断した。切断した試料を小型試料研磨機SBT900、研磨紙(#320、600、1200)で純水を用いて表面を研磨後、純水で洗浄・乾燥させて、ノギスを用いて試料の寸法(直径D、厚さT)を測った。N5型結晶化ガラスは乾燥機(120℃)で乾燥(24h)したのち、グローブボックス内で柴田科学製ガラスチューブオーブンGTO-200のガラス管中に入れ、150℃で真空乾燥(24h)による水分の除去を行った。
以上の操作により、Na5RSi4O12(N5)で示され、Siの一部がPで置換されてなるN5型結晶相の単一相を含む結晶化ガラスからなる固体電極層を形成した。
【0092】
-正極-
正極活物質としてNaCoO2、及び導電材料としてアセチレンブラックをメノウ乳鉢で混錬し、結着材料としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を加えた後、自公転ミキサーで撹拌することで複合正極スラリーを得た。NaCoO2、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)の配合比は、質量比で85:7:8とした。
このスラリーをAl集電体ホイルに厚さ50μmにバーコーターで塗工し、φ16mmに打ち抜き、圧着後に真空乾燥(12h)による水分・溶媒の除去を行った。乾燥した電極表面に、[Na]/[O]=0.1となるように質量比でエチレンオキシド/2メトキシエトキシエチルグリシジルエーテル共重合体(P(EO/MEEGE))、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、アセトニトリルを8:2:90[質量%]で混合したNa+伝導性高分子ポリマーをマイクロピペットで滴下(0.1g)し含侵させ、真空乾燥(12h)による溶媒の除去を行い、NaCoO2電極シートを得た。このシートを正極とした。
【0093】
-負極-
グローブボックス内においてNaのインゴットをホットスターラーで加熱(約150℃)し溶解させ、マイクロピペットを用いて無極性溶媒のヘプタンに滴下してNaショットを得た。このNaショットと馴染む程度のヘプタンをポリ袋(ユニパック)に入れ、底が平らな金属容器等で押し潰すことでNaショットを箔にし、穴あけポンチで打ち抜くことでNa金属箔電極とした。この電極を負極とした。
【0094】
(電池の評価)
カットオフ電圧4.0~2.0V、充放電レートC/24、温度60℃の条件で定電流充放電試験を行い、全固体ナトリウムイオン電池の評価をした。
図15に電池の充放電曲線を示す。初期充放電過程において、97mAhg
-1の放電容量(NCOの理論容量117mAhg
-1に対して、約83%の放電容量)を示した。また、充放電のNa
+挿入脱離に伴い、多段のプラトー電位が観測された。これは、Na
+挿入脱離に伴いNa
xCoO
2結晶構造の相転移によるものと考えられる。固体電解質にN5型結晶化ガラスを用いた全固体ナトリウムイオン電池としての動作を確認した。
【0095】
以上から、式(A):Na5RSi4O12(N5)で示され、前記Siの一部がV、P、及びGeから選択される元素で置換されてなるN5型結晶相の単一相を含む結晶化ガラスを含有するナトリウムイオン電池用部材は、ナトリウムイオン電池用部材として有用であることがわかる。
また、式(B):Na3+3x-yR1-xXySi3-yO9で示される結晶化ガラス前駆体からなるナトリウムイオン電池用部材の形成材料は、ナトリウムイオン電池用部材として有用な部材を形成する材料として有用であることがわかる。