IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成エレクトロニクス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125164
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
G01R15/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197145
(22)【出願日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2023033207
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁人
【テーマコード(参考)】
2G025
【Fターム(参考)】
2G025AA00
2G025AA05
2G025AA17
2G025AB01
2G025AB02
2G025AC01
(57)【要約】
【課題】電流センサの耐圧と感度を改善する。
【解決手段】電流センサ100は、被測定電流が流れる導体24、導体から離隔して配置され、側面視において導体の厚さ方向の中心より下方に上面を位置し且つ導体の下面よりも上方に上面を位置する磁電変換素子34、磁電変換素子の上面上に配置され、側面視において導体の上面より上方に上端を位置し且つ導体の厚さ方向の中心よりも下方に下端を位置する磁気集束チップ36、磁電変換素子を支持する支持部材18、導体、磁電変換素子、磁気集束チップ、及び支持部材を封止するパッケージ9を備える。これにより、側面視において導体の中央に集中する磁束だけでなく導体の上方に分布する磁束を磁電変換素子の感磁面に集束することができる。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流が流れる導体と、
前記導体から離隔して配置され、側面視において前記導体の厚さ方向の中心より下方に上面を位置し且つ前記導体の下面よりも上方に該上面を位置する磁電変換素子と、
前記磁電変換素子の上面上に配置され、側面視において前記導体の上面より上方に上端を位置し且つ前記導体の厚さ方向の中心よりも下方に下端を位置する磁気集束チップと、
前記磁電変換素子を支持する支持部材と、
前記導体、前記磁電変換素子、前記磁気集束チップ、及び前記支持部材を封止するパッケージと、
を備える電流センサ。
【請求項2】
前記磁気集束チップの高さhは、150μm以上且つ前記パッケージの厚さより小さい、請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記磁気集束チップの比透磁率μは、10~100,000である、請求項2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記磁気集束チップは、高い比透磁率を有する磁性体材料を用いて形成され、前記磁性体材料は、パーマロイ、鉄コバルト合金、鉄、フェライト、ニッケル、及び炭素鋼のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記磁気集束チップの下端は、前記磁電変換素子の上面に接着される、請求項1に記載の電流センサ。
【請求項6】
前記磁気集束チップの下端は、前記磁電変換素子の上面にシリコーン樹脂を用いて接着される、請求項1に記載の電流センサ。
【請求項7】
前記導体は、上面視において、前記パッケージの一側から前記パッケージの内部を通って前記一側に戻る形状を有し、
前記磁電変換素子は、上面視において、前記導体に囲まれる領域に配置される、請求項1に記載の電流センサ。
【請求項8】
前記磁電変換素子の出力信号を処理する信号処理デバイスと、
前記信号処理デバイスを支持するとともに、前記支持部材が固定されるフレームと、
をさらに備える、請求項1に記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定電流を導体に流し、それによって導体の周囲に発生する磁場を導体に並設された磁電変換素子を用いて検出することで電流量を測定する電流センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。斯かる電流センサにおいては、被測定電流が流れる導体と磁電変換素子との間の耐圧を確保して絶縁破壊を防止するために、それらの間にクリアランスが設けられる。しかしながら、クリアランスを大きくすると磁電変換素子の感磁面上での磁束密度が下がり、電流センサの感度が低下し、応答速度が低下する。
特許文献1 特開2015-045634号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一態様においては、被測定電流が流れる導体と、前記導体から離隔して配置され、側面視において前記導体の厚さ方向の中心より下方に上面を位置し且つ前記導体の下面よりも上方に該上面を位置する磁電変換素子と、前記磁電変換素子の上面上に配置され、側面視において前記導体の上面より上方に上端を位置し且つ前記導体の厚さ方向の中心よりも下方に下端を位置する磁気集束チップと、前記磁電変換素子を支持する支持部材と、前記導体、前記磁電変換素子、前記磁気集束チップ、及び前記支持部材を封止するパッケージと、を備える電流センサが提供される。
【0004】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A】電流センサの内部構成を上面視において示す。
図1B】電流センサの内部構成を側面視において示す。
図2】磁気集束チップの磁性体材料及び比透磁率を示す。
図3A】導体に対する磁電変換素子及び磁気集束チップの配置を上面視において示す。
図3B】導体に対する磁電変換素子及び磁気集束チップの配置を側面視において示す。
図4A】磁気集束チップの高さのそれぞれについて、導体の厚さ方向の中心に対する磁電変換素子の上面の位置とその上面上での磁束密度との関係を示す。
図4B】磁気集束チップの高さに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置の関係を示す。
図5A】被測定電流が導体に流れることにより発生する磁場の分布を模式的に示す。
図5B】短身の磁気集束チップにより集束される磁場の例を示す。
図5C】長身の磁気集束チップにより集束される磁場の例を示す。
図6A】導体の幅及び厚さのそれぞれについて、磁気集束チップの高さに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置の関係を示す。
図6B】磁気集束チップの磁気透磁率のそれぞれについて、磁気集束チップの高さに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置の関係を示す。
図7】磁気集束チップの高さ及び磁気透磁率に対する磁電変換素子の上面での磁気集束率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0007】
図1A及び図1Bは、それぞれ上面視及び側面視において、電流センサ100の内部構成をパッケージ9を透過して示す。ここで、図1Bは、図1Aにおける基準線に関する電流センサ100の断面構造を示す。なお、図1Aにおける上下方向を縦方向、図1A及び図1Bにおける左右方向を横方向、及び図1Bにおける上下方向を高さ方向とする。電流センサ100は、被測定電流が導体24に流れることでその周囲に発生する磁場を磁電変換素子34を用いて検出することで電流量を測定するセンサであり、特に、導体24と磁電変換素子34との間にクリアランスを設けて耐圧を確保しつつ磁電変換素子34の感磁面上に磁気集束チップ36を設けることで感度を、さらに電流センサとして所望の感度を与えるための増幅回路の増幅率を低減して遮断周波数を向上させることで応答速度を、改善するものである。電流センサ100は、パッケージ9、フレーム10、複数のデバイス端子17、支持部材18、導体24、磁電変換素子34、磁気集束チップ36、及び信号処理デバイス44を備える。
【0008】
パッケージ9は、後述するフレーム10が有する2つのデバイス端子15,16、複数のデバイス端子17、及び導体24のそれぞれの端子部を除いて、電流センサ100の構成各部をその内部に封止して保護する部材である。パッケージ9は、例えば、エポキシのような絶縁性に優れた封止樹脂を用いてモールド成形することで、扁平状の直方体に成形される。
【0009】
フレーム10は、信号処理デバイス44を支持するとともに支持部材18が固定される板状部材である。フレーム10は、特に信号処理デバイス44が発する熱を放熱するために、例えば熱伝導率の高い金属を用いて板状に成形される。フレーム10は、本体11、突出部12,14、及びデバイス端子15,16を有する。
【0010】
本体11は、信号処理デバイス44を支持する部分である。本体11は、一例として、平面視において信号処理デバイス44を支持するのに十分な大きさの略矩形状を有する。
【0011】
突出部12,14は、支持部材18が固定される部分である。突出部12,14は、それぞれ、本体11の横方向の一辺(すなわち、図1Aにおける右辺)の一端(すなわち、図1Aにおける上端)及び他端(すなわち、図1Aにおける下端)から、右方に向かって延設される。
【0012】
デバイス端子15,16は、信号処理デバイス44から出力される被測定電流の検出結果を外部デバイスに出力するための部分である。デバイス端子15,16は、本体11の横方向の他辺(すなわち、図1Aにおける左辺)の一端(すなわち、図1Aにおける上端)及び他端(すなわち、図1Aにおける下端)から、左方に向かって延設される。デバイス端子15,16は、折曲加工によりそれらの端部を下方に向けて屈曲し、さらに先端を水平に屈曲することにより、それらの端部にそれぞれ端子部15a,16aを形成する。
【0013】
フレーム10は、デバイス端子15,16の端子部15a,16aをパッケージ9の側面から突出させて、パッケージ9内に封止される。
【0014】
複数のデバイス端子17は、デバイス端子15,16とともに、信号処理デバイス44から出力される被測定電流の検出結果を外部デバイスに出力するための2次導体である。その他、複数のデバイス端子17は、デバイス端子15,16とともに、信号処理デバイス44に電源或いは動作パラメーターを与えるために用いられる。本実施形態では、一例として3つのデバイス端子17が、それらの長手を横方向に向けて、フレーム10のデバイス端子15,16の間に等間隔に配列される。デバイス端子17は、金属を用いて矩形板状に成形され、デバイス端子15,16と同様に、折曲加工によりそれらの端部を下方に向けて屈曲し、さらに先端を水平に屈曲することにより、それらの端部にそれぞれ端子部17aを形成する。
【0015】
支持部材18は、磁電変換素子34を支持する矩形状のシートまたはフィルムであり、一例としてポリイミドテープ等の絶縁耐圧の高い素材を用いてよい。絶縁部材ではない支持部材の一例として、例えば板状のシリコン、銅がある。固体のシリコンや銅を支持部材とすることで、支持部材18がたわむことがなくなる。したがって、磁電変換素子34と導体24の位置ずれを抑制することができる。支持部材18は、その長手を縦方向に向け、長手の一端及び他端をそれぞれフレーム10の突出部12,14の下面に貼り付けて突出部12,14の間に架けることで、フレーム10に保持される。
【0016】
導体24は、被測定電流が流れる電流経路を形成する1次導体である。本実施形態では、導体24は、パッケージ9の右辺の一側(すなわち、図1Aにおける上側)に設けられる電流端子24aからパッケージ9の内部を通って右辺に戻り、右辺の他側(すなわち、図1Aにおける下側)に設けられる電流端子24eへと至る略U字形状を有する。導体24は、金属を用いて成形される。導体24は、電流端子(単に端子部とも呼ぶ)24a,24e、胴部24b,24d、及び曲部24cを含む。
【0017】
端子部24a,24eは、パッケージ9の右辺から突出し、折曲加工によりそれらの端部を下方に向けて屈曲し、さらに先端を水平に屈曲することにより、電流を入力するための端子を形成する。
【0018】
胴部24b,24dは、端子部24a,24eを曲部24cに接続する部分である。胴部24b,24dは、一例として矩形状に形成され、右辺に2つの胴部24b,24dを離隔して接続し、左辺に曲部24cの脚部を接続する。
【0019】
曲部24cは、2つの脚部及びこれら2つの脚部を繋ぐ繋部を有する。2つの脚部は、胴部24b,24dより小さい縦方向の幅を有する。曲部24cは、繋部を略円弧状に湾曲し、その両端から2つの脚部を横方向に延伸する。ここで、2つの脚部の縦方向の離隔距離は、磁電変換素子34の幅より大きい。なお、曲部24cをコ字状に屈曲してもよい。
【0020】
ここで、導体24の曲部24cは、段差加工(例えば半抜き、エッチング、フォーミング、コイニング等)により高さ方向に段差を設けて胴部24b,24dに対して上げられる。それにより、曲部24cの底面は、フレーム10の突出部12,14の底面に貼り付けられた支持部材18の上面より高くなり、導体24を含む1次導体とデバイス端子15,16,17を含む2次導体に接続する支持部材18とが離隔することで、パッケージ9内における1次導体と2次導体との間の高い絶縁耐圧が得られる。
【0021】
導体24は、曲部24cをフレーム10の突出部12,14の間に配し、端子部24a,24eの先端をパッケージ9の右辺から突出して、パッケージ9内に封止される。
【0022】
磁電変換素子34は、導体24に通電される被測定電流により発生する磁場を検出するセンサである。磁電変換素子34として、例えば、InAs、GaAs等から構成される化合物半導体ホール素子、シリコーンから構成されるホール素子、及び磁気抵抗素子を採用することができる。
【0023】
磁電変換素子34は、支持部材18上で、上面視において導体24の曲部24cに囲まれる領域に導体24から離隔して配置される。ここで、磁電変換素子34の感磁面(すなわち、磁場を検出する検出面)は、本実施形態では、磁電変換素子34の上面に設けられている。磁電変換素子34は、その上面が側面視において導体24の厚さ方向の中心より下方に位置するように位置決めされる。磁電変換素子34は、ワイヤボンディングによって信号処理デバイス44に接続され、検出した磁場の強度に応じた電圧を出力信号として信号処理デバイス44に出力する。
【0024】
なお、磁電変換素子34の上面は、側面視において導体24の下面より下方に位置するよう位置決めしてもよい。それにより、導体24と支持部材18とが離隔して絶縁性を向上することができる。
【0025】
図2に、磁気集束チップ36の磁性体材料及び比透磁率を示す。磁気集束チップ36は、導体24に通電される電流により発生する磁場を磁電変換素子34の感磁面に集束するチップ状の磁性体である。磁気集束チップ36は、高い比透磁率μ、例えば10~100,000を有する磁性体材料から形成される。その磁性体材料として、例えば、パーマロイ、鉄コバルト合金、鉄、フェライト、ニッケル、及び炭素鋼のうちの少なくとも1つを採用することができる。
【0026】
磁気集束チップ36は、磁電変換素子34の上面上に配置される。ここで、磁気集束チップ36の下端は、磁電変換素子34の上面にシリコーン樹脂等の接着剤を用いて接着される。磁気集束チップ36は、一例として磁電変換素子34の感磁面より小さい菱形状(円形状、矩形状等でもよい)の上面及び底面を有する角柱状に成形される。さらに、側面視において導体24の上面より上方に上端が位置するように配置されてもよい。
【0027】
信号処理デバイス44は、磁電変換素子34の出力信号を処理して、導体24に通電される被測定電流の量を算出するデバイスである。信号処理デバイス44は、メモリ、感度補正回路、出力のオフセットを補正するオフセット補正回路、磁電変換素子34からの出力信号を増幅する増幅回路、及び温度に応じて出力を補正する温度補正回路を内蔵してもよい。信号処理デバイス44は、フレーム10の本体11上に支持され、フレーム10のデバイス端子15,16及び3つのデバイス端子17とワイヤボンディングによって接続される。それにより、信号処理デバイス44は、導体24に通電される被測定電流の量の算出結果をデバイス端子15,16,17を介して出力する。
【0028】
図3A及び図3Bに、それぞれ、導体24の曲部24cに対する磁電変換素子34及び磁気集束チップ36の配置を上面視及び側面視において示す。ここで、図3Bは、図3Aにおける基準線BBに関する側面図である。先述のとおり、磁電変換素子34は、支持部材18上で、上面視において導体24の曲部24cに囲まれる領域に曲部24cから離隔して配置され、磁気集束チップ36は、磁電変換素子34の上面の中心に配置される。ここで、導体24の曲部24cの厚さt、導体24の曲部24cと支持部材18との離隔距離(クリアランス)g、磁気集束チップ36の高さh、導体24の厚さ方向の中心からの磁電変換素子34の上面の距離dzとする。ただし、距離dzの符号は、磁電変換素子34の上面が側面視において導体24の厚さ方向の中心から下方に位置するときを正とする。
【0029】
図4Aに、磁気集束チップ36の高さhのそれぞれについて、導体24の厚さ方向の中心に対する磁電変換素子34の上面の距離dzとその上面上での磁束密度との関係を示す。ここで、有限要素法を用いたシミュレーションにより、導体24の端子部24a,24eの間に電圧0.01Vを印加して通電した際に磁気集束チップ36により集束されて磁電変換素子34の上面上に入る磁束密度を算出した。導体24の幅W=420μm及び厚さt=250μm、磁気集束チップ36の比透磁率μ=5000、磁気集束チップ36の高さh=0,70,150,320,600,1000μmとした。
【0030】
磁気集束チップ36の高さh=0μm、すなわち磁気集束チップ36が薄膜の場合、磁電変換素子34の上面上での磁束密度は、距離dz=0μmで極大を呈し、磁電変換素子34の上面が導体24の中心から離れるにつれて小さくなる。
【0031】
磁気集束チップ36の高さh=70μmの場合、磁電変換素子34の上面上での磁束密度は、距離dzが大きくなる、すなわち磁電変換素子34の上面が導体24の中心から下がるにつれて大きくなり、dz=-40μmで極大を呈し、さらに距離dzが大きくなるにつれて小さくなる。
【0032】
磁気集束チップ36の高さh=150μmの場合、磁電変換素子34の上面上での磁束密度は、距離dzが大きくなる、すなわち磁電変換素子34の上面が導体24の中心から下がるにつれて大きくなり、dz=15μmで極大を呈し、さらに距離dzが大きくなるにつれて小さくなる。
【0033】
磁気集束チップ36の高さh=320,600,1000μmの場合、磁束密度はh=150μmの場合と同様の振る舞いを呈し、それぞれdz=55,110,160μmで極大を呈する。
【0034】
図4Bに、磁気集束チップ36の高さhに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の距離dz_maxの関係を示す。磁気集束チップ36の高さh<150μmでは、dz_maxは負の値を示す。つまり、磁電変換素子34の上面を導体24の中心より上方に位置することで、磁電変換素子34の上面上での磁束密度が増大する。磁気集束チップ36の高さh≧150μmでは、dz_maxは正の値を示し、高さhとともに増大する。導体24の厚さt=250μmであることから、与えられた磁気集束チップ36の高さhに対してdz_max>0となる距離dzを選択することで、クリアランスgが増大し、耐圧及び感度の両方をともに改善することができる。特に、クリアランスgを磁電変換素子34の高さより大きくすることでより耐圧性が向上する。さらに、磁電変換素子34を熱源である導体24から離隔することで信頼性が向上し、支持部材18及び導体24にパッケージ9を形成するモールド樹脂が流れやすくなり埋め込み性も改善する。ただし、磁電変換素子の上面は導体の下面より上方に位置することでパッケージ高さを低くし、小型にすることができる。
【0035】
図5Aに、被測定電流が導体24に流れることにより発生する磁場の分布を模式的に示す。導体24に通電すると、導体24の曲部24cの2つの脚部のそれぞれの周囲に磁束が発生する。磁束は、脚部の上方から2つの脚部の間の中央に収束し、下方に抜けて、2つの脚部の下方に向かう。従って、導体24の中央の領域E1において磁束密度が高くなる。ただし、この領域体積は小さい。また、導体24の中央上方の領域E2において磁束密度が比較的高くなる。ただし、この領域体積は大きく、導体24からの距離の自乗に比例して磁束密度が低くなる。
【0036】
図5Bに、短身の磁気集束チップ36により集束される磁場の例を示す。先述のシミュレーションの結果における磁気集束チップ36の高さh=0,70μmの場合、その高さは導体24の厚さtより小さいため、磁気集束チップ36が領域E1のみを覆う位置(dzは概ねゼロ又はゼロより小さい)でその領域内の磁束を磁電変換素子34の上面に集束する。それにより磁束密度の極大が得られる。
【0037】
図5Cに、長身の磁気集束チップ36により集束される磁場の例を示す。先述のシミュレーションの結果における磁気集束チップ36の高さh=320,600,1000μmの場合、その高さは導体24の厚さtより大きいため、磁気集束チップ36が領域E1だけでなく上方の領域E2をも覆う位置(dz>0)でそれらの領域内の磁束を磁電変換素子34の上面に集束する。それにより磁束密度の極大が得られる。高さhが大きくなるほど、磁気集束チップ36がより広い領域から磁束を集束することで磁電変換素子34の上面上での磁束密度はさらに大きくなる。
【0038】
従って、磁電変換素子の上面(すなわち、感磁面)は、その上に配置される磁気集束チップ36が、高磁束密度が得られる導体24の中央の領域E1を覆うよう、導体24の厚さ方向の中心より下方に位置する(dz>0)のが好ましい。さらに、磁気集束チップ36の高さhは、比較的高磁束密度が得られる導体24の上方の領域E2を覆うよう、導体24の上面より上方に上端を位置するよう定めるのが好ましい。それにより、磁電変換素子34の磁場感度が改善される。さらに、磁電変換素子34の上面は、導体24の下面より下方に位置する(クリアランスgが大)のが望ましい。それにより、導体24と支持部材18とが離隔して耐圧性が向上する。
【0039】
図6Aに、導体24の幅W及び厚さtのそれぞれについて、磁気集束チップ36の高さhに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子34の上面の位置dz_maxの関係を示す。ここで、導体24の幅W=200,420μm、厚さt=100,250,500μm、比透磁率μ=5000とした。磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置dz_maxは、導体24の幅W及び厚さtにさほど依存することなく、数値精度の範囲内でh≧150μ以上で正の値を呈する。磁気集束チップ36を磁電変換素子34上に配置して導体24の中央の領域E1だけでなく上方の領域E2も覆うことで、広い領域から磁束を磁電変換素子34の上面に集束するから、導体24の周囲の磁束密度分布が変わらない限り、磁気集束チップ36の高さhに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置dz_maxの関係は導体24の幅W及び厚さtに不感であることがわかる。
【0040】
図6Bに、磁気集束チップ36の磁気透磁率(比透磁率μ)のそれぞれについて、磁気集束チップ36の高さhに対する磁束密度の極大を与える磁電変換素子34の上面の位置dz_maxの関係を示す。ここで、導体24の幅W=420μm、厚さt=250μm、比透磁率μ=3,10,100,1000,5000,100000とした。小さい値の比透磁率μは磁気集束チップ36がないに等しいため、磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置dz_maxはゼロに近づく、すなわち導体24の厚さ方向の中心に近くなる。大きい値の比透磁率μは磁気集束チップ36が広範囲から磁束を収束することを意味するため、磁束密度の極大を与える磁電変換素子の上面の位置dz_maxは正の大きな値になる、すなわち導体24の厚さ方向の中心より下方に位置することとなる。比透磁率μ≧10及び高さh≧150μmに対してdz_max>0となることで、耐圧及び感度の両方をともに改善することができる。
【0041】
図7に、磁気集束チップ36の高さh及び比透磁率μに対する磁電変換素子34の上面での磁気集束率を示す。磁気集束率は、磁電変換素子34上に磁気集束チップ36を設けなかった場合(すなわち、比透磁率μ=0)における磁電変換素子34の上面上の磁束密度に対する増倍率として与える。比透磁率μは、図2に与えた材料の比透磁率10~100000の範囲で選択した。磁気集束チップの高さhは、dz_max>0を与える150μ以上、電流センサ100のパッケージ9の典型的な厚さ2000μmの範囲で選択した。比透磁率μ=10に対して、高さh=150~2000μmにおいて磁気集束率は1.50~2.03であった。比透磁率μ=100000に対して、高さh=150~2000μmにおいて磁気集束率は1.56~3.47であった。従って、磁気集束チップ36の高さhは、150μm以上且つパッケージ9の厚さ(例えば2000μm或いはその半分の1000μm)より小さいのが望ましい。
【0042】
本実施形態に係る電流センサ100は、被測定電流が流れる導体24、導体24から離隔して配置され、側面視において導体24の厚さ方向の中心より下方に上面を位置し且つ導体24の下面よりも上方に上面を位置する磁電変換素子34、磁電変換素子34の上面上に配置され、側面視において導体24の上面より上方に上端を位置し且つ導体24の厚さ方向の中心よりも下方に下端を位置する磁気集束チップ36、磁電変換素子34を支持する支持部材18、導体24、磁電変換素子34、磁気集束チップ36、及び支持部材18を封止するパッケージ9を備える。これによれば、磁電変換素子34を、導体24から離隔して配置するとともに、側面視において導体24の厚さ方向の中心より下方に上面を位置し且つ導体24の下面よりも上方に上面を位置するように配置し、磁気集束チップ36を、磁電変換素子34の上面上に配置するとともに、側面視において導体24の上面より上方に上端を位置し且つ導体24の厚さ方向の中心よりも下方に下端を位置するように配置することで、磁気集束チップ36により、側面視において導体24の中央に集中する磁束だけでなく導体の上方に分布する磁束を磁電変換素子34の感磁面に集束することができる。それにより、磁場感度(すなわち、応答速度)を改善することができる。
【0043】
なお、本実施形態の電流センサ100において、導体24に通電する電流は、直流であっても交流であってもよい。また、直流の場合において、通電する電流の向きを任意に定めてよい。
【0044】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0045】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0046】
9…パッケージ、10…フレーム、11…本体、12,14…突出部、15,16,17…デバイス端子、15a,16a,17a…端子部、18…支持部材、24…導体、24a,24e…電流端子(端子部)、24b,24d…胴部、24c…曲部、34…磁電変換素子、36…磁気集束チップ、44…信号処理デバイス、100…電流センサ、E1,E2…領域、μ…比透磁率。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7