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特開2024-125167バインダ、液体組成物、収容容器、電極の製造装置、電極の製造方法、電極、電気化学素子、デバイス、及び移動体
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  • 特開-バインダ、液体組成物、収容容器、電極の製造装置、電極の製造方法、電極、電気化学素子、デバイス、及び移動体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125167
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】バインダ、液体組成物、収容容器、電極の製造装置、電極の製造方法、電極、電気化学素子、デバイス、及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240906BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240906BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20240906BHJP
   B05C 11/02 20060101ALI20240906BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
C08F20/34
B05C11/02
B05C5/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003405
(22)【出願日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2023032470
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 俊也
(72)【発明者】
【氏名】大屋 彼野人
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】野口 宗
【テーマコード(参考)】
4F041
4F042
4J100
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F042AA22
4F042BA06
4F042BA08
4F042BA12
4F042BA17
4F042BA25
4F042CA01
4F042CB03
4F042CB19
4F042DB02
4F042DB17
4F042DD09
4F042DD17
4F042DD21
4F042DD46
4F042DF23
4F042DF26
4J100AL03Q
4J100AL08P
4J100BA31P
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA05
4J100JA07
4J100JA43
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM12
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029CJ30
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
5H029HJ14
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA28
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電極合材層及び固体電極層の少なくともいずれかに優れた結着性及び屈曲耐性を付与することができるバインダ等の提供。
【解決手段】正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられるバインダであって、下記一般式(I)で表される構造単位(a)と、一般式(II)で表される構造単位(b)とを含み、(a)と(b)との組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上であるバインダ。

は水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rは3級アミノ基を表す。一般式(II)は、一般式(I)において、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上7以下のアルキレン基又は炭素及び酸素の合計原子数が1以上7以下のアルキレンオキサイド基を表す。Rは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられるバインダであって、
下記一般式(I)で表される構造単位と、下記一般式(II)で表される構造単位とを含み、
前記一般式(I)で表される構造単位(a)と前記一般式(II)で表される構造単位(b)との組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上であることを特徴とするバインダ。
【化1】
ただし、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rは3級アミノ基を表す。
【化2】
ただし、前記一般式(II)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上7以下のアルキレン基又は炭素及び酸素の合計原子数が1以上7以下のアルキレンオキサイド基を表す。Rは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
【請求項2】
正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかと、バインダと、溶媒とを含有し、
前記バインダが請求項1に記載のバインダであることを特徴とする液体組成物。
【請求項3】
前記バインダのガラス転移温度が-15℃以上40℃以下である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記正極活物質が、リチウム含有遷移金属酸化物及びリチウム含有遷移金属リン酸化合物から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記正極活物質がリチウムを含みかつ非含水性である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記正極活物質の含有量が10質量%以上である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項7】
前記固体電解質が硫化物固体電解質である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項8】
25℃における粘度が200mPa・s以下である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項9】
インクジェット用インク組成物である、請求項2に記載の液体組成物。
【請求項10】
請求項2から9のいずれかに記載の液体組成物が収容されたことを特徴とする収容容器。
【請求項11】
請求項10に記載の収容容器と、
前記収容容器に収容された前記液体組成物を電極基体上に付与する付与手段と、
を有することを特徴とする電極の製造装置。
【請求項12】
電極基体上に、請求項2から9のいずれかに記載の液体組成物を付与する付与工程を含むことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項13】
前記液体組成物が付与された電極基体を加圧する工程を更に含む、請求項12に記載の電極の製造方法。
【請求項14】
電極基体と、
前記電極基体上に、電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかと、
を有し、
前記電極合材層及び前記固体電解質層の少なくともいずれかが請求項1に記載のバインダを含むことを特徴とする電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電極を有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項16】
請求項15に記載の電気化学素子を有することを特徴とするデバイス。
【請求項17】
請求項15に記載の電気化学素子を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダ、液体組成物、収容容器、電極の製造装置、電極の製造方法、電極、電気化学素子、デバイス、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする電気化学素子は、携帯機器、ハイブリット自動車、電気自動車等へ搭載され、需要が拡大している。また、各種ウェアラブル機器又は医療用パッチに搭載する薄型電池に対するニーズも高まってきており、電気化学素子に対する要求が多様化している。
【0003】
電気化学素子を構成する電極を製造するための電極合材層用液体組成物は、一般に活物質、分散媒、及び得られる電極合材層の結着性を得るためのバインダを含有する。一般に、バインダとしては重合体が使用されることに加え、かつ生産性の向上の観点から電極合材層用液体組成物は高い固形分濃度で調液されるため、粘度が10mPa・s~10mPa・sと極めて高いスラリーである。そのため、従来より、電気化学素子を構成する電極の製造方法としては、例えば、ダイコーター、コンマコーター、リバースロールコーター等を用いて、電極合材層用液体組成物を塗布することにより、電極基体上に電極合材層を形成している。また、電極基体上に電極合材層用液体組成物をスクリーン印刷することにより、電極合材層を形成することが行われている。
【0004】
しかしながら、ニーズに合わせた形状にスクリーン印刷するためには、ニーズ毎に版を作製する必要がある。そこで、液体吐出装置を用いて、電極基体上に、電極合材層用液体組成物を吐出することにより、電極合材層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)
【0005】
このような液体吐出法は、液体吐出装置における液体吐出ヘッドの吐出孔から、液体組成物の微細な液滴を吐出する方法である。液体吐出ヘッドの液滴を吐出する方式としては、例えば、ピエゾ方式、サーマル方式、バルブ方式などが挙げられる。これらの中でも、ピエゾ方式は、電圧を制御することで、液体組成物の吐出量を精度よく制御することができることに加え、加熱しないため、使用環境の影響が少なく、耐久性が高いという利点がある。
【0006】
前記液体吐出法により吐出するための液体組成物は、例えば、活物質、導電助剤、及びバインダに加え、吐出するための液体組成物を安定に保持するために必要な分散剤、溶媒などを含有する。
しかし、分散剤及びバインダの添加は電気化学素子の電気化学特性の悪化を招く懸念がある。このため、分散剤及びバインダの使用量の低減が望まれており、特にバインダは少量の使用でも電極合材層の剥離や曲げに対する強度を保持することが要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられ、電極合材層及び固体電極層の少なくともいずれかに優れた結着性及び屈曲耐性を付与することができるバインダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としての本発明のバインダは、正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられるバインダであって、下記一般式(I)で表される構造単位と、下記一般式(II)で表される構造単位とを含み、前記一般式(I)で表される構造単位(a)と前記一般式(II)で表される構造単位(b)との組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上である。
【化1】
ただし、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rは3級アミノ基を表す。
【化2】
ただし、前記一般式(II)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上7以下のアルキレン基又は炭素及び酸素の合計原子数が1以上7以下のアルキレンオキサイド基を表す。Rは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられ、電極合材層及び固体電極層の少なくともいずれかに優れた結着性及び屈曲耐性を付与することができるバインダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の電極の製造方法の一例を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態の電極の製造装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、本実施形態の電極の製造装置の他の一例を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態の電極の製造方法の他の一例を示す模式図である。
図5図5は、液体吐出装置の変形例の一例を示す模式図である。
図6図6は、本実施形態の電極の製造方法の他の一例を示す模式図である。
図7図7は、液体吐出装置の変形例の一例を示す模式図である。
図8図8は、本実施形態の負極の一例を示す断面図である。
図9図9は、本実施形態の正極の一例を示す断面図である。
図10図10は、本実施形態の電極の一例を示す断面図である。
図11図11は、本実施形態の電極の他の例を示す断面図である。
図12図12は、本実施形態の電気化学素子に用いる電極素子の一例を示す断面図である。
図13図13は、本実施形態の電気化学素子の一例を示す断面図である。
図14図14は、本実施形態の電気化学素子の一例である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す概略図である。
図15図15は、実施例6におけるピール強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(バインダ)
本発明のバインダは、正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられるバインダであって、下記一般式(I)で表される構造単位と、下記一般式(II)で表される構造単位とを含み、前記一般式(I)で表される構造単位(a)と前記一般式(II)で表される構造単位(b)との組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上である。
【0012】
【化3】
ただし、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rは3級アミノ基を表す。
【0013】
【化4】
ただし、前記一般式(II)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上7以下のアルキレン基又は炭素及び酸素の合計原子数が1以上7以下のアルキレンオキサイド基を表す。Rは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
【0014】
本発明のバインダは、正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられる。
正極活物質を含有する液体組成物、正極活物質及び固体電解質を含有する液体組成物、並びに負極活物質及び固体電解質を含有する液体組成物は、電極合材層用液体組成物として用いられ、電気化学素子の電極合材層の形成に用いられる。
固体電解質を含有する液体組成物は、固体電解質層用液体組成物として用いられ、電気化学素子の固体電解質層の形成に用いられる。
【0015】
本発明のバインダは、上記一般式(I)で表される構造単位と、上記一般式(II)で表される構造単位とを含み、前記一般式(I)で表される構造単位(a)と前記一般式(II)で表される構造単位(b)との組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上であることによって、優れた屈曲耐性及び結着性を有する電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかを形成することができる。
【0016】
前記一般式(I)及び一般式(II)におけるR又はRは、水素原子又はアルキル基を表す。
前記アルキル基としては、置換若しくは無置換のアルキル基が好ましく、膜強度の観点から、炭素数1以上30以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上18以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基が特に好ましく、炭素数1のアルキル基であるメチル基が最も好ましい。なお、アルキル基は直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。
前記炭素数1以上30以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2-ブチルオクチル基、オクタデシル基などが挙げられる。
前記置換基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~12のアルキル基、フェニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基又は炭素数1~12のアルコキシ基により置換されているフェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などが挙げられる。これらの置換基は、同一の基が複数導入されていてもよいし、異なる基が複数導入されていてもよい。
【0017】
前記一般式(I)におけるRは3級アミノ基を表す。
前記3級アミノ基としては、アルキル基又はアリール基により置換されているアミノ基が好ましく、電気化学的安定性の点から、アルキル基により置換されているアルキル基がより好ましい。
3級アミノ基の窒素に結合するアルキル基としては、置換若しくは無置換のアルキル基が好ましく、膜強度の観点から、炭素数1以上30以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上18以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基が特に好ましく、炭素数1であるアルキル基であるメチル基が最も好ましい。
また、屈曲耐性の観点からは、置換若しくは無置換のアルキル基が好ましく、膜強度の観点から、炭素数1以上30以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上18以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基が特に好ましく、炭素数2のアルキル基であるエチル基が最も好ましい。
なお、アルキル基は直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。
【0018】
前記炭素数1以上30以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2-ブチルオクチル基、オクタデシル基などが挙げられる。
前記置換基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~12のアルキル基、フェニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基又は炭素数1~12のアルコキシ基により置換されているフェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などが挙げられる。これらの置換基は、同一の基が複数導入されていてもよいし、異なる基が複数導入されていてもよい。
3級アミノ基の窒素に結合する二つのアルキル基は同一でも異なっていてもよく、これらは互いに結合して環を形成してもよい。
前記3級アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、モルホリノ基などが挙げられる。
【0019】
前記一般式(I)におけるRは炭素数1以上のアルキレン基を表し、炭素数1以上20以下のアルキレン基が好ましい。
前記アルキレン基としては、上記アルキル基の二価基が挙げられ、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、シクロアルキレン基などが挙げられる。
【0020】
直鎖アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基などが挙げられる。
【0021】
分岐アルキレン基は、前記直鎖アルキレン基の少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキレン基は、メチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、ブチルメチレン基、メチルエチレン基、エチルエチレン基、プロピルエチレン基、メチルプロピレン基、2-エチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、メチルブチレン基などが挙げられる。
【0022】
シクロアルキレン基としては、例えば、単環シクロアルキレン基、架橋環シクロアルキレン基、縮合環シクロアルキレン基などが挙げられる。
単環シクロアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基などが挙げられる。
【0023】
前記一般式(II)におけるRは炭素数1以上7以下のアルキレン基又は炭素及び酸素の合計原子数が1以上7以下のアルキレンオキサイド基を表す。
のアルキレン基の炭素数が1以上7以下であると、重合体は固体であり、バインダとして機能することができる。一方、炭素数が7を超えると重合体は液状化しやすく、バインダとしての機能を失ってしまう。
【0024】
アルキレンオキサイド基は、下記一般式で表される。
-(RO)n-
(ただし、前記一般式中、Rはアルキレン基であり、nは1以上の整数である。)
Rのアルキレン基はRのアルキレン基と同様であるが、エチレン基及びプロピレン基が最も好ましい。
【0025】
前記一般式(II)におけるRは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
が水素原子であり、Rがアルキレンオキサイド基であると、RとRが連結して表される基の末端基が水酸基となり結着性の向上が期待される。一方、硫化物固体電解質を用いた場合には、Rがメチル基又はエチル基のようなアルキル基であると、悪影響を及ぼす恐れが低下し、特性の向上が期待される。
【0026】
さらに、RとRが連結して表される基がアルキル基である場合、ガラス転移点の差異に伴う剥離強度の点では、炭素数4以下のアルキル基が好ましく、ガラス転移点の差異に伴う屈曲耐性の点では、炭素数4以上のアルキル基が好ましい。これらの中でも、良好な剥離強度と屈曲耐性の両立の観点から、炭素数4のアルキル基が好ましい。
【0027】
前記一般式(I)で表される構造単位(a)と前記一般式(II)で表される構造単位(b)との組成比(a:b)は、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上であり、10モル%:90モル%~90モル%:10モル%であることが好ましく、10モル%:90モル%~40モル%:60モル%であることがより好ましい。
前記組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上であると、優れた屈曲耐性及び結着性を有する電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかを形成することができる。前記組成比(a:b)が、10モル%:90モル%~40モル%:60モル%であること、すなわち3級アミノ基を有する構造単位(a)が構造単位(b)よりも組成として少ないと、Tgの低下が抑えられ、良好な剥離強度とすることができる。
【0028】
前記バインダは、前記一般式(I)で表される構造単位及び前記一般式(II)で表される構造単位以外に、その他の重合性モノマー由来の繰り返し単位を有することができる。
前記その他の重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
前記バインダの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で、1,000~1,000,000が好ましく、2,000~700,000がより好ましく、100,000~350,000がさらに好ましい。重量平均分子量が小さすぎる場合にはクラックの発生等の成膜性が悪化し実用性に乏しくなる。一方、重量平均分子量が大きすぎる場合には、一般の有機溶媒への溶解性が悪くなり、溶液の粘度が高くなって液体組成物の付与が困難になり、実用上問題になる。
【0030】
前記バインダのガラス転移温度は、-30℃以上70℃未満が好ましく、-15℃以上40℃未満がより好ましい。ガラス転移温度が-30℃未満であると屈曲耐性の面では有効だが、膜が脆くなり剥離強度が弱くなることがある。逆にガラス転移温度が70℃以上であると、屈曲耐性や裁断耐性が悪くなり、実用上問題になることがある。
前記ガラス転移温度は、DSCにより測定したガラス転移温度である。具体的には、サンプルを窒素気流下、―80℃まで冷却した後、10℃/分間で200℃まで昇温した後、再度―60℃まで10℃/分間で冷却し、再び200℃まで10℃/分間で昇温した時の最後の昇温過程により測定された曲線からガラス転移温度を求めることができる。
【0031】
本発明のバインダの合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記一般式(I)で表される構造単位を含むモノマー、又は上記一般式(I)で表される構造単位を含むモノマーと上記一般式(II)で表される構造単位を含むモノマーとを重合することによって合成することができる。
【0032】
本発明のバインダとしては、以下に示すものが挙げられる。ただし、前記バインダとしては、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化5】
ただし、前記式中の括弧の添え字m、nは構成成分のモル比を表す。m/nとしては、0.5/0.5~0.9/0.1が好ましい。
【0034】
【化6】
ただし、前記式中の括弧の添え字m、nは構成成分のモル比を表す。m/nとしては、0.5/0.5~0.9/0.1が好ましい。
【0035】
【化7】
ただし、前記式中の括弧の添え字m、nは構成成分のモル比を表す。m/nとしては、0.5/0.5~0.9/0.1が好ましい。
【0036】
【化8】
【0037】
【化9】
【0038】
【化10】
ただし、前記式中の括弧の添え字m、nは構成成分のモル比を表す。m/nとしては、0.5/0.5~0.9/0.1が好ましい。
【0039】
【化11】
ただし、前記式中の括弧の添え字l、m、nは構成成分のモル比を表す。l:m:nとしては、0.5~0.9:0.25~0.05:0.25~0.05(ただし、l+m+n=1)が好ましい。
【0040】
(液体組成物)
本発明の液体組成物は、正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかと、バインダと、溶媒とを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
本発明の液体組成物は、上述した本発明のバインダを含有することによって、優れた屈曲耐性及び結着性を有する電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかを形成することができる。
本発明の液体組成物は、インクジェット吐出用液体組成物として好適に用いることができる。
【0041】
本発明の液体組成物は、電気化学素子の電極における電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかの形成に用いられる液体組成物であり、例えば、二次電池の電極合材層形成用液体組成物、又は二次電池の固体電解質層形成用液体組成物などとして用いることができる。
前記二次電池の電極合材層形成用液体組成物は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池の電極合材層(正極合材層又は負極合材層)を形成する際に用いることができる。
前記二次電池の固体電解質層形成用液体組成物は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池の固体電解質層を形成する際に用いることができる。
【0042】
<電極合材層形成用液体組成物>
電極合材層形成用液体組成物は、正極活物質、固体電解質、バインダ、及び溶媒を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0043】
<<バインダ>>
バインダとしては、上述した本発明のバインダが用いられる。
前記バインダは、前記液体組成物に用いられる溶媒に溶解する質量濃度範囲内で配合されることが好ましい。バインダが、液体組成物に用いられる溶媒に溶解する質量濃度範囲内で配合されると、低粘度化が比較的容易であり、かつ、液体組成物において不溶分の重合体粒子がイオン伝導性材料等の顔料に結着しないため、保管安定性及び再分散性に優れる。
前記バインダが前記溶媒に溶解する質量濃度範囲とは、前記溶媒に相溶性がある範囲のことをいう。より具体的には、温度25℃の溶媒に、バインダを投入し、溶解させた後、10分間静置させた後に、目視にて沈降物又は上澄みが確認ない質量濃度の範囲である。なお、バインダを溶解させる際の条件としては、バインダが溶解する限り、特に制限はない。
【0044】
前記バインダは、前記液体組成物の粘度を過度に高めることがない成分である。そのため、本実施形態に係る液体組成物は、インクジェット吐出用液体組成物として好適に使用することができる。また、前記バインダは、前記液体組成物を使用して、電極基体(集電体)上に電極合材層を形成することにより製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持する(即ち、結着剤として機能する)成分である。
【0045】
前記バインダの液体組成物における含有量としては、正極活物質に対して、上限値としては10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、下限値としては1質量%以上であることが好ましい。前記バインダの含有量が前記好ましい範囲内であると、得られる電極合材層が十分に高いピール強度を有する液体組成物を得ることができる。
【0046】
<活物質>
活物質としては、電気化学素子に適用することが可能な正極活物質、負極活物質などが挙げられる。
【0047】
[正極活物質]
正極活物質としては、アルカリ金属イオンを挿入又は放出することが可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
【0048】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される1種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物などが挙げられる。
【0049】
リチウム含有遷移金属化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O)、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、LiMnO-LiNiO系固溶体、Li1+xMn2-x(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、LiNi0.5Mn1.5などの正極活物質が挙げられる。
【0050】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、電気化学素子の入出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0051】
なお、活物質がリチウムを含む場合、溶媒は、非水系溶媒であることが好ましい。この場合、液体組成物中の水の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。液体組成物中の水の含有量が5質量%以下であると、活物質に含まれるリチウムが水と反応して、炭酸リチウム等の化合物を形成し、電気化学素子の放電容量が減少するのを抑制することができる。また、電気化学素子の充放電中に、炭酸リチウム等の化合物が分解して、ガスが発生するのを抑制することができる。
【0052】
[負極活物質]
負極活物質としては、アルカリ金属イオンを挿入又は放出することが可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
【0053】
炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)などが挙げられる。
【0054】
炭素材料以外の負極活物質としては、例えば、チタン酸リチウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0055】
また、非水電解質を用いた電気化学素子を用いる場合は、エネルギー密度の点から、負極活物質として、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化スズ等の高容量材料を用いることが好ましい。
【0056】
[活物質の最大粒子径]
本発明における活物質の最大粒子径としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェットヘッドのノズル径よりも小さいことが好ましく、インクジェット吐出性をより高めることができる点で、インクジェットヘッドのノズル径よりも十分小さいことが好ましい。具体的には、液体組成物に含まれる活物質の最大粒子径と、インクジェットヘッドのノズル径との比(液体組成物に含まれる活物質の最大粒子径/インクジェットヘッドのノズル径)が、0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。活物質の最大粒子径がこれらの範囲内にあると、液体組成物の吐出安定性が向上する。例えば液滴観察装置(EV1000、株式会社リコー製)の場合、ノズル径は40μmであり、このとき、液体組成物に含まれる活物質の最大粒子径は32μm以下であることが好ましく、24μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。なお、最大粒子径とは、計測された前記液体組成物における活物質の粒度分布の中で分布の最大値である径である。
活物質の最大粒子径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ISO 13320:2009に準じて測定することができる。前記測定に用いる装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー3000、マルバーン社製)などが挙げられる。
【0057】
[活物質のモード径]
本発明における活物質のモード径としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm以上10μm以下が好ましく、3μm以上10μm以下がより好ましい。活物質のモード径が0.5μm以上10μm以下であると、液体組成物を液体吐出法により吐出する場合に、吐出不良を起こしにくい。また、活物質のモード径が3μm以上10μm以下であると、よりよい電気特性の電極合材層が得られる。なお、モード径とは、計測された前記液体組成物における活物質の粒度分布の中で分布の極大値である径である。
活物質のモード径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ISO 13320:2009に準じて測定することができる。前記測定に用いる装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー3000、マルバーン社製)などが挙げられる。
【0058】
前記活物質の液体組成物中における含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。液体組成物中の活物質の含有量が10質量%以上であると、所定の目付量の電極合材層を形成するために必要な印刷回数が少なくなる。
【0059】
<<固体電解質>>
固体電解質としては、電子絶縁性を有し、かつ、イオン伝導性を示すものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本明細書において電子絶縁性を有するとは、固体電解質層を介して正極と負極を対向させた際に短絡しない状態であることを表し、イオン伝導性を示すとは固体電解質層を介して正極と負極を対向させた際に電位差を与えるとイオンのみが移動することを表す。
固体電解質としては、電子絶縁性を有し、イオン伝導性を示す固体物質であれば、特に制限はないが、イオン伝導度の観点から、組成式に硫黄を含む硫化物固体電解質、又はアニオンとして酸素のみを含む酸化物固体電解質が好ましく、良好な界面を形成することができる点から、硫化物固体電解質がより好ましい。
【0060】
前記硫化物固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0061】
例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
a1b1c1d1e1 ・・・ 式(1)
前記式(1)中、Lは、Li、Na、K、及びCaから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al、Ge、及びYから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl、及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は、1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。
【0062】
a1は、1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。
b1は、0~3が好ましく、0~1がより好ましい。
d1は、2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。
e1は、0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0063】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物固体電解質を製造する際の原料化合物の配合比を調整することにより制御できる。硫化物固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。硫化物固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0064】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、5×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0065】
具体的な硫化物固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiSP-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiSSiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0066】
酸化物固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
具体的な化合物としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbMbbmbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、LixcycMcczcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)MeexeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD1(D1は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0067】
前記固体電解質の最大粒子径としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェット印刷用途を想定した場合には、インクジェットヘッドのノズル径よりも小さいことが好ましく、インクジェット吐出性をより高めることができる点で、インクジェットヘッドのノズル径よりも十分小さいことが好ましい。具体的には、液体組成物に含まれる固体電解質の最大粒子径と、インクジェットヘッドのノズル径との比(液体組成物に含まれる固体電解質の最大粒子径/インクジェットヘッドのノズル径)が、0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。固体電解質の最大粒子径がこれらの範囲内にあると、液体組成物の吐出安定性が向上する。例えば液滴観察装置(EV1000、株式会社リコー製)の場合、ノズル径は40μmであり、このとき、液体組成物に含まれる活物質の最大粒子径は32μm以下であることが好ましく、24μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。なお、最大粒子径とは、計測された前記液体組成物における固体電解質の粒度分布の中で分布の最大値である径である。
固体電解質の最大粒子径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した活物質の最大粒子径の測定方法と同様の方法などが挙げられる。
【0068】
前記固体電解質のモード径としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上3μm以下がより好ましい。固体電解質のモード径が0.1μm以上10μm以下であると、液体組成物を液体吐出方法により吐出する場合に、吐出不良を起こしにくい。なお、モード径とは、計測された前記液体組成物における固体電解質の粒度分布の中で分布の極大値である径である。
固体電解質のモード径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した活物質のモード径の測定方法と同様の方法などが挙げられる。
【0069】
<<溶媒>>
溶媒としては、前記バインダが溶解するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エステル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硫化物固体電解質と反応しない非プロトン性有機溶媒としてエステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類が好ましい。
【0070】
<<分散剤>>
分散剤としては、液体組成物中の活物質の分散性を向上させることが可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンオキシド系、ポリプロピレンオキシド系、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子分散剤、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の低分子分散剤、ポリリン酸塩系分散剤等の無機分散剤などが挙げられる。 前記分散剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分散剤の前記液体組成物中における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記分散剤の固形分濃度としては、分散剤の固形分濃度が高すぎると逆に凝集を招くため、分散させる活物質或いは活物質と固体電解質との総量に対して10質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0071】
<<その他の成分>>
その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、導電助剤などが挙げられる。
【0072】
-導電助剤-
導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、ガス化法等により製造されているカーボンブラックや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛粒子等の炭素材料を用いることができる。炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、金属繊維を用いることができる。なお、導電助剤は、予め活物質と複合化されていてもよい。
【0073】
活物質に対する導電助剤の質量比は、上限値としては、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、下限値としては、1質量%以上が好ましい。活物質に対する導電助剤の質量比が上記下限値以上である場合、得られる電極合材層の導電性がより向上する。活物質に対する導電助剤の質量比が上記上限値以下である場合、得られる電極合材層の導電性を損なわず、かつエネルギー密度をより向上することができる。
【0074】
<液体組成物の粘度>
前記液体組成物の25℃での粘度としては、液体吐出ヘッドから吐出することが可能な粘度であることが好ましく、上限値としては、200mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下がより好ましく、50mPa・s以下が更に好ましい。また、下限値としては、10mPa・s以上であることが好ましく、30mPa・s以上であるとより好ましい。上記下限値以上の粘度とすることで、塗布した液体組成物を乾燥させる工程で流動が抑制され、乾燥による膜厚ムラ、及び、組成ムラが抑制される。
【0075】
<液体組成物の製造方法>
液体組成物は、上記各成分を上記溶媒中に溶解又は分散させることにより製造することができる。
具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と上記溶媒とを混合することにより、液体組成物を調製することができる。
【0076】
<固体電解質層形成用液体組成物>
固体電解質層形成用液体組成物は、固体電解質、バインダ、及び溶媒を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0077】
<<固体電解質>>
固体電解質としては、上述した電極合材層形成用液体組成物における固体電解質と同様のものを用いることができる。
前記固体電解質の液体組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生産性の点から液体組成物全量に対して20質量%以上であることが好ましく、インクジェット法による吐出性の点から液体組成物全量に対して50質量%以下であることが好ましい。
【0078】
<<バインダ>>
バインダとしては、上述した本発明のバインダが用いられる。
前記バインダは、前記溶媒に溶解する質量濃度範囲内で配合されることが好ましい。
前記バインダは、前記液体組成物の粘度を過度に高めることがない成分である。また、前記バインダは、前記液体組成物を使用して電極上に固体電解質層を形成することにより製造した積層体において、固体電解質層に含まれる成分が積層体から脱離しないように保持する成分である。
【0079】
<<溶媒>>
近年、リチウムイオン二次電池の安全性向上の目的から、可燃性の電解液の代わりに固体電解質を用いた全固体型の電池の提供が望まれている。固体電解質の中でも特にイオン伝導度が高く良好な特性を有する硫化物固体電解質は、プロトン性の溶媒との接触により硫化水素を発生してしまう。また、硫化物固体電解質はNMP等の高極性の溶媒中では分解が起こることが知られている。そのため、硫化物固体電解質のスラリーを調製する場合には、硫化物固体電解質にダメージを与えない低極性の非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。硫化物固体電解質と反応しない非プロトン性有機溶媒としては、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類が好ましい。
【0080】
前記溶媒の液体組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェット法による吐出性の点から液体組成物全量に対して40質量%以上であることが好ましく、生産性の点から液体組成物全量に対して80質量%以下であることが好ましい。
【0081】
<<分散剤>>
前記分散剤は、固体電解質を分散させるものである。
前記分散剤としては、固体電解質を分散できるものであれば、特に制限はないが、分散性の観点でイオン性吸着基をもつ分散剤が好ましい。また、前記分散剤は、固体電解質に対して反応しづらい材料であることが好ましい。本明細書及び特許請求の範囲において、固体電解質に対して反応しづらい材料とは、固体電解質と、材料と、を混合し、一定時間放置した場合に固体電解質のイオン導電率の変化が小さい材料のことをいう。前記イオン導電率の変化率としては、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0%であることが更に好ましい。
【0082】
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレン系、ポリエチレンオキシド系、ポリプロピレンオキシド系、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子分散剤、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の低分子分散剤、ポリリン酸塩分散剤等の無機分散剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
前記分散剤の液体組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、固体電解質に対して、上限値としては5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、下限値としては0.1質量%以上であることが好ましい。前記分散剤の含有量が前記好ましい範囲内であると、固体電解質の表面機能を損なうことなく固体電解質の分散安定性を担保することができる。
【0084】
<<その他の成分>>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0085】
(電極)
本実施形態に関する電極(以下、「二次電池用の電極」と称することもある。)は、電極基体と、電極基体上に電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかと、を有する。
前記電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかは、本実施形態のバインダを含む。即ち、前記電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかは、本実施形態の液体組成物を用いて形成されている。
電極合材層には、前記正極活物質と、前記バインダとが含有されており、前記固体電解質、前記分散剤を含有することが好ましい。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記液体組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、液体組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
固体電解質層には、前記固体電解質と、前記バインダとが含有されており、前記分散剤を含有することが好ましい。なお、固体電解質層中に含まれている各成分は、上記液体組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、液体組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
本実施形態の電極では、本実施形態の液体組成物を使用しているので、ピール強度の高い電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかを電極基体上に良好に形成することができる。
【0086】
<電極基体(集電体)>
電極基体を構成する材料としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、電極基体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる電極基体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0087】
<電極の製造方法>
本実施形態の電極の製造方法は、本実施形態の液体組成物を、電極基体上に塗布する工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0088】
液体組成物の塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、インクジェット法、スプレーコート法、ディスペンサ方等の液体吐出方法;スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法などが挙げられる。これらの中でも、インクジェット法が特に好ましい。インクジェット法を用いると、電極を非接触、自由な形状で製造できる。その結果、電極の生産過程における型抜きによる活物質の損失が少ない等の効果がある。この際、液体組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上の液体組成物の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0089】
電極基体上の液体組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線又は電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように電極基体上の液体組成物を乾燥することで、電極基体上に電極合材層を形成し、電極基体と電極合材層とを備える電極を得ることができる。
【0090】
(固体電解質層と電極との積層体)
本実施形態に関する固体電解質層と電極との積層体は、電極と、電極上に形成された固体電解質層と、を有する。前記固体電解質層は、本実施形態の液体組成物を用いて形成されている。即ち、固体電解質層には、固体電解質と、分散剤と、前記バインダが含有されている。なお、固体電解質層中に含まれている各成分は、上記液体組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、液体組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
本実施形態の積層体では、本実施形態の液体組成物を使用しているので、ピール強度の高い固体電解質層を電極上に良好に形成することができる。
なお、固体電解質層は、電極上に形成する以外は、上述した電極の製造方法と同様にして、形成することができる。
【0091】
(収容容器)
本発明の収容容器は、上記した本発明の液体組成物が収容された収容容器である。
前記収容容器の形状、構造、及び大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0092】
以下では特にインクジェット法による電気化学素子における電極の製造方法について説明する。
【0093】
(電気化学素子の製造装置及び電気化学素子の製造方法)
本発明の電気化学素子の製造装置は、上記した本発明の収容容器と、インクジェットヘッド(「液体吐出ヘッド」と称することもある。)を用いて前記収容容器に収容された液体組成物を吐出する吐出手段と、を含み、必要に応じて、更にその他の構成を含む。
本発明の電気化学素子の電極の製造方法は、インクジェットヘッドを用いて上記した本発明の液体組成物を付与する付与工程を含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0094】
<付与手段及び付与工程>
前記付与手段は、例えばインクジェットヘッドを用いて前記収容容器に収容された液体組成物を付与する手段である。
前記付与工程は、例えばインクジェットヘッドを用いて前記液体組成物を付与する工程である。
前記付与により、対象物上に液体組成物を付与して、液体組成物層を形成することができる。
前記対象物(以下、「付与対象物」と称することがある。)としては、電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかを形成する対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極基体、電極合材層などが挙げられる。
【0095】
<その他の構成及びその他の工程>
前記電気化学素子の製造装置におけるその他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱手段などが挙げられる。
前記電気化学素子の製造方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱工程などが挙げられる。
【0096】
-加熱手段及び加熱工程-
前記加熱手段は、前記付与手段により付与された液体組成物を加熱する手段である。
前記加熱工程は、前記付与工程で付与された液体組成物を加熱する工程である。
前記加熱により、前記液体組成物層を乾燥させることができる。
【0097】
[基材に液体組成物を直接的に付与することで電極を形成する実施形態]
図1は、本実施形態に係る電極の製造方法の一例を示す模式図である。
液体組成物12Aは、液体吐出装置300のタンク307に貯蔵されており、タンク307からチューブ308を経由して液体吐出ヘッド306に供給される。なお、液体吐出装置の個数は、1個に限定されず、2個以上であってもよい。
電極を製造する際には、ステージ310上に、電極基体11を設置した後、液体吐出ヘッド306から、液体組成物12Aの液滴を電極基体11に吐出する。このとき、ステージ310が移動してもよく、液体吐出ヘッド306が移動してもよい。付与された液体組成物12Aは電極合材層及び/又は固体電解質層12となる。
また、液体吐出装置300は、液体組成物12Aが液体吐出ヘッド306から付与されていない際に、乾燥を防ぐため、ノズルをキャップする機構が設けられていてもよい。
【0098】
図2は、本実施形態の電極の製造方法を実現するための電極の製造装置の一例を示す模式図である。
【0099】
図2の電極の製造装置は、上記した液体組成物を用いて固体電解質層及び電極合材層の少なくともいずれかを製造する装置である。電極の製造装置は、付与対象物を有する印刷基材4上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する工程を含む吐出工程部10と、液体組成物層を加熱して電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかを形成する加熱工程を含む加熱工程部30を備える。電気化学素子の電極の製造装置は、印刷基材4を搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、吐出工程部10、加熱工程部30の順に印刷基材4をあらかじめ設定された速度で搬送する。
電極基体又は電極合材層などの付与対象物を有する印刷基材4の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0100】
吐出工程部10は、印刷基材4上に液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段であるインクジェット印刷法に応じた任意の印刷装置1aと、液体組成物を収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物を印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。
【0101】
収容容器1bは液体組成物7を収容し、吐出工程部10は、印刷装置1aから液体組成物7を吐出して、印刷基材4上に液体組成物7を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、電極の製造装置と一体化した構成であってもよいが、電気化学素子の電極の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、電気化学素子の電極の製造装置と一体化した収容容器や電気化学素子の電極の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
【0102】
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物7を安定して貯蔵及び供給できるものであれば任意に選択可能である。
【0103】
加熱工程部30は、図2に示すように、加熱装置3aを有し、液体組成物層に残存する溶媒を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する溶媒除去工程を含む。これにより電極合材層及び/又は固体電解質層を形成することができる。加熱工程部30は、溶媒除去工程を減圧下で実施してもよい。
【0104】
前記加熱装置3aとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱、IRヒーター、温風ヒーターなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0105】
また、加熱温度や時間に関しては、液体組成物7に含まれる溶媒の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0106】
図3は、本実施形態の電極の製造方法を実現するための電極の製造装置(液体吐出装置)の他の一例を示す模式図である。
【0107】
液体吐出装置300’は、ポンプ3101と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
【0108】
また、液体吐出装置300’は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ3101と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物を供給することも可能である。
【0109】
前記電極の製造装置を用いると、付与対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0110】
固体電解質層及び/又は電極合材層は、例えば、電気化学素子の構成の一部として、好適に用いることができる。前記電気化学素子における固体電解質層及び/又は電極合材層以外の構成としては、特に制限はなく、公知のものを適宜選択することができ、例えば、正極、負極、セパレータなどが挙げられる。
【0111】
本実施形態の電極の製造方法の一例を図4に示す。
電極100の製造方法は、液体吐出装置300’を用いて、電極基体11上に、液体組成物12Aを、順次吐出する工程を含む。
【0112】
まず、細長状の電極基体11を準備する。そして、電極基体11を筒状の芯に巻き付け、電極合材層12を形成する側が、図4中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、電極基体11は、図4中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の電極基体11の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、図1と同様にして、液体組成物12Aの液滴を、順次搬送される電極基体11上に吐出する。
【0113】
なお、液体吐出ヘッド306は、電極基体11の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されていてもよい。次に、液体組成物12Aの液滴が吐出された電極基体11は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、加熱機構309に搬送される。その結果、電極合材層12が形成され、電極100が得られる。その後、電極100は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
【0114】
加熱機構309は、電極基体11の上下のいずれか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
【0115】
加熱機構309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線ヒーター、ファンヒーター等が挙げられる。なお、加熱機構309は、複数個設置されていてもよい。また、重合のための紫外線による硬化装置が設置されていてもよい。
【0116】
また、電極基体11に吐出された液体組成物12Aは加熱されることが好ましく、加熱する際には、ステージにより加熱してもよいし、ステージ以外の加熱機構により加熱してもよい。加熱機構は、電極基体11の上下のいずれか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
【0117】
加熱温度は特に制限はない。加熱により液体組成物12Aが乾燥して電極合材層が形成される。
【0118】
また、図5のように、タンク307は、タンク307A、307Bに接続されたタンク313A、313Bからインクを供給してもよく、液体吐出ヘッド306は、複数のヘッド306A、306Bを有してもよい。
【0119】
[基材に液体組成物を間接的に付与することで電極を形成する実施形態]
図6~7は、本実施形態の電極の製造装置としての、付与手段としてインクジェット方式、及び転写方式を採用した印刷部の一例を示す構成図であり、図6は、ドラム状の中間転写体を用いた印刷部、図7は、無端ベルト状の中間転写体を用いた印刷部を示す構成図である。
図6に示した印刷部400’は、中間転写体4001を介して基材に液体組成物層を転写することで基材上に電極合材層及び/又は固体電解質層を形成する、インクジェットプリンタである。
【0120】
印刷部400’は、インクジェット部420、転写ドラム4000、前処理ユニット4002、吸収ユニット4003、加熱ユニット4004及び清掃ユニット4005を備える。
インクジェット部420は、複数のヘッド401を保持したヘッドモジュール422を備える。ヘッド401は、転写ドラム4000に支持された中間転写体4001に液体組成物を吐出し、中間転写体4001上に液体組成物層を形成する。各ヘッド401は、ラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの基材の記録領域の幅をカバーする範囲にノズルが配列されている。ヘッド401は、その下面に、ノズルが形成されたノズル面を有しており、ノズル面は、微小間隙を介して中間転写体4001の表面と対向している。本実施形態の場合、中間転写体4001は円軌道上を循環移動する構成であるため、複数のヘッド401は、放射状に配置される。
【0121】
転写ドラム4000は、圧胴621と対向し、転写ニップ部を形成する。前処理ユニット4002は、ヘッド401による液体組成物の吐出前に、例えば、中間転写体4001上に、液体組成物の粘度を高めるための反応液を付与する。吸収ユニット4003は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層から液体成分を吸収する。加熱ユニット4004は、転写前に、中間転写体4001上の液体組成物層を加熱する。液体組成物層を加熱することで、乾燥させて、電極合材層及び/又は固体電解質層を形成する。また、有機溶媒が除去され、基材への転写性が向上する。清掃ユニット4005は、転写後に中間転写体4001上を清掃し、中間転写体4001上に残留した液体組成物又はごみ等の異物を除去する。
圧胴621の外周面は、中間転写体4001に圧接しており、圧胴621と中間転写体4001との転写ニップ部を基材が通過するときに、中間転写体4001上の液体組成物層が基材に転写される。なお、圧胴621は、その外周面に基材の先端部を保持するグリップ機構を少なくとも1つ備えた構成としてもよい。
【0122】
図7に示した印刷部400’’は、中間転写ベルト4006を介して基材に液体組成物層を転写することで基材上に電極合材層及び/又は固体電解質層を形成する、インクジェットプリンタである。
印刷部400’’は、インクジェット部420に設けた複数のヘッド401から液体組成物の液滴を吐出して、中間転写ベルト4006の外周表面上に液体組成物層を形成する。中間転写ベルト4006に形成された液体組成物層は、加熱ユニット4007によって加熱され、乾燥することで電極合材層及び/又は固体電解質層を形成し、中間転写ベルト4006上で膜化する。
【0123】
中間転写ベルト4006が転写ローラ622と対向する転写ニップ部において、中間転写ベルト4006上の膜化した液体組成物層は基材に転写される。転写後の中間転写ベルト4006の表面は、清掃ローラ4008によって清掃される。
中間転写ベルト4006は、駆動ローラ4009a、対向ローラ4009b、複数(本例では4つ)の形状維持ローラ4009c、4009d、4009e、4009f、及び複数(本例では4つ)の支持ローラ4009gに架け渡され、図7中矢印方向に移動する。ヘッド401に対向して設けられる支持ローラ4009gは、ヘッド401からインク滴が吐出される際の中間転写ベルト4006の引張状態を維持する。
【0124】
<負極>
図8に、本実施形態の負極の一例を示す。
負極101は、負極基体111の片面に、負極合材層121が形成されている。負極100の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。負極基体111を構成する材料としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅などが挙げられる。
なお、負極合材層121は、負極基体111の両面に形成されていてもよい。
また、負極基体111と負極合材層121との間には、リチウムと合金化する金属を含む接着層を設けてもよく、前記接着層は、負極に設けられることが好ましい。
負極は上述した電極の製造装置を用いて製造することができる。
【0125】
<正極>
図9に、本実施形態の正極の一例を示す。
正極20は、正極基体21の片面に、正極合材層22が形成されている。正極20の形状としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。正極基体21を構成する材料としては、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、チタン、タンタルなどが挙げられる。
なお、正極合材層22は、正極基体21の両面に形成されていてもよい。
正極は上述した電極の製造装置を用いて製造することができる。
【0126】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、本発明の電極を有し、更に必要に応じてその他の構成を有する。
【0127】
前記電気化学素子は、正極と、負極と、固体電解質層又は電解液との他に、セパレータと、外装とを有することができる。前記電気化学素子は、正極、負極、及び固体電解質層の少なくとも1つを本発明の液体組成物を用いて形成したものである。
なお、固体電解質又はゲル電解質を用いる場合は、セパレータは不要である。
【0128】
電極基体(集電体)は、上記した電極基体(集電体)と同様である。
活物質、固体電解質、バインダ、及び分散剤は、上述した液体組成物における活物質、固体電解質、バインダ、及び分散剤と同様である。
【0129】
なお、本発明の電気化学素子は、本実施形態の電極を正極として用いたものであることが好ましい。また、以下では、電気化学素子の一例として、リチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0130】
<電極>
前記二次電池に使用し得る、上述した本実施形態の電極以外の電極としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の電極を用いることができる。具体的には、既知の製造方法を用いて電極基体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0131】
図10は、本実施形態の電極の一例を示す断面図である。電極35は、正極基体21と、正極基体21上に配される正極合材層22と、正極合材層22上に配される多孔質絶縁層30Bと、を有する。
図11は、本実施形態の電極の他の例を示す断面図である。図11で示すように、電極35が有する正極合材層22は、開口部23を有していてもよい。開口部の数は1つ以上であることが好ましく、複数であることが好ましい。また開口部は正極合材層22の表面から正極基体21の表面まで正極合材層22を貫通するものであってもよく、正極基体21の表面まで貫通していなくてもよい。
開口部は、空洞であっても、材料24が充填されていてもよい。このとき、材料24は1種単独であってもよいし、2種以上を混合したものであってもよい。いずれの場合であっても開口部に充填される材料は、正極合材層22を構成する材料とは、含まれる化合物又は組成が異なるものである。
開口部を有する電極合材層は、塗布制御が容易であることから、電極合材層形成手段としてのインクジェットを用いることで好適に作製することができる。
また、図10~11の電極において、正極基体21と正極合材層22との間には、リチウムと合金化する金属を含む接着層を設けてもよい。
【0132】
<電解質>
前記二次電池に使用し得る、上述した本実施形態の固体電解質層以外の電解質としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の固体電解質又は電解液を用いることができる。
【0133】
[電解液]
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。これらのうち、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましく、LiPFがよりに好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0134】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。これらの中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は必要に応じて適宜調節することができる。また、電解液には、既知の添加剤、例えばビニレンカーボネートなどを添加することができる。
【0135】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クラフト紙、ビニロン混抄紙、合成パルプ混抄紙等の紙;セロハン、ポリエチレングラフト膜、ポリプロピレンメルトブロー不織布等のポリオレフィン不織布;ポリアミド不織布、ガラス繊維不織布、マイクロポア膜などが挙げられる。
【0136】
<外装>
外装は、電極と、電解質と、セパレータ又は固体電解質又はゲル電解質とを封止することができれば特に制限はない。
【0137】
<電気化学素子の製造装置、電気化学素子の製造方法>
本実施形態の電気化学素子の製造装置は、上述した本発明の電極の製造装置により電極を製造する電極製造部を含み、必要に応じて、更にその他の構成を含む。
本実施形態の電気化学素子の製造方法は、上述した本発明の電極の製造方法により電極を製造する工程を含み、必要に応じて、更にその他の構成を含む。
【0138】
本実施形態の電気化学素子の製造装置及び電気化学素子の製造方法は、上述した電極製造部及び電極を製造する工程を本発明のものとする以外は、公知の手段及び方法を適宜選択することができる。
【0139】
本実施形態の電気化学素子は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。
【0140】
図12に、本実施形態に関する電気化学素子に用いる電極素子の一例を示す。
電極素子40は、負極15と正極25が、セパレータ30Bを介して、積層されている。ここで、正極25は、負極15の両側に積層されている。また、負極基体11には、引き出し線41が接続されており、正極基体21には、引き出し線42が接続されている。
固体電気化学素子である場合はセパレータ30Bを固体電解質又はゲル電解質に置き換えればよい。
【0141】
負極15は、負極基体11の両面に、負極合材層12が形成されている。
正極25は、正極基体21の両面に、正極合材層22が形成されている。
なお、電極素子40の負極15と正極25の積層数は、特に制限は無い。また、電極素子40の負極15の個数と正極25の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0142】
<電気化学素子>
図13に、本実施形態に関する電気化学素子の一例を示す。
電気化学素子1が液系の電気化学素子である場合は、電極素子40に、電解質水溶液又は非水電解質を注入することにより、電解質層51が形成されており、外装52により封止されている。電気化学素子1において、引き出し線41及び42は、外装52の外部に引き出されている。
電気化学素子1が固体電気化学素子である場合はセパレータ30Bを固体電解質又はゲル電解質に置き換えればよい。
【0143】
電気化学素子1の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプなどが挙げられる。
【0144】
<電気化学素子の用途>
電気化学素子の用途としては、特に制限はなく、例えば、車両等の移動体;スマートフォン、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等の電気機器などが挙げられる。これらの中でも、車両、電気機器が特に好ましい。
前記移動体としては、例えば、普通自動車、大型特殊自動車、小型特殊自動車、トラック、大型自動二輪車、普通自動二輪車などが挙げられる。
【0145】
[移動体]
図14に、本実施形態の電気化学素子の一例である全固体電池を搭載した移動体の一例を示す。移動体550は、例えば電気自動車である。移動体550はモーター551と、電気化学素子552と、移動手段の一例としての車輪553を備える。電気化学素子552は、上述した本実施形態の電気化学素子である。電気化学素子552は、モーター551に電力を供給することでモーター551を駆動する。駆動されたモーター551は、車輪553を駆動させることができ、その結果、移動体550は移動することができる。
以上の構成によれば、ピール強度に優れる電気化学素子からの電力により駆動するので、安全に移動体を移動させることができる。
移動体550は電気自動車に限られず、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HEV)、又はディーゼルエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な機関車やバイクであってもよい。又、移動体は、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用して走行可能な、工場等で使用される搬送用ロボットであってもよい。また、移動体は、その物体全体が移動せず、一部のみが移動するもの、例えば、工場の製造ラインに配される、電気化学素子のみ、又はエンジンと電気化学素子とを併用してアーム等が動作可能な組立ロボットであってもよい。
【実施例0146】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0147】
以下の実施例及び比較例において、作製した二次電池用正極のピール強度、裁断耐性、及び耐屈曲性は以下のようにして測定し、評価した。
【0148】
<ピール強度>
実施例及び比較例で作製した二次電池用正極を、長さ100mm、幅30mmの長方形に切り出して試験片とした。この試験片の正極合材層を有する側の面にセロハンテープ(JIS Z1522に準拠するもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度30mm/分で引っ張って50mm剥がしたときの応力を測定し、剥離距離10mm~50mmの平均値をピール強度とし、以下の基準により評価した。下記の評価のA~Cが合格レベルである。なお、ピール強度の値が大きいほど、密着性に優れることを意味する。
[評価基準]
A:ピール強度が200N/m以上
B:ピール強度が100N/m以上200N/m未満
C:ピール強度が50N/m以上100N/m未満
D:ピール強度が50N/m未満
【0149】
<裁断耐性>
実施例、比較例で作製した二次電池用正極を、長さ50mm、幅30mmの長方形にトムソン刃を有するトムソン型(ウイスタ社製、トリミングカッターC69)を用いて切り出した。この裁断時の切断面の欠け、剥がれの有無を目視観察し、以下の基準により評価した。なお、〇及び△が合格レベルである。
[評価基準]
〇:欠け、剥がれなし
△:1mm未満の大きさの欠け、剥がれあり
×:1mm以上の大きさの欠け、剥がれあり
【0150】
<耐屈曲性>
上記裁断耐性の評価で切り出した長さ50mm、幅30mmの長方形の試験片を、直径の異なる円柱の金属棒に巻き付け、正極合材層の割れ及び/又は集電体からの正極合材層の剥がれの発生の有無を目視観察し、正極合材層の割れ及び/又は剥がれの発生した金属棒の最小直径(mm)を記録し、以下の基準により評価した。なお、A~Cが合格レベルである。
[評価基準]
A:割れ及び/又は剥がれの発生した金属棒の直径が4mm未満
B:割れ及び/又は剥がれの発生した金属棒の直径が4mm以上6mm未満
C:割れ及び/又は剥がれの発生した金属棒の直径が6mm以上10mm未満
D:割れ及び/又は剥がれの発生した金属棒の直径が10mm以上
【0151】
(実施例1)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(P-1)の合成>
【化12】
【0152】
以下のようにして、バインダ(P-1)を合成した。
窒素気流下、200mLフラスコに脱気したトルエン30mLを加えて80℃に加熱した。ここに、ブチルメタクリレート35.00g(246.1mmol)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート5.07g(27.34mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)135.8mg(0.547mmol)からなる混合溶液を撹拌しながら1時間かけて滴下し、滴下終了後、80℃で8時間撹拌した。室温まで放冷した後、反応溶液をメタノール中に滴下し析出物をデカンテーションにより回収し、真空乾燥することでランダム共重合のバインダ(P-1)を16.46g得た。バインダ(P-1)のTg:22℃(DSC)、重量平均分子量:64000であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-1)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-1)の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【0153】
(実施例2)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-2)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン33mL、ブチルメタクリレート25.00g(175.8mmol)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート8.14g(43.95mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)109mg(0.440mmol)を用いて、バインダ(P-2)を14.46g得た。バインダ(P-2)のTg:16℃(DSC)、重量平均分子量:62800であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-2)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-2)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化13】
【0154】
(実施例3)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-3)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、ブチルメタクリレート26.00g(182.8mmol)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート14.52g(78.36mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)103mg(0.414mmol)を用いて、バインダ(P-3)を22.50g得た。バインダ(P-3)のTg:12℃(DSC)、重量平均分子量:65200であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-3)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-3)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化14】
【0155】
(実施例4)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-4)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、ブチルメタクリレート22.00g(154.7mmol)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート19.11g(103.1mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)128mg(0.516mmol)を用いて、バインダ(P-4)を21.02g得た。バインダ(P-4)のTg:10℃(DSC)、重量平均分子量:61900であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-4)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-4)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化15】
【0156】
(実施例5)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-5)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン30mL、ブチルメタクリレート13.00g(91.42mmol)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート16.94g(91.42mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)45mg(1.828mmol)を用いて重合反応を行った後、トルエンを減圧留去し、さらに120℃で真空乾燥する事により、バインダ(P-5)を21.02g得た。バインダ(P-5)のTg:1℃(DSC)、重量平均分子量:63500であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-5)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-5)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化16】
【0157】
(実施例6)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(P-6)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、ブチルメタクリレート20.00g(140.6mmol)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート22.11g(140.6mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)140mg(0.562mmol)を用いて重合反応を行った後、ヘキサンを用いて再沈精製し、さらに120℃で真空乾燥する事によりバインダ(P-6)を23.85g得た。バインダ(P-6)のTg:15℃(DSC)、重量平均分子量:64600であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-6)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-6)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化17】
【0158】
(実施例7)
<ポリ(エチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-7)の合成
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、エチルメタクリレート16.05g(140.6mmol)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート22.11g(140.6mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)140mg(0.562mmol)を用いて重合反応を行った後、ヘキサンを用いて再沈精製し、さらに120℃で真空乾燥することによりバインダ(P-7)を25.35g得た。バインダ(P-7)のTg:26℃(DSC)、重量平均分子量:55000であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-7)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-7)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化18】
【0159】
(実施例8)
<ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)(P-8)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート40.00g(254.4mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)632mg(2.54mmol)を用いて、バインダ(P-8)を32.25g得た。バインダ(P-8)のTg:14℃(DSC)、重量平均分子量:58000であった。
【化19】
【0160】
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-ジメチルアミノエチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-9)の合成
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、ブチルメタクリレート30.00g(211.0mmol)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート4.15g(26.38mmol)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート4.89g(26.38mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)131mg(0.528mmol)を用いてバインダ(P-9)を24.35g得た。バインダ(P-9)のTg:22℃(DSC)、重量平均分子量:64300であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-9)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-9)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化20】
【0161】
(実施例10)
<ポリ(ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-10)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート36.18g(254.4mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)632mg(2.54mmol)を用いて、バインダ(P-10)を25.46g得た。バインダ(P-10)のTg:-17℃(DSC)、重量平均分子量:61300であった。
【化21】
【0162】
(実施例11)
<ポリ(エチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-9)の合成
実施例1と同様の方法により、トルエン40mL、メチルメタクリレート14.08g(140.6mmol)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート22.11g(140.6mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)140mg(0.562mmol)を用いてバインダ(P-11)を25.35g得た。バインダ(P-11)のTg:40℃(DSC)、重量平均分子量:57200であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-11)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-11)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化22】
【0163】
(実施例12)
<ポリ(2-メトキシエチルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(P-12)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン33mL、2-メトキシエチルメタクリレート25.35g(175.8mmol)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート8.14g(43.95mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)109mg(0.440mmol)を用いて、バインダ(P-12)を23.76g得た。バインダ(P-12)のTg:-1℃(DSC)、重量平均分子量:62800であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(P-12)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(P-12)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化23】
【0164】
(比較例1)
<ポリメチルメタクリレート(比-1)の合成>
実施例1において、ブチルメタクリレート35.00g(246.1mmol)及び2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート5.07g(27.34mmol)を、メチルメタクリレート27.37g(273.44mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダ(比-1)を得た。バインダ(比-12)のTg:100℃(DSC)、重量平均分子量:45000であった。
【化24】
【0165】
(比較例2)
<ポリブチルメタクリレート(比-2)の合成>
実施例1において、ブチルメタクリレート35.00g(246.1mmol)及び2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート5.07g(27.34mmol)を、ブチルメタクリレート38.88g(273.44mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダ(比-2)を得た。バインダ(比-2)のTg:16℃(DSC)、重量平均分子量:64000であった。
【化25】
【0166】
(比較例3)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-メタクリレート)(比-3)の合成>
実施例1と同様の方法により、トルエン20mL、ブチルメタクリレート20.00g(140.6mmol)、メタクリル酸1.345g(15.63mmol)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)388mg(1.563mmol)を用いて、バインダ(比-3)を15.35g得た。バインダ(比-3)のTg:29℃(DSC)、重量平均分子量:23500であった。なお、バインダ(比-3)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(比-3)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。
【化26】
【0167】
(比較例4)
<ポリ(メチルメタクリレート-co-メタクリレート)(比-4)の合成>
実施例1において、ブチルメタクリレート35.00g(246.1mmol)及び2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート5.07g(27.34mmol)を、メチルメタクリレート17.6g(175.8mmol)及びメタクリル酸3.78g(43.95mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダ(比-4)を得た。バインダ(比-4)の式Tg:95℃(DSC)、重量平均分子量:48000であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(比-4)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(比-4)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化27】
【0168】
(比較例5)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-メチルメタクリレート)(比-5)の合成>
実施例1において、ブチルメタクリレート35.00g(246.1mmol)及び2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート5.07g(27.34mmol)を、ブチルチルメタクリレート35.00g(246.1mmol)及びメチルメタクリレート2.74g(27.34mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダ(比-5)を得た。バインダ(比-5)のTg:40℃(DSC)、重量平均分子量:56000であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(比-5)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(比-5)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化28】
【0169】
(比較例6)
<ポリ(デシルメタクリレート-co-2-ジエチルアミノエチルメタクリレート)(比-6)の合成>
実施例1と同様の方法により、デシルメタクリレート35.02g、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート19.10gを用いてバインダ(比-6)を得た。バインダ(比-6)のTg:-30℃(DSC)、重量平均分子量:57200であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(比-6)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(比-6)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化29】
【0170】
(比較例7)
<ポリ(ブチルメタクリレート-co-2-アミノエチルメタクリレート)(比-7)の合成>
実施例1と同様の方法により、ブチルメタクリレート25.00g、2-アミノエチルメタクリレート5.68gを用いてバインダ(比-7)を得た。バインダ(比-7)のTg:25℃(DSC)、重量平均分子量:60200であった。1H-NMRスペクトルから見積もったバインダ(比-7)の共重合比は、ほぼ仕込み通りのモル比であった。なお、バインダ(比-7)の式中の括弧の添え字は構成成分のモル比を表す。
【化30】
【0171】
(実施例13)
<正極用液体組成物の調製>
実施例1で合成したバインダ(P-1)5質量部、ニッケル系正極活物質(以下、「NCM」と称することがある)(株式会社豊島製作所製)100質量部、アセチレンブラック5質量部、分散剤としてSolsperse13940(日本ルーブリゾール株式会社製)2.5質量部、及びヘキサン酸メチル39質量部を混合し、超音波ホモジナイザーで処理することにより、正極用液体組成物を得た。
【0172】
<二次電池用正極の製造>
得られた正極用液体組成物を、集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、120℃のオーブンで塗膜を乾燥し、集電体上に平均厚みが80μmの正極合材層を有する二次電池用正極を得た。
得られた二次電池用正極について、上述した手法によりピール強度、裁断耐性、及び耐屈曲性を評価した。結果を表1に示した。また、実施例13のピール強度の測定結果を図15に示した。
【0173】
(実施例14~24及び比較例8~14)
実施例13において、表1~3に示すように、バインダの種類を変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例14~24及び比較例8~14の正極用液体組成物を作製し、二次電池用正極を作製した。
得られた各二次電池用正極について、上述した手法によりピール強度、裁断耐性、及び耐屈曲性を評価した。結果を表1~3に示した。
【0174】
(実施例25)
<固体電解質層用液体組成物の調製>
公知文献「J. Power Sources. 2018, 396, 33-40」に従い合成したアルジロダイト型硫化物固体電解質LiPSCl(LPSC)を用いて固体電解質を含む液体組成物を調整した。溶媒として、モレキュラーシーブ3Aでカールフィッシャー水分濃度計により20ppm以下に脱水したアニソール(東京化成工業株式会社製)を用いた。この溶媒150質量部に対し、合成した硫化物固体電解質100質量部、及び分散剤(Lubrizol社製、Solsperse 21000)1質量部、バインダ(P-1)5質量部からなる混合物を超音波ホモジナイザーで処理することにより、固体電解質層用液体組成物を得た。
【0175】
<固体電解質層の製造>
上記で得られた固体電解質層用液体組成物を、集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、120℃のオーブンで塗膜を乾燥し、集電体上に平均厚みが50μmの固体電解質層を形成した電極を得た。
【0176】
(実施例26)
実施例25において、バインダ(P-1)を、バインダ(P-9)に変更した以外は、実施例25と同様にして、集電体上に平均厚みが50μmの固体電解質層を形成した電極を得た。
【0177】
得られた各電極について、上述した手法によりピール強度、裁断耐性、及び耐屈曲性を評価した。結果を表4に示した。
【0178】
(比較例15)
実施例25において、バインダ(P-1)を、バインダ(比-7)に変更した以外は、実施例25と同様にして、固体電解質層を形成しようとしたが、バインダ(比-7)のポリマーにより固体電解質が変質してしまい、固体電解質層を形成できず、いずれの評価項目も測定できなかった。
【0179】
【表1】
【0180】
【表2】
【0181】
【表3】
【0182】
【表4】
【0183】
表1~2及び4の結果から、実施例13~26の液体組成物で作製した電極は、ピール強度、裁断耐性、及び耐屈曲性のすべてにおいて良好な結果が得られた。
これに対して、表3の結果から、比較例8~14の液体組成物で作製した電極は、裁断耐性及び耐屈曲性が劣る脆いものであった。
したがって、実施例1~12のバインダは、リチウムイオン電池を製造するための液体組成物として好適に用いられることがわかった。
【0184】
本実施形態に係る態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかを含有する液体組成物に用いられるバインダであって、
下記一般式(I)で表される構造単位と、下記一般式(II)で表される構造単位とを含み、
前記一般式(I)で表される構造単位(a)と前記一般式(II)で表される構造単位(b)との組成比(a:b)が、0モル%超:100モル%未満~100モル%以下:0モル%以上であることを特徴とするバインダである。
【化31】
ただし、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rは3級アミノ基を表す。
【化32】
ただし、前記一般式(II)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数1以上7以下のアルキレン基又は炭素及び酸素の合計原子数が1以上7以下のアルキレンオキサイド基を表す。Rは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
<2> 正極活物質及び固体電解質の少なくともいずれかと、バインダと、溶媒とを含有し、
前記バインダが前記<1>に記載のバインダであることを特徴とする液体組成物である。
<3> バインダのガラス転移温度が-15℃以上40℃以下である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<4> 前記正極活物質が、リチウム含有遷移金属酸化物及びリチウム含有遷移金属リン酸化合物から選択される少なくとも1種である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<5> 前記正極活物質がリチウムを含みかつ非含水性である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<6> 前記正極活物質の含有量が10質量%以上である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<7> 前記固体電解質が硫化物固体電解質である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<8> 25℃における粘度が200mPa・s以下である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<9> インクジェット用インク組成物である、前記<2>に記載の液体組成物である。
<10> 前記<2>から<9>のいずれかに記載の液体組成物が収容されたことを特徴とする収容容器である。
<11> 前記<10>に記載の収容容器と、
前記収容容器に収容された前記液体組成物を電極基体上に付与する付与手段と、
を有することを特徴とする電極の製造装置である。
<12> 電極基体上に、前記<2>から<9>のいずれかに記載の液体組成物を付与する付与工程を含むことを特徴とする電極の製造方法である。
<13> 前記液体組成物が付与された電極基体を加圧する工程を更に含む、前記<12>に記載の電極の製造方法である。
<14> 電極基体と、
前記電極基体上に、電極合材層及び固体電解質層の少なくともいずれかと、
を有し、
前記電極合材層及び前記固体電解質層の少なくともいずれかが請求項1に記載のバインダを含むことを特徴とする電極である。
<15> 前記<14>に記載の電極を有することを特徴とする電気化学素子である。
<16> 前記<15>に記載の電気化学素子を有することを特徴とするデバイスである。
<17> 前記<15>に記載の電気化学素子を有することを特徴とする移動体である。
【0185】
前記<1>に記載のバインダ、前記<2>から<9>のいずれかに記載の液体組成物、前記<10>に記載の収容容器、前記<11>に記載の電極の製造装置、前記<12>から<13>のいずれかに記載の電極の製造方法、前記<14>に記載の電極、前記<15>に記載の電気化学素子、前記<16>に記載のデバイス、及び前記<17>に記載の移動体のいずれかによると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0186】
1 電気化学素子
1a 印刷装置
1b 収容容器
1c 供給チューブ
3a 加熱装置
4 印刷基材
5 搬送部
7 液体組成物
10 吐出工程部
11 電極基体
11B 負極基体
12 電極合材層
12A 液体組成物
12B 負極合材層
15 負極
20 正極
21 正極基体
22 正極合材層
25 正極
30 加熱工程部
30B セパレータ
40 電極素子
41 引き出し線
42 引き出し線
51 電解質層
52 外装
100 電極
101 負極
111 負極基体
121 負極合材層
300 液体吐出装置
300’ 液体吐出装置
304 送り出しローラ
305 巻き取りローラ
306 液体吐出ヘッド
307 タンク
308 チューブ
309 加熱機構
310 ステージ
311 バルブ
312 バルブ
313 外部タンク
314 バルブ
3101 ポンプ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0187】
【特許文献1】特開2009-152180号公報
【特許文献2】特開2010-97946号公報
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