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特開2024-125190グラファイトシート、金属層付きグラファイトシート、樹脂層付きグラファイトシート、及びグラファイトシートの製造方法
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  • 特開-グラファイトシート、金属層付きグラファイトシート、樹脂層付きグラファイトシート、及びグラファイトシートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125190
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】グラファイトシート、金属層付きグラファイトシート、樹脂層付きグラファイトシート、及びグラファイトシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240906BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240906BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028613
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023032467
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023141085
(32)【優先日】2023-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】木村 貴英
(72)【発明者】
【氏名】石黒 孝太朗
(72)【発明者】
【氏名】森竹 慎治
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大地
(72)【発明者】
【氏名】中野 知恵
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】竹下 寛
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AB11
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136FA01
5F136FA03
5F136FA23
5F136FA51
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】優れた面間熱伝導率を有するグラファイトシートを提供する。
【解決手段】99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシートであって、黒鉛結晶網面が前記グラファイトシートに垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、グラファイトシート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシートであって、
黒鉛結晶網面の15%以上が前記グラファイトシートに垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、
グラファイトシート。
【請求項2】
厚みが100μm以下である、請求項1に記載のグラファイトシート。
【請求項3】
厚み方向熱伝導率が100W/m・K以上である、請求項1又は2に記載のグラファイトシート。
【請求項4】
99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシート(A)の少なくとも一方の表面に金属層(B)を有する金属層付きグラファイトシートであって、
前記グラファイトシート(A)は、黒鉛結晶網面の15%以上が垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、
金属層付きグラファイトシート。
【請求項5】
前記グラファイトシート(A)の厚みが100μm以下である、請求項4に記載の金属層付きグラファイトシート。
【請求項6】
前記金属層(B)の厚みが100μm以下である、請求項4又は5に記載の金属層付きグラファイトシート。
【請求項7】
前記金属層(B)が金属めっき層(b)である、請求項4又は5に記載の金属層付きグラファイトシート。
【請求項8】
前記金属めっき層(b)がニッケル、銅、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、白金、及び金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載の金属層付きグラファイトシート。
【請求項9】
99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシート(A)の少なくとも一方の表面に樹脂層(C)を有する樹脂層付きグラファイトシートであって、
前記グラファイトシート(A)は、黒鉛結晶網面の15%以上が垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、
樹脂層付きグラファイトシート。
【請求項10】
前記グラファイトシート(A)の厚みが100μm以下である、請求項9に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
【請求項11】
前記樹脂層(C)の厚みが50μm以下である、請求項9又は10に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
【請求項12】
前記樹脂層(C)が粘着剤層(c)である、請求項9又は10に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
【請求項13】
前記粘着剤層(c)がアクリル系粘着剤、エポキシ系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項12に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のグラファイトシート、請求項4若しくは5に記載の金属層付きグラファイトシート、又は請求項9若しくは10に記載の樹脂層付きグラファイトシート、のサーマルインターフェースマテリアルとしての使用。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のグラファイトシートの製造方法であって、
メソフェーズピッチをノズルから押し出してシート状にした後、不融化、炭素化及び黒鉛化を行う、グラファイトシートの製造方法。
【請求項16】
メソフェーズピッチをノズルから押し出してシート状にする際、ノズルのリップギャップ/リップ幅(X)と得られるシートの厚さ/幅(Y)の関係がX/Y<2である、請求項15に記載のグラファイトシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシート、金属層付きグラファイトシート、樹脂層付きグラファイトシート、及びグラファイトシートの製造方法の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICやCPUの高機能化が進んだ結果、電子機器の発熱密度が急速に上昇しており、ICやCPU等の発熱部材と面している部分の局所的な温度上昇による低温やけど等が問題視されるようになっている。そして、熱伝導率が高く、かつ熱伝導率の異方性に優れるグラファイトシートが注目されている。
層状の結晶構造を持つグラファイトからなるグラファイトシートは、面方向(X-Y方向、面内方向、水平方向)の熱伝導率は200~2000W/m・K程度と非常に高いが、厚み方向(Z方向、面間方向、面外方向)の熱伝導率は10~20W/m・K程度と低くなっている。
【0003】
特許文献1には、厚さが10~40μmのテープ状ピッチ系炭素フィルム、並びに紡糸用ピッチをスリット型ノズルから押出し、且つ押出された面状ピッチを巻取装置に牽引して巻取り、該ピッチを不融化し、炭化するテープ状ピッチ系炭素フィルムの製造方法であって、牽引により幅が減少しつつある該面状ピッチの幅方向両端面近傍に、且つスリット中央点を通るスリット長さ方向の面に垂直な仮想面に対称な方向に、該面状ピッチが十分に固化する前に、外向成分及び下向成分を有する気流を吹き付けてテープ状ピッチフィルムを製造し、これを不融化し、炭化することを特徴とするテープ状ピッチ系炭素フィルムの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、断面が異形でかつリーフレット配向構造を有し、熱伝導率が500W/m・K以上のピッチ系炭素繊維又はフィルムで構成され、前記炭素繊維又はフィルムが黒鉛化されている熱伝導性材料が開示されている。また、前記ピッチ系炭素繊維及びフィルムは、95重量%以上の光学異方性相を含み、かつ軟化点が200~320℃である光学異方性ピッチを、スリット状ノズルから溶融紡糸し、断面異形のピッチ系繊維又はフィルムを、不融化し、黒鉛化することにより製造できることも開示されている。
【0005】
特許文献3には、電気的及び熱的に異方性を有するテープ状黒鉛化フィルムを複数枚積層してなる異方性炭素-炭素複合材料、並びに電気的及び熱的に異方性を有するテープ状黒鉛化フィルムに有機バインダーを塗布したプリプレグを複数枚重合わせ、圧縮した後、不活性雰囲気中で加熱してバインダーの炭化及び/又は黒鉛化を行なうことを特徴とする異方性炭素-炭素複合材料の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、グラファイトシートと発熱体及び放熱フィンとの接触部の熱抵抗が大きくなり放熱効果を損ないやすいという問題点を解決したグラファイトシートとして、高分子フィルムをグラファイト化し熱伝導性を発現したグラファイト層の表面に粘着剤を複数の点状に一定の間隔をもって塗布したグラファイトシートが開示されている。
【0007】
特許文献5には、アスペクト比10以上のスロット型ダイからメソフェーズピッチを押し出し、ドロー比5以上で延伸することを特徴とするメソフェーズピッチベースのテープの製造方法が開示されている。
【0008】
非特許文献1には、メソフェーズピッチを押出したテープは、グラファイト層がテープ表面に平行に大きく配向したテクスチャーを持つようにすることができ、熱管理用途に適したグラファイト材料とすることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3-093613号公報
【特許文献2】特開平5-222620号公報
【特許文献3】特開平6-100367号公報
【特許文献4】特開2002-319653号公報
【特許文献5】国際公開第2001/002632号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lu,S.外4名、“Texture studies of carbon and graphite tapes by XRD texture goniometry”、Journal of Materials Science、2002年12月、第37巻、第24号、p.5283-5290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年のプロセスルール微細化及び高性能化に伴うCPU(Central Proessing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びSoC(System-on-a-Chip)の発熱密度の上昇が著しい。
しかし、従来のグラファイトシートは面内方向に高い熱伝導率を有するものの、面間方向の熱伝導率が低いため、厚膜化しても熱輸送量を増大させる効果が薄いという問題があった。
【0012】
本発明は、優れた面間熱伝導率を有するグラファイトシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、メソフェーズピッチを特定の押出条件でノズルから押し出してシート状にした後、不融化、炭素化及び黒鉛化を行うことにより、黒鉛結晶網面がシートの垂直方向に配向したグラファイトシートが得られることを知得し、本発明を完成させた。
【0014】
[1] 99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシートであって、
黒鉛結晶網面の15%以上が前記グラファイトシートに垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、
グラファイトシート。
[2] 厚みが100μm以下である、[1]に記載のグラファイトシート。
[3] 厚み方向熱伝導率が100W/m・K以上である、[1]又は[2]に記載のグラファイトシート。
[4] 99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシート(A)の少なくとも一方の表面に金属層(B)を有する金属層付きグラファイトシートであって、
前記グラファイトシート(A)は、黒鉛結晶網面の15%以上が垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、
金属層付きグラファイトシート。
[5] 前記グラファイトシート(A)の厚みが100μm以下である、[4]に記載の金属層付きグラファイトシート。
[6] 前記金属層(B)の厚みが100μm以下である、[4]又は[5]に記載の金属層付きグラファイトシート。
[7] 前記金属層(B)が金属めっき層(b)である、[4]~[6]のいずれかに記載の金属層付きグラファイトシート。
[8] 前記金属めっき層(b)がニッケル、銅、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、白金、及び金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[7]に記載の金属層付きグラファイトシート。
[9] 99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシート(A)の少なくとも一方の表面に樹脂層(C)を有する樹脂層付きグラファイトシートであって、
前記グラファイトシート(A)は、黒鉛結晶網面の15%以上が垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、
樹脂層付きグラファイトシート。
[10] 前記グラファイトシート(A)の厚みが100μm以下である、[9]に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
[11] 前記樹脂層(C)の厚みが50μm以下である、[9]又は[10]に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
[12]前記樹脂層(C)が粘着剤層(c)である、[9]~[11]のいずれかに記載の樹脂層付きグラファイトシート。
[13] 前記粘着剤層(c)がアクリル系粘着剤、エポキシ系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[12]に記載の樹脂層付きグラファイトシート。
[14] [1]~[3]のいずれかに記載のグラファイトシート、[4]~[8]のいずれかに記載の金属層付きグラファイトシート、又は[9]~[13]のいずれかに記載の樹脂層付きグラファイトシート、のサーマルインターフェースマテリアルとしての使用。
[15] [1]~[3]のいずれかに記載のグラファイトシートの製造方法であって、
メソフェーズピッチをノズルから押し出してシート状にした後、不融化、炭素化及び黒鉛化を行う、グラファイトシートの製造方法。
[16] メソフェーズピッチをノズルから押し出してシート状にする際、ノズルのリップギャップ/リップ幅(X)と得られるシートの厚さ/幅(Y)の関係がX/Y<2である、[15]に記載のグラファイトシートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、100W/mKを超える優れた面間熱伝導率を有するグラファイトシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例7で製造した積層体の断面図である。
図2】参考例2で製造した積層体の断面図である。
図3】参考例3で製造した積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0018】
本発明において「メソフェーズ」とは、偏光顕微鏡で観察した際に光学的異方性を示す相成分を指し、偏光顕微鏡で観察した際の光学的異方性相の面積分率を「光学的異方性含有量」と称する。
本発明において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
「SEM」は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)を意味する。
「GC-MS」は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(Gas Chromatography-Mass spectrometry)を意味し、GC-MSを実施する装置としての質量分析計(Mass Spectrometer:MS)を検出器としたガスクロマトグラフ装置を意味する場合がある。
「NMR」は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)を意味し、NMRによる分析方法であるNMR分析法又はNMRを実施する装置としての核磁気共鳴装置を意味する場合がある。
【0019】
[グラファイトシート]
本発明の一実施形態のグラファイトシートは、総質量の99.0質量%以上の黒鉛を含むグラファイトシートであって、黒鉛結晶網面の15%以上が前記グラファイトシートに垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している、グラファイトシートである。以下、本実施形態のグラファイトシートを「グラファイトシート(A)」という場合がある。
【0020】
グラファイトシート(A)の総質量に対する黒鉛の割合は、99.0質量%以上であれば特に限定されないが、99.3質量%以上が好ましく、99.5質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましく、実質的に黒鉛のみを含むことがいっそう好ましい。ここで「実質的に」とは、黒鉛以外の成分を検出しないことをいう。
グラファイトシート(A)の総質量に対する黒鉛の割合は、有機元素分析装置(CHNOS分析)及び蛍光X線分析(灰分分析)によって測定する。
【0021】
グラファイトシート(A)は、黒鉛結晶網面の15%以上がシートに垂直に配向し、かつ、前記黒鉛結晶網面が厚さ方向に連続的に表裏面を横断している。
黒鉛の結晶は六方晶系の層構造であり、炭素の正六角形網面が平行に積み重なったものである。熱は電子や原子の振動エネルギーとして伝わるため、自由電子によりエネルギーをすばやく伝えることができる黒鉛結晶網面と平行な方向の熱伝導性は、炭素原子の振動の伝播によりエネルギーを伝える黒鉛結晶網面と垂直な方向の熱伝導に比べて、極めて高いものとなっている。
グラファイトシートの炭素結晶網面の垂直方向への配向割合は、シート断面のSEM観察で得られる画像において、シート全体の断面積に占める垂直方向に配向した黒鉛網面の面積の割合から求められる。垂直方向への配向割合は、15%以上であれば特に限定されないが、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。
【0022】
グラファイトシート(A)の厚みは、特に限定されないが、100μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。グラファイトシート(A)の厚みの下限は、特に限定されないが、サーマルインターフェースマテリアルとして使用する際にCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit;画像処理装置)、SoC(System on a Chip;システム・オン・ア・チップ)等の発熱部材とヒートシンク、ベイパーチャンバー等の放熱部材との間に挟み込んで使用するため、発熱部材や放熱部材の表面の微細な凹凸を吸収できるよう、10μm以上であることが好ましい。したがって、グラファイトシート(A)の厚みは、10~100μmであることが好ましく、10~90μmであることがより好ましく、10~80μmであることがさらに好ましい。
グラファイトシート(A)の厚みは、マイクロゲージによって測定する。
【0023】
グラファイトシート(A)の厚み方向熱伝導率(面間熱伝導率)は100W/m・Kを超えることが好ましく、200W/m・K以上であることがより好ましく、300W/m・K以上であることがさらに好ましい。グラファイトシート(A)の厚み方向熱伝導率の上限は、特に限定されないが、通常、3000W/m・K以下である。
グラファイトシート(A)の厚み方向熱伝導率は、スポット周期加熱放射測温法によって測定する。
【0024】
<金属層付きグラファイトシート>
本発明のグラファイトシートの別の実施形態は、前記グラファイトシート(A)の少なくとも一方の表面に金属層(以下「金属層(B)」ともいう。)を有する金属層付きグラファイトシートである。
【0025】
前記金属層(B)は、金属を99.0質量%以上含むことが好ましく、99.5質量%以上含むことがより好ましく、99.0質量%以上含むことがさらに好ましい。
前記金属は、特に特に限定されないが、例えばチタニウム、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、白金、及び金が挙げられる。前記金属としては、ニッケル、銅、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、白金、及び金からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、銅、銀、白金、及び金からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。前記金属は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。金属を2種以上併用する場合、例えば、合金としてもよいし、二層以上の構成としてもよい。
【0026】
前記金属層(B)は、金属めっき層(以下「金属めっき層(b)」ともいう。)であることが好ましい。金属めっき層(b)は金属を従来公知の方法で鍍金して形成される層である。
金属めっき層(b)は、金属を99.0質量%以上含むことが好ましく、99.5質量%以上含むことがより好ましく、99.7質量%以上含むことがさらに好ましい。
前記金属としては、ニッケル、銅、亜鉛、パラジウム、銀、スズ、白金、及び金からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、銅、銀、白金、及び金からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。前記金属は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。金属を2種以上併用する場合、例えば、合金としてもよいし、二層以上の構成としてもよい。
【0027】
前記金属層(B)又は前記金属めっき層(b)に含まれる金属の定性・定量分析は、蛍光X線分析法によって行う。
【0028】
前記金属層(B)又は前記金属めっき層(b)の厚みは、特に限定されないが、100μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。通常、前記金属層(B)及び前記金属めっき層(b)の厚み方向の熱伝導率はグラファイトシート(A)の熱伝導率よりも低いため、前記金属層(B)又は前記金属めっき層(b)の厚みは薄い方が好ましい。前記金属層(B)又は前記金属めっき層(b)の厚みの下限は、特に限定されないが、通常0.1μm以上である。したがって、前記金属層(B)又は前記金属めっき層(b)の厚みは、0.1~100μmであることが好ましく、0.1~90μmであることがより好ましく、0.1~80μmであることがさらに好ましい。
【0029】
<樹脂層付きグラファイトシート>
本発明のグラファイトシートのさらに別の実施形態は、前記グラファイトシート(A)の少なくとも一方の表面に樹脂層(以下「樹脂層(C)」ともいう。)を有する樹脂層付きグラファイトシートである。
【0030】
前記樹脂層(C)は、後述する無機粒子を実質的に含有しない場合、樹脂を99.0質量%以上含むことが好ましく、99.5質量%以上含むことがより好ましく、99.7質量%以上含むことがさらに好ましい。
前記樹脂は、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリ乳酸、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂が挙げられる。前記樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、耐熱性の観点から、前記樹脂としてシリコーン樹脂が好ましい。すなわち、前記樹脂層(C)はシリコーン樹脂を含むことが好ましい。シリコーン樹脂とは、シリコーン系レジン、シリコーン系オイル、シリコーン系粘着剤、シリコーン系ゴム等であり、従来公知のものを使用することができる。
【0031】
前記樹脂層(C)は、熱伝導性向上のため、無機粒子を含有していてもよい。無機粒子は、分散性や熱伝導性の観点から、銀、銅、スズ、ガリウムなどの金属とこれらを含む合金、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、窒化ホウ素などのセラミック粒子から選択することができる。中でも、熱伝導性の観点から、無機粒子として銀を含むことが好ましい。なお、無機粒子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
無機粒子の形状やサイズは特に限定されないが、平均粒径0.1μm以上10μm以下、かつ、比表面積0.1m/g以上10m/g以下であることが好ましく、より好ましくは平均粒径0.2μm以上5μm以下、かつ、比表面積0.2m/g以上5m/g以下である。
無機粒子の平均粒径が10μm以下であると、表面に無機粒子が突出しにくく、前記グラファイトシートの凹凸を埋めやすい傾向にあり、接着性及び熱伝導性の低下を抑制できる。一方、無機粒子の平均粒径が1μm以上であると、必要な熱伝導パス数の増加を抑えることができ、厚み方向に上から下までつながる確率が大きくなり、熱伝導性が十分となる。
また、無機粒子の比表面積が0.1m/g以上であると、無機粒子同士が接触又は接合しやすくなる傾向があり、熱伝導性の低下を抑制できる。一方、無機粒子の比表面積が10m/g以下であると、樹脂中での分散性の低下を抑制したり、樹脂層(C)を形成する組成物の粘度の上昇を抑えたりできるため、樹脂層(C)中の無機粒子の充填量を増やすことができ、結果として熱伝導性が良好となる。
なお、無機粒子の平均粒径は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡による直接観察にて、あるいは無機粒子の懸濁液に対してレーザ回折/散乱法、動的光散乱法などの光を用いる方法にて測定することができる。また、無機粒子の比表面積は、BET法に代表されるガス吸着法や水銀圧入法などで測定することができる。
【0033】
無機粒子は樹脂等の有機材料との相溶性を高めるため、表面処理されていてもよい。表面処理にはコーティング、カップリング処理、複合化などの方法がある。処理剤の材質としてはシランカップリング剤、脂肪酸、ワックスなどが挙げられ、使用する無機粒子と樹脂の性質に応じて選択される。
【0034】
前記樹脂層(C)が無機粒子を含有する場合、熱伝導率向上の観点から、無機粒子を40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、60質量%以上含むことがさらに好ましい。また、増粘によるプロセス適性の観点から、無機粒子は99質量%以下含むことが好ましく、95質量%以下含むことがより好ましく、90質量%以下含むことがさらに好ましい。かかる場合、前記樹脂層(C)は、樹脂を1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことがさらに好ましい。また、前記樹脂層(C)は、樹脂を60質量%以下含むことが好ましく、50質量%以下含むことがより好ましく、40質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0035】
前記樹脂層(C)は、粘着剤層(以下「粘着剤層(c)」ともいう。)であることが好ましい。粘着剤層(c)はアクリル系粘着剤、エポキシ系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、耐熱性の観点からシリコーン系粘着剤を含むことがより好ましい。
なお、前記アクリル系粘着剤、前記エポキシ系粘着剤及び前記シリコーン系粘着剤は、特に制限はなく、従来公知のものを使用することができる。
【0036】
前記樹脂層(C)又は前記粘着剤層(c)に含まれる樹脂又は粘着剤分析は、GC-MS及びNMRなどによって行う。
【0037】
前記樹脂層(C)又は前記粘着剤層(c)の厚みは、特に限定されないが、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。通常、前記樹脂層(C)及び前記粘着剤層(c)の厚み方向の熱伝導率はグラファイトシート(A)の熱伝導率よりも低いため、前記樹脂層(C)又は前記粘着剤層(c)の厚みは薄い方が好ましい。前記樹脂層(C)又は前記粘着剤層(c)の厚みの下限は、特に限定されないが、通常0.1μm以上である。したがって、前記樹脂層(C)又は前記粘着剤層(c)の厚みは、0.1~50μmであることが好ましく、0.1~40μmであることがより好ましく、0.1~30μmであることがさらに好ましい。
なお、前記樹脂層(C)又は前記粘着剤層(c)の厚みは、少なくとも一方の樹脂層(C)又は粘着剤層(c)の厚みが上記範囲であればよいが、グラファイトシート(A)の両面に樹脂層を設けた場合には、表裏合計の厚みが上記範囲であることが特に好ましい。
【0038】
前記樹脂層(C)は、グラファイトシートの少なくとも一方の表面に形成したい樹脂を塗布して形成する。前記樹脂層(C)の形成方法は特に限定されず、例えば、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式のほか、公知のプレス機等による圧着などを用いることができ、形成したい樹脂層(C)の厚みや塗布する樹脂の物性等によって適した手法を選択すればよい。また、塗布量は、形成したい樹脂層(C)の厚みや面積等によって適宜調整すればよい。
乾燥及び硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えば、通常、50~180℃で10~3600秒間、好ましくは100~150℃で60~1800秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
なお、硬化反応は、半硬化反応であってもよい。つまり、得られる樹脂層が、いわゆるBステージ状態(半硬化状態)であってもよい。
【0039】
[サーマルインターフェースマテリアル]
本発明のグラファイトシート、金属層付きグラファイトシート、及び樹脂層付きグラファイトシートは、厚み方向の熱伝導性に優れていることから、サーマルインターフェースマテリアルとしての使用に特に適している。
【0040】
[グラファイトシートの製造方法]
前記グラファイトシート(A)は、メソフェーズピッチをノズルから押し出してシート状にした後、不融化、炭素化及び黒鉛化を行うことにより、製造できる。不融化、炭素化及び黒鉛化の条件は当業者が適宜選択することができ、例えば特開平3-093613号(特許文献1)に記載の条件で実施することができる。具体的には、例えば空気中で200~400℃の温度で不融化処理を行った後、不活性ガス中で800~1200℃で炭素化処理を行い、次いで不活性ガス中で1500~2800℃の温度で黒鉛化処理を行うことで、グラファイトシートが得られる。不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン、クリプトン、キセノン等を利用でき、空気から製造でき安価であることから窒素が好ましい。
メソフェーズピッチをノズルから押し出してシート状にする際、ノズルのリップギャップ/リップ幅(X)と得られるシートの厚さ/幅(Y)の関係がX/Y<2となることが好ましく、X/Y<1.8であることがより好ましく、X/Y<1.6であることがさらに好ましい。
【実施例0041】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0042】
<評価方法>
(1)面間熱伝導率
株式会社ベテルのサーモウェーブアナライザーTA3を用いて、周波数変化法モードで測定した面間熱拡散率に、黒鉛の密度(2.0g/cm)と比重(0.71J/gK)を乗じて面間熱伝導率を算出した。
(2)総熱抵抗
接触熱抵抗測定には、「樹脂材料熱抵抗測定装置」((株)日立テクノロジーアンドサービス社製)又は「T3Ster DynTIM(Mentor Graphics社製)」を使用した。
測定は、10~15mm角のサンプルを加熱した加熱軸と冷却軸の間に挟み、任意の圧力をかけることでサンプルに熱流を発生させ、その時の熱抵抗Rを測定する。実施例5及び6で作成した樹脂層付きグラファイトシート、参考例1で作成した樹脂層付き銅箔は、加熱軸を100℃に加熱し、20Nの圧力をかけて測定した。実施例7、参考例2及び3で作成した積層体は、加熱軸を80℃に加熱し、圧力が200KPaになるようギャップを調整して測定した。
(3)厚み
厚みは、上述の「樹脂材料熱抵抗測定装置」又は「T3Ster DynTIM」に付随する寸法測定器(ロードセル)にて計測した。対象物を上下の基板に挟む構造体においては、別途厚みゲージにて測定した基板の厚みを差し引き、対象物の厚みを得た。
【0043】
<グラファイトシートの製造>
[実施例1]
メソフェーズピッチを表1に記載のリップ寸法を有するノズルから押し出して、表1に記載の寸法のシート状にした後、空気中で不融化処理した後、窒素ガス中で1000℃まで加熱して炭素化処理を行い、次いで窒素ガス中で2500℃に加熱して黒鉛化処理を行って、グラファイトシートを得た。得られたグラファイトシートの面間熱伝導率を表1に示す。
【0044】
[比較例1、2及び実施例2~4]
実施例1において、リップ寸法とシート寸法を表1の通り変えた以外は、実施例1と同様にしてグラファイトシートを得た。得られたグラファイトシートの面間熱伝導率を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
<樹脂層付きグラファイトシートの製造>
[実施例5]
実施例4において得られたグラファイトシートの表裏面(両面)に、それぞれ0.001gずつ、酸化亜鉛を含有するシリコーン系オイル(G747:信越化学工業株式会社製)をはかり取った。次いで、「樹脂材料熱抵抗測定装置」((株)日立テクノロジーアンドサービス社製)のサンプルセット部に挟み、荷重をかけることでグラファイトシートに圧着させ、樹脂層を作成することで、10mm角の樹脂層付きグラファイトシートを得た。得られた樹脂層付きグラファイトシートの樹脂層の厚さ、樹脂層付きグラファイトシートの総熱抵抗を表2に示す。
【0047】
[実施例6]
使用する樹脂をシリコーン系レジン(TSE3033:モメンティブ社製)に変更した以外は、実施例5と同様にして、10mm角の樹脂層付きグラファイトシートを得た。得られた樹脂層付きグラファイトシートの樹脂層の厚さ、樹脂層付きグラファイトシートの総熱抵抗を表2に示す。
【0048】
[参考例1]
実施例4において得られたグラファイトシートを銅箔(C1020P-0.03-□120:アズワン社製)0.033mmに変更した以外は、実施例6と同様にして、サンプル(樹脂層付き銅箔)を得た。得られた樹脂層付き銅箔の樹脂層の厚さ、樹脂層付き銅箔の総熱抵抗を表2に示す。
【0049】
【表2】
なお、実施例5、実施例6及び参考例1の樹脂層は、表裏とも同一の厚さである。
【0050】
<樹脂層付きグラファイトシートの実装例>
[実施例7]
厚さ0.725mm、15mm角のシリコン基板2枚と実施例4で得られたグラファイトシート(大きさ15mm角)を用い、グラファイトシートの表裏面(両面)に銀粉(AgC-156-01:福田金属箔粉工業)及びシリコーン系レジンから構成される樹脂(銀粉:レジンの質量比=75:25)を塗布し、100℃、90N、15分間、真空プレスすることにより、図1に示す積層体を得た。得られた積層体に対して、T3Ster DynTIM(Mentor Graphics社製)を用い、シリコン基板を含む積層体としての総熱抵抗を計測した。その後、シリコン基板のみの熱抵抗を同じ装置で計測し、この値を差し引くことで、上下シリコン基板との界面熱抵抗成分を含む、サーマルインターフェースマテリアル(TIM)としての実効熱抵抗を求めた。結果を表3に示す。
【0051】
[参考例2]
実施例4において得られたグラファイトシートを銅箔(C1020P-0.03-□120:アズワン社製)0.033mmに変更した以外は、実施例7と同様にして、図2に示す積層体を得た。得られた積層体に対して実施例7と同様にして、サーマルインターフェースマテリアル(TIM)としての実効熱抵抗を求めた。結果を表3に示す。
【0052】
[参考例3]
実施例7と同一のシリコン基板2枚と樹脂(銀粉:レジンの質量比=75:25)を用い、樹脂層をシリコン基板に塗布し、100℃、90N、15分間、真空プレスすることにより、図3に示す積層体を得た。得られた積層体に対して実施例7と同様にして、サーマルインターフェースマテリアル(TIM)としての実効熱抵抗を求めた。結果を表3に示す。
【0053】
表3において、TIM層厚さとは、得られた積層体の厚み計測値から上下のシリコン基板の厚さを引いて求めた値である。実効熱抵抗とTIM層厚さの2つの値から、下記式1にて、TIM材料の性能指標となる熱伝導率換算値を求めた。
【0054】
(熱伝導率換算値[W/m・K])
=1/(実効熱抵抗[cm・K/W]/(TIM層厚さ[μm])×0.01(式1)
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように本発明におけるグラファイトシートを含むサーマルインターフェースマテリアル(TIM)は、基板に実装された際も高い熱伝導(低い実効熱抵抗)を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のグラファイトシートは、性能向上に伴い発熱量及び熱密度が著しく増大しているCPU、GPU、SoC等のサーマルインターフェースマテリアル(TIM)として有用である。
【符号の説明】
【0058】
101 シリコン基板
102 樹脂層
103 グラファイトシート
203 銅箔
図1
図2
図3