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特開2024-125438放射性金属錯体及びその製造方法、並びに放射性金属捕捉剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125438
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】放射性金属錯体及びその製造方法、並びに放射性金属捕捉剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/04 20060101AFI20240911BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240911BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20240911BHJP
   C07F 7/00 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
A61K51/04 100
A61K51/04 200
B01J20/22 B
C07F5/00 E
C07F7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127632
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】細田 大
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲史
(72)【発明者】
【氏名】横藤田 敏之
(72)【発明者】
【氏名】今井 智之
(72)【発明者】
【氏名】岸本 聡
(72)【発明者】
【氏名】大塚 祐太
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4G066
4H048
4H049
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA13
4C084ZB26
4C085HH03
4C085KA09
4C085KB07
4C085KB12
4C085KB56
4C085LL18
4G066AB05B
4G066AB07B
4G066AB10B
4G066AB12B
4G066AB15B
4G066CA12
4G066CA46
4G066DA07
4G066GA11
4H048AA01
4H048VA70
4H048VB10
4H049VN06
4H049VP01
4H049VQ92
4H049VQ93
4H049VR42
4H049VR52
4H049VU25
4H049VW01
4H049VW02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】医薬用途において安定的に存在できる放射性金属錯体及びその製造方法の提供。
【解決手段】放射性金属元素と、下記式(1)で表される配位子とを有し、放射性金属元素が、89Zr又は225Acである、放射性金属錯体。

式(1)中、Q~Qは、式(A1)等で表される基からなる群から選ばれる基。Z~Zは単結合又は連結基。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性金属元素と、下記式(1)で表される化合物に由来する配位子とを有し、
前記放射性金属元素が、89Zr又は225Acである、放射性金属錯体。
【化1】

[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
、Q、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、Q、及びQの少なくとも3個は、群Aから選ばれる基である。
nが2又は3である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Q及びQは、互いに結合して、又は、2価の連結基を介して環構造を形成していてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)で表される基からなる群である。
【化2】

(式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)中、R~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
、Z、Z、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
nが2又は3である場合、複数存在するZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Rは、置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。ただし、nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基である。
(群B)
群Bは、下記式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)で表される基からなる群である。
【化3】

(式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)中、R23~R28は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
nが2又は3である場合、複数存在するRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物におけるRが、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である、請求項1に記載の放射性金属錯体。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(1A)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の放射性金属錯体。
【化4】

[式(1A)中、Q、Q、Q、Q、Z、Z、Z、Z、及びRは、前記と同義である。]
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の放射性金属錯体。
【化5】

[式(2)中、R、Z、及びQは、前記と同義である。
29~R37は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
1A、Z2A、及びZ3Aは、-CH-又は-C(=O)-を表す。]
【請求項5】
前記式(2)で表される化合物が、下記式(3)で表される化合物である、請求項4に記載の放射性金属錯体。
【化6】

[式(3)中、R、Z1A、Z2A、Z3A、Z4A、及びR29~R37は、前記と同義である。
38~R40は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の放射性金属錯体の製造方法であって、
89Zr又は225Acを付与する反応剤と前記式(1)で表される化合物とを混合して反応条件を与える標識工程を含む、放射性金属錯体の製造方法。
【請求項7】
前記反応剤が、以下のいずれかである、請求項6に記載の放射性金属錯体の製造方法。
(i)89Zrの塩化物
(ii)225Acの塩化物
【請求項8】
前記標識工程が、40℃以下で実施される、請求項6又は7に記載の放射性金属錯体の製造方法。
【請求項9】
前記標識工程が、緩衝剤を含有する反応溶媒の存在下で実施され、
前記反応剤が89Zrを付与する反応剤であるとき、前記反応溶媒のpHが2.0~6.0であり、
前記反応剤が225Acを付与する反応剤であるとき、前記反応溶媒のpHが2.0~7.5である、請求項6~8のいずれか一項に記載の放射性金属錯体の製造方法。
【請求項10】
下記式(1)で表される化合物からなる放射性金属捕捉剤であって、
前記放射性金属捕捉剤の捕捉対象が、89Zr又は225Acである、放射性金属捕捉剤。
【化7】

[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
、Q、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、Q、及びQの少なくとも3個は、群Aから選ばれる基である。
nが2又は3である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Q及びQは、互いに結合して、又は、2価の連結基を介して環構造を形成していてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)で表される基からなる群である。
【化8】

(式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)中、R~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
、Z、Z、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
nが2又は3である場合、複数存在するZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Rは、置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。ただし、nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基である。
(群B)
群Bは、下記式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)で表される基からなる群である。
【化9】

(式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)中、R23~R28は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
nが2又は3である場合、複数存在するRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性金属錯体及びその製造方法、並びに放射性金属捕捉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を利用するがんの治療又は診断において、放射性核種を病巣へ効率よく届けるために、がん細胞と親和性のある構造体(抗体、ペプチド等)と、放射性核種とを結合させて得られる連結体を用いる手法が知られている。このような連結体に用いられる連結部位としては、がん細胞と親和性のある構造体と化学結合させることが可能な置換基部位と、放射性核種と安定な錯体を形成することが可能なキレート部位とを有する構造の多座配位子が好適である(例えば、特許文献1、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-515596号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem.Soc.Rev.,2014,43,260-290.
【非特許文献2】Bioconjugate Chem.2017,28,2211-2223.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射性核種としてのα線源及びβ線源はがんの治療に使用され、放射性核種としてのγ線源はがんの診断に使用され得る。中でも、89Zr及び225Acは、核医学セラノスティクス(radiotheranostics)を実現する放射性核種の組合せとして、着目されている。
【0006】
ところで、半減期が3日である89Zr及び半減期が10日である225Acは、水溶液中において、それぞれ異なる価数を取り、またイオン半径も大きく異なるため、同一構造の配位子からなる89Zr錯体及び225Ac錯体のどちらか一方は安定性が低くなる場合がある。そのため、89Zr及び225Acのいずれにも配位する配位子が求められている。また、セラノスティクス用途において、89Zr錯体又は225Ac錯体から放射性金属元素が解離してしまうと、これらの放射性金属元素によって、体内の組織又は細胞が無差別に破壊されるおそれがある。そのため、89Zr錯体又は225Ac錯体においては、医薬用途において安定的に存在できることが求められている。
【0007】
本発明は、89Zr又は225Acの放射性金属元素と錯形成した後に、医薬用途において安定的に存在できる放射性金属錯体及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、89Zr又は225Acの放射性金属元素を捕捉対象とする放射性金属捕捉剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ピリジンカルボン酸誘導体又はピリミジンカルボン酸誘導体を含む部分構造を3つ以上有する特定の化合物が、89Zr及び225Acの両方に配位することが可能であること、及び、89Zr又は225Acを有する錯体が、医薬用途において利用し得る組成で安定的に存在できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一側面は、放射性金属錯体に関する。当該放射性金属錯体は、放射性金属元素と、下記式(1)で表される化合物に由来する配位子とを有する。放射性金属元素は、89Zr又は225Acである。
【化1】

[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
、Q、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、Q、及びQの少なくとも3個は、群Aから選ばれる基である。
nが2又は3である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Q及びQは、互いに結合して、又は、2価の連結基を介して環構造を形成していてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)で表される基からなる群である。
【化2】

(式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)中、R~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
、Z、Z、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
nが2又は3である場合、複数存在するZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Rは、置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。ただし、nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基である。
(群B)
群Bは、下記式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)で表される基からなる群である。
【化3】

(式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)中、R23~R28は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
nが2又は3である場合、複数存在するRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0010】
式(1)で表される化合物におけるRは、好ましくは置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である。
【0011】
式(1)で表される化合物は、好ましくは下記式(1A)で表される化合物である。
【化4】

[式(1A)中、Q、Q、Q、Q、Z、Z、Z、Z、及びRは、前記と同義である。]
【0012】
式(1)で表される化合物は、好ましくは下記式(2)で表される化合物である。
【化5】

[式(2)中、R、Z、及びQは、前記と同義である。
29~R37は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
1A、Z2A、及びZ3Aは、-CH-又は-C(=O)-を表す。]
【0013】
式(2)で表される化合物は、好ましくは下記式(3)で表される化合物である。
【化6】

[式(3)中、R、Z1A、Z2A、Z3A、Z4A、及びR29~R37は、前記と同義である。
38~R40は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【0014】
本発明の他の一側面は、放射性金属錯体の製造方法に関する。当該放射性金属錯体の製造方法は、89Zr又は225Acを付与する反応剤と前記式(1)で表される化合物とを混合して反応条件を与える標識工程を含む。
【0015】
反応剤は、好ましくは以下のいずれかである。
(i)89Zrの塩化物
(ii)225Acの塩化物
【0016】
標識工程は、好ましくは40℃以下で実施される。
【0017】
標識工程は、好ましくは緩衝剤を含有する反応溶媒の存在下で実施される。ここで、反応剤が89Zrを付与する反応剤であるとき、反応溶媒のpHが2.0~6.0であり、反応剤が225Acを付与する反応剤であるとき、反応溶媒のpHが2.0~7.5である。
【0018】
本発明の他の一側面は、放射性金属捕捉剤に関する。当該放射性金属捕捉剤は、下記式(1)で表される化合物からなる。放射性金属捕捉剤の捕捉対象は、89Zr又は225Acである。
【化7】

[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
、Q、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、Q、及びQの少なくとも3個は、群Aから選ばれる基である。
nが2又は3である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Q及びQは、互いに結合して、又は、2価の連結基を介して環構造を形成していてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)で表される基からなる群である。
【化8】

(式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)中、R~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
、Z、Z、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
nが2又は3である場合、複数存在するZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Rは、置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。ただし、nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基である。
(群B)
群Bは、下記式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)で表される基からなる群である。
【化9】

(式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)中、R23~R28は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
nが2又は3である場合、複数存在するRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、89Zr又は225Acの放射性金属元素と錯形成した後に、医薬用途において安定的に存在できる放射性金属錯体及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、89Zr又は225Acの放射性金属元素を捕捉対象とする放射性金属捕捉剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本明細書において、個々に特に説明がない限り、「置換基」は4種類に分類される。
第一は、ターゲティング分子と親和性のある構造体を有する基である(以下、「置換基A」という場合がある。)。
第二は、ターゲティング分子と親和性のある構造体と架橋可能な部位を有する基である(以下、「置換基B」という場合がある。)。
第三は、有機化学(有機配位子)の分野で一般的に取り得る基である(以下、「置換基C」という場合がある。)。
第四は、単環式の複素環を含む基であって、当該複素環上に金属元素に配位可能な基を有する基である(以下、「置換基D」という場合がある。)。
【0022】
置換基A及び置換基Bにおける「ターゲティング分子と親和性のある構造体」とは、細胞の特定の組織又は表面に対して選択的に相互作用する構造体を意味する。例えば、抗原と親和性のある構造体であり、より好ましくは、がん細胞に由来する抗原と親和性のある構造体である。「抗原」とは、生体内において免疫反応を引き起こさせる物質の総称を意味する。「抗原」は、特に限定されるものではないが、例えば、がん細胞に由来する抗原が挙げられる。ターゲティング分子と親和性のある構造体の例としては、抗体、抗体フラグメント(「抗体断片」という場合がある)、ペプチド鎖、環状ペプチド、酵素、核酸塩基含有成分(例えば、オリゴヌクレオチド、DNAベクター、RNAベクター、アプタマー)等が挙げられる。
【0023】
置換基Aは、「ターゲティング分子と親和性のある構造体」と、置換基Bにおける「ターゲティング分子と親和性のある構造体と架橋可能な部位」(以下、単に「架橋可能な部位」という場合がある。)とが化学結合した部分構造を含むことが好ましい。以下、本明細書中においては、ターゲティング分子として抗原を用いる場合を例に、好ましい実施形態を説明するが、上記のとおり、本実施形態は、ターゲティング分子が抗原である場合に限定されるものではない。
【0024】
置換基A又は置換基Bにおける「抗原と親和性を有する構造体」は、それが連結している官能基若しくは原子、又は架橋可能な部位と化学結合した部分構造と、直接連結していてもよく、リンカー等を介して連結されていてもよい。リンカーを介して連結されている場合、炭素若しくは窒素、酸素、硫黄、ハロゲン等の他の原子を含んでもよいリンカー、ポリエチレングリコール(PEG)、又は1若しくは2以上のアミノ酸を含むペプチド等の公知のリンカーを用いることができる。リンカーは、「抗原と親和性を有する構造体」と配位子とを連結させる目的に加えて、生体内における「抗原と親和性を有する構造体」の動態を制御する目的でも導入することができ、例えば、国際公開第2017/150549号、国際公開第2019/065774号等に記載のペプチドリンカーを用いることができる。
【0025】
置換基A又は置換基Bにおける「抗原と親和性を有する構造体」が抗体又は抗体断片である場合、抗体又は抗体断片と、それが連結している官能基若しくは原子又は架橋可能な部位と化学結合した部分構造との結合位置は、抗体又は抗体断片を構成するアミノ酸残基の一部(例えば、システイン残基のスルフヒドリル基、リシン残基の側鎖末端アミノ基等)に対してランダムに選択されていてもよく、Fab領域、Fc領域等の特定の部位のアミノ酸残基に部位特異的に結合していてもよい。ランダムに結合する場合、例えば、公知のアミンカップリング法、国際公開第2019/125982号に記載の方法等を用いることができる。また、部位特異的に結合する場合は、例えば、国際公開第2019/125982号に記載の糖転移酵素(トランスグルタミナーゼ)による処理を経て抗体又は抗体断片に、後述する「架橋可能な部位」を導入し、糖転移酵素の影響を受ける糖鎖構造を有するアミノ酸残基に部位特異的に結合させる方法、又は抗体のFc領域のリシン残基に特異的に結合可能なペプチドを用いる方法等が挙げられる。そのようなペプチドの例として国際公開第2016/186206号に記載のIgG結合ペプチドが挙げられる。
【0026】
置換基Bにおける「架橋可能な部位」とは、抗原と親和性のある構造体中における「特定部位」(例えば、チオール基、アジド基、末端アミノ基等)に対して選択的に共有結合を形成できる構造を意味する。このような「架橋可能な部位」としては、例えば、下記式(a-1)~(a-14)で表される基が挙げられる。
【0027】
【化10】
【0028】
式(a-1)~式(a-14)中、環構造の中央から伸びている直線は、環構造の任意の位置における結合を表す。*は、結合手を表し、後述する式(25)におけるLとの結合部位である。これらの基又はこれらの基と結合手の間に、置換基又は上述のリンカーを有していてもよい。なお、Zは、-CH-又は-C(=O)-を表す。
【0029】
置換基Aの好ましい態様である、「抗原と親和性のある構造体」と、置換基Bにおける「架橋可能な部位」とが化学結合した部分構造(以下、「架橋構造」という場合がある。)は、例えば、クリックケミストリーによって形成することができる。クリックケミストリーの例としては、下記式(20)で表される、アジド基とアルキニル基とを、触媒存在下で反応させることで、1,2,3-トリアゾール環を形成させる反応が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。
【0030】
【化11】
【0031】
クリックケミストリーの別の例としては、下記式(21)で表される、アジド基とシクロオクチン基との反応、又は、下記式(22)で表される、テトラジン基とアルキニル基との反応が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。
【0032】
【化12】
【0033】
【化13】
【0034】
また、「架橋構造」を形成するために、「架橋可能な部位」及び「特定部位」からなる群より選ばれる部位を2個以上有する架橋剤を用いることができる。このような架橋剤としては、例えば、下記式(23)で表される架橋剤が挙げられる。架橋剤は、例えば、「架橋可能な部位」及び「特定部位」からなる群より選ばれる部位の一方を、後述の放射性金属錯体における放射性金属元素及び式(1)で表される化合物に由来する配位子の構造含有部位に、「架橋可能な部位」及び「特定部位」からなる群より選ばれる部位のその他の一方を、「抗原と親和性のある構造体」の構造含有部位に、それぞれ結合させる反応に使用することができる。
【0035】
【化14】
【0036】
置換基Aとしては、例えば、下記式(24)で表される基が挙げられる。
【0037】
【化15】
【0038】
式(24)中、Lは、直接結合、置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基、又は置換基Cを有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。Lが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Lは、直接結合、C(=O)NRe1、C(=S)NRe2、OC(=O)NRe3、OC(=O)、C(=O)、C(=S)、NRe4、S、又はOを表す。Lが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Lは、上記「架橋構造」を表す。Lが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Spは、上記「抗原と親和性のある構造体」を表す。n20は、1~10の整数を表し、n21は1又は2を表す。なお、*は、結合手を表す。
【0039】
は、直接結合、置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基又は置換基Cを有していてもよいヘテロアリーレン基であり、好ましくは直接結合又は置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基である。
【0040】
における置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基のヒドロカルビレン基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基が挙げられる。Lは、好ましくはアルキレン基である。
【0041】
のヒドロカルビレン基におけるアルキレン基は、飽和脂肪族炭化水素を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられる。これらのアルキレン基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~8個である。
【0042】
のヒドロカルビレン基におけるアリーレン基は、芳香族炭化水素を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。アリーレン基は、好ましくはフェニレン基である。アリーレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~12個である。
【0043】
の置換基Cを有していてもよいヘテロアリーレン基は、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N-アルキルピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソキノリン、キナゾリン等の複素環式化合物を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。ヘテロアリーレン基は、好ましくはピリジレン基である。
【0044】
は、直接結合、C(=O)NRe1、C(=S)NRe2、OC(=O)NRe3、OC(=O)、C(=O)、C(=S)、NRe4、S、又はOであり、C(=O)NRe1は、L及びLと、-L-C(=O)NRe1-L-で結合してもよく、-L-C(=O)NRe1-L-で結合してもよい。C(=S)NRe2、OC(=O)NRe3、及びOC(=O)も同様である。Re1、Re2、Re3、及びRe4は、それぞれ水素原子又は炭素原子数1~8個のヒドロカルビル基を表す。Re1、Re2、Re3、及びRe4が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Lは、好ましくは直接結合又はC(=O)NHである。
【0045】
e1、Re2、Re3、及びRe4における炭素原子数1~8のヒドロカルビル基としては、例えば、炭素原子数が1~8個である、アルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。炭素原子数1~8個のヒドロカルビル基は、好ましくは炭素原子数1~8個のアルキル基である。
【0046】
は、上記「架橋構造」である。Lとしては、例えば、下記式(a-15)~式(a-23)で表される2価の基が挙げられる。式(a-15)~式(a-23)で表される2価の基は、置換基を有していてもよい。なお、*は、結合手を表す。Zは、-CH-又は-C(=O)-を表す。
【0047】
【化16】
【0048】
n20は1~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1である。
【0049】
n21は1又は2であり、上記式(23)で例示される架橋剤等の架橋剤を用いる場合、n21は好ましくは2であり、架橋剤を用いない場合、n21は好ましくは1である。
【0050】
Spは、「抗原と親和性のある構造体」である。「抗原と親和性のある構造体」は、上記の構造体が例示される。
【0051】
本実施形態の放射性金属錯体は、分子内・分子間を含めた視点で置換基Aを有する構造体が複数ある場合、1個の「抗原と親和性のある構造体」が複数の本願の放射性金属錯体と結合していてもよい。この場合、複数の置換基Aにおいて1つの「抗原と親和性のある構造体」が共有されていてもよい。
【0052】
置換基Bとしては、例えば、下記式(25)で表される基が挙げられる。
【0053】
【化17】
【0054】
式(25)中、L、L、及びn20は、前記と同義である。Lkは、上記「架橋可能な部位」を表す。なお、*は、結合手を表す。
【0055】
置換基Cとしては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、ニトロ基、ホスホン酸基、ヒドロカルビル基、シリル基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、シリルオキシ基が挙げられる。置換基Cは、水溶性の液中で溶解して使用し易い観点から、好ましくはヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、又はアルコキシ基である。これらの基の一部はハロゲン原子で置換されていてもよく、例えば、メチル基の水素原子がフッ素置換されてトリフルオロメチル基になっていてもよい。
【0056】
置換基Cで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である。
【0057】
置換基Cで表されるアミノ基において、窒素原子上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。アミノ基としては、例えば、無置換アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジフェニルアミノ基が挙げられる。アミノ基は、好ましくは無置換アミノ基である。
【0058】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。ヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル基である。
【0059】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ノルボニル基、ノニル基、デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。これらのアルキル基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、入手の容易性及びコストの観点から、好ましくは1~8個である。
【0060】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。アリール基は、好ましくはフェニル基である。アリール基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~18個である。
【0061】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基におけるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、(2-メチルフェニル)メチル基、(3-メチルフェニル)メチル基、(4-メチルフェニル)メチル基、(2,4-ジメチルフェニル)メチル基、(エチルフェニル)メチル基、ナフチルメチル基が挙げられる。アラルキル基は、好ましくはベンジル基である。アラルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは7~18個である。
【0062】
置換基Cで表されるシリル基において、ケイ素原子上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。このような置換シリル基としては、例えば、メチルシリル基、エチルシリル基、フェニルシリル基等の1個の炭素原子数1~18個の炭化水素基で置換された一置換シリル基;ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジフェニルシリル基等の2個の炭素原子数1~18個の炭化水素基で置換された二置換シリル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリ-n-ブチルシリル基、トリ-tert-ブチルシリル基、トリ-イソブチルシリル基、tert-ブチル-ジメチルシリル基、トリ-n-ペンチルシリル基等の3個の炭素原子数1~18個の炭化水素基で置換された三置換シリル基などが挙げられる。置換シリル基は、好ましくはトリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基である。
【0063】
置換基Cで表されるヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリル基、N-アルキルピロリル基、フリル基、チオフェンニル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、イソキノリニル基が挙げられる。ヘテロアリール基は、好ましくはピリジル基又はピリミジニル基である。
【0064】
置換基Cで表されるアルキルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-オクチルオキシ基等が挙げられる。これらのアルキルオキシ基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキルオキシ基は、好ましくはメトキシ基である。アルキルオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~8個である。
【0065】
置換基Cで表されるアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、2,4-ジメチルフェノキシ基、ナフトキシ基が挙げられる。アリールオキシ基は、好ましくはフェノキシ基である。アリールオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~18個である。
【0066】
置換基Cで表されるアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、(2-メチルフェニル)メトキシ基、(3-メチルフェニル)メトキシ基、(4-メチルフェニル)メトキシ基、(2,4-ジメチルフェニル)メトキシ基、ナフチルメトキシ基が挙げられる。アラルキルオキシ基は、好ましくはベンジルオキシ基である。アラルキルオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは7~18個である。
【0067】
置換基Cで表されるシリルオキシ基において、ケイ素原子上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。このような置換シリルオキシ基としては、例えば、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリ-n-ブチルシリルオキシ基、トリフェニルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基が挙げられる。置換シリルオキシ基は、好ましくはトリメチルシリルオキシ基又はtert-ブチルジメチルシリルオキシ基である。
【0068】
置換基Dは、単環式の複素環を含む基であって、当該複素環上に金属元素に配位可能な基を有する基である。複素環に含まれるヘテロ原子は、例えば、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子であってよく、好ましくは窒素原子である。また、金属元素に配位可能な基は、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ホスホン基、又はスルホ基であってよく、好ましくはカルボキシ基又はヒドロキシ基である。これらの基は、必要に応じて、プロトン(H)を放出して、金属元素に配位してもよい。
【0069】
置換基Dとしては、例えば、下記式(D-1)~式(D-24)で表される化合物から、複素環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を1個除いた1価の基が挙げられる。式(D-1)~式(D-24)で表される化合物は、置換基を有していてもよい。置換基Dを与える化合物は、好ましくは、式(D-1)~式(D-4)、式(D-7)、式(D-8)、又は式(D-13)~式(D-18)である。
【0070】
【化18】
【0071】
置換基は、個々に特に説明がない限り、好ましくは置換基A、置換基C、又は置換基D、より好ましくは置換基C又は置換基D、さらに好ましくは置換基Cである。
【0072】
本明細書において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、t-Buはタ―シャリーブチル基を表し、Bnはベンジル基を表し、DMFはN,N-ジメチルホルムアミドを表す。
【0073】
本明細書において、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基などの分岐可能な基が直鎖構造、分岐構造の指定なく記載されている場合、これらは直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。これらの基は、好ましくは直鎖構造である。
【0074】
本明細書において、基の説明において炭素原子数を記載している場合、当該炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まない炭素原子数を意味する。
【0075】
[放射性金属錯体及びその製造方法]
一実施形態の放射性金属錯体は、放射性金属元素と、下記式(1)で表される化合物に由来する配位子とを有する。放射性金属元素は、89Zr又は225Acである。
【0076】
<式(1)で表される化合物>
まず、本実施形態の配位子に誘導される式(1)で表される化合物について説明する。
【0077】
【化19】

[式(1)中、nは、1~3の整数を表す。
、Q、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、Q、及びQの少なくとも3個は、群Aから選ばれる基である。
nが2又は3である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Q及びQは、互いに結合して、又は、2価の連結基を介して環構造を形成していてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)で表される基からなる群である。
【化20】

(式(A1)、式(A2)、式(A3)、式(A4)、式(A5)、式(A6)、式(A7)、式(A8)、及び式(A9)中、R~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
、Z、Z、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
nが2又は3である場合、複数存在するZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Rは、置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。ただし、nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基である。
(群B)
群Bは、下記式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)で表される基からなる群である。
【化21】

(式(B1)、式(B2)、式(B3)、及び式(B4)中、R23~R28は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
nが2又は3である場合、複数存在するRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0078】
群Aにおいて、R~R22は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。置換基は、好ましくは置換基A又は置換基Cである。置換基が置換基Aである場合、置換基Aの数は、式(A1)におけるR~R、式(A2)におけるR~R、式(A3)におけるR~R、式(A4)におけるR10~R12、式(A5)におけるR13、R14、式(A6)におけるR15、R16、式(A7)におけるR17、R18、式(A8)におけるR19、R20、及び式(A9)におけるR21、R22において、それぞれ独立に、好ましくは0個又は1個である。置換基が置換基Cである場合、置換基Cの数は、式(A1)におけるR~R、式(A2)におけるR~R、式(A3)におけるR~R、式(A4)におけるR10~R12、式(A5)におけるR13、R14、式(A6)におけるR15、R16、式(A7)におけるR17、R18、式(A8)におけるR19、R20、及び式(A9)におけるR21、R22において、それぞれ独立に、好ましくは0個又は1個である。R~R22は、好ましくは水素原子である。水素原子の数は、式(A1)におけるR~R、式(A2)におけるR~R、式(A3)におけるR~R、及び式(A4)におけるR10~R12において、それぞれ独立に、好ましくは2個又は3個である。水素原子の数は、式(A5)におけるR13、R14、式(A6)におけるR15、R16、式(A7)におけるR17、R18、式(A8)におけるR19、R20、及び式(A9)におけるR21、R22において、好ましくは1個又は2個である。
【0079】
群Aから選ばれる基は、好ましくは式(A1)~式(A5)で表される基であり、より好ましくは式(A1)~式(A4)で表される基であり、さらに好ましくは式(A1)で表される基である。
【0080】
群Aから選ばれる基としては、例えば、下記式(AA-1)~式(AA-37)で表される基が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。式(AA-1)~式(AA-37)で表される基は、結合手を有する複素環が水素原子を有しているとき、当該水素原子は置換基で置換されていてもよい。群Aから選ばれる基は、好ましくは、式(AA-1)、式(AA-5)~式(AA-16)、式(AA-17)、式(AA-22)、又は式(AA-27)~式(AA-37)で表される基である。
【0081】
【化22】
【0082】
群Bにおいて、R23~R28は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。置換基は、好ましくは置換基A又は置換基Cである。置換基が置換基Aである場合、置換基Aの数は、式(B1)におけるR23、R24、式(B2)におけるR25、R26、式(B3)におけるR27、及び式(B4)におけるR28において、それぞれ独立に、好ましくは0個又は1個である。置換基が置換基Cである場合、置換基Cの数は、式(B1)におけるR23、R24、式(B2)におけるR25、R26、式(B3)におけるR27、及び式(B4)におけるR28において、それぞれ独立に、好ましくは0個又は1個である。R23~R28は、好ましくは水素原子である。水素原子の数は、式(B1)におけるR23、R24及び式(B2)におけるR25、R26において、それぞれ独立に、好ましくは1個又は2個である。
【0083】
群Bは、好ましくは式(B1)又は式(B2)で表される基である。
【0084】
群Bから選ばれる基としては、例えば、下記式(BB-1)~式(BB-20)で表される基が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。式(BB-1)~式(BB-20)で表される基は、結合手を有する複素環が水素原子を有しているとき、当該水素原子は置換基で置換されていてもよい。群Bから選ばれる基は、好ましくは、式(BB-1)~式(BB-6)又は式(BB-13)~式(BB-16)で表される基である。
【0085】
【化23】
【0086】
、Q、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、Q、及びQの少なくとも3個は、群Aから選ばれる基である。Q、Q、Q、及びQのうち群Aから選ばれる基の数は、好ましくは4個以上であり、より好ましくは4個である。nが2又は3である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0087】
、Q、Q、及びQが置換基であるとき、置換基は、それぞれ独立に、置換基A、置換基B、置換基C、又は置換基Dであり、好ましくは置換基A、置換基C、又は置換基D、より好ましくは置換基Dである。Q、Q、Q、及びQは、好ましくは、群Aから選ばれる基又は置換基Dであり、より好ましくは群Aから選ばれる基である。Q、Q、Q、及びQにおいて、置換基の合計数は、例えば、0~3個であってよく、好ましくは0~2個であり、より好ましくは0個又は1個である。
【0088】
及びQは、互いに結合して、又は、2価の連結基を介して環構造を形成していてもよい。2価の連結基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチル基等のアルキレン基などが挙げられる。
【0089】
nは、1又は2であってよく、1であってもよい。この場合、Q及びQは、環構造を形成していないことが好ましい。他方、nは、3であってよい。この場合、Q及びQは、環構造を形成していることが好ましい。
【0090】
Rは、置換基を有していてもよい2価の連結基である。ただし、nが1かつQ、Q、Q、及びQの全てが式(A1)で表される基であるとき、Rは置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分骨格として含む2価の基である。置換基Aの数は、好ましくは0個又は1個である。
【0091】
Rにおける2価の連結基としては、例えば、ヒドロカルビレン基、ヘテロアリーレン基であり、好ましくは置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である。2価の連結基は、これらを組み合わせてなる基であってもよい。ヒドロカルビレン基であるRは、好ましくはアルキレン基、又はアリーレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。Rにおける炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~18個である。
【0092】
Rにおけるアルキレン基は、飽和脂肪族炭化水素を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられる。これらのアルキレン基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~8個である。
【0093】
Rにおけるアリーレン基は、芳香族炭化水素を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。アリ-レン基は、好ましくはフェニレン基である。アリーレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~18個である。
【0094】
Rにおけるヘテロアリーレン基は、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N-アルキルピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソキノリン、キナゾリン、ベンズイミダゾール、キノリン等の複素環式化合物を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。ヘテロアリーレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは3~18個である。
【0095】
アルキレン基、アリーレン基、及びヘテロアリーレン基を組み合わせてなる2価の連結基としては、フェニレン基とメチレン基とフェニレン基とが順に結合する組み合わせ、メチレン基とフェニレン基とメチレン基とが順に結合する組み合わせ、ピリジレン基とメチレン基とピリジレン基とが順に結合する組み合わせ等が挙げられる。
【0096】
nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基又は群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基である。
【0097】
群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基としては、例えば、群Bから選ばれる基とヒドロカルビレン基とを組み合わせた2価の基が挙げられる。群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基におけるヒドロカルビレン基中の-CH-の一部は、-O-又は-C(=O)-に置換されていてもよい。組み合わせの例としては、エチレン基と式(B1)で表される基とエチレン基とが順に結合する組み合わせ、-C(=O)-基と式(B3)で表される基と-C(=O)-基とが順に結合する組み合わせ等が挙げられる。
【0098】
群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基としては、例えば、下記式(Bb-1)~式(Bb-32)で表される基が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。群Bから選ばれる基を部分構造として含む2価の基は、上記式(B1)又は式(B2)で表される基を含むことから、式(Bb-1)~式(Bb-8)又は式(Bb-17)~式(Bb-24)で表される基である。
【0099】
【化24】
【0100】
【化25】
【0101】
nが1であり、かつQ、Q、Q、及びQのすべてが式(A1)で表される基であるとき、Rは、好ましくはヒドロカルビレン基である。Rとしてのヒドロカルビレン基は、好ましくはアルキレン基又はアリーレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。Rとしてのヒドロカルビレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~18個である。
【0102】
、Z、Z、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表し、好ましくは置換基を有していてもよい2価の連結基である。2価の連結基としては、例えば、ヒドロカルビレン基が挙げられる。2価の連結基におけるヒドロカルビレン基中の-CH-の一部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよく、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよく、-C(=O)-に置換されていてもよい。2価の連結基としてのヒドロカルビレン基は、置換されていないことが好ましい。
【0103】
2価の連結基が有していてもよい置換基は、好ましくは置換基A、置換基C、又は置換基Dである。置換基Aの数は、好ましくは0個又は1個である。置換基Cは、好ましくはヒドロカルビル基、アリール基、又はヘテロアリール基であり、より好ましくはヒドロカルビル基である。
【0104】
式(1)で表される化合物としては、例えば、下記式(1Aa-1)~式(1Aa-24)、式(1Ab-1)~式(1Ab-12)、式(1B-1)~式(1B-3)、式(1C-1)~式(1C-13)で表される化合物が挙げられる。式(1)で表される化合物は、Rが-CH-の一部が置換されていてもよいヒドロカルビレン基であることから、好ましくは、式(1Aa-1)~式(1Aa-24)、式(1B-1)~式(1B-3)、又は式(1C-1)~式(1C-13)で表される化合物であり、式(1)で表される化合物におけるnが1であることから、式(1Aa-1)~式(1Aa-24)で表される化合物である。なお、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。
【0105】
【化26】
【0106】
【化27】
【0107】
【化28】
【0108】
【化29】
【0109】
【化30】
【0110】
【化31】
【0111】
【化32】
【0112】
式(1C-13)で表される化合物の具体例としては、下記式(1C-13a)及び式(1C-13b)で表される化合物が挙げられる。
【0113】
【化33】
【0114】
式(1)で表される化合物は、好ましくは下記式(1A)で表される化合物である。式(1A)で表される化合物は、式(1)で表される化合物において、nが1である化合物である。
【0115】
【化34】

[式(1A)中、Q、Q、Q、Q、Z、Z、Z、Z、及びRは、前記と同義である。]
【0116】
式(1)で表される化合物は、好ましくは下記式(2)で表される化合物である。
【0117】
【化35】

[式(2)中、R、Z、及びQは、前記と同義である。
29~R37は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
1A、Z2A、及びZ3Aは、-CH-又は-C(=O)-を表す。]
【0118】
式(2)で表される化合物は、好ましくは下記式(3)で表される化合物である。
【0119】
【化36】

[式(3)中、R、Z1A、Z2A、Z3A、Z4A、及びR29~R37は、前記と同義である。
38~R40は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【0120】
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式(1-1)~式(1-79)で表される化合物が挙げられる。これら化合物は置換基を有していてもよい。なお、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。式(1)で表される化合物は、好ましくは、Rが置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である、式(1-1)~式(1-28)又は式(1-33)~式(1-79)で表される化合物であり、より好ましくは、式(1A)で表される化合物におけるRが置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である、式(1-1)~式(1-28)、式(1-33)~式(1-37)、式(1-43)、式(1-45)~式(1-51)、式(1-55)~式(1-60)、又は式(1-62)~式(1-73)で表される化合物である。
【0121】
【化37】
【0122】
【化38】
【0123】
【化39】
【0124】
【化40】
【0125】
【化41】
【0126】
【化42】
【0127】
【化43】
【0128】
【化44】
【0129】
【化45】
【0130】
【化46】
【0131】
本実施形態の式(1)で表される化合物は、酸又は塩基との相互作用で塩を形成していてもよく、水和していてもよい。塩を形成していてもよい酸の種類としては、例えば、塩酸、臭素酸、ヨウ素酸、リン酸、酢酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフェニルホウ酸などが挙げられる。酸は、好ましくは塩酸又は臭素酸である。酸による塩構造としては、例えば、本実施形態の式(1)で表される化合物中の窒素部位が酸と相互作用している塩構造が挙げられる。
【0132】
塩を形成していてもよい塩基の種類としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウムの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。塩基による塩構造としては、例えば、本実施形態の式(1)で表される化合物中のカルボン酸部位のプロトンが別のカチオンで置き換わった塩構造が挙げられる。
【0133】
本実施形態の式(1)で表される化合物は、一部のプロトンが分子内で移動していてもよい。例えば、式(1-1)で表される化合物は、カルボン酸のうち1個又は2個のプロトンが、エチレンジアミン構造中の窒素原子又はピリジンカルボン酸構造中の窒素原子の近傍に移動していてもよい。
【0134】
<式(1)で表される化合物の製造方法>
次に、本実施形態の式(1)で表される化合物の製造方法について説明する。
【0135】
式(1)で表される化合物は、Z、Z、Z、及びZとなり得る部位に、それぞれQ、Q、Q、及びQとなり得る化合物を連結することができる公知の手法を適宜組み合わせて製造することができる。
【0136】
以下では、Z、Z、Z、及びZ(以下、Z、Z、Z、及びZを単に「Z」という場合がある。)となり得る部位に、それぞれQ、Q、Q、及びQとなり得る化合物を連結する方法を具体的に説明する。
【0137】
例えば、Zが-CH-である結合部位の形成方法としては、下記式(30)に例示するように、芳香族環にCHCl又はCHBr構造の置換基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とを、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒中で、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩基存在下で反応させる方法等が挙げられる。
【0138】
【化47】
【0139】
また、Zが-CH-である結合部位の他の形成方法としては、下記式(31)及び式(32)に例示するように、アルデヒド構造を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とをエタノ-ル等の溶媒中で混合させた後、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を反応させる方法等が挙げられる。
【0140】
【化48】
【0141】
【化49】
【0142】
例えば、上記式(31)及び式(32)に記載した生成物を原料とし、式(30)、式(31)、及び式(32)と同様の手法で置換基を導入することにより、異なる置換基を有する式(1)で表される化合物が得られる。
【0143】
が-C(=O)-で表される結合部位の形成方法としては、下記式(33)に例示するように、カルボン酸構造を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とを、公知の縮合化剤を用いてDMF等の溶媒中で混合させる方法等が挙げられる。
【0144】
【化50】
【0145】
例えば、上記式(33)において、アミノ基を有する化合物として置換基を1つのみ有する化合物を用いることで、-CH-と-C(=O)-の数の組み合わせを変えることができる。
【0146】
式(33)においては、例えば、アミノ基と縮合させないカルボン酸のOH部位をメチルエステル化して保護しておき、後に加水分解を行い脱保護することによって、カルボン酸に誘導することができる。このように、Zの結合部位を形成する工程は、適宜保護基を導入しておいて、後に脱保護を行うことによって、本実施形態の式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0147】
上記式(30)~式(33)に例示する結合部位の形成方法を例とした公知の手法を組み合わせることによって、式(1)で表される化合物を得ることができる。それぞれの反応における出発物質の例であるカルボン酸構造を有する化合物、及び、アミノ基を有する化合物についても、公知のカルボン酸誘導体の合成法、及び、アミノ化合物誘導体の合成法を適宜組み合わせることで製造することができる。
【0148】
なお、「抗原と親和性のある構造体と架橋可能な部位」を有する置換基Bを有する式(1)で表される化合物についても、部分的に置換基Bの構造を有する化合物を合成する公知の手法を適宜組み合わせることで製造することができる。
【0149】
例えば、置換基BがNCS構造(式(a-1)で表される基)を有する化合物の製造方法としては、下記式(35)に例示するように、上記式(30)及び式(31)の原料であるジアミン化合物として、ニトロ基を有する化合物を用い、中間生成物を合成する。続いて、パラジウムと水素を用いる等の一般的な還元剤によって、エタノール等の溶媒中でニトロ部位をアミンに変換した後、クロロホルム等の溶媒中でチオホスゲンと混合することによって、式(a-1)で表される基を有する式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0150】
【化51】
【0151】
また、置換基Bが式(a-10)で表される基を有する化合物の製造方法としては、下記式(36)に例示するように、上記式(30)及び式(31)の原料であるジアミン化合物として、カルボキシル基を有する化合物を用い、中間生成物を合成する。続いて、上記式(33)に例示する公知の縮合化剤を用いて、式(a-10)で表される基を有するアミン化合物と反応させてアミド結合を形成することによって、式(a-10)で表される基を有する式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0152】
【化52】
【0153】
なお、「抗原と親和性のある構造体」を有する置換基Aを有する式(1)で表される化合物は、「抗原と親和性のある構造体」と置換基Bを有する化合物における「架橋可能な部位」とをクリックケミストリーによって結合することで製造することができる。
【0154】
例えば、アジド基を有する抗原と親和性のある構造体と、置換基Bとして式(a-10)で表される基を有する化合物とを下記式(37)に例示するように、クリックケミストリーによって結合することで、式(a-18-1)で表される基を有する式(1)で表される化合物を製造することができる。なお、式(37)中、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。
【0155】
【化53】
【0156】
<放射性金属錯体>
次に、本実施形態の式(1)で表される化合物に由来する配位子を有する放射性金属錯体について説明する。
【0157】
本実施形態の放射性金属錯体は、上記化合物に放射性金属元素が相互作用している。より具体的には、上記化合物中のヘテロ原子と放射性金属元素とが相互作用しており、式(1)で表される化合物におけるピリジンカルボン酸中の窒素原子及び/又は酸素原子と相互作用している。相互作用は、通常、配位結合である。
【0158】
放射性金属錯体は、式(1)で表される化合物のヘテロ原子(例えば、窒素含有複素環基中の窒素原子、1~3級アミン中の窒素原子、-OH(-Oを含む)中の酸素原子、-COH(-CO を含む)中の酸素原子等)のいずれかと配位結合しており、配位結合の数は、好ましくは4~12個、より好ましくは8~10個である。本実施形態の式(1)で表される化合物は、放射性金属元素を結合させたときに、三次元的に上述の相互作用を示すことが可能である。なお、配位結合の形成の有無は、普及している3D分子構造をシミュレーションできるソフトウェアを用いた構造最適化計算によって、放射性金属元素とヘテロ原子との距離を特定することにより確認することができる。
【0159】
放射性金属元素は、89Zr又は225Acである。放射性金属元素は、無電荷であっても荷電しているイオンであってもよく、好ましくは荷電しているイオンである。放射性金属元素が荷電している場合、好ましくは1~4価、より好ましくは2~4価、さらに好ましくは89Zr4+又は225Ac3+である。なお、89Zr4+又は225Ac3+はいずれも最外電子殻が閉殻構造をとる放射性金属元素であり、このような閉殻構造の放射性金属元素は一般的に閉殻構造ではない多くの放射性金属元素と比べて錯体を形成し難いことで知られている。
【0160】
放射性金属錯体1分子中に存在する放射性金属元素の数は、1個であっても2個以上であってもよい。好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
【0161】
放射性金属錯体1分子中に存在する放射性金属元素の種類は、1種類であっても2種類以上であってもよい。好ましくは1種類である。
【0162】
放射性金属錯体は、放射性金属錯体を電気的に中性にするための対イオンを含んでいてもよい。放射性金属錯体が正に帯電している場合、これを中和する陰イオンが選ばれる。陰イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられる。陰イオンは、好ましくは塩酸イオン又は酢酸イオンである。金属錯体が負に帯電している場合、これを中和する陽イオンが選ばれる。陽イオンとしては、例えば、プロトン、アンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、テトラリールホスホニウムイオン等が挙げられる。対イオンは複数存在していてもよく、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0163】
放射性金属錯体は、放射性金属錯体化の反応時又は精製時に使用した溶媒等の中性分子を含んでいてもよい。中性分子としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、N,N-ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ジエチルエーテル、酢酸、プロピオン酸、塩酸、シュウ酸等が挙げられる。なお、中性分子は、複数存在していてもよく、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0164】
本実施形態の放射性金属錯体の具体例としては、下記式(J-1)~下記式(J-79)で表される放射性金属錯体が挙げられる。放射性金属錯体は、好ましくは、Rが置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である、式(J-1)~式(J-28)又は式(J-33)~式(J-79)で表される放射性金属錯体、より好ましくは、式(1A)で表される化合物におけるRが置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である、式(J-1)~式(J-28)、式(J-33)~式(J-37)、式(J-43)、式(J-45)~式(J-51)、式(J-55)~式(J-60)、又は式(J-62)~式(J-73)で表される放射性金属錯体である。
【0165】
【化54】
【0166】
【化55】
【0167】
【化56】
【0168】
【化57】
【0169】
【化58】
【0170】
【化59】
【0171】
【化60】
【0172】
【化61】
【0173】
【化62】
【0174】
【化63】
【0175】
式中、Mは89Zr又は225Acを表す。Mとヘテロ原子との破線は、相互作用する可能性があることを表す。なお、Mとヘテロ原子との破線は、便宜的なものであり、必ずしも全ての破線において相互作用が存在することを意味するものではない。また、上記式で表される放射性金属錯体は、上記のとおり、対イオン及び/又は中性分子を有していてもよく、上記の化合物に由来する配位子は置換基を有していてもよい。なお、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。
【0176】
<放射性金属錯体の製造方法>
次に、本実施形態の放射性金属錯体の製造方法について説明する。本実施形態の放射性金属錯体の製造方法は、89Zr又は225Acを付与する反応剤と式(1)で表される化合物とを混合して反応条件を与える標識工程を含む。本実施形態の放射性金属錯体の製造方法によれば、高い錯形成率で放射性金属錯体が提供される。
【0177】
本実施形態の放射性金属錯体は、例えば、本実施形態の式(1)で表される化合物を有機化学的に合成した後、得られた化合物を、放射性金属元素を付与する反応剤(以下、「放射性金属付与剤」という場合がある。)と混合し、反応させることにより得られる。反応させる放射性金属付与剤の量は、目的とする放射性金属錯体に応じて適宜調整することができる。
【0178】
放射性金属付与剤としては、例えば、上記で例示した放射性金属元素の酢酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物、過塩素酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、シュウ酸塩等が挙げられる。放射性金属付与剤は、好ましくは放射性金属元素の塩化物である。放射性金属付与剤は、水和物であってもよい。
【0179】
化合物と放射性金属付与剤との反応は、溶媒(すなわち、反応溶媒)中で行うことが好ましい。
【0180】
反応溶媒としては、例えば、水、酢酸、プロピオン酸、塩酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、N,N-ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ジエチルエーテル等が挙げられる。反応溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。反応溶媒は、例えば、反応液のpHを調整するための酸、塩基、緩衝剤等の別成分を含有していてもよい。酸としては、例えば、上記塩を形成していてもよい酸が挙げられる。塩基としては、例えば、上記塩を形成していてもよい塩基が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)等の鎖状アミンモノスルホン酸;2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)等のモルホリン環を有するモノスルホン酸;2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-エタンスルホン酸(HEPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)などのピペラジン環を構造中に有するジスルホン酸;酢酸、乳酸等の直鎖脂肪族モノカルボン酸;安息香酸、サリチル酸等の芳香族モノカルボン酸;マロン酸、酒石酸等の直鎖脂肪族モノカルボン酸;フタル酸等の芳香族ジカルボン酸;炭酸等の無機酸;これらの酸の塩などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、これらの酸のプロトンが金属イオンに置換された形態が挙げられる。金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンなど挙げられる。金属イオンは、好ましくはナトリウムイオンである。
【0181】
反応温度は、通常、-10~200℃であり、好ましくは0~100℃、より好ましくは10~40℃である。反応時間は、通常、1分~1週間であり、好ましくは1分~24時間、より好ましくは1分~6時間である。
【0182】
反応時のpHは、各放射性金属元素に応じて適切なpHを選択できるが、例えば、放射性金属元素として89Zrを用いる場合は、反応溶媒のpHが2.0~6.0であることが好ましく、放射性金属元素として225Acを用いる場合は、反応溶媒のpHが2.0~7.5であることが好ましい。
【0183】
反応時の化合物の濃度は、通常、1nM~100mMであり、好ましくは100nM~1mM、より好ましくは1μM~100μMである。反応時の放射性金属付与剤のモル濃度は、通常、0.1pM~100μMであり、好ましくは1pM~10μMである。また、反応開始時の放射性金属付与剤の放射能量は、通常、1kBq~1000GBqであり、好ましくは10kBq~100GBqである。
【0184】
これらの反応溶媒、反応温度、反応時間、反応時の濃度等の条件は、化合物の種類、放射性金属付与剤の種類等に合わせて適宜最適化できる。例えば、置換基Aにおける「ターゲティング分子と親和性のある構造体」が熱に不安定である場合、より具体的には「ターゲティング分子と親和性のある構造体」が抗体又は抗体断片である場合、反応温度は、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは37℃以下である。40℃以下で反応を行うことで、「ターゲティング分子と親和性のある構造体」が熱によってターゲティング分子への親和性を喪失することなく、放射性金属錯体が得られる。
【0185】
また、例えば、置換基Aにおける「ターゲティング分子と親和性のある構造体」が100μM以上で不安定である場合、反応時の化合物の濃度は、100μM未満であることが好ましい。100μM未満で反応を行うことで、「ターゲティング分子と親和性のある構造体」が凝集、析出又は沈殿等することなく、所望の量の放射性金属錯体が得られる。
また、例えば、置換基Aにおける「ターゲティング分子と親和性のある構造体」が放射線によって分解し易い場合、反応開始時の放射能量を該構造体が安定的に反応できる任意の放射能量以下にすることが好ましい。これにより、放射化学的純度の高い放射性金属錯体を得ることができる。
【0186】
放射性金属錯体を単離精製する場合、反応後の精製方法としては、ろ過フィルター、メンブレンフィルター、種々の公知の充填剤を充填したカラム、各種クロマトグラフィー法等から適宜最適な手段を選択して用いることができる。
【0187】
89Zr及び225Acを付与する放射性金属付与剤は、例えば、サイクロトロンを用いて製造するか、放射性元素の取扱いを行っている適切な機関から適宜入手することができる。サイクロトロンを用いて製造する場合、放射性金属が89Zrであれば、89Yターゲットにプロトンを照射し、照射後の89Yターゲットを酸で溶解した溶解液を、89Zrを捕捉可能な捕捉剤を担持したカラムカートリッジ等に通液する。その後、該カラムカートリッジを洗浄し、酸を通液することで89Zrを回収することができる。また、放射性金属が225Acであれば、226Raターゲットに加速粒子を照射し、照射後の226Raターゲットを酸で溶解した溶解液を、225Acを捕捉可能な捕捉剤を担持したカラムカートリッジ等に通液する。その後、該カラムカートリッジを洗浄し、酸を通液することで225Acを回収することができる。
【0188】
置換基Aを有する放射性金属錯体は、置換基Aを有する化合物に対して放射性金属付与剤を反応させることにより得ることができ、置換基Bを有する化合物に対して放射性金属付与剤を反応させ錯体とした後、上記式(20)~式(22)に例示する、「抗原と親和性のある構造体」と、「架橋可能な部位」との結合反応を行うことによっても得ることができる。置換基Aを有する放射性金属錯体は、放射性金属を使用する工程が少なくなる観点から、置換基Aを有する化合物に対して金属付与剤を反応させることにより得ることが好ましい。
【0189】
放射性金属錯体は、適切な緩衝液中で保存される。放射性金属錯体の緩衝液中での保存時間は、通常、1分~10日間であり、好ましくは1週間以内、より好ましくは3日以内である。
【0190】
放射性金属錯体を保存するための緩衝液は、緩衝剤を溶媒に溶解させた溶液である。緩衝剤としては、上記で例示した緩衝剤と同様のものを例示することができ、溶媒としては、上記で例示した反応溶媒と同様のものを例示することができる。溶液は、酸又は塩基を含有していてもよい。89Zrを有する放射性金属錯体を保存するための緩衝液は、好ましくは酢酸イオンを含有し、より好ましくは酢酸を含有する。225Acを有する放射性金属錯体を保存するための緩衝液は、好ましくは酢酸イオンを含有し、より好ましくは酢酸アンモニウムを含有する。
【0191】
式(1)で表される化合物が放射性金属元素を解離しないで保つことで、放射性金属錯体は、緩衝液中で安定的に存在でき、がん製剤として用いることができる。
【0192】
<放射性金属捕捉剤>
次に、本実施形態の式(1)で表される化合物からなる放射性金属捕捉剤について説明する。放射性金属捕捉剤の捕捉対象は、89Zr又は225Acである。
【0193】
式(1)で表される化合物は、89Zr及び225Acの両方に配位することが可能であることから、89Zr又は225Acを捕捉対象とする放射性金属捕捉剤として好適に用いることができる。より詳細には、89Zrを捕捉対象とする放射性金属捕捉剤として用いることができるとともに、225Acを捕捉対象とする放射性金属捕捉剤としても用いることができる。式(1)で表される化合物の好ましい態様は、上記と同様である。したがって、ここでは、重複する説明を省略する。
【0194】
放射性金属捕捉剤の使用方法としては、例えば、式(1)で表される化合物を含有する組成物と、89Zr及び/又は225Acを含有する溶液とを混合することで、式(1)で表される化合物と89Zr及び/又は225Acとを錯形成させて、89Zr及び/又は225Acを錯体として捕捉する方法が挙げられる。捕捉された錯体は、放射性金属錯体の製造方法の放射性金属錯体を単離精製する場合と同様の方法で単離・回収することができる。
【0195】
式(1)で表される化合物を含有する組成物は、例えば、式(1)で表される化合物の溶液であってよい。このような溶液は、式(1)で表される化合物を、上記の反応溶媒で例示したものに溶解させたものであってよい。
【0196】
89Zr及び/又は225Acを含有する溶液は、例えば、上記の放射性金属付与剤を、上記の反応溶媒で例示したものに溶解させたものであってよい。
【0197】
放射性金属捕捉剤を使用する際の条件は、化合物の種類、放射性金属付与剤の種類等に合わせて適宜最適化できる。なお、放射性金属捕捉剤を使用する際の条件(反応溶媒、反応温度、反応時間、反応時の濃度等)の好ましい態様は、上記の放射性金属錯体の製造方法における条件の好ましい態様と同様であってよい。
【実施例0198】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0199】
合成例1
<化合物(1-1)の合成>
【化64】
【0200】
上記化合物(1-1)を、非特許文献Angewandte Chemie International Edition,2005,vol.44,p.7595-7598に記載の方法で合成した。
【0201】
実施例1
<化合物(1-1)の89Zr錯体合成及び89Zr錯体の安定性評価>
放射性金属元素として89Zrを用いた。化合物(1-1)を配位子として用いた。化合物(1-1)を水に溶解させて、化合物(1-1)を10mmol/L含む溶液とした。この溶液7.5μLと、放射性金属付与剤としての89Zrイオン含有溶液(溶媒:0.1mol/L塩酸水溶液、放射能濃度:462MBq/mL)50μLと、ゲンチジン酸を150mmol/L含む0.78mol/L酢酸緩衝液(pH:5.5)50μLと、水42.5μLとを混合した反応液を、37℃加温下で反応させて、89Zr錯体溶液を得た。反応時間は60分間とした。薄層クロマトグラフィー(Agilent社製、型番:SGI0001、展開溶媒:水/アセトニトリル(1:1))を用いて、未反応の89Zrを含む全89Zr放射能カウントに対する89Zr錯体の放射能カウントの百分率を標識率とした。89Zr錯体の標識率は、94%であった。得られた89Zr錯体を含む反応液を、室温(25℃)下で静置し、その後静置してから1時間後、24時間後、48時間後、及び72時間後において、標識率と同様に薄層クロマトグラフィーを用いて放射化学的純度の経時変化を追跡した。表1に結果を示す。
【0202】
【表1】
【0203】
実施例2
<化合物(1-1)の225Ac錯体合成及び225Ac錯体の安定性評価>
放射性金属元素として225Acを用いた。化合物(1-1)を水に溶解させて、化合物(1-1)を1mmol/L含む溶液とした。この溶液40μLと、放射性金属付与剤としての225Acイオン含有溶液(溶媒:0.2mol/L塩酸水溶液、放射能濃度:30.6MBq/mL)20μLと、0.5mol/L酢酸アンモニウム緩衝液(pH:6.0)16μLと、水4μLとを混合した反応液を、室温(25℃)条件下で反応させて、225Ac錯体溶液を得た。反応時間は60分間とした。実施例1と同様にして、薄層クロマトグラフィーを用いて算出した、225Ac錯体の標識率は、98%であった。得られた225Acを含む反応液を、室温下で静置し、その後静置してから1時間後及び72時間後において、標識率と同様に薄層クロマトグラフィーを用いて放射化学的純度の経時変化を追跡した。表2に結果を示す。
【0204】
【表2】
【0205】
表1及び表2に示すとおり、実施例1及び実施例2の放射性金属錯体は緩衝液中で安定的に存在していた。これらのことから、本発明の放射性金属錯体が、錯形成した後に、医薬用途において安定的に存在できることが確認された。