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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125474
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】非食用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 101/04 20060101AFI20240911BHJP
   C11B 1/04 20060101ALI20240911BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20240911BHJP
   C10N 40/16 20060101ALN20240911BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C10M101/04
C11B1/04
C10N40:08
C10N40:16
C10N30:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033306
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳永 邦彦
【テーマコード(参考)】
4H059
4H104
【Fターム(参考)】
4H059BA26
4H059BB03
4H059BC14
4H059BC15
4H059EA01
4H104DA06A
4H104EB05
4H104EB09
4H104LA01
4H104PA05
4H104PA12
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、植物油脂を主成分としながら、長時間低温が維持される環境においても油脂結晶の析出が抑制され、流動性も良好な油脂組成物を開発することである。
【解決手段】80質量%以上の植物油脂を含み、非食用の用途に使用される油脂組成物であって、前記油脂組成物に含まれる植物油脂の構成脂肪酸全量に占める、飽和脂肪酸の含有量が5~24質量%であり、一価不飽和脂肪酸の含有量が20~62質量%であり、多価不飽和脂肪酸の含有量が26~58質量%である、前記非食用油脂組成物。前記植物油脂が、2種以上の植物油脂の混合油脂である、前記非食用油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
80質量%以上の植物油脂を含み、非食用の用途に使用される油脂組成物であって、
前記油脂組成物に含まれる植物油脂の構成脂肪酸全量に占める、
飽和脂肪酸の含有量が5~24質量%であり、
一価不飽和脂肪酸の含有量が20~62質量%であり、
多価不飽和脂肪酸の含有量が26~58質量%である、
前記非食用油脂組成物。
【請求項2】
前記植物油脂が、2種以上の植物油脂の混合油脂である、請求項1に記載の非食用油脂組成物。
【請求項3】
前記2種以上の植物油脂の、少なくとも1種の植物油脂の構成脂肪酸全量に占める一価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超え、少なくとも1種の植物油脂の構成脂肪酸全量に占める多価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える、請求項2に記載の非食用油脂組成物。
【請求項4】
さらに、流動点降下剤および/または酸化防止剤を含む、請求項1に記載の非食用油脂組成物。
【請求項5】
油圧作動油または電気絶縁用である、請求項1~4の何れか一項に記載の非食用油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非食用油脂組成物、特に油圧作動用または電気絶縁用に適した非食用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物油脂の主な用途は、食用と非食用(いわゆる鉱物油代替用)に分けられる。近年、植物油脂の生分解性や安全性が見直され、植物油脂の非食用用途への使用が増えつつある。そして、植物油脂の非食用用途としては、油圧作動油、チェーン油、電気絶縁油、ゴムや樹脂の可塑剤などが挙げられる。しかし、植物油脂は、大豆油など日本農林規格(JAS)のサラダ油を満たす液状の油脂であったとしても、冬期や低温に管理された作業場など、長時間低温が維持される環境にあっては、油脂結晶が析出し、流動性が棄損されて作動性などの機能に支障をきたす。かかる不都合を解消するために、流動点降下剤が使用される。例えば、特許文献1には、植物油脂にアルキルメタクリレート系ポリマーを添加した電気絶縁油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-260503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長時間低温が維持される環境における液状植物油脂からの油脂結晶析出の抑制には、流動点降下剤の使用のみでは不十分であった。
【0005】
本発明の課題は、植物油脂を主成分としながら、長時間低温が維持される環境においても油脂結晶の析出が抑制され、流動性も良好な油脂組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、植物油脂の構成脂肪酸が特定の組成に調整されることにより、長時間低温が維持される環境においても油脂結晶の析出は抑制されることが見出された。これにより、本発明は完成された。すなわち、本発明は以下の態様であり得る。
【0007】
[1]80質量%以上の植物油脂を含み、非食用の用途に使用される油脂組成物であって、
前記油脂組成物に含まれる植物油脂の構成脂肪酸全量に占める、
飽和脂肪酸の含有量が5~24質量%であり、
一価不飽和脂肪酸の含有量が20~62質量%であり、
多価不飽和脂肪酸の含有量が26~58質量%である、
前記非食用油脂組成物。
[2]前記植物油脂が、2種以上の植物油脂の混合油脂である、[1]の非食用油脂組成物。
[3]前記2種以上の植物油脂の、少なくとも1種の植物油脂の構成脂肪酸全量に占める一価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超え、少なくとも1種の植物油脂の構成脂肪酸全量に占める多価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える、[2]の非食用油脂組成物。
[4]さらに、流動点降下剤および/または酸化防止剤を含む、[1]の非食用油脂組成物。
[5]油圧作動用または電気絶縁用である、[1]~[4]の何れか1つの非食用油脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長時間低温が維持される環境においても油脂結晶の析出が抑制される非食用の油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。なお、以下で例示する好ましい形態やより好ましい形態などは、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」などの表現にかかわらず各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。
【0010】
本発明の非食用油脂組成物は、80質量%以上の植物油脂を含む。本発明の非食用油脂組成物に含まれる植物油脂は、植物原料由来の油脂である。植物油脂としては、例えば、パーム油、ココアバター、シア脂、サル脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、イリッペ脂、マンゴー核油、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油、などが挙げられる。また、これらを、混合、分別などの1以上の加工をした油脂(加工油脂)、などが挙げられる。植物油脂には、脱ガム、脱ロウ、脱色、脱臭、などの食用油脂製造の精製工程を適宜適用してもよい。植物油脂は、好ましくは日本農林規格の冷却試験において0℃5.5時間清澄である。植物油脂は、1種あるいは2種以上が使用されてもよい。本発明の好ましい形態の1つによれば、非食用油脂組成物に含まれる植物油脂の含有量は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは85~99.99質量%であり、さらに好ましくは90~99.9質量%であり、ことさらに好ましくは95~99.5質量%である。本発明の好ましい形態の1つによれば、非食用油脂組成物は、植物油脂以外に、動物油脂、微生物油脂、鉱物油、流動点降下剤、酸化防止剤、などを含み得る。
【0011】
本発明の非食用油脂組成物に含まれる植物油脂は、構成脂肪酸全量に占める、飽和脂肪酸の含有量が5~24質量%であり、好ましくは8~18質量%であり、より好ましくは9~15質量%である。飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、などが挙げられる。また、一価不飽和脂肪酸の含有量が20~62質量%であり、好ましくは24~58質量%であり、より好ましくは26~56質量%である。一価不飽和脂肪酸は、分子内に1つの2重結合を有する脂肪酸であり、例えば、パルミトイン酸、オレイン酸、などが挙げられる。また、多価不飽和脂肪酸の含有量が26~58質量%であり、好ましくは30~54質量%であり、より好ましくは32~52質量%である。多価不飽和脂肪酸は、分子内に2つ以上の2重結合を有する脂肪酸であり、例えば、リノール酸、リノレン酸、などが挙げられる。非食用油脂組成物に含まれる植物油脂の構成脂肪酸全量に占める、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸の含有量が、上記範囲の程度であると、長時間低温が維持される環境においても油脂結晶の析出が抑制されやすい。
【0012】
本発明の好ましい形態の1つによれば、非食用油脂組成物に含まれる植物油脂は、2種以上の植物油脂の混合油脂である。当該混合油脂に含まれる少なくとも1種の植物油脂は、その構成脂肪酸全量に占める一価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える。また、当該混合油脂に含まれるまた別の少なくとも1種の植物油脂は、その構成脂肪酸全量に占める多価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える。ここで、構成脂肪酸全量に占める一価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える植物油脂としては、例えば、菜種油、オリーブ油、椿油、山茶花油、高オレイン酸菜種油、高オレイン酸ひまわり油、高オレイン酸紅花油、高オレイン酸大豆油、高オレイン酸コーン油、などが挙げられる。また、構成脂肪酸全量に占める多価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える植物油脂としては、例えば、大豆油、綿実油、コーン油、ひまわり油、紅花油、グレープシード油、あまに油、えごま油、などが挙げられる。構成脂肪酸全量に占める一価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える植物油脂は、好ましくは菜種油であり、構成脂肪酸全量に占める多価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える植物油脂は、好ましくは大豆油および/またはコーン油である。本発明の好ましい形態の1つによれば、非食用油脂組成物は、1種ないし2種以上の構成脂肪酸全量に占める一価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える植物油脂と、1種ないし2種以上の構成脂肪酸全量に占める多価不飽和脂肪酸の含有量が50質量%を超える植物油脂とが、好ましくは90:10~10:90、より好ましくは80:20~20:80、さらに好ましくは70:30~30:70、の質量比で、混合される。
【0013】
本発明の好ましい形態の1つによれば、非食用油脂組成物は、流動点降下剤および/または酸化防止剤を含み得る。流動点降下剤としては、例えば、ポリメタクリレート、アルキル化芳香族化合物、フマレート・醋ビ共重合物、エチレン・醋ビ共重合物、などを有効成分とするものが知られている、また、酸化防止剤としては、例えば、ジチオリン酸亜鉛、有機硫黄化合物、ヒンダードフェノール、芳香族アミン、N,N'-ジサリシリデン-1,2-ジアミノプロパン、などを有効成分とするものが知られている。非食用油脂組成物に含まれる、流動点降下剤および/または酸化防止剤の量は、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~2質量%であり、さらに好ましくは0~1質量%である。
【0014】
本発明の非食用油脂組成物は、従来公知の油脂組成物の製造方法により製造できる。例えば、植物油脂に、流動点降下剤、酸化防止剤、などを添加、溶解ないし分散することにより得られる。植物油脂に、流動点降下剤、酸化防止剤、などを添加して、これらを溶解ないし分散しやすくするために、植物油脂は、予め加温されてもよい。例えば、このように調製された非食用油脂組成物は、植物油脂を主成分とするため、生分解性に優れている。また、長時間低温が維持される環境においても油脂結晶の析出が抑制されるので、例えば、氷点下(0℃以下、好ましくは-30℃~-10℃、より好ましくは-25℃~-15℃、さらに好ましくは-22~-18℃)の環境下においても使用され得る(同温度下においても、好ましくは10日間以上、より好ましくは20日間以上、使用に耐え得る)、屋外油圧作動装置の動力伝達や、コンデンサ、変圧器の電気絶縁用などに、好適に使用できる。
【0015】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されない。
【実施例0016】
<植物油脂>
実施に際しては、以下の植物油脂を使用した。各油脂の脂肪酸組成を表1に示した。

・菜種油(日清オイリオグループ株式会社製)
・大豆油(日清オイリオグループ株式会社製)
・亜麻仁油(日清オイリオグループ株式会社製)

*上記の油脂はすべて、日本農林規格の冷却試験において0℃5.5時間清澄である。
【0017】
【表1】

【0018】
<油脂組成物の調製および流動性評価>
表2の配合に従って植物油脂を調製した。調製した植物油脂99.5質量部にアルキルメタクリレート系の流動点降下剤を0.5質量部加えて、加温溶解し、例1~6の油脂組成物を調製した。30ml容のサンプル瓶に例1~6の油脂組成物を15g充填した。サンプル瓶に充填された例1~6の油脂組成物を-20℃の冷凍庫に静置して、静置日数による流動性の変化を観察した。結果を表2に示した。
【0019】
【表2】