(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125589
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化プラスチック及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20240911BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C08G59/68
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033505
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 力
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AD28
4F072AE01
4F072AE02
4F072AF14
4F072AF15
4F072AF19
4F072AF26
4F072AF28
4F072AF30
4F072AG03
4F072AL01
4J036AC03
4J036AD08
4J036AD11
4J036AD20
4J036AF06
4J036AJ09
4J036AJ10
4J036DA04
4J036DA05
4J036DC30
4J036FA02
4J036GA04
4J036GA23
4J036JA05
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】シアナミドを含有するエポキシ樹脂組成物において、安定的に貯蔵でき、トレードオフの関係にある使用条件の自由度と高い生産性とを両立し得る繊維強化プラスチック用のプリプレグ用として優れる有用なエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)シアナミド及び(C)硬化促進剤を必須成分として含み、(C)硬化促進剤がハロゲン化物イオンを含まないホスホニウム塩であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)シアナミド及び(C)硬化促進剤を必須成分として含み、(C)硬化促進剤がハロゲン化物イオンを含まないホスホニウム塩であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(C)硬化促進剤としてのホスホニウム塩が下記(1)、(2)及び(3)のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
式(1)~(3)中、R
1~R
4及びR
9は、それぞれ独立して炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または、アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す。
R
5~R
8は、それぞれ独立して-H、-CH
3、炭素数2~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。
【請求項3】
(A)エポキシ樹脂が1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が0.5~100Pa・sであることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(C)硬化促進剤が、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート及びテトラ-n-ブチルホスホニウムラウレートのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物に強化繊維を配合してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
請求項5に記載のプリプレグを硬化して得られることを特徴とする繊維強化プラスチック。
【請求項8】
請求項1のエポキシ樹脂組成物と強化繊維とを共に硬化して得られることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項9】
強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項8に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関し、詳しくはエポキシ樹脂に特定の硬化剤等の成分を配合して得られるエポキシ樹脂組成物、およびこれを用いたプリプレグ、繊維強化プラスチック又は繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、一分子中に平均して約2個以上エポキシ基を有する化合物を指す。エポキシ樹脂はそれ単体で材料としての機能を発現せず、エポキシ樹脂、硬化剤を必須成分としてなるエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物が材料としての機能を有する。そのため、エポキシ樹脂は一般的には熱硬化性樹脂に分類される樹脂である。
【0003】
エポキシ樹脂を硬化する際に選択される硬化剤や硬化促進剤は、非特許文献1に代表される多くの文献にまとめられている。エポキシ樹脂硬化物を使用する環境に合わせてエポキシ樹脂組成物の設計がなされ、エポキシ樹脂や硬化剤、硬化促進剤や添加剤が選択される。具体的には反応性に優れる硬化剤を選定した場合、室温硬化性を有する樹脂組成物を得ることができ、一方で反応性に乏しい硬化剤を選定した場合には、あらかじめ工場にて混合することにより使用時の計量や混合を必要としない潜在硬化性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
しかしながら、反応性に優れる硬化剤を選択した場合は混合後速やかに使用する必要があるため歩留まりが悪くなりやすく、潜在性に優れる樹脂組成物は硬化に際して高温で長時間を要するため、生産性に課題がある。すなわち、この問題は重要なトレードオフの関係にあり、高度に両立することが望まれている。
【0004】
このトレードオフを解決するための代表的な手段として、ジシアンジアミドを用いたエポキシ樹脂組成物が広く知られている。ジシアンジアミドは熱分解温度が200℃以上である結晶性の化合物であり、エポキシ樹脂と混合しても溶解することなく、粒子として存在している。エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応しうるジシアンジアミドの活性基は、ジシアンジアミドの結晶中に閉じ込められていることから、これらはジシアンジアミド表面以外において反応することはなく、高い潜在硬化性を発現する。また、硬化促進剤の設計によるところが大きいが、120℃以上に加熱するとジシアンジアミドは急速に溶解し、ただちにエポキシ樹脂との反応を開始するため、高い潜在硬化性を有する材料でありながら硬化性にも優れる材料として知られている。
【0005】
しかしながら、ジシアンジアミドを含有する樹脂組成物を繊維強化複合材料に用いる場合、粉末成分であるジシアンジアミドが強化繊維によって濾しとられてしまい、ジシアンジアミド粒子の分布に不均衡が生じる可能性があることや、溶解したのちに十分に拡散する時間を与えなければ、エポキシ樹脂とジシアンジアミドの当量比が一定にならず、均質な硬化物が得られないことが問題点としてある。特に、繊維径が細く、樹脂含有率が低い場合にこの問題点が顕著に現れる。
【0006】
シアナミドは融点が45℃前後の結晶性化合物であるが、エポキシ樹脂と溶融混和することが可能であるため、強化繊維があっても当量比は一定で、硬化促進剤存在下において均質な硬化物を得ることができる。しかしながら、常温で保管した場合、エポキシ樹脂組成物中で徐々に反応して粘度が増加するといった問題や、シアナミドが再結晶化する問題がある。これらの問題に関して特許文献1から特許文献3において、特定の構造を有するウレア化合物と有機酸または無機酸を溶融添加することにより、シアナミドの結晶性を低減し、室温付近での貯蔵安定性を改善することができると開示されている。これらの技術によれば、最大で室温2週間程度の貯蔵が可能になり、しかも硬化物の物性に著しい変化を与えないため、RTM工法に好適なエポキシ樹脂組成物を提供することが可能となる。しかしながら、ウレアを配合する場合、硬化促進剤としても機能するため、エポキシ樹脂と混合した後の長期にわたる貯蔵には依然として問題がある。
【0007】
それらを解決する方法として特許文献4において特定の体積平均粒子径を持つ防止剤粒子を添加する事で結晶性を抑制する方法が開示されているが、硬化促進剤としてはウレア化合物又はイミダゾール化合物が好ましいとしており、具体的にはイミダゾール化合物又はエポキシアミンアダクトに限定して使用しており、長期にわたる貯蔵には依然として問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2014-506622号公報
【特許文献2】特表2014-506621号公報
【特許文献3】特表2015-524865号公報
【特許文献4】特開2019-167462号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】総説エポキシ樹脂 エポキシ樹脂技術協会発行(2003年11月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、シアナミドを含有するエポキシ樹脂組成物において、安定的に貯蔵でき、トレードオフの関係にある使用条件の自由度と高い生産性とを両立し得る繊維強化プラスチック用のプリプレグ用として優れる有用なエポキシ樹脂組成物するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、硬化促進剤として特定の構造を持つホスホニウム塩を用いることで、エポキシ樹脂組成物の反応性と貯蔵安定性とを両立できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)シアナミド及び(C)硬化促進剤を必須成分として含み、(C)硬化促進剤がハロゲン化物イオンを含まないホスホニウム塩であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0013】
上記エポキシ樹脂組成物において、(C)硬化促進剤としてのホスホニウム塩が下記(1)、(2)及び(3)のいずれか1種以上を含むことが好ましい。
【化1】
【化2】
【化3】
式(1)~(3)中、R
1~R
4及びR
9は、それぞれ独立して炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または、アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す。
R
5~R
8は、それぞれ独立して-H、-CH
3、炭素数2~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。
【0014】
また、上記(A)エポキシ樹脂が1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、E型粘度計を使用して測定した25℃における粘度が0.5~100Pa・sであることが好ましい。
【0015】
また、上記(C)硬化促進剤は、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート及びテトラ-n-ブチルホスホニウムラウレートのいずれか1種以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記エポキシ樹脂組成物に強化繊維を配合してなることを特徴とするプリプレグであり、また、当該プリプレグを硬化して得られる繊維強化プラスチックである。さらに、本発明は、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを共に硬化して得られる繊維強化複合材料である。ここで、強化繊維としては、炭素繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエポキシ樹脂組成物は硬化反応性に優れると同時に、貯蔵安定性を有し、繊維強化複合材料の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)シアナミド及び(C)硬化促進剤を必須成分とする。
以下、(A)エポキシ樹脂、(B)シアナミド、(C)硬化促進剤をそれぞれ(A)成分、(B)成分及び(C)成分ともいう。
【0019】
本発明にて使用される(A)エポキシ樹脂には特に制約がなく、一種類のものを用いてもよいし、二種以上のエポキシ樹脂を混合してもよい。また、エポキシ樹脂を公知の手法により変性した変性エポキシ樹脂を用いてもよい。繊維強化プラスチックの前駆体にあたるプリプレグとして使用するためには、液状であることが好ましいが、固形のエポキシ樹脂を含有することが否定されるものではない。
【0020】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2つのエポキシ基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂(たとえば日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YD-128、YD-8125など)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(たとえば日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YDF-170、YDF-8170など)、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水素化物水添品、単量体に限らず複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(たとえば日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YDPN-638など)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(たとえば日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YDCN-700-3など)、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレ-ト、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。また、公知の手法により変性した変性エポキシ樹脂として、リン変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
これらのエポキシ樹脂中、粘度増加率の観点から1分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、その中でビスフェノールAまたはF型エポキシ樹脂が最も好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、エポキシ樹脂としては、後述の防止剤粒子を上記で例示したエポキシ樹脂で希釈してマスターバッチとした、防止剤粒子含有エポキシ樹脂の形態のものを用いることができる。その場合、防止剤粒子の含有量は、エポキシ樹脂と防止剤粒子との合計に対して、防止剤粒子は1~50重量%であることが好ましい。
【0022】
本発明で使用する(A)エポキシ樹脂は、25℃におけるE型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用して測定した粘度が0.5~100Pa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.75~80Pa・s、さらにより好ましくは1~50Pa・sである。これにより良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きにくいものとなる。また、(A)エポキシ樹脂は数種類の混合物でも良く、その混合物の粘度が上記範囲であることが好ましい。
【0023】
(B)シアナミドは硬化剤として使用される。シアナミドの特性、特に潜在性を損なわない範囲でそれ以外の硬化剤を併用することができる。シアナミドは融点が45℃程度の結晶性化合物であり、エポキシ樹脂と混和する場合はいったん融点以上に加熱する必要がある。また、シアナミドは不安定な化合物であり、融点以上の温度ではジシアンジアミドを徐々に生成することが知られている。この反応は発熱反応であるため、環境によっては暴走し、爆発に至るおそれもある。したがって、シアナミドは管理された環境で加熱溶解し、使用されなければならない。このためには、シアナミドをエポキシ樹脂であらかじめ希釈しておくことは安全上きわめて有用であり、シアナミドのマスターバッチとして使用提供することができる。シアナミドの使用量は、(A)エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.2当量から1.2当量の活性水素となるように配合することが好ましく、より好ましくは0.3~0.8当量である。0.2当量未満では、硬化剤が不足するために十分な硬化度が得られない場合があり、硬化物の架橋密度が低下し、破壊靱性が低くなりやすくなる傾向がある。1.2当量を超えると保冷時にシアナミドを十分に溶解することができず、全体が固化して液状とならない場合がある他、未反応のシアナミドが残るため機械物性が悪くなる傾向にある。しかし、シアナミドをエポキシ樹脂で希釈したマスターバッチとして使用する場合に関してはこの限りではない。また、活性水素当量が0.2当量未満であってもシアナミド以外の硬化剤を配合することによりこれを補うことはできる。シアナミド含有量が組成物全体に対して10重量%以下であれば、反応に伴う発熱が希釈されるため、安全上より好ましいと言える。
【0024】
反応性の高い硬化促進剤に対し、塩にすることで反応性を抑える手法は広く知られている。しかしシアナミドは強く分極した構造を持っており、塩をカチオンとアニオンに分離させてしまい反応性を抑えることは難しい。本発明の(C)硬化促進剤として使用するホスホニウム塩は、カチオン化したリンとアニオンとの親和性が高く、シアナミドに対しても分離せず安定である。
【0025】
本発明においては、(C)硬化促進剤として、ハロゲン化物イオンを含まないホスホニウム塩を用いるようにする。ハロゲン化物イオンを含む場合、ホスホニウムイオンとの結合力が弱く、極性の強いシアナミドによりイオン化されてしまうと推測され、よって貯蔵安定性を損なう恐れがある。なお、このようなホスホニウム塩におけるイオンの組み合わせや結合力については、例えばHSAB則(Hard and Soft Acids and Bases)に基づいた選択乃至決定をすることも可能である。
【0026】
本発明において、(C)硬化促進剤としてのハロゲン化物イオンを含まないホスホニウム塩としては、制限されないが、下記の一般式(1)~(3)で表されるいずれか1種以上を含むことが好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【0027】
ここで、式(1)~(3)中、R1~R4及びR9は、それぞれ独立して、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または、アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す。
【0028】
炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基としては、脂環構造を含んでもよいが、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。この場合、貯蔵安定性と反応性のバランスから特にR1~R4はそのすべてがn-ブチル基であることがより好ましい。
【0029】
フェニル基に置換するアルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基が好ましい。
アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基として、より具体的には、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基が好ましい。この場合、貯蔵安定性と反応性のバランスから特にR1~R4はそのすべてがフェニル基であることがより好ましい。
また、R9としては、貯蔵安定性と反応性のバランスからn-ウンデシル基であることがより好ましい。
【0030】
式(1)~(3)中、R5~R8は、それぞれ独立して、-H、-CH3、又は炭素数2~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。当該アルキル基としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1-メチル-1-エチルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、2-メチル-1-エチルプロピル基、2,2-ジメチルブチル基などが挙げられる。
特にR5~R8は-Hまたは-CH3であることが好ましい。
【0031】
このような式(1)~(3)のいずれかで表されるホスホニウム塩としては、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート及びテトラ-n-ブチルホスホニウムラウレートのいずれか1種以上であることがより好ましい。
【0032】
(C)硬化促進剤の含有量は、上記必須成分の合計(A+B+C)に対し、0.05~5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.1~3重量%である。0.05重量%より少ないと硬化促進剤としての効果が期待できない場合があり、5重量%より多いと貯蔵安定性の悪化を招く場合がある。
別の観点からは、硬化促進剤の添加量としては、エポキシ樹脂組成物に対して0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、0.1重量%以上5重量%以下がさらに好ましく、0.1重量%以上3重量%以下が望ましい。0.1重量%未満である場合は硬化不良が発生する場合があり、10重量%を超えて添加すると、炭素繊維の間隙に入り込み、硬化の際にボイドが発生しやすくなる場合がある。
【0033】
本発明においてシアナミドの結晶成長を防止又は抑制する目的で防止剤粒子を使用することもできる。防止剤粒子は、粒径2μm以下の粒子であるほか、エポキシ樹脂組成物とした時も溶解せず、粒子の形状を維持している必要がある。粒径は体積平均粒子径が用いられる。体積平均粒子径は例えばナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定することができる。粒径は、好ましくは2μm以下である。下限は制限されないが10nm以上が好ましい。より好ましくは10nm以上1μm以下であり、特に好ましくは20nm以上800nm以下であり、20nm以上500nm以下が最も好ましい。2μmを越えると、防止剤粒子自体が成形性に影響を及ぼす場合があり、また10nm未満であると組成物自体の粘度が上昇する場合がある。
【0034】
上記防止剤粒子は、例えば、有機粒子、無機粒子を用いられる。制限されないが、有機粒子としてはコアシェルゴムが好適であり、無機粒子としてはヒュームドシリカなどが挙げられる。いずれも粉末のものが販売されているが、粒径が小さく飛散しやすいために、マスターバッチ化されているものが取り扱いやすい。たとえば、有機粒子としてはコアシェルゴム(たとえばカネカ社製)などが挙げられ、無機粒子としてはヒュームドシリカ(たとえば日本アエロジル社製AerosilRY200、キャボット社製Cab-O-Sil ULTRABONDなど)などが挙げられる。
【0035】
防止剤粒子の含有量は、結晶成長を十分に抑制することやハンドリング性の観点から、エポキシ樹脂組成物中に0.5重量%以上、50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1~35重量%である。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記必須成分に加えて(D)安定剤等の他の成分を含むこともできる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、酸性物質またはそのエステル化合物を(D)安定剤として添加することができる。
酸性物質としては無機酸、有機酸を問わず使用でき、たとえばサリチル酸、フタル酸、トルエンスルホン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸もしくはこれらの無水物などが挙げられるが、金属と接合する場合もあるため、特にホウ酸エステル類が好ましい。具体的にはホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチルなどが挙げられる。
(D)安定剤の含有量は、上記必須成分の合計(A+B+C)に対し、0.005~5重量%であることがよく、好ましくは0.01~1重量%である。
別の観点から安定剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して10000ppm以下であることが好ましい。10000ppmを超えて含有すると、硬化促進剤を失活させるおそれがある。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物はさらに上記以外の成分を組成物の特性を改善するために、公知の任意成分を添加することができる。具体的には消泡剤、レベリング剤、チキソトロピー調整剤、フィラー、ゴム(液状または1μmを超えるもの)、顔料、難燃剤などを添加することができる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造は、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、各成分をニーダーにて混練する方法がある。また、二軸の押出機を用いて混練してもよい。(B)シアナミドは、室温で固体状態であるために各成分中に分散する前にあらかじめ加熱し溶融させた後、他の成分と混練する方法が好ましい。エポキシ樹脂と混合した後、加熱し溶解させる方法もあるが一部反応が進行するため好ましくない。よって、シアナミドはエポキシ樹脂の一部等を使用して予備混練を行い、マスターバッチとして使用することが好ましい。
【0040】
また、(C)硬化促進剤は、固体状態のまま各成分中に分散されることになるため、他の成分と同時に混練した場合、硬化促進剤が凝集して分散不良となる場合がある。分散不良のエポキシ樹脂組成物は、硬化物中に物性ムラが生じたり、硬化不良を生じたりするため好ましくないため、そのため硬化促進剤はエポキシ樹脂の一部を使用し、三本ロールにて予備混練しておくことが好ましい。
【0041】
このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂組成物は、その貯蔵安定性と反応性が従来よりもより調整されたものとして得ることができる。貯蔵安定性及び反応性は、例えば、実施例に記載の方法で確認することができる。貯蔵安定性については、常温(例えば、温度25℃)で保管した際において、9日後の粘度の値が初日の粘度の値の2倍以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5倍以下である。また、反応性については、エポキシ樹脂組成物が硬化する温度域である温度80~180℃、具体的には150℃において、複素粘度が1000000mPa・sに到達するまでの時間をゲルタイムとして、ゲルタイムが1000秒以下であることが好ましく、より好ましくは800秒以下である。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、当該エポキシ樹脂組成物を強化繊維とともに配合し、当該組成物が強化繊維に含浸されたプリプレグ、その中でもトウプリプレグとして好適に用いることができる。
本発明のプリプレグを製造する方法は特に限定されないが、1)エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させた後、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてプリプレグとする方法、2)有機溶媒を用いずに加熱して低粘度化したエポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させる方法、3)エポキシ樹脂組成物を、加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させる方法などが挙げられる。中でも、プリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無であり、生産性が高く高品位なプリプレグが製造できることから、上記3)に記載の方法を好ましく用いることができる。このような製造法を用いることでエポキシ樹脂組成物が含浸されたトウプリプレグを得ることができる。
【0043】
強化繊維としては制限されず、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられるが、好ましくは炭素繊維である。繊維材料の形態としては、短繊維、トウ、クロス、不織布などが挙げられ、さらに繊維の太さや束の本数、織り方などにより特性が変化するが、公知慣用のものであれば特に制限されるものではない。
【0044】
本発明においては、前記のプリプレグを硬化させることにより繊維強化プラスチックとして得ることができる。また、本発明の樹脂組成物を強化繊維とともに硬化することにより、本発明の繊維強化複合材料が得られる。
本発明のエポキシ樹脂組成物と強化繊維より構成された繊維強化プラスチック又は繊維強化複合材料において、強化繊維の体積含有率は、好ましくは30~75%、より好ましくは45~75%であり、この範囲であると空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【0045】
前記硬化の条件は、制限されないが、80~180℃、好ましくは135℃以上の温度の任意温度で、0.5~10時間の範囲の任意時間で加熱することで架橋反応を進行させて行うことができる。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り各種測定、評価は下記によるものである。なお、エポキシ当量の単位はg/eqである。
【0047】
実施例で使用した材料の略号を以下に示す。記載のないものは一般に試薬として購入できるものを用いた。
【0048】
(A)エポキシ樹脂
YD-128:BPA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製YD-128、エポキシ当量188g/eq、25℃における粘度:12.5Pa・s
MX-154;コアシェルゴム含有エポキシ樹脂、コアシェルゴム成分40重量%、BPA型エポキシ樹脂60重量%のマスターバッチ、エポキシ当量300、25℃における粘度:25.0Pa・s(株式会社カネカ製)
【0049】
(B)シアナミド:
CY-100;日本カーバイド工業株式会社製CY-100、
【0050】
(C)硬化促進剤
TPP-MK:テトラフェニルホスホニウムテトラ―p-トリルボレート(北興化学工業株式会社製)
BTBPピロメリット酸(BTBPPA):ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート(北興化学工業株式会社製)
TBP-LA:テトラ―n-ブチルホスホニウムラウレート(北興化学工業株式会社製)
TPP-BB:n-ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド(北興化学工業株式会社製)
2MAOK-PW:2,4-ジアミノ―6-[2’-メチルイミダゾリル―(1’)]―エチル―s-トリアジン イソシアヌル酸付加塩(四国化成工業株式会社製)
オミキュア―24:(1,1’-(4-メチル―1,3フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)(PTIジャパン株式会社製)
【0051】
その他
TBB:ホウ酸トリブチル(東京化成工業株式会社製 試薬)
【0052】
実施例1
容器にYD-128(100.0g)及びTPP-MK(1.0g)をはかりとり、ここに、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY-100(5.15g)を加えて均一に分散するまで攪拌して実施例1のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0053】
実施例2
容器にYD-128(100.0g)及びTPP-MK(1.0g)およびTBB(0.025g)をはかりとり、あらかじめ50℃で溶融しておいたCY-100(5.15g)を加えて均一に分散するまで攪拌して実施例2のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0054】
実施例3~7、比較例1~6
実施例1及び実施例2と同様の手順で表中の処方に従いエポキシ樹脂組成物を得た。
【0055】
エポキシ樹脂組成物の評価は、下記による。
【0056】
粘度;
東機産業社製RE85H E型粘度計を用いて25℃での粘度を測定した。粘度の単位はPa・s又はmPa・sであり、測定不可はNDで表す。
【0057】
反応性:
Anton-Paar社製レオメーターMCR102を用いてせん断ひずみ10%、周波数1Hz、150℃の条件にて複素粘度が1000000mPa・sに到達するまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0058】