(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125761
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】スノーモービルのトンネルおよびその製造方法、スノーモービル
(51)【国際特許分類】
B62M 27/02 20060101AFI20240911BHJP
B62J 23/00 20060101ALI20240911BHJP
B62J 15/00 20060101ALI20240911BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B62M27/02 J
B62J23/00 F
B62J15/00 B
B62J15/00 C
B29C70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033807
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】糸川 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】加地 暁
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG03
4F205AG06
4F205AH59
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA35
4F205HA45
4F205HB01
4F205HC02
4F205HC06
4F205HK03
4F205HK05
(57)【要約】
【課題】充分な強度を確保しつつ、量産に適したトンネルを提供すること。
【解決手段】スノーモービルのトンネルであって、プレス成形された上壁11および2つの側壁12、13を含む一体成形部(integrally molded part)10を有し、一体成形部10には上壁11から2つの側壁12、13のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層21と、チョップド炭素繊維強化層21に積層された連続炭素繊維強化層22とが含まれる、トンネル。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スノーモービルのトンネルであって、プレス成形された上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれる、トンネル。
【請求項2】
前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、請求項1に記載のトンネル。
【請求項3】
前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、請求項1または2に記載のトンネル。
【請求項4】
前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを、前記上壁の下面に有している、請求項3に記載のトンネル。
【請求項5】
前記チョップド炭素繊維強化層は、ビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、前記連続炭素繊維強化層は、ジシアンジアミドにより硬化したエポキシ樹脂からなる、請求項2~4のいずれか一項に記載のトンネル。
【請求項6】
前記一体成形部は、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層を更に含み、前記保護層は樹脂組成物からなる、請求項5に記載のトンネル。
【請求項7】
前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、請求項6に記載のトンネル。
【請求項8】
前記保護層は、ジシアンジアミド以外の硬化剤により硬化したエポキシ樹脂を含有する、請求項6または7に記載のトンネル。
【請求項9】
前記保護層が無機繊維からなる不織布を含有する、請求項6~8のいずれかに記載のトンネル。
【請求項10】
スノーモービルのトンネルを製造する方法であって、前記トンネルは上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれ、前記一体成形部は炭素繊維シートモールディングコンパウンドと連続炭素繊維プリプレグを含む積層物をプレス金型内で加熱および加圧することにより形成される、方法。
【請求項11】
前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを、前記上壁の下面に有している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記炭素繊維シートモールディングコンパウンドは、マトリックス中にビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有し、前記連続炭素繊維プリプレグはマトリックス中にエポキシ樹脂とジシアンジアミドを含有する、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記一体成形部は、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層を更に含み、前記積層物は前記炭素繊維シートモールディングコンパウンドと前記連続炭素繊維プリプレグに積層された樹脂フィルムを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記樹脂フィルムはエポキシ樹脂とジシアンジアミド以外のエポキシ硬化剤とを含有する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記樹脂フィルムが無機繊維からなる不織布を含有する、請求項15~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
プレス成形された一体成形部を有する構造体であって、前記一体成形部にはチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層と、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層とが含まれ、前記チョップド炭素繊維強化層は、ビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、前記連続炭素繊維強化層は、ジシアンジアミドにより硬化したエポキシ樹脂からなり、前記保護層は樹脂組成物からなる、構造体。
【請求項20】
前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、請求項19に記載の構造体。
【請求項21】
前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、請求項19または20に記載の構造体。
【請求項22】
前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、請求項19~21のいずれかに記載の構造体。
【請求項23】
前記保護層は、ジシアンジアミド以外の硬化剤により硬化したエポキシ樹脂を含有する、請求項19~21のいずれかに記載の構造体。
【請求項24】
前記保護層が無機繊維からなる不織布を含有する、請求項19~23のいずれかに記載の構造体。
【請求項25】
一体成形部を有する構造体を製造する方法であって、前記一体成形部にはチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層と、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層とが含まれ、前記一体成形部は、マトリックス中にビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有する炭素繊維シートモールディングコンパウンドと、マトリックス中にエポキシ樹脂とジシアンジアミドを含有する連続炭素繊維プリプレグと、樹脂フィルムとを含む積層物をプレス金型内で加熱および加圧することにより形成される、方法。
【請求項26】
前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、請求項25~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記樹脂フィルムはエポキシ樹脂とジシアンジアミド以外のエポキシ硬化剤とを含有する、請求項25~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記樹脂フィルムが無機繊維からなる不織布を含有する、請求項25~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
請求項25~30のいずれかに記載の方法で製造された構造体。
【請求項32】
オートバイのカウル、ドローンのカウルまたは自転車のフェンダーである、請求項19~24および31のいずれかに記載の構造体。
【請求項33】
前記構造体がオートバイのカウル、ドローンのカウルまたは自転車のフェンダーである、請求項25~30のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スノーモービルのトンネルおよびその製造方法、スノーモービルに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)、特に繊維補強材として炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、自動車、船舶、鉄道車両、有人航空機、無人航空機その他の輸送機器の部品やICT機器の筐体に適した、軽量かつ力学特性に優れた材料であり、近年その重要度はますます高くなっている。
【0003】
スノーモービルにおいても他の輸送機器と同様に、軽量化が望まれている。
特許文献1にはトンネルをCFRPで形成することにより軽量化したスノーモービルが開示されている。
スノーモービルは積雪下での使用が前提であるため、トンネルにも耐水性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ではCFRP製のトンネルの製造方法として、オートクレーブ成形が例示されている。しかし、オートクレーブ成形は、量産に適していない。
【0006】
本発明の主たる目的は、充分な強度を確保しつつ、量産に適したスノーモービルのトンネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、スノーモービルのトンネルであって、プレス成形された上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれる、トンネルが提供される。
【0008】
本発明の他の一態様によれば、スノーモービルのトンネルを製造する方法であって、前記トンネルは上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれ、前記一体成形部は炭素繊維シートモールディングコンパウンドと連続炭素繊維プリプレグを含む積層物をプレス金型内で加熱および加圧することにより形成される、方法。
【発明の効果】
【0009】
UDプリプレグのような連続炭素繊維プリプレグと、炭素繊維シートモールディングコンパウンドとを組み合わせて用いるので、トンネルの強度を確保しつつ(連続炭素繊維プリプレグ)、トンネルにリブを設けて剛性を高める(炭素繊維シートモールディングコンパウンド)ことができる。また、プレス成形法を使用するので量産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るトンネルの斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るトンネルの斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るトンネルの斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るトンネルの断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るトンネルの断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るトンネルの斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るトンネルの斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るトンネルの断面図である。
【
図9】
図9は、引張り強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のいくつかの実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図面における寸法比は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる場合がある。また、図面において同一の構成については同じ符号を用いて示し、重複する構成について説明を省略することがある。
【0012】
1.スノーモービルのトンネル
本発明の一実施形態はスノーモービルのトンネルに関する。
実施形態に係るトンネルは、プレス成形された上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれる。
連続炭素繊維強化層を積層することで強度を確保できるうえ、チョップド炭素繊維強化層の表面にリブを形成することで剛性を高めることもできる。また、プレス成形法で製造されるので量産に適している。
【0013】
図1は、実施形態に係るトンネルを例示する斜視図である。
トンネル1は、上壁11と、上壁11の各側端から下方に伸びる側壁12、13と、を備える逆U字状の横断面を有する長尺物品である。
トンネル1は、
図2に示すように、側壁12、13の下端に一対のフランジ14、15を有してもよい。言い換えれば、ハットチャンネル形状を有してもよい。一対のフランジ14、15は、トンネル1上に着座した乗員の足置きとなり得る。
図3に示すように、トンネル1において、2つの側壁12、13の間隔は、上方から下方に向かうにつれて広がっていてもよい。
【0014】
実施形態に係るトンネル1はCFRPからなるプレス成形品であり、前述の上壁11と2つの側壁12、13を含む一体成形部(integrally molded part)10を有している。
図4は、
図1のトンネル1の長さ方向に垂直な面で切断した横断面図である。
一体成形部10は上壁11から2つの側壁12、13のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層21を有し、更に、チョップド炭素繊維強化層21に積層された連続炭素繊維強化層22を含む。
【0015】
連続炭素繊維強化層22は、
図4に示すようにチョップド炭素繊維強化層21の全体に積層されていてもよいし、
図5に示すように一部にのみ積層されていてもよい。
連続炭素繊維強化層22は、チョップド炭素繊維強化層21の外側に積層されていてもよいし、内側に積層されていてもよいし、内側と外側の両方に積層されていてもよい。
【0016】
チョップド炭素繊維強化層21は、炭素繊維シートモールディングコンパウンドが硬化することにより形成される。連続炭素繊維強化層22は、連続炭素繊維プリプレグが硬化することにより形成される。
連続炭素繊維強化層22は少なくとも部分的にチョップド炭素繊維強化層21と接している。言い換えれば、連続炭素繊維強化層22とチョップド炭素繊維強化層21の間には、部分的に別の層が介在していてもよい。
【0017】
剛性を高めるために、一体成形部はチョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有することが好ましい。
図6に示すように、好適例において、リブ16は上壁11の下面11aに設けられるが、限定するものではない。上壁の下面に加えて、または、上壁の下面に代えて、他の場所にリブを形成してもよい。
リブ16は、例えば、
図7に示すように格子状に設けることができるが、限定するものではない。例えば、側壁に直交する方向に延びるリブのみを設けることもできる。
【0018】
炭素繊維シートモールディングコンパウンド(SMC)は、シート状プリプレグの一種であり、繊維長が典型的には5~60mmであるチョップド炭素繊維束をキャリアフィルム上に散布することにより形成されるランダムマットを、熱硬化性樹脂組成物からなるペーストで含浸させることにより製造される。
【0019】
ペーストには、ビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかが、反応性希釈剤、ラジカル重合開始剤、増粘剤および任意成分と共に配合される。好ましくは、ビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の両方がペーストに配合される。反応性希釈剤は液状のビニル化合物であり、その例にはスチレンおよび各種の(メタ)アクリレートが含まれる。
任意成分の例には、重合禁止剤、低収縮剤、内部離型剤、着色剤、難燃剤および酸化防止剤の他、ゴム、エラストマーまたは熱可塑性樹脂からなる改質剤が含まれる。
【0020】
連続炭素繊維プリプレグの典型例は、炭素繊維UD(一方向)プリプレグと炭素繊維ファブリックプリプレグである。
シート状の炭素繊維UDプリプレグを繊維方向に沿ってスリットすることにより製造される炭素繊維UDプリプレグテープは、炭素繊維UDプリプレグの一種である。
炭素繊維ファブリックプリプレグには、補強材として製織された炭素繊維ファブリックを用いたものの他、一方向に引き揃えられた炭素繊維トウをステッチで接合させたノンクリンプ炭素繊維ファブリックを補強材に用いたものが含まれる。
【0021】
連続炭素繊維プリプレグには、マトリックスとして、熱硬化性のエポキシ樹脂組成物が用いられる。エポキシ樹脂組成物には、貯蔵安定性が高くなるように、好ましくは潜在性硬化剤が配合される。
【0022】
好ましい潜在硬化剤には、エポキシ樹脂組成物に速硬化性を付与できることから、イミダゾール硬化剤が含まれる。
イミダゾール硬化剤は、例えば、イミダゾールの水素原子が置換基で置換された置換イミダゾール、イミダゾリウム塩およびイミダゾール錯体のような、イミダゾール環を有する化合物を含有するエポキシ硬化剤である。
【0023】
置換イミダゾールの好適例には、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールのような、分子中にヘテロ芳香族環であってもよい芳香族環を有する置換イミダゾールが含まれる。
【0024】
ジシアンジアミドは潜在性硬化剤であり、更に、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)や2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を促進剤として共に配合することで、エポキシ樹脂組成物に速硬化性を付与することができる。
【0025】
イミダゾール硬化剤により硬化したエポキシ樹脂は、骨格中に含まれるヒドロキシ基が比較的少ないので、耐水性が良好である。
【0026】
ジシアンジアミドにより硬化したエポキシ樹脂は、イミダゾール硬化剤により硬化したエポキシ樹脂と比べて靭性が高く、強度が要求される用途に適している。
後述する実験結果が示すように、エポキシ硬化剤にジシアンジアミドを使用した炭素繊維プリプレグは、イミダゾール硬化剤を使用したものに比べて、プレス成形法によってSMCと一体的に硬化させたときに、SMCの硬化物に対する接着強度の高い硬化物が得られる。
一方で、ジシアンジアミドにより硬化したエポキシ樹脂は、骨格中に含まれるヒドロキシ基が比較的多く、耐水性に劣ることが知られている。硬化したエポキシ樹脂の機械物性は吸水することに低下するのが普通であるから、耐水性に劣るとは、吸水性が高いことを意味するといってもよい。
【0027】
そこで、
図8に示すように、好適例に係る一体成形部10においては、ジシアンジアミドをエポキシ硬化剤に用いた連続炭素繊維プリプレグから連続炭素繊維強化層22を形成するとともに、そのチョップド炭素繊維強化層21側とは反対側の表面を覆う保護層23を設けてもよい。
この好適例では、ジシアンジアミド系のエポキシ硬化剤を用いた連続炭素繊維プリプレグを使用することで、連続炭素繊維強化部とチョップド炭素繊維強化部の境界での接合強度を良好なものとすることができるうえ、耐水性の低下が保護層を設けることによって補われる。
【0028】
保護層23は樹脂組成物からなり、好ましくは、連続炭素繊維強化層22よりも吸水性が低い。保護層23は熱可塑性樹脂からなってもよいし、熱硬化した樹脂、例えば硬化したエポキシ樹脂からなってもよい。好適例において、保護層23はジシアンジアミド以外の硬化剤により硬化したエポキシ樹、中でもイミダゾール硬化剤により硬化したエポキシ樹脂からなってもよい。
保護層23は、無機繊維からなる不織布を含有してもよい。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0029】
実施形態に係るトンネルは、一体成形部の表面に形成された塗膜を有していてもよい。
塗膜の形成には、CFRPの塗装に通常使用される方法を適宜用いることができる。
【0030】
2.スノーモービルのトンネルの製造方法
本発明の他の一実施形態はスノーモービルのトンネルの製造方法、とりわけ、前記「1.スノーモービルのトンネル」に記述したトンネルの製造に好ましく用い得る製造方法に関する。
実施形態に係る方法で製造するトンネルは、上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれる。製造するトンネルの好ましい態様は、前記「1.スノーモービルのトンネル」で説明したとおりである。
【0031】
一体成形部はプレス成形により形成される。すなわち、炭素繊維シートモールディングコンパウンドと連続炭素繊維プリプレグを含む積層物をプレス金型内に置いて、加熱および加圧することにより形成される。
積層物を予備賦形すること(preforming)によりプリフォーム品を得た後、前記プリフォーム品をプレス金型に置いて加熱および加圧してもよい。
【0032】
積層物は、1プライまたは2プライ以上の炭素繊維シートモールディングコンパウンドと、1プライまたは2プライ以上の連続炭素繊維プリプレグを含み得る。
保護層を含む一体成形部を形成する場合、積層物は炭素繊維シートモールディングコンパウンドと連続炭素繊維プリプレグに積層された、樹脂フィルムを更に含む。一体成形部を形成するためのプレス成形の過程で、この樹脂フィルムから保護膜が形成される。
【0033】
樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂からなってもよいし、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂からなってもよい。好適例において、該樹脂フィルムはジシアンジアミド以外の硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物、中でもイミダゾール硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物からなる。
熱硬化性樹脂層は、無機繊維からなる不織布を含有してもよい。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0034】
プレス成形時の成形温度(金型内の温度)は、熱硬化性樹脂の硬化温度に依存して、110~160℃が好ましく、120~150℃がより好ましい。
【0035】
プレス成形では、前記積層物又はそのプリフォームを、前記成形温度、圧力1~10MPaの条件下で、1~60分間加熱してエポキシ樹脂組成物を硬化させて成形することが好ましい。成形時間は、30分以下がより好ましく、20分以下がさらに好ましい。成形時間が前記上限値以下であれば、量産性が高く、エネルギー消費も低減される。
【0036】
一体成形部の表面に塗膜を形成する場合、塗膜の形成には、CFRPの塗装に通常使用される方法を適宜用いることができる。
【0037】
3.その他の実施形態
実施形態に係るスノーモービルのトンネルが有する構造は、高強度でありながら軽量で、更に耐水性が要求される、スノーモービルのトンネル以外の構造体にも適用することが可能である。
かかる構造体の典型例として、ジェットスキーのトンネル、オートバイまたはドローンのカウル、自転車のフェンダーが挙げられる。
【0038】
4.実施形態のまとめ
まとめると、本発明の実施形態は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
[実施形態1]スノーモービルのトンネルであって、プレス成形された上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれる、トンネル。
[実施形態2]前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、実施形態1に係るトンネル。
[実施形態3]前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、実施形態1または2に係るトンネル。
[実施形態4]前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを、前記上壁の下面に有している、実施形態3に係るトンネル。
[実施形態5]前記チョップド炭素繊維強化層は、ビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、前記連続炭素繊維強化層は、ジシアンジアミドにより硬化したエポキシ樹脂からなる、実施形態2~4のいずれかに係る記載のトンネル。
[実施形態6]前記一体成形部は、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層を更に含み、前記保護層は樹脂組成物からなる、実施形態5に係る記載のトンネル。
[実施形態7]前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、実施形態6に係るトンネル。
[実施形態8]前記保護層は、ジシアンジアミド以外の硬化剤により硬化したエポキシ樹脂を含有し、好ましくはイミダゾール硬化剤により硬化したエポキシ樹脂を含有する、実施形態6または7に係るトンネル。
[実施形態9]前記保護層が無機繊維からなる不織布を含有する、実施形態6~8のいずれかに係るトンネル。
[実施形態10]スノーモービルのトンネルを製造する方法であって、前記トンネルは上壁および2つの側壁を含む一体成形部(integrally molded part)を有し、前記一体成形部には前記上壁から前記2つの側壁のそれぞれにかけて連続するチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層とが含まれ、前記一体成形部は炭素繊維シートモールディングコンパウンドと連続炭素繊維プリプレグを含む積層物をプレス金型内で加熱および加圧することにより形成される、方法。
[実施形態11]前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、実施形態10に係る方法。
[実施形態12]前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、実施形態10または11に係る方法。
[実施形態13]前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを、前記上壁の下面に有している、実施形態12に係る記載の方法。
[実施形態14]前記炭素繊維シートモールディングコンパウンドは、マトリックス中にビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有し、前記連続炭素繊維プリプレグはマトリックス中にエポキシ樹脂とジシアンジアミドを含有する、実施形態10~13のいずれかに係る方法。
[実施形態15]前記一体成形部は、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層を更に含み、前記積層物は前記炭素繊維シートモールディングコンパウンドと前記連続炭素繊維プリプレグに積層された樹脂フィルムを更に含む、実施形態14に係る方法。
[実施形態16]前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、実施形態15に係る方法。
[実施形態17]前記樹脂フィルムはエポキシ樹脂とジシアンジアミド以外のエポキシ硬化剤とを含有し、好ましくはイミダゾール硬化剤を含有する、実施形態15または16に係る方法。
[実施形態18]前記樹脂フィルムが無機繊維からなる不織布を含有する、実施形態15~17のいずれかに係る方法。
[実施形態19]プレス成形された一体成形部を有する構造体であって、前記一体成形部にはチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層と、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層とが含まれ、前記チョップド炭素繊維強化層は、ビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、前記連続炭素繊維強化層は、ジシアンジアミドにより硬化したエポキシ樹脂からなり、前記保護層は樹脂組成物からなる、構造体。
[実施形態20]前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、実施形態19に係る構造体。
[実施形態21]前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、実施形態19または20に係る構造体。
[実施形態22]前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、実施形態19~21のいずれかに係る構造体。
[実施形態23]前記保護層は、ジシアンジアミド以外の硬化剤により硬化したエポキシ樹脂を含有し、好ましくはイミダゾール硬化剤により硬化したエポキシ樹脂を含有する、実施形態19~21のいずれかに係る構造体。
[実施形態24]前記保護層が無機繊維からなる不織布を含有する、実施形態19~23のいずれかに係る構造体。
[実施形態25]一体成形部を有する構造体を製造する方法であって、前記一体成形部にはチョップド炭素繊維強化層と、前記チョップド炭素繊維強化層に積層された連続炭素繊維強化層と、前記連続炭素繊維強化層の前記チョップド炭素繊維強化層側とは反対側の表面を覆う保護層とが含まれ、前記一体成形部は、マトリックス中にビニルエステル樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含有する炭素繊維シートモールディングコンパウンドと、マトリックス中にエポキシ樹脂とジシアンジアミドを含有する連続炭素繊維プリプレグと、樹脂フィルムとを含む積層物をプレス金型内で加熱および加圧することにより形成される、方法。
[実施形態26]前記連続炭素繊維強化層は少なくとも部分的に前記チョップド炭素繊維強化層と接している、実施形態25に係る方法。
[実施形態27]前記一体成形部は、前記チョップド炭素繊維強化層の表面に形成されたリブを有している、実施形態25または26に係る方法。
[実施形態28]前記保護層は、前記連続炭素繊維強化層よりも吸水性が低い、実施形態25~27のいずれかに係る方法。
[実施形態29]
前記樹脂フィルムはエポキシ樹脂とジシアンジアミド以外のエポキシ硬化剤とを含有し、好ましくはイミダゾール硬化剤を含有する、実施形態25~28のいずれかに係る方法。
[実施形態30]前記樹脂フィルムが無機繊維からなる不織布を含有する、実施形態25~29のいずれかに係る方法。
[実施形態31]実施形態25~30のいずれかに係る方法で製造された構造体。
[実施形態32]オートバイのカウル、ドローンのカウルまたは自転車のフェンダーである、実施形態19~24および31のいずれかに係る構造体。
[実施形態33]前記構造体がオートバイのカウル、ドローンのカウルまたは自転車のフェンダーである、実施形態25~30のいずれかに係る方法。
【0039】
5.実験結果
以下に、本発明者等が行った実験の結果を記す。
【0040】
次の材料を使用した。
・繊維長約25mmのチョップド炭素繊維からなるランダムマットを、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、スチレン、ラジカル重合開始剤およびポリイソシアネート系増粘剤を含有する樹脂ペーストで含浸させ、次いで熟成させることにより製造された炭素繊維シートモールディングコンパウンド(以下「SMC」と呼ぶ)。
・硬化剤としてジシアンジアミドを含有するエポキシ樹脂組成物をマトリックスとする炭素繊維UDプリプレグ(以下「UDプリプレグA」と呼ぶ)。
・硬化剤としてイミダゾール系化合物を含有するエポキシ樹脂組成物をマトリックスとする炭素繊維UDプリプレグ(以下「UDプリプレグB」と呼ぶ)。
以下の手順にて引張り試験サンプルを作製した。
サンプル1
縦295mm、横295mmにカットしたSMCの上に、同じ縦横サイズにカットしたプリプレグAを10層含むクロスプライ積層体を重ねたSMC-UDプリプレグ積層物を作製した。
このSMC-UDプリプレグ積層物を予め140℃に加熱されたプレス金型に入れ、圧力8MPaで加圧した状態で10分間保持することにより硬化させ、成形板を得た。その成形板から、湿式カッターを用いて、引張試験用の25mm×25mm×の矩形の試験片(サンプル1)を切り出した。
サンプル2
UDプリプレグAをUDプリプレグ2に置き換えたこと以外は全てサンプル1と同様にして試験片(サンプル2)を作製した。
作製した試験片について、100kNインストロン4482を用い、ASTM C297に準拠して、積層方向の引張り試験を行った。
結果を
図9に示す。
図9ではサンプル1の引張強度を1として、サンプル2の相対的な引張強度を示している。
【0041】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 トンネル
10 一体成形部
11 上壁
12、13 側壁
14、15 フランジ
16 リブ
21 チョップド炭素繊維強化層
22 連続炭素繊維強化層
23 保護層