(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125792
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】シリカ含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033858
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 知昭
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英明
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC13
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH40
4G072JJ12
4G072JJ22
4G072KK03
4G072LL06
4G072MM01
4G072RR01
4G072RR12
4G072RR15
(57)【要約】
【課題】NaOH消費を削減するシリカ含有組成物の製造方法の提供。
【解決手段】ケイ素含有廃棄物とNaOH水溶液とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣を分取する工程と、ケイ酸塩含有液とCO
2含有ガスを接触させてシリカ粒子を含む第1懸濁液を得る工程と、シリカ粒子を含む第1固相とNa
2CO
3を含む第1液相に分離する工程と、第1固相を水で洗浄してシリカ粒子を含むシリカ含有組成物を得る工程と、第1液相又は第1固相を洗浄して得られる洗浄排水を含む回収液に、Ca/Naのモル比が0.7~2.0となるようにカルシウム系薬剤を添加し、NaOHとCaCO
3を含む第2懸濁液を得る工程と、第2懸濁液をNaOHを含む第2液相とCaCO
3を含む第2固相に分離し、第2液相から得られる再生NaOH水溶液をスラリー調製工程で使用する工程を有する、シリカ含有組成物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有廃棄物とNaOH水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーから前記ケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、
前記抽出液を含むケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとを接触させてシリカ粒子を含む第1懸濁液を得る晶析工程と、
前記シリカ粒子を含む第1固相とNa2CO3を含む第1液相とに分離する固液分離工程と、
前記第1固相を水で洗浄して前記シリカ粒子を含むシリカ含有組成物を得る洗浄工程と、
前記第1液相、及び前記第1固相を洗浄して得られる洗浄排水の少なくとも一方を含む回収液にカルシウム系薬剤を添加し、NaOHとCaCO3を含む第2懸濁液を得る再生工程と、
前記第2懸濁液を、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相に分離し、前記第2液相から得られる再生NaOH水溶液を前記スラリー調製工程で前記NaOH水溶液の少なくとも一部として使用するリサイクル工程と、を有し、
前記再生工程では、Ca/Naのモル比が0.7~2.0となるように前記カルシウム系薬剤を前記回収液に添加する、シリカ含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー調製工程において、前記NaOH水溶液の濃度が1~24質量%である、請求項1に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー調製工程では、前記スラリーを50~200℃に加熱して前記ケイ素含有廃棄物と前記NaOHとを反応させる、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記分取工程では、前記スラリーからNa2Oの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記晶析工程において、前記ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量が120~700Lとなるように、前記ケイ酸塩含有液と前記CO2含有ガスとを接触させる、請求項1に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項6】
前記晶析工程において、前記ケイ酸塩含有液と前記CO2含有ガスとを30~90℃の温度で接触させる、請求項1又は5に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記晶析工程で得られる前記第1懸濁液を50~90℃に保持する熟成工程を有する、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄工程は、前記水で洗浄した後、酸及び水をこの順に用いて前記第1固相をさらに洗浄することを含む、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記再生工程では、前記回収液を70℃以上且つ100℃未満の温度に加熱して前記第2懸濁液を得る、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項10】
前記ケイ素含有廃棄物が石炭灰を含む、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項11】
前記CO2含有ガスは工場で発生する排ガスを含む、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項12】
前記残渣をセメント原料として使用する、請求項1に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項13】
前記CaCO3を含む前記第2固相をセメント原料として使用する、請求項1又は12に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項14】
前記再生NaOH水溶液におけるNaOHの濃度及びNa2CO3の濃度を、それぞれA[mol/L]及びB[mol/L]としたときに、下記式(α)で算出されるNaOH再生率C[%]が70%以上である、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
C=(A/(A+2B))×100 (α)
【請求項15】
前記スラリー調製工程で前記ケイ素含有廃棄物と混合されるNaOHの総量に対する、前記スラリー調製工程で使用される前記再生NaOH水溶液に含まれるNaOHのモル比率が、30mol%以上である、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項16】
前記スラリー調製工程、前記リサイクル工程及びこれらの間の工程のいずれかにおいて、液体及び/又は固体のサンプルを採取して重金属濃度を測定する測定工程を有する、請求項1又は2に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【請求項17】
前記測定工程における前記重金属濃度の測定結果に基づいて、前記スラリー調製工程で使用される前記再生NaOH水溶液の比率を調製するリサイクル率調整工程を有する、請求項16に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰、焼却灰、スラグ及び廃ガラス等のケイ素含有廃棄物は、年間数千万トン発生しており、リサイクルしきれないものは埋め立てにより最終処分されている。廃棄物において多量に含まれるケイ素は、産業上有用な成分であるため、これらの廃棄物からケイ素が再利用可能な形態で回収できれば、最終処分量の削減及び循環型社会の形成への貢献が期待される。
【0003】
ケイ素含有廃棄物からシリカを回収する技術として、例えば特許文献1、2には、石炭灰を原料とし、70~150℃の加熱条件下、40質量%以上又は25質量%以上といった高濃度のNaOH水溶液を用いてシリカ成分を抽出した後、抽出液に炭酸ガスを通気して得られるシリカ晶析液を固液分離することでシリカを回収する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1は、アルミナ分に富む残渣から人工骨材を製造することを目的としており、石炭灰からシリカ成分を抽出した後の残渣の処理方法として、加熱固化して成形するか、又はセメント及び水を添加し造粒成型する技術が開示されている。特許文献2は、シリカ成分を抽出した後の残渣からAl2O3を生成させるとともに、残渣をフィラー材又はセメント原料として利用する技術が開示されている。また、炭酸化法によりシリカを生成した後のNa2SiO3溶液を、CaO又はCa(OH)2で塩基化してNaOH溶液を再生することが開示されている。
【0005】
特許文献3では、石炭灰と水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製し、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取した後、抽出液とCO2含有ガスとを接触させてシリカ粒子を晶析させる技術が開示されている。また、固形分離でシリカが回収されたアルカリ溶液から炭酸ナトリウム成分を回収し、抽出工程で原料の一部として再利用してもよいことが開示されている。一方、特許文献4では、炭酸ナトリウム水溶液に消石灰を加えて水酸化ナトリウムの水溶液を再生する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-067526号公報
【特許文献2】特表2009-519829号公報
【特許文献3】特開2022-131418号公報
【特許文献4】特開昭58-204820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来方法では、シリカの収率を高くするために、多量のNaOHが必要である。一方で、NaOHをリサイクルすることについては、例えば特許文献2に開示があるものの、どのような条件で回収されるのかは明らかではない。そこで、本発明は、シリカ含有組成物の製造に用いるNaOHの消費量を削減することが可能なシリカ含有組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、ケイ素含有廃棄物とNaOH水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、前記スラリーから前記ケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、前記抽出液を含むケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとを接触させてシリカ粒子を含む第1懸濁液を得る晶析工程と、前記シリカ粒子を含む第1固相とNa2CO3を含む第1液相とに分離する固液分離工程と、前記第1固相を水で洗浄して前記シリカ粒子を含むシリカ含有組成物を得る洗浄工程と、前記第1液相、及び前記第1固相を洗浄して得られる洗浄排水の少なくとも一方を含む回収液にカルシウム系薬剤を添加し、NaOHとCaCO3を含む第2懸濁液を得る再生工程と、前記第2懸濁液を、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相に分離し、前記第2液相から得られる再生NaOH水溶液を前記スラリー調製工程で前記NaOH水溶液の少なくとも一部として使用するリサイクル工程と、を有し、前記再生工程では、Ca/Naのモル比が0.7~2.0となるように前記カルシウム系薬剤を前記回収液に添加する、シリカ含有組成物の製造方法を提供する。
【0009】
上記製造方法では、シリカ含有組成物を製造する際に生じるNa2CO3を含む第1液相及び洗浄排水の少なくとも一方を含む回収液に、カルシウム系薬剤を添加する際に、Ca/Naのモル比が所定の範囲になるようにカルシウム系薬剤を添加する。このため、カルシウム系薬剤を添加して得られる回収液から効率的にNaOHを再生することができる。再生したNaOHをスラリー調製工程で用いることによって、NaOHの消費量を抑制することができる。したがって、シリカ含有組成物の製造に必要なNaOH量を削減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリカ含有組成物の製造に用いるNaOHの消費量を削減することが可能なシリカ含有組成物の製造方法を提供することができる。この製造方法によれば、NaOH試薬の製造の際に生じるCO2排出量を低減でき、環境負荷を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】シリカ含有組成物の製造方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。「~」を用いて示される数値範囲は、「~」の左側を下限値、右側を上限値とし、当該下限値及び当該上限値を含む数値範囲である。各数値範囲の上限又は下限をいずれかの実施例の数値で置き換えたものも、本明細書の開示内容に含まれる。
【0013】
一実施形態に係るシリカ含有組成物の製造方法は、ケイ素含有廃棄物とNaOH水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、当該スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、当該抽出液を含むケイ酸塩含有液とCO
2含有ガスとを接触させてシリカ粒子を含む第1懸濁液を得る晶析工程と、シリカ粒子を含む第1固相とNa
2CO
3を含む第1液相とに分離する固液分離工程と、第1固相を水で洗浄してシリカ粒子を含むシリカ含有組成物を得る洗浄工程と、第1液相、及び第1固相を洗浄して得られる洗浄排水の少なくとも一方を含む回収液にカルシウム系薬剤を添加し、NaOHとCaCO
3を含む第2懸濁液を得る再生工程と、第2懸濁液を、NaOHを含む第2液相とCaCO
3を含む第2固相に分離し、第2液相から得られる再生NaOH水溶液を前記スラリー調製工程で前記NaOH水溶液の少なくとも一部として使用するリサイクル工程とを有する。
図1は、本実施形態の製造方法の一例を示す図である。
【0014】
スラリー調製工程では、原料として、ケイ素含有廃棄物とNaOHの濃度が1~24質量%であるNaOH水溶液を用いる。ケイ素含有廃棄物は、石炭灰、焼却灰、スラグ及び廃ガラスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。これらのうち、シリカの純度向上の観点及び残渣中のアルカリ量低減の観点から、ケイ素含有廃棄物は石炭灰を含むことが好ましい。石炭灰は、石炭の燃焼によって生成したものであれば特に限定されない。
【0015】
石炭灰は、例えば、石炭火力発電所にて微粉炭を燃焼した際に生成する灰であってよい。より具体的には、電気集塵機等で回収されるフライアッシュ、及び、燃焼ボイラーから落下させて採取されるクリンカアッシュ等が挙げられる。特にフライアッシュは微細な粒子であり水酸化ナトリウム水溶液との反応性が高い。したがって、ケイ素含有廃棄物はフライアッシュを含むことが好ましい。
【0016】
ケイ素含有廃棄物のケイ素含有量は、SiO2換算で、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは40~80質量%であり、さらに好ましくは60~80質量%である。ケイ素含有量が上述の範囲であれば、シリカの製造に必要となるケイ酸塩成分を十分に確保できる。また、残渣におけるケイ素含有量もある程度の量を維持できるため、残渣をセメント原料として好適に用いることができる。
【0017】
ケイ素含有廃棄物の化学成分は、乾燥質量を基準として、Al2O3が1~40質量%、Fe2O3が0~5質量%、CaOが0~5質量%、MgOが0~5質量%、SO3が0~5質量%、Na2Oが0~5質量%、及び、K2Oが0~5質量%であることが好ましい。このような性状のケイ素含有廃棄物であれば、シリカ晶析時に析出する不純物が少なくなり、高純度のシリカ含有組成物が得られやすくなる。
【0018】
ケイ素含有廃棄物の平均粒径は、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは0.5~50μmであり、さらに好ましくは1~10μmである。ケイ素含有廃棄物の粒径が上述の範囲であれば、ケイ酸塩成分を効率よく抽出することができる。なお、上記平均粒径は、レーザー回折/散乱法によって求められるメジアン径(D50)である。
【0019】
NaOHの濃度が1~24質量%である水溶液(NaOH水溶液)は、リサイクル工程で得られる再生NaOH水溶液を含む。スラリー調製工程では、リサイクル工程で得られる再生NaOH水溶液のみを用いてもよいし、リサイクル工程で得られる再生NaOH水溶液と、工業的に製造される水酸化ナトリウムとを含む混合液をNaOH水溶液として用いてもよい。混合液は、リサイクル工程で得られるNaOHを含む第2液相と、工業的に製造される水酸化ナトリウム水溶液、或いは顆粒状又は粉末状の水酸化ナトリウム及び水とを、混合して調製してもよい。混合液を調製することは必ずしも必須ではなく、リサイクル工程で得られるNaOHを含む第2液相と工業的に製造される水酸化ナトリウム水溶液を、ケイ素含有廃棄物に順次又は同時に混合してもよい。
【0020】
スラリー調製工程でケイ素含有廃棄物と混合されるNaOH水溶液におけるNaOH濃度は1~24質量%である。この水酸化ナトリウム濃度は、ケイ酸塩成分を十分に抽出する観点から、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上である。一方、Ca等の不純物の抽出を抑制しシリカの純度を高くする観点、及び残渣へのNaOH水溶液由来のNaの残留を抑制してセメント原料として好適に利用する観点から、NaOH濃度は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下である。
【0021】
スラリー調製工程では、上述の原料を混合してケイ酸塩を含むスラリーを調製する。このスラリー調製工程では、ケイ素含有廃棄物と混合するNaOH水溶液のNaOH濃度を上述の範囲とすることで、Ca等の不純物の抽出を抑制しつつ、ケイ酸塩を高純度で抽出することができる。この理由は明らかではないが、例えば、24質量%を超える濃度で水酸化ナトリウムを含む水溶液中でケイ素含有廃棄物を加熱すると、水溶液中のNa量が過多となり、ケイ素含有廃棄物に含まれるCa含有鉱物中のCaと水溶液中のNaの置換が生じ易くなる。これによって、Caの抽出率が高くなってしまう。一方、NaOH水溶液の濃度が24質量%以下であると、水溶液中のNa量が適正量となり、Ca含有鉱物等と水溶液中のNaとの置換が抑制され、その結果、Caの抽出率が低くなると推測される。
【0022】
スラリーを調製する際のケイ素含有廃棄物に対するNaOH水溶液の配合比、すなわち、液/固比は、質量基準で好ましくは1~20であり、より好ましくは2~15であり、さらに好ましくは2.5~13である。液/固比が上記範囲であれば、スラリーの流動性を確保しつつ、水酸化ナトリウムに含まれるNaとケイ素含有廃棄物に含まれるSiのモル比を1.0~2.0の範囲に調整し易くなる。これによって、抽出液中のNa量が過剰になることを抑制し、高純度のシリカが得られ易くなる。
【0023】
スラリーは、ケイ素含有廃棄物と水酸化ナトリウムとの反応を促進する観点から、加熱することが好ましい。スラリーの加熱は、スラリーを混合攪拌しながら、且つ必要に応じて加圧しながら行ってもよい。スラリーの加熱温度は、好ましくは50~200℃である。これによって、ケイ素含有廃棄物からケイ酸塩を十分に抽出することができる。ケイ酸塩の抽出を一層促進する観点から、スラリーの加熱温度は、好ましくは65℃以上であり、より好ましくは80℃以上である。一方、設備を簡素化する観点から、スラリーの加熱温度は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは100℃以下である。
【0024】
上記温度範囲におけるスラリーの加熱時間は、好ましくは0.5~5時間であり、より好ましくは1~4.5時間であり、さらに好ましくは2~4時間である。これによって、ケイ素含有廃棄物からケイ酸塩を効率よく十分に抽出させることができる。
【0025】
分取工程では、スラリーからケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する。スラリーは、ケイ酸塩を含む抽出液と固形分である残渣とに分離してもよい。例えば、スラリーを、公知の脱水機を用いて抽出液と残渣とに分離してよい。脱水機としては、フィルタープレス、ベルトプレス、ロールプレス、遠心脱水機、ロータリーフィルター、及びセラミックフィルター等が挙げられる。ただし、分離手段はこれらに限定されるものではない。
【0026】
ケイ素含有廃棄物から抽出液に抽出されるケイ酸塩の抽出率は、好ましくは3~60%であり、より好ましくは5~50%であり、さらに好ましくは7~40%である。ケイ酸塩の抽出率が上述の範囲であれば、シリカ粒子の製造に必要なケイ酸塩を十分に確保して高純度のシリカ粒子の収量を増やすことができる。また、残渣にもケイ酸塩がある程度含まれることとなるため、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。なお、本明細書中において、ケイ酸塩の抽出率(Si抽出率)とは、ケイ酸塩が抽出された抽出液中のケイ素含有量を、石炭灰中のケイ素含有量で除して求められる値である。導出方法の詳細は後述の実施例に記載する。
【0027】
ケイ素含有廃棄物に含まれていたケイ酸塩が残渣に残留する比率(残留率)は、好ましくは40~97%であり、より好ましくは50~95%であり、さらに好ましくは60~93%である。ケイ酸塩の残留率が上述の範囲であれば、シリカ含有組成物の製造に必要なケイ酸塩を十分に確保してシリカ含有組成物の収量を増やすことができる。また、残渣にもケイ酸塩がある程度含まれることとなるため、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。なお、スラリーを抽出液と残渣の2つに分離する場合、残渣におけるケイ酸塩の残留率は、100(%)から、上述のケイ酸塩の抽出率を差し引いて求めることができる。
【0028】
分取工程で分取した残渣は、そのままセメント原料として用いてもよいし、洗浄等の前処理を行った後にセメント原料として用いてもよい。洗浄方法としては、例えば貫通水洗等が挙げられる。また、洗浄水としては、上水道水、工業用精製水、工業廃水等が挙げられる。ただし、洗浄方法及び洗浄水は、これらに限定されるものではない。残渣を洗浄し、残渣に含まれるNa2O含有量を適宜変更することにより、セメントのNa2O含有量を調整することができる。
【0029】
抽出液のNa濃度は、十分に高い純度を有するシリカを得る観点から、好ましくは300g/L以下であり、より好ましくは200g/L以下であり、さらに好ましくは100g/L以下である。なお、Na濃度の下限は、例えば10g/Lであってよい。
【0030】
この抽出液を、ケイ酸塩含有液として晶析工程にそのまま用いてもよいし、抽出液を水で希釈する希釈工程を行って、晶析工程に用いるケイ酸塩含有液を調製してもよい。希釈水としては、上水道水、工業用精製水、工業廃水、残渣の水洗ろ過水等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。抽出液を希釈し、ケイ酸塩の濃度を適宜変更することにより、晶析するシリカ粒子の一次粒子径を調整することができる。
【0031】
晶析工程で用いるケイ酸塩含有液のSi濃度は、合成ゴム等の高分子材料用フィラーとして好適なBET比表面積(例えば、100~450m2/g)を有する粉末状のシリカ含有組成物(シリカ粉末)を得る観点から、好ましくは3~30g/Lであり、より好ましくは10~25g/Lであり、さらに好ましくは15~20g/Lである。ケイ酸塩含有液のケイ酸塩の濃度が上記範囲内であれば、CO2含有ガスとの接触の際にハンドリングがしやすくなり、また、所望のBET比表面積を有する粉末状のシリカ含有組成物を円滑に製造することができる。
【0032】
残渣におけるNaのNa2O換算の含有量(Na2O含有量)は、好ましくは6質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは0.01~4.5質量%である。測定方法は実施例に記載のとおりである。残渣におけるNa2O含有量が上記範囲であれば、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。本実施形態では、スラリー調製工程において、低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いているため、残渣のNa2O含有量を、上記範囲に円滑に調製することができる。
【0033】
残渣におけるSiのSiO2換算の含有量(SiO2含有量)は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは35質量%以上である。残渣におけるSiO2含有量が上記範囲であれば、残渣をセメント原料として好適に利用することができる。残渣におけるSiO2含有量は、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。残渣におけるSiO2含有量が上記範囲であれば、SiO2の収量を十分に多くすることができる。残渣のSiO2含有量は、Siの含有量をSiO2換算することによって求められる。
【0034】
晶析工程では、ケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとを接触させてシリカ粒子を晶析する。ケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとの接触方法は特に限定されず、例えば、ケイ酸塩含有液中にCO2含有ガスをバブリングして通気してもよいし、接触塔等を用いて、下降するケイ酸塩含有液と上昇するCO2含有ガスとを向流接触させてもよい。
【0035】
晶析工程では、ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量が120~700Lとなるように、ケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとを接触させる。CO2の上記接触量は、160~650Lが好ましく、200~600Lがより好ましい。ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量を上記範囲とすることで、合成ゴム等の高分子材料用フィラーとして好適なBET比表面積及びシラノール基密度を有するシリカ粒子を晶析し易くすることができる。本明細書における気体の体積は、標準状態(圧力:101.325kPa、温度:0℃(273.15K)における体積であり、液体の体積は、圧力:101.325kPa、温度:20℃における体積である。
【0036】
ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量を上記範囲とすることで、大きいシラノール基密度を有するシリカが得られる理由を本発明者らは以下のように推察している。シラノール基密度は、シラノール基量÷BET比表面積の計算式で算出される。したがって、シラノール基密度を大きくするには、シラノール基量を増加させるか、またはBET比表面積を小さくする必要がある。CO2の接触量が過小である場合、ケイ酸塩含有液中のケイ酸塩量に対してCO2の接触量が少なく、シリカ粒子の結晶成長反応が進行せずに微細なシリカ粒子となり、シラノール基密度が小さくなる。一方、CO2の接触量を上述の範囲とすることで、シリカ粒子の結晶成長反応が進行して粒子が粗大化することで、BET比表面積が小さくなり、シラノール基密度が大きくなる。CO2の接触量が過大である場合、ケイ酸塩含有液中のケイ酸塩量に対してCO2量が過剰となり、シラノール基密度の向上効果は得難くなるものと推察される。このように、ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量を特定量とすることで、合成ゴム等の高分子材料用フィラーとして好適なBET比表面積及びシラノール基密度を有するシリカ含有組成物を製造することができる。
【0037】
晶析工程におけるケイ酸塩含有液の温度は、30~90℃であり、35~80℃が好ましく、40~70℃がより好ましい。温度が低過ぎると、シリカ粒子の核形成反応の速度が遅くなって結晶成長反応が活発化するため、BET比表面積が小さくなり過ぎる傾向にある。一方、温度が高過ぎると、シリカ粒子の核形成反応の速度が速くなって微細なシリカ粒子が多量に生成し、BET比表面積が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0038】
CO2含有ガスの通気流量は、ケイ酸塩含有液1Lあたり、好ましくは1~30L/minであり、より好ましくは3~20L/minであり、さらに好ましくは5~15L/minである。通気流量が上記範囲であれば、適度なBET比表面積を有するシリカ粒子を晶析することができる。また、上記範囲内で通気流量を適宜変更することでシリカ粒子の一次粒子径を所望の値に調整することができる。CO2含有ガスの通気時間は、上述した通気流量において、ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量が上述の範囲となるように適宜調節すればよい。
【0039】
晶析工程で用いられるCO2含有ガスは、コスト削減の観点から、工場から排出される排ガスを含むことが好ましい。工場から排出される排ガスとして、例えば、ボイラーの排ガス、セメントキルンの排ガス、塩素バイパスの排ガス及び化学工場の合成ガスの排ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。CO2含有ガスは、CO2純度向上の観点から、工業ガスを含んでもよい。
【0040】
CO2含有ガスのCO2濃度は、例えば10~100体積%である。CO2含有ガスのCO2濃度の下限は、好ましくは30体積%であり、より好ましくは50体積%であり、さらに好ましくは80体積%であり、特に好ましくは95体積%である。CO2濃度が上述の範囲であるCO2含有ガスを用いれば、高純度のシリカ粒子を一層円滑に製造することができる。晶析工程ではシリカ粒子が生成し、ケイ酸塩含有液が懸濁液(スラリー)となる。ケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとの接触は、懸濁液のpHが、好ましくは7~12、より好ましくは8~10になるまで行う。これによって、シリカ粒子が十分に晶析し、シリカ粒子の収量を多くすることができる。
【0041】
晶析工程の後に、熟成工程を行ってもよい。熟成工程では、晶析工程で得られたシリカ粒子を含む懸濁液を50~90℃に保持して熟成させる。熟成工程を行うことで、晶析工程で得られた微細なシリカ粒子の溶解及び析出が生じ、シリカ粒子が結晶成長して粗大化する。これによって、一層大きなシラノール基密度を有するシリカ粒子を製造することができる。熟成工程の上記温度範囲における保持時間は、例えば30~150分間であってよい。
【0042】
固液分離工程では、晶析工程で得られるシリカ粒子又は熟成工程で熟成されたシリカ粒子を含む懸濁液の固液分離を行ってシリカ粒子を含む第1固相とNa2CO3を含む第1液相とに分離する。固液分離は公知の方法で行うことができる。固液分離工程で得られるNa2CO3を含む第1液相は、再生工程でNaOHとCaCO3を含む懸濁液を得るための原料に用いられる。第1液相中のNa濃度は、好ましくは0.3mol/L以上であり、より好ましくは0.6mol/L以上であり、さらに好ましくは1.0mol/L以上である。これによって、NaOHのリサイクル率を十分に高くすることができる。
【0043】
洗浄工程では、シリカ粒子を含む第1固相を洗浄する。洗浄は、懸濁液の溶媒置換で行ってもよい。溶媒としては水及び/又は酸を用いる。固液分離と洗浄液の添加とを繰り返して行ってもよい。固液分離は遠心分離で行ってもよいし、濾過で行ってもよい。洗浄には、水を用いることが好ましく、水及び酸を用いることがより好ましい。水及び酸を用いて洗浄する場合、シリカ粒子を含む第1固相を水で洗浄した後に、酸で洗浄することが特に好ましい。シリカ粒子を含む第1固相を水で洗浄して得られる洗浄液にはNa2CO3等にNa含有成分が含まれる。これを再生工程で用いれば、NaOHのリサイクル率を十分に高くすることができる。
【0044】
シリカ粒子を含む第1固相を水で洗浄した後、酸で洗浄し、さらに水で洗浄すれば、より少ない洗浄量で第1固相に含まれる不純物を低減できる。また、より高純度且つ高比表面積のシリカ含有組成物を製造することができる。その要因としては、シリカ粒子と共に晶出する炭酸塩などの塩が酸によって溶解し易くなり、その後の水による洗浄で除去され易くなること、未反応のケイ酸塩が酸と反応することでシリカ粒子の晶出量が増すこと、及び、不純物が除去されたことによって塞がれていた細孔が露出すること等が挙げられる。
【0045】
洗浄に用いる酸は、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、シリカ含有組成物の純度を一層高くする観点から、洗浄には塩酸を用いることが好ましい。なお、本明細書では、希塩酸も塩酸に含まれる。また、シリカ含有組成物の純度とは、シリカ含有組成物の固形分(シリカ粒子)におけるシリカの含有量である。
【0046】
洗浄工程では、溶媒添加と固液分離とを行う溶媒置換を繰り返し行うことで、シリカ含有組成物の純度を向上することができる。水及び酸を用いる溶媒置換の繰り返し回数は、合計で、好ましくは3回以上であり、より好ましくは4回以上であり、さらに好ましくは5回以上である。このように繰り返し回数を多くすることによって、NaOHのリサイクル率を十分に高くすることができる。
【0047】
再生工程では、上記固液分離工程で得られるNa2CO3を含む第1液相、及びシリカ粒子を含む第1固相を洗浄して得られる洗浄排水の少なくとも一方を含む回収液にカルシウム系薬剤を添加し、NaOHとCaCO3を含む懸濁液を得る。洗浄排水にも、Na2CO3が含まれる得るため、回収液が洗浄排水を含むことによって、NaOHのリサイクル率を高くすることができる。洗浄排水は、洗浄工程で用いられる酸を含まないことが好ましい。これによって、リサイクル工程において中和塩が生じることを抑制できる。再生工程では、例えば式(I)で示されるような反応が進行する。
Ca系薬剤+Na2CO3 → NaOH+CaCO3↓ (I)
【0048】
上記式(I)の反応によって、NaOHを再生することができる。懸濁液は、NaOHを含む第2液相と、CaCO3を含む第2固相とを含有する。カルシウム系薬剤(Ca系薬剤)としては、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムが挙げられる。上記反応を十分に促進する観点から、カルシウム系薬剤は、水酸化カルシウムを含むことが好ましい。式(I)におけるカルシウム系薬剤とNa2CO3の比率が、それぞれCa及びNaに換算して、Ca/Naのモル比が0.7~2.0となるようにカルシウム系薬剤を添加する。これによって、NaOHの再生率を高くしてNaOHのリサイクル率を増やし、シリカ含有組成物の製造に必要となるNaOHの使用量を削減することができる。
【0049】
Ca/Naのモル比の下限は、好ましくは0.8であり、より好ましくは0.9であり、さらに好ましくは1.0である。これによって、NaOHの再生率を一層高くすることができる。Ca/Naのモル比の上限は、好ましくは1.8であり、より好ましくは1.7であり、さらに好ましくは1.6である。これによって、使用するカルシウム系薬剤の量を低減して、NaOHの再生に要するコストを低減することができる。
【0050】
再生工程では回収液を70℃以上且つ100℃未満に加熱することが好ましい。これによって、上記式(I)の反応を促進することができる。加熱される回収液の温度の下限は、好ましくは75℃であり、より好ましくは80℃であり、さらに好ましくは85℃である。これによって、上記式(I)の反応を一層促進することができる。加熱される回収液の温度の上限は、好ましくは97℃であり、より好ましくは95℃であり、さらに好ましくは92℃である。これによって沈殿物の回収を円滑にすることができる。
【0051】
再生工程では、上述の温度範囲で、好ましくは30分間以上、より好ましくは45分間以上、さらに好ましくは60分間以上、攪拌しながら保持されることが好ましい。これによって、上記式(I)の反応を十分に進行させることができる。これによって、NaOH再生率を高くして、NaOHのリサイクル率を高くすることができ、NaOHの消費量を十分に削減することができる。
【0052】
再生工程におけるNaOH再生率(C[%])は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。これによって、NaOHのリサイクル率を挙げて、NaOHの使用量を十分に低減することができる。また、スラリー調製工程で用いられるNaOH水溶液中のNa2CO3濃度を低減し、スラリー調製工程でSiO2が生成することを十分に抑制することができる。NaOH再生率(C[%])は、第2液相におけるNaOHの濃度(A[mol/L])とNa2CO3の濃度(B[mol/L])から算出される。各濃度の測定方法及び計算式は実施例に記載のとおりである。
【0053】
リサイクル工程では、懸濁液を、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相に分離し、第2液相を含む再生NaOH水溶液をスラリー調製工程の原料として再利用する。分離は、濾過及び遠心分離等、公知の固液分離手段を用いることができる。第2液相は、水及びNaOHの他にNa2CO3を含んでいてもよい。第2固相は、CaCO3を含むことから、セメント原料として有効利用することができる。
【0054】
第2液相をそのまま再生NaOH水溶液にしてもよいし、第2液相に水を混合して再生NaOH水溶液を調製してもよい。第2液相を濃縮したものを再生NaOH水溶液にしてもよい。このようにして、NaOH水溶液のNaOH濃度を調整することができる。再生NaOH水溶液におけるNaOHの濃度は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは2質量%以上である。このような濃度であれば、スラリー調製工程においてケイ酸塩成分を十分に抽出することができる。一方、スラリー調製工程におけるSiO2の生成を抑制する観点から、再生NaOH水溶液におけるNa2CO3の濃度は低い方が好ましい。再生NaOH水溶液におけるNa2CO3の濃度は、好ましくは2質量%未満であり、より好ましくは1質量%未満であり、さらに好ましくは0.5質量%未満であり、特に好ましくは0.2質量%未満である。これによって、シリカ粒子の性状の均一性を十分に高くすることができる。
【0055】
リサイクル工程で得られる再生NaOH水溶液は、スラリー調製工程におけるNaOH水溶液の一部又は全部として再利用される。スラリー調製工程でケイ素含有廃棄物と混合されるNaOHの総量に対する、スラリー調製工程で使用される再生NaOH水溶液に含まれるNaOHのモル比率(リサイクル率)は、好ましくは30mol%以上であり、より好ましくは40mol%以上であり、さらに好ましくは60mol%以上であり、特に好ましくは80mol%以上である。これによって、NaOHの消費量を十分に削減することができる。
【0056】
スラリー調製工程で用いられるNaOH水溶液中のNa2CO3濃度は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%である。これによって、スラリー調製工程において、ケイ素含有廃棄物とNa2CO3が反応してSiO2が生成することを抑制できる。その結果、固液分離工程で得られるシリカ粒子のBET比表面積等の性状がばらつくことを十分に抑制することができる。
【0057】
本実施形態のシリカ含有組成物の製造方法で製造されるシリカ含有組成物は、粒状、スラリー状及びケーキ状のいずれであってもよい。シリカ含有組成物のSiO2純度は、乾燥質量を基準として、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは97質量%以上である。このような高純度のシリカ含有組成物は、例えば、フィラー材、塗料、接着剤、研磨剤、及びファインセラミックス等の原料に好適に用いることができる。ただし、その用途は上述の例に限定されない。シリカ含有組成物のSiO2純度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0058】
本実施形態のシリカ含有組成物の製造方法で製造される粉末状のシリカ含有組成物のBET比表面積は、好ましくは50~450m2/gであり、より好ましくは100~300m2/gである。このようなBET比表面積のシリカは、フィラー材、吸着材、吸湿材、コンクリート用混和材、アンチブロッキング材等に好適に用いることができる。
【0059】
本実施形態のシリカ含有組成物の製造方法は、スラリーから分取した残渣及び/又はCaCO3を含む第2固相を、セメント原料の一部として、ロータリーキルン等のセメントキルンに導入する焼成工程を有していてもよい。分取工程においてスラリーから分取される残渣は、Si及びAlを含むとともに、Na2Oの含有量が少ない。このようにNa2Oの含有量が少ないことから、セメントキルンで焼成する際に生じる揮発分を低減することができる。このため、焼成に伴って生じるダストが低減され、設備負荷を軽減することができる。CaCO3を含む第2固相をセメント原料として用いれば、石灰石の使用量を低減することができる。
【0060】
セメントキルンには、残渣及び/又はCaCO3を含む第2固相とともに、他のセメント原料(石灰石、けい石、粘土、建設発生土、高炉スラグ及び製鋼スラグ等)が導入されてよい。セメントキルンではセメント原料が焼成されセメントクリンカが得られる。セメントクリンカは、例えば粉砕機(仕上げミル)等において、石膏と混合しながら粉砕してよい。これによって、セメント(セメント組成物)が得られる。必要に応じてフライアッシュ及びスラグ粉等を配合してもよい。得られるセメント組成物はポルトランドセメントであってよく、混合セメントであってよい。
【0061】
本実施形態のシリカ含有組成物の製造方法によれば、NaOHの消費量を削減することができる。このため、シリカ含有組成物の製造コストを十分に低減することができる。NaOHのリサイクル率が高くなると、ケイ素含有廃棄物に含まれる重金属がNaOHを含む第2液相等に濃縮される傾向にある。そこで、上記実施形態の変形例では、スラリー調製工程、リサイクル工程及びこれらの間の工程のいずれかにおいて、液体及び/又は固体のサンプルを採取して重金属濃度を測定する測定工程と、測定工程における重金属濃度の測定結果に基づいて、スラリー調製工程で用いる再生NaOH水溶液の比率を調整するリサイクル率調整工程とを有していてもよい。重金属の種類及びその測定方法は特に限定されない。スラリー調製工程とリサイクル工程の間の工程とは、スラリー調製工程とリサイクル工程の間にある工程の全てを含んでおり、
図1の例では、分取工程、晶析工程、熟成工程、固液分離工程、洗浄工程、及び再生工程である。
【0062】
サンプルは、例えば、固液分離工程で得られるNa2CO3を含む第1液相、洗浄工程で生じる洗浄排水、リサイクル工程で得られるNaOHを含む第2液相、及びリサイクル工程で得られるCaCO3を含む第2固相からなる群より選ばれる少なくとも一つから採取してよい。これによって、シリカ含有組成物に重金属が混入することを抑制できる。ただし、サンプルの種類は上述のものに限定されない。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、以下の内容を含む。
[1]ケイ素含有廃棄物とNaOH水溶液とを混合し、ケイ酸塩を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーから前記ケイ酸塩を含む抽出液と残渣とを分取する分取工程と、
前記抽出液を含むケイ酸塩含有液とCO2含有ガスとを接触させてシリカ粒子を含む第1懸濁液を得る晶析工程と、
前記シリカ粒子を含む第1固相とNa2CO3を含む第1液相とに分離する固液分離工程と、
前記第1固相を水で洗浄して前記シリカ粒子を含むシリカ含有組成物を得る洗浄工程と、
前記第1液相、及び前記第1固相を洗浄して得られる洗浄排水の少なくとも一方を含む回収液にカルシウム系薬剤を添加し、NaOHとCaCO3を含む第2懸濁液を得る再生工程と、
前記第2懸濁液を、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相に分離し、前記第2液相から得られる再生NaOH水溶液を前記スラリー調製工程で前記NaOH水溶液の少なくとも一部として使用するリサイクル工程と、を有し、
前記再生工程では、Ca/Naのモル比が0.7~2.0となるように前記カルシウム系薬剤を前記回収液に添加する、シリカ含有組成物の製造方法。
[2]前記スラリー調製工程において、前記NaOH水溶液の濃度が1~24質量%である、[1]に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[3]前記スラリー調製工程では、前記スラリーを50~200℃に加熱して前記ケイ素含有廃棄物と前記NaOHとを反応させる、[1]又は[2]のシリカ含有組成物の製造方法。
[4]前記分取工程では、前記スラリーからNa2Oの含有量が0.01~5質量%である残渣を得る、[1]~[3]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[5]前記晶析工程において、前記ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量が120~700Lとなるように、前記ケイ酸塩含有液と前記CO2含有ガスとを接触させる、[1]~[4]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[6]前記晶析工程において、前記ケイ酸塩含有液と前記CO2含有ガスとを30~90℃の温度で接触させる、[1]~[5]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[7]前記晶析工程で得られる前記第1懸濁液を50~90℃に保持する熟成工程を有する、[1]~[6]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[8]前記洗浄工程は、前記水で洗浄した後、酸及び水をこの順に用いて前記第1固相をさらに洗浄することを含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[9]前記再生工程では、前記回収液を70℃以上且つ100℃未満の温度に加熱して前記第2懸濁液を得る、[1]~[8]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[10]前記ケイ素含有廃棄物が石炭灰を含む、[1]~[9]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[11]前記CO2含有ガスは工場で発生する排ガスを含む、[1]~[10]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[12]前記残渣をセメント原料として使用する、[1]~[11]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[13]前記CaCO3を含む前記第2固相をセメント原料として使用する、[1]~[12]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[14]前記再生NaOH水溶液におけるNaOHの濃度及びNa2CO3の濃度を、それぞれA[mol/L]及びB[mol/L]としたときに、下記式(α)で算出されるNaOH再生率C[%]が70%以上である、[1]~[13]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
C=(A/(A+2B))×100 (α)
[15]前記スラリー調製工程で前記ケイ素含有廃棄物と混合されるNaOHの総量に対する、前記スラリー調製工程で使用される前記再生NaOH水溶液に含まれるNaOHのモル比率が、30mol%以上である、[1]~[14]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[16]前記スラリー調製工程、前記リサイクル工程及びこれらの間の工程のいずれかにおいて、液体及び/又は固体のサンプルを採取して重金属濃度を測定する測定工程を有する、[1]~[15]のいずれか一つに記載のシリカ含有組成物の製造方法。
[17]前記測定工程における前記重金属濃度の測定結果に基づいて、前記スラリー調製工程で使用される前記再生NaOH水溶液の比率を調製するリサイクル率調整工程を有する、[16]に記載のシリカ含有組成物の製造方法。
【実施例0064】
実施例及び比較例を参照して、本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
ケイ素含有廃棄物からシリカ粒子を製造する工程で生じるNa2CO3を含む第1液相及び/又は洗浄排水からNaOH水溶液を再生する実験を行った。また、この再生NaOH水溶液を使用してケイ素含有廃棄物からシリカ粒子を生成する実験を行った。具体的な手順と結果は以下のとおりである。
【0066】
ケイ素含有廃棄物として、微粉炭を燃焼する石炭火力発電所から発生する石炭灰(UBE三菱セメント株式会社製、フライアッシュ)を使用した。使用した石炭灰の強熱減量と化学成分を表1に示す。表1に示す値は下記の方法で測定した値である。
【0067】
・石炭灰の強熱減量(Ig.loss):JIS R 5202「セメントの化学分析方法」に規定される強熱減量測定方法に準拠して測定した。
・石炭灰のSiO2、Al2O3、Fe2O3、CaO、MgO、SO3、Na2O、K2O含有量:JIS M 8853「セラミックス用アルミノケイ酸塩質原料の化学分析方法」に準拠して測定した。
【0068】
【0069】
[1:試薬NaOHを用いた検討]
(実施例1)
<スラリー調製工程>
NaOH(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬1級、顆粒状)と蒸留水とを混合し、16質量%のNaOH水溶液を調製した。表1に示す石炭灰200gとNaOH濃度が16質量%であるNaOH水溶液500gとを計量し、攪拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモータtype600G)を用いて200rpm、90℃で3.5時間攪拌しながら反応させた。このようにしてケイ酸塩を含むスラリーを調製した。
【0070】
<分取工程>
得られたスラリーを、市販のろ紙(円形定量ろ紙No.5C)と、吸引ろ過装置(アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過し、抽出液と残渣(固形分)とを分取した。分取後、ケイ酸塩成分を含む抽出液0.9Lを液量が1Lとなるように蒸留水で希釈してケイ酸塩含有液を得た。
【0071】
抽出液に含まれるSi濃度を、JIS M 8852「セラミックス用高シリカ質原料の化学分析方法」に準拠して測定した。溶液の分析は、ICP発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、型式:PS3520UVDDII)を用いた。以下の計算式によってケイ酸塩の抽出率を求めた。ケイ酸塩の抽出率の計算結果を表3の「Si抽出率」の欄に示した。
【0072】
ケイ酸塩の抽出率(%)=ケイ酸塩含有液に含まれるSi(g)/{石炭灰の質量(g)×石炭灰のSi含有量(質量%)}×100
【0073】
<晶析工程>
得られたケイ酸塩含有液を晶析反応槽に移した。攪拌機を用いて450rpmで混合しながら、炭酸ガス(日本エア・リキード製、CO2濃度:99.5体積%以上)を8.4L/minで30分間バブリングさせながら供給した。このようにして、ケイ酸塩含有液と炭酸ガスとを30分間接触させた。バブリングによるケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量は252Lであった。炭酸ガスをバブリングさせている間のケイ酸塩含有液の温度は50℃であった。これによってシリカ粒子が晶析し、シリカ粒子を含む第1懸濁液を得た。
【0074】
<熟成工程>
炭酸ガスのバブリング終了後に、第1懸濁液を容器内において90℃に加温し、200rpmで攪拌しながら60分間保持した。
【0075】
<固液分離工程>
熟成工程終了後、高速大容量冷却遠心機(KUBOTA 7780)を用いて、3000rpmで10分間遠心分離し、第1懸濁液を、シリカ粒子を含む第1固相とNa2CO3を含む第1液相に固液分離した。第1液相中のNa濃度を、メチルレッドを指示薬とした中和滴定によって測定した。その結果、第1液相中のNa濃度は1.43mol/Lであった。
【0076】
<洗浄工程>
固液分離工程により得られた第1固相に希塩酸(HCl濃度:9.5~10.5w/v%)を加えて攪拌し、液相を遠心分離により蒸留水で置換した。このような液相置換を、液相の電気伝導度が0.1mS/cm以下になるまで繰り返し行った。液相を除去した後、105℃で12時間乾燥し、固形分を得た。
【0077】
遊星ミル(伊藤製作所製、型式LA-PO.1)を用いて乾燥して得られた固形分を340rpmで16分間解砕し、粉末状のシリカ含有組成物(シリカ粉末)を回収した。このようにして製造したシリカ粉末のBET比表面積及びSiO2純度を以下の方法で測定した。
【0078】
シリカ粉末のBET比表面積は、以下の手順で求めた。シリカ粉末を105℃で30分間、窒素雰囲気中で加熱して水分を除去した。このようにして水分を除去した後、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:BEL-SORP-mini)を用いてシリカ粉末のBET比表面積を測定した。結果を表3に示す。
【0079】
シリカ粉末のSiO2純度は、以下の手順で求めた。エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)(日立ハイテクノロジーズ社製、装置名:Miniscope TM3030)を用いて、シリカ粉末を400倍に拡大した370μm×370μmの粒子画像の元素分析を行い、ケイ素のSiO2換算の濃度(質量%)を定量値として求めた。結果を表3に示す。
【0080】
<再生工程>
Ca/Naモル比が1.53になるように、固液分離工程で得られたNa濃度1.43mol/LのNa2CO3を含む第1液相0.4Lと、Ca(OH)2(宇部マテリアルズ社製消石灰、特号品)64.8gとを配合し、攪拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモータtype600G)を用いて200rpm、90℃で1時間攪拌しながら反応させた。このようにして得られた第2懸濁液を、市販のろ紙(円形定量ろ紙No.5C)と磁製ブフナーロート(東京硝子機器)を用いてろ過し、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相とに分けた。得られたCaCO3を含む第2固相を蒸留水60gで水洗して水洗液を得た。NaOHを含む第2液相と水洗液とを混合することで、0.4Lの再生NaOH水溶液を得た。
【0081】
再生NaOH水溶液のNaOH濃度及びNa2CO3濃度を、中和滴定により以下の手順で測定・算出した。三角フラスコに再生NaOH水溶液0.002L(=X)とフェノールフタレイン指示薬(シグマアルドリッチ)1滴を加え、マグネットスターラーを用いて得られた溶液を攪拌混合し、試験液を調製した。25℃の環境下、この試験液にビュレットを用いて0.1mol/Lの希塩酸(和光純薬工業株式会社)を2mL/minの速度で滴下し、試験液が無色になるまでの滴定量V(L)を測定した。
【0082】
その後、試験液にメチルレッド指示薬(和光純薬工業株式会社)を加え、試験液が黄色から橙色を経て完全な赤色になるまで上記希塩酸を滴下した。一旦赤色になったら滴定を止め、試験液を煮沸及び冷却し、色が黄色になった場合には、赤色になるまで同様の滴定を行った。煮沸及び冷却しても試験液の色が赤色から変化しなくなるまで上記操作を繰り返して行い、滴定量W(L、メチルレッド指示薬添加後の滴下総量)を求めた。再生NaOH水溶液のNaOH濃度(A[mol/L])、未反応のNa2CO3濃度(B[mol/L])及びNaOH再生率(C[%])を、それぞれ下記式を用いて算出した。
【0083】
A=(0.1×(2V-W)×f)/X
B=(0.1×(W-V)×f)/X
C=(A/(A+2B))×100
V:0.1mol/Lの希塩酸の滴定量(L)
W:0.1mol/Lの希塩酸の滴定量(L)
f:0.1mol/Lの希塩酸の補正係数
X:再生NaOH水溶液の採取量(0.002L)
【0084】
上述の再生NaOH水溶液のNaOH濃度及びNa2CO3濃度の測定・算出方法は、「今任 稔彦、角田 欣一 監訳、クリスチャン分析化学 原書7版I.基礎編、丸善出版、pp.264-266、2016年12月」を参考にした。
【0085】
(実施例2)
以下の点を変更したこと以外は、実施例1と同じ手順でスラリー調製工程~洗浄工程を行った。
【0086】
(i)スラリー調製工程におけるNaOH水溶液のNaOH濃度を6質量%に変更した。
(ii)分取工程で得られた残渣(固形分)を蒸留水200gで水洗して残渣洗浄液を回収し、ケイ酸塩成分を含む抽出液と残渣の洗浄液とを混合して0.45Lのケイ酸塩含有液を得た。このケイ酸塩含有液を晶析工程に用いた。なお、残渣に含まれるNa2O濃度を、JIS M 8852「セラミックス用高シリカ質原料の化学分析方法」に準拠して測定した。残渣に含まれるNa2O濃度の測定結果を表3の「残渣Na2O」の欄に示した。以下の実施例における残渣に含まれるNa2O濃度も同じ方法で測定した。
(iii)晶析工程では、ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量が560Lとなるように、炭酸ガスをバブリングした。
(iv)洗浄工程において、希塩酸を加える前に、固液分離工程により得られた第1固相に蒸留水100gを加えて攪拌して遠心分離する操作を3回繰り返し、洗浄排水(蒸留水置換により得られた上澄み液)を得た。その後、希塩酸を用いて実施例1と同じ洗浄工程を行った。
(v)固液分離工程で得られたNa2CO3を含む第1液相と、上記(iv)の洗浄工程で得られた洗浄排水とを混合し、0.385Lの回収液を得た。この回収液中のNa濃度は0.89mol/Lであった。
【0087】
<再生工程>
Ca/Naモル比が1.10になるように、上記(v)で得た0.385Lの回収液と、Ca(OH)2(宇部マテリアルズ社製消石灰、特号品)28gとを配合し、攪拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモータtype600G)を用いて200rpm、90℃で1時間攪拌しながら反応させて、第2懸濁液を得た。
【0088】
第2懸濁液を、市販のろ紙(円形定量ろ紙No.5C)と磁製ブフナーロート(東京硝子機器)を用いてろ過し、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相とに分けた。得られた第2固相を蒸留水60gで水洗して水洗液を得た。第2液相と水洗液とを混合することで再生NaOH水溶液を得た。実施例1と同様にして、この再生NaOH水溶液中のNaOH濃度(A[mol/L])及びNa2CO3濃度(B[mol/L])を測定し、NaOH再生率(C[%])を算出した。実験条件及び評価結果を、表2及び表3に示す。
【0089】
(実施例3)
以下の点を変更したこと以外は、実施例1と同じ手順でスラリー調製工程~洗浄工程を行った。
【0090】
(i)スラリー調製工程におけるNaOH水溶液のNaOH濃度を6質量%に変更した。
(ii)分取工程で得られた残渣(固形分)を蒸留水400gで水洗して残渣洗浄液を回収し、ケイ酸塩成分を含む抽出液と残渣洗浄液とを混合して、0.7Lのケイ酸塩含有液を得た。このケイ酸塩含有液を晶析工程に用いた。
(iii)晶析工程では、ケイ酸塩含有液1LあたりのCO2の接触量が360Lとなるように、炭酸ガスをバブリングした。
(iv)洗浄工程において、希塩酸を加える前に、固液分離工程により得られた第1固相に蒸留水400gを加えて攪拌して遠心分離する操作を3回繰り返し、洗浄排水(蒸留水置換により得られた上澄み液)を得た。その後、希塩酸を加えて実施例1と同じ洗浄工程を行った。
(v)固液分離工程で得られたNa2CO3を含む第1液相と、上記(iv)の洗浄工程で得られた洗浄排水とを混合し、1.38Lの回収液を得た。この回収液中のNa濃度は0.35mol/Lであった。
【0091】
<再生工程>
Ca/Naモル比が0.78になるように、上記(v)で得た1.38LのNa2CO3含有液と、Ca(OH)2(宇部マテリアルズ社製消石灰、特号品)28gとを配合し、攪拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモータtype600G)を用いて200rpm、90℃で1時間攪拌しながら反応させて、第2懸濁液を得た。
【0092】
第2懸濁液を、市販のろ紙(円形定量ろ紙No.5C)と磁製ブフナーロート(東京硝子機器)を用いてろ過し、NaOHを含む第2液相とCaCO3を含む第2固相とに分けた。得られた第2固相を蒸留水60gで水洗して水洗液を得た。第2液相とこの水洗液とを混合することで、1.3Lの再生NaOH水溶液(1)を得た。この再生NaOH水溶液(1)を105℃に加熱して0.4Lまで濃縮して、再生NaOH水溶液(2)を得た。実施例1と同様にして、この再生NaOH水溶液(2)中のNaOH濃度(A[mol/L])及びNa2CO3濃度(B[mol/L])を測定し、NaOH再生率(C[%])を算出した。実験条件及び評価結果を、表2及び表3に示す。各評価は実施例1,2と同様にして行った。
【0093】
(実施例4,5)
スラリー調製工程におけるNaOH水溶液のNaOH濃度を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてスラリー調製工程及び分取工程を行い、ケイ酸塩含有液と残渣を得た。実施例1と同じ手順でケイ酸塩の抽出率及び残渣に含まれるNa2O濃度を評価した。実験条件及び評価結果を、表2及び表3に示す。各評価は実施例1,2と同様にして行った。
【0094】
[2:再生NaOH水溶液を用いた検討]
(実施例6)
スラリー調製工程で用いるNaOH水溶液の一部に実施例2で得た再生NaOH水溶液を使用したこと以外は、実施例2と同様にしてスラリー調製工程~固液分離工程を行った。スラリー調製工程で用いたNaOH水溶液のうち、試薬のNaOHと、再生NaOH水溶液に含まれるNaOHの混合比率(モル基準)は、表2に示すとおりであった。なお、石炭灰とNaOH水溶液を配合する前に、再生NaOH水溶液と、試薬のNaOH(顆粒)と水とを混合してNaOH水溶液を調製し、これを石炭灰と混合した。石炭灰と混合したNaOH水溶液中のNa2CO3の質量比率は表3に示すとおりであった。この質量比率は、上述したフェノールフタレイン指示薬及びメチルレッドを指示薬とした二段階の中和滴定法によって測定した。実施例1,2と同じ手順でケイ酸塩の抽出率、残渣に含まれるNa2O濃度及びシリカ粉末の評価を行った。実験条件及び評価結果を、表2及び表3に示す。
【0095】
(実施例7)
スラリー調製工程で用いるNaOH水溶液の一部に実施例3で得た再生NaOH水溶液を使用したこと以外は、実施例3と同様にしてスラリー調製工程~固液分離工程を行い、残渣及びシリカ粉末を製造した。スラリー調製工程で用いたNaOH水溶液のうち、試薬のNaOHと、再生NaOH水溶液に含まれるNaOHの混合比率(モル基準)は、表2に示すとおりであった。なお、石炭灰とNaOH水溶液を配合する前に、再生NaOH水溶液と、試薬のNaOH(顆粒)と水とを混合してNaOH水溶液を調製し、これを石炭灰と混合した。石炭灰と混合したNaOH水溶液中のNa2CO3の質量比率は表3に示すとおりであった。この質量比率の測定方法は実施例6と同じである。実施例1,2と同じ手順でケイ酸塩の抽出率、残渣に含まれるNa2O濃度及びシリカ粉末の評価を行った。実験条件及び評価結果を、表2及び表3に示す。
【0096】
(実施例8)
NaOH水溶液として、後述する実施例1Dで得られた再生NaOH水溶液のみを使用したこと、及び再生NaOH水溶液のNaOH濃度を水で希釈して表2に示す「NaOH濃度」に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてスラリー調製工程及び分取工程を行った。石炭灰と混合したNaOH水溶液中のNa2CO3の質量比率は表3に示すとおりであった。この質量比率の測定方法は実施例6と同じである。実施例1と同じ手順でケイ酸塩の抽出率及び残渣に含まれるNa2O濃度の評価を行った。実験条件及び評価結果を、表2及び表3に示す。
【0097】
(実施例9)
スラリー調製工程から固液分離工程までを実施例1と同じ手順で行い、洗浄工程を、実施例3の(iv)及び(v)と同じ手順で行った。ここで得られたシリカ粉末のSiO2の純度は、表3に示すとおりであった。回収液を105℃に加熱して0.38L(Na濃度:2.69mol/L)まで濃縮した。
【0098】
<再生工程、リサイクル工程>
Ca/Naモル比が0.63となるように、上述の0.38Lの回収液と、Ca(OH)2(宇部マテリアルズ社製消石灰、特号品)48gとを配合し、攪拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモータtype600G)を用いて200rpm、90℃で1時間攪拌しながら反応させて第2懸濁液を得た。この第2懸濁液から実施例1と同じ手順によって、0.62Lの再生NaOH水溶液を得た。
【0099】
<スラリー調製工程(2回目)、分取工程(2回目)>
上記再生NaOH水溶液を用いて、スラリー調製工程(2回目)、及び分取工程(2回目)、を行った。各工程の手順は実施例1と同様とした。表2及び表3には、2回目のスラリー調製工程の実験条件と、2回目の分取工程で得られた残渣のNa2O濃度及びケイ酸塩の抽出率を示した。2回目のスラリー調製工程で石炭灰と混合したNaOH水溶液中のNa2CO3の質量比率は表3に示すとおりであった。この質量比率の測定方法は実施例6と同じである。
【0100】
【0101】
【0102】
実施例1~3では、石炭灰と試薬NaOHを用い、十分にBET比表面積の大きいシリカ粉末とNa2O含有量が小さい残渣が得られた。さらに、これらのシリカ粉末作製時に得られる、Na2CO3を含む第1液相及び/又は洗浄排水から、十分な量のNaOHを再生できることが確認された(再生率:70%以上)。
【0103】
実施例2,3,6,7(いずれもスラリー調製工程で用いるNaOH水溶液中のNaOH濃度:6質量%)より、試薬NaOH水溶液の一部を再生NaOH水溶液で置き換えた場合においても、試薬NaOHのみを用いてシリカ粒子を製造した場合と同様にケイ酸塩を抽出できること、また、同等の純度及びBET比表面積を有するシリカ粒子を製造できることが確認された。
【0104】
実施例4,8は、Si抽出率がほぼ同等であった。実施例5,9は、Si抽出率が同じであった。この結果から、NaOH水溶液として再生NaOH水溶液のみを使用した場合においても、試薬NaOHのみを使用した場合と同等のケイ酸塩を抽出できることが確認された。
【0105】
[3:NaOH再生条件の検討]
(実施例1A~1F、比較例1)
再生工程におけるCa/Naモル比及び90℃での攪拌時間を表4に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同じ手順で再生NaOH水溶液を得た。実施例1と同じ手順で、NaOH濃度(A[mol/L])、Na
2CO
3濃度(B[mol/L])及びNaOH再生率(C[%])を求めた。結果を表4に示す。
【表4】
【0106】
表4に示すとおり、Ca/Naモル比0.7以上となるようにCa(OH)2を添加した場合、NaOH再生率は70%以上であり、十分にNaOHを再生できていることが確認できた。Na2CO3とCa(OH)2の反応量論比はCa/Naモル比=0.5であるが、Ca/Naモル比0.7以上で高いNaOH再生率が得られた理由は以下のように考察している。得られたNa2CO3含有液には、Na2CO3以外の石炭灰(ケイ素含有廃棄物)由来のK+や重金属イオンなど複数のイオンが存在する。そのため、これらの成分が炭酸イオンを保持することで、純粋なNa2CO3溶液と比べて炭酸イオンを多く含んだ状態にあると考えられる。そうすると、Caイオンが炭酸イオンとの反応に消費されるため、より多くのCaイオンが必要となったと考えられる。
【0107】
実施例4~6より、NaOHの再生の際、90℃での攪拌時間を60分間以上にすることによって十分に反応が進行することが確認された。