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特開2024-125907積層体、物品、これらの製造方法、物品の識別方法、及びレーザーマーキング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125907
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】積層体、物品、これらの製造方法、物品の識別方法、及びレーザーマーキング方法
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/41 20140101AFI20240911BHJP
   B42D 25/24 20140101ALI20240911BHJP
   B42D 25/23 20140101ALI20240911BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240911BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B42D25/41
B42D25/24
B42D25/23
B32B27/20 Z
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034034
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】重富 清恵
【テーマコード(参考)】
2C005
4F100
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HA04
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB03
2C005HB04
2C005HB07
2C005HB09
2C005JB01
2C005JB22
2C005KA31
2C005LA02
2C005LA22
2C005LB07
2C005LB15
2C005LB38
4F100AA20A
4F100AA21B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK45A
4F100AK45B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DE01A
4F100DE02A
4F100GB71
4F100JA03
4F100JA05
4F100JA07
4F100JA12A
4F100JA12B
4F100JC00A
4F100JC00B
4F100JJ03
4F100JL16A
4F100JL16B
4F100JN28B
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】セキュリティ性が高く、リサイクル性に優れ、かつ良好な外観を確保でき、耐熱性も良好な、積層体を提供することができる。
【解決手段】少なくとも樹脂層(a)と樹脂層(b)とを有する積層体であって、樹脂層(a)が直径がナノメートル単位の細孔を有する多孔質シリカ粒子を含み、多孔質シリカ粒子が光学式リーダーを使用して読み取り可能である、積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂層(a)と樹脂層(b)とを有する積層体であって、
樹脂層(a)が直径がナノメートル単位の細孔を有する多孔質シリカ粒子を含み、多孔質シリカ粒子が光学式リーダーを使用して読み取り可能である、積層体。
【請求項2】
前記多孔質シリカ粒子が扁平状である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記多孔質シリカ粒子が蜂の巣状の細孔を有する、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記多孔質シリカ粒子の細孔直径の平均値が、6nm以上150nm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂層(a)における前記多孔質シリカ粒子の含有量が、1質量ppm以上3000質量ppm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記多孔質シリカ粒子の平均粒径が、1μm以上500μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記多孔質シリカ粒子が、以下(a1)~(a3)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
(a1)細孔直径が0.001nm以上2nm未満のミクロ孔を有する多孔質シリカ粒子、
(a2)細孔直径が2nm以上50nm以下のメソ孔を有する多孔質シリカ粒子、及び
(a3)細孔直径が50nm超1000nm以下のマクロ孔を有する多孔質シリカ粒子。
【請求項8】
前記樹脂層(a)に含有される樹脂が、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記樹脂層(b)に含有される樹脂が、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記樹脂層(b)が発色剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
カード又はパスポートに用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体を備える、物品。
【請求項13】
パスポート又はカードのいずれかである、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体を備える物品の識別方法であって、
光学式リーダーにより、前記積層体に含有される前記多孔質シリカ粒子が形成する反射パターンを読み取り、読み取った反射パターンにより、前記物品の識別を行う、物品の識別方法。
【請求項15】
前記物品が、パスポート又はカードのいずれかであり、読み取った前記反射パターンにより、前記パスポート又はカードが真正か否かの判定を行う、請求項14に記載の物品の識別方法。
【請求項16】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法であって、
少なくとも樹脂、及び前記多孔質シリカ粒子を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(a)と、樹脂層(b)とを積層して積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項17】
請求項10に記載の積層体に、レーザー照射によりレーザーマーキングする、レーザーマーキング方法。
【請求項18】
請求項12に記載の物品の製造方法であって、
少なくとも樹脂、及び前記多孔質シリカ粒子を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(a)と、樹脂層(b)とを積層して前記積層体を得る、物品の製造方法。
【請求項19】
請求項10に記載の積層体の製造方法であって、
少なくとも樹脂、及び前記多孔質シリカ粒子を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(a)と、少なくとも樹脂、及び発色剤を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(b)とを積層して積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の積層体の製造方法で得られた積層体に対して、レーザー照射によりレーザーマーキングをする、カードの製造方法。
【請求項21】
請求項19に記載の積層体の製造方法で得られた積層体に対して、レーザー照射によりレーザーマーキングをする、パスポートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、該積層体を備えるパスポート、カードなどの物品、該物品の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード、運転免許証、健康保険証等のIDカードやパスポート、ポリマー紙幣等は、偽造されやすい。そのため、セキュリティ機能を有することで、真贋の判定が可能で、偽造防止できることが求められている。IDカードやパスポート、ポリマー紙幣へのセキュリティ対策としては、ホログラムやQRコード(登録商標)、クリアウィンドウ、イメージスイッチ等の技術が用いられている。IDカードやパスポートには、顔写真が印刷又は印字されているが、顔写真の上にこれらを施すと、顔写真の外観が損なわれる場合があるため、顔写真上に対応できるセキュリティ対策は限られる。
【0003】
また、QRコード(登録商標)等の暗号化コードは、樹脂フィルムの表面に印字されたり、貼付されたりして表示されることがある。さらに、パスポートやカードは、所持者の写真等をフィルム表面に貼付されたりすることもある。しかし、これらは、暗号化コードを印字ごと複写されたり、写真を剥がして挿げ替えたりする等の処理により偽造される可能性があり、セキュリティ対策としては不向きである。
【0004】
さらに、真贋を判定する方法として、特許文献1、2では、蛍光体や蛍光体繊維を、カードやパスポートに包含させる方法が知られている。また、特許文献3には、蛍光シリカ粒子が透明熱可塑性樹脂中に分散されたセキュリティフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-59621号公報
【特許文献2】国際公開第2018/074481号
【特許文献3】国際公開第2015/025559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示される真贋判定に使用される蛍光体は、既に知られている物質であり、特殊性と入手困難性を兼ね備えておらず、偽造者も市場で容易に入手可能なため、セキュリティ機能を十分に担保することは難しい。
また、特許文献3に記載されるセキュリティフィルムは、シリカをフィルム中に分散させることで熱可塑性樹脂組成物の透明性を低下させることがある。そのため、パスポート又はカードの外観を損ねることがあり、例えば、カードやパスポートが本来設計した色と異なる色となることがある。また、レーザー印字を施した際には、印字部のコントラストが低下する等して印字性が低下することもある。加えて、カードやパスポートを作製する際に必要な耐熱性が得られず寸法変化が大きくなり、作業性の低下や反りが発生することがある。
【0007】
さらに、近年、環境保護の重要性が年々高まっており、パスポート又はカードに使用される樹脂組成物もリサイクルすることが求められることがある。しかし、セキュリティ性を付与するためには、上記の通りにホログラム等の特殊印刷を施すなどして特別な積層構造を有する必要があることが多いが、特別な積層構造を有するパスポート又はカードは、印刷層の剥離や分別が難しいなど、リサイクル性が低いことが多い。
【0008】
以上のとおり、カード及びパスポート等において、セキュリティ機能を高くするとともに、優れたリサイクル性と、セキュリティ性を確保するための物質によって外観が悪くなることを防止でき、加えて耐熱性も良好な、樹脂フィルムを開発することが望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、セキュリティ性が高く、リサイクル性に優れ、かつ良好な外観や良好な耐熱性を確保できる、樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、樹脂層(a)と、樹脂層(b)を含有する積層体において、樹脂層(a)に特定の多孔質シリカ粒子を含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[21]を提供する。
[1]少なくとも樹脂層(a)と樹脂層(b)とを有する積層体であって、
樹脂層(a)が直径がナノメートル単位の細孔を有する多孔質シリカ粒子を含み、多孔質シリカ粒子が光学式リーダーを使用して読み取り可能である、積層体。
[2]前記多孔質シリカ粒子が扁平状である、上記[1]に記載の積層体。
[3]前記多孔質シリカ粒子が蜂の巣状の細孔を有する、上記[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記多孔質シリカの細孔直径の平均値が、6nm以上150nm以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記樹脂層(a)における前記多孔質シリカ粒子の含有量が、1質量ppm以上3000質量ppm以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記多孔質シリカ粒子の平均粒径が、1μm以上500μm以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記多孔質シリカ粒子が、以下(a1)~(a3)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
(a1)細孔直径が0.001nm以上2nm未満のミクロ孔を有する多孔質シリカ粒子、
(a2)細孔直径が2nm以上50nm以下のメソ孔を有する多孔質シリカ粒子、及び
(a3)細孔直径が50nm超1000nm以下のマクロ孔を有する多孔質シリカ粒子。
[8]前記樹脂層(a)に含有される樹脂が、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]前記樹脂層(b)に含有される樹脂が、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]前記樹脂層(b)が発色剤を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11]カード又はパスポートに用いる、上記[1]~[10]のいずれかに記載の積層体。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の積層体を備える、物品。
[13]パスポート又はカードのいずれかである、上記[12]に記載の物品。
[14]上記[1]~[13]のいずれかに記載の積層体を備える物品の識別方法であって、
光学式リーダーにより、前記積層体に含有される前記多孔質シリカ粒子が形成する反射パターンを読み取り、読み取った反射パターンにより、前記物品の識別を行う、物品の識別方法。
[15]前記物品が、パスポート又はカードのいずれかであり、読み取った前記反射パターンにより、前記パスポート又はカードが真正か否かの判定を行う、上記[14]に記載の物品の識別方法。
[16]上記[1]~[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、
少なくとも樹脂、及び前記多孔質シリカ粒子を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(a)と、樹脂層(b)とを積層して積層体を得る、積層体の製造方法。
[17]上記[10]に記載の積層体に、レーザー照射によりレーザーマーキングする、レーザーマーキング方法。
[18]上記[12]又は[13]に記載の物品の製造方法であって、
少なくとも樹脂、及び前記多孔質シリカ粒子を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(a)と、樹脂層(b)とを積層して前記積層体を得る、物品の製造方法。
[19]上記[10]に記載の積層体の製造方法であって、
少なくとも樹脂、及び前記多孔質シリカ粒子を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(a)と、少なくとも樹脂、及び発色剤を混合して得た樹脂組成物から形成された樹脂層(b)とを積層して積層体を得る、積層体の製造方法。
[20]上記[19]に記載の積層体の製造方法で得られた積層体に対して、レーザー照射によりレーザーマーキングをする、カードの製造方法。
[21]上記[19]に記載の積層体の製造方法で得られた積層体に対して、レーザー照射によりレーザーマーキングをする、パスポートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セキュリティ性が高く、リサイクル性に優れ、かつ良好な外観や良好な耐熱性を確保できる、積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】多孔質シリカ粒子を含む樹脂層によって形成される反射パターンの反射スペクトルの一例を示す模式図である。
図2】多孔質シリカ粒子を含む樹脂層によって形成される反射パターンの反射ピークの一例を示す模式図である。
図3】実施例で使用した多孔質シリカ粒子(MS1)のSEM画像(図3(a)~図3(c))と、細孔直径の分布図(図3(d))を示す。
図4】実施例で使用した多孔質シリカ粒子(MS2)のSEM画像(図4(a)~図4(c))と、細孔直径の分布図(図4(d))を示す。
図5図3(c)の二値化画像(図5(a))と、図5(a)の黒色部形状の楕円近似画像(図5(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態を参考に詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明において使用される用語「フィルム」と用語「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0014】
本発明の積層体(以下、「本積層体」ということがある)は、少なくとも樹脂層(a)と樹脂層(b)とを有する積層体であって、樹脂層(a)が直径がナノメートル単位の細孔を有する多孔質シリカ粒子を含むものである。
以上の構成を有する積層体は、樹脂層(a)が多孔質シリカ粒子を含有することで、透明性を確保しやすくなるとともに、セキュリティ性を高めることができ、耐熱性も良好にできる。
また、多孔質シリカ粒子は、積層体自体において、一部の層(すなわち、樹脂層(a))のみに含有させるだけでよく、かつ、樹脂層(b)における多孔質シリカ粒子自体の含有量も、後述する通りに少量でもよい。したがって、多孔質シリカ粒子は分別しなくても、積層体中の多孔質シリカ粒子の含有量を極少量にすることができる。そのため、例えば、多孔質シリカ粒子を分別せずに、積層体をリサイクルしても、リサイクル後の樹脂の品質の低下を抑制することができ、リサイクル性が良好となる。
【0015】
<樹脂層(a)>
樹脂層(a)に含有される樹脂は、熱硬化性樹脂などの熱可塑性樹脂以外の樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂が好ましい。樹脂として熱可塑性樹脂を使用することで、加工性、成形性などが良好となり、リサイクル性も良好となる。
樹脂層(a)における樹脂は、特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリアリールエテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フッ素樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂などが挙げられる。
【0016】
これらの中でも、樹脂層(a)に含有される樹脂は、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。これら樹脂は、パスポートやカード用途に好適に使用でき、透明性を確保しやすくなる。なお、これらの樹脂は、一般的に熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂などの熱可塑性樹脂以外の樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂が好ましい。また、上記した樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。以下、各樹脂について詳細に説明する。
【0017】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂層の透明性を確保しやすく、かつ耐熱性を良好にできる観点から好ましい。ポリカーボネート樹脂は、特に限定されないが、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂のいずれでもよい。
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂を好適に用いることができる。ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂は、耐熱性をより向上させることができる。ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂とは、ジオールに由来する構造単位中50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールであるものをいう。ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂は、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有してもよいし、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造を有する樹脂と直鎖構造のみの樹脂との混合物であってもよい。
【0018】
本発明において用いるビスフェノール系ポリカーボネート樹脂の製造方法は、例えば、ホスゲン法、エステル交換法およびピリジン法などの公知のいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。
エステル交換法は、ビスフェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
【0019】
ビスフェノールの代表例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられるが、ビスフェノールAの一部又は全部を他のビスフェノールで置き換えてもよい。
【0020】
ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。
【0021】
一方、炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、及び、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0022】
本発明において用いられるビスフェノール系ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量(Mw)は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、10000以上100000以下、好ましくは30000以上80000以下の範囲である。
ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、例えば10000以上50000以下、好ましくは10000以上40000以下の範囲である。
また、ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂の数平均分子量に対する質量平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分散度は、特に限定されないが、例えば1.1以上10以下、好ましくは1.5以上6以下、より好ましくは1.8以上5以下、よりさらに好ましくは2以上4以下である。
なお、質量平均分子量及び数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレンを標準物質として測定できる。
【0023】
また、ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、12000以上40000以下、好ましくは15000以上35000以下、より好ましくは20000以上30000以下、さらに好ましくは22000以上28000以下の範囲である。なお、粘度平均分子量の測定は、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10-40.83の式から算出できる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂としては、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂も好ましい。構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物は、バイオ由来、特に植物由来の原料から容易に製造できるので、環境負荷を低減させることができる。また、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を使用することで、一定の耐熱性を確保しつつ、低温熱融着性を良好にしやすくなる。そのため、ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂層(例えば、樹脂層(a))を、他の樹脂層(例えば、樹脂層(b))に容易に積層しやすくなり、また、本積層体を別の部材などに容易に融着しやすくなる。
【0025】
【化1】
但し、前記式(1)で表される部位が-CH-O-Hの一部である場合を除く。すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、2つのヒドロキシル基と、さらに前記式(1)の部位を少なくとも含むものをいう。
【0026】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子内に式(1)で表される構造を有していれば特に限定されるものではないが、具体的には、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物および下記式(3)で表されるスピログリコール等で代表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】
【化3】
式(3)において、R~Rはそれぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基である。
【0028】
また、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)置換フェニル)フルオレン(なお、置換フェニルにおける置換基としては、炭素数1~6程度の直鎖又は分岐アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基などのアリール基などが挙げられる)などの側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物なども挙げられる。
上記の中では、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、特に式(2)で表されるような無水糖アルコールが好ましい。より具体的には、式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その構造単位以外の構造単位を含有してもよく、例えば、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有することが好ましい。
【0030】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば炭素数2~12程度の脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられ、好ましくはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールから選択される少なくとも1種が挙げられる。また、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、例えば国際公開第2004/111106号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0031】
脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、5員環構造又6員環構造の少なくともいずれかを含むことが好ましく、特に6員環構造は共有結合によって椅子型又は舟型に固定されていてもよい。これら構造の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことによって、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高めることができる。
脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は、例えば5~70、好ましくは6~50、さらに好ましくは8~30である。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、好ましくは、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールから選択される少なくとも1種が挙げられ、経済性や耐熱性の観点から、シクロヘキサンジメタノール又はトリシクロデカンジメタノールがさらに好ましく、シクロヘキサンジメタノールがよりさらに好ましい。シクロヘキサンジメタノールは、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0032】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、上記した脂肪族ジヒドロキシ化合物又は脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外にも、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が含まれていてもよい。例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール-A)等を、少量共重合させたりしてもよい。
【0033】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その構造単位の含有割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、よりさらに好ましくは45モル%以上であり、また好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは75モル%以下、よりさらに好ましくは70モル%
以下、よりさらに好ましくは65モル%以下である。
【0034】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでも製造でき、中でも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物とその他のジヒドロキシ化合物とを、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法が好ましい。
炭酸ジエステルとしては、上記で列挙した化合物を使用でき、中でもジフェニルカーボネートが好適に用いられる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、機械的強度を付与する観点から、例えば0.3dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、また、成形する際の流動性を高めて、生産性及び成形性を向上させる観点から、例えば1.2dL/g以下であり、1dL/g以下が好ましく、0.8dL/g以下がさらに好ましい。
還元粘度は、溶媒としてジクロロメタンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0036】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、例えば70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは95℃以上である。カラス転移温度を上記下限値以上とすることで耐熱性を確保でき、パスポードやカード用として好適に使用できる。また、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、例えば200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。
ガラス転移温度を上記上限値以下とすることで、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂層の加工性が良好となり、例えば、樹脂層(a)の成形が容易となり、また、比較的低い温度で、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂層を他の樹脂層に容易に積層することができる。また、低温融着性を確保しやすくなるので、本積層体を別のフィルムなどに容易に融着できるようにもなる。なお、ポリカーボネート樹脂は、通常、単一のガラス転移温度を有するとよい。
【0037】
ポリカーボネート樹脂は、より低い温度での融着性や、加工性が要求される用途では、ガラス転移温度を比較的低くすればよく、そのような場合のガラス転移温度は、好ましくは70℃以上150℃以下、より好ましくは80℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは90℃以上120℃以下、よりさらに好ましくは95℃以上110℃以下である。
また、高い耐熱性が必要とされる用途では、ガラス転移温度を比較的高くすればよく、そのような場合のガラス転移温度は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは145℃以上170℃以下である。
ガラス転移温度は、ポリカーボネート樹脂を構成する各構造単位の比を適宜選択することで、調整することが可能である。なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、粘弾性スペクトロメーターを使用して、動的粘弾性の温度分散測定により得ることができる。例えば、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200」(アイティー計測制御株式会社製)を用い、JIS K7244-4:1999を参考にして、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定を行い、損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度とするとよい。
【0038】
ポリカーボネート樹脂としては、市販品も使用可能であり、具体的には、ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ユーピロン」シリーズ、「ノバレックス」シリーズ、住化ポリカーボネート社製の「カリバー」シリーズなどが使用できる。また、式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂として三菱ケミカル社製の「デュラビオ(DURABIO)」シリーズなどを使用できる。
ポリカーボネート樹脂は、上記したものから1種を選択して使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(非晶性ポリエステル樹脂)
樹脂層は、非晶性ポリエステル樹脂を含有することで、接着強度が高くなりやすくなり、例えば、非晶性ポリエステル樹脂を含有する樹脂層(a)を、低温で高い接着強度で樹脂層(b)などの他の樹脂層に融着させやすくなる。また、非晶性ポリエステル樹脂を含有する樹脂層の透明性も確保しやすくなる。非晶性ポリエステル樹脂は、例えば、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合して得られるポリエステルである。なお、ジカルボン酸としては、ジカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体がポリエステル樹脂の合成に供されてもよい。
【0040】
ポリエステル樹脂を得るために使用されるジカルボン酸としては、耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、したがって、ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、3-スルホイソフタル酸ナトリウム、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸等が挙げられ、これらの中では、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
芳香族ジカルボン酸由来の構造単位は、ポリエステル樹脂中のジカルボン酸由来の構造単位中に、例えば60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含まれることがさらに好ましい。また、上限に関しては、特に限定されず、100モル%以下であればよいが、最も好ましくは100モル%である。
【0042】
また、ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位に加えて、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を少量(通常40モル%以下、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下の範囲で)含んでもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
非晶性ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことで、非晶性ポリエステル樹脂を含有する樹脂層を比較的低い温度で他の樹脂層などに高い接着性で融着させやすくなる。
非晶性ポリエステル樹脂に使用される鎖式ジヒドロキシ化合物は、直鎖であってもよいし、分岐構造を有してもよい。鎖式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、トリエチレングリコール、1,2-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールなどの炭素原子数2~18程度の鎖式ジヒドロキシ化合物やポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロプレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリグリコールが挙げられる。これらの中では、炭素原子数2~12の鎖式ジヒドロキシ化合物が好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、中でもエチレングリコール(EG)が特に好ましい。
鎖式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
非晶性ポリエステル樹脂は、ジヒドロキシ化合物を2種以上共重合成分として使用した共重合体ポリエステル樹脂であることが好ましい。具体的には、非晶性ポリエステル樹脂を得るために使用されるジヒドロキシ化合物として、鎖式ジヒドロキシ化合物に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することが好ましい。したがって、非晶性ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することで、耐熱性、耐溶剤性などが良好となりやすい。
脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、テトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールなどが挙げられる。これらの中ではテトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノールとしては、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールがあるが、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、テトラメチルシクロブタンジオールとしては、一般的には、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールが使用される。
脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物としては、少なくともシクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましく、テトラメチルシクロブタンジオールとシクロヘキサンジメタノールを併用することも好ましい。
【0045】
非晶性ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、例えば5モル%以上、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、また、例えば99モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。ポリエステル樹脂は、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を一定量以上含有することで、耐熱性が良好となりやすくなる。また、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を一定量以下とし、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を一定量以上含有することで、低温融着性が良好となりやすい。
【0046】
非晶性ポリエステル樹脂において、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合は、好ましくは65モル%以下、より好ましくは55モル%以下、さらに好ましくは45モル%以下、よりさらに好ましくは40モル%以下である。これら上限値以下とすることで、低温で非晶性ポリエステル樹脂を含む樹脂層を別の樹脂層に融着させたり、低い温度で積層体を成形したりしても、層間での接着強度を高くしやすくなる。
ただし、非晶性ポリエステル樹脂は、特に、高温環境下での貯蔵弾性率や加熱収縮率等の耐熱性や耐溶剤性の観点においては、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、好ましくは65モル%超、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、よりさらに好ましくは90モル%以上である。
【0047】
非晶性ポリエステル樹脂に使用されるジヒドロキシ化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で、鎖式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(「他のジヒドロキシ化合物」ともいう)を使用してもよい。非晶性ポリエステル樹脂において、他のジヒドロキシ化合物由来の構造単位の含有量は、非晶性ポリエステル樹脂中のジヒドロキシ化合物由来の構造単位100モル中、例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、最も好ましくは0モル%である。
他のジヒドロキシ化合物としては、p-キシレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンなどが挙げられる。
【0048】
非晶性ポリエステル樹脂は、上記した中でも、接着強度を高くしやすくなる観点から、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含むことが好ましく、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含むことも好ましい。
【0049】
非晶性ポリエステルは、実質的に非結晶性であるポリエステルであればよい。実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)であるポリエステルとしては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル、及び、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く、押出し製膜法などによる成形時に結晶性が高い状態とならないポリエステル、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。すなわち、本発明における非晶性とポリエステルには、“非結晶状態である結晶性のポリエステル”をも包含する。
【0050】
非晶性ポリエステルとしては、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、1,4-CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)と、エチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステルであることが、実用上十分な低温融着性、接着性、耐熱性などをバランス良く良好になる点や、原料入手の容易さから好ましい。この際、1,4-CHDMは、ジオール成分全量基準で20モル%以上80モル%以下、好ましくは22モル%以上60モル%以下、より好ましくは25モル%以上45モル%以下であり、また、エチレングリコールは、20モル%以上80モル%以下、好ましくは40モル%以上78モル%以下、より好ましくは55モル%以上75モル%以下であるとよい。このような共重合ポリエステルは、本明細書ではPETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)として記載することがある。
ここで、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4-CHDMおよびエチレングリコールの合計量を好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含むことをいう。
ジオール成分における、1,4-CHDMの量が前記下限値以上であることにより、結晶性樹脂としての特徴が抑制され、結晶化に伴う透明性の低下を抑制しやすく、また他の層との接着性が良好となりやすい。また、1,4-CHDMの量が前記上限値以下であることにより、同様に結晶性樹脂としての特徴が抑制され、結晶化に伴う透明性の低下を抑制しやすく、また他の樹脂層やフィルムとの接着性が良好となりやすいことから好ましい。
【0051】
前記組成範囲にある共重合ポリエステルの中でも、1,4-CHDMがジオール成分の約30モル%付近の組成では、DSC(示差走査熱量計)測定においても結晶化挙動が認められず、完全に非晶性を示すことが知られている。完全に非晶性のポリエステルとしては、PETGとして、例えば、イーストマンケミカル社製の「イースター GN001」等が挙げられる。
ただし、これに限定されるものではなく、結晶性の低いもの、例えば、ジエチレングリコールを共重合したPET系樹脂、イソフタル酸を共重合したPET系樹脂やPBT系樹脂で結晶性の低いもの等、各種共重合成分の導入により結晶化を阻害した構造を有する共重合ポリエステル樹脂も、非晶性ポリエステル樹脂として用いることができる。また、これら例示したポリエステル樹脂において、テレフタル酸の一部又は全てをナフタレンジカルボン酸に置き換えたポリエステル樹脂も、非晶性であるものは同様に用いることができる。
【0052】
非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、低温融着性や成形性などを良好にする観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下、よりさらに好ましくは87℃以下である。また、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、積層体の耐熱性を良好にする観点から、70℃以上が好ましく、73℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましく、78℃以上がよりさらに好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)の測定方法は、上記のとおりである。
【0053】
(植物由来樹脂)
樹脂層は、植物由来樹脂を含有することで、環境負荷を低減させることができる。植物由来樹脂は、樹脂を構成する成分の少なくとも一部が植物由来であればよく、上記した樹脂と重複するものであってもよい。例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
これらの中では、耐熱性を向上できる観点から、ポリカーボネート樹脂が好ましい。また、ポリカーボネート樹脂としては、上記した通り、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が好ましく、その詳細は上記で述べたとおりである。
【0054】
また、植物由来樹脂として使用されるポリエステル樹脂としては、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)等のポリ(α-ヒドロキシ酸);ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンサクシネート(PES)等のポリアルキレンアルカノエート等、バイオポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むものなどが挙げられる。
【0055】
植物由来樹脂として使用されるポリオレフィン樹脂としては、バイオポリエチレン樹脂、バイオポリプロピレン樹脂などが挙げられる。バイオポリエチレン樹脂は、例えばサトウキビを原料としたものが挙げられる。また、バイオポリプロピレン樹脂は、植物から発酵により得られたイソプロパノールを原料とするものが挙げられる。
植物由来樹脂として使用されるポリアミド樹脂としては、ひまし油、リジン、グルタミン酸などを原料としたものが挙げられる。なかでも、ひまし油を原料とするセバシン酸と1,10-デカンジアミンを縮合して得られるポリアミド10,10や、同じく11-アミノウンデカン酸を重合して得られるポリアミド11等が挙げられる。
【0056】
(リサイクル樹脂)
樹脂層は、リサイクル樹脂を含有することで、環境負荷をより一層低減させることができる。リサイクル樹脂は、回収された製品、廃棄物などを、化学反応を伴う化学的再生法により再生された樹脂であってもよいし、回収された製品、廃棄物などを、物理的再生法(メカニカルリサイクル)により再生された樹脂であってもよい。
【0057】
化学的再生法により再生された樹脂は、ポリエステル樹脂であれば、廃棄などされたポリエステル樹脂を解重合して、得られた中間体又はモノマーから、再度重合してポリエステル樹脂を合成することで得ることができる。
物理的再生法により再生された樹脂は、ポリエステル樹脂製品やポリカーボネート樹脂製品などの各種樹脂製品、生産過程で発生する端材などを回収して、必要に応じて選別、洗浄などを行ったうえで、溶融、粉砕などの加工を行い、次いで、造粒、微細化、ペレット化、フレーク化などの加工を適宜行い、粉体、粒状、ペレット、フレーク状などの樹脂組成物の原料として使用できる形態にしてリサイクル樹脂として使用すればよい。
リサイクル樹脂としては、耐熱性、透明性、リサイクル性などの観点から、ポリカーボネート樹脂を再生した再生ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂を再生した再生非晶性ポリエステル樹脂が好ましく、中でも再生非晶性ポリエステルがより好ましい。なお、ポリカーボネート樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂の詳細は、上記の通りである。
【0058】
ただし、リサイクル樹脂は、これらに限定されず、いかなる種類の樹脂が使用されてもよい。例えば、ポリエステル樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂以外の再生ポリエステル樹脂を使用してもよく、ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステル樹脂を再生した再生結晶性ポリエステル樹脂であってもよい。
また、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂以外であってもよく、具体的には、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリアリールエテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0059】
なお、樹脂層(a)において、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、リサイクル樹脂、及び植物由来樹脂は、主成分となることが好ましい。具体的には、樹脂層(a)は、樹脂層(a)に含有される樹脂全量基準で、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、リサイクル樹脂、及び植物由来樹脂から選択される樹脂が、50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下含有する。
【0060】
また、リサイクル樹脂を使用する場合、樹脂層(a)に含まれる樹脂は、全量をリサイクル樹脂としてもよいが、一部をリサイクル樹脂としてもよい。樹脂層(a)におけるリサイクル樹脂の含有量は、樹脂層(a)に含有される樹脂全体に対して、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。リサイクル樹脂の含有量は、地球環境保護の観点から、高ければ高いほどよく、100質量%以下であれば特に制限されない。
【0061】
また、樹脂層(a)は、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、リサイクル樹脂、及び植物由来樹脂の少なくともいずれかの樹脂を含有する場合、これらから選択される樹脂に加えて、これら以外の樹脂を含有してもよく、具体的には、結晶性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリアリールエテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フッ素樹脂の少なくともいずれかを含有してもよい。
【0062】
[多孔質シリカ粒子]
樹脂層(a)は、直径がナノメートル単位の細孔を有する多孔質シリカ粒子を含む。多孔質シリカ粒子は、認証又は識別を容易にできる光学的標識として含むとよい。また、以下で詳しく説明する多孔質シリカ粒子は、樹脂層(a)に含有されても、樹脂層(a)の透明性を損われないので、積層体の外観が良好となりやすくなる。さらに、多孔質シリカ粒子は、上記した各樹脂に配合して使用することで、樹脂層(a)の耐熱性も向上させることができ、例えば樹脂層(a)の加熱収縮率を低くできる。
【0063】
多孔質シリカ粒子の例としては、特表2013-531849号公報等に記載されているものが挙げられる。より具体的には、高純度のシリカ粒子の表面に、直径がナノメートル単位の細孔、好ましくは、ミクロ孔、メソ孔又はマクロ孔が無数に形成されたものであり、ナノ多孔性構造を有するシリカ粒子が挙げられる。
【0064】
多孔質シリカ粒子は、光学式リーダーを使用して読み取り可能である。具体的に説明すると、多孔質シリカ粒子は、穴(細孔)の形状に基づいた、特定の反射パターンを反射する。したがって、その反射パターンを読み取ることができる光学式リーダーを使用すると、多孔質シリカ粒子の細孔に基づく特定の反射パターンを、光学的標識として用いることができる。
【0065】
光学式リーダーとしては、光学式分光リーダーが挙げられる。光学式分光リーダーとしては、具体的には、トゥルータグ社製ハイパースペクトルカメラ等が挙げられる。光学式分光リーダーは、読み取った光について波長ごとに強度を読み取ることができる。したがって、例えば、図1に示すとおりに、特定の反射パターンを、反射スペクトルSPとして読み取ることができ、それをスペクトル標識(光学的標識)として用いることができる。
【0066】
また、光学式リーダーは、光学式分光リーダー以外を使用してもよく、特定の波長又は波長域の強度を読み取ることができるものであってもよく、具体的には、RGBセンサで代表されるカラーセンサーであってもよい。このような光学式リーターは、図2に示すとおり、反射パターンを、特定の波長又は波長域の強度を反射ピークPとして読み取ることができ、それを光学的標識として用いることができる。カラーセンサーとしては、CMOS,CCDなどの公知の撮像素子を使用でき、汎用的に使用されるカメラの撮像素子や、スマートフォンやタブレット端末等の撮像素子を利用してもよい。また、スマートフォンやタブレット端末等の撮像素子を利用する場合には、ソフトウェアやアプリケーションをインストールし、それらのプログラムに従って反射ピークを読み取るようにしてもよい。
反射パターンの読み込みは、太陽光、室内光などの任意の照明下で行ってもよいし、予め定められた特定の照明下で行ってもよい。なお、特定の照明は、例えば、発光スペクトルなどが予め定められたものを使用すればよい。
【0067】
本発明では、樹脂層(a)に光を当てて、特定の反射パターンを検出することで、本積層体が多孔質シリカ粒子により特定の光学的標識が付されたものであることがわかり、本樹脂層(a)を有するパスポードやカードなどの物品が、真正であると判断できる。そのため、物品の真贋を判定することができ、セキュリティ性を高めることができる。なお、上記反射パターンは、細孔の構造を変えることで無数に用意できるため、第3者は模倣しにくくなり、偽造防止性を高めることができる。
【0068】
また、上記反射パターンは、細孔の構造を変えることで無数に用意できるため、反射パターンと特定の情報とを予め紐づけしておくことで、反射パターンにより、物品の真贋の判定のみならず、本積層体を備える物品に関わる特定の情報も入手できる。
なお、特定の情報としては、物品に関連する情報が挙げられ、物品そのものの情報や、物品の所有者の情報などが挙げられる。例えば、物品がカードやパスポートの場合には、カードやパスポートの所有者情報(例えば、性別、年齢、氏名、国籍、誕生日など)、カード情報(例えば、カード番号、有効期限、カード会社情報など)、パスポート情報(パスポート番号、有効期限など)などである。
【0069】
また、特定の情報としては、樹脂組成物の樹脂に関する情報であってもよい。樹脂組成物の樹脂に関する情報としては、樹脂組成物が植物由来樹脂を含むか否か、樹脂組成物がリサイクル樹脂を含むか否かの情報などが挙げられる。
したがって、上記反射パターンを読み取ることによって、樹脂として植物由来樹脂や、リサイクル樹脂を使用しているか否かを識別することができる。
【0070】
多孔質シリカ粒子は、直径がナノメートル単位の細孔を無数に有し、蜂の巣状の細孔を有するとよい。ただし、蜂の巣状の細孔において各細孔の形状は不均一であってもよい。すなわち、本明細書において「蜂の巣状」とは、図3(c)、図4(c)に示すとおり、各細孔が六角形に限らず様々な形状を有して不均一であり、かつその不均一な形状の細孔が蜂の巣のように、二次元的に(すなわち、縦及び横方向に)多数連続した形状を有するものであってもよい。各細孔は、不定形であり、多角形、又は多角形に近似した形状を有するとよい。ここで、多角形に近似した形状とは、多角形の辺や角の少なくとも一部が丸みを帯びているものをいう。
多孔質シリカ粒子は、上記のような蜂の巣状の細孔を有することで、上記のとおり穴(細孔)の形状に基づいた、特定の反射パターンで適切に反射することができ、また、細孔の構造を変えることで反射パターンは無数に用意できる。
【0071】
多孔質シリカ粒子は、上記の通り、直径がナノメートル単位の細孔を有するが、本明細書において、「直径がナノメートル単位」とは、直径が10-12m(ピコメートル単位)以上10-6m(マイクロメートル単位)以下であることを意味する。
多孔質シリカ粒子が有する細孔は、好ましくは直径が0.001nm(1×10-12m)以上100nm(1×10-7m)以下であり、より好ましくは直径が0.001nm(1×10-12m)以上10nm(1×10-8m)以下であり、最も好ましくは直径が0.001nm(1×10-12m)以上1nm(1×10-9m)以下である。
また、同様に、多孔質シリカ粒子が有する細孔は、直径が0.01nm(1×10-11m)以上1000nm(1×10-6m)以下であることも好ましく、直径が0.1nm(1×10-10m)以上1000nm(1×10-6m)以下であることもより好ましく、直径が1nm(1×10-9m)以上1000nm(1×10-6m)以下であることも最も好ましい。
【0072】
本発明の具体的な態様において、上記多孔質シリカ粒子は、
(a1)細孔直径が0.001nm以上2nm未満のミクロ孔を有する多孔質シリカ粒子、
(a2)細孔直径が2nm以上50nm以下のメソ孔を有する多孔質シリカ粒子、及び
(a3)細孔直径が50nm超1000nm以下のマクロ孔を有する多孔質シリカ粒子
からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0073】
本発明の多孔質シリカ粒子が、メソ孔を有する多孔質シリカ粒子(a2)を含むことが好ましく、メソ孔を有する多孔質シリカ粒子(a2)に加えて、ミクロ孔を有する多孔質シリカ粒子(a1)又はマクロ孔を有する多孔質シリカ粒子(a3)の少なくともいずれか一方を有することがより好ましく、メソ孔を有する多孔質シリカ粒子(a2)及びマクロ孔を有する多孔質シリカ粒子(a3)を有するシリカがさらに好ましい。
【0074】
本発明の多孔質シリカ粒子は、細孔直径の平均値が、例えば0.001nm(1×10-12m)以上1000nm(1×10-6m)以下であればよいが、0.1nm(1×10-10m)以上500nm(5×10-7m)以下が好ましく、2nm(2×10-9m)以上250nm(2.5×10-7m)以下がより好ましく、3nm(3×10-9m)以上150nm(1.5×10-7m)以下がよりさらに好ましく、6nm(6×10-9m)以上100nm(1×10-7m)以下がさらに好ましく、10nm(1×10-8m)以上70nm(7×10-8m)以下がよりさらに好ましい。細孔直径の平均値が上記範囲内となることで、適切な反射パターンを生成しやすくなる。
また、本発明の多孔質シリカ粒子は、細孔直径の標準偏差が5nm以上30nm以下であることが好ましく、10nm以上28nm以下がより好ましく、15nm以上26nm以下がさらに好ましく、17nm以上24nm以下がよりさらに好ましい。細孔直径の標準偏差が上記範囲内となることで、適切な反射パターンを生成しやすくなる。
なお、多孔質シリカ粒子の細孔直径の平均値は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、多孔質シリカ粒子を観察して得られた画像(例えば、図3(c))を二値化する(例えば図5(a))。得られた二値化画像の黒色部の形状を楕円近似し(例えば、図5(b))、300個以上の細孔の最長径を測定し、その平均値を算出することで求めることができる。なお、多孔質シリカ粒子の形状が扁平状である場合は、その平な面を上からSEM観察すればよい。
【0075】
前記多孔質シリカ粒子の平均粒径は、好ましくは1μm以上500μm以下、より好ましくは3μm以上250μm以下、さらに好ましくは6μm以上200μm以下、よりさらに好ましくは9μm以上150μm以下、よりさらに好ましくは10μm以上100μm以下である。当該平均粒径が1μm以上であれば、特定の反射パターンが得られるなど性能が十分に発揮される。また、当該平均粒径が500μm以下であれば、分散性が十分となるとともに、樹脂組成物の透明性を確保しやすくなる。
なお、多孔質シリカ粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、30個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0076】
多孔質シリカの形状は、扁平状であることが好ましい。多孔質シリカの形状が扁平状であることで、穴(細孔)の形状に基づいた、特定の反射パターンに基づいた反射光を散乱させにくくなり、光学式リーダーにより適切に読み取り可能となる。扁平状とは、板状、鱗片状などの形状であり、一定の平面状となる部分を有すればよい。そして、平面状となる部分に少なくとも蜂の巣状の細孔が形成されればよい。扁平状のシリカは、最長径に対する厚みの比(アスペクト比)の平均値が、例えば1.5以上100以下、好ましくは1.7以上70以下、より好ましくは1.9以上50以下、さらに好ましくは2.2以上40以下、よりさらに好ましくは3以上30以下、よりさらに好ましくは3.5以上25以下である。
なお、アスペクト比の平均値は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、30個以上の粒子の厚みの平均値と、30個以上の粒子の最長径の平均値を測定して、厚みの平均値に対する最長径の平均値の比を求めることで測定できる。
【0077】
樹脂層(a)における多孔質シリカ粒子の含有量は、好ましくは1質量ppm以上3000質量ppm以下である。多孔質シリカ粒子の含有量が1質量ppm以上であれば、特定の反射パターンが得られるなど性能が十分に発揮される。一方で、多孔質シリカ粒子の含有量が3000質量ppm以下であれば、シリカ粒子の分散性が十分となるとともに、樹脂層(a)の透明性を確保しやすくなる。さらに、多孔質シリカ粒子の含有量が少量であることで、多孔質シリカ粒子の品質に対する悪影響を抑制しやすくなり、多孔質シリカ粒子を分別しなくても再利用しやすくなる。
樹脂層(a)における多孔質シリカ粒子の含有量は、2質量ppm以上1000質量ppm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2.5質量ppm以上500質量ppm以下、よりさらに好ましくは3質量ppm以上300質量ppm以下、よりさらに好ましくは4質量ppm以上200質量ppm以下、よりさらに好ましくは5質量ppm以上160質量ppm以下、特に好ましくは6質量ppm以上130質量ppm以下、最も好ましくは7質量ppm以上90質量ppm以下である。
【0078】
樹脂層(a)は、本発明の効果を損なわない限り上記した多孔質シリカ粒子以外のシリカ粒子を含んでもよい。そのようなシリカ粒子は、光学的標識として使用されないものであり、光学式リーダーを使用して読み取りできないものであるとよい。具体的には、扁平状以外の形状のシリカであり、例えば球状のシリカ粒子であるとよい。また、ナノ細孔を有していたとしても、蜂の巣状の細孔以外の細孔を有していてもよい。さらに、細孔直径の平均値は、特に限定されないが、6nm未満であってもよいし、150nmより大きくてもよい。そのようなシリカ粒子は、例えば、1質量ppm以上3000質量ppm以下で含有されればよく、好ましくは3質量ppm以上1000質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以上300質量ppm以下で含有されればよい。
【0079】
(加熱収縮率)
樹脂層(a)は、170℃で10分間加熱処理した際の以下の式で表される加熱収縮率が、3%以下であることが好ましい。なお、加熱収縮率は、樹脂層(a)からなる測定サンプルに標準線を付けて、加熱処理前後の標準線の間隔を測定して算出するとよい。
加熱収縮率(%)=[加熱処理前の標準線間隔-加熱処理後の標準線間隔]/加熱処理前の標準線間隔×100
【0080】
上記加熱収縮率は、加熱により収縮した際にプラスの値となり、加熱により伸長した際にはマイナスの値となる。一般的に樹脂フィルムは、加熱により収縮するので、本樹脂層(a)の加熱収縮率は、通常プラスの値となるが、その絶対値は低い方が加熱した際の収縮が少ないことを表す。したがって、本樹脂層(a)の加熱収縮率を上記の通り3.0%以下とすると、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が小さくなり、作業性の低下や反りの発生を防止できる。
これら観点から、加熱収縮率は2.5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1.7%以下がよりさらに好ましく、1.4%以下がよりさらに好ましい。一方で、加熱収縮率は、上記のとおり0%に近いほうがよく、したがって、加熱収縮率の下限は一般的に0%である。
なお、以上述べた加熱収縮率は、フィルムの面方向の一方向と、その一方向に垂直な方向の2方向について測定を行い、高い方の値(すなわち、熱収縮が大きいほうの値)を採用するとよいが、MD、TDの方向が判明している場合には、MD、TDの2方向について加熱収縮率を測定するとよい。
【0081】
樹脂層(a)は、透過率が70%以上であることが好ましい。樹脂層(a)は、透過率が70%以上であることで、透明性を良好にでき、積層体の意匠性を高めることができる。透明性をより向上させる観点から、透過率は、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、85%以上がよりさらに好ましい。
樹脂層(a)の透過率は、透明性の観点から高ければ高いほどよく、100%以下であればよいが、実用的には99%以下であってもよいし、97%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
なお、樹脂層(a)の透過率はヘーズメーターで測定することができ、例えば、東京電色社製「TC―HIIIDPK」を用いて測定することができる。
【0082】
<樹脂層(b)>
本発明の樹脂層(b)は、樹脂層(a)とは異なる組成の樹脂層であってもよいし、同一組成の樹脂層であってもよいが、異なる組成の樹脂層であることが好ましい。樹脂層(b)が樹脂層(a)と異なる組成の樹脂層であることにより、樹脂層(a)とは異なる様々な機能を付与することができる。例えば、ポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂層(a)とPETGを主成分とする樹脂層(b)とを積層すると、耐熱性と低温融着性が両立しやすくなる。また、樹脂層(b)のみにレーザー発色剤を配合すれば、樹脂層(a)と樹脂層(b)の両方にレーザー発色剤を配合する場合よりも、レーザー照射時の発泡や膨れ等をより抑制できるといった利点がある。加えて、異なる組成の樹脂層とすることでコスト的な利点も得ることができる。また、樹脂層(b)と樹脂層(a)とが異なる組成の樹脂層である場合は、熱融着がやや難の場合があっても、共押出等の押出成形を採用することにより解決することができると考えられる。
一方、樹脂層(b)が樹脂層(a)と同一組成の樹脂層である場合は、例えば、積層体の厚みが250μm以上の厚み領域において、単層のシートとするよりも同一組成の樹脂層(a)と樹脂層(b)とを積層してシートとした方が、カール等の不具合が発生しにくく作業工程上作業しやすいといった利点がある。また、樹脂層(b)と樹脂層(a)とが同一組成であると、屈折率差がないので透明性が良好となるという利点もある。なお、樹脂層(a)と樹脂層(b)が同一組成である場合の単層、積層の判断は、例えば、透過型電子顕微鏡等により厚み方向断面の積層界面を観察することにより可能である。
また、樹脂層(b)は、多孔質シリカ粒子を含有していてもよいが、含有していない層であるとよい。樹脂層(b)に含有される樹脂は、熱硬化性樹脂などの熱可塑性樹脂以外の樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂が好ましい。樹脂として熱可塑性樹脂を使用することで、加工性、成形性などが良好となり、リサイクル性も良好となる。
【0083】
樹脂層(b)における樹脂の具体例は、上記樹脂層(a)において列挙した樹脂と同様であり、樹脂層(b)に使用される樹脂は、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂の詳細は、上記説明したとおりであり、その説明は省略する。
樹脂層(b)において、樹脂は、1種単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0084】
また、樹脂層(b)において、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、リサイクル樹脂、及び植物由来樹脂は、主成分となることが好ましい。具体的には、樹脂層(b)は、樹脂層(b)に含有される樹脂全量基準で、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、リサイクル樹脂、及び植物由来樹脂から選択される樹脂が、50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下含有する。
【0085】
樹脂層(b)において、リサイクル樹脂を使用する場合、樹脂層(b)に含まれる樹脂は、全量をリサイクル樹脂としてもよいが、一部をリサイクル樹脂としてもよい。樹脂層(b)におけるリサイクル樹脂の含有量は、樹脂層(b)に含有される樹脂全体に対して、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。リサイクル樹脂の含有量は、地球環境保護の観点から、高ければ高いほどよく、100質量%以下であれば特に制限されない。
さらに、樹脂層(b)は、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、リサイクル樹脂、及び植物由来樹脂の少なくともいずれかの樹脂を含有する場合、これらから選択される樹脂に加えて、これら以外の樹脂を含有してもよく、その樹脂の詳細は樹脂層(a)で述べたとおりである。
【0086】
樹脂層(b)における樹脂は、樹脂層(a)における樹脂と同じ樹脂が使用されてもよいし、異なる樹脂が使用されてもよい。
ただし、樹脂層(a)と樹脂層(b)の接着性などの観点から、樹脂層(b)における樹脂は、樹脂層(a)と同種の樹脂が使用されることが好ましく、例えば、樹脂層(a)が、ポリカーボネート樹脂が使用されると、樹脂層(b)もポリカーボネート樹脂が使用されることが好ましい。また、樹脂層(a)が、非晶性ポリエステル樹脂が使用されると、樹脂層(b)も非晶性ポリエステル樹脂が使用されることが好ましい。
【0087】
(発色剤)
樹脂層(b)は、一態様において、発色剤を含有することが好ましい。樹脂層(b)は、発色剤を含有することで、樹脂層(b)が発色層となり、樹脂層(b)を発色させて印字などをすることができるようになる。発色剤は、レーザー発色剤であることが好ましい。樹脂層(b)がレーザー発色剤を含有することで、樹脂層(b)を有する積層体に対して、レーザー印字が可能となる。
本積層体においては、樹脂層(a)の透明性が高いので、樹脂層(a)を介して、樹脂層(b)に対してレーザーが照射しやすくなる。また、樹脂層(a)の透明性が高いと、樹脂層(b)による発色が、樹脂層(a)によって遮蔽されたりすることもないので、樹脂層(a)が発色剤を含有することで発色性が良好となる。
【0088】
レーザー発色剤は、レーザー光線の照射によって発熱する機能を有するものであれば特に限定されず、レーザー光の照射によってそれ自身が発色するいわゆる自己発色型発色剤でもよいし、或いは、それ自身は発色しないものであってもよい。レーザー発色剤が発熱することにより、少なくともその周辺の形成材料が炭化し、樹脂層(b)に所望の印字が表れる。さらに自己発色するレーザー発色剤を用いると、レーザー発色剤の発色と、樹脂層(b)の形成材料が炭化することによって生じる炭化物による発色とが相乗して、色が濃く、視認性に優れた印字を表すことができる。レーザー発色剤が発色する場合、その色彩は特に限定されるものではないが、視認性の観点から、黒、紺、茶を含む濃色に発色し得るレーザー発色剤を用いることが好ましい。
【0089】
レーザー発色剤は、金属酸化物であってもよいし、金属酸化物以外の化合物であってもよい。金属酸化物としてはレーザー発色効果を有するものであれば限定されず、例えば、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化ネオジウム、マイカ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、スメクタイトなどが挙げられる。
また、金属酸化物以外のレーザー発色剤としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、コバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモン、アルミニウムなどの金属、それらの塩である塩化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化銅、硝酸銅、リン酸銅、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマスなどの金属塩が挙げられる。また、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化ランタン、水酸化ニッケル、水酸化ビスマスなどの金属水酸化物、例えば、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ランタンホウ化物などの金属ホウ化物なども使用できる。なお、金属ホウ化物は、六ホウ化物が近赤外吸収能を有しており、中でも六ホウ化ランタンはレーザー光の吸収効率に優れているため好ましい。また、染料系や、カーボンブラックなども使用できる。
レーザー発色剤は、樹脂層(b)において、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
レーザー発色剤としては、レーザー印字性の観点から金属酸化物を使用することが好ましい。中でも、レーザー発色効果とコストの観点から、酸化ビスマスや、ビスマスとZn、Ti、Al、Zr、Sr、NdおよびNbから選択される少なくとも1種の金属を含んだ金属酸化物等のビスマス系の金属酸化物を用いることが好ましく、中でも酸化ビスマスを用いることがより好ましい。酸化ビスマスは、比較的少量であっても、良好に発色するため、樹脂組成物の透明性を損なうことなく、レーザー発色性を優れたものにできる。
【0091】
レーザー発色剤の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下が特に好ましい。粒径が10μm以下であれば、透明性が大幅に低下するおそれがない。ここで、粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めたメディアン径(d50)を意味する。レーザー発色剤の平均粒径は、下限に関しては限定されないが、印字性能や生産性の観点から0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。
金属酸化物の市販品としては、例えば、TOMATEC株式会社製の商品名「42-903A」、「42-920A」やメルクパフォーマンスマテリアルズ株式会社製の商品名「イリオテック8820」、「イリオテック8825」などが挙げられる。
レーザー発色剤として、金属酸化物を使用する場合、金属酸化物のみを使用してもよいが、金属酸化物と金属酸化物以外の化合物を併用してもよい。
【0092】
樹脂層(b)におけるレーザー発色剤の含有量は、レーザー印字性が良好となるように適宜設定されるとよい。レーザー発色剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂層(b)に含有される樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、0.06質量部以上がさらに好ましく、また、3質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、0.8質量部以下が特に好ましい。
【0093】
レーザー発色剤としてカーボンブラック以外を使用する場合には、以上のとおりの含有量であるが、レーザー発色剤としてカーボンブラックを使用する場合のレーザー発色剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂層(b)に含有される樹脂100質量部に対して、0.0001質量部以上が好ましく、0.0005質量部以上がより好ましく、0.001質量部以上がさらに好ましく、また、0.1質量部以下が好ましく、0.05質量部以下がより好ましく、0.01質量部以下がさらに好ましく、0.005質量部以下が特に好ましい。
【0094】
(紫外線吸収剤)
樹脂層(a)、(b)はそれぞれ、紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤は、樹脂層(a)のみに含有されてもよいし、樹脂層(b)のみに含有されてもよいし、樹脂層(a)、(b)の両方に含有されていてもよい。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、及び環状イミノエステル系紫外線吸収剤等の有機紫外線吸収剤を使用することができる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート-ポリエチレングリコールとの縮合物に代表される化合物を挙げることができる。
【0095】
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノール、及び2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノール等を挙げることができる。
また、環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、例えば、2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-m(2)-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、及び2,2’-4,4’-ジフェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)等を挙げることができる。
また、紫外線吸収剤としては、他にも、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート化合物、オギザニリド系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤などの有機紫外線吸収剤なども使用できる。さらに、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤も使用できる。
樹脂層(a)、(b)それぞれにおいて、紫外線吸収剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
各樹脂層(a)、(b)が紫外線吸収剤を含有する場合、各樹脂層(a)、(b)における紫外線吸収剤の含有量は、各樹脂層を構成する樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上1質量部以下がより好ましく、0.05質量部以上0.7質量部以下がさらに好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下が特に好ましい。
樹脂層(a)、(b)の両方に紫外線吸収剤が含有される場合、樹脂層(a)に含有される紫外線吸収剤は、樹脂層(b)に含有される紫外線吸収剤と同じ化合物であってもよいが、異なる化合物であってもよい。また、樹脂層(a)、(b)それぞれに含有される紫外線吸収剤の上記含有量は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0097】
(帯電防止剤)
樹脂層(a)、(b)はそれぞれ、帯電防止剤を含有してもよい。帯電防止剤は、樹脂層(a)のみに含有されてもよいし、樹脂層(b)のみに含有されてもよいし、樹脂層(a)、(b)の両方に含有されていてもよい。
樹脂層(a)、(b)は、帯電防止剤を含有することで、搬送時や他のフィルムに重ね合わせた際の帯電を抑制し、また、熱プレス等の際のプレス板への付着が起こりにくい等、ハンドリング性が向上する傾向となる。また、積層体の表面抵抗率が低くなるため、取扱い性、加工性、防塵性なども良好となる。
帯電防止剤としては、例えば、低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等を挙げることができる。これらはイオン伝導型でもよいし電子伝導型でもよい。
【0098】
低分子型帯電防止剤としては、例えば、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド、その誘導体;コーテッドシリカなどを挙げることができる。
両性系帯電防止剤は、ベタイン型であってもよいが、ベタイン型以外であってもよく、カチオンとアニオンにより構成される帯電防止剤であればよく、イオン液体であってもよい。
高分子型帯電防止剤は、例えば、分子内にアルキルスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩などのスルホン酸金属塩を有するビニル共重合体などの各種ポリマーであってもよいし、ベタイン型であってもよい。また、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。
帯電防止剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
帯電防止剤は、上記の中では、カチオンとアニオンにより構成される帯電防止剤が好ましく、具体的には、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオン及びフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びピリジニウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤が挙げられる。
カチオンとアニオンから構成される帯電防止剤は、イオン液体であることが好ましい。イオン液体は、物質そのものが高い導電度を有しており、かつ、室温付近で液体であるため、分散性に優れ、より高い帯電防止性能を発揮する。また、耐熱性に優れ、帯電防止剤の熱分解による物性低下を抑えつつ、優れた帯電防止性能を付与することが可能となる。なお、イオン液体とは、イオンのみからなり、融点が100℃以下である化合物をいう。
【0100】
上記したフッ素原子を含むスルホンイミドアニオン及びフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンは、パーフルオロアルキルスルホンイミドアニオン及びパーフルオロアルキルスルホネートアニオンから選択されるアニオンを含むことが好ましい。アニオンは、フッ素原子、特にパーフルオロアルキル基を含むことにより、フィルムにおけるイオン液体の表面への移行性が向上する傾向となる。従って、より低い添加量で高い帯電防止性能を付与することが可能となる。
各樹脂層において、帯電防止剤は、上記したものから1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
各樹脂層(a)、(b)が帯電防止剤を含有する場合、各樹脂層における帯電防止剤の含有量は、各樹脂層全量基準で好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。
樹脂層(a)、(b)の両方に帯電防止剤が含有される場合、樹脂層(a)に含有される帯電防止剤は、樹脂層(b)に含有される帯電防止剤と同じ化合物であってもよいが、異なる化合物であってもよい。また、樹脂層(a)、(b)それぞれに含有される帯電防止剤の上記含有量は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0102】
[その他の添加剤]
樹脂層(a)、(b)はそれぞれ、上記以外にも、充填材、増感剤、光熱変換剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、プロセス安定剤、艶消し剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、抗ウィルス剤、滑剤、難燃剤等を挙げることができる。これらに関しても使用される目的に応じて、通常使用される量を添加すればよい。これら添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0103】
本積層体は、透過率が60%以上であることが好ましい。本積層体は、透過率が60%以上であることで、透明性を良好にでき、樹脂層(b)が発色剤を含有する場合には、樹脂層(b)の発色性を良好にできる。透過率は、透明性をより向上させる観点から、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上がよりさらに好ましい。本積層体の透過率は、透明性の観点から高ければ高いほどよく、100%以下であればよいが、実用的には99%以下であってもよいし、97%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
なお、本積層体の透過率とは、本積層体の樹脂層(a)が設けられる側からヘーズメーターで測定される値であり、例えば、東京電色社製「TC―HIIIDPK」を用いて測定することができる。
【0104】
本積層体は、170℃で10分間加熱処理した際の加熱収縮率が2.5%以下であることが好ましく、2%がより好ましく、1.7%以下がさらに好ましく、1.4%以下がよりさらに好ましく、1%以下がよりさらに好ましい。一方で、加熱収縮率は、上記のとおり0%に近いほうがよく、したがって、加熱収縮率の下限は一般的に0%である。
【0105】
本積層体においては、上記の通り、樹脂層(b)に発色剤を含有することで、樹脂層(b)が発色層となる態様を示したが、樹脂層(b)は、様々な機能を付与することで発色層以外を構成してもよい。例えば、樹脂層(b)は、発色剤や後述する充填材を含有しない層(透明層)であってよい。透明層は、例えば、パスポートやカードでは、パスポート又はカード用の積層体において表面に配置され、パスポートやカードを保護するための保護層を構成してもよい。
【0106】
また、樹脂層(b)には、充填材を含有させてよく、充填材を含有させることで、樹脂層(b)の光透過性を低くして遮蔽層としての機能を付与させてもよい。積層体は、遮蔽層を有することでパスポートやカードを不透明な部材とすることができ、例えば、パスポートやカードに内蔵されるICチップ、アンテナなどのインレットを隠蔽させるために使用されてもよい。本積層体では、樹脂層(a)の透明性が高いので、積層体は、樹脂層(a)によって、遮蔽層を構成する樹脂層(b)などによって着色された色が変化することが防止され、意匠性を高めやすくなる。
【0107】
充填材としては、無機充填材、有機充填材のいずれでもよいが、例えば、酸化チタン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化バリウム、カーボンブラック、シリカ、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化ジルコン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、硫酸バリウムなどの無機充填材が挙げられる。これらの中でも、屈折率が2以上である充填材から選択される少なくとも1種が好ましく、屈折率は2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることがさらに好ましい。屈折率が2以上である充填材としては、例えば、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化ジルコン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。屈折率が2以上である充填材を使用することで、隠蔽性及びレーザー印字性がより一層良好となり、また、白色に着色しやすくなる。これら観点から、充填材としては、酸化チタンがより好ましい。酸化チタンとしては、特に限定されないが、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン等が例示できる。なお、充填材の屈折率は、ベッケ線法により測定することができる。
【0108】
充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上1μm以下、好ましくは0.05μm以上0.8μm以下、より好ましくは0.08μm以上0.6μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、よりさらに好ましくは0.12μm以上0.4μm以下である。なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で観察される平均一次粒子径をいう。
樹脂層(b)における充填材の含有量は、樹脂層(b)全量基準で例えば1質量%45質量%以下、好ましくは2質量%以上40質量%以上、より好ましくは4質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは6質量%以上30質量%以下である。
【0109】
[層構成]
積層体の層構成は、樹脂層(a)と樹脂層(b)を有する限り特に限定されない。積層体において、樹脂層(a)は、樹脂層(b)に直接積層されてもよいし、他の層を介して積層されてもよい。
また、樹脂層(a)は、積層体の少なくとも一方の表面に配置されてもよいし、積層体の両表面に配置されてもよい。樹脂層(a)は、積層体の表面に配置されることで、多孔質シリカ粒子により形成される特定の反射パターンを、光学式リーダーにより読み取りやすくなる。また、積層体の両表面に樹脂層(a)が配置されることで反射パターンがいずれの表面からも読み取りやすくなり、物品の認証又は識別が容易になる。
ただし、樹脂層(a)は、反射パターンが読み取れる限り、積層体の表面に配置される必要はなく、積層体において、樹脂層(a)の外側に樹脂層(b)などの他の層が配置されてもよい。
【0110】
積層体の具体的な層構成は、樹脂層(b)の片面側のみに樹脂層(a)が設けられる構造を有してもよいし、樹脂層(b)の両面側に樹脂層(a)が設けられる構造を有してもよい。また、樹脂層(a)の両面側に樹脂層(b)が設けられる構造であってもよい。
これらの中では、樹脂層(b)の片面側のみに樹脂層(a)が設けられる構造、又は樹脂層(a)の両面側に樹脂層(b)が設けられる構造が好ましく、これら層構成においては、樹脂層(a)が、積層体の表面に配置されることがより好ましい。
すなわち、積層体は、特に限定されないが、2層構造であれば、樹脂層(a)/樹脂層(b)の構造を有すればよい。また、3層構造であれば、樹脂層(a)/樹脂層(b)/樹脂層(a)の構造や、樹脂層(b)/樹脂層(a)/樹脂層(b)の構造を有すればよいが、これらの中では、樹脂層(a)/樹脂層(b)/樹脂層(a)の3層構造が好ましい。また、積層体は、4層以上の構造であってもよい。
【0111】
[厚み]
本積層体おいて、樹脂層(a)の厚みは、4μm以上であることが好ましい。樹脂層(a)の厚みを4μm以上とすることで、多孔質シリカ粒子により反射パターンが適切に形成でき、本積層体を含む物品を認証又は識別しやすくなる。樹脂層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、35μm以上であることがよりさらに好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。
また、樹脂層(a)の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、400μm以下であることがよりさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。樹脂層の厚みを上記上限値以下とすることで、フィルムを必要以上に厚くすることなく発色性を良好にできる。
また、樹脂層(a)の厚みは、該樹脂層(a)に含有される多孔質シリカ粒子の平均粒径よりも大きいことが好ましい。このような構成により、樹脂層(a)の表面に多孔質シリカ粒子に起因した凹凸が付されることが防止される。
なお、樹脂層(a)が複数設けられる場合、各樹脂層(a)が、上記範囲内の厚みとなればよい。後述する樹脂層(b)も同様である。
【0112】
本積層体において、樹脂層(b)の厚みは、4μm以上であることが好ましい。樹脂層(b)の厚みを4μm以上とすることで、樹脂層(b)に発色層、遮蔽層などの適切な機能を付与しやすくなる。樹脂層(b)の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、35μm以上であることがよりさらに好ましく、50μm以上であることが最も好ましい。
また、樹脂層(b)の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、400μm以下であることがよりさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。樹脂層(b)の厚みを上記上限値以下とすることで、積層体を必要以上に厚くすることなく、本積層体に様々な機能を付与しやすくなる。
【0113】
本積層体は、フィルム状であればよく、本積層体の厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば8μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは70μm以上、よりさらに好ましくは100μm以上であり、また、例えば2000μm以下、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは800μm以下、よりさらに好ましくは500μm以下である。本積層体の厚みを一定以上とすることで、本積層体に光学的識別機能や、発色層や遮蔽層などの機能も付与しやすくなる。一方で、一定以下の厚みとすることで、カードやパスポートを薄型化しやすくなる。
【0114】
[面積]
本積層体の大きさは、用途によって異なるが、例えばパスポートに用いる場合は、本積層体の面積は400cm以下であることが好ましく、350cm以下であることがより好ましく、300cm以下であることがさらに好ましく、250cm以下であることがよりさらに好ましく、200cm以下であることがよりさらに好ましく、150cm以下であることが特に好ましく、また、好ましくは50cm以上、より好ましくは65cm以上、さらに好ましくは80cm以上である。
例えばパスポートに用いる場合は、形状は矩形などの四角形であることが好ましく、その一辺の長さが20cm以下であることが好ましく、18cm以下であることがより好ましく、16cm以下であることがさらに好ましく、14cm以下であることが特に好ましく、また、8cm以上であることが好ましく、10cm以上であることがより好ましく、11cm以上であることがさらに好ましい。他の一辺の長さは、15cm以下であることが好ましく、13cm以下であることがより好ましく、11cm以下であることがさらに好ましく、10cm以下であることがよりさらに好ましく、また、6cm以上であることが好ましく、7cm以上であることがより好ましく、8cm以上であることがさらに好ましい。このような大きさ、形状の積層体とすることにより、パスポート、さらには電子パスポート、特にこれらのデータページとして好適に使用することができる。
【0115】
本積層体の面積は、例えばカードに用いる場合は、200cm以下であることが好ましく、150cm以下であることがより好ましく、100cm以下であることがさらに好ましく、80cm以下であることがよりさらに好ましく、60cm以下であることが特に好ましく、また、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。また、形状は矩形などの四角形であることが好ましく、その一辺の長さが17cm以下であることが好ましく、15cm以下であることがより好ましく、13cm以下であることがさらに好ましく、11cm以下であることがよりさらに好ましく、また、6cm以上であることが好ましく、7.5cm以上であることがより好ましい。
他の一辺の長さは、14cm以下であることが好ましく、12cm以下であることがより好ましく、10cm以下であることがさらに好ましく、8cm以下であることがよりさらに好ましく、また、4cm以上であることが好ましく、4.5cm以上であることがより好ましい。
このような大きさ、形状の本積層体とすることにより、カードとして好適に使用することができる。
【0116】
[積層体の製造方法]
積層体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造できるが、以下、各樹脂層を構成する樹脂が熱可塑性樹脂を使用する場合の例を説明する。
本積層体は、まず、各樹脂層用の樹脂又は樹脂組成物を用意する。具体的には、樹脂層(a)用の樹脂組成物、及び樹脂層(b)用の樹脂又は樹脂組成物を用意すればよい。樹脂層(a)用の樹脂組成物は、樹脂及び多孔質シリカ粒子、及びその他の添加剤などの樹脂層(a)用の樹脂組成物を構成する原料を混合して得るとよい。原料の混合は、押出機、プラストミルなどにおいて加熱しながら混練して行うとよい。樹脂層(b)用の樹脂組成物も同様に用意するとよく、例えば、樹脂及び発色剤、充填材などの必要に応じて配合される添加剤を混合して、樹脂層(b)用の樹脂組成物を用意するとよい。
なお、多孔質シリカ粒子は、特に制限されるものではないが、多孔質シリカ粒子と樹脂の一部とを予めマスターバッチ化して、マスターバッチ化したものを他の原料と混合してもよいし、マスターバッチ化せずに、シリカ粒子を他の原料と混合してもよい。
勿論、発色剤、充填材などの他の添加剤も予めマスターバッチ化したものを他の原料と混合してもよい。
【0117】
次に、各樹脂層用の樹脂又は樹脂組成物をフィルム状にしてフィルム状にした樹脂層を積層して積層体とするとよい。具体的には、樹脂層(a)用の樹脂組成物、及び樹脂層(b)用の樹脂又は樹脂組成物をフィルム状の樹脂層(a)、(b)に形成して、樹脂層(a)、及び樹脂層(b)を少なくとも積層して積層体とするとよい。ここで、樹脂組成物を樹脂層にする方法は、特に限定されないが、プレス成形などでもよいし、押出成形などでもよいが、生産性、コストの面からは押出成形が好ましい。
【0118】
また、複数の樹脂層(例えば、樹脂層(a)と樹脂層(b))を積層する方法は、特に限定されないが、予め作製した複数のフィルム状に形成した樹脂層を公知のラミネート法により積層してもよいし、フィルム状に形成した樹脂層の上に、別の樹脂層を形成するための樹脂組成物を溶融押し出して(すなわち、押出法により)積層してもよい。ラミネート法では、例えばロールtоロールで搬送しながら、1対のロール間を通して複数の樹脂層を積層してもよいし、プレス機などにより複数の樹脂層をプレスして積層してもよい。プレスは、加圧プレス、真空熱プレスなどいずれであってもよいが、真空熱プレスが好ましい。
押出法は共押出法でもよい。具体的には、上記と同様に各樹脂層を形成するための樹脂組成物を得て、その樹脂組成物をフィードブロック方式又はマルチマニホールド方式等により溶融共押出することで、積層体を得てもよい。
積層体は、上記の中でも、生産性、コストの面から溶融共押出を利用して製造することが好ましい。
【0119】
また、本発明においては、樹脂層(a)からなる単層フィルムを、樹脂層(b)を有する樹脂フィルムに貼り合わせて積層体としてもよい。また、積層体は、所望の大きさに打ち抜き加工等されてもよい。打ち抜き加工は、後述する通り、他の部材が貼り合わされた後に行われてもよい。
【0120】
<用途>
本積層体は、パスポート、又は、ICカード、磁気カード、運転免許証、保険証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、銀行カード、クレジットカード、SIMカード、ETCカード、識別カード、情報担持カード、スマートカード、B-CASカード、メモリーカードなどの各種のカードに用いることができる。本積層体は、パスポートにおいてはデータページに使用され、特に、電子パスポート用データシートやカードとして使用されるとよい。また、本積層体は、カード、パスポード以外に使用されてもよく、例えば紙幣などに使用されてもよい。
【0121】
本積層体は、そのまま、パスポート用又はカード用の積層体として使用され、あるいは、他の部材(他の樹脂フィルム又は樹脂フィルム以外の部材)が必要に応じてさらに積層され、熱プレス成形やラミネート成形等により融着一体化され、パスポート用又はカード用の積層体として使用されてもよい。
パスポート又はカード用の積層体において、樹脂層(a)は、表面に配置されるとよいが、反射パターンが読み取れる限り、パスポート又はカード用の積層体の表面に配置される必要はなく、パスポート又はカード用の積層体において、樹脂層(a)の外側に樹脂層(b)などの他の層が配置されてもよい。
【0122】
積層体に貼り合わされる他の部材としては、上記の樹脂層(b)により構成される樹脂フィルムなどであってもよく、上記の遮蔽層や発色層により構成される樹脂フィルムであってもよい。また、内部にICチップ、アンテナなどのインレットが内蔵されるための中空部が設けられたインレットシートや、固定情報が印字されるための印刷シートなどであってもよい。また、ヒンジシートなどであってもよい。
ヒンジシートは、データページをパスポートの表紙や他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。ヒンジシートは、公知のものが使用可能であり、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどにより構成される樹脂シートであってもよいし、織物、編物、または不織布などで構成されてもよいし、織物、編物、または不織布と、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどとの複合材料であってもよい。
【0123】
また、本積層体は、発色剤を有する樹脂層(b)を備える場合には、レーザー光を照射しレーザーマーキングするとよい。レーザーマーキングにより個人名、記号、文字、写真等が印字され、個人情報等が印字されたパスポートやカードとすることができる。
また、レーザーマーキングがなされる場合、本積層体において、レーザーマーキングの印字に対して、重なる位置に樹脂層(a)が設けられるとよい。本積層体において、樹脂層(a)は、透明性が高いので、レーザーマーキングの印字に対して、重なる位置に樹脂層(a)が設けられても、印字の外観を損なわれることはない。
【0124】
(識別方法)
本積層体は、本積層体を備える物品の識別に使用できる。具体的には、上記の通り、光学式リーダーにより、本積層体の樹脂層(a)に含有される多孔質シリカ粒子が形成する反射パターンを読み取り、読み取った反射パターンにより、物品の識別を行うとよい。
【0125】
例えば、積層体が上記したパスポート用又はカードに使用される場合には、パスポート又はカードの反射パターンを読み取り、その反射パターンが、基準となる反射パターンに一致するか否かを照合して、パスポート又はカードが真正であるか否かを識別できる。
ここで、反射パターンは、上記のとおりの多孔質シリカ粒子の細孔の構造によって異なり、各パスポート又はカードに応じて多孔質シリカ粒子の細孔の構造を変えるとよく、それに応じて、反射パターンも、予め各パスポートやカードに紐づけて用意しておくことができる。そのため、反射パターンは、無数に用意できるため、基準となる反射パターンも無数に用意できる。したがって、第3者は、カードやパスポートを偽造する際には、単に多孔質シリカ粒子を使用するだけではなく、各パスポート又はカードに紐付けられた特定の反射パターンを有する多孔質シリカ粒子を使用する必要があるので、偽造が困難となり、セキュリティ性を高めることができる。
【0126】
パスポート用又はカードが真正であるか否かの識別は、専用の識別装置を使用して行ってもよいが、スマートフォンやタブレット端末等を識別装置として使用して行ってもよい。また、識別装置は、光学式リーダーと、汎用的なパーソナルコンピュータなどの装置を組み合わせて構成してもよい。
識別装置は、光学式リーダーと、基準となる反射パターンとの照合を行う照合手段を備えればよい。光学式リーダーは、上記のとおり、光学式分光リーダーでもよいし、光学式分光リーダー以外のカラーセンサーなどでもよい。照合手段は、いかなるものでもよく、CPU,MPUなどの公知の処理装置により構成すればよい。
また、基準となる反射パターンは、識別装置に設けられたメモリに保存されたものでもよいし、クラウドなどの識別装置以外に保存されていたものを読み出してもよい。
【0127】
また、反射パターンは、パスポード又はカードに関連する特定の情報に紐付けておくことができるので、反射パターンを読み取ることで、パスポード又はカードに関連する情報も読み取ることができる。したがって、例えば、パスポード又はカードに記載された情報と、読み取られた情報とを照合することでより正確にパスポート又はカードが真正であるか否かを判別できる。パスポード又はカードに記載された情報と、読み取られた情報との照合は、上記識別装置によって公知の方法で行われるとよい。また、パスポード又はカードに関連する特定の情報を、識別装置が備える表示装置(ディスプレイなど)に表示して、真正か否かを検査する人の目視などによって確認されてもよい。
【0128】
さらに、反射パターンに紐付けられる特定の情報は、上記のとおり、樹脂組成物が植物由来樹脂を含むか否か、樹脂組成物がリサイクル樹脂を含むか否かの情報などの樹脂組成物に関する情報を含むことも好ましい。これら情報が含まれる場合には、反射パターンを読み取ることで、上記識別装置は、植物由来樹脂、及びリサイクル樹脂のいずれかを含むか否かの判定を行うとよい。
物品には、リサイクル樹脂を使用したこと示すマーク、バイオマス樹脂を使用したことを示すマークを付すことなどで、リサイクル樹脂や植物由来樹脂を使用したことが表示されることがあるが、本判定を行うことで本表示が真正であるか否かを判定できる。
【0129】
なお、以上の識別方法の説明は、本積層体が、パスポート又はカードに使用される例を参考に具体的に説明したが、本積層体は、パスポート又はカード以外の物品に使用されてもよく、その場合には、物品が真正なものであるか否かを識別されるために使用されてもよいし、他の目的のために使用されてもよい。
【実施例0130】
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
【0131】
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
(樹脂)
PC:ビスフェノールA系ホモポリカーボネート樹脂(界面重合法)、Mw:72000、Mn:23900、Mw/Mn:3.0、ガラス転移温度:159℃
【0132】
(多孔質シリカ粒子)
MS1:多孔質シリカ粒子:トゥルータグ・テクノロジーズ社製 TruTags(NAxP-0349A)、扁平状粒子、平均粒径80μm、平均厚み2.8μm、アスペクト比の平均値=29、蜂の巣状の細孔を有する、細孔直径の平均値=37nm、細孔直径の標準偏差=18.4nm
MS2:多孔質シリカ粒子:トゥルータグ・テクノロジーズ社製 TruTags(NEP-1549A)、扁平状粒子、平均粒径70μm、平均厚み15μm、アスペクト比の平均値=4.7、蜂の巣状の細孔を有する、細孔直径の平均値=34nm、細孔直径の標準偏差=23.2nm
なお、MS1及びMS2のSEM画像及び細孔直径の分布を図3、4それぞれに示す。細孔画像は、MS1及びMS2の平らな面を上から観察することにより得た。MS1については、SEM画像(図3(c))の二値化画像及び二値化画像の黒色部形状の楕円近似画像も図5(a)、(b)に示す。
(通常のシリカ)
シリカ:AGCエスアイテック社製 サンスフェアH-201、真球状粒子、平均粒径20μm、細孔直径の平均径=5nm
(発色剤)
レーザー発色剤:ビスマス・ネオジウム系金属酸化物、平均粒子径0.8μm、比重:8.9g/cm
(充填材)
酸化チタン(ルチル型、屈折率2.7)
【0133】
各物性の測定方法、評価方法は、以下の通りである。
[評価方法]
[透過率]
各実施例、比較例で得られた積層体(1)及び樹脂層(a)(100μm)の透過率を東京電色社製ヘーズメーター「TC―HIIIDPK」を用いて測定した。なお、積層体の透過率は、樹脂層(a)が設けられる側から測定した。
【0134】
[耐熱性]
各実施例、比較例で得られた樹脂層(a)(厚み100μm)単層からなるフィルムから大きさ120mm×120mmの試験片を切り出し、得られた試験片の中央に大きさ100mm×100mmの標準線を付け、170℃のオーブンで10分間加熱処理を施し、処理前後のMD及びTDのそれぞれの標準線間隔から、下記式を用いて算出した。なお、標準線間隔の測定は、標準線の中央で行った。
加熱収縮率(%)=[加熱処理前の標準線間隔-加熱処理後の標準線間隔]/加熱処理前の標準線間隔×100
フィルムは、加熱収縮率が0の値に近いほど、耐熱性が優れているといえる。
【0135】
[印字性]
各実施例、比較例の積層体(1)を用いて作製したカード用の積層体について、日本電産コパル株式会社製「CLM-20」を用いて、51μm/Step×50%でレーザー印字を行って、X-Rite社製「eXact」によりPCS値を測定した。
各実施例、比較例のカード用の積層体は、積層体(1)の樹脂層(b-1)側の表面に、厚み500μmのフィルム1と、厚み100μmのフィルム2とをこの順に重ねた後、熱プレス機(温度175℃、時間は300秒、シート圧力は1 .4MPa))のプレスによって得たものである。
なお、フィルム1は、PCを88質量部と、酸化チタンを12質量部とを混合して得た樹脂組成物からなるフィルムであった。フィルム2は、PC単体からなるフィルムであった。
【0136】
[セキュリティ性]
(スマートフォンによる評価)
実施例1~3及び比較例1、2で得られた積層体(2)に対して、トゥルータグ・テクノロジーズ社製 TruTag software version 1.8.1-EXを搭載したスマートフォン(Samsung Galaxy S9+)を用いて行った。より具体的には、上記のTruTag softwareを使用し、オフィス照明条件下、Lenetaドローダウンチャートの黒部上で、実施例1~3及び比較例1、2の各積層体(2)それぞれに対して15画像を取得した。これを6枚の各積層体(2)に対して行って、各積層体(2)について90画像を取得した。
次いで、取得した90画像について、特定波長で検出された粒子数を数え、その平均値(平均粒子数)を算出した。検出される粒子数が多い方が、セキュリティ性がより高いと言える。なお、粒子が検出されない場合は、表1において「0」とした。
セキュリティ性は、以下の基準で評価した。
OK:平均粒子数が十分であることから、認証・識別が可能である
NG:平均粒子数が不十分であることから、認証・識別が困難である
【0137】
(光学式分光リーダーによる評価)
実施例4、5及び比較例1、2で得られた積層体(2)に対して、トゥルータグ・テクノロジーズ社製 TruTag software version 1.12.2を使用した光学式分光リーダー(TruTag model 5200 imager)を用いて行った。より具体的には、実施例4、5及び比較例1、2の各積層体(2)それぞれに対して3回スキャンを行って、MS2に特徴的なスペクトルを取得した。これを5枚の各積層体(2)に対して行って、各積層体(2)について15のスペクトルを取得した。
次いで、取得した15のスペクトルについて、基準スペクトルを1とした場合の検出度を定量化しその平均値(平均検出度)を算出した。基準スペクトルに対する検出度が大きいほど、セキュリティ性がより高いと言える。なお、スペクトルが検出されない場合は、表1において「0」とした。
セキュリティ性は、以下の基準で評価した。
OK:検出度が十分であることから、認証・識別が可能である
NG:検出度が不十分であることから、認証・識別が困難である
【0138】
[実施例1~5、比較例1、2]
各実施例1~5、比較例1、2では、それぞれ、以下の積層体(1)、及び積層体(2)を作製した。
(積層体(1))
樹脂層(a)を構成する各成分を表1に示す配合にドライブレンドして、二軸押出機を用いて290℃で混錬し、口金から290℃で押出し、約120℃のキャスティングロールにて冷却して、厚み100μmのフィルム状の樹脂層(a)を得た。
また、樹脂層(a)と同様の方法で、厚み100μmのフィルム状の樹脂層(b-1)を作製した。
次に、樹脂層(a)と、樹脂層(b-1)とを重ねて、神藤金属工業所社製圧縮成形機「NF-37」を用いて、175℃でプレス成形して、樹脂層(a)(厚み100μm)/樹脂層(b-1)(厚み100μm)からなる積層構造を有する積層体(1)を得た。
【0139】
(積層体(2))
積層体(1)の場合と同様の方法で、フィルム状の樹脂層(a)を作製した。ただし、各実施例、比較例において、フィルム状の樹脂層(a)は、2枚用意した。
また、樹脂層(b-1)用の原料を、樹脂層(b-2)用の原料に変更した以外は、積層体(1)の場合と同様の条件で、フィルム状の樹脂層(b-2)を作製した。なお、樹脂層(a)、樹脂層(b-2)の厚みは、積層体(2)における各樹脂層の厚みが、後述する通りとなるように調整した。
次に、樹脂層(a)、樹脂層(b-2)、及び樹脂層(a)をこの順に重ねて、神藤金属工業所社製圧縮成形機「NF-37」を用いて、175℃でプレス成形して、樹脂層(a)(厚み100μm)/樹脂層(b-2)(厚み600μm)/樹脂層(a)(厚み100μm)からなる積層構造を有する積層体(2)を得た。
【0140】
【表1】
※表1中「-」は評価しなかったことを示す。
【0141】
各実施例において、樹脂層(a)が、直径がナノメートル単位の細孔を有する多孔質シリカ粒子を含有することで、積層体から特定の反射パターンを読み取ることができた。そのため、本実施例の積層体は、読み取られた反射パターンと、基準となる反射パターンと照合することで、本実施例の積層体を有する物品が真正であるか否かを識別でき、セキュリティ性を高めることができる。
また、各実施例において、樹脂層(a)の透過率が高くなることで、発色剤を含有する樹脂層(b)と積層されてなる積層体(1)においても透過率が高くなり、かつ、レーザー印字をした際のPCS値も高くなったことから、レーザー印字性が良好であり、良好な外観を確保することができた。
さらに、各実施例において多孔質シリカ粒子を含有する樹脂層(a)は、積層体の一部を構成するのみであり、また、樹脂層(a)における多孔質シリカ粒子の含有量も僅かであるので、積層体全体における多孔質シリカ粒子は極少量であり、多孔質シリカ粒子を樹脂と分別せずに樹脂を再利用しても、再利用される樹脂は、品質が大きく低下することを防止できる。
【0142】
それに対して、比較例1では、樹脂層(a)が多孔質シリカ粒子を含有しないので、積層体から特定の反射パターンを読み取ることができず、セキュリティ性を高めることができなかった。比較例2では、シリカを含有するものの、シリカが本発明で規定するものでなかったため、積層体から特定の反射パターンを読み取ることができず、セキュリティ性を高めることができなかった。
また、実施例1~5では、170℃における収縮率が、多孔質シリカ粒子を含有しない比較例1及び本発明規定のシリカを含有しない比較例2よりも低くなり、多孔質シリカ粒子を含有することで耐熱性も向上した。
図1
図2
図3
図4
図5