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  • 特開-光ファイバケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125926
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
G02B6/44 371
G02B6/44 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034067
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】上原 啓史
(72)【発明者】
【氏名】安冨 徹也
【テーマコード(参考)】
2H201
【Fターム(参考)】
2H201AX11
2H201AX24
2H201AX46
2H201BB05
2H201BB06
2H201BB23
2H201BB25
2H201BB34
2H201BB67
2H201BB70
2H201BB82
2H201DD14
2H201KK06
2H201KK08
2H201KK17
2H201KK33C
(57)【要約】
【課題】 特にヒートサイクルの際に光ファイバ心線の伝送損失の増大等を抑制することが可能な光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】 複数の光ファイバユニット15は、SZ状に撚られている。光ファイバユニット15、防護壁13、介在5およびテンションメンバ9が、外被3で覆われる。外被3は、略矩形形状である。外被3の上下面には、互いに対向するように2組のノッチ11が形成される。光ファイバケーブル1の幅方向に対して、外被3のそれぞれの上下面において隣り合うノッチ11の間の領域における外被3の厚みが、隣り合うノッチ11の互いの外側の領域における外被3の厚みよりも薄い。ここで、外被3からの光ファイバユニット15(光ファイバ心線7)の引き抜き力は、34.3N/10m以上47.0N/10m以下であることが望ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の光ファイバ心線又は複数本の光ファイバ心線が併設された一つ以上の光ファイバテープ心線からなる光ファイバユニットと、
前記光ファイバユニットの長手方向に垂直な断面において、前記光ファイバユニットを挟み込むように配置される一対の防護壁と、
前記防護壁の間において、前記光ファイバユニットを挟み込むように配置される一対の介在と、
前記光ファイバユニットの両側に設けられる一対のテンションメンバと、
前記光ファイバユニット、前記介在、前記防護壁および前記テンションメンバを覆うように設けられる略矩形の外被と、
を具備し、
前記外被の上下面には、互いに対向するように2組のノッチが形成され、
前記外被のそれぞれの上下面において、隣り合う前記ノッチの間の領域における前記外被の厚みが、隣り合う前記ノッチの互いの外側の領域における前記外被の厚みよりも薄く、
前記光ファイバユニットはSZ撚りされており、
前記光ファイバユニットの引き抜き力が34.3N/10m以上47.0N/10m以下であることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記光ファイバケーブルの長さに対する前記光ファイバユニットの余長が0.01%以上0.055%以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記外被の上下面において、隣り合う前記ノッチの間の領域における前記外被の厚みと、隣り合う前記ノッチの互いの外側の領域における前記外被の厚みの差が0.2mm以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記外被の上下面において、隣り合う前記ノッチの間の領域における前記外被の厚みと、隣り合う前記ノッチの互いの外側の領域における前記外被の厚みの差が0.1mm以上であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記光ファイバユニットの撚りピッチは200mm以上800mm以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項6】
前記光ファイバユニットの撚りピッチは300mm以上550mm以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項7】
前記防護壁は、中央部が前記光ファイバユニット側に凸形状に湾曲していることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項8】
前記防護壁は、中央部が外方に凸形状に湾曲していることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバ心線が内蔵され、いわゆる少心架空ケーブルと呼ばれる光ファイバケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、少心架空ケーブルは、複数の光ファイバ心線が外被で被覆されたものが用いられている。このような、光ファイバケーブルは、その用途により高い耐衝撃性と良好な分岐作業性が要求される。
【0003】
分岐作業を行う際には、内部の光ファイバ心線を取り出す際には、外被に切込みを入れて解体し、光ファイバ心線が取り出される。外被を解体するため、例えば、光ファイバ心線の両側にテンションメンバを配して、ケーブル外被で一括被覆し、上下に分岐用の一対のノッチを形成した光ファイバケーブルがある(例えば、特許文献1)
【0004】
特許文献1では、さらに、外被の上下面において、併設されるノッチの間の領域における外被の厚みを、ノッチよりも外側の領域における外被の厚みよりも薄くすることで、上下方向からの耐衝撃性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-135467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の光ファイバケーブルにおいて、例えば低温時に伝送損失が大幅に増加する場合がある。発明者らは、鋭意研究の結果、これが、複数の光ファイバ心線からなる光ファイバユニットの引き抜き力によるものであることを知見した。
【0007】
通常、分岐作業等における光ファイバ心線の飛び出し等を抑制するため、従来の光ファイバケーブルでは、外被に対する光ファイバユニット(光ファイバ心線)の引き抜き力を高くしていた。この結果、外被に対して光ファイバ心線の軸方向の移動が抑制され、光ファイバ心線の飛び出し等は抑制されるが、発明者らは、例えば低温時に外被が収縮した際に、光ファイバ心線の逃げ場がなくなるため曲がりが生じ、これによって伝送損失が増大し、さらに断線の恐れがあることを見出した。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、特にヒートサイクルの際に光ファイバ心線の伝送損失の増大等を抑制することが可能な光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために本発明は、複数本の光ファイバ心線又は複数本の光ファイバが併設された一つ以上の光ファイバテープ心線からなる光ファイバユニットと、前記光ファイバユニットの長手方向に垂直な断面において、前記光ファイバユニットを挟み込むように配置される一対の防護壁と、前記防護壁の間において、前記光ファイバユニットを挟み込むように配置される一対の介在と、前記光ファイバユニットの両側に設けられる一対のテンションメンバと、前記光ファイバユニット、前記介在、前記防護壁および前記テンションメンバを覆うように設けられる略矩形の外被と、を具備し、前記外被の上下面には、互いに対向するように2組のノッチが形成され、前記外被のそれぞれの上下面において、隣り合う前記ノッチの間の領域における前記外被の厚みが、隣り合う前記ノッチの互いの外側の領域における前記外被の厚みよりも薄く、前記光ファイバユニットはSZ撚りされており、前記光ファイバユニットの引き抜き力が34.3N/10m以上47.0N/10m以下であることを特徴とする光ファイバケーブルである。
【0010】
前記光ファイバケーブルの長さに対する前記光ファイバユニットの余長が0.01%以上0.055%以下であることが望ましい。
【0011】
前記外被の上下面において、隣り合う前記ノッチの間の領域における前記外被の厚みと、隣り合う前記ノッチの互いの外側の領域における前記外被の厚みの差が0.2mm以下であることが望ましい。
【0012】
さらに、前記外被の上下面において、隣り合う前記ノッチの間の領域における前記外被の厚みと、隣り合う前記ノッチの互いの外側の領域における前記外被の厚みの差が0.1mm以上であることが望ましい。
【0013】
前記光ファイバユニットの撚りピッチは200mm以上800mm以下であることが望ましい。
【0014】
さらに、前記光ファイバユニットの撚りピッチは300mm以上550mm以下であることが望ましい。
【0015】
前記防護壁は、中央部が前記光ファイバユニット側に凸形状に湾曲していてもよい。
【0016】
前記防護壁は、中央部が外方に凸形状に湾曲していてもよい。
【0017】
本発明によれば、外被のそれぞれの上下面において、隣り合うノッチの間の領域における外被の厚みが、隣り合うノッチの互いの外側の領域における外被の厚みよりも薄いため、耐衝撃性が向上する。また、光ファイバユニットをSZ撚りすることで、従来のS撚りの場合と比較して、分岐後の撚りの残りが抑制され、作業が容易となる。
【0018】
また、光ファイバユニットの引き抜き力を47.0N/10m以下の範囲とすることで、ヒートサイクルの際にも過剰に内部の光ファイバ心線が拘束されないため、外被が収縮する際に光ファイバ心線がわずかに軸方向にずれて、応力を逃がすことができる。このため、曲げの発生による損失増大や断線の発生を抑制することができる。
【0019】
また、光ファイバユニットの引き抜き力を34.3N/10m以上とすることで、ヒートサイクルの際に、内部の光ファイバ心線が容易に動きすぎず、SZ撚りのピッチが大きくなることを抑制することができる。このため、ヒートサイクルでの伝送損失が増大することを抑制することができる。
【0020】
また、光ファイバケーブルの長さに対する光ファイバユニットの余長を0.01%以上とすることで、SZ撚りの効果を確実に確保し、引き抜き力が小さくなりすぎることを抑制することができる。
【0021】
また、光ファイバケーブルの長さに対する光ファイバユニットの余長を0.055%以下とすることで、引き抜き力が大きくなりすぎることを抑制し、荷重をかけた際に内部の光ファイバ心線に過剰な荷重がかかることを抑制することができる。
【0022】
また、隣り合うノッチの間の領域における外被の厚みと、隣り合うノッチの互いの外側の領域における外被の厚みの差を0.2mm以下とすることで、例えば、ノッチの間の領域における外被の最小厚みを確保しつつ、総厚の増大を抑制することができる。
【0023】
また、隣り合うノッチの間の領域における外被の厚みと、隣り合うノッチの互いの外側の領域における外被の厚みの差を0.1mm以上とすることで、ノッチの間の領域への荷重を確実に低減することができる。
【0024】
また、光ファイバユニットの撚りピッチを所定の範囲とすることで、引き抜き力を適切に調整するとともに、衝撃を受けた際に光ファイバ心線の断線を抑制することができる。
【0025】
また、長手方向に垂直な断面において、防護壁の形状として、中央部を光ファイバユニット側に凸形状に湾曲させることで、介在のサイズや製造条件等はそのままに、光ファイバ心線の配置スペースを減少させることができる。このため、光ファイバ心線1本あたりが占める占有面積を小さくすることができる。この結果、引き抜き力を高くすることができる。
【0026】
また、長手方向に垂直な断面において、防護壁の形状として、中央部を外側に湾曲させることで、介在のサイズや製造条件等はそのままに、光ファイバ心線の配置スペースを増大させることができる。このため、光ファイバ心線1本あたりが占める占有面積を大きくすることができる。この結果、引き抜き力を低減することができる。
【0027】
このように、防護壁を完全にフラットなものではなく、湾曲した形状のものを用いることで、引き抜き力の微調整を行うことができる。このため、その他の製造条件や使用部材を変えることなく、引き抜き力を所定の範囲に調整することが可能となる。なお、防護壁の向きを反転させることで、同一の防護壁を用いて、上記調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、特にヒートサイクルの際に光ファイバ心線の伝送損失の増大等を抑制することが可能な光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】光ファイバケーブル1の断面図。
図2】光ファイバケーブルにおける光ファイバユニットの引き抜き力と、光ファイバケーブルに対する光ファイバ心線の余長との関係を示す概念図。
図3】(a)は、光ファイバケーブル1aの断面図、(b)は、光ファイバケーブル1bの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、光ファイバケーブル1の断面図である。光ファイバケーブル1は、外被3、介在5、光ファイバユニット15、テンションメンバ9、防護壁13等により構成される。
【0031】
光ファイバケーブル1の断面略中央位置には、光ファイバユニット15が配置される。光ファイバユニット15は、複数本の光ファイバ心線7又は複数本の光ファイバ心線7が併設された一つ以上の光ファイバテープ心線からなる。なお、光ファイバユニット15が、複数本の光ファイバ心線7が併設された一つ以上の光ファイバテープ心線で構成される場合、光ファイバテープ心線としては、例えば複数の光ファイバ心線が長手方向に間欠的に接着された間欠接着型の光ファイバテープ心線が適用可能である。
【0032】
複数の光ファイバユニット15は、SZ状に撚られている。SZ撚りとは、一方の方向の撚りと逆方向の撚りを所定のピッチで反転させたものである。すなわち、光ファイバユニット15は、所定のピッチで撚り合わせ方向が反転する。なお、光ファイバユニット15を構成する複数の光ファイバ心線7がさらに撚られていてもよい。すなわち、複数本の光ファイバ心線7を撚り合わせて光ファイバユニット15が構成され、さらに、複数の光ファイバユニット15が撚り合わせられてもよい。
【0033】
光ファイバユニット15の長手方向に垂直な断面において、光ファイバユニット15の全体を上下方向から挟み込むように、一対の防護壁13が設けられる。防護壁13は、例えばナイロンテープ等であり、外被3との剥離性が良いものが使用される。防護壁13は、光ファイバユニット15よりも幅広に形成される。なお、上下のそれぞれの防護壁13は、最上部および最下部の光ファイバ心線7とそれぞれ接触する。
【0034】
防護壁13の対向方向に対して略直交する方向であって、光ファイバユニット15の両側方には、一対のテンションメンバ9が設けられる。テンションメンバ9は、光ファイバケーブル1の張力を負担する。テンションメンバ9は、例えば鋼線、モノフィラメント、アラミド繊維等による繊維補強プラスチック等が使用でき、望ましくは亜鉛メッキ鋼線を使用することができる。
【0035】
防護壁13の間であって、光ファイバユニット15の両側方には、光ファイバユニット15を挟み込むように、一対の介在5が設けられる。介在5は、光ファイバユニット15に接触するように配置される。
【0036】
介在5は、ヤーン(マルチフィラメント(繊維や繊維状に加工したものの集合体)を含む)やテープ、棒状のコルデルなどが適用可能である。ヤーンの材質としては、ガラス繊維、アラミド繊維、PP(ポリプロピレン)繊維、PE(ポリエチレン)繊維、PET(ポリエステル)繊維、ナイロン繊維、カーボン繊維を用いることができる。介在5としてテープを使用する場合、テープの材質としては、PP、PE、PET、ナイロンを用いることができる。また、介在5として棒状のコルデルを使用する場合、コルデルの材料としては、ポリオレフィン系樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、UV樹脂、繊維FRPなどのプラスチック製材料を用いることができる。
【0037】
介在5、光ファイバユニット15、防護壁13及びテンションメンバ9は外被3によって一体化される。すなわち、光ファイバユニット15、防護壁13、介在5およびテンションメンバ9が、外被3で覆われる。外被3は、略矩形形状である。外被3は、例えばポリオレフィン系樹脂製等の熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0038】
外被3の上下面には、互いに対向するように2組のノッチ11が形成される。より詳細には、外被3の対向する外周部(図中上下面)であって、上下のそれぞれの防護壁13に対応する位置に、それぞれ二つずつのノッチ11が形成される。すなわち、ノッチ11は、計四か所に配置される。前述したように、ノッチ11は、解体工具などによって、光ファイバケーブル1を分割する起点部となる。なお、ノッチの断面形状を特に限定されない。
【0039】
光ファイバケーブル1の幅方向に対して、外被3のそれぞれの上下面において隣り合うノッチ11の間の領域における外被3の厚み(図中A)は、隣り合うノッチ11の互いの外側の領域における外被3の厚み(図中B)よりも薄い。
【0040】
ここで、外被3の上下面において、併設されるノッチ11同士の間は、光ファイバユニット15が収容される領域であり、ノッチ11よりも外側の領域は、テンションメンバ9が配置される領域となる。特に、光ファイバユニット15を構成する光ファイバ心線7の本数が多くなると、防護壁13同士の間隔を広くする必要があるため、防護壁13と外被3との距離が短くなる。このように、光ファイバユニット15が収容される部位の外被3の厚みが薄いため、光ファイバユニット15に上下方向に力や衝撃がかかると、より直接的に光ファイバ心線7へ力がかかる。このため、伝送損失の増加の要因となる。
【0041】
これに対し、光ファイバユニット15が収容される領域の外被3の厚みを、光ファイバユニット15が収容されていない領域の外被3の厚みよりも薄くしておくことで、当該部位の外被表面から光ファイバユニットまでの距離が短くなるが、光ファイバケーブル1に上下方向から力や衝撃がかかった際に、光ファイバユニット15が収容される領域の外被3に直接力が付与されることが抑制される。すなわち、テンションメンバ9が埋設される部位で、上下方向の力の多くを受け持つことで、光ファイバユニット15へかかる力を低減することができる。
【0042】
ここで、隣り合うノッチ11の間の領域における外被3の厚みAと、隣り合うノッチ11の互いの外側の領域における外被3の厚みBの差は、0.1mm以上0.2mm以下であることが望ましい。厚みAと厚みBの差が0.2mmを超えると、当該部位の外被3の厚みが薄くなりすぎる。また、厚みA厚みBの差が0.1mm未満では、段差を形成する効果が小さい。
【0043】
ここで、外被3からの光ファイバユニット15(光ファイバ心線7)の引き抜き力は、34.3N/10m以上47.0N/10m以下であることが望ましい。引き抜き力が47.0N/10mを超えると、特に低温での収縮時(ヒートサイクル時)に光ファイバ心線が外被に対してずれられないため、光ファイバ心線に大きな力がかかる。一方、引き抜き力が、34.3N/10m未満では、ヒートサイクルにおいて光ファイバ心線が動いてしまい、その結果SZ撚りのピッチが大きくなることで、ヒートサイクルでの伝送損失が大きくなる。
【0044】
図2は、光ファイバ心線7の引き抜き力と、心線余長との関係を示す概念図である。ここで、心線余長とは、(光ファイバ心線の長さ-光ファイバケーブルの長さ)/光ファイバケーブルの長さ×100%で算出される。心線余長は、光ファイバユニット15のSZ撚りピッチによって調整可能である。ここで、光ファイバユニット15の撚りピッチは、正方向へ回転後、反転して逆方向に回転し、元の位置に戻るまでの光ファイバケーブル1の長さである。
【0045】
なお、ヒートサイクル等における伝送損失を低減するためには、光ファイバユニット15の撚りピッチは200mm以上800mm以下であることが望ましく、さらに望ましくは300mm以上550mm以下である。このような範囲とすることで、心線余長を適正に調整することができる。
【0046】
前述したように、引き抜き力の望ましい範囲は、34.3N/10m以上47.0N/10m以下である。このため、図2において、C=47.0N/10m、D=34.3N/10mであるとすれば、CとDとの間の領域が望ましい。
【0047】
また、例えば、余長を長すぎると、荷重をかけた際(衝撃を受けた際)に光ファイバ心線7が逃げることができずに断線の恐れがある。一方、余長が短すぎると、SZ撚りのピッチが大きくなることで、SZ撚りの効果が低減し、ヒートサイクルでの伝送損失が大きくなる。このため、心線余長には望ましい範囲が存在し、例えば、光ファイバケーブル1の長さに対する光ファイバユニット15(光ファイバ心線7)の心線余長が0.01%以上0.055%以下であることが望ましい。このため、図2において、E=0.01%、F=0.055%であるとすれば、EとFとの間の領域が望ましい。
【0048】
ここで、心線余長が大きくなると、引き抜き力は大きくなる傾向にある(図中直線G、H)。直線Gと直線Hの違いは、例えば、製造時の外被の押出条件の違いによって生じる。また、張力を大きくすると引き抜き力が小さくなり、張力を小さくすると、引き抜き力が大きくなる。すなわち、図2において、例えば直線Gと直線Hは、張力や押出条件が異なる製造条件で製造した場合のそれぞれの引き抜き力と余長との関係を示す直線である。
【0049】
なお、製造時の張力は、製造性を考慮すると、自由に設定することはできない。例えば図2において、直線Gよりも上(直線Gにおける張力よりも大きな張力)で製造することや、直線Hよりも下(直線Hにおける張力よりも小さな張力)で製造することは困難である。このため、製造性も考慮すると、より望ましい範囲としては、IJKLMNIで囲まれた領域となる。
【0050】
また、引き抜き力を調整する方法としては、光ファイバケーブル1の内部における光ファイバ心線の占める面積を調整する方法がある。すなわち、長手方向に垂直な断面において、一対の介在5と一対の防護壁13とで囲まれた領域が光ファイバ心線7の配置空間となるが、この面積をSとすると、S/光ファイバ心線数が、1本当たりのファイバ占有面積となる。
【0051】
このファイバ占有面積が所定の範囲内であれば引き抜き力は安定するが、ファイバ占有面積がこの範囲を超えると、引き抜き力が大きく変化する恐れがある。このため、本実施形態では、ファイバ占有面積は0.098mm以上0.102mm以下であることが望ましい。
【0052】
通常、光ファイバケーブル1の外寸は、従来の光ファイバケーブルの断面寸法で規制される場所や部材に適用するために、自由に変えることは困難である。また、外被3の必要厚さを考慮すると、防護壁13同士の間隔や介在5同士の間隔を変えることは困難である場合がある。一方で、所定の条件で設計された光ファイバケーブル1において、引き抜き力を、製造条件等を変えることなく調整ができれば、製造条件の自由度も高くなり、製造性が良好となる。
【0053】
そこで、本実施形態において、わずかに湾曲した防護壁13を用いることもできる。図3(a)は、湾曲した防護壁13を用い、防護壁13を、中央部が光ファイバユニット15側に凸形状に湾曲させて配置した光ファイバケーブル1aを示す図である。湾曲した防護壁13を、互いの対向方向に向けて凸となるように配置することで、前述した防護壁13と介在5とで囲まれた空間の面積Sを小さくすることができる。すなわち、ファイバ占有面積を小さくして引き抜き力を高めることができる。
【0054】
同様に、図3(b)は、防護壁13の中央部を、外方に凸形状に湾曲させて配置した光ファイバケーブル1bを示す図である。湾曲した防護壁13を、互いの対向方向の逆方向に凸となるように配置することで、前述した防護壁13と介在5とで囲まれた空間の面積Sを大きくすることができる。すなわち、ファイバ占有面積を大きくして引き抜き力を弱めることができる。
【0055】
また、防護壁13の湾曲方向を同一方向とすれば、図1に示した光ファイバケーブル1の、防護壁13と介在5とで囲まれた空間の面積Sと略同様にすることができる。この際、防護壁13の配置の向きだけを変えるだけでよいため、他の使用される介在5等を変える必要がなく、また、その他の寸法や製造条件を変えることなく引き抜き力の微調整を行うことができる。
【0056】
なお、湾曲させた防護壁13としては、介在5との接触部を基準として、中央部の凸部の頂部までの距離が0.22mm以下であることが望ましい。湾曲量が大きくなりすぎると、例えば外方に凸形状とした際に、外被3の厚みが薄くなりすぎる。また、湾曲させた防護壁13として、介在5との接触部を基準として、中央部の凸部の頂部までの距離が0.18mm以上であることが望ましい。湾曲量が小さすぎると、湾曲効果が小さくなる。
【0057】
以上、本実施形態によれば、外被3のそれぞれの上下面において、隣り合うノッチ11の間の領域における外被3の厚みAが、隣り合うノッチ11の互いの外側の領域における外被3の厚みBよりも薄いため、上下からの荷重や衝撃によって、中央の光ファイバユニット15へ直接力がかかることを抑制することができる。このため、光ファイバ心線7の伝送損失の増大や断線を抑制することができる。
【0058】
また、光ファイバユニット15がSZ撚りされているため、光ファイバケーブル1を解体して、内部の光ファイバユニット15を取りだした際に、撚りが残ってしまうことが抑制され、作業性が良好である。
【0059】
光ファイバユニット15の引き抜き力を所定の範囲とすることで、ヒートサイクルの際などにおいて伝送損失の増大等を抑制することができる。
【0060】
また、光ファイバユニット15の余長が0.01%以上0.055%以下であるため、適切な引き抜き力を確保することができるとともに、外力によって過剰な力が光ファイバ心線7にかかることを抑制することができる。
【0061】
また、引き抜き力の調整のために、湾曲した防護壁13を用いて光ファイバケーブル1を形成することで、使用する部材や製造条件を変えることなく、防護壁13の向きを変えるだけで引き抜き力の微調整を行うことができる。
【実施例0062】
複数種類の光ファイバケーブルを作成し、各種の評価を行った。光ファイバケーブルとしては、概ね図1に示す形状であり、外径250μmの光ファイバ心線24本からなる光ファイバユニットを撚り合わせて、介在、防護壁及びテンションメンバとともに外被で被覆した。外被は略長方形であり、長辺寸法が5.5mm、短辺寸法が3.5mmの断面形状とした。なお、外被3のそれぞれの上下面において、隣り合うノッチ11の間の領域における外被3の厚みAと、隣り合うノッチ11の互いの外側の領域における外被3の厚みBとの差(B-A)/2を、外被における段差とした。
【0063】
得られた光ファイバケーブルに対して、光ファイバケーブルを10m切り出して、(光ファイバ心線の長さ-ケーブルの長さ(10m))/ケーブルの長さ(10m)×100として心線余長を算出した。
【0064】
また、光ファイバケーブルの引き抜き力を測定した。光ファイバケーブルを10m切り取り出し、光ファイバケーブルの両端10cmの範囲の外被を除去して、ケーブルコアを露出させた。一端はそのままとし、他端については、ケーブルコアを紐で束ねて軸方向に引張り、引き抜き力をばねばかりで測定した。引き抜き速度は360N/min以下とし、19.6N以上で、光ファイバケーブルの一端の光ファイバ心線が移動しないものを合格(○)とし、移動がみられたものを不合格(×)とした。
【0065】
また、防護壁と介在とで囲まれた空間の断面積を測定し、これを光ファイバ心線数で除して、1本当たりの光ファイバ心線の占有面積を算出した。
【0066】
衝撃試験は、JIS C6851_8に基づき、500g×1m、直径25mmの錘を500mmの範囲に10カ所落下させた。試験中において、損失変動が0.10dB以下のものを合格(○)とし、0.10dBを超えたものを不合格(×)とした。
【0067】
また、作業性試験として、光ファイバケーブルの中間部分で1700mmの外被を剥ぎ取り後、ねじれなく内部の光ファイバ心線を容易に取り出せたものを合格(○)とし、ねじれによって光ファイバ心線の取り出しが困難であったものを不合格(×)とした。
【0068】
また、ヒートサイクル試験方法は、-30と+60℃で各2h保持する-30~+60℃のサイクル試験を2サイクル行い、この際の損失変動が0.1dB/km以下のものを合格(○)とし、0.1dB/kmを超えたものを不合格(×)とした。結果を表1、表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1に示すように、実施例1~実施例8は、外被の厚みの差(段差)があり、また、所定ピッチ範囲内でSZ撚りされており、心線余長が0.01~0.055%の範囲内であるため、引き抜き力、衝撃試験、作業性試験、ヒートサイクル試験のいずれも合格であった。なお、ファイバ占有面積は0.098~0.100mm/本の範囲であった。
【0072】
一方、比較例1は、段差が-であるため(すなわち、ノッチ同士の間の厚みの方が厚いため)、衝撃試験が不合格(×)となった。比較例2は、S撚りであるため、作業性試験が不合格(×)となった。また、比較例3は、心線余長が0%であるため、ヒートサイクル試験が不合格(×)となった。
【0073】
また、比較例4は、心線余長が0.06%であるため、ヒートサイクル試験が不合格(×)となった。また、比較例5は、ファイバ占有面積が大きすぎるため、引き抜き力が小さく、ヒートサイクル試験が不合格(×)となった。また、比較例6は、ファイバ占有面積が小さすぎるため、引き抜き力が大きくなりすぎてしまい、ヒートサイクル試験が不合格(×)となった。
【0074】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0075】
1、1a、1b………光ファイバケーブル
3………外被
5………介在
7………光ファイバ心線
9………テンションメンバ
11………ノッチ
13………防護壁
15………光ファイバユニット
図1
図2
図3