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特開2024-126027液晶配向剤、液晶配向膜、及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126027
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C07C 15/50 20060101AFI20240911BHJP
   C07C 43/20 20060101ALI20240911BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C07C15/50
C07C43/20 C
G02F1/1337 525
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024093465
(22)【出願日】2024-06-10
(62)【分割の表示】P 2021551405の分割
【原出願日】2020-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2019184619
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(72)【発明者】
【氏名】森内 正人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 崇明
(57)【要約】
【課題】 放射線等の照射によって化学変化を起こす光配向法による配向処理の場合でも、過酷な環境下での電圧保持率が高く、且つ液晶配向性が良好で、かつ、IPSやFFS方式の液晶表示素子で発生する焼き付きが抑制できる液晶表示素子を得るための液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子を提供する。
【解決手段】 下記式(1)で表される構造を2つ以上有する芳香族化合物を含有することを特徴とする。
【化1】
(Rは、水素原子又はメチル基である。ベンゼン環上の任意の水素原子は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又はフッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基により置換されていてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(b-1)~(b-4)からなる群から選ばれるいずれかの芳香族化合物。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、該液晶配向膜を使用した液晶表示素子、及び液晶配向剤に用いる新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、電極構造や使用する液晶分子の物性等が異なる種々の駆動方式が開発されており、例えば、TN(Twisted Nematic)型やSTN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Finge Field Switching)型等の各種表示素子が知られている。これら液晶表示素子は、一般的に、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。
【0003】
液晶配向膜の材料としては、例えば、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド等の重合体が知られている。現在、工業的に最も普及している液晶配向膜は、電極基板上に上記重合体を含む重合性組成物を用いて形成された膜の表面を、綿、ナイロン、ポリエステル等の布で一方向に擦る、いわゆるラビング処理を行うことで作製されている。
【0004】
ラビング処理は、簡便で生産性に優れた工業的に有用な方法である。しかし、液晶表示素子の高性能化、高精細化、大型化に伴い、ラビング処理で発生する配向膜の表面の傷、発塵、機械的な力や静電気による影響、更には、配向処理面内の不均一性等の種々の問題がある。
【0005】
ラビング処理に代わる方法としては、偏光された放射線の照射により、液晶配向能を付与する光配向法が知られている。光配向法による液晶配向処理は、光異性化反応を利用したもの、光架橋反応を利用したもの、光分解反応を利用したもの等が提案されている(非特許文献1参照)。特許文献1では、主鎖にシクロブタン環等の脂環構造を有するポリイミド膜を光配向法に用いることが提案されている。
【0006】
上記のような光配向法は、ラビングレスの配向処理方法として、工業的にも簡便な製造プロセスで生産できるだけでなく、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子においては、ラビング処理法で得られる液晶配向膜に比べて、液晶表示素子のコントラストや視野角特性の向上が期待できるため、有望な液晶配向処理方法として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-297313号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「液晶光配向膜」木戸脇、市村 機能材料 1997年11月号 Vol.17、 No.11 13~22頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、さらに液晶表示素子の使用範囲が拡大しており、液晶表示素子は、長時間、高温高湿の環境下や光の照射に曝された環境下で使用される場合がある。液晶配向膜としては、このような過酷な環境下での使用に耐え得ることが求められ、特に電圧保持率が高いことは重要な特性の一つとなっている。しかし、本願発明者の知見によると、放射線等の照射によって化学変化を起こす光配向法の場合、電圧保持率が低下しやすい傾向にあることが明らかとなった。加えて、光配向法による配向能付与を行った場合に、液晶配向性が十分でなかったり、例えば、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子において焼き付きが問題になったりすることが明らかになった。
【0010】
従って、本発明は、放射線等の照射によって化学変化を起こす光配向法による配向処理の場合でも、過酷な環境下での電圧保持率が高く、且つ液晶配向性が良好で、かつ、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子で発生する焼き付きが抑制できる液晶表示素子を得るための液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、該液晶配向膜を有する液晶表示素子、更には、液晶配向剤に用いる新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、下記に表わされる特定の化学構造を有する芳香族化合物を添加剤として含有する液晶配向剤により、上記課題を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、下記式(1)で表される構造を2つ以上有する芳香族化合物を含有することを特徴とする液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、該液晶配向膜を有する液晶表示素子、更には、該液晶配向剤に用いる新規化合物にある。
【化1】
但し、Rは、水素原子又はメチル基である。ベンゼン環上の任意の水素原子は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はフッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基により置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射線等の照射によって化学変化を起こす光配向法による配向処理の場合でも、過酷な環境下で電圧保持率が高く、液晶配向性が良好で、特に、IPS駆動方式やFFS駆動方式でも焼き付きが抑制できる液晶表示素子を得るための液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、該液晶配向膜を有する液晶表示素子、更には、液晶配向剤に用いる新規化合物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<式(1)の芳香族化合物>
本発明の液晶配向剤は、下記式(1)で表される構造を2つ以上有する芳香族化合物(以下、式(1)の芳香族化合物という場合がある。)を含有することを特徴とする。
【化2】
【0014】
上記式(1)におけるRは、水素原子又はメチル基を表す。ベンゼン環上の任意の水素原子は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基、又はフッ素原子を有する炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4の1価の有機基により置換されていてもよい。ここで、フッ素原子を有する1価の有機基としては、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロエトキシ基等が挙げられる。
【0015】
本発明の液晶配向剤では、上記式(1)の芳香族化合物を添加剤として含有することにより、後記する実施例において具体的に例証するように、放射線等の照射によって化学変化を起こす光配向法による配向処理の場合でも、過酷な環境下で電圧保持率が高く、液晶配向性が良好である液晶表示素子における液晶配向膜が得ることができる。そのメカニズムが必ずしも明らかではないが、ほぼ以下のように考えられる。
光配向法による配向処理では、例えば、基板表面に形成された液晶配向剤から形成される膜状物の表面には、ほぼ直線に偏光した高エネルギーUV光が照射されるが、この場合、UV光の照射により、膜状物を構成する有機物の分解物が生成し、これが液晶配向膜中の電圧保持率の低下をもたらす不純物となり、このため、液晶配向膜の電圧保持率を低下させるものと思われる。
しかし、本発明の液晶配向剤では、UV光の照射によって上記不純物が生成した場合、該不純物と反応しうる官能基を上記式(1)の芳香族化合物が有するため、これが電圧保持率の低下をもたらす不純物と反応することにより、得られる液晶配向膜に含まれる該不純物を低減せしめることができる。このため、本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜は、高い電圧保持率を保持するものと思われる。
また、本発明の液晶配向剤に含有される上記式(1)の芳香族化合物は、平面性の高い構造を有するため、得られる液晶配向膜の液晶配向性が阻害されることなく、高い液晶配向性を有する液晶配向膜が得られるものと思われる。従って、IPS駆動方式やFFS駆動方式において、液晶表示素子を長時間駆動させた際でも液晶が駆動前と同じ状態に戻るため、焼き付きの少ない液晶表示素子が得られるものと思われる。
【0016】
上記式(1)の芳香族化合物としては、下記式(b1)で表される化合物であるのが好ましい。
【化3】
上記式(b1)において、Rは、上記式(1)における場合と同義である。nは、2~6の整数であり、nが2の場合、Aは、単結合又は2価の連結基を表し、nが3~6の場合、Aはn価の有機基を表す。
【0017】
上記n価の有機基としては、例えばn価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間又は炭化水素基の末端にヘテロ原子を有する基を含むn価のヘテロ原子含有基、上記炭化水素基及びヘテロ原子含有基が有する一部又は全部の水素原子を置換基で置換したn価の有機基が挙げられる。
Aにおける2価の連結基としては、2価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間又は炭化水素基の末端にヘテロ原子を有する基を含む2価のヘテロ原子含有基、上記炭化水素基及びヘテロ原子含有基が有する一部又は全部の水素原子を置換基で置換した2価の連結基、-S(=O)-、-CO-、-O-、-S-、-NR-CO-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-NR-CO-NR-(Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す)等が挙げられる。
【0018】
n価の炭化水素基としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン等のアルケン;エチン、プロピン、ブチン、ペンチン等のアルキン等の炭素数1~30の鎖状炭化水素、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルナン、アダマンタン等のシクロアルカン、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン等のシクロアルケン等の炭素数3~30の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、アントラセン等の炭素数6~30の芳香族炭化水素、及び上記鎖状炭化水素が有する炭素-炭素結合の一部が上記脂環式炭化水素や上記芳香族炭化水素で置き換えられた炭化水素からなる群から選ばれる炭化水素から、n個の水素原子を除いたn価の基等が挙げられる。2価の炭化水素基としては、上記n価の炭化水素基で例示した炭化水素から2個の水素原子を除いた2価の基等が挙げられる。
【0019】
上記ヘテロ原子を有する基としては、例えば、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、リン原子及びイオウ原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する基等が挙げられる。具体例を挙げると、-O-、-NR-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-CO-、-S-、-CO-及びこれらを組み合わせた基等が挙げられる。なかでも、-O-が好ましい。
【0020】
上記置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基等のアルコキシカルボニルオキシ基;シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
上記式(b1)において、nは2であるのが好ましく、Aは、単結合又は2価の連結基であるのが好ましい。
【0021】
上記2価の連結基としては、下記式(a-1)又は(a-2)で表される構造を有するものが好ましい。
【化4】
上記式(a-1)、(a-2)中、R、R1’、R、R2’は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4、好ましくは炭素数1又は2のアルキル基を表す。m1及びm2は、それぞれ独立に、1~18、好ましくは1~6の整数である。nは1~6、好ましくは1~4の整数である。また、「*」は結合手を表す。
【0022】
上記式(1)の芳香族化合物は、光配向法で生じる分解物との反応性を高める等の点から、上記芳香族化合物の分子量は、好ましくは、2000以下、より好ましくは1500以下である。一方、焼成による芳香族化合物の昇華を抑える等の点から、上記芳香族化合物の分子量は、好ましくは、150以上であり、より好ましくは200以上である。
【0023】
上記式(1)の芳香族化合物の好ましい例としては、下記式(b-1)~(b-7)からなる群から選ばれる化合物が挙げられる。下記式(b-1)~(b-4)の化合物は、先行文献に非開示の新規化合物である。
【化5】
【0024】
<重合体>
上記式(1)の芳香族化合物を含有される本発明の液晶配向剤は、既知のものと同様に、液晶を配向させる能力を有する重合体を含有するが、かかる重合体は、液晶を配向させる能力を有するものであれば特に限定されない。
かかる重合体としては、例えば、ポリイミド前駆体、ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミド、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、アクリルアミドポリマー、メタクリルアミドポリマー、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーネート、ポリウレア、ポリフェノール(ノボラック樹脂)、マレイミドポリマー、イソシアヌル酸骨格、トリアジン骨格を有した化合物を導入した重合体が挙げられる。かかる重合体は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
これらの重合体を製造するための原料としては、それぞれ、下記のものが挙げられる。
重合体が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル等のポリイミド前駆体やポリイミドの場合は、テトラカルボン酸若しくはその誘導体から選択される少なくとも一種のテトラカルボン酸成分とジアミン;
重合体が(メタ)アクリルポリマーの場合は、(メタ)アクリル酸若しくはその誘導体、(メタ)アクリル酸エステル若しくはその誘導体;重合体が(メタ)アクリルアミドポリマーの場合は、(メタ)アクリルアミド若しくはその誘導体;
【0026】
重合体がポリスチレンの場合は、スチレン若しくはその誘導体;重合体がポリシロキサンの場合は、メトキシ基若しくはエトキシ基を有するシラン化合物;重合体がポリアミドの場合は、ジカルボン酸及びその誘導体から選択される少なくとも一種のジカルボン酸成分とジアミン成分;
重合体がポリエステルの場合はジカルボン酸及びその誘導体から選択される少なくとも一種のジカルボン酸成分とジオール成分;
【0027】
重合体がポリウレタンの場合は、イソシアネートと化合物と水酸基を有する化合物;重合体がポリカーネートの場合は、ビスフェノール誘導体とホスゲン若しくはホスゲン等価物(例えば、トリクロロホスゲン)若しくはジフェニルカーボネート;
重合体がポリウレアの場合は、ビスイソシアネート誘導体とジアミン成分;重合体がマレイミドポリマーの場合は、マレイミド誘導体単独若しくはスチレンとの共重合;
重合体がイソシアヌル酸骨格やトリアジン骨格を有した化合物を導入したポリマーの場合は、イソシアヌル酸骨格やトリアジン骨格を有した化合物。
【0028】
<ポリイミド系重合体>
本発明の液晶配向剤に含有される重合体としては、なかでも、液晶配向剤としての実用性、塗布膜の機械的、及び電気的特性の観点から、ポリイミド前駆体、及びポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる1つ以上の重合体(以下、ポリイミド系重合体ともいう。)が好ましい。
上記ポリイミド系重合体は、既知の方法で製造できる。例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物若しくはその誘導体からなるテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分と、を重(縮)合反応させることにより得られ、このポリイミド前駆体をイミド化することによりポリイミドが得られる。
【0029】
<テトラカルボン酸成分>
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、例えば、芳香族、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸成分から得られるものが挙げられる。ここで、芳香族テトラカルボン酸二無水物は、芳香環に結合する少なくとも1つのカルボキシル基を含めて4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状炭化水素構造に結合する4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、鎖状炭化水素構造のみで構成されている必要はなく、その一部に脂環式構造や芳香環構造を有していてもよい。
【0030】
また、脂環式テトラカルボン酸二無水物は、脂環式構造に結合する少なくとも1つのカルボキシル基を含めて4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、これら4つのカルボキシル基はいずれも芳香環には結合していない。
また、脂環式構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状炭化水素構造や芳香環構造を有していてもよい。
【0031】
本発明のポリアミック酸は、なかでも、下記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸成分から得られるものが好ましい。
【化6】
【0032】
上記式(2)中、Xは下記(x-1)~(x-13)から選ばれる構造が好ましい。
【化7】
【0033】
上記式(x-1)~(x-13)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を有する炭素数1~6の1価の有機基又はフェニル基を表す。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。j及びkは、それぞれ独立して、0又は1の整数である。A及びAは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-CO-、-COO-、フェニレン、-SO-、又は-CONH-を表す。2つのAは同一でも異なってもよい。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手であり、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手である。)
【0034】
上記式(x-1)は、なかでも、下記式(x1-1)~(x1-6)からなる群から選ばれるものが好ましい。
【化8】
上記式(x1-1)~(x1-6)において、*1は一方の酸無水物基に結合する結合手を表し、また、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手を表す。
【0035】
上記式(x-12)、(x-13)の好ましい具体例としては、下記式(x-14)~(x-29)が挙げられる。なお、式中の「*」は結合位置を表す。
【化9】
【化10】
上記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物若しくはその誘導体の使用量は、ジアミン成分と反応させる全テトラカルボン酸成分1モルに対して、60~100モル%含むことが好ましく、80~100モル%がより好ましく、90~100モル%がさらに好ましい。
【0036】
<ジアミン成分>
ポリイミド前駆体の製造に用いられるジアミン成分は特に限定されないが、下記式(3)で表されるジアミンを含むジアミン成分が好ましい。
【化11】
【0037】
上記式(3)中、Aは炭素数2~14のアルキレン基、又は該アルキレンが有する-CH-の少なくとも一つを連続しない条件で、-O-、-CO-、-OCO-若しくは-COO-で置換した基を表す。Aはより好ましくは、炭素数2~12のアルキレン基、又は該アルキレンが有する-CH-の少なくとも一つを連続しない条件で、-O-、-CO-、-OCO-若しくは-COO-で置換した基であり、更に好ましくは、炭素数2~10のアルキレン基、又は該アルキレンが有する-CH-の少なくとも一つを連続しない条件で、-O-、-CO-、-OCO-若しくは-COO-で置換した基である。
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、リン酸基、又は炭素数1~20の1価の有機基を表す。Aが複数存在する場合、Aは同一でも異なってもよい。aは0~4の整数であり、aが複数存在する場合、aは同一でも異なってもよい。b及びcは、それぞれ独立して、1又は2の整数であり、dは0又は1の整数である。
【0038】
上記式(3)で表されるジアミンとしては、下記式(3d-1)~(3d-9)で表されるジアミンが好ましい。
【化12】
(式(3d-8)および(3d-9)において、2つのmは同一でも異なってもよい。)
【0039】
上記式(3)で表されるジアミンとしては、下記式(3-1)~式(3-12)で表されるジアミンがより好ましい。
【化13】
【0040】
上記式(3)で表されるジアミンの使用量は、テトラカルボン酸成分と反応させる全ジアミン成分1モルに対して、60~100モル%含むことが好ましく、80~100モル%がより好ましく、90~100モル%がさらに好ましい。
【0041】
本発明に用いられるポリイミド系重合体は、得られる液晶配向膜の電圧保持率を高める観点から、窒素含有複素環(但し、ポリイミドが有するイミド環を除く。)、第二級アミノ基及び第三級アミノ基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の窒素含有構造(以下、窒素含有構造ともいう。)を有してもよい。窒素含有構造を有するポリイミド系重合体は、窒素含有構造を有する単量体、例えば、窒素含有構造を有するジアミンを原料の少なくとも一部に用いることにより得ることができる。
【0042】
上記窒素含有複素環としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、インドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、キノキサリン、フタラジン、トリアジン、カルバゾール、アクリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン等が挙げられる。なかでも、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、カルバゾール又はアクリジンが好ましい。
【0043】
窒素含有構造を有するジアミンが有していてもよい第二級アミノ基及び第三級アミノ基は、例えば、下記式(n)で表される。
【化14】
上記式(n)において、Rは、水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を表す。「*」は、炭化水素基に結合する結合手を表す。
上記式(n)中のRの1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基等のアリール含有基等が挙げられる。Rは、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0044】
窒素含有構造を有するジアミンの具体例としては、例えば、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,6-ジアミノアクリジン、N-エチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-フェニル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、N,N-ビス(4-アミノフェニル)-メチルアミン、下記式(z-1)~式(z-18)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化15】
【化16】
【0046】
窒素含有構造を有するジアミンの使用割合は、液晶表示素子の電圧保持率を高める観点から、合成に使用するジアミンの全体量に対して1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましい。また、該使用割合は、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。
【0047】
本発明に用いられるポリイミド系重合体は、上記に記載のジアミン以外のその他のジアミンを含んでいてもよい。以下にその他のジアミンの例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
4-(2-(メチルアミノ)エチル)アニリン、4-(2-アミノエチル)アニリン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、下記式(g-1)~(g-9)で表されるジアミンなどの光配向性基を有するジアミン、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチル-1H-インダン-5-アミン、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-6-アミン、3,5-ジアミノ安息香酸等のカルボキシル基含有ジアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、下記式(u-1)~(u-3)で表されるジアミンなどのウレア結合を有するジアミン、下記式(u-4)~(u-7)で表されるジアミンなどのアミド結合を有するジアミン、メタクリル酸2-(2,4-ジアミノフェノキシ)エチル、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン等の光重合性基を末端に有するジアミン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン等のステロイド骨格を有するジアミン、下記式(V-1)~(V-6)で表されるジアミン、
【0048】
【化17】
【0049】
【化18】
(式(u―7)において、2つのmは同一でも異なってもよい。)
【0050】
【化19】
(式(v―6)において、2つのkは同一でも異なってもよい。)
【0051】
(上記式(V-1)~(V-6)中、Xv1~Xv4、Xp1~Xp2は、それぞれ独立に、-(CH-(aは1~15の整数である。)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-CHOCO-、-COO-、又は-OCO-を表し、Xv5は-O-、-CHO-、-CHOCO-、-COO-、又は-OCO-を表す。Xaは、単結合、-O-、-NH-、-O-(CH-O-、-C(CH-、-CO-、-(CH-、-SO-、-O-C(CH-、-CO-(CH-、-NH-(CH-、-SO-(CH-、-CONH-(CH-、-CONH-(CH-NHCO-、-COO-(CH-OCO-、-CONH-、-NH-(CH-NH-、又は-SO-(CH-SO-を表す。mは1~8の整数である。Rv1~Rv4、R1a~R1bは、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を示す。)、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等のシロキサン結合を有するジアミン、下記式(5-1)~(5-11)等の基「-N(D)-」(Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。)を有するジアミン、下記式(Ox-1)~(Ox-2)等のオキサゾリン構造を有するジアミン、1-(4-(2,4-ジアミノフェノキシ)エトキシ)フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、2-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノイル)フェノキシ)エチル-3,5-ジアミノベンゾエート、4,4-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノンなどのラジカル重合開始剤機能を有するジアミン等。
【0052】
【化20】
(Bocはt-ブトキシカルボニル基を表す。)
【0053】
【化21】
【0054】
<ポリアミック酸の製造方法>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、以下の方法により製造できる。具体的には、上記テトラカルボン酸成分と上記ジアミン成分とを有機溶媒の存在下で-20~150℃、好ましくは0~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~12時間(重縮合)反応させることによって合成できる。
上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは2種以上を混合して用いてもよい。ポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0055】
上記反応で得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリアミック酸を析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0056】
ポリイミド前駆体がポリアミック酸エステルである場合は、(1)テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリアミック酸をエステル化する方法。(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応による方法。(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させる方法、等の既知の方法による製造できる。
【0057】
上記ポリイミド前駆体は、それを製造するに際して、上記の如きテトラカルボン酸誘導体及びジアミンとともに、適当な末端封止剤を用いて得られる末端封止型の重合体であってもよい。
末端封止剤としては、例えば無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3-ヒドロキシフタル酸無水物、トリメット酸無水物等の酸一無水物や二炭酸ジ-tert-ブチル;アニリン、2-アミノフェノール、3-アミノフェノール、4-アミノサリチル酸、5-アミノサリチル酸、6-アミノサリチル酸、2-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸等のモノアミン化合物;エチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げられる。
末端封止剤の使用割合は、使用するジアミン成分の合計100モル部に対して、40モル部以下とすることが好ましく、30モル部以下とすることがより好ましい。
【0058】
<ポリイミドの製造方法>
本発明に用いられるポリイミドは、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸又はポリアミック酸エステルを既知の方法によりイミド化することにより製造できる。
例えば、ポリアミック酸からポリイミドを製造する場合、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応で得られたポリアミック酸の溶液に触媒を添加する(化学的)イミド化が簡便である。イミド化は、イミド化させたい重合体を、有機溶媒中において塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。
【0059】
有機溶媒としては前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
【0060】
イミド化反応を行うときの温度は、-20~140℃、好ましくは0~100℃であり、反応時間は1~100時間で行うことができる。塩基性触媒の量はアミック酸基の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量はアミック酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御することができる。
なお、本明細書でいうイミド化率とは、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体由来のイミド基とカルボキシル基(またはその誘導体)との合計量に占めるイミド基の割合のことである。ポリイミドにおいては、イミド化率は必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整できる。本発明で用いられるポリイミドのイミド化率は、20~100%が好ましく、50~99%がより好ましい。
【0061】
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリイミドの粉末を得ることができる。
上記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0062】
上記のように製造されるポリイミド前駆体及びポリイミドの分子量は、重量平均分子量で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、更に好ましくは、10,000~100,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、1,000~250,000であり、より好ましくは、2,500~150,000であり、更に好ましくは、5,000~50,000である。
【0063】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、液晶を配向させる能力を有する重合体が溶媒中に溶解された溶液中に、上記式(1)の芳香族化合物が添加された形態を有する。
本発明の液晶配向剤に含有される重合体の含有量(濃度)は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によっても適宜変更できるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から1質量%以上が好ましく、溶液の保存安定性の点からは10質量%以下が好ましい。
また、本発明の液晶配向剤に添加される上記式(1)の芳香族化合物の含有量(濃度)は、0.1~5質量%であるのが好ましく、0.15~5質量%であるのがより好ましく、0.2~5質量%であるのが特に好ましい。
また、上記式(1)の芳香族化合物の含有量は、液晶配向剤に含有される上記重合体と上記式(1)の芳香族化合物との含有量の合計が、1~15質量%であるのが好ましく、2~10質量%であるのがより好ましく、2~8質量%であるのが特に好ましい。
【0064】
本発明の液晶配向剤に用いる溶媒は、上記式(1)の芳香族化合物及び上記重合体を溶解させる溶媒であれば特に限定されない。下記に具体例を挙げる。
例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又は4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、下記の式[D-1]~式[D-3]で示される溶媒等を挙げることができる。
【0065】
【化22】
(式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を示す)。
本発明における溶媒は、なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、又は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(以下、これらを良溶媒ともいう。)が好ましい。
【0066】
本発明の液晶配向剤では、液晶配向剤を塗布した際の液晶配向膜の塗膜性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒ともいう)を含有することができる。これら貧溶媒は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の1~80質量%が好ましい。なかでも、10~80質量%が好ましい。より好ましいのは20~70質量%である。
【0067】
下記に、貧溶媒の具体例を挙げる。エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1-ブトキシ‐2-プロパノール、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ブチルセロソルブアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールジアセタート、ジイソペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸n-プロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソアミル、ジイソブチルケトン、エチルカルビトール又は上記式[D-1]~式[D-3]で示される溶媒等を挙げることができる。
なかでも、ブチルセロソルブ、1-ブトキシ‐2-プロパノール、ブチルセロソルブアセタート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、プロピレングリコールジアセタート、ジイソブチルケトン、エチルカルビトール又はジプロピレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0068】
本発明の液晶配向剤には、エポキシ基、イソシアネート基、オキセタニル基又はシクロカーボネート基を有する架橋性化合物、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有する架橋性化合物、又は重合性不飽和結合を有する架橋性化合物(但し、式(1)の芳香族化合物を除く)を含んでいてもよい。これら置換基や重合性不飽和結合は、架橋性化合物中に2個以上有することが好ましい。架橋性化合物は、2種類以上組み合わせてもよい。好ましい架橋性化合物の具体例としては、下記式(CL-1)~(CL-11)で示される化合物が挙げられる。
【化23】
本発明の液晶配向剤における架橋性化合物の含有量は、全ての重合体100質量部に対して、0.1~150質量部が好ましく、0.1~100質量部がより好ましい。
【0069】
また、本発明の液晶配向剤は、これを塗布して得られる膜状物の厚みの均一性や表面平滑性を向上させる化合物を含有することができる。
かかる化合物としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノ二オン系界面活性剤等が挙げられる。より具体的には、例えば、エフトップEF301、EF303、EF352(以上、三菱マテリアル電子化成社製)、メガファックF171、F173、R-30(以上、DIC社製)、フロラードFC430、FC431(以上、スリーエム社製)、アサヒガードAG710、サーフロンS-382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(以上、AGC社製)等が挙げられる。
【0070】
更に、液晶配向剤には、液晶配向膜中の電荷移動を促進して素子の電荷抜けを促進させる化合物として、国際公開公報WO2011/132751号(2011.10.27公開)の[0194]~[0200]に掲載される、式[M1]~式[M156]で示される窒素含有複素環アミンを添加することもできる。このアミンは、液晶配向剤に直接添加しても構わないが、濃度0.1~10質量%、好ましくは1~7質量%の溶液にしてから添加することが好ましい。この溶媒は、特定重合体を溶解させるならば特に限定されない。
【0071】
<液晶配向膜・液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記の液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成して得られる膜である。基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等が挙げられる。液晶を駆動させるためのITO電極等が形成された基板は、プロセスの簡素化の点から好ましい。反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0072】
液晶配向剤を基板に塗布し、成膜する方法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット法、又はスプレー法等が挙げられる。なかでも、インクジェット法による塗布、成膜法が好適に使用できる。
液晶配向剤を基板上に塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブン又はIR(赤外線)型オーブン等の加熱手段により、溶媒を蒸発させて膜状物(被膜)とすることができる。液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択できる。通常、含有される溶媒を十分に除去するために50~180℃で1~10分焼成するか、更に熱イミド化を行うためにその後、150~300℃で5~120分焼成してもよい。焼成後の膜状物は、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。
【0073】
本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜の配向処理方法としては、ラビング処理法でもよいが、光配向処理法が好適である。光配向処理法としては、上記膜状物の表面に、一定方向に偏向された放射線を照射し、場合により、好ましくは、150~250℃の温度で焼成を行い、液晶配向性(液晶配向能ともいう)を付与する方法が挙げられる。放射線としては、100~800nmの波長を有する紫外線又は可視光線を用いることができる。なかでも、好ましくは100~400nm、より好ましくは、200~400nmの波長を有する紫外線である。
【0074】
また、放射線を照射する場合、液晶配向性を改善するために、上記膜状物を有する基板を、50~250℃で加熱しながら照射してもよい。上記放射線の照射量は、1~10,000mJ/cmが好ましい。なかでも、100~5,000mJ/cmが好ましい。このようにして作製した上記液晶配向膜は、液晶分子を一定の方向に安定して配向させることができる。
更に、上記の方法で、偏光された放射線を照射した液晶配向膜に、水や溶媒を用いて、これらと処理するか、放射線を照射した液晶配向膜を加熱処理することもできる。
【0075】
上記接触処理に使用する溶媒としては、放射線の照射によって膜状物から生成した分解物を溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸メチル、ジアセトンアルコール、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等が挙げられる。なかでも、汎用性や溶媒の安全性の点から、水、2-プロパンール、1-メトキシ-2-プロパノール又は乳酸エチルが好ましい。より好ましいのは、水、1-メトキシ-2-プロパノール又は乳酸エチルである。溶媒は、1種類でも、2種類以上組み合わせてもよい。
【0076】
上記の接触処理としては、浸漬処理や噴霧処理(スプレー処理ともいう)が挙げられる。これらの処理における処理時間は、放射線の照射によって膜状物から生成した分解物を効率的に溶解させる点から、10秒~1時間であることが好ましい。なかでも、1~30分間浸漬処理をすることが好ましい。また、上記接触処理時の溶媒は、常温でも加温しても良いが、好ましくは、10~80℃である。なかでも、20~50℃が好ましい。加えて、分解物の溶解性の点から、必要に応じて、超音波処理等を行っても良い。
【0077】
上記接触処理の後に、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等の低沸点溶媒によるすすぎ(リンスともいう)や焼成を行うことが好ましい。その際、リンスと焼成のどちらか一方を行っても、又は、両方を行っても良い。焼成の温度は、150~300℃であることが好ましい。なかでも、180~250℃が好ましい。より好ましいのは、200~230℃である。また、焼成の時間は、10秒~30分が好ましい。なかでも、1~10分が好ましい。
上記の放射線を照射した塗膜に対する加熱処理は、50~300℃で1~30分とすることがより好ましく、120~250℃で1~30分とすることがさらに好ましい。
【0078】
本発明の液晶配向膜は、高い液晶配向性が得られる観点から、IPS方式やFFS方式等の横電界方式の液晶表示素子の液晶配向膜として好適であり、特に、FFS方式の液晶表示素子の液晶配向膜として有用である。液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜付きの基板を得た後、既知の方法で液晶セルを作製し、該液晶セルを使用して得られる。
液晶セルの作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。なお、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング素子を設けたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
【0079】
具体的には、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えば、ITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされている。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO-TiOの膜とすることができる。
【0080】
次に、各基板の上に液晶配向膜を形成し、一方の基板に他方の基板を、互いの液晶配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール剤で接着する。シール剤には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておき、また、シール剤を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール剤の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。次いで、シール剤に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール剤で包囲された空間内に液晶材料を注入し、その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。液晶材料は、ポジ型液晶材料やネガ型液晶材料のいずれを用いてもよいが、好ましいのは、ネガ型液晶材料である。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付ける。
【実施例0081】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下における化合物の略号及び特性の測定方法は、次のとおりである。
<溶媒>
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、 NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ-ブチロラクトン、 BCS:ブチルセロソルブ
<ジアミン>
DA-1:1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン
DA-2:N-tert-ブトキシカルボニル-N-(2-(4-アミノフェニル)エチル)-N-(4-アミノベンジル)アミン
DA-3:p-フェニレンジアミン、 DA-4:下記式(DA-4)参照
DA-5:4,4’-ジアミノジフェニルアミン
DA-6:4,4’-ジアミノジフェニルメタン
【0082】
【化24】
【0083】
<テトラカルボン酸二無水物>
【化25】
【0084】
<添加剤>
【化26】
【0085】
T-1~T-4は、文献等未公開の新規化合物であり、下記の合成例1~4でその合成法を詳述する。
【0086】
H-NMRの測定>
装置:フーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER製)500MHz。
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl)又は重水素化N,N-ジメチルスルホキシド([D]-DMSO)。標準物質:テトラメチルシラン(TMS)。
【0087】
(合成例1)
[T-1]の合成:
【化27】
【0088】
1Lの四つ口フラスコに、4,4’-ビフェニルジボロン酸(22.5g、93mmol)、3-クロロ-2-メチル-1-プロペン(95.1g、1050mmol)、Najera触媒I(0.244g、0.3mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(13.5g、42mmol)、炭酸カリウム(116.1g、840mmol)、DMF(250g)、及び純水(13g)を仕込み、130℃で撹拌した。反応終了後、反応液を酢酸エチル(1000g)に注ぎ、1規定-塩酸水溶液(1000g)で中和後、純水(1000g)で洗浄した。得られた有機層を濃縮し、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサンのみ)にて単離することで、4.7gの白色固体を得た。以下に示すH-NMRの結果から、この固体が[T-1]であることを確認した。
H-NMR(500MHz,[D]-DMSO):δ7.57-7.60(d,4H),7.25-7.27(d,4H),4.80-4.81(m,2H),4.76-4.77(m,2H),3.34(s,4H),1.65(s,6H)
【0089】
(合成例2)
[T-2]の合成:
【化28】
【0090】
1L四つ口フラスコに、2,6-ジメチルフェノール(50.0g、409mmol)、3-クロロ-2-メチル-1-プロペン(37.0g、409mmol)、炭酸カリウム(84.8g、613mmol)、ヨウ化カリウム(6.80g、41mmol)、及びDMF(500g)を仕込み、80℃で撹拌した。反応終了後、反応系を酢酸エチル(500g)に注ぎ、有機層を純水(1500g)で洗浄した。得られた有機層を濃縮し、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサンのみ)にて単離することで、[T-2-1]を66.6g得た。
【0091】
1L四つ口フラスコに[T-2-1](66.6g、378mmol)、N,N-ジメチルアニリン(300g)を仕込み、180℃で撹拌した。反応終了後、反応系を酢酸エチル(1000g)に注ぎ、有機層を1規定-塩酸水溶液(1000g)、次いで純水(1000g)で洗浄し、有機層を濃縮することで、[T-2-2]を66.6g得た。
【0092】
500mL四つ口フラスコに[T-2-2](17.3g、98mmol)、1,2-ビス(トシルオキシ)エタン(18.5g、50mmol)、炭酸カリウム(20.7g、150mmol)、及びDMF(170g)を仕込み、80℃で撹拌した。反応終了後、反応系を酢酸エチル(500g)に注ぎ、有機層を純水(1000g)で洗浄した。得られた有機層を濃縮し、粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/30(体積比))にて単離することで、10.0gの透明液体を得た。以下に示すH-NMRの結果から、この液体が[T-2]であることを確認した。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ6.83(s,4H),4.78-4.79(m,2H),4.72-4.73(m,2H),4.09(s,4H),3.20(s,4H),2.30(s,12H),1.67(s,6H)
【0093】
(合成例3)
[T-3]の合成:
【化29】
【0094】
500mL四つ口フラスコに4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノール(18.9g、86mmol)、1,2-ビス(トシルオキシ)エタン(15.9g、43mmol)、炭酸カリウム(17.8g、129mmol)、及びDMF(190g)を仕込み、80℃で撹拌した。反応終了後、反応系を濾過により炭酸カリウムを除去し、濾液を酢酸エチル(1000g)に注ぎ、有機層を純水(2000g)で洗浄した。得られた有機層を濃縮し、粗物にエタノール(60g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[T-3-1]を14.0g得た。
【0095】
500mL四つ口フラスコに[T-3-1](13.5g、29mmol)、3-クロロ-2-メチル-1-プロペン(39.4g、435mmol)、Najera触媒I(0.071g、0.09mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(3.73g、12mmol)、炭酸カリウム(32.1g、232mmol)、DMF(100g)、及び純水(25g)を仕込み、130℃で撹拌した。
【0096】
反応終了後、反応液を酢酸エチル(600g)に注ぎ、純水(1200g)で洗浄した。得られた有機層を濃縮し、粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/30(体積比))にて単離することで、1.6gの白色固体を得た。以下に示すH-NMRの結果から、この固体が、目的の[T-3]であることを確認した。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ7.09-7.11(d,4H),6.87-6.89(d,4H),4.78-4.79(m,2H),4.70-4.71(m,2H),4.30(s,4H),3.26(s,4H),1.67(s,6H)
【0097】
(合成例4)
[T-4]の合成:
【化30】
【0098】
500mLの四つ口フラスコに2,6-ジメチルフェノール(25.0g、205mmol)、アリルブロミド(29.8g、246mmol)、炭酸カリウム(42.5g、308mmol)、及びDMF(250g)を仕込み、80℃で撹拌した。反応終了後、反応系を酢酸エチル(300g)に注ぎ、有機層を純水(600g)で洗浄後、濃縮することで、[T-4-1]を30.8g得た。
【0099】
500mL四つ口フラスコに[T-4-1](30.8g、190mmol)、及びN,N-ジメチルアニリン(200g)を仕込み、180℃で撹拌した。反応終了後、反応系を酢酸エチル(500g)に注ぎ、有機層を1規定-塩酸水溶液(500g)、純水(500g)で洗浄し、有機層を濃縮することで、[T-4-2]を30.3g得た。
【0100】
500mLの四つ口フラスコに[T-4-2](30.3g、187mmol)、1,2-ビス(トシルオキシ)エタン(34.4g、93mmol)、炭酸カリウム(38.6g、279mmol)、及びDMF(360g)を仕込み、80℃で撹拌した。反応終了後、反応系を酢酸エチル(1000g)に注ぎ、有機層を純水(2000g)で洗浄した。得られた有機層を濃縮し、粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/80(体積比))にて単離することで、18.7gの透明液体を得た。以下に示すH-NMRの結果から、この液体が、目的の[T-4]であることを確認した。
H-NMR(500MHz,[D]-DMSO):δ7.02(s,4H),5.87-5.96(m,2H),5.05-5.09(m,2H),5.00-5.03(m,2H),4.04(s,4H),3.24-3.25(d,4H),2.22(s,12H)
【0101】
<粘度の測定法>
E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0102】
<分子量の測定法>
GPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。
GPC装置:Shodex社製(GPC-101)、カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)、カラム温度:50℃、溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)、流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw) 約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)約12,000、4,000、1,000)。測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、及び150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定した。
【0103】
<イミド化率の測定法>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(NMRサンプリングチューブスタンダード,φ5(草野科学社製))に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d,0.05%TMS(テトラメチルシラン)混合品)(0.53mL)を添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液をフーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER社製)を用いて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5ppm~10.0ppm付近に現れるアミド酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
上記式において、xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンのピーク積算値、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基プロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0104】
(合成例5)
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-1(3.91g、16.0mmol)、DA-2(2.19g、6.41mmol)、DA-3(0.519g、4.80mmol)、及びDA-4(1.54g、4.81mmol)を量り取り、NMP(46.2g)を加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1(5.70g、25.4mmol)及びCA-2(1.20g、4.80mmol)を添加し、更に固形分濃度が15質量%になるようにNMP(39.1g)を加え、40℃で24時間撹拌してポリアミック酸溶液(A)(粘度:450mPa・s)を得た。ポリアミック酸の分子量は、Mn=11,200、Mw=26,900であった。
【0105】
(合成例6)
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mのL四つ口フラスコに、DA-5(5.10g、25.6mmol)及びDA-6(1.27g、6.41mmol)を取り、NMP(36.1g)を加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-2(4.00g、16.0mmol)及びCA-3(4.42g、15.0mmol)を添加し、更に固形分濃度が15質量%になるようにNMP(47.7g)を加え、50℃で24時間撹拌してポリアミック酸溶液(B)(粘度:904mPa・s)を得た。ポリアミック酸の分子量は、Mn=14,600、Mw=37,500であった。
【0106】
(合成例7)
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mlの四つ口フラスコに得られたポリアミック酸溶液(A)(30g)を量り取り、NMP(15.0g)を加え、30分撹拌した。得られたポリアミック酸溶液に、無水酢酸(4.89g)及びピリジン(1.51g)を加えて、50℃で2時間30分加熱し、化学イミド化を行った。得られた反応液をメタノール(154mL)に撹拌しながら投入し、析出した沈殿物をろ取し、続いて、メタノール(154mL)で3回洗浄した。得られた樹脂粉末を60℃で12時間乾燥することで、ポリイミド樹脂粉末(A)を得た。このポリイミド樹脂粉末のイミド化率は64%であり、Mn=9,900、Mw=20,000であった。
【0107】
(合成例8)
合成例7で得られたポリイミド樹脂粉末(A)(3.00g)を100mL三角フラスコに量り取り、固形分濃度が12%になるようにNMP(22.0g)を加え、70℃で24時間撹拌し溶解させてポリイミド溶液(A)を得た。
【0108】
(実施例1)
合成例8で得られたポリイミド溶液(A)(3.80g)と合成例6で得られたポリアミック酸溶液(B)(4.56g)を100mL三角フラスコに量り取り、T-1(0.114g)、NMP(1.64g)、GBL(6.00g)、及びBCS(4.00g)を添加して室温で3時間撹拌し、液晶配向剤(1)を得た。この液晶配向剤に、濁りや析出等の異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0109】
(実施例2~5)
T-1の代わりに、それぞれ、T-2、T-3、T-4、又はT-5を用いた以外は実施例1と同様の方法により実施例2~5の液晶配向剤(2)~(5)を得た。これらの液晶配向剤(2)~(5)には、いずれも、濁りや析出等の異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0110】
(比較例1)
合成例8で得られたポリイミド溶液(A)(3.80g)と合成例6で得られたポリアミック酸溶液(B)(4.56g)を100mLの三角フラスコに量り取り、NMP(1.64g)、GBL(6.00g)、及びBCS(4.00g)を添加して室温で3時間撹拌し、液晶配向剤(6)を得た。
【0111】
(比較例2)
T-1の代わりにT-6を用いた以外は実施例1と同様の方法により液晶配向剤(7)を得た。
なお、上記比較例1、2で得られた液晶配向剤(6)、(7)には、いずれも、濁りや析出等の異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0112】
(実施例6)
実施例1で得られた液晶配向剤(1)を孔径1.0μmのフィルターで濾過した後、透明電極付きガラス基板上にスピンコート法により塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させ、塗膜面に偏光板を介して消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を0.25J/cm照射した後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜付き基板を得た。
得られた上記基板2枚を一組とし、一方の基板の液晶配向膜面に、直径6μmのスペーサーを散布した。この基板上にシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い、配向方向が0°になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-7026-100(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、液晶セルを得た。液晶セルの初期配向性を確認したところ、流動配向は確認されず、配向性は良好であった。このセルを120℃で60分間熱処理して、液晶セルを作製した。
【0113】
[液晶配向性の評価法]
上記手順で作製した液晶セルにおける液晶配向状態を偏光顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE E600 POL)を用いて観察した。液晶の配向が確認でき、且つ流動配向がないものを「良好」とし、配向が確認できないもの及び、流動配向があるものを「不良」と判定した。
【0114】
[電圧保持率の測定]
上記液晶セルをバックライト上に5日間置きエージングした後、60℃の温度下で1Vの電圧を60μs間印加し、500ms後の電圧を測定して、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。電圧保持率の測定には、東陽テクニカ社製のVHR-1を使用した。
この結果、液晶配向剤(1)からなる配向膜の60℃における電圧保持率は61.7%であった。
【0115】
(実施例7~10、比較例3~4)
液晶配向剤(1)の代わりに、それぞれ、表1に示した液晶配向剤を用いた以外は、実施例6と同様の方法で液晶セルを作製し、液晶配向性及び電圧保持率の評価を実施した。それぞれ得られた液晶セルの液晶配向性及び電圧保持率を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示すように、添加剤(T-1)~(T-5)を添加した実施例6~10では、これらを添加していない比較例3および本発明の芳香族化合物と異なる添加剤(T-6)を添加した比較例4と比べて、液晶配向性が低下することなく、電圧保持率が向上していることが確認された。
【0118】
なお、2019年10月7日に出願された日本特許出願2019-184619号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。