(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126113
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電力システム、制御装置、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20240912BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240912BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02J1/00 306K
H02J13/00 311T
H02J13/00 301A
H02J7/00 P
H02J7/00 303C
H02J1/00 304H
H02J1/00 304A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034289
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】可知 純夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 飛鳥
【テーマコード(参考)】
5G064
5G165
5G503
【Fターム(参考)】
5G064AC09
5G064CB21
5G064DA11
5G165EA02
5G165EA06
5G165FA01
5G165GA09
5G165HA09
5G165HA16
5G165JA09
5G165LA01
5G165LA02
5G503AA01
5G503AA04
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA10
5G503FA06
(57)【要約】
【課題】電線路への電力供給や負荷への電力供給の増加が生じても電圧降下を抑えて電力供給を行う。
【解決手段】電力システムは、直流の電線路と、入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知部と、前記検知部が当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流の電線路と、
入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、
前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、
前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知部と、
前記検知部が当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令部と、
を備える電力システム。
【請求項2】
前記出力増加の指令を取得する電源コンバータは、電気自動車から入力された電力を変換して前記電線路へ出力し、前記電線路から入力された電力を変換して前記電気自動車の蓄電装置を充電する
請求項1に記載の電力システム。
【請求項3】
前記指令部は、前記電源コンバータへ接続されていない前記電気自動車へ前記電源コンバータへの接続を指示する指令を出力する
請求項2に記載の電力システム。
【請求項4】
前記出力抑制の指令を取得する負荷コンバータは、前記電気自動車を急速充電する急速充電器である
請求項3に記載の電力システム。
【請求項5】
前記下限電圧は、経済的に許容される線路損失から定まる電圧である
請求項1に記載の電力システム。
【請求項6】
前記指令部は、動作の下限電圧未満となる前記負荷コンバータまでの線路損失が最も小さい前記電源コンバータへ出力増加の指令を出力する
請求項5に記載の電力システム。
【請求項7】
直流の電線路と、
入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、
前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、
を有する電力システムの制御装置であって、
前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う通信部と、
前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知部と、
前記検知部が当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令部と、
を備える制御装置。
【請求項8】
直流の電線路と、
入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、
前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、
前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う制御装置と、
を有する電力システムの前記制御装置の制御方法であって、
前記制御装置は、
前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知ステップと、
前記検知ステップで当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令ステップと、
を備える制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力システム、制御装置、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流の送電の適正な運用を図る発明として、例えば特許文献1に開示された直流送配電システムがある。このシステムは、交流を直流に変換して直流系統に連系する交流系統連系装置、直流系統に直流電力を供給する分散電源装置、直流系統からの直流電力を消費する負荷装置、直流系統の電圧を調整する電圧調整装置、及び各装置を統括制御する制御装置を有している。この制御装置は、各々の装置における直流電力、直流電圧、直流電流、直流系統における接続位置に基づいて、位置と直流電圧との関係を示す電圧分布データを生成し、直流系統の電圧が所定電圧範囲を逸脱していないか検出する。そして制御装置は、検出した電圧が所定電圧範囲を逸脱している場合、交流系統連系装置、電圧調整装置の各々に指令する直流電圧の適正値を演算し、演算した適正値を交流系統連系装置と電圧調整装置に指令する。このシステムによれば、直流系統で電力不足が生じた場合には、分散電源装置、交流系統連系装置、電圧調整装置に指令を送り、直流系統の電圧降下の影響を抑えて直流系統の電圧を所定範囲内に収束させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、直流の電力ネットワークにおいては、負荷装置の増減や、太陽光発電装置、定置型蓄電装置、電気自動車などの直流電力を供給する装置の増減が発生する。例えば電力を供給する装置が故障や保守点検などで停止した場合、電圧調整では電圧降下に対応できず電力供給に支障をきたすおそれがある。また、負荷へ供給する電力が急増した場合、電圧降下により負荷への電力供給に支障をきたすおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電線路への電力供給や負荷への電力供給の増加が生じても電圧降下を抑えて電力供給を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る電力システムは、直流の電線路と、入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知部と、前記検知部が当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る電力システムにおいては、前記出力増加の指令を取得する電源コンバータは、電気自動車から入力された電力を変換して前記電線路へ出力し、前記電線路から入力された電力を変換して前記電気自動車の蓄電装置を充電してもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る電力システムにおいては、前記指令部は、前記電源コンバータへ接続されていない前記電気自動車へ前記電源コンバータへの接続を指示する指令を出力してもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る電力システムにおいては、前記出力抑制の指令を取得する負荷コンバータは、前記電気自動車を急速充電する急速充電器であってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る電力システムにおいては、前記下限電圧は、経済的に許容される線路損失から定まる電圧であってもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る電力システムにおいては、前記指令部は、動作の下限電圧未満となる前記負荷コンバータまでの線路損失が最も小さい前記電源コンバータへ出力増加の指令を出力するようにしてもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る制御装置は、直流の電線路と、入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、を有する電力システムの制御装置であって、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う通信部と、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知部と、前記検知部が当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令部と、を備える。
【0013】
本発明の一態様に係る制御方法は、直流の電線路と、入力された電力を変換して前記電線路へ出力する電源コンバータと、前記電線路から入力された電力を変換して負荷へ出力する負荷コンバータと、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータと通信を行う制御装置と、を有する電力システムの前記制御装置の制御方法であって、前記制御装置は、前記電源コンバータ及び前記負荷コンバータの状態を通信で取得し、前記電線路の電流が定格値以上となる状態、又は前記電線路の電圧が前記負荷コンバータの動作の下限電圧未満となる状態を検知する検知ステップと、前記検知ステップで当該状態を検知した場合、前記電線路への出力増加の指令を前記電源コンバータへ出力する、又は前記負荷への出力抑制の指令を前記負荷コンバータへ出力する指令ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電線路への電力供給や負荷への電力供給の増加が生じても電圧降下を抑えて電力供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電力システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、EMSの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、コンバータの構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、電源コンバータの制御部が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、EMSが実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、EMSが実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素については適宜同一の符号を付している。
【0017】
[実施形態]
<電力システムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電力システムの構成を示す図である。電力システム1は、第1電源コンバータ11A、11B、11C、第2電源コンバータ12B
1、12B
2、第3電源コンバータ13、負荷コンバータ14A、14B
1、14B
2、14C、急速充電器15B
1、15B
2、電力要素21A、21B、21C、21D、21E、負荷22A、22B
1、22B
2、22C、電気自動車EV、及びバス30を備えている。さらに、電力システム1は、EMS(Energy Management System)40を備える。EMS40は制御装置の一例である。
図1に示されているのは、電力システム1に含まれる一つの線路区間と、この区間に含まれる機器であり、バス30には隣接する他の線路区間である隣接区間がある。
【0018】
バス30は、電力システム1では直流バスであり、直流の電力を送る電線路である。バス30は、第1電源コンバータ11A、11B、11C、第2電源コンバータ12B1、12B2、第3電源コンバータ13、負荷コンバータ14A、14B1、14B2、14C、及び急速充電器15B1、15B2が接続されている。
【0019】
第1電源コンバータ11A、11B、11Cと、第2電源コンバータ12B1、12B2は、直流の電圧を変換するDC/DC変換器である。第3電源コンバータ13は、交流(Alternating Current)を直流に変換するAC/DC変換器である。負荷コンバータ14A、14B1、14B2、14Cは、直流の電圧を変換するDC/DC変換器である。急速充電器15B1、15B2は、EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)を急速充電可能な充電器である。急速充電器15B1、15B2は、電力を消費する電気自動車EVへ電力供給を行うため、バス30から供給された直流電力の電圧を変換して負荷へ供給する負荷コンバータの一例でもある。第1電源コンバータ11A、11B、11C、第2電源コンバータ12B1、12B2、第3電源コンバータ13、負荷コンバータ14A、14B1、14B2、14C、及び急速充電器15B1、15B2は、インターネット回線網や携帯電話回線網などから構成される通信ネットワークNWを介して有線または無線により情報通信を行う機能を有する。第1電源コンバータ11A、11B、11C、第2電源コンバータ12B1、12B2、第3電源コンバータ13、及び負荷コンバータ14A、14B1、14B2、14Cの構成や機能については後に詳述する。
【0020】
電力要素21A、21B、21Cは、一例として電力の充放電が可能な定置型蓄電装置である。定置型蓄電装置は、常設される設備内蓄電装置の一例である。電力要素21Aは、第1電源コンバータ11Aに接続される。第1電源コンバータ11Aは、電力要素21Aが供給した直流電力の電圧を変換してバス30に出力し、かつバス30から供給された直流電力の電圧を変換して電力要素21Aに出力し、電力要素21Aを充電させる機能を有する。電力要素21Bは、第1電源コンバータ11Bに接続される。第1電源コンバータ11Bは、電力要素21Bが供給した直流電力の電圧を変換してバス30に出力し、かつバス30から供給された直流電力の電圧を変換して電力要素21Bに出力し、電力要素21Bを充電させる機能を有する。電力要素21Cは、第1電源コンバータ11Cに接続される。第1電源コンバータ11Cは、電力要素21Cが供給した直流電力の電圧を変換してバス30に出力し、かつバス30から供給された直流電力の電圧を変換して電力要素21Cに出力し、電力要素21Cを充電させる機能を有する。なお、電力要素21A、21B、21Cは、いずれかが電力の発電および供給が可能な太陽光発電装置であってもよい。
【0021】
電力要素21Dは、一例として商用電力系統であり、第3電源コンバータ13に接続される。第3電源コンバータ13は、電力要素21Dが供給した交流電力を直流電力に変換してバス30に出力する。第3電源コンバータ13は、バス30から供給された直流電力を交流電力に変換して電力要素21Dに出力することもできる。
【0022】
電力要素21Eは、一例として電力の供給、消費および充電が可能な車載蓄電装置であり、第2電源コンバータ12B1、12B2や急速充電器15B1、15B2に接続される。車載蓄電装置は電気自動車EVに搭載されており、移動する非定置型の蓄電装置の一例である。第2電源コンバータ12B1、12B2は、電力要素21Eが供給した直流電力の電圧を変換してバス30に出力し、かつバス30から供給された直流電力の電圧を変換して電力要素21Eに出力し、充電させる機能を有する。急速充電器15B1、15B2は、バス30から供給された直流電力の電圧を変換して電力要素21Eに出力し、電力要素21Eを急速充電させる機能を有する。第2電源コンバータ12B1、12B2や急速充電器15B1、15B2は、例えば充電ステーションに設けられる。なお、第2電源コンバータ12B1、12B2は、住宅用充電設備に設けられてもよい。
【0023】
負荷22A、22B1、22B2、22Cは、電力を消費する装置であり、例えば供給された電力を運動エネルギー又は熱エネルギーに変換する装置である。負荷22Aは、負荷コンバータ14Aに接続される。負荷コンバータ14Aは、バス30から供給された直流電力の電圧を変換して負荷22Aに供給する。負荷22B1は、負荷コンバータ14B1に接続される。負荷コンバータ14B1は、バス30から供給された直流電力の電圧を変換して負荷22B1に供給する。負荷22B2は、負荷コンバータ14B2に接続される。負荷コンバータ14B2は、バス30から供給された直流電力の電圧を変換して負荷22B2に供給する。負荷22Cは、負荷コンバータ14Cに接続される。負荷コンバータ14Cは、バス30から供給された直流電力の電圧を変換して負荷22Cに供給する。
【0024】
電力システム1では、電力消費によりバス30で電圧降下が生じるが、バス30の電圧が各負荷コンバータの動作の下限電圧未満となると、負荷を動作させる電力を負荷コンバータが負荷へ供給できなくなる。このため、電力システム1では、バス30で電圧降下が生じてもバス30の電圧が各負荷コンバータの動作の下限電圧未満とならないようにあらかじめ各種コンバータを分散配置している。
【0025】
具体的には、電源コンバータから負荷コンバータまでの距離は、電圧降下ΔVが生じても負荷コンバータの自端電圧が動作する下限電圧未満とならない距離に制限する必要がある。負荷コンバータの下限電圧と電源コンバータの電圧差を大きくすれば、電源コンバータから負荷コンバータまでの距離を長くすることができるが、バス30における線路損失は大きくなる。よって、運用上は、電源コンバータから負荷コンバータまでの距離には制限がある。
【0026】
例えば、電源コンバータから負荷コンバータへの送電で許容される損失を5%とし、電源コンバータの自端電圧をVとし、電力損失をΔPとし、電源コンバータの自端電力をPとする。自端電圧V=400Vとすると、送電損失はΔP/P=電圧降下ΔV/自端電圧V=5%であり、許容できる電圧降下ΔV=400*0.05=20Vとなる。電力=電流/電圧=電圧降下/抵抗*電圧であり、抵抗=電圧降下*電圧/電力であるため、負荷コンバータの定格電力=50kWとすると、電源コンバータと負荷コンバータとの間の抵抗R=0.16Ωとなる。バス30の線路抵抗=0.4Ω/kmとすると、電源コンバータから負荷コンバータへの最大線路長L=0.16/0.4=400mとなる。よって、電源コンバータから負荷コンバータまでの距離が400m未満となるように各コンバータを配置する。
【0027】
このように電源コンバータと負荷コンバータとの最大距離を予め設計することにより、本実施形態では、バス30にエリアAR1、AR2、AR3を設定し、エリアAR1には第1電源コンバータ11A、負荷コンバータ14A、及び第3電源コンバータ13を配置し、エリアAR2には第1電源コンバータ11B、第2電源コンバータ12B1、12B2、急速充電器15B1、15B2、及び負荷コンバータ14B1、14B2を配置し、エリアAR3には第1電源コンバータ11Cと、負荷コンバータ14Cを配置している。
【0028】
図2は、EMS40の構成を示すブロック図である。EMS40は、電力システム1の状態を統合的に管理する機能を有する装置であり、プロセッサ401、メモリ402、ストレージ403、入出力I/F404、及び通信I/F405が、バス406に接続されて構成されている。
【0029】
メモリ402は、例えばRAM(Random Access Memory)であり、揮発性メモリ又は不揮発性メモリで構成される。メモリ402は、プロセッサ401が演算処理を行う際の作業スペースとなり、プロセッサ401の演算処理の結果などを記憶する。ストレージ403は、ROM(Read Only Memory)と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置により構成される。ストレージ403のROMは、プロセッサ401が演算処理を行なうために使用するプログラムを記憶する。ストレージ403の補助記憶装置は、プロセッサ401が演算処理を行なうために使用するデータを格納する。入出力I/F404は、オペレータがEMS40へ情報の入力を行なうためのマウスやキーボードが接続される。また、入出力I/F404は、オペレータに対して情報の表示を行なうためのディスプレイ装置が接続される。通信I/F405は、有線または無線により情報通信を行う通信モジュールを含んで構成されている。通信I/F405は、ネットワークNWを経由して、電力システム1に含まれる各コンバータや急速充電器15B1、15B2と情報通信を行う。
【0030】
プロセッサ401は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、ストレージ403からプログラムを読み出し、メモリ402を作業スペースとして実行する。プロセッサ401は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)又はGPU(Graphics Processing Unit)であってもよい。プロセッサ401がプログラムを実行することにより、EMS40の機能が実現する。
【0031】
図3は、プロセッサ401がプログラムを実行することにより実現する本発明に係る機能部を示す図である。検知部411は、各電源コンバータ及び各負荷コンバータの状態を通信で取得し、バス30の電流が定格値以上となる状態、又はバス30の電圧が負荷コンバータ14A、14B
1、14B
2、14Cの動作の下限電圧未満となる状態を検知する。指令部412は、検知部411が前述の状態を検知した場合、バス30への出力増加の指令を第2電源コンバータ12B
1、12B
2や第3電源コンバータ13へ出力する、又は負荷への出力抑制の指令を負荷コンバータ14A、14B
1、14B
2、14Cや急速充電器15B
1、15B
2へ出力する。
【0032】
<コンバータの構成>
次に第1電源コンバータ11A、11B、11C、第2電源コンバータ12B1、12B2、第3電源コンバータ13、及び負荷コンバータ14A、14B1、14B2、14Cの具体的構成について説明する。なお、各コンバータの構成は同じであるため、代表して第1電源コンバータ11Aの構成を説明する。
【0033】
図4は、第1電源コンバータ11Aの構成を示す図である。第1電源コンバータ11Aは、電力変換部110と、センサ120と、制御部100と、通信部130とを有する。
【0034】
電力変換部110は、放電している電力要素21Aから入力された直流電力の電圧を変換してバス30に出力するDC/DC変換を行う。電力変換部110は、バス30から入力された直流電力の電圧を変換して電力要素21Aに出力し、電力要素21Aを充電することもできる。電力変換部110は、たとえばコイル、コンデンサ、ダイオード、スイッチング素子などを含む電気回路で構成されている。スイッチング素子はたとえば電界効果トランジスタや絶縁ゲート型バイポーラトランジスタである。電力変換部110は、たとえばPWM(Pulse Width Modulation)制御によって電力変換特性を制御することができる。
【0035】
センサ120は、電力変換部110のバス30側の電力の電気特性値を測定する。したがって、センサ120は、第1電源コンバータ11Aに入力されるまたは第1電源コンバータ11Aから出力する電力の電気特性値を測定する。センサ120は、電流値、電圧値、電力値などを測定することができる。センサ120は、電気特性値を取得する測定部の一例である。センサ120は、測定した電気特性値を制御部100に出力する。
【0036】
制御部100は、第1電源コンバータ11Aの主に電力変換機能の実現のために、電力変換部110の動作を制御するための各種演算処理を行うプロセッサと記憶部とを含んで構成される。プロセッサは、プロセッサ401の構成として例示したものを用いることができ、記憶部は、メモリ402及びストレージ403の構成として例示したものを用いることができる。この記憶部には参照関数情報が記憶される。ここで、参照関数情報とは、参照関数を特定するための各種情報であるが、後に詳述する。
【0037】
制御部100の機能は、プロセッサが記憶部から各種プログラムを読み出して実行することで、機能部として実現される。例えば、制御部100は、自端の電力(P)と自端の電圧(V)に基づいた参照関数に従って、電力変換部110の電力変換特性を制御する。制御部100は、この制御に際し、PWM制御のための操作量(たとえば、デューティ比)の情報を含むPWM信号を電力変換部110に出力し、電力変換部110をPWM制御する。具体的には、制御部100は、センサ120が測定した電気特性値と、制御部100が備える記憶部に記憶されている参照関数情報とに基づいて、電力変換部110の出力の目標値を設定する。目標値は、電気特性値であり、例えば電圧値、電流値、又は電力値である。制御部100は、センサ120が測定した電気特性値と、設定した目標値との差分が所定範囲内となるように、PWM制御のための操作量(例えば、デューティ比)を設定するフィードバック制御を行う。制御部100が行うフィードバック制御は、予め制御部100の記憶部に記憶された比例ゲイン、積分時間、微分時間などのパラメータを読み出して実行されるPID制御等の、公知の手法を用いて実行できる。制御部100は、設定した操作量の情報を電力変換部110に出力し、電力変換部110を制御する。
【0038】
通信部130は、有線または無線により情報通信を行う通信モジュールと、通信モジュールの動作を制御する通信制御部とを含んで構成されている。通信部130は、ネットワークNWを経由して、EMS40と情報通信を行う。通信部130は、例えば、EMS40から情報や指令を受信し、制御部100に出力する。また、通信部130は、例えば、制御部100から入力された電力状況に関する情報として、センサ120から出力された電気特性値をEMS40に送信する。
【0039】
なお、他の各コンバータは、第1電源コンバータ11Aと同様の構成を有していてもよい。但し、第3電源コンバータ13の電力変換部110は、電力要素21Dから供給される交流電力を直流電力に変換してバス30に出力するAC/DC変換と、バス30から供給された直流電力を交流電力に変換して電力要素21Dに出力するDC/AC変換を行う。
【0040】
<参照関数の特性>
次に、制御部100が電力変換部110の電力変換特性を制御する基となる参照関数について説明する。
図5は、制御部100の記憶部に記憶される参照関数情報が示す参照関数の一例を示す図である。参照関数情報は、参照関数を特定するための各種情報である。
図5において線DL1で示されている参照関数は、第1電源コンバータ11Aが有する電力変換部110のバス30側の電力Pと電圧Vとの関係であるV-P特性の一例を示しており、縦軸は電圧V、横軸は電力Pであって、電力変換部110の電力変換特性を示している。
図5において線DL2で示されている参照関数は、負荷コンバータ14Aが有する電力変換部110の電力変換特性を示している。
【0041】
線DL1で示される参照関数の電力Pは、第1電源コンバータ11Aの電力変換部110がバス30に電力を供給する状態、即ち電力要素21Aが放電状態の場合は正値であり、第1電源コンバータ11Aの電力変換部110がバス30から電力を供給される状態、即ち電力要素21Aが充電状態の場合は負値である。また、電力P=0である状態は、第1電源コンバータ11Aが充電も放電もしていない状態である。負荷コンバータ14Aでは、電力変換部110がバス30から電力を供給され、バス30に電力を供給することがないため、線DL2で示される参照関数は負値のみとなる。
【0042】
線DL1、線DL2が表す参照関数は、入力値の区間に応じて定義された関数で構成されている。なお、参照関数は、入力値の区間に応じて定義された、互いに垂下特性が異なる複数の関数が接続して構成されていてもよい。この線DL1と線DL2は、参照関数情報によって特定される。なお、参照関数は、屈曲した直線状または曲線状で、入力値の区間に応じて定義された、互いに垂下特性が異なる複数の関数が接続して構成される場合がある。参照関数情報は、例えば、横軸をP、縦軸をVとした座標における関数の境界の座標情報、関数の切片情報、傾き(すなわち垂下係数)の情報、形状(直線、曲線など)の情報が含まれている。
【0043】
第1電源コンバータ11Aの制御部100は、電力変換部110の電力変換特性を、線DL1で示される参照関数の特性となるように制御する。すなわち、第1電源コンバータ11Aの制御部100は、Vの値とPの値とで定義される動作点が線DL1上に位置するように電力変換部110を制御する。なお、参照関数は、垂下特性の関数に限定されるものではなく、入力値に応じて電気特性値の目標値が定義された関数であれば他の関数であってもよい。
【0044】
制御部100が実行する電力変換部110の制御方法としては、例えばdroopP制御とdroopV制御とがある。droopP制御は、センサ120が測定した電気特性値である電圧値と参照関数とに基づいて目標値である目標電力値を決定し、センサ120による電力の測定値と目標電力値との差分が許容範囲以下となるようにする制御方法である。droopV制御は、センサ120が測定した電気特性値である電力値又は電流値と、参照関数とに基づいて目標値である目標電圧値を決定し、センサ120による電圧の測定値と目標電圧値との差分が許容範囲以下となるようにする制御方法である。なお、測定値、目標値などの電気特性値として、電力値に換えて電流値を用いてもよい。この場合、たとえば参照関数は横軸の電流(I)と縦軸の電圧(V)との関係であるV-I特性として定義される。また、例えば、制御部100が、センサ120による電圧の測定値と、参照関数情報と、に基づいて目標値の電流値である目標電流値を決定し、目標電流値と、センサ120による電流の測定値との差分が許容範囲以下になるように操作量を設定するフィードバック制御は、droopI制御とも呼ばれ、droopP制御に換えて実行される。
【0045】
なお、他の各コンバータについても、各コンバータに対応した参照関数情報が制御部100の記憶部に記憶されており、記憶されている参照関数情報により特定される参照関数の特性となるように制御を行う。
【0046】
<制御方法>
次に、各コンバータの制御方法および電力システム1の制御方法について説明する。電力システム1では、各コンバータが個別に自律分散的に制御を行う、いわゆる分散制御と、EMS40が、電力システム1の電力状況に応じて各コンバータを協調制御する中央制御とが実行され得る。これらの制御方法は、例えば、各コンバータ又はEMS40において、プロセッサがプログラムを実行することにより実行される。
【0047】
<分散制御>
次に、各コンバータにおける分散制御の制御方法について、第1電源コンバータ11Aを例として説明する。なお、他のコンバータにおいても、以下の説明と同様の制御方法が適宜実行されてもよい。
【0048】
第1電源コンバータ11Aの制御方法においては、制御部100が、参照関数に基づいて、第1電源コンバータ11Aの電力変換特性、すなわち電力変換部110の電力変換特性を制御する制御ステップを実行する。この制御ステップの内容の一例について、
図6を参照して具体的に説明する。
図6は、制御部100が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【0049】
制御部100は、
図6に示す処理を例えば予め定められた周期で実行する。まず、制御部100は、センサ120が測定した電気特性値を取得する(ステップS101)。次に制御部100は、記憶部から参照関数情報を取得する(ステップS102)。
【0050】
次に制御部100は、第1電源コンバータ11Aの出力の目標値を設定する(ステップS103)。ここで制御部100は、droopP制御を行う場合、センサ120が測定した電圧値から横軸に沿って線を引いたときに交差する参照関数の電力値を目標値とする。また、制御部100は、droopV制御を行う場合、参照関数がV-P特性であると、センサ120が測定した電力値から縦軸に沿って線を引いたときに交差する参照関数の電圧値を目標値とし、参照関数がV-I特性であると、センサ120が測定した電流値から縦軸に沿って線を引いたときに交差する参照関数の電圧値を目標値とする。
【0051】
次に制御部100は、センサ120が測定した電気特性値と、ステップS103で設定した目標値とのとの差分が所定範囲内となるようにPWM制御のための操作量を設定し、設定した操作量を電力変換部110に出力する(ステップS104)。これにより電力変換部110の制御が実行される。
【0052】
<中央制御>
次に、中央制御について説明する。中央制御は、EMS40が各コンバータや急速充電器15B1、15B2、電気自動車EVなどへ指令を送り、指令を送られた装置が指令に応じて動作することにより、電力システム1を目的の状態にする制御である。以下に示す例では、電力システム1において消費する電力が急増した場合の中央制御の例と、バス30へ供給される電力が急減した場合の中央制御の例について説明する。
【0053】
(第1動作例)
まず、電力システム1において消費する電力が急増した場合に実行される中央制御の例について説明する。これまで配電系統では需要率を考慮し、電力を消費する機器の設備容量の合計よりも小さい配電設備容量で設計する事が実施されている。このため、直流の電力ネットワークにおいても需要率を考慮して小さい容量の設備とすることが望まれる。しかしながら、予測した以上に電力消費が発生した場合、電力の使用に支障をきたすおそれがある。具体的には、例えば急速充電器15B1、15B2が同時に充電を開始した場合、バス30へ電力を供給する第1電源コンバータ11Bからの電力供給が増加する。この場合、バス30における線路電流が増加することにより、バス30の電圧が電力システム1の運用上に必要な最低電圧を下回って負荷コンバータ14B1、14B2が停止する不具合や、ケーブル損失が増加して電力システム1の効率が悪化する不具合、線路電流がケーブルや開閉器などのバス30の設備の定格電流を超えて設備損傷が発生する不具合などが生じるおそれがある。
【0054】
そこでEMS40は、このような不具合が発生しないように各コンバータへ指令を送って中央制御を行う。
図7は、この中央制御でEMS40が実行する処理の流れを示すフローチャートである。急速充電器15B
1、15B
2は、ユーザから充電の要求があった場合、充電を行う電機自動車EVへ出力する電力の電力値の情報と、電機自動車EVへの充電時間の情報をEMS40へ送信する。EMS40は、急速充電器15B
1、15B
2から送られる情報を受信する(ステップS201)。
【0055】
次にEMS40は、バス30の線路区間ごとに線路電流と負荷コンバータの自端電圧を予測する(ステップS202)。ここで、EMS40は、例えばバス30に接続されている負荷コンバータと通信して蓄積した負荷コンバータの電力需要のデータを用いて、負荷コンバータの今後の消費電力を予測する。この予測の手法は曜日、最高気温、などのパラメータを用いた学習アルゴリズムなど公知の技術で良い。またEMS40は、線路電流と線路電圧を予測する。この予測については、負荷コンバータの今後の消費電力に加えて第2電源コンバータ12B1、12B2が要求する電力を加えた予測値を需要とし、稼働中の電源コンバータによってどのように負荷分担するかを、線路長から求まる線路抵抗を考慮して求める。
【0056】
具体的には、各電源コンバータには、あらかじめ参照関数が登録されており、自端電圧に応じてバス30に対して電流を注入又はバス30から電流を吸収することでバス30における電流を維持している。
図8Aに電源コンバータの参照関数と負荷コンバータの参照関数の一例を示す。
図8Aは、一例として一つの区間に一台の負荷コンバータと三台の電源コンバータが含まれている場合の参照関数を示しており、三台の電源コンバータで同じ参照関数が登録されている例である。
図8Aの線DL10は、電源コンバータの参照関数であり、線DL20は、負荷コンバータの参照関数である。
【0057】
バス30の電圧が高い場合は、区間内で電力が余っているため、三台の電源コンバータは、参照関数に従ってバス30から電力を受けて電力要素を充電し、バス30の電圧が低い場合は、区間内で電力が不足しているため、三台の電源コンバータは、自端電圧と参照関数に従って電力要素を放電させてバス30へ電力を供給する。ここで、電力システム1において電力消費が急増するとバス30の電圧が低下するため、各電源コンバータは、自端電圧と参照関数に従って電力の供給量を増やすこととなる。バス30に線路損失がない場合には、三台の電源コンバータの電力供給と負荷コンバータの電力消費とが釣り合う電圧でバス30は安定する。しかしながら、実際には線路抵抗により電圧降下が生じるため、負荷コンバータから離れている電源コンバータほど高い自端電圧を検出して出力が小さくなる。
【0058】
この場合、三台の電源コンバータで参照関数が同じであっても、線路損失による電圧降下で等価的には
図8Bに示すように抵抗Rを追加した傾きの参照関数として、切片を電圧vとした線DL11~DL13で表現できる。一台目の電源コンバータについて自端電圧をV1で電流をI
1とし、二台目の電源コンバータについて自端電圧をV2で電流をI
2とし、三台目の電源コンバータについて自端電圧をV3で電流をI
3とした場合、ここで線DL11は、V=-(k+R1)*I
1+vであり、線DL12は、V=-(k+R2)*I
2+vであり、線DL13は、V=-(k+R3)*I
3+vである。バス30は、電源コンバータの出力の合計と負荷コンバータの消費とが釣り合う電圧Vで安定し、以下の式により、バス30における電流分布と電圧分布を得ることができる。EMS40は、このような計算により、負荷コンバータの自端電圧と区間における線路電流を予測する。
V=I0/(1/(k+R1)+1/(k+R2)+1/(k+R3))+v
I
0=I
1+I
2+I
3
I
1=-(V-v)/(k+R1)
I
2=-(V-v)/(k+R2)
I
3=-(V-v)/(k+R3)
V1=V+R1*I
1
V2=V+R2*I
2
V3=V+R3*I
3
【0059】
次にEMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を超えているか判断する(ステップS203)。ステップS203は、検知ステップの一例である。EMS40は、あらかじめバス30の線路設備の最大定格電流を記憶しており、予測した線路電流が記憶している最大定格電流未満であるか判断する。また、EMS40は、負荷コンバータの動作の下限電圧をあらかじめ記憶しており、予測した負荷コンバータの自端電圧が記憶している下限電圧を超えているか判断する。EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を超えている場合(ステップS203でYES)、ステップS201で受信した電力値での充電を指示する指令を急速充電器15B1、15B2へ送信する(ステップS215)。
【0060】
EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS203でNO)、あらかじめ登録されている第2電源コンバータ12B1、12B2から、電機自動車EVの接続状態と、接続されている電気自動車EVのバス30への供給可能電力を収集する(ステップS204)。次にEMS40は、ステップS204で収集した情報に基づいて、負荷コンバータの自端電圧>負荷コンバータの動作の下限電圧とするために第2電源コンバータ12B1、12B2から供給する必要のある所要電力を算出する(ステップS205)。
【0061】
次にEMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ第2電源コンバータ12B1、12B2から収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているか判断する(ステップS206)。EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えている場合(ステップS206でYES)、電機自動車EVが接続されている第2電源コンバータ12B1、12B2に対して、バス30への電力供給を指示する指令を送信する(ステップS214)。ステップS214は、指令ステップの一例である。また、この指令は、電線路であるバス30への出力増加を指示する指令の一例である。この指令を受信した第2電源コンバータ12B1、12B2は、接続されている電気自動車EVの電力要素21Eからバス30への電力供給を行う。このように電気自動車EVからバス30へ電力供給が行われるため、電力システム1において消費する電力が急増しても、バス30での電圧降下を抑えて電力を供給することができる。
【0062】
一方、EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS206でNO)、あらかじめ登録されている電気自動車EVへ第2電源コンバータ12B1、12B2への接続指令を送信する(ステップS207)。この接続指令を受信した電気自動車EVは、例えば自動運転により第2電源コンバータ12B1、12B2の設置場所へ移動し、第2電源コンバータ12B1、12B2に接続する。なお、接続指令を受信した電気自動車EVで第2電源コンバータ12B1、12B2への接続指示を報知し、ドライバーが運転して第2電源コンバータ12B1、12B2の設置場所へ移動して電気自動車EVを第2電源コンバータ12B1、12B2に接続してもよい。
【0063】
EMS40は、接続指令を受信した電気自動車EVが第2電源コンバータ12B1、12B2に接続すると、電機自動車EVの接続状態と、接続されている電気自動車EVの供給可能電力を第2電源コンバータ12B1、12B2から収集する(ステップS208)。次にEMS40は、ステップS208で収集した情報に基づいて、負荷コンバータの予測電圧>負荷コンバータの動作の下限電圧とするために第2電源コンバータ12B1、12B2から供給する必要のある所要電力を算出する(ステップS209)。
【0064】
次にEMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ第2電源コンバータ12B1、12B2から収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているか判断する(ステップS210)。EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えている場合(ステップS210でYES)、電機自動車EVが接続されている第2電源コンバータ12B1、12B2に対して、バス30への電力供給を指示する指令を送信する(ステップS214)。この指令を受信した第2電源コンバータ12B1、12B2は、接続されている電気自動車EVの電力要素21Eからバス30への電力供給を行う。電力システム1において消費する電力が急増しても、このように電気自動車EVが第2電源コンバータ12B1、12B2に接続してバス30へ電力供給が行われるため、バス30での電圧降下を抑えて電力を供給することができる。
【0065】
一方、EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS210でNO)、電力系統に接続されている第3電源コンバータ13に対して出力を最大定格にする指令を送信する(ステップS211)。ステップS211は、指令ステップの一例である。これにより、電力系統である電力要素21Dからバス30への電力供給が行われるため、電力システム1において消費する電力が急増しても、バス30での電圧降下を抑えて電力を供給することができる。
【0066】
次にEMS40は、急速充電器15B1、15B2の自端電圧を収集し、収集した急速充電器15B1、15B2の自端電圧が急速充電器15B1、15B2の動作の下限電圧を超えており、且つ予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であるか判断する(ステップS212)。EMS40は、収集した急速充電器15B1、15B2の自端電圧が動作の下限電圧を超えており、且つ予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満である場合(ステップS212でYES)、ステップS201で受信した電力値での充電を指示する指令を急速充電器15B1、15B2へ送信する(ステップS215)。
【0067】
EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、収集した急速充電器15B1、15B2の自端電圧が下限電圧を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS212でNO)、急速充電器15B1、15B2で、この2つの条件を満たす充電の電力を計算し、計算した電力での充電を指示する指令を急速充電器15B1、15B2へ送信する(ステップS213)。ステップS213は、指令ステップの一例である。これにより、急速充電器15B1、15B2での充電の電力は抑制されるが、電圧降下を抑えて電力システム1を運用することができる。
【0068】
(第2動作例)
次にバス30へ供給される電力が急減した場合の中央制御の例について説明する。例えば第1電源コンバータ11Bが故障や保守点検などで停止した場合、エリアAR2内での電力が不足するため、第1電源コンバータ11Aから負荷コンバータ14B1へ電力を供給し、第3電源コンバータ13から負荷コンバータ14B2へ電力を供給することとなる。この場合、エリアAR1とエリアAR3が広がるため、負荷コンバータの自端電圧が動作の下限電圧を下回って負荷コンバータが停止する不具合、バス30の線路損失が増加して電力供給の効率が悪化する不具合、線路電流がケーブルや開閉器などのバス30の設備の定格電流を超えて設備損傷が発生する不具合などが生じるおそれがある。
【0069】
そこでEMS40は、このような不具合が発生しないように各コンバータへ指令を送って中央制御を行う。
図9は、この中央制御でEMS40が実行する処理の流れを示すフローチャートである。EMS40は、バス30に接続されている電源コンバータのいずれかと通信ができなくなった場合、ステップS202と同様にしてバス30の線路区間ごとに線路電流と負荷コンバータの自端電圧を予測する(ステップS301)。ここで、EMS40は、例えばバス30に接続されている負荷コンバータと通信して蓄積した負荷コンバータの電力需要のデータを用いて、今後の消費電力から負荷コンバータの自端電圧を予測する。この予測の手法は曜日、最高気温、などのパラメータを用いた学習アルゴリズムなど公知の技術で良い。また、EMS40は、線路電流と線路電圧を予測する。この予測については、負荷コンバータの電力需要に加えて、稼働中の電源コンバータによってどのように負荷分担するかを、線路長から求まる線路抵抗を考慮して求める。
【0070】
次にEMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を超えているか判断する(ステップS302)。EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を超えている場合(ステップS302でYES)、前述の不具合が発生しないため、電力システム1に含まれる機器に指令を出すことなく
図9の処理を終了する。
【0071】
EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS302でNO)、あらかじめ登録されている第2電源コンバータ12B1、12B2から、電機自動車EVの接続状態と、接続されている電気自動車EVのバス30への供給可能電力を収集する(ステップS303)。次にEMS40は、ステップS303で収集した情報に基づいて、負荷コンバータの自端電圧>負荷コンバータの動作の下限電圧とするために第2電源コンバータ12B1、12B2から供給する必要のある所要電力を算出する(ステップS304)。
【0072】
次にEMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ第2電源コンバータ12B1、12B2から収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているか判断する(ステップS305)。EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えている場合(ステップS305でYES)、電機自動車EVが接続されている第2電源コンバータ12B1、12B2に対して、バス30への電力供給を指示する指令を送信する(ステップS313)。ステップS313は、指令ステップの一例である。この指令を受信した第2電源コンバータ12B1、12B2は、接続されている電気自動車EVの電力要素21Eからバス30への電力供給を行う。このように電気自動車EVからバス30へ電力供給が行われるため、動作を停止した電源コンバータがあっても、バス30での電圧降下を抑えて電力を供給することができる。
【0073】
一方、EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS305でNO)、あらかじめ登録されている電気自動車EVへ第2電源コンバータ12B1、12B2への接続指令を送信する(ステップS306)。この接続指令を受信した電気自動車EVは、例えば自動運転により第2電源コンバータ12B1、12B2の設置場所へ移動し、第2電源コンバータ12B1、12B2に接続する。なお、接続指令を受信した電気自動車EVで第2電源コンバータ12B1、12B2への接続指示を報知し、ドライバーが運転して第2電源コンバータ12B1、12B2の設置場所へ移動して電気自動車EVを第2電源コンバータ12B1、12B2に接続してもよい。
【0074】
EMS40は、接続指令を受信した電気自動車EVが第2電源コンバータ12B1、12B2に接続すると、電機自動車EVの接続状態と、接続されている電気自動車EVの供給可能電力を第2電源コンバータ12B1、12B2から収集する(ステップS307)。次にEMS40は、ステップS307で収集した情報に基づいて、負荷コンバータの予測電圧>負荷コンバータの動作の下限電圧とするために第2電源コンバータ12B1、12B2から供給する必要のある所要電力を算出する(ステップS308)。
【0075】
次にEMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ第2電源コンバータ12B1、12B2から収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているか判断する(ステップS309)。EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であり、且つ収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えている場合(ステップS309でYES)、電機自動車EVが接続されている第2電源コンバータ12B1、12B2に対して、バス30への電力供給を指示する指令を送信する(ステップS313)。この指令を受信した第2電源コンバータ12B1、12B2は、接続されている電気自動車EVの電力要素21Eからバス30への電力供給を行う。電力システム1において動作を停止した電源コンバータがあっても、このように電気自動車EVが第2電源コンバータ12B1、12B2に接続してバス30へ電力供給が行われるため、バス30での電圧降下を抑えて電力を供給することができる。
【0076】
一方、EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、収集した供給可能電力が算出した所要電力を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS309でNO)、電力系統に接続されている第3電源コンバータ13に対して出力を最大定格にする指令を送信する(ステップS310)。ステップS310は、指令ステップの一例である。これにより、電力系統である電力要素21Dからバス30への電力供給が行われるため、動作を停止した電源コンバータがあっても、バス30での電圧降下を抑えて電力を供給することができる。
【0077】
次にEMS40は、急速充電器15B
1、15B
2の自端電圧を収集し、収集した急速充電器15B
1、15B
2の自端電圧が急速充電器15B
1、15B
2の動作の下限電圧を超えており、且つ予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満であるか判断する(ステップS311)。EMS40は、収集した急速充電器15B
1、15B
2の自端電圧が動作の下限電圧を超えており、且つ予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満である場合(ステップS311でYES)、前述の不具合が発生しないため、
図9の処理を終了する。
【0078】
EMS40は、予測した線路電流がバス30の線路設備の定格値未満との条件と、収集した急速充電器15B1、15B2の自端電圧が下限電圧を超えているとの条件の両方を満たしていない場合(ステップS311でNO)、急速充電器15B1、15B2や、インバータを用いる負荷が接続されている電源コンバータに対して、出力の抑制を指示する指令を送信する(ステップS312)。ステップS312は、指令ステップの一例である。これにより、急速充電器15B1、15B2での充電の電力や、インバータを用いる負荷への電力供給が抑制されるが、電圧降下を抑えて電力システム1を運用することができる。
【0079】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0080】
上述した実施形態においては、電力システム1の線路区間はバス型であるが、
図10に示すようにツリー型であってもよい。
【0081】
上述した実施形態においては、予測した負荷コンバータの自端電圧が負荷コンバータの動作の下限電圧を下回らないようにしているが、予測した負荷コンバータの自端電圧が電力システム1の運用の経済損失を考慮した下限電圧を下回らないようにしてもよい。例えば、バス30で許容する電圧降下を許容電圧降下ΔVmaxとし、バス30の下限電圧Vload>負荷コンバータの動作の下限電圧、とする。電源コンバータの自端電圧を自端電圧Vsとし、電圧降下ΔV=自端電圧Vs-下限電圧Vload<許容電圧降下ΔVmax、とする。電力システム1として経済的に許容される線路損失α(%)=許容電圧降下ΔVmax/((自端電圧Vs+下限電圧Vload)/2)とすると、下限電圧Vload>自端電圧Vs*(1-α/2)/(1+α/2)、を満たすようにしてもよい。
【0082】
上述した実施形態においては、中央制御を行う例として、消費する電力が急増した場合や、バス30へ供給する電力が急減した場合について説明したが、EMS40で予想していた需要を超える電力消費が発生した場合や、バス30の電圧降下が発生した場合にも、実施形態と同様に、第2電源コンバータ12B1、12B2からバス30への電力供給、電気自動車EVを第2電源コンバータ12B1、12B2に接続してバス30への電力供給、第3電源コンバータ13の出力アップ、急速充電器15B1、15B2の出力制限などを実施してもよい。
【0083】
本発明においては、EMS40は、電力供給を指示する指令を第2電源コンバータ12B1、12B2に送信する場合、自端電圧が動作の下限電圧となる負荷コンバータの最も近くに配置されているものに電力供給を指示する指令を送信するようにしてもよい。例えば、急速充電器15B2が充電を行わず、急速充電器15B1が充電を行うことにより負荷コンバータ14B1の自端電圧が動作の下限電圧未満となる場合を想定する。この場合、第2電源コンバータ12B1から負荷コンバータ14B1までの線路損失は、第2電源コンバータ12B2から負荷コンバータ14B1までの線路損失より小さいため、負荷コンバータ14B1までの線路損失がより少ない第2電源コンバータ12B1へ電力供給を指示する指令を送信し、第2電源コンバータ12B2へ電力供給を指示する指令を送信しないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 電力システム
11A、11B、11C 第1電源コンバータ
12B1、12B2 第2電源コンバータ
13 第3電源コンバータ
14A、14B1、14B2、14C 負荷コンバータ
15B1、15B2 急速充電器
21A、21B、21C、21D、21E 電力要素
22A、22B1、22B2、22C 負荷
30 バス
40 EMS
100 制御部
110 電力変換部
120 センサ
130 通信部
401 プロセッサ
402 メモリ
403 ストレージ
404 入出力I/F
405 通信I/F
411 検知部
412 指令部
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