IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2024-126137等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム
<>
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図1
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図2
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図3
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図4
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図5
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図6
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図7
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図8
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図9
  • 特開-等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126137
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】等価回路の解析装置、解析方法および解析プログラム、等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/367 20200101AFI20240912BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240912BHJP
   G06F 119/16 20200101ALN20240912BHJP
【FI】
G06F30/367
G01R31/389
G06F119:16
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034331
(22)【出願日】2023-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「国際科学技術共同研究推進事業、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)、高効率電解窒素固定化実現のための陽極触媒反応解析と新規電解セル開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】城間 純
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 健太郎
【テーマコード(参考)】
2G216
5B146
【Fターム(参考)】
2G216BA54
2G216CB12
5B146AA21
5B146AA23
5B146GG23
5B146GG24
(57)【要約】
【課題】解析対象の等価回路の回路構造をより客観的に推定可能な解析装置を提供する。
【解決手段】解析対象の等価回路を解析する解析装置であって、解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンスデータを算出する第1の微分演算手段15と、上記第1のインピーダンス微分データまたは上記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、上記解析対象の等価回路の回路構造を決定する等価回路決定手段20と、を備える上記解析装置12が提供される。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象の等価回路を解析する解析装置であって、
前記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出する第1の微分演算手段と、
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定する等価回路決定手段と、を備える前記解析装置。
【請求項2】
前記第1の微分演算手段は、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの絶対値の対数値を算出することと、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの実数成分値および虚数成分値を成分とするベクトルの方向を特定する角度データを算出することとを行う、請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記第1のインピーダンス微分データの前記対数値Mは式(1)で表され、該第1のインピーダンス微分データの前記角度データθlocalは式(2)で表され、前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値MYは式(3)で表され、該第1のアドミタンス微分データの角度データθY,localは式(4)で表される、請求項2記載の解析装置。
【数1】
【請求項4】
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データから回路素子およびその接続構造を推定するための特徴量を抽出する特徴量抽出手段をさらに備える、請求項2記載の解析装置。
【請求項5】
前記回路素子およびその接続構造を特定するための参照情報を格納した参照情報格納手段をさらに備え、
前記等価回路決定手段は、前記特徴量抽出手段で抽出された前記特徴量を前記参照情報格納手段に格納された前記参照情報を参照して、前記解析対象の回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定する、請求項4記載の解析装置。
【請求項6】
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値を周波数fの対数で微分して第2のインピーダンス微分データまたは第2のアドミタンス微分データを得る第2の微分演算手段をさらに備え、
前記等価回路決定手段は、前記対数値および前記角度データに加えて前記第2のインピーダンス微分データまたは前記第2のアドミタンス微分データに基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定する、請求項2記載の解析装置。
【請求項7】
前記第2のインピーダンス微分データnは式(5)で表され、前記第2のアドミタンス微分データnYは式(6)で表される、請求項6記載の解析装置。
【数2】
【請求項8】
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データと、前記第2のインピーダンス微分データまたは前記第2のアドミタンス微分データとから回路素子およびその接続構造を推定するための特徴量を抽出する特徴量抽出手段をさらに備える、請求項6記載の解析装置。
【請求項9】
前記回路素子およびその接続構造を特定するための参照情報を格納した参照情報格納手段をさらに備え、
前記等価回路決定手段は、前記特徴量抽出手段で抽出された前記特徴量を前記参照情報格納手段に格納された前記参照情報を参照して、前記解析対象の回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定する、請求項8記載の解析装置。
【請求項10】
前記等価回路決定手段は、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値の前記特徴量から前記解析対象の等価回路の回路構造の各素子の値を決定する、請求項4または8記載の解析装置。
【請求項11】
解析対象の等価回路を解析する解析方法であって、
コンピュータが、
前記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップと、
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定するステップと、
を実行する前記解析方法。
【請求項12】
前記第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップは、該第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの絶対値の対数値を算出することと、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの実数成分値および虚数成分値を成分とするベクトルの方向を特定する角度データを算出することを含み、
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値を周波数fの対数で微分して第2のインピーダンス微分データまたは第2のアドミタンス微分データを算出するステップをさらに含み、
前記等価回路を決定するステップは、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データに加えて前記第2のインピーダンス微分データまたは前記第2のアドミタンス微分データに基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定する、請求項11記載の解析方法。
【請求項13】
解析対象の等価回路を解析する解析プログラムであって、
コンピュータに、
前記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップと、
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定するステップと、
を実行させるための前記解析プログラム。
【請求項14】
前記第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップは、該第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの絶対値の対数値を算出することと、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの実数成分値および虚数成分値を成分とするベクトルの方向を特定する角度データを算出することを含み、
前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値を周波数fの対数で微分して第2のインピーダンス微分データまたは第2のアドミタンス微分データを算出するステップをさらに含み、
前記等価回路を決定するステップは、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データに加えて前記第2のインピーダンス微分データまたは前記第2のアドミタンス微分データに基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定する、請求項13記載の解析プログラム。
【請求項15】
解析対象の等価回路の解析用の作図装置であって、
前記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出する第1の微分演算手段であって、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの絶対値の対数値を算出することと、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの実数成分値および虚数成分値を成分とするベクトルの方向を特定する角度データを算出することとを行う、前記第1の微分演算手段と、
前記周波数fの対数に対する前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データを含む表示データを出力する表示データ出力手段と、
前記周波数fの対数を横軸の座標とし、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値と前記角度データとを各々縦軸の座標として前記表示データをプロットする表示手段と、を備える前記作図装置。
【請求項16】
解析対象の等価回路の解析用の作図方法であって、
コンピュータが、
前記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップであって、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの絶対値の対数値を算出することと、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの実数成分値および虚数成分値を成分とするベクトルの方向を特定する角度データを算出することとを行う、前記ステップと、
前記周波数fの対数に対する前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データを含む表示データを出力するステップと、
前記周波数fの対数を横軸の座標とし、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データとを各々縦軸の座標として前記表示データをプロットするステップと、を実行する前記作図方法。
【請求項17】
解析対象の等価回路の解析用の作図プログラムであって、
コンピュータに、
前記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップであって、該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの絶対値の対数値を算出することと該第1のインピーダンス微分データまたは該第1のアドミタンス微分データの実数成分値および虚数成分値を成分とするベクトルの方向を特定する角度データを算出することとを行う、前記ステップと、
前記周波数fの対数に対する前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値および前記角度データを含む表示データを出力するステップと、
前記周波数fの対数を横軸の座標とし、前記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの前記対数値と前記角度データとを各々縦軸の座標として前記表示データをプロットするステップと、を実行させるための前記作図プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象の電気化学インピーダンスの解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インピーダンスは主に電気・電子回路の分野で用いられる概念であるが、電池や電気分解における電極反応の診断など、電気化学の分野でも測定・解析が行われており、電気化学インピーダンスと呼ばれる。
【0003】
電気化学インピーダンス解析では、インピーダンス挙動(周波数の関数としてのインピーダンス値のふるまい)を解釈するため、ふるまいが同等な電子回路(すなわち、等価回路)を見出すことが解析作業の主要なプロセスであり、等価回路を推定しやすい図示法によって表示することが有益である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
インピーダンスの代表的な図示法としては、複素平面図(ナイキスト線図、Cole-Coleプロットとも呼ばれる。)、ボード線図等がある。複素平面図は、インピーダンスZ値の実部と虚部とを複素平面にプロットしたものである。ボード線図は、インピーダンスZ値の絶対値の対数とZ値の複素平面図において原点から見た角度である偏角θとを周波数の対数に対してプロットしたものである。
【0005】
等価回路の解析は、複素平面図に現れた垂直線、半円、45°直線といった図形的特徴から、抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)の素子およびその接続構成を解析者あるいはソフトウェアが推定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】城間純著、「電気化学インピーダンス」、初版、(株)化学同人社発行、2019年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Z値は周波数に依存しているが、複素平面図には、周波数情報が反映されていない。ボード線図には、複素平面図のような図形的特徴をあまり反映しない。従来、解析者の知見によって等価回路の回路構造を推定している。推定した回路構造が適切でない場合、等価回路の各素子の値を決定することが困難になる。
【0008】
本発明の目的は、解析対象の等価回路の回路構造をより客観的に推定可能な解析装置、解析方法および解析プログラム、並びに測定対象の等価回路を解析するための作図装置、作図方法および作図プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、解析対象の等価回路を解析する解析装置であって、上記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンスデータを算出する第1の微分演算手段と、上記第1のインピーダンス微分データまたは上記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、上記解析対象の等価回路の回路構造を決定する等価回路決定手段と、を備える上記解析装置が提供される。
【0010】
上記態様によれば、測定対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータを周波数fの対数で微分した第1のインピーダンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定することで、解析対象の等価回路の回路構造を従来よりも客観的に決定する解析装置を提供できる。
【0011】
本発明の他の態様によれば、解析対象の等価回路を解析する解析方法であって、コンピュータが、上記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップと、上記第1のインピーダンス微分データまたは上記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、上記解析対象の等価回路の回路構造を決定するステップと、を実行する上記解析方法が提供される。
【0012】
上記他の態様によれば、測定対象の周波数fに対する複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分した第1のアドミタンスデータ微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定することで、解析対象の等価回路の回路構造を従来よりも客観的に決定する解析方法を提供できる。
【0013】
本発明のその他の態様によれば、解析対象の等価回路を解析する解析プログラムであって、コンピュータに、上記解析対象の周波数fに対する複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分して第1のインピーダンス微分データまたは第1のアドミタンス微分データを算出するステップと、上記第1のインピーダンス微分データまたは前記第1のアドミタンス微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定し、前記解析対象の等価回路の回路構造を決定するステップと、を実行させるための上記解析プログラムが提供される。
【0014】
上記その他の態様によれば、測定対象の周波数fに対する複素アドミタンスデータを周波数fの対数で微分した第1のアドミタンスデータ微分データの周波数特性に基づいて回路素子およびその接続構造を推定することで、解析対象の等価回路の回路構造を従来よりも客観的に決定する解析プログラムを提供できる。
【0015】
本発明の回路構造の決定において、解析対象の複素インピーダンスデータまたは複素アドミタンスデータを利用する場合がある。解析対象を構成する要素が直列接続されている場合は、要素を直列接続するとインピーダンスが加算されるので、全体として素子あるいは素子群が直列接続された構造の回路では、本発明において複素インピーダンス平面での軌跡の解析が等価回路の回路構造の決定に適している。一方、解析対象を構成する要素が並列接続されている場合は、要素を並列接続するとアドミタンスが加算されるので、全体として素子あるいは素子群が並列接続された構造の回路では、本発明において複素アドミタンス平面での軌跡の解析が等価回路の回路構造の決定に適している。なお、本発明では、複素インピーダンス平面での軌跡の解析と複素アドミタンス平面での軌跡の解析とを組み合わせて等価回路の回路構造の決定を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態係る等価回路の決定の原理の説明図である。
図2】インピーダンス計測および等価回路解析を行う解析システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態に係る解析装置の機能構成を示す図である。
図4】解析装置による解析方法を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態における解析対象の解析例である。
図6】第1実施形態における他の解析対象の解析例である。
図7】第1実施形態におけるその他の解析対象の解析例である。
図8】第2実施形態に係る解析装置の機能構成を示す図である。
図9】第2実施形態における解析対象の解析例である。
図10】解析装置をコンピュータ装置で構成したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態:インピーダンスの周波数特性の解析による等価回路の決定]
複素平面図は、インピーダンスZ値の実部(Z’)と虚部(Z”)とを複素平面にプロットしたものであり、インピーダンスZ値は、Z(f)=Z’+iZ”(iは虚数単位)と表され、周波数fの関数で変化する。本発明は、解析対象が、複素平面図において、インピーダンスZ(f)のある周波数範囲において示すある基準点からの軌跡の長さLgを式1と表す。軌跡の長さLgは、インピーダンスZ値の実部(Z’)および虚部(Z”)の情報を有している。軌跡の長さLgを周波数fの対数で微分して特性値の周波数特性を算出することや、軌跡の長さLgが周波数fのn乗で表せる場合次数nを算出することで、解析対象の等価回路の回路素子およびその接続構造を可視化することができる。
【0018】
図1は、第1実施形態に係る等価回路の決定の原理の説明図である。図1を参照するに、複素平面図において、ある周波数fにおいて、任意の基準点からのZ(f)の軌跡の長さLgは式1のように表す。
Lg(f)=a・fn+b ・・・(1)
ここで、aおよびbは周波数fに依存しない定数とする。
【0019】
式1のLg(f)を周波数fで微分(第1微分)すると、dLg(f)/df=a・n・fn-1と表され、
この左辺はdLg(f)/df=(dLg(f)/dlogf)・(dlogf/df)と表され、dlogf/df=1/fであるから、
dLg(f)/dlogf=a・n・fn
となる。この式の両辺の対数をとることで、式2が得られる。
log(dLg(f)/dlogf)=nlogf+log(an) ・・・(2)
ただし、dLg(f)/dlogfは下記のように表される。
【数3】
式2によれば、周波数fの対数logfとlog(dLg(f)/dlogf)とが直線関係、すなわち、横軸をlogf、縦軸をlog(dLg(f)/dlogf)としてプロットするとその関係が直線になれば、nはその直線の傾きを表わす。
上記の関係を用いて、式2の左辺は式3のように表せる。
【数4】
【0020】
さらに、M値をlogfで微分(第2微分)することで、式2の右辺から次数n値が算出され、式4で表される。
【数5】
【0021】
また、インピーダンスZ(f)=Z’+iZ”(iは虚数単位)を周波数の対数logfで微分すると、
dZ(f)/dlogf=dZ’/dlogf+idZ”/dlogf・・・(5)
となる。dZ(f)/dlogfは複素数であり、その角度θlocalは、
【数6】
と表される。以下、θlocalを略記して式6’のように表す。
【数7】
【0022】
角度θlocalは、上記式5に示すように、インピーダンスZ(f)をlogfで微分して得られたdZ(f)/dlogfを、横軸を実数成分、縦軸を虚数成分としたときのベクトルを原点から見た角度を示し、-180°~+180°の範囲で定義する。後ほど説明する角度θlocalのlogfに対するプロットでは、ベクトル(dZ’,dZ”)の各成分に負号を付した(-dZ’,-dZ”)とすることが好ましい。これにより、電気化学におけるほとんどの回路で、周波数fが高いほどインピーダンスZ値が複素平面図上で左方向に動き、接線の傾きがゼロに近い、すなわち水平に近い状態で点が左に動く場合、角度θlocal値が+180°と-180°の間でチャタリングを起こす不都合を回避できる。なお、ベクトル(dZ’,dZ”)のままで用いてもよい。
【0023】
角度θlocalは、インピーダンスZ(f)の複素平面図において原点から見た方向θが固定されているならば、角度θlocalはその値を示すとともに、複素平面図上での並行移動に対しても、θlocalは不変であるという特性を有する。
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0025】
図2は、インピーダンス計測および等価回路解析を行う解析システムの概略構成を示すブロック図である。図2を参照するに、解析システム10は、解析対象DUTのインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置11と、等価回路の解析装置12と、解析結果を表示する表示装置DPとを含む。解析システム10は、解析対象DUTのインピーダンス、特に電気化学インピーダンスを測定して、解析対象DUTの等価回路を求める。解析対象DUTは、例えば、電気自動車、スマートフォン等に搭載されるバッテリー、燃料電池等であるが、特に限定されない。
【0026】
インピーダンス計測装置11は、測定したい周波数fの交流信号をシグナルジェネレータ(不図示)により生成してポテンショスタット/ガルバノスタット(不図示)に入力する。ポテンショスタット/ガルバノスタットは、解析対象DUTの電圧または電流が設定値に保たれるように制御する装置である。ポテンショスタット/ガルバノスタットは、シグナルジェネレータから入力された交流信号を設定電圧値または設定電流値の直流成分に重畳することにより、解析対象DUTが交流定常状態になるように制御する。インピーダンス計測装置11は、交流定常状態における電圧値と電流値とを測定し、それらの交流成分の振幅の比と位相差からその周波数fにおけるインピーダンスZを求める。所望の複数の周波数においてこのようにインピーダンスZの測定を行い、インピーダンスZの周波数特性を得る。インピーダンスZは、Z=Z’+iZ”という複素数で表すことができる。ここでZ’、Z”は、それぞれインピーダンスの実数成分、虚数成分であり、iは、虚数単位である。以下、インピーダンス計測装置11により所望の周波数範囲で測定したインピーダンスZを、複素インピーダンスデータと称する。
【0027】
インピーダンス計測装置11の設定において、一実施例として、印加する交流電圧は、直流成分が参照極に対して0.5Vであり、重畳する交流成分振幅は5mVである。また、測定する周波数範囲および周波数個数は特に限定されないが、周波数範囲は例えば、0.1Hz~10kHzであり、周波数個数は、例えば周波数1桁当たり5測定になるように対数目盛で等間隔に26個を選択する。この場合、測定周波数は、10kHz、6.31kHz、3.98kHz、2.55kHz、1.58KHz、1kHz、・・・、0.1kHzであり、この順番に順次測定してもよい。以下、複素インピーダンスデータは、この26個の周波数において測定したものとして説明する。
【0028】
インピーダンス計測装置11は、CPU、メモリ等有してもよく、外部のパソコン(PC)に接続してもよい。これにより、測定の制御、複素インピーダンスZの算出および複素インピーダンスデータの出力等を行う。
【0029】
解析装置12は、複素インピーダンスデータZ(f)をインピーダンス計測装置11から取得して、周波数fの対数で微分演算処理を行って得た第1微分データからその絶対値M値および角度θlocal値を算出する。M値およびθlocal値は、周波数fの対数に対してプロットした曲線が、抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)、ワールブルグ(W)の各素子およびその接続構成の特徴を可視化する。解析装置12は、さらに、M値を周波数fの対数で微分演算処理を行って得た第2微分データからn値を算出する。n値は、周波数fの対数に対してプロットした曲線が抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)、ワールブルグ(W)の各素子およびその接続構成のさらなる特徴を可視化する。解析装置12は、周波数fの対数に対するM値、θlocal値およびn値から、解析対象DUTの等価回路を推定する。
【0030】
図3は、第1実施形態に係る解析装置の機能構成を示す図である。図3を参照するに、解析装置12は、データ取得部13と、インピーダンスデータ格納部14と、第1微分データ演算部15と、第2微分データ演算部16と、表示データ出力部17と、特徴量抽出部18と、参照情報格納部19と、等価回路決定部20と、表示出力部21とを有する。
【0031】
データ取得部13は、インピーダンス計測装置11から複素インピーダンスデータZ(f)を取得して、インピーダンスデータ格納部14に出力する。インピーダンスデータ格納部14は、複素インピーダンスデータZ(f)を格納する。
【0032】
第1微分データ演算部15は、インピーダンスデータ格納部14に格納された複素インピーダンスデータZ(f)を周波数fの対数で微分して第1微分データを算出する演算を実行する。第1微分データ演算部15は、さらに、第1微分データの絶対値の対数M値(式7で表される。)を算出する演算と、第1微分データの実数成分値dZ’および虚数成分値dZ”を成分とするベクトルの方向を特定する角度データθlocal値(式8で表される。)を算出する演算を行う。
【数8】
【0033】
第2微分データ演算部16は、式(7)で表されるM値を周波数fの対数で微分して第2微分データを算出する演算を実行してn値(式9で表される。)を算出する演算を行う。
【数9】
なお、第2微分データ演算部16は、n値を算出して容易に周波数fに対する次数が得られ、素子および配線構造を可視化するのに役立つ。ただし、n値を算出しなくとも等価回路を決定することができる。
【0034】
なお、第1微分データ演算部15および第2微分データ演算部16における微分演算処理は、対象となる複素インピーダンスデータZ(f)、M値が、周波数fに対して離散的であり、例えば、上述した1Hz~10kHzの範囲の26個のデータである。このような場合、微分演算処理は、数値微分計算法であれば特に限定されないが、例えば、中心差分近似法を用いることができる。
【0035】
表示データ出力部17は、周波数fの対数に対するM値、θlocal値、n値の表示データを表示装置DP、例えばモニタに出力し、周波数fの対数を横軸の座標とし、M値、θlocal値、n値を各々縦軸の座標として表示部にプロットする。
【0036】
特徴量抽出部18は、周波数fに対するM値、θlocal値、n値のプロットから、特徴量を抽出する。特徴量は、周波数fの対数に対して、例えば、M値については線形的な増減やピークの数等であり、θlocal値については-90°あるいは+90°で一定であるとかこの一方の角度から他方への角度への移行等であり、n値については-1または+1で一定であるとか、この一方の値から他方の値への移行等である。特徴量の例は、より詳細には、参照情報格納部19が格納する参照情報と同様である。
【0037】
参照情報格納部19は、予め、M値、θlocal値およびn値と回路素子およびその接続構造との関係を示す情報、例えば、これらの関係を表にした参照情報を格納する。参照情報は、等価回路決定部20が回路素子およびその接続構造を特定するために用いられる。参照情報格納部19は、例えば下記表に示す参照情報を格納する。
【表1】
【0038】
等価回路決定部20は、特徴量抽出部18から得たM値、θlocal値およびn値の特徴量に基づいて、直列接続モデルを前提とし、参照情報格納部19の参照情報を参照して、抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)、ワールブルグ(W)の各素子およびその接続構成を推定して等価回路の回路構造を決定する。
【0039】
さらに、等価回路決定部20は、決定した回路構造に基づいて回路構造に含まれる各素子の値を決定する。具体的には、等価回路決定部20は、決定した回路構造に基づいて特徴量であるM値に基づいて各素子の値を決定してもよく、決定した回路構造に基づいてインピーダンス式を組立てて複素平面図上での(Z’,Z”)の曲線に全周波数の範囲でフィッティングするようにして各素子の値を決定してもよい。
【0040】
表示出力部21は、等価回路決定部20から等価回路を図示するためのデータを表示装置DP、例えばモニタに出力する。
【0041】
図4は、解析装置による解析方法を示すフローチャートである。図4図2および図3と合わせて参照しつつ、解析装置12の処理内容について説明する。
【0042】
最初に、データ取得部13は、インピーダンス計測装置11から複素インピーダンスデータZ(f)を取得する(S100)。具体的には、データ取得部13は、インピーダンス計測装置11から解析対象DUTの所定の周波数範囲、例えば、0.1Hz~10kHzの対数目盛で等間隔に26個の複素インピーダンスデータZ(f)を取得して、インピーダンスデータ格納部14に出力する。
【0043】
次いで、第1微分データ演算部15は、複素インピーダンスデータZ(f)を周波数fの対数で微分して第1微分データを算出する(S110)。具体的には、複素インピーダンスデータZ(f)は所定の周波数fとその周波数における複素インピーダンスのデータのセットであり、所定の周波数fは離散的であるので、第1微分データ演算部15は、数値計算による微分処理、例えば、中心差分近似法を用いて行う。第1微分データは、
【数10】

と、解析的に表すことができる。
【0044】
次いで、第1微分データ演算部15は、第1微分データの絶対値の対数M値を算出する(S120)。具体的には、第1微分データは複素数であるので、各周波数fにおいて複素数の絶対値を算出し、さらにその対数M値を算出する。M値は解析的に式10で表される。
【数11】
【0045】
次いで、第1微分データ演算部15は、第1微分データから角度データθlocal値を算出する(S130)。具体的には、第1微分データは、実数成分値dZ’および虚数成分値dZ”を有するので、第1微分データ演算部15は、第1微分データのベクトルの方向を特定する、式11で表される角度データθlocal値を算出する。
【数12】
なお、S120およびS130は並行して行ってもよく、S130をS120よりも先に行ってもよい。
【0046】
次いで、第2微分データ演算部16は、M値を周波数fの対数で微分して式12で表される第2微分データn値を算出する(S140)。
【数13】
【0047】
次いで、特徴量抽出部18は、周波数fに対するM値、θlocal値、n値のプロットから、特徴量を抽出する(S150)。
【0048】
次いで、等価回路決定部20は、特徴量抽出部18から得た特徴量である特定のM値、θlocal値およびn値に基づいて、参照情報格納部19の参照情報を参照して、抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)、ワールブルグ(W)の各素子およびその接続構成を推定して等価回路の回路構造を決定する(S160)。これにより、従来、解析者の知見によって推定していた場合よりも、恣意性を抑制して客観的で正確に回路構造を決定することができる。
【0049】
次いで、等価回路決定部20は、S160で決定した回路構造に基づいて、回路構造に含まれる各素子の値を決定する(S170)。具体的には、決定した回路構造に基づいて、特徴量であるM値に基づいて各素子の値を決定してもよく、決定した回路構造に基づいてインピーダンス式を組立て、そのZ’値およびZ”値が、計測した複素平面図上での(Z’,Z”)の曲線に全周波数の範囲でフィッティングするようにして各素子の値を決定してもよい。
【0050】
M値の特徴量に基づいて各素子の値を決定する場合、例えば以下の関係式を用いる。
(1)単独のC、L、W素子が存在する場合は、M値のグラフが直線的になり、その直線またはその直線を延長したlogf=0における切片(M0)が特徴量の一つである。
単独のCの場合は、切片(M0)は式13で表され、容量C値は式14で求まる。
【数14】
単独のW素子の場合は、切片(M0)は式15で表され、ワールブルグσW値は式16で求まる。
【数15】
単独のL素子の場合は、切片(M0)は式17で表され、インダクタンスL値は式18で求まる。
【数16】
【0051】
(2)R成分とC成分との並列接続(R//C)またはR成分とL成分との並列接続(R//L)が含まれる場合は、複素平面図において半円円弧の軌跡を示し、その頂点の周波数fpは、R//L、R//Cの場合、それぞれ式19、式20で表される。
【数17】
M値のグラフでは、この周波数fpでピークを形成し、ピーク値MpはR値により決まり、式21で表され、R値は式22で求まる。
【数18】
R値が決まると、R//Cの場合、C値が式23のように決まる。
【数19】
R//Lの場合、L値が式24のように決まる。
【数20】
【0052】
次いで、表示出力部21は、等価回路の回路構造および各素子の値を含む表示データを、例えば表示装置DPに出力する(S180)。表示データは、例えば、等価回路の回路図および各素子の値を含んでもよい。
【0053】
以下、特徴量抽出部18および等価回路決定部20での処理の詳細を説明する。
【0054】
特徴量抽出部18では、周波数fの対数logfに対するM値、θlocal値およびn値の特徴量(特徴的な挙動を含む。)について抽出する。M値の特徴量としては、ピークの位置(logfp)とピークの高さ(Mp)、M値がlogfに対して直線的である場合はlogf=0における切片(M0)である。θlocal値の特徴量の例は、約-90°であること、logfの増加に対して正値から負値に移行することや、負値から定義の境界である-180°および+180°を超えて正値に移行すること等である。n値の特徴量の例は約-1であること、約+1であること、logfの増加に対して正値から負値に移行すること等である。特徴量抽出部18は、logfに対するM値、θlocal値およびn値の曲線に対して、カーブ・フィッティング処理等により、上記の特徴量を抽出する。
【0055】
等価回路決定部20は、特徴量抽出部18から得た特徴量を用いて、参照情報格納部19の参照情報(先の表に示す。)を参照して、周波数領域毎に回路素子およびその接続構造を推定し、直列接続モデルを前提として等価回路の回路構造を決定し、さらに回路構造に含まれる素子の値を決定する。以下、等価回路決定部20での処理の例を説明する。
【0056】
図5は、第1実施形態における解析対象の解析例であり、(a)は周波数fに対するM値、θlocal値、n値のプロットの例であり、(b)は決定した等価回路図である。検証のため解析対象として回路構造および各素子の値が既知の電気回路を用いた。図5(a)を参照するに、等価回路決定部20は、特徴量抽出部18から下記の表2に例示する各周波数領域における特徴量の情報、例えば、M値、θlocal値、n値に基づいて、参照情報格納部19の参照情報を参照して、以下のように等価回路を構成する回路素子およびその接続構造を推定し、等価回路の回路構造を決定する。なお、図5(a)は、表示データ出力部17が出力した表示データを表示装置(不図示)が表示した例であり、図5(b)は、表示出力部21が出力した等価回路を示す表示データを表示装置(不図示)が表示した例である。
【表2】
以上の推定より、等価回路決定部20は、直列構造の等価回路の回路構造を決定する。決定した回路構造を図5(b)に示す。
【0057】
さらに、等価回路決定部20は、M値の特徴量、例えばピークの位置(logfp)とピークの高さ(Mp)、切片(M0)を上記式13~18に示した関係を用いて、回路素子の値を決定する。決定した回路素子の値を上記表2の右欄に示す。
【0058】
解析対象として用いた電気回路は、図5(b)に示した回路構造を有しており、各素子の値は、以下の通りである。C0=1 F,R1=3 Ω,C1=38 mF,R2=4 Ω,C2=400 μF,L0=10 μF。したがって、本実施形態により、等価回路の回路構造を的確に決定することができ、各回路素子の値もほぼ同じ値が得られることが分かる。
【0059】
なお、図5(b)の回路図の括弧内に示すように、解析対象に直列に単独で抵抗R0が接続されていることが想定される場合は、決定した回路構造に基づいてインピーダンス式を組立て、そのZ’値およびZ”値が、計測した複素平面図上での(Z’,Z”)の曲線に全周波数の範囲でフィッティングするようにして直列接続の抵抗R0の存在およびその抵抗値を決定してもよい。以下の他の解析例でも同様に行ってもよい。
【0060】
図6は、第1実施形態における他の解析対象の解析例であり、(a)は周波数fに対するM値、θlocal値、n値のプロットの例であり、(b)は決定した等価回路図である。検証のため解析対象として回路構造および各素子の値が既知の電気回路を用いた図6(a)を参照するに、等価回路決定部20は、特徴量抽出部18からの表3に示す、各周波数領域における特徴量の情報に基づいて、参照情報格納部19の参照情報を参照して、以下のように等価回路を構成する回路素子およびその接続構造を推定する。
【表3】
以上の推定より、等価回路決定部20は、直列構造の等価回路の回路構造を決定する。決定した回路構造を図6(b)に示す。
【0061】
さらに、等価回路決定部20は、M値の特徴量を上記表2の場合と同様にして回路素子の値を決定する。決定した回路素子の値を上記表3の右欄に示す。
【0062】
解析対象として用いた電気回路は、図6(b)に示した回路構造を有しており、各素子の値は、以下の通りである。R1=1Ω,L1=16 H,R2=7 Ω,C2=2.3 mF,R3=2 Ω,C3=8 μF。したがって、本実施形態により、等価回路の回路構造を的確に決定することができ、各回路素子の値もほぼ同じ値が得られることが分かる。
【0063】
図7は、第1実施形態におけるその他の解析対象の解析例であり、(a)は周波数fに対するM値、θlocal値、n値のプロットの例であり、(b)は決定した等価回路図である。検証のため解析対象として回路構造および各素子の値が既知の電気回路を用いた。図7(a)を参照するに、等価回路決定部20は、特徴量抽出部18からの下記表3に示す、各周波数領域における特徴量の情報に基づいて、参照情報格納部19の参照情報を参照して、以下のように等価回路を構成する回路素子およびその接続構造を推定する。
【表4】
以上の推定より、等価回路決定部20は、直列構造の等価回路の回路構造を決定する。決定した回路構造を図7(b)に示す。
【0064】
さらに、等価回路決定部20は、M値の特徴量を上記表2の場合と同様にして回路素子の値を決定する。決定した回路素子の値を上記表3の右欄に示す。
【0065】
解析対象として用いた電気回路は、図7(b)に示した回路構造を有しており、各素子の値は、以下の通りである。σW=7.07 Ω,R1=5 Ω,C1=318 μF,L0=10 μH。したがって、本実施形態により、等価回路の回路構造を的確に決定することができ、各回路素子の値もほぼ同じ値が得られることが分かる。
【0066】
[第2実施形態:アドミタンスの周波数特性の解析による解析対象の等価回路の決定]
以下、周波数fに対するアドミタンスY(f)値を用いた解析対象の等価回路の決定について説明する。上述したインピーダンスZ値の周波数特性を用いた場合は、解析対象DUTの等価回路が直列構造である場合に、より精確に回路の構成を決定することができる。一方、等価回路が並列構造の場合は、インピーダンスZ値の周波数特性よりもアドミタンスY値の周波数特性を用いた方が、より精確に回路の構成を決定することができる。本実施形態に係る解析装置は、アドミタンスY値の周波数特性を用いて並列構造の等価回路を決定する。アドミタンスY値は、Y(f)=Y’+iY”(iは虚数単位)と表すことができ、インピーダンスZ値との関係は、Y(f)=1/Z(f)で表される。したがって、インピーダンスZ値による解析と同様に、特性値MY値、θY,local値、nY値により等価回路を決定することができる。
【0067】
図8は、第2実施形態に係る解析装置の機能構成を示す図である。図8を参照するに、解析装置32は、データ取得部13と、アドミタンスデータ変換部33と、アドミタンスデータ格納部34と、第1微分データ演算部35と、第2微分データ演算部36と、表示データ出力部37と、特徴量抽出部38と、参照情報格納部39と、等価回路決定部40と、表示出力部41とを有する。
【0068】
データ取得部13は、インピーダンス計測装置11から複素インピーダンスデータZ(f)を取得する。アドミタンスデータ変換部33は、複素インピーダンスデータZ(f)を複素アドミタンスデータY(f)に変換して、アドミタンスデータ格納部34に出力する。アドミタンスデータ格納部34は、複素アドミタンスデータY(f)を格納する。
【0069】
第1微分データ演算部35は、アドミタンスデータ格納部34に格納された複素アドミタンスデータY(f)を周波数fの対数で微分して第1微分データを算出する演算を実行する。第1微分データ演算部35は、さらに、第1微分データの絶対値の対数MY値(式25で表される。)を算出する演算と、第1微分データの実数成分値dY’および虚数成分値dY”を成分とするベクトルの方向を特定する角度データθY,local値(式26で表される。)を算出する演算を行う。
【数21】
【0070】
第2微分データ演算部36は、式(10)で表されるMY値を周波数fの対数で微分して第2微分データを算出する演算を実行してnY値(式27で表される。)を算出する演算を行う。
【数22】
なお、第2微分データ演算部36は、nY値を算出して容易に周波数fに対する次数が得られ、素子および配線構造を可視化するのに役立つ。ただし、nY値を算出しなくとも等価回路を決定することができる。
【0071】
なお、第1微分データ演算部35および第2微分データ演算部16における微分演算処理は、対象となる複素アドミタンスデータY(f)、MY値が、周波数fに対して離散的であり、例えば、上述した1Hz~10kHzの範囲の26個のデータである。このような場合、微分演算処理は、数値微分計算法であれば特に限定されないが、例えば、中心差分近似法を用いることができる。
【0072】
表示データ出力部37は、周波数fの対数に対するMY値、θY,local値、nY値の表示データを表示装置DP、例えばモニタに出力し、周波数fの対数を横軸の座標とし、MY値、θY,local値、nY値を各々縦軸の座標として表示部にプロットする。
【0073】
特徴量抽出部38は、周波数fに対するMY値、θY,local値、nY値のプロットから、特徴量を抽出する。特徴量は、周波数fの対数に対して、例えば、MY値については線形的な増減やピークの数等であり、θY,local値については-90°あるいは+90°で一定であるとかこの一方の角度から他方への角度への移行等であり、nY値については-1または+1で一定であるとか、この一方の値から他方の値への移行等である。特徴量の例は、より詳細には、参照情報格納部39が格納する参照情報と同様である。
【0074】
参照情報格納部39は、予め、MY値、θY,local値およびnY値と回路素子およびその接続構造との関係を示す情報、例えば、これらの関係を表にした参照情報を格納する。参照情報は、等価回路決定部40が回路素子およびその接続構造を特定するために用いられる。参照情報格納部39は、例えば下記表に示す参照情報を格納する。
【表5】
【0075】
等価回路決定部40は、特徴量抽出部38から得たMY値、θY,local値およびnY値の特徴量に基づいて、並列接続モデルを前提とし、参照情報格納部39の参照情報を参照して、抵抗(R)、コンデンサ(C)、コイル(L)、ワールブルグ(W)の各素子およびその接続構成を推定して等価回路の回路構造を決定する。
【0076】
表示出力部41は、等価回路決定部40から等価回路を図示するためのデータを表示装置DP、例えばモニタに出力する。
【0077】
解析装置32によるアドミタンスデータを用いた解析方法については、図4を用いて説明したインピーダンスデータを用いた解析方法とほぼ同様である。この解析方法の異なる点は、図4に示すS100の後に、アドミタンスデータ変換部33が複素インピーダンスデータZ(f)を複素アドミタンスデータY(f)に変換するステップを有することと、S120から下流の処理するデータが複素アドミタンスデータY(f)であり、得られる特性値がMY値、θY,local値、nY値であり、S150においてこれらから特徴量を抽出してS160において抽出した特徴量に基づいて参照情報格納部39の参照情報を参照して等価回路を決定することである。
【0078】
以下、特徴量抽出部38および等価回路決定部40での処理の詳細を説明する。
【0079】
特徴量抽出部38では、周波数fの対数logfに対するMY値、θY,local値およびnY値の特徴量(特徴的な挙動を含む。)について抽出する。MY値の特徴量としては、ピークの存在、ピークの高さ、複数のピークが存在する場合はその相対的な高さの関係等である。θY,local値の特徴量の例は、+90°であること、logfの増加に対して正値から負値に移行することや-90°から-180°を超えて+180°から+90°に移行すること等である。nY値の特徴量の例は-1であること、+1であること、logfの増加に対して正値から負値に移行すること等である。特徴量抽出部38は、logfに対するMY値、θY,local値およびnY値の曲線に対して、カーブ・フィッティング処理等により、上記の特徴量を抽出する。
【0080】
等価回路決定部40は、特徴量抽出部38から得た特徴量を用いて、参照情報格納部39の参照情報(先の表4に示す。)を参照して、周波数領域毎に回路素子およびその接続構造とを推定し、並列接続モデルを前提として等価回路の回路構造を決定する。以下、等価回路決定部40での処理の例を説明する。
【0081】
図9は、第2実施形態における解析対象の解析例であり、(a)は周波数fに対するMY値、θY,local値、nY値のプロットの例であり、(b)は決定した等価回路図である。検証のため解析対象として回路構造および各素子の値が既知の電気回路を用いた。図9(a)を参照するに、等価回路決定部40は、特徴量抽出部38から下記の表6に例示する各周波数領域における特徴量の情報、例えば、M値、θY,local値、nY値に基づいて、参照情報格納部39の参照情報を参照して、以下のように等価回路を構成する回路素子およびその接続構造を推定し、等価回路の回路構造を決定する。なお、図9(a)は、表示データ出力部37が出力した表示データを表示装置(不図示)が表示した例であり、図9(b)は、表示出力部41が出力した等価回路を示す表示データを表示装置(不図示)が表示した例である。
【表6】
以上の推定より、等価回路決定部40は、並列構造の等価回路の回路構造を決定する。決定した回路構造を図9(b)に示す。
【0082】
さらに、等価回路決定部40は、MY値の特徴量、例えばピークの位置(logfp)とピークの高さ(MY,p)、切片(MY,0)に基づいて、下記式28~式33に示す関係式を用いて、各素子の値を決定する。決定した回路素子の値を上記表6の右欄に示す。
(1)単独のC、L、W素子が存在する場合は、MY値のグラフが直線的になり、その直線またはその直線を延長したlogf=0における切片(MY,0)が特徴量の一つである。
単独のCの場合は、容量C値は式28で求まる。
【数23】
単独のW素子の場合は、ワールブルグσW値は式29で求まる。
【数24】
単独のL素子の場合は、インダクタンスL値は式30で求まる。
【数25】
【0083】
(2)R成分とC成分との直列接続(R+C)またはR成分とL成分との直列接続(R+L)が含まれる場合は、MY値のグラフが周波数fpにおいてピーク(高さMY,p)を示す。ピークの高さMY,pからR値が求まり、式31で表される。
【数26】
R値が決まると、R+Cの場合、C値が式32のように決まり、R+Lの場合、L値が式33のように決まる。
【数27】
【0084】
なお、図9(b)の回路図の括弧内に示すように、解析対象に並列に単独で抵抗R0が接続されていることが想定される場合は、決定した回路構造に基づいてインピーダンス式を組立て、そのZ’値およびZ”値が、計測した複素平面図上での(Z’,Z”)の曲線に全周波数の範囲でフィッティングするようにして並列接続の抵抗R0の存在およびその抵抗値を決定してもよい。
【0085】
解析装置32は、インピーダンス計測装置11から複素インピーダンスデータZ(f)をデータ取得部30が取得して、アドミタンスデータ変換部33で複素インピーダンスデータZ(f)を複素アドミタンスデータY(f)に変換するが、インピーダンス計測装置11から複素アドミタンスデータY(f)をデータ取得部30が取得して、アドミタンスデータ変換部33を省略して、アドミタンスデータ格納部34に格納する構成としてもよい。
【0086】
変形例として、解析装置は、解析装置12と解析装置32と備え、複素インピーダンスデータZ(f)および複素アドミタンスデータY(f)のいずれを用いて等価回路を決定するかの入力を受け付けて解析装置12および解析装置32のいずれに複素インピーダンスデータZ(f)を供給するかを制御する制御部を有するようにしてもよい。この変形例の解析装置では、解析対象DUTの等価回路のモデルが直列接続構造であるか並列接続構造であるかの違いに応じて、複素インピーダンスデータZ(f)および複素アドミタンスデータY(f)のいずれを用いるかを容易に切り換えできる。
【0087】
図10は、解析装置をコンピュータ装置で構成したブロック図であり、図3に示す解析装置12、図8に示す解析装置32および上記変形例の解析装置は、図10に示すコンピュータ装置で構成することができる。
【0088】
図10を参照するに、コンピュータ装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ102と、ハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)103と、リムーバブル・ディスク104用のドライブ装置105と、表示装置106に接続される表示制御部108と、入力装置109と、ネットワークに接続するための通信制御部110と、これらを接続するバス111を有する。なお、HDD103は、ソリッドステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置でもよい。
【0089】
オペレーティング・システム(OS:Operating System)および実施形態における処理を行うためのアプリケーション・プログラムは、HDD103に格納されており、CPU101により実行される際にはHDD103からメモリ102に読み出される。CPU101は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部108、通信制御部110およびドライブ装置105を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ102に格納されるが、HDD103に格納されるようにしてもよい。実施形態で述べた処理を行うためのアプリケーション・プログラムは、コンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク104に格納されて頒布され、ドライブ装置105からHDD103にインストールされる。インターネットなどのネットワークおよび通信制御部110を介して、HDD103にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置100は、CPU101、メモリ102などのハードウエアとOSおよびアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、実施形態で述べたような各種機能を実現する。なお、実施形態の処理を実行することで用いられるデータは、処理途中のものであるか、処理結果であるかを問わず、メモリ102またはHDD103等の記憶装置に格納される。
【0090】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、図3に示した第1実施形態に係る解析装置12は、表示データ出力部17に表示装置、例えば図10に示した表示装置106を接続して、データ取得部13と、インピーダンスデータ格納部14と、第1微分データ演算部15と、第2微分データ演算部16と、表示データ出力部17と、表示装置を有する作図装置として機能し、表示装置は周波数fの対数に対するM値、θlocal値、n値のプロットを表示することができる。図8に示した第2実施形態に係る解析装置32も同様にして、作図装置として機能し、表示装置は、周波数fの対数に対するMY値、θY,local値、nY値のプロットを表示することができる。また、第1および第2実施形態に係る解析方法は、作図方法としても機能し、第1および第2実施形態に係る解析プログラムは、作図プログラムとしても機能する。
【符号の説明】
【0091】
10 解析システム
11 インピーダンス計測装置
12,32 解析装置
15,35 第1微分データ演算部
16,36 第2微分データ演算部
17,37 表示データ出力部
18,38 特徴量抽出部
19,39 参照情報格納部
20,40 等価回路決定部
33 アドミタンスデータ変換部
100 コンピュータ装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10