(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126156
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/06 20060101AFI20240912BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240912BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B01D71/06
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034365
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】久保 優
(72)【発明者】
【氏名】島田 学
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀政
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA10
4D006MA21
4D006MB01
4D006MC04
4D006MC07
4D006MC28
4D006PA01
4D006PB13
4D006PB59
(57)【要約】
【課題】作製が容易で、高い透過性と選択性を有する分離膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る分離膜の製造方法は、金属塩と有機配位子とを含む金属有機構造体の前駆体溶液を生成する前駆体溶液生成工程と、加熱された可撓性を有する多孔質基材上に前記前駆体溶液を噴霧して、金属有機構造体膜を形成する金属有機構造体膜形成工程と、を含む。金属有機構造体の前駆体溶液を、加熱された可撓性を有する多孔質基材上に噴霧して分離膜を形成するので、高い透過性と選択性を有するナノ分離膜を容易に作製することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩と有機配位子とを含む金属有機構造体の前駆体溶液を生成する前駆体溶液生成工程と、
加熱された可撓性を有する多孔質基材上に前記前駆体溶液を噴霧して、金属有機構造体の分離層を形成する金属有機構造体膜形成工程と、を含む、
分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質基材は濾紙又は濾布である、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属塩を構成する金属イオンは、Mgイオン、Alイオン、Crイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Cuイオン、Znイオン、Zrイオン及びCdイオンのうち少なくともいずれかを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記有機配位子は、
芳香族カルボン酸及びイミダゾール類のうち少なくともいずれかを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体溶液は、空気又は不活性ガスを用いて噴霧される、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体溶液が噴霧される前記多孔質基材の温度は、150℃以上、250℃以下であり、
前記多孔質基材の面積あたりの前記前駆体溶液の噴霧流量は、2mL/cm2・h以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記分離層を保護する保護層を形成する保護層形成工程を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記保護層は濾紙を含む、
ことを特徴とする請求項7に記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の製造方法に関し、より詳細には金属有機構造体を用いた分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低エネルギーで目的の物質を分離する方法として、膜分離法が利用されている。また近年、2nmより小さい程度の粒子、高分子等を阻止するナノ濾過膜(NF膜:Nano Filtration membrane)を用いたナノ濾過の分野において、金属有機構造体(MOF:Metal-organic framework)をNF膜とする分離技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、所定の金属を含有するMOFを含む分離活性層を有する複合膜を、希ガスの分離膜として用いることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属有機構造体膜(以下、MOF膜ともいう。)の作製方法としては、一般的にソルボサーマル法及びLayer by Layer法が用いられている。ソルボサーマル法は、自己組織化単分子膜(SAM:Self Assembled Monolayer)のような合成表面を官能化させた基板を、金属有機構造体の前駆体溶液中に浸漬させ、高温、高圧下で反応させることにより、MOF膜を作製する手法である。また、Layer by Layer法はSAMで表面処理された基板を、金属イオン溶液と有機配位子溶液に交互に浸漬させ、その都度エタノール等で洗浄してMOF膜を作製する手法である。
【0006】
これらの作製方法はいずれも、反応に時間がかかり作製に要する時間が長い、作製できる膜の大きさが限定的である等の課題があり、工業的な利用のためのスケールアップは難しい。また、工業的に利用するためには、高い透過性と選択性を有する分離膜であることが求められる。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、作製が容易で、高い透過性と選択性を有する分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明に係る分離膜の製造方法は、
金属塩と有機配位子とを含む金属有機構造体の前駆体溶液を生成する前駆体溶液生成工程と、
加熱された可撓性を有する多孔質基材上に前記前駆体溶液を噴霧して、金属有機構造体の分離層を形成する金属有機構造体膜形成工程と、を含む。
【0009】
また、前記多孔質基材は濾紙又は濾布である、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記金属塩を構成する金属イオンは、Mgイオン、Alイオン、Crイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Cuイオン、Znイオン、Zrイオン及びCdイオンのうち少なくともいずれかを含む、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記有機配位子は、
芳香族カルボン酸及びイミダゾール類のうち少なくともいずれかを含む、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記前駆体溶液は、空気又は不活性ガスを用いて噴霧される、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記前駆体溶液が噴霧される前記多孔質基材の温度は、150℃以上、250℃以下であり、
前記多孔質基材の面積あたりの前記前駆体溶液の噴霧流量は、2mL/cm2・h以下である、
こととしてもよい。
【0014】
また、分離膜の製造方法は、
前記分離層を保護する保護層を形成する保護層形成工程を含む、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記保護層は濾紙を含む、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分離膜の製造方法によれば、金属有機構造体の前駆体溶液を、加熱された可撓性を有する多孔質基材上に噴霧して分離膜を形成するので、高い透過性と選択性を有する金属有機構造体の分離層を備える分離膜を容易に作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る分離膜の概略図である。
【
図2】実施の形態に係る分離膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】実施の形態に係る噴霧装置の構成を示す概略図である。
【
図4】基本条件で作製した分離膜で色素とエタノールとを含む溶液を濾過した場合の阻止率の例を示すグラフである。
【
図5】基材の加熱温度を変化させた場合の色素の阻止率の例を示すグラフである。
【
図6】前駆体溶液の噴霧量を変化させた場合の色素の阻止率の例を示すグラフである。
【
図7】基本条件で作製した分離膜で色素とメタノールとを含む溶液を濾過した場合の阻止率及び透過率の例を示すグラフである。
【
図8】基本条件で作製した分離膜で混合色素メタノール溶液を濾過した場合の阻止率及び透過率の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る分離膜の製造方法について説明する。
【0019】
(分離膜)
本実施の形態に係る製造方法で作製される分離膜10は、
図1に示すように、基材11と分離層12とを備える。
【0020】
(基材)
基材11は、可撓性を有する多孔質基材であり、分離膜10の機械的強度を高めるとともに、分離層12を支持することにより、分離層12の形成を容易にする。また、基材11が可撓性を有することにより、分離膜10の柔軟性を高め、割れによる分離性能の低下を抑制することができる。基材11は、可撓性を有し、分離層12の細孔径より大きい細孔径を有するものであればよく、材質等は特に限定されない。基材11としては、例えば、安価で細孔径、厚さ等の選択が容易な濾紙又は濾布を用いることができる。基材11として濾紙又は濾布を用いることにより、変形に強く、割れにくい分離膜10を形成することができる。また、濾紙又は濾布の種類は特に限定されず、求められる分離膜10の分離特性に応じて濾紙又は濾布を選択することにより、分離膜10の透過性及び選択性を高めることができる。より具体的には、圧力損失1.11kPa以下、保持粒子径1.0μm以下の濾紙又は濾布を用いることが望ましい。これにより、分離膜10を、分離層12と、分離層12より大きい径の細孔を有する基材11との複合膜として構成し、分離膜10の透過性及び選択性を高めることができる。本実施の形態に係る基材11は、フッ素樹脂コーティングガラス濾紙PG-45(東洋濾紙(株)製)である。
【0021】
(分離層)
分離層12は、基材11上に形成され、細孔によって目的の物質を分離する。分離層12は、金属イオン又は金属クラスターと有機配位子とから構成される金属有機構造体(MOF:Metal-organic framework)で構成される。
【0022】
金属有機構造体の分離層12に用いる金属イオンとしては、Mg、Al、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Cd等、軽金属から重金属までのイオンを幅広く使用することができる。これらの金属イオンのうち、Cr(III)イオン、Fe(III)イオン、Co(II)イオン、Ni(II)イオン、Cu(II)イオン、Zn(II)イオン、Zr(II)イオン、Cd(II)イオンなどの重金属の2価又は3価イオン、Mg(II)イオン、Al(III)イオンなどの軽金属の2価又は3価イオンが好ましい。
【0023】
また、金属有機構造体の分離層12に用いる有機配位子としては、芳香族カルボン酸及びイミダゾール類のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。具体的には、ジカルボン酸、トリカルボン酸、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、アザベンゾイミダゾール及びこれらの誘導体等を、有機配位子として用いることができる。例えば、テレフタル酸や1,3,5-ベンゼン-トリ安息香酸、2-メチルイミダゾール等を用いることができる。
【0024】
また、分離膜10を用いてナノ濾過を行うために、分離層12を構成する金属有機構造体の細孔径は、0.6~2.0nmであることが好ましい。
【0025】
(分離膜の製造方法)
以下、
図2のフローチャートを参照しつつ、分離膜の製造方法について説明する。本実施の形態に係る分離膜10の製造方法は、金属塩と有機配位子とを含む金属有機構造体の前駆体溶液を生成する前駆体溶液生成工程と、加熱された多孔質基材である濾紙上に前駆体溶液を噴霧して、金属有機構造体の分離層12を形成する金属有機構造体膜形成工程と、を含む。
【0026】
まず、前駆体溶液生成工程として、上述の金属イオンの金属塩(硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等)と有機配位子とを、水又は有機溶媒に溶解して反応させ、金属有機構造体の前駆体溶液を生成する。有機溶媒は特に限定されないが、例えばエタノール、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド等の一般的な有機溶媒を用いることができる。分離膜10の作製を容易にするため、反応温度は20~100℃、反応時間は24時間以下であることが好ましい。
【0027】
本実施の形態では、分離層12としてHKUST-1のMOF膜を形成する場合を例として説明する。まず、硝酸銅(II)三水和物(Cu(NO3)2)を水に加えて室温で十分に溶解させ、金属塩溶液を生成する(ステップS11)。また、1,3,5-ベンゼン-トリ安息香酸(H3BTC)をエタノール及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の混合溶媒に加えて室温で十分に溶解させ、有機配位子溶液を生成する(ステップS12)。
【0028】
ステップS11で生成した金属塩溶液と、ステップS12で生成した有機配位子溶液とを混合して前駆体溶液を調製する(ステップS13)。混合される各物質のモル比は、例えば、水:エタノール:DMF:H3BTC:Cu(NO3)2=180:54:41:1:1.81である。
【0029】
続いて、金属有機構造体膜形成工程として、基材11上に前駆体溶液生成工程で調製した前駆体溶液を噴霧して、金属有機構造体膜である分離層12を形成する。
図3は、本実施の形態に係る金属有機構造体膜形成工程で用いる噴霧装置20の構成を示す概念図である。噴霧装置20は、前駆体溶液供給手段21、ガス供給手段22、噴霧ノズル23、基材載置台24を備える。尚、本実施の形態では、ラボスケールで分離膜10を作製する場合を例として説明する。
【0030】
前駆体溶液供給手段21は、ステップS13で調製した前駆体溶液を噴霧ノズル23へ供給するものである。前駆体溶液供給手段21は、設定された流量で前駆体溶液を供給できるものであればよく、前駆体溶液供給手段21の構造等は特に限定されない。基材11の面積あたりの前駆体溶液の噴霧流量が大きくなり過ぎると、前駆体溶液中の溶媒が蒸発されにくくなり、金属有機構造体の結晶サイズが不均一となる。したがって、前駆体溶液の面積あたりの噴霧流量は2mL/cm2・h以下であることが好ましい。これにより、均一な結晶サイズを有する金属有機構造体の分離層12を形成することができる。また、前駆体溶液の面積あたりの噴霧流量が小さくなり過ぎると、分離層12を均一な膜として形成することが難しくなる。したがって、前駆体溶液の面積あたりの噴霧流量は0.2mL/cm2・h以上であることが好ましい。
【0031】
本実施の形態に係る基材11である濾紙の面積は10cm2程度であるので、前駆体溶液の噴霧流量は、2mL/h以上、20mL/h以下であることが好ましい。本実施の形態に係る前駆体溶液供給手段21は、シリンジポンプである。ステップS13で調整した前駆体溶液を50mLのシリンジに吸引し、シリンジポンプにて5.0mL/hの流量で噴霧ノズル23へ供給する。
【0032】
ガス供給手段22は、前駆体溶液を噴霧するためのガスである空気又は不活性ガスを噴霧ノズル23へ供給するものである。ガス供給手段22は、設定された流量でガスを供給できるものであればよく、ガス供給手段22の構造等は特に限定されない。ガス流量が大きくなると、噴霧される前駆体溶液の粒子が小さくなるとともに、金属有機構造体の結晶サイズは小さくなり、均一性が大きくなる。これに対し、ガス流量が小さいと、噴霧される前駆体溶液の粒子及び金属有機構造体の結晶サイズは不均一となる。ガス流量は、分離膜10の製造規模、すなわち分離膜10の大きさ、噴霧装置の大きさ、形成される金属有機構造体の結晶サイズ等に基づいて、適宜調整すればよい。例えば、本実施の形態に係るガス流量は1~3L/minとすることが好ましい。本実施の形態に係るガス供給手段22は、コンプレッサー221及びマスフローコントローラ222を備え、供給ガスである空気を2.0L/minで噴霧ノズル23へ供給する。
【0033】
噴霧ノズル23は、前駆体溶液供給手段21から供給される前駆体溶液と、ガス供給手段22から供給されるガスとを噴射する二流体ノズルであり、基材11に前駆体溶液を噴霧する。二流体ノズルを用いることにより、噴霧される前駆体溶液の粒子径を小さくするとともに、粒子径を調整し易くすることができる。したがって、前駆体溶液に含まれる溶媒の蒸発速度を制御して、生成される金属有機構造体膜(MOF膜)の特性、すなわち分離層12の特性を調整することが可能となる。
【0034】
上述のように、前駆体溶液生成工程のステップS13で調整した前駆体溶液は、噴霧ノズル23から、加熱された基材11上に噴霧される(ステップS14)。上述した前駆体溶液の供給流量、ガスの供給流量等の噴霧条件は、形成されるMOF膜の分離層12に求められる特性によって適宜選択すればよい。
【0035】
基材11は、基材載置台24に設置される。基材載置台24は、基材11を載置するステージと、基材11を所定の温度に加熱する加熱手段とを備える。基材11の加熱温度が高い場合、金属有機構造体の形成における核生成が急激に起こるので、核生成にかかる時間が短くなり、結晶サイズの均一性が高くなると考えられる。また、核生成が急激に起こることで、結晶成長に利用できる溶質が少なくなり、結晶サイズが小さくなると考えられる。これに対し、基材11の加熱温度が低い場合、核生成が緩やかに進むので、結晶の均一性が低くなり、粒子サイズが大きくなると考えられる。したがって、ナノ濾過に適した透過性と選択性とを有する分離膜10を作製するため、基材11の加熱温度を150~250℃とすることが好ましい。本実施の形態では、直径35mmの濾紙を、ホットプレートである基材載置台24に設置して200℃に加熱する。そして、噴霧ノズル23の噴霧孔から9cm下に設置された基材11に、前駆体溶液が噴霧される。
【0036】
本実施の形態では、前駆体溶液は、2.0mL(24分間)噴霧される。加熱された基材11に噴霧された前駆体溶液は、加熱された基材11上で溶媒が蒸発するとともに、MOF膜の分離層12を形成する(ステップS15)。噴霧が完了した後、分離膜10をエタノールで洗浄する(ステップS16)。以上の工程により、HKUST-1の金属有機構造体の分離層12を備えるナノ濾過膜である分離膜10を作製することができる。
【0037】
(透過性評価1)
以下、上記本実施の形態に係る分離膜10の作製条件(以下、基本条件という。)で作製した分離膜10の分離特性を確認するために実施した実験の結果について説明する。本例では比較のため、分子量の異なる複数の色素分子をそれぞれエタノールに溶解させて生成した複数の溶液をクロスフロー濾過して、分離特性の確認を行った。本実験で使用した色素の分子量、分子サイズは、下表の通りである。また、本評価においては、分離膜10の透過率について、溶媒であるエタノールの透過率(L/h・m2・bar)を用いて評価を行った。
【表1】
【0038】
図4に示すように、フロキシンBを分離した場合、96%以上の阻止率を60分間維持することができている。これに対し、メチレンブルー及びローダミンBを分離した場合の阻止率は10%以下であり、ほとんどの色素分子が透過した。また、エタノールの透過率は、62.0L/h・m
2・barであった。これにより、本実施の形態に係る分離膜10は、分子量800程度以上の物質を阻止するとともに、分子量500程度以下の物質を透過することがわかる。
【0039】
続いて基本条件に対して、分離層12の形成に係る条件を変化させた場合の分離特性について説明する。まず、金属有機構造体膜形成工程における基材11の加熱温度を、150℃、200℃、250℃と変化させて分離膜10を作製した場合のフロキシンBの分離実験結果について説明する。
図5に示すように、いずれの加熱温度の場合も、フロキシンBの阻止率96%以上を60分間維持することができている。また、エタノールの平均透過率は、加熱温度150℃の場合で43.3L/h・m
2・bar、加熱温度250℃の場合で64.8L/h・m
2・barであった。この結果から、金属有機構造体膜形成工程における基材11の加熱温度を150~250℃の温度範囲とすることにより、高い分離特性と透過率を備える分離膜10を作製できることがわかる。また、基材11の加熱温度を250℃と高くすることにより、透過率を大きくできることがわかる。
【0040】
続いて基本条件に対して、金属有機構造体膜形成工程における前駆体溶液の噴霧量を1mLとした場合のフロキシンBの分離実験結果について説明する。
図6に示すように、噴霧量1mLの場合、フロキシンBの阻止率98.5%以上を60分間維持することができている。また、エタノールの平均透過率は215L/h・m
2・barであった。この結果から、前駆体溶液の噴霧量を1mL、すなわち基材11の面積あたりの噴霧量を1L/m
2とすることにより、高い阻止率と透過率を有する分離膜10を作製できることがわかる。
【0041】
(透過性評価2)
以下、上記本実施の形態に係る基本条件で作製した分離膜10の分離特性の確認のために実施した、メタノール中に溶解した色素の濾過実験の結果について説明する。本実験で使用した色素の分子量、分子サイズは、下表の通りである。
【表2】
【0042】
図7は、各色素の阻止率と透過率の経時変化を示すグラフである。
図7に示すように、本実施の形態に係るHKUST-1の分離層12を備える分離膜10の分子量カットオフは、酸性フクシンの分子量とサンセットイエローの分子量との間にあると推定される。
【0043】
続いて、推定された分子量カットオフよりも大きい分子量のフロキシンBと、小さい分子量のメチルオレンジとを用いた混合色素メタノール溶液を用いて行った濾過実験結果について説明する。
図8は、この場合の阻止率と透過率の結果を示すグラフである。
図8に示すように、フロキシンBの阻止率は、一時的に99%以上を示したのに対し、メチルオレンジの阻止率は40%程度であった。したがって、本実施の形態に係る分離膜10は、分子量カットオフ(分子量500g/mol程度)以上の分子量の物質を阻止するとともに、分子量カットオフ以下の物質を透過して分離できることがわかる。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態に係る分離膜の製造方法によれば、金属有機構造体の前駆体溶液を、加熱した基材11上に噴霧して分離膜10を形成するので、高い透過性と選択性を有するナノ分離膜を容易に作製することが可能となる。また、分離膜10の基材11として可撓性を有する多孔質基材を用いることにより、分離膜10の柔軟性が高くなるので、割れ等の破損による歩留まり低下を抑制し、分離膜10を容易に作製することができる。また、分離処理時においても、柔軟性が高く、割れによる分離性能の低下を抑制可能な分離膜10を作製することができる。
【0045】
(変形例)
上記実施の形態では、分離膜10は、基材11上に分離層12が形成された複合膜であることとしたが、これに限られない。例えば、保護層形成工程を設け、
図9に示す分離膜10’ように、分離層12上に分離層12を保護する保護層13を形成することとしてもよい。これにより、濾過時の溶液の流れによって生じる剪断応力が分離層12に加わることを防ぎ、分離層12を保護することができる。
【0046】
保護層13の材料、構造等は特に限定されないが、分離膜10’の透過率及び分離性能を低下させないものであることが好ましい。例えば、基材11と同様に、可撓性を有し、分離層12より細孔径の大きい濾紙又は濾布を保護層13として用いることができる。これにより、分離膜10’の透過率の低下を抑制しつつ、分離層12を保護して、分離膜10’の耐久性を向上させることができる。また、保護層13は、単一の材料で構成される単一層に限られず、複数の材料で構成される複数の層であることとしてもよいし、複数の材料で構成される単一層であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ナノ分離に用いられる分離膜の製造に適している。
【符号の説明】
【0048】
10,10’ 分離膜、11 基材、12 分離層、13 保護層、20 噴霧装置、21 前駆体溶液供給手段、22 ガス供給手段、221 コンプレッサー、222 マスフローコントローラ、23 噴霧ノズル、24 基材載置台