(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126292
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ペースト状組成物の評価用パラメータの取得システム、ペースト状組成物の作製方法、並びにペースト状組成物の性状の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20240912BHJP
G01N 33/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N11/00 A
G01N11/00 C
G01N33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034576
(22)【出願日】2023-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【弁理士】
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】神津 博幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】梅田 拓洋
(57)【要約】
【課題】良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の性状を評価可能な新たなパラメータを提案するとともに、当該評価用パラメータを取得するシステム、ペースト状組成物の作製方法やペースト状組成物の性状の評価方法を提供する。
【解決手段】取得システム1は、ペースト状組成物Pを自重により破断させ、吐出部311の開口312から垂下する垂下ペーストP12と、垂下ペーストP11から分離して落下する分離ペーストP12と、を形成する、吐出部311と、分離ペーストP12の質量を取得する秤5と、分離ペーストP12に作用する重力又は分離ペーストP12の質量を、分離ペーストP12の破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する制御装置6と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出式3次元フードプリンタに用いられるペースト状組成物の評価用パラメータの取得システムであって、
ペースト状組成物を下方に向けて吐出する開口を有する吐出部であって、該ペースト状組成物を自重により破断させ、前記吐出部の開口から垂下する垂下ペーストと、該垂下ペーストから分離して落下する分離ペーストと、を形成する、前記吐出部と、
前記分離ペーストの質量を取得する質量取得部と、
前記分離ペーストに作用する重力又は前記分離ペーストの質量を、前記分離ペーストの破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する算出部と、を備える、ペースト状組成物の評価用パラメータの取得システム。
【請求項2】
前記算出部は、前記吐出部の開口の断面積を、前記分離ペーストの破断面の面積として用いて、前記評価用パラメータを算出する、請求項1に記載のペースト状組成物の評価用パラメータの取得システム。
【請求項3】
前記質量取得部は、前記分離ペーストを撮影して画像を生成するカメラを有し、
前記算出部は、前記分離ペーストの画像に基づいて、前記分離ペーストの破断面の面積を取得する、請求項1に記載のペースト状組成物の評価用パラメータの取得システム。
【請求項4】
前記質量取得部は、前記分離ペーストを撮影して画像を生成するカメラを有し、
前記算出部は、前記分離ペーストの画像に基づいて、前記分離ペーストの質量を取得する、請求項1に記載のペースト状組成物の評価用パラメータの取得システム。
【請求項5】
吐出式3次元フードプリンタに用いられるペースト状組成物の作製方法であって、
食材と水とを混合して基礎ペースト状組成物を取得する第1工程と、
前記基礎ペースト状組成物の一部を評価用ペースト状組成物として抽出する第2工程と、
前記評価用ペースト状組成物を吐出部の開口から下方に向けて吐出し、該評価用ペースト状組成物を自重により破断させ、前記吐出部の開口から垂下する垂下ペーストと、該垂下ペーストから分離して落下する分離ペーストと、を形成する第3工程と、
前記分離ペーストの質量を取得する第4工程と、
前記分離ペーストに作用する重力又は前記分離ペーストの質量を、前記分離ペーストの破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する第5工程と、
前記評価用パラメータが予め定められた数値範囲よりも小さい場合は、前記基礎ペースト状組成物に前記食材及び/又は増粘剤を添加し、前記評価用パラメータが該数値範囲よりも大きい場合は、前記基礎ペースト状組成物に水を添加する第6工程と、を有する、ペースト状組成物の作製方法。
【請求項6】
前記第5工程において、前記吐出部の開口の断面積を、前記分離ペーストの破断面の面積として用いて、前記評価用パラメータを算出する、請求項5に記載のペースト状組成物の作製方法。
【請求項7】
前記第5工程において、前記分離ペーストを撮影して取得した画像に基づいて前記分離ペーストの破断面の面積を取得する、請求項5に記載のペースト状組成物の作製方法。
【請求項8】
前記第4工程において、前記分離ペーストを撮影して取得した画像に基づいて前記分離ペーストの質量を取得する、請求項5に記載のペースト状組成物の作製方法。
【請求項9】
吐出式3次元フードプリンタに用いられるペースト状組成物の性状の評価方法であって、
ペースト状組成物の一部を評価用ペースト状組成物として抽出する第1工程と、
前記評価用ペースト状組成物を吐出部の開口から下方に向けて吐出し、該評価用ペースト状組成物を自重により破断させ、前記吐出部の開口から垂下する垂下ペーストと、該垂下ペーストから分離して落下する分離ペーストと、を形成する第2工程と、
前記分離ペーストの質量を取得する第3工程と、
前記分離ペーストに作用する重力又は前記分離ペーストの質量を、前記分離ペーストの破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する第4工程と、
前記評価用パラメータに基づいて、吐出式3次元フードプリンタへの前記分離ペーストの性状の適性を判定する第5工程と、を有する、ペースト状組成物の性状の評価方法。
【請求項10】
前記第5工程において、前記評価用パラメータが予め定められた数値範囲にある場合に、前記ペースト状組成物の性状は適切であると判定する、請求項9に記載のペースト状組成物の性状の評価方法。
【請求項11】
前記第4工程において、前記吐出部の開口の断面積を、前記分離ペーストの破断面の面積として用いて、前記評価用パラメータを算出する、請求項9又は10に記載のペースト状組成物の性状の評価方法。
【請求項12】
前記第4工程において、前記分離ペーストを撮影して取得した画像に基づいて前記分離ペーストの破断面の面積を取得する、請求項9又は10に記載のペースト状組成物の性状の評価方法。
【請求項13】
前記第3工程において、前記分離ペーストを撮影して取得した画像に基づいて前記分離ペーストの質量を取得する、請求項9又は10に記載のペースト状組成物の性状の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状組成物の評価用パラメータの取得システム、ペースト状組成物の作製方法、並びにペースト状組成物の性状の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元プリントは、樹脂の3次元造形に端を発する技術である。広く知られている3次元プリンタは、加熱により融解した樹脂を吐出して造形する熱融解積層法を用いている。他にも複数の方式の3次元プリンタが開発され、金属、木材(樹脂と混合)、及びゲルなどの造形も可能になっており、食品分野への応用も検討されている。一般的な3次元フードプリンタは、食材のペースト状組成物を用いた吐出式であり、シリンジ式、空圧式、及びスクリュー式が存在する(非特許文献1)。
【0003】
食品のデザインに対する関心は年々高まっており、3次元フードプリンタの利用により、形状、食感、味、および栄養成分などがカスタマイズされた食品の作製が期待されている。食品産業において、3次元フードプリンタに適したペースト状組成物に対するニーズは高い。
【0004】
吐出式3次元フードプリンタは、ペースト状組成物を吐出部の開口からステージに向けて吐出し、ステージ上でペースト状組成物を積層させる。吐出部及びステージの一方を、他方に対して移動させながらペースト状組成物を積層させることにより、ペースト状組成物の3次元形状が形成される。
【0005】
このような吐出式3次元フードプリンタに係る特性(以下「プリンタビリティ」という。)として、ペースト状組成物を積層させた後の3次元形状の保形に関する特性や、吐出部又はステージを移動させた際のペースト状組成物の安定供給に関する特性が挙げられる。詳細には、ステージ上で積層されたペースト状組成物の3次元形状は、自重によりつぶれることなく、その形状を保持可能であることが要求される。また、ペースト状組成物は、吐出部又はステージを移動させた際にも分離することなく、連続的にステージ上に供給可能であることが要求される。良好なプリンタビリティを実現するためには、ペースト状組成物の性状を適切なものに設定する必要がある(特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zhenbin Liu, et al., Trends in Food Science & Technology, doi: 10.1016/j.tifs.2017.08.018.
【非特許文献2】Daisuke Nei, et al., Food Science and Technology Research, doi: 10.3136/fstr.FSTR-D-21-00283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プリンタビリティとペースト状組成物の性状との相関の体系的な整理は、これまで十分になされていない。そこで、本発明は、良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の性状を評価可能な新たなパラメータを提案するとともに、当該評価用パラメータを取得するシステム、当該評価用パラメータを用いたペースト状組成物の作製方法やペースト状組成物の性状の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
吐出式3次元フードプリンタの吐出部の開口から吐出されたペースト状組成物は、その自重により、ペースト状組成物を鉛直方向に引き延ばそうとする力が内部に作用する。以下の説明では、自重により破断したペースト状組成物のうち、吐出部の開口から垂下する部分を「垂下ペースト」といい、垂下ペーストから分離して落下した部分を「分離ペースト」という。
【0010】
ペースト状組成物の破断時に破断面に作用する力Fは、分離ペーストに作用する重力に相当する。つまり、分離ペーストの質量mを取得できれば、破断面に作用する力Fは、質量mと重力加速度gとの乗算により取得することが可能である。このため、ペースト状組成物の破断面の面積をSとすれば、ペースト状組成物の破断時に破断面に作用する単位面積当たりの力σ(以下「単位面積当たりの力σ」ともいう。)は、式f1のように表すことができる。
【数1】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するための検討において、この単位面積当たりの力σと、プリンタビリティとの相関に着目した。
【0012】
吐出開始から比較的短時間で破断するペースト状組成物の場合、分離ペーストの質量mは比較的小さい。つまり、単位面積当たりの力σも比較的小さい。本発明者らの検討によれば、このようなペースト状組成物は、流動性が高く、ステージ上のペースト状組成物の3次元形状は自重によってつぶれて保形が困難になり、吐出式3次元フードプリンタへの使用に適さない性状となる可能性が示された。
【0013】
また、吐出開始から破断までに比較的長時間を要するペースト状組成物の場合、分離ペーストの質量mは比較的大きい。つまり、単位面積当たりの力σも比較的大きい。本発明者らの検討によれば、このようなペースト状組成物は、流動性が低く、吐出部又はステージを移動させた際に分離し、連続的にステージ上に供給することが困難になり、やはり吐出式3次元フードプリンタへの使用に適さない性状となる可能性が示された。
【0014】
一方、単位面積当たりの力σが所定の数値範囲にある場合に、ペースト状組成物は、3次元形状の保形が可能で、且つ、吐出部又はステージを移動させた際にも連続的にステージ上に供給可能な性状となることが確認できた。換言すると、単位面積当たりの力σが、当該数値範囲よりも小さい場合に、ペースト状組成物の3次元形状の保形が困難となり、単位面積当たりの力σが当該数値範囲よりも大きい場合に、ペースト状組成物を連続的にステージ上に供給することが困難になる傾向が確認できた。当該数値範囲は、食材の種類等により異なる範囲である。
【0015】
上述したように、ペースト状組成物の破断時に破断面に作用する力Fは、分離ペーストに作用する重力mgに相当する。重力加速度gは一定値(約9.8m/s
2)である。したがって、単位面積当たりの力σに代えて、式f2のように重力加速度gを用いることなく表される値σ
0を用いた場合にも、値σ
0とペースト状組成物の性状との相関に、単位面積当たりの力σとペースト状組成物の性状との相関と同様の傾向を確認できた。
【数2】
【0016】
以上の知見に基づき、本発明の一態様は、吐出式3次元フードプリンタに用いられるペースト状組成物の評価用パラメータの取得システムであって、ペースト状組成物を下方に向けて吐出する開口を有する吐出部であって、該ペースト状組成物を自重により破断させ、前記吐出部の開口から垂下する垂下ペーストと、該垂下ペーストから分離して落下する分離ペーストと、を形成する、前記吐出部と、前記分離ペーストの質量を取得する質量取得部と、前記分離ペーストに作用する重力又は前記分離ペーストの質量を、前記分離ペーストの破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する算出部と、を備える。
【0017】
本発明の他の態様は、吐出式3次元フードプリンタに用いられるペースト状組成物の作製方法であって、食材と水とを混合して基礎ペースト状組成物を取得する第1工程と、前記基礎ペースト状組成物の一部を評価用ペースト状組成物として抽出する第2工程と、前記評価用ペースト状組成物を吐出部の開口から下方に向けて吐出し、該評価用ペースト状組成物を自重により破断させ、前記吐出部の開口から垂下する垂下ペーストと、該垂下ペーストから分離して落下する分離ペーストと、を形成する第3工程と、前記分離ペーストの質量を取得する第4工程と、前記分離ペーストに作用する重力又は前記分離ペーストの質量を、前記分離ペーストの破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する第5工程と、前記評価用パラメータが予め定められた数値範囲よりも小さい場合は、前記基礎ペースト状組成物に前記食材及び/又は増粘剤を添加し、前記評価用パラメータが該数値範囲よりも大きい場合は、前記基礎ペースト状組成物に水を添加する第6工程と、を有する。
【0018】
本発明のさらに他の態様は、吐出式3次元フードプリンタに用いられるペースト状組成物の性状の評価方法であって、ペースト状組成物の一部を評価用ペースト状組成物として抽出する第1工程と、前記評価用ペースト状組成物を吐出部の開口から下方に向けて吐出し、該評価用ペースト状組成物を自重により破断させ、前記吐出部の開口から垂下する垂下ペーストと、該垂下ペーストから分離して落下する分離ペーストと、を形成する第2工程と、前記分離ペーストの質量を取得する第3工程と、前記分離ペーストに作用する重力又は前記ペーストの質量を、前記分離ペーストの破断面の面積で除すことにより評価用パラメータを算出する第4工程と、前記評価用パラメータに基づいて、吐出式3次元フードプリンタへの前記分離ペーストの性状の適性を判定する第5工程と、を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の性状を評価可能なパラメータを取得するシステム、当該評価用パラメータを用いたペースト状組成物の作製方法やペースト状組成物の性状の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係るペースト状組成物の評価用パラメータの取得システムを示す模式図である。
【
図2】吐出部の開口から吐出されるペースト状組成物を示す拡大図である。
【
図3】吐出部の開口から吐出されるペースト状組成物を示す拡大図である。
【
図4】吐出部の開口から吐出されるペースト状組成物を示す拡大図である。
【
図5】破断面に作用する単位面積当たりの力とプリンタビリティとの相関を示す図である。
【
図6】ペースト状組成物の作製方法を示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係るペースト状組成物の評価用パラメータの取得システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施形態]
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素には可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0022】
まず、
図1を参照しながら、実施形態に係る評価用パラメータの取得システム1(以下「システム1」という。)について説明する。
図1は、システム1を示す模式図である。
【0023】
システム1は、架台2と、吐出器3と、シリンジポンプ4と、秤5と、制御装置6と、を備えている。
【0024】
架台2は、ステンレス鋼やアルミニウム合金等の金属材料により形成され、ポンプ保持部21と、柱部22と、を有している。ポンプ保持部21は、シリンジポンプ4を保持可能に構成されている。柱部22は、ポンプ保持部21から下方に直線状に延びている。柱部22の下端が天板T上に固定されることにより、架台2は天板T上に立設している。
【0025】
吐出器3は、外筒31と、押子32とを有している。
図1は、外筒31の断面を示している。外筒31は、略円筒形状を呈しており、その端部に、外筒31の軸線方向に沿って突出する吐出部311を有している。吐出部311の先端には、開口312が形成されている。開口312は、直径Dの略真円形状の断面を有している。外筒31の内部の空間は、この開口312を介して外部と連通している。押子32は、その先端にガスケット321を有している。ガスケット321を含む押子32の一部は、外筒31の軸線方向に沿って摺動可能となるように、外筒31の内部に配置されている。外筒31の内部で押子32が摺動することにより、ガスケット321と吐出部311との間の収容空間3aの容積を変更可能である。このような構成を有する吐出器3として、例えば医療用シリンジを採用することができる。本実施形態では、吐出器3として、規定容量が30mlのシリンジ(テルモ株式会社製)が採用されている。
【0026】
収容空間3aには、ペースト状組成物Pが充填されている。ペースト状組成物Pは、吐出式3次元フードプリンタにおいて造形用材料として使用される組成物である。ペースト状組成物Pは、食材と、水とを混合することにより作製される。また、必要に応じて、増粘剤がペースト状組成物Pに添加される。
【0027】
ペースト状組成物Pに用いられる食材として、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができる。食材として、例えば、おから粉、コオロギ粉、小豆粉、マッシュポテトフレーク、カボチャフレーク、ポテト粉、きな粉、キャベツ粉、乾燥あん(さらしあん、白さらしあん等)、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉、小麦粉、澱粉粉、サツマイモ粉、オオムギ粉、カボチャ粉、トマト粉、ブロッコリー粉、大根粉、タマネギ粉、ニンジン粉、リンゴ粉、温州ミカン粉、オレンジ粉、柿粉、及び、パイナップル粉から選択される粉粒体を用いることができる。
【0028】
ペースト状組成物Pに用いられる増粘剤として、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができる。増粘剤は、例えば、増粘多糖類を1種以上含んでもよい。増粘多糖類として、例えば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、プルラン、カルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩、ゼラチン、寒天、ペクチン、及びキサンタンガム等を用いることができる。
【0029】
シリンジポンプ4は、ホルダ41と、プッシャ42とを有している。ホルダ41は、開口312が下方を向くように吐出器3の外筒31を固定している。シリンジポンプ4に内蔵されている電動アクチュエータ(不図示)が駆動すると、プッシャ42が所定の速度でホルダ41に接近又はホルダ41から離間するように移動する。
【0030】
秤5は、その上面に載置された物体の質量を測定する機器であり、本発明に係る「質量取得部」の一例である。
図1は、上面にシャーレSが配置された秤5を示している。秤5は、測定した物体の質量に対応する測定信号を生成し、外部に送信する。
【0031】
制御装置6は、制御信号を外部に送信する機能と、外部から受信した信号に基づいて所定の演算を行って情報を取得する機能とを有している。具体的には、制御装置6は、シリンジポンプ4や秤5に制御信号を送信することにより、それらの動作を制御する。また、制御装置6は、秤5から受信した測定信号に基づいて演算を行い、秤5が測定した物体の質量を取得するとともに、後述する評価用パラメータを算出する。制御装置6は、本発明に係る「算出部」の一例である。
【0032】
シリンジポンプ4が制御装置6から制御信号を受信し、プッシャ42がホルダ41に接近するように移動すると、プッシャ42の下面42aが吐出器3の押子32を押し下げる。このときのプッシャ42の移動速度は、制御信号に基づいて決定してもよいし、シリンジポンプ4が予め備えているプログラムに従って決定してもよい。押し下げられた押子32は、そのガスケット321で、収容空間3aに充填されているペースト状組成物Pを加圧する。これにより、ペースト状組成物Pが、吐出部311の開口312を介して下方に吐出される。
【0033】
開口312から吐出されたペースト状組成物PがシャーレS上に落下すると、秤5は、質量の変化を検知し、ペースト状組成物Pの質量を測定する。秤5は、測定したペースト状組成物Pの質量に対応する測定信号を生成し、制御装置6に送信する。
【0034】
制御装置6は、秤5から受信した測定信号に基づいて演算を行うことにより、シャーレS上に落下したペースト状組成物Pの質量を取得する。また、制御装置6は、取得したペースト状組成物Pの質量を用いて所定の演算を行うことにより、後述する評価用パラメータを算出する。制御装置6は、算出した評価用パラメータに対応するパラメータ信号を生成して外部に送信する。
【0035】
当該パラメータ信号は、例えば表示装置(不図示)により受信される。表示装置は、パラメータ信号に対応する評価用パラメータを数値で表示する。システム1を操作する作業者は、この表示装置の表示内容を目視することにより、評価用パラメータを確認することができる。
【0036】
次に、
図2~4を参照しながら、システム1によるペースト状組成物の吐出について説明する。
図2~4は、吐出部311の開口312から吐出されるペースト状組成物を示す拡大図であり、本発明者らが、システム1を用いて性状が異なる3つのペースト状組成物を吐出させた際の様子を示している。
図2(A)、
図3(A)、
図4(A)はペースト状組成物が破断する直前の様子を示し、
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)はペースト状組成物が破断した直後の様子を示している。ここで使用されているペースト状組成物は、カボチャフレークを食材として含んでいる。
【0037】
図2は、食材の含量が18.2質量%であるペースト状組成物P1を、吐出部311の開口312から吐出する様子を示している。ペースト状組成物P1は、比較的流動性が高く、吐出開始から比較的短い時間t1で自重により破断した。ペースト状組成物P1が破断することにより、吐出部311の開口312から垂下する垂下ペーストP11と、垂下ペーストP11から分離して落下する分離ペーストP12と、が形成された。
【0038】
吐出開始から比較的短い時間t1でペースト状組成物P1が破断することにより、分離ペーストP12の鉛直方向寸法L1や質量m1は比較的小さくなる。ペースト状組成物P1の破断時に破断面P12aに作用する力は、分離ペーストP12に作用する重力m1g(gは重力加速度)に相当する。このため、破断面P12aに作用する単位当たりの力は、分離ペーストP12に作用する重力を、破断面P12aの面積で除すことにより得られる。
【0039】
ところで、ペースト状組成物P1は、直径Dの略真円形状の断面を有する開口312から吐出されるため、破断面P12aも、略真円形状とみなせる。また、破断面P12aの直径D1は、開口312の断面の直径Dと略同一とみなせる。したがって、破断面P12aの面積は、概ね開口312の断面積πD
2/4と等しいとみなせる。これより、ペースト状組成物P1の破断面12aに作用する単位面積当たりの力σ
1は、分離ペーストP12に作用する重力m
1gを断面積πD
2/4で除す式f3により算出される。
【数3】
【0040】
図3は、食材の含量が25.0質量%であるペースト状組成物P2を、吐出部311の開口312から吐出する様子を示している。ペースト状組成物P2は、食材の含量が18.2質量%であるペースト状組成物P1(
図2参照)と比べて流動性が低く、吐出開始から時間t2で自重により破断した。時間t2は、上述した時間t1よりも長い。ペースト状組成物P2が破断することにより、吐出部311の開口312から垂下する垂下ペーストP21と、垂下ペーストP21から分離して落下する分離ペーストP22と、が形成された。
【0041】
時間t1よりも長い時間t2でペースト状組成物P2が破断することにより、分離ペーストP22の鉛直方向寸法L2は、分離ペーストP12の鉛直方向寸法L1(
図2参照)よりも大きくなる。また、分離ペーストP22の質量m
2も、分離ペーストP12の質量m
1よりも大きくなる。ペースト状組成物P2の破断時に破断面P22aに作用する力は、分離ペーストP22に作用する重力m
2gに相当する。したがって、破断面P22aを略真円形状とみなし、破断面P22aの直径D2を開口312の断面の直径Dと同一とみなせば、ペースト状組成物P2の破断面22aに作用する単位面積当たりの力σ
2は、分離ペーストP22に作用する重力m
2gを断面積πD
2/4で除す式f4により算出される。
【数4】
【0042】
図4は、食材の含量が30.8質量%であるペースト状組成物P3を、吐出部311の開口312から吐出する様子を示している。ペースト状組成物P3は、食材の含量が18.2質量%であるペースト状組成物P1(
図2参照)や25.0質量%であるペースト状組成物P2(
図3参照)と比べて流動性が低く、吐出開始から時間t3で自重により破断した。時間t3は、上述した時間t1,t2よりも長い。ペースト状組成物P3が破断することにより、吐出部311の開口312から垂下する垂下ペーストP31と、垂下ペーストP31から分離して落下する分離ペーストP32と、が形成された。
【0043】
時間t1,t2よりも長い時間t3でペースト状組成物P2が破断することにより、分離ペーストP32の鉛直方向寸法L3は、分離ペーストP12の鉛直方向寸法L1(
図2参照)や分離ペーストP22の鉛直方向寸法L2(
図3参照)よりも大きくなる。また、分離ペーストP32の質量m
3も、分離ペーストP12の質量m
1や分離ペーストP22の質量m
2よりも大きくなる。ペースト状組成物P3の破断時に破断面P32aに作用する力は、分離ペーストP32に作用する重力m
3gに相当する。したがって、破断面P32aを略真円形状とみなし、破断面P32aの直径D3を開口312の断面の直径Dと同一とみなせば、ペースト状組成物P3の破断面32aに作用する単位面積当たりの力σ
3は、分離ペーストP32に作用する重力m
3gを断面積πD
2/4で除す式f5により算出される。
【数5】
【0044】
次に、
図5を参照し、良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の破断面に作用する単位面積当たりの力σ(以下「単位面積当たりの力σ」という。)について説明する。
図5は、単位面積当たりの力σとプリンタビリティとの相関を示す図である。
図5は、横軸を食材含量とし、縦軸を単位面積当たりの力σとしたグラフを示している。同グラフには、本発明者らが、食材の含量が互いに異なる複数のペースト状組成物を用意し、システム1を用いて流量1.0ml/min及び1.5ml/minで各ペースト状組成物を吐出し、各ペースト状組成物に関して算出した単位面積当たりの力σがプロットされている。
【0045】
図5は、グラフの右側に、各ペースト状組成物を用いた吐出式3次元フードプリンタにより形成された3次元形状を示している。当該吐出式3次元フードプリンタは、スクリュー式3次元フードプリンタであり、ペースト状組成物を混錬しながら吐出するとともに、吐出部を移動させる。ペースト状組成物の3次元形状の保形や、吐出部を移動させた際のペースト状組成物の供給に関し、以下のような傾向が確認できた。
【0046】
単位面積当たりの力σが400Paよりも小さいペースト状組成物(
図2に示したペースト状組成物P1がこれに相当)を3次元フードプリンタに用いたところ、ペースト状組成物は吐出部を移動させた際にも分離することなく、連続的にステージ上に供給可能であった。しかしながら、ステージ上に形成されたペースト状組成物の3次元形状PS1の保形が困難であり、3次元形状PS1は所望の形状とはならなかった。具体的には、当該ペースト状組成物は比較的流動性が高いため、時間経過とともに3次元形状PS1が自重によってつぶれ、扁平化する様子が確認された。このため、このペースト状組成物は、吐出式3次元フードプリンタへの使用に適さないといえる。
【0047】
単位面積当たりの力σが400~900Paの範囲にあるペースト状組成物(
図3に示したペースト状組成物P2がこれに相当)を3次元フードプリンタに用いたところ、ペースト状組成物は吐出部を移動させた際にも分離することなく、連続的にステージ上に供給可能であった。また、ステージ上に形成されたペースト状組成物の3次元形状PS2の保形も良好であり、3次元形状PS2は所望の形状となった。このため、このペースト状組成物は、吐出式3次元フードプリンタへの使用に適しているといえる。
【0048】
単位面積当たりの力σが900Paよりも大きいペースト状組成物(
図4に示したペースト状組成物P3がこれに相当)を3次元フードプリンタに用いたところ、吐出部を移動させた際にペースト状組成物が分離した。具体的には、このペースト状組成物は比較的流動性が低いため、吐出部を移動させた際にペースト状組成物がそれに追従できず、分離した。その結果、ステージ上の3次元形状PS3は所望の形状とはならなかった。このため、このペースト状組成物は、吐出式3次元フードプリンタへの使用に適さないといえる。
【0049】
このような傾向から、単位面積当たりの力σを評価用パラメータとして用いることにより、良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の性状を評価できることがわかる。上述したカボチャフレークを食材として含むペースト状組成物では、評価用パラメータが400~900Paの範囲にある場合は、当該ペースト状組成物の性状は適切であると判定できる。以下の説明では、このように良好なプリンタビリティを実現できる評価用パラメータの範囲を「安定造形領域」という。
【0050】
一方、評価用パラメータが「安定造形領域」にない場合は、ペースト状組成物の性状は適切ではないと判定できる。この場合、評価用パラメータが「安定造形領域」に含まれるように、ペースト状組成物の組成を調整することが必要となる。具体的には、評価用パラメータが「安定造形領域」よりも小さいペースト状組成物の場合は、流動性を低下させるために、当該ペースト状組成物に食材及び/又は増粘剤を添加すればよい。また、評価用パラメータが「安定造形領域」よりも大きいペースト状組成物の場合は、流動性を高めるために、当該ペースト状組成物に水を添加すればよい。以下の説明では、「安定造形領域」よりも小さい評価用パラメータの範囲を「第1非安定造形領域」といい、安定造形領域よりも大きい評価用パラメータの範囲を「第2非安定造形領域」という。
【0051】
次に、
図6を参照しながら、作業者がシステム1(
図1参照)を使用しながらペースト状組成物を作製する方法について説明する。
図6は、ペースト状組成物の作製方法を示すフローチャートである。
【0052】
まず、ステップS1で、作業者は、少なくとも食材と水とを混合することにより、基礎ペースト状組成物(不図示)を作製する。食材は、粉粒状やフレーク状等、種々の形態のものを採用し得る。
【0053】
次に、ステップS2で、作業者は、ステップS1で作製した基礎ペースト状組成物の一部(例えば、30ml分)を抽出する。以下の説明では、抽出されたこの基礎ペースト状組成物の一部を「評価用ペースト状組成物」という。そして、この評価用ペースト状組成物を、システム1の吐出器3の外筒31(
図1参照)の内部に充填する。
【0054】
次に、ステップS3で、作業者は、システム1を動作させ、吐出部311の開口312(
図1参照)から評価用ペースト状組成物を吐出させる。ここでは、評価用ペースト状組成物がその自重により破断して分離ペーストが形成され、この分離ペーストが秤5上のシャーレS(
図1参照)に落下するまで、評価用ペースト状組成物を吐出させる。
【0055】
次に、ステップS4で、システム1が、分離ペーストの質量mを取得する。具体的には、システム1の制御装置6(
図1参照)が、秤5から受信した測定信号に基づいて演算を行い、秤5が測定した分離ペーストの質量mを取得する。
【0056】
次に、ステップS5で、システム1の制御装置6が、評価用パラメータσを算出する。評価用パラメータσは、式f6により算出される。
【数6】
【0057】
次に、ステップS6で、作業者は、ステップS5で算出され、表示装置(不図示)に表示された評価用パラメータσに基づいて、評価用ペースト状組成物の造形領域を判定する。具体的には、作業者は、評価用パラメータσが、上述した「安定造形領域」、「第1非安定造形領域」、及び「第2非安定造形領域」のいずれにあるかを判定する。各領域は、基礎ペースト状組成物に用いられている食材の種類等により異なる。評価用パラメータσが「安定造形領域」にある場合は、評価用ペースト状組成物の性状は適切であると判断できる。つまり、基礎ペースト状組成物の性状は、良好なプリンタビリティを実現する観点から適切であり、吐出式3次元フードプリンタへの使用に適していると判断できる。このため、さらなる基礎ペースト状組成物の組成の調整を要することなく、ペースト状組成物の作製がここで完了する。
【0058】
一方、ステップS6で、作業者が、評価用パラメータσは「第1非安定造形領域」にあると判定した場合、ステップS7に進む。そして、作業者は、基礎ペースト状組成物に食材及び/又は増粘剤を添加し、基礎ペースト状組成物の組成の調整を行う。
【0059】
また、ステップS6で、作業者が、評価用パラメータσは「第2非安定造形領域」にあると判定した場合、ステップS8に進む。そして、作業者は、基礎ペースト状組成物に水を添加し、基礎ペースト状組成物の組成の調整を行う。
【0060】
ステップS7又はステップS8の終了後、ステップS2に戻り、作業者は、組成の調整を行った基礎ペースト状組成物の一部を新たな評価用ペースト状組成物として抽出し、システム1の吐出器3の外筒31の内部に充填する。そして、評価用ペースト状組成物の評価用パラメータσが「安定造形領域」にあると判定されるまで、上述した各ステップを繰り返す。
【0061】
次に、実施形態に基づく作用効果について説明する。
【0062】
システム1によれば、良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の性状を評価可能なパラメータを取得することができる。
【0063】
また、上述したペースト状組成物の性状の評価方法によれば、良好なプリンタビリティを実現する観点から、ペースト状組成物の性状を評価することが可能である。さらに、上述したペースト状組成物の作製方法によれば、良好なプリンタビリティをもたらすペースト状組成物を作製することが可能なる。
【0064】
評価用パラメータσの算出には、ペースト状組成物の破断面の面積が必要になる。システム1の制御装置6は、吐出部311の開口312の断面積πD2/4を、分離ペーストの破断面の面積として用いて、評価用パラメータσを取得する。これにより、評価用パラメータσの精度を高いものとしつつ、評価用パラメータσを算出する際の演算負荷を軽減することが可能になる。
【0065】
[変形例]
次に、変形例に係る評価用パラメータの取得システム1A(以下「システム1A」という。)について、
図7を参照しながら説明する。
図7は、システム1Aを示す模式図である。
【0066】
システム1Aは、実施形態と同様に、ペースト状組成物の評価用パラメータの取得に用いられる。システム1Aは、秤5、制御装置6(
図1)に代えて、カメラ7、制御装置6Aを備えている点で、実施形態と異なる。システム1Aの構成のうち、実施形態と機能的に同一の構成については同一の符号を付して、説明を適宜省略する。
【0067】
カメラ7は、物体の質量を測定する機器であり、本発明に係る「質量取得部」の一例である。カメラ7は、そのレンズを開口312とシャーレSとの間の空間に向けるように配置されている。カメラ7は、制御装置6Aから受信する制御信号に基づいて、当該空間に存在する物体を撮影するように構成されている。具体的には、カメラ7は、分離ペーストを撮影するとともに、分離ペーストの画像に対応する画像信号を生成し、制御装置6Aに送信する。
【0068】
画像信号を受信した制御装置6Aは、公知の画像解析を行うことにより、分離ペーストに関する情報を取得する。具体的には、制御装置6Aは、分離ペーストの画像を解析することにより、破断面の面積を算出する。例えば、破断面を略真円形状とみなせば、破断面の水平方向寸法は、破断面の直径とみなすことができる。このため、例えば、カメラ7が撮影した画像の破断面の水平方向寸法から、
図2~4に示す直径D1,D2,D3を取得できれば、破断面P12a,P22a,P32aの面積πD1
2/4,πD2
2/4,πD3
2/4を算出することができる。
【0069】
また、制御装置6Aは、分離ペーストの画像を解析することにより、その分離ペーストの質量を算出する。分離ペーストの単位体積当たりの質量を予め取得しておくことにより、カメラ7が撮影した画像に含まれる分離ペーストの鉛直方向寸法及び破断面の面積に基づいて、その分離ペーストの質量を算出することができる。
【0070】
制御装置6Aは、このようにして得られる破断面の面積と、分離ペーストの質量とを用いて、ペースト状組成物の破断面に作用する単位面積当たりの力、すなわち評価用パラメータを算出することができる。
【0071】
垂下するペースト状組成物は、自重により水平方向寸法が縮小する傾向がある。このため、厳密には、破断面の面積は、開口312の断面積とは異なるものになる。システム1Aは、カメラ7が撮影した画像を用いることにより、自重の影響を受けた実際の破断面の面積を取得することが可能になり、評価用パラメータの精度及びペースト状組成物の性状の評価精度を高めることが可能になる。
【0072】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されず、適宜変更することができる。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、分離ペーストに作用する重力を分離ペーストの破断面の面積で除すことにより得られる単位面積当たりの力σを、評価用パラメータとしている。しかしながら、本発明は、単位面積当たりの力σに代えて、上述した式f2により得られるσ0を、評価用パラメータとしてもよい。
【0074】
評価用パラメータσ
0を用いて評価用ペースト状組成物の造形領域を判定する場合、当該評価用パラメータσ
0の値に応じて「安定造形領域」、「第1非安定造形領域」及び「第2非安定造形領域」を定める必要がある。例えば、
図5に示す評価用パラメータσを評価用パラメータσ
0に置き換えた場合、その縦軸に用いられている数値は、約9.8で除したものとなる。
【符号の説明】
【0075】
1,1A:取得システム
3:吐出器
311:吐出部
312:開口
5:秤(質量測定部)
6:制御装置(算出部)
7:カメラ(質量測定部)
P:ペースト状組成物
P11,P21,P31:垂下ペースト
P12,P22,P32:分離ペースト