(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126349
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】パス率予測システム、パス率予測システムを有する粒子線治療システムおよびパス率予測方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034664
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC04
4C082AE01
4C082AP03
4C082AR12
(57)【要約】
【課題】患部へ粒子線を照射する治療計画情報と測定深さ情報とを予測モデルへ適用して予測パス率を生成すること。
【解決手段】パス率予測システムは、粒子線4を患部3へ照射する治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて生成された予測モデルと、新たな治療計画情報および測定深さ情報を予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する推論部230とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を患部へ照射する治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて生成された予測モデルと、
新たな治療計画情報および測定深さ情報を前記予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する推論部と
を備えるパス率予測システム。
【請求項2】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記測定深さ情報は、前記治療計画情報に含まれる粒子線の照射方向ごとに少なくとも1つ設定され、
前記予測モデルは、前記照射方向ごと、かつ前記測定深さ情報ごとに前記予測パス率を生成する
パス率予測システム。
【請求項3】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記予測モデルは、前記治療計画情報および前記測定深さ情報から生成される2次元線量分布の一様さの程度を示す分布複雑性指標を用いて、前記予測パス率を生成する
パス率予測システム。
【請求項4】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記予測モデルは、前記治療計画情報に含まれる照射パラメータを用いて、前記予測パス率を生成する
パス率予測システム。
【請求項5】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記予測モデルは、前記治療計画情報および前記測定深さ情報から生成される2次元線量分布を用いて、前記予測パス率を生成する
パス率予測システム。
【請求項6】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記測定深さ情報は、前記治療計画情報に基づいて決定される
パス率予測システム。
【請求項7】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記測定深さ情報は、前記治療計画情報および前記測定深さ情報から生成される2次元線量分布の一様さの程度を示す分布複雑性指標が所定基準を満たすように決定される
パス率予測システム。
【請求項8】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記測定深さ情報は、前記患部に関する症例の状態に基づいて決定される
パス率予測システム。
【請求項9】
請求項1記載のパス率予測システムであって、
前記既存の治療情報を記憶する記憶部をさらに備えており、
前記記憶部には、前記治療計画情報に含まれる前記粒子線の照射方向ごとに、前記測定深さ情報と当該測定深さ情報において実測された前記実測パス率とが対応付けられて記憶されている
パス率予測システム。
【請求項10】
請求項1に記載のパス率予測システムであって、
前記予測パス率を提供する情報提供部をさらに備えており、
前記情報提供部は、前記粒子線の照射方向ごとに、前記測定深さ情報と当該測定深さ情報において予測される前記予測パス率とを対応付けて提供する
パス率予測システム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のパス率予測システムを備える、粒子線治療システム。
【請求項12】
粒子線を患部へ照射する際の予測パス率を生成する方法であって、
治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて予測モデルを生成し、
新たな治療計画情報および測定深さ情報を取得し、
前記取得された前記新たな治療計画情報および測定深さ情報を前記予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する
パス率予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パス率予測システム、パス率予測システムを有する粒子線治療システムおよびパス率予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「第1の患者の第1の放射線治療計画における1つ以上の計画パラメータと、パラメータおよび前記第1の放射線治療計画の1つ以上のパス率データに基づいてパス率を予測するモデルを作成し、第2の患者の第2の放射線治療計画における計画パラメータを受け取り、前記第2の患者の第2の放射線治療計画の計画パラメータの1つ以上の予測パス率を生成するために、前記第2の治療計画の計画パラメータを前記予測モデルに適応する、方法」が示されている。
【0003】
非特許文献1には、前立腺癌患者のSFUD(Single-Field Uniform Dose)を用いたスポットスキャニング陽子線治療の患者特有の品質保証(QA:Quality Assurance)に関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】X. Ronald Zhu, et. al. “Patient-Specific Quality Assurance for Prostate Cancer Patients Receiving Spot Scanning Proton Therapy Using Single-Field Uniform Dose”, Int J Radiat Oncol Biol Phys 2011;81:552-559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
陽子線などの荷電粒子線を患部へ照射する粒子線治療では、治療計画装置などを用いて、患者ごとに、粒子線の照射方向および機器の設定値などを含む治療計画情報をあらかじめ作成する。粒子線の照射は、治療計画情報に保存されている設定値に基づき実施されるが、実際には治療装置の機器的誤差が発生するため、治療装置から照射される線量分布と治療計画の作成時に想定された計画線量分布との間に差異が生じる可能性がある。そのため、治療計画情報は、品質保証(QA:Quality Assurance)を実施した後に、治療に用いられる。治療計画情報の品質保証を行うことを患者QAと呼ぶ。
【0007】
一般的に、患者QAの1つの項目として線量分布検証を実施する。線量分布検証では、治療装置を用いて治療計画情報に則った照射を行い、2次元配列検出器または円筒形検出器などを用いて、治療装置から出力された線量分布を実測する。その後、実測した線量分布(以下、実測線量分布)と、実測体系に対して放射線照射をシミュレーションして得られた線量分布(以下、QA線量分布)との一致度を表すパス率を算出し、算出されたパス率が事前に定められた閾値以上であるか検証する。線量分布検証は、治療装置を用いた実測に基づくものであり、通常、検出器の準備と粒子線の照射などとのために数時間を必要とする。
【0008】
X線治療で広く実施されているIMRT(Intensity-Modulated Radiation Therapy)の線量分布検証では、2次元配列検出器を用いて照射方向毎に実測線量分布を測定する場合と、円筒形検出器を用いて全ての照射方向を合算して実測線量分布を測定する場合との2つの方法がある。どちらの方法でも共通しているのは、X線は物質の通過距離によって付与する線量があまり変化しないため、測定する位置は1点(通常はアイソセンタ付近が選ばれる)である。
これに対し粒子線は、一定の深さ以降に線量を付与しないという飛程の特徴がある。粒子線を物質へ照射する場合、X線と異なり物質の通過距離によって付与する線量が大きく変化するため、X線治療と同じ線量分布検証が適用できない。
【0009】
非特許文献1には、スポットスキャニング陽子線治療向けの線量分布検証の方法が開示されている。非特許文献1では照射方向毎に複数の測定深さをあらかじめ設定し、固体ファントムの後方に設置した2次元配列検出器によって、各測定深さにて2次元線量分布を実測し、ガンマパス率を算出する。固体ファントムは、陽子線の通過距離を調整して、2次元配列検出器により測定される深さを調整するために設置される。測定深さの設定は、陽子線が形成する拡大ブラッグピークの形状に応じて、浅い点、アイソセンタ点、深い点の3点程度が選択される。測定点は、治療計画情報毎にユーザが任意に設定する。
【0010】
以上のように、非特許文献1は、陽子線が持つ飛程という特徴に対応して、照射方向毎に複数の測定深さで実施する線量分布検証方法を提供する。しかし実測が必要という点では、従来X線治療で実施されてきた方法と同じであり、検出器の準備や照射などで数時間を要する。
【0011】
特許文献1には、治療計画情報からガンマパス率を予測する手法が開示されている。この方法では、第1の患者の治療計画情報とガンマパス率との組からガンマパス率を予測する予測モデルを構築し、第2の患者の治療計画情報に予測モデルを適用することで、予測ガンマパス率を生成する。予測ガンマパス率の生成には、検出器の準備や照射が不要であり、従来の測定ベースの患者QAと比べて短時間に実施することができる。
【0012】
しかし特許文献1は、X線治療向けに開発された技術であり、飛程の特徴を持つ粒子線治療の患者QAには対応できない。すなわち粒子線治療の線量分布検証は、照射方向毎に複数の測定深さに対して実測をするが、特許文献1の技術では測定深さ情報が含まれていないため、照射方向毎に複数の測定深さに対応した予測ガンマパス率を生成することはできない。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、患部へ粒子線を照射する治療計画情報と測定深さ情報とを予測モデルへ適用して予測パス率を生成する、パス率予測システム、パス率予測システムを有する粒子線治療システムおよびパス率予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明に従うパス率予測システムは、粒子線を患部へ照射する治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて生成された予測モデルと、新たな治療計画情報および測定深さ情報を予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する推論部とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新たな治療計画情報および測定深さ情報を予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】データベース210の記憶内容の例を示す説明図。
【
図3】予測モデルを生成する処理を示すフローチャート。
【
図6】QA線量分布から断面2次元線量分布を抽出する方法の説明図。
【
図9】前処理のさらに別の例を示すフローチャート。
【
図13】第2実施例に係る粒子線治療システムの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係るパス率予測システムは、あらかじめ生成された予測モデルを用いて、これから実施予定の治療計画情報のパス率を予測する。本実施形態のパス率予測システムは、第1の患者の治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率情報に基づいてパス率を予測するモデルを生成し、第2の患者の治療計画情報と測定深さ情報とを予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する。本開示においてパス率は、例えばガンマパス率、線量差データまたはこれらの組み合わせである。患者QAに要する時間を短縮できるのであれば、パス率以外の名称を持つパラメータを使用してもよい。
【0018】
本実施形態によれば、照射方向毎の測定深さに対応した予測パス率を生成でき、予測パス率を用いて粒子線治療システムでの治療効率を改善することができる。
【0019】
本開示には、以下の構成が含まれる。
【0020】
(構成1)粒子線を患部へ照射する治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて生成された予測モデルと、新たな治療計画情報および測定深さ情報を前記予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する推論部とを備えるパス率予測システム。
【0021】
(構成2)構成1記載のパス率予測システムであって、前記測定深さ情報は、前記治療計画情報に含まれる粒子線の照射方向ごとに少なくとも1つ設定され、前記予測モデルは、前記照射方向ごと、かつ前記測定深さ情報ごとに前記予測パス率を生成するパス率予測システム。
【0022】
(構成3)構成1記載のパス率予測システムであって、前記予測モデルは、前記治療計画情報および前記測定深さ情報から生成される2次元線量分布の一様さの程度を示す分布複雑性指標を用いて、前記予測パス率を生成するパス率予測システム。
【0023】
(構成4)構成1記載のパス率予測システムであって、前記予測モデルは、前記治療計画情報に含まれる照射パラメータを用いて、前記予測パス率を生成するパス率予測システム。
【0024】
(構成5)構成1記載のパス率予測システムであって、前記予測モデルは、前記治療計画情報および前記測定深さ情報から生成される2次元線量分布を用いて、前記予測パス率を生成するパス率予測システム。
【0025】
(構成6)構成1記載のパス率予測システムであって、前記測定深さ情報は、前記治療計画情報に基づいて決定されるパス率予測システム。
【0026】
(構成7)構成1記載のパス率予測システムであって、前記測定深さ情報は、前記治療計画情報および前記測定深さ情報から生成される2次元線量分布の一様さの程度を示す分布複雑性指標が所定基準を満たすように決定されるパス率予測システム。
【0027】
(構成8)構成1記載のパス率予測システムであって、前記測定深さ情報は、前記患部に関する症例の状態に基づいて決定されるパス率予測システム。
【0028】
(構成9)構成1記載のパス率予測システムであって、前記既存の治療情報を記憶する記憶部をさらに備えており、
前記記憶部には、前記治療計画情報に含まれる前記粒子線の照射方向ごとに、前記測定深さ情報と当該測定深さ情報において実測された前記実測パス率とが対応付けられて記憶されている
パス率予測システム。
【0029】
(構成10)構成1に記載のパス率予測システムであって、前記予測パス率を提供する情報提供部をさらに備えており、前記情報提供部は、前記粒子線の照射方向ごとに、前記測定深さ情報と当該測定深さ情報において予測される前記予測パス率とを対応付けて提供するパス率予測システム。
【0030】
(構成11)構成1~10のいずれか一項に記載のパス率予測システムを備える、粒子線治療システム。
【0031】
(構成12)粒子線を患部へ照射する際の予測パス率を生成する方法であって、治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて予測モデルを生成し、新たな治療計画情報および測定深さ情報を取得し、前記取得された前記新たな治療計画情報および測定深さ情報を前記予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成するパス率予測方法。
【0032】
(構成13)コンピュータを、パス率を予測するパス率予測システムとして機能させるためのコンピュータプログラムであって、粒子線を患部へ照射する治療計画情報と測定深さ情報と実測パス率とを含む既存の治療情報に基づいて予測モデルを生成する学習部と、新たな治療計画情報および測定深さ情報を前記予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する推論部とを前記コンピュータ上に実現させるコンピュータプログラムまたは当該コンピュータプログラムを記憶する記憶媒体。
【実施例0033】
図1~
図12を用いて実施例1を説明する。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態の中で説明されている要素及びそれらの組み合わせの全てが、本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0034】
図1は、本実施形態における粒子線治療システム1の全体構成を示す図である。
図1において、粒子線治療システム1は、照射対象である患者2内の患部3に対して粒子線を照射するための装置である。粒子線の種類は、特に限定されないが、例えば、炭素線などの重粒子線または陽子線などである。
【0035】
粒子線治療システム1は、例えば、加速器110、ビーム輸送装置120、粒子線照射装置130、治療台140、データベース210、学習装置220、推論装置230、治療計画装置240、情報提供装置250及び入力装置10を備える。加速器110、ビーム輸送装置120、粒子線照射装置130および治療台140は、患者2内の患部3に対して粒子線4を照射する粒子線治療装置100を構成する。
【0036】
「記憶部」としてのデータベース210、「学習部」としての学習装置220、「パス率予測システム」または「推論部」としての推論装置230、治療計画装置240、「情報提供部」としての情報提供装置250、及び入力装置10は、粒子線治療装置100による放射線治療を支援する粒子線治療支援システム200を構成する。粒子線照射装置130、データベース210、学習装置220、推論装置230、治療計画装置240、情報提供装置250及び入力装置260は、通信ネットワークCNを介して相互の通信可能に接続される。
【0037】
パス率予測システムは、少なくともデータベース210と推論装置230を備える。パス率予測システムは、さらに学習装置220、情報提供装置250を含んでもよい。パス率予測システムは、粒子線治療支援システム200であってもよい。
【0038】
治療台140は、患者2を載置する台であり、患者2の患部3を所定の位置まで移動させる位置決めを行うことができる。加速器110は、荷電粒子を加速して粒子線(荷電粒子線)として出射する。加速器110の種類は、特に限定されないが、例えば、シンクロトロン型加速器またはサイクロトロン型加速器などである。ビーム輸送装置120は、加速器110から出射された粒子線を粒子線照射装置130まで輸送する。
【0039】
粒子線照射装置130は、ビーム輸送装置120にて輸送された粒子線4を、治療台140に載置された患者2の患部3へ照射する照射装置である。粒子線照射装置130は、例えば、2対の走査電磁石と、線量モニタと、位置モニタとを備える(いずれも図示省略)。2対の走査電磁石は、互いに直行する方向に設置され、患部3の位置において粒子線のビーム軸に垂直な面内の所望の位置に粒子線が到達するように粒子線を偏向させる。線量モニタは、照射された粒子線の量を計測する。位置モニタは、粒子線が通過した位置を検出する。
【0040】
粒子線照射装置130による粒子線4の照射方法は、特に限定されない。例えば、細い粒子線が形成する線量分布を並べて患部3の形状に合わせた線量分布を照射するスキャニング法またはラインスキャニング法などを用いることができる。照射方法は、ワブラー法でもよいし、二重散乱体法などの粒子線の分布を広げた後にコリメータでもよいし、ボーラスを用いて患部3の形状に合わせた線量分布を形成する照射方法などでもよい。
【0041】
データベース210は、
図2で後述するように、各種情報を記憶する。例えば、学習装置220で作成された学習済みモデルパラメータ(予測モデルとも呼ぶ)を記憶する。さらにあらかじめ用意された治療計画情報、各照射方向の測定深さ情報及び実測パス率を含むデータセット211を記憶する。
【0042】
図2にデータベース210に含まれるデータセット211の概念図を示す。データベース210には、1つ以上のデータセット211と1つ以上の予測モデルの学習済みモデルパラメータ214とが含まれる。
【0043】
「既存の治療情報」の例としてのデータセット211には、例えば、治療計画情報212が含まれる。治療計画情報212には、照射方向ごとの照射方向データ213が含まれる。照射方向データ213には、実測パス率P1と測定深さ情報L1との組が1つ以上含まれる。照射方向データ213に、後述する分布複雑性指標の値を含めてもよい。データベース210へのデータセット211の登録は、ユーザが入力装置260を用いてあらかじめ実施する。
【0044】
予測モデルの学習済みモデルパラメータ214(予測モデル214とも呼ぶ)は、少なくとも一つデータベース210に記憶されていればよい。症例ごとに予測モデル214を生成して記憶させることもできる。
【0045】
学習装置220は、データベース210に含まれる各種情報から予測パス率を生成する予測モデル214を構築し、その学習済みモデルパラメータをデータベース210へ保存させる。推論装置230は、新たな治療計画情報についての予測パス率を生成する。
【0046】
治療計画装置240は、患者2を撮像した治療計画用画像に基づいて、治療計画情報を作成する。治療計画情報には例えば、患者2に照射する粒子線に関する照射パラメータの値、治療計画用画像に対して粒子線照射シミュレーションをした計画線量分布、実測に基づく線量分布検証時に用いる固体ファントムに対して粒子線照射シミュレーションをしたQA線量分布などが含まれる。
【0047】
照射パラメータは、例えば、照射位置、照射方向、照射量、照射エネルギー、照射順序などである。計画線量分布及びQA線量分布は3次元のデータであり、かつ照射方向ごとの値として保存される。
【0048】
治療計画用画像は、本実施形態では、CT(Computed Tomography)画像である。CT画像は、患者2を複数の方向から撮像した透視画像から再構成された3次元画像である。CT画像は、連続的なデータではなく、ボクセルと呼ばれる単位に分割された離散的なデータである。ただし、治療計画用画像は、CT画像に限らず、MRI(Magnetic Resonance Imaging)撮影装置で撮影されたMRI画像、または、超音波撮影装置で撮影された超音波画像などの、他の撮影装置で撮影された他の3次元画像でもよい。
【0049】
情報提供装置250は、各種情報をモニタディスプレイに表示して、粒子線治療システム1の操作者(例えば、技師または医師)に情報を提供する。入力装置260は、粒子線治療システム1の操作者から種々の情報及び指示を受け付ける。
【0050】
以上説明した粒子線照射装置130、データベース210、学習装置220、推論装置230、治療計画装置240、情報提供装置250及び入力装置260のそれぞれは、例えば、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ(コンピュータ)201とメモリ202とを備えたコンピュータシステムにより構成されてもよい。
【0051】
この場合、これらの装置の各機能は、例えば、プロセッサ201がメモリ202からコンピュータプログラムを読み取り、その読み取ったプログラムを実行することで実現される。コンピュータプログラムは、コンピュータにて読み取り可能な非一時的な記録媒体MMに記録可能である。記録媒体MMは、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ及び光磁気ディスクなどである。また、これらの各装置の少なくとも一部が同一のコンピュータシステムにて実現されてもよい。また、各装置では、複数のプロセッサまたはコンピュータシステムにて処理が分担されてもよいし、一部の物理構成(データベース210など)がネットワークを介して接続されている構成などでもよい。
【0052】
図3を用いて、予測モデルを生成する処理を説明する。本処理では、学習装置220において、予測パス率を生成する予測モデル214を生成し、学習済みモデルパラメータをデータベース210へ保存させる。
図5は、
図4の処理の概要を示す説明図である。
図6は、QA線量分布から断面2次元線量分布を抽出する方法の説明図である。
【0053】
学習装置220による処理が開始すると、学習装置220は、予めデータベース210に登録された1つ以上のデータセット211を読み込む(S10)。学習装置220は、読み込んだ各データセット211に対して、所定の前処理を実施する(S20)。所定の前処理については、後述する。
【0054】
続いて学習装置220は、前処理(S20)の出力結果から機械学習により予測モデル214を生成する(S30)。最後に、学習装置220は、予測モデルの学習済みモデルパラメータをデータベース210へ保存させる(S40)。
【0055】
図4~
図6を用いて、ステップS20にて実施する前処理の1番目の例(S21)を説明する。1番目の前処理には符号S21を与える。後述の2番目の前処理には符号S22を、3番目の前処理には符号S23を、それぞれ与える。
【0056】
学習装置220は、データベース210からi番目のデータセット211を読み込む(S211)。学習装置220は、ステップS211で読み込んだ治療計画情報からj番目の照射方向のQA線量分布を読み込む(S212)。学習装置220は、データセット211に含まれるk番目の測定深さ情報を読み込み、読み込んだ測定深さにてQA線量分布をビーム軸に垂直な断面に抜き出し、断面2次元線量分布を抽出する(S213)。測定深さの原点は、実測に用いる固体ファントムの粒子線入射面を測定深さが0として、ビーム進行方向に測定深さが増加する軸を取る。この様子を
図6に示す。
【0057】
学習装置220は、断面2次元線量分布から分布複雑性指標を算出する(S214)。図中では、便宜上、分布複雑性指標に符号DCIを与えている。分布複雑性指標は、例えば、ステップS214に記載された数式(1)で計算される断面2次元線量分布の平坦度である。
【0058】
数式(1)に含まれる一部分(2)は、照射領域Sに含まれる線量値のうち90パーセンタイルの値を表す。数式(1)に含まれる他の部分(3)は、照射領域Sに含まれる線量値のうち10パーセンタイルの値を表す。照射領域Sは断面2次元線量分布において一定値以上の線量が付与される領域である。
【0059】
一般的に、粒子線治療の線量分布の検証において、断面2次元線量分布の線量値が一様なほどパス率が高く、断面2次元線量分布の線量値がばらついているほどパス率は低下することが知られている。数式(1)で計算される断面2次元線量分布の平坦度は、断面2次元線量分布の線量値がばらつき具合を定量化した値であり、パス率の予測に資する指標であると考えられる。
【0060】
なお、断面2次元線量分布の平坦度は、分布複雑性指標の一例であり、他の指標を用いてもよい。例えば、断面2次元線量分布の線量値がばらつき具合を表す値として、断面2次元線量分布において一定値以上の線量が付与される領域内での線量値の標準偏差を、分布複雑性指標として用いてもよい。分布複雑性指標として、照射エネルギ、照射位置、照射量などを用いてもよい。つまり、分布複雑性指標は照射パラメータから決定することもできる。
【0061】
学習装置220は、
図5の下側に示すように、分布複雑性指標とデータセット211に記録されている実測パス率とをデータベース210へ保存させる(S215)。学習装置220は、全ての測定深さ(S216)、全ての照射方向(S217)及び全てのデータセット211(S218)に対して処理を繰り返す。
【0062】
以上のようにして前処理の1番目の例により得られた分布複雑性指標と実測パス率を用いて、予測モデルを生成するには(
図3のステップS30)、例えば一般的に知られた線形回帰モデルなどの回帰分析モデルが使用できる。
【0063】
例えば、線形回帰モデル(Y=aX+b)を用いる場合、断面2次元線量分布の平坦度を説明変数Xとし、目的変数Yの値が実測パス率に近づくよう最小二乗法によりパラメータa、bを決定する。この場合、学習装置220がステップS40で保存する学習済みモデルパラメータは、最小二乗法により決定したパラメータa、bである。説明変数Xとして、平坦度と照射エネルギなどの複数の値を利用してもよい。線形回帰モデルは一例であり、多変量回帰分析モデル、SVM(Support Vector Machine)、NN(Neural Network)、決定木アルゴリズムなどの他の機械学習モデルであってもよい。
【0064】
図7のフローチャートは、前処理の2番目の例S22を示す。
図8は、
図7の処理S22の概要を示す説明図である。学習装置220は、データベース210からi番目のデータセット211を読み込む(S221)。学習装置220は、ステップS221で読み込んだ治療計画情報から、j番目の照射方向のQA線量分布を読み込む(S222)。学習装置220は、データセット211に含まれるk番目の測定深さ情報を読み込み、読み込んだ測定深さにてQA線量分布をビーム軸に垂直な断面に抜き出し、断面2次元線量分布を抽出する(S223)。
【0065】
測定深さの原点は、
図8に示すように、実測に用いる固体ファントムの粒子線入射面を測定深さが0であるとして、ビーム進行方向に測定深さが増加する軸を取る。学習装置220は、抽出した断面2次元線量分布とデータセット211に記録されている実測パス率とをデータベース210へ保存させる(S224)。学習装置220は、全ての測定深さ(S225)、全ての照射方向(S226)及び全てのデータセット211(S227)に対して処理を繰り返す。
【0066】
以上のようにして前処理の2番目の例により断面2次元線量分布と実測パス率とを得た場合、ステップS30に示す予測モデルの生成には、例えば畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使用できる。
【0067】
例えば、CNNの入力を断面2次元線量分布としたとき、CNNの出力が実測パス率に近づくよう誤差逆伝播法などを用いてCNNのパラメータを決定することで、予測モデルを生成する。この場合、学習装置220がステップS40で保存する学習済みモデルパラメータは、誤差逆伝播法などを用いて決定したCNNのパラメータである。CNNは、予測モデルの一例であり、SVM(Support Vector Machine)、NN(Neural Network)、決定木アルゴリズムなどの、他の画像を入力する機械学習モデルを用いてもよい。
【0068】
図9のフローチャートは、前処理の3番目の例S23を示す。
図10は、
図9の処理S23の概要を示す説明図である。学習装置220は、データベース210からi番目のデータセット211を読み込む(S231)。学習装置220は、ステップS231で読み込んだ治療計画情報から、j番目の照射方向の計画線量分布を読み込む(S232)。学習装置220は、
図10に示すように、画像処理によりステップS232で読み込んだ計画線量分布を実測時の照射角度へ回転させる(S233)。例えば、j番目の照射方向が90度であり、実測時の照射角度が0度の場合、計画線量分布上のアイソセンタを中心に-90度回転させる。
【0069】
学習装置220は、データセット211に含まれるk番目の測定深さ情報を読み込み、読み込んだ測定深さにて回転後の計画線量分布をビーム軸に垂直な断面に抜き出し、断面2次元線量分布を抽出する(S234)。測定深さの原点は、実測に用いる固体ファントムの粒子線入射面を測定深さが0であるとして、ビーム進行方向に測定深さが増加する軸を取る。学習装置220は、抽出され断面2次元線量分布とデータセット211に記録されている実測パス率とをデータベース210へ保存させる(S235)。学習装置220は、全ての測定深さ(S236)、全ての照射方向(S237)及び全てのデータセット211(S238)に対して処理を繰り返す。
【0070】
以上のようにして前処理の3番目の例により断面2次元線量分布と実測パス率とを得た場合、ステップS30での予測モデルの生成には、例えば畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が使用できる。例えば、CNNの入力を断面2次元線量分布としたとき、CNNの出力が実測パス率に近づくよう誤差逆伝播法などを用いてCNNのパラメータを決定することで、予測モデルを生成する。学習装置220がステップS40で保存する学習済みモデルパラメータは、誤差逆伝播法などを用いて決定したCNNのパラメータである。CNN以外の機械学習モデルを用いてもよい。
【0071】
図11を用いて、予測パス率を生成する処理S50を説明する。粒子線治療システム1は、ユーザ(医師や技師など)が治療計画装置240を用いて作成した治療計画情報をデータベース210に保存する(S501)。粒子線治療システム1は、データベース210から学習済みモデルパラメータを読み出す(S502)。粒子線治療システム1は、治療計画情報から治療計画に保存されている照射方向を読み込む(S503)。粒子線治療システム1は、ユーザが入力装置260を通じて設定した測定深さ情報を読み込む(S504)。粒子線治療システム1は、ステップS501で保存された治療計画情報とステップS504で読み込んだ測定深さ情報とに基づき、前処理を実施する(S505)。ここでの前処理は、学習装置220にて実施した前処理(
図4,
図7,
図9のいずれか)と同じであるため、説明を省略する。ただし、推論時は、前処理の出力結果に実測パス率は含まれない。
【0072】
粒子線治療システム1は、ステップS505での前処理の出力結果とステップS502で読み込んだ学習済みモデルパラメータとを予測モデルに適用することにより、予測パス率を生成する(S506)。粒子線治療システム1は、全ての測定深さ(S507)、全ての照射方向(S508)及び全てのデータセット211(S509)に対して、処理を繰り返す。
【0073】
粒子線治療システム1は、
図12に示す情報提供画面G1にステップS506で生成された予測パス率を表示させ、ユーザが入力装置260を用いて設定した治療計画情報の承認結果をメモリへ保存させる(S509)。治療計画が承認された場合(合格)、粒子線治療システム1は、推論処理を終了する。治療計画が承認されなかった場合(不合格)、粒子線治療システム1は、ユーザが治療計画装置240を用いて修正した治療計画情報を再度保存し、ステップS503へ戻って処理を繰り返す(S510)。
【0074】
情報提供画面G1は、例えば、治療計画に含まれる照射方向ごとに、測定深さと予測パス率とが一対一で対応付けられて表示される。情報提供画面G1は、患部3を撮影した画像と共にモニタディスプレイに表示させることができる。なお、モニタディスプレイは、例えば、眼鏡型またはゴーグル型などのウェアラブル端末の持つディスプレイであってもよい。情報提供画面G1は、拡張現実空間などで使用されてもよい。
【0075】
以上説明したように本実施形態によれば、学習装置220は、照射方向毎に少なくとも1つ以上の(複数の)測定深さに対応した情報に基づき予測モデルを構築できる。推論装置230は、照射方向毎に、かつユーザが設定した測定深さに基づいて、予測パス率を生成できる。したがって、本実施形態により生成された予測パス率は、測定深さを考慮した値であり、従来技術と比較して予測パス率の予測精度を向上できる。
【0076】
本実施例では、実測せずに治療計画の患者QAを行うことができ、粒子線治療に要する時間を短縮できる。これにより単位時間あたりにより多くの患者を治療できる。
【0077】
本実施形態では、生成された1つ以上の予測パス率を情報提供画面G1に表示するため、ユーザは直感的に患者QAの結果を確認できる。
本実施例の粒子線治療システム1Aは、測定深さ決定装置270を含む。測定深さ決定装置270は、治療計画情報に基づき、照射方向毎に線量分布検証を実施する測定深さを自動で決定することができる。例えば測定深さとしては、患者体表から患者体内に設定されたアイソセンタまでの水等価距離と、その上下所定の値だけ移動した深さの3点を自動で選ぶことができる。測定深さ決定装置270は、患者体表から患者体内に設定されたアイソセンタまでの水等価距離と、治療計画情報に含まれる患部3の大きさとから、測定深さを自動で決定することもできる。
例えば、測定深さ決定装置270は、分布複雑性指標の基準271に基づいて測定深さを決定することもできる。分布複雑性指標としての平坦度が所定の閾値よりも小さい場合、測定深さ決定装置270は、平坦度が所定の閾値以上となるように(所定の基準を満たすように、)測定深さを決定することができる。