(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126364
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】処理装置、処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 41/142 20220101AFI20240912BHJP
G06F 30/18 20200101ALI20240912BHJP
【FI】
H04L41/142
G06F30/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034688
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】井上 武
(72)【発明者】
【氏名】大木 英司
(72)【発明者】
【氏名】高 晴登
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA14
5B146AA21
(57)【要約】
【課題】閉塞率が所定値以下となる条件で網を設計する。
【解決手段】処理装置1は、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数N、入出スイッチと中間スイッチの合計数a、ターミナル利用率p、および許容閉塞率εの各パラメータを含むパラメータデータを取得する取得部21と、網が非閉塞となる状態において各入出スイッチに接続するターミナル数の最大値よりも、各入出スイッチに接続するターミナル数が1ずつ増えた場合に閉塞が発生する各確率の合計確率が許容閉塞率εを超えず、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数nと入出スイッチ数kの乗算が最大となるように、網設計データ12を出力する算出部22を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数N、入出スイッチと中間スイッチの合計数a、ターミナル利用率p、および許容閉塞率εの各パラメータを含むパラメータデータを取得する取得部と、
各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数Nと入出スイッチと中間スイッチの合計数aを満たし、ターミナル利用率pとなる網において、
網が非閉塞となる状態において各入出スイッチに接続するターミナル数の最大値よりも、各入出スイッチに接続するターミナル数が1ずつ増えた場合に閉塞が発生する各確率の合計確率が許容閉塞率εを超えず、
各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数nと入出スイッチ数kの乗算が最大となるように、
各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数n、入出スイッチ数k、中間スイッチ数m、および1つの入出スイッチから1つの中間スイッチへのリンク数かつ1つの中間スイッチから1つの入力スイッチへのリンク数vを含む網設計データを出力する算出部
を備える処理装置。
【請求項2】
前記算出部は、網がTF-Clos網の場合、式(2b)ないし(2f)を満たし、式(2a)を最大化するように、前記網設計データを出力する
請求項1に記載の処理装置。
【数1】
【請求項3】
前記算出部は、網がClos網の場合、式(2b)を、式(2b’)に置き換えて、前記網設計データを算出する
請求項2に記載の処理装置。
【数2】
【請求項4】
前記算出部はさらに、前記許容閉塞率εを超えない前記合計確率を算出した際の入出スイッチに接続するターミナル数の最大値を含む運用条件データを出力する
請求項1に記載の処理装置。
【請求項5】
コンピュータが、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数N、入出スイッチと中間スイッチの合計数a、ターミナル利用率p、および許容閉塞率εの各パラメータを含むパラメータデータを取得し、
前記コンピュータが、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数Nと入出スイッチと中間スイッチの合計数aを満たし、ターミナル利用率pとなる網において、
網が非閉塞となる状態において各入出スイッチに接続するターミナル数の最大値よりも、各入出スイッチに接続するターミナル数が1ずつ増えた場合に閉塞が発生する各確率の合計確率が許容閉塞率εを超えず、
各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数nと入出スイッチ数kの乗算が最大となるように、
各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数n、入出スイッチ数k、中間スイッチ数m、および1つの入出スイッチから1つの中間スイッチへのリンク数かつ1つの中間スイッチから1つの入力スイッチへのリンク数vを含む網設計データを出力する
処理方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の処理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理装置、処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
データセンタまたは通信ビルなどの屋内網における設計技術がある。データセンタは、多くののラックを収容する。指定されたラックペアが、接続される。通信ビルは、他ビルへの伝送装置を収容する。それらの伝送装置が、接続される。
【0003】
現在、IP(Internet Protocol)またはEthernetなどのパケット交換技術が用いられている。将来的に、光通信などの回線交換技術が用いて、伝送容量や電力効率を改善することが検討されている。
【0004】
回線交換において、接続を要求されたペア間にパスが存在しない場合、ペア間に回線が設定されない。これを閉塞(ブロック)と呼ぶ。
【0005】
TF-Clos(Twisted and Folded Clos Network)と呼ばれる回線交換網構造がある(非特許文献1参照)。非特許文献1は、閉塞が発生することなく、網容量が最大となるように網を設計する方法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Mano, T. Inoue, K. Mizutani, and O. Akashi, “Redesigning the nonblocking Clos network to increase its capacity,” IEEE Transactions on Network and Service Management, pp. 1-1, 2022,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実用上は、実際に閉塞が発生する確率(頻度)を十分に低く抑えられるならば、厳密に非閉塞でなくても良い場合がある。
【0008】
非特許文献1は、厳密な非閉塞を条件とするので、閉塞率に理論的な保証を与えて網を設計することができない。また非特許文献1に記載の方法は、非閉塞という条件下で網が設計されるため、網容量を大きくできない場合がある。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、閉塞率が所定値以下となる条件で網を設計可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様の処理装置は、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数N、入出スイッチと中間スイッチの合計数a、ターミナル利用率p、および許容閉塞率εの各パラメータを含むパラメータデータを取得する取得部と、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数Nと入出スイッチと中間スイッチの合計数aを満たし、ターミナル利用率pとなる網において、網が非閉塞となる状態において各入出スイッチに接続するターミナル数の最大値よりも、各入出スイッチに接続するターミナル数が1ずつ増えた場合に閉塞が発生する各確率の合計確率が許容閉塞率εを超えず、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数nと入出スイッチ数kの乗算が最大となるように、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数n、入出スイッチ数k、中間スイッチ数m、および1つの入出スイッチから1つの中間スイッチへのリンク数かつ1つの中間スイッチから1つの入力スイッチへのリンク数vを含む網設計データを出力する算出部を備える。
【0011】
本開示の一態様の処理方法は、コンピュータが、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数N、入出スイッチと中間スイッチの合計数a、ターミナル利用率p、および許容閉塞率εの各パラメータを含むパラメータデータを取得し、前記コンピュータが、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数Nと入出スイッチと中間スイッチの合計数aを満たし、ターミナル利用率pとなる網において、網が非閉塞となる状態において各入出スイッチに接続するターミナル数の最大値よりも、各入出スイッチに接続するターミナル数が1ずつ増えた場合に閉塞が発生する各確率の合計確率が許容閉塞率εを超えず、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数nと入出スイッチ数kの乗算が最大となるように、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数n、入出スイッチ数k、中間スイッチ数m、および1つの入出スイッチから1つの中間スイッチへのリンク数かつ1つの中間スイッチから1つの入力スイッチへのリンク数vを含む網設計データを出力する。
【0012】
本開示の一態様は、上記処理装置として、コンピュータを機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、閉塞率が所定値以下となる条件で網を設計可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係る処理装置の機能ブロックを説明する図である。
【
図2】
図2は、TF-Clos構造を説明する図である。
【
図3】
図3は、処理装置の処理を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、ターミナル利用率に対する網容量を示す図である。
【
図5】
図5は、許容閉塞率に対する網容量を示す図である。
【
図7】
図7は、処理装置に用いられるコンピュータのハードウエア構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0016】
(処理装置)
図1に示す処理装置1は、閉塞率が所定値以下となる条件で網を設計する。本開示において、処理装置1は、網がTF-Clos網の場合を説明するが、変形例を参照して説明するように、Clos網の場合に適用しても良い。
【0017】
TF-Clos網は、
図2に示すように、入出層(input-output layer)の複数の入出スイッチと、中間層(intermediate layer)の複数の中間スイッチを備える。
図2に示す例において、k個の入出スイッチと、m個の中間スイッチを備える。各スイッチは、入出スイッチから順番に、S
1、…、S
k+mのように識別子が与えられる。
【0018】
TF-Clos網において各スイッチは、入力用のスイッチ面と出力用のスイッチ面を有する。入出スイッチの入力用のスイッチ面に、入力ターミナルまたは中間スイッチからの入力が接続する。出力用のスイッチ面に、出力ターミナルまたは中間スイッチへの出力が接続する。
図2に示す例において各スイッチは、各面に12個のポートを備えるN×Nスイッチである。
【0019】
入出スイッチと中間スイッチは、それぞれv本のリンクで接続される。1つの入出スイッチから1つの中間スイッチの方向に、v本のリンクが設けられる。1つの中間スイッチから1つの入出スイッチの方向に、v本のリンクが設けられる。
【0020】
入出スイッチのそれぞれに、複数のターミナルが接続される。1つの入出スイッチに、n台の入力ターミナルtと、n台の出力ターミナルrが接続する。
【0021】
図2に示す網において、入出スイッチにターミナルが接続される。2つのターミナルが通信しようとする際、スイッチ間の空きリンクのみを用いて2つのターミナルを接続できる場合、その2つのターミナルは通信することができる。空きリンクは、信号が通っていないリンクである。
【0022】
2つのターミナルt
1
1とr
1
kが通信しようとしている状況を考える。空きリンクのみを用いてt
1
1とr
1
kの間に、パスが用意される。
図2の実線に示すように、S
1とS
k+1の間に空きリンクがあり、S
k+1とS
kの間にも空きリンクがある。また、これらのリンクを繋ぐようにスイッチS
k+1とS
kの内部構成を変更する。これにより、ターミナルt
1
1とr
1
kまで空きリンクのみからなるパスが確立される。ここでターミナルt
1
1が信号を送ると、ターミナルr
1
kに信号が届く。
【0023】
ターミナル間で通信が始まると、パス上のリンクは利用中となり、空きリンクではなくなる。利用中のリンクは、他の通信によって使われることはない。スイッチ間の空きリンクが減ってくると、ターミナル間で通信しようとしても空きリンクからなくなるパスが存在せず、通信ができない状態を、「閉塞」と称する。
【0024】
非特許文献1は、
図2に示すTF-Clos網において、非閉塞の条件下において網容量が最大となるように網を設計する方法を開示する。例えば、入力面と出力面にN個ずつのポートを備えたN×Nスイッチがa台あるとする。非特許文献1は、この問題に対して、式(1)により、ILP(整数線形計画:integer linear programming)を定式化し、容量最大の網を設計する。
【0025】
【0026】
Nは、正の整数の集合である。Nとaは、問題として与えられる。n、k、mおよびvは、決定変数である。
【0027】
式(1a)は、目的関数であり、網容量を最大化する。式(1b)は、入出スイッチのポート数に関する条件である。式(1c)は、中間スイッチのポート数に関する条件である。式(1d)は、非閉塞条件である。式(1e)は、スイッチ数に関する条件である。なお式(1d)は、決して閉塞が起こらない条件を示しており、通信先となるターミナルの選び方、またはその順序をどのように変更しても、決して閉塞が起こらないことが数学的に証明されている。
【0028】
式(1)によりILPとして定式化することで、市販の高速なILPソルバを用いて最適解、具体的には最適なn,k,mおよびv)が、得られる。
【0029】
なお、式(1)は非線形項を含んでいる。ILPソルバで解くために、後述の式(3)ないし式(5)により線形化を行う必要がある。
【0030】
非特許文献1によって設計された網は、非閉塞という条件下では網容量が最大になる。これに対し本開示は、閉塞率が所定値以下となる条件で網を設計する。
【0031】
図1に示すように本開示に係る処理装置1は、パラメータデータ11、網設計データ12および運用条件データ13の各データと、取得部21および算出部22の各機能を備える。各データは、メモリ902またはストレージ903等の記憶装置に記憶される。各機能は、CPU901に実装される。本開示における処理装置1は、TF-Clos網において、所定の閉塞率を許容しつつ、網容量を最大とする網を設計する。
【0032】
パラメータデータ11は、網を設計するために予め与えられるパラメータである。パラメータデータ11は、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数N、入出スイッチと中間スイッチの合計数a、ターミナル利用率p、および許容閉塞率εの各パラメータを含む。
【0033】
ここで閉塞率は、各ターミナルが体験する閉塞率であって、網全体として観測される閉塞率ではない。閉塞率は、ターミナル間で通信しようとしても空きリンクからなくなるパスが存在せず、通信ができない状態が発生する割合である。パラメータデータ11は、設計する網において許容する閉塞率εを含む。
【0034】
ターミナル利用率pは、各ターミナルが他のターミナルと通信しようと入出スイッチに接続している時間の割合である。ターミナル利用率は、ターミナルと入出スイッチ間のリンクの利用中のリンクの割合である。ターミナル利用率pは、過去のサービス実績などに基づいて推定される既知の値である。ターミナル利用率pは、許容閉塞率εを超えないための上限値となる。
【0035】
網設計データ12は、算出部22によって算出される網を特定するデータである。網設計データ12は、(i)各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数n、(ii)入出スイッチ数k、(iii)中間スイッチ数m、および(iv)1つの入出スイッチから1つの中間スイッチへのリンク数かつ1つの中間スイッチから1つの入力スイッチへのリンク数vの4つのパラメータを含む。
【0036】
運用条件データ13は、網設計データ12が特定する網において、許容閉塞率εを超えない状態における、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの最大値を含む。運用条件データ13は、具体的には、後述の式(2d)において、許容閉塞率εを超えない合計確率を算出した際の入出スイッチに接続するターミナル数の最大値である。このターミナル数の最大値は、式(2a)が最大となるときの、nsubで表現されても良い。
【0037】
網設計データ12が特定する網において、運用条件データ13で示す数のターミナルが接続する状態において、新たなターミナルから接続要求を受けた場合、網は、その新たなターミナルの接続要求を拒絶する。新たなターミナルの接続要求を受理することで、短期的に閉塞率は低くなるが、許容閉塞率ε以下を満たすという理論保証はなくなる。運用条件データ13で指定された数以下のターミナルが入出スイッチに接続する状態を維持することにより、網は、許容閉塞率εを満たして運用することができる。
【0038】
取得部21は、パラメータデータ11を取得する。各パラメータは、例えばユーザ等から指定される。
【0039】
算出部22は、パラメータデータ11が指定した条件下において、網容量を最大化する網を設計して、網設計データ12と運用条件データ13を出力する。網容量は、各入出スイッチの入力および出力のそれぞれに接続するターミナルの数nと入出スイッチ数kの乗算により算出される。
【0040】
算出部22は、各入出スイッチの入力端子数かつ出力端子数Nと入出スイッチと中間スイッチの合計数aを満たし、ターミナル利用率pとなる網において、網が非閉塞となる状態において各入出スイッチに接続するターミナル数の最大値よりも、各入出スイッチに接続するターミナル数が1ずつ増えた場合に閉塞が発生する各確率の合計確率が許容閉塞率εを超えず、網容量が最大となるように、網を設計する。
【0041】
算出部22は、網がTF-Clos網の場合、式(2b)ないし(2f)を満たし、式(2a)を最大化するように、網設計データ12と運用条件データ13を算出する。
【0042】
【0043】
N、a、pおよびεは、パラメータデータ11として予め与えられる。n、k、mおよびvは決定変数であり、nsubとθは、解法にのみ必要な補助変数である。
【0044】
式(1)との主な違いは、式(2d)ないし(2f)である。式(2d)は、閉塞が起こりうる合計確率がε以下であることを表し、式(2f)は、非閉塞、すなわち閉塞率がゼロであることを表す。式(2e)は、式(2d)と式(2f)の条件が混ざらないことを意味する。
【0045】
詳述すると、式(2f) が入出スイッチごとにnsnb以下のターミナルが使われている (通信している) 状況を表す。これに対して式(2d)は、θ+ 1 = nsnb+ 1個以上のターミナルが使われている状況を表す。
【0046】
式(2f)は、非閉塞となるターミナル数nsnbの最大値を決定するので、nsnb + 1 個以上のターミナルが接続する状況では閉塞が起こりえる。式(2d)の左辺は、そのような閉塞が起こりうる状況の発生率を求める。和記号(Σ)により、nsnb + 1,nsnb + 2,・・・・,n 個のターミナルが使われている場合それぞれの確率を足し合わせる。最終的に式(2d)は、閉塞が起こりうる合計発生率がεを超えない条件を示す。
【0047】
式(1)における非閉塞性に関する条件式(1d)は、式(2)において、閉塞が起こる場合の合計確率の式(2d)と、非閉塞な場合の式(2f)に分割し、式(2d)と(2f)を、式(2e)で分離される。これにより、閉塞率を理論的に保証することができる。
【0048】
算出部22は、パラメータデータ11で与えられた各パラメータを式(2)に設定し、その式(2)を満たすn、k、mおよびvを算出して、網設計データ12に出力する。
【0049】
なお、式(2)は、非線形項を含むので、式(2)は、ILPソルバで解くことができない。そこで、式(3)ないし式(5)で線形化した定式化を示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
ここで、ターミナル利用率PBが、TF-Clos網における閉塞率の上限となることを説明する。
【0054】
TF-Clos網において、端子に接続される各入出力ポートの数は、スイッチあたりn個となる。SNB条件を保証する要求の数は、nsnbである。ここでnsnb≦nである。本開示では、 条件式(1d)のnは、nsnbに置き換えら、非閉塞のTF-Clos網において、nsnb=nとなる。これは本開示における特殊なケースである。
【0055】
各入力ポートにおいて、独立した同じように分散された(i.i.d:an independent and identically distributed) プロセスに従って、リクエストは、pの確率でアクティブであり、1-pの確率でアクティブでない。w個のリクエストがn個の入力ポートからアクティブである確率は、式(6)の二項分布に従う。
【0056】
【0057】
PBを、アクティブなリクエストの数がnsnbを超える確率とし、PBは、式(7)で表される。
【0058】
【0059】
εを、PB≦εが満たされるTF-Clos網における許容可能な閉塞率とする。利用中の入力ポートの数がnsnb以下の場合、TF-Clos網で閉塞は発生しない。利用中の入力ポートの数がnsnbよりも多い確率は、PBである。
【0060】
ここで、TF-Clos網の閉塞率がPBよりも大きいとする。nsnbはSNB条件を満たすため、多くの場合、nsnb個の利用中の入力ポートは、ブロックされない。ブロックできるのは、(w-nsnb)個のアクティブ入力ポートだけである。ここで、nsnb≦w≦nである。ブロックされる確率は、最大PBである。これは、TF-Clos網の閉塞率がPBよりも大きいという仮定と矛盾する。
【0061】
従って、PBはTF-Clos網における閉塞率の上限を示す。
【0062】
(処理方法)
図3を参照して、本開示に係る処理方法を説明する。
【0063】
ステップS1において処理装置1は、パラメータデータ11を取得する。パラメータデータ11は、処理装置1が網を設計するために必要な各パラメータを含む。
【0064】
ステップS2において処理装置1は、パラメータデータ11を参照して、網容量を最大とする網を算出する。ステップS3において、ステップS2において算出された網を特定する網設計データ12と、網において許容閉塞率ε内を維持するための運用条件データ13を出力する。
【0065】
図4-5を参照して、本開示に係る網の設計により、網容量がどのくらい増加するかを示す。比較対象は、非閉塞網(SNB:Strict-sense NonBlocking)である。
【0066】
図4は、ターミナル利用率pに対する網容量を示す。ターミナル利用率pが小さいほど網容量が大きくなり、p≦0.8において、本開示により設計した網の網容量は、非閉塞網よりも大きいことがわかる。
【0067】
図5は、許容閉塞率εに対する網容量を示す。許容閉塞率εが大きいほど網容量が大きくなり,p≦0.6であれば、ε=10
-5のようなかなり低い閉塞率でも、非閉塞網より大きな網を構成できることがわかる.
このように本開示によれば、許容閉塞率εを規定することにより、非閉塞網よりも大きい網を構成することができる。網容量が大きいことにより、本開示により設計した網は、より多くのターミナルを接続することができる。たとえばデータセンタにおいて、より多くのサーバを網に接続することができる。通信ビルにおいて、より多くの加入者あるいは他通信ビルを接続することができる。
【0068】
(変形例)
本開示において、網がTF-Clos網の場合の網を設計する処理について説明したが、本開示に係る処理方法は、従来のClos網にも適用することができる。
【0069】
図6を参照して、Clos網を説明する。Clos網は、TF-Clos網と同様に、入出層の入出スイッチと、中間層の中間スイッチを備えるが、入出スイッチの構成が異なる。Clos網における入出スイッチは、一方の面がターミナルと接続し、もう一方の面が、中間スイッチに接続する。
【0070】
算出部22は、網がClos網の場合、式(2b)を、式(2b’)に置き換えて、網設計データ12と運用条件データ13を算出する。
【0071】
【0072】
これにより、Clos網においても、許容閉塞率εを規定することにより、非閉塞網よりも大きい網を構成することができる。
【0073】
上記説明した本実施形態の処理装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ903(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムが用いられる。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされたプログラムを実行することにより、処理装置1の各機能が実現される。
【0074】
なお、処理装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また処理装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。
【0075】
処理装置1のプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。コンピュータ読取り可能な記録媒体は、例えば非一時的な(non-transitory)記録媒体である。
【0076】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 処理装置
11 パラメータデータ
12 網設計データ
13 運用条件データ
21 取得部
22 算出部
901 CPU
902 メモリ
903 ストレージ
904 通信装置
905 入力装置
906 出力装置