(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126367
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】揚げ菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/60 20170101AFI20240912BHJP
【FI】
A21D13/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034692
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(71)【出願人】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】柴本 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 尚毅
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB24
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK55
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP47
4B032DP54
4B032DP73
(57)【要約】
【課題】電子レンジ加熱解凍後においてもサックリした食感に優れた揚げ菓子を食味の低下を抑制しながら製造できる方法を提供すること。
【解決手段】生地成形後に油調する工程、油調後の生地を80℃以下になるまで放冷する工程、及び、放冷後の生地の表面に、水溶液、又は水溶性成分が水に溶解及び分散した水分散液を、油調後の生地に対して10質量%以下の量で塗布して冷凍する工程、を含む、揚げ菓子の製造方法。前記水溶液及び前記水分散液が糖類を含み、温度が30℃以下であり、前記水溶液及び前記水分散液中、糖類の含有量が40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地成形後に油調する工程、油調後の生地を80℃以下になるまで放冷する工程、及び、放冷後の生地の表面に、水溶液、又は水溶性成分が水に溶解及び分散した水分散液を、油調後の生地に対して10質量%以下の量で塗布して冷凍する工程、を含む、揚げ菓子の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液及び前記水分散液が糖類を含み、温度が30℃以下であり、前記水溶液及び前記水分散液中、糖類の含有量が40質量%以上70質量%以下である、請求項1に記載の揚げ菓子の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液及び前記水分散液の20℃における粘度が5mPa・s以上である、請求項1又は2に記載の揚げ菓子の製造方法。
【請求項4】
前記糖類が、グルコース、マンノース、スクロース、トレハロース、マルトース及びソルビトールから選択される1つ以上を含む、請求項2に記載の揚げ菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揚げ菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉等の穀粉類を含む生地を油調した揚げ菓子は、ドーナツ、チュロスを始め、種々の菓子類が市場に存在し、広く消費者に受け入れられている。揚げ菓子は、揚げたてのサックリした食感が特に好まれるものである。
【0003】
また、従来、揚げ菓子の製造において、油調後の生地に糖水分散液を塗布することが行われている。特許文献1には、ドーナツ生地をフライした後得られたケーキドーナツの表面に、温度10~30℃の水/糖の質量比が0.30~0.70である糖の水分散液を塗布する、ケーキドーナツの製造方法が記載されている。同文献ではケーキドーナツへ塗布する糖の水分散液の量は、ケーキドーナツ50g当たり15~40gと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、揚げ菓子は、サックリした食感が好まれるものであるが、冷凍した揚げ菓子の場合、冷凍、解凍及び電子レンジによる加熱を経ることで、サックリした食感が失われやすい問題がある。この問題に関して特許文献1は何ら検討していない。
【0006】
本発明の課題は、電子レンジ加熱解凍後においてもサックリした食感に優れた揚げ菓子を食味の低下を抑制しながら製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前回課題を解決し得る技術について種々検討した結果、特許文献1に記載の多量の液ではなく、少量の水溶液・水分散液を所定の温度条件下で用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、生地成形後に油調する工程、油調後の生地を80℃以下になるまで放冷する工程、及び、放冷後の生地の表面に、水溶液、又は、水溶性成分が溶解及び分散した水分散液を、油調後の生地に対して10質量%以下の量で塗布して冷凍する工程、を含む、揚げ菓子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子レンジ加熱解凍後においてもサックリした食感に優れた揚げ菓子を食味の低下を抑制しながら製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の揚げ菓子の製造方法について説明する。本明細書における「サックリした食感」とは、歯切れのよい食感と呼ばれることもあり、本明細書において、歯切れの良さと同様の食感とみなすことができる。
【0011】
上記の生地は通常、穀粉類と、水分と、必要にてその他の成分とを混合してなるものである。穀粉類は、穀粉、澱粉及び加工澱粉から選択される1種又は2種以上である。穀粉としては、小麦粉、米粉等が挙げられる。加工澱粉としては、α化、エーテル化、エステル化、架橋、油脂加工、酸化から選ばれる1種又は2種以上の処理を施した澱粉が挙げられる。その他の成分としては、油脂、食塩、糖類、その他調味料、卵類、乳類、植物蛋白質、膨張剤、食物繊維、乳化剤等が挙げられる。糖類の例としては後述する糖類と同様のものが挙げられる。卵類としては、全卵、卵白、卵黄や、これらの冷凍、乾燥、酵素処理、加糖、加塩等の処理を施したものが挙げられる。乳類としては、牛乳、低脂肪牛乳、加工乳、粉乳、ホエイパウダー、カゼイン等が挙げられる。植物蛋白質としては、グルテン、大豆蛋白質等が挙げられる。膨張剤としては、イースト、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダー、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。これらの生地の原料は、成形された生地が一定の形状を保持し易くなるように、選択することが好ましい。
【0012】
生地成形後に油調して油調後の生地を得る工程における成形方法は限定されず、常法によることができる。前記成形生地の形状は特に制限されず、すなわち製造する揚げ菓子の形状は特に制限されず、リング状、棒状、球状、中空状、花形等任意の形状を選択し得る。
【0013】
揚げ菓子1個当たりの生地の重量、すなわち前記油ちょう工程で油中に投入する成形生地の重量は特に制限されないが、一般的には、好ましくは20~75g、より好ましくは35~65gである。
【0014】
成形生地を油調する際の油温は、製造する揚げ菓子の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは155~185℃、より好ましくは165~175℃である。
【0015】
また、油調時間は特に限定されないが、例えば2~5分であることが十分な加熱の点やサックリした食感の点で好ましく、2.5~4分であることがより好ましい。
【0016】
油調に用いる油脂としては、一般に使われている食品を油調することのできる油であれば、油の種類や成分等特に限定されるものではなく、例えば、あまに油、桐油、サフラワー油、かや油、胡桃油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡麻油、玉蜀黍油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまし油、椰子油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、シア脂、ボルネオ脂等の植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、乳脂、羊脂等の動物油脂から選ばれる1種又は2種以上を使用可能であり、これらの油脂を原料にエステル交換したものや、硬化油、分別油、混合油を用いることも可能である。
【0017】
得られた油調後の生地を80℃以下になるまで放冷した後に、水溶液、又は水溶性成分が水に溶解及び分散した水分散液を、油調後の生地に対して10質量%以下の量で油調後の生地の表面に塗布する。ここで、水分散液中の水溶性成分は、水分散液中に溶解する溶質であり、塗布に使用する時点の水分散液の温度において、水100gに対して10g以上溶解する成分を用いる。前記の水溶性成分は、塗布に使用する時点の水分散液の温度において、水100gに対し、15g以上溶解する成分であってもよく、20g以上溶解する成分であってもよく、40g以上溶解する成分であってもよい。また水溶液中の溶質についても同様に、塗布に使用する時点の水溶液の温度において、水100gに対し、10g以上溶解する成分であってよく、15g以上溶解する成分であってよく、20g以上溶解する成分であってよく、40g以上溶解する成分であってもよい。
【0018】
本発明は、上記水溶液又は上記水分散液を油調後の生地に対して、10質量%以下の量で塗布することを特徴の一つとする。このように少量の水溶液又は水分散液を用いることで、電子レンジ加熱解凍後もサックリした食感を得ることが可能となる。後述する比較例3の通り、油調後の生地に対して、上記水溶液又は上記水分散液を10質量%超、例えば15質量%で塗布した場合、サックリした食感の向上が起こらない。これは生地の水分含量の増大が影響していると考えられる。また、後述する比較例3のように、上記水溶液又は上記水分散液を油調後の生地に対して、10質量%超の量塗布すると、食味の低下が起きる場合がある。従って、特許文献1に記載のように、油調後の生地100質量部に対して30質量部以上の糖分散液を用いる場合は、電子レンジ加熱後の食感及び食味が低下すると考えられる。この観点から、油調後の生地に対して、上記水溶液又は上記水分散液の塗布量は7.5質量%以下がより好ましい。また、電子レンジ加熱後の食感及び食味を向上させる点から、油調後の生地に対して、上記水溶液又は上記水分散液の塗布量は0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が特に好ましい。
【0019】
本発明では、油調後の生地は80℃以下になるまで放冷した後に、上記の水溶液又は水分散液を油調後の生地表面に塗布することも特徴の一つである。このような品温にて上記の水溶液又は水分散液を油調後の生地表面に塗布することで、電子レンジ加熱後におけるサックリした食感を向上させることができる。後述する実施例に示す通り、油調後の生地が80℃超(例えば90℃)である状態において上記水溶液を該生地表面に塗布した場合は、電子レンジ加熱後における食感改善効果が得られない。特にこの効果を高める点から、油調後の生地が70℃未満の状態において上記の水溶液又は水分散液を油調後の生地表面に塗布することが好ましく、65℃以下の状態において上記の水溶液又は水分散液を油調後の生地表面に塗布することがより好ましい。一方、上記水溶液又は水分散液を塗布する際の油調後の生地の温度は常温であってよく、通常、5℃以上であるが、30℃以上であることが水溶液又は水分散液を均一に表面にコーティングする点で好ましく、40℃以上であることがより好ましい。
【0020】
油調後の生地の品温は温度計を使って測定することができる。品温は、油調後の生地における外部に露出しない位置の温度をランダムに5箇所測定してその平均として定めるものとする。品温は油調後の生地に針状プローブ温度計を差し込むことで測定できる。
【0021】
油調後の生地に上記水溶液又は水分散液を塗布する方法としては、限定されず、上記水溶液又は水分散液をスプレーして塗布する方法、刷毛を用いる方法、水溶液又は水分散液の流下により塗布する方法、水溶液又は分散液への浸漬により塗布する方法、水溶液又は分散液と混合して塗布する方法等、従来のコーティング処理における方法を採用することができる。
【0022】
油調後の生地へ上記水溶液又は水分散液を塗布する際に、水溶液又は水分散液の温度は30℃以下であることが、電子レンジ加熱後におけるサックリした食感を向上させる点で好適である。また、水溶液又は水分散液は、塗布時における水溶液又は水分散液の温度が5℃以上であることも、電子レンジ加熱後におけるサックリした食感を向上させる点で好適である。特に好適な温度域は10℃以上25℃以下である。
【0023】
水溶液及び水分散液中の水溶性成分としては、糖類、塩類、増粘剤から選ばれる少なくとも一種が、電子レンジ加熱解凍後においてもサックリした食感に優れた揚げ菓子を食味の低下を抑制しながら製造できる点で好ましく挙げられる。
【0024】
糖類としては例えば、グルコース(ぶどう糖)、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガロース、アラビノース、キシロース、リボース、リブロース、エリトロース、トレオース等の単糖類;トレハロース、スクロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラフィノース、ゲンチアノース、マルトトリオース、マンニノトリオース等のオリゴ糖類;多糖類を分解して得られるデキストリン、粉飴;ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール等が挙げられる。
中でも単糖類、オリゴ糖類及び糖アルコールから選ばれる少なくとも一種が、溶解度が高い点で好ましく、とりわけ、グルコース、マンノース、スクロース、トレハロース、マルトース及びソルビトールから選ばれる少なくとも一種が好ましい。
また、糖類としては、電子レンジ加熱解凍後においてもサックリした食感に優れる点でオリゴ糖が好ましく、とりわけ、二糖類が好ましい。
【0025】
水溶液の溶質及び水分散液中の水溶性成分が、糖類である場合、水溶液及び水分散液における糖類の含有量は40質量%以上であることが電子レンジ加熱後におけるサックリした食感に特に優れたものとなる。この理由としては、含有量が高いほど高粘度の水溶液及び水分散液となることが考えられる。本発明者は、本開示の水溶液及び/水分散液を表面に添加することでレンジ加熱時の揚げ菓子表面水分の蒸散を促してサックリさせることができると推測しており、当該効果は水溶液及び/水分散液が一定粘度を有する場合に優れたものとなると考えている。また、水溶液及び水分散液における糖類の含有量は70質量%以下であることが、生地に均一に塗布する点で好ましい。この観点から、水溶液及び水分散液における糖類の含有量は、45質量%以上65質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
なお、本明細書では、水溶液又は水分散液中の溶質/水溶性成分の含有量を「濃度」ともいう。
【0026】
塩類としては、調味料やpH調整剤等として使用される塩が、風味や溶解性の点で好ましい。好適な塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウムから選ばれる少なくとも一種が電子レンジ加熱後におけるサックリした食感に優れる点や、風味の点、溶解性の点で好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
水溶液における溶質及び水分散液における水溶性成分が、塩類である場合、水溶液及び水分散液中のその含有量は10質量%以上であることが、電子レンジ加熱後におけるサックリした食感に特に優れたものとなることから好ましい。また、水溶液及び水分散液中における塩類の含有量は30質量%以下であることが、風味の点で好ましい。この観点から、水溶液及び水分散液中塩類の含有量は、12.5質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
増粘剤としては、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩類、イヌリン、ガム類(グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、ジェランガム)グルコマンナン、ガラクトマンナン、寒天、カラギーナン、プルラン、カードラン、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等)、大豆多糖類、澱粉、加工澱粉等が挙げられる。加工澱粉の例としては、上記で述べたものと同様のものが挙げられる。
中でも、ガム類が、電子レンジ加熱後におけるサックリした食感に優れる点や、風味の点、溶解性の点で好ましく、とりわけアラビアガムが好ましい。
【0029】
水溶液における溶質及び水分散液における水溶性成分が増粘剤である場合、水溶液及び水分散液中のその含有量は0.1質量%以上であることが、電子レンジ加熱後におけるサックリした食感に特に優れたものとなることから好ましい。また、水溶液及び水分散液中の増粘剤の含有量は1質量%以下であることが、均一に生地に塗布する点で好ましい。この観点から、水溶液及び水分散液中の増粘剤の含有量は、0.2質量%以上0.8質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上0.7質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
水溶液における溶質及び水分散液中の水溶性成分としては、上記の各種の溶質の1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶液において、上記の溶解性を有する溶質及び水分散液中の水溶性成分の量は合計として、水溶液及び水分散液中、0.15質量%以上75質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上65質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
水溶液及び水分散液の調製方法としては、限定されるものではなく、溶解のための水の加温を伴うものであってもよく、伴わないものであってもよい。水分散液は、例えば懸濁状態とする。水分散液は、例えば公称目開き200μmの篩を全通させてから用いると均一な塗布を行うことができる点で好ましい。
【0032】
水溶液及び水分散液には、上述した溶質及び水溶性成分以外のその他の成分を含有していてもよい。例えば、そのような成分としては、香料、調味料、色材、乳化剤、脂質、香辛料等が挙げられる。水溶液及び水分散液における上記溶質及び水溶性成分以外のその他の成分の含有量は、特に限定されないが、20質量%以下であることが、食味や電子レンジ加熱後におけるサックリした食感を一層容易に付与する点で好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
水溶液及び水分散液は、塗布時における粘度が5mPa・s以上であることが、生地内部への浸透を抑制する点で好ましい。また、上述した通り、電子レンジ加熱解凍後のサックリした食感の点でも好ましい。水溶液及び水分散液の塗布時における粘度は通常500mPa・s以下であり、50mPa・s以下であることが生地に均一に塗布する点で好ましい。これらの点から、水溶液及び水分散液の粘度は、塗布時における粘度が7.5mPa・s以上45mPa・s以下であることがより好ましい。粘度はB型粘度計を用い、後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0034】
水溶液及び水分散液は、油調した生地の一部のみを塗布するものであってもよく、全体を塗布するものであってもよいが、好ましくは、その表面の面積の35%以上を水溶液及び水分散液を接触させるように塗布を行うことが好ましく、50%以上がより好ましい。塗布は連続的であっても断続的であってもよい。
【0035】
油調後の生地は、水溶液又は水分散液を塗布した後に冷凍する。塗布時点における揚げ菓子の品温が、室温よりも高い場合、冷凍は、水溶液又は水分散液塗布後の生地を放冷して室温としてからおこなってもよく、そのまま冷凍してもよい。
【0036】
冷凍は急速冷凍であることが、サックリとした食感を強める点で好ましい。急速冷凍とは、揚げ菓子を冷凍する際に揚げ菓子の温度が0℃に到達する時点から-20℃に到達する時点までに要する時間を120分間以下で行う冷凍をいう。冷凍温度としては、冷凍温度は、少なくとも水が凍結する0℃以下であり、好ましくは-15℃以下であり、より好ましくは-20℃以下である。
【0037】
本発明が適用できる揚げ菓子としては、ドーナツ(イーストドーナツ、ケーキドーナツ)、クルーラー、チュロス、ピロシキ、サーターアンダーギー、揚げ饅頭等のドーナツ類や揚げパイ類、かりんとうや等が挙げられ、特にドーナツ類に適用することが、電子レンジ加熱後のサックリした食感に優れるという特性の経済的価値が高い点や水溶液及び水分散液による食感改良効果が高い点で好ましい。
本開示は、冷凍揚げ菓子の製造方法であることが、電子レンジ加熱の際の食感向上の利点を発揮できる点で好適である。
【実施例0038】
〔実施例1~7及び比較例2~3〕
強力粉を用いてドーナツを作製した。具体的には、カメリヤ(日清製粉)100質量部、砂糖10質量部、食塩2質量部、ドライイースト(日清製粉ウェルナ)2質量部に水64質量部を加え、市販のミキサーに投入し、低速で3分間、中低速で2分間、中高速で1分間の順で撹拌して生地を調製した後、ホイロにて30分間静置し発酵させた(温度40℃、湿度80%)(生地調製工程)。
次に、得られた生地をドーナツ1個当たり60gに分割し、分割した生地を円盤状に成形して成形生地を得た。
次に、前記成形生地を、油温175℃の菜種油を満たした油槽に投入し、30秒ごとに該成形生地の上下を反転させながら合計2分30秒間油調して、ドーナツを製造した。
【0039】
一方、表1に記載の溶質を水に溶かし、20℃の水溶液を用意した。実施例1、4~7、比較例2~3の砂糖の濃度は55質量%濃度(20℃の粘度29.3mPa・s)であり、実施例2の食塩の濃度は20質量%濃度(20℃の粘度7.9mPa・s)であり、実施例3のアラビアガムの濃度は0.5質量%濃度(20℃の粘度8.5mPa・s)であった。溶質の詳細は以下の通りである。
砂糖:グラニュ糖 GH4(三井製糖)
食塩:鳴門並塩(鳴門塩業)
アラビアガム:アラビアガムHP(住友ファーマフード&ケミカル)
【0040】
粘度の測定方法は塗布時の温度条件下で以下の方法で測定した。
<粘度の測定方法>
測定対象液を周速12rpmで1時間連続撹拌して所定温度に設定した。その後、B型粘度計を用いて回転数12rpmで試料の粘度を測定した。B型粘度計による回転の開始から1分経過時点の粘度の測定値を、測定対象の粘度とした。B型粘度計による粘度測定は、東機産業社製の「TV-25」を用い、No.4ローターを使用して行った。
【0041】
得られたドーナツを、室温下で放冷し、表1に記載の温度となった時点で上記で調製した水溶液を表1に記載の量、刷毛にて塗布した。ドーナツにおける塗工面積の割合は50%以上であった。ドーナツは急速冷凍条件にて凍結の後、-20℃で保管し、揚げ菓子を得た。なお、表1に記載の塗布量は、油調後の生地の質量を基準としている。
【0042】
〔比較例1〕
水溶液の代わりに20℃の水を用いた以外は実施例1と同様にして、揚げ菓子を製造した。
【0043】
(評価)
30日間冷凍した揚げ菓子を、家庭用の電子レンジを用いて600W、45秒の条件で解凍した。
解凍後の揚げ菓子は、下記の評価基準により、パネラー10名に評価させた。10名の平均値を、評価結果として表1に示した。なお、対照例は、水溶液を塗布していないものである。水のみの被覆は比較例1である。
【0044】
・食感(歯切れの良さ)
5点:対照例よりもサックリとした食感が非常に強い。
4点:対照例よりもサックリとした食感がかなり強い。
3点:対照例よりもサックリとした食感が強い。
2点:対照例と同等にサックリとした食感がある。
1点:対照例よりもヒキがかなり強く、サックリとした食感がない。
【0045】
(食味)
5点:対照例よりも食味がかなり優れる。
4点:対照例よりも食味が優れる。
3点:対照例と同等の食味である。
2点:対照例よりも食味が劣る。
1点:対照例よりも食味がかなり劣る。
【0046】
【0047】
表1に示す通り、各実施例では、放冷により油調後の生地の温度を80℃以下とした状態で、水溶液を、油調後の生地に対して質量10質量%以下の量で表面に塗布することで食味を低下させずにサックリした食感を向上させることができる。
一方、水を塗布する以外は実施例1と同条件の比較例1は、食感が逆に低下した。また油調後の生地温度が90℃の時点で塗布する以外は実施例1と同条件の比較例2では食感向上効果が見られなかった。油調後の生地に対して15質量%の量で塗布した以外は実施例1と同条件の比較例3でも食感の向上が見られず、食味も低下した。
【0048】
〔実施例8~11〕
実施例8及び9では油調後の生地に塗布する水溶液の温度を表2の温度に変更した。実施例10及び11では、油調後の生地に塗布する水溶液中の溶質の濃度を表2に記載の濃度に変更した。それらの点以外は、実施例1と同様にして、冷凍揚げ菓子を得て、評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
〔実施例12~16〕
溶質を実施例1から表3に記載のものに変更し、水溶液又は水分散液の粘度(20℃)を測定した。その点以外は実施例1と同様にして、冷凍揚げ菓子を得て、評価した。結果を表3に示す。
なお、表3の各成分は次の通りである。
マルトース:サンマルト(登録商標)ミドリ(林原)
マンノース:D-マンノースパウダー(Wellgreen)
グルコース:含水結晶ぶどう糖HI-MESH(サンエイ糖化)
トレハロース:トレハ(登録商標)微粉(林原)
ソルビトール:ソルビトールF(物産フードサイエンス)
【0051】
【0052】
表2及び表3に示す通り、水溶液の温度・濃度を変更した場合も、溶質を変更した場合も、品温を所定温度以下とした揚げ菓子に、少量の所定液を付与することで、電子レンジ加熱後のサックリした食感が、食味を低下させずに得られることが判る。