(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126386
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20240912BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C09K11/06
C09K11/06 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034736
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
【テーマコード(参考)】
4H050
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AB92
(57)【要約】
【課題】近赤外領域において、より発光効率に優れた新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。
[式(1)において、A、Bはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。Lはn価の配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。Rは電子吸引基を表し、rは1以上の整数を表す。]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)において、
A、Bはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
Lはn価の配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。
Rは電子吸引基を表し、rは1以上の整数を表す。]
【請求項2】
前記Lが下記式(2)で表されるものである、請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【請求項3】
前記式(2)が、下記式(3)又は下記式(4)で表される、請求項2に記載の化合物。
【化3】
[式(3)において、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【化4】
[式(4)において、R
4は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
R
5は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
R
4、R
5がそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項4】
前記Aが、置換基としてアルキル基、ハロアルキル基、又はフッ素原子を有する請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
前記Aが、置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物に関する。
本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有するものであり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近赤外域の発光は、外光は人間の目では捉えることのできない光ではあるが、マシンビジョンと組み合わせることにより視覚化することが可能であり、偽造防止用インクや表示用マーカーとしての利用が期待されている。また、近赤外光は、皮膚への透過性が高いことから、バイオセンサーやバイオイメージング用マーカーなど医療用分野への適用や美容や健康増進、治療、植物生育のための光源としても期待されている。
【0003】
現在、近赤外光源としては無機のLEDが主に用いられているが、より広範な範囲で様々な形態に適用できる有機EL光源が期待されている。
【0004】
従来、近赤外域で発光する様々なOLED用発光色素の開発がなされているが、波長790nm以上で高効率に発光を有する発光色素の例は少ない。
特許文献1には、チアジアゾロピリジン系配位子を有する有機イリジウム錯体が示されているが、発光色素としての実用化には、発光効率の更なる向上が望まれる。
なお、特許文献1には、チアジアゾロピリジン系配位子が、様々な置換基を有してもよい旨の記載はあるが、具体的に置換基を有するチアジアゾピリジン系配位子の開示はなく、ましてやチアジアゾロピリジン系配位子として電子吸引基を有することで、発光効率が大きく向上することを示唆する記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0218240号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、近赤外領域において、より発光効率に優れた新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、チアジアゾロピリジン系配位子を有する有機イリジウム錯体において、チアジアゾロピリジン系配位子に置換基として電子吸引基を導入することで、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0009】
【0010】
[式(1)において、
A、Bはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
Lはn価の配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。
Rは電子吸引基を表し、rは1以上の整数を表す。]
【0011】
[2] 前記Lが下記式(2)で表されるものである、[1]に記載の化合物。
【0012】
【0013】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0014】
[3] 前記式(2)が、下記式(3)又は下記式(4)で表される、[2]に記載の化合物。
【0015】
【0016】
[式(3)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0017】
【0018】
[式(4)において、R4は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
R5は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
R4、R5がそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0019】
[4] 前記Aが、置換基としてアルキル基、ハロアルキル基、又はフッ素原子を有する[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【0020】
[5] 前記Aが、置換基を有していてもよい、ベンゼン環又はナフタレン環である、[1]~[4]のいずれかに記載の化合物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の構造を有することにより、近赤外領域において高い発光効率で発光する新規化合物が提供される。
本発明の化合物は、近赤外光を利用した選別・認識手段に有用であり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1で得られた化合物Iの発光スペクトルを表すチャートである。
【
図2】実施例2で得られた化合物IIの発光スペクトルを表すチャートである。
【
図3】比較例1で得られた比較化合物iの発光スペクトルを表すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「アリール基」とは「芳香族炭化水素基」と「芳香族複素環基」の総称である。
【0024】
本発明の化合物は、下記式(1)で表される新規化合物である。
【0025】
【0026】
[式(1)において、
A、Bはそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
Lはn価の配位子を表し、m及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、m+n=3である。
Rは電子吸引基を表し、rは1以上の整数を表す。]
【0027】
上記式(1)で表される本発明の化合物が本発明の効果を奏する理由は定かではないが、以下が考えられる。
即ち、本発明の化合物は、チアジアゾロピリジン系配位子に置換基として電子吸引基を有することで、配位子から金属への項間交差が促進し、無輻射失活速度が抑制されることで、発光効率が向上すると考えられる。
【0028】
[R・r]
式(1)において、Rは電子吸引基を表す。
電子吸引基とは、水素原子と比べて結合原子側から電子を引きつけやすい置換基を指し、電子吸引基がフェニル基に置換した場合には、ベンゼン環上の電子密度を減弱させる、つまり、電子不足にさせる効果がある。
電子吸引基としては、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子等の電気陰性度が高い原子と多重結合をしている原子;ハロゲン原子が置換した炭素原子;正電荷を帯びている原子;等が挙げられる。Rが電子吸引性であることの指標の例としては、例えば、小西謙三、黒木宣彦著「合成染料の化学」(槇書店、1963年2月25日発行)第23頁~第25頁に記載されているハメット式における置換基定数が正であることが挙げられる。
【0029】
電子吸引基としては具体的には、スルホ基、カルボキシ基、ホルミル基、置換基を有していてもよいスルファモイル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換基を有してもいてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロゲン原子が置換したアルキル基等が挙げられる。
これらのうち、発光効率の向上効果の観点から、Rの電子吸引基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、トリフルオロメチル基等の炭素数1~24のハロアルキル基、炭素数1~24のアルキルカルボニル基、フッ素原子等のハロゲン原子が置換した炭素数1~12のアルコキシル基、シアノ基等が好ましく、より好ましくは、フッ素原子、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、炭素数1~24のアルキルカルボニル基、シアノ基である。
【0030】
これらの電子吸引基Rの置換位置としては特に制限はなく、環A及び/又は環Bであってもよく、式(1)中のピリジン環であってもよく、環A,Bに置換した置換基であってもよいが、合成上の観点から環A及び/又は環Bに電子吸引基Rが置換していることが好ましい。
【0031】
また、式(1)において電子吸引基Rの数を表すrは1以上の整数であればよく、その上限は、式(1)に示されるチアジアゾロピリジン系配位子に置換し得る数であるが、電子吸引基Rの数が過度に多いと立体障害となり錯形成が困難になることから、電子吸引基Rの数rは、15以下、特に1~12、とりわけ1~9であることが好ましい。
【0032】
特に、電子吸引基Rは、環A及び環Bの一方又は双方に置換していることが好ましく、環A及び環Bへの置換位置は、環A及び環Bが式(1)中のピリジン環に結合する位置からパラ位、或いはパラ位とメタ位であることが錯形成に優位であるとの観点から好ましい。
【0033】
[A、B]
式(1)において、環A、Bはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。これらの環は単一又は複数の置換基を有していてもよい。
芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。
芳香族複素環としては、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、チオフェン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、チアゾール環、チアジアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環等が挙げられる。
これらの中でも、環A、Bは、それぞれ独立に、電子供与性の環が好ましく、なかでもベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、ピレン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環が好ましく、発光効率の観点から、ベンゼン環又はナフタレン環がより好ましい。
これらの環であることで、配位子としてのバンドギャップが小さくなり、近赤外発光が得られる傾向にある。
【0034】
環Aが有してもよい置換基は、それぞれ独立して、前述の電子吸引基R、重水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基等が挙げられる。これらの中でも、前述の電子吸引基R、重水素原子、置換基として、アルコキシル基を有していてもよいアルキル基、置換基としてアルキル基を有していてもよいアルコキシル基、置換基としてアルキル基、アリール基を有していてもよいアミノ基が、立体障害が小さくなるため好ましく、CH結合の振動伸縮による効率低下の抑制の観点から、前述の電子吸引基R以外の置換基としては、アルキル基が好ましい。なお、ここで、アルキル基の炭素数は1~18であることが好ましい。
【0035】
環A、Bが有する前述の電子吸引基R以外の置換基の数及び位置は特に限定されないが、Irとの結合位置から離れた位置に置換する方が、式(1)で表される化合物の安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0036】
[L]
Lは1価の2座配位子を表し、本発明の特性を損なわない限り特に制限は無い。同一分子内にLが複数ある場合、複数のLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
Lとしては、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0038】
【化6】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0039】
式(2)において、C原子、N原子及びO原子は環又は基の一部であり、X及びYをそれぞれ含む環又は基が、結合しているものである。C原子、N原子及びO原子を含む環又は基は特に限定されないが、安定性の観点からIr、X及びYを含む環が5員環又は6員環となることが好ましい。このようなものとして、具体的には、下記の構造が挙げられる。
【0040】
【0041】
式(1)におけるIrとLとの結合様式には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Lの窒素原子及び炭素原子で結合する様式、Lの2つの窒素原子で結合する様式、Lの2つの炭素原子で結合する様式、Lの炭素原子及び酸素原子で結合する様式、Lの2つの酸素原子で結合する様式、Lの窒素原子及び酸素原子で結合する様式などが挙げられる。
【0042】
Lの好ましい構造を以下の式(2A)~(2F)に例示するが、この限りではない。これらはその構造を保ち得る限りにおいて、骨格の炭素原子が窒素原子など他の原子に置き換わっていてもよいし、さらに置換基を有していてもよい。
【0043】
Lが置換基を有する場合、その置換基としては、-F、-CN、-CF3等の炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状ハロアルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族炭化水素基また炭素数2以上60以下の芳香族複素環基等が挙げられる。
ここで、アリールオキシ基、アリールチオ基のアリール基には、芳香族炭化水素基と芳香族複素環基が含まれる。
また、Lが有する置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して環を形成してもよい。
Lが有していてもよい置換基としては、-F、-CN、-CF3、アルキル基、アラルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が特に好ましく、-F、-CN、-CF3、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が最も好ましい。
【0044】
【0045】
上記Lの例示式の中でも、式(2A)又は式(2F)が、式(1)で表される化合物の安定性が向上することから好ましい。
即ち、Lは下記式(3)又は下記式(4)で表される配位子であることが好ましい。
【0046】
【0047】
[式(3)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0048】
【0049】
[式(4)において、R4は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
R5は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
R4、R5がそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0050】
上記式(3)におけるR1、R2、R3のアルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基である。また、置換基を有するアルキル基としては、ハロアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~8のパーフルオロアルキル基である。また、アリール基は、好ましくはフェニル基、チエニル基、ピリジル基である。
R2は水素原子であることが好ましく、R1、R3は、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基であることが好ましい。
【0051】
上記式(4)におけるR4、R5のより具体的な例は、Lが有していてもよい置換基として例示したものが挙げられ、好ましいものも同じである。
式(4)における置換基数であるp,qは、溶解性の観点から1~4であることが好ましく、昇華性向上の観点から0であることが好ましい。
【0052】
[m及びn]
式(1)におけるm及びnはそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、n+m=3である。
【0053】
[式(1)で表される化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば以下スキームが挙げられる。
【0054】
配位子の合成は、鈴木-宮浦カップリング反応等を利用することにより合成することが出来る。
【0055】
【0056】
錯体合成は、Inorg.Chem.1991,30,1685-1687やJ.AM.CHEM.SOC.2003,125,7377-7387に記載の合成フローで以下の通り合成することが出来る。
【0057】
【0058】
[式(1)で表される化合物の物性]
式(1)で表される本発明の化合物の発光効率は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定された室温での発光効率として、好ましくは7%以上、より好ましくは8%以上である。発光効率が8%以上であることで、近赤外光を利用した選別・識別手段に有効に利用することが可能となる。
【0059】
[式(1)で表される化合物の具体例]
以下に、式(1)で表される本発明の化合物の具体例を示すが、本発明の化合物はこれに限定されるものではない。以下において、Phはフェニル基を、Etはエチル基を表す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
[部材]
式(1)で表される本発明の化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有し、近赤外光を利用した選別・認識手段に有用である。例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等に好適に用いることができる。
【実施例0068】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0069】
【0070】
【0071】
アルゴン雰囲気下、250mL容三頸反応器に、4,7-ジブロモ[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-c]ピリジン(2.950g,10.00mmol)、4-トリフルオロメチルフェニルボロン酸(4.596g,2.42eq.)、テトラヒドロフラン(74mL,25v/w)、2M炭酸カリウム水溶液(24mL,4.8eq.)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換を繰り返して脱気した。ここへPd(PPh3)4(1.16g,10mol%)を投入後、24時間還流撹拌した。
室温へ冷却後、酢酸エチル(50mL×2回)で抽出した。有機層を合わせ、精製水(50mL)、飽和食塩水(20mL)で洗浄後、無水芒硝で乾燥、濾過し、濾液を濃縮して、暗褐色粘体粗体(5.08g)を得た。
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63-210um,175gをヘキサンで充填し、ヘキサン~酢酸エチル/ヘキサン=1/9で溶出)にて分離精製し、目的物である中間体I-1(635mg,収率14.9%,LC純度99.4%,赤色固体)を得た。
【0072】
【0073】
30mLシュレンクに0.11gの[Ir(cod)Cl]2(クロロ-1,5-シクロオクタジエンイリジウム)(I)二量体)(0.16mmol,1eq.)と0.30gの中間体I-1(0.71mmol,4.4eq.)を加え、窒素置換を3回行った。ここへ4.5mLのo-ジクロロベンゼンを加え、120℃で撹拌を開始した。
三日に分けて(夜間加熱停止)合計25時間加熱を行った後、冷却して反応液を吸引濾過した。残渣をエタノール洗浄し、真空乾燥して中間体I-2(0.19g、黒色粉末、0.11mmol、収率60%)を得た。
【0074】
【0075】
30mLのシュレンク管に0.19gの中間体I-2(0.11mmol,1eq.)と0.06gの炭酸カリウム(0.47mmol,4.4eq.)及び1.5mLの2-エトキシエタノールを加え、窒素置換を3回行った。ここへ0.09gのジピバロイルメタン(0.47mmol,4.4eq.)を加え、110℃で4時間撹拌した。
反応液を冷却し、吸引濾過した。得られた残渣を水で洗浄し、ジクロロメタンで溶出して溶媒除去した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=3:7)で精製し、0.11gの化合物I(黒色粉末、0.10mmol、収率94%)を得た。
【0076】
【0077】
【0078】
アルゴン雰囲気下、4,7-ジブロモ[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-c]ピリジン(2.950g,10.00mmol)、4-メトキシフェニルボロン酸(東京化成品3.677g,2.42eq.)、テトラヒドロフラン(74mL,25v/w)、2M炭酸カリウム水溶液(24mL,4.8eq.)を室温にて仕込み、真空減圧とアルゴン置換を繰り返して脱気した。ここへPd(PPh3)4(1.16g,10mol%)を投入後、24時間還流撹拌した。室温へ冷却後、酢酸エチル(50mL×2回)抽出した。有機層を合わせ、精製水(50mL)、飽和食塩水(20mL)で洗浄後、無水芒硝で乾燥、濾過し、濾液を濃縮して、暗褐色粘体粗体(5.08g)を得た。
この粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60N球状中性,63-210um,175gをヘキサンで充填し、ヘキサン~酢酸エチル/ヘキサン=1/9で溶出)にて分離精製し、中間体II-1を849mg,収率26.4%,純度99.5%で得た。
【0079】
【0080】
100mL二口フラスコに、中間体II-1(808mg,2.51mmol)とp-(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(571mg,3.01mmol)を加え、3回窒素置換した。ここへ19mLのテトラヒドロフランを加えて溶解させた。
炭酸カリウム(1.076g,7.79mmol)と19mLの水で溶液を調製し、これを上記の二口フラスコに加えた後、60分間窒素バブリングを行った。ここへ、窒素雰囲気下にてPd(PPh3)4(145mg,0.125mmol)を加え、65℃で31時間撹拌した。
これを後処理してカラム精製したのち、658mgの粗生成物とp-(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(320mg,1.68mmol)、炭酸カリウム(450mg,3.25mmol)及びPd(PPh3)4(132.5mg,0.115mmol)を用いて再度反応を行った。
24時間加熱後放冷し、反応液に水を注いで沈殿を生じさせて吸引濾過し、濾取物を水洗し、真空乾燥した。
これをカラム精製(シリカゲル、ジクロロメタン:ヘキサン=3:1→ジクロロメタン100%)で精製し、中間体II-2(蛍光性黄色粉末、599.4mg、収率61.7%)を得た。
【0081】
【0082】
30mLシュレンク管に塩化イリジウム・n水和物(Ir純度52.8%、221mg、0.607mmol)と中間体II-2(474mg、1.22mmol)を加え、3回窒素置換した。
窒素雰囲気下にて16mLの2-エトキシエタノールと5.3mLの水を加え、115℃で18.5時間撹拌した。
放冷後、水を加えて懸濁させて吸引濾過し、濾物を水とエタノールで洗浄後、真空乾燥し、中間体II-3(黒色粉末、422mg、収率69.5%)を得た。
【0083】
【0084】
30mLシュレンク管に中間体II-3(422mg,0.211mmol)と炭酸カリウム(196mg,1.42mmol)及び4.2mLの2-エトキシエタノールを加え、3回窒素置換した。
窒素雰囲気下にてジピバロイルメタン(196mg,1.42mmol)を加え、120℃で2時間撹拌した。
反応液を50mLのエタノールに注いでソニケーションし、吸引濾過し、濾取物を水とエタノールで洗浄後風乾した。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=7:3)で精製し、化合物II(黒色粉末、79.6mg、収率16.5%)を得た。
【0085】
【0086】
【0087】
100mL二口フラスコに2.00gの[Ir(cod)Cl]2(2.98mmol,1eq.)と3.45gのチアジアゾロピリジン誘導体(11.92mmol,4eq.)を加え、窒素置換を3回行った。ここへ60mLのo-ジクロロベンゼンを加え、120℃で撹拌を開始した。
三日に分けて(夜間加熱停止)合計23時間加熱を行った後、冷却し反応液を吸引濾過した。残渣をエタノール洗浄、真空乾燥して3.88gの中間体i(黒色粉末、2.41mmol、収率80.9%)を得た。
【0088】
【0089】
30mLシュレンク管に中間体i(581mg,0.361mmol)と炭酸カリウム(326mg,2.36mmol)及び、7.2mLの2-エトキシエタノールを加え、3回窒素置換した。
窒素雰囲気下にてアセチルアセトン(181mg,1.81mmol)を加え、120℃で6時間撹拌した。反応液を氷冷し、吸引濾過し、濾物を水とエタノールで洗浄後風乾し、残渣をジクロロメタンで抽出した。得られた抽出液から溶媒除去した。
得られた粗生成物をカラム精製(シリカゲル、ジクロロメタン:ヘキサン=65:35→75:25)で精製し、比較化合物i(黒色粉末、18.6mg、収率3.0%)を得た。
この比較化合物iは、特許文献1に記載の化合物である。
【0090】
[発光スペクトルの測定]
得られた化合物I、化合物II及び比較化合物iの吸収スペクトルと発光スペクトルを測定した。なお、発光スペクトルは、日本分光株式会社の紫外可視近赤外分光光度計V-7200を用い、10
-6mol/Lの脱気したトルエン溶液を調液して室温にて測定した。
測定結果を
図1~3に示す。
【0091】
[発光極大波長の測定]
上記発光スペクトルの測定結果(
図1~3)から、化合物I、化合物II及び比較化合物iの発光極大波長(トルエン)を求めた。
【0092】
[発光効率の測定]
得られた化合物I、化合物II及び比較化合物iの発光効率の測定では、浜松ホトニクス社製C9920-12絶対量子収率測定装置を用いた。10-6mol/Lの脱気したトルエン溶液を調液して室温にて測定した。
【0093】
これらの結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
表1より、本発明の化合物は、特許文献1に記載の化合物よりの発光効率に優れ、近赤外発光を利用した選別・認識手段への応用に有利であることが分かる。