(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126415
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】磁気メモリ素子、並びに磁気メモリ素子の情報の書き込みおよび読み取り方法
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240912BHJP
H10N 52/85 20230101ALI20240912BHJP
H10N 52/80 20230101ALI20240912BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N52/85
H10N52/80 D
H01F10/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034780
(22)【出願日】2023-03-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年8月26日にウェブサイトにて公開 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/programpage 〔刊行物等〕 令和4年9月20日に開催された「2022年第83回応用物理学会秋季学術講演会」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】東 正樹
(72)【発明者】
【氏名】重松 圭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓真
【テーマコード(参考)】
4M119
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA20
4M119BB20
4M119CC09
4M119DD26
4M119DD60
5E049AA01
5E049BA06
5F092AB06
5F092AC30
5F092AD13
5F092AD24
5F092BD04
5F092BD19
5F092BD24
5F092BE15
5F092BE21
5F092BE24
5F092BE25
5F092EA01
(57)【要約】
【課題】室温で電場による情報の書き込みおよび読み取りが可能な磁気メモリ素子を提供することにある。
【解決手段】磁気メモリ素子は、以下の式(1)で表される化合物で構成された薄膜と、薄膜に配置された第1電極と、薄膜に配置された第2電極と、を備える。
BiFe
1-xA
xO
3・・・(1)
[式(1)中、AはCoまたはMnであり、xは0.05≦x<0.25を満たす。]
第1電極および第2電極は、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されることによって、薄膜に平行な方向に電場が生じるように配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される化合物で構成された薄膜と、
前記薄膜に配置された第1電極と、
前記薄膜に配置された第2電極と、を備え、
前記第1電極および前記第2電極は、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧が印加されることによって、前記薄膜において前記薄膜に平行な方向に電場が生じるように配置されている、
磁気メモリ素子。
BiFe1-xAxO3・・・(1)
[式(1)中、AはCoまたはMnであり、xは0.05≦x<0.25を満たす。]
【請求項2】
前記薄膜は、(110)配向している、
請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項3】
前記第1電極および前記第2電極は、前記薄膜の[1-10]方向に電場が生じるように配置されている、
請求項2に記載の磁気メモリ素子。
【請求項4】
前記薄膜の厚みは、10nm~1000nmである、
請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項5】
前記薄膜が配置された基板をさらに備え、
前記基板は、(110)配向のSrTiO3基板、(010)配向のGdScO3基板、(010)配向のGdScO3または(010)配向のDyScO3基板である、
請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気メモリ素子の情報の書き込みおよび読み取り方法であって、
前記磁気メモリ素子の前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、前記薄膜の磁化を反転させて、情報を書き込む工程と、
前記薄膜の磁化の反転を検出して、書き込まれた情報を読み取る工程と、を含む、
磁気メモリ素子の情報の書き込みおよび読み取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリ素子、並びに磁気メモリ素子の情報の書き込みおよび読み取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BiFeO3のFeを一部Coで置換したBiFe0.9Co0.1O3は、室温で強誘電性および弱強磁性を併せ持ち、71°分極反転に伴う磁化反転が磁気力顕微鏡(MFM)で観測されていることから、この電場印加による磁化反転現象を利用した超低消費の磁気メモリへの応用が期待されている(非特許文献1)。また、109°分極反転においても磁化の反転が予想されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Shimizu, et al., Nano Lett. 19, 1767 (2019).
【非特許文献2】J. T. Heron, et al., Nature 516, 370 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献2では、109°分極反転においても磁化の反転が予想されているものの、その詳細は明らかではない。そのふるまいを明らかにできれば、磁気メモリ素子の応用を大きく加速させることができると考えられる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、電場による情報の書き込みおよび読み取りが可能な磁気メモリ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の磁気メモリ素子は、以下の式(1)で表される化合物で構成された薄膜と、薄膜に配置された第1電極と、薄膜に配置された第2電極と、を備える。
BiFe1-xAxO3・・・(1)
[式(1)中、AはCoまたはMnであり、xは0.05≦x<0.25を満たす。]
第1電極および第2電極は、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されることによって、薄膜において薄膜に平行な方向に電場が生じるように配置されている。
【0007】
本発明の別の態様は、上記磁気メモリ素子の情報の書き込みおよび読み取り方法である。磁気メモリ素子の情報の書き込みおよび読み取り方法は、磁気メモリ素子の第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、薄膜の磁化を反転させて、情報を書き込む工程と、薄膜の磁化の反転を検出して、書き込まれた情報を読み取る工程と、を含む。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、室温で電場による情報の書き込みおよび読み取りが可能な磁気メモリ素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁気メモリ素子の模式図である。
【
図2】
図2(a)は、BiFeO
3の結晶構造および磁気構造を示す図である。
図2(b)は、BiFe
1-xA
xO
3の結晶構造および磁気構造を示す図である。
【
図3】BiFe
1-xA
xO
3がとりうる自発分極およびその分極反転を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(d)は、本発明の一実施形態に係る磁気メモリ素子の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図6】一実施例に係るサンプルを上面視した図である。
【
図7】
図7(a)は、+80Vの電圧を印加したときの強誘電ドメインの観察結果を示す図であり、
図7(b)は、-80Vの電圧を印加したときの強誘電ドメインの観察結果を示す図であり、
図7(c)は、+80Vの電圧を印加したときの強磁性ドメインの観察結果を示す図であり、
図7(c)は、-80Vの電圧を印加したときの強磁性ドメインの観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(背景)
HDD(Hard Disk Drive)およびMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの磁気メモリでは、コイルに電流を流して発生する磁場で強磁性体の磁化を制御し、磁気情報の書き込みを行う。このため、情報量が大きくなると、消費電力が増大する問題が生じる。また、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)などの強誘電メモリでは、情報を読み出す際に、その情報を一度破壊して、読み出し後に再度情報を書き込む必要がある。このため、情報量の増加に伴う消費電力の増大を抑制し、情報の読み出しの際における情報の破壊を必要としない強磁性強誘電体(マルチフェロイック物質)を用いた電場印加磁化反転による電場書き込み磁気読み出しが期待されている。
【0012】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気メモリ素子1の模式図である。磁気メモリ素子1は、基板10、薄膜12、複数の電極部14、電源16および読み取り部18を備える。
図1において、電源16は、各電極部14へ電圧を印加するためのものである。なお、
図1には、8つの電極部14を示しているが、電極部の数は7つ以下であってよいし、9つ以上であってよい。
【0014】
基板10は、ペロブスカイト構造を有し、擬立方表記で格子定数がたとえば3.90~3.97Åである化合物で構成されてよい。基板10は、たとえばSrTiO3基板、GdScO3基板、TbScO3基板およびDyScO3基板などであってよい。基板10は、SrTiO3基板の場合には、(110)配向した基板であってよく、GdScO3基板、TbScO3基板またはDyScO3基板の場合には、(010)配向した基板であってよい。基板10の厚さは、特に限定されないが、薄膜合成および取り扱いのしやすさの観点から、300μm~1000μmが好ましく、400μm~600μmがより好ましい。
【0015】
薄膜12は、下記式(1)で表される化合物で構成されている。
BiFe1-xAxO3・・・(1)
式(1)中、Aは、CoまたはMnであり、xは、0.05≦x<0.25を満たす。xが0.05以上であることで、薄膜12は、室温で強磁性および強誘電性を発揮できる。xが0.25未満であることで、薄膜12の結晶構造の変化を抑制できる。室温での薄膜12の自発磁化の大きさは、たとえば1emu/cm3~10emu/cm3程度であってよく、自発分極の大きさは、たとえば50~150μC/cm2程度であってよい。
【0016】
薄膜12の厚さは、10nm~1000nmであることが好ましい。かかる薄膜12の厚さであれば、薄膜12に確実に電場を印加できるようになり、デバイスとしての信頼性を向上できる。格子歪みの観点から、薄膜12の厚さは、30nm~400nmであることがより好ましい。薄膜12の厚さを30nm以上とすることにより、薄膜12のストライプドメインを安定させることができる。
【0017】
図2(a)および
図2(b)を参照しながら、BiFe
1-xA
xO
3の自発磁化および自発分極について説明する。
図2(a)は、BiFeO
3の結晶構造および磁気構造を示す図である。
図2(b)は、BiFe
1-xA
xO
3の結晶構造および磁気構造を示す図である。
【0018】
BiFeO
3は、六方晶の結晶構造を有し、矢印で示されるスピン磁気モーメント(以下、単に「スピン」とも称する。)をもつ鉄サイトを含む層がc軸方向に積層されている。BiFeO
3は、c軸方向に電気分極(自発分極)を有する。
図2(a)に示すように、各鉄サイトは、c軸方向に隣り合う層の最も近い鉄サイトと逆向きのスピンを有する。また、ab面内において一直線上にある鉄サイト(たとえば、
図2(a)に示す5つの鉄サイト201)は、サイクロイドを形成している。このサイクロイドでは、620Åでスピンの回転が一周する。このため、BiFeO
3は、自発磁化を有しない。
【0019】
BiFe
1-xA
xO
3は、BiFeO
3のFeをAで一部置換したものであり、BiFeO
3と同様に、六方晶の結晶構造を有し、スピンをもつ鉄またはコバルトサイトを含む層がc軸方向に積層されている。また、BiFe
1-xA
xO
3は、c軸方向に電気分極(自発分極)を有する。BiFe
1-xA
xO
3では、BiFeO
3とは異なり、スピンがab面内を向いている。そして、
図2(b)において破線上に配置されているc軸方向に隣り合う2つの層のスピンは、ab面内に自発磁化が生じるように傾斜している。この結果、BiFe
1-xA
xO
3は、弱強磁性を発現する。このように、BiFe
1-xA
xO
3は、c軸方向の自発分極と、自発分極と直交する方向の自発磁化をもつ。
【0020】
図3は、BiFe
1-xA
xO
3がとりうる自発分極およびその分極反転を説明するための図である。
図3では、BiFe
1-xA
xO
3の結晶構造を擬立方晶で示している。立方晶の中に示す8つの矢印は、それぞれBiFe
1-xA
xO
3がとりうる自発分極の向きを示している。BiFe
1-xA
xO
3に電場をかけることによって、BiFe
1-xA
xO
3がもつ自発分極の向きを変えることができる。具体的には、自発分極200を71°、109°または180°分極反転させることができる。
【0021】
たとえば、自発分極200を、共有する一辺220の他端に向かう方向の自発分極202に変える(71°分極反転)ことができる。また、自発分極200を、共有する面222の対角の他端に向かう方向の自発分極204に変える(109°分極反転)ことができる。さらに、自発分極200をその反対方向に向かう自発分極206に変える(180°分極反転)ことができる。自発分極200が分極反転する際には、それに伴い、自発磁化の向きも反転する。
【0022】
図4は、電極部14の詳細を説明するための図である。
図4に示すように、電極部14は、第1電極140および第2電極142を有する。第1電極140および第2電極142を構成する材料は、特に限定されないが、たとえば白金などの金属であってよい。
【0023】
薄膜12の[110]方向は、薄膜12の面直方向であり、薄膜12の[001]方向および[1-10]方向は薄膜12の面内方向であり、[001]方向および[1-10]方向は、互いに垂直な方向である。
図4には、薄膜12が面内方向(薄膜12に平行な方向)においてとりうる4つの自発分極(第1分極52,第2分極54,第3分極56,第4分極58)の向きが示されている。
【0024】
本実施形態では、第1電極140および第2電極142は、薄膜12の[1-10]方向に電場が生じるように配置されている。より具体的には、第1電極140および第2電極142は、[1-10]方向のギャップを有するように配置されている。これにより、電場によって、より確実に、薄膜12の自発分極を変化させ、磁気メモリ素子1に情報を書き込むことが可能となる。
【0025】
第1電極140および第2電極142は、薄膜12の上面において、蒸着によって形成されてよい。薄膜12において、第1電極140および第2電極142の間には、電場領域120が形成される。第1電極140と第2電極142との間に電源16から電圧が印加されることによって、電場領域120において、[1-10]方向に平行な方向に電場が生じる。この電場に応じて、電場領域120の自発分極および自発磁化の反転が生じ、電場領域120に情報を書き込むことができるようになる。
【0026】
電場領域120に書き込まれた情報は、電場領域120の上部に配置された読み取り部18によって、電場領域120の磁化の反転を検出することによって読み取る。読み取り部18は、磁気ドメイン以下のサイズに加工した、磁化の反転を検出できるセンサを含む。そのようなセンサとしては、たとえば、ホール素子および磁気抵抗効果素子などが挙げられる。
【0027】
このように、本実施形態によれば、電場による情報の書き込みおよび読み取りが可能な磁気メモリ素子を提供できる。また、本実施形態に係る磁気メモリ素子1は、面内に電極(第1電極140および第2電極142)を形成する構成を有するため、面直方向に2つの電極を離間して配置するよりも、電極間の短絡を抑制できる。また、短絡を抑制できるため、薄膜12をより薄くすることも可能となる。
【0028】
(磁気メモリ素子の製造方法)
図5(a)~
図5(d)を参照しながら、本発明の一実施形態に係る磁気メモリ素子の製造方法の一例を説明する。
【0029】
まず、基板10上に、薄膜12を形成する(
図5(a))。薄膜12の形成方法は、特に限定されず、物理気相蒸着法(PVD法)、化学気相蒸着法(CVD法)などの各種の公知の方法であってよい。PVD法の具体例としては、パルスレーザ堆積(PLD)法、スパッタリング法などがある。CVD法の具体例としては、有機金属(MO)CVD法、ミストCVD法などがある。
【0030】
次いで、薄膜12上に、所望のパターンを有する電極を形成する。本実施形態では、薄膜12上に、リフトオフ法で電極を形成する例を説明するが、電極の形成方法は、これに限定されるものではなく、各種の公知の方法であってよい。
【0031】
具体的には、薄膜12上に、パターニングされたフォトレジスト20,22を付着させる(
図5(b))。次いで、薄膜12およびフォトレジスト20,22上に、金属膜30,32,34,36,38を成膜する(
図5(c))。成膜方法は、特に限定されず、PVD法およびCVD法などの各種の公知の方法であってよい。次いで、フォトレジスト20,22を剥離することによって、所望のパターンを有する金属膜30,34,38で構成された電極を形成することができる(
図5(d))。このようにして、薄膜12上に所望のパターンを有する電極が形成された磁気メモリ素子を製造できる。
【実施例0032】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための
例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0033】
実施例では、基板上にBiFe0.9Co0.1O3薄膜を作製し、その上に電極を形成して実施例に係るサンプルを作製した。本実施例では、基板として、SrTiO3(110配向)を選択した。この基板の片面を研磨し、その上にパルスレーザ堆積(PLD)法により、酸素分圧15Pa、成膜温度667-680℃、レーザフルエンス1.0J/cm2の条件で、BiFe0.9Co0.1O3薄膜(膜厚60nm)を作製した。その薄膜の上に、リフトオフにより1.5μmのギャップを有する白金の電極を形成し、サンプルを作製した。
【0034】
図6は、本実施例に係るサンプル40を上面視した図である。薄膜42は、(110)配向している。
図6に示すように、本実施例に係る40では、薄膜42上に、薄膜12の[1-10]方向に1.5μmのギャップを有するように、第1電極440および第2電極442が形成されている。これにより、第1電極440および第2電極442に電圧が印加されると、そのギャップにおいて、[1-10]方向の電場が薄膜42に生じる。また、薄膜12の[001]方向は面内にあり、[110]方向および[1-10]方向のそれぞれに垂直な方向である。
図6には、薄膜42が面内方向(薄膜12に平行な方向)においてとりうる4つの自発分極(第1分極52,第2分極54,第3分極56,第4分極58)の向きが示されている。
【0035】
形成した薄膜の結晶性の評価はX線回折法による逆格子マッピング(RSM)を用いて行い、BiFe0.9Co0.1O3薄膜が得られていることを確認した。
【0036】
強誘電性と強磁性の相関の有無を調べるために、圧電応答顕微鏡(PFM)および磁気力顕微鏡(MFM)(Asylum社製、Cypher)を用いて強誘電ドメインと強磁性ドメインの観察を行った。
【0037】
第1電極440と第2電極442との間に電圧を印加し、強誘電ドメインおよび強磁性ドメインを観察した。上述のように、面内では、4つの方向の自発分極がありうるため、PFMの測定では、互いに90°異なる面内方向で自発分極を測定し、それらの測定結果を合成することにより4方向の自発分極の測定結果を得た。
【0038】
第1電極440と第2電極442との間に30V,60V,80V,100Vの電圧をかけたところ、80V(533kV/cm)以上の電圧を印加したときに、分極反転が観測された。
図7(a)~
図7(d)に
図6に示す領域Aの一部(領域B)について、+80Vの電圧を印加したとき、続いてさらに-80Vの電圧を印加したときの強誘電ドメインまたは強磁性ドメインを観察した結果を示す。
図7(a)は、+80Vの電圧を印加したときの強誘電ドメインの観察結果を示す図であり、
図7(b)は、その後に-80Vの電圧を印加したときの強誘電ドメインの観察結果を示す図であり、
図7(c)は、+80Vの電圧を印加したときの強磁性ドメインの観察結果を示す図であり、
図7(c)は、その後に-80Vの電圧を印加したときの強磁性ドメインの観察結果を示す図である。
【0039】
図7(a)および
図7(b)では、各ドメインにおいて、自発分極の方向を矢印で示している。
図7(a)に示すように、+80Vの電圧を印加したとき、領域Bでは、第1分極52のドメイン552、第2分極54のドメイン554および第4分極58のドメイン558が観察された。印加する電圧を+80Vから-80Vに反転させると、
図7(b)に示すように、領域Bでは、第4分極58のドメイン658および第3分極56のドメイン656が観察された。
図7(a)と
図7(b)とを比較すると、印加する電圧を+80Vから-80Vに反転させたことにより、第1分極52が第3分極56に109°分極反転し、第2分極54が第4分極58に109°分極反転していることがわかる。また、一部では180°分極反転も見られている。
【0040】
図7(c)と
図7(d)とでは、自発磁化の面外成分の向きをグレースケールで示しており、濃いグレーの領域と薄いグレーの領域とでは、自発磁化の面外成分の向きが反対となっている。たとえば、
図7(c)の領域700とその隣りの領域702とでは、自発磁化の面内成分の向きが反対となっている。
図7(c)と
図7(d)とを比較すると、印加する電圧を+80Vから-80Vに反転させたことにより、自発磁化も反転していることがわかる。たとえば、
図7(c)の領域700とこの領域に対応する
図7(d)の領域704とでは、自発磁化の面内成分の向きが反対となっており、
図7(c)の領域702とこの領域に対応する
図7(d)の領域706とでは、自発磁化の面内成分の向きが反対となっている。以上のように、本実施例では、印加する電圧を反転させることにより、自発分極を反転させるとともに、自発磁化を反転させることができるサンプルが得られた。
【0041】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
1 磁気メモリ素子、10 基板、12 薄膜、14 電極部、16 電源、18 読み取り部、20,22 フォトレジスト、30,32,34,36,38 金属膜、52 第1分極、54 第2分極、56 第3分極、58 第4分極、140 第1電極、142 第2電極、200,202,204,206,208 自発分極、440 第1電極、442 第2電極、552,554,558,656,658 ドメイン。