(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126575
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びこの製造方法、固体電解コンデンサの電極体及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/048 20060101AFI20240912BHJP
H01G 9/042 20060101ALI20240912BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240912BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240912BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01G9/048 Z
H01G9/042
H01G9/00 290D
H01G9/15
H01G9/028 G
H01G9/028 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035010
(22)【出願日】2023-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「次世代高電力密度パワエレ機器に向けた高性能コンデンサの研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳視
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】筒井 源文
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】幅▲ざき▼ 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】松矢 陽哲
(72)【発明者】
【氏名】デビッド アルベルト キンテロ ジラルド
(57)【要約】
【課題】高耐電圧を有する固体電解コンデンサ及び製造方法並びに固体電解コンデンサの電極体及び製造方法を提供する
【解決手段】固体電解コンデンサの電極体は、弁作用金属の箔体と、箔体上の誘電体皮膜と、誘電体皮膜内に形成されボイドを有する。ボイドの量は、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm
2以上となる量である。この電極体は、電極体の箔体に誘電体皮膜を形成する化成処理、電極体を酸性溶液、アルカリ性溶液、純水の何れか又は複数に浸漬して、誘電体皮膜内に、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm
2以上のボイドを形成するボイド導入処理とを含み製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体、陰極体及び固体電解質層を備え、
前記陽極体は、
弁作用金属の箔体と、
前記箔体上の誘電体皮膜と、
前記誘電体皮膜内に形成されるボイドと、
を有し、
前記ボイドの量は、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上となる量であること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
弁作用金属を基材とする陽極体、陰極体及び固体電解質層を備える固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極体の基材に誘電体皮膜を形成する化成処理と、
前記化成処理の後、前記陽極体を酸性溶液、アルカリ性溶液、純水の何れか又は複数に浸漬して、前記誘電体皮膜内に、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上の量となるボイドを形成するボイド導入処理と、
を含み、
前記ボイドが導入された前記陽極体と前記陰極体と前記固体電解質層を組み込んでコンデンサ素子を形成すること、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
固体電解コンデンサの電極体であって、
前記電極体は、
弁作用金属の箔体と、
前記箔体上の誘電体皮膜と、
前記誘電体皮膜内に形成されるボイドと、
を有し、
前記ボイドの量は、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上となる量であること、
を特徴とする電極体。
【請求項4】
固体電解コンデンサに備えられ、弁作用金属を基材とする電極体の製造方法であって、
前記電極体の箔体に誘電体皮膜を形成する化成処理と、
前記化成処理の後、前記電極体を酸性溶液、アルカリ性溶液、純水の何れか又は複数に浸漬して、前記誘電体皮膜内に、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上の量となるボイドを形成するボイド導入処理と、
を含むこと、
を特徴とする電極体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及び当該固体電解コンデンサを製造する方法、並びに固体電解コンデンサの電極体及び当該電極体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは各種用途で用いられる。例えばパワーエレクトロニクスの分野において、交流電源の電力をコンバータ回路で直流電力に変換し、この直流電力をインバータ回路にて所望の交流電力に変換する電源回路には、コンバータ回路から出力される直流の脈動を抑制して平滑化してからインバータ回路に入力するために、平滑コンデンサが設けられている。また、窒化ガリウム等の半導体スイッチング素子の安定動作やノイズ除去のために、デカップリングコンデンサが当該半導体スイッチング素子の近傍に設けられる。
【0003】
近年の大電力化に伴い、コンデンサに対する高容量化の要求が強くなっている。電解コンデンサは、フィルムコンデンサよりも高容量化が容易であり、この高容量化の要求に応えやすい。電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に陽極酸化等の処理によって誘電体皮膜を有する。陽極箔と陰極箔との間には電解質が介在する。
【0004】
電解コンデンサは、陽極箔の拡面化により比表面積を大きくすることができ、そのため大きな静電容量を有し、高容量化の要求に答えることができるものである。また、電解コンデンサは、電解液の形態で電解質を備えている。電解液は、陽極箔の誘電体皮膜との接触面積が増える。そのため、電解コンデンサの静電容量は更に大きくでき、近年の大電力化に伴う高容量の要求に適しているものである。しかしながら、電解液は時間経過と共に外部へ蒸発揮散し、電解コンデンサには経時的に静電容量の低下や静電正接の増大が起こり、ドライアップを迎えてしまう。
【0005】
そこで、電解コンデンサのなかでも、固体電解質を用いた固体電解コンデンサが注目されている。固体電解コンデンサは、電解液のドライアップの影響が無いか又は抑制される。また、固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が低くなる利点を有する。
【0006】
固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、反応速度が緩やかで、また誘電体皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子が固体電解質として急速に普及している。導電性高分子は、ポリアニオン等の酸化合物がドーパントとして用いられ、またモノマー分子内にドーパントとして作用する部分構造を有し、高い導電性が発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-160647号公報
【特許文献2】特開2008-258224号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】山本真義著、“特別企画 EVがけん引する!先進パワエレの世界”、トランジスタ技術、CQ出版、2022年8月号、p.36-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方で、パワーエレクトロニクス等の分野によっては、高耐電圧のコンデンサが期待されている。例えば、電気自動車に搭載されるモータ駆動用のインバータには、470Vの耐電圧を有する平滑用途のキャパシタが用いられている。更に、700Vによる急速充電を達成するために、700Vの耐電圧を有する平滑用途のキャパシタも期待されている。電解液を用いた電解コンデンサは、電解液による誘電体皮膜の欠陥修復作用により大きな耐電圧を備えるが、このような電解コンデンサであっても高い耐電圧の要求を満たすことは容易ではない。
【0010】
況してや、固体電解コンデンサは、陽極箔との密着性の観点や誘電体皮膜の欠陥修復作用の観点から、電解液を用いた電解コンデンサと比べて高い耐電圧を満たし難い。一般的に、コンデンサの耐電圧を高めるためには誘電体皮膜を厚くすることが考えられる。しかしながら、固体電解コンデンサにおいては、誘電体皮膜を厚くしても、400Vを超える耐電圧は難しく、それどころか、固体電解コンデンサのメリットである静電容量さえも大きく低下してしまう。
【0011】
図9は、固体電解コンデンサにおいて、誘電体皮膜を形成する化成電圧と耐電圧との関係を示すグラフである。
図9に示すように、300Vの耐電圧までは、耐電圧と化成電圧との関係は良好に比例している。しかしながら、350V以上の耐電圧を固体電解コンデンサに与える場合には、耐電圧を大きく超える化成電圧を必要とする。470Vの耐電圧を固体電解コンデンサに与えるためには、1000Vを超えるような大きな化成電圧が必要となる。化成電圧を上げることで、500Vの耐電圧を達成することは困難にみえる。
【0012】
即ち、近年の大電力化に対応し得る高耐電圧を固体電解コンデンサにおいて実現することは容易ではなかった。従って、現状の固体電解コンデンサは、精々100V程度の耐電圧が主流であり、例えば400Vを超えるような耐電圧を目指す分野においては、たとえ長寿命及び低等価直列抵抗であっても、生産に必要とする電力が大き過ぎる等の理由で、固体電解コンデンサは選択肢となり難かった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高耐電圧を有する固体電解コンデンサ及び製造方法並びに固体電解コンデンサの電極体及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極体、陰極体及び固体電解質層を備え、前記陽極体は、弁作用金属の箔体と、前記箔体上の誘電体皮膜と、前記誘電体皮膜内に形成されるボイドと、を有し、前記ボイドの量は、修復化成した場合の修復電気量の合計が200mC/cm2以上となる量である。
【0015】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属を基材とする陽極体、陰極体及び固体電解質層を備える固体電解コンデンサの製造方法であって、前記陽極体の基材に誘電体皮膜を形成する化成処理と、前記化成処理の後、前記陽極体を酸性溶液、アルカリ性溶液、純水の何れか又は複数に浸漬して、前記誘電体皮膜内に、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上の量となるボイドを形成するボイド導入処理と、を含み、前記ボイドが導入された前記陽極体と前記陰極体と前記固体電解質層を組み込んでコンデンサ素子を形成する。
【0016】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の電極体は、固体電解コンデンサの電極体であって、前記電極体は、弁作用金属の箔体と、前記箔体上の誘電体皮膜と、前記誘電体皮膜内に形成されるボイドと、を有し、前記ボイドの量は、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上となる量である。
【0017】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の電極体の製造方法は、固体電解コンデンサに備えられ、弁作用金属を基材とする電極体の製造方法であって、前記電極体の箔体に誘電体皮膜を形成する化成処理と、前記化成処理の後、前記電極体を酸性溶液、アルカリ性溶液、純水の何れか又は複数に浸漬して、前記誘電体皮膜内に、修復化成した場合に修復電気量の合計が200mC/cm2以上の量となるボイドを形成するボイド導入処理と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固体電解コンデンサの耐電圧を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】陽極体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】各実施例及び比較例の修復化成した場合に修復電気量の合計と耐電圧を示す散布図である。
【
図7】比較例1と実施例4に高電圧を印加したときの写真とサーモグラフィ像であり、(a)は比較例1の写真、(b)は比較例1のサーモグラフィ像、(c)は実施例4の写真、(d)は実施例4のサーモグラフィ像である。
【
図8】固体電解コンデンサにおける実施例4の電極体のSEM写真とEDS図である。
【
図9】固体電解コンデンサにおける化成電圧と耐電圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、陽極体、陰極体及び導電性高分子を備えており、電解液は非含有である。陽極体と陰極体は対向配置される。導電性高分子は、陽極体と密着して真の陰極として機能する。この固体電解コンデンサは、形状に応じて、例えば積層型、巻回型及び平型に区分される。積層型では、陽極体と陰極体がセパレータを挟んで交互に積層される。巻回型では、陽極体と陰極体は、セパレータを挟んで巻回される。また、平型では、陽極体上に導電性高分子及び陰極体が積層される。
【0021】
このような固体電解コンデンサは、一般的にはセパレータを備えている。セパレータは、陽極体と陰極体とを隔絶してショートを阻止し、また導電性高分子を保持する。導電性高分子が自力で形状保持され、導電性高分子によって陽極体と陰極体とを隔離できる場合、セパレータを省くことができる。
【0022】
陽極体には陽極リードが接続され、陰極体には陰極リードが接続されている。固体電解コンデンサは、これら陽極リードと陰極リードを介して実装回路に電気的に接続される。実装回路と導通することで、固体電解コンデンサは、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う受動素子となる。
【0023】
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属を材料とした箔体である。巻回型では、陽極体は、弁作用金属を延伸した長尺の帯形状であり、積層型では、陽極体は、平板又は粉末を平板形に成型及び焼結した焼結体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極体に関して99.9%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0024】
陽極体の片面又は両面には、拡面層が形成されている。拡面層は、投影面積よりも表面積を増大させる処理がなされた表面層であり、箔体にエッチング処理を施したエッチング層、弁作用金属の粉体を箔体に付着及び焼結させた焼結層、又は箔体に弁作用金属粒子を蒸着した蒸着層である。即ち、拡面層は、多孔質構造を有し、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体若しくは粒子間の空隙により成る。固体電解コンデンサの高耐圧化のためには、トンネル状のエッチングピットが好ましい。
【0025】
トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔であり、箔体を貫通していてもよい。このトンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。海綿状のエッチングピットは、空間状に細かい空隙が連なり拡がったスポンジ状の拡面層になる。この海綿状のエッチングピットは、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で交流電流を流すことで形成される。
【0026】
焼結層は、箔体と同種又は異種の弁作用金属の粉末を箔体に付着させて焼結させることで作製される。粉末は、粉砕法、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法等によって得られる。粉末は、バインダーや溶剤によってペースト化し、箔体に塗布及び乾燥させる。そして、真空又は還元雰囲気等で加熱することで焼結させる。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。蒸着層は、例えば抵抗加熱式蒸着法又は電子線加熱式蒸着法により作製される。この蒸着層は、箔体と同種又は異種の弁作用金属を抵抗熱や電子線エネルギーによって加熱して蒸発させ、弁作用金属粒子の蒸気を箔体の表面に堆積させることで成膜する。
【0027】
誘電体皮膜は、拡面層の凹凸に沿って陽極体の表層に形成されている。誘電体皮膜は、典型的には、陽極体の表層を陽極酸化させた酸化皮膜である。陽極体がアルミニウム箔であれば、誘電体皮膜は、拡面層の凹凸に沿って陽極体の表層を酸化させた酸化アルミニウム層である。より詳細には、誘電体皮膜は、結晶性酸化物であるγ-アルミナを含む酸化アルミニウムの層である。誘電体皮膜の表層には、水和酸化皮膜が残存していてもよい。水和酸化皮膜は、AlOOH・xH2Oであるアルミニウムの水和酸化物を含む。
【0028】
この誘電体皮膜は、弁作用金属の箔体を拡面化した後、化成工程を経て形成される。化成工程は、化成前処理工程と化成本処理工程とに分けられる。化成前工程では、箔体の表層、即ち拡面層の凹凸表層を水和酸化皮膜に化成する。化成本工程では、箔体と水和酸化皮膜の境界面から水和酸化皮膜の外面に向けて、水和酸化皮膜を誘電体皮膜に変質させていく。
【0029】
化成前処理工程では、拡面化した箔体を純水に浸漬する。浸漬時間は、誘電体皮膜と水和酸化皮膜の目的の厚みに応じ、耐電圧と静電容量とのバランスにより決すればよい。化成本処理工程では、ハロゲンイオン不在の化成液中で、陽極箔に対し、所望の耐電圧を目指して電圧を印加する。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。
【0030】
誘電体皮膜の層内にはボイドが導入されている。一部のボイドは化成工程で発生するが、化成工程後にボイド導入工程を加え、誘電体皮膜内のボイドを増加させる。ボイドは、陽極体を酸性溶液、アルカリ性溶液、純水の何れか又はこれらの複数に浸漬させて形成する。酸性溶液、アルカリ性溶液又は純水としては、リン酸溶液、硫酸溶液、硝酸溶液等、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、アンモニア溶液等又は60℃以上の純水が挙げられる。酸性溶液、アルカリ性溶液又は純水に浸漬することで、誘電体皮膜が伸張させられたり、誘電体皮膜内のガスが膨張したり、誘電体皮膜の層内を化学溶解させたりして、ボイドを新たに発生させ、またはボイドを拡大する。
【0031】
ボイドの導入量は、陽極体の修復化成を行ったとしたら、その修復電気量の合計が200mC/cm2以上になる。ボイドの導入量を確認する修復電気量は、次のようにして測定する。即ち、陽極体を液温85℃の1mol/Lのホウ酸水溶液に浸漬し、1V/sの電圧掃引速度で0Vから170Vの電圧を印加する。このときの電流値と時間の積を修復電気量とする。
【0032】
一般的に、電解液を用いた電解コンデンサでは、誘電体皮膜内のボイドは耐電圧を低下させる。そのため、電解液を用いた電解コンデンサでは、減極処理によってボイドを低減させることで、耐電圧を向上させる。しかしながら、固体電解コンデンサにおいては、化成処理によって発生したボイドを減極処理によって低減させても、耐電圧の向上効果が得られない。そして、むしろ、ボイドを積極的に導入して、修復電気量の合計が200mC/cm2以上になるボイドを誘電体皮膜内に形成することで、固体電解コンデンサの耐電圧を向上させることができる。
【0033】
推測であり、これに限られないが、固体電解コンデンサでは、修復電気量の合計が200mC/cm2以上になるボイドが誘電体皮膜内に分散して形成されている。そのため、リーク電流は一点に集中せずに分散するため、固体電解コンデンサの耐電圧が向上するものと推測される。電解コンデンサでは、ボイド内に電解液が浸透してしまうため、ボイドの存在は耐電圧の低下を招来する。一方、固体電解コンデンサでは、導電性高分子がボイドに入り込むことができないため、ボイドの存在がリーク電流を分散させ、耐電圧を向上させるものと推測される。
【0034】
図1は、このような陽極体の製造方法を示すフローチャートである。まず、箔体の両面に多孔質構造の拡面層を形成する拡面化工程を行う(ステップS01)。固体電解コンデンサの高耐圧化のためには、拡面化工程でトンネル状のエッチングピットを形成することが好ましい。
【0035】
拡面化工程の後、拡面層の凹凸に沿って箔体の表層に水和酸化皮膜を形成する化成前工程を行う(ステップS02)。尚、水和酸化皮膜を形成する化成前工程を省いてもよい。
【0036】
化成前工程の後、箔体と水和酸化皮膜の境界面から水和酸化皮膜の外面に向けて、水和酸化皮膜を誘電体皮膜に変質させていく化成本処理工程を行う(ステップS03)。化成本処理工程では、水和酸化皮膜を完全に消失させてもよい。
【0037】
化成本処理工程の後、誘電体皮膜内にボイドを導入するボイド導入工程を加え、誘電体皮膜内のボイドを増加させる(ステップS04)。ボイドは、陽極体の修復化成を行ったとしたら、その修復電気量の合計が200mC/cm2以上になるように増加させる。
【0038】
ボイド導入工程の後は、ボイドを残すために、ホウ酸水溶液等に浸漬して電圧を印加する再化成処理は省かれる。
【0039】
(陰極体)
陰極体は、弁作用金属を材料として延伸された陰極箔である。純度は、陰極箔に関して99%以上が望ましい。陰極箔は、陽極体と同じく拡面層が形成される。拡面層のないプレーン箔を陰極箔として用いてもよい。陰極箔は、自然酸化皮膜、又は化成本処理により形成された薄い酸化皮膜(1~10V程度)を有していてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される。
【0040】
陰極箔には、最外表面に導電層を付加してもよい。導電層は、例えば蒸着法で形成され、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物を含む層であり、又はスラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によって塗布されるカーボン層である。カーボン層は炭素材を含み、カーボン層は、繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合である。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等である。炭素粉末は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素等である。
【0041】
または、陰極体は、金属層とカーボン層の積層体であり、カーボン層を陽極体に向けて配置される。カーボン層は、ペースト状にして、陽極体上に固体電解質層を形成された後に固体電解質層上に塗工し、加熱より硬化させることで形成される。金属層は例えば銀層であり、金属層は、ペースト状にして、カーボン層の上から塗工し、加熱により硬化させることで形成される。
【0042】
(固体電解質層)
固体電解質層には、導電性高分子が含まれる。導電性高分子は、分子内のドーパント分子によりドーピングされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドーピングされた外部ドープ型の共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。ドーピングされた共役系高分子は、高い導電性を発現する。即ち、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、もしくは電子を与えやすいドナーといったドーパントを少量添加することで導電性を発現する。
【0043】
共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0044】
上記の共役系高分子の中でも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0045】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンに置換基が付加されていてもよい。例えば、置換基として炭素数が1~5のアルキル基が付加されたアルキル化エチレンジオキシチオフェンが用いられてもよい。アルキル化エチレンジオキシチオフェンとしては、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロチエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、2-アルキル-3,4-エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。
【0046】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0047】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0048】
尚、この固体電解質層には、導電性高分子の他、例えばエチレングリコール及びグリセリン等の多価アルコールといった添加剤が含まれていてもよい。多価アルコールは、沸点が高く、固体電解質層に残留し易い。そして、多価アルコールは、導電性高分子5の高次構造の変化及びポリマー鎖の結晶構造が再配向を引き起こし、固体電解コンデンサのESR低減や耐電圧向上効果が得られる。また、固体電解質層に、ソルビトール等の糖アルコールを含有させてもよく、誘電体皮膜の化成性を向上させ、耐電圧を高める。
【0049】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0050】
(固体電解コンデンサの製造方法)
このような固体電解コンデンサは、例えば巻回型であれば、陽極体と陰極体との間にセパレータを挟んで巻回する。そして、巻回体に導電性高分子液を含浸させることで、固体電解質層を形成する。導電性高分子液は、導電性高分子の粒子又は粉末を分散させた分散液又は溶液である。導電性高分子液のコンデンサ素子への含浸の促進を図るべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を施してもよい。含浸工程は複数回繰り返しても良い。導電性高分子液をコンデンサ素子に含浸させた後は、乾燥工程により分散媒又は溶媒を除去する。
【0051】
巻回前の陽極体、陰極体、セパレータ又はこれらの複数を導電性高分子液に浸漬することで、陽極体、陰極体、セパレータ又はこれらの複数に導電性高分子を付着させるようにしてもよい。また、巻回体、又は陽極体、陰極体、セパレータ若しくはこれらの複数を重合液に浸漬し、化学酸化重合又は電解重合させて導電性高分子を生成しつつ、付着させるようにしてもよい。
【0052】
固体電解質が形成されたコンデンサ素子は、有底筒状の外装ケースに収容され、ゴム等の弾性部材から成る封口体で封止される。外装ケースの材質は、アルミニウム、マンガン等を含有するアルミニウム合金、又はステンレスが挙げられる。コンデンサ素子の陽極体及び陰極体には、ステッチ、コールドウェルド、超音波溶接、レーザー溶接などによって、引出端子が接続され、封口体から引き出される。外装ケースの開口側端部全周が加締められ、固体電解コンデンサの作製が完了する。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1乃至5)
次のようにして、実施例1乃至5の固体電解コンデンサに用いる陽極体を作製した。まず、陽極体として、箔厚が120μm及び純度99.99%のアルミニウム箔とした。このアルミニウム箔を拡面化し、アルミニウム箔の両表面にトンネル状のエッチングピットにより成る拡面層を形成した。拡面化に際し、アルミニウム箔は、塩酸濃度が1mol/L及び硫酸濃度が3mol/Lの酸性水溶液中に浸漬され、直流電流が通電された。酸性水溶液の液温は70℃であり、初期電流密度は4000mA/cm2であり、最終電流密度は100mA/cm2であり、エッチング時間は20秒であった。
【0055】
拡面化されたアルミニウム箔は、化成前処理にて95℃の蒸留水に20分間浸漬され、これにより、アルミニウム箔の表層には水和酸化皮膜が生成された。更に、化成本処理により、水和酸化皮膜の表層を残し、水和酸化皮膜を、脱水され結晶性の高い酸化アルミニウムである誘電体皮膜に変換した。化成本処理では、水和酸化皮膜を生成した後、液温が90℃で1mol/Lの濃度のホウ酸水溶液に浸漬し、50mA/cm2の定電流を流しながら電圧を印加した。電圧は化成電圧が625Vに達するまで印加された。
【0056】
次にボイド導入処理に移った。ボイド導入処理では、誘電体皮膜を形成した陽極体を1mol/Lの濃度のリン酸水溶液に浸漬し、陽極体を化学溶解させた。実施例1の陽極体は、液温が80℃のリン酸水溶液に75秒間浸漬した。実施例2の陽極体は、液温が90℃のリン酸水溶液に75秒間浸漬した。実施例3の陽極体は、液温が85℃のリン酸水溶液に150秒間浸漬した。実施例4の陽極体は、液温が85℃のリン酸水溶液に180秒間浸漬した。実施例5の陽極体は、液温が95℃のリン酸水溶液に180秒間浸漬した。実施例1乃至5では、この後の再化成処理は省かれている。これにより、実施例1乃至5の陽極体が作製された。
【0057】
この陽極体に対して導電性高分子液を滴下した。導電性高分子液は、導電性高分子を水に分散させた分散液である。導電性高分子は、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)である。導電性高分子は、導電性高分子液中、1.0wt%の割合で分散させた。導電性高分子液は、アンモニア水によってpH4に調整され、また導電性高分子に対して85wt%の割合でソルビトールを含んでいる。導電性高分子液は、超音波を用いて分散処理されている。
【0058】
陽極体には、投影面積5.13cm2当たり、323μLの量の導電性高分子液が滴下された。導電性高分子液が滴下された後、陽極体は60℃の温度環境下で10分静置され、更に110℃の温度環境下で30分静置された。これにより陽極体を乾燥させ、陽極体上に導電性高分子の固体電解質層を形成した。
【0059】
固体電解質層を形成した後、固体電解質層の上にカーボンペーストを塗工し、110℃の温度環境下に30分間放置することで硬化させた。更に、カーボン層の上から銀ペーストを塗工すると同時に、引出端子として銅箔を接着した。銀ペーストは、硬化前の銀ペースト部に銅箔を接着した状態で110℃の温度環境下に30分間放置すること硬化させた。以上のカーボン層、銀層及び銅箔層は、固体電解コンデンサの陰極体に相当する。
【0060】
(比較例1及び2)
比較例1及び2の固体電解コンデンサを更に作製した。比較例1は、ボイド導入処理が省かれた。また、比較例1の陽極体に対する減極処理は未実施であり、化成本処理によって生じたボイドは放置されている。比較例1のその他の構成、組成、製造方法及び製造条件は、実施例1乃至5と同一である。
【0061】
比較例2は、化成本処理によって生じたボイドを修復するための減極処理が行われた。即ち、化成本処理後、比較例2の陽極体を1mol/Lの濃度のリン酸水溶液に浸漬し、陽極体を化学溶解させた。比較例2の陽極体は、液温が90℃のリン酸水溶液に75秒間浸漬した。リン酸水溶液に浸漬した後、1mol/Lの濃度のホウ酸水溶液に浸漬しつつ、50mA/cm2の定電流を流しながら電圧を印加した。電圧は再化成電圧が625Vに達するまで印加された。比較例2のその他の構成、組成、製造方法及び製造条件は、実施例1乃至5と同一である。
【0062】
(比較例3及び4)
比較例3及び4の固体電解コンデンサを更に作製した。比較例3及び4は、ボイド導入処理を行い、再化成処理を省いた点で実施例1乃至5と同一である。但し、比較例3では、誘電体皮膜を形成した陽極体を液温が75℃で1mol/Lの濃度のリン酸水溶液に30秒間浸漬し、陽極体を化学溶解させた。比較例4では、誘電体皮膜を形成した陽極体を液温が75℃で1mol/Lの濃度のリン酸水溶液に90秒間浸漬し、陽極体を化学溶解させた。比較例3及び4のその他の構成、組成、製造方法及び製造条件は、実施例1乃至5と同一である。
【0063】
(参考例1及び2)
参考例1及び2の電解コンデンサを作製した。参考例1で用いた陽極体は比較例1と同じく減極処理を省いた製造方法及び製造条件で作製され、参考例2で用いた陽極体は比較例2と同じく減極処理を加えた製造方法及び製造条件で作製された。
【0064】
(耐電圧測定)
実施例1乃至5並びに比較例1乃至4の固体電解コンデンサの耐電圧を測定した。耐電圧の測定方法は次の通りである。即ち、105℃において固体電解コンデンサに電圧を印加した。開始電圧は0Vであり、印加電圧を1秒ごとに1Vずつ昇圧していった。そして、固体電解コンデンサに流れた電流が10mAに到達したときの電圧を耐電圧とした。固体電解コンデンサは4個作製し、4個の耐電圧の平均値を算出した。また、参考例1及び2の電解コンデンサの耐電圧を測定した。参考例1の電解コンデンサは、5cm2の陽極体を70gのホウ酸と1000mlの純水により成る測定液に浸漬し、液温が85±2℃及び測定電流密度が2.0±0.2mAの範囲内で電圧を印加した。そして、電圧の変化がなくなった時点の電圧を耐電圧とした。
【0065】
(修復電気量測定)
実施例1乃至5並びに比較例1乃至4のボイドの量を測定した。ボイドの量は、ボイドを修復する電気量によって測定した。ボイドを修復する電気量の測定では、まず、陽極体から試験片を打ち抜いた。5cm2(1cm×5cm)の測定領域が露出するように、試験片の一部をシリコン樹脂で被覆した。この試験片を液温85℃の1mol/Lのホウ酸水溶液に浸漬し、1V/sの電圧掃引速度で0Vから170Vの電圧を印加した。1秒ごと、即ち1V昇圧されるごとに電流値を測定した。そして、0Vから170V間に流れる1秒ごとの電流値の総和を求め、この総和を修復電気量とした。
【0066】
(測定結果)
実施例1乃至5、比較例1乃至4並びに参考例1及び2の耐電圧と修復電気量を下表1に示す。
(表1)
【0067】
表1の参考例1及び参考例2が示すように、電解コンデンサの場合、減極処理を行ってボイドを修復した参考例2は耐電圧が向上する。ところが、比較例1及び比較例2が示すように、固体電解コンデンサの場合、比較例2は減極処理によりボイドを修復したが、比較例1と耐電圧が変わっていない。
【0068】
比較例1及び2の陽極体の表面をトンネル状のエッチングピットを中心にして走査電子顕微鏡で40キロ倍で観察した。
図2は、比較例1及び2のSEM写真であり、(a)は比較例1であり、(b)は比較例2である。
図2の(a)に示すように、比較例1では誘電体皮膜内に大きなボイドが存在しているが、
図2の(b)に示すように、比較例2では誘電体皮膜内のボイドが小さくなっている。
【0069】
このように、固体電解コンデンサの場合、減極処理によってボイドを修復したとしても、固体電解コンデンサの耐電圧が向上しないことが確認できる。
【0070】
一方、表1の実施例1乃至5が示すように、固体電解コンデンサの場合、ボイド導入処理を行い、ボイドを修復する再化成処理を行わないことにより、誘電体皮膜内にボイドを増加させることで、耐電圧が向上することが確認できる。但し、表1の比較例3及び4が示すように、ボイド導入処理を行ったとしても、耐電圧の向上が見られない場合もある。
【0071】
ここで、
図3は、表1に基づき、固体電解コンデンサにおける耐電圧とボイドの修復電気量の合計との関係を示す散布図である。表1及び
図3に示すように、ボイド導入処理するだけでなく、ボイドを修復する修復電気量が200mC/cm
2以上となるボイドの量を導入した場合には、固体電解コンデンサの耐電圧が400Vを超えて向上することが確認された。
【0072】
これら比較例3及び4並びに実施例1乃至5の陽極体の表面をトンネル状のエッチングピットを中心にして走査電子顕微鏡で40キロ倍で観察した。
図4は、比較例3及び4のSEM写真であり、(a)は比較例3であり、(b)は比較例4である。
図5は、実施例1乃至3のSEM写真であり、(a)は実施例1であり、(b)は実施例2であり、(c)は実施例3である。
図6は、実施例例4及び5のSEM写真であり、(a)は実施例4であり、(b)は実施例5である。
【0073】
図4乃至
図6に示すように、比較例3及び4は、比較例1及び2よりもボイドの数及び大きさが増大している。実施例1乃至5は、これら比較例3及び4よりも更にボイドの数及び大きさが増大していることが確認できる。
【0074】
(リーク電流の観察)
比較例1及び実施例4の固体電解コンデンサの陽極体に391Vの電圧を印加し、これら陽極体を可視光カメラで撮影し、またサーモグラフィ像を取得した。これら結果を
図7に示す。
図7の(a)は比較例1の写真であり、(b)は比較例1のサーモグラフィ像であり、(c)は実施例4の写真であり、(d)は実施例4のサーモグラフィ像である。
【0075】
図7に示すように、比較例1の陽極体は一点に絶縁破壊による閃光が移っており、またサーモグラフィ像でも局所的に高温になっている。これにより、比較例1の陽極体は、リーク電流が一点に集中してしまうことで絶縁破壊に至っていることがわかる。一方、実施例4の陽極体には絶縁破壊が見られない。実施例4の陽極体のサーモグラフィ像では、陽極体の全域の温度が高くなっている。これより、実施例4の陽極体は、ボイドが導入されたことにより、リーク電流が分散し、絶縁破壊を免れているものと推測できる。
【0076】
SEM観察を行った実施例4の陽極箔に対し、導電性高分子由来の炭素元素の分析を行った。元素分析はエネルギー分散型X線分光器(EDS)にて行った。
図8の固体電解コンデンサにおける実施例4の電極体のSEM写真とEDS図であり、(a)はSEM写真であり、(b)はEDS図である。
【0077】
図8に示すように、誘電体皮膜内に生じているボイドには導電性高分子が入り込んでいないことが確認できる。一方、電解液の場合にはボイドに容易に入り込んでしまう。従って、固体電解コンデンサにおいて、修復電気量の合計が200mC/cm
2以上のボイドを誘電体皮膜内に形成することで、ショートせずに、リーク電流が分散し、耐電圧が向上したと推定できる。