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  • 特開-溶湯処理装置および溶湯処理方法 図1
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  • 特開-溶湯処理装置および溶湯処理方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126656
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】溶湯処理装置および溶湯処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/36 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H01M6/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035198
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】荒川 理恵
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 詩織
(72)【発明者】
【氏名】中野 悟志
(72)【発明者】
【氏名】古川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 高嗣
【テーマコード(参考)】
5H025
【Fターム(参考)】
5H025AA20
5H025BB01
5H025CC13
5H025CC17
5H025MM01
(57)【要約】
【課題】外部回路への供給電力と溶湯の処理速度とを制御できる溶湯処理装置を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミニウム基溶湯(m1)と溶融塩(m2)を液絡させて収容する容体(9)と、アルミニウム基溶湯に接触するアノード(11)と、溶融塩に接触するカソード(21)と、アルミニウム基溶湯と溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、アノードとカソードの間に接続される外部回路への供給電力との配分を制御する制御手段(3)とを備える溶湯処理装置(G)である。制御手段は、例えば、外部回路側の電気抵抗を変更する可変抵抗手段(31)、酸化還元反応速度と供給電力の配分を所定条件に応じて定める調整手段(32)などを備える。溶湯処理装置によれば、例えば、アルミニウム基溶湯の精製処理と外部回路への電力供給とを所望の配分で適切に行える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基溶湯と溶融塩を液絡させて収容する容体と、
該アルミニウム基溶湯に接触するアノードと、
該溶融塩に接触するカソードと、
該アルミニウム基溶湯と該溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、該アノードと該カソードの間に接続される外部回路への供給電力との配分を制御する制御手段と、
を備える溶湯処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記外部回路側の電気抵抗を変更する可変抵抗手段を備える請求項1に記載の溶湯処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記配分を所定条件に応じて定める調整手段を備える請求項1に記載の溶湯処理装置。
【請求項4】
液絡させたアルミニウム基溶湯と溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、該アルミニウム基溶湯と該溶融塩の間に接続される外部回路への供給電力との配分を調整して、該アルミニウム基溶湯の成分を調整する溶湯処理方法。
【請求項5】
前記アルミニウム基溶湯に含まれる特定元素の濃度を低下させる請求項4に記載の溶湯処理方法。
【請求項6】
前記特定元素はMgを含み、
前記溶融塩はCuを含む請求項5に記載の溶湯処理方法。
【請求項7】
前記アルミニウム基溶湯はスクラップを含む原料から調製される請求項4に記載の溶湯処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応を利用して発電を行う装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識等の高揚に伴い、エネルギーの脱炭素化・循環・効率化、資源の有効活用・リサイクル等が注目されている。このような観点から、下記の特許文献において、画期的な発電装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-73424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、液絡したアルミニウム基溶湯と溶融塩の間でアノード反応とカソード反応を生じさて得られる化学的エネルギーを、電気的エネルギーとして取り出す発電装置を提案している。
【0005】
特許文献1には、発電の原理と実証例が詳しく記載されている。但し、その発電装置の制御に関する記載は特許文献1にはない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、新たな溶湯処理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究した結果、アルミニウム基溶湯の処理(精製等)とそのとき得られる電力との配分を制御して効率的に操業することを着想し、具現化した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《溶湯処理装置》
(1)本発明は、アルミニウム基溶湯と溶融塩を液絡させて収容する容体と、該アルミニウム基溶湯に接触するアノードと、該溶融塩に接触するカソードと、該アルミニウム基溶湯と該溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、該アノードと該カソードの間に接続される外部回路への供給電力との配分を制御する制御手段と、を備える溶湯処理装置である。
【0009】
(2)本発明の溶湯処理装置によれば、アルミニウム基溶湯(「Al基溶湯」ともいう。)と溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、それらから取り出せる外部回路への供給電力との配分を制御できる。これにより、所望する配分度合(運転モード)、操業時の状況や環境等に応じて、適切な割合で溶湯処理(例えばAl基溶湯から特定元素(不純物元素等)を除去する溶湯精製)と発電(外部回路への電力供給)を行なうことが可能となる。
【0010】
《溶湯処理方法》
本発明は溶湯処理方法としても把握される。例えば、本発明は、液絡させたアルミニウム基溶湯と溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、該アルミニウム基溶湯と該溶融塩の間に接続される外部回路への供給電力との配分を調整して、該アルミニウム基溶湯の成分を調整する溶湯処理方法でもよい。
【0011】
《その他》
(1)本明細書でいう「酸化反応(アノード反応)」と「還元反応(カソード反応)」は、電子の授受を伴う反応を意味し、必ずしも酸素(O)の反応への関与を意味しない。酸化還元反応速度は、Al基溶湯と溶融塩の間を移動する電子(電荷q)の時間(t)割合に依存しており、電流(I=dq/dt)に略比例する。また、外部回路への供給電力(P=RI/発電速度)は、その電流(I)と外部抵抗(R:外部回路側の電極間の電気抵抗)により定まる。
【0012】
(2)本明細書でいう濃度や組成は、特に断らない限り、対象物(溶湯、溶融塩等)の全体に対する質量割合(質量%)で示す。適宜、質量%を単に「%」で示す。「X基」材は、Xを主成分(全体に対する含有量が50%超)とするX合金・化合物等の他、X単体も含む。Al基溶湯は、通常、溶湯全体に対してAlを60%以上さらには80%以上含む。
【0013】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また「x~ymA」はxmA~ymAを意味する。他の単位系についても同様である。
【0014】
(4)液絡したAl基溶湯と溶融塩の間で発電される機序等は、特許公報(特開2022-73424)に詳述されており、その全文(全内容)が本願に組み込まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】溶湯処理装置の一例を示す模式図である。
図2】発電速度とMg除去速度の関係を示す散布図である。
図3A】外部抵抗と供給電力の関係を説明する模式図である。
図3B】電流と供給電力の関係を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。
【0017】
《Al基溶湯》
Al基溶湯は、具体的な成分組成、溶湯調製に用いる原料の種類等を問わない。Al基溶湯の原料にAl基部材のスクラップを利用して、その活用や再生を図ってもよい。
【0018】
Al基溶湯中にAlよりも卑な金属元素α(例えばMg、Na、Li等)が含まれる場合、それらは酸化(アノード)反応(α→α2++2e-、α→α++e-等)の原料(負極活物質)となる。金属元素(α)は、イオン化して溶融塩へ移動し、通電量に応じてAl基溶湯中の濃度を低下させる。
【0019】
ちなみに、金属元素(α)の一種であるMgはアルミニウム合金(「Al合金」ともいう。)の代表的な合金元素であり、多くのAl合金(5000系、6000系、7000系等)に含まれる。Naは、アルミナからアルミニウムを製錬(ホール・エール法)する際に用いられる氷晶石(NaAlF)に含まれる。このため、本発明の溶湯処理装置(方法)は、発電と共に、Al合金の精錬、再生等の他、Alの製錬も併せてなし得る。なお、Al基溶湯中にAlよりも卑な金属元素αが含まれない場合、Alがアノード反応(Al→Al3++3e-)の原料(負極活物質)となる。
【0020】
Al基溶湯中には、Alよりも貴な金属元素β(例えばFe、Mn、Si、Cu、Zn等)が含まれてもよい。金属元素βは負極活物質とはならないが、発電と共にAl基溶湯中で濃化する。例えば、FeとMnは濃化により化合物を形成し易くなり、それらは沈降等してAl基溶湯から除去されたり、Al基溶湯中の濃度を低下させ得る。
【0021】
ちなみにAl基溶湯は、電子伝導を担う導電体としても把握され得る。またAl基溶湯は、Al以外の負極活物質を含む場合、集電体(電極)としも把握され得る。さらにAl自体を負極活物質と考えると、Al基溶湯はその供給源としても把握され得る。なお、Al基溶湯は固液共存状態(半溶融状態)でもよい。この点は溶融塩についても同様である。
【0022】
本明細書でいう金属元素の「貴・卑」は、Al基溶湯と接触する溶融塩における標準生成自由エネルギー(単に「自由エネルギー」ともいう。)に基づいて定める。標準生成自由エネルギーが負に大きい金属元素ほど卑である。標準生成自由エネルギーはデータ集や電位測定により求まる。例えば、Knacke O., Kubaschwski O., Hesselmann K.,“Thermochemical Properties of Inorganic Substances"(1991),SPRlNGER-VERLAGを利用できる。そこでは、660℃における自由エネルギーが示されているが、その傾向は少なくとも660~800℃においても同様である。
【0023】
《溶融塩》
溶融塩は電解質として機能する。溶融塩(融解塩)も具体的な成分組成やその調製に用いる原料の種類等を問わない。溶融塩として、例えば、ハロゲン化物塩、炭酸塩等を用いることができる。ハロゲン化物(特に塩化物、臭化物)を用いると、安定な溶融塩を安価に調製できる。
【0024】
例えば、標準生成自由エネルギーがMgハロゲン化物よりも小さい金属元素(Ca、Na、Li、Sr、K、Cs、Ba等の一種以上)のハロゲン化物を、溶融塩の基材とするとよい。特に、Naおよび/またはKのハロゲン化物は安価で安定しているため、溶融塩の基材として好適である。溶融塩は、単種の塩でも複数種の塩(混合塩)でもよい。複数のハロゲン化物塩を組み合わせることにより、例えば、溶融塩の融点を低下させ得る。
【0025】
溶融塩中に含まれるAlよりも貴な金属元素(β)は、カソード反応(β2++2e-→β、β++e-→β等)の原料(正極活物質)となる。金属元素(β)は、例えば、通電量に応じて、カソード(付近)に析出し得る。
【0026】
金属元素(β)は、例えば、Cu、Sn、Fe、Zn、Mn等である。金属元素(β)は、例えば、単体、化合物等として溶融塩へ供給される。金属元素(β)の化合物を用いると、発電に要する原料コストの低減を図れる。化合物には、酸化物、ハロゲン化物(特に塩化物)等がある。ハロゲン化物よりも酸化物を用いると、原料コストをより低減できる。また金属元素(β)の酸化物を用いると、Al基溶湯中に含まれていた元素(Mg等)を酸化物(MgO等)として除去し易くなる。
【0027】
金属元素(β)は、Cu、ZnまたはMnの一種以上(特にCu)である特定金属元素(M)であるとよい。特定金属元素の酸化物の標準生成自由エネルギーは、そのハロゲン化物(特に塩化物)の標準生成自由エネルギーよりも大きいか、略同程度である。このため特定金属元素(M)の酸化物(CuO、ZnO、MnO等)は、ハロゲン化物からなる溶融塩中において分解され易い。その結果、例えば、特定金属元素(M)はカソード上に析出し、OはAl基溶湯から移動してきたイオン(Mg2+等)を酸化物として除去し得る。その反応例を示すと、反応式1:MO+MgX→MX+MgO(X:ハロゲン元素、特にCl、Br)となる。
【0028】
ちなみに、溶融塩中のMXは、例えば、反応式2:MX+Mg→M+MgXのように反応して、Mg除去材(剤)ともなる。いずれの反応式でも、自由エネルギー差が負(ΔG<0)となる安定な方向、すなわち、左辺から右辺に進行し易い。溶融塩への酸化物(MO)の供給(添加)量に応じてAl基溶湯から除去されるMg量は変化するが、溶融塩中におけるMgX量(溶融塩中のMg2+濃度)はほぼ一定となる。
【0029】
《電極》
(1)Al基溶湯側と溶融塩側にそれぞれ独立した電極を設けるとよい。Al基溶湯に接触する電極がアノード(負極/陽極)、溶融塩に接触する電極がカソード(正極/陰極)となる。溶湯処理装置をガルバニ電池の一種と考えると、各電極は集電体ともなる。
【0030】
電極は、酸化還元反応に悪影響を及ぼさない材質からなるとよい。例えば、耐熱性や耐食性に優れる共に比較的安価な黒鉛電極(黒鉛棒、黒鉛板等)を用いてもよい。
【0031】
アノードの一部が溶融塩中を通るとき、アノードの外周側に被覆部材または被覆層を設けて、アノードと溶融塩を電気的に絶縁するとよい。カソードがAl基溶湯中を通るときも同様に、両者が電気的に絶縁されるとよい。絶縁材として、例えば、セラミックス等を用いることができる。
【0032】
(2)各電極(集電体)をそのまま外部回路に接続する出力端子としてもよいし、電極とは別に出力端子を設けてもよい。アノードに連なり外部回路に接続され得るアノード端子と、カソードに連なり外部回路に接続され得るカソード端子とを設けると、外部回路との接続性が向上するのみならず、消耗する電極だけの交換も容易となる。
【0033】
また、カソード周りに液通可能な囲い等を設け、その周囲で正極活物質を濃化させて、発電効率を高めてもよい。
【0034】
《セパレータ》
Al基溶湯と溶融塩は、通常、自ずと二層(二相)状態となる(上層・下層は各密度により定まる)。このため本発明の溶湯処理装置は、二種の水溶液を電解液とする電池とは異なり、必ずしもセパレータがなくても成立し得る。但し、Al基溶湯と溶融塩が直接接触すると、両者の接触界面付近で酸化還元反応による正極活物質の析出が生じ得る。そこで、Al基溶湯と溶融塩の間に、イオン伝導を許容しつつAl基溶湯と溶融塩を仕切るセパレータを備えるとよい。これにより、溶湯処理と発電を安定して効率的に行える。
【0035】
セパレータは、縦方向(垂直方向)に延在する隔壁(単に「縦壁」という。)でも、横方向(水平方向)に延在する隔壁(単に「横壁」という。)でもよい。縦壁のセパレータなら、Al基溶湯と溶融塩の各上面から、原料の供給や補充等を行える。
【0036】
Al基溶湯または溶融塩を収容する容体の一部がセパレータを兼ねてもよい。このような容体は、少なくとも一部の壁面がイオン伝導可能であればよい。
【0037】
セパレータは、耐熱性を有する多孔質体からなるとよい。例えば、ポーラス坩堝のような素焼き容体をセパレータとして用いることができる。このようなセパレータは、イオン(溶融塩を含む)を通過させるが、溶湯を通過させない。
【0038】
《容体》
Al基溶湯と溶融塩は、一つの容体に収容されてもよいし、分割または独立した容体にそれぞれ収容されてもよい。容体はセラミックス製でも、金属製でもよい。イオン伝導(通過)が可能な多孔質状(ポーラス状)の容体に溶融塩またはAl基溶湯を収容して、上述したセパレータを省略してもよい。
【0039】
《制御手段》
制御手段は、Al基溶湯と溶融塩の間で生じる酸化還元反応速度と、アノードとカソードの間に接続される外部回路への供給電力との配分を制御する。この配分の制御は、例えば、Al基溶湯と溶融塩の間またはアノードとカソードの間の電流を調整して行える。電流調整は、例えば、外部回路側の電気抵抗を変更する可変抵抗手段により行える。可変抵抗手段は、電気抵抗(電流値)を段階的に変化させても、連続的に変化させてもよい。
【0040】
酸化還元反応速度と供給電力の配分や上述した電流調整は、操業中の状況や環境等に応じて適宜なされもよいし、予め設定した所定条件の具備をプログラム等が判断して自動的になされてもよい。所定条件(運転モード)は、例えば、外部回路側の電力需要、稼働時間帯等を反映して設定される。このように制御手段は、上記の配分等を所定条件に応じて定める調整手段を備えると好ましい。
【0041】
《外部回路》
外部回路の種類や形態等は問わない。アノードとカソードの間から供給される電力は直流電力である。このため、交流電力に変換するコンバータ、その周波数を調整するインバータ、電圧を変更するトランスや昇圧回路等を外部回路前に介在させてもよい。なお、溶湯処理装置で発電された電力を自身の稼働に必要な電力として消費する場合、溶湯処理装置の電気回路が外部回路(またはその一部)となる。
【実施例0042】
《溶湯処理装置》
製作した溶湯処理装置Gの概要を図1に模式的に示した。溶湯処理装置Gは、アノード11と、アノード端子12と、カソード21と、カソード端子22と、坩堝6(容体)と、ポーラス容体9(セパレータ)と、制御装置3(制御手段)とを備える。溶湯処理装置Gは、接続される外部回路Cへの電力供給が可能となっている。なお、坩堝6は、断熱材を備えた保持炉(図略)に収容されて、電熱式ヒータ(図略)により所望温度に加熱・保持される。
【0043】
アノード11とカソード21は共に黒鉛電極(集電体)からなる。アノード11の上端部に取り付けたアノード端子12とカソード21の上端部に取り付けたカソード端子22は銅からなる。本実施例では、アノード11とカソード21に外径:φ10mmのグラファイト丸棒を用いた。
【0044】
Al基溶湯m1(単に「溶湯m1」という。)を収容する坩堝6には、黒鉛坩堝(株式会社TYK製)を用いた。溶融塩m2を収容するポーラス容体9には、有底筒状の多孔質アルミナ坩堝(株式会社ニッカトー製)を用いた。坩堝6とポーラス容体9により本発明の容体が構成される。
【0045】
図1に示すように、溶融塩m2を収容するポーラス容体9は、坩堝6に収容された溶湯m1に浸漬された状態となっている。ポーラス容体9は、全体が多孔質セラミックス(素焼き陶磁器)からなり、溶湯m1を通過させないが、溶湯m1中のイオン(例えばMg2+)や溶融塩m2のイオンは通過させる。
【0046】
制御装置3は、可変抵抗器31(可変抵抗手段)と、可変抵抗器31を駆動して外部回路Cを含むアノード端子12とカソード端子22の間の抵抗値(外部抵抗R)を所定値にする調整回路32(調整手段)とを備える。
【0047】
《実験》
図1に示した溶湯処理装置Gを用いて、溶湯m1に含まれるMg(特定元素)の除去(Al基溶湯の精製・濃度調整)を行いつつ、外部回路Cへの電力供給(発電)も行なった。具体的には次の通りである。
【0048】
1.原料
(1)Al基溶湯
市販の純Alと純Mgを用いて、Al-Mg溶湯(溶湯m1)を調製した。この際、リサイクルするスクラップを溶解した原溶湯からMg(不純物)を除去してAl基溶湯を精製する場合を想定した。
【0049】
Mg(負極活物質)の溶湯全体に対する初期濃度が0.74%である初期溶湯を1500g調製した。本実施例では、特に断らない限り、濃度は質量割合(質量%)で示す。
【0050】
(2)溶融塩
市販の塩化物(試薬)を用いて、KCl-41%NaCl-6%MgClである溶融塩m2を250g調製した。
【0051】
(3)Mg除去剤(正極活物質)
Mg除去剤として、市販の試薬であるCuO(富士フィルム和光純薬製酸化銅(II))を2g用いた。
【0052】
2.処理
溶湯m1と溶融塩m2を680~690℃に保持して、ポーラス容体9の上方開口から溶融塩m2にMg除去剤を添加した。
【0053】
制御装置3の操作により、アノード端子12とカソード端子22の間の外部抵抗Rを、0.05Ω(R1)、0.1Ω(R2)または0.5Ω(R3)のいずれかに設定した。
【0054】
3.測定
外部抵抗Rを上記のいずれかに設定して、それぞれ10分間保持した。それぞれの場合について、外部回路Cへ供給された電力量と、溶湯m1中のMg濃度の変化量(Mg除去量)とを測定した。
【0055】
電力量は、外部回路Cに接続した電力量計により測定した。Mg除去量(%)は、外部回路Cを通過した電荷量Q(外部回路Cにおける電流の時間積分値)に基づいて求まるMg除去質量w(g)を濃度に換算した。具体的な算出式は次の通りである。
w=(Q×M)/(z×F)
w:Mg除去質量(g)
Q:外部回路Cを通過した電荷量(C)
M:Mgの原子量=24.3(g/mol)
z:Mg除去反応の電荷数=2
F:ファラデー定数=96485(C/mol)
Mg除去量(%)=100×w/Al-Mg溶湯量(1500g)
【0056】
10分間の測定で得られた電力量、Mg除去量を1時間当たりに換算して、それぞれ発電速度(Wh/hr)、Mg除去速度(%/hr)とした。各外部抵抗Rについて得られた発電速度とMg除去速度の関係を図2にまとめて示した。
【0057】
《評価》
図2から明らかなように、外部抵抗Rを調整することにより、発電速度とMg除去速度を制御できることがわかった。発電速度は外部回路Cへの供給電力に相当し、Mg除去速度はAl基溶湯と溶融塩の間における酸化還元反応速度に相当する。
【0058】
Al基溶湯と溶融塩の酸化還元反応を利用した溶湯処理は、Mg除去によるAl基溶湯の精製に限らず、他元素の濃度調整や析出回収等にも拡張され得る。
【0059】
《考察》
Al基溶湯と溶融塩の間において、外部回路への供給電力と、溶湯処理に係る酸化還元反応速度とを制御できることを、図3A図3B(両図を併せて「図3」という。)に模式的に示した。
【0060】
溶湯処理装置の等価回路を想定する。つまり、Al基溶湯と溶融塩の間の内部抵抗:r、それらの間の起電力:E、それらの間に流れる直流電流:I、それらの間の端子電圧:V、外部抵抗:R、外部回路への供給電力:Pとする。このとき、P=RI 、I=V/R、V=E・R/(R+r)となる。
【0061】
この場合、外部抵抗Rと供給電力Pは図3Aに示すような関係となる。図3Aからも明らかなように、外部抵抗の調整により電力供給を制御できることがわかる。また、電流Iと供給電力Pは図3Bに示すような関係となる。図3Bからも明らかなように、電流調整により電力供給を制御できることもわかる。ここで電流Iは、Al基溶湯と溶融塩の間の酸化還元反応速度(溶湯処理速度、Mg除去速度等)を指標している。従って、外部抵抗の調整により、Al基溶湯と溶融塩の間の酸化還元反応速度(溶湯処理速度)と外部回路への供給電力を所望の割合に配分できることが図3からわかる。
【0062】
こうして本発明によれば、Al基溶湯と溶融塩の間の酸化還元反応速度と、それらによる外部回路への供給電力とを所望割合に配分しつつ、Al基溶湯を適切に処理できる。
【符号の説明】
【0063】
G 溶湯処理装置
m1 Al基溶湯
m2 溶融塩
11 アノード
12 カソード
9 ポーラス容体(セパレータ)
図1
図2
図3A
図3B