(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126830
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電池パックの診断方法及び診断装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/387 20190101AFI20240912BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20240912BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240912BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01R31/387
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/392
G01R31/3842
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/48 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035508
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
(72)【発明者】
【氏名】堀越 伸也
(72)【発明者】
【氏名】米元 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠仁
(72)【発明者】
【氏名】澄川 陽介
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA03
2G216BA05
2G216BA07
2G216BA17
2G216BA22
2G216BA44
2G216BA59
2G216BA65
2G216BA71
2G216CB13
2G216CB14
2G216CB34
2G216CB52
2G216CC04
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA11
5G503CA16
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA08
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】電池パックのエネルギー容量の算出精度を向上する。
【解決手段】複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を含む検出データを得る工程と、セルについての充電状態の関数である開回路電圧及び抵抗の関数データを得る工程と、関数データ及び検出データを用いて、それぞれのセルの抵抗テーブルを作成する工程と、電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を用いて、それぞれのセルの充電状態を算出する工程と、それぞれのセルの電荷容量、抵抗及びセル毎の充電状態を算出する工程と、電荷容量、セル毎の充電状態及び抵抗を用いて、電池パックのエネルギー容量を算出する工程と、算出された電池パックのエネルギー容量を診断する工程と、診断により異常と判定されたエネルギー容量の値を除去し、電池パックのエネルギー容量を再度算出する工程と、を含む、電池パックの診断方法を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれの前記セルの電圧を含む検出データを得る工程と、
前記セルについての充電状態の関数である開回路電圧及び抵抗の関数データを得る工程と、
前記関数データ及び前記検出データを用いて、それぞれの前記セルの抵抗テーブルを作成する工程と、
前記電流及び前記温度並びにそれぞれの前記セルの前記電圧を用いて、それぞれの前記セルの前記充電状態を算出する工程と、
それぞれの前記セルの電荷容量、前記抵抗及びセル毎の充電状態を算出する工程と、
前記電荷容量、前記セル毎の充電状態及び前記抵抗を用いて、前記電池パックのエネルギー容量を算出する工程と、
算出された前記電池パックの前記エネルギー容量の値を診断する工程と、
前記診断により異常と判定された前記エネルギー容量の値を除去し、前記電池パックの前記エネルギー容量を再度算出する工程と、を含む、電池パックの診断方法。
【請求項2】
前記異常は、特定の範囲において算出されたエネルギー容量の値を用いて、新たに算出されたエネルギー容量に対する異常の有無を診断する、請求項1記載の診断方法。
【請求項3】
前記電池パックの前記エネルギー容量の経時変化と前記電流のデータとの関係を比較する工程と、
診断された前記電池パックの前記エネルギー容量の異常値に基いて、診断に用いるデータの電流範囲を決定する工程と、を更に含む、請求項2記載の診断方法。
【請求項4】
前記電池パックの前記エネルギー容量の経時変化と前記温度のデータとの関係を比較する工程と、
診断された前記電池パックの前記エネルギー容量の異常値に基いて、診断に用いるデータの温度範囲を決定する工程と、を更に含む、請求項2記載の診断方法。
【請求項5】
前記電池パックは、車両に設置されたものであり、
前記電池パックの前記異常は、前記電池パックの前記エネルギー容量と前記車両の総走行距離との関係式に基いて診断される、請求項1記載の診断方法。
【請求項6】
前記異常の有無についての診断結果を前記電池パックの使用者に通知する工程を更に含む、請求項1記載の診断方法。
【請求項7】
複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれの前記セルの電圧を含む検出データを得、
前記セルについての充電状態の関数である開回路電圧及び抵抗の関数データを得、
前記関数データ及び前記検出データを用いて、それぞれの前記セルの抵抗テーブルを作成し、
前記電流及び前記温度並びにそれぞれの前記セルの前記電圧を用いて、それぞれの前記セルの前記充電状態を算出し、
それぞれの前記セルの電荷容量、前記抵抗及びセル毎の充電状態を算出し、
前記電荷容量、前記セル毎の充電状態及び前記抵抗を用いて、前記電池パックのエネルギー容量を算出し、
算出された前記電池パックの前記エネルギー容量の値を診断し、
前記診断により異常と判定された前記エネルギー容量の値を除去し、前記電池パックの前記エネルギー容量を再度算出する、電池パックの診断装置。
【請求項8】
前記電池パックは、前記診断装置の外部に設置され、
前記電池パックと前記診断装置とが相互に通信可能に接続されている、請求項7記載の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池パックの診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)等には、複数のセルで構成されている電池パックが内蔵されている。電池パックのエネルギー容量は、EVの走行距離と相関関係があるため、電池パックのエネルギー容量を正確に把握する技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を含む検出データを得るシステムを用いて電池パックを診断する方法であって、電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧、開回路電圧の充電状態関数及び抵抗テーブルを用いて、電池パックを満充電にした場合におけるそれぞれのセルの充電状態の推定値であるアンバランス量及び抵抗を算出し、電荷容量、アンバランス量及び抵抗を用いて、電池パックのエネルギー容量を算出するものが開示されている。
【0004】
なお、本明細書においては、電池パック内の各セルの充電率(State of Charge)を「SOC」と呼ぶ。また、開回路電圧(Open Circuit Voltage)は、「OCV」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池パックのエネルギー容量の算出には、電池が動作(走行および充電)している間の電流、温度、電圧などのデータが必要となる。仮に電流、温度、電圧などの入力データに誤差が大きいと、上記のデータを用いて診断する電池パックのエネルギー容量も誤差が大きくなるため、データの精度が重要となる。
【0007】
特許文献1に記載の電池パックの診断方法においては、データに異常がある場合の対処方法については検討されていない。
【0008】
本開示の目的は、電池パックのエネルギー容量の算出精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の電池パックの診断方法は、複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を含む検出データを得る工程と、セルについての充電状態の関数である開回路電圧及び抵抗の関数データを得る工程と、関数データ及び検出データを用いて、それぞれのセルの抵抗テーブルを作成する工程と、電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を用いて、それぞれのセルの充電状態を算出する工程と、それぞれのセルの電荷容量、抵抗及びセル毎の充電状態を算出する工程と、電荷容量、セル毎の充電状態及び抵抗を用いて、電池パックのエネルギー容量を算出する工程と、算出された電池パックのエネルギー容量を診断する工程と、診断により異常と判定されたエネルギー容量の値を除去し、電池パックのエネルギー容量を再度算出する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、電池パックのエネルギー容量の算出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る電池パック診断システムの一例を示す構成図である。
【
図2】
図1の電気自動車101に内蔵されている電池パックの一例を示す構成図である。
【
図3】EVからサーバーへの通信内容の一例を示す表である。
【
図4】
図1の電池テーブル105の一例を示す構成図である。
【
図5】
図1のSOC計算手段107における処理の一例を示すフロー図である。
【
図6】
図1の電池パックのエネルギー容量計算手段109における処理の一例を示すフロー図である。
【
図7A】電池パックにアンバランス状態が生じている状態における各セルの電圧を示すグラフである。
【
図7B】電池パックのアンバランス状態を解消した後の状態における各セルの電圧を示すグラフである。
【
図8】
図1の電池パックのエネルギー容量診断/再計算手段111における処理の一例を示すフロー図である。
【
図9】
図8のS82において電池パックのエネルギー容量の異常を診断する際に用いるグラフの一例である。
【
図10A】電池パックの診断結果が特定の温度領域で異常値となる場合を示すグラフである。
【
図10B】電池パックの診断結果が特定の電流領域で異常値となる場合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、EVに内蔵されている電池パックのデータをサーバーに転送し、サーバーにおいて電池パックのエネルギー容量およびセンサ異常を診断する方法等に関するものを含む。
【0013】
なお、本診断方法を実施する装置に関しては、サーバーで計算するパターンと、EV内の端末のみで計算するパターンと、サーバーとEV内の端末の両方で計算するパターンとがある。そして、これらの一連の手段は、サーバー内でのプログラムとして実施するかまたは、EV内の端末のみのプログラム、又はEVの端末及びサーバーの両方のプログラムを用いて実施してもよい。
【0014】
ただし、本開示は、以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。例えば、以下に説明する電池パック診断システムはEVのみならず、HEMS (Home Energy Management Systems)、BEMS (Building Energy Management Systems)、FEMS (Factory Energy Management Systems)、鉄道、建設機械用の電池パックにも適用できる。
【0015】
以下、図面を用いて、本開示における実施形態を詳述する。
【0016】
図1は、実施形態に係る電池パック診断システムの一例を示す構成図である。
【0017】
図1において、電池パック診断システムは、サーバー100(「演算装置」又は「診断装置」ともいう。)と、複数の電気自動車101(EV)と、それぞれのEV内の通信デバイス102(例えば、スマートフォン等の携帯端末、Wi-Fi(登録商標)ルータ、カーナビゲーションシステム等の車内常設コンピュータ等)と、を構成要素としている。サーバー100は、各EVから通信デバイス102を経由して集められたEV 通信データ(データの種類は後述する。)を蓄積する記憶装置103(第一の記憶装置)と、テーブル設定手段104(テーブル設定部)と、電池テーブル105を保存する第二の記憶装置と、電池パックのエネルギー計算手段106(電池パックのエネルギー計算部)と、を備えている。電池パックのエネルギー計算手段106は、SOC計算手段107(SOC計算部)と、SOCデータ群108を保存する第三の記憶装置と、電池パックのエネルギー容量計算手段109(電池パックエネルギー容量計算部)と、電池パックのエネルギー容量/電圧/電流/温度のデータ群110を保存する第四の記憶装置と、エネルギー容量診断/再計算手段111(電池パックエネルギー容量計算部)と、電池パックのエネルギー容量のデータ群112を保存する第5の記憶装置とを含む。
【0018】
なお、本実施形態と
図1ではサーバーで計算する例であるが、車載BMU内や車載スマートフォンなどエッジで計算してもよいし、サーバーと車載BMU内や車載スマートフォンなどエッジでも計算してもよい。サーバーと車載BMUや車載スマートフォンの両方で計算する場合には、クラウドで大量データから構築および改善した診断方式をエッジ側に送り込んでもよい。
【0019】
図2は、
図1の電気自動車101に内蔵されている電池パックの一例を示す構成図である。
【0020】
電池パックは、L個のセル201が並列に接続されたセル群203がN個直列接続された構成を有する。ここで、セル群203は、一つの電池セルとみなす。そして、選択されたM個のセル群203にはそれぞれ、温度センサ202が1個ずつ取り付けられている。言い換えると、電池パックには、M個の温度センサ202が配置されている。
【0021】
また、EVには、電池パックを管理するバッテリーマネジメントユニット205(BMU)が内蔵されている。BMUは、並列に接続されたセル群203それぞれの電圧と、電流計204(電流センサ)で計測された電流と、M個の温度センサ202で計測された温度と、をEV内のネットワーク206(LAN)を介して収集し、電池パックの代表SOCを計算する。そして、BMUは、LANを介して、電流、電圧、温度、電池パックの代表SOC等の情報(検出データ)を通信デバイス102に送信することができるようになっている。通信デバイス102は、それらの情報を受け取り、サーバー100(
図1)に送信する。この送信は、EVのイグニッションがオンにされている間、定期的にサーバーに情報を通信する。
【0022】
なお、
図1においては、電池パックは、EVに内蔵されている場合であるが、本開示は、これに限定されるものではなく、電池パックは、定置式の蓄電装置として固定されていてもよい。また、診断装置は、EVの外部に限定されるものではなく、EVの内部に設置されていてもよい。
【0023】
次に、通信デバイスからサーバーに送られる通信の内容について説明する。
【0024】
図3は、EVからサーバーへの通信内容の一例を示す表である。
【0025】
本図においては、No.1の車両IDはEVの識別IDを示す。No.2の時刻は、送信時刻でなく、電池の電流、電圧及び温度を計測した時刻を示す。No.3の車両状態フラグは、EVが充電中、停車中又は走行中であることを示すフラグである。No.4の電池パック電流は、この例では充電側を+とした値であり、No.2の時刻における電流を示す。No.5の電池パックのSOCは、電池パックの代表SOCを示す。No.6の電池パック内直列数Nは、
図2に示すセルの直列数である。No.7の電池パック内温度センサ数Mは、
図2に示す温度センサの数である。No.8の初期電池パックAh容量は、
図2に示すセルの初期Ah×並列数Lの値を示す。No.9の初期電池パックエネルギー容量は、セルの初期エネルギー容量×直列数N×並列数Lの値より計算したものである。No.10からNo.N+9までは、
図2に示す並列数Lのセルの電圧を示す。No.N+10からNo.N+M+9までは、それぞれの温度センサの温度を示す。
【0026】
なお、電圧及び温度は、No.2の時刻に計測した値である。No.6~No.9は、必ずしも通信に必須のものではない。No.6~No.9が無い場合には、サーバー側に各EVのNo.6~No.9の情報があるものとする。
【0027】
図1に示す記憶装置103には、
図3に示すような一定時間間隔の通信のデータ(EV通信データ)が蓄積されている。
【0028】
図4は、
図1の電池テーブル105の一例を示す構成図である。
【0029】
図4に示す電池テーブル105は、予め設定するか、テーブル設定手段104により設定されるテーブルであり、電池パックのエネルギー計算手段106で参照される。電池テーブル105は主に、各SOCにおける、OCV、充電抵抗、放電抵抗の値をまとめたOCVテーブル401、セル充電抵抗テーブル402、セル放電抵抗テーブル403から構成される。ここで、OCVテーブル401は、SOC毎に対応する値を有する関数であり、充電抵抗及び放電抵抗は、SOC及び温度の関数である。
【0030】
次に、テーブル設定手段104について述べる。
【0031】
OCVテーブル401は、満放電状態(SOC0%)よりSOC2%分充電して30分待機することを、満充電状態(SOC100%)となるまで繰り返し、各SOCにおける30分待機後の電圧をOCVと定義し、まとめたものである。
【0032】
セル充電抵抗テーブル402に示す右欄の値は、下記式(1)で表されるように、25℃において満放電状態から満充電状態まで充電した際の各SOCに対応する充電電圧CCVcから、各SOCに対応するOCVであるOCVcを引き、電流Icで除した値である。
【0033】
【0034】
ここで、任意のセル温度Tcell[℃]における充電抵抗Rc(Tcell)は、下記式(2)で表される。
【0035】
【0036】
式中、Rc(25℃)は、Tcell=25℃における充電抵抗Rc(Tcell)である。また、Bは、温度感度である。
【0037】
セル放電抵抗テーブル403に示す右欄の値は、下記式(3)で表されるように、25℃において満放電状態から満充電状態まで充電した際の各SOCに対応する放電電圧CCVdから、各SOCに対応するOCVであるOCVdを引き、電流Idで除した値である。
【0038】
【0039】
ここで、任意のセル温度Tcell[℃]における充電抵抗Rd(Tcell)は、下記式(4)で表される。
【0040】
【0041】
式中、Rd(25℃)は、Tcell=25℃における放電抵抗Rd(Tcell)である。また、Bは、温度感度である。
【0042】
以上、OCVテーブル、充電抵抗テーブル、放電抵抗テーブル、の一例について説明したが、各テーブルの作成方法は上記の方法に限定されない。さらに、テーブルのSOC間隔についても2%に限定されることはなく、任意の間隔のものを用いることできる。
【0043】
次に、電池パックの劣化を診断する方法について述べる。ここで、劣化の診断は、
図1の電池パックのエネルギー計算手段106における処理であり、端的には電池パックのエネルギー容量を求めることである。
【0044】
まず、サーバー側で各セルのSOCを求め、その後、各セルの電荷容量と、アンバランス量と、電池パックの現時点のエネルギー容量とアンバランスを解消した状態(電池パックを満充電にしたとき、全ての電池のSOCが100%になった状態)におけるエネルギー容量を算出する。
【0045】
以下、具体的に、
図1に示す電池パックのエネルギー計算手段106について説明する。
【0046】
最初に、SOC計算手段107で各セルのSOCを求めて、SOCデータ群108のデータベース(DB)にSOCデータを蓄積する。そして、電池パックのエネルギー容量計算手段109により、SOCデータ群108を用いて電池パックのエネルギー容量を求める。電池パックのエネルギー計算手段106は、電池テーブル105及び記憶装置103のデータを元に計算する。
【0047】
以下、SOC計算手段107及び電池パックのエネルギー容量計算手段109それぞれについて説明する。
【0048】
SOC計算手段107は、通信データの時間間隔が密(例えば1s以下)の場合ならば、走行ごと、充電毎のデータの区切りとする。一方、通信データの時間間隔が長い場合には、充電器で充電中のデータ区切りとする。
【0049】
図5は、
図1のSOC計算手段107における処理の一例を示すフロー図である。
【0050】
図5においては、SOC計算手段107における処理は、S51の充電中データ抽出ステップと、S52の充電番号初期設定ステップと、S53のセル番号初期設定ステップと、S54のSOC求解ステップと、S56のセルループ終了判定ステップと、S57のセル番号アップステップと、S58の充電番号終了判定ステップと、S59の充電番号アップステップと、を含む。
【0051】
本図に示すように、ステップS51において、充電器で充電中のデータ(電流、各セル電圧、温度)を取得する。これらのデータをそれぞれ、I (t,k)、Vj (t,k)、Temp (t,k)とする(j=1,…,N)。ここで、tは充電器で充電を開始してからの時間、kは充電器で充電した回数を示す。jはセル番号を示す。温度センサはM個あるため、TempはM個のセンサの平均値を用いてもよい。
【0052】
次に、ステップS52において、一番古い充電番号(充電器で充電中の間のデータ)kを1とセットする。そして、ステップS53において、セル番号jを1とセットする。
【0053】
ステップS54においては、下記式(5)で表され、下記式(6)、(7)及び(8)を用いて、セルjの推定電圧Vestj(t)とセルjの実電圧Vrealj (t)との差の二乗和を最小化するパラメータPj(k),Qj(k),SOCI(j,k),Qmax(j,k)を求める。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
ここで、Pj(k)は、各セルの充電抵抗の係数である。Qj(k)は、各セルの充電抵抗の係数である。SOCI(j,k)は、k回充電したセルjのSOCの初期値である。Qmax(j,k)は、セルjの電荷容量(Ah容量)である。Rfc(SOC)は、充電側の25℃標準抵抗関数である。Rcは、各セルの充電抵抗である。上記式(5)のargminは、最小値を与えるパラメータを求める関数を意味する。argminを求めるための実際の解法は、準ニュートン法を用いてもよい。
【0059】
次に、ステップS55にて、セルjのアンバランス量(電池パックが満充電になった時の各セルのSOC)の(以下SOCu(j,k)と記載する。)を計算する。
【0060】
セルjが満充電になるときの電荷(充電)は、次の式で表される。SOCI jはセルjの初期SOCであり、Qmaxjはセルjの電荷容量(Ah容量)である。
【0061】
(1-SOCI j÷100)×Qmaxj
電池パックとしては、どれか一つのセルが満充電になった場合、電池パックが満充電であるため、次の式で表される電荷Qfが充電されたときに、電池パックが満充電となる。
【0062】
Qf=min [(1-SOCI j÷100)×Qmaxj]
このため、電池パックが満充電になった時の各セルのSOCは、次の式で表される。
【0063】
SOC=SOCI j+100×Qf/Qmaxj
このときのセルjのSOCがアンバランス量(SOCu(j)と表記する。)となる。アンバランス状態が解消した場合には、このアンバランス量は全てのセルで100%となる。これは全てのセルのアンバランス量が100%のとき、電池パックのエネルギー容量が最大になる。
【0064】
したがって、この計算式は、下記式(9)及び式(10)で表される。セルjのアンバランス量SOCu(j,k)は、電池パックを満充電にした際の各セルのSOCである。Qf (k)は、電池パックが満充電、すなわち、いずれかのセルが満充電になるまでの電荷(Ah)である。
【0065】
【0066】
【0067】
次に、ステップS56において、セル番号jがセル直列数Nになったかどうかを判定する。セル番号がNになったときには、ステップS58に処理を移す。そうでない場合は、ステップS57において、セル番号を一つ増やし、ステップS54を繰り返す。ステップS58においては、充電番号が最新の充電かどうかを判定し、Yesならば、ステップS59に処理を移し、ステップS53に移る。そうでない場合には、処理を終了する。
【0068】
図5の処理は、定期的に、例えば一日毎に行う。また、既に処理の終わっている充電データは対象外とする。本図は、一台の車両についての処理を示したものであるが、車両が複数台ある場合には、その台数分処理をする。
【0069】
本図の処理の後に、各セルのSOC時系列のみならず、SOCの充電毎の初期値、抵抗の係数Pj(k)、Qj(k)及びQmax(j,k)が求められる。Pj(k)及びQj(k)は、上記式(4)における定数である。これらの情報をSOCデータ群108のDBに蓄積する。
【0070】
次に、一定電流で放電した際、各セルjが放電停止になるSOC(SOCe(j)と表記する。)を求める。なお、電池パックの放電終了は、いずれか一つのセルが最低電圧Vmになった時となるため、次の非線形方程式を解くことにより、SOCe(j)が求められる。
【0071】
Vm=OCV(SOCe(j))-Id×Rd(SOCe(j))
式中、Idは放電電流であり、Rdは現時点の放電抵抗であり、SOCによる関数である。
つまり、Rdは、電池テーブル105に格納された放電抵抗テーブルの標準値に、前述した抵抗の係数P jをかけてQ jを足したものである。放電する際の初期値をSOCu(j)とすると、SOCe(j)=SOCu(j)-100×Q/Qmaxjの関係となるため、セルjの放電電荷Qd(j)は、次の式で表される。
【0072】
Qd(j)={SOCu(j)-SOCe(j)}×Qmaxj÷100
どれか一つのセルが最低電圧になったら電池パックとしては放電を停止するため、次の式で表されるQdが放電されたら、電池パックは放電停止となる。
【0073】
Qd=min[{SOCu(j)-SOCe(j)}×Qmaxj÷100]
したがって、セルjのSOCの範囲は、SOCu(j)からSOCu(j)-100×Qd/Qmaxjまでとなる。このSOCの積分範囲でセルjの電圧vj(t)の平均値Vajは、下記式(11)で表される。
【0074】
【0075】
これにより、電池パックのエネルギー容量Pmaxは、下記式(12)を用いて計算できることになる。
【0076】
【0077】
以上の計算結果を現時点の電池パックエネルギー容量とする。そして、SOCu(j)を100として同様に計算し、アンバランス解消後の電池パックエネルギー容量を算出する。これらの値を計算し、ユーザに通知することができる。
【0078】
以上の原理の下、
図1の電池パックのエネルギー容量計算手段109における処理の例を示すフロー図を
図6に示す。
【0079】
本図の処理は、
図5の処理と同期している必要はなく、ユーザが電池パックのエネルギー容量を知りたいときに計算してもよいし、一日に一度又は一週間に一度計算してもよい。
【0080】
本図の処理は、S61の移動平均ステップと、S62の充電番号初期設定ステップと、S63のセル番号初期設定ステップと、S64の現時点での電池パックエネルギー容量計算ステップと、S65のバランシング解消後エネルギー容量計算ステップと、S66のセルループ終了ステップと、S67のセル番号アップステップと、を含む。
【0081】
まず、ステップS61において、SOCデータ群108に蓄積されているQmax(j,k)をkに対して移動平均値を算出する。この際、下記式(13)及び(14)は、“SOCの分散×データ数”の比とした。“SOCの分散×データ数”の比とした理由は、SOC変化幅の小さなデータ又は数の少ないデータは、誤差が大きくなるため、この誤差の大きなデータの重みwkを小さくするためである。また、ステップS61は、省略してもよい。
【0082】
【0083】
【0084】
ステップS61においては、Pj(k),Qj(k)及びSOCu(j)についても、上記式(13)及び(14)と同様の方法により移動平均値を算出する。
【0085】
次に、ステップS62において、充電番号kを1にセットし、ステップS63において、Pj(k)及びQj(k)から、25℃、SOC50%における各セルの現時点の充電抵抗が、25℃、SOC50%の標準充電抵抗に対して何倍になっているかという倍率を求める。この倍率は、放電抵抗の倍率と同じものとみなし、放電時の電池パックのエネルギー容量を求める際に用いる。
【0086】
これは、25℃での標準抵抗テーブルRf(SOC)を用い、Pj(k)+Qj(k)/Rf(SOC50%)として求めることができる。SOC50%としているが、必ずしもSOC50%である必要はなく、放電抵抗と充電抵抗とが一致しているようなSOCの値ならどの値でもよい。
【0087】
次に、ステップS64で現行の電池パックエネルギー容量を計算する。これは各セルが温度Temp、一定放電Idで放電した場合に、セルjが最低電圧Vmに到達した時のSOC(以下SOCe(j)と記載する。)を求める。なお、SOCeは、SOCuから求めることができる。具体的には、各セルを放電する際には、SOCu(j,k)-100Q/Q(j,k)として各セルのSOCが求められる。ここで、Qは、電池パックの放電Ah容量である。そして、各セルの電圧は、OCV(セルjのSOC)-I×放電抵抗(温度,セルjのSOC)のため、これがVmとなる方程式を解けばよい。この場合における放電抵抗は、25℃の標準抵抗テーブルに前述した充電抵抗の倍率をかけたものである。
【0088】
そして、SOCe(j)からSOCu(j)までの間のセル電圧を積分したものに、Qmax(j,k)をかけたものの総和とする。
【0089】
ここで、この電池パック充電電荷の計算について説明する。
【0090】
図7Aは、電池パックにアンバランス状態が生じている状態における各セルの電圧を示すグラフである。横軸に電池パック全体の放電量、縦軸に各セルの電圧を示している。
【0091】
本図においては、各セルj(j=1,…,N)の曲線SOCe(j)が示されている。通常、曲線SOCe(j)は、それぞれの曲線の左端及び右端が一致していない。これがアンバランス状態である。
【0092】
本図に示すように、各セルのアンバランス状態が生じているため、電池パックが満充電になったときには、各セルのSOCuは同じでなく、ばらばらの値である。そして、電池パックが空になった時の各セルのSOCはSOCeとなる。このため、各セルの電圧をSOCeからSOCuまでの間の積分値(本図において灰色に塗りつぶした部分)が各セルのエネルギー容量となる。電池パック全体のエネルギー容量は、各セルのエネルギー容量の総和として計算される。
【0093】
図6のステップS65においては、アンバランス解消後のエネルギー容量を計算する。これは、アンバランス状態を解消したとしたときに(SOC
u(j)100%)、電池パックエネルギー容量を同様に計算したものである。
【0094】
図7Bは、電池パックのアンバランス状態を解消した後の状態における各セルの電圧を示すグラフである。
【0095】
本図に示すように、アンバランス状態を解消すると、各セルの電圧をSOCeからSOCuまでの間の積分値が増加するため、電池パック全体として使用可能なエネルギー容量が増えることになる。
【0096】
図6のステップS66においては、最新の充電になっているかを判定し、なっていない場合は、ステップS67において充電番号を一つ増やし、ステップS63に処理を移す。最新の充電番号になったとき、処理を終了する。
【0097】
図8は、
図1の電池パックのエネルギー容量診断/再計算手段111における処理の一例を示すフロー図である。
【0098】
S81では計算されたエネルギー容量(Wh容量)と総走行距離の関係を確認し、計算されたエネルギー容量に異常がないか確認するプロセスである。S82において、S81の結果において、全体の傾向から逸脱した結果の有無を確認する。逸脱した結果がない場合は終了する。逸脱した結果がある場合は、S83において、電池パックのエネルギー容量と入力データと関係を検討し、特定の温度、特定の電流における異常の有無を確認し、特定した異常の原因となるデータを削除する。S84において、異常データを削除して、正常なデータのみで電池パックのエネルギー容量を再計算する。
【0099】
図9は、
図8のS82において電池パックのエネルギー容量の値を診断する際に用いるグラフの一例である。横軸にEVの総走行距離、縦軸に電池パックのエネルギー容量をとっている。○印が正常値、△印が異常値を表している。
【0100】
算出された電池パックのエネルギー容量の値を診断する方法の一例としては、
図9に示すグラフにおいて実線の曲線で示すように、特定の範囲における総走行距離とエネルギー容量との関係を示す近似曲線(全てのデータを用いて得られたもの)を引く。ここで特定の範囲とは、期間(現時点より1年前までの範囲)、総走行距離(現距離より1万km前までの範囲)などを指定することができる。ある走行距離において計算された電池のエネルギー容量が、近似曲線上のエネルギー容量に対し、あらかじめ設定した許容差異(δ)以上に離れている場合、計算結果を異常と見なす。続いて、検出された異常値を除いて再計算した結果を出力する。
【0101】
なお、総走行距離とエネルギー容量との関係を用いて算出されたエネルギー容量を診断する方法は、エネルギー容量の異常値の有無を、電池パックのエネルギー容量の時系列データを用いて診断する方法に含まれる。
【0102】
図10Aは、
図9のように分類された異常値および正常値と、診断時の電池パック温度条件でプロットしたグラフの一例である。横軸に電池パックの温度、縦軸に電池パックのエネルギー容量を示している。○印が正常値、△印が異常値を表している。
図10Aにおいて、特定の温度領域以下に異常値が偏って存在する場合に、異常値の出現確率があらかじめ規定した確率閾値(α)以上で起こる温度領域を、診断異常が起こる条件として、本温度領域のデータより診断した結果を全て異常と見なす。続いて、検出された異常値を除いて再計算した結果を出力する。
【0103】
図10Bは、
図9のように分類された異常値および正常値と、診断時の電流条件でプロットしたグラフの一例である。横軸に診断時の電流、縦軸に電池パックのエネルギー容量を示している。○印が正常値、△印が異常値を表している。
図10Bにおいて、特定の電流領域以下に異常値が偏って存在する場合に、異常値の出現確率があらかじめ規定した確率閾値(β)以上で起こる電流領域を、診断異常が起こる条件として、本電流領域のデータより診断した結果を全て異常と見なす。続いて、検出された異常値を除いて再計算した結果を出力する。
【0104】
以下、本開示の望ましい実施形態についてまとめて説明する。
【0105】
電池パックの診断方法においては、電池パックの異常は、電池パックのエネルギー容量の異常値の有無を、電池パックのエネルギー容量の時系列データを用いて診断する。
【0106】
電池パックの診断方法は、電池パックのエネルギー容量の経時変化とそれぞれのセルの電圧のデータとの関係を比較する工程と、診断された電池パックのエネルギー容量の異常値に基いて、電圧センサの異常を検知する工程と、を更に含む。
【0107】
電池パックの診断方法は、電池パックのエネルギー容量の経時変化と電流のデータとの関係を比較する工程と、診断された電池パックのエネルギー容量の異常値に基いて、電流センサの異常を検知する工程と、を更に含む。
【0108】
電池パックの診断方法は、電池パックのエネルギー容量の経時変化と温度のデータとの関係を比較する工程と、診断された電池パックのエネルギー容量の異常値に基いて、温度センサの異常を検知する工程と、を更に含む。
【0109】
電池パックは、車両に設置されたものであり、電池パックの異常は、電池パックのエネルギー容量と車両の総走行距離との関係式に基いて診断される。
【0110】
電池パックの診断方法は、異常の有無についての診断結果を電池パックの使用者に通知する工程を更に含む。
【0111】
電池パックの診断装置は、複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を含む検出データを得、セルについてのSOCの関数であるOCV及び抵抗の関数データを得、関数データ及び検出データを用いて、それぞれのセルの抵抗テーブルを作成し、電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を用いて、それぞれのセルのSOCを算出し、それぞれのセルの電荷容量、抵抗及びSOCの差異を算出し、電荷容量、SOCの差異及び抵抗を用いて、電池パックのエネルギー容量を算出し、電池パックの異常を診断し、異常と診断されたデータを除去し、電池パックのエネルギー容量を再度算出する。
【0112】
電池パックの診断装置においては、電池パックは、診断装置の外部に設置され、電池パックと診断装置とが相互に通信可能に接続されている。この場合に、通信手段は、有線でも、無線でもよく、インターネット等を用いてもよい。
【0113】
以下、本開示から得られる効果についてまとめて説明する。
【0114】
EVに設置したセンサを用いて、電池の電圧、電流及び温度のデータを検出し、別途作成したアルゴリズムおよびテーブルを用いることで、電池パックのエネルギー容量を計算することができる。さらに、計算した電池パックのエネルギー容量の時系列データを診断することで、入力データの異常の有無を診断し、異常があった場合に関しては、異常データを除いて再計算することで、電池パックのエネルギー容量を高精度に算出できる。
【符号の説明】
【0115】
100:サーバー、101:電気自動車、102:通信デバイス、103:記憶装置、104:テーブル設定手段、105:電池テーブル、106:電池パックのエネルギー計算手段、107:SOC計算手段、108:SOCデータ群、109:電池パックのエネルギー容量計算手段、110:電池パックのエネルギー容量/電圧/電流/温度のデータ群、111:エネルギー容量診断/再計算手段、112:電池パックのエネルギー容量のデータ群、201:セル、202:温度センサ、203:セル群、204:電流計、205:バッテリーマネジメントユニット、206:ネットワーク、401:OCVテーブル、402:セル充電抵抗テーブル、403:セル放電抵抗テーブル、S51:充電中データ抽出ステップ、S52:充電番号初期設定ステップ、S53:セル番号初期設定ステップ、S54:SOC求解ステップ、S56:セルループ終了判定ステップ、S57:セル番号アップステップ、S58:充電番号終了判定ステップ、S59:充電番号アップステップ、S61:移動平均ステップ、S62:充電番号初期設定ステップ、S63:セル番号初期設定ステップ、S64:現電池パックエネルギー容量計算ステップ、S65:バランシング解消後エネルギー容量計算ステップ、S66:セルループ終了ステップ、S67:セル番号アップステップ、S81: エネルギー容量と走行距離の関係確認ステップ、S82:異常診断結果の有無判定ステップ、S83:異常データ削除ステップ、S84:電池パックエネルギー容量を再計算ステップ。