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特開2024-126933ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126933
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20240912BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035706
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】永井 光騎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB05
4J029AC01
4J029AD10
4J029AE01
4J029BA05
4J029CB06A
4J029EG05
4J029HA01
4J029HA02
4J029HB01
4J029HB02
4J029JB131
4J029JF321
4J029KA02
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】耐加水分解性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンを含み、前記γ-ブチロラクトンは、前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して20~1000質量ppmである1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、前記1,4-ブタンジオール及び前記テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る工程と、前記原料混合物を用いて前記原料モノマーの重縮合を行う工程とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンを含み、前記γ-ブチロラクトンは、前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して20~1000質量ppmである1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、前記1,4-ブタンジオール及び前記テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を用いて前記原料モノマーの重縮合を行う工程とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法であって、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度が、2.7mmol/(kg・分)以下である、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【請求項2】
1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンを含み、前記γ-ブチロラクトンは、前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して100質量ppm超1000質量ppm以下である1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、前記1,4-ブタンジオール及び前記テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を用いて前記原料モノマーの重縮合を行う工程とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記1,4-ブタンジオールがバイオマス由来である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量が、前記1,4-ブタンジオール組成物全量に対して、95質量%以上である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械特性、電気特性、その他物理的特性、化学的特性に優れ、かつ、加工性が良好なため、エンジニアリングプラスチックとして自動車用部品、電気電子機器用部品等の様々な分野に幅広く使用されている。
一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂は分子中にエステル基を有しているため、高温多湿な環境下では加水分解が起こりやすく、耐加水分解性の向上が望まれている。
【0003】
ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させるに当たり、末端カルボキシル基量を低減するために、ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物に、エポキシ樹脂又はカルボジイミド化合物を添加することが一般的に知られている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/150831号
【特許文献2】特開2004-277718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、耐加水分解性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の例を以下に列挙する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
<1>1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンを含み、前記γ-ブチロラクトンは、前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して20~1000質量ppmである1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、前記1,4-ブタンジオール及び前記テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を用いて前記原料モノマーの重縮合を行う工程とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法であって、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度が、2.7mmol/(kg・分)以下である、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
<2>1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンを含み、前記γ-ブチロラクトンは、前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して100質量ppm超1000質量ppm以下である1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、前記1,4-ブタンジオール及び前記テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を用いて前記原料モノマーの重縮合を行う工程とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
<3>前記1,4-ブタンジオールがバイオマス由来である、前記<1>又は<2>に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
<4>前記1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量が、前記1,4-ブタンジオール組成物全量に対して、95質量%以上である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、耐加水分解性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明が下記の実施形態に限定されることはない。
【0009】
一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂という場合もある。)の製造方法は、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンを含む1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、前記1,4-ブタンジオール及び前記テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る工程(以下、「工程1」という場合もある)と、原料混合物を用いて原料モノマーの重縮合を行う工程(以下、「工程2」という場合もある。)とを含む。
【0010】
1,4-ブタンジオールは、石油化学由来のもの、バイオマス由来のもの等があるが、その製造の過程で、副生成物としてγ-ブチロラクトンが生成することが知られている。γ-ブチロラクトンは、石油化学由来の1,4-ブタンジオールに比べ、バイオマス由来の1,4-ブタンジオールにおいて、その生成及び混入量がより多い傾向がある。本発明者らの検討により、原料として用いられる1,4-ブタンジオールに微量に含まれるγ-ブチロラクトンが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量と、重縮合速度に影響を与えることが判明した。
【0011】
実施形態において、1,4-ブタンジオール及び微量のγ-ブチロラクトンを含む1,4-ブタンジオール組成物を用いる。1,4-ブタンジオール組成物において、耐加水分解性の向上の観点から、γ-ブチロラクトンの含有量は、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して20~1000質量ppmである。
【0012】
耐加水分解性の向上の観点から、1,4-ブタンジオール組成物において、γ-ブチロラクトンの含有量は、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して20質量ppm以上であることが好ましく、80質量ppm以上であることがさらに好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましく、120質量ppm以上であることがさらに好ましく、200質量ppm以上であることが特に好ましい。1,4-ブタンジオール組成物において、γ-ブチロラクトンの含有量は、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して、例えば、100質量ppm超であってよい。
耐加水分解性の向上の観点から、1,4-ブタンジオール組成物において、γ-ブチロラクトンは、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して、1000質量ppm以下であることが好ましく、700質量ppm以下であることがより好ましく、600質量ppm以下であることがさらに好ましく、500質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の重合において、重縮合速度の観点から、γ-ブチロラクトンの量は、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して20質量ppm以上であることが好ましく、80質量ppm以上であることがさらに好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましく、120質量ppm以上であることがさらに好ましく、200質量ppm以上であることが特に好ましい。γ-ブチロラクトンの量が、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して上記範囲内にあるとき、重縮合速度を向上する効果が得られやすい。重縮合速度が向上すると、重合時間を短縮し、製造時間を短縮することができる。また、重合遅延によるポリブチレンテレフタレートの着色を低減することができる。
【0014】
1,4-ブタンジオール組成物において、γ-ブチロラクトンは、例えば、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して、100質量ppm超1000質量ppm以下、80質量ppm以上700ppm以下、100質量ppm以上600質量ppm以下、120質量ppm以上600質量ppm以下、又は200質量ppm以上500質量ppm以下であってよい。例えば、γ-ブチロラクトンは、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対して100質量ppm超1000質量ppm以下であってもよい。
【0015】
1,4-ブタンジオール組成物において、1,4-ブタンジオールとγ-ブチロラクトンとの合計量は、1,4-ブタンジオール組成物全量に対して、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がよりこのましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0016】
工程1では、1,4-ブタンジオール及び微量のγ-ブチロラクトンを含む1,4-ブタンジオール組成物と、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとを混合して、1,4-ブタンジオール及びテレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含む原料モノマーを含む原料混合物を得る。工程1では、1,4-ブタンジオール組成物、及びテレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとともに、後述するように、その他のモノマー、触媒等を混合してもよい。
【0017】
1,4-ブタンジオールとしては、石油化学由来のもの、バイオマス由来のもの、又はこれらの組合せを用いることができる。例えば、バイオマス由来の1,4-ブタンジオールを用いてよい。
【0018】
テレフタル酸アルキルエステルとしては、例えば、テレフタル酸のC1-6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、テレフタル酸ジメチル等が挙げられる。
【0019】
原料モノマー中、1,4-ブタンジオールと、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとは、例えば、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステル1モルに対して、1,4-ブタンジオールが1.2~2.5モル(テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステル:1,4-ブタンジオールのモル比として1:1.2~1:2.5)となる量であることが好ましく、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステル1モルに対して、1,4-ブタンジオールが1.3~1.8モル(テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステル:1,4-ブタンジオールのモル比として1:1.3~1:1.8)となる量で用いることがより好ましい。
【0020】
工程1で得られる原料混合物に含まれる原料モノマーは、テレフタル酸又はテレフタル酸エステルを含むジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールを含むグリコール成分とを含む。原料モノマーは、テレフタル酸、テレフタル酸エステル、1,4-ブタンジオール以外のモノマーを含んでよい。工程1では、これらその他のモノマーを、1,4-ブタンジオール組成物と、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルとともに混合してもよい。
工程1で得られる原料混合物において、例えば、原料モノマー全量に対して、テレフタル酸又はテレフタル酸エステルと1,4-ブタンジオールとの合計は、60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)であってもよい。
【0021】
1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0022】
1,4-ブタンジオールは、原料モノマー中の全グリコール成分に対して75モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
テレフタル酸及びテレフタル酸アルキルエステル以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0024】
テレフタル酸及びテレフタル酸アルキルエステルは、原料モノマー中の全ジカルボン酸成分に対して75モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造において、ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他のコモノマー成分をさらに用いてもよい。
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0026】
原料混合物は、後述する触媒等の他の成分を含んでよい。例えば、工程1で、上記したモノマーとともに、触媒等の他の成分を混合してもよい。
【0027】
原料混合物を用いて原料モノマーを重縮合させる工程(工程2)について説明する。重縮合には、1,4-ブタンジオールとテレフタル酸とを反応させるエステル化反応を用いた直接エステル化法、1,4-ブタンジオールとテレフタル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を用いたエステル交換法のいずれを用いてもよい。
【0028】
エステル化反応は、原料混合物を常圧又は加圧下で、例えば、200~240℃の温度で加熱し、副生成物として連続的に生成する水を除去しながら行うことができる。この時、チタン化合物等の後述する触媒を存在さることが好ましい。
【0029】
エステル交換反応は、例えば、原料混合物を、常圧下、150~220℃の温度で加熱し、副生成物として連続的に生成するアルコール又は水を除去しながら行うことができる。実用的な反応速度を得るには触媒を用いることが好ましい。
【0030】
直接エステル化反応及びエステル交換反応で用いる触媒としては、例えば、チタン化合物、アンチモン化合物、スズ化合物、鉛化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物などが挙げられる。特に有機チタネート、有機スズ化合物、四塩化チタン加水分解物、加アルコール分解物が好適である。特に好適なものの例としては、チタン化合物及びスズ化合物等が挙げられる。例えば、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラメチルチタネート等の有機チタネートおよびその加水分解物、四塩化チタンおよび硫酸チタンの加水分解物、チタン弗化カリ、チタン弗化亜鉛、チタン弗化コバルト等の無機チタン化合物、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリ、テトラエチルスズ、ジブチルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、ジブチルスズジクロライド、シュウ酸第1スズ等が挙げられる。触媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0031】
触媒の使用量は、原料モノマー全量に対し、例えば、20~2000ppm、好ましくは50~800ppm、より好ましくは100~400ppmであってよい。触媒は、必要に応じて、反応中、複数回に分けて添加することもできる。
【0032】
上記のようにして直接エステル化反応又はエステル交換反応を用いて得られた生成物を、さらに、減圧下で重縮合させることが好ましい。例えば、減圧下200~260℃で、1,4-ブタンジオール等の過剰なモノマー及び副生成物を連続的に除去しながら所望の重合度が得られるまで重縮合を行ってもよい。この減圧下での重縮合時の圧力は、例えば20kPa以下、又は1kPa以下、又は0.1kPa以下であってよい。減圧下での重縮合時に実用的な反応速度を得るために触媒を用いることが好ましい。触媒としては、上記に例示したものが使用可能である。例えば、常温下又は加圧下で直接エステル化反応又はエステル交換反応を行う際に使用された触媒をそのまま使用してよい。または、重縮合反応の速度を向上させるため、減圧下での重縮合反応開始前にさらにそれらの1種又は2種以上を追加してもよい。
【0033】
上記した方法では、重縮合速度を向上させることができる。重縮合速度の向上により、反応時間を短縮でき、製造時間を短縮できる。
減圧下での重縮合を含む方法で、減圧開始時点を重合開始時点とし、重合開始時点から、モーターのトルクが9kgf・cmに達した時点までの時間を重合時間とし、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度を重合時間で除した値を重縮合速度とする場合、工程2において、重縮合速度は、0.44dL/(g・hr)を超えることが好ましく、0.45dL/(g・hr)以上であることがさらに好ましい。重縮合速度は、例えば、0.60dL/(g・hr)以下であってよい。重縮合速度は、例えば、0.44dL(g・hr)超0.60dL/(g・hr)以下、0.45~0.60dL/(g・hr)、0.45~0.58dL/(g・hr)、又は0.45~0.55dL/(g・hr)であってよい。重縮合速度が0.60dL/(g/hr)以下の場合、分子量分布に偏りが生じにくく、均一なポリブチレンテレフタレート樹脂が得られやすい傾向がある。
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、後述するように、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0034】
一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法によって、少なくとも、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルを含むジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールを含むグリコール成分とが重縮合したポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることができる。得られたPBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、例えば、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(例えば、75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0035】
上記のようにして得られたポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、25meq/kg以下が好ましく、15meq/kg以下がより好ましく、10meq/kgが更に好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基は加水分解の自己触媒として作用するため、末端カルボキシル基量は少ない方が好ましい。
【0036】
耐加水分解性の観点から、上記のようにして得られたポリブチレンテレフタレート樹脂において、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度(以下、「加熱による末端カルボキシル基量の増加速度a」という場合もある。)は、2.7mmol/(kg・分)以下であることが好ましい。加熱による末端カルボキシル基量の増加速度aは、下記のようにして求めた値である。ポリブチレンテレフタレート樹脂を、窒素雰囲気下260℃で加熱し、加熱前、窒素雰囲気下260℃で1分間加熱後、及び、窒素雰囲気下260℃で5分間加熱後の末端カルボキシル基量を測定する。得られた末端カルボキシル基量から、横軸を加熱時間(単位:分)、縦軸を末端カルボキシル基量(単位:mmol/kg)として、最小二乗法で近似直線式y=ax+bをもとめ、その近似直線式の傾き(a)を、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度(加熱による末端カルボキシル基量の増加速度a)とする。
【0037】
加熱による末端カルボキシル基量の増加速度aの値が小さいほど、加熱によるカルボキシル基量の増加傾向が小さく、耐加水分解性に優れる傾向がある。ポリブチレンテレフタレート樹脂の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度aは、2.7mmol/(kg・分)以下が好ましく、2.5mmol/(kg・分)以下がより好ましく、2.3mmol/(kg・分)以下がさらに好ましく、2.1mmol/(kg・分)以下がさらに好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の加熱による末端カルボキシル基の増加速度aは、例えば、1.00mmol/(kg・分)以上であってよい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の加熱による末端カルボキシル基の増加速度aは、例えば、1.00~2.5mmol/(kg・分)、1.00~2.3mmol/(kg・分)、又は1.00~2.1mmol/(kg・分)であってよい。
【0038】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の加熱による末端カルボキシル基の増加速度aは、例えば、原料として用いる1,4-ブタンジオールとともに混入するγ-ブチロラクトンの量の調整のほか、重縮合時にカルボン酸金属塩等を添加することにより調整することができる。カルボン酸金属塩としては、例えば酢酸やプロピオン酸、酪酸等のアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0039】
上記した方法により得られるポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、0.6~1.3dL/gであることが好ましく、0.7~1.2dL/gであることがより好ましい。加水分解の機械特性への影響を低減する観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.6dL/g以上であることが好ましい。射出成形用途に適した流動性の得やすさの観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、1.3dL/g以下であることが好ましい。また、上記した方法により得られるポリブチレンテレフタレート樹脂を混合して所望の固有粘度としてもよい。例えば、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0040】
実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法で得られた樹脂に、必要に応じて、難燃剤、エラストマー、充填剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、結晶核剤、着色剤等の1種又は2種以上を加えてポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造してもよい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法として知られる種々の方法によって製造することができる。
【0041】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の好適な製造方法としては、例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出しペレットとする方法が挙げられる。
【0042】
上述のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形品を得ることもできる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練して押出してペレット化し、このペレットを、所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【実施例0043】
以下に、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造]
各実施例及び比較例において、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造に用いた1,4-ブタンジオール組成物(A-1~A-4)の詳細を下記に示す。下記及び表1および表2において「γ-ブチロラクトン量」は、1,4-ブタンジオール組成物A-1~A-4のそれぞれにおいて、1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対するγ-ブチロラクトンの量である。
【0045】
A-1 三菱ケミカル株式会社製1,4-ブタンジオール(γ-ブチロラクトン量10質量ppm)
A-2 バイオマス由来1,4-ブタンジオール(γ-ブチロラクトン量460質量ppm)
A-3 バイオマス由来1,4-ブタンジオール(γ-ブチロラクトン量5630質量ppm)
A-4 1,4-ブタンジオールA-1(三菱ケミカル株式会社製)にγ-ブチロラクトンを加え、γ-ブチロラクトン量が10000質量ppmになるように調整した1,4-ブタンジオール(γ-ブチロラクトン量10000質量ppm)
【0046】
攪拌器、窒素導入口及び分離塔を持つ反応器を窒素でパージし、テレフタル酸ジメチル100質量部、表2に記載の1,4-ブタンジオール70質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネート0.06質量部を加え、100rpmで懸濁分散させながら、常温から140℃まで30分かけて加熱により昇温させた。その後、140℃から210℃まで90分間かけて加熱により昇温させ、エステル交換反応を行い、発生するメタノールを留出除去した。
次に反応器内を減圧すると共に温度を250℃まで上げ、過剰の1,4-ブタンジオール等を留出させながら重縮合を行った。この重縮合中は、インバーターモーターを用いて100rpmで攪拌し、モーターのトルクが9kgf・cmに達した時に反応を停止し、得られた溶融物を反応器からストランドとして押出し、冷却し、カッティングし、2×3mmの大きさの円筒形顆粒のペレットとした。
【0047】
上述した操作において、減圧開始時点を重合開始時点とし、モーターのトルクが9kgf・cmに達した時点を重合終了時点として、重合開始時点から重合終了時点までの時間を重合時間とした。表1中に実施例及び比較例の重合時間を示す。また、重合終了時点から、反応器内に樹脂が存在する時間を排出時間とした。また、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットをウベローデ型粘度計とo-クロロフェノールを用いて35℃の溶液粘度を測定し、固有粘度(dl/g)を求めた。得られた固有粘度を重合時間で除し重縮合速度(dL/(g・hr))をそれぞれ算出した。
【0048】
[末端カルボキシル基量の測定]
下記の評価における末端カルボキシル基の測定は、以下のようにして行った。
ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを少量のHFIP(ヘキサフルオロ-2-プロパノール)に溶かし、重クロロホルムを重溶媒、ジエチルアミンをシフト剤として用い、NMR測定を行い、末端カルボキシル基量を算出した。
【0049】
[排出時間による末端カルボキシル基量及びその傾き]
表1に記載の排出時間で排出されたポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを用い、上記の末端カルボキシル基量の測定方法にしたがって、末端カルボキシル基量をもとめた。
得られた各排出時間の末端カルボキシル基量から、横軸(x)を排出時間(単位:分)、縦軸(y)を末端カルボキシル基量(単位:mmol/kg)として、最小二乗法で近似直線式y=cx+dをもとめ、その近似直線式の傾き(c)を、「排出時間による末端カルボキシル基量の傾き」とした。
重合終了時点から反応器内に樹脂が存在する時間である排出時間が長いと、樹脂が反応器内に滞留中に分解が進み、末端カルボキシル基量が増加する傾向がある。そのため、耐加水分解性の指標の一つとして、排出時間による末端カルボキシル基量の傾きを評価した。
【0050】
表1に、実施例及び比較例について、排出時間、各排出時間の末端カルボキシル基量、最小二乗法でもとめられた近似直線式、及び排出時間による末端カルボキシル基量の傾きを示す。また、最小二乗法でもとめられた近似直線式によって算出された排出時間4分における末端カルボキシル基量も表1に記載した。また、実施例及び比較例の重合時間も記載した。
【0051】
[加熱による末端カルボキシル基量及びその増加速度]
排出時間0の実施例1及び比較例1のポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを、窒素雰囲気下260℃で1分間又は5分間加熱し、加熱前、窒素雰囲気下260℃で1分間加熱後、及び、窒素雰囲気下260℃で加熱5分間加熱後の末端カルボキシル基量を、上記の末端カルボキシル基量の測定方法にしたがって算出した。
得られた末端カルボキシル基量から、横軸(x)を加熱時間(単位:分)、縦軸(y)を末端カルボキシル基量(単位:mmol/kg)として、最小二乗法で近似直線式y=ax+bをもとめ、その近似直線式の傾き(a)を、素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度とした。
【0052】
表2に、加熱前、窒素雰囲気下260℃で1分間加熱後、窒素雰囲気下260℃で5分間加熱後の末端カルボキシル基量、最小二乗法でもとめられた近似直線式、及び、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
1,4-ブタンジオール及びγ-ブチロラクトンの合計量に対するγ-ブチロラクトンの量(γ-ブチロラクトン量)が460質量ppmの1,4-ブタンジオール組成物A-2が用いられた実施例1では、排出時間による末端カルボキシル基量の傾きが0.33であった。一方、γ-ブチロラクトン量が10質量ppm、5630質量ppm、10000質量ppmの1,4-ブタンジオール組成物A-1、A-3、A-4が用いられた比較例1、2、3では、それぞれ排出時間による末端カルボキシル基量の傾きが0.58、1.31、1.09であった。このように、γ-ブチロラクトン量が460質量ppmの1,4-ブタンジオールA-2が用いられた実施例1では、比較例に比べ、末端カルボキシル基量の排出時間による傾き(増加率)が小さかった。
また、加熱による末端カルボキシル基量の増加速度の評価において、実施例1では、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度が2.02mmol/(kg・分)であり、これに対して、比較例1では、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度が2.78mmol/(kg・分)であった。このように、実施例1は、比較例1に対して、窒素雰囲気下260℃の加熱による末端カルボキシル基量の増加速度(傾き)が小さかった。
このように、実施例1で製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂は、比較例で製造されたものに比べて耐加水分解性に優れることがわかる。
また、実施例1では、比較例に比べ、重縮合速度も向上していた。