(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126978
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】金属有機構造体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20240912BHJP
C01G 3/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B01J20/22 A
C01G3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035785
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 悠太
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AB07B
4G066AB24B
4G066BA31
4G066BA38
4G066CA23
4G066CA24
4G066CA27
4G066CA29
4G066CA35
4G066CA37
4G066CA38
4G066CA39
4G066CA43
4G066CA51
4G066CA56
4G066DA01
(57)【要約】
【課題】吸着した物質の脱離性能に優れた金属有機構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、有機配位子と金属イオンで構成される金属有機構造体であって、
X線回折測定で得られる2θ=3~40°の範囲の回折スペクトルのうち、最もピーク強度の大きいピークの半値幅が0.05~0.225°であり、下記測定方法で算出されるガラス付着率が0~20質量%である金属有機構造体である。
[ガラス付着率の測定]
垂直に立てた直径6mm、長さ200mmのガラス管の上端から、金属有機構造体の試料100mgを投入した際、投入した試料に対するガラス管内部に付着した試料の質量割合をガラス付着率とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機配位子と金属イオンで構成される金属有機構造体であって、
X線回折測定で得られる2θ=3~40°の範囲の回折スペクトルのうち、最もピーク強度の大きいピークの半値幅が0.05~0.225°であり、下記測定方法で算出されるガラス付着率が0~20質量%である金属有機構造体。
[ガラス付着率の測定]
垂直に立てた直径6mm、長さ200mmのガラス管の上端から、金属有機構造体の試料100mgを投入した際、投入した試料に対するガラス管内部に付着した試料の質量割合をガラス付着率とする。
【請求項2】
前記有機配位子は、シュウ酸イオン(COO-)2及びR(COO-)n(Rはn価の基であり、nは2以上の整数)で表されるカルボキシレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の金属有機構造体。
【請求項3】
前記金属イオンが、周期表第3~6周期、かつ第2~14族の元素から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む請求項1または2に記載の金属有機構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(Metal Organic Frameworks)は、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer)とも呼ばれ、金属イオンと有機配位子との配位結合により多孔性の構造を形成する材料の一つであり、ガスを吸脱着したり、触媒等への応用が期待されている材料である。
【0003】
例えば特許文献1では、金属塩と多座有機配位子を含む固体の混合物を供給し、前記混合物を金属有機構造体の粉末状前駆体を生成するのに十分な時間、混練または粉砕し、更に前記粉末状前駆体が金属有機構造体に変換されるのに十分な時間と温度で前記粉末状前駆体を加熱して得られた金属有機構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属有機構造体は、水、二酸化炭素、水素等の物質を吸着した後、所定温度に加熱して吸着した物質をMOFから脱離させて再生して使用することができるが、このとき吸着した物質を効率良く脱離できることが望まれる。
【0006】
上記した特許文献1には、得られた金属有機構造体の粉末形態や、前駆体との結晶性の相違については記載されるものの、吸着した物質の脱離特性については何ら検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は吸着した物質の脱離性能に優れた金属有機構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成した本発明は、以下の通りである。
[1]有機配位子と金属イオンで構成される金属有機構造体であって、
X線回折測定で得られる2θ=3~40°の範囲の回折スペクトルのうち、最もピーク強度の大きいピークの半値幅が0.05~0.225°であり、下記測定方法で算出されるガラス付着率が0~20質量%である金属有機構造体。
[ガラス付着率の測定]
垂直に立てた直径6mm、長さ200mmのガラス管の上端から、金属有機構造体の試料100mgを投入した際、投入した試料に対するガラス管内部に付着した試料の質量割合をガラス付着率とする。
[2]前記有機配位子は、シュウ酸イオン(COO-)2及びR(COO-)n(Rはn価の基であり、nは2以上の整数)で表されるカルボキシレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]に記載の金属有機構造体。
[3]前記金属イオンが、周期表第3~6周期、かつ第2~14族の元素から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む[1]または[2]に記載の金属有機構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、X線回折測定で得られる最もピーク強度の大きいピークの半値幅と、所定の測定方法で算出されるガラス付着率を適切に調整しているため、吸着した物質を効率よく脱離できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)金属有機構造体
本発明の金属有機構造体は、有機配位子と金属イオンで構成される金属有機構造体であって、X線回折測定で得られる2θ=3~40°の範囲の回折スペクトルのうち、最もピーク強度の大きいピークの半値幅が0.05~0.225°であり、下記測定方法で算出されるガラス付着率が0~20質量%である。
[ガラス付着率の測定]
垂直に立てた直径6mm、長さ200mmのガラス管の上端から、金属有機構造体の試料100mgを投入した際、投入した試料に対するガラス管内部に付着した試料の質量割合をガラス付着率とする。
【0011】
(1-1)有機配位子
有機配位子において、金属イオンに配位可能な官能基Xとしては、COOH、無水カルボン酸基、-OH、-OR11、-NH2、-NHR11、-N(R11)2、-CN、ハロゲノ基、-C(=S)SH、-C(=O)SH及びその互変異性体、-SO3H、-S-S-などが挙げられる(前記R11はいずれも炭素数1または2のアルキル基を表す。)。有機配位子は、多座配位子であることや、官能基XとしてCOOHを含むことが好ましい。より具体的には、シュウ酸イオン(COO-)2及びR(COO-)n(Rはn価の基であり、nは2以上の整数)で表されるカルボキシレート(カルボキシラト)よりなる群L1から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
前記Rは脂肪族鎖状炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、脂肪族ヘテロ環状炭化水素基(脂肪族環状炭化水素基の炭素原子の一個又は二個以上がヘテロ原子に置き換わった基)、芳香族炭化水素基、芳香族複素環炭化水素基(芳香族炭化水素基の炭素原子の一個又は二個以上がヘテロ原子に置き換わった基)であることが好ましい。脂肪族鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいし、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。脂肪族ヘテロ環状炭化水素基または芳香族複素環炭化水素基におけるヘテロ原子は窒素であることが好ましい。
nは2以上、4以下が好ましく、2以上、3以下がより好ましく、3であることが最も好ましい。
【0013】
上記した脂肪族鎖状炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、脂肪族ヘテロ環状炭化水素基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環炭化水素基は、更に無水カルボン酸基、-OH、-OR12、-NH2、-NHR12、-N(R12)2、-CN、ハロゲノ基、-C(=S)SH、-C(=O)SH及びその互変異性体、-SO3H、-S-S-よりなる群から選択される1種以上である官能基Yを含んでいてもよい。前記R12はいずれも炭素数1または2のアルキル基を表す。
【0014】
また芳香族複素環炭化水素基は、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジンなどが挙げられる。
【0015】
前記Rは、芳香族炭化水素基であって、上記した官能基Yを有していてもよい基であることが好ましく、官能基Yを有していない芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0016】
前記Rの炭素原子の数は3以上であることが好ましく、より好ましくは6以上であり、また30以下であることが好ましく、より好ましくは24以下であり、更に好ましくは18以下であり、一層好ましくは12以下であり、最も好ましくは10以下である。
【0017】
有機配位子は、ジカルボン酸の2つのカルボキシル基(-COOH)からプロトンが2個脱離したもの又はトリカルボン酸の3つのカルボキシル基からプロトンが3個脱離したものを含むことが好ましく、トリカルボン酸の3つのカルボキシル基からプロトンが3個脱離したものを含むことがより好ましい。
【0018】
前記したジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、1,4-ブタンジカルボン酸、1,4-ブテンジカルボン酸、4-オキソピラン-2,6-ジカルボン酸、1,6-ヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、1,8-ヘプタデカンジカルボン酸、1,9-ヘプタデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、アセチレンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3-ベンゼンジカルボン酸(イソフタル酸)、2,3-ピリジンジカルボン酸、1,3-ブタジエン-1,4-ジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸)、2-アミノテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、イミダゾール-2,4-ジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2-メチルキノリン-3,4-ジカルボン酸、キノリン-2,4-ジカルボン酸、キノキサリン-2,3-ジカルボン酸、6-クロロキノキサリン-2,3-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン-3,3’-ジカルボン酸、キノリン-3,4-ジカルボン酸、7-クロロ-4-ヒドロキシキノリン-2,8-ジカルボン酸、ジイミドジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、2-メチルイミダゾール-4,5-ジカルボン酸、チオフェン-3,4-ジカルボン酸、チオフェン-2,5-ジカルボン酸、2,2’-ジチオ二安息香酸、2-イソプロピルイミダゾール-4,5-ジカルボン酸、テトラヒドロピラン-4,4-ジカルボン酸、ぺリレン-3,9-ジカルボン酸、ペリレンジカルボン酸、プルリオールE200-ジカルボン酸、3,6-ジオキサオクタンジカルボン酸、3,5-シクロヘキサジエン-1,2-ジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、ペンタン-3,3-カルボン酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ベンジジン-3,3’-ジカルボン酸、1,4-ビス(フェニルアミノ)ベンゼン-2,5-ジカルボン酸、1,1’-ビナフチルジカルボン酸、7-クロロ-8-メチルキノリン-2,3-ジカルボン酸、1-アニリノアントラキノン-2,4’-ジカルボン酸、ポリテトラヒドロフラン250-ジカルボン酸、1,4-ビス(カルボキシメチル)ピペラジン-2,3-ジカルボン酸、7-クロロキノリン-3,8-ジカルボン酸、1-(4-カルボキシ)フェニル-3-(4-クロロ)フェニルピラゾリン-4,5-ジカルボン酸、1,4,5,6,7,7-ヘキサクロロ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、1,3-ジベンジル-2-オキソイミダゾリジン-4,5-ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレン-1,8-ジカルボン酸、2-ベンゾイルベンゼン-1,3-ジカルボン酸、1,3-ジベンジル-2-オキソイミダゾリジン-4,5-cis-ジカルボン酸、2,2’-ビキノリン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-3,4-ジカルボン酸、3,6,9-トリオキサウンデカンジカルボン酸、ヒドロキシベンゾフェノンジカルボン酸、プルリオールE300-ジカルボン酸、プルリオールE400-ジカルボン酸、プルリオールE600-ジカルボン酸、ピラゾール-3,4-ジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸、5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボン酸、ビス(4-アミノフェニル)エーテルジイミド-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタンジイミド-ジカルボン酸、ビス(4-アミノフェニル)スルホンジイミド-ジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、8-メトキシ-2,3-ナフタレンジカルボン酸、8-ニトロ-2,3-ナフタレンジカルボン酸、8-スルホ-2,3-ナフタレンジカルボン酸、アントラセン-2,3-ジカルボン酸、2’,3’-ジフェニル-p-ターフェニル-4,4’’-ジカルボン酸、(ジフェニルエーテル)-4,4’-ジカルボン酸、イミダゾール-4,5-ジカルボン酸、4(1H)-オキソチオクロメン-2,8-ジカルボン酸、5-tert-ブチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸、7,8-キノリンジカルボン酸、4,5-イミダゾールジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ヘキサトリアコンタンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、1,7-ヘプタンジカルボン酸、5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、ピラジン-2,3-ジカルボン酸、フラン-2,5-ジカルボン酸、1-ノネン-6,9-ジカルボン酸、エイコセンジカルボン酸、4,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン-3,3’-ジカルボン酸、1-アミノ-4-メチル-9,10-ジオキソ-9,10-ジヒドロアントラセン-2,3-ジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸、シクロヘキセン-2,3-ジカルボン酸、2,9-ジクロロフルオルビン-4,11-ジカルボン酸、7-クロロ-3-メチルキノリン-6,8-ジカルボン酸、2,4-ジクロロベンゾフェノン-2’,5’-ジカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、2,6-ピリジンジカルボン酸、1H-ピロール-2,5-ジカルボン酸、1-メチルピロール-3,4-ジカルボン酸、1-ベンジル-1H-ピロール-3,4-ジカルボン酸、アントラキノン-1,5-ジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2-ニトロベンゼン-1,4-ジカルボン酸、ヘプタン-1,7-ジカルボン酸、シクロブタン-1,1-ジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、5,6-デヒドロノルボルナン-2,3-ジカルボン酸、5-エチル-2,3-ピリジンジカルボン酸又はカンファージカルボン酸等が挙げられる。
【0019】
トリカルボン酸としては、トリカルバリル酸、アコニット酸、トリメリット酸、トリメシン酸(1,3,5-トリカルボン酸ベンゼン)、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼンなどが挙げられ、特に1,3,5-トリカルボン酸ベンゼンが好ましい。
【0020】
前記有機配位子として、前記群L1から選択される1種以上に加えて、更に他の有機配位子を含んでいてもよく、例えば尿素、ピラジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、1,2,3-チアジアゾール、ピリダジン、ピリミジン、プリン、プテリジン、2,2’-ビピリジン、及び4,4’-ビピリジンよりなる群L2から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
(1-2)金属イオン
金属イオンは、周期表第3~6周期、かつ第2~14族の元素から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むことが好ましく、より好ましくはMg、Al、Ga、In、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、更に好ましくはCu、Al、Ti、V、Fe、Co、Ni、及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、特にCuイオンを含むことが好ましい。なお、本明細書において、金属とは、Si、Geなどの半金属も含む意味で用いる。
【0022】
前記金属イオンに対する、前記有機配位子のモル比P(有機配位子/金属イオン)は、金属イオンと有機配位子とが結合して電気的に中性となる理論モル比P0(有機配位子/金属イオン)の5倍以下、すなわちP/P0が5以下であることが好ましく、P/P0は、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、また0.8以上であることが好ましい。
【0023】
より具体的には、前記金属イオンに対する、前記有機配位子のモル比(有機配位子/金属イオン)は3未満であることが好ましく、このような範囲とすることで金属イオンと有機配位子を均一混合することができる。当該モル比は、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2以下であり、一層好ましくは1.5以下であり、また0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上であり、更に好ましくは0.3以上である。
【0024】
前記有機配位子/金属イオンのモル比を調整するためには、後述する製造方法において用いるイオン性金属化合物の金属イオンと、金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物の量比を調整すればよい。
【0025】
(1-3)半値幅
本発明の金属有機構造体をX線回折測定して得られる2θ=3~40°の範囲の回折スペクトルのうち、最もピーク強度の大きいピークの半値幅は0.05~0.225°である。半値幅が前記範囲であることで金属有機構造体の結晶性が良好である。半値幅は、0.21°以下が好ましく、より好ましくは0.20°以下であり、更に好ましくは0.17°以下である。
【0026】
(1-4)ガラス付着率
ガラス付着率は下記要領で測定される。
[ガラス付着率の測定]
垂直に立てた直径6mm、長さ200mmのガラス管の上端から、金属有機構造体の試料100mgを投入した際、投入した試料に対するガラス管内部に付着した試料の質量割合をガラス付着率とする。
【0027】
ガラス管としては、硼珪酸ガラスを用いることが好ましく、具体的には実施例で用いたアズワン株式会社製3-1594-03を200mm長さにカットして用いることができる。
【0028】
また、ガラス付着率を測定する際の温度は、15~40℃であることが好ましく、相対湿度は20%~80%であることが好ましい。
【0029】
ガラス付着率が0~20質量%であり、かつ前記した半値幅が0.05~0.225°であると、金属有機構造体が一旦吸着した物質を効率よく脱離できる。また、ガラス付着率が前記範囲であると、製造設備からの回収、運搬または保管時等の取り扱い性に優れるという効果も奏する。ガラス付着率は、15質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは7質量%以下であり、下限は特に限定されないが、1質量%であってもよい。
【0030】
(1-5)脱離性能
ガラス付着率が0~20質量%であり、かつ前記した半値幅が0.05~0.225°であると、金属有機構造体が一旦吸着した物質を効率よく脱離できるという効果を奏する。より具体的には、後述の実施例に従って測定される水の脱離量を8.5質量%以上にすることができ、より好ましくは9質量%以上であり、更に好ましくは11質量%以上であり、上限は特に限定されないが、例えば20質量%であってもよい。
【0031】
(2)金属有機構造体の製造方法
本発明の金属有機構造体は、金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物とイオン性金属化合物の混合物を押出加工することによって得られる。前記イオン性金属化合物のカウンターアニオンはOH-以外のアニオンであり、前記押出加工は、溶媒及び塩基の不存在下、60℃以上の温度で行われることが重要である。
【0032】
(2-1)金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物
金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物は、すなわち金属有機構造体において有機配位子となる有機化合物である。従って、上記(1-1)の有機配位子について説明した説明が全て参照できる。金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物は、金属有機構造体において前記群L1となる有機化合物、すなわちシュウ酸、及びR(COOH)n(Rはn価の基であり、nは2以上の整数)で表される多価カルボン酸よりなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。前記有機化合物は、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を含むことが好ましく、トリカルボン酸を含むことがより好ましい。前記R、n、ジカルボン酸及びトリカルボン酸についても、全て上記(1-1)での説明を参照できる。
【0033】
(2-2)イオン性金属化合物
イオン性金属化合物は、金属有機構造体における金属イオンとカウンターアニオンの化合物であり、前記カウンターアニオンはOH-以外のアニオンである。すなわち、本発明で用いるイオン性金属化合物は、カウンターアニオンにOH-を含んでいない。イオン性金属化合物におけるカウンターアニオンは、NO3
-、SO4
2-、CH3COO-、Cl-、Br-、及び(OR2)-(R2は有機基)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、NO3
-が特に好ましい。
【0034】
また、イオン性金属化合物中の金属イオンは上記(1-2)で説明した金属イオンと同じである。
【0035】
イオン性金属化合物は、金属が周期表第3~6周期、かつ第2~14族の元素から選ばれる少なくとも1種の金属(好ましくはCu、Al、Ti、V、Fe、Co、Ni、及びZr)を含み、かつカウンターアニオンがNO3
-、SO4
2-、CH3COO-、Cl-、Br-、及び(OR2)-(R2は有機基)よりなる群から選ばれる少なくとも1種(好ましくはNO3
-)である化合物M1を含むことがより好ましい。
【0036】
イオン性金属化合物は、化合物M1に加えて更に、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アジ化物の少なくとも1種である化合物M2を含んでいてもよい。
【0037】
(2-3)押出加工
押出加工は、通常、前記有機化合物と前記イオン性金属化合物の混合物(以下、原料混合物という場合がある)を、スクリューを備えるバレル内へ供給し、スクリューを回転させることにより行われる。スクリューは一軸スクリューであってもよいし、二軸以上の多軸スクリューであってもよい。本発明において、押出加工は溶媒及び塩基の不存在下、60℃以上の温度で行われる。すなわち、押出加工が開始してから終了するまで溶媒及び塩基は用いられず、もちろん押出加工機に投入する際の原料混合物にも溶媒及び塩基は含まれない。また押出加工の開始から終了のいずれかの段階において温度が60℃以上であればよく、開始から終了に要する時間の2/3以上の時間において60℃以上の温度であることが好ましい。
【0038】
溶媒及び塩基が含まれない又は不存在であるとは、原料混合物100質量部に対して溶媒が0.1質量部以下(好ましくは0.005質量部以下、更に好ましくは0質量部)であり、かつ塩基が0.1質量部以下(好ましくは0.005質量部以下、更に好ましくは0質量部)であることを意味する。
【0039】
溶媒とは、溶媒としての作用を意図して添加したものに限られず、水または有機溶媒を含むいかなる液体も含む意味である。
また塩基は、前記有機化合物とイオン性金属化合物との反応性を上げるのに有効に作用し得るが、本発明では用いない。塩基としては、例えばNaOH、KOH、又はLiOHが挙げられる。
【0040】
押出加工が行われる温度は、70℃以上が好ましく、より好ましくは90℃以上であり、更に好ましくは100℃以上であり、また200℃未満が好ましく、より好ましくは190℃以下である。
【0041】
また、押出加工に供する金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物及びイオン性金属化合物は、振動ボールミルなどによる粉砕処理が行われていないものを用いることが好ましい。
【0042】
押出加工に用いる押出加工機は、例えば、スクリューを備えるバレルと、バレルに原料または原料混合物を供給する原料供給部と、押出加工後の反応物を排出する排出部を備える。スクリューは一軸スクリューであってもよいし、二軸以上の多軸スクリューであってもよく、好ましくは二軸スクリューである。二軸以上の多軸スクリューである場合には、複数のスクリューが同一方向に回転してもよいし、少なくとも一のスクリューが、残りのスクリューと反対方向に回転してもよいが、複数のスクリューが同一方向に回転することが好ましい。
【0043】
スクリューは、一方向に伸びる軸部と、軸部の周囲にらせん状に形成される羽根部を備えていることが好ましく、前記軸部の軸線を中心に回転できる。スクリューの回転速度は、例えば5~50rpmであり、好ましくは10~30rpmである。スクリューの、羽根部を含めた直径Dに対する、長さLの比(L/D)は、15~40であることが好ましく、より好ましくは20~35である。スクリューの、羽根部を含めた直径Dは、例えば10~20mmである。
【0044】
バレルは、個別に温度調節が可能な複数の部位がスクリューの軸方向に連結して構成されていてもよい。
【0045】
押出加工後の反応物を排出する排出部には1以上のノズルが設けられていることが好ましく、ノズル径は0.5~3mmであることが好ましい。
【0046】
金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物とイオン性金属化合物の押出機に投入するに際しては、これら有機化合物とイオン性金属化合物を予め混合した後に押出機に投入してもよいし、同時に押出機に投入してもよいが、効率良く反応を進めるため、予め混合しておくことが好ましい。
【0047】
また、前記原料供給部に加えて更に、原料供給部よりもスクリューの軸線に沿って排出部側に、サイドフィードを設けてもよい。
押出加工機がサイドフィードを備える態様において、金属イオンと配位結合を形成可能な有機化合物及びイオン性金属化合物の一方を原料供給部から投入し、他方をサイドフィードから投入してもよい。このようにすることで、原料供給部から投入した原料の溶融が進んだ後に、サイドフィードから投入した原料と混合させることができ、反応効率が上昇する。
また、サイドフィードに局所排気装置を設けることも好ましく、このようにすることで原料や不純物の分解物によるガス等を回収することができ、作業の安全性が確保できる。
更に、サイドフィードから化学繊維の原料となる合成樹脂を投入することによってMOFを含むペレットを作製し、その後ペレットを繊維状に加工してMOF含有繊維を製造してもよく、このような合成樹脂としてはポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0048】
また、本発明の製造方法では押出加工中、押出加工の前後を含めて、原料、原料混合物または押出加工後の反応物の200℃以上での処理工程は有していないことが好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
実施例1~3
硝酸銅(II)三水和物(東京化成工業株式会社製、Cu(NO3)2・3H2O)63gと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(東京化成工業株式会社製)37gとを予め混合して得られた混合物を、二軸スクリュー押出機の原料投入口に供給し、排出部に備えられたノズルから反応物を得た。押出機のバレルは、原料投入口から排出部に向かう順に、原料投入部、混練部1、サイドフィード部、混練部2の各部位が連結して構成されており、それぞれ個別に温度調整が可能であり、バレル内部の容積は約100mlである。各部位での温度条件及びスクリューの回転数は下記表1に示す通りである。また、排出部に備えられたノズルのノズル径は2mmであり、押出加工により得られた反応物は、その後、50mLのメタノールで3回洗浄し、100℃で24時間減圧乾燥した。
【0051】
比較例1
硝酸銅(II)三水和物(東京化成工業株式会社製、Cu(NO3)2・3H2O)1.765gをイオン交換水24.4gに溶解させて溶液Aと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(東京化成工業株式会社製)0.86gをエタノール19.2gに溶解させた溶液Bとを室温で混合し、120℃で12時間静置して熟成した。得られた沈殿固形物を100mlのエタノールで洗浄し、得られたろ過ケーキを、真空乾燥炉で、40℃で11時間乾燥させ、生成物質を1.02g得た。
【0052】
比較例2
水酸化銅(東京化成工業株式会社製、Cu(OH)2)0.2gと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(東京化成工業株式会社製)0.28gをメタノール0.28gに溶解させた溶液を、ゼオライト製20ml容量のボールミル容器にゼオライトボール(φ:10mm)10個と共に投入し、室温にて400rpmの回転数で混合した。ボールミルでの処理は、5分回転させるごとに、5分のインターバルを経て行い、5分の回転を計30回行った。その後、生成物をスパチュラでかき集めて回収し、真空乾燥炉で、40℃で11時間乾燥させ、生成物質を0.39g得た。
【0053】
比較例3
水酸化銅(Cu(OH)2)42gと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸58gと、メタノール58gの混合物を、実施例1~3と同様の二軸スクリュー押出機の原料投入口に供給し、ノズルから反応物を得た。各部位での温度条件及びスクリューの回転数は下記表1に示す通りである。押出加工により得られた反応物は、その後50mLのメタノールで3回洗浄し、100℃で24時間減圧乾燥した。
【0054】
【0055】
実施例及び比較例で得られた金属有機構造体を以下の方法で評価した。
【0056】
(1)最もピーク強度の大きいピークの半値幅の測定
X線回折測定は、Rigaku社製のX線回折装置SmartLabを用いて以下の条件で行った。
線源:Cu
測定範囲:2θ=3~40°
Stepサイズ:0.01°
走査速度:3°/min
測定温度:室温(25℃)
上記2θの範囲で、ピーク強度が最も高いピーク位置を見つけ、該当ピークの半分の強度での角度を測定し、これを半値幅とした。なお、ピーク強度が最も高いピークが、隣接するピークと重なり左右非対称な形状である場合には、最も高いピーク強度を有する点の2θから、重なりのない側で該当ピークの半分の強度を示す点の2θを差し引き、この値を2倍したものを半値幅とすればよい。
【0057】
(2)ガラス付着率の測定
(i)市販のガラス管(φ6mm×1500mm,アズワン3-1594-03 ガラス管φ6 標準管(STD))をアンプルカッター等のガラス切を用いて200mmの長さに必要本数切り出す。
(ii)薬包紙とテープを用いてロートを作製する。
(iii)試料を秤量するための薬包紙を用意し、該薬包紙と上記(ii)で作製したロートを秤量する。
(iv)前記薬包紙にサンプルを約100mg秤量する。
(v)ガラス付着率測定後の試料を回収するための空のサンプル瓶を用意し、その重さを秤量する。
(vi)前記した200mmのガラス管を垂直に立てて、その上部に前記ロートを、下部にサンプル瓶をセットし、サンプル瓶底とガラス管下部末端の間には10mm程度の隙間を確保する。
(vii)薬包紙からロートにサンプルを落とし、ガラス管内部にサンプルを通す。
(viii)サンプルが通り抜けたガラス管に振動を与えないように取り外す。
(ix)ガラス管を通り抜けたサンプルは下部のサンプル瓶に集まるので、試験後の薬包紙、ロート、サンプル入りサンプル瓶の重さをそれぞれ測定する。
(x)薬包紙からロートを通ってガラス管内部に供給されたサンプルの重さに対してガラス管内部に付着したサンプルの重さの割合をガラス付着率とする。
【0058】
(3)脱離性能試験
Rigaku社製の熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA:Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)装置を用いて、下記の条件で前処理した金属有機構造体の水分の脱離量を測定した。
前処理条件:25℃、相対圧0.5に調湿された空気雰囲気下で12時間保持
脱離量:前記した前処理の後、窒素フロー下、昇温速度:5℃/分で昇温し、50℃で30分保持し、この区間(25~50℃)での重量減少量W25-50を測定し、このW25-50を、前記前処理後のサンプル重量で除して脱離量(質量%)とした。
【0059】
上記(1)~(3)の結果を表2に示した。
【0060】
本発明の有機金属構造体は、ガスや有機分子の吸着及び除去に好適に用いられるため有用である。前記ガスとしては、例えば二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1~4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン等が挙げられる。前記有機分子としては、例えば炭素数5~8の炭化水素、炭素数1~8のアルコール、炭素数1~8のアルデヒド、炭素数1~8のカルボン酸、炭素数1~8のケトン、炭素数1~8のアミン、炭素数1~8のエステル、炭素数1~8のアミド等が挙げられる。なお、前記有機分子は芳香環を含んでいても良い。