(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127009
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 15/04 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01S15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035830
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 豊
(72)【発明者】
【氏名】吹野 幸治
(72)【発明者】
【氏名】杉村 慎治
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB12
5J083AC05
5J083AC29
5J083AD04
5J083BA01
5J083BE18
5J083BE38
5J083BE53
(57)【要約】
【課題】温度変化等の環境変化の影響を受けることなく、近距離に存在する物体の正確な検出が可能な超音波式物体検出装置を提供する。
【解決手段】超音波式物体検出装置1であって、反射波の受信信号と、予め設定された残響時間測定閾値とを比較して、反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する残響時間測定部11と、残響時間測定部11にて測定された残響時間の値を、新たに測定されたものから順に所定の個数だけ蓄える残響時間バッファメモリ12と、残響時間バッファメモリ12に蓄えられた所定個数の残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とする基準残響時間決定部13と、基準残響時間と、基準残響時間を除いた残響時間バッファメモリ12にバッファされている複数の残響時間との差分値の絶対値を累算し、累積差分値を計算する累積差分値計算部14と、累積差分値が予め設定された物体検出閾値を超える場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する近距離物体検出部15と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出装置であって、
前記反射波の受信信号と、予め設定された残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する残響時間測定手段と、
前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を、新たに測定されたものから順に所定の個数だけ蓄えるバッファメモリと、
前記バッファメモリに蓄えられた所定個数の前記残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とする基準残響時間決定手段と、
前記基準残響時間と、前記基準残響時間を除いた前記バッファメモリにバッファされている複数の前記残響時間との差分値の絶対値を累算し、累積差分値を計算する累積差分値計算手段と、
前記累積差分値が予め設定された物体検出閾値を超える場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する近距離物体検出手段と、
を備えることを特徴とする超音波式物体検出装置。
【請求項2】
前記基準残響時間決定手段は、前記超音波センサの近距離範囲内における物体の有無によらず、前記バッファメモリに蓄えられている前記残響時間の値を前記基準残響時間として決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波式物体検出装置。
【請求項3】
前記残響時間測定手段は、前記残響時間の終了後、前記残響時間の測定を所定時間継続する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波式物体検出装置。
【請求項4】
超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出方法であって、
前記反射波の受信信号と、予め設定された残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定し、
前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を、新たに測定されたものから順に所定の個数だけバッファメモリに蓄え、
前記バッファメモリに蓄えられた所定個数の前記残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とし、
前記基準残響時間と、前記基準残響時間を除いた前記バッファメモリにバッファされている複数の前記残響時間との差分値の絶対値を累算して累積差分値を計算し、
前記累積差分値が予め設定された物体検出閾値を超える場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する、
ことを特徴とする超音波式物体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法に関し、具体的には、物体からの超音波反射波に基づいて物体を検出したり物体までの距離を測定したりする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を送信し、その反射波を受信して反射物体までの距離を測定する超音波式物体検出装置が知られている。超音波式物体検出装置は、例えば、超音波を送受信するセンサと測距回路とを備え、センサは、数十kHzの周波数の超音波を送信波Txとして数波から数十波程度の長さでバースト状に送信し、物体からの反射波Rxを受信する。測距回路は、反射波Rxに同期式直交検波などを行って、送信波Txと反射波Rxとの相対的な遅延量を検出し、この遅延量と音速とから物体までの距離を算出する(この距離計測手法をTOF(Time Of Flight)という)。
【0003】
このような超音波式物体装置は超音波Txを送信する際に、波数にもよるが、センサから10cmから30cm程度の近距離範囲内に送信波の残響波が発生する。この残響波がセンサにより受信されて受信回路のアンプにより増幅されると飽和状態となる。このため、残響波が継続する時間である残響時間領域において物体を検出することは一般的に困難である。
【0004】
特許文献1には、超音波センサの残響時間を予め測定しておき、その時間を基準時間としてメモリに記憶し、新たに測定した残響時間と基準時間とを比較することで、1回目の物体検出から近距離物体の測定ができ、最初の測定開始時点に既に障害物があった場合でも確実に検出ができることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、チャープサイン信号を送信波として送信して、超音波センサを駆動した後の残響減衰信号と基準残響減衰信号の間の偏差を計算し、予め設定された値以上である場合に、近距離に障害物が存在すると検出できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-133549号公報
【特許文献2】独国特許出願公開第102014207129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波センサは温度特性があり、温度変化により残響時間が変動することが一般的に知られている。特許文献1では、超音波センサの温度特性について考慮していないため、予め測定した基準時間が温度変化により正確でなくなる可能性があり、精度よく近距離の障害物を検出することができない。
【0008】
特許文献2では、温度変化の影響が最小限に抑えられると記述があるものの、変調された信号(チャープサイン信号)を送信波として送信するため、波数を少なくすることができず、送信時間+残響時間が長くなる。例えば、特許文献2の
図3では残響信号の減衰開始時間は2.1msecとされており、近距離の障害物の測距が困難である。
【0009】
そこで本発明は、温度変化等の環境変化の影響を受けることなく、近距離に存在する物
体の正確な検出が可能な超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出装置であって、前記反射波の受信信号と、予め設定された残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する残響時間測定手段と、前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を、新たに測定されたものから順に所定の個数だけ蓄えるバッファメモリと、前記バッファメモリに蓄えられた所定個数の前記残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とする基準残響時間決定手段と、前記基準残響時間と、前記基準残響時間を除いた前記バッファメモリにバッファされている複数の前記残響時間との差分値の絶対値を累算し、累積差分値を計算する累積差分値計算手段と、前記累積差分値が予め設定された物体検出閾値を超える場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する近距離物体検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波式物体検出装置であって、前記基準残響時間決定手段は、前記超音波センサの近距離範囲内における物体の有無によらず、前記バッファメモリに蓄えられている前記残響時間の値を前記基準残響時間として決定する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の超音波式物体検出装置であって、前記残響時間測定手段は、前記残響時間の終了後、前記残響時間の測定を所定時間継続する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出方法であって、前記反射波の受信信号と、予め設定された残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定し、前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を、新たに測定されたものから順に所定の個数だけバッファメモリに蓄え、前記バッファメモリに蓄えられた所定個数の前記残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とし、前記基準残響時間と、前記基準残響時間を除いた前記バッファメモリにバッファされている複数の前記残響時間との差分値の絶対値を累算して累積差分値を計算し、前記累積差分値が予め設定された物体検出閾値を超える場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、4に記載の発明によれば、バッファメモリに蓄えられた所定個数の残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とし、基準残響時間と、基準残響時間を除いたバッファメモリにバッファされている複数の残響時間との差分値の絶対値を累算し、得られた累積差分値を計算する。累積差分値は、物体との相対位置の変化や、温度変化などの現在の環境変化の状況が反映されたものとなる。そのため、この累積差分値を用いて物体を検出することで、環境変化の影響を受けずに近距離範囲内に存在する物体を精度よく検出することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、超音波センサの近距離範囲内に物体が存在するか否かに関係なく、バッファメモリ内の残響時間を基準残響時間とすることができるため、予め基準残響時間を測定又は設定する必要がなく、残響時間測定に対する制約を軽減すること
ができる。さらに、残響時間を所定個数だけバッファメモリに蓄えれば、その直後から近距離範囲内の物体検出が可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、残響時間の測定中に、残響波と反射波の定在波により一時的にノッチ波形が発生して残響時間が終了した、と判断したとしても、残響時間の測定を所定時間継続するため、高い精度での残響時間を測定と近距離物体検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施の形態に係る超音波式物体検出装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示す物体検出部により実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図2のステップS1の「基準残響時間と累積差分値の第1更新処理」の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】バッファメモリに残響時間を蓄えていく状態を示す図である。
【
図5】残響波形エンベロープと残響時間測定閾値の例を示す図である。
【
図6】残響波形エンベロープにノッチが発生している場合の残響時間測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に関わる超音波式物体検出装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。この超音波式物体検出装置1は、超音波送受信制御部2と、送信回路4と、超音波センサ5と、受信回路6と、AD変換回路7と、を有する。
【0020】
送信回路4は、送信信号制御部3から出力されるパルス信号の入力を受け、前記パルス信号を、超音波センサ5から物体検出のための超音波が送信されるように、適切な電圧と周波数帯域を有したアナログ信号(送信信号)に変換する。
【0021】
超音波センサ5は、送信回路4から出力される送信信号の入力を受け、前記送信信号に基づいて物体検出のための超音波(以下、送信波ともいう)を送信するとともに、物体によって反射した超音波(以下、反射波ともいう)を受信して電気信号に変換する。
【0022】
受信回路6は、超音波センサ5から出力される電気信号の入力を受け、前記電気信号をAD変換回路7でデジタル信号に変換するのに適した信号レベルに増幅する。受信回路6は、その際に、信号のSN比(Signal to Noise ratio)を改善するため、フィルタなどで不要波やノイズを抑圧する。
【0023】
AD変換(Analog to Digital converter)回路7は、受信回路6から出力される電気信号の入力を受け、アナログ信号である前記電気信号をデジタル信号に変換する。
【0024】
超音波送受信制御部2は、AD変換回路7から出力されるデジタル信号の入力を受け、デジタル信号に変換された残響波の波形や反射波の波形をエンベロープ化して、超音波センサ5の残響時間や、ノイズ量などの情報を取り出すための仕組みである。超音波送受信制御部2は、送信信号制御部3、超音波エンベロープ波形生成部8及び物体検出部10を有する。
【0025】
送信信号制御部3は、物体を検出するためのパルス信号を送信回路4へと出力する。パルス信号は矩形波によるバースト信号であり、送信時間の長さは、測距したい距離に応じて適切に設定される。その際の設定値は、工場出荷時に定数として持っていてもよく、或いは、超音波式物体検出装置1が自動車などに搭載されている場合にはECU(Electronic Control Unit)などの上位制御機器によって適宜設定されてもよい。パルス信号は、例えば、周波数が40kHzから80kHz程度の電気信号である。送信信号としては、変調されたパルス信号を用いてもよい。
【0026】
超音波エンベロープ波形生成部8は、包絡線検波回路、または直交検波回路で構成され、AD変換回路7から出力されるデジタル信号の入力を受け、エンベロープ波形に変換する。
【0027】
物体検出部10は、超音波エンベロープ波形生成部8から出力されたエンベロープ波形に基づいて物体を検出する処理部である。より詳しくは、物体検出部10は、反射波の受信信号と、予め設定された残響時間測定閾値とを比較して、反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定し、残響時間測定手段にて測定された残響時間の値を、新たに測定されたものから順に所定の個数だけバッファメモリに蓄え、バッファメモリに蓄えられた所定個数の残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とし、基準残響時間と、基準残響時間を除いたバッファメモリにバッファされている複数の残響時間との差分値の絶対値を累算して累積差分値を計算し、累積差分値が予め設定された物体検出閾値を超える場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する。
【0028】
物体検出部10は、上記のような処理を行なうために、残響時間測定部(残響時間測定手段)11、残響時間バッファメモリ(バッファメモリ)12、基準残響時間決定部(基準残響時間決定手段)13、累積差分値計算部(累積差分値計算手段)14、及び、近距離物体検出部(近距離物体検出手段)15を備えている。物体検出部10は、超音波エンベロープ波形生成部8から出力されるエンベロープ波形を受けることで、これら各部11~15として機能する。これら各部11~15の処理は、
図2~6を用いて以下に説明する。
【0029】
図2は、この発明の実施の形態に係る超音波式物体検出装置1の物体検出部10により実行される処理の手順を示すフローチャートである。この物体検出部10は、超音波センサ5を使って物体を検出するための処理として、ステップS1~ステップS7を繰り返し実行する。ステップS1の「基準残響時間と累積差分値の第1更新処理」は基準残響時間決定部13と累積差分値計算部14により実行され、ステップS2の「超音波信号を送信」は送信信号制御部3と送信回路4と超音波センサ5により実行され、ステップS3の「残響時間の測定」は受信回路6とAD変換回路7と超音波エンベロープ波形生成部8と残響時間測定部11により実行され、ステップS4の「累積差分値の計算が完了」とステップS5の「累積差分値の更新処理2」とステップS6の「近距離に存在する物体の判定」は累積差分値計算部14と近距離物体検出部15により実行され、ステップS7の「残響時間のバッファ」はバッファメモリ12により実行される。
【0030】
ステップS1では、基準残響時間と累積差分値の第1更新処理を行う。基準残響時間は、残響時間バッファメモリ12に格納される複数の残響時間が、超音波式物体検出装置1と物体との相対移動や、温度の変化などに応じて変化する場合に、その変化量を求めるための基準とする残響時間である。基準残響時間は、残響時間バッファメモリ12に記憶されている所定個数の残響時間のなかから任意に選択される。また、累積差分値は、基準残響時間と、残響時間バッファメモリ12にバッファされている複数の残響時間(基準残響時間を除く)との差分値の絶対値を累算した値である。したがって、累積差分値は、残響時間バッファメモリ12に記憶されている所定個数の残響時間全体の変化を示す。ステッ
プS1の処理は、
図3に詳しく示すフローチャートにしたがって実行される。
図3において、ステップS104は基準残響時間決定部13により実行され、残りのステップは累積差分計算部14により実行される。
【0031】
ステップS100では、上述した累積差分値の初期化を行う。ステップS101では、直前のステップS7(
図2)にて残響時間バッファメモリ12に残響時間がバッファされたか否かを判断して、バッファされている場合はステップS102に進み、バッファされていない場合は、ステップS103の「累積差分値の計算が未完」として、ステップS1を終了する。
【0032】
残響時間バッファメモリ12は、
図4に示すように、例えば8個の残響時間格納部(変数address0~7)を備えている。残響時間バッファメモリ12は、例えば、FIFO型のメモリであり、address=0から順に残響時間が格納され、address=7に残響時間が格納されている状態(すなわち、残響時間バッファメモリ12が残響時間で満たされている状態)で新たな残響時間が測定されると、address=0の残響時間が消去されて各addressの残響時間の格納位置が繰り上がり、空になったaddress=7に新たな残響時間が格納される。
【0033】
ステップS102では、直前のステップS7で残響時間がバッファされた変数addressが0であるか否かを判定し、addressが0であった場合はステップS104に進み、0以外であった場合はステップS105に進む。ステップS104では、残響時間バッファメモリ12にバッファされている残響時間のなかで最も古い残響時間を基準残響時間とする。例えば、
図4の例では、左端に位置する最も古いaddress=0の残響時間が基準残響時間となる。
【0034】
ステップS105では、基準残響時間と、直前のステップS7でバッファされた残響時間との差分値を計算する。例えば、直前のステップS7でaddress=5に残響時間がバッファされている場合、address=0の残響時間とaddress=5の残響時間の差分値を計算する。すなわち、ステップS105では、ステップS101~S107で処理が繰り返される間に、残響時間バッファメモリ12の中から基準残響時間とした残響時間を除いた複数の残響時間(
図4の例ではaddress=1~7)と基準残響時間(
図4の例ではaddress=0)との差分値を順に計算する。
【0035】
また、ステップS105は、全ての差分値(
図4の例では7個)を絶対値に変換して加算して累積差分値を計算する。なお、
図3のステップS104では一番古い残響時間の値を基準残響時間としたが、基準残響時間とするのは一番古いものに限定されず、任意の残響時間の値であって良い。
【0036】
ステップS106では、addressの値を1増分してステップS107に進み、addressの値が残響時間バッファメモリ12のサイズ値(address=7)と同じである場合は、残響時間バッファメモリ12の全てのaddressに残響時間がバッファされているものと判定してステップS108に進み、「累積差分の計算が完了」としてステップS1を終了する。一方、addressの値が残響時間バッファメモリ12のサイズ値(address=7)と同じでない場合は、残響時間バッファメモリ12の全てのaddressに残響時間がバッファされていないと判定してステップS101に戻る。すなわち、残響時間バッファメモリ12が残響時間データで埋まるまで、累積差分値の計算は繰り返される。
【0037】
なお、残響時間バッファメモリには所定の個数だけ残響時間が蓄えられるが、その個数は特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、超音波式物体検出装置1の用途と、残響時間バッファメモリ12に1つの残響時間を格納するのに要する時間と、超音波
式物体検出装置1に求められる近距離物体の検出精度とに応じて適宜設定される。近距離物体の検出精度は、残響時間バッファメモリのサイズが大きいほど基準残響時間を決定するためのサンプル数が多くなるため高くなる。例えば、超音波式物体検出装置1が自動車に搭載される場合、バッファメモリのサイズは、自動車のイグニションがオンされてから走行が開始されるまでの時間内に残響時間のデータで満たすことができ、かつ、所定の近距離物体の検出精度が得られるサイズであることが好ましい。
【0038】
ステップS2及びステップS3では、超音波センサ5から送信波を送信し、超音波センサ5により受信した反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する。具体的には、
図5に示す例のように、超音波センサ5を直接波受信モード(超音波センサ5に送信信号を送信して、受信を行う)にして得た「残響波形のエンベロープ50」の振幅波高値が、残響時間測定閾値51以下になった時間を残響時間とする。残響時間測定閾値51は、工場出荷時に定数として持っていても良く、或いは、自動車などに搭載されている場合にはECUなどの上位制御機器によって適宜設定されても良い。
【0039】
ステップS4では、ステップS1で累積差分値の計算が完了していた場合は、ステップS5に進み、累積差分値の計算が完了していない場合はステップS7に進む。
【0040】
ステップS5及びステップS6では、累積差分値の第2更新処理と、近距離範囲内に存在する物体の判定を行う。累積差分値の第2更新処理では、基準残響時間と、ステップS3の「残響時間の測定」で新しく測定した残響時間(
図4の例ではNew Measurement Ringing Time41)の差分値を絶対値に直してから、ステップS1で計算した累積差分値1と加算して、累積差分値の更新を行う。このように更新された累積差分値2が物体検出閾値以上であった場合には、「所定の近距離範囲に物体が存在する」と判定する。ここで、物体検出閾値とは、物体検出の精度を評価するための指標であって、工場出荷時に定数として持っていても良く、或いは、自動車などに搭載されている場合にはECUなどの上位制御機器によって適宜設定されても良い。また、所定の近距離範囲内とは、特に限定されないが、例えば、物体とセンサとの距離が約10cm未満の場合である。
【0041】
ステップS7では、ステップS3の「残響時間の測定」で新しく測定した残響時間(
図4のNew Measurement Ringing Time41)を残響時間バッファメモリ12に保存する。上述したように、残響時間バッファメモリ12はFIFO型のメモリであるため、address=0の残響時間が消去されて各addressの残響時間の格納位置が繰り上がり、空になったaddress=7に新たな残響時間が格納される。
【0042】
以上で説明したように、本実施の形態に係る超音波式物体検出装置1によれば、残響時間バッファメモリ12に蓄えられた所定個数の残響時間の値のなかから任意の1個を基準残響時間とし、基準残響時間と、基準残響時間を除いた残響時間バッファメモリ12にバッファされている複数の残響時間との差分値の絶対値を累算し、得られた累積差分値を計算する。これにより、累積差分値は、物体との相対位置の変化や、温度変化などの現在の環境変化の状況が反映されたものとなる。そのため、この累積差分値を用いて物体を検出することで、環境変化の影響を受けずに近距離範囲内に存在する物体を精度よく検出することが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態に係る超音波式物体検出装置1によれば、超音波センサ5の近距離範囲内に物体が存在するか否かに関係なく、残響時間バッファメモリ12内の残響時間を基準残響時間とすることができるため、予め基準残響時間を測定又は設定する必要がなく、残響時間測定に対する制約を軽減することができる。さらに、残響時間を所定個数だけ残響時間バッファメモリ12に蓄えれば、その直後から近距離範囲内の物体検出が可能となる。
【0044】
(実施の形態2)
次に、本発明に係る実施の形態2について説明する。なお、本実施の形態2において、実施の形態1と同様の構成については、実施の形態1と同じ符号を用いて詳しい説明を省略する。この実施の形態2では、残響時間測定部11は、残響時間の終了後、残響時間の測定を所定時間継続する。これにより、例えば、
図6に示すように、残響波形エンベロープとエコーの多重反射波形エンベロープとが重なり、定在波の関係によりノッチ波形Nが発生して、振幅波高値が残響時間測定閾値51以下となり、残響時間が終了したと判断したとしても、所定の時間、残響時間測定を継続する。その後、所定の時間内に振幅波高値が残響時間測定閾値51を超えた場合は、残響時間測定が継続中と判断し、振幅波高値が残響時間測定閾値51を超えることなく所定の時間が経過した場合は、残響時間から所定の時間を差し引いて、残響時間とする。所定の時間は、例えば500usec以下である。
【0045】
本実施の形態2によれば、残響時間が終了したと判断しても、残響時間の測定を所定時間継続するため、残響時間の測定中に残響波と反射波の定在波により一時的にノッチ波形が発生し、残響時間が終了したと判断された場合でも高い精度でノッチ波形以降の残響時間を測定し、近距離範囲内の物体を検出することが可能となる。なお、残響エンベロープに対して、フィルタを使用してノッチ波形対策としてもよい。これにより、位相ずれを気にすることなく、高い精度での近距離物体検出が可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1:超音波式物体検出装置
2:超音波送受信制御部
3:送信信号制御部
4:送信回路
5:超音波センサ
6:受信回路
7:AD変換回路
8:超音波エンベロープ波形生成部
10:物体検出部
11:残響時間測定部(残響時間測定手段)
12:残響時間バッファメモリ
13:基準残響時間決定部(基準残響時間決定手段)
14:累積差分値計算部(累積差分値計算手段)
15:近距離物体検出部(近距離物体検出手段)
41:新しく測定した残響時間(New Measurement Ringing Time)
50:残響波形エンベロープ
51:残響時間測定閾値