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特開2024-127010超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127010
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/04 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01S15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035831
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 豊
(72)【発明者】
【氏名】吹野 幸治
(72)【発明者】
【氏名】杉村 慎治
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB12
5J083AC05
5J083AC29
5J083AD04
5J083BA09
5J083BE20
5J083BE22
5J083BE47
(57)【要約】
【課題】残響時間測定にセンサのノイズの影響を受けることなく、近距離にある物体を検出可能な超音波式物体検出装置を提供する。
【解決手段】超音波式物体検出装置1は、反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御するPGA制御部7と、PGA制御部7によるゲインの増減に合わせて、反射波に含まれる送信波の残響波を検出するための残響時間測定閾値を増減する残響時間測定閾値決定部12と、反射波の受信信号と残響時間測定閾値とを比較して、反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する残響時間測定部13と、残響時間測定手段にて測定された残響時間の値を所定の個数だけバッファに蓄え、バッファに蓄えられている残響時間の値を用いて基準残響時間を決定する基準残響時間決定部14と、残響時間測定部13にて新たに測定された残響時間が基準残響時間よりも長い場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する近距離物体検出部15と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出装置であって、
前記反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御するゲイン制御手段と、
前記ゲイン制御手段によるゲインの増減に合わせて、前記反射波に含まれる前記送信波の残響波を検出するための残響時間測定閾値を増減する残響時間測定閾値決定手段と、
前記反射波の受信信号と前記残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する残響時間測定手段と、
前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を所定の個数だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記残響時間の値を用いて基準残響時間を決定する基準残響時間決定手段と、
前記残響時間測定手段にて新たに測定された前記残響時間が前記基準残響時間よりも長い場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する近距離物体検出手段と、
を備えることを特徴とする超音波式物体検出装置。
【請求項2】
前記送信波を送信しない状態で前記超音波センサにより受信した受信ノイズのノイズ量を計測するノイズ量計測手段を備え、
前記残響時間測定閾値決定手段は、前記ノイズ量に基づいて、前記残響時間測定閾値を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波式物体検出装置。
【請求項3】
前記ノイズ量計測手段において、前記受信ノイズが一時的なノイズの上昇を検出する閾値を超えた場合に、前記残響時間測定手段と前記近距離物体検出手段の動作を無効にする、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波式物体検出装置。
【請求項4】
前記残響時間測定手段は、前記残響時間の終了後、前記残響時間の測定を所定時間継続する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波式物体検出装置。
【請求項5】
超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出方法であって、
前記反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御し、
前記ゲインの増減に合わせて、前記反射波に含まれる前記送信波の残響波を検出するための残響時間測定閾値を増減し、
前記反射波の受信信号と前記残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定し、
前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を所定の個数だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記残響時間の値を用いて基準残響時間を決定し、
前記残響時間測定手段にて新たに測定された前記残響時間が前記基準残響時間よりも長い場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する、
ことを特徴とする超音波式物体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法に関し、具体的には、物体からの超音波反射波に基づいて物体を検出したり物体までの距離を測定したりする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を送信し、その反射波を受信して反射物体までの距離を測定する超音波式物体検出装置が知られている。例えば、超音波式物体検出装置は、超音波を送受信するセンサと測距回路とを備え、センサは、数十kHzの周波数の超音波を送信波Txとして数波から数十波程度の長さでバースト状に送信し、物体からの反射波Rxを受信する。測距回路は、反射波Rxに同期式直交検波などを行って、送信波Txと反射波Rxとの相対的な遅延量を検出し、この遅延量と音速とから物体までの距離を算出する(この距離計測手法をTOF(Time Of Flight)という)。
【0003】
このような超音波式物体装置は超音波Txを送信する際に、波数にもよるが、センサから10cmから30cm程度の近距離範囲内に送信波の残響波が発生する。この残響波がセンサにより受信されて受信回路のアンプにより増幅されると飽和状態となる。このため、残響波が継続する時間である残響時間領域において物体を検出することは一般的に困難である。
【0004】
特許文献1には、残響時間領域内に障害物が存在する場合は、その反射波の波形(以下、エコー波形ともいう)が残響波の波形(以下、残響波形ともいう)に加算され、残響時間が長くなることが開示されている。また、特許文献1では、基準残響時間をメモリに保存して、新しく測定された残響時間と比較することで、小さな残響時間の変化を検出できるようにしている。これによれば、近距離範囲内の物体検出感度が上がり、小さな障害物も検出できる。
【0005】
また、残響波形とエコー波形とが重なった波形にノッチが発生することがあり、このノッチの位置によっては近距離範囲内に物体が存在するにも関わらず、残響時間が長くならないことがある。特許文献2には、このような場合でも、近距離範囲内の物体を検出できるようにするために、残響時間に、残響波が終了してから最初の反射波である第1エコーが終了するまでの時間を加算した加算残響時間を求め、この加算残響時間を基準残響時間と比較し、加算残響時間が基準残響時間より延びていて、かつ、第1エコーの振幅が飽和していた場合は、近距離に物体が存在すると判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-133549号公報
【特許文献2】特開2016-031354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、送信波形及び受信波形の受信レベルが設定値(測定基準電圧)以下になったら、それまでの継続時間を測定して、この測定時間と予めメモリされた設定時間とを比較して、何れか一方を基準残響時間としている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、センサに発生する受信ノイズの影響が考慮されていない。そのため、受信ノイズのノイズレベルが外来的なノイズにより変動して設定値を跨いでしまうと
、精度良く残響時間を測定することはできなくなる。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、エコーの振幅を飽和させてしまうため、TOFによって正しい距離を推定することは困難である。なお、超音波センサ向けICには、STC(Sensitive Time Control)機能が実装されていることが多い。この機能は、時変ゲインにより近距離はゲインを低く、長距離はゲインを高くして超音波の距離減衰を補正することである。従って、STC機能の有効時は、近距離のゲインは低いため、エコーの振幅を飽和させること自体が困難である。
【0009】
ところで、障害物が残響時間領域内に存在する場合にセンサと障害物との間で超音波が多重反射をし、その多重反射波形が残響波形に加算される場合がある。図3は、残響波形のエンベロープを示すグラフであり、図中破線で示す「近距離に物体がある場合の残響波形及びエコー多重反射波形エンベロープ21」に示す通り、多重反射波形部分の振幅は大きくなる。そのため、この多重反射波形を精度良く検出することにより、近距離範囲内に存在する物体を検出することができる。しかしながら、この多重反射波形部分の振幅は、反射回数によって減衰することが一般的であり、図3に示す通り、ノイズレベルまで小さな値となる。従って、物体の多重反射波形を精度良く検出するには、多重反射波形部分の振幅レベルとノイズレベルを切り分ける必要がある。
【0010】
そこで本発明は、センサの受信ノイズの影響を受けることなく残響時間を測定し、高い精度で近距離にある物体を検出可能な超音波式物体検出装置及び超音波式物体検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出装置であって、前記反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御するゲイン制御手段と、前記ゲイン制御手段によるゲインの増減に合わせて、前記反射波に含まれる前記送信波の残響波を検出するための残響時間測定閾値を増減する残響時間測定閾値決定手段と、前記反射波の受信信号と前記残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する残響時間測定手段と、前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を所定の個数だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記残響時間の値を用いて基準残響時間を決定する基準残響時間決定手段と、前記残響時間測定手段にて新たに測定された前記残響時間が前記基準残響時間よりも長い場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する近距離物体検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波式物体検出装置であって、前記送信波を送信しない状態で前記超音波センサにより受信した受信ノイズのノイズ量を計測するノイズ量計測手段を備え、前記残響時間測定閾値決定手段は、前記ノイズ量に基づいて、前記残響時間測定閾値を決定する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の超音波式物体検出装置であって、前記ノイズ量計測手段において、前記受信ノイズが一時的なノイズの上昇を検出する閾値を超えた場合に、前記残響時間測定手段と前記近距離物体検出手段の動作を無効にする、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の超音波式物体検出装置であって、前記残響時間測定手段は、前記残響時間の終了後、前記残響時間の測定を所定時間継続する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、超音波センサから送信波を送信し、前記送信波が物体により反射された反射波を前記超音波センサにより受信し、前記反射波の受信信号に基づいて前記物体を検出する超音波式物体検出方法であって、前記反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御し、前記ゲインの増減に合わせて、前記反射波に含まれる前記送信波の残響波を検出するための残響時間測定閾値を増減し、前記反射波の受信信号と前記残響時間測定閾値とを比較して、前記反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定し、前記残響時間測定手段にて測定された前記残響時間の値を所定の個数だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記残響時間の値を用いて基準残響時間を決定し、前記残響時間測定手段にて新たに測定された前記残響時間が前記基準残響時間よりも長い場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると判定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、5に記載の発明によれば、ゲイン制御手段によるゲインの増減に合わせて残響時間測定閾値を増減すると、自センサのノイズに影響されることなく残響時間を測定できる。また、PGA制御部7のSTC機能によるゲインの増減に合わせて残響時間測定閾値を増減すると、近距離に存在する小さなエコー波形が飽和せず、高い精度でのTOF測定が可能となる。さらに、例えば、超音波式物体検出装置が自動車に搭載されている場合、自動車のECU(Electronic Control Unit)のような上位制御機器を使わずに、ノイズ量の計算、残響時間測定閾値の増減、残響時間の測定、基準残響時間の決定、及び、近距離物体の検出等が可能なため、ノイズ量の計算の為に大量のエンベロープデータをECUに送信するための時間が不要となり、ECUの処理量を削減し、測定インターバル時間を短縮することが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、ノイズ量計測手段によって計測されるノイズ量に基づいて残響時間測定閾値を決定し、この残響時間測定閾値を用いてノイズ領域とエコー検出領域を区別できるため、受信ノイズを残響波形であると認識してしまう誤検出を低減させることができ、高い精度での近距離範囲内に存在する物体を検出することが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、ノイズ量計測手段において、例えば他センサからの送信波などの非常に大きな振幅を持つ、外来の受信ノイズが、一時的な受信ノイズの上昇を検出する閾値を超えた場合に、残響時間測定手段と近距離物体検出手段の動作が無効になるため、誤検出を低減させることができ、高い精度での残響時間の測定と近距離物体検出が可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、残響時間が終了したと判断しても、残響時間の測定を所定時間継続するため、残響時間の測定中に残響波と反射波の定在波により一時的にノッチ波形が発生し、残響時間が終了したと判断された場合でも高い精度でノッチ波形以降の残響時間を測定し、近距離範囲内の物体を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施の形態に係る超音波式物体検出装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1に示す物体検出部により実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図3】残響時間領域に物体がある場合のエンベロープ波形と物体がない場合のエンベロープ波形の例を示す図である。
図4】間接波受信モードによるノイズ量計測の例を示す図である。
図5】STC機能の適用後の直接波受信モードの残響波形エンベロープと残響時間測定閾値を示す図である。
図6】残響波形エンベロープにノッチが発生している場合の残響時間測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に関わる超音波式物体検出装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。この超音波式物体検出装置1は、超音波送受信制御部2と、送信回路4と、超音波センサ5と、受信回路6と、PGA(Programmable Gain Amplifier)制御部(ゲイン制御手段)7と、AD変換回路8と、を有する。
【0023】
送信回路4は、送信信号制御部3から出力されるパルス信号の入力を受け、前記パルス信号を、超音波センサ5から物体検出のための超音波が送信されるように、適切な電圧と周波数帯域を有したアナログ信号(送信信号)に変換する。
【0024】
超音波センサ5は、送信回路4から出力される送信信号の入力を受け、前記送信信号に基づいて物体検出のための超音波(以下、送信波ともいう)を送信するとともに、物体によって反射した超音波(以下、反射波ともいう)を受信して電気信号に変換する。
【0025】
受信回路6は、超音波センサ5から出力される電気信号の入力を受け、前記電気信号をAD変換回路8でデジタル信号に変換するのに適した信号レベルに増幅する。受信回路6は、その際に、信号のSN比(Signal to Noise ratio)を改善するため、フィルタなどで不要波やノイズを抑圧する。
【0026】
PGA制御部7は、STC機能を備え、超音波式物体検出装置1においてSTC機能を有効にした場合に、受信回路6のゲインを増減する。STC機能は、PGA制御部7が測定開始からタイマーを動作して、時間に応じて受信回路6の反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御する機能である。また、PGA制御部7により受信回路6のアンプのゲインが制御されると、そのゲイン増減に合わせて残響時間測定閾値決定部12が残響時間測定閾値41を増減する。
【0027】
AD変換(Analog to Digital converter)回路8は、受信回路6から出力される電気信号の入力を受け、アナログ信号である前記電気信号をデジタル信号に変換する。
【0028】
超音波送受信制御部2は、AD変換回路8から出力されるデジタル信号の入力を受け、デジタル信号に変換された残響波形やエコー波形をエンベロープ化して、超音波センサ5の残響時間や、ノイズ量などの情報を取り出すための仕組みである。超音波送受信制御部2は、送信信号制御部3、超音波エンベロープ波形生成部9及び物体検出部10を有する。
【0029】
送信信号制御部3は、物体を検出するためのパルス信号を送信回路4へと出力する。パルス信号は矩形波によるバースト信号であり、送信時間の長さは、測距したい距離に応じて適切に設定される。その際の設定値は、工場出荷時に定数として持っていてもよく、或いは、超音波式物体検出装置1が自動車などに搭載されている場合には、ECUなどの上位制御機器によって適宜設定されてもよい。パルス信号は、例えば、周波数が40kHzから80kHz程度の電気信号、具体的には、パルス信号である。
【0030】
超音波エンベロープ波形生成部9は、包絡線検波回路または直交検波回路で構成され、AD変換回路8から出力されるデジタル信号の入力を受け、エンベロープ波形に変換する
【0031】
物体検出部10は、超音波エンベロープ波形生成部9から出力されたエンベロープ波形に基づいて物体を検出する処理部である。物体検出部10は、ノイズ量計測部(ノイズ量計測手段)11、残響時間測定閾値決定部(残響時間測定閾値決定手段)12、残響時間測定部(残響時間測定手段)13、基準残響時間決定部(基準残響時間決定手段)14、及び、近距離物体検出部(近距離物体検出手段)15を有する。物体検出部10は、超音波エンベロープ波形生成部9から出力されるエンベロープ波形を受けることで、これら各部11~15として機能する。これら各部11~15の処理を、図2~6を用いて以下に説明する。
【0032】
図2は、この発明の実施の形態に係る超音波式物体検出装置1の物体検出部10により実行される処理の手順を示すフローチャートである。この物体検出部10は、超音波センサ5を使って物体を検出するための処理として、ステップS1~ステップS6の処理を実行する。ステップS1の「基準残響時間計算処理」は基準残響時間決定部14により実行され、ステップS2の「ノイズ量計測処理」はノイズ量計測部11により実行され、ステップS3の「残響時間測定閾値計算処理」は残響時間測定閾値決定部12により実行され、ステップS4の「超音波信号を送信」は送信信号制御部3と送信回路4と超音波センサ5により実行され、ステップS5の「残響時間の測定」は受信回路6とAD変換回路8と超音波エンベロープ波形生成部9と残響時間測定部13とにより実行され、ステップS6の「近距離に存在する障害物の判定」は近距離物体検出部15により実行される。
【0033】
ステップS1では、後述するステップS6でバッファメモリ(図示せず)に蓄えられている所定個数の残響時間の値を用いて、基準残響時間決定部14が基準残響時間を決定する。基準残響時間とは、超音波センサ5から所定の近距離範囲内に物体が存在するか否かを判定するための基準となる残響時間である。この場合、バッファメモリに蓄えられている所定個数の残響時間のなかから最も長い残響時間の値を基準残響時間とするのが好ましい。また、基準残響時間を決定する際には、バッファメモリが所定個数の残響時間のデータで満たされていることが望ましい。
【0034】
バッファメモリのサイズ、すなわち基準残響時間を決定するために必要な残響時間の個数は、例えば、超音波式物体検出装置1の用途と、バッファメモリに1つの残響時間を格納するのに要する時間と、超音波式物体検出装置1に求められる近距離物体の検出精度とに応じて適宜設定される。近距離物体の検出精度は、バッファメモリのサイズが大きいほど基準残響時間を決定するためのサンプル数が多くなるため高くなる。例えば、超音波式物体検出装置1が自動車に搭載される場合、バッファメモリのサイズは、自動車のイグニションがオンされてから走行が開始されるまでの時間内に残響時間のデータで満たすことができ、かつ、所定の近距離物体の検出精度が得られるサイズであることが好ましい。具体的なバッファメモリのサイズとしては、例えば、2から16である。
【0035】
ステップS2では、ノイズ量計測部11が、間接波受信モード(送信波を送信せず、受信のみ行う)で超音波センサ5により受信した受信ノイズのノイズ量を計測する。具体的には、図4に示す例のように、「間接波受信モードによるノイズ波形のエンベロープ40」からノイズ量の平均値を計測する。
【0036】
ステップS3では、ステップ2で得たノイズ量(平均値)に基づいて、残響時間測定閾値決定部12が残響時間測定閾値を決定する。残響時間測定閾値とは、反射波に含まれる送信波の残響波を検出するための閾値である。残響時間測定閾値決定部12は、ステップ2で得たノイズ量の平均値を乗算設定値で乗算した値を残響時間測定閾値41とする(図4参照)。これにより、残響時間測定閾値41は自動で計算することができる。残響時間
測定閾値41は超音波送受信制御部2がリセットされたときに決定される。再度、残響時間測定閾値41を決定する場合は、超音波送受信制御部2をリセットするか、又は、残響時間測定閾値41と後述するステップS6のバッファメモリのデータを初期化する。乗算設定値は、工場出荷時に定数として持っていてもよく、或いは、自動車などに搭載されている場合にはECUなどの上位制御機器によって適宜設定されてもよい。乗算設定値は、超音波式物体検出装置1の用途と、求められる近距離物体の検出精度とに応じて適宜設定され、例えば、2~32である。
【0037】
ステップS4およびステップS5では、残響時間測定部13は、超音波センサ5により受信した反射波の受信信号と残響時間測定閾値41とを比較して、反射波に含まれる残響波の継続時間である残響時間を測定する。具体的には、超音波センサ5を直接波受信モード(送信波を送信して、反射波の受信を行う)にして得た「近距離に物体がない場合の残響波形のエンベロープ20」または「近距離に物体がある場合の残響波形及びエコー多重反射波形エンベロープ21」(図3参照)の振幅波高値が、残響時間測定閾値41以下になった時間を残響時間とする。
【0038】
ステップS6では、バッファメモリが残響時間で満たされている場合であって、残響時間測定部13にて新たに測定された残響時間が基準残響時間よりも長い場合に、所定の近距離範囲内に物体が存在すると、近距離物体検出部15が判定する。所定の近距離範囲内とは、例えば、物体と超音波センサ5との距離が約10cm未満の場合である。一方、残響時間が基準残響時間以下である場合は、ステップS6では、残響時間をバッファメモリに蓄える。また、バッファメモリが残響時間で満たされていない場合は、残響時間をバッファに蓄える。
【0039】
本実施の形態1では、PGA制御部7がSTC機能を備え、STC機能を有効にした場合に、STC機能によるゲインの増減に合わせて残響時間測定閾値決定部12が残響時間測定閾値41を増減する。STC機能は、PGA制御部7が測定開始からタイマーを動作して、時間に応じて受信回路6の反射波の受信信号を増幅するアンプのゲインを制御する機能である。図5に示す通り、STC機能のゲイン増減に合わせて残響時間測定閾値41を増減すると、STC機能適用後の残響時間測定閾値51となる。
【0040】
従って、本実施の形態1によれば、PGA制御部7のSTC機能によるゲインの増減に合わせて残響時間測定閾値を増減すると、自センサのノイズに影響されることなく残響時間を測定できる。また、PGA制御部7のSTC機能によるゲインの増減に合わせて残響時間測定閾値を増減すると、近距離に存在する小さなエコー波形が飽和せず、高い精度でのTOF測定が可能となる。
【0041】
また、ノイズ量計測手段によって計測されるノイズ量に基づいて残響時間測定閾値を決定し、この残響時間測定閾値を用いてノイズ領域とエコー検出領域を区別できるため、受信ノイズを残響波形であると認識してしまう誤検出を低減させることができ、高い精度での近距離範囲内に存在する物体を検出することが可能となる。
【0042】
さらに、例えば、超音波式物体検出装置1が自動車に搭載されている場合、自動車のECUのような上位制御機器を使わずに、ノイズ量の計算、残響時間測定閾値の決定や増減、残響時間の測定、基準残響時間の決定、及び、近距離物体の検出等が可能なため、ノイズ量の計算の為に大量のエンベロープデータをECUに送信するための時間が不要となり、ECUの処理量を削減し、測定インターバル時間を短縮することが可能となる。
【0043】
(実施の形態2)
次に、本発明に係る実施の形態2について説明する。なお、本実施の形態2において、
実施の形態1と同様の構成については、実施の形態1と同じ符号を用いて詳しい説明を省略する。この実施の形態2では、ノイズ量計測部11が、外来的なノイズにより「一時的なノイズの上昇を検出する閾値」を超えた場合に、ノイズ量の平均値の計測を中止して、その測定におけるステップS5の「残響時間の測定」及びステップS6の「近距離に存在する障害物の判定」を中断する。一時的なノイズの上昇を検出する方法は、例えば、「一時的なノイズの上昇を検出する閾値」を設定して、「ノイズ量の平均値<一時的なノイズの上昇を検出する閾値≦残響時間測定閾値」の条件において、ノイズの振幅波高値が「一時的なノイズの上昇を検出する閾値」を超えたサンプルをカウントして、一定の数を超えた場合に、一時的なノイズの上昇を検出した、と判定してもよい。なお、ノイズ量の平均値が計測されるまで、「一時的なノイズの上昇を検出する閾値」は、工場出荷時に定数としてもよく、或いは、自動車などに搭載されている場合にはECUなどの上位制御機器によって適宜設定されてもよい。
【0044】
本実施の形態2によれば、ノイズ量計測手段において、例えば他センサからの送信波などの非常に大きな振幅を持つ、外来の受信ノイズが、一時的な受信ノイズの上昇を検出する閾値を超えた場合に、残響時間測定手段と近距離物体検出手段の動作が無効になるため、誤検出を低減させることができ、高い精度での残響時間の測定と近距離物体検出が可能となる。
【0045】
(実施の形態3)
次に、本発明に係る実施の形態3について説明する。なお、本実施の形態3において、実施の形態1と同様の構成については、実施の形態1と同じ符号を用いて詳しい説明を省略する。この実施の形態3では、残響時間測定部13は、残響時間の終了後、残響時間の測定を所定時間継続する。これにより、例えば、図6に示すように、残響波形エンベロープとエコーの多重反射波形エンベロープとが重なり、定在波の関係によりノッチ波形Nが発生して、振幅波高値が残響時間測定閾値41以下となり、残響時間が終了したと判断したとしても、前記残響時間の測定を所定時間継続する。その後、所定時間内に振幅波高値が残響時間測定閾値41を超えた場合は、残響時間測定が継続中と判断し、振幅波高値が残響時間測定閾値41を超えることなく所定時間が経過した場合は、残響時間から所定時間を差し引いて、残響時間とする。所定時間は、例えば500usec以下である。
【0046】
本実施の形態3によれば、残響時間が終了したと判断しても、残響時間の測定を所定時間継続するため、残響時間の測定中に残響波と反射波の定在波により一時的にノッチ波形が発生し、残響時間が終了したと判断された場合でも高い精度でノッチ波形以降の残響時間を測定し、近距離範囲内の物体を検出することが可能となる。なお、残響エンベロープに対して、フィルタを使用してノッチ波形対策としてもよい。これにより、位相ずれを気にすることなく、高い精度での近距離物体検出が可能となる。
【0047】
(実施の形態4)
本発明に係る実施の形態4では、前記基準残響時間は、オフセット値を加算して、感度調整を行ってもよい。
【0048】
(実施の形態5)
上述した本実施の形態1~4によれば、高い精度での近距離物体検出が可能となる。さらに、ノイズ量計測手段によって計測されるノイズ量に基づいて、物体検出閾値を決定してもよい。そして物体検出部(図示せず)において、超音波センサ5により受信した反射波の受信信号と物体検出閾値とを比較し、所定の距離範囲内に物体が存在すると物体検出部が判定するように構成してもよい。また、STC機能によるゲインの増減に合わせて物体検出閾値を増減させてもよい。このように構成することで、近距離だけでなく遠距離に存在する物体も高い精度で検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1:超音波式物体検出装置
2:超音波送受信制御部
3:送信信号制御部
4:送信回路
5:超音波センサ
6:受信回路
7:PGA制御部(ゲイン制御手段)
8:AD変換回路
9:超音波エンベロープ波形生成部
10:物体検出部
11:ノイズ量計測部(ノイズ量計測手段)
12:残響時間測定閾値決定部(残響時間測定閾値決定手段)
13:残響時間測定部(残響時間測定手段)
14:基準残響時間決定部(基準残響時間決定手段)
15:近距離物体検出部(近距離物体検出手段)
20:近距離に物体がない場合の残響波形エンベロープ
21:近距離に物体がある場合の残響波形及びエコー多重反射波形エンベロープ
40:間接波受信モードによるノイズ波形のエンベロープ
41:残響時間測定閾値
50:STC適用後の直接波受信モードによる残響波形のエンベロープ
51:STC適用後の残響時間測定閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6