IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KAGAMI株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人医薬基盤研究所の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特開2024-127125癌の種類についての情報を提供する方法、癌の種類についての情報を提供するシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127125
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】癌の種類についての情報を提供する方法、癌の種類についての情報を提供するシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240912BHJP
   G01N 33/70 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036041
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】320003264
【氏名又は名称】KAGAMI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】河嶋 厚成
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】今村 亮一
(72)【発明者】
【氏名】山本 顕生
(72)【発明者】
【氏名】木村 友則
(72)【発明者】
【氏名】三田 真史
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045CB03
2G045DA35
2G045DA36
2G045DA38
2G045DA42
(57)【要約】
【課題】個別の患者が有する癌の種類や治療応答性を見極めることで、治療効果やコスト効率をより向上させる方法が切望されている。
【解決手段】本発明は、対象の癌の種類についての情報を提供する方法であって、
前記対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いて、前記対象における癌の種類の判定を行い、
前記判定の結果に基づき、前記対象の癌の種類についての情報を提供する
ことを含む方法;並びに、その方法を実施する、対象における癌についての情報を提供するシステムを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の癌の種類についての情報を提供する方法であって、
前記対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いて、前記対象における癌の種類の判定を行い、
前記判定の結果に基づき、前記対象の癌の種類についての情報を提供する
ことを含む方法。
【請求項2】
前記対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いて、前記対象における癌の種類と治療応答性についての判定を行い、
前記判定の結果に基づき、前記対象における癌の種類と治療応答性についての情報を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記D-アミノ酸量に関する指標が、前記D-アミノ酸量を、前記対象の生体内物質の量で補正した式又は値である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体内物質がL-アミノ酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記D-アミノ酸量に関する指標が、前記D-アミノ酸量を、前記対象の腎機能に関する指標で補正した式又は値である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記腎機能に関する指標が、クレアチニン、シスタチンC、イヌリンクリアランス、クレアチニンクリアランス、D-アミノ酸クリアランス、尿蛋白、尿中アルブミン、β2-MG、α1-MG、NAG、L-FABP、NGALからなる群から1又は複数選択される因子の量である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記D-アミノ酸が、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、及びD-アスパラギンからなる群から1又は複数選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が、尿路性器癌である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記尿路性器癌が、腎細胞癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、及び前立腺癌からなる群から選択される癌である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記尿路性器癌が、淡明細胞癌、尿路上皮癌、腺癌、及びセミノーマからなる群から選択される癌である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記判定が、前記D-アミノ酸量に関する指標と、癌を有する対象の血液中のD-アミノ酸量から決定された癌の種類の判定値とを比較することにより行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
記憶部と、入力部と、分析測定部と、データ処理部と、出力部とを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実施するためのシステムであって、
前記入力部は、対象からの情報を入力し、
前記分析測定部は、前記入力部から入力された対象からの情報を分析測定することにより、対象のD-アミノ酸量に関する指標を取得し、
前記記憶部は、癌の種類に関する判定値を記憶し、
前記データ処理部は、前記分析測定部で取得された対象の前記指標を、前記記憶部に記憶された判定値と比較することで、前記対象における癌の種類を判定し;
前記出力部は、前記データ処理部による判定の結果を、前記対象における癌の種類に関する情報として出力する
ように構成される、システム。
【請求項13】
前記記憶部は、癌の種類及び治療応答性に関する判定値を記憶し、
前記データ処理部は、前記分析測定部で取得された対象の前記指標を、前記記憶部に記憶された判定値と比較することで、前記対象における癌の種類及び治療応答性を判定し;
前記出力部は、前記データ処理部による判定の結果を、前記対象における癌の種類及び治療応答性に関する情報として出力する
ように構成される、請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の種類についての情報を提供する方法及び癌の種類についての情報を提供するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の遺伝子に何らかの異常が起きることで、正常な制御を受け付けず自律的に増殖する細胞が腫瘍であり、浸潤的に細胞増殖、及び転移するものを癌(悪性腫瘍)という。癌の治療には、手術、放射線療法、化学療法、薬物療法、免疫療法等があり、単独、或いはそれらのいくつかを選択して組合せる集学的治療が行われる。1990年後半からの癌研究の進展により、化学療法、薬物療法においては、癌の性質により効果や副作用等の薬物の反応が異なることが明らかとされ、最適な薬物を選択するための指標(バイオマーカー)が開発されてきた。バイオマーカーには、血液、尿、唾液、細胞・組織等に含まれるタンパク質や遺伝子の変化を調べることで個人の特性やタイプを確認するものや、健康診断や人間ドックで利用される、例えば前立腺癌におけるPSAのような腫瘍マーカー等がある。癌の増殖に関わる分子を標的にした薬剤(分子標的薬)においては、その作用機序に関連して、肺癌のEGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、乳癌や胃癌のHER2タンパク過剰発現等がバイオマーカーとして利用されている。例えば、EGFR遺伝子の変異マーカーは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR阻害薬)の治療効果を予測するために用いられる。免疫チェックポイント阻害剤においては、マイクロサテライト不安定性、Tumor mutation burden,PD-L1陽性率、Epstein-Berr virusがマーカー候補として研究されている。尿路上皮癌のマーカーとしてBTA、NMP22、ImmnoCyt、UroVysion等が臨床使用されているものの、いずれも低感度・低特異度や高コストの問題から臨床ニーズを十分に満たすものが存在しない。
【0003】
近年、キラルアミノ酸を識別して分析する技術の高性能化により、哺乳類をはじめとする生体において微量なD-アミノ酸とL-アミノ酸が識別された定量的な研究が進展したことで、従来の技術的限界により総アミノ酸(D-アミノ酸+L-アミノ酸)、又は便宜的にL-アミノ酸として取り扱われてきた一部のD-アミノ酸の存在や機能が明らかになってきている。D-アミノ酸は、摂取、共生細菌、代謝(分解、合成)、輸送、排泄等(特許文献3、非特許文献1~5)の影響により生体、組織、細胞、体液中の量が変化すること、そして腎臓病等、体調や疾患によって特徴的なキラルアミノ酸プロファイルを示すこと(特許文献1)、さらには、D-アミノ酸の腸管における免疫への関与(非特許文献6)や、腎臓由来細胞を保護する現象(非特許文献2)、神経細胞において糖質代謝がD-セリンの生合成に関与している報告がある(非特許文献7)。癌患者の血液においては、腎臓癌で、D-セリン、D-スレオニン、D-アラニン、D-アスパラギン、D-アロ-スレオニン、D-グルタミン、D-プロリン、D-フェニルアラニン、前立腺癌で、D-ヒスチジン、D-アスパラギン、肺癌で、D-アラニンが変動することが開示されている(特許文献1)。しかしながら、D-アミノ酸量に基づいて、癌種間におけるプロファイルに関する評価は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/140785号
【特許文献2】特許4857071号公報
【特許文献3】国際公開第2020/196436号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Miyoshi, R. Konno, J. Sasabe, K. Ueno, Y. Tojo, M. Mita, S. Aiso and K. Hamase, Alteration of intrinsic amounts of D-serine in the mice lacking serine racemase and D-amino acid oxidase, Amino Acids, 43, 1919-1931 (2012). DOI: 10.1007/s00726-012-1398-4
【非特許文献2】Y. Nakade, Y. Iwata, K. Furuichi, M. Mita, K. Hamase, R. Konno, T. Miyake, N. Sakai, S. Kitajima, T. Toyama, Y. Shinozaki, A. Sagara, T. Miyagawa, A. Hara, M. Shimizu, Y. Kamikawa, K. Sato, M. Oshima, S. Yoneda-Nakagawa, Y. Yamamura, S. Kaneko, T. Miyamoto, M. Katane, H. Homma, H. Morita, W. Suda, M. Hattori and T. Wada, Gut microbiota-derived D-serine protects against acute kidney injury, JCI Insight, 3 (20) (2018). DOI: 10.1172/jci.insight.97957
【非特許文献3】M. Ariyoshi, M. Katane, K. Hamase, Y. Miyoshi, M. Nakane, A.Hoshino, Y. Okawa, Y. Mita, S. Kaimoto, M. Uchihashi, K. Fukai, K. Ono, S. Tateishi, D. Hato, R. Yamanaka, S. Honda, Y. Fushimura, E. Iwai-Kanai, N. Ishihara, M. Mita, H. Homma and S. Matoba, D-Glutamate is metabolized in the heart mitochondria, Scientific Reports, 7, 43911 (2017). DOI: 10.1038/srep43911
【非特許文献4】P. Wiriyasermkul, S. Moriyama, Y. Tanaka, P. Kongpracha, N. Nakamae, M. Suzuki, T. Kimura, M. Mita, J. Sasabe and S. Nagamori, D-Serine, an emerging biomarker of kidney diseases, is a hidden substrate of sodium-coupled monocarboxylate transporters, bioRxiv preprint. DOI: 10.1101/2020.08.10.244822
【非特許文献5】A. Hesaka, S. Sakai, K. Hamase, T. Ikeda, R. Matsui, M. Mita, M. Horio, Y. Isaka and T. Kimura, D-Serine reflects kidney function and diseases, Scientific Reports, 9, 5104 (2019). DOI: 10.1038/s41598-019-41608-0
【非特許文献6】J. Sasabe, Y. Miyoshi, S. Rakoff-Nahoum, T. Zhang, M. Mita, B.M. Davis, K. Hamase and M.K. Waldor, Interplay between microbial D-amino acids and host D-amino acid oxidase modifies murine mucosal defence and gut microbiota, Nature Microbiology, 1, 16125 (2016). DOI: 10.1038/nmicrobiol.2016.125
【非特許文献7】M. Suzuki, J. Sasabe, Y. Miyoshi, K. Kuwasako, Y. Muto, K. Hamase, M. Matsuoka, N. Imanishi and S. Aiso, Glycolytic flux controls D-serine synthesis through glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase in astrocytes, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 112 (17), E2217-E2224 (2015). DOI: 10.1073/pnas.1416117112
【非特許文献8】N. Okamoto, Y. Miyagi, A. Chiba, M. Akaike, M. Shiozawa, A. Imaizumi, H. Yamamoto, T. Ando, M. Yamakado and O. Tochikubo, Diagnostic modeling with differences in plasma amino acid profiles between non-cachectic colorectal/breast cancer patients and healthy individuals, International Journal of Medicine and Medical Sciences, 1 (1), 001-008 (2009). DOI: 10.5897/IJMMS.9000074
【非特許文献9】岡本直幸,「アミノインデックス技術」を用いたがんスクリーニング,人間ドック,26 (3), 454-466 (2011).DOI:10.11320/ningendock.26.454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
癌は、死因順位第一位の疾患であり、手術、放射線療法、化学療法、薬物療法、免疫療法等の治療法それぞれに多くの選択肢が存在するが、個別の患者が有する癌の種類や治療応答性を見極めることで、治療効果やコスト効率をより向上させる方法が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、癌患者の血液中のキラルアミノ酸(D-アミノ酸とL-アミノ酸)を網羅的に定量し解析したところ、癌の種類や治療応答性と、血液中のキラルアミノ酸量に関連があることを発見した。その関連について鋭意研究を行った結果、D-アミノ酸量に関する指標を開発することで、臨床における癌の種類や治療応答性の判定における臨床上の有用性を見出し、課題の解決法を提供する本発明に至った。即ち本発明は以下の発明を包含する。
【0008】
[1] 対象の癌の種類についての情報を提供する方法であって、
前記対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いて、前記対象における癌の種類の判定を行い、
前記判定の結果に基づき、前記対象の癌の種類についての情報を提供する
ことを含む方法。
[2] 前記対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いて、前記対象における癌の種類と治療応答性についての判定を行い、
前記判定の結果に基づき、前記対象における癌の種類と治療応答性についての情報を提供する、項目1に記載の方法。
[3] 前記D-アミノ酸量に関する指標が、前記D-アミノ酸量を、前記対象の生体内物質の量で補正した式又は値である、項目1又は2に記載の方法。
[4] 前記生体内物質がL-アミノ酸である、項目3に記載の方法。
[5] 前記D-アミノ酸量に関する指標が、前記D-アミノ酸量を、前記対象の腎機能に関する指標で補正した式又は値である、項目1又は2に記載の方法。
[6] 前記腎機能に関する指標が、クレアチニン、シスタチンC、イヌリンクリアランス、クレアチニンクリアランス、D-アミノ酸クリアランス、尿蛋白、尿中アルブミン、β2-MG、α1-MG、NAG、L-FABP、NGALからなる群から1又は複数選択される因子の量である、項目5に記載の方法。
[7] 前記D-アミノ酸が、D-プロリン、D-セリン、D-アラニン、及びD-アスパラギンからなる群から1又は複数選択される、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記癌が、尿路性器癌である、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
[9] 前記尿路性器癌が、腎細胞癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、及び前立腺癌からなる群から選択される癌である、項目8に記載の方法。
[10] 前記尿路性器癌が、淡明細胞癌、尿路上皮癌、腺癌、及びセミノーマからなる群から選択される癌である、項目8に記載の方法。
[11] 前記判定が、前記D-アミノ酸量に関する指標と、癌を有する対象の血液中のD-アミノ酸量から決定された癌の種類の判定値とを比較することにより行われる、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
[12] 記憶部と、入力部と、分析測定部と、データ処理部と、出力部とを含む、項目1~11のいずれか一項に記載の方法を実施するためのシステムであって、
前記入力部は、対象からの情報を入力し、
前記分析測定部は、前記入力部から入力された対象からの情報を分析測定することにより、対象のD-アミノ酸量に関する指標を取得し、
前記記憶部は、癌の種類に関する判定値を記憶し、
前記データ処理部は、前記分析測定部で取得された対象の前記指標を、前記記憶部に記憶された判定値と比較することで、前記対象における癌の種類を判定し;
前記出力部は、前記データ処理部による判定の結果を、前記対象における癌の種類に関する情報として出力する
ように構成される、システム。
[13] 前記記憶部は、癌の種類及び治療応答性に関する判定値を記憶し、
前記データ処理部は、前記分析測定部で取得された対象の前記指標を、前記記憶部に記憶された判定値と比較することで、前記対象における癌の種類及び治療応答性を判定し;
前記出力部は、前記データ処理部による判定の結果を、前記対象における癌の種類及び治療応答性に関する情報として出力する
ように構成される、項目12に記載のシステム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、癌を有する対象のD-アミノ酸量に関する指標を用いて癌の種類を判定し、個人レベルで最適な治療法について分析・抽出・検討・選択・提供することで、その効果や副作用を制御できるようになることから、患者のQOLの向上、医療費の軽減に資するプレシジョン・メディシンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】健常者及び尿路性器癌を有する対象(テスト及び検証コホート)から採取された血液中のD-アミノ酸量についてのグラフ
図2-1】血液中のD-アミノ酸量及びアミノ酸のD/L比を説明変数とし、対象の癌の種類(尿路上皮癌と前立腺癌)を判別するROC曲線(Youden index 1.5以上)
図2-2】同上。
図2-3】同上。
図2-4】同上。
図2-5】同上。
図2-6】同上。
図2-7】同上。
図2-8】同上。
図3-1】血液中のD-アミノ酸量及びアミノ酸のD/L比を説明変数とし、対象の癌の種類(尿路上皮癌と腎細胞癌)を判別するROC曲線(Youden index 1.5以上)
図3-2】同上。
図3-3】同上。
図3-4】同上。
図3-5】同上。
図3-6】同上。
図3-7】同上。
図3-8】同上。
図4-1】血液中のD-アミノ酸量及びアミノ酸のD/L比を説明変数とし、対象の癌の種類(腎細胞癌と前立腺癌)を判別するROC曲線(Youden index 1.5以上)
図4-2】同上。
図4-3】同上。
図4-4】同上。
図4-5】同上。
図4-6】同上。
図4-7】同上。
図4-8】同上。
図4-9】同上。
図4-10】同上。
図4-11】同上。
図4-12】同上。
図5】血漿中のD-アラニン量の低値群と高値群における、尿路性器癌を有する対象の抗PD-1抗体製剤投与における無増悪生存期間及び癌疾患特異的生存期間の生存曲線
図6】本発明のシステムの構成の一例を示すブロック図
図7】本発明のシステムによる処理(本発明の方法)の一例を模式的に示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。なお、本明細書で引用されている先行技術文献は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0012】
本明細書において、アミノ酸及び結合型アミノ酸の残基は、当業者に周知の三文字略称で表す場合がある。本明細書において使用する主な略称を以下の表に示す。
【表1】
【0013】
本発明は、癌に対する新しい評価・アプローチである、血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いることで、診断の精度を向上させ、適切な治療手段の選択を補助する方法を提供する。
【0014】
一実施態様において、本発明は、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いる、前記対象における癌の種類についての情報を提供する方法を提供し得る。また、一実施態様において、本発明は、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いる、前記対象における癌の種類と治療応答性についての情報を提供する方法を提供し得る。即ち、一実施態様において、本発明は、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いる、前記対象における癌についての情報を提供する方法であって、
前記情報が:
前記対象における癌の種類;及び
前記対象の治療応答性;
からなる群から選択される、方法を提供する。
【0015】
本明細書において、「癌」及び「癌の種類」とは特に限定されないが、例えば、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病)、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(例えば、成人T細胞白血病、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫))、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、頭頸部癌、消化器癌(例えば、食道癌、食道腺癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌)、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、甲状腺癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(例えば、扁平上皮非小細胞肺癌、非扁平上皮非小細胞肺癌)、小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌(例えば、漿液性卵巣癌)、子宮頚癌、子宮体癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰部癌、腎癌(例えば、腎細胞癌)、尿路上皮癌(例えば、膀胱癌、上部尿路癌)、前立腺癌、精巣腫瘍(例えば、胚細胞腫瘍)、骨・軟部肉腫、皮膚癌(例えば、ブドウ膜悪性黒色腫、悪性黒色腫、メルケル細胞癌)、神経膠腫、脳腫瘍(例えば、膠芽腫)、胸膜中皮腫及び原発不明癌)が挙げられ、それぞれ悪性腫瘍でも良性腫瘍でもよい。本発明を適用可能な癌はいずれでもよく、好ましくは、尿路性器癌である。限定されるわけではないが、本発明を用いることで、例えば、尿路性器癌のいずれに罹患しているのかを鑑別することができ、例えば、腎細胞癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、及び前立腺癌からなる群から選択される尿路性器癌、及び、淡明細胞癌、尿路上皮癌、腺癌、及びセミノーマからなる群から選択される尿路性器癌のいずれに罹患しているのかを鑑別できる。
【0016】
本明細書において、「D-アミノ酸」とは、「L体」のタンパク質構成アミノ酸の立体異性体である「D体」のタンパク質構成アミノ酸、及び、立体異性体を有さないグリシンを含む意味で用いられ、具体的には、グリシン、D-アラニン、D-ヒスチジン、D-イソロイシン、D-アロ-イソロイシン、D-ロイシン、D-リシン、D-メチオニン、D-フェニルアラニン、D-スレオニン、D-アロ-スレオニン、D-トリプトファン、D-バリン、D-アルギニン、D-システイン、D-グルタミン、D-プロリン、D-チロシン、D-アスパラギン酸、D-アスパラギン、D-グルタミン酸、及びD-セリンを含むものをいう。なお、生物試料に含まれるD-システインは、生体外においては、酸化されてD-シスチンと変化するため、本発明の一実施態様において、D-システインの代わりにD-シスチンを測定することで生物試料に含まれるD-システインの量を算出することができる。
【0017】
本明細書において、「血液中のD-アミノ酸量」とは、特定の血液量中のD-アミノ酸量のことをいい、濃度で表されてもよい。血液中のD-アミノ酸量は、採取された血液において、遠心分離、沈降分離、或いは分析のための前処理が行われた試料における量として測定される。従って、血液中のD-アミノ酸量は、採取された全血、血清、血漿等の血液に由来する血液試料における量として測定され得る。一例として、HPLCを用いた分析の場合、所定量の血液に含まれるD-アミノ酸量は、クロマトグラムで表され、ピークの高さ・面積・形状について標準品との比較やキャリブレーションによる解析によって定量され得る。
【0018】
D-アミノ酸量及び/又はL-アミノ酸量は、任意の方法によって測定することができ、例えばキラルカラムクロマトグラフィー法や、酵素法を用いた測定、さらにはアミノ酸の光学異性体を識別するモノクローナル抗体を用いる免疫学的手法によって定量することができる。本発明における試料中のD-アミノ酸量及び/又はL-アミノ酸量の測定は、当業者に周知ないかなる方法を用いて実施しても構わない。例えば、以下のクロマトグラフィー法や酵素法(Y. Nagata et al., Clinical Science, 73 (1987), 105. Analytical Biochemistry, 150 (1985), 238., A. D'Aniello et al., Comparative Biochemistry and Physiology Part B, 66 (1980), 319. Journal of Neurochemistry, 29 (1977), 1053., A. Berneman et al., Journal of Microbial & Biochemical Technology, 2 (2010), 139., W. G. Gutheil et al., Analytical Biochemistry, 287 (2000), 196., G. Molla et al., Methods in Molecular Biology, 794 (2012), 273., T. Ito et al., Analytical Biochemistry, 371 (2007), 167. 等)、抗体法(T. Ohgusu et al., Analytical Biochemistry, 357 (2006), 15.,等 )、ガスクロマトグラフィー(GC)(H. Hasegawa et al., Journal of Mass Spectrometry, 46 (2011), 502., M. C. Waldhier et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 394 (2009), 695., A. Hashimoto, T. Nishikawa et al., FEBS Letters, 296 (1992), 33., H. Bruckner and A. Schieber, Biomedical Chromatography, 15 (2001), 166. , M. Junge et al., Chirality, 19 (2007), 228., M. C. Waldhier et al., Journal of Chromatography A, 1218 (2011), 4537. 等)、キャピラリー電気泳動法(CE)(H. Miao et al., Analytical Chemistry, 77 (2005), 7190., D. L. Kirschner et al., Analytical Chemistry, 79 (2007), 736., F. Kitagawa, K. Otsuka, Journal of Chromatography B, 879 (2011), 3078., G. Thorsen and J. Bergquist, Journal of Chromatography B, 745 (2000), 389. 等)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(N. Nimura and T. Kinoshita, Journal of Chromatography, 352 (1986), 169., A. Hashimoto et al., Journal of Chromatography, 582 (1992), 41., H. Bruckner et al., Journal of Chromatography A, 666 (1994), 259., N. Nimura et al., Analytical Biochemistry, 315 (2003), 262., C. Muller et al., Journal of Chromatography A, 1324 (2014), 109., S. Einarsson et al., Analytical Chemistry, 59 (1987), 1191., E. Okuma and H. Abe, Journal of Chromatography B, 660 (1994), 243., Y. Gogami et al., Journal of Chromatography B, 879 (2011), 3259., Y. Nagata et al., Journal of Chromatography, 575 (1992), 147., S. A. Fuchs et al., Clinical Chemistry, 54 (2008), 1443., D. Gordes et al., Amino Acids, 40 (2011), 553., D. Jin et al., Analytical Biochemistry, 269 (1999), 124., J. Z. Min et al., Journal of Chromatography B, 879 (2011), 3220., T. Sakamoto et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 408 (2016), 517., W. F. Visser et al., Journal of Chromatography A, 1218 (2011), 7130., Y. Xing et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, 408 (2016), 141., K. Imai et al., Biomedical Chromatography, 9 (1995), 106., T. Fukushima et al., Biomedical Chromatography, 9 (1995), 10., R. J. Reischl et al., Journal of Chromatography A, 1218 (2011), 8379., R. J. Reischl and W. Lindner, Journal of Chromatography A, 1269 (2012), 262., S. Karakawa et al., Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 115 (2015), 123., Hamase K, et al.,Chromatography 39 (2018) 147-152 等)がある。
【0019】
本発明において適用可能な光学異性体の分離分析系は、複数の分離分析を組み合わせてもよい。具体例として、光学異性体を有する成分を含む試料を、移動相としての第一の液体と共に、固定相としての第一のカラム充填剤に通じて、前記試料の前記成分を分離するステップ、前記試料の前記成分の各々をマルチループユニットにおいて個別に保持するステップ、前記マルチループユニットにおいて個別に保持された前記試料の前記成分の各々を、移動相としての第二の液体と共に、固定相としての光学活性中心を有する第二のカラム充填剤に流路を通じて供給し、前記試料の成分の各々に含まれる前記光学異性体を分割するステップ、及び前記試料の成分の各々に含まれる前記光学異性体を検出するステップを含むことを特徴とする光学異性体の分析方法を用いることにより、試料中のD-アミノ酸量及び/又はL-アミノ酸量を測定することができる(例えば、特許第4291628号公報を参照のこと。)。HPLC分析では、予めo-フタルアルデヒド(OPA)や4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-F)のような蛍光試薬でD-及びL-アミノ酸を誘導体化したり、N-tert-ブチルオキシカルボニル-L-システイン(Boc-L-Cys)等を用いてジアステレオマー化する場合がある(例えば、浜瀬健司及び財津潔、分析化学、53巻、677-690(2004)を参照のこと。)。代替的には、アミノ酸の光学異性体を識別するモノクローナル抗体、例えば、D-アミノ酸又はL-アミノ酸等に特異的に結合するモノクローナル抗体を用いる免疫学的手法によってD-アミノ酸及び/又はL-アミノ酸を測定することができる。また、D-アミノ酸及びL-アミノ酸の合計量を指標とする場合、D-アミノ酸及びL-アミノ酸を分離して分析する必要はなく、D-アミノ酸及びL-アミノ酸を区別せずにアミノ酸を分析することもできる。その場合も酵素法、抗体法、GC、CE、HPLCで分離及び定量することができる。
【0020】
本発明において、D-アミノ酸、L-アミノ酸、クレアチニン、タンパク質等の生体分子や薬剤の量は、単なる質量、重量、物質量(mol)のみならず、組織、細胞、器官、若しくは分子ユニット単位や、体積若しくは重量当たりの質量、重量又は物質量(mol)、血液や尿のような液体中の質量、重量、物質量(mol)、濃度、比重、又は密度等、計測され得る任意の物理量で表現されてもよい。
【0021】
本明細書において、「D-アミノ酸量に関する指標」とは、測定されたD-アミノ酸量の値や、D-アミノ酸クリアランス、D-アミノ酸排泄率(特許文献3、非特許文献5)、さらにD-アミノ酸量を説明変数とし目的に応じて補正された式や値、又は設定された式より算出される値のことであり、対象において測定されたものをD-アミノ酸量に関する指標における検査値という。一実施態様において、血液中のD-アミノ酸量は、生理的変動要因、例えば、年齢、性別、BMI等で補正したものを用いてもよい。また、D-アミノ酸の動態が腎臓の働きの影響を受ける場合、腎機能の指標で補正したものを用いてもよい。限定を意図するものではないが、腎機能の指標として、クレアチニン、シスタチンC、イヌリンクリアランス、クレアチニンクリアランス、D-アミノ酸クリアランス、尿蛋白、尿中アルブミン、β2-MG、α1-MG、NAG、L-FABP、NGAL、糸球体濾過量、推算糸球体濾過量(eGFR)等から一つ、又は複数選択することができ、具体例として、D-アミノ酸量/クレアチニン量比が挙げられる。さらに、神経変性疾患(ALS等)、自己免疫疾患(多発性硬化症等)等で体内のD-アミノ酸が変動していることが知られていることから(特許文献1~2)、それぞれの疾患の変動要因やマーカーで補正することもできる。
【0022】
D-アミノ酸量に関する指標による「癌の種類の判定」とは、その指標の判定値(本明細書において「基準範囲」又は「臨床判断値」ともいう。)を用いて実施され得る。本発明において用いられる得る判定値(基準範囲又は臨床判断値)は、一実施態様として、特定の癌種を有する対象の検査値分布の中央の一般に95%区間として設定されるが、目的に応じて任意の区間を設定することもできる。判定値は、特定の癌種について、その診断、鑑別、予防や治療、予後について判定を行う基準で、診断閾値、治療閾値、予防医学閾値がある。これらの閾値(カットオフ値)は、ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve)、多変量ロジスティック回帰モデル、Cox比例ハザードモデル等を用いた予測能・判定能に関する解析データや結果が利用され、症例対照研究、臨床医学の経験則、症例集積研究、コホート研究、専門家による合意等により設定され得る。一実施態様において、例えば、判定を必要とする対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標と、特定の癌を有する対象群の血液中のD-アミノ酸量から決定された判定値とを比較することにより、前記対象における癌の種類の鑑別に関する判定結果を提供することができる。具体的には、前記対象が癌に罹患しており、前記癌が特定の種類の癌である、若しくは前記癌が特定の癌ではない、等の情報を得ることができる。前記対象には癌の疑いがあるが癌を有さない対象も含まれる。
【0023】
限定されるわけではないが、本発明において、癌の種類の鑑別に用いられる判定値(「基準範囲」又は「臨床判断値」)は、例えば、鑑別を必要とする特定の癌種を有する第1の対象群と、前記第1の対象群とは別の癌種を有する第2の対象群について、それぞれの血液中のD-アミノ酸量に関する指標の比較から導き出されるものであってもよい。限定されるわけではないが、例えば、腎細胞癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、及び前立腺癌からなる群から選択される尿路性器癌、及び淡明細胞癌、尿路上皮癌、腺癌、及びセミノーマからなる群から選択される尿路性器癌のいずれに罹患しているのかを鑑別できる。
【0024】
対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を所定の判定値と比較する方法は特に限定されない。例えば、判定値を血液中のD-アミノ酸量に関する指標の上限値として用い、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標が、当該判定値と同値以上となるか否か、或いは当該判定値を上回るか否か、等を基準として判定を行うことができる。或いは、判定値を血液中のD-アミノ酸量に関する指標の下限値として用い、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標が、当該判定値と同値以下となるか否か、或いは当該判定基準値を下回るか否か、等を基準として判定を行うことができる。一方、判定値として判定基準範囲を用いる場合には、例えば、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標が、当該判定基準範囲内に収まっているか、当該判定基準範囲を上回るか、それとも当該判定基準範囲を下回るか、等を基準として判定を行うことができる。
【0025】
本発明の方法では、判定値として、単一の判定値又は判定基準範囲を使用してもよく、複数の判定値又は判定基準範囲を併用してもよく、1又は2以上の判定値と1又は2以上の判定基準範囲とを併用してもよい。
【0026】
本明細書において「治療応答性」とは、疾患や治療について、その後の経過や見通し(予後)を予測・推定することを可能とする患者の病状や病態等の性質をいう。治療応答性には、薬剤に対する反応(効果、副作用)、機能年齢、がん悪液質の程度、脂肪の性状等があり、癌を有する対象の臓器等の機能予後、死亡推定の生命予後や、腫瘍の縮小、増大、転移、再発等について、それぞれの評価項目の変数(パラメータ)や単位で予測・推定することができる。一般に、治療の目的に対して効果を奏した程度により治療応答性が有る又は良い又は高いといい、治療の目的に対して効果が小さい若しくは目的としない又は反する作用(例えば、副作用)を呈した程度により治療応答性が無い又は悪い又は低いという。具体的には、抗癌剤を投与する治療により生存期間が延長した場合は治療応答性が高い、生存期間が延長しなかった或いは縮小した場合は、治療応答性が低いということができる。また、判定された「治療応答性」により、特定の疾患を診断された対象において、手術、放射線療法、化学療法、薬物療法、免疫療法、食事療法、運動療法等や、さらにそれぞれの技術(例えば、術式、投与法等)から最適な手段を選んだり、或いはその優先度を決定すること、また、所定の治療手段の選択が好適になるように対象に処置を加えることができる。その基準や目的として、疾患の治癒、症状の軽減又は排除、疾患の進行の停止又は減速、疾患又は症状の予防、基礎疾患の悪化抑制、副作用の回避又は最小化、費用対効果、QOLの向上・維持等がある。一実施態様において、例えば、前記指標と、治療応答性についての情報を備えた癌を有する対象の血液中のD-アミノ酸量から決定された判定値とを比較することにより、前記対象における患者の治療応答性についての情報を提供することができる。
【0027】
本発明では、所定の臨床検査により癌の疑いや癌の診断を有する対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用い、癌の種類を判定することができる。癌の種類により対象の血液中のD-アミノ酸及び、L-アミノ酸のプロファイルが異なることを利用し、一実施態様として、D-アミノ酸量に関する指標について、対象の検査値と予め設定されたD-アミノ酸量に関する指標の判定値(基準範囲又は臨床判断値)と比較することによって、癌の種類を判定し得る。腫瘍マーカー(例えば、尿路性器癌では、AFP、hCG、LDH、PSA等)は、癌細胞がつくる物質又は患者の細胞が腫瘍に反応してつくる物質であり、その検査が腫瘍の診断や再発、転移、治療効果の判定等に用いられるが、健常者や良性疾患でも陽性を呈する場合があることが問題となっていた。血液中のD-アミノ酸量は、その摂取、吸収、輸送、分布、代謝(合成・分解)、排泄、作用等の一部が癌による影響を受け変動することから、血液中のD-アミノ酸量に関する指標における検査値の変動は、従来の腫瘍マーカーの変動と原理的に異なるため、癌の種類の判定における有用性が高い。対象の症状等から癌の疑いがあるが、所定の検査において癌の種類が判定できない場合は、D-アミノ酸量に関する指標を用いて、例えば、腎細胞癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍等の種類の判定をすることもできる。アミノインデックス(登録商標)検査(非特許文献8~9)は立体異性体を識別しないアミノ酸量に基づいた検査であり、遺伝子に関連する検査は遺伝子型(genotype)に基づいた検査であることから、D-アミノ酸とL-アミノ酸を識別し、疾患状態の表現型(phenotype)を検査することができるD-アミノ酸量に関する指標はそれらと異なる特徴を有し、癌の種類の検査結果の真偽判定にも効果を奏する。
【0028】
別の態様では、本発明により提供され得る判定結果を利用し、癌の種類のスクリーニングやその病態の診断に用いてもよい。さらに別の態様では癌の種類の判定結果を、薬剤開発における効果・副作用・副反応のスクリーニングや治験の判定、代替的なエンドポイント等に用いることができる。癌の種類の判定を行う場合、D-アミノ酸種、L-アミノ酸種や補正因子、指標は一又は複数用いることができ、同時に複数の指標セットを用いてパネル検査に供してもよい。対象の検体は所定の検査と同一のものを用いてもよく、癌に対する応答や特性に関連して別のタイミングで採取されたものでもよい。また、対象はヒトを含む哺乳類、癌細胞の移植や遺伝子改変や薬剤により癌を誘発させた動物でもよく、所定の癌モデルとなる個体、細胞、組織、オルガノイド等でもよい。
【0029】
本発明では、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いることで、対象の治療応答性の判定をすることができる。
【0030】
本発明は、所定の判定値(基準範囲又は臨床判断値)と、対象における検査値の比較により実施されることから、医師による判断を含まず、検証の結果に基づく医師の診断精度の向上を目的とした診断の予備方法、又は診断の補助方法である。この方法は、医師でない者、例えば、臨床検査・健康診断・データ処理業者、分析・解析システム、及び分析・解析プログラムにより実施され得る。
【0031】
一実施態様において、本発明では、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用い、癌の種類や治療応答性を判定するための情報を提供する。治療における癌の応答や予後に関連して、対象の血液中のD-アミノ酸及び、L-アミノ酸のプロファイルが異なることを利用し、D-アミノ酸量に関する指標について予め設定された判定値(基準範囲又は臨床判断値)と対象の検査値を比較することによって手術、放射線療法、化学療法、薬物療法、免疫療法、食事療法、運動療法等から最適な手段を選択したり、或いはその優先度の決定について補助する。化学療法は、抗癌剤を用いて癌を治療することであり、手術や放射線療法が局所的な効果であることと比較して、全身等の、より広範囲の部位で効果が得られる。早期癌、進行癌では外科的治療(縮小手術、定型手術、拡大手術等)、内視鏡的治療が選択されることが多いが、手術と併用して化学療法を実施する場合もある。手術前の化学療法は癌の縮小によって出血や体への負担を軽減することが目的であり、手術後は残存癌の再発・転移・増殖を抑制することが目的となる。切除不能例では、化学療法が選択されるが、別の態様では、D-アミノ酸量に関する指標によって、最適な薬剤を選択したり、或いはその優先度の決定について補助するための情報を提供し得る。具体例として、D-アミノ酸量に関する指標について、予め所定の薬剤の効果や副作用、副反応に関する判定値(基準範囲又は臨床診断値)を設定し、対象の検査値と比較することにより、薬剤投与の可否を検討することができる。さらに、別の態様では、D-アミノ酸量に関する指標によって薬剤投与後の効果や副作用、副反応を予測、判定したり、投与の継続や中止、或いは投与量や投与タイミングの決定について補助するための情報を提供し得る。ここで使用される薬剤として、以下に限定されるわけではないが、抗悪性腫瘍薬として、例えば、代謝拮抗薬(メトトレキサート、フルオロウラシル(5-FU)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合(S-1)、ゲムシタビン塩酸塩(GEM)、レボホリナートカルシウム(l-LV)、ホリナートカルシウム(LV)、テガフール・ウラシル配合、カペシタビン、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合等)、白金製剤(シスプラチン(CDDP)、オキサリプラチン、ミリプラチン水和物等)、アントラサイクリン系(ドキソルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩等)、トポイソメラーゼ阻害薬(エトポシド、イリノテカン塩酸塩水和物等)、微小管阻害薬(ビンブラスチン塩酸塩、パクリタキセル、ドセタキセル水和物等)、アルキル化薬(ストレプトゾシン等)、分子標的薬(抗VEGF抗体製剤:ベバシズマブ等、抗EGFR抗体製剤:セツキシマブ、パニツムマブ等、抗HER2抗体製剤:トラスツズマブ等、抗VEGFR抗体製剤:ラムシルマブ等、BCR/ABL阻害薬:イマチニブメシル酸塩等、マルチキナーゼ阻害薬:スニチニブリンゴ酸塩、レゴラフェニブ水和物、ソラフェニブトシル酸塩、レンバチニブメシル酸塩等、EGFR阻害薬:エルロチニブ塩酸塩等、VEGF阻害薬:アフリベルセプトベータ等、mTOR阻害薬:エベロリムス、テムシロリムス等、血管新生阻害剤:スニチリブリンゴ酸塩、ソラフェニブトシル酸塩等、葉酸拮抗薬:メトトレキサート等、免疫チェックポイント阻害薬(例えば、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG-3、TIM3、BTLA、B7H3、B7H4、2B4、CD160、A2aR、KIR、VISTA及びTIGITからなる群から選択される免疫チェックポイント分子の阻害薬、例えば、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ等)、抗腫瘍性抗生物質(マイトマイシンC、ブレオマイシン等)、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、プデソニド等)、非特異的免疫賦活薬(乾燥BCG・コンノート株、日本株等)、エチニルエストラジオール系製剤(エストロゲン等)、ステロイド性抗アンドロゲン薬(卵胞・黄体ホルモン製剤:クロルマジノン酢酸エステル、アリルエストレノール等)、非ステロイド性抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、フルタミド等)、5α還元酵素阻害薬(デュタステリド等)、LHRHアゴニスト(リュープロレリン酢酸塩、ゴセレリン酢酸塩等)、アルキル化薬(エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物等)、インターロイキン2(テセロイキン等)、インターフェロン製剤(インターフェロンアルファ、インターフェロンアルファ2b等)、漢方薬等が用いられ得る。代表的なレジメンとして腎細胞癌ではニボルマブ・イピリムマブ療法、ペムブロリズマブ・アキシチニブ療法、ニボルマブ・カボサンチニブ療法、ペムブロリズマブ・レンバチニブ療法、アベルマブ・アキシチニブ療法、前立腺癌ではドセタキセル療法、カバジタキセル療法、膀胱癌ではドキソルビシン療法、イムノブラダー療法、ドキソルビシン療法、エピルビシン療法、シスプラチン・エピルビシン療法、ゲムシタビン・シスプラチン療法、ddMVAC療法、尿路上皮癌ではGEM・CBDCA療法、エンホルツマブ・ペドチン療法、アベルマブ療法等があり、対象の遺伝子検査やタンパク質検査の結果によって分子標的薬が、治療効果によって微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬が併用されるが、本発明の一実施態様では、その選択に必要な情報を提供することができる。一例として、D-アミノ酸量に関する指標における検査値が、免疫チェックポイント阻害薬の適用が好適と判断される範囲に含まれる場合は、治療効果の向上を目的とした治療方針において、免疫チェックポイント阻害薬の選択、優先度、投与タイミングの切り替え等に必要な情報を提供することができる。
【0032】
本発明の別の態様では、上記の対象における癌についての情報を提供する方法を実行するシステム又はプログラムを提供する。例えば、本発明は、
前記入力部は、対象からの情報を入力し、
前記分析測定部は、前記入力部から入力された対象からの情報を分析測定することにより、対象のD-アミノ酸量に関する指標を取得し、
前記記憶部は、癌の種類及び/又は治療応答性に関する判定値を記憶し、
前記データ処理部は、前記分析測定部で取得された対象の前記指標を、前記記憶部に記憶された判定値に基づいて処理することにより、前記対象における癌の種類及び/又は治療応答性を判定し;
前記出力部は、前記データ処理部による判定の結果を、前記対象における癌の種類及び/又は治療応答性に関する情報として出力する
ように構成される、システムを提供する。
【0033】
図6は、本発明のシステムの構成の一例を模式的に示すブロック図である。但し、図6に示す構成はあくまでも一例であり、本発明のシステムの構成はこれに何ら限定されるものではない。図6に示す試料分析システム10は、本発明の方法を実施することができるように構成される。このような試料分析システム10は、記憶部11と、入力部12と、分析測定部13と、データ処理部14と、出力部15とを含んでおり、血液試料を分析し、対象における癌についての情報を出力することができる。
【0034】
より具体的に、本発明の試料分析システム10において、記憶部11は、癌の種類及び/又は治療応答性に関する判定値を含む種々の情報を記憶するように構成される。入力部12は、対象からの情報を含む種々の情報を入力できるように構成される。分析測定部13は、対象からの情報を分析測定することにより、対象のD-アミノ酸量に関する指標を取得する等、種々の分析測定を実施できるように構成される。データ処理部14は、対象のD-アミノ酸量に関する指標を前記判定値に基づいて処理することにより、対象の癌の種類及び/又は治療応答性についての判定を実施する等、種々の演算処理を実施できるように構成される。出力部15は、癌の種類及び/又は治療応答性に関する情報を含む種々の情報を出力できるように構成される。
【0035】
記憶部11は、例えばRAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置等を有する。記憶部11は、分析測定部13で測定したデータ、入力部12から入力されたデータ及び指示、データ処理部14で行った演算処理結果等の他、情報処理装置の各種処理に用いられるコンピュータプログラム、データベース等を記憶する。コンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。コンピュータプログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部11にインストールされる。記憶部11は、予め入力部12から入力された癌に関する判定値についてのデータを記憶する。
【0036】
入力部12は、試料分析システム10の外部とのインターフェイス等であり、キーボード、マウス等の操作部も含む。これにより、入力部12は、分析測定部13で測定したデータ、データ処理部14で行う演算処理の指示等を入力することができる。また、入力部12は、例えば分析測定部13が外部にある場合は、操作部とは別に、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を介して入力することができるインターフェイス部を含んでもよい。
【0037】
分析測定部13は、対象からの情報を分析測定することにより、対象のD-アミノ酸量に関する指標を取得するように構成される。例えば、分析測定部13は、血液試料の少なくともD-アミノ酸量の測定を行うことができるように構成することができる。従って、分析測定部13は、アミノ酸のD体及びL体の分離及び測定を可能にする構成を有してもよい。アミノ酸は、1種類ずつ分析されてもよいが、一部又は全ての種類のアミノ酸についてまとめて分析してもよい。分析測定部13は、以下のものに限定されることを意図するものではないが、例えば試料導入部、光学分割カラム、及び検出部を備えたキラルクロマトグラフィーシステム、好ましくは高速液体クロマトグラフィーシステムであってもよい。特定のアミノ酸量のみを検出する観点では、酵素法や免疫学的手法による定量を実施してもよい。分析測定部13は、試料分析システム10とは別に構成されていてもよく、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を用いて入力部12を介して入力してもよい。
【0038】
データ処理部14は、測定されたD-アミノ酸量に関する指標を、前記記憶部に記憶された判定値と比較することで、対象における癌についての情報(例えば、癌の種類及び/又は治療応答性)についての選択ができる。D-アミノ酸量に関する指標は、対象の生体内物質の量(例えば、L-アミノ酸量、又は腎機能の指標)で補正した式又は値であってもよく、生理的変動要因、例えば、年齢、性別、BMI等で補正した式又は値であってもよい。
【0039】
データ処理部14は、記憶部に記憶しているプログラムに従って、分析測定部13で測定され、記憶部11に記憶されたデータに対して、各種の演算処理を実行する。演算処理は、データ処理部に含まれるCPUにより行われる。このCPUは、分析測定部13、入力部12、記憶部11、及び出力部15を制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェア等で構成されてもよい。
【0040】
出力部15は、データ処理部で演算処理を行った結果である、対象の癌についての情報を出力するように構成さる。出力部15は、演算処理の結果を直接表示する液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の出力手段であってもよいし、外部記憶装置への出力又はネットワークを介して出力するためのインターフェイス部であってもよい。
【0041】
図7は、本発明のシステムによる処理(本発明の方法)の一例を模式的に示すフローチャートである。但し、図7に示す処理はあくまでも一例であり、本発明のシステムによる処理はこれに何ら限定されるものではない。まず、癌の種類及び/又は治療応答性に関する判定値を入力部12から読み込んで記憶部11に記憶する(ステップS1)。次に、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する情報を入力部12から読み込んで記憶部11に記憶する(ステップS2)。続いて、分析測定部13において、記憶部11に記憶された対象からの情報を分析測定することにより、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を取得する(ステップS3)。次にデータ処理部14において、分析測定部13で取得された対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を、記憶部11に記憶された判定値に基づいて処理することにより、対象の癌の種類及び/又は治療応答性についての判定を実施する(ステップS4)。続いて、データ処理部14による対象の癌の種類及び/又は治療応答性についての判定結果を、対象の癌に関する情報として出力部15から出力する(ステップS5)。
【0042】
また、他の態様において、本発明は、上記の対象における癌についての情報を提供する方法を情報処理装置に実行させるコンピュータプログラム(適宜「本発明のプログラム」という。)であってもよい。具体的に、本発明のプログラムは、汎用の情報処理装置にインストールして実行することにより、当該情報処理装置及びそれに接続された入出力インターフェースや分析装置等の外部機器を、例えば図6に示す、記憶部11と、入力部12と、分析測定部13と、データ処理部14と、出力部15とを含む試料分析システム10として機能させることが可能なコンピュータインストラクションを含むプログラムとして構成することができる。斯かる本発明のプログラムは、当業者には周知のコンピュータプログラミングの知識により実現可能である。斯かる本発明のプログラム、及び、当該プログラムを含むCD-ROM等の記録媒体も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
一実施態様において、本発明は、上記の方法、システム、又はプログラムが実装された情報装置によって提供される癌のついての情報に基づいて選択される、癌の治療手段によって、対象を治療する、癌の治療方法であってもよい。上記発明によってもたらされる癌のついての情報を参照することにより、対象における最適な治療手段を選択することが可能となる。
【0044】
本明細書において、明示的に引用される全ての特許文献及び非特許文献若しくは参考文献の内容は、全て本明細書の一部としてここに引用し得る。
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0046】
実施例において、記号の意味は下記の通りである。
【0047】
D-AA:D-アミノ酸
L-AA:L-アミノ酸
Asn:アスパラギン
Ser:セリン
Ala:アラニン
Pro:プロリン
PD-AA:血漿中のD-アミノ酸濃度(nmol/mL)
PL-AA:血漿中のL-アミノ酸濃度(nmol/mL)
PCre:血漿中のクレアチニン濃度
PAAD/L:PD-AA/PL-AA
【0048】
被験者は、大阪大学医学部附属病院において受診した癌を有する対象、及び検査により癌や腎臓病等の疾患の診断を受けていない対象であり、それぞれ絶食2時間以上経過した対象の採血後に分離した血漿を2D-HPLCによるキラルアミノ酸分析に供し、取得されたデータについて比較、解析した。いずれの研究も、大阪大学の倫理委員会において承認を受けたものであり、総ての被験者から書類によるインフォームドコンセントが取得された。
【0049】
被験検体として第一コホート(テストコホート)[腎細胞癌(n=7)、尿路上皮癌(n=11)、前立腺癌(n=10)、健常者(n=7)]及び、第二コホート(検証コホート)[尿路上皮癌(n=92)、健常者(n=60)]の対象から採取された血漿中のD-アミノ酸について解析した。
【0050】
(1)「PD-AA」を指標とした癌の判別
【0051】
癌種それぞれの群における対象から検出されたPD-AA(nmol/mL)を図1に示す。
【0052】
尿路上皮癌群は、いずれのコホートにおいても癌を有する対象群は、PD-Asn、PD-Ser、PD-Ala、PD-Proが健常者群と比較して上昇が観察され、尿路上皮癌群、腎細胞癌群、前立腺癌群の順でPD-AAの上昇が大きく、判別できることがわかる。特に尿路上皮癌を有する対象のPD-Asn、PD-Alaは他の癌種と比較して上昇の程度が大きく、一又は複数の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いることにより効果的に鑑別判定できる。
【0053】
PD-Asnを用いたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線解析による尿路上皮癌の予測能及び判別能は、第一コホートにおいてAUC(Area under the curve)=0.857、第二コホートにおいてAUC=0.992であった。
【0054】
(2)「PD-AA」「PAAD/L」の指標を用いる癌種の鑑別
【0055】
第一コホートにおいて、D-アミノ酸量に関する指標を説明変数とする予測式のROC曲線を図2図4に示す。ROC曲線における判定値(カットオフ値)は、最も予測能・診断能が低い変数のROC曲線、即ちAUC = 0.500となる斜点線から最も離れたポイントから導いた。具体的には、(感度+特異度-1)を計算して、その最大値となるポイント(Youden index)をカットオフ値とした。
【0056】
尿路上皮癌と前立腺癌の鑑別(図2-1~図2-8)においては、PD-Serの判定値を3.695と設定した場合は感度100%、特異度54.5%となった(図2-1(A))。PD-Asnの判定値を0.404と設定した場合は感度90%、特異度63.6%となった(図2-1(B))。PSerD/Lの判定値を0.030と設定した場合は、感度90%、特異度72.7%となった(図2-1(C))。PAsnD/Lの判定値を0.007と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-1(D))。予測式[-1.05×(PD-Ser)-0.108×(PD-Pro)+3.35]の判定値を-0.541と設定した場合は感度100%、特異度63.6%となった(図2-2(A))。予測式[-10.5×(PD-Asn)-0.175×(PD-Pro)+4.13]の判定値を-0.379と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-2(B))。予測式[-1.03×(PD-Ser)-0.136×(PD-Ala)+4.13]の判定値を-0.232と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-2(C))。予測式[-9.99×(PD-Asn)-0.090×(PD-Ala)+4.28]の判定値を-0.150と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-2(D))。予測式[-6.76×(PD-Asn)-0.448×(PD-Ser)+3.86]の判定値を-0.694と設定した場合は感度100%、特異度54.5%となった(図2-3(A))。予測式[-115×(PSerD/L)-51.0×(PAlaD/L)+3.94]の判定値を0.373と設定した場合は感度80%、特異度90.9%となった(図2-3(B))。予測式[-8.07×(PD-Asn)-40.7×(PSerD/L)+4.02]の判定値を-0.546と設定した場合は感度100%、特異度63.6%となった(図2-3(C))。予測式[-1.14×(PD-Ser)-61.1×(PAlaD/L)+4.61]の判定値を-0.821と設定した場合は感度100%、特異度63.6%となった(図2-3(D))。予測式[-1.08×(PD-Ser)-40.0×(PProD/L)+3.59]の判定値を-0.567と設定した場合は感度100%、特異度63.6%となった(図2-4(A))。予測式[-11.3×(PD-Asn)-50.9×(PAlaD/L)+5.07]の判定値を-0.421と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-4(B))。予測式[-11.5×(PD-Asn)-68.6×(PProD/L)+4.75]の判定値を-0.291と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-4(C))。予測式[0.006×(PD-Pro)-104×(PSerD/L)+2.66]の判定値を-0.469と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-4(D))。予測式[-105×(PSerD/L)-13.3×(PProD/L)+2.79]の判定値を-0.429と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-5(A))。予測式[-0.126×(PD-Ala)-107×(PSerD/L)+3.62]の判定値を0.182と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-5(B))。予測式[-0.004×(PD-Pro)-557×(PAsnD/L)+3.83]の判定値を-0.014と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-5(C))。予測式[-521×(PAsnD/L)-26.7×(PAlaD/L)+4.04]の判定値を-0.104と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-5(D))。予測式[-558×(PAsnD/L)-2.67×(PProD/L)+3.84]の判定値を-0.012と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-6(A))。予測式[-5.46×(PD-Asn)-341×(PAsnD/L)+4.36]の判定値を-0.827と設定した場合は感度100%、特異度54.5%となった(図2-6(B))。予測式[-0.602×(PD-Ser)-390×(PAsnD/L)+4.55]の判定値を-0.791と設定した場合は感度100%、特異度54.5%となった(図2-6(C))。予測式[-1.00×(PD-Ser)-4.16×(PSerD/L)+3.17]の判定値を-0.677と設定した場合は感度100%、特異度54.5%となった(図2-6(D)))。予測式[-0.051×(PD-Ala)-535×(PAsnD/L)+4.02]の判定値を-0.236と設定した場合は感度80%、特異度72.7%となった(図2-7(A))。予測式[-433×(PAsnD/L)-46.0×(PSerD/L)+4.18]の判定値を0.057と設定した場合は感度80%、特異度72.7%となった(図2-7(B))。予測式[-7.17×(PD-Asn)-0.437×(PD-Ser)-0.172×(PD-Pro)+4.23]の判定値を-0.598と設定した場合は感度100%、特異度63.6%となった(図2-7(C))。予測式[-3.70×(PD-Asn)-0.747×(PD-Ser)-0.123×(PD-Ala)+4.51]の判定値を-0.297と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-7(D))。予測式[-1.04×(PD-Ser)-0.136×(PD-Ala)-0.009×(PD-Pro)+4.15]の判定値を-0.228と設定した場合は感度90%、特異度72.7%となった(図2-8(A))。予測式[-10.2×(PD-Asn)-0.086×(PD-Ala)-0.090×(PD-Pro)+4.47]の判定値を-0.148と設定した場合は感度80%、特異度81.8%となった(図2-8(B))。予測式[-8.52×(PD-Asn)-0.147×(PD-Pro)-37.9×(PSerD/L)+4.33]の判定値を-0.482と設定した場合は感度100%、特異度72.7%となった(図2-8(C))。予測式[-8.17×(PD-Asn)-58.5×(PSerD/L)-53.8×(PAlaD/L)+5.51]の判定値を-0.585と設定した場合は感度100%、特異度72.7%となった(図2-8(D))。
【0057】
尿路上皮癌と腎細胞癌(図3)の鑑別においては、PD-Asnの判定値を0.295と設定した場合は感度90.9%、特異度71.4%となった(図3-1(A))。PD-Alaの判定値を1.850と設定した場合は感度100%、特異度57.1%となった(図3-1(B))。PD-Serの判定値を2.440と設定した場合は感度81.8%、特異度71.4%となった(図3-1(C))。PSerD/Lの判定値を0.030と設定した場合は感度72.7%、特異度85.7%となった(図3-1(D))。予測式[0.653×(PD-Asn)+0.172×(PD-Ala)-0.834]の判定値を-0.162と設定した場合は感度90.9%、特異度71.4%となった(図3-2(A))。予測式[0.225×(PD-Ser)+0.180×(PD-Ala)-1.43]の判定値を-0.255と設定した場合は感度90.9%、特異度71.4%となった(図3-2(B))。予測式[0.151×(PD-Ala)+0.274×(PD-Pro)-0.736]の判定値を-0.162と設定した場合は感度90.9%、特異度71.4%となった(図3-2(C))。予測式[0.162×(PD-Ser)+0.497×(PD-Pro)-0.683]の判定値を0.028と設定した場合は感度100%、特異度57.1%となった(図3-2(D))。予測式[0.187×(PD-Ala)-26.9×(PProD/L)-0.45]の判定値を-0.120と設定した場合は感度90.9%、特異度85.7%となった(図3-3(A))。予測式[4.23×(PD-Ala)-1070×(PAlaD/L)-3.86]の判定値を-1.143と設定した場合は感度100%、特異度71.4%となった(図3-3(B))。予測式[0.173×(PD-Ala)-1.68×(PSerD/L)-0.494]の判定値を-0.099と設定した場合は感度81.8%、特異度85.7%となった(図3-3(C))。予測式[6.13×(PD-Pro)-810×(PProD/L)-0.792]の判定値を0.911と設定した場合は感度63.6%、特異度100%となった(図3-3(D))。予測式[0.241×(PD-Ser)+36.5×(PAlaD/L)-1.13]の判定値を-0.071と設定した場合は感度90.9%、特異度71.4%となった(図3-4(A))。予測式[21.3×(PD-Asn)-733×(PAsnD/L)-1.69]の判定値を0.170と設定した場合は感度72.7%、特異度85.7%となった(図3-4(B))。予測式[0.186×(PD-Ser)+30.1×(PProD/L)-0.419]の判定値を0.353と設定した場合は感度72.7%、特異度85.7%となった(図3-4(C))。予測式[1.62×(PD-Ser)-119×(PSerD/L)-1.50]の判定値を0.979と設定した場合は感度54.5%、特異度100%となった(図3-4(D))。予測式[4.95×(PD-Asn)-41.7×(PSerD/L)-0.383]の判定値を0.197と設定した場合は感度81.8%、特異度71.4%となった(図3-5(A))。予測式[0.180×(PD-Ala)-58.4×(PAsnD/L)-0.048]の判定値を-0.013と設定した場合は感度81.8%、特異度71.4%となった(図3-5(B))。予測式[0.512×(PD-Asn)+0.152×(PD-Ala)+0.250×(PD-Pro)-0.941]の判定値を-0.266と設定した場合は感度100%、特異度71.4%となった(図3-5(C))。予測式[0.212×(PD-Ser)+0.165×(PD-Ala)+0.173×(PD-Pro)-1.49]の判定値を-0.270と設定した場合は感度90.9%、特異度71.4%となった(図3-5(D))。予測式[-6.59×(PD-Asn)+0.858×(PD-Ser)+0.206×(PD-Ala)-1.06]の判定値を0.525と設定した場合は感度72.7%、特異度85.7%となった(図3-6(A))。予測式[4.83×(PD-Ala)-1.24×(PD-Pro)-1220×(PAlaD/L)-2.88]の判定値を0.832と設定した場合は感度90.9%、特異度100%となった(図3-6(B))。予測式[4.99×(PD-Ala)-1260×(PAlaD/L)-185×(PProD/L)-3.03]の判定値を1.035と設定した場合は感度90.9%、特異度100%となった(図3-6(C))。予測式[-6.64×(PD-Asn)+7.82×(PD-Ala)-2000×(PAlaD/L)-3.70]の判定値を-0.308と設定した場合は感度100%、特異度85.7%となった(図3-6(D))。予測式[9.00×(PD-Ala)-268×(PAsnD/L)-2300×(PAlaD/L)-4.69]の判定値を-0.914と設定した場合は感度100%、特異度85.7%となった(図3-7(A))。予測式[14.1×(PD-Ala)-108×(PSerD/L)-3650×(PAlaD/L)-6.71]の判定値を-1.102と設定した場合は感度100%、特異度85.7%となった(図3-7(B))。予測式[30.9×(PD-Asn)+2.30×(PD-Pro)-1110×(PAsnD/L)-4.29]の判定値を0.399と設定した場合は感度81.8%、特異度100%となった(図3-7(C))。予測式[2.36×(PD-Ser)+1.51×(PD-Pro)-188×(PSerD/L)-3.37]の判定値を-0.049と設定した場合は感度81.8%、特異度100%となった(図3-7(D))。予測式[-0.548×(PD-Ser)+6.94×(PD-Ala)-1780×(PAlaD/L)-3.52]の判定値を0.235と設定した場合は感度90.9%、特異度85.7%となった(図3-8(A))。予測式[0.189×(PD-Ala)+1.30×(PSerD/L)-29.8×(PProD/L)-0.485]の判定値を-0.125と設定した場合は感度90.9%、特異度85.7%となった(図3-8(B))。予測式[1.48×(PD-Ser)-401×(PAsnD/L)+52.1×(PAlaD/L)-1.97]の判定値を1.285と設定した場合は感度72.7%、特異度100%となった(図3-8(C))。予測式[28.1×(PD-Asn)-1210×(PAsnD/L)+85.8×(PSerD/L)-2.33]の判定値を0.083と設定した場合は感度81.8%、特異度85.7%となった(図3-8(D))。
【0058】
腎細胞癌と前立腺癌の鑑別(図4)においては、PD-Alaの判定値を3.525と設定した場合は感度70.0%、特異度85.7%となった(図4-1(A))。PD-Proの判定値を0.507と設定した場合は感度100%、特異度42.9%となった(図4-1(B))。PAlaD/Lの判定値を0.010と設定した場合は感度70.0%、特異度85.7%となった(図4-1(C))。予測式[-0.503×(PD-Ser)+1.81×(PD-Pro)-0.212]の判定値を0.151と設定した場合は感度80.0%、特異度71.4%となった(図4-1(D))。予測式[-4.27×(PD-Asn)+1.92×(PD-Pro)-0.318]の判定値を1.193と設定した場合は感度50.0%、特異度100%となった(図4-2(A))。予測式[2.08×(PD-Ala)-586×(PAlaD/L)-0.494]の判定値を-0.348と設定した場合は感度100%、特異度71.4%となった(図4―2(B))。予測式[26.7×(PD-Asn)-1160×(PAsnD/L)-0.480]の判定値を0.639と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-2(C))。予測式[4.54×(PD-Pro)-522×(PProD/L)-1.28]の判定値を0.720と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-2(D))。予測式[2.31×(PD-Pro)-213×(PAsnD/L)-0.657]の判定値を0.372と設定した場合は感度80%、特異度85.7%となった(図4-3(A))。予測式[1.57×(PD-Pro)-28.4×(PAlaD/L)-1.09]の判定値を-0.136と設定した場合は感度90%、特異度71.4%となった(図4-3(B))。予測式[0.089×(PD-Ala)+41.6×(PProD/L)-0.322]の判定値を0.122と設定した場合は感度80%、特異度71.4%となった(図4-3(C))。予測式[2.00×(PD-Pro)-39.7×(PSerD/L)-0.820]の判定値を0.117と設定した場合は感度80%、特異度71.4%となった(図4-3(D))。予測式[-0.545×(PD-Ser)-0.047×(PD-Ala)+2.05×(PD-Pro)-0.141]の判定値を0.249と設定した場合は感度80%、特異度71.4%となった(図4-4(A))。予測式[-3.17×(PD-Asn)-0.148×(PD-Ser)+1.91×(PD-Pro)-0.251]の判定値を1.219と設定した場合は感度50%、特異度100%となった(図4-4(B))。予測式[-4.36×(PD-Asn)-0.022×(PD-Ala)+2.02×(PD-Pro)-0.297]の判定値を1.010と設定した場合は感度50%、特異度100%となった(図4-4(C))。予測式[82.8×(PD-Asn)+4.71×(PD-Pro)-3410×(PAsnD/L)-7.65]の判定値を0.676と設定した場合は感度90%、特異度100%となった(図4-4(D))。予測式[88.5×(PD-Asn)-3650×(PAsnD/L)+800×(PProD/L)-7.85]の判定値を0.651と設定した場合は感度90%、特異度100%となった(図4-5(A))。予測式[21.3×(PD-Asn)+1.48×(PD-Ser)-1160×(PAsnD/L)-2.55]の判定値を0.685と設定した場合は感度80%、特異度100%となった(図4-5(B))。予測式[32.0×(PD-Asn)+0.125×(PD-Ala)-1370×(PAsnD/L)-1.25]の判定値を0.364と設定した場合は感度80%、特異度100%となった(図4-5(C))。予測式[28.3×(PD-Asn)-1470×(PAsnD/L)+142×(PSerD/L)-2.00]の判定値を0.666と設定した場合は感度80%、特異度100%となった(図4-5(D))。予測式[31.1×(PD-Asn)-1340×(PAsnD/L)+23.9×(PAlaD/L)-0.972]の判定値を0.501と設定した場合は感度80%、特異度100%となった(図4-6(A))。予測式[3.44×(PD-Pro)-247×(PAsnD/L)-59.5×(PAlaD/L)-0.795]の判定値を0.682と設定した場合は感度80%、特異度100%となった(図4-6(B))。予測式[-15.4×(PD-Asn)+11.0×(PD-Ala)-2990×(PAlaD/L)+1.51]の判定値を-0.076と設定した場合は感度90%、特異度85.7%となった(図4-6(C))。予測式[-1.45×(PD-Ser)+8.45×(PD-Ala)-2320×(PAlaD/L)+1.85]の判定値を-0.127と設定した場合は感度90%、特異度85.7%となった(図4-6(D))。予測式[11.9×(PD-Ala)-497×(PAsnD/L)-3210×(PAlaD/L)-0.055]の判定値を-0.309と設定した場合は感度90%、特異度85.7%となった(図4-7(A))。予測式[8.67×(PD-Ala)-98.2×(PSerD/L)-2370×(PAlaD/L)+0.160]の判定値を-0.316と設定した場合は感度90%、特異度85.7%となった(図4-7(B))。予測式[6.47×(PD-Ser)+6.29×(PD-Pro)-1930×(PAsnD/L)-10.7]の判定値を-1.011と設定した場合は感度100%、特異度71.4%となった(図4-7(C))。予測式[1.61×(PD-Ala)+0.724×(PD-Pro)-470×(PAlaD/L)-0.977]の判定値を-0.403と設定した場合は感度100%、特異度71.4%となった(図4-7(D))。予測式[2.02×(PD-Ala)-570×(PAlaD/L)+19.2×(PProD/L)-0.581]の判定値を-0.333と設定した場合は感度100%、特異度71.4%となった(図4-8(A))。予測式[-5.32×(PD-Asn)+2.64×(PD-Pro)-48.3×(PAlaD/L)-0.127]の判定値を0.622と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-8(B))。予測式[3.58×(PD-Ser)+3.04×(PD-Pro)-287×(PSerD/L)-5.59]の判定値を0.286と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-8(C))。予測式[-0.074×(PD-Ala)+2.80×(PD-Pro)-225×(PAsnD/L)-0.727]の判定値を0.573と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-8(D))。予測式[-0.145×(PD-Ala)+5.92×(PD-Pro)-656×(PProD/L)-1.29]の判定値を0.840と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-9(A))。予測式[3.06×(PD-Pro)-741×(PAsnD/L)+140×(PSerD/L)-1.24]の判定値を0.939と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-9(B))。予測式[5.69×(PD-Pro)-54.0×(PAlaD/L)-622×(PProD/L)-1.20]の判定値を0.891と設定した場合は感度70%、特異度100%となった(図4-9(C))。予測式[-0.678×(PD-Ser)+2.65×(PD-Pro)-55.9×(PAlaD/L)+0.106]の判定値を0.385と設定した場合は感度80%、特異度85.7%となった(図4-9(D))。予測式[2.87×(PD-Pro)-49.8×(PSerD/L)-54.0×(PAlaD/L)-0.787]の判定値を0.401と設定した場合は感度80%、特異度85.7%となった(図4-10(A))。予測式[-2.74×(PD-Asn)+4.11×(PD-Pro)-399×(PProD/L)-0.662]の判定値を1.117と設定した場合は感度60%、特異度100%となった(図4-10(B))。予測式[-0.204×(PD-Ser)+4.01×(PD-Pro)-409×(PProD/L)-0.838]の判定値を1.182と設定した場合は感度60%、特異度100%となった(図4-10(C))。予測式[2.38×(PD-Ser)-207×(PSerD/L)+291×(PProD/L)-2.93]の判定値を0.718と設定した場合は感度60%、特異度100%となった(図4-10(D))。予測式[-0.056×(PD-Ala)+2.32×(PD-Pro)-43.1×(PSerD/L)-0.822]の判定値を0.737と設定した場合は感度60%、特異度100%となった(図4-11(A))。予測式[3.64×(PD-Pro)-172×(PAsnD/L)-270×(PProD/L)-0.689]の判定値を1.163と設定した場合は感度60%、特異度100%となった(図4-11(B))。予測式[3.84×(PD-Pro)-20.1×(PSerD/L)-359×(PProD/L)-1.03]の判定値を1.223と設定した場合は感度60%、特異度100%となった(図4-11(C))。予測式[1.80×(PD-Ser)+0.134×(PD-Ala)-528×(PAsnD/L)-1.46]の判定値を0.837と設定した場合は感度70%、特異度85.7%となった(図4-11(D))。予測式[2.90×(PD-Ser)-954×(PAsnD/L)+398×(PProD/L)-3.50]の判定値を0.755と設定した場合は感度70%、特異度85.7%となった(図4-12(A))。予測式[0.063×(PD-Ala)-37.8×(PSerD/L)+164×(PProD/L)-0.002]の判定値を0.503と設定した場合は感度70%、特異度85.7%となった(図4-12(B))。予測式[-1.20×(PD-Asn)+2.01×(PD-Pro)-31.0×(PSerD/L)-0.652]の判定値を0.187と設定した場合は感度80%、特異度71.4%となった(図4-12(C))。
【0059】
以上より、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いることで、対象の癌の検出と癌の種類の鑑別について、一度の検査で同時に情報を提供することができる。
【0060】
(3)PD-AAによる治療応答性の判定
【0061】
対象コホートのうち抗PD-1抗体製剤による抗癌治療を受けた腎癌、尿路上皮癌患者における、PD-Ala高値群(n=39)、PD-Ala低値群(n=36)の2群についてカプランマイヤー法により、無増悪生存率(progression-free survival:PFS)、癌疾患特異的生存率(cancer-specific survival:CSS)を解析した結果を図5に示す。
【0062】
PD-Ala高値群は低値群と比較してPFS、CSSのいずれも生存率が高く、抗癌剤の治療応答性が有る又は良い又は高いものと評価された。また、PD-Ala低値群は抗癌剤の治療応答性が無い又は悪い又は低いものと評価された(PFS:P=0.031、CSS:P=0.029)。癌患者においてPD-Ala高値群の予後が良好である知見は、癌に対する生体防御機能の一つとしてD-Alaが上昇していることを示唆している。
【0063】
(1)、(2)における癌の有無、癌の種類の鑑別、判定に加え、(3)により治療応答性を判定できることから、一又は複数の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いることにより、対象の癌に対して多段階の情報を同時若しくは時系列的に提供することができる。一具体例としては、第一段階としてPD-Asn、PD-Ser、PD-Ala、PD-Proにより癌の有無を判定し、第二段階としてPD-Asn、PD-Serにより癌の種類(尿路上皮癌等)を判定し、第三段階としてPD-Alaにより抗癌剤に対する治療応答性を判定することができ、特定の抗癌治療の選択を補助する。
【0064】
以上より、対象の血液中のD-アミノ酸量に関する指標を用いることで、対象の抗癌剤に対する反応及び治療効果について判定し、治療応答性についての情報を提供することができる。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図3-6】
図3-7】
図3-8】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図4-7】
図4-8】
図4-9】
図4-10】
図4-11】
図4-12】
図5
図6
図7