(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127132
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】食品組成物及びそれを用いた造形食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240912BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20240912BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240912BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240912BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240912BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240912BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L29/262
A23L19/00 Z
A23L5/00 N
A23L29/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036052
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】捨田利 望実
(72)【発明者】
【氏名】石田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】徳田 慎也
【テーマコード(参考)】
4B016
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC07
4B016LE04
4B016LG05
4B016LG08
4B016LK09
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE05
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4B035LP01
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4B041LC03
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4B041LK27
4B041LP01
4B041LP12
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】三次元造形技術を用いて造形される造形食品の原料として有用な食品組成物を提供すること。高品質の造形食品を提供すること。
【解決手段】本発明の食品組成物は、食品素材のペーストを含有し、所定の圧縮・回復試験において、付着距離が6mm以上、硬さが8.0×104N/m2以下であることを特徴とする。前記食品素材が野菜類であることが好ましい。水分含量が50~95質量%であることが好ましい。更に、セルロースナノファイバー、コーンスターチ及び加工澱粉から選択される1種以上の改質剤を含有することが好ましい。本発明の造形食品は、本発明の食品組成物の三次元造形装置による造形物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品素材のペーストを含有し、下記圧縮・回復試験において、付着距離が6mm以上、硬さが8.0×104N/m2以下である、食品組成物。
圧縮・回復試験:直径20mm、高さ8mmの円柱形の樹脂製プランジャーを備えたレオメーターを用い、容器に充填された品温20±2℃の試料に対し、該試料の上方の所定の待機位置から該プランジャーを10mm/秒の速度で突入させ、該プランジャーと該容器の底部との距離が5mmとなった時点で、該プランジャーをその突入方向とは反対方向に10mm/秒の速度で後退させて該待機位置に戻す。斯かるプランジャーの突入・後退運動を2回実施して得られる応力-ひずみ線図から、前記試料の付着距離及び硬さを算出する。
【請求項2】
前記食品素材が野菜類である、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
水分含量が50~95質量%である、請求項1又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
更に、セルロースナノファイバー、コーンスターチ及び加工澱粉から選択される1種以上の改質剤を含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の食品組成物。
【請求項5】
目開き1mmの篩を通過し、目開き3mmの篩を通過しない、請求項1~4の何れか1項に記載の食品組成物。
【請求項6】
三次元造形装置を用いて造形される造形食品の原料として使用される、請求項1~5の何れか1項に記載の食品組成物。
【請求項7】
前記請求項1~6の何れか1項に記載の食品組成物の三次元造形装置による造形物を含む、造形食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材のペーストを主体とし、造形食品の原料として有用な食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜類の粉砕物を用いた加工食品が知られている。特許文献1には、前記加工食品の一種である野菜ペーストが記載されている。特許文献1に記載の野菜ペーストは、磨砕された野菜を凍結乾燥濃縮法により濃縮して濃縮野菜ペーストを得、これに野菜、澱粉類又は多糖類の粉末を乾燥した状態で添加する工程を経て得られる。特許文献1に記載の野菜ペーストは、そのまま食されるか、又は還元して野菜ジュース、野菜スープとして食されるものであり、造形食品の原料として使用することは想定されていない。
【0003】
特許文献2には野菜の成形品が記載されている。特許文献2に記載の野菜の成形品は、野菜を蒸煮して得た高温のペーストに、キサンタンガム等の凝固剤と、必要に応じて調味料等とを添加した後、該ペーストを成形型の中で冷却して凝固させることで得られるもので、形態安定性が良好であるとされている。
【0004】
特許文献3には、冷蔵・冷凍耐性を有し、加熱調理のできる咀嚼困難者用食品として、食品ペーストと、カードラン、加工デンプン及び水分とを適宜混合し、容器に充填して80℃以上に加熱する工程を経て得られるものが記載されている。前記食品ペーストは、野菜等の食品素材を、生又は加熱した後、磨砕等の方法で微細化して得られるものである。特許文献3には、テクスチャーアナライザー等の圧縮応力測定装置を用いて所定の条件で測定される前記咀嚼困難者用食品の品温20℃の硬さが、3000N/m2以上50000N/m2以下であることが好ましい旨記載されている(特許文献3の[0018])。
【0005】
特許文献4には、3Dプリンタを利用した造形食品に関する技術が記載されており、具体的には、3Dプリンタのカートリッジの内容物として野菜のペーストを用いること、該ペーストに物性改変又は機能付加のための成分を添加することが記載され、該成分として増粘安定剤、カルシウム塩等が例示されている。
【0006】
特許文献5には、流動性及び自己保形性を備えた食品組成物として、アルギン酸ナトリウム、カードラン、ジェランガム等のゲル化剤と、水と、増粘多糖類、食物繊維、タンパク等の保形剤と、野菜ペースト、野菜パウダー等の食品素材とを含有するものが記載されている。特許文献5に記載の食品組成物は、舌でつぶせる程度の硬さを有するため、介護用食品として好適であるとされており、その具体例として、消費者庁「えん下困難者用食品の表示許可基準」における硬さが2.0×104N/m2以下である実施例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-40号公報
【特許文献2】特開平10-295316号公報
【特許文献3】国際公開第2017-017953号
【特許文献4】特開2022-47485号公報
【特許文献5】特開2022-100730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、3Dプリンティング技術を食品に応用する試みが活発化しており、それに伴い、特許文献4に記載の技術のような、3Dプリンタを用いて食品を三次元造形する技術が提案されている。3Dプリンティング技術を食品に応用することで、近年問題となっているフードロスの削減が期待できる。例えば規格外野菜は、従来、市場に出回る前に廃棄処分されているが、これを粉砕して3Dプリンタにより所望の形状に造形することで、付加価値のある造形食品として再生することができる。しかしながら、このような造形食品に対する要求特性のレベルは年々高まっており、従来提案されている食品に関する3Dプリンティング技術では十分に対応できていないのが実情である。
【0009】
本発明の課題は、三次元造形技術を用いて造形される造形食品の原料として有用な食品組成物を提供することである。
また本発明の課題は、高品質の造形食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、食品素材のペーストを含有し、後述する圧縮・回復試験において、付着距離が6mm以上、硬さが8.0×104N/m2以下である、食品組成物である。
【0011】
また本発明は、前記の本発明の食品組成物の三次元造形装置による造形物を含む、造形食品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、3Dプリンティング技術等の三次元造形技術を用いて造形される造形食品の原料として有用な食品組成物が提供される。
本発明の造形食品は、3Dプリンタ等の三次元造形装置を用いた三次元造形によって容易に製造することができ、且つ外観及び保形性に優れ、高品質である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、食品組成物の圧縮・回復試験で得られる応力-移動距離線図の例を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の食品組成物は、食品素材のペーストを含有する。本発明で用いる食品素材のペーストは、食品素材を粉砕することで得られるもので、典型的には、食品素材由来の水分からなる液体中に、食品素材の固形分からなる粒子が懸濁しており、常温常圧(雰囲気温度20℃、1気圧)で流動性を有する。すなわち本発明の食品組成物は、典型的には、食品素材の固形分からなる粒子と、水分とを含有し、常温常圧でペースト状である。
【0015】
本発明で用いる食品素材は、動物(ヒトを含む)が生命維持に必要とする摂食可能な物体(食品)であって且つ粉砕可能なものであればよく、例えば、野菜類、魚介類、畜肉類、卵類、乳製品類を用いることができる。本発明の食品組成物に含有される食品素材は1種類でもよく、2種類以上でもよい。
本発明で用いる食品素材は、生でもよく、又は冷蔵、冷凍若しくは加熱処理が施されたものでもよい。
【0016】
好適な食品素材の一例として、野菜類が挙げられる。野菜類の食品素材としては、例えば、だいこん、にんじん、ばれいしょ、さといも、かぶ、ごぼう、れんこん、やまのいも等の根菜類;はくさい、キャベツ、ほうれんそう、レタス、ねぎ、たまねぎ、こまつな、ちんげんさい、ふき、みつば、しゅんぎく、みずな、セルリー、アスパラガス、カリフラワー、ブロッコリー、にら、にんにく等の葉茎菜類;きゅうり、なす、トマト、ピーマン、かぼちゃ、スイートコーン、さやいんげん、さやえんどう、グリーンピース、そらまめ、えだまめ等の果菜類;しょうが等の香辛野菜;いちご、メロン、すいか等の果実的野菜;シイタケ、マイタケ、マツタケ、エノキタケ、エリンギ、ブナシメジ等のキノコ類挙げられる。本発明の食品組成物は、これらの野菜類の1種又は2種以上のペーストを含有し得る。
【0017】
本発明の食品組成物は、下記圧縮・回復試験において、付着距離が6mm以上、硬さが8.0×104N/m2以下である点で特徴付けられる。
圧縮・回復試験:直径20mm、高さ8mmの円柱形の樹脂製プランジャーを備えたレオメーターを用い、容器に充填された品温20±2℃の試料に対し、該試料の上方の所定の待機位置から該プランジャーを10mm/秒の速度で突入させ、該プランジャーと該容器の底部との距離が5mmとなった時点で、該プランジャーをその突入方向とは反対方向に10mm/秒の速度で後退させて該待機位置に戻す。斯かるプランジャーの突入・後退運動を2回実施して得られる応力-ひずみ線図から、前記試料の付着距離及び硬さを算出する。
【0018】
前記圧縮・回復試験について補足すると、本試験は、消費者庁「えん下困難者用食品の表示許可基準」の「えん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む。)の試験方法」(インターネット<URL: https://www.jhnfa.org/tokuhou279.pdf>)に準拠したもので、斯かる試験方法に従って実施することができる。
前記レオメーターとしては、例えば、株式会社山電製の「クリープメーターRE2-33005C」を用いることができる。
試料(食品組成物)が充填される容器としては、内部形状が直径40mm、高さ15mmの円筒形状の容器を用いることができる。容器に充填された試料の高さは15mmとする。
【0019】
図1には、前記応力-移動距離線図(テクスチャープロファイル)の例が示されている。
図1に示す応力-移動距離線図において、縦軸は応力(単位:N)、横軸はプランジャーの移動距離(単位:mm)である。縦軸の応力は、レオメーターが備えるロードセルにより検出した荷重値をプランジャーの断面積で除することによって算出される。
図1に示す応力-移動距離曲線において、応力は、ゼロからスタートしてピークP1を示した後、減少に転じて負の値を示し、再び、増加してピークP2を示した後、減少に転じて負の値を示しており、正の応力値の後に負の応力値が続くパターンが2つ存在するところ、この2つのパターンは、前記圧縮・回復試験で実施した2回のプランジャーの突入・後退運動と1対1で対応している。本発明で言う「食品組成物の移動距離」とは、前記圧縮・回復試験で最初に示される負の応力値に対応する移動距離であり、
図1に示す応力-移動距離線図においては符号Dで示す長さである。また、本発明で言う「食品組成物の硬さ」とは、前記2回のプランジャーの突入・後退運動における最大応力であり、
図1に示す応力-移動距離線図においては、ピークP1>ピークP2であるので、ピークP1である。
【0020】
本発明者は、食品素材のペーストを含有する食品組成物を、3Dプリンタを用いて三次元造形する技術について種々検討した結果、該食品組成物の前記圧縮・回復試験における「付着距離」及び「硬さ」が、斯かる三次元造形において特に重要であることを知見した。そして更に検討した結果、食品組成物の前記付着距離が6mm以上、前記硬さが8.0×104N/m2以下であると、3Dプリンティング技術等の三次元造形技術を用いて造形される造形食品の原料として極めて有用なものとなることを知見した。具体的には、前記付着距離が6mm以上、前記硬さが8.0×104N/m2以下である本発明の食品組成物は、3Dプリンタ、加圧押出機、真空焼成機、成形型等の三次元造形装置を用いた三次元造形が容易で、該三次元造形において食品組成物の押出し不良、吐出不良等の不都合が生じ難く、所望の形状の造形食品を容易に製造することができる。また、その造形食品は、輪郭がシャープで外観が良好であり、且つ保形性が良好で崩れにくいという特長を有する。すなわち本発明の食品組成物は、各種の三次元造形装置で取り扱い可能な程度の流動性を有しつつ、三次元造形後(造形食品とされた後)は、その形状を引き続き維持する(自重による形状変化が実質的に生じない)という性質を有する。
【0021】
このような本発明の食品組成物の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、前記付着距離は、好ましくは7mm以上、より好ましくは7.2mm以上である。また、前記付着距離の上限は特に制限されないが、3Dプリンタ等の三次元造形装置による食品組成物の吐出性の向上の観点から、好ましくは20mm以下、より好ましくは13mm以下である。
前記と同様の観点から、前記硬さは、好ましくは7.5×104N/m2以下、より好ましくは7.0×104N/m2N以下である。また、前記硬さの下限は特に制限されないが、造形物の保形性の向上の観点から、好ましくは1.0×103N/m2N以上、より好ましくは1.5×103N/m2以上である。
食品組成物の前記付着距離及び前記硬さを前記の特定範囲に調整することは、例えば、食品素材の種類、食品素材のペーストの製造方法(食品素材の粉砕方法)等を適宜調整することで可能である。
【0022】
本発明の食品組成物の水分含量は、本発明の効果が一層確実に奏されるようにする観点から、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~95質量%である。
食品組成物の水分含量は、加熱乾燥法によって測定することができる。具体的には例えば、試料(食品組成物)1gを135℃の恒温槽に3時間静置して乾燥させ、乾燥前後の質量差を水分量(g)とみなして、該水分量の試料1gに対する百分率を計算することで、食品組成物の水分含量が求められる。
【0023】
本発明の食品組成物は、固形分として、食品素材のペーストのみを含んでいてもよく、食品素材のペースト以外の他の成分(例えば後述する改質剤)を含んでいてもよい。後者の場合において、本発明の食品組成物に占める食品素材の粉砕物の含有率は、本発明の効果が一層確実に奏されるようにする観点から、好ましくは80~99.9質量%、より好ましくは90~99質量%である。
【0024】
本発明の食品組成物は、食品素材のペーストのみから構成されていてもよいが、更に、セルロースナノファイバー、コーンスターチ及び加工澱粉から選択される1種以上の改質剤を含有することが好ましい。食品素材のペーストとともにこれらの改質剤を併用することで、本発明の食品組成物を3Dプリンティング技術等の三次元造形技術に適用した場合の造形性、造形食品の保形性等の諸物性が改善され、本発明の効果が一層確実に奏されるようになる。
セルロースナノファイバーは、ナノサイズの繊維径をもった繊維状セルロースであり、典型的には、繊維径が3~500nm、繊維長が500~1000nmである、セルロースナノファイバーとしては、食品に使用できるものを特に制限無く用いることができる。
加工澱粉としては、澱粉にエーテル化、エステル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化にはヒドロキシプロピル化が含まれ、エステル化にはアセチル化が含まれる。加工澱粉の原料となる澱粉は特に制限されず、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、ワキシーコーンスターチ、コーンスターチ、米澱粉が挙げられる。ここでいう「澱粉」とは、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。
【0025】
本発明の食品組成物におけるセルロースナノファイバーの含有量は、該食品組成物の全質量に対して、好ましくは0.4~15質量%、より好ましくは0.6~15質量%である。
本発明の食品組成物におけるコーンスターチの含有量は、該食品組成物の全質量に対して、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1.5~20質量%である。
本発明の食品組成物における加工澱粉の含有量は、該食品組成物の全質量に対して、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1.5~20質量%である。
【0026】
本発明の食品組成物には、本発明の効果の発現を阻害しない限りにおいて、味付けやテクスチャー改善、保存性向上等を目的として、前記成分(食品素材のペースト、改質剤)以外の他の成分を含有させることができる。他の成分としては、例えば、食塩や醤油等の調味料;コショウ等の香辛料;ぶどう糖、ショ糖、果糖等の糖類;油脂、香料、着色料が挙げられ、食品組成物の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の食品組成物には、造形性、保形性等の向上を目的として、アルギン酸ナトリウム、カードラン、ジェランガム、グルコマンナン等の、「熱、金属イオン又は酸若しくはアルカリによりゲル化剤」を含有させることもできる。しかしながら、本発明者の知見によれば、前記ゲル化剤よりも、前記改質剤、特にセルロースナノファイバーの方が、造形性、保形性等の向上の点で有効である。したがって、本発明の食品組成物に前記改質剤を含有させる場合は、前記ゲル化剤は不要である。
【0028】
本発明の食品組成物は、篩のパス率が特定範囲にあるが好ましく、具体的には、目開き1mmの篩を通過し、目開き3mmの篩を通過しない(目開き3mmの篩上に留まる)ことが、本発明の効果を一層確実に奏させるようにする観点から好ましい。ここで言う「目開き1mmの篩を通過する」とは、食品組成物の全質量の好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%が、目開き1mmの篩を通過することを意味する。また、「目開き3mmの篩を通過しない」とは、食品組成物の全質量の好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%が、目開き3mmの篩を通過しないことを意味する。
前記の篩のパス率は、食品素材のペーストに含まれる粒子(食品素材の固形分)のサイズの影響が特に大きいので、食品素材の粉砕方法を適宜調整することで、該パス率を調整することが可能である。
【0029】
本発明の食品組成物は、食品素材のペースト(主素材)を用意し、これに必要に応じ、前記改質剤、調味料等の他の成分、水分等の副素材を添加し、混合することで、製造することができる。本発明の食品組成物が含有する水分は、該食品組成物が含有する食品素材のペースト由来の水分のみであってもよく、該ペーストとは別に添加された水分を含んでいてもよい。
【0030】
食品素材のペーストは、食品素材を粉砕することで得られる。粉砕に先立ち、食品素材を適当なサイズに切断してもよい。食品素材の粉砕方法は特に制限されず、例えば、機械的な応力が食品素材全体に作用し、食品素材が細かな破片になる「体積粉砕」でもよく、あるいは食品素材に圧縮力及び/又はせん断力を加えて食品素材の表面から削りとるようにして微粉を生成する「表面粉砕」(磨砕とも呼ばれる)でもよく、従来公知の粉砕方法を利用することができる。また、粉砕に供される食品素材は、生でもよく、蒸煮、蒸気加熱、焼成等の加熱処理が施されたものでもよい。すなわち本発明で用いる食品素材のペーストは、加熱処理が施されたものであり得る。
【0031】
本発明の食品組成物は、そのままペーストの状態で利用(喫食、調理、冷蔵保存、冷凍保存等)することも可能であるが、3Dプリンティング技術等の三次元造形技術を用いて所望の形状に造形してから利用するのに特に適している。本発明の食品組成物を三次元造形技術により所望の形状に造形してなる造形食品は、輪郭がシャープで外観が良好であり、且つ保形性が良好で崩れにくいという特長を有する。本発明の食品組成物は、公知の三次元造形技術に適用可能であり、その具体例として、3Dプリンティング技術、加圧押出、真空焼成、成形型を用いた成形が挙げられる。
【0032】
本発明の食品組成物は3Dプリンティング技術に好適である。すなわち本発明の食品組成物は、3Dプリンタを用いて造形される造形食品の原料として好適である。ここで言う「3Dプリンタ」とは、三次元設計データに基づいて食品の造形物を製造する三次元造形装置であり、3Dフードプリンタとも呼ばれる。本発明の食品組成物が適用可能な3Dプリンタの造形方式は特に制限されず、例えば、インクジェット方式が挙げられる。
【0033】
本発明には、前述した本発明の食品組成物の三次元造形装置による造形物を含む、造形食品が包含される。三次元造形装置としては、例えば、3Dプリンタ、加圧押出機、真空焼成機、成形型が挙げられる。これらの中でも特に3Dプリンタは、本発明の食品組成物の特長を最大限に活かせるため好ましい。
【0034】
三次元造形装置を用いて本発明の食品組成物から前記造形物を製造するのに先立ち、該食品組成物の物性を三次元造形装置での取り扱いにより適したものにする等の目的で、該食品組成物に加熱処理を施してもよい。例えば、三次元造形装置に導入前の食品組成物に加熱処理を施して、その水分含量を前記の好ましい範囲に調整してもよい。前記加熱処理は、水分を付与しない乾熱処理でもよく、水分を付与する湿熱処理でもよく、その目的に応じて適宜選択し得る。
【0035】
本発明の造形食品を構成する造形物は、本発明の食品組成物を三次元造形装置で造形してなるものでもよく、斯かる三次元造形後に後処理が施されたものでもよい。前記後処理として、例えば、乾燥、冷蔵、冷凍、調理が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせることができる。例えば、本発明の食品組成物を三次元造形して得られた造形物に対し、乾燥処理のみを施してもよく、あるいは、冷蔵又は冷凍後に調理し、その調理済みの造形物を冷凍してもよい。
前記後処理としての乾燥は、例えば、該乾燥処理後の造形物の水分含量が、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~95質量%となる条件で実施することができる。ここで言う「造形物の水分含量」は、前述した食品組成物の水分含量の測定方法(加熱乾燥法)に準じて測定することができる。また、乾燥手段は特に制限されず、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、凍結乾燥等を用いることができる。
前記後処理としての冷蔵、冷凍、調理は、それぞれ、常法に従って実施できる。前記調理としては、例えば、蒸煮、焼成等の加熱調理が挙げられる。
【0036】
本発明の造形食品は、調理済み冷凍食品として特に有用である。調理済み冷凍食品である本発明の造形食品は、例えば、本発明の食品組成物を三次元造形装置で造形して造形物を得、該造形物を必要に応じ冷蔵又は冷凍した後、加熱調理し、しかる後、冷凍することで製造することができる。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔製造例1~14〕
にんじん(食品素材)を適当な大きさに切断し、そのにんじんの切断片を、スチームコンベクションオーブンを用いて加熱温度100℃、蒸気100%、加熱時間20分の条件で加熱した後、ミキサーを用いて粉砕してにんじんペースト(食品素材のペースト)を得た。このペーストを目開き1mmの篩で分画し、該篩を通過した画分(以下、「目開き1mm篩パス画分」とも言う。)を分取した。製造例1については、前記目開き1mm篩パス画分を食品組成物とした。製造例1以外の製造例については、前記目開き1mm篩パス画分に、改質剤としてセルロースナノファイバー(繊維径数nm~数百nm)又はコーンスターチを下記表1、2の配合で添加し、混合したものを食品組成物とした。なお、コーンスターチは、湯煎により糊化させたものを改質剤として用いた。
食品組成物の製造に使用した原料の詳細は下記のとおりである。
【0039】
〔製造例15~17〕
食品素材としてにんじんに代えてピーマンを用いた以外は製造例1~7と同様にして、食品組成物を製造した。
【0040】
〔製造例18~23〕
食品組成物の水分含量を適宜変更した以外は製造例1~7と同様にして、食品組成物を製造した。食品組成物の水分含量の調整は、食品組成物をフライパンに投入してかき混ぜながら加熱することで行った。
【0041】
〔試験例〕
各製造例の食品組成物について前記圧縮・回復試験を行い、付着距離及び硬さを測定した。にんじんペーストを含有する食品組成物(製造例1~14、18~23)については、1種類の食品組成物につき前記圧縮・回復試験を6回行い、その6回の付着距離及び硬さの測定値の平均値を、当該食品組成物の付着距離及び硬さとした。ピーマンを含有する食品組成物(製造例15~17)については、1種類の食品組成物につき前記圧縮・回復試験を4回行い、その4回の付着距離及び硬さの測定値の平均値を、当該食品組成物の付着距離及び硬さとした。
また、各製造例の食品組成物を用い、下記(造形食品の製造方法)に従って造形食品を製造した。専門パネラーに、造形食品の製造過程を目視観察してもらうとともに、製造された造形食品を目視観察してもらい、それらの観察結果に基づき、食品組成物を下記評価基準で評価してもらった。結果を下記表1~4に示す。
【0042】
(造形食品の製造方法)
食品組成物を3Dプリンタに導入して造形食品を製造する。3Dプリンタとして、スペインのNatural Machine社製3Dフードプリンタ「Foodini」を使用する。具体的には、3Dプリンタに導入前の食品組成物を、湯煎により該食品組成物の品温が85℃に達するまで加熱した後、速やかに3Dプリンタに導入し、3Dプリンタの取扱説明書に従って三次元造形を行い、造形食品を製造する。前記「Foodini」は、造形食品の原料(食品組成物)を押し出すノズルを備え、該ノズルから原料を押し出しつつ、所定形状に造形する。
製造目的物である造形食品の設計上の形状は、長方形の一辺(長辺)に鋸刃状の凹凸を形成した扁平なシート状とする。斯かる設計上の形状は、弁当箱等の容器内に収容された食品を区分けする仕切りとして汎用されているバランの典型的な形状であり、具体的には、厚み0.1mm以上の扁平状で、平面視において、互いに平行且つ長さが同じである一対の短辺と、該一対の短辺に連接された一対の長辺とを有し、該一対の長辺のうちの一方が鋸刃状の波線、他方が直線である形状である。前記短辺の長さを40mmとする。前記長辺は、前記一対の短辺それぞれとのなす角度を90度とし、該長辺の長さを80mmとする。前記波線は、前記直線側(内方側)に向かって凸の先鋭な凸部と、該直線とは反対側(外方側)に向かって凸の先鋭な凸部とが、交互に配置された構成とし、両凸部は互いに同形状・同寸法とする。
【0043】
<造形性の評価基準>
・A:3Dプリンタにおいてノズルから食品組成物がスムーズに押し出され(押出性が良好)、造形食品の輪郭がシャープで形状に歪みが無く、且つ造形食品の保形性が良好である。造形性は良好。
・B:3Dプリンタにおいてノズルから食品組成物がスムーズに押し出され(押出性が良好)、造形食品の保形性が良好であるが、造形食品の形状に多少歪みがある。造形性は実用上十分なレベル。
・C:3Dプリンタにおいてノズルから食品組成物を押し出すことができない(押出性が不良)か、又は押し出された食品組成物の保形ができないため、造形食品を製造することができない。造形性は不良。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
表1~4に示すとおり、製造例2~6、8~13及び17~21の食品組成物は、前記圧縮・回復試験において付着距離が6mm以上、硬さが8.0×104N/m2以下であるため、これを満たさない製造例1、7、14~16、22及び23の食品組成物に比べて、造形性に優れていた。
【0049】
なお、製造例18~21の食品組成物を用いた造形食品に乾燥処理を施して、水分含量を55質量%に調整したもの(乾燥造形食品)の形状を目視観察したところ、乾燥処理前と実質的に変わらず、保形性は良好であった。前記乾燥処理として、1)マイクロ波調理器用い、出力600Wで20秒加熱する処理と、2)オーブンを用い、庫内温度150℃で35分加熱する処理とを行ったが、両処理とも同じ結果であった。