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特開2024-127188コーティング剤、多層構造体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127188
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】コーティング剤、多層構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/02 20060101AFI20240912BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240912BHJP
   C08F 218/08 20060101ALI20240912BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D129/02
C09D5/00 Z
C08F218/08
C08F210/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036169
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】坂野 豪
【テーマコード(参考)】
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J038CE031
4J038CE032
4J038HA446
4J038HA476
4J038JA19
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038KA10
4J038KA12
4J038MA08
4J038MA15
4J038NA08
4J038NA12
4J038PB04
4J100AA02P
4J100AG04Q
4J100BA03H
4J100CA31
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100HA09
4J100HC09
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性の改善されたEVOH層を含む多層構造体を提供でき、かつEVOH層同士を熱圧着する製造方法で使用した場合にシワが発生しにくく、かつEVOH層同士の密着性が改善されるコーティング剤の提供。
【解決手段】変性EVOH(A)及び無機微粒子を含有するコーティング剤であって、変性EVOH(A)が下記式で表される構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)を含み、前記各構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)のモル含有率(モル%)a、b及びcが明細書に記載の式(1)~(3)を満たし、変性EVOH(A)のケン化度(DS)が90モル%以上であり、前記無機微粒子の平均粒子径が10~2,000nmであり、前記無機微粒子の含有量が変性EVOH(A)に対して重量基準で1~2,000ppmである、コーティング剤。
(式中の各記号は明細書において定義した通りである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び無機微粒子を含有するコーティング剤であって、前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が下記式で表される構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)を含み、前記各構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)のモル含有率(モル%)a、b及びcが下記式(1)~(3)を満たし、下記式(4)で表される前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度(DS)が90モル%以上であり、前記無機微粒子の平均粒子径が10~2,000nmであり、前記無機微粒子の含有量が前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して重量基準で1~2,000ppmである、コーティング剤。
【化1】
21≦a≦55 (1)
0.1≦c≦10 (2)
[100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)] (3)
DS=[(ヒドロキシ基のモル数)/(ヒドロキシ基+アシロオキシ基+ホルミルオキシ基の合計モル数)]×100 (4)
[式中、a、b及びcは全構造単位の合計100モル%に対する各構造単位のモル含有率(モル%)であり、Wは水素原子、メチル基又はR-OYで表される基を表し、X,Y及びZはそれぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表し、Rは単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表す。前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。Rは炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。*は結合部位を表す。]
【請求項2】
前記式(I)中、WがR-OYで表される基であり、Rが単結合であり、Rがメチレン基であり、Y及びZが水素原子である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記式(I)中、Wは水素原子であり、Rがヒドロキシメチレン基であり、Zが水素原子である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度(DS)が99モル%以上である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の含有量が1~50重量%である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項6】
さらに溶媒を含み、前記溶媒がアルコールと水の混合溶媒である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項7】
さらに前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)以外のエチレン-ビニルアルコール共重合体(B)を含み、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(B)のエチレン含有量が21~55モル%である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項8】
前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(B)の合計含有量が1~50重量%である、請求項7に記載のコーティング剤。
【請求項9】
前記無機微粒子が非晶質シリカである、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のコーティング剤を基材上に塗布してなる、多層構造体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載のコーティング剤を基材上に塗布する工程を含む、多層構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載のコーティング剤を基材上に塗布して変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層を有する多層構造体を製造する工程、及び前記多層構造体を2つ以上製造し、前記多層構造体の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層同士を熱圧着させる工程を含む、多層構造体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体を含有するコーティング剤、多層構造体及び該多層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略称することがある。)はガスバリア性、耐油性、耐溶剤性に優れ、種々の包装分野の包装材料、フィルム、シート、容器等に好適に用いられる。EVOHは多層構造体の1層として使用されることも多く、その場合に、EVOH溶液をコーティングすることによって、EVOHを含む層(以下、EVOH層と称することがある。本明細書において、未変性EVOHを含む層だけでなく、変性EVOHを含む層もまた、EVOH層と称することがある。)を形成する方法も行われる。近年の循環型経済を目指す社会情勢において、必要以上の機能を包装材料に持たせる過剰包装は避けられ、必要最小限の機能を包装材料に付与させる観点から、EVOH層の精密な厚み制御技術が求められている。また、包装材料をリサイクルして再度包装材料に用いる際、例えば、EVOHはポリオレフィン樹脂に少量混ざってもリサイクル性に悪影響を及ぼさないが、包装材料中のEVOHの割合が多くなるにつれてリサイクル性が悪化するため、少ないEVOH量でも高いガスバリア性を発現する包装材料が求められている。
【0003】
一般的に、EVOH溶液の溶剤としては含水アルコールが使用される(特許文献1)。コーティングに用いるEVOH溶液は保存安定性が悪く、かかるEVOH溶液をコートして得られるEVOH層は厚みムラが生じやすいという問題があった。EVOH層の厚みムラは、包装材料としてのガスバリア性の低下につながるため、必要以上の厚みで塗工する必要があった。
【0004】
これまでに上記問題を解決すべく検討がなされ、変性されたEVOHを含有する含水アルコール溶液が保存安定性に優れることが報告されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭47-48489号公報
【特許文献2】特開2004-161854号公報
【特許文献3】特開2006-96818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2及び3に記載の溶液は保存安定性が改善されているものの、かかる溶液をコーティングして得られるEVOH層のガスバリア性は必ずしも十分なものではなかった。
【0007】
また、EVOH層を含む多層構造体を製造する方法として、生産性向上を目的に、基材上にEVOH溶液を薄くコーティングすることで乾燥速度を向上させ、EVOH層を表面に有する多層構造体を製造した上で、2つのロールにスリットし、2つのロールのEVOH層同士が接するように熱圧着させて多層構造体を製造する方法(以下、「EVOH層同士を熱圧着する製造方法」と称することがある)がある。かかる製造方法において、未変性EVOHを含有する溶液又は特許文献3に記載の溶液を用いた場合、シワが発生しやすいという課題があることが判明した。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、ガスバリア性の改善されたEVOH層を含む多層構造体を提供でき、かつEVOH層同士を熱圧着する製造方法で使用した場合にシワが発生しにくく、かつEVOH層同士の密着性が改善されるコーティング剤、かかるコーティング剤を塗工してなる多層構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体と無機微粒子を含有するコーティング剤が上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
上記課題は、下記[1]~[10]のいずれかを提供することにより解決される。
[1]変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)および無機微粒子を含有するコーティング剤であって、前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が下記式で表される構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)を含み、前記各構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)のモル含有率(モル%)a、b及びcが下記式(1)~(3)を満たし、下記式(4)で表される前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度(DS)が90モル%以上であり、前記無機微粒子の平均粒子径が10~2,000nmであり、前記無機微粒子の含有量が前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して重量基準で1~2,000ppmである、コーティング剤。
【化1】
21≦a≦55 (1)
0.1≦c≦10 (2)
[100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)] (3)
DS=[(ヒドロキシ基のモル数)/(ヒドロキシ基+アシロオキシ基+ホルミルオキシ基の合計モル数)]×100 (4)
[式中、a、b及びcは全構造単位の合計100モル%に対する各構造単位のモル含有率(モル%)であり、Wは水素原子、メチル基又はR-OYで表される基を表し、X,Y及びZはそれぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表し、Rは単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表す。前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。Rは炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。*は結合部位を表す。]
[2]前記式(I)中、WがR-OYで表される基であり、Rが単結合であり、Rがメチレン基であり、Y及びZが水素原子である、[1]のコーティング剤;
[3]前記式(I)中、Wは水素原子であり、Rがヒドロキシメチレン基であり、Zが水素原子である、[1]のコーティング剤;
[4]前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度(DS)が99モル%以上である、[1]~[3]のいずれかのコーティング剤;
[5]前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の含有量が1~50重量%である、[1]~[4]のいずれかのコーティング剤;
[6]さらに溶媒を含み、前記溶媒がアルコールと水の混合溶媒である、[1]~[5]のいずれかのコーティング剤;
[7]さらに上記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)以外のエチレン-ビニルアルコール共重合体(B)を含み、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(B)のエチレン含有量が21~55モル%である、[1]~[6]のいずれかのコーティング剤;
[8]前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(B)の合計含有量が1~50重量%である、[7]のコーティング剤;
[9]前記無機微粒子が非晶質シリカである、[1]~[8]のいずれかのコーティング剤;
[10][1]~[9]のいずれかのコーティング剤を基材上に塗布してなる、多層構造体;
[11][1]~[9]のいずれかのコーティング剤を基材上に塗布する工程を含む、多層構造体の製造方法;
[12][1]~[9]のいずれかのコーティング剤を基材上に塗布して変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層を有する多層構造体を製造する工程、及び前記多層構造体を2つ以上製造し、前記多層構造体の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層同士を熱圧着させる工程を含む、多層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ガスバリア性の改善されたEVOH層を含む多層構造体を提供でき、かつEVOH層同士を熱圧着する製造方法で使用した場合にシワが発生しにくく、かつEVOH層同士の密着性が改善されるコーティング剤、かかるコーティング剤を塗工してなる多層構造体及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様の一例に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施態様は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下の記載に限定されない。
また本明細書において、実施態様の好ましい形態を示すが、個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、好ましい形態である。数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
本明細書において、「XX~YY」との数値範囲の記載がある場合、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、「主成分」とは、重量基準で最も多く含まれる成分を意味する。
【0013】
本開示のコーティング剤は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び無機微粒子を含有する。前記変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は下記式で表される構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)を含む。以下、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を変性EVOH(A)と略称することがある。
【0014】
【化2】
【0015】
式中、a、b及びcは全構造単位の合計100モル%に対する各構造単位の含有率(モル%)であり、Wは、水素原子、メチル基又はR-OYで表される基を表し、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表し、Rは単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表す。前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。Rは、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。*は結合部位を表す。
【0016】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)における、前記各構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)のモル含有率(モル%)a、b及びcは下記式(1)~(3)を満たす。
21≦a≦55 (1)
0.1≦c≦10 (2)
[100-(a+c)]×0.9≦b≦[100-(a+c)] (3)
【0017】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度(DS)は下記式(4)で表され、前記ケン化度(DS)は90モル%以上である。
DS=[((ヒドロキシ基のモル数)/(ヒドロキシ基+アシロオキシ基+ホルミルオキシ基の合計モル数)]×100 (4)
【0018】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、構造単位(Ia)及び(Ib)に加えて、炭素数3以上のモノマー単位(構造単位(Ic))を有している。炭素数3以上のモノマー単位は立体障害により溶液状態の安定性を高める働きがあるため、本開示のコーティング剤をコートして得られるEVOH層は厚みムラが生じにくく、ガスバリア性が優れる。また、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は、一級水酸基を有していることが多いため、強い水素結合力による高いガスバリア性を発現する。よって、本開示のコーティング剤を用いることにより、ガスバリア性の高いEVOH層を含む多層構造体を提供できる。
【0019】
構造単位(Ic)において、Rは、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。前記アルキレン基の炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。前記アルキレンオキシ基の炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0020】
構造単位(Ic)において、Wは水素原子、メチル基又はR-OYで表される基を表し、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。Wは、溶液の安定性およびガスバリア性を高める観点から、水素原子、メチル基又はR-OHで表される基(すなわちYが水素原子である)であることが好ましく、水素原子又はR-OHで表される基であることがより好ましく、R-OHで表される基であることがさらに好ましい。R-OHで表される基のうちRは、アルキレン基であることが好ましく、エチレン基又はメチレン基であることがより好ましい。
【0021】
構造単位(Ic)において、WがR-OYで表される基であるとき、Rは、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。前記アルキレン基の炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。前記アルキレンオキシ基の炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。WがR-OYで表される基であるとき、Rは単結合であり、Rはメチレン基であり、Y及びZは水素原子であることが好ましい。Wが水素原子であるとき、Rはヒドロキシメチレン基であり、Zは水素原子であることが好ましい。
【0022】
構造単位(Ib)及び(Ic)において、X、Y及びZはそれぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。X、Y又はZが水素原子である場合には、変性EVOH(A)は水酸基を有し、X、Y又はZがホルミル基又はアルカノイル基である場合には、変性EVOH(A)はエステル基を有する。当該アルカノイル基としては、炭素数が2~5のアルカノイル基であることが好ましく、アセチル基、プロパノイル基又はブタノイル基がより好適であり、アセチル基がさらに好適である。製造容易性及びバリア性の観点から、X、Y及びZは、いずれも、水素原子である、又は水素原子及びアセチル基を含む混合物であることが好ましい。
【0023】
W、X、Y、Z、R及びRは、上述した結合、原子及び官能基のうち1種であってもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0024】
構造単位(Ic)としては、例えば、下記式(IIc)、(IIIc)又は(IVc)で表される構造単位が挙げられ、中でもガスバリア性の観点から、式(IIc)および(IVc)で表される構造単位が好ましく、式(IIc)で表される構造単位がより好ましい。
【0025】
【化3】
【0026】
式(IIc)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。*は結合部位を表す。
【0027】
ガスバリア性を高める観点から、式(IIc)中、R及びRは水素原子であることが好ましい。
【0028】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)において、aは全構造単位の合計100モル%に対する構造単位(Ia)のモル含有率(モル%)を示したものであり、21~55モル%である(式(1))。aが21未満では、溶融混練してリサイクルされる際の熱安定性が低下し、ゲルやブツが発生しやすくなる。aは好適には23モル%以上であり、より好適には26モル%以上であり、さらに好適には28モル%以上であり、特に好適には30モル%以上である。一方、aが55モル%を超えると、低湿度下(例えば、湿度65%)でのガスバリア性が不足する。aは好適には52モル%以下であり、より好適には50モル%以下であり、さらに好適には48モル%以下であり、特に好適には46モル%以下である。
【0029】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)において、cは全構造単位に対する構造単位(Ic)のモル含有率(モル%)を示したものであり、0.1~10モル%である(式(2))。cが0.1モル%未満では、変性EVOH(A)の溶液安定性が不十分となる。cは好適には0.3モル%以上であり、より好適には0.5モル%以上であり、さらに好適には0.7モル%以上であり、特に好適には1.0モル%以上である。一方、cが10モル%を超えると、EVOH層のフィルムの強度が低下する。cは好適には8モル%以下であり、より好適には5モル%以下であり、4モル%以下、3モル%以下又は2.5モル%以下が好ましい場合もある。なお、構造単位(Ic)が異なる2種以上の構造単位を含む場合(すなわち、W、R及びZの少なくとも一つが異なる2種以上の結合、原子又は官能基である場合)、cはそれらの総和である。
【0030】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)において、bは全構造単位に対する構造単位(Ib)の含有率(モル%)を示したものであり、bは式(3)を満たす。bが式(3)を満たさない場合、ガスバリア性が不十分である。bは好適には下記式(3’)を満たし、より好適には下記式(3”)を満たす。
なお、構造単位(Ib)が異なる2種以上の構造単位を含む場合(すなわち、Xが異なる2種以上の原子又は官能基である場合)、bはそれらの総和である。
[100-(a+c)]×0.95≦b≦[100-(a+c)](3’)
[100-(a+c)]×0.98≦b≦[100-(a+c)](3”)
【0031】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)において、ケン化度(DS)は式(4)で定義され、そのケン化度(DS)は90モル%以上である。
DS=[(ヒドロキシ基のモル数)/(ヒドロキシ基+アシロオキシ基+ホルミルオキシ基の合計モル数)]×100 (4)
ケン化度(DS)が90モル%未満の場合、十分なバリア性能が得られず、変性EVOH(A)の熱安定性が不十分となり、溶融混練してリサイクルされる際にゲルやブツが発生しやすくなる。また、熱安定性が低下することにより、高温成形時のロングラン成形性が低下する傾向がある。ケン化度(DS)は、好適には95モル%以上であり、より好適には98モル%以上であり、さらに好適には99モル%以上である。特に優れたバリア性及び熱安定性を有するためには、ケン化度(DS)は、好適には99モル%超であり、より好適には99.5モル%以上であり、さらに好適には99.8モル%以上である。ケン化度(DS)の上限に制限はなく、例えば100モル%以下である。
【0032】
ケン化度(DS)、並びに前記各構造単位のモル含有率a、b及びcは、核磁気共鳴(NMR)によって測定できる。また、本開示で用いられる変性EVOH(A)は、通常ランダム共重合体である。ランダム共重合体であることは、NMRや融点の測定結果から確認できる。
【0033】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の好ましいメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1~30g/10分であり、より好ましくは0.3~25g/10分、更に好ましくは0.5~20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。MFRが0.1以上であると、固形分濃度に対する溶液の粘度が適度に低いため、塗膜の必要厚みを一度で塗布しやすく、ガスバリア性が優れたり、生産性が優れたりする傾向にある。MFRが30g/10分以下であると、固形分濃度に対する溶液の粘度が適度に高いため、粘度差のある溶液でも塗膜の厚み変化が小さくなり、包装材に安定したガスバリア性を付与しやすい傾向にある。
【0034】
[溶媒]
本開示のコーティング剤は、溶媒を含有していてもよい。前記溶媒としては、変性EVOH(A)を溶解することができれば特に限定されないが、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド、ジメチルフォルムアミド等のアミド;N-メチルピロリドン;等の有機溶媒、又は前記有機溶媒と水の混合溶媒が好適に使用される。
【0035】
なかでも、アルコールと水の混合溶媒を使用することが、溶解性や経済性の観点から好ましい。前記アルコールとしては、溶解性、溶解温度、揮発性(乾燥速度)、経済性等の観点から、炭素数4以下の脂肪族アルコールが好ましく、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール及びtert-ブチルアルコールがより好ましく、n-プロピルアルコールがさらに好ましい。前記アルコールは一種を単独で使用しても、二種類以上を同時に使用してもよい。
【0036】
アルコールと水との配合比は特に限定されるものではなく、アルコールの種類、変性EVOH(A)の種類、変性EVOH(A)の濃度、コーティング条件(温度等)、用途などに対応して適宜調整される。通常、混合溶媒中のアルコールの濃度は1~99重量%の範囲を採用できる。溶解性や溶液の保存安定性の観点からは、アルコールの含有量は20重量%以上であることがこのましく、40重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましい。また、同様の理由から、アルコールの含有量は90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。このとき、本開示のコーティング剤に含まれるアルコール以外の溶媒は水が主成分であることが好ましく、水のみであることが好ましい。
【0037】
本開示のコーティング剤に含まれる変性EVOH(A)の含有量は1~50重量%であることが好適である。変性EVOH(A)の含有量が1重量%以上であると、溶媒の使用量が少なく経済的に有利であるとともに、塗工厚みを厚くしやすい傾向にある。変性EVOH(A)の含有量は、好適には3重量%以上であり、より好適には5重量%以上であり、さらに好適には7重量%以上であり、特に好適には10重量%以上である。変性EVOH(A)は濃度が比較的高い場合においても結晶化しにくく、保存安定性が良好であるから、高濃度の溶液として使用することができる。一方、変性EVOH(A)の含有量が50重量%以下であると、溶液粘度が適度に低くなり塗工しやすいとともに、溶液の保存安定性が優れる傾向にある。変性EVOH(A)の含有量は好適には40重量%以下であり、より好適には30重量%以下であり、25重量%以下が好ましい場合もある。
【0038】
本開示のコーティング剤は、前記変性EVOH(A)に加え、前記変性EVOH(A)以外のエチレン-ビニルアルコール共重合体(B)(以下、EVOH(B)と称することがある)を含んでもよい。EVOH(B)としては、構造単位(Ic)を含まず、構造単位(1a)及び(1b)を含むエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましく、構造単位(1a)及び(1b)のみからなるエチレン-ビニルアルコール共重合体(すなわち未変性EVOH)がより好ましい。EVOH(B)を配合することで、得られるEVOH層のガスバリア性を損なうことなく、他の添加剤の選択・配合の自由度を高めることができる。EVOH(B)の種類は、変性EVOH(A)の種類や、用途などによって適宜選択される。
【0039】
EVOH(B)のエチレン含有量は特に制限されないが、EVOH層のバリア性や外観の観点から、21~55モル%が好ましく、23~52モル%、26~50モル%、28~48モル%又は30~46モル%が好ましい場合もある。
【0040】
EVOH(B)のケン化度は特に制限されないが、熱安定性及びバリア性の観点から、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上、99モル%以上、99.5モル%以上又は99.8モル%以上が好ましい場合もある。EVOH(B)のケン化度の上限は特に制限されず、例えば100モル%以下であってもよい。
【0041】
本開示のコーティング剤がEVOH(B)を含む場合、変性EVOH(A)及びEVOH(B)の合計含有量がコーティング剤全重量に対し1~50重量%であることが好適である。前記合計含有量が1重量%以上であると溶媒の使用量が少なく経済的に有利であるとともに、塗工厚みを厚くしやすい傾向にある。前記合計含有量は好適には5重量%以上であり、より好適には10重量%以上である。一方、前記合計含有量が50重量%以下であると、溶液粘度が適度に低くなり塗工しやすいとともに、溶液の保存安定性が優れる傾向にある。前記合計含有量は好適には40重量%以下であり、より好適には30重量%以下である。
【0042】
本開示のコーティング剤がEVOH(B)を含む場合、変性EVOH(A)とEVOH(B)の重量比(A/B)は通常1/99~99/1である。前記重量比(A/B)は好適には90/10以下であり、より好適には80/20以下である。前記重量比(A/B)が上記範囲内であると、溶液の保存安定性が優れる傾向にある。
【0043】
本開示のコーティング剤において、変性EVOH(A)が異なる2種類以上の変性EVOH(A)を含む場合、及びEVOH(B)が異なる2種以上のEVOH(B)を含む場合、各構造単位の含有率、ケン化度及びMFRは、配合質量比から算出される平均値を用いる。
【0044】
変性EVOH(A)及びEVOH(B)は、本発明の効果が阻害されない範囲で、構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)以外の、他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含んでもよい。このような他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0045】
本発明の目的を阻外しない範囲内で、コーティング剤はホウ素化合物を含んでもよい。ここでホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。
【0046】
本開示のコーティング剤がホウ素化合物を含有する場合、コーティング剤の全重量に対するホウ素化合物の含有量はホウ素元素換算で、好ましくは20~2000ppm、より好ましくは50~1000ppmである。ホウ素化合物の含有量が前記範囲内であると、溶液の保存安定性がさらに改善される。
【0047】
本発明の目的を阻外しない範囲内で、コーティング剤はリン酸化合物を含んでいてもよい。これにより樹脂の品質(着色等)を安定させることができる場合がある。リン酸化合物としては特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第一リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸二水素ナトリウム及びリン酸二水素カリウムが好ましい。本開示のコーティング剤がリン酸化合物を含有する場合、コーティング剤の全重量に対するリン酸化合物の含有量は、リン酸根換算で好ましくは200ppm以下であり、より好ましくは5~100ppmであり、さらに好ましくは5~50ppmである。
【0048】
本開示のコーティング剤は、平均粒子径が10~2,000nmの無機微粒子を含む。無機微粒子は無機酸化物粒子であることが好ましく、酸化ケイ素粒子又は金属酸化物粒子であることがより好ましい。前記金属酸化物粒子を構成する金属は、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、タングステン、モリブデン、チタン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。無機酸化物粒子を構成する無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛及びこれらの複合体等を挙げることができ、酸化ケイ素が好ましい。また、アンチブロッキング効果を発現するとともに、変性EVOH(A)のガスバリア性を向上させる観点から、酸化ケイ素の中でも非晶質シリカが特に好ましい。前記無機微粒子は、1種類の無機微粒子を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。無機微粒子の含有量は、変性EVOH(A)に対して重量基準で1~2,000ppmであり、好ましくは10~1,500ppmであり、より好ましくは20~1,000ppmであり、さらに好ましくは30~800ppmであり、40~500ppm、45~400ppm、50~300ppm、55~200ppm、60~150ppm又は65~100ppmが好ましい場合もある。無機微粒子の含有量が1ppm未満の場合、EVOH層の平滑性が高くなり、EVOH層同士を熱圧着させた際にフィルムにシワが生じやすくなる。一方で、無機微粒子の含有量が2,000ppmを超える場合、熱圧着フィルムの密着性が低くなる。無機微粒子の平均粒子径は10~2,000nmである。平均粒子径が10nm未満の場合、EVOH層のスリップ性が不十分になり、EVOH層同士を熱圧着させた時にシワが発生しやすくなる。上記平均粒子径は好ましくは20nm以上であり、30nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上又は800nm以上が好ましい場合もある。平均粒子径が2,000nmよりも大きい場合、フィルムのブツとなり、フィルム外観が不良となったり、コーティング液の濾過段階で目詰まりを起こしやすくなったりするとともに、熱圧着時のEVOH面同士の隙間が大きな無機微粒子の存在によって広がり熱圧着時の接着性が不十分となりEVOH層内で剥離する場合がある。前記平均粒子径は好ましくは1,800nm以下であり、より好ましくは1,500nm以下であり、1,400nm以下、1,300nm以下又は1,200nm以下が好ましい場合もある。
【0049】
本開示のコーティング剤は、必要に応じて各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、界面活性剤、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、可溶性無機塩あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲で配合することができる。
【0050】
続いて、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の製造方法について説明する。
【0051】
構造単位(Ib)は、通常ビニルエステルに由来する構造単位をケン化することによって得られる。一方、構造単位(Ic)は、メチレン基及びエステル構造を少なくとも有する不飽和単量体に由来する構造単位をケン化することで得ることができる。また、構造単位(Ic)は、メチレン基及びヒドロキシ基を有する不飽和単量体に由来する構造単位であってもよい。
【0052】
変性EVOH(A)の製造方法は特に限定されず、例えば、エチレン、下記式(V)で示されるビニルエステル、及び下記式(VI)又は(VIII)で示される不飽和単量体をラジカル重合させて共重合体を得た後に、それをケン化する方法が挙げられる。
【0053】
【化4】
【0054】
式(V)中、Rは水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を表す。式(V)で示されるビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニルなどが例示される。経済的観点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0055】
【化5】
【0056】
式(VI)中、R及びRは、式(IIc)と同じである。R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~9のアルキル基を表す。式(VI)で示される不飽和単量体としては、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテート、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジプロピオネート、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジブチレートなどが挙げられる。中でも、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートが、製造が容易な点から好ましく用いられる。2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートの場合、R及びRが水素原子であり、R及びRがメチル基である。
【0057】
【化6】
【0058】
また、上記式(VI)又は(VIII)で示される不飽和単量体の代わりに、下記式(VII)又は(IX)で示される不飽和単量体を共重合してもよく、この場合はケン化処理によって、Rを含むビニルエステル単位のみがケン化されることになる。
【0059】
【化7】
【0060】
式(VII)中、R及びRは、式(IIc)と同じである。式(VII)で示される不飽和単量体としては、2-メチレン-1,3-プロパンジオール、2-メチレン-1,3-ブタンジオールが挙げられる。
【0061】
【化8】
【0062】
前記式(VI)~(IX)で示される不飽和単量体は、前記式(V)で示されるビニルエステルとの共重合反応性が高いため、共重合反応が進行しやすい。したがって、得られる変性エチレン-ビニルエステル共重合体の変性量や重合度を高くすることが容易である。また、低重合率で重合反応を停止させても重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体の量が少ないので、環境面及びコスト面においても優れている。かかる観点から、エチレン及び下記式(V)で示されるビニルエステルと共重合する単量体は、官能基を有するアリル位の炭素原子が2個以上である単量体がより好ましく、式(VI)及び式(VII)で示される不飽和単量体がさらに好ましく、式(VI)で示される不飽和単量体が特に好ましい。ここで、式(VI)で示される不飽和単量体は、式(V)で示される不飽和単量体よりも反応性が高い。
【0063】
エチレン、上記式(V)で示されるビニルエステル、及び上記式(VI)~(IX)で示される不飽和単量体から選択される少なくとも一種を共重合して、変性エチレン-ビニルエステル共重合体を製造する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。また、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を採用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度の変性エチレン-ビニルエステル共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。
【0064】
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばアルコールが挙げられ、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールが好ましい。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とする変性EVOHの粘度平均重合度や、溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は、通常、0.01~10、好ましくは0.03~3、さらに好ましくは0.05~1である。
【0065】
エチレン、上記式(V)で示されるビニルエステル、及び上記式(VI)~(IX)で示される不飽和単量体から選択される少なくとも一種を共重合する際に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤としては、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、過酸化アセチルなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせてもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合速度に応じて調整される。重合開始剤の使用量は、ビニルエステル単量体100モルに対して0.01~0.2モルが好ましく、0.02~0.15モルがより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温~150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上100℃以下である。
【0066】
エチレン、上記式(V)で示されるビニルエステル、及び上記式(VI)~(IX)で示される不飽和単量体から選択される少なくとも一種を共重合する際には、本発明の効果が阻害されない範囲で連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2-ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などが挙げられる。中でも、アルデヒド類及びケトン類が好ましい。重合反応液への連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする変性エチレン-ビニルエステル共重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル単量体100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
【0067】
所定の時間重合し、所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応のビニルエステルや上記式(VI)~(IX)で示される不飽和単量体を追い出す。これらを追い出す方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部からエチレンを除去した重合溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部より有機溶剤、好適には沸点100℃以下のアルコール、最適にはメタノールの蒸気を吹き込み、塔頂部より該有機溶剤と未反応ビニルエステル等の混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応ビニルエステル等を除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
【0068】
未反応ビニルエステル等を除去した前記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、該共重合体中のビニルエステル構造をケン化する。ケン化方法は連続式、回分式いずれも可能である。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。また、ケン化に用いる溶媒としては、メタノールが好ましい。例えば、ケン化条件は次の通りである。
溶液中の変性エチレン-ビニルエステル共重合体の濃度;10~50重量%
反応温度;30~150℃
触媒使用量;0.005~0.6当量(式(V)で示されるビニルエステル由来の構造単位当り)
時間(連続式の場合、平均滞留時間);10分~6時間
【0069】
一般に、連続式でケン化する場合には、ケン化により生成する酢酸メチルをより効率的に除去できるので、回分式の場合に比べて少ない触媒量で高いケン化度の樹脂が得られる。また、連続式の場合にはケン化により生成する変性EVOH(A)の析出を防ぐため、より高い温度でケン化する必要がある。したがって、連続式では下記の範囲の反応温度及び触媒量とすることが好ましい。
反応温度;70~150℃
触媒使用量;0.005~0.1当量(式(V)で示されるビニルエステル由来の構造単位当り)
【0070】
このように変性エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することにより、変性EVOH(A)を含む溶液またはペーストが得られる。このとき、共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(VI)又は(VIII)で示される不飽和単量体に由来するエステル結合も同時に加水分解され、ヒドロキシ基に変換される。このように、一度のケン化反応によって種類の異なるエステル構造を同時に加水分解することができる。
【0071】
ケン化反応後の変性EVOH(A)は、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去してもよい。ここで、ケン化反応後の変性EVOH(A)を、金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まないイオン交換水等で洗浄する際、変性EVOH(A)に酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の触媒残渣を一部残存させてもよい。
【0072】
こうして得られた変性EVOH(A)を含む溶液又はペーストは、通常、変性EVOH(A)100質量部に対してアルコールを50質量部以上含有する。アルコールは好適にはメタノールである。
【0073】
変性EVOH(A)を含む溶液又はペーストの洗浄方法や含水率の調整方法は特に限定されないが、以下のように行うことができる。変性EVOH(A)を含む溶液又はペーストを加熱撹拌しながら、水を添加し、アルコールを留出させ、変性EVOH(A)を析出させる。この時の温度は、50~100℃が好ましい。析出した変性EVOH(A)を水や酢酸水溶液等を用いて洗浄する。この時の温度は、5~50℃が好ましい。洗浄後の変性EVOHを必要に応じて乾燥させる。例えば、50~100℃にて、1~24時間乾燥させる。このときの洗浄条件や乾燥条件によって、前記変性EVOH(A)の含水率を調整することができる。
【0074】
本開示のコーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体は、本発明のひとつである。
本開示のコーティング剤を基材上に塗布する工程を含む多層構造体の製造方法も、本発明のひとつである。
本開示のコーティング剤を基材上に塗布して変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層を有する多層構造体を製造する工程、及び前記多層構造体を2つ以上製造し、前記多層構造体の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層同士を熱圧着させる工程を含む多層構造体の製造方法もまた、本発明のひとつである。
【0075】
本開示の多層構造体は、基材及び変性EVOH(A)を含む層を有する。前記基材は特に限定されず、樹脂、金属、紙、木材などからなる基材が例示される。中でも、樹脂からなる基材が好ましく、熱可塑性樹脂からなる基材がより好ましい。前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の共重合体を使用することもできる。前記基材の厚みは特に制限されず、例えば10~1000μm程度であってもよい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0076】
前記変性EVOH(A)を含む層の厚さ(ドライベース)は特に制限されないが、0.5~20μmが好ましく、1~15μmがより好ましい。前記厚さが上記下限以上であると十分なガスバリア性を得やすく、一方、上記上限以下であると、目的とする厚みの塗膜を得るために必要な塗布回数が少なくなったり、乾燥時間が短くなり生産性が優れたりする。なお、前記厚さが上記下限未満であっても、2枚の多層構造体の変性EVOH(A)を含む層同士を熱圧着して好適な厚みにすることで、目的のガスバリア性を得ることができる。
【0077】
変性EVOH(A)を含む層は、変性EVOH(A)以外の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、本開示のコーティング剤に含んでいてもよい任意成分として前述した成分が挙げられる。
【0078】
本開示の多層構造体は、基材及び変性EVOH(A)を含む層以外の層を含んでいてもよい。かかる層の位置は特に制限されず、例えば基材と変性EVOH(A)を含む層の間に位置していてもよく、多層構造体の最表面に位置していてもよい。
【0079】
本開示の多層構造体は、本開示のコーティング剤を基材上に塗布する工程を含む製造方法により製造できる。また、本開示のコーティング剤を基材上に塗布して変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層を有する多層構造体を製造する工程、及び前記多層構造体を2つ以上製造し、前記多層構造体の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層同士を熱圧着させる工程を含む製造方法により製造してもよい。
本開示のコーティング剤を基材上に塗布する方法としては、キャスティングヘッドからの吐出、ロールコート、ドクターナイフコート、スプレーコート浸漬、刷毛塗りなど、任意の手段を採用できる。塗布後、塗膜は乾燥され、さらに必要に応じて熱処理される。ここで乾燥条件は、塗膜の厚さ等により異なるが、温度50℃~130℃、時間10秒~10分が好ましい。また、熱処理条件としては、温度100~150℃、時間10秒~10分が好ましい。
【0080】
本開示のコーティング剤を基材に塗布する場合、前記基材のコーティング面は、コロナ処理などの物理的処理(例えば、基材がポリエチレンなどのポリオレフィンである場合、該フィルム等の表面張力が37~45dyne/cmとなる程度に施す。)を行ったり、ポリウレタン系のアンカーコート剤を塗布したりして、接着性を向上させる処理を施すことが、基材と変性EVOH(A)を含む層との接着をより確実にするために好ましい。
【0081】
本開示のコーティング剤を基材上に塗布して変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層を有する多層構造体を製造する工程、及び前記多層構造体を2つ以上製造し、前記多層構造体の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)層同士を熱圧着させる工程を含む製造方法において、熱圧着させる2つ以上の多層構造体は、同じ種類であってもよいし、異なる2種以上であってもよい。熱圧着させる方法に特に制限はなく、例えば、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含む層同士が接するように2つ以上の多層構造体を積層し、2以上の加熱ロールの間を通して圧着させる方法が挙げられる。このときの加熱ロールの温度としては、例えば、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の軟化点より1~20度高い温度であってもよい。前記熱圧着させる工程を含む製造方法は、熱圧着後の平均厚みの変性EVOH(A)を含む層を一度で塗工する場合と比べて、塗工時の厚みムラによるガスバリア性の低下を低減できる観点で好ましい。前記熱圧着させる工程を含む製造方法においては、変性EVOH(A)を含む層の凹凸が少ない方が密着性の高いため好ましい。変性EVOH(A)を含む層の凹凸の度合いは、2枚の多層構造体の変性EVOH(A)を含む層のスリップ角を測定すること評価することができる。本開示のコーティング剤を用いて作製した塗膜では、無機微粒子の表面を変性EVOH(A)及び任意に含むEVOH(B)が被覆しており、前記凹凸の度合いをスリップ角が反映する。スリップ角は37°超50°未満が好ましく、38°以上49°以下がより好ましく、40°以上48°以下がさらに好ましく、42°以上47°以下がさらに好ましく、44°超47°未満、又は45°以上46°以下が好ましい場合もある。スリップ角が50°未満であると、2枚の多層構造体の変性EVOH(A)を含む層の密着性に加えて圧着時の表面のスリップ性も優れ、圧着後のフィルムにシワが生じにくい傾向にある。一方で、スリップ角が37°超であると、変性EVOH(A)を含む層の密着性が優れ、ロール温度を高温したり強い圧力で密着させたりといった厳しい条件での圧着が不要となるため圧着後のフィルムにシワが生じにくい傾向にあるとともに、基材の収縮性が低くなり適用できる基材の選択肢が多いという利点がある。
【0082】
本開示のコーティング剤は、保存安定性に優れているために、溶液を調整してからコーティングするまでに、長時間保存していても白濁しにくい。本開示のコーティング剤を用いて得られる塗膜は、透明性、ガスバリア性、柔軟性および平滑性に優れる。これに対し、未変性のEVOH溶液は保存中にしばしば白濁し、それをそのまま塗布すると、ガスバリア性の低下が著しく、得られる塗膜に曇りが生じることに加え、塗膜の凹凸が大きくなる。未変性のEVOH溶液は、白濁前の状態で塗布した場合にも、EVOHの結晶性が高いために乾燥過程で塗膜に凹凸が生じやすく、塗膜のスリップ角は本開示のコーティング剤に比べて低い値を示す。
【0083】
本開示のコーティング剤をコーティングして得られる塗膜及びそれを含む多層構造体は柔軟性及び耐屈曲性に優れる傾向にあるので、本開示のコーティング剤はフィルムやシートなどの柔軟な基材に対して特に有用であり、例えば、フレキシブルパウチなどの用途に好適に使用される。本開示のコーティング剤をコーティングして得られる塗膜は延伸性にも優れる傾向にあるので、コーティングした後で延伸操作を施す場合にも好適である。例えば、延伸フィルムや熱成形容器として好適に使用される。本開示のコーティング剤は、可塑剤を含有する軟質ポリ塩化ビニル樹脂からなる壁紙、カードケース、デスクマットなどの表面コーティング材料としても有用である。この場合、本開示のコーティング材料は軟質ポリ塩化ビニル樹脂からの可塑剤のブリーディングを防止し、さらに表面の汚れを防止する機能を有する。
本開示の多層構造体はガスバリア性、保香性及び耐油性に優れる傾向にあるため、各種分野に広く使用される。特に、食品、飲料、薬品、医薬品などを内容物とする包装材(フィルム、シート、容器等)に好適に用いることができる。
【実施例0084】
本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の合成例、実施例及び比較例において採用された各評価方法を以下に示す。
【0085】
・変性EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン含有量及びケン化度
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒としたH-NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM-GX-500型」を使用)により得られたスペクトルから、後述の方法により算出した。
【0086】
・変性EVOH(A)及びEVOH(B)の融点
変性EVOH(A)及びEVOH(B)の融点は、JIS K 7121に準じて測定した。具体的には、30℃から200℃まで10℃/分の速度にて昇温した後、50℃/分で0℃まで急冷して、再度0℃から200℃まで10℃/分の速度にて昇温して測定を実施した(TA Instruments社製示差走査熱量計(DSC)「Q2000」)。温度の校正にはインジウムを用いた。2ndランのチャートからJIS K 7121にしたがって融解ピーク温度(T)を求め、これを変性EVOH(A)及びEVOH(B)の融点とした。
【0087】
・変性EVOH(A)及びEVOH(B)のメルトフローレート(MFR)
メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)を用いて測定した。具体的には、測定する樹脂(変性EVOH(A)及びEVOH(B))の粉体、チップ又はペレットを、内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーに充填し、190℃で溶融した後、溶融した樹脂に対して、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーによって均等に荷重をかけ、シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより押出された樹脂の流出速度(g/10分)を測定し、これをメルトフローレート(MFR)とした。融点が190℃以上のものは、210℃、230℃の2条件で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値とした。
【0088】
・金属塩の定量
変性EVOH(A)ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。分解後に前記圧力容器に蓋をし、湿式分解装置(アクタック社製「MWS-2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することでさらに分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコに移し、イオン交換水でメスアップして測定用試料溶液とした。ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社「OPTIMA4300DV」)により前記試料溶液中の金属元素の含有量を測定した。標準溶液を用いて作成した検量線と得られた値から、変性EVOH(A)ペレット中の、金属元素換算の金属塩含有量を求めた。
【0089】
[合成例1]
(1)変性エチレン-酢酸ビニル共重合体の合成
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に、酢酸ビニル(式(V)において、Rがメチル基:以下、VAcと称することがある)を100kg、メタノール(以下、MeOHと称することがある)を10kg、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテート(式(VI)において、R及びRが水素原子で、R及びRがメチル基:以下、MPDAcと称する)を2.9kg仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が4.9MPaとなるようにエチレンを導入した。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として60gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製「V-65」)をメタノール溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を4.9MPaに、重合温度を60℃に維持した。6時間後にVAcの重合率が45%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、MPDAc由来の構造単位が共重合により導入された変性エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、変性EVAcと称することがある)を得た。得られた変性EVAcにMeOHを添加して20重量%MeOH溶液とした。
【0090】
(2)変性EVAcのケン化
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた500L反応槽に、(1)で得た変性EVAcの20重量%MeOH溶液を仕込んだ。この溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、変性EVAc中の酢酸ビニルに由来する構造単位に対し0.5当量の水酸化ナトリウムを2規定のMeOH溶液として添加した。水酸化ナトリウムMeOH溶液の添加終了後、系内温度を60℃に保ち、酢酸メチルとMeOHを留去させながら2時間攪拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を添加してケン化反応を停止した。その後、60~80℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水を添加し、反応槽外にMeOHを留出させ、変性EVOHを析出させた。析出した変性EVOHを収集し、ミキサーで粉砕した。得られた変性EVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:粉末1kgに対して水溶液20Lの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。次いで、酢酸0.5g/L及び酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液10Lに4時間攪拌浸漬してから脱液し、これを60℃で16時間乾燥させることで変性EVOHの粗乾燥物(変性EVOH-A1と称する)を得た。
【0091】
(3)変性EVAc及び変性EVOH(A)における各構造単位のモル含有率
変性EVOH(A)における構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)のモル含有率は、ケン化前の変性EVAcにおけるエチレン単位のモル含有率、酢酸ビニルに由来する構造単位のモル含有率及びMPDAcに由来する構造単位のモル含有率とそれぞれ同じ値となる。前記エチレン単位のモル含有率、酢酸ビニルに由来する構造単位のモル含有率、及びMPDAcに由来する構造単位のモル含有率は、下記の方法により変性EVAcをH-NMR測定して算出した。
【0092】
まず、(1)において得られた変性EVAcのMeOH溶液を少量サンプリングし、イオン交換水中で変性EVAcを析出させた。析出物を収集し、真空下、60℃で乾燥させることで変性EVAcの乾燥品を得た。次に、得られた変性EVAcの乾燥品を内部標準物質としてテトラメチルシランを含むジメチルスルホキシド(DMSO)-dに溶解し、500MHzのH-NMR(日本電子株式会社製:「GX-500」)を用いて80℃で測定した。
【0093】
変性EVAcのH-NMRスペクトル中の各ピークは、以下のように帰属される。
・0.6~1.0ppm:末端部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)
・1.0~1.85ppm:中間部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)、MPDAc由来の構造単位の主鎖部位メチレンプロトン(2H)、酢酸ビニル単位のメチレンプロトン(2H)
・1.85~2.1ppm:MPDAc由来の構造単位のメチルプロトン(6H)と酢酸ビニル単位のメチルプロトン(3H)
・3.7~4.1ppm:MPDAc由来の構造単位の側鎖部位メチレンプロトン(4H)
・4.4~5.3ppm:酢酸ビニル単位のメチンプロトン(1H)
【0094】
上記帰属にしたがい、0.6~1.0ppmの積分値をx、1.0~1.85ppmの積分値をy、3.7~4.1ppmの積分値をz、4.4~5.3ppmの積分値をwとした場合、エチレン単位のモル含有率(モル%)、酢酸ビニルに由来する構造単位のモル含有率(モル%)及びMPDAcに由来する構造単位のモル含有率(モル%)は、それぞれ以下の式にしたがって算出される。
エチレン単位のモル含有率=(2x+2y-z-4w)/(2x+2y+z+4w)×100
酢酸ビニルに由来する構造単位のモル含有率=8w/(2x+2y+z+4w)×100
MPDAcに由来する構造単位のモル含有率=2z/(2x+2y+z+4w)×100
【0095】
上記方法により算出した結果、合成例1における変性EVAcのエチレン単位のモル含有率は38.0モル%、酢酸ビニルに由来する構造単位のモル含有率は60.5モル%、MPDAcに由来する構造単位のモル含有率は1.5モル%であった。
【0096】
(4)変性EVOH(A)のケン化度(DS)
上記(2)で得られた変性EVOHの粗乾燥物を、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてテトラフルオロ酢酸(TFA)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)-dに溶解し、500MHzのH-NMR(日本電子株式会社製:「GX-500」)を用いて80℃で測定した。H-NMR測定の結果、1.85~2.1ppmのピーク強度が大幅に減少していることから、変性EVOH中の酢酸ビニル由来のエステル基に加え、MPDAc由来の構造単位に含まれるエステル基もケン化されて水酸基になっていることが明らかである。合成例1で得られたH-NMRスペクトルからもこのような1.85~2.1ppmのピーク強度の減少が見られた。ケン化度は酢酸ビニル単位のメチルプロトン(1.85~2.1ppm)と、ビニルアルコール単位のメチンプロトン(3.15~4.15ppm)のピーク強度比より算出した。合成例1の変性EVOH(A)のケン化度は99.9モル%以上であった。結果を表1に示す。
【0097】
[合成例2]
変性剤をDAB(3,4-ジアセトキシ-1-ブテン)に変更し、変性剤の添加量および開始剤の添加量を表1のように変更した以外は合成例1と同様にして、変性EVOHの合成及び分析を行った。得られた変性EVOHを変性EVOH-A2と称する。なお、構造単位(Ic)のモル含有率cは特許文献3を参考に算出した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
[実施例1]
合成例1で得られた変性EVOH-A1を、n-プロピルアルコール/水(混合重量比70/30)に溶解させ、変性EVOH-A1を15重量%含有する溶液を調製した。さらに、非晶質シリカ(富士シリシア化学株式会社製サイリシア350をビーズミルで粉砕、メッシュによる分級を行い、平均粒子径1,000nmに調製したもの)を、変性EVOH-A1に対して重量基準で100ppm含むように添加した後、攪拌・混合し、コーティング剤を得た。なお、以下の塗工試験においては、前記コーティング剤を調製後20℃、65%RHの環境下に1日間保存した後に使用した。
【0100】
・コートフィルムの作製
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに、バーコーターを使用し、ポリエステル系アンカーコート剤(東洋モートン株式会社、銘柄AD-335A)を固形分量で1g/m塗布した。次に、上記変性EVOH(A)溶液をバーコーターで塗布してから、60℃の熱風乾燥機で3分間乾燥した。得られた変性EVOH(A)を含む層の平均厚みは5μmであった。なお、前記平均厚みは、多層フィルムの断面をミクロトームで切断し光学顕微鏡で観察して測定した。得られたコートフィルムは白化や曇りがなく、非常に透明で美麗であった。
【0101】
・コートフィルムのヘイズ測定
コートフィルムを、20℃、65%RHの環境下で5日間、調湿した。調湿後のコートフィルムをヘイズ・透過率・反射率計(村上色彩技術研究所社製、HR-100)を用いて、ヘイズ測定を行った。
【0102】
・コートフィルムの酸素透過率(OTR)
コートフィルムを、20℃、65%RHの環境下で5日間、調湿した。調湿後のコートフィルムの酸素透過率を、モダンコントロール社製 MOCON OX-TRAN2/21型を用い、20℃、65%RHの条件下で、JIS K 7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。測定に際しては、2枚の試料を準備して、その平均値をコート層の厚み20μm換算の値としてを求めた。なお、基材のポリエチレンテレフタレートフィルムの酸素透過率は変性EVOH(A)を含む層と比べてはるかに大きいので、無視することが可能である。評価結果を表2に示す。
【0103】
・スリップ角の測定
本実施例で作製したコートフィルム(ポリエチレンテレフタレート/アンカーコート/変性EVOH)について、20℃、65%RHの環境下で5日間、調湿したのち、摩擦測定機(東洋精機製作所製)を用いてスリップ角を評価した。水平に固定されたスリップ板上に、変性EVOH(A)を含む層を表面に有するコートフィルムを、変性EVOH(A)を含む層が上面になるように両面テープで固定した。91gの金属直方体(縦4cm×横3cm×高さ1cm)の底面に縦4cm×横3cmの前記多層フィルムをポリエチレンテレフタレート面が金属と接するように両面テープで固定し、スリップ板上に金属直方体を、変性EVOH(A)を含む層同士が接するように配置した。傾斜板を3°/秒の速度で動かし、金属直方体が動き出すスリップ角を「塗工フィルムのスリップ角」として評価した。スリップ角の測定は3回実施し、その平均値をスリップ角とした。評価結果を表2に示す。
【0104】
・熱圧着時のシワの評価
コロナ処理を行ったポリメチルペンテンフィルム(20μm)にバーコーターを使用し、ポリエステル系アンカーコート剤(東洋モートン株式会社、銘柄AD-335A)を固形分量で1g/m塗布した。次に、上記変性EVOH(A)溶液をバーコーターで塗布してから、60℃の熱風乾燥機で3分間乾燥した。得られた変性EVOH(A)を含む層の平均厚みは5μmであった。なお、前記平均厚みは、多層フィルムの断面をミクロトームで切断し光学顕微鏡で観察して測定した。このフィルムを横20cm、縦30cmの大きさに切断したものを10枚用意し、変性EVOH(A)を含む層同士を貼り合わせ、加熱ロール(ロール温度は変性EVOH(A)の融点プラス5℃に設定)を用いて熱圧着させる操作を5回行った。作製した5枚の熱圧着フィルムのうち、熱圧着時のシワ(幅1mm以上、長さ5cm以上)の数が0~1個はA、2~3個はB、4個以上はCとした。得られた多層フィルムは、変性EVOH(A)を含む層が10μmあり、熱圧着時のシワの評価はAであり、外観の良好な透明フィルムが得られた。
・ヒートシール試験
幅15mmの短冊状に切り出した前記コートフィルム(ポリメチルペンテン/アンカーコート/変性EVOH)について、フィルム2枚を変性EVOH(A)を含む層同士が接するように重ね合わせ、YSS式ヒートシーラー(株式会社安田精機製作所製)を用いて、変性EVOH(A)の融点+5℃の温度条件で、0.2MPaにて2秒間ヒートシールを行った。オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて、引張速度50mm/分にて各サンプルの剥離試験を行うことにより、2枚のフィルムを引き剥がすのに必要な剥離強度(180度ピール)を測定した。熱圧着フィルムの密着性を評価する指標として、5回の測定の平均の剥離強度が10N/15mm以上をA、5N/15mm以上10N/15mm未満をB、5N/15mm未満をCとした。熱圧着フィルムの剥離強度の評価はAであり、密着性は良好であった。
【0105】
[実施例2、3]
非晶質シリカの含有量を表2に記載するように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤を得た。かかるコーティング剤について、実施例1と同様にして評価、分析を行った。評価結果を表2に示す。
【0106】
[実施例4]
変性EVOH-A1に代えて、合成例2で得られた変性EVOH-A2を用いた以外は、実施例1と同様に評価、分析を行った。評価結果を表2に示す。
【0107】
[実施例5~7]
非晶質シリカの含有量を表2に記載するように変更したこと以外は、実施例4と同様にしてコーティング剤を得た。かかるコーティング剤について、実施例1と同様にして評価、分析を行った。評価結果を表2に示す。
【0108】
[比較例1]
EVOH-B1(エチレン含有量38モル%の無変性エチレンビニルアルコール共重合体、株式会社クラレ製、エバール(登録商標)H171B)をn-プロピルアルコール/水(混合重量比70/30)に溶解させ、EVOH-B1を15重量%含有する溶液を調製した。得られた溶液を用いて、実施例1と同様にコートフィルムを作製したところ、曇りが認められて外観が不良であった。その他の項目についても、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0109】
[比較例2]
変性EVOH-A1に代えて、EVOH-B1を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてコーティング剤を得た。かかるコーティング剤について、実施例1と同様にして評価、分析を行った。評価結果を表2に示す。
【0110】
[比較例3]
非晶質シリカを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤を得た。かかるコーティング剤を用いて実施例1と同様にしてコートフィルムを作製したところ、曇りが認められて外観が不良であった。その他の項目についても、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0111】
[比較例4]
非晶質シリカ(富士シリシア化学株式会社製サイリシア350をビーズミルで粉砕、メッシュによる分級を行い、平均粒子径1,000nmに調製したもの)の代わりに未粉砕の非晶質シリカ(富士シリシア化学株式会社製サイリシア350、平均粒子径3,900nm)を、変性EVOH-A1に対して重量基準で1,000ppm用いた以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤を得た。かかるコーティング剤について、実施例1と同様にして評価、分析を行った。評価結果を表2に示す。
【0112】
[比較例5]
非晶質シリカを用いなかったこと以外は、実施例4と同様にしてコーティング剤を得た。かかるコーティング剤について、実施例1と同様にして評価、分析を行った。評価結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
表2に示されるように、実施例1~7のコーティング剤は、ガスバリア性が良好であり、熱圧着処理時にも良好な外観および高い密着性を示す多層構造体を与えた。これに対し、変性EVOH(A)を含有せず未変性EVOHのみを含有する比較例1のコーティング剤は、ガスバリア性、並びに熱圧着処理時の外観及び密着性のいずれについても劣った多層構造体を与えた。未変性EVOH及び無機微粒子を含むものの、変性EVOH(A)を含まない比較例2のコーティング剤は、ガスバリア性及び熱圧着処理時の密着性が劣った多層構造体を与えた。変性EVOH(A)を含むものの無機微粒子を含有しない比較例3及び5のコーティング剤は、熱圧着性時の外観が劣った多層構造体を与えた。変性EVOH(A)及び無機微粒子を含むものの、無機微粒子の平均粒子径が大きい比較例4のコーティング剤は、熱圧着処理時の密着性が劣った多層構造体を与えた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本開示のコーティング剤は、ガスバリア性の改善された塗膜を提供でき、かつEVOH層同士を熱圧着する製造方法で使用した場合に外観及び密着性が改善される。当該コーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体は、各種の包装材料などに好適に使用できる。本開示のコーティング剤は、EVOH層の精密な厚み制御を可能にすることからポリオレフィンを含む包装材料中の必要最小限のEVOH量にでき、近年の循環型経済を目指す社会情勢において、ポリオレフィン材料のリサイクル性を高めることに貢献する。