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特開2024-12723分析システム、処理装置、分析方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012723
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】分析システム、処理装置、分析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20240101AFI20240124BHJP
【FI】
G01N15/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175641
(22)【出願日】2020-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094145
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 由己男
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳津紀
(72)【発明者】
【氏名】米谷 康弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 春造
(72)【発明者】
【氏名】木原 信隆
(57)【要約】
【課題】分析システムに含まれる複数の装置間で時刻がズレており、特定の装置において出力される時刻を変更できない可能性により生じる影響を最小限にする。
【解決手段】分析システムは、分析装置AN1と、データ収集装置LG1と、を備える。分析装置AN1は、内部時計ACLK1から出力される時刻に従って粒子状物質PMに関する分析を実行する。データ収集装置LG1は、内部時計ACLK1とは独立した内部時計LCLK1を有し、分析装置AN1にて用いられる時刻に関する情報を含むタイムスタンプと内部時計LCLK1から出力される時刻に関するタイムスタンプとの比較結果から得られるズレに基づいて、分析装置AN1から分析データを収集するタイミングを決定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行する分析装置と、
前記第1時計とは独立した第2時計を有し、前記分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と前記第2時計から出力される時刻に関する時刻関連情報との比較結果から得られるズレに基づいて、前記分析装置に関する所定の処理を実行するタイミングを決定する処理装置と、
を有する、分析システム。
【請求項2】
前記処理装置は、所定の時刻毎に前記分析装置にて取得された前記粒子状物質に関する分析データを収集することを前記所定の処理として実行する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記分析装置は、前記分析データに前記時刻関連情報を付加して前記処理装置に出力する、請求項2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記処理装置は、前記分析データに付加された前記時刻関連情報と前記第2時計から出力される時刻関連情報とに基づいて、前記分析装置にて用いられる時刻と前記第2時計から出力される時刻との時刻ズレを算出する、請求項3に記載の分析システム。
【請求項5】
前記処理装置は、前記分析装置が前記分析データを出力する出力予定時刻を算出し、
前記第2時計から出力される時刻が前記出力予定時刻となったタイミングで前記分析装置から前記分析データを収集する、請求項4に記載の分析システム。
【請求項6】
前記分析装置は予め決められた複数の分析地点において前記粒子状物質を分析可能であり、前記粒子状物質に関する分析データは、当該分析データを取得した分析地点毎に分類される、請求項1~5のいずれかに記載の分析システム。
【請求項7】
前記分析装置の位置を示す位置情報を取得する位置情報受信機をさらに備え、
前記分析データを取得した際に前記位置情報受信機が取得した前記位置情報に示される位置が特定の分析地点から所定の許容範囲内にある場合、当該分析データは、当該特定の分析地点で取得されたデータと分類される、請求項6に記載の分析システム。
【請求項8】
前記分析データを取得した際に前記位置情報受信機にて取得された前記位置情報から前記分析装置の位置が特定できない場合、当該分析データは、データを取得した分析地点が不明である未分類と分類されて保持される、請求項7に記載の分析システム。
【請求項9】
未分類と分類された前記分析データは、前記複数の分析地点のうちのいずれかで取得された分析データとして再分類可能である、請求項8に記載の分析システム。
【請求項10】
第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行する分析装置に関する所定の処理を実行する処理装置であって、
前記第1時計とは独立した第2時計を有し、前記分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と前記第2時計から出力される時刻に関する時刻関連情報とのズレに基づいて、前記分析装置に関する所定の処理を実行するタイミングを決定する、
処理装置。
【請求項11】
第1時計を有し粒子状物質に関する分析を実行する分析装置と、前記第1時計とは独立した第2時計を有し前記分析装置に関する所定の処理を実行する処理装置と、を備える分析システムにおける分析方法であって、
前記分析装置が、第1時計から出力される時刻に従って前記粒子状物質に関する分析を実行するステップと、
前記処理装置が、前記分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と前記第2時計から出力される時刻に関連する時刻関連情報との比較結果から得られるズレに基づいて、前記所定の処理を実行するタイミングを決定するステップと、
を備える、分析方法。
【請求項12】
第1時計を有し前記第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行する分析装置と、前記第1時計とは独立した第2時計を有し前記分析装置に関する所定の処理を実行する処理装置と、を備える分析システムにおける分析方法を前記処理装置に実行させるプログラムであり、
前記分析方法は、
前記分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と前記第2時計から出力される時刻に関連する時刻関連情報との比較結果から得られるズレに基づいて、前記所定の処理を実行するタイミングを決定するステップを有する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質の分析行う分析システム、分析システムの分析装置に対する所定の処理を実行する処理装置、分析システムによる粒子状物質の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の粒子状物質(例えば、PM2.5)が大きな環境問題になっている。粒子状物質の発生を抑制するためには、粒子状物質の発生源を把握することが重要であり、それを目的として、粒子状物資の発生源を推定するための方法及び装置が開発されている。
例えば、粒子状物質を分析する複数の分析装置を発生源の周囲に配置し、各分析装置にて取得された粒子状物質の分析データをデータベースサーバに送信する分析システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/117146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の装置により構成される分析システムにおいて、各装置は、独自の時計を有しており、当該時計から出力される時刻に基づいて各種処理を実行するタイミングを決定している。各装置が独自の時計を有している場合、分析システムに含まれる複数の装置間で時刻のズレが生じる場合がある。
【0005】
例えば、一方の装置において所定の時刻に得られたデータを他方の装置で取得する処理を実行する場合に、これら装置間で時刻のズレが生じていると、例えば、ある時刻のデータを他方の装置が取得できない可能性がある。
【0006】
しかし、分析システムに備わる特定の装置(例えば、分析装置)では、当該特定の装置の動作に影響を及ぼす可能性があるために、例えば、その装置で使用される時刻を他の装置の時刻に合わせるような変更ができない可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、分析システムに含まれる複数の装置間で時刻がズレる可能性があり、特定の装置において出力される時刻を変更できない可能性があることにより生じる可能性がある影響を最小限にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る分析システムは、分析装置と、処理装置と、を備える。
分析装置は、第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行する。
処理装置は、第1時計とは独立した第2時計を有し、分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と第2時計から出力される時刻に関する時刻関連情報とのズレに基づいて、分析装置に関する所定の処理を実行するタイミングを決定する。
【0009】
処理装置が、分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と第2時計から出力される時刻に関する時刻関連情報とのズレに基づいて、分析装置に関する所定の処理を実行するタイミングを決定できるので、仮に、分析システムに含まれる分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置において出力される時刻を変更できない可能性があったとしても、処理装置における上記所定の処理の実行に対して生じる影響を最小限にできる可能性がある。
【0010】
処理装置は、所定の時刻毎に分析装置にて取得された粒子状物質に関する分析データを収集することを所定の処理として実行してもよい。
これにより、仮に、分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置において出力される時刻を変更できない可能性があったとしても、この時刻のズレの影響を最小限にして分析データの収集を実行できるので、分析データを取得できないとのデータ欠損の発生の可能性を抑制できる可能性がある。
【0011】
分析装置は、分析データに時刻関連情報を付加して処理装置に出力してもよい。これにより、処理装置は、第1時計の時刻を直接確認する必要性が低くなる。
【0012】
処理装置は、分析データに付加された時刻関連情報と第2時計から出力される時刻関連情報とに基づいて、分析装置にて用いられる時刻と第2時計から出力される時刻との時刻ズレを算出してもよい。これにより、分析装置にて用いられる時刻と第2時計の時刻との間で生じうる時刻ズレを具体的に把握できる可能性がある。
【0013】
処理装置は、分析装置が分析データを出力する出力予定時刻を算出してもよい。この場合、処理装置は、第2時計から出力される時刻が出力予定時刻となったタイミングで、分析装置から分析データを収集してもよい。
これにより、仮に、分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置において出力される時刻を変更できない可能性があったとしても、分析データが出力される実際のタイミングをより正確に把握できる可能性がある。
【0014】
分析装置は、予め決められた複数の分析地点において粒子状物質を分析可能であってもよい。この場合、粒子状物質に関する分析データは、当該分析データを取得した分析地点毎に分類される。これにより、複数の分析地点で取得した分析データの管理容易にできる可能性がある。
【0015】
分析システムは、分析装置の位置を示す位置情報を取得する位置情報受信機をさらに備えてもよい。
この場合、分析データを取得した際に位置情報受信機が取得した位置情報に示される位置が特定の分析地点から所定の許容範囲内にある場合、当該分析データは、当該特定の分析地点で取得されたデータと分類されてもよい。
これにより、仮に、位置情報受信機により取得された位置情報に示される位置が、予め決められた分析地点から多少ズレていたとしても、分析データを分析地点毎に適切に分類できる可能性がある。
【0016】
分析データを取得した際に位置情報受信機にて取得された位置情報から分析装置の位置が特定できない場合、当該分析データは、データを取得した分析地点が不明である未分類と分類されて保持されてもよい。これにより、貴重な分析データが未分類として失われることを防止できる可能性がある。
【0017】
未分類と分類された分析データは、複数の分析地点のうちのいずれかで取得された分析データとして再分類可能であってもよい。これにより、貴重な分析データを分類されたデータとして救済できる可能性がある。
【0018】
本発明の他の見地に係る処理装置は、分析装置に関する所定の処理を実行する処理装置である。分析装置は、第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行する。
処理装置は、第1時計とは独立した第2時計を有し、分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と第2時計から出力される時刻に関する時刻関連情報とのズレに基づいて、分析装置に関する所定の処理を実行するタイミングを決定する。
これにより、仮に、分析システムに含まれる分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置において出力される時刻を変更できない可能性があったとしても、処理装置における上記所定の処理の実行に対して生じる影響を最小限にできる可能性がある。
【0019】
本発明のさらに他の見地に係る分析方法は、第1時計を有し粒子状物質に関する分析を実行する分析装置と、第1時計とは独立した第2時計を有し分析装置に関する所定の処理を実行する処理装置と、を備える分析システムにおける分析方法である。分析方法は、以下のステップを備える。
◎分析装置が、第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行するステップ。
◎処理装置が、分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と第2時計から出力される時刻に関する時刻関連情報とのズレに基づいて、所定の処理を実行するタイミングを決定するステップ。
これにより、仮に、分析システムに含まれる分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置において出力される時刻を変更できない可能性があったとしても、処理装置における所定の処理の実行に対して生じる影響を最小限にできる可能性がある。
【0020】
本発明のさらに他の見地に係るプログラムは、第1時計を有し第1時計から出力される時刻に従って粒子状物質に関する分析を実行する分析装置と、第1時計とは独立した第2時計を有し分析装置に関する所定の処理を実行する処理装置と、を備える分析システムにおける分析方法を、処理装置に実行させるプログラムである。この分析方法は、以下のステップを備える。
◎分析装置にて用いられる時刻に関する時刻関連情報と第2時計から出力される時刻に関連する時刻関連情報とのズレに基づいて、所定の処理を実行するタイミングを決定するステップ。
これにより、仮に、分析システムに含まれる分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置において出力される時刻を変更できない可能性があったとしても、処理装置における所定の処理の実行に対して生じる影響を最小限にできる可能性がある。
【発明の効果】
【0021】
仮に、分析システムに含まれる分析装置と処理装置との間で時刻がズレており、分析装置及び/又は処理装置において出力される時刻を調整できない可能性があったとしても、処理装置における所定の処理の実行に対して生じる影響を最小限にできる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明が対象とする環境計測システムの構成例を示す図。
図2図1で使用する分析装置の構成例を示す図。
図3】本発明の構成例を示す図。
図4図3で示される本発明の構成に関して、特に本発明に特有な処理の流れを示す図。
図5図3で示される本発明に特有な処理において、特に測定地点の定義を入力する方法の例を示す図。
図6図3で示される本発明に特有な処理において、特に分析結果を測定地点毎に分類する処理を示す図。
図7図6で示される本発明に特有の処理である未分類の分析結果を再分類する処理において、例えば手動で処理する際に使用されるユーザインタフェース画面例を示した図。
図8】本発明によって実現される多地点の環境計測モニタリング画面例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.第1実施形態
以下、本発明に特有な処理方法に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の図において、同一符号は、同一または類似部分を示すものである。
本発明の環境計測システムの典型的な構成例を図1に示す。本発明の環境計測システムは、典型的には、移動型環境計測システム(MST1)、広域通信ネットワーク(WAN1)、サーバ(SV1)、ユーザ端末(UPC1)から構成される。このうち、移動型環境計測システム(MST1)は、移動手段(VE1)に搭載された複数の分析装置(AN1~AN3)、データ収集装置(LG1)、位置情報受信機(GPS1)、及び、それらの装置を接続する通信ネットワーク(NW1)から構成される。
【0024】
なお、上記においては、移動型環境計測システムMST1の複数の分析装置AN1~AN3、データ収集装置LG1、位置情報受信機GPS1が通信ネットワークNW1により1つの閉じられたネットワークを構成し、移動型環境計測システムMST1とサーバSV1とユーザ端末UPC1が広域通信ネットワークWAN1に接続されているが、これに限られない。
例えば、移動型環境計測システムMST1のうち複数の分析装置AN1~AN3と位置情報受信機GPS1が閉じられたネットワークにより構成され、当該閉じられたネットワーク(を構成する装置)と、データ収集装置LG1と、サーバSV1と、ユーザ端末UPC1が広域通信ネットワークWAN1に接続されていてもよい。
その他、移動型環境計測システムMST1、サーバSV1、ユーザ端末UPC1が全て1つの閉じられたネットワークを構成していてもよい。
さらに、移動型環境計測システムMST1とサーバSV1が1つの閉じられたネットワークを構成し、この閉じられたネットワークとユーザ端末UPC1が広域通信ネットワークWAN1に接続されてもよい。また、移動型環境計測システムMST1とユーザ端末UPC1が1つの閉じられたネットワークを構成し、この閉じられたネットワークとサーバSV1が広域通信ネットワークWAN1に接続されてもよい。
どの装置が閉じられたいずれのネットワークに含まれるか、また、閉じられたネットワークの数については、システムの構成により任意に変更できる。
【0025】
移動型環境計測システムMST1を、測定対象エリア(MF1)内であらかじめ設定した測定地点(MP1~MP7)に定期的に移動させて、後述する本発明に特有の処理に基づいて環境計測を行うとともに、その計測結果を広域通信ネットワーク(WAN1)経由でサーバ(SV1)に集約する。サーバ(SV1)は、このようにして収集された分析結果を、SV1内のデータベースに格納するとともに、ユーザ端末(UPC1)からのリクエストに応じて、ユーザに大気中の汚染物質等の質量濃度等の時間変化等をグラフ等で表示する。
【0026】
次に、図2を用いて、分析装置AN1の具体的構成を説明する。図2は、第1分析装置の構成を示す図である。
分析装置AN1は、捕集フィルタ11と、捕集部13と、第1の分析器SAN1と、第2の分析器SAN2と、制御部19と、を有する。
【0027】
捕集フィルタ11は、例えば、高分子材料(ポリエチレンなど)の不織布にて形成された補強層上に、粒子状物質PMを捕集可能な孔を有する多孔質のフッ素樹脂系材料にて形成された捕集層(捕集領域と呼ぶこともある)を積層して形成された、テープ状の部材である。
粒子状物質PMは、例えば、工場等における燃焼プロセス、各種の輸送装置(自動車や船舶等)のブレーキ、タイヤ、内燃機関、蒸気機関、排ガス浄化装置やモータ、火山の噴火といった自然災害、鉱山開発によって発生するマイクロメートルオーダーの粒子状の物質である。
【0028】
捕集フィルタ11としては、例えば、1層のガラスフィルタ、1層のフッ素樹脂系材料のフィルタなどの他のフィルタを用いることもできる。
本実施形態において、捕集フィルタ11は、送り出しリール11aから送り出された捕集フィルタ11を巻き取りリール11bの回転により巻き取ることで、長さ方向(図2の太矢印にて示す方向)に移動できる。
【0029】
捕集部13は、捕集フィルタ11の長さ方向の第1位置P1に対応するように設けられる。捕集部13は、例えば、吸引ポンプ31に接続された吸引口35の吸引力により吸引した大気Aを、排出口33から捕集フィルタ11の第1位置P1に存在する捕集領域に吹き付けることで、大気Aに含まれる粒子状物質PMを捕集領域に捕集させる。
【0030】
第1の分析器SAN1は、捕集フィルタ11に捕集された粒子状物質PMの捕集量を測定する。具体的には、第1の分析器SAN1は、β線源51と、β線検出器53と、を有する。
β線源51は、捕集部13の排出口33に設けられ、第1位置P1に配置された捕集フィルタ11の捕集領域にβ線を出射する。β線源51は、例えば、炭素14(14C)を用いたβ線源である。
β線検出器53は、捕集部13の吸引口35においてβ線源51に対向するよう設けられ、第1位置P1の捕集領域に捕集された粒子状物質PMを透過したβ線の強度を測定する。β線検出器53は、例えば、シンチレータを備えた光電子増倍管である。粒子状物質PMの捕集量(質量濃度)は、β線検出器53にて測定されたβ線の強度に基づいて算出される。
【0031】
第2の分析器SAN2は、捕集フィルタ11の長さ方向の第2位置P2に対応するよう設けられ、第2位置P2に存在する粒子状物質PMから発生する蛍光X線に関するデータを測定する。具体的には、第2の分析器SAN2は、X線源71と、検出器73と、を有する。
X線源71は、第2位置P2に存在する粒子状物質PMにX線を照射する。X線源71は、例えば、パラジウムなどの金属に電子線を照射してX線を発生させる装置である。検出器73は、粒子状物質PMから発生する蛍光X線を検出する。検出器73は、例えば、シリコン半導体検出器やシリコンドリフト検出器である。
【0032】
制御部19は、分析装置AN1の各構成要素を制御する。
具体的には、制御部19は、第1位置P1に設けられた第1の分析器SAN1を用いて粒子状物質PMの質量濃度を取得し、第2位置P2に設けられた第2の分析器SAN2を用いて元素分析結果を取得するため、巻き取りリール11bを制御して捕集フィルタ11を移動させる。具体的には、制御部19は、捕集部13による粒子状物質PMの捕集が終了し捕集量の測定を完了する毎に、捕集フィルタ11の捕集領域(粒子状物質PMが捕集された領域)を、第1の分析器SAN1が設けられた第1位置P1から、第2の分析器SAN2が設けられた第2位置P2に向けて移動させる。
【0033】
また、制御部19は、第1位置P1から第2位置P2に向けて捕集フィルタ11の捕集領域を移動させる際の移動量を調整可能となっている。例えば、第1位置P1から第2位置P2までの距離をDISとした場合、1回あたりの捕集領域の移動量をDIS/n(n:正の整数)と調整できる。すなわち、第1位置P1から第2位置P2まで移動するためには、DIS/nの距離だけn回の移動が必要であると設定できる。
【0034】
上記の捕集領域の移動量であるDIS/nの「n」値を1よりも大きな整数とすることで、捕集フィルタ11上において狭い間隔で粒子状物質PMを捕集できる(つまり、捕集領域の間隔を狭くできる)ので、捕集フィルタ11の無駄を省くことができる。
その一方で、「n」値を1よりも大きな整数とすることにより、同じ捕集領域の粒子状物質PMについて捕集量の測定結果が得られるタイミングと元素分析結果が得られるタイミングとの間に時間の遅延が生じる。例えば、粒子状物質PMの捕集時間を1時間、「n」値を4とした場合、制御部19は、ある捕集領域の粒子状物質PMについて捕集量の測定結果を取得してから約4時間経過後に、同じ捕集領域の粒子状物質PMについて元素分析結果を取得することになる。
【0035】
制御部19は、内部時計ACLK1が出力する所定の時刻毎に第1の分析器SAN1にて測定されたβ線の強度を取得し、当該β線の強度に基づいて粒子状物質PMの質量濃度を分析結果として算出して出力する。
また、制御部19は、上記の所定の時刻毎に第2の分析器SAN2にて得られた蛍光X線データ(例えば、蛍光X線スペクトル)を取得し、当該蛍光X線データに基づいて粒子状物質PMに含まれる元素とその含有量を分析結果として算出して出力する。
【0036】
図3に示すのは、図1の本発明の移動型環境計測システムMST1を構成する分析装置AN1~AN3、データ収集装置LG1、サーバSV1、及び、ユーザ端末UPC1の内部の機能ブロック構成を説明した図である。このうち、分析装置AN1は、通信ネットワークインタフェース(ANIF1)、ユーザインタフェース(AUIF1)、さらに、本発明の特有の処理に関係する、内部時計(ACLK1)(第1時計の一例)、第1の分析器(SAN1)、第2の分析器(SAN2)、及び、その分析結果を格納するデータベース(SDA1、SDA2)から構成される。
【0037】
同様に、データ収集装置LG1(処理装置の一例)は、通信ネットワークインタフェース(LNIF1)、ユーザインタフェース(LUIF1)、さらには、本発明の特有の処理に関係する内部時計(LCLK1)(第2時計の一例)、本発明に特有な処理を実現するプログラムコード(LP1)、そのプログラムコードを実行するプロセッサ及びメモリ(LCPUMEM1)、分析装置AN1等からの分析結果に加えて、位置情報受信機(GPS1)からの位置情報を一時的に格納するデータベース(LDB1)、さらには、本発明に特有な分析装置毎の時刻ズレ情報を保持したデータベース(LDB2)から構成される。
なお、第1実施形態にて説明したデータ収集装置LG1の機能をサーバSV1に組み込んで、移動型環境計測システムMST1の分析装置とサーバSV1とが直接通信可能となっていてもよい。この場合、サーバSV1が処理装置の一例となる。
【0038】
また、サーバSV1は、通信ネットワークインタフェース(SNIF1)、ユーザインタフェース(SUIF1)、内部時計(SCLK1)、本発明に特有な処理を実現するプログラムコード(SP1)、そのプログラムコードを実行するプロセッサ及びメモリ(SCPUMEM1)、データ収集装置LG1からの位置情報に従って上述の測定地点毎に分析結果を分類して格納するデータベース(SDB1~)、さらには、データ収集装置LG1からの位置情報が後述する様々な理由で設定範囲外であった場合に、いずれの測定地点にも分類できなかった分析結果を格納する本発明に特有なデータベース(SDBX)から構成される。また、後述するように、測定地点の位置情報及びその許容範囲を定義した本発明に特有な測定地点定義データベース(MA1)も、サーバSV1内に保持される。
【0039】
さらに、ユーザ端末UPC1は、通信ネットワークインタフェース(UPNIF1)、ユーザインタフェース(UPUIF1)、内部時計(UPCLK1)、ユーザ端末上のプログラムコード(UP1)と、そのプログラムコードを実行するプロセッサ及びメモリ(UPCPUMEM1)から構成される。
【0040】
これらの分析装置AN1、データ収集装置LG1、サーバSV1、ユーザ端末UPC1は、広域通信ネットワークWAN1経由でそれぞれに通信可能である。本実施例では、説明の簡略化のために、広域通信ネットワークWAN1とデータ収集装置LG1内の通信ネットワークNW1を区別するが、分析装置AN1~ユーザ端末UPC1の全ての機器が同一の通信ネットワークNW1内に存在していても構わない。同様に、全ての機器が広域通信ネットワークWAN1に接続される構成も可能である。広域通信ネットワークWAN1、通信ネットワークNW1の詳細に関しては、同業者にとっては公知であるため、ここでは、詳細の説明は省略する。
【0041】
以上が本発明の環境計測システムの構成とその概要である。本構成に示されるように、分析装置AN1~AN3、データ収集装置LG1、サーバSV1は、それぞれ内部に独立した時計を持っているが、後述する本発明に特有な方式にて、それぞれの内部時計をNTP等で強制的に時刻同期しなくても、サーバSV1にて複数の分析装置からの分析結果の時刻整合が保たれている点に特徴がある。さらに、移動型環境計測システムMST1搭載の位置情報受信機GPS1にて受信される位置情報と、サーバSV1内の測定地点定義データベースMA1にあらかじめ設定されている測定地点毎の位置情報及びその許容範囲の定義に従って、分析装置からの結果を測定地点毎に自動的に分類される点に特徴がある。さらに、位置情報受信機GPS1が周囲環境等の何らかの要因で正常な位置情報が出力されない状況でも、後から分析結果を回収する仕組みを提供することで、貴重な計測結果を無駄なく活用可能なシステムが実現可能である点に特徴がある。以下、図4に従って、これらの特徴を実現するために実装した本発明に特有な処理を説明する。
【0042】
なお、以下に説明する処理を開始する前に、分析装置AN1の内部時計ACLK1が出力する時刻と、データ収集装置LG1の内部時計LCLK1が出力する時刻と、サーバSV1の内部時計SCLK1が出力する時刻と、分析装置AN2の内部時計の時刻と、分析装置AN3の内部時計の時刻と、を同期させてもよい。
この時刻同期は、例えば、各装置のユーザインタフェース(例えば、後述する図9に示すグラフィカルユーザインタフェースINF3)を用いて、例えば手動で行うことも可能で、また、それぞれの内部時計を正確な基準時計に同期させるNTP(Network Time Protocol)を用いて実行できる。
【0043】
分析装置AN1では、まず、サブルーチン又はステップAP10 にて分析開始に必要な様々な処理が実行される。開始処理の詳細は、図2の説明で既に説明済みのため、ここでは省略する。次に、サブルーチン又はステップAP11にて、第1の分析器SAN1にて、粒子状物質PMの計測が完了し、分析結果が確定するのを待ち受ける。サブルーチン又はステップAP13にて、分析結果確定後に内部時計ACLK1にアクセスして、分析が完了した時刻をタイムスタンプとして取得する。その後、サブルーチン又はステップAP12にて、分析結果にタイムスタンプを付加して、データ収集装置LG1向けに出力する(SDA1)。
【0044】
タイムスタンプは、分析装置AN1にて用いられる時刻に関する情報を含む時刻関連情報であり、サーバSV1との共通の取り決めに基づいて決定された時刻、時間情報である。タイムスタンプとしては、例えば、分析装置AN1にて実行される各種処理の開始/終了などの何らかの区切りとなる時刻を用いることができる。
【0045】
タイムスタンプとしては、典型的には、第1の分析器SAN1、第2の分析器SAN2、それぞれの測定開始時刻又は測定終了時刻(例えば、第1の分析器SAN1にてβ線強度の取得を開始した時刻又は終了した時刻)、捕集時刻(例えば、粒子状物質PMの捕集フィルタ11への捕集を開始した時刻又は終了した時刻)、さらには、計測完了時刻(例えば、分析結果の算出を完了した時刻、分析結果の算出を完了した時刻)等が使用可能である。ここでは捕集時刻と計測完了時刻を使用する場合を例に取って説明する。なお、これ以外にも、捕集時刻、計測完了時刻単体、あるいは、第1の分析器SAN1及び第2の分析器SAN2の内部時計の時刻情報そのものでも使用可能である。また、後述するように、サーバSV1のデータベースに格納される際の時刻精度を補正する目的で、データ収集装置LG1で検出された時刻ズレ情報を付加的な情報としてタイムスタンプに追加しても構わない。
【0046】
さらに、例えば、データ収集装置LG1が分析結果等を取得したタイミングにおける内部時計LCLK1の時刻を付加して新たなタイムスタンプとすることもできる。
要は、サーバSV1と共通の取り決めがあれば、タイムスタンプに、どういう時刻、時間情報を使用しても構わない。以下の説明では、説明の簡略化のために、計測完了時刻の場合を例にとって説明する。
【0047】
分析装置AN1内に複数の分析器がある場合には、サブルーチン又はステップAP11~AP13の処理を分析装置毎に実行する。実行方法は並行も可能であるが、その詳細に関しては、同業者には公知であるため、その詳細はここでは省略する。図4は、分析装置AN1が、第2の分析器SAN2も有する場合の処理である。
【0048】
分析装置AN1とデータ収集装置LG1とは、通信ネットワークNW1(典型的にはイーサネット(登録商標))にて、相互に接続され、通信ネットワークNW1上で共通のプロトコル(典型的にはModbus(登録商標)等)で通信を行い、データベースSDA1、SDA2に格納された分析結果及びタイムスタンプを、随時、データ収集装置LG1に読み出して行く。通信ネットワークNW1としては、イーサネット(登録商標)以外にも、RC232CやRS485等が使用可能である。また、Modbus(登録商標)以外のプロトコルも使用可能である。これらのネットワーク及びプロトコルの詳細に関しては、同事業者には公知であるため詳細の説明はここでは省略する。共通のインタフェース、プロトコルであれば、どういうインタフェース、プロトコルを使用しても構わない。
【0049】
次に、データ収集装置LG1内のサブルーチン又はステップLP10 にて、まずは、上記のタイムスタンプが読み出される。さらに、サブルーチン又はステップLP11にて、データ収集装置LG1自身の内部時計LCLK1と、取得したタイムスタンプに格納されている計測完了時刻との差分から、自身の内部時計LCLK1から見た分析装置AN1の内部時計ACLK1の時刻の相対的なズレを検出する。サブルーチン又はステップLP13にて、検出された時刻ズレ値に変化があったかどうかがチェックされて、変化があった場合には、データベースLDB2内に保持されている分析装置毎の時刻ズレ値を更新する。なお、このようにして検出される時刻ズレでは、サブルーチン又はステップLP10のタイムスタンプの読み出し時間間隔、及び、サブルーチン又はステップLP10~LP13をループ実行する時間が誤差要因となる。しかしながら、典型的には、サブルーチン又はステップKP10の読み出し間隔は1秒間隔程度にも設定可能であり、また、サブルーチン又はステップのループLP10~LP13の実行に要する時間は数十ミリ秒のオーダであり、分析器SAN1、SAN2の典型的な計測所要時間である30分~数時間に比べて、十分に短い時間であり、実用上、誤差は問題ない範囲に収まる。このようにしてデータ収集装置LG1では、分析装置AN1の時刻ズレを検出する。なお、本発明で重要になるのは相対的な時刻のズレの検出である。このため既に説明したようにタイムスタンプが捕集時刻と計測完了時刻以外の場合には、相対的な時刻のズレが検出可能な組み合わせにて、ズレを算出すればよい。様々な時刻情報、及びその組み合わせが可能である。
【0050】
次に、データベースLDB2に格納された分析装置毎の時刻ズレ情報に従って、サブルーチン又はステップLP12にて、分析装置AN1等の時刻ズレを補正した上で、分析結果が出力される時刻(出力予定時刻の一例)を予測する。分析結果が出力される予定時刻に到達したら、次のサブルーチン又はステップLP14にて、分析結果を読み取る。分析結果が複数ある場合には、全ての分析結果の読み取りが完了するまで、読み取り処理を繰り返す。
【0051】
さらに、サブルーチン又はステップLP15にて、通信ネットワークNW1経由で本データ収集装置LG1に接続された、位置情報受信機GPS1から、移動型環境計測システムMST1自身の位置情報を取得する。位置情報受信機GPS1としては、典型的には、GPS(Global Positioning System)等のものが使用可能である。GPS受信機に限らず、WGS84(World Geodetic System)に代表されるいわゆる測地系の座標情報が出力可能なものであれば、この他のタイプのものも使用可能である。
【0052】
次に、サブルーチン又はステップLP16にて、データベースSDA1に含まれる分析結果とタイムスタンプに加えて、位置情報受信機GPS1からの位置情報をデータベースLDB1に書き出す。この際に、分析装置の識別情報、典型的には分析装置毎に固有のシリアル番号等のいわゆるID情報も書き込む。分析装置が複数ある場合には、以上のサブルーチン又はステップLP10~LP16の処理を繰り返して、分析装置のID情報をキーとしたデータベースを構築する。
【0053】
サーバSV1では、サブルーチン又はステップSP10にて、広域通信ネットワークWAN1経由で、データ収集装置LG1に集約された分析装置のID、分析結果、タイムスタンプ、位置情報を読み込む。読み込み終了後、サブルーチン又はステップSP11にて、測定地点の自動判定、及び、分析結果の分類処理を実行する。以下、サブルーチン又はステップSP11の内容を詳細に説明した図5に従って本発明に特有な本処理の内容を説明する。まず、サブルーチン又はステップSP20にて位置情報受信機GPS1で受信された位置情報を取り出すとともに、測定地点定義データベースMA1にアクセスして、登録されている測定地点の定義を読み出す。測定地点定義データベースMA1への定義入力はサブルーチン又はステップSP12で実現される。サブルーチン又はステップSP12の詳細に関しては後述する。次にサブルーチン又はステップSP21にて、それぞれの測定地点との距離を計算し、サブルーチン又はステップSP22にてその距離が測定地点毎に定義されている許容範囲内かどうかを判定する。許容範囲内であれば、サブルーチン又はステップSP24にて、分析結果等のデータを、その測定地点で得られたデータと解釈して、測定地点毎に分類されたデータベースSDB1~に登録する。データベースSDB1への分析結果の登録に際しては、後述するように、本発明に特有な処理にて、タイムスタンプに格納されている情報に基づいて、時刻情報を登録する。
【0054】
一方、判定結果が許容範囲外であれば、サブルーチン又はステップSP23にて、全測定地点で判定済みかを確認して、判定済みの場合には、いずれの測定地点にも分類されないデータとして、本発明に特有なデータベースである、測定地点未分類データベースSDBXに格納する。判定未了の測定地点が残っている場合には、サブルーチン又はステップSP26にて、判定対象の測定地点を変更して、サブルーチン又はステップSP20以下の処理を繰り返す。
【0055】
一般に、位置情報受信機GPS1の一例であるGPS受信機から出力される位置情報は、ある程度の誤差範囲、典型的には数mの誤差範囲にて、常に変動している。GPS受信機からの位置情報が変動する理由は、同業者には公知であるので詳細は説明しないが、周囲の環境の変化や、電離層の状況変動等が原因である。このため、毎回同一の測定地点MP1~MP7で計測したとしても、位置情報受信機GPS1の位置情報出力は常に数m程度で変動している可能性がある。さらに、実際の運用では、移動手段VE1は、典型的にはトラック等の自動車であり、同一地点で測定すると言っても、測定地点としては、実際には数m程度ズレた場所で計測してしまう事もありうる。一方、本発明のターゲットである環境計測システムでは、測定地点が数m違っていても問題になることは実用上ほとんどない。以上の理由から、数mの範囲内なら、同一測定地点のデータとして扱う必要がある。
例えば、自動車に搭載されているナビゲーションシステムで使用されている技術では、地図データと受信位置情報を比較しながら、速度情報を加味した上で、自動車は基本的に道路上を移動するという前提のもとに、変動するGPS位置情報を補正する。しかしながら、本発明がターゲットとする移動型環境計測システムでは、計測時には移動する可能性は低い。また測定地点が道路上とは限らない。さらに、測定対象エリアMF1は、例えば、工場内等、地図データが整備されてないエリアがほとんどである。このため、上記の技術では、本発明のターゲットの移動型環境計測システムを実現することは難しい。
【0056】
移動型環境計測システムを実現するため、本発明では、測定地点定義データベースMA1、サブルーチン又はステップSP11~SP12を実装して、許容範囲を測定地点毎に定義するとともに、サブルーチン又はステップSP11でその定義に基づいて測定地点毎に許容範囲内かの判定を行う事により、上記ターゲットに合致した測定地点へのデータの自動分類を実現する。図6に示すのは、測定地点を定義する本発明に特有なサブルーチン又はステップSP12を実装した例である。測定地点毎に、緯度、経度、及び、許容範囲をユーザが例えば手動で入力して設定する。
【0057】
さらに、本発明では、測定地点未分類データベースSDBXと未分類結果再分類サブルーチン又はステップSP13を実装することで、貴重な計測データを後から救済する手段を提供するところに特徴がある。GPS受信機を使用した事のある同業者には公知であるが、GPS受信機は上述の誤差変動以外にも、周囲環境の影響を受けて、GPS衛星からの位置情報をうまく受信できない場合がある。そこで、測定地点未分類データベースSDBX、及び、未分類結果再分類サブルーチン又はステップSP13を実装することで、せっかく長時間かけて計測した貴重な分析結果が、測定地点未分類となってしまって、捨てられてしまうことを回避できる。
【0058】
図7に示すのは、このようなデータ救済の目的で実装した、未分類結果再分類サブルーチン又はステップSP13の実装例である。本実装例は、未分類データを例えば手動で分類する例であり、そのユーザインタフェース(RUI1)の実装例である。ユーザインタフェースRUI1において、ユーザは対象とする移動型環境計測ステーションRST1を選択する。次に、例えば手動で分類する日時とその期間RTR1を設定し、その期間の未分類データの帰属先となるべき測定地点(RMP1)を選択する。このようにして、貴重なデータを後から回収可能としている点に特徴がある。
【0059】
本発明では、データベースに分析結果を登録する際に、タイムスタンプから分析器の測定時間情報を取り出して、その時刻情報で分析結果をデータベースに登録する点に特徴がある。例えば、これまでの説明では、タイムスタンプとして、各分析装置の捕集時刻情報と計測完了時刻を付加している。このような場合には、このまま捕集時刻を取り出して、データベースの分析結果の時刻として格納すれば良い。これに加えて、タイムスタンプに、データ収集装置LG1で検出した時刻ズレを付加して、データベースに格納する際にソフトウェア処理(SP1)により、分析装置AN1の時刻ズレを修正することにより、データの時刻ズレの補正に活用することで、時刻制度を向上することも可能である。さらに、データ収集装置LG1の内部時計LCLK1、サーバSV1の内部時計SCLK1、ユーザ端末UPC1の内部時計UCLK1に関しては、一般的なNTPにて時刻同期を使用する事が可能である。NTPと併用する事により、データベースに格納された時刻においては、高精度な時刻精度が実現可能である。
【0060】
図8に示すのは、本発明で実現される環境計測システムで実際に測定した測定結果例である。図8に示すグラフィカルユーザインタフェースINF3は、分析結果の時間変化をグラフ表示するグラフ表示部DIS1と、分析結果の種類を表示する種類表示部DIS2と、分析結果を取得した測定地点を表示する地点表示部DIS3と、分析結果における分析対象を表示する対象表示部DIS4と、分析結果の表示期間を表示する表示期間表示部DIS5と、を有している。
【0061】
背景技術にて説明したように、簡単かつ安価に環境計測が実現可能な計測システムが市場で待ち望まれている。しかしながら、現状の分析技術では、単体の分析装置では、大気中の複数の元素、それらの濃度、さらには、風向・風速等の同時計測を一台の分析装置にて実現するのは困難である。このため、複数の分析装置から構成される計測システムが必要となり、複数の分析装置からの分析結果を人手にて収集する必要がある。これに加えて、汚染物質の発生源推定等の用途では、複数の分析装置で得られたデータの時間軸を揃えて集計する事が重要である。しかしながら、複数の分析装置はそれぞれ独立した内部時計を持っており、特に時刻同期を取る仕組みは用意されてない。このため、数日間連続して計測すると、結果、分析装置それぞれの時刻情報がズレてしまって、結果、データの時間軸を揃える集計作業が大変困難なものになってしまう。場合によっては、時刻ズレで、例えば、分析装置の時刻が遅れている場合には、ある特定の時間帯で特定の分析装置から分析結果が存在しない、というような問題も発生してしまう。
【0062】
一般に電子機器に内蔵される時計は、RTC(Real Time Clock)と呼ばれる半導体集積回路で実現される。産業用のPCに使用されるRTCでも、周囲温度が25°Cの一定状態で使用した場合で、1ヶ月で数分のズレを生じてしまう場合がある。一方、環境計測では1回の計測が数週間に及ぶ。さらに、分析結果は、30分単位、1時間単位、2時間単位で、分析装置から出力されるが、分析装置とそれを受け取る側で、数分のズレが生じると、最悪、ある1時間では分析結果があるが、次の1時間では分析結果がない、といったデータ欠損が発生してしまう。このため、たとえ数分のズレでも、計測システムとしては問題になる。
【0063】
この問題を解決するためには、RTCチップをより高精度なチップに交換するのが一番簡単であるが、このような高精度なRTCチップは高価であり、分析装置、つまりは、計測システムのコストアップにつながるため、好ましい対策ではない。さらに、RTCチップの時刻精度は、周囲温度条件に強く依存するため、何らかの補助的な装置・施設にて、周囲温度を一定とする必要があり、導入コストにのみならず、管理運用コストも跳ね上がってしまう。
【0064】
このようなRTCチップの精度不足・温度依存性に由来する問題を解決するために、PC、サーバ、スマートフォン等では、ネットワーク通信経由で、NTPが広く使用されている。しかしながら、NTPは本発明が対象とする環境計測システムでは使用することができない。これは、NTPでは、基準となる時計を持つ装置をNTPサーバとして、それ以外のPC、スマートフォンをNTPクライアントとして、クライアント側の内部時計をNTPサーバ側の時計に強制的に合わせる。しかし、本計測システムを構成する分析装置では、内部時計の時刻情報が内部の精密な処理を必要とする制御処理に使用されており、結果、計測中に時刻を変えると計測そのものに悪影響を与える恐れがある。このため、NTPを使用せずに、時刻ズレを検出して補正していく方法を提供する必要がある。
【0065】
この時刻ズレの課題以外にも、環境計測システムの実現にあたっては、多地点の計測が可能な計測システムを安価に提供する必要がある。例えば、環境汚染物質の抑制には、複数の測定地点にて継続的に環境計測して、各測定地点での汚染物質量とその時刻での風向風速等を考慮して、汚染物質の発生源を特定する事が必要不可欠である。しかしながら、現状の環境計測システムでは、高価な分析装置が測定地点分だけ必要になる。計測システム全体の導入コストから、複数地点での計測は実用上困難である。安価で実現可能な方法を提供する必要がある。
【0066】
上記にて説明した本発明に係るシステムでは、上記の課題を解決して、複数の分析装置に時刻のズレが生じた場合にも、人手で計測データを編集・整理しなくても自動で扱うことができる。また、高価な分析装置を複数導入する事なしに、環境汚染物質の発生源推定等に使用可能な複数地点での環境計測システムを実現する方法を提供できる。
【0067】
2.他の実施形態
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
例えば、図4のフローチャートに示す各ステップの順番及び/又は処理内容は、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更できる。
【0068】
(A)例えば、分析結果に含まれるデータ(例えば、各元素の含有量)について上限値及び/又は下限値を設けて、これら上限値/下限値を超えたときに警告を通知するようにしてもよい。
【0069】
(B)例えば、第1の分析器SAN1にて特定の粒子状物質PMのβ線強度の取得を終了した時刻と、第2の分析器SAN2にて当該特定の粒子状物質PMについての蛍光X線データの取得を終了した時刻と、の差(遅延時間と呼ぶ)に基づいて、捕集フィルタ11の捕集領域が第1位置P1から第2位置P2までかかる時間を算出できる。
【0070】
(C)分析装置AN1における1回あたりの捕集フィルタ11の捕集領域の移動量をDIS/nとした場合には、遅延時間を粒子状物質PMの捕集時間で割ることにより上記の「n」値を算出でき、その結果、1回あたりの捕集フィルタ11の捕集領域の移動量を算出できる。なお、捕集時間は、例えば、粒子状物質PMの捕集を開始した時刻と終了した時刻との差から算出できる。
【0071】
(D)分析装置にて用いられている時刻と、サーバSV1及び/又はデータ収集装置LG1にて用いられている時刻と、の間にズレ量が所定量以上となった場合には、サーバSV1は、ユーザ端末UPC1に対して、時刻のズレが大きくなった旨の通知(例えば、メールによる通知)をすることもできる。
【0072】
(E)分析装置から取得したタイムスタンプに含まれる時刻に関する情報とデータ収集装置LG1の内部時計LCLK1が出力する時刻との時刻ズレから出力予定時刻を算出することなく、分析データ等を収集するタイミングを推定してもよい。
例えば、分析装置が、分析結果の算出が終了した時刻に関する情報を含むタイムスタンプを生成し分析データに付加する一方で、データ収集装置LG1が所定の周期で分析装置が保有するタイムスタンプが更新されたか否かを確認する。
データ収集装置LG1が、分析装置が保有するタイムスタンプが更新されたときに新たな分析データの算出が終了したと認識し、タイムスタンプが更新されたことを検知したタイミングで当該新たな分析データとそれに付加されたタイムスタンプを収集できる。
【0073】
(F)タイムスタンプには、分析装置AN1及びデータ収集装置LG1にて用いられている時刻に関する情報のみでなく、分析装置AN2、AN3にて用いられている時刻に関する情報を含んでいてもよい。
【0074】
(G)第1実施形態の移動型環境計測システムMST1には3つの分析装置AN1~AN3が含まれていたが、それ以上の分析装置等の装置が当該システムに含まれていてもよい。この場合であっても、本発明の処理方法に従って、それぞれの分析装置毎に時刻ズレを検出して、それぞれの分析装置の時刻制度を担保することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
AN1、AN2、AN3 :分析装置
GPS1:位置情報受信機
MST1:移動型環境計測システム
LG1:データ収集装置
NW1:AN1等の分析器とLG1をMST1内で接続する通信ネットワーク
VE1:MST1の移動手段
MP1~MP7:測定地点
MF1:測定対象エリア
WAN1:通信ネットワーク
SV1:環境計測システムサーバ
UPC1:ユーザ端末
11:捕集フィルタ
11a:送り出しリール
11b:巻き取りリール
13:捕集部
19:制御部
31:吸引ポンプ
33:排出口
35:吸引口
51:β線源
53:β線検出器
71:X線源
73:検出器
ANIF1:AN1の通信ネットワークインタフェース
AUIF1:AN1のユーザインタフェース
ACLK1:AN1の内部時計
SAN1:AN1内蔵の第1の分析器
SAN2:AN1内蔵の第2の分析器
SDA1:SAN1の分析結果、タイムスタンプを一時的に格納するデータベース
SDA2:SAN2の分析結果、タイムスタンプを一時的に格納するデータベース
LNIF1:LG1の通信ネットワークインタフェース
LUIF1:LG1のユーザインタフェース
LCLK1:LG1の内部時計
LCPUMEM1:LG1の制御処理を実行するマイクロプロセッサ、及び、メモリ
LDB1:MST1から収集したAN1等の分析結果、タイムスタンプ、及び、MST1の位置情報を一時的に格納するデータベース
LDB2:AN1等の分析器の時刻ズレを分析器毎に格納したデータベース
LP1:LG1にて本発明に特有な処理を実行するソフトウェア
LP~LP15:本発明に特有なソフトウェア処理LP1を構成するサブルーチン又はステップ
SNIF1:SV1の通信ネットワークインタフェース
SUIN1:SV1のユーザインタフェース
SCLK1:SV1の内部時計
SCPUMEM1:SV1の通信、データベース制御、表示処理等を実行するマイクロプロセッサ、及び、メモリ
SDB1:LG1から収集した分析結果、タイムスタンプから、測定地点1のみに関係したデータを格納するデータベース
SDB2:LG1から収集した分析結果、タイムスタンプから、測定地点2のみに関係したデータを格納するデータベース
SDB3:LG1から収集した分析結果、タイムスタンプから、測定地点3のみに関係したデータを格納するデータベース
SDBX:LG1から収集した分析結果、タイムスタンプで、どの測定にも分類できないデータを格納するデータベース
SP1:SV1にて本発明に特有な処理を実行するソフトウェア
SP10~SP15:本発明に特有なソフトウェア処理SP1を構成するサブルーチン又はステップ
MA1:本発明に特有なサブルーチン又はステップであるSP12にて定義された測定地点定義を格納したデータベース
SP20~SP26:本発明に特有なソフトウェア処理SP11を構成するサブルーチン又はステップ
RUI1:本発明に特有なソフトウェア処理:再分類処理SP13を例えば手動で実現した場合のユーザインタフェース画面例
RST1: 本発明に特有なユーザインタフェースRUI1において、再分類処理SP13の対象とする環境計測システムを選択する画面
RMP1:本発明に特有なユーザインタフェースRUI1において、再分類処理SP13の再分類対象の期間を設定する画面
RTR1:本発明に特有なユーザインタフェースRUI1において、再分類処理SP13の再分類先の測定地点を選択する画面
B1:本発明に特有なユーザインタフェースRUI1において選択した設定に従って再分類を実行するボタン
INF3:本発明により実現される計測システムにおいて分析装置の結果を表示するグラフの画面例
DIS1:グラフ表示部
DIS2:種類表示部
DIS3:地点表示部
DIS4:対象表示部
DIS5:表示期間表示部
PM:粒子状物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8